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  • 特開-電気回路装置の放熱構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103256
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】電気回路装置の放熱構造
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20220630BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H05K7/20 F
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076224
(22)【出願日】2022-05-02
(62)【分割の表示】P 2018531962の分割
【原出願日】2017-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2016152205
(32)【優先日】2016-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山縣 利貴
(72)【発明者】
【氏名】井之上 紗緒梨
(72)【発明者】
【氏名】広津留 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】吉松 亮
(72)【発明者】
【氏名】古賀 竜士
(57)【要約】
【課題】量産性に優れ、高い放熱性を有する電気回路装置の放熱構造を提供する。
【解決手段】電気回路装置の外部へ露出する放熱板と、伝熱部材と、冷却器とが積層構造をなすように配置されて含まれる電気回路装置の放熱構造であって、前記伝熱部材が、セラミックス一次粒子が3次元的に一体構造をなしている焼結体に樹脂組成物が含浸しているセラミックス樹脂複合体であり、かつ前記放熱板および前記冷却器のうちの少なくとも一方と直接接触して積層するように配置される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気回路装置の外部へ露出する放熱板と、伝熱部材と、冷却器とが積層構造をなすように配置されて含まれる、電気回路装置の放熱構造であって、
前記伝熱部材が、セラミックス一次粒子が3次元的に一体構造をなしている焼結体に樹脂組成物が含浸しているセラミックス樹脂複合体であり、
前記伝熱部材が、前記放熱板および前記冷却器のうちの少なくとも一方と直接接触して積層するように配置される
ことを特徴とする、電気回路装置の放熱構造。
【請求項2】
セラミックス樹脂複合体が、平均長径が3~60μm、アスペクト比が5~30である窒化ホウ素一次粒子が3次元的に一体構造をなしているセラミックス焼結体35~70体積%に、樹脂組成物65~30体積%を含浸している、セラミックス樹脂複合体である、請求項1記載の電気回路装置の放熱構造。
【請求項3】
伝熱部材が、厚さ0.05mm以上1.0mm以下の平板状である、請求項1または2記載の電気回路装置の放熱構造。
【請求項4】
電気回路装置が、発熱素子を挟んで向かい合い、それぞれが外部への露出面を有する、少なくとも2枚以上の放熱板を備えている、請求項1~3のいずれか一項記載の電気回路装置の放熱構造。
【請求項5】
積層構造の積層面に対して垂直な方向に、圧縮方向の圧力をかけている、請求項1~4のいずれか一項記載の電気回路装置の放熱構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路装置の放熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばパワーMOSFET、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(以降IGBTと表記する)等に代表されるパワー半導体素子を、セラミックス基板上に配置して結線し、さらにそれらを封止材でまとめて1つのパッケージに組み込んだ、一般にパワーモジュールと呼ばれる電気回路装置が知られている。そのような電気回路装置は例えば電力制御用であり、例えば車両推進モーターの制御に使われる電気部品として多用されてきている。パワー半導体素子は大電力を扱うため、代表的な発熱素子でもあり、そのためパワーモジュールの放熱構造(他に冷却構造、実装構造などということもある)については様々な工夫が凝らされてきた。
