(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103026
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】消毒用ワイパー
(51)【国際特許分類】
A47L 13/17 20060101AFI20220630BHJP
D04H 1/492 20120101ALI20220630BHJP
【FI】
A47L13/17 A
D04H1/492
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021116868
(22)【出願日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】P 2020216182
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391057258
【氏名又は名称】オオサキメディカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】595031775
【氏名又は名称】シンワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142217
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 宜紀
(74)【代理人】
【識別番号】100119367
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 理
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】高岡 亮
(72)【発明者】
【氏名】福井 喬太
【テーマコード(参考)】
3B074
4L047
【Fターム(参考)】
3B074AA02
3B074AA07
3B074AA08
3B074AB01
3B074CC03
4L047AA14
4L047AA21
4L047AA27
4L047AA28
4L047AB02
4L047AB07
4L047BA04
4L047CC03
4L047DA00
(57)【要約】
【課題】消毒効果を有する種々の薬液に対して、消毒効能成分の放出性能に優れ、薬液の保持力が高く、高い拭き取り性能を有するとともに、低廉に製造できる消毒用ワイパーを提供する。
【解決手段】分割繊維及び疎水性合成繊維が水流交絡された不織布と、前記不織布に含浸された、カチオン系、ビグアナイド系、両性イオン系の界面活性剤から選択される少なくとも一の消毒効能成分を含む水溶液と、を備え、前記分割繊維は、繊維径が2.4μm以上11.6μm以下のポリプロピレン及びポリエチレンテレフタレートからなり、前記疎水性合成繊維は、繊維径が9.8μm以上15.0μm以下のポリエチレンテレフタレートからなり、前記分割繊維と前記疎水性合成繊維との重量比が3:7~5:5であるよう構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系樹脂を含む分割繊維及び疎水性合成繊維が水流交絡された不織布と、
前記不織布に含浸された、カチオン系、ビグアナイド系、両性イオン系の界面活性剤から選択される少なくとも一の消毒効能成分を含む水溶液と、
を備え、
前記分割繊維と前記疎水性合成繊維との重量比が3:7~5:5であることを特徴とする消毒用ワイパー。
【請求項2】
請求項1に記載の消毒用ワイパーであって、
前記カチオン系の消毒効能成分は、第四級アンモニウム塩であることを特徴とする消毒用ワイパー。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の消毒用ワイパーであって、
前記カチオン系の消毒効能成分は、ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、セチルピリジニウム塩化物、ジデシルジメチルアンモニウム塩(DDAC)のうち少なくとも一が選択されることを特徴とする消毒用ワイパー。
【請求項4】
請求項1~請求項3のうちいずれか一に記載の消毒用ワイパーであって、
