(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103101
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】船舶の品質データベースの構築方法、品質データベースの構築プログラム、統一データプラットフォーム、及び統一データプラットフォームの利用方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/04 20120101AFI20220630BHJP
【FI】
G06Q50/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205643
(22)【出願日】2021-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2020217945
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】松尾 宏平
(72)【発明者】
【氏名】谷口 智之
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 正仁
(72)【発明者】
【氏名】平方 勝
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC03
(57)【要約】
【課題】船舶の建造に関連した品質データを管理できる状態で蓄積して有効に利用できる船舶の品質データベースの構築方法、品質データベースの構築プログラム、統一データプラットフォーム、及び統一データプラットフォームの利用方法を提供すること。
【解決手段】船舶の建造に関連した品質データを蓄積する品質データベース14の構築方法は、船舶の設計に関わるプロダクトモデルと、工場の設備と作業員に関わるファシリティモデルとに基づいてプロセスモデルを設定し、プロセスモデルに従って実行される建造プロセスに関わる品質データを取得し、品質データをプロダクトモデルと関連付けし、標準化したデータ構造で表現してプロダクトモデルの品質管理データとして品質データベース14に蓄積する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の建造に関連した品質データを蓄積する品質データベースの構築方法であって、
前記船舶の設計に関わるプロダクトモデルと、工場の設備と作業員に関わるファシリティモデルとに基づいてプロセスモデルを設定し、前記プロセスモデルに従って実行される建造プロセスに関わる品質データを取得し、前記品質データを前記プロダクトモデルと関連付けし、標準化したデータ構造で表現して前記プロダクトモデルの品質管理データとして前記品質データベースに蓄積することを特徴とする船舶の品質データベースの構築方法。
【請求項2】
前記品質データを前記プロセスモデルと関連付けし、前記標準化したデータ構造で表現して前記プロセスモデルの前記品質管理データとして前記品質データベースに蓄積することを特徴とする請求項1に記載の船舶の品質データベースの構築方法。
【請求項3】
前記品質データを前記ファシリティモデルと関連付けし、前記標準化したデータ構造で表現して前記ファシリティモデルの前記品質管理データとして前記品質データベースに蓄積することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の船舶の品質データベースの構築方法。
【請求項4】
前記品質データは、前記建造プロセスの途中で取得された計測値、及び工程情報の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の船舶の品質データベースの構築方法。
【請求項5】
前記品質データは、前記建造プロセスの途中で使用される部品、及び材料を含む調達品品質情報を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の船舶の品質データベースの構築方法。
【請求項6】
前記船舶の就航後の就航後品質情報を取得し、前記プロダクトモデルと関連付けして前記船舶の就航後の前記品質管理データとして前記品質データベースに蓄積したことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の船舶の品質データベースの構築方法。
【請求項7】
前記品質データは、前記建造プロセスの途中、又は前記建造プロセスの後で得られた前記建造に関する修繕情報を含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の船舶の品質データベースの構築方法。
【請求項8】
前記標準化したデータ構造は、データの種類と属性及びデータ間の関係性を標準化したものであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の船舶の品質データベースの構築方法。
【請求項9】
前記品質データと前記プロダクトモデルとの関連付けは、前記プロダクトモデルのデータの前記種類と前記属性をもって定義されるプロダクトクラスに、前記品質データの品質クラスを一致させたものであることを特徴とする請求項8に記載の船舶の品質データベースの構築方法。
【請求項10】
船舶の建造に関連した品質管理データを蓄積する品質データベースの構築プログラムであって、コンピュータに、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の船舶の品質データベースの構築方法における設定された前記プロダクトモデル及び前記プロセスモデルの取得と、前記品質データの取得と、前記品質データと前記プロダクトモデルとの関連付けと、前記品質管理データの前記品質データベースへの蓄積を実行させることを特徴とする船舶の品質データベースの構築プログラム。
【請求項11】
前記コンピュータに、さらに前記ファシリティモデルの取得を行わせることを特徴とする請求項10に記載の船舶の品質データベースの構築プログラム。
【請求項12】
前記プロダクトモデルと前記ファシリティモデルとに基づいて、シミュレーションにより前記プロセスモデルを作成させることを特徴とする請求項11に記載の船舶の品質データベースの構築プログラム。
【請求項13】
船舶の建造に関連した情報を扱う統一データプラットフォームであって、前記統一データプラットフォームに請求項1から請求項9いずれか1項に記載の船舶の品質データベースの構築方法で得られた前記品質管理データが蓄積される前記品質データベースを備え、蓄積された前記品質管理データを品質モデルとして活用することを特徴とする船舶の統一データプラットフォーム。
【請求項14】
前記統一データプラットフォームは、前記プロダクトモデルを蓄積したプロダクトデータベースをさらに備えたことを特徴とする請求項13に記載の船舶の統一データプラットフォーム。
【請求項15】
前記統一データプラットフォームは、前記ファシリティモデルを蓄積したファシリティデータベースをさらに備えたことを特徴とする請求項14に記載の船舶の統一データプラットフォーム。
【請求項16】
前記統一データプラットフォームは、前記プロセスモデルを蓄積したプロセスデータベースを備えたことを特徴とする請求項15に記載の船舶の統一データプラットフォーム。
【請求項17】
前記プロセスモデルは、前記プロダクトモデルと前記ファシリティモデルに基づいた建造シミュレーションを通じて求められたものであることを特徴とする請求項16に記載の船舶の統一データプラットフォーム。
【請求項18】
船舶の統一データプラットフォームの利用方法であって、
請求項13から請求項17のいずれか1項に記載の船舶の統一データプラットフォームを用いて、前記船舶の前記建造に関連した利用品質情報を作成することを特徴とする船舶の統一データプラットフォームの利用方法。
【請求項19】
前記利用品質情報として、検査レポート、技能測定結果、品質インデックス、及び溶接品質管理情報の少なくともいずれか1つを作成することを特徴とする請求項18に記載の船舶の統一データプラットフォームの利用方法。
【請求項20】
前記利用品質情報として、前記船舶の前記建造に関連した品質を改善する品質改善情報を作成することを特徴とする請求項18に記載の船舶の統一データプラットフォームの利用方法。
【請求項21】
前記利用品質情報として、前記船舶の前記建造から就航後を含む長期間にわたる長期品質情報を作成することを特徴とする請求項18に記載の船舶の統一データプラットフォームの利用方法。
【請求項22】
船舶の統一データプラットフォームの利用方法であって、
請求項13から請求項17のいずれか1項に記載の船舶の統一データプラットフォームを用いて、前記船舶の前記建造に関わる時系列情報を提供するための時間発展系の建造シミュレーションを実行することを特徴とする船舶の統一データプラットフォームの利用方法。
【請求項23】
船舶の統一データプラットフォームの利用方法であって、
請求項13から請求項17のいずれか1項に記載の船舶の統一データプラットフォームを、複数の工場で情報通信網を介して利用することを特徴とする船舶の統一データプラットフォームの利用方法。
【請求項24】
前記複数の工場ごとの前記品質データベースを、所定の条件の入力により他者が閲覧可能としたことを特徴とする請求項23に記載の船舶の統一データプラットフォームの利用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の建造に関連した品質データを蓄積する品質データベースの構築方法、品質データベースの構築プログラム、統一データプラットフォーム、及び統一データプラットフォームの利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の建造時には様々な品質検査が行われているが、品質の記録が取れていないか、取れていたとしても管理できる状態でデータ化されていないことも多く、品質を担保する仕組みが整っているとは言い難いのが現状である。
【0003】
ここで、特許文献1には、複数の工程からなる生産対象物の生産スケジューリングを行うスケジューリング装置であって、工程の接続順序関係を設定するための工程接続情報と、工程に含まれる各ブロックの移動経路を設定するブロックフロー情報と、各ブロックの各工程での工期を設定する作業工期情報と、各工程の制約条件とが蓄積された蓄積手段(データベース)と、蓄積手段に蓄積された情報から工程を下流から上流に遡る順序に並べ替える解釈手段と、解釈手段により得られる並べ替え後の工程データに基づいてスケジューリングモデルを作成するモデル作成手段と、モデル作成手段により得られるスケジューリングモデル毎にスケジュールを最適化する日程計画作成手段と、日程計画作成手段により得られるスケジューリング結果を出力する出力手段とを有するスケジューリング装置が開示されている。
また、特許文献2には、工程計画と、工程計画に基づく設備配置計画と、工程計画および設備配置計画に基づく配員計画と、工程計画、設備配置計画および配員計画に基づく生産計画とを用い、各計画において作成された生産ラインモデルにより、生産活動をシミュレーションして各計画の評価規範値を作成し、規範値により各計画の良否を判定し、それに基づき計画の修正を行う生産システム計画方法が開示されている。この生産システム計画方法が適用される生産システム計画装置は、計画作成のために用いられる各種データ及びその処理結果である計画内容を格納するデータベース部を備えている。