【0003】
比較的簡単なパワーモジュールは、パワー素子の裏面側から熱を逃がす放熱構造を有している。例えば特許文献1には、パワーモジュールの裏面に設けられた放熱板に、伝熱部材となる放熱グリス(熱伝導性グリースなどとも言う)、例えばシリコーングリスを介して、例えばアルミニウム製の冷却器を、ネジで固定したパワーモジュールの放熱構造が示されている。
【0004】
さらにパワーモジュールの小型化や大電力化に対応して、放熱面積を増やすために発熱素子の両面に外部に露出した放熱板を設け、放熱グリースやゲルの伝熱材を介して電気的に絶縁性の伝熱部材(絶縁板)と冷却器とを設置し、さらに放熱板に十分熱的に密着するようそれらを最適圧力で圧縮させるよう配慮された放熱構造が、特許文献2に示されている。なお、発熱素子の放熱板と冷却器の間に介在する前記伝熱部材には、それ自体にも高い熱伝導性が求められるが、伝熱部材は同時に放熱板と冷却器を電気的に絶縁する構成を有する部材でもある。そのため、発熱素子の放熱板と冷却器との密着性を高めるために用いる放熱グリースが、電気的な絶縁性を持たない場合は、電気的な絶縁素材を別に用いて伝熱部材を構成する必要がある。なお、特許文献2においては、放熱構造の放熱特性の改善の目安として、熱抵抗値が0.24K/W以下になることが挙げられている。
【0005】
さらに従来の放熱部材を改良した、パワーモジュールの放熱構造の発明の例として、発熱素子の放熱板と冷却器の間に、熱伝導させる方向、即ち放熱面に垂直な方向に沿うようにカーボンナノチューブや炭素繊維を並べて配置した髭状体の層を設けた放熱構造の発明が、特許文献3に示されている。ただし、この放熱構造は、前記髭状体の層の構造が繊細であるため量産適正の面での課題が新たに生じていた。
【0006】
なお、伝熱部材としては、従来セラミックスが電気絶縁性と熱伝導性の両面から好ましく用いられてきたが、これらは剛直であり、表面も固くて被接触面との密着性に劣るため、例えば放熱板や冷却器との間に単にセラミックスの伝熱部材を配置しただけでは、その界面が密着するように両者を圧縮するように圧力をかけたとしても、その界面には空気層が形成されて熱伝導性が妨げられるため、前記空気層を埋めるための放熱グリース層を界面に設ける必要があった。即ち、従来の放熱構造では、放熱板と伝熱部材との界面、及び伝熱部材と冷却器との界面の両方に放熱グリース層を設ける必要があった。放熱構造に放熱グリース層を設けることにより、局所的な熱伝導率の改善は図れるが、前記放熱グリース自体の熱伝導率は一般に伝熱部材よりも低く、またそれを2層設ける必要があるため、放熱グリース層の厚みを可能な限り薄くしたとしても、放熱構造全体としての熱伝導率改善の余地が依然として残されていた。また、放熱グリース層を設ける工程も別途必要となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-168772号公報
【特許文献2】特開2005-150420号公報
【特許文献3】特開2010-192717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑み、量産性に優れるとともに、優れた放熱性能を発現できる放熱構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下(1)~(5)に示す手段を採用できる。
【0010】
(1)電気回路装置の外部へ露出する放熱板と、伝熱部材と、冷却器とが積層構造をなすように配置されて含まれる、電気回路装置の放熱構造であって、
前記伝熱部材が、セラミックス一次粒子が3次元的に一体構造をなしている焼結体に樹脂組成物が含浸しているセラミックス樹脂複合体であり、
前記伝熱部材が、前記放熱板および前記冷却器のうちの少なくとも一方と直接接触して積層するように配置される
ことを特徴とする電気回路装置の放熱構造。
【0011】
(2)セラミックス樹脂複合体が、平均長径が3~60μm、アスペクト比が5~30である窒化ホウ素一次粒子が3次元的に一体構造をなしているセラミックス焼結体35~70体積%に、樹脂組成物65~30体積%を含浸している、セラミックス樹脂複合体である、(1)記載の電気回路装置の放熱構造であることが好ましい。
【0012】
(3)伝熱部材が、厚さ0.05mm以上1.0mm以下の平板状である、(1)または(2)記載の電気回路装置の放熱構造であることが好ましい。