前記ビグアナイド系の消毒効能成分は、オラネキシジングルコン酸塩、ポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)、クロルヘキシジングルコン酸塩のうち少なくとも一が選択されることを特徴とする消毒用ワイパー。
【請求項5】
請求項1~請求項4のうちいずれか一に記載の消毒用ワイパーであって、
前記両性イオン系の消毒効能成分は、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩が選択されることを特徴とする消毒用ワイパー。
【請求項6】
請求項1~請求項5のうちいずれか一に記載の消毒用ワイパーであって、
前記分割繊維は、繊維径が2.4μm以上11.6μm以下のポリプロピレン及びポリエチレンテレフタレートからなり、
前記疎水性合成繊維は、繊維径が9.8μm以上15.0μm以下のポリエチレンテレフタレートからなることを特徴とする消毒用ワイパー。
【請求項7】
請求項1~請求項6のうちいずれか一に記載の消毒用ワイパーであって、
前記分割繊維と前記疎水性合成繊維との重量比が4:6であることを特徴とする消毒用ワイパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消毒効果を有する種々の薬液に対して、薬液含浸後も消毒効能成分の濃度低下を最小限に抑え、消毒効能成分の放出性能に優れ、薬液の保持力が高く、高い拭き取り性能を有するとともに、低廉に製造できる消毒用ワイパーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、病院内での院内感染の予防等を目的とした消毒用ワイパーが知られている。消毒用ワイパーは、通常、不織布に消毒効果を有する水溶液(以下、「薬液」と称する。)が含浸されたものであり、病院や介護施設など衛生面で配慮が必要な環境において、人が触れるドアノブや手摺りなど、ウイルスや細菌の感染経路となり得る様々な箇所を清拭して除菌等するために使い捨てで使用されている。それにより、例えば病院であれば、病院内での感染や院内感染によるクラスターの形成を防ぐことができる。
【0003】
このような用途に用いられる消毒用ワイパーに求められる特性としては、(1)除菌等することが目的の一つであるため、不織布に含浸されている消毒効果を有する薬液が不織布から効率良く清拭対象物に行き渡り、適切な消毒効果が得られること、(2)1枚でより広範囲を拭くことができ、ウイルスや細菌等に対して消毒効果を十分に発揮できる湿潤状態を維持するため、不織布が薬液を十分に保持できること、(3)清拭ワイパーであることから、拭き取り性能に優れること、(4)使い捨てであることから、製品が安価となるよう低廉に製造できること、が挙げられる。
【0004】
この種の消毒用ワイパーとして、従来から、吸水性の高いセルロース系繊維を含む不織布に、消毒効果が高く、且つ、長時間持続する第四級アンモニウム塩を含む水溶液を含浸させたものがある。しかし、この消毒用ワイパーは、セルロース系繊維が高い吸水性を有するため、不織布が薬液を十分に保持できるものの(上記(2)の要件は具備する。)、アニオン性を有するセルロース系繊維と第四級アンモニウム塩のカチオン性官能基とが結合することによって、セルロース系繊維に第四級アンモニウム塩が吸着されてしまうため、上記(1)の不織布に含浸されている薬液が不織布から離れて効率良く清拭対象物に行き渡らない、すなわち、不織布の中で薬液の消毒効能成分の濃度低下が生じてしまい、薬液の消毒効能成分が効率的に放出されないという問題があった(上記(1)の要件を具備しない。)。一方、薬液充填の時点で高濃度に薬液を配合しておくことで消毒効果は向上するものの、薬液濃度が安全基準を超えてしまったり、低廉に製造できなくなり、製品が高価となってしまったりする(上記(4)の要件を具備しない。)。
【0005】
このような問題に対して、例えば特許文献1には、セルロース系繊維が薬液の吸着の原因になっていることに着目して、不織布を化学繊維等の非セルロース繊維で構成することで、上記(1)の要件を具備するようにし、非セルロース繊維の少なくとも一部を繊維径20μm以下とすることで、保液性を高め、上記の(2)の要件を具備するようにした技術が開示されている。
【0006】
