IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジェンマブ アクティーゼルスカブの特許一覧

特開2022-103195改善された内部移行特性を有する多重特異性抗原結合分子
<>
  • 特開-改善された内部移行特性を有する多重特異性抗原結合分子 図1
  • 特開-改善された内部移行特性を有する多重特異性抗原結合分子 図2
  • 特開-改善された内部移行特性を有する多重特異性抗原結合分子 図3
  • 特開-改善された内部移行特性を有する多重特異性抗原結合分子 図4
  • 特開-改善された内部移行特性を有する多重特異性抗原結合分子 図5
  • 特開-改善された内部移行特性を有する多重特異性抗原結合分子 図6
  • 特開-改善された内部移行特性を有する多重特異性抗原結合分子 図7
  • 特開-改善された内部移行特性を有する多重特異性抗原結合分子 図8
  • 特開-改善された内部移行特性を有する多重特異性抗原結合分子 図9
  • 特開-改善された内部移行特性を有する多重特異性抗原結合分子 図10
  • 特開-改善された内部移行特性を有する多重特異性抗原結合分子 図11
  • 特開-改善された内部移行特性を有する多重特異性抗原結合分子 図12
  • 特開-改善された内部移行特性を有する多重特異性抗原結合分子 図13
  • 特開-改善された内部移行特性を有する多重特異性抗原結合分子 図14
  • 特開-改善された内部移行特性を有する多重特異性抗原結合分子 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103195
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】改善された内部移行特性を有する多重特異性抗原結合分子
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220630BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220630BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220630BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20220630BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220630BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220630BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220630BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220630BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220630BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220630BHJP
   A61K 47/55 20170101ALI20220630BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20220630BHJP
   A61K 51/00 20060101ALI20220630BHJP
   A61K 51/10 20060101ALI20220630BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220630BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220630BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C07K16/30
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 C
A61K39/395 D
A61K39/395 E
A61K39/395 L
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K47/55
A61K47/68
A61K51/00 100
A61K51/10 100
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022070251
(22)【出願日】2022-04-21
(62)【分割の表示】P 2018540751の分割
【原出願日】2017-02-03
(31)【優先権主張番号】PA201600074
(32)【優先日】2016-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(71)【出願人】
【識別番号】520297023
【氏名又は名称】ジェンマブ アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】デ ゴージ バート
(72)【発明者】
【氏名】メリス ジュースト
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンク トム
(72)【発明者】
【氏名】テン ナペル ヘンドリック
(72)【発明者】
【氏名】ブレイジ エステル
(72)【発明者】
【氏名】サティジン デービッド
(72)【発明者】
【氏名】パレン ポール
(57)【要約】
【課題】本発明は、第1の抗原結合ドメインと第2の抗原結合ドメインとを含む多重特異性抗原結合分子の提供を課題とする。
【解決手段】該第1のドメインは標的分子(T)と特異的に結合し、かつ該第2のドメインは内部移行性エフェクタータンパク質(E)と特異的に結合し、該第2の抗原結合ドメインはEとの解離定数(KD)10-9~10-8Mを有する。該多重特異性抗原結合分子は、がんを処置および/または予防するための方法において有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の抗原結合ドメインと第2の抗原結合ドメインとを含む多重特異性抗原結合分子であって、該第1の抗原結合ドメインが標的分子(T)と特異的に結合し、かつ該第2の抗原結合ドメインが内部移行性エフェクタータンパク質(E)と特異的に結合し、かつ該第2の抗原結合ドメインがEとの解離定数KD値10-9~10-8Mを有する、多重特異性抗原結合分子。
【請求項2】
(i)前記第1の抗原結合ドメインを含む第1の結合アームと、(ii)前記第2の抗原結合ドメインを含む第2の結合アームとを含む、請求項1に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項3】
二重特異性抗原結合分子である、請求項1または2に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項4】
10-9より高く10-8Mより低い、Eとの解離定数KD値を、前記第2の抗原結合ドメインが有する、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項5】
前記第2の抗原結合ドメインが、Eとの解離定数KD値2.0×10-9~9.0×10-9Mを有する、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項6】
前記第2の抗原結合ドメインが、Eとの解離定数KD値2.0×10-9~7.3×10-9Mを有する、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項7】
Eが、細胞表面に発現する分子であり、該分子が該細胞へ内部移行する、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項8】
前記標的分子(T)の存在下でのみ、Eとの結合によって前記細胞へ内部移行する、請求項7に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項9】
前記第1のドメインが前記標的分子(T)と特異的に結合した場合にのみ、前記多重特異性抗原結合分子がEとの結合によって前記細胞へ内部移行する、請求項7または8に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項10】
Eと結合すると、Tを発現しない細胞と比較してより効率的に、Tを発現する細胞へ内部移行する、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項11】
Tと結合すると、Eを発現しない細胞と比較してより効率的に、Eを発現する細胞へ内部移行する、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項12】
Eと結合すると、Tを発現する細胞中のリソソーム区画へ輸送される、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項13】
Eと結合すると、Tを発現しない細胞と比較してより効率的に、Tを発現する細胞中のリソソーム区画へ輸送される、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項14】
Tと結合すると、Eを発現しない細胞と比較してより効率的に、Eを発現する細胞中のリソソーム区画へ輸送される、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項15】
Eが、CD63、MHC-I、クレメン(Kremen)1、クレメン2、LRP5、LRP6、トランスフェリン受容体、LDLr、MAL、V-ATPアーゼ、およびASGRからなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項16】
EがCD63である、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項17】
Eが、Eと細胞表面に発現する内部移行性の受容体分子との間の相互作用によって細胞へ内部移行する可溶性リガンドである、請求項1~6のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項18】
Tが、細胞表面に発現する標的分子である、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項19】
Tが腫瘍関連抗原である、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項20】
TがHER2である、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項21】
前記第1の抗原結合ドメインおよび/または前記第2の抗原結合ドメインが、少なくとも1個の抗体可変領域を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項22】
多重特異性抗体、好ましくは二重特異性抗体であるか、または、多重特異性の、好ましくは二重特異性の、それらの抗体断片もしくは組換え改変部分である、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項23】
前記第1の抗原結合ドメインを含む第1の結合アームと前記第2の抗原結合ドメインを含む第2の結合アームとを含む二重特異性抗体である、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項24】
前記第1の抗原結合ドメインが、第1の重鎖可変配列(VH)および第1の軽鎖可変配列(VL)を含み、かつ前記第2の抗原結合ドメインが、第2の重鎖可変配列(VH)および第2の軽鎖可変配列(VL)を含み、かつ該可変配列が各々、3つのCDR配列であるCDR1、CDR2、およびCDR3を含む、請求項23に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項25】
(i)前記第1の結合アームが、第1の重鎖可変配列(VH)と第1の重鎖定常配列(CH)とを含む第1の重鎖、および第1の軽鎖可変配列(VL)と第1の軽鎖定常配列(CL)とを含む第1の軽鎖を含み、かつ(ii)前記第2の結合アームが、第2の重鎖可変配列(VH)と第2の重鎖定常配列(CH)とを含む第2の重鎖、および第2の軽鎖可変配列(VL)と第2の軽鎖定常配列(CL)とを含む第2の軽鎖を含む、請求項23または24に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項26】
前記第1の結合アームが、キメラ抗体にまたはヒト化抗体にまたはヒト抗体に由来する、請求項23~25のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項27】
前記第2の結合アームが、キメラ抗体にまたはヒト化抗体にまたはヒト抗体に由来する、請求項23~26のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項28】
二重特異性抗体であり、該二重特異性抗体が、全長抗体、好ましくはIgG1抗体である、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項29】
前記第2の抗原結合ドメインが、Eとの該第2の抗原結合ドメインの親和性をモジュレートする1個または複数個の変異を有する、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項30】
前記第2の抗原結合ドメインが、Eとの該第2の抗原結合ドメインの親和性をモジュレートする1個または複数個の変異をVH中および/またはVL中に有する抗体に由来する、請求項29に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項31】
前記変異が、1アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸ヒスチジン置換である、請求項30に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項32】
前記第2のドメインが、
a. それぞれSEQ ID NO:2、3、および4に提供されるVH CDR 1、2、および3、ならびに、それぞれSEQ ID NO:9、7、および8に提供されるVL CDR 1、2、および3、または
b. それぞれSEQ ID NO:2、10、および4に提供されるVH CDR 1、2、および3、ならびに、それぞれSEQ ID NO:6、7、および8に提供されるVL CDR 1、2、および3、または
c. それぞれSEQ ID NO:2、11、および4に提供されるVH CDR 1、2、および3、ならびに、それぞれSEQ ID NO:6、7、および8に提供されるVL CDR 1、2、および3、または
d. それぞれSEQ ID NO:2、12、および4に提供されるVH CDR 1、2、および3、ならびに、それぞれSEQ ID NO:6、7、および8に提供されるVL CDR 1、2、および3
を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項33】
前記第2の結合ドメインが、それぞれSEQ ID NO:2、12、および4に提供されるVH CDR 1、2、および3、ならびに、それぞれSEQ ID NO:6、7、および8に提供されるVL CDR 1、2、および3を含む、請求項32に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項34】
前記第1の抗原結合ドメインおよび前記第2の抗原結合ドメインが各々、抗体重鎖可変ドメインと抗体軽鎖可変ドメインの対である、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項35】
腫瘍関連標的(T)×CD63二重特異性抗体である、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項36】
HER2×CD63二重特異性抗体である、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項37】