【0013】
(4)電気回路装置が、発熱素子を挟んで向かい合い、それぞれが外部への露出面を有する、少なくとも2枚以上の放熱板を備えている、(1)~(3)のいずれかに記載の電気回路装置の放熱構造であることが好ましい。
【0014】
(5)積層構造の積層面に対して垂直な方向に、圧縮方向の圧力をかけている、(1)~(4)のいずれかに記載の電気回路装置の放熱構造であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態によれば、発熱素子の放熱板と冷却器の間に、伝熱部材として熱伝導率の高いセラミックス樹脂複合体を配置して用いることができる。このため、熱伝導性が極めて高く、また放熱部材の量産性にも優れている、電気回路装置の放熱構造を提供することができ、さらにその結果として、電気回路装置を熱的に保護すると共に、その電気的性能の保持に資する電気回路装置も提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る放熱構造の概略を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書においては、別段の断わりが無いかぎりは、数値範囲はその上限値および下限値を含むものとする。
【0018】
本発明の実施形態に係る電気回路装置の放熱構造は、電気回路装置の外部へ露出する放熱板に、伝熱部材を介して冷却器を接して配置される構成を有しており、かつ当該伝熱部材が、その放熱板および冷却器のうちの少なくとも一方と直接接触して積層するように配置される。前記伝熱部材は、セラミックス一次粒子が3次元的に一体構造をなしている焼結体に樹脂組成物が含浸しているセラミックス樹脂複合体を少なくとも含む伝熱部材である。
【0019】
<電気回路装置>
本明細書でいう電気回路装置は、発熱素子と、前記発熱素子の近傍にまたは接して配置されかつ外部への露出面を有する放熱板とを備えている電気回路装置である。通常は外部への接続端子や前記放熱板の露出面を除き、封止材で電気回路装置の全体が覆われている。電気回路装置としてはパワーモジュールが代表的な例であるが、本明細書でいう電気回路装置は、特にパワーモジュールと呼ばれる電気回路装置のみを指している用語ではなく、発熱する素子を内部に含み、外部への露出面を有する放熱板を含む一体の装置を包括的に示す概念である。
【0020】
<発熱素子>
本明細書でいう電気回路装置に含まれる発熱素子とは、電流を流して使用する際に多かれ少なかれ熱を発生する素子である。そのため、本発明では発熱素子の種類を限定するものではなく能動素子であれ受動素子のいずれでも良いが、本発明と関係が深い発熱素子としては、例えば、パワーMOSFET、IGBT、サイリスタやSiCデバイス等の、主にモーターや照明装置の駆動制御や電力変換など、電力関係の制御等に用いられるパワー半導体素子を挙げることができる。
【0021】
<放熱板>
本明細書でいう放熱板とは、前記電気回路装置において、発熱素子の近傍にまたは接して配置され、発熱素子の熱を逃がすために、外部への露出面を有する、例えば銅合金もしくはアルミ合金等の金属でできた熱伝導性及び電気伝導性の良い板である。電気回路装置の種類によっては電極としての機能を兼ねていることもある。本発明では、放熱板の形状や、ひとつの電気回路装置に含まれる放熱板の数や、放熱板が複数ある場合、それらの位置関係を限定するものではないが、典型的な実施形態においては、電気回路装置は、平板に近い形態をしており、放熱板はその片面または上下両面に配置されているようにできる。
【0022】
<伝熱部材>
本発明の実施形態に係る伝熱部材は、セラミックス一次粒子が3次元的に一体構造をなしているセラミックス焼結体に、樹脂組成物が含浸している複合体(以下セラミックス樹脂複合体という)である。前記セラミックス樹脂複合体には、本発明の実施形態に係る放熱構造の特性を損なわない限り、放熱グリース層を、前記セラミックス樹脂複合体と前記放熱板の露出面との界面、または前記セラミックス樹脂複合体と冷却器との界面のうちのいずれか一方に設けても良い。
【0023】
