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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103049
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】ブラシレスDCモータの制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/10 20060101AFI20220630BHJP
【FI】
H02P6/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168061
(22)【出願日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2020216734
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560AA10
5H560BB04
5H560BB07
5H560BB12
5H560BB17
5H560DA02
5H560DA19
5H560DC01
5H560DC05
5H560EB01
5H560EC02
5H560RR01
5H560SS01
5H560TT01
5H560TT02
5H560TT15
5H560UA05
5H560XA08
5H560XA12
(57)【要約】
【課題】ブラシレスDCモータを低回転域で作動可能な制御装置を提供する。
【解決手段】ブラシレスDCモータ2のロータの回転を検出し、ロータの回転に伴って発生するコギングトルクがロータの回転を妨げる負側のピーク付近に達するタイミングで切り換わる位相角信号を生成する位相角検出部23と、駆動信号の入力に応じてスイッチング素子UH,UL,VH,VL,WH,WLを切り換えてブラシレスDCモータ2の各相のコイル16u,16v,16wを通電するインバータ回路15と、ブラシレスDCモータに対して設定された目標回転速度を時間換算して通電期間Twを算出する通電期間算出部24と、通電期間毎に各スイッチング素子に駆動信号を出力してコイルを順次通電し、各通電期間の開始当初には、スイッチング素子への駆動信号のDutyを次第に増加させ、位相角信号の切換後にDutyを低下させる駆動制御部25とを備えた。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を有するロータ、及びU,V,Wの各相のコイルが巻回されたステータからなるブラシレスDCモータの制御装置において、
前記ロータの回転を検出し、前記ロータの回転に伴って発生するコギングトルクが前記ロータの回転を妨げる負側のピーク付近に達するタイミングで切り換わる位相角信号を生成する位相角検出部と、
前記ブラシレスDCモータの各相のコイルと直流電源との間に設けられ、駆動信号の入力に応じて複数のスイッチング素子を切り換えて前記各相のコイルを通電するインバータ回路と、
前記ブラシレスDCモータに対して設定された目標回転速度を時間換算して通電期間を算出する通電期間算出部と、
前記通電期間算出部により算出される通電期間毎に前記インバータ回路の各スイッチング素子に選択的に駆動信号を出力して、予め設定された複数の通電パターンに従って前記各相のコイルを正側及び負側に順次通電し、各通電期間の開始後に、通電すべきコイルに対応する前記スイッチング素子への駆動信号のDutyを次第に増加させ、前記位相角検出部により生成される位相角信号が切り換えられた後に前記駆動信号のDutyを低下方向に制御する低回転モードを実行する駆動制御部と、
を備えたことを特徴とするブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項2】
前記ブラシレスDCモータは、前記コギングトルクが負側のピーク付近に達したタイミングで、前記各相のコイルの通電により発生した駆動トルクがピークに達するように仕様が設定されている
ことを特徴とする請求項1に記載のブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項3】
前記位相角検出部は、前記ロータの回転に伴い3つのホールセンサから出力される互いに60deg位相が異なる360degの信号の組み合わせに基づき、前記位相角信号を生成する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項4】
前記3つのホールセンサは、前記コギングトルクが負側のピーク付近に達する毎に互いの信号の組み合わせが変更される位相角にそれぞれ配設されている
ことを特徴とする請求項3に記載のブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項5】
前記駆動制御部は、前記目標回転速度が予め設定された回転判定値未満のときに前記低回転モードを実行する
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項6】
前記駆動制御部は、前記目標回転速度が予め設定された回転判定値未満のときに前記低回転モードを実行する一方、前記目標回転速度が回転判定値以上のときには、前記位相角検出部により生成される位相角信号の切換タイミング毎に前記インバータ回路の各スイッチング素子に選択的に矩形波の駆動信号を出力して、前記複数の通電パターンに従って前記各相のコイルを正側及び負側に順次通電する120°矩形波駆動による通常モードを実行する
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項7】
前記駆動制御部は、前記低回転モードの実行中において、前記位相角検出部により生成される位相角信号が切り換えられると前記駆動信号のDutyの増加を中止し、この時点のDutyを予め設定された待機期間に亘って保持する
ことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載のブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項8】
前記駆動制御部は、前記低回転モードの実行中において、前記位相角検出部により生成される位相角信号が切り換えられた後に、前記駆動信号のDutyを予め設定された低減値までステップ的に低下させる
ことを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載のブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項9】
前記駆動制御部は、前記低回転モードの実行中において、前記位相角検出部により生成される位相角信号が切り換えられた後に、前記駆動信号のDutyを0%までステップ的に低下させる
ことを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載のブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項10】
前記駆動制御部は、前記低減値までステップ的に低下させた前記駆動信号のDutyを前記通電期間が終了するまで保持し、後続の通電期間においても継続して通電する場合には、前記後続の通電期間の開始当初に前記駆動信号のDutyを前記低減値から次第に増加させる