HER2を発現する細胞などの腫瘍関連標的(T)を発現する細胞との結合について、5.0μg/ml未満、例えば0.5μg/ml未満などの、フローサイトメトリーによって決定されたEC50値を有する、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項38】
KDが30℃でバイオレイヤー干渉法によって決定される、前記請求項のいずれかに一項記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項39】
(i)第1の重鎖定常配列(CH)を含む第1の重鎖を含み、該第1のCHが第1のCH3領域を含む、第1の結合アームと、
(ii)第2の重鎖定常配列(CH)を含む第2の重鎖を含み、該第2のCHが第2のCH3領域を含む、第2の結合アームと
を含む二重特異性抗体であり、
該第1のCH3領域の配列および該第2のCH3領域の配列が異なっており、かつ、これらの配列が、該第1の結合アームおよび該第2の結合アームの各々のホモ二量体相互作用よりも該第1の結合アームと該第2の結合アームとの間のヘテロ二量体相互作用の方が強力であるような配列である、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項40】
前記第1の重鎖 CH3領域において、ヒトIgG1重鎖の位置T366、L368、K370、D399、F405、Y407、またはK409に対応する位置のアミノ酸のうちの少なくとも1個が置換されており、かつ前記第2の重鎖 CH3領域において、ヒトIgG1重鎖の位置T366、L368、K370、D399、F405、Y407、またはK409に対応する位置のアミノ酸のうちの少なくとも1個が置換されており、かつ該第1の重鎖および該第2の重鎖が、同一の位置においては置換されておらず、かつアミノ酸位置が、EUインデックスに従ってナンバリングされている、請求項39に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項41】
(i)前記第1のCH3領域がF405L置換を有しかつ前記第2のCH3領域がK409R置換を有するか、または(ii)該第1のCH3領域がK409R置換を有しかつ該第2のCH3領域がF405L置換を有する、請求項40に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項42】
細胞傷害性部分に、放射性同位体に、または薬物にコンジュゲートされている、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項43】
前記細胞傷害性部分が、マイタンシン、カリチアマイシン、デュオカルマイシン、デュオスタチン(duostatin)、デュオスタチン3、デュオスタチン5、ラケルマイシン(rachelmycin)(CC-1065)、アウリスタチン(auristatin)、モノメチルアウリスタチンE、モノメチルアウリスタチンF、ドキソルビシン、ドラスタチン、ピロロベンゾジアゼピン、IGNに基づく毒素、αアマニチン、またはそれらのいずれかの類似体、誘導体、もしくはプロドラッグからなる群より選択される、請求項42に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項44】
前記多重特異性抗原結合分子によるTおよびEの結合が、T単独の結合より大きい程度に該多重特異性抗原結合分子の内部移行を誘導する、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項45】
タンデムscFv、タンデムscFv-Fc、scFv-Fcノブ・イントゥ・ホール(knob-into-hole)、scFv-Fc-scFv、F(ab')2、Fab-scFv、(Fab'scFv)2、ダイアボディ(Diabody)、scダイアボディ、scダイアボディ-Fc、scダイアボディ-CH3、またはアジメトリック足場(azymetric scaffold)である、前記請求項のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子の二重特異性抗体断片。
【請求項46】
がんを処置および/または予防するための方法において使用するための、請求項1~44のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子または請求項45に記載の二重特異性抗体断片。
【請求項47】
前記がんが、子宮内膜/子宮頸がん、肺がん、悪性黒色腫、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、精巣がん、滑膜肉腫などの軟部腫瘍、乳がん、脳腫瘍、白血病、リンパ腫、マスト細胞腫、腎臓がん、子宮頚がん、膀胱がん、食道がん、胃がん、または結腸直腸がんである、請求項46に記載の使用のための多重特異性抗原結合分子。
【請求項48】
前記多重特異性抗原結合分子を対象へ投与する工程を含む、該対象における腫瘍を標的とする方法
において使用するための、請求項1~44のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
【請求項49】
請求項1~44のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子を活性成分として含む、薬学的組成物。
【請求項50】
それを必要とする対象へ、請求項1~44のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子または請求項49に記載の薬学的組成物を投与する工程を含む、疾患の処置の方法。
【請求項51】
請求項1~44のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子をコードする、核酸。
【請求項52】
原核宿主細胞株または真核宿主細胞株において前記核酸を発現することができる、請求項51に記載の核酸を含有している発現ベクター。
【請求項53】
請求項52に記載のベクターを含む、原核宿主細胞株または真核宿主細胞株。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、多重特異性抗原結合分子、該多重特異性抗原結合分子を含む組成物、および疾患の処置における該多重特異性抗原結合分子の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
最初のモノクローナル抗体の開発以来、ヒトの治療のための抗体のさらなる最適化に研究が向けられてきた。最初のモノクローナル抗体は、マウスおよびラットが起源であった。抗体テクノロジーの発展は、減少した免疫原性リスクプロファイルを有するヒト化抗体およびヒト抗体の利用可能性をもたらした。遺伝学的および化学的な改変は、増大した治療可能性を有するより強力な抗体の開発をもたらしている。これには、最適化されたFcによって媒介されるエフェクター機能を有する抗体、または最適化された結合特性を有する抗体、または傷害性分子とのコンジュゲーションを通して最適化された抗腫瘍活性を有する抗体(抗体薬物コンジュゲート)が含まれる。
【0003】
抗体薬物コンジュゲート(ADC)は、抗体によって媒介される腫瘍ターゲティングを毒素の細胞傷害活性と組み合わせるので、がんの処置のための強力な治療薬として台頭してきている。ADCは、細胞傷害性のペイロードまたは薬物に連結された抗体(例えば、モノクローナル抗体、単鎖可変断片[scFv]、または二重特異性抗体)を含む。腫瘍関連抗原に対する抗体によって細胞傷害性薬物を腫瘍へ差し向けることの利点は、コンジュゲートされていない細胞傷害性薬物と比べて治療域が改善され得るという点である。これは、増大した有効性を有する細胞傷害性ペイロードの適用を可能にする。
【0004】
現在、再発ホジキンリンパ腫および再発sALCLの処置のためのブレンツキシマブベドチン(Adcetris)、ならびに別々にまたは組み合わせてトラスツズマブおよびタキサンを以前に受容したことがあるHER2陽性転移性乳がん患者の処置のためのトラスツズマブエムタンシン(Kadcyla)という2種類のADCが、治療的使用のために既に承認されている。さらに、50種類を超える異なるADCが、現在、臨床評価中である。多くのケースにおいて、ADCは、標的細胞への毒素がコンジュゲートされた抗体分子の内部移行に頼って、それらのペイロードを放出してその後の細胞傷害を誘導する。臨床開発中の大部分のADCは、循環血中では安定しており、抗原/ADC複合体の内部移行およびリソソームプロセシングの後に細胞傷害性ペイロードを放出するよう設計されている。
【0005】
しかしながら、抗原および抗体によって媒介される内部移行のための要件は、適切なADC標的の数を制限している。多くの腫瘍関連抗原は、十分に内部移行しないか、または十分にリソソームへ移行せず、従って、ADCに基づく治療薬のための有望な候補標的とはなっていない。また、多くのケースにおいて、ADCの細胞内プロセシングは非効率的である。内部移行の後、トランスフェリン、HER2、細胞接着分子L1、およびインテグリンのような受容体は、エンドソーム区画から細胞膜へ戻り連続的に再利用される。従って、ADCによる最大死滅活性を達成するためには、高い抗原代謝回転、リソソームへの効率的な移動、および高度に傷害性のペイロードが必要とされる。
【0006】
ADCの内部移行、リソソームターゲティング、腫瘍内および細胞内でのプロセシングを増強するための方法を、ADCの腫瘍細胞死滅活性を増強するために使用することができる。認識される特異的エピトープは、内部移行およびリソソーム移行に影響を及ぼし得るため、ADC活性を最適化する一つのアプローチは、腫瘍関連標的上の特異的エピトープの選択による。例えば、ヘテロ二量体形成を介して他のErbB分子にHER2を載せることによって増強された内部移行を可能にするHER2-ADCを選択することによって、HER2-ADCの有効性が向上し得ることが以前に示されている。これは、HER2を高発現する腫瘍細胞および低発現する腫瘍細胞の両方に対するADCの送達および腫瘍細胞死滅能力を増大させるための魅力的な戦略を提供する。
【0007】
一般に、ADCの効率的な内部移行、およびタンパク質分解が起こり得るリソソームへのその後の移行が、好ましい。しかしながら、腫瘍細胞上の多くの細胞表面タンパク質および炭水化物構造について、これらの過程の大きさは、ADCによる十分に強力な細胞死滅を可能にするために不十分である。
【0008】
国際特許出願WO2013/138400(特許文献1)は、IL-4RまたはSOSTのような標的抗原と特異的に結合する第1のドメインと、内部移行性エフェクタータンパク質と特異的に結合する第2のドメインとを有する多重特異性抗体を記載している。標的抗原が腫瘍関連抗原である場合、多重特異性抗体による腫瘍関連抗原および内部移行性エフェクタータンパク質の結合は、腫瘍細胞の標的型の死滅を容易にする。
【0009】
腫瘍関連標的に対する単一特異性抗原結合分子と比べて内部移行能力が増大している二重特異性または多重特異性の抗原結合分子を提供することが、本発明の目的である。
【0010】
腫瘍関連標的に対する単一特異性抗体薬物コンジュゲート分子と比べて内部移行能力が増大している二重特異性または多重特異性の抗体薬物コンジュゲート分子を提供することが、本発明の別の目的である。
【0011】
腫瘍細胞における増大した内部移行、リソソームターゲティング、および/または細胞内プロセシングを有するADCを提供することが、本発明の別の目的である。
【0012】
腫瘍細胞に対する増大した細胞傷害および/またはより少ない副作用を有するADCを提供することが、本発明の別の目的である。
【0013】
増大した治療域を有するADCを提供することが、本発明の別の目的である。
【0014】
不十分に内部移行するかまたは不十分にリソソームへ移行する腫瘍関連抗原に対して有効なADCの生成を可能にすることが、本発明の別の目的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】WO2013/138400
【発明の概要】
【0016】
第1の局面において、本発明は、第1の抗原結合ドメインと第2の抗原結合ドメインとを含む多重特異性抗原結合分子に関し、第1のドメインが標的分子(T)と特異的に結合し、かつ第2のドメインが内部移行性エフェクタータンパク質(E)と特異的に結合し、かつ第2の抗原結合ドメインがEとの解離定数KD 10-9~10-8Mを有する。
【0017】
第2の抗原結合ドメインの特異的な親和性の範囲が、本発明の多重特異性抗原結合分子に驚くほど有益な特質を授与することが、本発明者らによって見出された。第2の抗原結合ドメインは、特異的な結合親和性の範囲内で、容易に多重特異性分子の内部移行を誘導し、薬物がコンジュゲートされた多重特異性分子の細胞傷害を誘導することが見出される。これは、第1のドメインが、例えば、HER2のような腫瘍関連抗原と特異的に結合する場合に特に当てはまる。同時に、第2の抗原結合ドメインは、第1の結合ドメインの結合がない場合には、特異的な結合親和性の範囲内で、(ADCの文脈の中で用いられた場合)限定された内部移行および細胞傷害しか発揮しない、即ち、腫瘍関連標的(T)の非存在下では、内部移行性エフェクタータンパク質(E)を発現する細胞において驚くほど低い細胞傷害を示す。従って、本発明の多重特異性抗原結合分子は、非腫瘍細胞における最小の内部移行、リソソーム移行、および毒素放出と共に、腫瘍細胞における結合、内部移行、リソソーム移行、および毒素放出を示す。
【0018】
本発明の多重特異性抗原結合分子は、一般的には内部移行しないかまたは不十分に内部移行する腫瘍抗原の利用可能性を可能にし、それによって、可能性のあるADC標的のプールを大いに増強することも、本発明者らによって見出された。
【0019】
別の局面において、本発明は、多重特異性抗原結合分子に関し、該多重特異性抗原結合分子が、細胞傷害性部分、放射性同位体、薬物、サイトカイン、またはRNAサイレンシングビヒクルにコンジュゲートされる。他の局面において、本発明は、がんを処置および/または予防するための方法における多重特異性抗原結合分子の使用に関し、かつ、対象における腫瘍を標的とする方法における多重特異性抗原結合分子の使用に関し、該腫瘍を標的とする方法は多重特異性抗体またはADCを対象へ投与する工程を含む。
【0020】
他の局面において、本発明は、多重特異性抗原結合分子を活性成分として含む薬学的組成物、多重特異性抗原結合分子をコードする核酸、核酸を含有しており、適宜、単一または複数の原核宿主細胞株または真核宿主細胞株において核酸を発現することができる発現ベクター、およびベクターを含む原核宿主細胞株または真核宿主細胞株に関する。
【0021】
定義
結合、親和性、およびK D
「結合」という用語は、本明細書において使用されるように、例えば、約10-8Mまたはそれ未満のKD値に相当する結合親和性での、抗体のような抗原結合分子の、予め決定された抗原または標的との結合をさす。
【0022】
当業者は、親和性および平衡解離定数KDの概念に精通しているであろう。解離定数KDは、バイオレイヤーによって測定され得る。
【0023】
KD値は、抗原結合分子、例えば、抗体を、固定化されたリガンドとして使用し、抗原を分析物として使用し、Octet HTX機においてバイオレイヤー干渉法(BLI)によって決定され得る。
【0024】
KD(M)とは、多重特異性抗原結合分子と抗原との間の特定の相互作用、好ましくは、抗体分子の単一の結合アームと抗原との間の相互作用の解離平衡定数をさし、kdをkaで割ることによって入手され得る。「kd」(秒-1)という用語は、本明細書において使用されるように、多重特異性抗原結合分子と抗原との間の特定の相互作用の解離速度定数をさす。この値は、kdis値、koff値、またはオフ速度とも呼ばれる。「ka」(M-1×秒-1)という用語は、本明細書において使用されるように、多重特異性抗原結合分子と抗原との間の特定の相互作用の会合速度定数をさす。この値は、kon値またはオン速度とも呼ばれる。
【0025】
抗体
本明細書において使用されるように、本発明の文脈の中での「抗体」(Ab)という用語は、抗原との抗体結合に関連した生理学的応答を誘導し、促進し、増強し、かつ/またはモジュレートするため、適切な機能的に定義された期間、典型的な生理学的条件の下で、抗原と特異的に結合する能力を有し、好ましくは、二重特異性抗体の場合のように2種類の異なる抗原に二重に結合する、免疫グロブリン分子、免疫グロブリン分子の断片、またはそれらのいずれかの誘導体をさす。