また、上記(3)の要件に対しては、例えば特許文献2に、高圧水流による分割繊維から構成される不織布が開示されており、繊維径を極めて細くすることによって、拭き取り性能が向上することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-63349号公報
【特許文献2】特開2007-247072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、非セルロース系繊維の繊維径を20μm以下としているが、上記(3)に係る課題についての言及がされていなかった。
【0009】
また、特許文献2に開示された技術は、高圧水流による分割繊維から構成される不織布が開示されているが、細い繊維で構成された不織布は、目付量(g/m2)に対する厚みが少なく、不織布内部に保持できる薬液量が制限されるという問題点があった。
【0010】
さらに、消毒効果を有する薬剤としては、前述した第四級アンモニウム塩を含む水溶液の他、例えばグルコン酸クロルヘキシジンやポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)を含む水溶液も挙げられるところ、第四級アンモニウム塩を含む水溶液との関係で前述の問題点を解消できる不織布が得られたとしても、この不織布と第四級アンモニウム塩を含む水溶液以外の消毒効果を有する種々の薬液との関係では、消毒用ワイパーに求められる前述の(1)~(4)の特性の全てを充足するかについては確認が必要である。
【0011】
本発明は、従来のこのような問題点に鑑みてなされたものである。本発明の目的の一は、消毒効果を有する種々の薬液に対して、消毒効能成分の放出性能に優れ、薬液の保持力が高く、高い拭き取り性能を有するとともに、低廉に製造できる消毒用ワイパーを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0012】
かかる状況に鑑みて、本発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、分割繊維を所定の割合で配合することで、高い拭き取り性能を有するとともに、特定の合成繊維を所定の割合で混合することで、薬液の消毒効能成分の放出性能に優れ、薬液の十分な保持力を有し、低廉に製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
本発明の第1の側面に係る消毒用ワイパーによれば、オレフィン系樹脂を含む分割繊維及び疎水性合成繊維が水流交絡された不織布と、前記不織布に含浸された、カチオン系、ビグアナイド系、両性イオン系の界面活性剤から選択される少なくとも一の消毒効能成分を含む水溶液と、を備え、前記分割繊維と前記疎水性合成繊維との重量比が3:7~5:5であるよう構成できる。
【0014】
また、本発明の第2の側面に係る消毒用ワイパーによれば、前記カチオン系の消毒効能成分は、第四級アンモニウム塩であるよう構成できる。
【0015】
さらにまた、本発明の第3の側面に係る消毒用ワイパーによれば、前記カチオン系の消毒効能成分は、ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、セチルピリジニウム塩化物、ジデシルジメチルアンモニウム塩(DDAC)のうち少なくとも一が選択されるよう構成できる。
【0016】
さらにまた、本発明の第4の側面に係る消毒用ワイパーによれば、前記ビグアナイド系の消毒効能成分は、オラネキシジングルコン酸塩、ポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)、クロルヘキシジングルコン酸塩のうち少なくとも一が選択されるよう構成できる。
【0017】
さらにまた、本発明の第5の側面に係る消毒用ワイパーによれば、前記両性イオン系の消毒効能成分は、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩が選択されるよう構成できる。
【0018】
前記構成によれば、オレフィン系樹脂を含む分割繊維を混綿することで、タンパク質や皮指等の拭き取り性能を高めることができ、例えば、分割繊維が同種の合成樹脂であるナイロンの場合には薬液の消毒効能成分を効率的に放出させることができないところ、分割繊維以外を疎水性合成繊維で構成することで、薬液の第四級アンモニウム塩等が繊維に吸着されることなく、薬液の消毒効能成分を効率的に放出させることができる。