ことを特徴とする請求項8に記載のブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項11】
前記駆動制御部は、前記低回転モードの実行中において、前記通電期間算出部により算出された通電期間が長いほど、前記駆動信号のDutyを増加する際に適用する増加率を低下させる
ことを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載のブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項12】
前記ブラシレスDCモータは、前記ロータの内部に永久磁石が埋設されたIPMモータである
ことを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載のブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項13】
前記ブラシレスDCモータは、オイルを吸込・吐出するオイルポンプを駆動する
ことを特徴とする請求項1乃至12の何れか1項に記載のブラシレスDCモータの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスDCモータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、永久磁石を有するロータ、及びU,V,Wの各相のコイルが巻回されたステータからなるブラシレスDCモータを駆動する制御装置が開示されている。ブラシレスDCモータには120deg間隔で各相に対応するホールセンサが配設され、各センサから出力される検出信号の組み合わせに基づき60deg間隔の位相角が判定される。ブラシレスDCモータの各相のコイルにはインバータ回路を介して直流電源が接続され、インバータ回路により120°矩形波駆動で各相のコイルが通電される。即ち、インバータ回路の各相のスイッチング素子を選択的に切り換える複数の通電パターンが予め設定され、これらの通電パターンが位相角60deg毎に順次切り換えられる。これにより各相のコイルは、120deg位相をずらした状態で120degのON期間と60degのOFF期間とを繰り返しながら順次通電され、ロータに回転力が付与されてブラシレスDCモータが作動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-231242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ブラシレスDCモータは用途に応じて種々の回転域で使用され、例えばオイルポンプを駆動するブラシレスDCモータには、10~60rpm程度の低回転域での作動が要求される場合がある。低温時のオイルは粘性が高いことから、トロコイド式等のオイルポンプを通常の回転域で駆動すると、その吸込側にキャビティが発生したりオイルシールから空気を吸込んだりして、正常なオイル供給が困難になる。その対策として、オイルの低温時にはポンプ回転速度の上限値を制限する場合があり、駆動源であるブラシレスDCモータには低回転域での作動が要求される。
【0005】
しかしながら、ブラシレスDCモータに発生するコギングトルクは低回転域での作動を妨げる要因になっており、特にロータに永久磁石を埋設した所謂IPMモータはコギングトルクが大であるため、その影響が顕著なものとなる。コギングトルクは、以下のような影響を及ぼしていると推測される。120°矩形波駆動において、ある通電パターンに従って所定の2相のコイルを通電しているとき、励磁相当たりのトルクに相当する駆動トルクは、通電期間に亘って駆動Dutyに応じたほぼ一定値に保たれる。一方でコギングトルクは、駆動トルクと同一方向の正側、及び駆動トルクとは反対方向の負側に位相角に応じて変動している。
【0006】
このため、例えば停止状態のブラシレスDCモータを起動すべく、駆動Dutyを増加させて各相のコイルに流れる駆動電流を次第に増加させた場合、駆動トルクがコギングトルクの負側のピークの絶対値を上回らないと、ロータの位相角がコギングトルクの負側のピークを乗り越えることができない。コイルへの駆動電流と共に駆動トルクが増加してコギングトルクの負側のピークの絶対値を上回ると、ロータの位相角がコギングトルクの負側のピークを乗り越え、ロータは唐突に駆動電流に対応する速度で回転し始める。このときのロータの回転速度が、実現可能なブラシレスDCモータの回転域の下限と見なせる。このブラシレスDCモータの回転域の下限は、例えば上記したオイルポンプの低温時に要求される回転域よりも高回転側にとどまる。結果として、要求される低回転域でオイルポンプを駆動できず、従来から抜本的な対策が要望されていた。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、コギングトルクの影響を受けることなくブラシレスDCモータを低回転域で作動させることができるブラシレスDCモータの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明のブラシレスDCモータの制御装置は、永久磁石を有するロータ、及びU,V,Wの各相のコイルが巻回されたステータからなるブラシレスDCモータの制御装置において、ロータの回転を検出し、ロータの回転に伴って発生するコギングトルクがロータの回転を妨げる負側のピーク付近に達するタイミングで切り換わる位相角信号を生成する位相角検出部と、ブラシレスDCモータの各相のコイルと直流電源との間に設けられ、駆動信号の入力に応じて複数のスイッチング素子を切り換えて各相のコイルを通電するインバータ回路と、ブラシレスDCモータに対して設定された目標回転速度を時間換算して通電期間を算出する通電期間算出部と、通電期間算出部により算出される通電期間毎にインバータ回路の各スイッチング素子に選択的に駆動信号を出力して、予め設定された複数の通電パターンに従って各相のコイルを正側及び負側に順次通電し、各通電期間の開始後に、通電すべきコイルに対応するスイッチング素子への駆動信号のDutyを次第に増加させ、位相角検出部により生成される位相角信号が切り換えられた後に駆動信号のDutyを低下方向に制御する低回転モードを実行する駆動制御部と、を備えたことを特徴とする(請求項1)。
【0009】
その他の態様として、ブラシレスDCモータが、コギングトルクが負側のピーク付近に達したタイミングで、各相のコイルの通電により発生した駆動トルクがピークに達するように仕様が設定されていてもよい(請求項2)。
【0010】
その他の態様として、位相角検出部が、ロータの回転に伴い3つのホールセンサから出力される互いに60deg位相が異なる360degの信号の組み合わせに基づき、位相角信号を生成してもよい(請求項3)。
【0011】
その他の態様として、3つのホールセンサが、コギングトルクが負側のピーク付近に達する毎に互いの信号の組み合わせが変更される位相角にそれぞれ配設されていてもよい(請求項4)。
【0012】
その他の態様として、駆動制御部が、目標回転速度が予め設定された回転判定値未満のときに低回転モードを実行してもよい(請求項5)。
【0013】