また、特許文献3には、生産物流設備の操業実績情報及び作業計画情報を格納する実績・計画情報データベースと、ここに格納されている操業実績情報及び作業計画情報を用いて、指定された時間帯における生産物流設備の操業状況の統計値を算出する統計情報計算部と、算出された生産物流設備の操業状況の統計値を用いて、指定された時間帯における生産物流設備に含まれる設備の操業状況を示す設備稼働状況画面を表示すると共に、設備稼働状況画面に表示されている設備が選択操作されるのに応じて、選択操作された設備において行われる作業のリストを作業情報リストとして設備稼働状況画面上に重畳表示する設備稼働状況表示部と、製品が選択操作されるのに応じて、生産物流設備に含まれる設備のガントチャート又は選択操作された製品に関係する作業が識別表示されたガントチャート画面を表示すると共に、ガントチャート画面内の作業が選択操作されるのに応じて、選択操作された作業と先行後続関係にある作業を識別表示するガントチャート表示部とを備えた生産物流設備の操業支援システムが開示されている。
また、特許文献4には、品質管理システムにおいて、サプライヤ端末から入力された品質データとしての出荷検査データをサーバのデータベースに蓄積し、サーバで統計処理を行って管理図を自動生成すること、管理図及び品質データは、購入者端末やサプライヤ端末から即時にモニタリング可能とされること、管理図における異常値の出現は自動検出され、サーバから異常発生通知メールを関係者に送信すること、品質データ、管理図、異常値出現時の対応履歴がBBS及びメールに蓄積され、データベースが形成されることが開示されている。
また、特許文献5には、機械要素商品のICタグ・データベース併用品質管理方法として、管理対象とする機械要素商品は、複数種類の要素品を組み立てたものであること、それら複数種類の要素品は、材料購入から、鍛造工程、熱処理工程、および研削工程を経て製造されるものであること、各工程の情報を、その工程のロット番号と共に、ICタグに記録すること、要素品を機械要素商品に組み立てた後は、各要素品に対するICタグの記録情報を、管理コンピュータシステムに、製造番号または製造ロット番号に対応して記録しておくこと、機械要素商品には別のICタグを取付け、製造番号またはロット番号を記録すること、また、このICタグには、鍛造、熱処理、研削の各工程の加工条件情報を記録することが開示されている。
また、非特許文献1には、船舶建造プロセスにおける生産設備の導入効果を評価するため、生産プロセスで対象とする製品の製造誤差に基づく手直し作業を考慮した生産プロセスシミュレーションを利用して、新規生産設備導入によるプロセス全体の期間と費用への影響を評価する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-183817号公報
【特許文献2】特開2003-162313号公報
【特許文献3】特開2015-138321号公報
【特許文献4】特開2006-79354号公報
【特許文献5】特開2004-334891号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】満行泰河,外3名,“船舶建造プロセスシミュレーションを用いた生産設備の導入に関する研究”,日本船舶海洋工学会論文集,日本船舶海洋工学会,2016年12月,第24号,p291-298
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1-3は、船舶の建造に関連した品質データをデータベースに蓄積するものではない。
また、特許文献4-5は、データベースに蓄積する出荷検査データや製造情報が、その製品の構成や形状を表現したプロダクトモデルと関連付けられているものではない。
非特許文献1は、製品の品質に影響を与える生産設備の導入効果を評価するため、生産プロセスシミュレーションを利用してはいるが、品質データを管理できる状態でデータベースに蓄積するものではない。
そこで本発明は、船舶の建造に関連した品質データを管理できる状態で蓄積して有効に利用できる船舶の品質データベースの構築方法、品質データベースの構築プログラム、統一データプラットフォーム、及び統一データプラットフォームの利用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載に対応した船舶の品質データベースの構築方法においては、船舶の建造に関連した品質データを蓄積する品質データベースの構築方法であって、船舶の設計に関わるプロダクトモデルと、工場の設備と作業員に関わるファシリティモデルとに基づいてプロセスモデルを設定し、プロセスモデルに従って実行される建造プロセスに関わる品質データを取得し、品質データをプロダクトモデルと関連付けし、標準化したデータ構造で表現してプロダクトモデルの品質管理データとして品質データベースに蓄積することを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、プロセスモデルに従って建造(製造)された船舶(製品)の品質データをプロダクトモデルと関連付けしてプロダクトモデルの品質管理データとして蓄積することにより、船舶のプロダクトモデルと実際の製品の品質データを一元管理することができる。これにより、実際の製品と品質データの照合ができ、品質に関する分析や解析も可能となり、ひいては品質管理の高度化、品質の改善、及びサービスの高度化等を図ることができる。
【0008】
請求項2記載の本発明は、品質データをプロセスモデルと関連付けし、標準化したデータ構造で表現してプロセスモデルの品質管理データとして品質データベースに蓄積することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、プロセスモデルに従って製造された製品の品質データをプロセスモデルと関連付けしてプロセスモデルの品質管理データとして蓄積することにより、プロセスモデルと実際の工程情報(施工情報)及び品質データを一元管理することができる。これにより、製造に関する作業と品質データの照合ができ、品質に関する分析や解析、また工程品質の改善等も可能となる。さらに、品質データをプロセスモデルに関連付けて時系列で管理できる。
【0009】
請求項3記載の本発明は、品質データをファシリティモデルと関連付けし、標準化したデータ構造で表現してファシリティモデルの品質管理データとして品質データベースに蓄積することを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、プロセスモデルに従って製造された製品の品質データをファシリティモデルと関連付けしてファシリティモデルの品質管理データとして蓄積することにより、ファシリティモデルと実際の製品の品質データを一元管理することができる。これにより、工程における設備や作業員と品質データの照合ができ、品質に関する分析や解析、また工程の改善等も可能となる。
【0010】
請求項4記載の本発明は、品質データは、建造プロセスの途中で取得された計測値、及び工程情報の少なくとも一方を含むことを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、建造プロセスの途中における品質データも品質管理データとして品質データベースに蓄積することで、時系列的な品質管理データに基づき、品質に関する分析や解析、また品質の改善等をより精度よく行うことができる。
【0011】
請求項5記載の本発明は、品質データは、建造プロセスの途中で使用される部品、及び材料を含む調達品品質情報を含むことを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、調達品の品質データも品質管理データとして品質データベースに蓄積することで、部品や材料を含む品質に関する分析や解析、また改善等をより精度よく行うことができる。
【0012】
請求項6記載の本発明は、船舶の就航後の就航後品質情報を取得し、プロダクトモデルと関連付けして船舶の就航後の品質管理データとして品質データベースに蓄積したことを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、試運転時、運航中、又は入渠時等、就航後における就航後品質情報を船舶の就航後の品質管理データとして品質データベースに蓄積することで、就航後の損傷や改良工事等の情報を反映した品質に関する分析や解析、また製造品質の改善等のみならず、設計品質、企画品質、使用品質等の改善を行うことができる。
【0013】
請求項7記載の本発明は、品質データは、建造プロセスの途中、又は建造プロセスの後で得られた建造に関する修繕情報を含むことを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、修繕情報も品質管理データとして品質データベースに蓄積することで、製造の途中での手直しや変更 、また入渠時の修繕等の情報を反映した品質に関する分析や解析、また品質の改善等を行うことができる。
【0014】
請求項8記載の本発明は、標準化したデータ構造は、データの種類と属性及びデータ間の関係性を標準化したものであることを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、データの種類と属性及びデータ間の関係性の標準化により、品質管理データをより取り扱い易いものとすることができる。
【0015】
請求項9記載の本発明は、品質データとプロダクトモデルとの関連付けは、プロダクトモデルのデータの種類と属性をもって定義されるプロダクトクラスに、品質データの品質クラスを一致させたものであることを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、品質データとプロダクトモデルとの関連付けを各々のクラスに基づいて的確に行うことができる。
【0016】
請求項10記載に対応した船舶の品質データベースの構築プログラムにおいては、船舶の建造に関連した品質管理データを蓄積する品質データベースの構築プログラムであって、コンピュータに、船舶の品質データベースの構築方法における設定されたプロダクトモデル及びプロセスモデルの取得と、品質データの取得と、品質データとプロダクトモデルとの関連付けと、品質管理データの品質データベースへの蓄積を実行させることを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、品質データをプロダクトモデルと関連付けした品質管理データの蓄積をプログラムが実行することで、省力化を図って船舶の品質データベースの構築をすることができる。
【0017】
請求項11記載の本発明は、コンピュータに、さらにファシリティモデルの取得を行わせることを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、ファシリティモデルの取得により、品質データとファシリティモデルとを関連付けて行う品質管理データの作成をプログラムに実行させることができる。
【0018】
請求項12記載の本発明は、プロダクトモデルとファシリティモデルとに基づいて、シミュレーションによりプロセスモデルを作成させることを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、シミュレーションによりプロセスモデルを自動的に作成させることで、最適なプロセスモデルの選択が容易になる。
【0019】
請求項13記載に対応した船舶の統一データプラットフォームにおいては、船舶の建造に関連した情報を扱う統一データプラットフォームであって、統一データプラットフォームに船舶の品質データベースの構築方法で得られた品質管理データが蓄積される品質データベースを備え、蓄積された品質管理データを品質モデルとして活用することを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、品質管理データを品質モデルとして活用することで、品質管理の高度化及びサービスの高度化、品質の改善等を図ることができる。また、品質モデルを利用して設計品質や企画品質、また使用品質等の改善を図ることができる。