【0026】
免疫グロブリン分子(重鎖および/もしくは軽鎖または重鎖のみのいずれか)の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有している。抗体(Ab)の定常領域は、FcRnとの免疫グロブリンの結合を媒介することができる。抗体は、以下に限定されるわけではないが、DuoBody分子、タンデムscFv、タンデムscFv-Fc、ノブ・イントゥ・ホール(knob-into-hole)IgG、scFv-Fcノブ・イントゥ・ホール、scFv-Fc-scFv、F(ab')2、Fab-scFv、(Fab'scFv)2、ダイアボディ(Diabody)、scダイアボディ、scダイアボディ-Fc、もしくはscダイアボディ-CH3、トリオマブ(Triomab)、kih IgG共通LC、CrossMab、DVD-Ig、2イン1-IgG、IgG-scFv、バイナノボディ(bi-Nanobody)、BiTE、TandAb、DART、DART-Fc、scFv-HSA-scFv、orthoFab-IgG、4価Tv-IgG、DNL-Fab3のようなドックアンドロック(dock-and-lock)(DNL)フォーマット、およびアジメトリック足場(Azymetric scaffold)、または類似した分子のような二重特異性または多重特異性の抗体であってもよい。
【0027】
前述のように、抗体という用語には、本明細書において、そうでないことが明記されるかまたは前後関係によって明白に否定されない限り、抗原結合断片である、即ち、抗原と特異的に結合する能力を保持している抗体の断片が含まれる。抗体の抗原結合機能が全長抗体の断片によって実施され得ることが示されている。「抗体」という用語に包含される抗原結合断片の例には、(i)Fab'断片もしくはFab断片、VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン、およびCH1ドメインからなる一価断片、またはWO2007059782に記載される一価抗体(Genmab);(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2個のFab断片を含む二価断片である、F(ab')2断片;(iii)VHドメインおよびCH1ドメインから本質的になる、Fd断片;(iv)抗体の単一ドメインのVLドメインおよびVHドメインから本質的になる、Fv断片、(v)VHドメインから本質的になりかつドメイン抗体とも呼ばれる、dAb断片;(vi)ラクダ科(camelid)またはナノボディ、ならびに(vii)単離された相補性決定領域(CDR)が含まれる。さらに、Fv断片の2個のドメインVLおよびVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、(単鎖抗体または単鎖Fv(scFv)としても公知の)一価分子を形成するようVL領域およびVH領域が対合した単一のタンパク質鎖として作製されることを可能にする合成リンカーによって、組換え法を使用して、接合され得る。そうでないことが述べられるかまたは前後関係によって明白に示されない限り、そのような単鎖抗体は、抗体という用語に包含される。本発明の文脈の中でのこれらおよびその他の有用な抗体断片、ならびにそのような断片の二重特異性フォーマットは、本明細書中にさらに記述される。そうでないことが明示されない限り、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)、抗体様ポリペプチド、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、ならびに酵素的切断、ペプチド合成、および組換え技術のような公知の技術によって提供される、抗原と特異的に結合する能力を保持している抗体断片(抗原結合断片)も、抗体という用語に含まれることも理解されるべきである。生成される抗体は、任意のアイソタイプを保有していてよい。
【0028】
本明細書において使用されるように、「アイソタイプ」とは、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる免疫グロブリン(サブ)クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgD、IgA、IgE、またはIgM)をさす。
【0029】
「一価抗体」という用語は、本発明の文脈の中では、抗体分子が1個の抗原分子としか結合することができないことを意味する。
【0030】
「二価抗体」という用語は、本発明の文脈の中では、抗体分子が特異的抗原のための2個の結合ドメインを含有しており、従って、1個または2個のその抗原分子と結合することができることを意味する。
【0031】
多重特異性抗体の生成
本発明の多重特異性抗体、具体的には、二重特異性抗体は、DuoBody(登録商標)テクノロジーとしても公知の、Labrijn et al., Efficient generation of stable bispecific IgG1 by controlled Fab-arm exchange,PNAS,vol.110,no.13,pp.5145-5150,March 2013、WO 2011/131746 A2、またはLabrijn et al. Controlled Fab-arm exchange for the generation of stable bispecific IgG1,Nat Protoc,2014 Oct;9(10):2450-63に記載されるような調節Fabアーム交換(FAE)を通して生成され得る。簡単に説明すると、このインビトロの方法においては、CH3領域と共に免疫グロブリンのFc領域をいずれも含む2種類の異なる抗体が提供され、それぞれのCH3領域の配列は、異なっており、対応する変異を含有している。その結果として、第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用は、第1および第2のCH3領域の各々のホモ二量体相互作用より強力である。抗体は、ヒンジ領域内のシステインがジスルフィド結合異性化を受けることを可能にし、調節Fabアーム交換によって二重特異性抗体を入手するため、還元条件の下でインキュベートされる。その後、ジスルフィド結合の酸化を可能にするため、(二重特異性抗体を含有している)混合物から還元剤が除去される。CH3領域の配列は、対応する変異、即ち、2個のCH3領域の異なる位置における変異、好ましくは、一方のIgG1分子のCH3領域の405位における変異および他方のIgG1分子のCH3領域の409位における変異を含有している。多重特異性抗体は、以下に限定されるわけではないが、タンデムscFv、タンデムscFv-Fc、ノブ・イントゥ・ホールIgG、scFv-Fcノブ・イントゥ・ホール、scFv-Fc-scFv、F(ab')2、Fab-scFv、(Fab'scFv)2、ダイアボディ、scダイアボディ、scダイアボディ-Fc、もしくはscダイアボディ-CH3、トリオマブ、kih IgG共通LC、CrossMab、DVD-Ig、2イン1-IgG、IgG-scFv、バイナノボディ、BiTE、TandAb、DART、DART-Fc、scFv-HSA-scFv、orthoFab-IgG、4価Tv-IgG、DNL-Fab3のようなドックアンドロック(DNL)フォーマット、およびアジメトリック足場、または類似した分子のようなその他のテクノロジーおよびフォーマットを使用して生成されてもよい。
【0032】
多重特異性抗原結合分子の内部移行の誘導
多重特異性抗原結合分子によるTおよびEの両方の結合は好ましくは、標的T単独との結合によるよりも大きい程度に、本発明の多重特異性抗原結合分子の内部移行を誘導し、薬物がコンジュゲートされた本発明の多重特異性抗体の細胞傷害も誘導する。例えば、多重特異性抗原結合分子によるTおよびEの結合、好ましくは、同時結合によって誘導される内部移行は、Tとの結合のみを含有しておりEとの結合は含有していない対照構築物の存在下で測定される内部移行のレベルより、10%超、例えば、20%超、30%超、40%超、50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、100%超、110%超、150%超、200%超、300%超、400%超、500%超、750%超、1000%超、2000%超、または5000%超、高くなり得る。
【0033】
本発明の多重特異性抗原結合分子が、第1のドメイン単独による標的分子(T)の結合より大きい程度に、多重特異性抗原結合分子の内部移行を増強するか否かの決定の非限定的な例は、後述される実施例5および8の共局在アッセイまたは実施例9のHER2ダウンモジュレーションアッセイにおいて示される。これらの実施例において、TはHER2であり、EはCD63である。増強された内部移行の概念に関しては、実施例13および14において、標的(T)としてインテグリンβ1(CD29)を使用し、増強された内部移行を誘導する内部移行性エフェクタータンパク質(E)としてCD63を使用して、多重特異性抗体の増強された内部移行が証明される。
【0034】
本発明者らは、特に、EがCD63である場合、第2の抗原結合ドメインの特異的な親和性の範囲が、本発明の二重特異性抗原結合分子に、驚くほど有益な特質を授与することを見出した。特に、第1のドメインが、例えば、HER2のような腫瘍関連抗原と特異的に結合する場合、抗原結合ドメインのEとの一価結合は、解離定数KD 10-9~10-8Mという特異的な親和性の範囲で、二重特異性抗体の内部移行および薬物がコンジュゲートされた二重特異性抗体の細胞傷害を容易に誘導する。さらに、Eのみが存在し、腫瘍関連標的抗原(T)が存在しない時、第2の抗原結合ドメインは、この特異的な親和性の範囲内で、多重特異性抗原結合分子の内部移行および薬物がコンジュゲートされた多重特異性抗体の細胞傷害に対して限定された寄与しか発揮しない、即ち、腫瘍標的(T)の非存在下では、内部移行性エフェクタータンパク質(E)を発現する細胞において、驚くほど低い細胞傷害を示すかまたは細胞傷害を示さない。従って、本発明の多重特異性抗原結合分子は、非腫瘍細胞における最小の内部移行と共に、腫瘍細胞における結合、内部移行、リソソーム蓄積を示す。
【0035】
CD63
表面抗原分類63(CD63、Uniprot ID P08962)分子は、リソソーム関連膜糖タンパク質3(LAMP-3)としても公知である。CD63は、血小板糖タンパク質40(Pltgp40)、黒色腫抗原ME491もしくはMLA1、眼黒色腫関連抗原(OMA81H)、テトラスパニン30(TSPAN30)、グラニュロフィシン(granulophysin)、またはリソソーム膜内在性タンパク質1(LIMP-1)としても公知である。CD63は、テトラスパニンスーパーファミリーのメンバーであり、広範に発現する。CD63遺伝子は、ヒト染色体12q13に位置しており、最初の特徴決定されたテトラスパニンであった。最初、CD63は、Pltgp40として公知の、活性化血小板の細胞表面上に存在するタンパク質として発見され、また、初期ヒト黒色腫細胞においても発見され、そこではME491として公知であった。
【0036】
CD63は、多くの細胞型において発現する。とりわけ、CD63は、休止期の血小板および好塩基球のリソソーム、エンドソーム、顆粒において細胞内に発現する。CD63の細胞表面発現は、活性化された好塩基球および血小板、単球、マクロファージ、ならびに顆粒球において検出され得る。CD63は、内皮細胞、線維芽細胞、骨芽細胞、神経組織、黒色腫細胞、平滑筋細胞、およびマスト細胞においても発現する。CD63は、細胞膜と細胞内区画との間を往復することが記載されている。
【0037】
CD63の主要なプールは、エンドソームおよびリソソームのような細胞内区画に存在するが、細胞表面上にもいくらかの発現が見出され得る。CD63は、典型的には、エンドシトーシスを通して、他のタンパク質の輸送を制御することが記載されている。さらに、CD63は、リソソーム分解のための酵素を標的とすることによって、膜1型マトリックスメタロプロテイナーゼの表面発現を制御することが記載されており、内皮細胞におけるCD63のサイレンシングは、リガンドVEGFに応答して起こる血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2)の内部移行を防止する。また、異なる腫瘍型において、CD63は、細胞膜とリソソームとの間を連続的に往復することが証明されており、それはAP2およびクラスリンの存在に依存していた。従って、CD63は、内部移行およびリソソーム送達を容易にするための魅力的な抗原であると考えられ、その特色は、単独では十分に内部移行せずかつ/またはリソソームを往復しない腫瘍抗原を標的とするある種の抗体薬物コンジュゲート(ADC)の有効性を増強するために適している。
【0038】
CD63は、初期黒色腫細胞において豊富に発現する表面抗原として最初に発見されたが、CD63発現は、腫瘍特異的な発現を示さない。CD63細胞表面発現は、悪性黒色腫の進行中に低下し、そのことは、CD63の細胞表面発現と腫瘍の侵襲性との間の逆相関を示している。
【0039】
腫瘍関連抗原
腫瘍関連抗原は、(ある種の)腫瘍細胞の表面上に発現し、正常細胞においてはより少ない程度に表面発現が見出される抗原である。本明細書において使用されるように、「腫瘍関連抗原」という用語は、腫瘍細胞の(外)表面に優先的に発現する、タンパク質またはポリペプチドをさすのみならず、炭水化物、糖タンパク質、脂質、リポタンパク質、リポ多糖、またはその他の非タンパク質ポリマーもさす。「優先的に発現する」という用語は、この文脈の中で使用されるように、非腫瘍細胞における抗原の発現レベルより、少なくとも10%、例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも110%のようなである、少なくとも150%、少なくとも200%、少なくとも300%、少なくとも400%、少なくとも500%、少なくとも750%、少なくとも1000%、少なくとも2000%、または少なくとも5000%大きいレベルで、抗原が腫瘍細胞において発現することを意味する。腫瘍関連抗原は、腫瘍細胞によって合成された任意のタンパク質、糖タンパク質、またはその他の高分子に由来し得る。
【0040】
腫瘍関連抗原は、異なる抗原のクラスに分類され得る:(1)MAGEファミリー、BAGEファミリー、GAGEファミリー、NY-ESOファミリー、およびBORISファミリーからの抗原を含む、精巣またはいくつかの腫瘍において通常発現し正常組織においては発現しないクラスI HLA拘束性がん精巣抗原;(2)MART-1、gp100、PSA、チロシナーゼ、TRP-1、およびTRP-2のようなメラノサイト分化抗原を含むクラスI HLA拘束性分化抗原;(3)CEA、HER2/neu、hTERT、MUC1、MUC2、およびWT1を含む、異なるレベルで正常組織および腫瘍組織の両方において発現する抗原または改変された翻訳産物である広く発現する抗原;(4)βカテニン、αフェトプロテイン、MUM、RAGE、SART等を含む正常遺伝子の変異から発生する特有の抗原である腫瘍特異抗原;(5)HPV、EBVのようなウイルス抗原;ならびに(6)Bcr-Ablのような、腫瘍細胞によって排他的に発現する新しいタンパク質をもたらす、欠失、転座、反転、または重複のような染色体再編成によって作出されるタンパク質である融合タンパク質。
【0041】