その他の態様として、駆動制御部が、目標回転速度が予め設定された回転判定値未満のときに低回転モードを実行する一方、目標回転速度が回転判定値以上のときには、位相角検出部により生成される位相角信号の切換タイミング毎にインバータ回路の各スイッチング素子に選択的に矩形波の駆動信号を出力して、複数の通電パターンに従って各相のコイルを正側及び負側に順次通電する120°矩形波駆動による通常モードを実行してもよい(請求項6)。
【0014】
その他の態様として、駆動制御部が、低回転モードの実行中において、位相角検出部により生成される位相角信号が切り換えられると駆動信号のDutyの増加を中止し、この時点のDutyを予め設定された待機期間に亘って保持してもよい(請求項7)。
【0015】
その他の態様として、駆動制御部が、低回転モードの実行中において、位相角検出部により生成される位相角信号が切り換えられた後に、駆動信号のDutyを予め設定された低減値までステップ的に低下させてもよい(請求項8)。
【0016】
その他の態様として、駆動制御部が、低回転モードの実行中において、位相角検出部により生成される位相角信号が切り換えられた後に、駆動信号のDutyを0%までステップ的に低下させてもよい(請求項9)。
【0017】
その他の態様として、駆動制御部が、低減値までステップ的に低下させた駆動信号のDutyを通電期間が終了するまで保持し、後続の通電期間においても継続して通電する場合には、後続の通電期間の開始当初に駆動信号のDutyを低減値から次第に増加させてもよい(請求項10)。
【0018】
その他の態様として、駆動制御部が、低回転モードの実行中において、通電期間算出部により算出された通電期間が長いほど、駆動信号のDutyを増加する際に適用する増加率を低下させてもよい(請求項11)。
【0019】
その他の態様として、ブラシレスDCモータが、ロータの内部に永久磁石が埋設されたIPMモータであってもよい(請求項12)。
【0020】
その他の態様として、ブラシレスDCモータが、オイルを吸込・吐出するオイルポンプを駆動してもよい(請求項13)。
【発明の効果】
【0021】
本発明のブラシレスDCモータの制御装置によれば、コギングトルクの影響を受けることなくブラシレスDCモータを低回転域で作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態のブラシレスDCモータの制御装置が適用された冷却システムを示す全体構成図である。
図2】モータコントローラのマイクロコンピュータの構成を示す制御ブロック図である。
図3】低回転モードにおけるコギングトルクと位相角信号と駆動トルクとの関係を示す図である。
図4】駆動制御部により実行される低回転制御ルーチンを示すフローチャートである。
図5】各相のセンサ出力に基づく位相角信号の切換タイミング、及び各相のコイルに流れる駆動電流の制御状況を示す図である。
図6図5中にAで囲んだU相の通電期間Tw1における駆動電流の制御状況を示す詳細図である。
図7】低回転モードにおけるブラシレスDCモータの起動時からの作動状況を示すタイムチャートである。
図8】第2実施形態のU相の通電期間Tw1における駆動電流の制御状況を示す詳細図である。
図9】低回転モードにおけるブラシレスDCモータの起動時からの作動状況を示すタイムチャートである。
図10】低回転モードにおけるブラシレスDCモータの連続運転中の作動状況を示すタイムチャートである。
図11】各相のコイルに流れる駆動電流の制御状況の別例を示す図6に対応する詳細図である。
図12】待機期間tの経過後に駆動信号のDutyをステップ的に0%まで低下させた別例を示す図7に対応するタイムチャートである。
図13】第3実施形態の駆動制御部により実行される低回転制御ルーチンを示すフローチャートである。
図14】同じくΔ設定ルーチンを示すフローチャートである。
図15】低回転モードの下限回転速度における駆動電流の制御状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1実施形態]
以下、本発明を冷却システムに備えられるブラシレスDCモータの制御装置に具体化した第1実施形態を説明する。
図1の全体構成図に示すように、本実施形態のブラシレスDCモータ2は冷却システム1のオイルポンプ3を駆動し、冷却用のオイルを循環させて電動モータや発電機等の被冷却機器4を冷却する役割を果たす。
【0024】
ブラシレスDCモータ2は、6極9スロットを有するIPM型のモータであり、以下の説明では、特段に断りがない限り、位相角に関する説明を全て電気角で表現する。周知のようにIPM型のブラシレスDCモータ2はロータに永久磁石が埋設されてなり、永久磁石によるマグネットトルクに加えて、固定子巻線からの磁束誘導によるリラクタンストルクを利用することで効率を高めたモータである。本実施形態のブラシレスDCモータ2は、その回転域に応じて一般的な120°矩形波駆動による通常モードと本発明特有の低回転モードとを切り換えて作動する。低回転モードでは、ブラシレスDCモータ2に発生するコギングトルクに基づきU,V,Wの3相のコイルの通電を制御しており、その詳細については後述する。
【0025】
まず、図1に基づき冷却システム1の全体的な構成を説明する。ブラシレスDCモータ2の出力軸2aにはトロコイド式のオイルポンプ3が連結され、オイルポンプ3の吐出側にはオイルクーラ5が介装された管路6を介して被冷却機器4が接続されている。ブラシレスDCモータ2の駆動によりオイルポンプ3が回転すると、オイルパン7に貯留された冷却用のオイルが吸い上げられ、管路6及びオイルクーラ5を経て被冷却機器4を流通し、その後にオイルパン7に戻される。これによりオイルクーラ5と被冷却機器4との間でオイルが循環し、オイルクーラ5ではオイルが放熱されて温度低下し、このオイルが流通することで被冷却機器4が冷却される。
【0026】
冷却システム1は、上位コントローラ8とモータコントローラ9との協調制御により作動する。実際のブラシレスDCモータ2の駆動制御はモータコントローラ9が実行し、その制御に必要な情報、例えばブラシレスDCモータ2の目標回転速度等が上位コントローラ8により設定される。
【0027】
上位コントローラ8は、マイクロコンピュータ10及び通信回路11から構成され、マイクロコンピュータ10は、多数の制御プログラムを内蔵した記憶装置(ROM,RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等からなる。マイクロコンピュータ10には、オイルパン7に設けられた油温センサ12が接続され、この油温センサ12により検出されたオイルパン7内の油温がマイクロコンピュータ10に入力される。
【0028】
モータコントローラ9は、マイクロコンピュータ13、通信回路14及びインバータ回路15から構成され、マイクロコンピュータ13は、多数の制御プログラムを内蔵した記憶装置(ROM,RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等からなる。
【0029】
ブラシレスDCモータ2は、永久磁石を有する図示しないロータ、及びU,V,Wの各相のコイル16u,16v,16wが巻回された図示しないステータから構成され、この各相のコイル16u,16v,16wと直流電源17との間にインバータ回路15が設けられている。インバータ回路15は、正側の直流母線18と負側の直流母線19との間に、ハイサイド側の各相のスイッチング素子UH,VH,WH及びローサイド側の各相のスイッチング素子UL,VL,WLを3相ブリッジ接続してなる。