【0019】
また、分割繊維の重量比が30%未満であると、拭き取り性能が実用的レベルを下回り、また分割繊維の重量比が50%を越えると、消毒用ワイパーの厚みが減り、同じ目付で比較した場合の保液性能が実用的レベルを下回るが、前記構成によれば、拭き取り性能も保液性能も実用的レベルの範囲内の消毒用ワイパーを得ることができる。さらに、比較的高価な分割繊維は50%以下に抑えられているため、低廉に製造することができる。
【0020】
さらにまた、本発明の第6の側面に係る消毒用ワイパーによれば、前記分割繊維は、繊維径が2.4μm以上11.6μm以下のポリプロピレン及びポリエチレンテレフタレートからなり、前記疎水性合成繊維は、繊維径が9.8μm以上15.0μm以下のポリエチレンテレフタレートからなるよう構成できる。
【0021】
さらにまた、本発明の第7の側面に係る消毒用ワイパーによれば、前記分割繊維と前記疎水性合成繊維との重量比が4:6であるよう構成できる。前記構成によれば、消毒効能成分の放出性能、拭き取り性能、保液性能、費用コストのいずれの観点からも、バランスに優れた最適解の消毒用ワイパーを提供することができる。
【0022】
以上のとおり、本発明によれば、消毒効果を有する種々の薬液に対して、消毒効能成分の放出性能に優れ、薬液の保持力が高く、高い拭き取り性能を有するとともに、低廉に製造できる消毒用ワイパーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明を適用した一実施形態に係る消毒用ワイパーの薬液を含浸させる前の不織布のSEM写真である。
【
図2】本発明を適用した一実施形態に係る消毒用ワイパーの薬液を含浸させる前の不織布のSEM写真であって、分割繊維を拡大して示した図である。
【
図3】(A)は分割繊維径に対する度数を示すヒストグラムであり、(B)は疎水性合成繊維径に対する度数を示すヒストグラムである。
【
図4】本発明を適用した一実施形態に係る消毒用ワイパーの薬液を含浸させる前の不織布のSEM写真であって、疎水性合成繊維を拡大して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を好適例に基づいて説明するが、これらに限定されるものではない。
(消毒用ワイパー)
【0025】
本発明を適用した一実施形態に係る消毒用ワイパーは、分割繊維及び疎水性合成繊維が水流交絡された不織布と、前記不織布に含浸された、第四級アンモニウム塩の一つであるベンザルコニウム塩化物を含む水溶液と、を備え、前記分割繊維は、繊維径が2.4μm以上11.6μm以下のポリプロピレン及びポリエチレンテレフタレートからなり、前記疎水性合成繊維は、繊維径が9.8μm以上15.0μm以下のポリエチレンテレフタレートからなり、前記分割繊維と前記疎水性合成繊維との重量比が3:7~5:5であるよう構成されている。
【0026】
この消毒用ワイパーは、例えば複数枚に切り離せるように一定間隔でミシン目等を設けてロール形状に巻いたものや、複数枚に切断して折り畳んだものを、密閉空間が設けられた包装体に収容して使用される。そのため、一度に使い切るものではなく、長期間保管しながら使用されることを想定したものである。
(分割繊維)
【0027】
分割繊維は、繊維断面において構成繊維が2個以上に分割したものであり、ポリプロピレン及びポリエチレンテレフタレートからなる。この分割繊維は、例えばウェブ形成後、スパンレース法に基づいて高圧水流を繊維にあてることによって、繊維1本1本が異型分割することによって得られる。
図1は、消毒用ワイパーの薬液を含浸させる前の不織布のSEM写真であり、
図2は、分割繊維を拡大して示した図である。
図3(A)は、
図1に示すような分割繊維と疎水性合成繊維とが混在する領域から、
図2に示すような形状に特徴を有するものを任意に100個選択してサイズを計測し、分割繊維の繊維径に対する度数(個数)をヒストグラムとして示した図である。また、分割繊維の繊維径に関する統計データとして、平均値:7.0μm、最大値:9.8μm、最小値:4.3μm、標準偏差:1.5、平均値+3σ=11.6、平均値-3σ=2.4の値が得られた。これらの統計データから、分割繊維は、繊維径が2.4μm以上11.6μm以下の範囲にあることが明らかとなった。