腫瘍関連抗原の好ましい例には、5T4、A33、アクチビン受容体、アドレノメデュリン受容体、AFP、AGS-5、ALK、アネキシン、AXL、B7-H3、B7-H4、BAGEタンパク質、BCMA、ボンベシン、C33抗原、C4.4a、C型レクチン様(受容体)、CA19.9、CA-125、CADM1、CAIX、CanAg、CAR、炭酸脱水酵素、カベオリン1、CCK2R、CD4、CD10、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD27、CD30、CD33、CD37、CD38、CD44、CD51、CD57、CD70、CD73、CD74、CD79a、CD79b、CD80、CEA、CEACAM、c-kit、クローディン、ケモカイン受容体(即ち、CXCR4、CXCR5)、c-Met、Cripto-1、DEC-205、デルリン(Derlin)1、デスモグレイン3、Dlk-1、DLL3、DS6、Eカドヘリン、Eセレクチン、EAG-1、ED-B、EpCAM、EGFR、EGFRvIII、エンプリン(emmprin)、エンドセリン受容体、ErbB2/Her2、ErbB3、ErbB4、ETV6-AML、エフリンA型受容体、エピレギュリン、ETA、FAPα、FcyR、FGFR、FOLR1、フリズルド(Frizzled)、Fyn3、ガレクチン、ガングリオシド、GCC、GD2、GD3、グロボ(Globo)H、リピカン(lypican)3、GLUT3、GPNMB、Gタンパク質共役型受容体(即ち、GPR49)、gp100、Hsp、HLA/B-raf、HLA-DR、HLA/k-ras、HLA MAG E-A3、HMW-MAA、hTERT、ICAM-3、IGF-R、IL-13-R、L1CAM、ラミニン受容体、LIV1、LMP2、LRP5、LRP6、MAGEタンパク質、MART-1、メラノトランスフェリン、メソテリン、メタロプロテイナーゼ、ML-IAP、ムチン、Mud、Mud 6(CA-125)、MU M1、Nカドヘリン、NA17、NCAM-1、ネクチン4、ノッチ、NP-55、NRP1、NY-BR1、NY-BR62、NY-BR85、NY-ES01、PLAC1、PRLR、PRAME、プロミニン1、PSMA(FOLH 1)、RON、SLC44A4、SLITRK6、Steap-1、Steap-2、サバイビング(surviving)、シンデカン、TAG-72、TF、TGFβ、TMPRSS2、TMEFF2、TNFR、Tn、TROP2、TRP-1、TRP-2、TWEAKR、チロシナーゼ、ウロプラキン3、およびVEGFRが含まれる。
【0042】
腫瘍関連抗原の好ましい例には、エンドシトーシスの後に細胞膜に戻り再利用されることが多く、リソソーム分解へとターゲティングされる画分はごくわずかである、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型タンパク質(即ち、グリピカンファミリー、uPAR、葉酸結合受容体、プロスタシン、FcgRIIIb[CD16b]、アルカリホスファターゼ、アセチルコリンエステラーゼ、5'ヌクレオチダーゼ[p36]、Cripto、LFA-3[CD58]、DAF[CD55]、Thy-1[CD90]、Qa-2、Ly-6A、およびMIRL[CD59])、接着分子(即ち、セレクチン、L1CAM、N-CAM、LRP1、TAG1、カドヘリン)のような、高度に過剰発現するが十分なリソソーム輸送を欠く腫瘍関連抗原が、含まれる。
【0043】
腫瘍関連抗原の好ましい例には、低コピー数でbsADCの二価結合を高めることができる、CD63と相互作用することが公知である腫瘍特異抗原が含まれる。例えば、CD63は、他のテトラスパニン(即ち、CD81、CD82、CD9、およびCD151)、インテグリン、MHCII、CXCR4、TM4SF5、シンテニン1、TIMP-1、H、K-ATPアーゼ、L6抗原、ならびにMT1-MMPと相互作用することが記載されている。
【0044】
腫瘍関連抗原の例には、ルイスY(CD174)、ルイスX(CD15)、SLeX、SLeA、sTn、フコシルGM1、グロボH、SSEA-3、GM2、GD2、GD3、ポリシアル酸、または糖タンパク質(即ち、ムチン)のような糖標的(glycotarget)の選択が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】ELISAによって測定された、組換えヒトCD63との抗CD63抗体の結合の用量応答曲線を示す。
図2】標識なしのバイオレイヤー干渉法によって測定された抗CD63抗体の親和性バリアントの親和性測定を示す。
図3】Colo205細胞における一価bsCD63N74H×b12-Duo3 ADCおよびbsHER2×CD63N74H-Duo3 ADCの細胞傷害を試験するための生存度アッセイの結果を示す。
図4】SK-OV-3細胞における一価bsCD63N74H×b12-Duo3 ADCおよびbsHER2×CD63N74H-Duo3 ADCの細胞傷害を試験するための生存度アッセイの結果を示す。
図5】HCC1954細胞における一価bsCD63N74H×b12-Duo3 ADCおよびbsHER2×CD63N74H-Duo3 ADCの細胞傷害を試験するための生存度アッセイの結果を示す。
図6】共焦点顕微鏡法によってSK-OV-3細胞において測定された一価bsCD63N74H×b12二重特異性分子のリソソーム共局在を示す。
図7】フローサイトメトリーによって決定された、SK-OV-3細胞とのbsHER2×CD63N74Hの結合を示す。
図8】顆粒球および紡錘細胞におけるFITCがコンジュゲートされたCD63抗体およびCD63親和性バリアント抗体の細胞内蓄積を示す。
図9】経時的に追跡されたSK-OV-3細胞におけるbsHER2×CD63N74Hのリソソーム共局在を示す。
図10】未処理の細胞と比較された、bsHER2×CD63N74Hとの3日間のインキュベーションの後にELISAによって定量化された、HER2の異なる発現レベルを有する腫瘍細胞株におけるHER2タンパク質の全量を示す。
図11】インビトロでのデュオスタチン(Duostatin)3がコンジュゲートされた二重特異性ADCの細胞傷害を試験するための生存度アッセイの結果を示す。
図12】SK-OV-3腫瘍異種移植片を皮下接種され、続いて、デュオスタチン3がコンジュゲートされた多重特異性ADCによって処理されたマウスにおける平均腫瘍サイズおよび無腫瘍生存率を示す。
図13】フローサイトメトリーによって査定された、SK-OV-3細胞とのbsβ1×CD63N74Hの結合を示す。
図14】SK-OV-3細胞におけるbsβ1×CD63N74Hのリソソーム共局在を示す。
図15】経時的に追跡されたSK-OV-3細胞におけるbsβ1×CD63N74Hのリソソーム共局在を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
発明の詳細な説明
一つの局面において、本発明は、第1の抗原結合ドメインと第2の抗原結合ドメインとを含む多重特異性抗原結合分子に関し、第1の抗原結合ドメインが標的分子(T)と特異的に結合し、かつ第2のドメインが内部移行性エフェクタータンパク質(E)と特異的に結合し、かつ第2の抗原結合ドメインがEとの解離定数KD値10-9~10-8Mを有する。
【0047】
本発明の多重特異性抗原結合分子の腫瘍特異性を提供するため、第1の抗原結合ドメインの非存在下では、内部移行性エフェクタータンパク質(E)と特異的に結合する第2のドメインは、有利には、結合しないかまたは低い親和性でのみ結合し、その後、内部移行しないかまたは少なくとも有意に少ない程度に内部移行する。第2の抗原結合ドメインがEとの解離定数KD値10-9~10-8Mを有する、多重特異性抗原結合分子は、これらの基準を満たすことが、本発明者らによって見出された。
【0048】
標的分子(T)、好ましくは、腫瘍関連標的分子は、タンパク質、ポリペプチド、脂質、またはその他の高分子であり得る。好ましい態様において、標的分子は、タンパク質である。別の態様において、標的分子、好ましくは、腫瘍関連標的分子は、ポリペプチドである。いくつかの態様において、Tは、細胞表面に発現する標的タンパク質または標的ポリペプチドである。他の態様において、Tは、可溶性の標的タンパク質または標的ポリペプチド、好ましくは、細胞表面受容体と相互作用するものである。多重特異性抗原結合分子による標的結合は、細胞外でまたは細胞表面上で起こってもよい。
【0049】
一つの態様において、標的分子は、細胞表面に発現する受容体である。好ましい態様において、標的分子は、チロシンキナーゼ受容体、好ましくは、膜貫通チロシンキナーゼ受容体である。別の態様において、標的分子は、膜結合型リガンドである。
【0050】
他の態様において、多重特異性抗原結合分子、好ましくは、二重特異性抗原結合分子は、細胞表面上でまたは細胞内でEに結合する。
【0051】
標的分子は、腫瘍に関連したタンパク質またはポリペプチドのような腫瘍関連抗原であることが、特に好ましい。有利には、腫瘍関連抗原は、通常、内部移行しないかまたは不十分に内部移行する抗原である。好ましくは、腫瘍関連抗原は、リソソーム区画への非効率的な移行を示す抗原である。
【0052】
内部移行性エフェクタータンパク質(E)は、腫瘍に関連したものまたは腫瘍特異的なものであり得る。他の態様において、内部移行性エフェクタータンパク質(E)は、腫瘍においても非腫瘍細胞においても発現するものであってもよい。
【0053】
内部移行性エフェクタータンパク質(E)は、細胞へ内部移行することができるタンパク質、または他の方法で内部移行に関与するかもしくは寄与するタンパク質である。いくつかの態様において、内部移行性エフェクタータンパク質は、経細胞輸送を受けるタンパク質である;即ち、タンパク質は、細胞の片側で内部移行し、細胞の反対側へ輸送される。好ましくは、内部移行性エフェクタータンパク質は、膜タンパク質、または膜結合型受容体に結合する可溶性細胞外タンパク質である。好ましい態様において、内部移行性エフェクタータンパク質は、細胞のリソソーム区画への効率的な移行を示すタンパク質である。
【0054】
内部移行性エフェクタータンパク質との第2のドメインの結合は、有利には、多重特異性抗原結合分子およびそれと会合した標的分子の細胞への内部移行をもたらす。好ましい態様において、内部移行性エフェクタータンパク質は、少なくとも1個の細胞外ドメインまたは細胞外領域を有する膜会合型タンパク質であり、内部移行し、好ましくは、細胞内分解経路および/または再利用経路を介してプロセシングされる。細胞へ直接内部移行する内部移行性エフェクタータンパク質の具体例には、例えば、CD63、MHC-I(例えば、HLA-B27)、クレメン(Kremen)1、クレメン2、LRP5、LRP6、LRP8、トランスフェリン受容体、LDL受容体、LDL関連タンパク質1受容体、ASGR1、ASGR2、アミロイド前駆タンパク質様タンパク質2(APLP2)、アペリン受容体(APLNR)、MAL(ミエリンリンパ球(Myelin And Lymphocyte)タンパク質、VIP17)、IGF2R、液胞型H+ATPアーゼ、ジフテリア毒素受容体、葉酸受容体、グルタミン酸受容体、グルタチオン受容体、レプチン受容体、スカベンジャー受容体(例えば、SCARA1-5、SCARB1-3、CD36)が含まれる。好ましい態様において、内部移行性エフェクタータンパク質Eは、細胞表面内部移行性受容体である。好ましい態様において、内部移行性エフェクタータンパク質Eは、CD63である。
【0055】
好ましい態様において、多重特異性抗原結合分子は、(i)第1の抗原結合ドメインを含む第1の結合アームと、(ii)第2の抗原結合ドメインを含む第2の結合アームとを含む。
【0056】
多重特異性抗原結合分子は、二重特異性抗原結合分子であることが、特に好ましい。
【0057】
本発明の一つの態様において、第2の抗原結合ドメインは、10-9Mより高く10-8Mより低い、Eとの解離定数KD値を有する。別の態様によると、第2の抗原結合ドメインは、Eとの解離定数KD 2.0×10-9~9.0×10-9Mを有する。別の態様によると、第2の抗原結合ドメインは、Eとの解離定数KD 2.0×10-9~7.3×10-9Mを有する。
【0058】
別の態様によると、Eは、細胞へ内部移行する、好ましくは、直接内部移行する、細胞表面に発現する分子である。好ましくは、多重特異性抗原結合分子は、標的分子(T)の存在下でのみ、Eとの結合によって、細胞へ内部移行する。第1のドメインが標的分子(T)と特異的に結合した場合にのみ、多重特異性抗原結合分子がEとの結合によって細胞へ内部移行することも好ましい。
【0059】
一つの態様において、多重特異性抗原結合分子は、Eと結合すると、Tを発現しない細胞と比較してより効率的に、Tを発現する細胞へ内部移行する。
【0060】
別の態様において、多重特異性抗原結合分子は、Tと結合すると、Eを発現しない細胞と比較してより効率的に、Eを発現する細胞へ内部移行する。
【0061】
別の態様において、多重特異性抗原結合分子は、Eと結合すると、Tを発現する細胞中のリソソーム区画へ輸送される。
【0062】
別の態様において、多重特異性抗原結合分子は、Eと結合すると、Tを発現しない細胞と比較してより効率的に、Tを発現する細胞中のリソソーム区画へ輸送される。
【0063】
別の態様において、多重特異性抗原結合分子は、Tと結合すると、Eを発現しない細胞と比較してより効率的に、Eを発現する細胞中のリソソーム区画へ輸送される。
【0064】
別の態様によると、Eは、CD63、MHC-I、クレメン1、クレメン2、LRP5、LRP6、トランスフェリン受容体、LDLr、MAL、V-ATPアーゼ、およびASGRからなる群より選択される。好ましい態様において、Eは、CD63である。
【0065】
別の態様によると、Eは、Eと細胞表面に発現する内部移行性の受容体分子との間の相互作用によって細胞へ内部移行する、可溶性リガンドである。
【0066】
別の態様によると、Tは、細胞表面に発現する標的分子である。特に好ましい態様において、Tは、腫瘍関連抗原である。従って、本発明の内部移行を増強する戦略は、腫瘍関連標的抗原を、CD63のような抗原の内部移行能力と組み合わせることを含み得る。具体的には、CD63および腫瘍関連標的の両方と結合する二重特異性抗体は、抗体薬物コンジュゲートの特異的ターゲティングおよび増強された内部移行が望まれる治療的な環境において有用であり得る。一つの態様によると、Tは、HER2である。
【0067】
別の態様によると、第1および/または第2の抗原結合ドメインは、少なくとも1個の抗体可変領域、好ましくは、少なくとも2個の抗体可変領域を含む。
【0068】
いくつかの態様によると、多重特異性抗原結合分子は、多重特異性抗体、好ましくは二重特異性抗体であるか、または、多重特異性の、好ましくは二重特異性の、それらの抗体断片もしくは組換え改変部分である。特に好ましい態様において、多重特異性抗原結合分子は、二重特異性抗体である。二重特異性抗体は、二重特異性抗体の一方のアームで結合することによって一方の抗原の内部移行増強特質を使用し、他方のアームで、腫瘍関連標的分子のような標的分子に結合するために用いられ得る。次いで、ADCの内部移行時に細胞死を誘導するため、そのような二重特異性抗体に細胞傷害性コンジュゲートを負荷することができる。
【0069】
一つの態様において、抗体は、(i)本明細書において定義される標的分子(T)と特異的に結合する第1の抗原結合ドメインを含む第1の抗体、および(ii)本明細書において定義される内部移行性エフェクタータンパク質(E)と特異的に結合する第2の抗原結合ドメインを含む第2の抗体を含む二重特異性抗体である。
【0070】
好ましい態様において、多重特異性抗原結合分子は、第1の抗原結合ドメインを含む第1の結合アームと第2の抗原結合ドメインを含む第2の結合アームとを含む、二重特異性抗体である。有利には、第1の抗原結合ドメインは、第1の重鎖可変配列(VH)および第1の軽鎖可変配列(VL)を含み、かつ第2の抗原結合ドメインは、第2の重鎖可変配列(VH)および第2の軽鎖可変配列(VL)を含み、かつ可変配列は各々、3つのCDR配列であるCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。
【0071】
好ましい態様において、(i)第1の結合アームは、第1の重鎖可変配列(VH)と第1の重鎖定常配列(CH)とを含む第1の重鎖、および第1の軽鎖可変配列(VL)と第1の軽鎖定常配列(CL)とを含む第1の軽鎖を含み、かつ(ii)第2の結合アームは、第2の重鎖可変配列(VH)と第2の重鎖定常配列(CH)とを含む第2の重鎖、および第2の軽鎖可変配列(VL)と第2の軽鎖定常配列(CL)とを含む第2の軽鎖を含む。
【0072】
別の態様によると、第1の結合アームは、キメラ抗体にまたはヒト化抗体にまたはヒト抗体に由来する。別の態様によると、第2の結合アームは、キメラ抗体にまたはヒト化抗体にまたはヒト抗体に由来する。従って、一つの態様において、第1の結合アームは、ヒト抗体に由来し、かつ第2の結合アームは、ヒト化抗体またはキメラ抗体に由来する。
【0073】
本発明の多重特異性抗原結合分子は二重特異性抗体であり、二重特異性抗体は、全長抗体、好ましくはIgG1抗体であることが、好ましい。
【0074】
好ましい態様において、本発明の多重特異性抗原結合分子は、単離されている。「単離された多重特異性抗原結合分子」とは、本明細書において使用されるように、異なる抗原特異性を有する他の抗原結合分子または抗体を実質的に含まない、二重特異性抗体のような多重特異性抗原結合分子をさすものとする。さらに、単離された多重特異性抗原結合分子は、他の細胞材料および/または化学物質を実質的に含まない。