【0030】
各相のスイッチング素子UH,UL,VH,VL,WH,WLの接続点は、対応する相のコイル16u,16v,16wの一端にそれぞれ接続され、各相のコイル16u,16v,16wの他端は共通の中性点20として互いに接続されている。正側の直流母線18は直流電源17に接続され、負側の直流母線19はアースされ、各スイッチング素子UH,UL,VH,VL,WH,WLに直流電圧が印加されている。各スイッチング素子UH,UL,VH,VL,WH,WLはマイクロコンピュータ13に接続され、マイクロコンピュータ13から出力される駆動信号に応じて各スイッチング素子UH,UL,VH,VL,WH,WLが切り換えられ、各相のコイル16u,16v,16wが通電されるようになっている。
【0031】
ブラシレスDCモータ2には、120deg間隔の位相角でU,V,Wの各相のホールセンサ21u,21v,21wが配設されている。磁極変化に応じて各ホールセンサ21u,21v,21wからは180deg毎に反転する360degの信号がモータコントローラ9のマイクロコンピュータ13に入力され、各信号の組み合わせにより60degの位相角信号が生成される。
【0032】
上位コントローラ8及びモータコントローラ9のマイクロコンピュータ10,13は、それぞれの通信回路11,14を介して互いの情報を遣り取りする。モータコントローラ9のマイクロコンピュータ13は、例えばモータの動作状態(正常・異常)を上位コントローラ8側に出力する。上位コントローラ8のマイクロコンピュータ10は、被冷却機器4の状態や油温センサ12により検出された油温に基づき、現在の被冷却機器4を冷却するために好適なブラシレスDCモータ2の目標回転速度を算出し、モータコントローラ9側に出力する。例えば油温が低いときには、吸込側でのキャビティの発生やオイルシールからの空気の吸込み等のトラブルを防止するために、目標回転速度の上限を制限し、通常温度域の場合よりも低い目標回転速度を算出してモータコントローラ9側に出力する。
【0033】
上位コントローラ8側から目標回転速度を入力されたモータコントローラ9のマイクロコンピュータ13は、予め設定された回転判定値と目標回転速度との比較結果に基づき、ブラシレスDCモータ2を駆動する制御モードを通常モードと低回転モードとの間で切り換える。
【0034】
目標回転速度が回転判定値以上のときに選択される通常モードは、120°矩形波駆動により実行される。この120°矩形波駆動は、周知の駆動方式のため概略説明にとどめるが、各スイッチング素子UH,UL,VH,VL,WH,WLの内、1相はハイサイド側をON、別の1相はローサイド側をON、残りの1相は全てOFFとする6種の通電パターンが、予め各ホールセンサ21u,21v,21wからの信号の組み合わせに対応して設定されている。そして、位相角信号から求めた60degの通電期間毎に通電パターンを順次切り換えることで、各スイッチング素子UH,UL,VH,VL,WH,WLに選択的に矩形波の駆動信号を出力してONさせる。これにより各相のコイル16u,16v,16wは、120deg位相をずらした状態で正側または負側の120degのON期間と60degのOFF期間とを繰り返しながら順次通電され、ロータに回転力が付与されてブラシレスDCモータ2が作動する。
【0035】
これと並行してモータコントローラ9のマイクロコンピュータ13は、目標回転速度を達成可能な駆動信号のDutyを算出し、このDutyに基づき各スイッチング素子UH,UL,VH,VL,WH,WLに供給する駆動信号を制御して、各相のコイル16u,16v,16wに流れる駆動電流を調整する。これによりブラシレスDCモータ2は、駆動トルクを調整されて目標回転速度に保たれる。
【0036】
既述したように120°矩形波駆動では、ある通電パターンに従って所定の2相のコイル16u,16v,16wを通電しているとき、励磁相当たりのトルクに相当する駆動トルクが通電期間に亘ってほぼ一定値に保たれる。このため、コギングトルクに抗してロータの回転を継続するには、コイル16u,16v,16wにある程度大きな駆動電流を流す必要があり、結果としてブラシレスDCモータ2を低回転域で作動させることができないという問題があった。
【0037】
このような120°矩形波駆動の不具合を解消して、低回転域でのブラシレスDCモータ2の作動を可能としたものが低回転モードである。回転判定値は、120°矩形波駆動により作動可能な回転域の下限よりも若干高回転側、例えば200rpmに設定されており、この回転判定値未満の回転域で低回転モードによりブラシレスDCモータ2が作動する。低油温時には、オイルポンプ3のトラブル防止のために、上位コントローラ8のマイクロコンピュータ10により回転判定値未満の目標回転速度が算出されるため、このときのブラシレスDCモータ2は低回転モードで作動する。
【0038】
低回転モードを実行するためにモータコントローラ9のマイクロコンピュータ13は、図2に示すように位相角検出部23、通電期間算出部24及び駆動制御部25から構成されている。
【0039】
位相角検出部23は、各相のホールセンサ21u,21v,21wと共に本発明の位相角検出部として機能し、各ホールセンサ21u,21v,21wからの180deg毎に反転する360degの信号の組み合わせに基づき、60degの位相角信号を生成する。
【0040】
通電期間算出部24は、上位コントローラ8から入力されるブラシレスDCモータ2の目標回転速度を時間換算して通電期間Twを算出する。ここで通電期間Twとは、60deg回転させるための通電期間である。
【0041】
駆動制御部25は、通電期間算出部24により算出される通電期間Tw毎に、通電パターンに従ってインバータ回路15の各スイッチング素子UH,UL,VH,VL,WH,WLに選択的に駆動信号を出力してONし、これにより各相のコイル16u,16v,16wを正側及び負側に順次通電する。低回転モードのときの通電パターンは、通常モードの120°矩形波駆動と同じく各ホールセンサ21u,21v,21wからの信号の組み合わせに対応して選択される。但し、通電パターン中に目標回転速度に対応する一定のDutyに保つ120°矩形波駆動に対して、低回転モードでは、通電期間Tw内に存在するコギングトルクの負側のピークを乗り越えてロータを回転させるために、コギングトルクの変動状況に基づき駆動信号のDutyを制御している。
【0042】
このDuty制御を実行するには、ロータの回転に伴って発生するコギングトルクのピークをマイクロコンピュータ13の駆動制御部25が認識する必要があり、そのために本実施形態では位相角信号が利用されている。ブラシレスDCモータ2は、図3に示すように、位相角60degを1サイクルとしてコギングトルクが変動し、ロータの1回転当たりでは、駆動トルクと同一方向の正側、及び駆動トルクとは反対方向の負側にそれぞれ6回のピークを発生させる。そしてロータは、正側のコギングトルクを受けたときに回転を促され、負側のコギングトルクを受けたときに回転を妨げられる。
【0043】