【0020】
請求項14記載の本発明は、統一データプラットフォームは、プロダクトモデルを蓄積したプロダクトデータベースをさらに備えたことを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、プロダクトデータベースが統一データプラットフォーム以外に設けられている場合と比べてプロダクトモデルの蓄積や取得が容易になると共に、プロダクトモデルの共同利用が可能となる。また、プロダクトモデルを統一化されたデータ構造でプロダクトデータベースに蓄積することで、データベースの管理を一元化することができる。
【0021】
請求項15記載の本発明は、統一データプラットフォームは、ファシリティモデルを蓄積したファシリティデータベースをさらに備えたことを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、ファシリティデータベースが統一データプラットフォーム以外に設けられている場合と比べてファシリティモデルの蓄積や取得が容易になると共に、ファシリティモデルの共同利用が可能となる。また、ファシリティモデルを統一化されたデータ構造でファシリティデータベースに蓄積することで、データベースの管理を一元化することができる。
【0022】
請求項16記載の本発明は、統一データプラットフォームは、プロセスモデルを蓄積したプロセスデータベースを備えたことを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、作業の進め方の標準として定められるプロセスモデルをプロセスデータベースに蓄積しておくことで、後日同様のプロダクトを製造する場合や、プロダクトを他の工場と共同製造する場合等に、蓄積したプロセスモデルを有効利用することができる。また、プロセスモデルを統一化されたデータ構造でプロセスデータベースに蓄積することで、データベースの管理を一元化することができる。
【0023】
請求項17記載の本発明は、プロセスモデルは、プロダクトモデルとファシリティモデルに基づいた建造シミュレーションを通じて求められたものであることを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、建造シミュレーションの結果を反映することで、プロセスモデルの設定のための選択や精度等を向上させることができる。
【0024】
請求項18記載に対応した船舶の統一データプラットフォームの利用方法においては、船舶の統一データプラットフォームの利用方法であって、船舶の統一データプラットフォームを用いて、船舶の建造に関連した利用品質情報を作成することを特徴とする。
請求項18に記載の本発明によれば、船舶の建造に関わる工場や設計部門、管理部門、また船主等は、利用品質情報により建造に関連した品質の確認等を行うことができる。
【0025】
請求項19記載の本発明は、利用品質情報として、検査レポート、技能測定結果、品質インデックス、及び溶接品質管理情報の少なくともいずれか1つを作成することを特徴とする。
請求項19に記載の本発明によれば、船舶の建造に関わる工場や設計部門、管理部門、また船主等は、品質をより詳細に確認することができる。また、工場の責任者や管理部門等は、作業員の技能レベルを客観的に把握することができる。
【0026】
請求項20記載の本発明は、利用品質情報として、船舶の建造に関連した品質を改善する品質改善情報を作成することを特徴とする。
請求項20に記載の本発明によれば、作成された品質改善情報に基づいて製造品質の改善のみならず設計品質、企画品質、使用品質等の的確な品質改善を行うことができる。
【0027】
請求項21記載の本発明は、利用品質情報として、船舶の建造から就航後を含む長期間にわたる長期品質情報を作成することを特徴とする。
請求項21に記載の本発明によれば、作成された長期品質情報を基にメンテナンスの時期や内容、また製造品質、設計品質、企画品質、使用品質等の改善を適切に計画することができる。
【0028】
請求項22記載に対応した船舶の統一データプラットフォームの利用方法においては、船舶の統一データプラットフォームの利用方法であって、船舶の統一データプラットフォームを用いて、船舶の建造に関わる時系列情報を提供するための時間発展系の建造シミュレーションを実行することを特徴とする。
請求項22に記載の本発明によれば、時間発展系の建造シミュレーションの結果に基づいた時系列情報を用いて、工場や管理部門等は工数や製造コスト等の予測結果を得ることができる。
【0029】
請求項23記載に対応した船舶の統一データプラットフォームの利用方法においては、船舶の統一データプラットフォームの利用方法であって、船舶の統一データプラットフォームを、複数の工場で情報通信網を介して利用することを特徴とする。
請求項23に記載の本発明によれば、船舶の統一データプラットフォームを用いて、各工場における製造コストを低減し工期も短縮することができる。また、統一された品質管理や品質改善、設備や作業員の管理や改善、工程の管理や改善、また設計管理や改善等に役立てることができる。
【0030】
請求項24記載の本発明は、複数の工場ごとの品質データベースを、所定の条件の入力により他者が閲覧可能としたことを特徴とする。
請求項24に記載の本発明によれば、船舶の建造を協業する場合や設計会社に設計委託する場合等に他者による品質管理データの閲覧を適切に管理することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の船舶の品質データベースの構築方法によれば、プロセスモデルに従って建造(製造)された船舶(製品)の品質データをプロダクトモデルと関連付けしてプロダクトモデルの品質管理データとして蓄積することにより、船舶のプロダクトモデルと実際の製品の品質データを一元管理することができる。これにより、実際の製品と品質データの照合ができ、品質に関する分析や解析も可能となり、ひいては品質管理の高度化、品質の改善、及びサービスの高度化等を図ることができる。
【0032】
また、品質データをプロセスモデルと関連付けし、標準化したデータ構造で表現してプロセスモデルの品質管理データとして品質データベースに蓄積する場合には、プロセスモデルに従って製造された製品の品質データをプロセスモデルと関連付けしてプロセスモデルの品質管理データとして蓄積することにより、プロセスモデルと実際の工程情報(施工情報)及び品質データを一元管理することができる。これにより、製造に関する作業と品質データの照合ができ、品質に関する分析や解析、また工程品質の改善等も可能となる。さらに、品質データをプロセスモデルに関連付けて時系列で管理できる。
【0033】
また、品質データをファシリティモデルと関連付けし、標準化したデータ構造で表現してファシリティモデルの品質管理データとして品質データベースに蓄積する場合には、プロセスモデルに従って製造された製品の品質データをファシリティモデルと関連付けしてファシリティモデルの品質管理データとして蓄積することにより、ファシリティモデルと実際の製品の品質データを一元管理することができる。これにより、工程における設備や作業員と品質データの照合ができ、品質に関する分析や解析、また工程の改善等も可能となる。
【0034】
また、品質データは、建造プロセスの途中で取得された計測値、及び工程情報の少なくとも一方を含む場合には、建造プロセスの途中における品質データも品質管理データとして品質データベースに蓄積することで、時系列的な品質管理データに基づき、品質に関する分析や解析、また品質の改善等をより精度よく行うことができる。
【0035】
また、品質データは、建造プロセスの途中で使用される部品、及び材料を含む調達品品質情報を含む場合には、調達品の品質データも品質管理データとして品質データベースに蓄積することで、部品や材料を含む品質に関する分析や解析、また改善等をより精度よく行うことができる。
【0036】
また、船舶の就航後の就航後品質情報を取得し、プロダクトモデルと関連付けして船舶の就航後の品質管理データとして品質データベースに蓄積した場合には、試運転時、運航中、又は入渠時等、就航後における就航後品質情報を船舶の就航後の品質管理データとして品質データベースに蓄積することで、就航後の損傷や改良工事等の情報を反映した品質に関する分析や解析、また製造品質の改善等のみならず、設計品質、企画品質、使用品質等の改善を行うことができる。
【0037】
また、品質データは、建造プロセスの途中、又は建造プロセスの後で得られた建造に関する修繕情報を含む場合には、修繕情報も品質管理データとして品質データベースに蓄積することで、製造の途中での手直しや変更、また入渠時の修繕等の情報を反映した品質に関する分析や解析、また品質の改善等を行うことができる。
【0038】
また、標準化したデータ構造は、データの種類と属性及びデータ間の関係性を標準化したものである場合には、データの種類と属性及びデータ間の関係性の標準化により、品質管理データをより取り扱い易いものとすることができる。
【0039】
また、品質データとプロダクトモデルとの関連付けは、プロダクトモデルのデータの種類と属性をもって定義されるプロダクトクラスに、品質データの品質クラスを一致させたものである場合には、品質データとプロダクトモデルとの関連付けを各々のクラスに基づいて的確に行うことができる。
【0040】
また、本発明の船舶の品質データベースの構築プログラムによれば、品質データをプロダクトモデルと関連付けした品質管理データの蓄積をプログラムが実行することで、省力化を図って船舶の品質データベースの構築をすることができる。
【0041】
また、コンピュータに、さらにファシリティモデルの取得を行わせる場合には、ファシリティモデルの取得により、品質データとファシリティモデルとを関連付けて行う品質管理データの作成をプログラムに実行させることができる。
【0042】
また、プロダクトモデルとファシリティモデルとに基づいて、シミュレーションによりプロセスモデルを作成させる場合には、シミュレーションによりプロセスモデルを自動的に作成させることで、最適なプロセスモデルの選択が容易になる。
【0043】
また、本発明の船舶の統一データプラットフォームによれば、品質管理データを品質モデルとして活用することで、品質管理の高度化及びサービスの高度化、品質の改善等を図ることができる。また、品質モデルを利用して設計品質や企画品質、また使用品質等の改善を図ることができる。
【0044】
また、統一データプラットフォームは、プロダクトモデルを蓄積したプロダクトデータベースをさらに備えた場合には、プロダクトデータベースが統一データプラットフォーム以外に設けられている場合と比べてプロダクトモデルの蓄積や取得が容易になると共に、プロダクトモデルの共同利用が可能となる。また、プロダクトモデルを統一化されたデータ構造でプロダクトデータベースに蓄積することで、データベースの管理を一元化することができる。
【0045】
また、統一データプラットフォームは、ファシリティモデルを蓄積したファシリティデータベースをさらに備えた場合には、ファシリティデータベースが統一データプラットフォーム以外に設けられている場合と比べてファシリティモデルの蓄積や取得が容易になると共に、ファシリティモデルの共同利用が可能となる。また、ファシリティモデルを統一化されたデータ構造でファシリティデータベースに蓄積することで、データベースの管理を一元化することができる。