【0075】
別の態様によると、第2の抗原結合ドメインは、Eとの第2の抗原結合ドメインの親和性をモジュレートする1個または複数個の変異を有する。別の態様において、第2の抗原結合ドメインは、Eとの第2の抗原結合ドメインの親和性をモジュレートする1個または複数個の変異をVH中および/またはVL中に有する抗体に由来する。親和性は、第2の抗原結合ドメインがEとの解離定数KD値10-9~10-8Mを有するようモジュレートされることが好ましい。
【0076】
別の態様によると、EがCD63である場合、抗体は、Eとの第2の抗原結合ドメインの親和性をモジュレートする1個または複数個の変異を抗CD63 Fab領域に有する。別の態様によると、変異は、1アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸ヒスチジン置換である。
【0077】
別の態様によると、VHおよび/またはVLにおける1個または複数個の変異は、下記表1のSEQ ID NO:5によるVLの54位、または下記表1のSEQ ID NO:1によるVHの71位、72位、および/もしくは74位におけるアミノ酸置換、好ましくは、ヒスチジン置換である。例えば、抗CD63-N74Hは、SEQ ID NO:1による重鎖の74位にアスパラギンからヒスチジンへの変異を有し、抗CD63-LN54Hは、SEQ ID NO:5による軽鎖の54位にアスパラギンからヒスチジンへの変異を有する。別の態様によると、第2の抗原結合ドメインは、好ましい親和性範囲内のKDで標的Eと結合するよう選択される。
【0078】
好ましい態様において、アミノ酸置換、好ましくは、ヒスチジン置換は、SEQ ID NO:1によるVHの74位にある。好ましい態様において、変異は、SEQ ID NO:1によるVHのN74Hである。
【0079】
好ましい態様において、第2のドメインは、好ましくは、第2の結合アームの一部として、
(a)それぞれSEQ ID NO:2、3、および4に提供されるVH CDR 1、2、および3、ならびに、それぞれSEQ ID NO:9、7、および8に提供されるVL CDR 1、2、および3、または
(b)それぞれSEQ ID NO:2、10、および4に提供されるVH CDR 1、2、および3、ならびに、それぞれSEQ ID NO:6、7、および8に提供されるVL CDR 1、2、および3、または
(c)それぞれSEQ ID NO:2、11、および4に提供されるVH CDR 1、2、および3、ならびに、それぞれSEQ ID NO:6、7、および8に提供されるVL CDR 1、2、および3、または
(d)それぞれSEQ ID NO:2、12、および4に提供されるVH CDR 1、2、および3、ならびに、それぞれSEQ ID NO:6、7、および8に提供されるVL CDR 1、2、および3
を含む。
【0080】
特に好ましい態様において、第2のドメインは、好ましくは、第2の結合ドメインの一部として、それぞれSEQ ID NO:2、12、および4に提供されるVH CDR 1、2、および3、ならびに、それぞれSEQ ID NO:6、7、および8に提供されるVL CDR 1、2、および3を含む。
【0081】
別の態様によると、多重特異性抗原結合分子は、CD63特異的モノクローナル抗体の変異型Fab領域を含む。別の態様によると、多重特異性抗原結合分子は、CD63特異的モノクローナルAb 2192の変異型Fab領域を含む。別の態様によると、多重特異性抗原結合分子は、ハイブリドーマまたはファージディスプレイライブラリーより選択されるCD63に特異的な抗原結合領域を含む。
【0082】
別の態様によると、第1および第2の抗原結合ドメインは各々、抗体重鎖可変ドメインと抗体軽鎖可変ドメインの対である。
【0083】
二重特異性抗原結合分子は、好ましくは、抗体定常領域をさらに含み得る。
【0084】
別の態様によると、抗原結合分子は、腫瘍関連標的(T)×CD63二重特異性抗体である。好ましい態様において、(T)×CD63二重特異性抗体は、細胞傷害性薬物にコンジュゲートされる。一つの態様において、(T)×CD63二重特異性抗体は、デュオスタチン3にコンジュゲートされる。一つの態様において、(T)×CD63二重特異性抗体は、デュオスタチン3にコンジュゲートされ、第2の結合ドメインである抗CD63結合ドメインは、それぞれSEQ ID NO:2、12、および4に提供されるVH CDR 1、2、および3、ならびに、それぞれSEQ ID NO:6、7、および8に提供されるVL CDR 1、2、および3を含む。具体的には、腫瘍関連標的(T)×CD63二重特異性抗体薬物コンジュゲート(ADC)は、抗体薬物コンジュゲートの特異的ターゲティングおよび増強された内部移行が望まれる治療的な環境において有用である。本発明の(T)×CD63二重特異性ADCは、単一特異性ADCを使用して腫瘍関連抗原のみを標的とした場合と比較して、標的Tを発現する細胞の死滅においてより効率的であることが、本発明者らによって見出された。そのようなADCは、先行技術の二重特異性ADCより、インビトロおよび動物モデルにおける腫瘍細胞の根絶において強力であることが見出される。
【0085】
本発明の(T)×CD63二重特異性ADCは、腫瘍関連標的の両方に結合する能力およびCD63抗原の強力な内部移行特性によって、ADCの内部移行を増強し、それによって、標的細胞内でより効率的なペイロード送達によって細胞のより強力な死滅を誘導することによって、有利であることが見出される。様々な腫瘍抗原を標的とする抗体の有効性を増大させる必要に応えるため、(あるCD63親和性の範囲にかかる)驚くほど効率的なCD63親和性バリアントの狭い範囲が、二重特異性ADCの有効性を増強することが見出された。
【0086】
別の態様によると、抗原結合分子は、HER2×CD63二重特異性抗体である。
【0087】
別の態様によると、抗原結合分子は、フローサイトメトリーによって決定されるように、HER2を発現する細胞などの腫瘍関連標的(T)を発現する細胞との結合について、5.0μg/ml未満、例えば、4.0μg/ml未満、例えば、3.0μg/ml未満、例えば、2.0μg/ml未満、例えば、1.0μg/ml未満、例えば、0.9μg/ml未満、例えば、0.8μg/ml未満、例えば、0.7μg/ml未満、例えば、0.6μg/ml未満、例えば、0.5μg/ml未満、例えば、0.4μg/ml未満、例えば、0.3μg/ml未満、例えば、0.2μg/ml未満、例えば、0.1μg/ml未満、例えば、0.05μg/ml未満、例えば、0.01μg/ml未満のEC50値を有する。
【0088】
別の好ましい態様において、多重特異性抗原結合分子によるTおよびEの結合は、第1のドメイン単独によるTの結合より大きい程度に、多重特異性抗原結合分子の内部移行を誘導する。同様に、薬物がコンジュゲートされた本発明の多重特異性抗体によるTおよびEの結合は、好ましくは、第1のドメイン単独によるTの結合より大きい程度に細胞傷害を誘導する。
【0089】
別の好ましい態様において、多重特異性、好ましくは、二重特異性の抗原結合分子によるTおよびEの結合は、Tに結合する対応する二価単一特異性抗体より大きい程度に、多重特異性抗原結合分子の内部移行を誘導する。同様に、薬物がコンジュゲートされた本発明の多重特異性、好ましくは、二重特異性の抗体によるTおよびEの結合は、好ましくは、Tと結合する対応する二価単一特異性ADCより大きい程度に、細胞傷害を誘導する。
【0090】
別の態様によると、KD値は、30℃で、バイオレイヤー干渉法によって決定される。別の態様において、KDは、7.2~7.5、例えば、7.3~7.4のpH、例えば、pH 7.4で、30℃で、バイオレイヤー干渉法によって決定される。別の態様において、KDは、1000RPMシェーカースピードで、30℃で、バイオレイヤー干渉法によって決定される。別の態様において、KDは、Octet HTX(ForteBio)のようなOctetシステムを使用して、バイオレイヤー干渉法によって決定される。
【0091】
好ましい態様において、抗原結合分子は、
(i)第1の重鎖定常配列(CH)を含む第1の重鎖を含み、第1のCHが第1のCH3領域を含む、第1の結合アームと、
(ii)第2の重鎖定常配列(CH)を含む第2の重鎖を含み、第2のCHが第2のCH3領域を含む、第2の結合アームと
を含む二重特異性抗体であり、
第1のCH3領域の配列および第2のCH3領域の配列は異なっており、かつ、これらの配列は、第1の結合アームおよび第2の結合アームの各々のホモ二量体相互作用よりも第1の結合アームと第2の結合アームとの間のヘテロ二量体相互作用の方が強力であるような配列である。
【0092】
好ましくは、第1の重鎖 CH3領域において、ヒトIgG1重鎖の位置T366、L368、K370、D399、F405、Y407、またはK409に対応する位置のアミノ酸のうちの少なくとも1個が置換されており、第2の重鎖 CH3領域において、ヒトIgG1重鎖の位置T366、L368、K370、D399、F405、Y407、またはK409に対応する位置のアミノ酸のうちの少なくとも1個が置換されており、第1および第2の重鎖は、同一の位置においては置換されておらず、アミノ酸位置はEUインデックスに従ってナンバリングされる。
【0093】
別の態様において、(i)第1のCH3領域がF405L置換を有しかつ第2のCH3領域がK409R置換を有するか、または(ii)第1のCH3領域がK409R置換を有しかつ第2のCH3領域がF405L置換を有する。
【0094】
別の態様によると、多重特異性抗原結合分子は、細胞傷害性部分、放射性同位体、薬物、サイトカイン、またはRNAサイレンシングビヒクルにコンジュゲートされる。好ましくは、多重特異性抗原結合分子は、細胞傷害性部分、放射性同位体、または薬物にコンジュゲートされる。好ましくは、多重特異性抗原結合分子は、細胞傷害性部分にコンジュゲートされる。
【0095】
細胞傷害性部分は、デュオスタチン3、デュオスタチン5、ピロロベンゾジアゼピンまたはその類似体もしくは誘導体、IGNに基づく毒素またはその類似体もしくは誘導体、αアマニチンまたはその類似体もしくは誘導体、ドラスタチンまたはその類似体もしくは誘導体、タキソール;サイトカラシンB;グラミシジンD;臭化エチジウム;エメチン;マイトマイシン;エトポシド;テノポシド(tenoposide);ビンクリスチン;ビンブラスチン;コルヒチン;ドキソルビシン;ダウノルビシン;ジヒドロキシアントラシン(anthracin)ジオン;マイタンシンまたはその類似体もしくは誘導体のようなチューブリン阻害剤;ミトキサントロン;ミトラマイシン;アクチノマイシンD;1-デヒドロテストステロン;グルココルチコイド;プロカイン;テトラカイン;リドカイン;プロプラノロール;ピューロマイシン;カリチアマイシンまたはその類似体もしくは誘導体、メトトレキサート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、フルダラビン、5-フルオロウラシル、デカルバジン(decarbazine)、ヒドロキシ尿素、アスパラギナーゼ、ゲムシタビン、またはクラドリビンのような代謝拮抗薬;メクロレタミン、チオエパ(thioepa)、クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)、ロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、ダカルバジン(DTIC)、プロカルバジン、マイトマイシンC、シスプラチン、カルボプラチン、デュオカルマイシンA、デュオカルマイシンSA、ラケルマイシン(rachelmycin)(CC-1065)またはその類似体もしくは誘導体のようなアルキル化剤;ダクチノマイシン、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、ミトラマイシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、プリカマイシン、アントラマイシン(AMC)のような抗生物質;アウリスタチン(auristatin)またはその類似体もしくは誘導体、モノメチルアウリスタチンEまたはF、またはそれらの類似体もしくは誘導体のような有糸分裂阻害剤;ジフテリア毒素およびジフテリアA鎖およびその活性断片およびハイブリッド分子のような関連分子、リシンAまたは脱グリコシルリシンA鎖毒素のようなリシン毒素、コレラ毒素、SLT I、SLT II、SLT IIVのような志賀様毒素、LT毒素、C3毒素、志賀毒素、百日咳毒素、破傷風毒素、大豆ボウマンバークプロテアーゼ阻害剤、シュードモナス外毒素、アロリン(alorin)、サポリン、モデシン(modeccin)、ゲラニン(gelanin)、アブリンA鎖、モデシンA鎖、αサルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、PAPI、PAPII、およびPAP Sのようなヨウシュヤマゴボウ(Phytolacca americana)タンパク質、ニガウリ(momordica charantia)阻害剤、クルシン(curcin)、クロチン(crotin)、サボンソウ(sapaonaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、およびエノマイシン(enomycin)毒素;リボヌクレアーゼ(RNアーゼ);DNアーゼI、ブドウ球菌腸毒素A;ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質;ジフテリン(diphtherin)毒素、シュードモナス内毒素、ならびにRNAi(即ち、抗体にコンジュゲートされているかまたはナノ粒子で送達されるsiRNA、shRNA)からなる群より選択され得る。
【0096】
別の態様によると、細胞傷害性部分は、マイタンシン、カリチアマイシン、デュオカルマイシン、デュオスタチン、デュオスタチン3、デュオスタチン5、ラケルマイシン(CC-1065)、アウリスタチン、モノメチルアウリスタチンE、モノメチルアウリスタチンF、ドキソルビシン、ドラスタチン、ピロロベンゾジアゼピン、IGNに基づく毒素、αアマニチン、またはそれらのいずれかの類似体、誘導体、もしくはプロドラッグからなる群より選択される。
【0097】
一つの態様において、細胞傷害性部分、薬物、または放射性同位体は、N-サクシニミジル4-(2-ピリジルジチオ)-ペンタノエート(SSP)、マレイミドカプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(mc-vc-PAB)、またはAV-1 K-ロックバリン-シトルリンのような切断可能リンカーによって、抗体またはその断片に連結される。
【0098】
「切断可能リンカー」という用語は、本明細書において使用されるように、標的細胞または腫瘍微小環境において特異的なプロテアーゼによって触媒され、細胞傷害性作用物質の放出をもたらすリンカーのサブセットをさす。切断可能リンカーの例は、ジスルフィド、ヒドラゾン、またはペプチドを含む化学的モチーフに基づくリンカーである。切断可能リンカーの別のサブセットは、細胞傷害性作用物質と一次リンカーとの間に追加のリンカーモチーフ、即ち、抗体にリンカー-薬物組み合わせを付着させる部位を付加する。いくつかの態様において、追加のリンカーモチーフは、細胞内環境(例えば、リソソームまたはエンドソームまたはカベオラの内部)に存在する切断可能な作用物質によって切断可能である。リンカーは、例えば、リソソームまたはエンドソームのプロテアーゼを含むが、これらに限定されるわけではない、細胞内のペプチダーゼまたはプロテアーゼ酵素によって切断されるペプチジルリンカーであり得る。いくつかの態様において、ペプチジルリンカーは、少なくとも2アミノ酸長または少なくとも3アミノ酸長である。切断剤には、カテプシンBおよびDならびにプラスミンが含まれ得、それらは全て、標的細胞内でジペプチド薬物誘導体を加水分解し、活性薬物の放出をもたらすことが公知である(例えば、Dubowchik and Walker,1999,Pharm.Therapeutics 83:67-123を参照すること)。具体的な態様において、細胞内プロテアーゼによって切断可能なペプチジルリンカーは、Val-Cit(バリン-シトルリン)リンカーまたはPhe-Lys(フェニルアラニン-リジン)リンカーである(例えば、Val-Citリンカーによるドキソルビシンの合成を記載しているUS6214345を参照すること)。治療用物質の細胞内タンパク質分解による放出を使用することの利点は、該物質が典型的にコンジュゲートされた場合に弱毒化され、コンジュゲートの血清安定性が典型的に高いという点である。