このようなコギングトルクの作用により、例えば図3に示すコギングトルクが正側から負側に転じる位相角-30deg及び位相角30degには、ロータを引き寄せてその位相角にとどめる作用を奏する安定点1や安定点2が形成される。また、コギングトルクが負側から正側に転じる位相角0degには、安定点とは逆に、ロータに反発してその位相角から遠ざける作用を奏する反発点が形成される。結果として、駆動トルクを受けないときのロータの位相角は反発点から遠ざけられ、例えば安定点1,2の何れかへと引き寄せられて保持される。
【0044】
このコギングトルクを前提として、各相のホールセンサ21u,21v,21wの位相角が設定されている。即ち、上記のように各ホールセンサ21u,21v,21wの信号の組み合わせにより、位相角信号はコギングトルクと同一サイクルの60deg毎に切り換わる。そして本実施形態では、位相角信号の切換タイミングがコギングトルクの負側のピークと一致するように、予め各ホールセンサ21u,21v,21wが配設される位相角がそれぞれ設定されている。従って、コギングトルクが負側のピークに達する60deg毎に、各ホールセンサ21u,21v,21wの信号の組み合わせが変更されて位相角信号が切り換わる。
【0045】
なお、コギングトルクの負側のピークと位相角信号の切換タイミングとは、必ずしも完全に一致している必要はない。コギングトルクの負側のピークに対して常に一定の関係で位相角信号が切り換わるのであれば、双方の間に多少のズレが生じていても問題はなく、このような態様も本発明は含むものとする。
【0046】
一方、本実施形態のブラシレスDCモータは、上記のように変動するコギングトルクに対して駆動トルクを同期させており、以下、この点について述べる。
周知のようにIPM型のブラシレスDCモータ2では、マグネットトルクとリラクタンストルクとを加算した合成トルクを発生させる。本実施形態の低回転モードにおいても、通電パターンについては120°矩形波駆動と相違ないため、励磁中の2相分の合成トルクの和に相当する駆動トルクがロータに回転力として作用する。そして、マグネットトルクのピークに対してリラクタンストルクのピークは45degずれた位相角にある。一方で、例えばロータの形状等のようなブラシレスDCモータ2の仕様に応じて、同一のマグネットトルクであってもリラクタンストルクのピーク値が増減し、それに伴って合成トルクがピークに達する位相角、ひいては駆動トルクがピークに達する位相角が変化する。この事実は、ブラシレスDCモータ2の仕様を適宜変更することにより、駆動トルクのピークの位相角を所定の範囲内で任意に変更可能なことを意味する。
【0047】
このような特性に着目して本実施形態では、コギングトルクの負側のピークに対して駆動トルクのピークを一致させている。即ち、図3に示すように本実施形態のブラシレスDCモータ2の仕様によれば、マグネットトルクのピークに相当する位相角0degよりも15deg遅角側の位相角、換言すると反回転方向側の位相角である-15degで、コギングトルクが負側のピークに達する。そこで、ブラシレスDCモータ2の仕様を適宜変更することにより、駆動トルクについても位相角-15degでピークに達するように設定している。
但し、必ずしもコギングトルクの負側のピークと駆動トルクのピークとを一致させる必要はなく、双方のピークが一致せずにズレが生じているような態様も本発明は含むものとする。
【0048】
各通電期間Twにおいてロータの位相角がコギングトルクの負側のピークを乗り越えるには、コギングトルクが負側のピークに達したタイミングで、その負側のピークの絶対値を駆動トルクが上回っている必要がある。そこで、コギングトルクの負側のピークの絶対値を上回る程度の駆動トルクを発生するDutyが設定されている。この点は、コギングトルクの負側のピークに対して駆動トルクのピークが一致していない場合でも同様である。この場合には、コギングトルクが負側のピークに達する位相角-15degにおいて、そのピークの絶対値をDuty=100%に相当する駆動トルクが十分に上回るように特性線が設定される。
【0049】
図4は、低回転モードにおいて駆動制御部25により実行される低回転制御ルーチンを示すフローチャートであり、当該ルーチンは、目標回転速度に基づき通電期間Twが算出されて開始される毎に繰り返し実行される。また図5は、各相のセンサ出力に基づく位相角信号の切換タイミング、及び各相のコイル16u,16v,16wに流れる駆動電流の制御状況を示す図、図6は、図5中にAで囲んだU相の通電期間Tw1における駆動電流の制御状況を示す詳細図である。図5,6中の各相の駆動電流は、スイッチング素子UH,UL,VH,VL,WH,WLに供給される駆動信号のDuty、或いはブラシレスDCモータ2が発生する駆動トルクと見なすこともでき、以降では、図5,6に基づき駆動電流に代えて駆動信号のDutyや駆動トルクの制御状況を説明する場合もある。
【0050】
上位コントローラ8から目標回転速度が入力されると、目標回転速度に基づき算出した通電期間Twが開始され、それに伴って図4のルーチンが開始される。ステップ1では、各スイッチング素子UH,UL,VH,VLに供給される駆動信号のDutyを一旦0%に制御し、ステップ2では、通電パターンに基づき正側または負側に通電すべき相のコイル16u,16v,16wに対応するスイッチング素子UH,UL,VH,VLへの駆動信号のDutyに対し、設定値Δを加算する。続くステップ3では位相角信号が切り換えられたか否かを判定し、No(否定)のときにはステップ2に戻る。
【0051】
図5,6に示す例では、ブラシレスDCモータ2を起動すべく目標回転速度に基づき通電期間Tw1が算出された場合を示している。通電期間Tw1において、U相のハイサイド側とV相のローサイド側のスイッチング素子UH,UL,VH,VLがONされ、それぞれの駆動信号のDutyは、駆動制御部25の制御インターバル毎に、ステップ2の処理により0%から所定の増加率で増加し始め(図6中のポイントa)、それに伴ってU相及びV相の駆動電流と共に駆動トルクも次第に増加する。
【0052】
位相角信号の切換に基づき図4のステップ3でYes(肯定)の判定を下すと、ステップ4で、その時点の駆動信号のDutyを保持する(図6中のポイントb)。続くステップ5では予め設定された待機期間tが経過したか否かを判定し、Noのときにはステップ4に戻り、ステップ5でYesの判定を下すとステップ6に移行する。従って、図5,6に示すように待機期間tに亘って駆動信号のDutyが保持され、U相及びV相の駆動電流は位相角信号が切り換えられた時点の値に保持され、このときの駆動電流に対応する駆動トルクに保たれる。
【0053】
待機期間tが経過すると(図6中のポイントc)、ステップ6に移行して駆動信号のDutyを予め設定された低減値DutyLoまでステップ的に低下させる(図6中のポイントd)。続くステップ7では通電期間Twが経過したか否かを判定し、Noのときにはステップ6に戻り、ステップ7の判定がYesになるとルーチンを一旦終了する(図6中のポイントe)。
【0054】
以上で通電期間Tw1の処理が終了し、上位コントローラ8から入力される新たな目標回転速度に基づき後続の通電期間Tw2を開始する。重複する説明は省くが、この通電期間Tw2においては、通電パターンに従ってU相及びW相に対して上記と同じく図4のルーチンの処理を実行し、その後の通電期間Tw3以降においても、通電パターンに従って通電すべき相を逐次変更しつつ同様の処理を実行する。
【0055】