【0046】
また、統一データプラットフォームは、プロセスモデルを蓄積したプロセスデータベースを備えた場合には、作業の進め方の標準として定められるプロセスモデルをプロセスデータベースに蓄積しておくことで、後日同様のプロダクトを製造する場合や、プロダクトを他の工場と共同製造する場合等に、蓄積したプロセスモデルを有効利用することができる。また、プロセスモデルを統一化されたデータ構造でプロセスデータベースに蓄積することで、データベースの管理を一元化することができる。
【0047】
また、プロセスモデルは、プロダクトモデルとファシリティモデルに基づいた建造シミュレーションを通じて求められたものである場合には、建造シミュレーションの結果を反映することで、プロセスモデルの設定のための選択や精度等を向上させることができる。
【0048】
また、本発明の船舶の統一データプラットフォームの利用方法によれば、船舶の建造に関わる工場や設計部門、管理部門、また船主等は、利用品質情報により建造に関連した品質の確認等を行うことができる。
【0049】
また、利用品質情報として、検査レポート、技能測定結果、品質インデックス、及び溶接品質管理情報の少なくともいずれか1つを作成する場合には、船舶の建造に関わる工場や設計部門、管理部門、また船主等は、品質をより詳細に確認することができる。また、工場の責任者や管理部門等は、作業員の技能レベルを客観的に把握することができる。
【0050】
また、利用品質情報として、船舶の建造に関連した品質を改善する品質改善情報を作成する場合には、作成された品質改善情報に基づいて製造品質の改善のみならず設計品質、企画品質、使用品質等の的確な品質改善を行うことができる。
【0051】
また利用品質情報として、船舶の建造から就航後を含む長期間にわたる長期品質情報を作成する場合には、作成された長期品質情報を基にメンテナンスの時期や内容、また製造品質、設計品質、企画品質、使用品質等の改善を適切に計画することができる。
【0052】
また、本発明の船舶の統一データプラットフォームの利用方法によれば、時間発展系の建造シミュレーションの結果に基づいた時系列情報を用いて、工場や管理部門等は工数や製造コスト等の予測結果を得ることができる。
【0053】
また、本発明の船舶の統一データプラットフォームの利用方法によれば、船舶の統一データプラットフォームを用いて、各工場における製造コストを低減し工期も短縮することができる。また、統一された品質管理や品質改善、設備や作業員の管理や改善、工程の管理や改善、また設計管理や改善等に役立てることができる。
【0054】
また、複数の工場ごとの品質データベースを、所定の条件の入力により他者が閲覧可能とした場合には、船舶の建造を協業する場合や設計会社に設計委託する場合等に他者による品質管理データの閲覧を適切に管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】本発明の第一の実施形態による船舶の品質データベースの構築方法に用いるシステムのブロック図
【
図2】同第一の実施形態による船舶の品質データベースの構築方法のフロー図
【
図4】同品質管理項目と品質管理データの例を示す図
【
図5】同統一データプラットフォームの構成を示す図
【
図6】同プロダクトモデルの標準化したデータ構造の例を示す図
【
図7】同ファシリティモデルの標準化したデータ構造の例を示す図
【
図8-1】同プロダクトモデル、ファシリティモデル、及びプロセスモデルの標準化したデータ構造の例のうち、プロダクトモデルを示す図
【
図8-2】同プロダクトモデル、ファシリティモデル、及びプロセスモデルの標準化したデータ構造の例のうち、ファシリティモデルを示す図
【
図8-3】同プロダクトモデル、ファシリティモデル、及びプロセスモデルの標準化したデータ構造の例のうち、プロセスモデルを示す図
【
図10】同第二の実施形態による船舶の品質データベースの構築方法に用いるシステムのブロック図
【
図11】同第二の実施形態による船舶の品質データベースの構築方法のフロー図
【
図12】同船舶の統一データプラットフォームの利用方法の説明図
【
図13】同船舶の統一データプラットフォームの他の利用方法の説明図
【
図14】同統一データプラットフォームと各アプリケーションの全体構成を示す図
【
図15】同溶接品質管理アプリによる品質管理データの利用を示す図
【
図16】同塗装品質管理アプリによる品質管理データの利用を示す図
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明の実施形態による船舶の品質データベースの構築方法、品質データベースの構築プログラム、統一データプラットフォーム、及び統一データプラットフォームの利用方法について説明する。
【0057】
図1は第一の実施形態による船舶の品質データベースの構築方法に用いるシステムのブロック図、
図2は第一の実施形態による船舶の品質データベースの構築方法のフロー図である。
システムは、統一データプラットフォーム10と、プロダクトモデル取得部20と、ファシリティモデル取得部30と、プロセスモデル設定部40と、コンピュータ60を備え、CADシステムと連携している。(建造)プロセス実行部50は、例えば、造船工場においてプロダクトの製造(建造プロセス)に従事する作業員や製造設備等である。また、建造プロセスを実行する造船工場そのものであってもよい。
統一データプラットフォーム10は、プロダクトモデルを蓄積したプロダクトデータベース11と、ファシリティモデルを蓄積したファシリティデータベース12と、プロセスモデルを蓄積したプロセスデータベース13と、船舶の建造に関連した品質データを蓄積する品質データベース14を備え、船舶の建造に関連した情報を扱う。
コンピュータ60は、品質データ取得部61と、関連付け部62と、データ構造化部63と、品質データベース蓄積部64を備える。
【0058】
造船工場は、プロダクト(船舶を含む製品)モデル、ファシリティ(道具を含む設備・作業員)モデル、及びプロセス(作業・工程)モデルという、3つのモデルから構築される。この3つのモデルが、造船工場をモデル化するために必要な核となるデータである。
なお、プロダクトモデルは実際の製品を、ファシリティモデルは実際の設備や作業員を抽象化しシミュレーションで扱えるようにした体系化されたデータ群であり、仮想的な製品、設備や作業員であるともいえる。また、プロセスモデルは、プロダクトモデルとファシリティモデルにより導かれる仮想的な作業の体系であるともいえる。
【0059】
品質データベースの構築方法においては、まず、プロダクトモデル取得部20が、プロダクトデータベース11から船舶の設計に関わるプロダクトモデルを取得する(ステップS1)。プロダクトモデル取得部20は、取得したプロダクトモデルを、プロセスモデル設定部40とコンピュータ60へ送信する。
本実施形態では統一データプラットフォーム10がプロダクトデータベース11を備えているため、プロダクトデータベース11が統一データプラットフォーム10以外に設けられている場合と比べてプロダクトモデルの蓄積や取得が容易になると共に、プロダクトモデルの共同利用が可能となる。また、プロダクトモデルを標準化(統一化)したデータ構造でプロダクトデータベース11に蓄積することで、データベースの管理を一元化することができる。
【0060】
プロダクトモデルは、船舶の基本設計情報1に基づいて設定される。基本設計情報1には、船舶の完成部品と完成部品を構成する構成部品の結合関係が含まれている。例えば、プロダクト(製品)が船殻である場合、完成部品は船殻を構成するブロック(区画)であり、構成部品はブロックを構成する板材である。結合関係は、ノード(Node,部品の実体情報)とエッジ(Edge,部品の結合情報)で表現される。基本設計情報1は、CADシステムから取得する。CADシステムから基本設計情報1を取得することにより、CADシステムで作成された基本設計情報1をプロダクトモデルの設定等に有効利用できる。なお、基本設計情報1には、例えば、船殻の設計CADデータを変換したノードとエッジで表現される結合関係を含む情報も含めることができる。この結合関係を含む情報は、CADシステムで予め変換して得てもよいし、基本設計情報1を取得後に変換して得てもよい。また、CADシステムから取得する基本設計情報1が、各CADシステムにおける独自のデータ構造で保持されている場合は、CADデータをシミュレーションで利用できるデータ構造に変換する。また、CADシステムからの基本設計情報1の取得は、通信回線を介した取得の他、近距離無線通信や記憶手段を用いた取得等、様々な手段を利用して行うことができる。
プロダクトモデルでは、組立対象のプロダクトに関わる情報として、プロダクトを構成する部品自身の属性情報ならびに部品間の結合情報を定義する。プロダクトモデルには、プロダクトの組立に関わる作業(組み立て手順、プロセス)の情報は含まれない。
プロダクトは構成部品である実体をもつ部品同士が個々に結合されていると考える。そこでプロダクトモデルは、グラフ理論に基づきノードとエッジで表現されるグラフ構造を用いて定義する。ノード同士の結合であるエッジには方向性は無いとし、無向グラフとする。
【0061】
構成部品同士の接合情報を示すエッジには、当該構成部品同士の接合情報を示す必要がある。例えば、簡単のために、完成部品の完成状態の座標系における、それぞれの構成部品の位置・姿勢の情報を与える。具体的には、各構成部品に対して基準点とする3点を任意に与え、その3点が完成状態の座標系において、どこに位置するか、という座標データで情報を保持する。その情報を用いることで、任意の構成部品間の位置関係を算出することが可能である。
【0062】
溶接線情報は、3次元的な情報で保持される。例えば、1本の溶接線は、溶接線経路(ポリライン)と、溶接トーチの方向ベクトル(法線ベクトル)で構成されるとする。これらの情報は、完成部品の完成状態の座標系において定義されるデータとする。溶接線経路に加えて、トーチの方向も定義することで、溶接中の作業員の位置を定義することができる。さらに溶接中のトーチの向きを認識することができるため、溶接姿勢を判定することが可能となる。
このように、プロダクトモデルには、構成部品同士の連結関係、連結部における接合データ、及び完成部品における構成部品の位置と角度などの情報が含まれる。なお、CADシステムの性能によっては、CADシステムから取得する基本設計情報1にプロダクトモデルの作成に必要なデータが一部含まれない場合がある。例えば、裏焼き線データを取り扱えるCADシステムは少数である。そのような場合は、基本設計情報1に含まれなかったプロダクトモデルの作成に必要なデータの作成を行う。
【0063】
次に、ファシリティモデル取得部30は、ファシリティデータベース12から工場の設備と作業員に関わるファシリティモデルを取得する(ステップS2)。ファシリティモデル取得部30は、取得したファシリティモデルを、プロセスモデル設定部40とコンピュータ60へ送信する。なお、ステップS2をステップS1よりも前に行っても構わない。
本実施形態では統一データプラットフォーム10がファシリティデータベース12を備えているため、ファシリティデータベース12が統一データプラットフォーム10以外に設けられている場合と比べてファシリティモデルの蓄積や取得が容易になると共に、ファシリティモデルの共同利用が可能となる。また、ファシリティモデルを標準化(統一化)したデータ構造でファシリティデータベース12に蓄積することで、データベースの管理を一元化することができる。
【0064】