【0099】
別の態様において、細胞傷害性作用物質、薬物、または放射性同位体は、サクシニミジル-4(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(MCC)またはマレイミドカプロイル(MC)のような非切断可能リンカーによって、抗体またはその断片に連結される。
【0100】
「非切断可能リンカー」という用語は、本明細書において使用されるように、切断可能リンカーとは対照的に、細胞内または細胞外のプロテアーゼによって特異的に予測可能に認識されるモチーフを含まないリンカーのサブセットをさす。従って、非切断可能リンカーに基づくADCは、完全抗体-リンカー-薬物複合体がリソソーム区画において分解されるまで、抗体から放出されず切断されない。非切断可能リンカーの例は、チオエーテルである。さらに別の態様において、リンカー単位は切断可能でなく、薬物は抗体分解によって放出される。
【0101】
特に好ましい態様において、多重特異性抗原結合分子によるTおよびEの結合は、標的T単独との結合より大きい程度に、多重特異性抗原結合分子の内部移行を誘導する。
【0102】
別の局面において、本発明は、以下に限定されるわけではないが、DuoBody、CrossMab、トリオマブ、kih IgG共通LC、DVD-Ig、2イン1-IgG、IgG-scFv、バイナノボディ、BiTE、TandAb、DART、DART-Fc、scFv-HSA-scFv、orthoFab-IgG、4価Tv-IgG、DNL-Fab3のようなドックアンドロック(DNL)フォーマットのようなテクノロジーもしくはフォーマットを使用することによって生成された多重特異性抗体、またはタンデムscFv、タンデムscFv-Fc、ノブ・イントゥ・ホールIgG、scFv-Fcノブ・イントゥ・ホール、scFv-Fc-scFv、F(ab')2、Fab-scFv、(Fab'scFv)2、ダイアボディ、scダイアボディ、scダイアボディ-Fc、scダイアボディ-CH3、もしくはアジメトリック足場のような断片に関する。
【0103】
別の局面において、本発明は、タンデムscFv、タンデムscFv-Fc、scFv-Fcノブ・イントゥ・ホール、scFv-Fc-scFv、F(ab')2、Fab-scFv、(Fab'scFv)2、ダイアボディ、scダイアボディ、scダイアボディ-Fc、scダイアボディ-CH3である、多重特異性抗原結合分子の二重特異性抗体断片に関する。
【0104】
別の局面において、本発明は、がんを処置および/または予防するための方法において使用するための多重特異性抗原結合分子または二重特異性抗体断片に関する。そのような方法において処置される対象は、好ましくは、がん患者のような、そのような処置を必要とするヒト個体である。一つの態様において、がんは、原発性、転移性、および難治性の乳がんを含む乳がんである。
【0105】
いくつかの態様において、がんは、子宮内膜がん/子宮頸がん、肺がん、悪性黒色腫、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、精巣がん、滑膜肉腫などの軟部腫瘍、乳がん、脳腫瘍、白血病、リンパ腫、マスト細胞腫、腎臓がん、子宮頚がん、膀胱がん、食道がん、胃がん、または結腸直腸がんである。
【0106】
多重特異性抗原結合分子のための有効な投薬量および投薬レジメンは、処置されるがんに依る。本発明の二重特異性抗体の治療的に有効な量の例示的な非限定的な範囲は、約0.1~100mg/kg、例えば、約0.1~50mg/kg、例えば、約0.1~20mg/kg、例えば、約0.1~10mg/kg、例えば、約0.5mg/kg、例えば、約0.3mg/kg、約1mg/kg、約3mg/kg、約5mg/kg、または約8mg/kgである。
【0107】
いくつかの態様において、多重特異性抗原結合分子は、がんを発症するリスクを低下させるため、がん進行中のイベントの発生の開始を遅らせるため、または補助的な環境において、かつ/またはがんが寛解中である時の再発のリスクを低下させるため、予防的に投与されてもよい。
【0108】
一つの態様において、がんを処置または予防するための方法は、それを必要とする対象へ、治療的に有効な量の本発明の多重特異性抗原結合分子および少なくとも1種類の付加的な治療用物質を投与する工程を含む。いくつかの態様において、そのような付加的な治療用物質は、メトトレキサート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、フルダラビン、5-フルオロウラシル、デカルバジン、ヒドロキシ尿素、アスパラギナーゼ、ゲムシタビン、またはクラドリビンのような代謝拮抗薬より選択され得る。他の態様において、そのような付加的な治療用物質は、メクロレタミン、チオエパ、クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)、ロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、ダカルバジン(DTIC)、プロカルバジン、マイトマイシンC、シスプラチン、およびカルボプラチンのようなその他の白金誘導体のようなアルキル化剤より選択され得る。他の態様において、そのような付加的な治療用物質は、タキサン、例えば、ドセタキセルおよびパクリタクセル、ならびにビンカアルカロイド、例えば、ビンデシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、およびビノレルビンのような有系分裂阻害剤より選択され得る。他の態様において、そのような付加的な治療用物質は、トポテカンもしくイリノテカンのようなトポイソメラーゼ阻害剤、またはエトポシドおよびテニポシドのような細胞分裂阻害薬より選択され得る。他の態様において、そのような付加的な治療用物質は、(EGFR抗体、例えば、ザルツムマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、ニモツズマブ、ゲフィチニブ、もしくはエルロチニブのようなその他のEGFR阻害剤のような)ErbB1(EGFR)の阻害剤、(HER2抗体、例えば、トラスツズマブ、トラスツズマブ-DMl、もしくはペルツズマブのような)ErbB2(HER2/neu)の別の阻害剤、またはラパチニブのようなEGFRおよびHER2の両方の阻害剤のような増殖因子阻害剤より選択され得る。他の態様において、そのような付加的な治療用物質は、イマチニブまたはラパチニブのようなチロシンキナーゼ阻害剤より選択され得る。
【0109】
別の局面において、本発明は、対象における腫瘍を標的とする方法において使用するための多重特異性抗原結合分子に関し、該方法は、多重特異性抗原結合分子を対象へ投与する工程を含む。本発明によって標的とされ得る腫瘍には、悪性および非悪性の腫瘍が含まれる。処置され得る悪性(原発性および転移性を含む)腫瘍には、副腎;膀胱;骨;乳房;頚部;内分泌腺(甲状腺、脳下垂体、および膵臓を含む);結腸;直腸;心臓;造血組織;腎臓;肝臓;肺;筋肉;神経系;脳;眼;口腔;咽頭;喉頭;卵巣;陰茎;前立腺;皮膚(黒色腫を含む);精巣;胸腺;ならびに子宮において発生するものが含まれるが、これらに限定されるわけではない。そのような腫瘍の例には、アプドーマ、分離腫、鰓腫、悪性カルチノイド症候群、カルチノイド心疾患、細胞腫(例えば、ウォーカーがん腫、基底細胞がん、基底扁平細胞がん、ブラウン・ピアースがん、腺管がん、エールリッヒがん、上皮内がん、クレブス2がん、メルケル細胞がん、粘液性がん、非小細胞肺がん、燕麦細胞がん、乳頭がん、硬がん、気管支がん、気管支原性肺がん、扁平上皮がん、および移行上皮がん)、形質細胞腫、黒色腫、軟骨芽細胞腫、軟骨腫、軟骨肉腫、線維腫、線維肉腫、巨細胞腫、組織球腫、脂肪腫、脂肪肉腫、中皮腫、粘液腫、粘液肉腫、骨腫、骨肉腫、ユーイング肉腫、滑膜腫、腺線維腫、腺リンパ腫、がん肉腫、脊索腫、間葉腫、中腎腫、筋肉腫、エナメル上皮腫、セメント質腫、歯牙腫、奇形腫、胸腺腫、絨毛性腫瘍、腺がん、腺腫、絨毛膜血管腫、真珠腫、円柱腫、嚢胞腺がん、嚢胞腺腫、顆粒膜細胞腫、半陰陽性卵巣腫瘍、肝臓がん、汗腺腫、島細胞腫瘍、ライディヒ細胞腫瘍、乳頭腫、セルトリ細胞腫瘍、卵胞膜細胞腫、平滑筋腫、平滑筋肉腫、筋芽細胞腫、筋腫、筋肉腫、横紋筋腫、横紋筋肉腫、上衣腫、神経節腫、神経膠腫、髄芽腫、髄膜腫、神経鞘腫、神経芽細胞腫、神経上皮腫、神経線維腫、神経腫、傍神経節腫、非クロム親和性傍神経節腫、角化血管腫、好酸球性血管リンパ球増殖症、硬化性血管腫、血管腫症、グロムス血管腫、血管内皮腫、血管腫、血管外皮腫、血管肉腫、リンパ管腫、リンパ管筋腫、リンパ管肉腫、松果体腫、がん肉腫、軟骨肉腫、葉状嚢肉腫、線維肉腫、血管肉腫、平滑筋肉腫、白血肉腫、脂肪肉腫、リンパ管肉腫、筋肉腫、粘液肉腫、卵巣がん、横紋筋肉腫、肉腫(例えば、ユーイング実験肉腫、カポジ肉腫、およびマスト細胞肉腫)、新生物、ならびにその他のそのような細胞の腫瘍が含まれる。投与には、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、および経口の経路が含まれ得る。
【0110】
同様に、本発明は、それを必要とする対象へ、抗体薬物コンジュゲート(ADC)のような本発明の二重特異性抗体のような多重特異性抗原結合分子の有効量を投与する工程を含む、HER2のような腫瘍関連標的分子を発現する腫瘍細胞を死滅させるための方法に関する。
【0111】
一つの態様において、腫瘍細胞は、乳がん、前立腺がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、卵巣がん、胃がん、結腸直腸がん、食道がん、および頭頸部の扁平上皮がん、子宮頸がん、膵臓がん、精巣がん、悪性黒色腫、および軟部がん(例えば、滑膜肉腫)からなる群より選択されるがんの型に関与する。
【0112】
さらに別の局面において、本発明は、多重特異性抗原結合分子を活性成分として含む、薬学的組成物に関する。有利には、そのような薬学的組成物は、抗酸化剤、抗菌剤、キレート剤、緩衝剤、着色剤、風味剤、希釈剤、乳化剤、および/または懸濁化剤のような適切な賦形剤によって製剤化される。薬学的組成物は、注入によって投与されてもよく、ボーラス注射によって投与されてもよく、上皮または皮膚粘膜の裏打ちを介した吸収によって投与されてもよい。いくつかの態様において、本発明の薬学的組成物は、細胞傷害性物質または抗がん薬のような1種類または複数種類の付加的な薬学的活性成分を含んでいてもよい。
【0113】
別の局面において、本発明は、それを必要とする対象へ、本発明の多重特異性抗原結合分子または本発明の薬学的組成物を投与する工程を含む、疾患の処置の方法に関する。
【0114】
別の局面において、本発明は、本発明による多重特異性抗原結合分子をコードするDNA分子のような核酸に関する。核酸は、本発明の抗体のような二重特異性抗原結合分子の重鎖および軽鎖をコードしていてよい。
【0115】
別の局面において、本発明は、該核酸を含有しており、原核宿主細胞株または真核宿主細胞株において該核酸を発現することができる発現ベクターまたは発現ベクターのセットに関する。抗体の重鎖および軽鎖は、使用される二重特異性抗体テクノロジーにもよるが、同一のベクターによってコードされてもよいかまたは異なるベクターによってコードされてもよい。そのような発現ベクターは、本発明の抗体の組換え作製のために使用され得る。
【0116】
本発明の文脈の中での発現ベクターは、染色体ベクター、非染色体ベクター、および合成核酸ベクター(発現調節要素の適切なセットを含む核酸配列)を含む任意の適切なベクターであり得る。そのようなベクターの例には、SV40の誘導体、細菌プラスミド、ファージDNA、バキュロウイルス、酵母プラスミド、プラスミドおよびファージDNAの組み合わせに由来するベクター、ならびにウイルス核酸(RNAまたはDNA)ベクターが含まれる。一つの態様において、抗体をコードする核酸は、例えば、直鎖状の発現要素を含む裸のDNAベクターもしくはRNAベクター、小型核酸ベクター、pBR322、pUC19/18、もしくはpUC118/119のようなプラスミドベクター、「midge」最小サイズ核酸ベクターの中に、またはCaP04沈殿構築物のような沈殿核酸ベクター構築物として含まれる。
【0117】
別の局面において、本発明は、ベクターを含む原核宿主細胞株または真核宿主細胞株に関する。宿主細胞は、本発明の二重特異性抗原結合分子を生成するためにDuobodyテクノロジーが使用される場合、発現ベクター、即ち、ホモ二量体の単一特異性前駆体分子をコードする発現ベクターが導入される細胞、または本発明の二重特異性分子をコードする核酸を含む単一の宿主細胞である。組換え宿主細胞には、例えば、CHO細胞、HEK293細胞、NS/0細胞、およびリンパ細胞のようなトランスフェクトーマ(transfectoma)が含まれる。
【0118】
別の態様において、本発明は、前記定義の本発明の多重特異性抗原結合分子に対して作製された抗イディオタイプ抗体に関する。抗イディオタイプ(Id)抗体は、一般に抗体の抗原結合部位に関連した独特の決定基を認識する抗体である。Id抗体は、抗Idが調製される前記の二重特異性抗体のような多重特異性抗原結合分子によって動物を免疫することによって調製され得る。免疫された動物は、典型的には、免疫用の二重特異性抗体のイディオタイプ決定基を認識し、これらのイディオタイプ決定基に対する抗体(抗Id抗体)を産生することによって、それに応答することができる。
【0119】
一つの態様において、抗イディオタイプ抗体は、試料中の前記定義の多重特異性抗原結合分子のレベルを検出するために使用される。
【実施例0120】
実施例1:抗体生成、部位特異的変異誘発、およびデュオスタチン3コンジュゲーション
ヒトHER2抗体IgG1-153のクローニングおよび作製は、他の場所;de Goeij B.E.C.G.MAbs,2014.6(2):p.392-402に記載されている。マウスモノクローナルCD63抗体2192の重鎖および軽鎖の可変ドメイン領域(下記表1を参照すること、SEQ ID NO:1および5)は、ハイブリドーマ由来RNAからの可変領域の5'RACEおよび配列決定によって、ハイブリドーマ2.19(Metzelaar M.J.Virchows Arch B Cell Pathol Incl Mol Pathol,1991.61(4):p.269-77)から入手された。可変領域を、適切なヒト重鎖定常ドメイン変異(K409RまたはF405L)と共に適切なヒト軽鎖定常ドメイン(コドン最適化、Invitrogen)を含有している哺乳動物発現ベクターpcDNA3.3(Invitrogen)へクローニングした。ヒト-マウスキメラCD63抗体は、野生型IgG1-CD63と呼ばれた。IgG1-CD63親和性バリアントのパネルを生成することを目的として、部位特異的変異誘発または直接遺伝子合成のいずれかによって、IgG1-CD63抗体の変異を可変ドメインに導入した。アミノ酸変異は、抗体名に示された(即ち、抗CD63-N74Hは、重鎖(SEQ ID NO:1、表1)のアミノ酸74位にアスパラギンからヒスチジンへの変異を有し、抗CD63-LN54Hは、SEQ ID NO:5、表1においてナンバリングされるような軽鎖の54位にアスパラギンからヒスチジンへの変異を有する)。抗体は、Vink T.Methods,2014.65(1):p.5-10によって記載されるように、HEK-293 freestyle細胞(Invitrogen)における重鎖ベクターおよび軽鎖ベクターの同時トランスフェクションおよび一過性発現によって作製された。二重特異性抗体(Duobody)は、Labrijn A.F.Nat Protoc,2014.9(10):p.2450-63によって記載されたような調節Fabアーム交換によって作製された。HIV gp120に特異的なヒト抗体IgG1-b12が、アイソタイプ対照として含まれていた(Parren P.W.H.I.AIDS,1995.9(6):p.F1-6を参照すること)。
【0121】