【0028】
消毒用ワイパー中の分割繊維の混綿量は30~50重量%であることが以下の理由から望ましい。分割繊維の重量比が30%未満であると、拭き取り性能が実用的レベルを下回り、また分割繊維の重量比が50%を越えると、消毒用ワイパーの厚みが減り、同じ目付で比較した場合の保液性能が実用的レベルを下回るところ、前記構成によれば、拭き取り性能も保液性能も実用的レベルの範囲内の消毒用ワイパーを得ることができるからである。また、比較的高価な分割繊維は50%以下に抑えられているため、低廉に製造することができるからである。
【0029】
より好ましくは、消毒用ワイパー中の分割繊維の混綿量は40重量%であるよう構成するのがより好ましい。これは、消毒効能成分の放出性能、拭き取り性能、保液性能、費用コストのいずれの観点からも、バランスに優れた最適解の消毒用ワイパーを提供できるからである。さらにまた、分割繊維は、特に異型分割であれば、繊維の横断面形状が鋭角の多角形状となっているため清拭対象物への密着性が高く、かき取り効果も高くなるため好ましい。なお、製造工程において、分割繊維と疎水性合成繊維との重量比を4:6となるよう設定しても、地合いムラや製造上の精度等から、完成品においては、多少の誤差が生じることがあり、例えば、分割繊維と疎水性合成繊維との重量比が、3.9:6:1や4.1:5.9と計測されることもある。特許請求の範囲において、分割繊維と疎水性合成繊維との重量比を4:6と限定している請求項があるが、経験上、5%程度の範疇にあれば製造誤差といえるので、完成品の分割繊維と疎水性合成繊維との重量比が、3.7:6.3から4.3:5.7の範囲で計測される製品は、分割繊維と疎水性合成繊維との重量比が4:6となるよう製造された製品と推認でき、当該請求項記載の発明の技術的範囲に含まれる。
(疎水性合成繊維)
【0030】
疎水性合成繊維は、ポリエチレンテレフタレートからなり、消毒用ワイパー中、30~50重量%の割合で混綿された分割繊維に対して、70~50重量%の割合で混綿されている。
図4は、消毒用ワイパーの薬液を含浸させる前の不織布のSEM写真であり、疎水性合成繊維を拡大して示した図である。
図3(B)は、
図1に示すような分割繊維と疎水性合成繊維とが混在する領域から、
図4に示すような形状に特徴を有するものを任意に100個選択してサイズを計測し、疎水性合成繊維の繊維径に対する度数(個数)をヒストグラムとして示した図である。また、疎水性合成繊維の繊維径に関する統計データとして、平均:12.4μm、最大値:14.9μm、最小値:10.5μm、標準偏差:0.9、平均+3σ:15.0、平均-3σ:9.8の値が得られた。これらの統計データから、疎水性合成繊維は、繊維径が9.8μm以上15.0μm以下の範囲にあることが明らかとなった。
【0031】
分割繊維の繊維径は極めて細いため、分割繊維の重量比が50%を越えると、消毒用ワイパーの厚みが減り、同じ目付で比較した場合の保液性能が実用的レベルを下回るところ、分割繊維に比べて繊維径が太い、繊維径が9.8μm以上15.0μm以下のポリエチレンテレフタレート繊維を70~50重量%の割合で混綿することで、消毒用ワイパーの厚みを確保できるとともに、繊維同士が絡まってできる空間に水溶液を保液することができる。そのため、セルロース系繊維を混綿しなくても、水溶液を長期間保液しておくことが可能となる。さらに、水溶液を保液しておくことができるので、継続的に水溶液を排出することが可能となり、均一に拭くことが可能となる。そして、保液性が高くなることに伴って、拭き取った後の汚れを保持する性能も高くなる。
【0032】
なお、より好ましくは、消毒用ワイパー中のポリエチレンテレフタレート繊維の混綿量は60重量%であるよう構成するのがより好ましい。これは、消毒効能成分の放出性能、拭き取り性能、保液性能、費用コストのいずれの観点からも、バランスに優れた最適解の消毒用ワイパーを提供できるからである。
(不織布の製造工程)
【0033】