ファシリティモデルは、船舶を建造する工場の設備情報2と作業員情報3を有する。
ファシリティモデルでは、工場のファシリティに関する情報として、ファシリティの個別の名前(例えば、溶接機No.1)、種別(例えば、溶接機)に加えて、個々のファシリティが有する能力値を定義する。能力値には、そのファシリティが有する機能の最大値(範囲)を定義する。例えば、クレーンが有する能力値の一つとしては、吊り上げ荷重値や速度などが挙げられ、その能力値範囲は、最大吊り上げ荷重値や最大速度となる。
また、プロダクトだけでなく、ファシリティも作業員の移動経路上の障害物になり得るため、3次元モデルを用いて形状を定義する。
【0065】
次に、プロセスモデル設定部40は、プロダクトモデルとファシリティモデルとに基づいてプロセスモデルを設定する(ステップS3)。設定されたプロセスモデルは、コンピュータ60とプロセスデータベース13へ送信される。
ステップS3においては、プロセスモデル設定部40が、プロダクトモデルとファシリティモデルに基づいて、船舶を構成部品から建造するための組み立て手順とタスクを明確化し標準化したデータ構造で表現したプロセスモデルを設定する。ここで、先にプロダクトモデルとファシリティモデルが設定され、後からプロセスモデルを設定する点が重要である。この順番に進めることで、的確に、後戻りすることなくプロセスモデルを設定でき、後の処理が滞りなくできる。
プロセスモデルは、一連の組立工程に関わる作業情報が定義されたデータである。プロセスモデルは、船舶を構成部品から建造するための組み立て手順として組み立ての依存関係を表す組立ツリーと、組立ツリーに基づいたタスク間の依存関係を表すタスクツリーを含む。これにより、組み立ての手順と、それに関わるタスクを明確にし、プロセスモデルを精度よく作成することができる。ここでタスクとは、一単位の作業を指す。
また、本実施形態では、作業の進め方の標準として定められるプロセスモデルをプロセスデータベース13に蓄積する。これにより、後日同様のプロダクトを製造する場合や、プロダクトを他の工場と共同製造する場合等に、蓄積したプロセスモデルを有効利用することができる。また、プロセスモデルを標準化(統一化)したデータ構造でプロセスデータベース13に蓄積することで、データベースの管理を一元化することができる。
なお、プロセスモデル設定部40におけるプロセスモデルの設定は、取得したプロダクトモデルとファシリティモデルに基づいて、人が行うことも可能である。
【0066】
次に、プロセス実行部50は、プロセスモデルに従って建造プロセスを実行する(ステップS4)。ステップS4は、例えば工場においてプロダクトの製造に従事する作業員や使用する設備により、材料や部品等を用いて実行される製造や検査等に関わる工程である。
【0067】
次に、プロセスモデルに従って実行される建造プロセスに関わる品質データを計測する(ステップS5)。
品質は、例えば以下の1)~3)のように定義される。
1)製品の仕様書や設計図面との整合性(仕様書や図面通りに製品はできているか)。
2)船級等、検査機関による検査項目の満足性。
3)製品としての優良性。仕様書や設計図面、船級検査上では表れない製品の品質。製造工程上の品質の担保。
また、品質データは、製品の実際の材質、寸法、板厚、溶接ビードの状態、膜厚、腐食具合、管形状、及び据え付け状態等である。船舶建造時に取得する品質データは、例えば以下の1)~6)である。
1)実際の溶接の施工条件(溶接順序、電流、電圧等)を溶接線ごとに記録管理。
2)実際の溶接の施工結果(外観、内部欠陥、レントゲン)を溶接線ごとに記録管理。
3)ブロックの寸法精度(目違い量等)をブロックごとに記録管理。
4)外板や船側の歪みの量を記録管理。
5)塗装の塗装条件や膜厚を塗装面ごとに記録管理。
6)船級、監督による検査結果(溶接、塗装等)の記録管理。
品質データの計測装置又は計測方法としては、例えば、3Dスキャナ、膜厚計、デジタル溶接機、ビード形状計測器、カメラ(画像データ)、各種センサ、及び目視等があり、自動計測と手動計測が混在してもよい。
品質データはプロセス実行部50による各建造プロセスにおいて計測される。品質データは、建造プロセスの途中で取得された計測値、及び工程情報の少なくとも一方を含むことが好ましい。工程情報には、例えば、目視検査結果の記録、画像解析結果、又は運転試験結果等、数値以外の情報も含まれる。建造プロセスの途中における品質データも品質管理データとして品質データベース14に蓄積することで、時系列的な品質管理データに基づき、品質に関する分析や解析、また品質の改善等をより精度よく行うことができる。
なお、品質管理データとは、プロダクトモデルに従って製造された製品とその製品の品質データとを標準化したデータ構造で表現して管理できる状態としたものをいう。
また、製品の品質に関連し、製品をどう作ったか、どういう設備で作ったか等はプロセスモデルやファシリティモデルと関連付けして品質管理データとすることができる。
また、品質データは、建造プロセスの途中で使用される調達品の品質情報である調達品品質情報を含むことが好ましい。調達品は、他社によって製造・納入された部品や材料等である。調達品の品質データも品質管理データとして品質データベース14に蓄積することで、部品や材料を含む品質に関する分析や解析、また改善等をより精度よく行うことができる。
また、品質データには、建造プロセスの途中で得られた建造に関する修繕情報を含めることができる。修繕情報も品質管理データとして品質データベース14に蓄積することで、製造途中での手直しや設計や部品等の不具合の変更等の情報を反映した品質に関する分析や解析等を行うことができる。
なお、改善とは、建造プロセス途上や建造プロセス後での手直しや変更、ドック入り時の手入れ等の船舶の建造に関連した修繕情報を積み上げ、製品や設備、作業員配置、メンテナンス方法等を変革することをいう。
また、改善には、品質管理データ、調達品品質情報、就航後品質情報等に基づいて、時には利用品質情報も活用し、製造品質のみならず設計品質、企画品質、使用品質等を直接的、又は間接的に改革することも含む。
【0068】
次に、品質データ取得部61は、計測された品質データを取得する(ステップS6)。品質データの取得は、コンピュータ60への自動的な取り込み、又は手動でのコンピュータ60へのインプットにより行われる。
【0069】
次に、関連付け部62は、品質データと、プロダクトモデル取得部20が取得したプロダクトモデルとを関連付ける(ステップS7)。プロダクトモデルは製品の構成や形状を表現するものであるため、品質データがプロダクトモデルに紐づくことで、製品のどこの品質に関するデータであるかを示すことができる。
また、関連付け部62は、品質データと、プロセスモデル設定部40が設定したプロセスモデルとを関連付ける。これにより、品質データはプロセスモデルとも紐づけられる。プロセスデータは製品の作り方を表現するものであるため、品質データがプロセスモデルに紐づくことで、どの工程、どの作業で発生した品質データであるかを示すことができる。
また、関連付け部62は、品質データと、ファシリティモデル取得部30が取得したファシリティモデルとを関連付ける。これにより、品質データは設備や作業員等のファシリティモデルとも紐づけられる。
【0070】
次に、データ構造化部63は、プロダクトモデル、プロセスモデル、及びファシリティモデルと関連付けた品質データを、標準化したデータ構造で表現して品質管理データとする(ステップS8)。
「品質データを標準化したデータ構造で表現」するとは、プロダクトの寸法や塗装膜厚等といった品質に関する情報をクラスとして定義し、体形化することである。
ここで、
図3は品質管理データのデータ構造の概念図、
図4は品質管理項目と品質管理データの例を示す図である。
プロダクトモデルは、部品単位で情報を管理している。すなわち、部品単位のデータ構造である。また、品質管理データは、部品内部の各位置における品質データを管理する。品質データによっては時系列で管理することもある。このため、品質データの管理用にデータ構造を整備する。
そこで、
図3に示すように、部品を品質管理用に領域区分する新たなクラスを定義する。プロダクトモデルのデータのプロダクトクラス、及びプロセスモデルのデータのプロセスクラスと、品質管理データの品質クラスは関係する。領域区分の仕方は、品質の項目ごとに異なる。例えば腐食データや膜厚データなど、項目によっては品質データを時系列で扱う必要がある。また、品質管理データのうち例えば「実際の板厚」について、プロダクトモデルにおける設計上の板厚はある部材に対して代表値のみで表現されるが、品質管理の場合は、代表値1点での管理は適切でなく部材上のすべての点での計測値を入力する必要がある。よって、既存のデータ構造に対して、部材上のすべての位置でのデータを入力できるようにデータ構造を拡張する必要があるため、品質管理に特化したデータ構造を定義する。
【0071】
図4に船舶建造時における対象工程と管理すべき品質管理データの想定例を示しているが、このように、品質データの項目ごと、想定利用ごとに、データ構造で表現(クラス設計)を行う。
標準化したデータ構造は、データの種類と属性及びデータ間の関係性を標準化したものであることが好ましい。データの種類と属性及びデータ間の関係性の標準化により、品質管理データをより取り扱い易いものとすることができる。
また、品質データとプロダクトモデルとの関連付けは、プロダクトモデルのデータの種類と属性をもって定義されるプロダクトクラスに、品質データの品質クラスを一致させたものであることが好ましい。これにより、品質データとプロダクトモデルとの関連付けを各々のクラスに基づいて的確に行うことができる。
【0072】
次に、データ構造化部63は、品質管理データを品質データベース蓄積部64へ送信する(ステップS9)。品質データベース蓄積部64は、品質管理データを品質データベース14に蓄積する(ステップS10)。
このように、プロセスモデルに従って建造(製造)された船舶(製品)の品質データをプロダクトモデルと関連付けしてプロダクトモデルの品質管理データとして蓄積することにより、船舶のプロダクトモデルと実際の製品の品質データを一元管理することができる。これにより、実際の製品と品質データの照合ができ、品質に関する分析や解析も可能となり、ひいては品質管理の高度化、品質の改善、及びサービスの高度化等を図ることができる。また、品質管理が定量化されれば、人による主観的な判断や恣意的な判断を排除することができる。
また、プロセスモデルに従って製造された製品の品質データをプロセスモデルと関連付けしてプロセスモデルの品質管理データとして蓄積することにより、プロセスモデルと実際の工程情報及び品質データを一元管理することができる。これにより、製造に関する作業と品質データの照合ができ、品質に関する分析や解析、また工程品質の改善等も可能となる。また、品質データをプロセスモデルに関連付けて時系列で管理できる。
また、プロセスモデルに従って製造された製品の品質データをファシリティモデルと関連付けしてファシリティモデルの品質管理データとして蓄積することにより、ファシリティモデルと実際の製品の品質データを一元管理することができる。これにより、工程における設備や作業員と品質データの照合ができ、品質に関する分析や解析、また工程の改善等も可能となる。
【0073】
図5は統一データプラットフォームの構成を示す図である。
プロセスデータベース13に蓄積されているプロセスモデルは、製品の作り方を表すものであり、作り方はファシリティデータベース12に蓄積されているファシリティモデルと連動している。