デュオスタチン3がコンジュゲートされた抗体は、de Goeij B.E.C.G.Mol Cancer Ther.2015.14(5):1130-40によって記載されるように、IgG1-HER2-F405LおよびIgG1-b12-F405Lの抗体リジン基におけるバリン-シトルリン-デュオスタチン3(Duo3)の共有結合性コンジュゲーションによって生成された。二重特異性ADC、bsHER2×CD63-Duo3およびbsHER2×b12-Duo3は、Duo3がコンジュゲートされた抗体IgG1-HER2-F405L-Duo3の、コンジュゲートされていないIgG1-CD63-K409RまたはIgG1-b12-K409RとのFabアーム交換によって生成された。二重特異性ADC、bsCD63×b12-Duo3は、IgG1-b12-F405L-Duo3のIgG1-CD63-K409RとのFabアーム交換によって生成された。全ての二重特異性ADCが、1のDARを有していた。1のDARを有する対照ADCを生成するため、IgG1-HER2-F405L-Duo3およびIgG1-b12-F405L-Duo3を、IgG1-HER2-K409RおよびIgG1-b12-K409RとFabアーム交換し、それぞれ、IgG1-HER2-Duo3およびIgG1 b12-Duo3を生成した。ADCのDARは、疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC)によって決定された。
【0122】
(表1)抗CD63抗体2192の重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)、およびCDRの配列
【0123】
実施例2:CD63結合ELISA
ADCの有効性を向上させるため、1本のFabアームによって標的タンパク質(T)と特異的に結合し、第2のFabアームが、細胞傷害性ペイロードの内部移行およびリソソーム送達を容易にするエフェクタータンパク質(E)に結合する二重特異性ADCを生成した。得られたbsADCは、TおよびEの両方を発現する細胞において細胞傷害を誘導するべきである。Tを発現するがEを発現しない細胞においても、いくらかの細胞傷害が誘導され得るが、Eを発現するがTを発現しない細胞においては、bsADCは細胞傷害を誘導するべきでない。CD63がエフェクタータンパク質(E)として使用される。bsAbの腫瘍特異性を確実にするため、bsAbの抗CD63アーム(E)は、好ましくは、腫瘍特異的アーム(T)の非存在下では結合せず内部移行しないか、または極めて限定された程度にのみ、それを行うべきである。可変領域に変異を有するIgG1-CD63バリアントのパネルを、前記のように生成した。IgG1-CD63抗体バリアントを、ELISAによって可溶性CD63との結合についてスクリーニングした。簡単に説明すると、ELISAプレート(Greiner)を、0.8μg/mLヤギ抗ヒトIgG(Jackson)によって4℃で一晩コーティングした。プレートを2%ニワトリ血清によってブロッキングし、1μg/mLの抗CD63 mAb 2192のヒスチジン変異型バリアントと共にインキュベートした。段階希釈された(1~0.0005μg/mL)組換えヒトCD63(Creative Biomart)を添加し、続いて、1μg/mLのマウス抗ポリヒスチジンビオチン(R&D)を添加した。反応をABTSを使用して可視化し、シュウ酸によって停止させた。405nmにおける蛍光を、GraphPad Prism 6ソフトウェアを使用して測定し、図示した。
【0124】
図1に見られるように、異なるヒスチジン変異型抗CD63抗体について多様なCD63結合曲線が見出された。親和性バリアントのいくつかについては、CD63との結合が(wt IgG1-CD63と呼ばれる)野生型(wt)IgG1-CD63と比較可能であったが、結合の部分的または完全な喪失を示したものもあった。
【0125】
実施例3:CD63親和性測定
C末端でポリヒスチジンタグと融合し、N末端でシグナルペプチドと融合している組換えヒトCD63第2細胞外ドメイン(Ala 103-Val 203)に対する抗CD63抗体(Creative BioMart)の結合速度論を、Octet HTX(ForteBio)で、標識なしのバイオレイヤー干渉法を使用して査定した。wt IgG1-CD63またはその親和性バリアントを、1μg/mLで、Anti-Human IgG Fc Capture Biosensors(ForteBio)へ1000秒間固定化した。ヒトHisタグ付きCD63(100nM、50nM、25nM、および12.5nM、濃度は13kDaという予測分子量を使用して算出された)の会合および解離の速度論を、30℃で、1000sの会合時間、2000sの解離時間、および1000rpmのシェーカースピードを使用して、Sample Diluent(ForteBio)において決定した。データトレースを、会合および解離の工程でSample Diluentにのみ曝露された参照センサーを使用して補正し、Y軸を基線に整列させ、工程間補正およびサビツキー・ゴーレイ(Savitzky-Golay)フィルタリングを適用した。会合速度定数Kon(1/Ms)、解離速度定数Kdis(1/s)、および平衡解離定数KD(M)を、1:1モデルおよびグローバルフルフィット(global full fit)を使用して、ForteBio Data Analysis Software v8.1によって決定した。200sの解離時間が使用された親和性バリアントT71、P72、N74、Y121、LV49、およびLY51を除き、1000sの解離時間をKDの算出のために使用した。
【0126】
異なる抗CD63抗体バリアントについて、3.6×10-10~2.7×10-8Mに及ぶ広範囲のAb親和性が測定された(図2および表2を参照すること)。従って、1アミノ酸ヒスチジン置換を導入することによって、wt IgG1-CD63の親和性を低下させることが可能であった。
【0127】
(表2)
【0128】
実施例4:HCC1954細胞、SK-OV-3細胞、およびColo205細胞を使用したbsCD63×HER2-Duo3 ADCの親和性バリアントおよび一価bsCD63×b12-Duo3 ADCの親和性バリアントの細胞傷害
標的タンパク質(T)およびエフェクタータンパク質(E)の両方を発現する腫瘍細胞へのbsADCの結合は、優先的に細胞傷害をもたらすべきである。しかしながら、腫瘍関連標的タンパク質(T)の非存在下では、bsADCは、好ましくは、細胞傷害を誘導するべきでない。異なる抗CD63親和性バリアントを使用して、CD63(E)およびHER2(T)を標的とする多数のbsADCを生成した。CD63およびHIV gp120を標的とするbsADCを生成するためにも、同一の抗CD63親和性バリアントを使用した。HIV gp120は、試験された腫瘍細胞において発現しないウイルスタンパク質である。従って、CD63およびgp120を標的とするbsADC(即ち、CD63抗体およびgp120特異的抗体IgG1-b12に由来する結合ドメインを含有しているbsADC)は、CD63にのみ結合することができ、それは、Tの発現を欠く正常組織に対するADCの活性を反映する。
【0129】
bsADCの細胞傷害を、HCC1954細胞、SK-OV-3細胞、およびColo205細胞を使用して試験した。細胞を、96穴組織培養プレート(細胞5,000個/ウェル)に播種し、37℃で6時間インキュベートした。段階希釈されたADC(10~0.0005μg/mL)を添加し、細胞を37℃で4日間インキュベートした。細胞生存度を、製造業者のガイドラインに従い、CellTiter-GLO(Promega)を使用して査定した。生存細胞の百分率を、未処理の細胞(0%の細胞死)およびスタウロスポリンによって処理された細胞(100%の細胞死)と比べた百分率として示した。生存細胞の百分率=(ADCによって処理された細胞のRFU - スタウロスポリンによって処理された細胞のRFU)×100/(未処理の細胞のRFU - スタウロスポリンによって処理された細胞のRFU)。RFU=相対蛍光単位。
【0130】
図3~5は、未処理の細胞と比較した百分率としての、段階希釈されたADCによる4日間の処理の後の細胞生存度を示す。示されたデータは、少なくとも2回の異なる実験の平均値±標準偏差である。細胞傷害についてのIC50値は、GraphPad Prism 6ソフトウェアを使用して決定され、表3に図示された。
【0131】
(表3)IC50値
【0132】
図3A、4A、および5AのbsADCは、CD63に対する最も高い親和性(3.6×10-10~7.8×10-10Mの範囲;表2)を有し、bsCD63×HER2-ADCとして試験された場合、低いIC50値で細胞傷害を誘導したが、bsCD63×b12-ADCとして試験された場合にも、いくらかの細胞傷害を示した。図3B、4B、および5BのbsADCは、中程度の親和性(2.0×10-9~7.3×10-9Mの範囲)を有し、bsCD63×HER2-ADCとして試験された場合、低いIC50値で細胞傷害を誘導し、bsCD63×b12-ADCとして試験された場合、限定された細胞傷害を示した。図3C、4C、および5Cの抗体は、低い親和性(1.7×10-8~2.7×10-8M)を有し、bsCD63×HER2-ADCとして試験された場合、不十分なIC50値で細胞傷害を誘導し、bsCD63×b12-ADCとして試験された場合に組み合わせられても、ほとんど細胞傷害を示さなかった。
【0133】
結論付けると、2.0×10-9~7.3×10-9Mに及ぶ親和性を有する、図3B、4B、および5Bに示されたCD63抗体は、ADCの増強された送達のための最も都合のよい特性を示した。これらの抗体は、bsCD63×HER2-ADCとして、低いIC50値で細胞傷害を誘導することができたが、bsCD63×b12-ADCとして、限定された細胞傷害を誘導した。
【0134】
実施例5:一価bsCD63×b12 ADCの親和性バリアントのリソソーム共局在
CD63に対する低下した親和性を有するCD63×b12二重特異性抗体が、より少ない内部移行およびリソソーム輸送を示すことを確認するため、共焦点顕微鏡実験を実施した。SK-OV-3細胞を、37℃で16時間、カバーガラス(Thermo Fisher Scientific)上で培養した。抗体(2μg/mLおよび10μg/mL)を添加し、細胞を37℃で16時間インキュベートした。細胞を、固定し、透過処理し、ヒトIgGについて染色するためのヤギ抗ヒトIgG1-FITC(Jackson)およびリソソームについて染色するためのマウス抗ヒトCD107a-APC(BD)と共に45分間インキュベートした。カバーガラスを、顕微鏡用スライドにマウントし(Calbiochem)、LAS-AFソフトウェアが装備されたLeica SPE-II共焦点顕微鏡(Leica Microsystems)によって画像化した。12ビットグレイスケールTIFF画像を、MetaMorph(登録商標)ソフトウェア(Molecular Devices)を使用して、共局在について分析した。共局在を、リソソームマーカーLAMP1とオーバーラップする抗体の全ピクセル強度を表す任意単位[AU]として図示した。異なる画像の間の細胞密度の差を補正するため、この値をLAMP1の全ピクセル強度で割った。
【0135】
図6に見られるように、野生型IgG1-CD63は、最も高い共局在値を示し、その一価カウンターパート(bsCD63WT×b12)およびbsCD63-Y79H×b12が後に続いた。bsP72H×b12、bsY121H×b12、bsLN54H×b12、およびbsN74H×b12についてのリソソーム共局在値は、bsY79H×b12および野生型bsCD63×b12と比較しておよそ10倍低かった。bsV52H×b12、bsG76H×b12、bsLV49H×b12、およびbsLY51H×b12についての値は、さらに低く、このことは、一価CD63抗体のリソソーム輸送がほとんど存在しなかったことを示している。星印(*)で示された試料は画像化されなかった。示されたデータは、3個の画像の平均値±標準偏差である。
【0136】
実施例6:フローサイトメトリーによって決定された、SK-OV-3細胞とのbsHER2×CD63N74Hの結合
bsCD63×b12-ADCとしては、限定された細胞傷害を誘導するが、bsCD63×HER2-ADCとしては、低いIC50値で細胞傷害を誘導する能力に基づき、クローン抗CD63-N74Hをさらなる分析のために選択した。HER2陽性SK-OV-3細胞とのbsHER2×CD63N74Hの結合を、フローサイトメトリー(FACS Canto II,BD Biosciences)を使用して試験した。段階希釈された抗体を、SK-OV-3細胞と共に、4℃で30分間インキュベートした。抗体結合をフィコエリトリンがコンジュゲートされたヤギ抗ヒトIgG抗体(Jackson)使用して検出し、試料をフローサイトメーターで分析した。IgG1-b12をアイソタイプ対照抗体として使用した。図7に示される得られたデータは、2回の実験の平均値である。
【0137】
図7に見られるように、bsHER2×CD63N74Hおよび一価HER2抗体bsHER2×b12の結合曲線は、同一であった。これは、bsHER2×CD63N74Hの腫瘍細胞結合が、HER2との一価結合を通して起こることを示す。IgG1-CD63N74HおよびbsCD63N74H×b12は、SK-OV-3細胞との結合を示さず、それは、細胞膜上のCD63の低い発現と一致している。
【0138】
実施例7:全血細胞におけるbsHER2×CD63N74HおよびbsCD63N74H×b12によるmAb-FITC蓄積アッセイ
モデル腫瘍抗原HER2を発現しない健常組織において、bsHER2×CD63N74Hが結合せず、蓄積しないことを証明するため、bsHER2×CD63N74Hならびに一価および二価の対照抗体をFITCとコンジュゲートした。HER2を発現しない健常ドナーの顆粒球および血小板において、蓄積を調査した。健常ドナー由来の全血試料をヘパリンチューブに収集した。全血を10%熱不活化cosmic仔ウシ血清が補足されたRPMI-1640で1:2希釈した。抗CD63抗体を、製造業者の説明書に従って、FITC(Thermo Scientific)とコンジュゲートし、10μg/mLの最終濃度で全血細胞へ添加した。
【0139】
4℃で1時間のインキュベーションまたは37℃で3時間および16時間のインキュベーションの後、赤血球を、赤血球溶解緩衝液(155mM NH4Cl、10mM KHCO3、および0.1mM EDTA、pH 7.4)と共に4℃で15分間インキュベートすることによって溶解した。FITCの蛍光強度をフローサイトメーター(BD)で測定した。顆粒球をマウス抗ヒトCD66b-PerCP-Cy5.5(BD)を使用してゲーティングし、血小板をマウス抗ヒトCD62-APC(BD)を使用してゲーティングした。
【0140】
図8は、1時間後に顆粒球または血小板とのCD63抗体の結合がほとんどないかまたは極めて低レベルであることを示す。しかしながら、顆粒球におけるIgG1-CD63のFITC蛍光は、16時間のインキュベーションの後に明白に増加し、このことは、顆粒球へのIgG1-CD63の蓄積を示す。対照的に、bsCD63N74H×b12およびbsHER2×CD63N74HのFITC蛍光は16時間後にほとんど増加しなかった(図8を参照すること)。同様に、IgG1-HER2およびbsHER2×b12は、顆粒球または血小板における結合または細胞内蓄積を示さず、それは、これらの細胞型におけるHER2発現の欠如と一致していた。従って、低親和性CD63特異的Fabアームを使用することによって、正常細胞における一価CD63 Abの結合および細胞内蓄積を最小化することが可能であった。
【0141】
実施例8:共焦点顕微鏡法、経時的に追跡されたbsHER2×CD63N74Hのリソソーム共局在
bsHER2×CD63N74Hの内部移行およびリソソーム共局在を、経時的に追跡した。SK-OV-3細胞(20.000)を、37℃で16時間、カバーガラス(Thermo Fisher Scientific)上で増殖させた。抗体処理の1時間前に、リソソーム活性を阻止するため、細胞を50μg/mLロイペプチン(Sigma)と共にプレインキュベートした。抗体(5μg/mLまたは1μg/mL)を添加し、細胞を37℃で1時間、3時間、または16時間インキュベートした。細胞を固定し、透過処理し、ヒトIgGについて染色するためのヤギ抗ヒトIgG1-FITC(Jackson)およびリソソームについて染色するためのマウス抗ヒトCD107a-APC(BD)と共に45分間インキュベートした。核を染色するため、ヘキスト(Molecular Probes、1:10.000)を添加した(RTで5分)。カバーガラスを顕微鏡用スライドにマウントし(Calbiochem)、LAS-AFソフトウェアが装備されたLeica SPE-II共焦点顕微鏡(Leica Microsystems)によって画像化した。12ビットグレイスケールTIFF画像を、MetaMorph(登録商標)ソフトウェア(Molecular Devices)を使用して、共局在について分析した。共局在を、リソソームマーカーLAMP1とオーバーラップする抗体の全ピクセル強度を表す任意単位[AU]として図示した。異なる画像の間の細胞密度の差を補正するため、この値をLAMP1の全ピクセル強度で割った。全IgG染色を、FITCの全ピクセル強度として図示し、LAMP1の全ピクセル強度で割った。