本実施形態に係る消毒用ワイパーの不織布の製造工程において、繊維のもつれをほどき、繊維を清浄化して、混ぜ合わせ、連続したウェブ或いはスライバーを製造し、その後の工程に適したものにするカーディング処理を行うが、このカーディング処理時にノニオン油剤を付与した繊維の使用が好ましい。アニオン油剤を使用した場合には、アニオン油剤が付着した合成繊維と後工程で不織布に含浸させる薬液に含まれるベンザルコニウム塩化物のカチオン性官能基とが結合してしまうところ、カーディング処理においてノニオン油剤を使用することで、ベンザルコニウム塩化物の消毒効能を十分に発揮させることができる。
【0034】
カーディング処理され、繊維が均一に送り出されることで形成されたウェブに対して、スパンレース法に基づいて、高圧水流を繊維にあてることによって、繊維1本1本が異型分割することによって分割繊維が形成される。またこの高圧水流によって繊維同士を絡ませてシート化し、次工程で乾燥させることで消毒用ワイパーの基材となる不織布が形成される。
(薬液)
【0035】
本実施形態に係る消毒用ワイパーの不織布に含浸させる薬液には、第四級アンモニウム塩の一つであるベンザルコニウム塩化物を配合している。ベンザルコニウム塩化物は、主に細菌類に対する殺菌剤としての効果を奏する薬剤である。薬液におけるベンザルコニウム塩化物の含有量は、1.0×10-1質量%以上2.0×10-1質量%以下であることが好ましく、1.2×10-1質量%以上1.8×10-1質量%以下であることがより好ましい。ベンザルコニウム塩化物の含有量が上記の範囲内のものであることにより、消毒効果及び消毒用ワイパーそのものの防菌効果を良好に維持しつつ、清拭後の拭き跡を目立たなくすることができる。
【実施例0036】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこの実施例によって何ら制限されるものではない。
(拭き取り性能及び保液性能の検証)
【0037】
本実施形態に係る消毒用ワイパーの拭き取り性能及び保液性能を検証するため、以下の試験を行った。
(試験方法)
【0038】
まず、試験に用いる本実施形態に係る消毒用ワイパーの不織布として、ポリプロピレン及びポリエチレンテレフタレートからなる分割繊維(以下「PP/PET分割繊維」と称する。)と、ポリエチレンテレフタレートからなる疎水性合成繊維(以下「PET繊維」と称する。)とを、目付が40g/m2、重量比が4:6となるよう水流交絡されたものを用い、この不織布に対して、ベンザルコニウム塩化物を主として含有する水溶液を300重量%含浸させたものを実施例1のサンプルとして用いた。
【0039】
また、表1に示す不織布を比較例のサンプルとして用意した。
【表1】
なお、表中の、PETはポリエチレンテレフタレートを、PPはポリプロピレンを、NYはナイロンをそれぞれ示している。
(たんぱく質汚れの拭き取り性能に関する評価方法)
【0040】
実施例1及び比較例1~4に対して、以下の方法で、たんぱく質汚れの拭き取り性能についての評価試験を行った。
【0041】
まず、(1)縦幅800mm・横幅4000mmの矩形状の白いレーヨンの不織布の上にラミネートを貼ったものの上面(以下、「ラミ面」と称する。)にたんぱく質汚れを想定した90重量%の水と10重量%の墨汁の混合液を、塗布面によって横方向に470mm間隔で30mm幅の縦縞が形成されるよう、一列あたり約0.3mLの塗布量で塗布する。
【0042】
次に、(2)60~120分程度乾燥させた後、(3)サンプル(ワイパー)の上から20g/cm2程度の荷重(重り:底面積8.5×2.5cm、重さ400g)をかけ、サンプルの端を手で引っ張る(引張速度:約333mm/s、4000mmを約12秒で拭き取る)。ここで、不織布の向きと引張方向との相関を考慮して、不織布の縦目方向(MD方向)に沿うように引っ張る場合と不織布の横目方向(CD方向)に沿うように引っ張る場合の2通り実施し、除去率等については平均値で評価することにする。
【0043】
次いで、(4)拭き始めから、0、1000、2000、3000、4000mm地点の除去率を測定する。
【0044】
次に、(5)各上記地点におけるラミ面を実体顕微鏡で写真撮影を行った後、(6)撮影後の写真を、実体顕微鏡付属の画像処理ソフトで、拭き取り箇所と拭き残し箇所の境目となる閾値を決定し、その閾値に基づいて、拭き残し箇所が視覚的に分かるように色付けする。
【0045】