3Dスキャナ、膜厚計、デジタル溶接機、ビード形状計測器、目視、及び各種センサ等による計測により取得された品質データは、プロダクトモデルと関連付けられ、さらにプロセスモデル及びファシリティモデルと関連付けられる。品質データベース14には、実際の材質、実際の寸法、実際の板厚、実際の溶接ビードの状態、実際の膜厚、腐食具合、実際の管形状、実際の据え付け状態等といった品質管理データが蓄積される。
このように品質モデルが核となって、プロダクトモデル、ファシリティモデル、プロセスモデルと関連付けられることにより、統一データプラットフォーム10に品質データベース14に加え、プロダクトデータベース11、ファシリティデータベース12、プロセスデータベース13を、標準化したデータ構造で表現(体系化)して置く意義が深まる。
【0074】
図6はプロダクトモデルの標準化したデータ構造の例を示す図である。
プロダクトモデルの標準化したデータ構造は、製品情報をBOM(Bill of Materials)で表現したものであり、クラス間の階層構造と、各クラスの属性情報を示している。
図6においては、標準化したデータ構造の構成要素であるクラスを四角で示し、その種類(名称)を四角内に記載すると共に、クラス間の関係及びクラス間の親子関係をツリー構造で示している。また、各クラスの属性情報を四角の右隣に記載している。具体的には、最上層のクラスは1番船や2番船など建造対象の船舶を示す「番船」であり、その一つ下のクラスは船殻を構成する「ブロック」であり、さらに一つ下のクラスはブロックを構成する「部材」、「接続線」、又は「材料」であり、さらに一つ下のクラスは接続線を構成する「溶接線」、部品を構成する「管」及び「艤装品」、材料を構成する「溶材」、「塗料」、「吊りピース」及び「取付治具」である。また、クラス「溶接線」の属性情報は「脚長」及び「開先形状」であり、クラス「管」の属性情報は「管系統」及び「管材質」であり、クラス「艤装品」の属性情報は「艤装品種類」であり、クラス「溶材」の属性情報は「種類(材料)」及び「ワイヤー径」であり、クラス「塗料」の属性情報は「種類(材料)」であり、クラス「吊りピース」の属性情報は「吊りピース種類」であり、クラス「取付治具」の属性情報は「取付金具種類」である。
なお、図示はしていないが、艤装品毎に更にサブクラスを設置することもできる。サブクラスの例としては、「梯子」や「管サポート」等が挙げられる。
【0075】
図7はファシリティモデルの標準化したデータ構造の例を示す図である。
ファシリティモデルの標準化したデータ構造は、ファシリティ情報をBOE(Bill of Equipment)で表現したものであり、クラス間の階層構造と、各クラスの属性情報を示している。
図7においては、標準化したデータ構造の構成要素であるクラスを記載すると共に、クラス間の関係及びクラス間の親子関係をツリー構造で示している。最上層のクラスは「工場A/B」など造船工場の種別(名前)であり、その一つ下のクラスは「棟A/B/C」など各工場における棟の種別(名前)であり、さらに一つ下のクラスは「定盤A/B/C/D」など各棟における定盤の種別(名前)であり、さらに一つ下のクラスは「溶接機A/B/C」、「送給機A/B/C」、「簡易自動台車A/B」、「グラインダーA/B」、「盤木A」、「ガストーチA/B」、「クレーンA/B」、「取付班A」、「溶接班A」、及び「配材班A」など各定盤で用いる設備(又は道具)、作業員の種別(名前)である。
また、図示はしていないが、能力値や形状といった属性情報が、溶接機や取付班といったクラスごとに設定されている。なお、形状は、クラス「溶接機」や「クレーン」等と関連のあるクラスとして整理することもできる。
【0076】
図8-1~3はプロダクトモデル、ファシリティモデル、及びプロセスモデルの標準化したデータ構造の例を示す図であり、
図8-1に示すプロダクトモデルのデータ構造をBOM、
図8-2に示すファシリティモデルのデータ構造をBOE、
図8-3に示すプロセスモデルのデータ構造をBOP(Bill of Process)で表現している。なお、
図8-1に示すプロダクトモデルの標準化したデータ構造は、クラス「ブロック」のインスタンスの中で「大組」、「中組」、「小組」の親子関係に分かれている点等において、
図6に示すプロダクトモデルの標準化したデータ構造と異なっている。また、
図8-2に示すファシリティモデルの標準化したデータ構造は、最下層のクラスを上位概念的な表現としている点等において、
図7に示すファシリティモデルの標準化したデータ構造と異なっている。
図8-1~3に示すように、シミュレータで再現するプロセスモデルの情報を、当該プロセスモデルの対象となるプロダクトモデルの情報と、当該プロセスモデルに必要となるファシリティモデルの情報を組み合わせて、ツリー構造で表現し、各モデルの関係を整理する。これにより、プロセスモデルに各プロセスの対象となるプロダクトとファシリティを関連付けて管理できる。また、シミュレータの運用に必要なプロセスの表現(プロセスの粒度)を整理する。これにより、造船設計や生産計画において取り扱うデータを統一データプラットフォーム10上で統一的に管理できるため、造船設計と生産計画業務において単一の情報に基づいて業務を運用することができ、建造のリードタイム短縮や設計及び生産計画の最適化に寄与する。
【0077】
図8-3に示すプロセスモデルの標準化したデータ構造のうち、タスク「プロセスA-1~3」の具体例は「配材A~C」、タスク「プロセスB-1~4」の具体例は「取付A~D」、タスク「プロセスC-1~2」の具体例は「溶接A~B」、タスク「プロセスD-1」の具体例は「反転A」、タスク「プロセスE-1~2」の具体例は「配管A~B」、タスク「プロセスF-1~2」の具体例は「歪み取りA~B」、タスク「プロセスG-1~2」の具体例は「錆止塗装A~B」、タスク「プロセスH-1~2」の具体例は「清掃A~B」である。
配材、取付、溶接等といった各プロセスについて、そのプロセスをシミュレータで適切に表現するためのプロダクトモデルの情報とファシリティモデルの情報を対応付けて整理している。すなわち、プロダクトモデルのどの情報とファシリティモデルのどの情報をセットにして表現すればシミュレータは各プロセスを再現できるかを整理し、BOPの設計に反映させている。特に、溶接作業等に付帯する清掃作業、錆止塗装作業等の表現を工夫しており、例えば「清掃」タスクについては、溶接作業後に溶接線に沿った箒掛けが行われているという実態に着目し、プロダクトモデルの情報として「溶接線」を対応付けている。
また、プロセスモデルにおいては、各プロセスの実行順序を規定している。実行順序は、例えば
図8-3の右側に示すように、「プロセスA-1(配材A)」→「プロセスB-1(取付A)」→「プロセスB-2(取付B)」→「プロセスC-1(溶接A)」→「プロセスE-1(配管A)」→「プロセスF-1(歪み取りA)」→「プロセスH-1(清掃A)」→「プロセスG-1(錆止塗装A)」→「プロセスD-1(反転A)」→「プロセスA-2(配材B)」→「プロセスB-3(取付C)」→「プロセスA-3(配材C)」→「プロセスB-4(取付D)」→「プロセスC-2(溶接B)」→「プロセスE-2(配管B)」→「プロセスF-2(歪み取りB」→「プロセスH-2(清掃B)」→「プロセスG-2(錆止塗装B)」とする。
このように、プロダクトモデル、ファシリティモデル、及びプロセスモデルの標準化したデータ構造は、少なくとも、データの種類ごとに分けた複数のクラスと、クラス間の関係及びクラス間の親子関係とを含む。これにより、プロダクトモデル、ファシリティモデル、及びプロセスモデルの取得や蓄積、利用等が、クラスやクラス間の関係を軸としたデータ構造により容易となる。
【0078】
図9はプロダクトモデルと品質データのクラス図である。
品質データは、BOMとして表現されるプロダクトモデルに紐づける。換言すると、BOMのツリー構造に品質データを関連付けて管理する。
図9はプロダクトモデルのクラス構造に品質データを関連付けた例であり、部材、溶接線、管、艤装品の各クラスに品質データが関連付けられている。また、クラス「部材」に関連付けられた品質データの属性情報は、材質、寸法精度、塗膜等であり、クラス「溶接線」に関連付けられた品質データの属性情報は、脚長、ビード形状、内部欠陥等であり、クラス「管」に関連付けられた品質データの属性情報は、材質、取付誤差、エアテスト結果等であり、クラス「艤装品」に関連付けられた品質データの属性情報は、材質、取付誤差、各種試験結果等である。
【0079】
また、船舶の就航後においては、品質データ取得部61が試運転時、運航中、又は入渠時等における就航後品質情報を取得し、関連付け部62がプロダクトモデルと関連付けし、プロダクトモデルと関連付けた品質データをデータ構造化部63が標準化したデータ構造で表現(体系化)して品質管理データとし、品質データベース蓄積部64が品質管理データを品質データベース14に蓄積する。就航後に取得する品質データは、例えば以下の1)、2)である。
1)損傷や改良工事の情報(損傷個所、損傷内容)。
2)定期検査時(1年ごと)の船殻の摩耗状態(錆び、塗装の劣化等)の記録管理。
試運転時、運航中、又は入渠時など、就航後における就航後品質情報を船舶の就航後の品質管理データとして品質データベース14に蓄積することで、就航後の損傷や改良工事等の情報を反映した品質に関する分析や解析、また製造品質の改善等のみならず、設計品質、企画品質、使用品質等の改善を行うことができる。なお、運航中の就航後品質情報は、IoT(Internet of Things)技術を利用して収集することもできる。
就航後品質情報には、建造プロセスの後で得られた建造に関する修繕情報を含めることができる。建造プロセスの後で得られる建造に関する修繕情報としては、入渠時等における製品の修繕や改造等が挙げられる。これにより、製造の途中での手直しや変更 、また入渠時の修繕等の情報を反映した品質に関する分析や解析、また品質の改善等を行うことができる。
品質データベース14に蓄積された品質管理データは、蓄積されることによって品質モデルとして活用することができる。品質管理データを品質モデルとして活用することで、品質管理の高度化及びサービスの高度化、品質の改善等を図ることができる。また、品質モデルを利用して設計品質や企画品質、また使用品質等の改善を図ることができる。
【0080】
なお、船舶の品質データベースの構築方法は、船舶の品質データベースの構築プログラムを用いて実行することができる。
この場合、船舶の品質データベースの構築プログラムが、コンピュータ60に、プロダクトモデル取得部20が取得したプロダクトモデルと、プロセスモデル設定部40が設定したプロセスモデルの取得を行わせ、品質データが計測された場合には、品質データ取得部61により品質データの取得を行なわせ、ステップS7~ステップS10の処理を実行させる。品質データをプロダクトモデルと関連付けした品質管理データの蓄積をプログラムが実行することで、省力化を図って船舶の品質データベース14の構築をすることができる。
また、コンピュータ60に、さらにファシリティモデル取得部30が取得したファシリティモデルの取得を行わせることで、ファシリティモデルの取得により、品質データとファシリティモデルとを関連付けて行う品質管理データの作成をプログラムに実行させることができる。
【0081】
図10は第二の実施形態による船舶の品質データベースの構築方法に用いるシステムのブロック図、
図11は第二の実施形態による船舶の品質データベースの構築方法のフロー図である。なお、上記した第一の実施形態と同一機能部材については同一符号を付して説明を省略する。
システムは、統一データプラットフォーム10と、第一のコンピュータ60Aと、第二のコンピュータ60Bを備え、CADシステムと連携している。