【0142】
図9の灰色のバーは、(任意単位として図示された)全IgG染色を表す。図9の黒色のバーは、(任意単位として図示された)リソソーム共局在を表す。IgG1-HER2およびbsHER2×b12は、いずれも、1時間後、3時間後、および16時間後に、SK-OV-3細胞の類似した染色を示した(灰色のバー)。IgG1-HER2およびbsHER2×b12の少ない一部分は、16時間の抗体曝露の後にリソソーム共局在を示した(黒色のバー)。CD63を標的とする抗体IgG1-CD63N74Hは、1時間後および3時間後に染色(灰色のバー)またはリソソーム共局在(黒色のバー)を示さなかったが、16時間の抗体曝露は、細胞のAb染色をもたらし、その全てがリソソームマーカーLAMP1と共局在していた。一価CD63抗体bsCD63N74H×b12は、測定された時点のいずれにおいてもmAb染色またはリソソーム共局在を示さなかった。他方、bsHER2×CD63N74Hのリソソーム共局在は、経時的に徐々に増大した(黒色のバー)。示されたデータは、3個の画像の平均値±標準偏差である。
【0143】
実施例9:bsHER2×CD63N74HはHER2のダウンモジュレーションを誘導する
HER2ダウンモジュレーションELISAを使用して、bsHER2×CD63N74Hによって観察された強力なリソソームターゲティングが、標的抗原の増大したダウンモジュレーションをもたらすか否かを調査した。AU565細胞、SK-OV-3細胞、およびColo205細胞を、T25フラスコ(Greiner)に播種し(細胞100万個/フラスコ)、コンフルエントな単層を入手するため、37℃で一晩インキュベートした。抗体を添加し(10μg/mL)、細胞を37℃でさらに3日間培養し、洗浄し、溶解した。全タンパク質レベルを、製造業者の説明書に従って、ビシンコニン酸(BCA)タンパク質アッセイ試薬(Pierce)を使用して定量化した。次に、ELISAプレート(Greiner)を、1μg/mLウサギ抗ヒトHER2(Cell Signalling Technology)でコーティングし、2%ニワトリ血清(Hyclone)によってブロッキングし、50μL細胞溶解物と共にインキュベートした。HER2を検出するため、ヤギ抗ヒトHER2-ビオチン(R&D、50ng/mL)を添加し、続いて、ストレプトアビジン-ポリHRP(Sanquin、100ng/mL)を添加した。反応をABTSを使用して可視化し、シュウ酸によって停止させた。405nmにおける蛍光を測定し、HER2の量を未処理の細胞に対する百分率として表した。
【0144】
HER2の異なる発現レベルを有する腫瘍細胞株;AU565(500,000 HER2/細胞、図10A)、SK-OV-3(200,000 HER2/細胞、図10B)、およびColo205(50,000 HER2/細胞、図10C)におけるHER2タンパク質の全量を、HER2抗体との3日間のインキュベーションの後に定量化し、未処理の細胞と比較した(図10を参照すること)。IgG1-HER2は、高レベルのHER2を発現するAU565細胞において、全HER2のおよそ40%のダウンモジュレーションを誘導した。一価bsHER2×b12抗体はHER2陽性SK-OV-3細胞との用量依存的な結合を示したという事実にも関わらず(FACS結合実施例)、bsHER2×b12によるHER2のダウンモジュレーションは観察されなかった。これは、HER2の分解を増大させるためには、二価の抗体結合が重要であったことを強調している。bsHER2×CD63N74Hは、AU565細胞におけるHER2のダウンモジュレーションを回復させることができた。さらに、SK-OV-3およびColo205のようなより低いHER2発現を有する細胞株においても、bsHER2×CD63N74Hは、HER2のダウンモジュレーションを誘導したが、IgG1-HER2は、HER2タンパク質レベルに影響しなかった。
【0145】
実施例10:デュオスタチン3とコンジュゲートされたADCによって誘導される細胞傷害
細胞を、96穴組織培養プレートに播種し(細胞5,000個/ウェル)、37℃で6時間付着させた。段階希釈されたADC(10~0.0005μg/mL)を添加し、細胞を37℃でさらに3日間インキュベートした。細胞生存度を、製造業者のガイドラインに従って、CellTiter-GLO(Promega)を使用して査定した。生存細胞の百分率を、未処理の細胞に対する百分率として図示した。
【0146】
図11に見られるように、IgG1-HER2-Duo3は、高いHER2発現(500.000 HER2/細胞)を示すHCC1954のおよそ80%を死滅させることができた。200.000 HER2/細胞を発現するSK-OV-3細胞においては、IgG1-HER2-Duo3は、細胞のおよそ30%のみを死滅させたが、低HER2発現Colo205細胞(50.000 HER2/細胞)の生存度は、影響されなかった。
【0147】
一価bsHER2×b12は、IgG1-HER2-Duo3と比較して、細胞の類似した百分率を死滅させたが、およそ10倍低下したIC50値を有していた。HCC1954細胞においてbsHER2×CD63N74H-Duo3()によって誘導された細胞傷害は、IgG1-HER2-Duo3と等しかった。しかしながら、HER2のより低いコピー数を有する細胞(SK-OV-3、およびより少ない程度にColo205)においては、bsHER2×CD63N74H-Duo3は、HER2のみを標的とするADCと比較して、はるかに大きい細胞傷害を誘導した(図11を参照すること)。示されたデータは、少なくとも2回の別々の実験の平均値±標準偏差である。
【0148】
実施例11:SK-OV-3腫瘍異種移植片に対するbsHER2×CD63N74H-ADCの抗腫瘍効果
bsHER2×CD63N74H-ADCの抗腫瘍効果を、SK-OV-3腫瘍異種移植片において調査した。6~11週齢の雌SCIDマウス(C.B-17/IcrPrkdc-scid/CRL)を、Charles Riverから購入した。マウスの右側腹部に5×106個のSK-OV-3細胞を接種することによって、皮下腫瘍を誘導した。腫瘍体積を、0.52×長さ×幅2(mm3)としてデジタルノギス測定から算出した。腫瘍が200~400mm3に達した時、マウスを、等しい腫瘍サイズ分布を有する7匹のマウスの群に分類し、mAbを腹腔内注射した(8mg/kg)。研究中、血漿中のヒトIgGの存在を確認するため、血液試料をヘパリン含有チューブに収集した。IgGレベルを比濁計(Siemens Healthcare)を使用して定量化した。血漿中にヒトIgGを示さなかったマウスは、分析から排除した。
【0149】
図12に示されるように、bsHER2×CD63N74H-ADCは、腫瘍増殖の有意な阻害を誘導したが、一価bsHER2×b12-ADCまたはbsCD63N74H×b12-duo3は、腫瘍増殖に対して効果を及ぼさなかった。これは、インビボの腫瘍において、不十分に内部移行するADCのリソソーム送達および毒素放出を誘導するため、低親和性CD63特異的Fabアームが使用され得ることを証明している。カプランマイヤープロットのマンテル・コックス分析は、bsHER2×CD63N74H-ADCによる腫瘍増殖の有意な阻害を示した。P値<0.0001。
【0150】
実施例12:フローサイトメトリーによって検出された、SK-OV-3細胞とのbsβ1×CD63N74Hの結合
他の腫瘍抗原の内部移行およびリソソームターゲティングを増強するためにも同様に、Eに対する低親和性結合ドメインを使用することができるか否かを調査した。インテグリンは、内部移行のためにクラスター形成に頼ることが記載されている。従って、一価インテグリン抗体は、最小の内部移行およびリソソームターゲティングを示すと予想され、従って、TおよびEを標的とする二重特異性フォーマットにおいて内部移行が増強され得るか否かを試験するための適切なモデルシステムを表し得る。この目的のため、インテグリンβ1を標的とする抗体huK20を選択した。抗体huK20の配列を、WO1996/008564から入手し、その実施例1に記載されたようにして、クローニングし、作製した。
【0151】
SK-OV-3との、IgG1-β1抗体、一価対照bsβ1×b12、および二重特異性抗体bsβ1×CD63N74Hの結合を、フローサイトメトリー(FACS Canto II,BD Biosciences)を使用して調査した。段階希釈された抗体を、SK-OV-3細胞と共に4℃で30分間インキュベートした。その後、抗体結合をフィコエリトリンがコンジュゲートされたヤギ抗ヒトIgG抗体(Jackson)を使用して検出し、試料をフローサイトメーターで分析した。IgG1-b12をアイソタイプ対照抗体として使用した。
【0152】
図13に見られるように、bsβ1×CD63N74Hおよび一価インテグリンβ1抗体bsβ1×b12の結合曲線は、極めてよく類似していた。これは、bsβ1×CD63N74Hの腫瘍細胞結合がインテグリンβ1との一価結合を通して起こることを示している。IgG1-CD63N74HおよびbsCD63N74H×b12は、SK-OV-3細胞との結合を示さず、それは、細胞膜上のCD63の低い発現と一致している。
【0153】
実施例13:共焦点顕微鏡法によって測定されたbsβ1×CD63N74Hのリソソーム共局在
インテグリンβ1およびCD63の二重ターゲティングがbsβ1×CD63N74Hの増大したリソソーム共局在をもたらすか否かを調査するため、細胞膜上にインテグリンβ1の異なるコピー数を有する腫瘍細胞株によって共焦点顕微鏡実験を実施した。20.000個のSK-OV-3細胞、NCI-H1975細胞、およびMDA-MB-468細胞を、37℃で4時間、カバーガラス(Thermo Fisher Scientific)上で増殖させた。抗体処理の1時間前に、リソソーム活性を阻止するため、50μg/mLロイペプチン(Sigma)と共に細胞をプレインキュベートした。抗体(2μg/mL、0.4μg/mL、および0.08μg/mL)を添加し、細胞を37℃で16時間インキュベートした。細胞を固定し、透過処理し、ヒトIgGについて染色するためのヤギ抗ヒトIgG1-FITC(Jackson)およびリソソームについて染色するためのマウス抗ヒトCD107a-APC(BD)と共に45分間インキュベートした。ヘキスト(Molecular Probes、1:10.000)を、核を染色するために添加した(RTで5分間)。カバーガラスを顕微鏡用スライドにマウントし(Calbiochem)、LAS-AFソフトウェアが装備されたLeica SPE-II共焦点顕微鏡(Leica Microsystems)によって画像化した。12ビットグレイスケールTIFF画像を、MetaMorph(登録商標)ソフトウェア(Molecular Devices)を使用して共局在について分析した。共局在は、リソソームマーカーLAMP1とオーバーラップする抗体の全ピクセル強度を表す任意単位[AU]として図示された。異なる画像の間の細胞密度の差を補正するため、この値をLAMP1の全ピクセル強度で割った。
【0154】
図14に見られるように、bsβ1×CD63N74Hは、全ての試験された細胞株およびmAb濃度で、最も強力な量のリソソーム共局在を示した(SK-OV-3についてのみ示される)。IgG1-β1およびbsAb-β1×b12は、mAb濃度によって影響されない中程度のリソソーム共局在を示した。IgG1-CD63N74Hは、NCI-H1975細胞において、2μg/mLおよび0.4μg/mLでのみ、実質的なリソソーム共局在を示した。一価対照bsCD63N74H×b12は、NCI-H1975細胞において2μg/mLでのみリソソーム共局在を示し、それは、CD63N74Hの低下した親和性と相関した。bsβ1×CD63N74Hの増大したリソソーム共局在は、高いインテグリンβ1コピー数を発現する細胞(SK-OV-3>NCI-H1975>MDA-MB-468)において最も明白であった。いくつかのクローンについては、リソソーム共局在が測定されなかったため、AUが図示されていない。示されたデータは、3個の画像の平均値±標準偏差である。
【0155】
実施例14:共焦点顕微鏡法、経時的に追跡されたbsβ1×CD63N74Hの内部移行およびリソソーム共局在
bsβ1×CD63N74Hの内部移行およびリソソーム共局在の速度論をよりよく理解するため、bsβ1×CD63N74Hの内部移行およびリソソーム共局在を経時的に追跡した。SK-OV-3細胞(20.000個)を、37℃で16時間、カバーガラス(Thermo Fisher Scientific)上で増殖させた。抗体処理の1時間前に、リソソーム活性を阻止するため、50μg/mLロイペプチン(Sigma)と共に細胞をプレインキュベートした。抗体(2μg/mL)を添加し、細胞を37℃で1時間、3時間、または16時間インキュベートした。細胞を固定し、透過処理し、ヒトIgGについて染色するためのヤギ抗ヒトIgG1-FITC(Jackson)およびリソソームについて染色するためのマウス抗ヒトCD107a-APC(BD)と共に45分間インキュベートした。ヘキスト(Molecular Probes、1:10.000)を、核を染色するために添加した(RTで5分間)。カバーガラスを顕微鏡用スライドにマウントし(Calbiochem)、LAS-AFソフトウェアが装備されたLeica SPE-II共焦点顕微鏡(Leica Microsystems)によって画像化した。12ビットグレイスケールTIFF画像を、MetaMorph(登録商標)ソフトウェア(Molecular Devices)を使用して共局在について分析した。共局在を、リソソームマーカーLAMP1とオーバーラップする抗体の全ピクセル強度を表す任意単位[AU]として図示し、LAMP1の全ピクセル強度で割った。全IgG染色をFITCの全ピクセル強度として図示し、LAMP1の全ピクセル強度で割った。
【0156】
図15の灰色のバーは、(任意単位として図示された)全IgG染色を表す。図15の黒色のバーは、(任意単位として図示された)リソソーム共局在を表す。IgG1-β1およびbsβ1×b12は、いずれも、1時間後、3時間後、および16時間後にSK-OV-3細胞の類似した染色を示したが(灰色のバー)、リソソーム共局在はほとんど測定されなかった(黒色のバー)。従って、IgG1-β1およびbsβ1×b12は、SK-OV-3細胞に結合することができたが、リソソームへ輸送されなかった。CD63を標的とする抗体、IgG1-CD63N74HおよびbsCD63N74H×b12は、1時間後に、染色(灰色のバー)もリソソーム共局在(黒色のバー)も示さなかった。しかしながら、インキュベーションの延長は、細胞のAb染色をもたらし、その全てがリソソームマーカーLAMP1と共局在しており、このことから、両抗体がリソソームへ直ちに輸送されたことが示された。この効果は、IgG1-CD63N74Hについて最も顕著であり、bsCD63N74H×b12については比較的顕著でなかった。最後に、β1×CD63N74Hは、1時間後、3時間後、および16時間後にSK-OV-3細胞の等しい染色を示した(灰色のバー)。リソソーム共局在は経時的に徐々に増加し(黒色のバー)、このことから、β1×CD63N74Hが、最初に、インテグリンβ-1を通して腫瘍細胞に結合し、その後、リソソームへ輸送されることが示された。示されたデータは、少なくとも3個の画像の平均値±標準偏差である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
2022103195000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-05-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載のすべての発明。
【外国語明細書】