最後に、(7)拭き取り前の面積と拭き取り後の拭き残し箇所の面積から、以下の式に基づいて相対比(%)、除去率(%)を算出する。なお、除去率が0%に近ければ拭き残し量が多いことを意味し、除去率が100%に近ければ拭き残し量が少ないことを意味する。
相対比(%)=(拭き取り後の面積値)/(拭き取り前の面積値)×100
除去率(%)=100-相対比(%)
(皮脂汚れの拭き取り性能に関する評価方法)
【0046】
実施例1及び比較例1~4に対して、以下の方法で、皮脂汚れの拭き取り性能についての評価試験を行った。
【0047】
まず、(1)ラミ面に皮脂汚れを想定したオリーブオイル70重量%とホホバオイル20重量%と油絵具10重量%との混合液を均等に600mm×1250mmあたり3mLの塗布量で塗布する。
【0048】
次に、(2)サンプルの上から10g/cm2程度の荷重をかけ、サンプルの端を手で引っ張る(引張速度:約250mm/s)。ここで、不織布の向きと引張方向との相関を考慮して、不織布の縦目方向(MD方向)に沿うように引っ張る場合と不織布の横目方向(CD方向)に沿うように引っ張る場合の2通り実施し、除去率等については平均値で評価することにする。
【0049】
次いで、(3)拭き始めから、0、250、500、750、1000mm地点の除去率を測定する。
【0050】
最後に、(4)各上記地点におけるラミ面を実体顕微鏡で写真撮影を行った後、(5)撮影後の写真を、実体顕微鏡付属の画像処理ソフトで、拭き取り箇所と拭き残し箇所の境目となる閾値を決定し、その閾値に基づいて、拭き残し箇所が視覚的に分かるように色付けする。
(拭き取り性能に関する評価結果)
(拭き取り性能)
【0051】
拭き取り性能に関する評価試験の結果は先出の表1に示されている。
【0052】
タンパク質(墨汁)は、基材の分割繊維由来の掻き取り性能によって、油分は薬液を効率良く放出することによって、除去率が上がる傾向にあることが分かった。また、比較例2のレーヨン/PET混合、比較例3のPET単体では、薬液を保持しにくい合成繊維によって油脂をよく除去しているが、基材の掻き取り性能が低いため、タンパク汚れの除去率が低いことが判明した。一方、掻き取り性能の高い分割繊維100%の比較例4ではタンパク汚れの除去率が高いが、基材の厚みが薄く汚れを多く保持できないため、油分の除去率が低いことが判明した。
(保液性能に関する評価方法)
【0053】
実施例1及び比較例1~4のサンプルそれぞれを用いて、会議用の長机を拭き、拭き取り面積と薬液の放出量を測定した。未使用時の液量を100%とし、各面積を拭き取った後減った液量の、元の液量からの割合を放出率として算出した。具体的には、実施例1及び比較例1~4に対して、以下の方法で、保液性能についての評価試験を行った。
【0054】
拭き取り対象である会議用長机は、机上は矩形状であり、短辺が450mm、長辺が1800mmであるため、机上の面積は0.81m2ということになる。この面積を有する机上を全て拭き終える作業を10回繰り返す。
【0055】
まず、拭き取り作業を開始する前の実施例1及び比較例1~4のサンプルそれぞれの重量を測定する。
【0056】
そして、重量が1kg、底面が、短辺150mm、長辺200mmの矩形状の重りをサンプルの上に載せて、荷重をかけながら、机上の全ての領域が重複しないように移動させる。この作業をサンプル毎に10回繰り返す。
【0057】
会議用長机の机上を全て拭き終える毎にサンプルの重量を測定し、それぞれの回毎の液量の減分(放出量)を算出する。
(各回の放出量)/(全液量)×100=放出率(%)
(保液性能に関する評価結果)
【0058】
保液性能に関する評価試験の結果を表2に示す。
【表2】
【0059】
消毒用ワイパーには、使い捨てであっても、清拭対象物を1回で拭き切りたいというニーズがあり、どれだけ長く拭けるかが求められる。すなわち、1枚のワイパーで多くの面積を拭き取れる方が作業効率の観点から好ましい。
【0060】
合成繊維を多く含む比較例2及び比較例3は、拭き取りの初期段階(1回目:0.81m2)に多くの薬液を放出してしまい、一定の面積(3.24m2)を拭いた後は薬液切れを起こし、消毒性能が著しく低下することが判明した。
【0061】