統一データプラットフォーム10は、第一の実施形態と同様に、プロダクトデータベース11と、ファシリティデータベース12と、プロセスデータベース13と、品質データベース14を備え、船舶の建造に関連した情報を扱う。
第一のコンピュータ60Aは、プロダクトモデル取得部20と、ファシリティモデル取得部30と、プロセスモデル作成部65と、建造シミュレーション部66と、プロセスモデル設定部67を備える。
第二のコンピュータ60Bは、品質データ取得部61と、関連付け部62と、データ構造化部63と、品質データベース蓄積部64を備える。
第一のコンピュータ60A及び第二のコンピュータ60Bには、船舶の品質データベースの構築プログラムがインストールされている。
【0082】
第一のコンピュータ60Aは、プロダクトモデル取得部20を介しプロダクトデータベース11から船舶の設計に関わるプロダクトモデルを取得する(ステップS11)。
また、第一のコンピュータ60Aは、ファシリティモデル取得部30を介しファシリティデータベース12から工場の設備と作業員に関わるファシリティモデルを取得する(ステップS12)。
【0083】
次に、第一のコンピュータ60Aは、プロセスモデル作成部65においてプロダクトモデルとファシリティモデルに基づいて、船舶を構成部品から建造するための組み立て手順とタスクを明確化し標準化したデータ構造で表現したプロセスモデルを作成する(ステップS13)。
次に、第一のコンピュータ60Aは、作成したプロセスモデルに基づき、建造シミュレーション部66において船舶の建造をシミュレーションする(ステップS14)。
建造シミュレーション部66は、プロセスモデル作成部65によって作成されたプロセスモデルに基づいて時間ごとの建造の進行状況を逐次計算する時間発展系の建造シミュレーション(3次元空間上の時間発展)を行う。
時間発展系の建造シミュレーションにおいては、プロセスモデルを基に、3次元プラットフォーム上での各ファシリティとプロダクトの位置と占有状況、タスクの進捗状況を変化させることで、造船における建造をシミュレーションする。シミュレーションにおいては、作業員の詳細な動き、すなわち要素作業の動きまで表現される。
【0084】
次に、第一のコンピュータ60Aは、プロセスモデル設定部67において、シミュレーションに用いたプロセスモデルをプロセス実行部50が用いるべきプロセスモデルとして設定する(ステップS15)。
プロセスモデル設定部67は、プロセスモデルを設定するにあたり、シミュレーションの結果が所期目標の範囲を超えているか否かを判断する。初期目標の範囲を超えていない場合は、シミュレーションに用いたプロセスモデルを設定する。一方、初期目標の範囲を超えている場合は、プロセスモデルを設定することなくプロダクトモデル及びファシリティモデルの少なくとも一方を修正してステップS13に戻る。そして、修正後のプロダクトモデル及びファシリティモデルに基づいてプロセスモデルが作成され(ステップS13)、そのプロセスモデルに基づく建造シミュレーションが再び実施される(ステップS14)。なお、所期目標としては、例えば所定の時間等が設定されるが、それだけでなく、作業の平準化の度合(作業負荷を分散できているか)や、作業場の安全確保の度合、危険性の有無等を含めることができる。
このように、プロダクトモデルとファシリティモデルとに基づいて、シミュレーションによりプロセスモデルを作成させる。シミュレーションによりプロセスモデルを自動的に作成させることで、最適なプロセスモデルの選択が容易になる。また、建造シミュレーションの結果を反映することで、プロセスモデルの設定のための選択や精度等を向上させることができる。
【0085】
以降の処理は第一の実施形態のステップS4~S10と同様であり、次のように進行する。
プロセス実行部50がプロセスモデルに従って建造プロセスを実行する(ステップS16)。
次に、プロセスモデルに従って実行される建造プロセスに関わる品質データを計測装置や目視等によって計測する(ステップS17)。
次に、第二のコンピュータ60Bは、計測された品質データを品質データ取得部61を介して取得する(ステップS18)。
次に、第二のコンピュータ60Bは、関連付け部62において、品質データとプロダクトモデル、品質データとプロセスモデル、及び品質データとファシリティスモデルを関連付ける(ステップS19)。
次に、第二のコンピュータ60Bは、データ構造化部63において、プロダクトモデル、プロセスモデル、及びファシリティモデルと関連付けた品質データを、標準化したデータ構造で表現(体系化)して品質管理データとする(ステップS20)。
次に、第二のコンピュータ60Bは、品質管理データを品質データベース蓄積部64へ送り(ステップS21)、品質管理データを品質データベース蓄積部64から品質データベース14に送信する(ステップS22)。これにより、品質データベース14に品質管理データが蓄積される。
【0086】
また、船舶の就航後においては、第二のコンピュータ60Bが、品質データ取得部61を介して、試運転時、運行中、又は入渠時等における就航後品質情報を取得し、関連付け部62においてプロダクトモデルと関連付けし、データ構造化部63においてプロダクトモデルと関連付けた品質データを標準化したデータ構造で表現(体系化)して品質管理データとし、品質管理データを品質データベース蓄積部64から品質データベース14へ送信する。
なお、第一のコンピュータ60Aと第二のコンピュータ60Bは一台のコンピュータで兼ねることも可能であり、第一のコンピュータ60Aで使用するプログラムと第二のコンピュータ60Bで使用するプログラムを一連のものとすることも可能である。
【0087】
図12は船舶の統一データプラットフォームの利用方法の説明図である。なお、上記した実施形態と同一機能部材については同一符号を付して説明を省略する。
システムは、統一データプラットフォーム10と、第一のコンピュータ60Aと、第二のコンピュータ60Bを備え、その設置場所とは異なる場所に位置するA工場、B工場、C工場、及びD社と情報通信網70で接続されている。なお、D社は工場ではないが、例えば、工場を統括する本社、共同で船舶を建造するための取りまとめをする会社、船舶の基本設計を専門的に行う会社、また生産行為を認証する会社等である。また、A工場、B工場、C工場は、船舶の建造をする別々の造船会社の工場であっても、一つの造船会社の複数地における工場であってもよい。
統一データプラットフォーム10は、プロダクトデータベース11と、ファシリティデータベース12と、プロセスデータベース13と、品質データベース14を有する。なお、
図12では品質データベース14を代表して図示している。
第一のコンピュータ60Aは、プロダクトモデル取得部20、ファシリティモデル取得部30、プロセスモデル作成部65、建造シミュレーション部66、及びプロセスモデル設定部67を有する。
第二のコンピュータ60Bは、プロダクトモデル取得部20、ファシリティモデル取得部30、設定されたプロセスモデルを取得するプロセスモデル取得部68、品質データ取得部61、関連付け部62、データ構造化部63、及び品質データベース蓄積部64を有する。
各工場は、プロセス実行部50と品質データ取得部61を有すると共に、CADシステムが配置されている。
【0088】
基本設計情報1は各工場のCADシステムから船舶の情報通信網70を介して統一データプラットフォーム10に送信され、設定されたプロダクトモデルがプロダクトデータベース11に蓄積される。なお、CADシステムは、各工場に設置されているが、一つの工場で代表して設計することも、複数の工場で分担して設計することできる。
また、統一データプラットフォーム10のファシリティデータベース12には、設備情報2と作業員情報3から作成された工場ごとのファシリティモデルが蓄積されている。
【0089】
第一のコンピュータ60Aは、プロセスモデル作成部65において工場ごとのプロセスモデルを作成し、建造シミュレーション部66でプロダクトモデルに対して工場ごとの時間発展系の建造シミュレーションを実行する。
建造シミュレーション部66における工場ごとの時間発展系の建造シミュレーションの結果は、時系列情報として各工場やD社等に提供される。これにより、時間発展系の建造シミュレーションの結果に基づいた時系列情報を用いて、各工場やD社等は工数や製造コスト等の予測結果を得ることができる。
また、D社は、統一データプラットフォーム10の品質データベース14に蓄積されている情報から、就航後の就航後品質情報、及び修繕情報を取得する。これにより、就航後の就航後品質情報、及び修繕情報を考慮して運航計画やメンテナンス計画等を立案することができる。
このように、統一データプラットフォーム10を、複数の工場で情報通信網70を介して利用することで、統一データプラットフォーム10を用いて、各工場における製造コストを低減し工期も短縮することができる。また、統一された品質管理や品質改善、設備や作業員の管理や改善、工程の管理や改善、また設計管理や改善等に役立てることができる。
図12において、統一データプラットフォーム10、第一のコンピュータ60A、及び第2のコンピュータ60Bは、別々に設置された形態をとっているが、同一の場所に設置すること、一台のコンピュータで機能を兼ねること等は任意に実施が可能である。また、統一データプラットフォーム10、第一のコンピュータ60A、及び第2のコンピュータ60Bの管理は、別々の組織や機関の管理であっても代表工場の管理であってもよく、管理能力に応じて自由に設定が可能である。また、統一データプラットフォーム10、第一のコンピュータ60A、及び第2のコンピュータ60Bの運営は、サービス業として行うことも可能である。
【0090】
図13は船舶の統一データプラットフォームの他の利用方法の説明図である。なお、上記した実施形態と同一機能部材については同一符号を付して説明を省略する。
システムは、統一データプラットフォーム10と、第一のコンピュータ60Aと、第二のコンピュータ60Bを備え、その設置場所とは異なる場所に位置するA工場、B工場、C工場、D社、及びX社と情報通信網70で接続されている。
統一データプラットフォーム10は、プロダクトデータベース11と、ファシリティデータベース12と、プロセスデータベース13と、品質データベース14を有する。なお、
図13では品質データベース14を代表して図示している。
第一のコンピュータ60Aは、プロダクトモデル取得部20、ファシリティモデル取得部30、プロセスモデル作成部65、建造シミュレーション部66、及びプロセスモデル設定部67を有する。
第二のコンピュータ60Bは、プロダクトモデル取得部20、ファシリティモデル取得部30、プロセスモデル取得部68、品質データ取得部61、関連付け部62、データ構造化部63、及び品質データベース蓄積部64を有する。
各工場のうちA工場は、プロセス実行部50と品質データ取得部61を有すると共に、CADシステムが配置されている。
【0091】
品質データベース14には、A工場、B工場、C工場、及びD社の品質管理データが蓄積されている。工場ごとの品質データベース14はバリア80によってアクセスが制限されており、各工場等のデータベースに蓄積されている品質管理データをその工場等の所属者以外の他者が閲覧するためには、その工場の許可のもと、ID及びパスワードといった所定の条件の入力が必要である。このように、複数の工場ごとの品質データベース14を、所定の条件の入力により他者が閲覧可能とすることで、船舶の建造を協業する場合や設計会社に設計委託する場合等に他者による品質管理データの閲覧を適切に管理することができる。また、同じ工場であっても、品質管理データの機密度により、許可された所属者のみが閲覧できるようにすることも可能である。