以上の駆動制御部25により実行される低回転モードにおけるブラシレスDCモータ2の作動状況を、図3,7に基づき説明する。なお、図7のタイムチャートは、目標回転速度に基づき通電期間Twとして0.5secが算出された場合を示している。
【0056】
ブラシレスDCモータ2の停止状態では駆動信号がDuty=0%に保たれ(図7中のポイントa)、例えばロータは、図3,7に位相角-30degで示すコギングトルクの安定点1で停止している。ブラシレスDCモータ2を起動すべく上位コントローラ8から目標回転速度が入力されると、通電期間Twが開始される。通電すべき相のスイッチング素子UH,UL,VH,VLに駆動信号が供給され、Dutyが0%から次第に増加する(図7中の矢印ab)。このDutyの増加に伴って、コイル16u,16vへの駆動電流及び駆動トルクも次第に増加する。このため、ロータはコギングトルクに抗しながら安定点1から回転を開始し、その位相角をコギングトルクの負側のピークへと次第に接近させる。
【0057】
位相角信号が切り換えられると、駆動信号のDutyの増加が中止されて待機期間tが開始され(図7中のポイントb)、その時点のDutyが待機期間tに亘って保持されてロータの回転が継続される(図7中の矢印bc)。図3に示すように、位相角信号が切り換えられた時点でコギングトルクは負側のピークに到達しており、位相角信号の切換は、ロータが回転中であること、換言すれば、負側のピークを乗越え可能な駆動トルクが発生していることを意味する。よって、それ以上の駆動信号のDutyの増加、ひいては駆動トルクの増加は必要ないと見なせる。
【0058】
但し、図3に示すように、位相角信号の切換タイミングでコギングトルクの絶対値は負側のピークを経て減少に転じるものの、依然としてロータの回転を妨げる方向に作用している。従って、この時点で駆動トルクが消失すると、ロータはコギングトルクの負側のピークを完全に乗り越えることなく逆戻りしてしまう場合もあり得る。Dutyの増加を中止した時点の駆動トルクが待機時間tに亘って維持されるため、コギングトルクに抗しつつロータは回転を継続し、コギングトルクの負側のピークを確実に乗り越えて位相角0degの反発点を通過する。この説明から明らかなように、待機期間tは、ロータの位相角がコギングトルクの反発点を通過することが可能な程度の長さを有する時間として設定されている。
【0059】
以上のようなロータがコギングトルクの負側のピークを乗越える過程を、さらに詳しく説明する。通電期間Twの開始と共に駆動信号のDutyは次第に増加し、コギングトルクが負側のピークに達した時点で、図3に示すように現在相の駆動トルクもピークに到達する。上記のようにコギングトルクの負側のピークの絶対値を上回る程度の駆動トルクを発生するDutyが設定されているため、Dutyの増加によりロータの位相角は確実にコギングトルクの負側のピークを乗り越える。
【0060】
仮に、コギングトルクの負側のピークに対して駆動トルクのピークが進角側または遅角側にずれている場合、ピークから外れたより低い駆動トルクでコギングトルクに対抗することになる。そこで、ロータの位相角がコギングトルクの負側のピークを乗り越えるために、駆動トルクの特性線を増加側に設定し直す必要が生じる。この場合には、例えばブラシレスDCモータ2の大型化等の弊害が生じるが、このような弊害を未然に防止できるという効果が得られる。
【0061】
一方、このような過程を経て待機期間tが経過すると(図7中のポイントc)、駆動信号のDutyはステップ的に低減値DutyLoまで低下し(図7中のポイントd)、それに伴って駆動トルクも低下する。特許文献1の場合にはブラシレスDCモータ2が唐突に回転し始めてしまうが、この事態がDutyのステップ的な低下により未然に防止される。また、駆動信号のDutyを低減値DutyLoまで低下させることにより、ロータがコギングトルクの負側のピークを乗り越えた後の無駄な通電が防止されるため、電力消費の点で優れる。
【0062】
そして、Dutyの低下に伴ってロータに作用する駆動トルクもステップ的に低下するものの、低減値DutyLo相当の駆動トルクが残されている。加えて、この時点のコギングトルクは負側から反発点を通過して正側に転じているため(図7中の矢印de)、ロータの回転を促す方向に作用する。このため、待機期間tの経過後もロータは回転を継続して位相角30degの安定点2よりも若干進角側の位相角、換言すると回転方向側の位相角に保たれ(図7中のポイントe)、現在の通電期間Twが終了する。後続の通電期間Twが開始されると、駆動信号のDutyは一旦0%まで低下し、駆動トルクの消失によりロータは位相角30degの安定点2まで若干逆戻りする(図7中のポイントf)。このため直前の通電期間Twにおいて、実質的にロータの位相角は60deg変化したことになる。
【0063】
その後は、この後続の通電期間Twで設定されている通電パターンに従って上記と同様の動作を図7中のポイントaから行う。このようなDuty制御が通電期間Tw毎に繰り返され、ロータはコギングトルクの負側のピークを乗り越えながら回転を継続する。
【0064】
なお、通電期間Tw中に生じるロータの回転変動は、例えばブラシレスDCモータ2の仕様、或いはDutyの増加率、待機期間t、低減値DutyLo等の諸設定に依存し、それに応じてコギングトルクの安定点、例えば上記した例では安定点1,2でロータが瞬間的に回転停止する場合も、回転停止しない場合もある。しかし、何れにしてもロータは、通電期間Twに同期して回転変動しつつステップ的な回転を継続する。
【0065】
そして、上記したように通常モードでは、60deg毎に通電パターンを順次切り換えるための指標として位相角信号を利用しているのに対し、低回転モードでは、60deg毎のコギングトルクの負側のピークに同期して駆動信号をDuty制御するために位相角信号を利用している。
【0066】
即ち、位相角信号の切換タイミングとは関係なく、目標回転速度を時間換算して通電期間Twとし、この通電期間Twに同期して通電パターンを順次切り換えている。各通電期間Tw内には、ロータの回転を妨げるコギングトルクの負側のピークが存在し、それらのコギングトルクの負側のピークと一致する位相角信号の切換タイミングをトリガとして、通電期間Twの開始と共に増加させた駆動信号のDutyを逐次制御している。結果として、コギングトルクの負側のピークに対応する適切なタイミングでDutyの増加を中止できると共に、これに続く待機期間tに亘る一定保持、低減値DutyLoまでの低下、低減値DutyLoの保持からなる一連のDuty制御についても適切なタイミングで実行できる。
【0067】
このような駆動信号のDuty制御により、ロータは現在の通電期間Tw内に存在するコギングトルクの負側のピークを確実に乗り越える。これと共にロータは、後続の通電期間Tw内に存在するコギングトルクの負側のピークまで乗り越える事態が防止され、例えば上記した安定点2にとどめられる。結果として各通電期間Tw内において、ロータはステップ的に回転しながら安定点1から安定点2まで位相角を60deg変化させる。そして、このようにロータがコギングトルクの負側のピークを乗り越えるように積極的に駆動電流のDutyを制御しているため、コギングトルクが大きなIPM型のブラシレスDCモータ2であっても、上記のようなロータの位相角変化が達成される。
【0068】