また、セルロース繊維100%である比較例1は比較的初期段階の放出量は抑えられるものの、繊維自身に取り込んでしまうため、使用後(8.10m2)でも20重量%以上の薬液が残存しているため、含浸させた薬液を有効に活用できていないことが判明した。
【0062】
ここで、実施例1及び比較例1~4についての物性評価を表3に示す。
【表3】
まず、試験に用いる本実施形態に係る消毒用ワイパーの不織布として、実施例1の評価試験に用いた不織布と同一の不織布を用い、この不織布に対して、蒸留水1Lに対してベンザルコニウム塩化物1gを溶解させた0.1%ベンザルコニウム塩化物水溶液を300重量%含浸させたものを実施例2のサンプルとして用いた。
その後、サンプルを絞って、不織布に含浸された後の0.1%ベンザルコニウム塩化物水溶液を抽出する。抽出液、及び、サンプルに含浸させる前の0.1%ベンザルコニウム塩化物水溶液を、液体クロマトグラフィー質量分析装置を使用して、ベンザルコニウム塩化物の残存率を測定する。
(薬液の消毒効能成分の残存率に関する評価結果)
セルロース繊維とポリプロピレン及びポリエチレンテレフタレートを混綿してなる繊維とでは、ベンザルコニウム塩化物の吸着に大きな違いがあることが確認できた。また、ナイロンを含む不織布でも消毒効能成分の大きな減衰があるため、合成繊維であればベンザルコニウム塩化物の吸着が抑えられるとは限らないことが判明した。さらに、合成繊維の中でも、オレフィンの代表例であるポリプロピレン及びポリエチレンテレフタレートを混綿してなる繊維が好ましいことが明らかとなった。
(ベンザルコニウム塩化物水溶液以外の薬液の選択について)
前述した本実施形態においては、ベンザルコニウム塩化物を消毒効能成分として選択し、ベンザルコニウム塩化物を含む水溶液との関係で前述の問題点を解消できる消毒用ワイパーが得られることを示した。ここでは、本実施形態に係る消毒用ワイパーの不織布とベンザルコニウム塩化物水溶液以外の消毒効果を有する種々の薬液との関係でも前述の問題点を解消できるかについて考察する。
前述の消毒用ワイパーに求められる特性のうち、(2)~(4)の特性は、主として、不織布の素材自体に由来するものであるのに対して、(1)の特性は、主として、不織布の素材と薬液の消毒効能成分との関係に由来するものであり、長時間にわたって消毒効能成分が濃度低下しないような不織布の素材と薬液の消毒効能成分との組合せによって発現し得る。言い換えると、消毒用ワイパーの構成として、(2)~(4)の特性を有する不織布を選択した後、当該不織布に対して消毒効能成分が濃度低下しない消毒効能成分を含有する薬液を選択することで、前述の消毒用ワイパーに求められる特性の全てを充足するようになると考えられる。
そこで、前述の試験により、実施例1のサンプルとして用いた不織布が(2)~(4)の特性を有することが判明したため、この実施例1のサンプルとして用いた不織布と素材の構成配合が近い、ポリプロピレンとポリエチレンテレフタレートとの重量比が7:3となるようスパンレース法によって混綿されてなる不織布(以下「PP/PET不織布」と称する。)を選択し、このPP/PET不織布と消毒効果を有する種々の薬液との組合せと消毒効能成分の濃度低下との関係性を評価するための試験を行った。
(試験方法)
次いで、不織布片を浸漬後の消毒液をフィルターにてろ過して不織布片に含浸された後の消毒液を抽出する。抽出液、及び、不織布片に含浸させる前の消毒液を、液体クロマトグラフィー質量分析装置を使用して、消毒効能成分の残存率を測定する。最後に、不織布片浸漬前の消毒効能成分濃度に対する不織布片浸漬後の消毒効能成分濃度を残存率として算出する。
(ベンザルコニウム塩化物水溶液以外の薬液の消毒効能成分の残存率に関する評価試験の結果)
表5に示すように、PP/PET不織布において、消毒効能成分の残存率が、レーヨン不織布の残存率と比較して15%以上の差で大きい場合には、長時間にわたって消毒効能成分が濃度低下しないような不織布の素材と薬液の消毒効能成分との組合せと評価することができる。
以上のことから、前述の消毒用ワイパーに求められる特性の全てを充足する消毒効能成分として、表5の評価で「○」の記載のある消毒効能成分を例示することができる。
なお、本発明に係る消毒用ワイパーは、病院内での院内感染の予防等を目的とした対物用途に限られず、例えば、人への消毒を目的とした対人用途で使用することもできる。