なお、統一データプラットフォーム10は、特別にサーバを設けなくても、A工場、B工場、C工場、及びD社のコンピュータを連係させて、機能として統一データプラットフォーム10を構築してもよい。
【0092】
X社は、船舶の建造に関連するアプリケーションプログラムの開発や情報提供サービスを行っている。X社は、統一データプラットフォーム10の品質データベース14に蓄積されている品質管理データを用いて、船舶の建造に関連した利用品質情報を作成して造船会社や船主等に提供する。これにより、船舶の建造に関わる工場や設計部門、管理部門、また船主等は、利用品質情報により建造に関連した品質の確認等を行うことができる。
利用品質情報としては、検査レポート、技能測定結果、品質インデックス、及び溶接品質管理情報の少なくともいずれか1つを作成することが好ましい。これにより、船舶の建造に関わる工場や設計部門、管理部門、また船主等は、品質をより詳細に確認することができる。また、工場の責任者や管理部門等は、作業員のスキルや技能レベル、得手/不得手等を客観的に把握することができる。
また、利用品質情報として、船舶の建造に関連した品質を改善する品質改善情報を作成することが好ましい。これにより、品質改善情報の被提供者は、作成された品質改善情報に基づいて、製品、設備、人員配置、又はメンテナンスの改革を行うなど、製造品質の改善のみならず設計品質、企画品質、使用品質等の的確な品質改善を行うことができる。
また、利用品質情報として、船舶の建造から就航後を含む長期間にわたる長期品質情報を作成することが好ましい。これにより、長期品質情報の被提供者は、作成された長期品質情報を基にメンテナンスの時期や内容、また製造品質、設計品質、企画品質、使用品質等の改善を適切に計画することができる。
また、X社の開発したアプリケーションプログラムや作成した利用品質情報は、情報通信網70を介してA工場、B工場、C工場、及びD社を含む注文主や依頼主等に提供することが可能である。
【0093】
図14は統一データプラットフォームと各アプリケーションの全体構成を示す図である。
統一データプラットフォーム10には、検査レポートを作成する検査レポート作成アプリ、品質インデックスを計算して表示する品質インデックス計算・表示アプリ、作業員の技能を測定して技能測定結果を表示する技能測定アプリ、品質改善情報を作成する品質改善提案アプリ、最適なメンテナンスの周期や内容等を作成する最適メンテナンス提案アプリ、溶接品質管理情報を作成する溶接品質管理アプリ、塗装品質管理情報を作成する塗装品質管理アプリ、及び建造シミュレーションを行う建造シミュレーションアプリが接続して運用されている。
品質管理に関係するこれらの各アプリケーションプログラムは、統一データプラットフォーム10から必要なデータを参照し、又は入出力する。
統一データプラットフォーム10に取り込むのは、品質基準(品質の閾値)ではなく、例えば板厚、材質、ブロックの寸法、溶接の脚長、欠陥の有無、塗装の膜厚等、品質判定に用いるためのプロダクトの状態に関するデータのみである。これらのデータに対して、各社の品質基準を満足しているか否かを判定し、各社が設定している品質基準に対して警報を発するのは、溶接品質管理アプリや塗装品質管理アプリ等といった統一データプラットフォーム10に接続するアプリケーション側である。
【0094】
統一データプラットフォーム10と各アプリケーションは例えば以下のように利用できる。
品質管理データにより、プロダクト、プロセス及び品質という三点セットでデータが管理されるので、クラスタリング等の統計処理手法、又は機械学習を用いた類似検索AI等によって、特に品質上の問題が発生しやすい造船プロセスについてその発生パターンを分析し、次番船の建造や新設計船の開発に対する警告、又は品質上の危険予知を行うというように、品質不良の原因となるプロセスを抽出して施工や工法の改善につなげる工法改善体制を構築することができる。
また、個別の製品の品質(例えば、ブロック等の寸法誤差)に応じて、その製品個体ごとに最適化した作業手順を出力する作業手順の出力システムを構築することができる。例えば、前工程のブロックの寸法誤差を定量化し、それに応じて後工程におけるそのブロック(個体)に固有の生産指図をリアルタイムに出力することで、品質の記録と共に、その個体に応じた最適な生産指図により品質を向上させることができる。
また、作業員と作業内容と品質との関連付け(紐づけ)ができるので、品質から作業員のスキルや特性(得手不得手など)を判定する作業員のスキル判定システムを構築することができる。
また、就航後における船舶の品質の状態をセンサ等により常時モニタリングし、品質上の問題が発生したときに警告を発したり、品質上の閾値を下回る時期を予測してメンテナンスの最適な時期及び内容を提示したりするなど、最適メンテナンスサービスを構築することができる。なお、現状では、就航後の船舶は、規則で定められた期間と検査項目に従って定期検査を受けることになっている。船舶の運航者のメンテナンス次第で定期検査における検査期間は長くも短くもなるため、最適メンテナンスサービスを活用することにより、船舶の状態を良好に維持しようとするインセンティブが働くことが予想される。また、メンテナンスの最適な時期及び内容を予測する予測技術は高度な技術力が必要となるため、その製品(船舶)の設計者にしか実施できない。そのため、造船所が船舶を運航し航海ごとに船舶を貸し出したり、あるいは造船所自らが運送事業者となるなど、造船所の新たな事業につなげることができる。
また、船舶の運航状態データを取得し、取得した運航状態データをプロダクトモデル及び品質データと関連付けし、統一データプラットフォーム10に設けたデータベースに蓄積する場合は、統一データプラットフォーム10上で、プロダクトモデルと運航状態データと品質データが紐づいているため、特に品質の不具合が発生しやすい箇所について、その不具合が発生するパターンを分析し、類似の箇所や状況について運航者に警告を行うことができる。また、これを発展させ、造船所側では個船ごとの合理的な設計体制を構築することができる。例えば、現在の船舶設計においては相当な安全率が含まれているが、運航条件まで含めた品質データの管理を行うことで、個船ごとに最適な安全率を設定したり、あるいは安全率の設定を不要としたりすることも可能となる。
【0095】
図15は溶接品質管理アプリによる品質管理データの利用を示す図である。
統一データプラットフォーム10のデータ構造では、新規に定義された品質管理用溶接線クラスが、プロダクトモデルの溶接線クラス、及びプロセスモデルの溶接作業クラスと関連付けられている。
図15の右側には、実際の製品の溶接箇所を計測する計測部の例として、デジタル溶接機、カメラ、目視、レントゲン検査、超音波検査等を挙げている。溶接品質管理アプリは、溶接機、画像データ、各種検査(レントゲン検査、超音波検査)、目視確認等による品質データを処理して、品質管理データとして溶接品質管理情報を作成し、統一データプラットフォーム10に登録する。
また、溶接品質管理アプリは、予め定められた検査レポートの項目に従って、検査レポートを取りまとめる。
溶接品質管理アプリが作成した検査レポートは、監督(船の発注者)や船級検査員がオンライン上でチェックし、承認する。
なお、ここでは計測された品質データの解析と検査レポートの作成の両方を溶接品質管理アプリが行う例を示したが、品質データの解析と検査レポートの作成を別々のアプリで行わせるなど、様々なアプリの在り方があり得る。
【0096】
図16は塗装品質管理アプリによる品質管理データの利用を示す図である。
統一データプラットフォーム10のデータ構造では、新規に定義された品質管理用塗装面クラスが、プロダクトモデルの部品クラス、及びプロセスモデルの塗装作業クラスと関連付けられている。
図16の右側には、実際の製品の塗装箇所を計測する計測部の例として、センサ、塗装ガン、カメラ、膜厚計、手入力を挙げている。塗装品質管理アプリは、塗装ガン、各種センサ、膜厚計、及び画像データ等から塗装作業に関する品質データを取得し、これらの品質データを処理して、品質管理データとして塗装品質管理情報を作成し、統一データプラットフォーム10に登録する。
また、塗装品質管理アプリは、予め定められた検査レポートの項目に従って、検査レポートを取りまとめる。
塗装品質管理アプリが作成した検査レポートは、監督(船の発注者)や船級検査員がオンライン上でチェックし、承認する。
なお、ここでは計測された品質データの解析と検査レポートの作成の両方を塗装品質管理アプリが行う例を示したが、品質データの解析と検査レポートの作成を別々のアプリで行わせるなど、様々なアプリの在り方があり得る。
【0097】
溶接品質管理アプリや塗装品質管理アプリ等は、造船プロセスにおける溶接工程や塗装工程等において品質に異常を検知したときに、異常を検知した旨をすぐに現場の管理者や作業員等に通知するものであることが好ましい。これにより、当該工程において品質不良を解消する(品質不良のまま後工程に移行しない)体制を構築することができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、船舶の建造に係るトレーサビリティに利用できる。また、船舶の品質インデックスに利用することで船舶の品質を定量化することができる。さらに船舶の品質の改善に役立てることができる。高品質の船舶は新造であっても中古であっても高値で販売できるため、品質格付けサービスにも展開が可能である。
例えば、寸法精度の場合、JSQS(Japanese Shipbuilding Quality Standard)では「このブロックは精度誤差何ミリ以内で造るべし」との基準が設けられており、造船所はその基準に従って工作する。しかし、基準範囲内であれば、精度誤差0mmで造ろうが精度誤差5mmで造ろうが、品質としては表面化されない。そこで、例えば、全ブロックの全取り合い部の寸法精度を計測しデータ化して、その船舶1隻分の寸法精度の状態を数値化するインデックスを作成することで、精度誤差0mmで製造された船舶と精度誤差5mmで製造された船舶を差別化できる。この場合、その寸法精度インデックスとしては、平均寸法誤差と寸法誤差の標準偏差(バラツキ)にあたるような指標を用いる。溶接や塗装等についても同様に、現状では検査箇所抜き取り式である定量検査を全量検査として、その検査結果に基づく状態を定量化して指標で数値化する。
また、現在は品質の記録が取れていないか、取れていたとしても管理できる状態でデータ化されていないため、船主から派遣された監督者等が造船現場を監督せざるを得ないが、本発明により、品質管理データに基づく検査、監督者に依存しない造船品質管理体制を構築することができる。これにより、監督者等は現場に出向かずとも品質を確認できるため、COVID-19等の感染症が流行し外出の自粛が求められる状況となった場合にも在宅勤務等で対応できる。また、品質管理が定量化されることにより、監督者等による主観的又は恣意的な判断を回避できる。また、監督者の役割をAIに担わせることも可能となる。
また、本発明は、船舶と同様のアナロジーが成り立つような浮体、洋上風力発電施設、水中航走体や海洋構造物などの他製品、また建築業界など他産業への展開も可能である。これらに適用する場合は、請求項における船舶を他製品や他産業で対象とする言葉に置き替えて解釈することができる。
【符号の説明】
【0099】
10 統一データプラットフォーム
11 プロダクトデータベース
12 ファシリティデータベース
13 プロセスデータベース
14 品質データベース
60 コンピュータ
70 情報通信網