一方で、通電期間Twは目標回転速度を時間換算した値であるため、目標回転速度の高低に関わらず、ロータが60deg回転するために要する時間と見なせる。従って、通電期間Tw毎にロータが60deg回転することにより目標回転速度が達成される。結果としてコギングトルクの影響を受けることなく、通電期間Tw内で所期のロータの位相角変化を実現でき、これによりブラシレスDCモータ2を低回転域で作動させることができる。
【0069】
低油温時には、オイルポンプ3のトラブル防止のために、上位コントローラ8からモータコントローラ9側に回転判定値未満の目標回転速度が出力される。このとき、低回転モードによりブラシレスDCモータ2が作動して目標回転速度が達成されることから、低油温時のオイルポンプ3のトラブルを未然に防止した上で、被冷却機器4の冷却という本来の冷却システム1の目的を達成することができる。
【0070】
なお、上記のようにブラシレスDCモータ2の仕様等によっては安定点1や安定点2でロータが瞬間的に回転停止しないこともあり、その場合には、通電期間Tw内で発生するロータの位相角の変化が正確な60degではなくなる。しかしながら、例えば現在の通電期間Tw内でのロータの位相角の変化が60degに対して不足した場合には、その不足分だけ後続の通電期間Twでの位相角の変化が増加する。このため、個々の通電期間Twで位相角の変化に格差が生じていたとしても平均化すれば60degになり、結果として目標回転速度を達成できる。このような態様も本発明は含むものとする。
【0071】
ところで、通電期間Twの開始と共に駆動信号のDutyを所定の増加率で増加しているのは、通電期間Tw内の適切なタイミングでDuty増加を中止すると共に、これに続く一連のDuty制御を確実且つ適切に実行することを目的としている。例えばDutyを緩慢に増加させた場合には、通電期間Tw内に駆動トルクがコギングトルクの負側のピークの絶対値を上回らず、或いは上回るタイミングが遅延し、以降のDuty制御を通電期間Tw内で実行する時間的な余裕がなくなる。逆に、Dutyを急激に増加させた場合には、増加中止のタイミングが追い付かず、例えば想定した値を超過する過大なDutyが待機期間tに亘って保持されてしまう。何れの場合も、通電期間Tw内で所期のロータの位相角変化を実現できなくなる。
【0072】
このような観点の下に予め適切な設定値Δが設定され、この設定値Δに基づく増加率で駆動信号Dutyを増加させている。これにより、通電期間Tw内で駆動信号のDuty制御を適切に実行できる。結果として、通電期間Tw内でロータを所期の位相角で変化させて、低回転域でのブラシレスDCモータ2の作動を確実に実現することができる。
【0073】
また、待機期間tの経過後に駆動信号のDutyをステップ的に低下させているものの、0%までは低下させずに低減値DutyLoに保っている。このため待機期間tの経過後も駆動トルクは低減値DutyLo相当分だけ残され、摩擦トルクとの安定点でロータが停止することから、後続の通電期間Twでロータの回転を円滑に開始させることができる。
【0074】
[第2実施形態]
次に、本発明を別のブラシレスDCモータ2の制御装置に具体化した第2実施形態を説明する。第1実施形態との相違点は、後続の通電期間Twを開始する際に、駆動信号のDutyを0%まで低下させずに低減値DutyLoに保つことにあり、そのために、図示はしないが図4のフローチャートのステップ1では、駆動信号のDutyを低減値DutyLoに制御している。その他の構成については第1実施形態と同様であるため、共通する構成の箇所は重複する説明を省き、相違点を重点的に述べる。
【0075】
図8は、第1実施形態の図6に対応する駆動電流の制御状況を示す詳細図であり、通電期間Tw1のポイントaでブラシレスDCモータ2を起動した場合のU相の駆動電流の制御状況を示している。第1実施形態で述べたように、駆動信号のDutyの増加、増加中止(図8中のポイントb)、待機期間tに亘る一定保持(図8中のポイントc)を経て、Dutyはステップ的に低減値DutyLoまで低下し(図8のポイントd)、低減値DutyLoに保持されて現在の通電期間Twが終了する。後続する通電期間Tw2においても、通電パターンに基づきU相のコイルは継続して通電される。このときのU相に対する駆動信号のDutyは、後続の通電期間Tw2の開始当初に第1実施形態のように0%まで低下せず、図4のステップ1の処理により低減値DutyLoが維持され、続くステップ2の処理により低減値DutyLoから増加を開始する(図8中のポイントe)。なお、後続の通電期間Tw2では非通電に保たれる相の場合には、通常通りにDutyが0%に保持される。
【0076】
図9は、第1実施形態の図7に対応する起動時からのタイムチャートであり、現在の通電期間Tw1内の作動状況は同一内容であるが、後続の通電期間Tw2が開始された時点で、駆動信号のDutyが0%まで低下せずに低減値DutyLoに保持されている点で相違する(図9中のポイントa’)。後続の通電期間Tw2が開始されると、図10に示すように駆動信号のDutyは低減値DutyLoから増加を開始し(図10中のポイントa’)、ロータは第1実施形態のように安定点2まで逆戻りすることなく直ちに回転を開始している(図10中のポイントe)。
【0077】
第1実施形態では、通電期間Tw毎に僅かではあるがロータが安定点2まで逆戻りすると共に、安定点2ではDuty=0%により駆動トルクが瞬間的に消失するため、ロータの回転に円滑さを欠く要因になった。本実施形態では、このようなロータの逆戻りが防止される上に、ロータには低減値DutyLo相当の駆動トルクが作用し続けているため、後続の通電期間Twが開始されて駆動信号のDutyが増加すると円滑に回転し始める。これらの要因により、ブラシレスDCモータ2を低回転域で一層円滑に作動させることができる。
【0078】
[第3実施形態]
次に、本発明を別のブラシレスDCモータ2の制御装置に具体化した第3実施形態を説明する。第1,2実施形態との相違点は、駆動信号のDutyを0%より増加させてから増加を中止するまでの期間を、目標通電期間Twに応じて可変制御することにある。以下、説明の便宜上、このDutyを増加させる期間をDuty増加期間Tiと称すると共に、増加後のDutyを保持する待機期間tに対して、その後に低減値DutyLoに保つ期間を低減期間t1と称する。また、これらの加算値を実通電期間Taと称する。更に、待機期間tと同じく低減期間t1も予め固定値として設定されている。
【0079】
第1,2実施形態では、Dutyを増加させる際の設定値Δが固定値であるため、必然的にDutyの増加率も固定値となり、目標通電期間Twの長さに関わらずDuty増加期間Tiが常に一定長さとなる。一方で、例えば低回転モードが実行される回転域(例えば20~200rpm)において、目標回転速度に基づき設定される目標通電期間Twは大きく増減し、必然的に目標通電期間Twに対してDuty増加期間Tiが占める割合も大きく増減する。
【0080】
低回転モードの上限回転速度(例えば200rpm)では目標通電期間Twが最も短くなるが、このような場合でもコギングトルクの負側のピークを乗越え可能な駆動トルクを発生させるべく、駆動信号のDutyの増加率、ひいては設定値Δが予め設定されている。しかしながら、この設定値Δの設定では、低回転モードの下限回転速度(例えば20rpm)では、長い目標通電期間Twのごく初期の段階でDutyの増加が完了し、その後の大半の期間はDutyが低減値DutyLoに保持される。換言すると、目標通電期間Twのごく初期に駆動トルクが急激に増加するため、目標通電期間Tw内での回転変動が大きくてロータの回転が不安定になりがちとなる。
【0081】
このような現象を改善するために、本実施形態ではDuty増加期間Tiを可変制御しており、そのためにマイクロコンピュータ13の駆動制御部25は、図13,14に示すフローチャートを実行している。なお、その他の構成については第1,2実施形態と同様であるため、共通する構成の箇所は重複する説明を省き、相違点を重点的に述べる。
【0082】
図13は、低回転モードにおいて駆動制御部25により実行される低回転制御ルーチンを示すフローチャート、図14は、同じくΔ設定ルーチンを示すフローチャート、図15は、低回転モードの下限回転速度における駆動電流の制御状況を示す図である。
図13のステップ1で駆動信号のDutyを一旦0%に制御した後、ステップ11では設定値Δの設定処理を実行する。ステップ11の処理を開始すると図14のステップ22に移行する。
【0083】
ステップ22では、直前の通電期間で前回値Ta-1として記憶された実通電期間Taを読み出す。続くステップ23では、目標通電期間Twと実通電期間の前回値Ta-1との偏差Tdを算出する。その後にステップ24で、偏差Tdの絶対値|Td|が予め設定された不感帯を超えている否かを判定する。判定がNoのときにはステップ25に移行し、今回の設定値Δとして直前の通電期間で適用した値を確定した後にルーチンを終了し、図13のステップ2に移行する。
【0084】
また、ステップ24の判定がYesのときにはステップ26に移行し、偏差Tdが0以上であるか否かを判定する。判定がYesのときにはステップ27に移行し、直前の通電期間で適用した設定値Δを、予め設定された補正値に基づき増加補正して今回の設定値Δとする。また、ステップ26の判定がNoのときにはステップ28に移行し、直前の通電期間で適用した設定値Δを、予め設定された補正値に基づき減少補正して今回の設定値Δとする。
【0085】
このようにして設定された設定値Δに基づき、ステップ2,3では制御インターバル毎に駆動信号のDutyを順次増加させる。そして、ステップ3で位相角信号の切換に基づきYesの判定を下すと、ステップ4に進む。その後のステップ4~7では、第1実施形態で述べたように待機期間tに亘る一定保持、低減値DutyLoまでの低下、低減値DutyLoの保持からなる一連のDuty制御を実行する。最後に、ステップ12で、今回の通電期間での実通電期間Taを前回値Ta-1として記憶する。この前回値Ta-1が次回の通電期間の際にステップ23で読み出され、目標通電期間Twと比較される。
【0086】
以上の処理により、目標通電期間Twが増加方向に変化すると、設定値Δが増加補正されてDutyの増加が急激になり、目標通電期間Twが減少方向に変化すると、設定値Δが減少補正されてDutyの増加が緩やかになる。結果として、目標通電期間Twが長いほどDutyの増加率が低下することになる。そして、このように目標通電期間Twの増減に追従してDutyの増加率が調整されるため、目標通電期間Twに対して実通電期間Taは、ほぼ同一値に保たれる。
【0087】
このため、図15に示す低回転モードの下限回転速度において、第1,2実施形態では、二点鎖線で示すように通電期間Twのごく初期にDutyが急激に増加するのに対し、本実施形態では、実線で示すように実通電期間Ta(≒目標通電期間Tw)の大半の期間を用いてDutyが緩やかに増加する。結果として、実通電期間Ta(≒目標通電期間Tw)内での回転変動が抑制され、より円滑なロータの回転を実現することができる。
【0088】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記各実施形態では、冷却システム1に備えられたオイルポンプ3を駆動するブラシレスDCモータ2の制御装置として具体化したが、その用途はこれに限るものではなく任意に変更可能である。
【0089】
また上記各実施形態では、6極9スロットを有するブラシレスDCモータ2として具体化したが、2n極3nスロット(n≧1)の条件を満たすものであれば任意に変更可能であり、例えば2極3スロット或いは8極12スロットを有するブラシレスDCモータに適用してもよい。
【0090】
また上記各実施形態では、図6或いは図8に示すように駆動信号のDutyを制御したが、制御内容はこれに限るものではなく、例えば図11に示す特性に従って制御してもよい。この別例では、ブラシレスDCモータ2が起動されて通電期間Twが開始されると(図11中のポイントa1)、駆動信号のDutyをステップ的に増加させ(図11中のポイントa2)、その後に所定の増加率で増加させる。位相角信号が切り換えられると(図11中のポイントb)、増加率を減少させた上でDutyの増加を待機時間tに亘って継続する。待機時間tが経過すると(図11中のポイントc)、Dutyを所定の低下率で次第に低下させ(図11中のポイントd)、続いて低下率を減少させた上でDutyの低下を継続する(図11中のポイントe1)。その後にDutyを低減値DutyLoに保持し、後続の通電期間Twが開始されると低減値DutyLoからDutyを増加させる(図11中のポイントe2)。
このように制御した場合でも、上記第1実施形態で述べた各種効果を達成できると共に、後続の通電期間TwではDutyを低減値DutyLoから増加させるため、第2実施形態の効果も達成できる。
【0091】
また上記各実施形態では、待機期間tの経過後に駆動信号のDutyをステップ的に低減値DutyLoまで低下させたが、これに限るものではなく、例えば、図12に示すようにDutyをステップ的に0%まで低下させてもよい。図6の第1実施形態及び図8の第2実施形態と比較した場合、Dutyを0%まで低下させる図12の別例は、ロータがコギングトルクの負側のピークを乗り越えた後の無駄な通電を完全に防止できるため、電力消費の点で最も優れる。しかし、Duty=0%では駆動トルクが消失するため、ロータに作用する摩擦トルクとの関係でロータの停止位置が不確定になり、ロータの回転に円滑さを欠く傾向がある。
【0092】
第1実施形態のように、待機期間tの経過後に駆動信号のDutyを0%まで低下させることなく低減値DutyLoに保てば、摩擦トルクとの安定点でロータが停止するため、図12の別例に比較して後続の通電期間Twでの回転開始が円滑になる。さらに第2実施形態のように、後続の通電期間Twの開始当初においても駆動信号のDutyを0%まで低下させることなく低減値DutyLoから増加させれば、既述したように駆動トルクが作用した状態からロータが回転し始めるため、一層円滑な回転を実現できる。従って、ロータの円滑な回転に関しては第2実施形態が最も優れ、続いて第1実施形態、図12の別例の順になり、電力消費に関しては逆の順になる。
【符号の説明】
【0093】
2 ブラシレスDCモータ
3 オイルポンプ
15 インバータ回路
16u,16v,16w コイル
17 直流電源
21u,21v,21w ホールセンサ(位相角検出部)
23 位相角検出部
24 通電期間算出部
25 駆動制御部
UH,UL,VH,VL,WH,WL スイッチング素子
図1
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