前記セラミックス樹脂複合体は、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素から選ばれる少なくとも一種のセラミックス一次粒子が、3次元的に連続した一体構造をなしている焼結体(以下、セラミックス一次粒子焼結体という。またセラミックス一次粒子が、窒化ホウ素である場合は、窒化ホウ素一次粒子焼結体といい、窒化アルミニウムである場合は、窒化アルミニウム一次粒子焼結体といい、窒化ケイ素である場合は、窒化ケイ素一次粒子焼結体という。)が好ましい。特に前記セラミックス一次粒子が窒化ホウ素一次粒子である場合には、前記セラミックス樹脂複合体は、平均長径が3~60μm、アスペクト比が5~30である窒化ホウ素一次粒子が3次元的に一体構造をなしているセラミックス焼結体35~70体積%、好ましくは40~65体積%に対して、樹脂組成物(好ましくは、熱硬化性樹脂組成物)65~30体積%、好ましくは60~35体積%を含浸している、セラミックス樹脂複合体であることが好ましい。なお前記セラミックス樹脂複合体のセラミックス焼結体の量が、35体積%より小さいと、熱伝導率の比較的低い樹脂組成物の割合が相対的に増えるため、伝熱部材全体の熱伝導率が低下する。逆にセラミックス焼結体の量が70体積%より大きいと、放熱板や冷却器に伝熱部材を加熱加圧により接着する際に、放熱板表面の凹凸に熱硬化性樹脂組成物が浸入し難くなり、引っ張りせん断接着強さと熱伝導率が低下する可能性がある。
【0024】
窒化ホウ素一次粒子が3次元的に一体構造をなしているセラミックス焼結体を得る場合には、例えば窒化ホウ素の一次粒子の粉末に、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ホウ酸等の焼結助剤を0.01~20質量%程度、典型的には0.1~10質量%程度、より典型的には1~5質量%程度の内割で配合し、金型や冷間等方圧加圧法(CIP)等の公知の方法にて成形した後、窒素、アルゴン等の非酸化性雰囲気中、温度1500~2200℃で1~30時間程度焼結することによって製造することができる。
【0025】
前記の焼結に用いる焼結炉には、マッフル炉、管状炉、雰囲気炉などのバッチ式炉や、ロータリーキルン、スクリューコンベヤ炉、トンネル炉、ベルト炉、プッシャー炉、竪形連続炉などの連続式炉が挙げられる。これらは目的に応じて使い分けられ、たとえば多くの品種の窒化ホウ素焼結体を少量ずつ製造するときはバッチ式炉を、一定の品種を多量製造するときは連続式炉が採用される。
【0026】
前記セラミックス樹脂複合体に含まれる樹脂組成物の量は、伝熱部材の30~65体積%の範囲内であることが好ましく、35~60体積%の範囲内であることがより好ましい。セラミックス樹脂複合体に含まれる樹脂組成物の量は、セラミックスと樹脂の複合化前後の重量測定及び比重値によって算出できる。なお、前記樹脂組成物は、熱硬化性樹脂組成物であることが好ましい。
【0027】
前記熱硬化性樹脂組成物としては、例えばエポキシ基を有する物質及びシアネート基を有する物質の何れか一方又は両方と、水酸基を有する物質及びマレイミド基を有する物質の何れか一方又は両方との組み合わせであることが好ましい。これらの中でも、シアネート基を有する物質とマレイミド基を有する物質の組み合わせがより好ましい。
【0028】
エポキシ基を有する物質としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂(クレゾールのボラックエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等)、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂が挙げられる。
【0029】
シアネート基を有する物質としては、2,2'-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン、ビス(4-シアナト-3,5-ジメチルフェニル)メタン、2,2'-ビス(4-シアナトフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1'-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、1,3-ビス(2-(4-シアナトフェニル)イソプロピル)ベンゼン等のシアネート樹脂が挙げられる。
【0030】
水酸基を有する物質としては、フェノールノボラック樹脂、4,4'-(ジメチルメチレン)ビス[2-(2-プロペニル)フェノール]等のフェノール類が挙げられる。マレイミド基を有する物質としては、4,4'-ジフェニルメタンビスマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3'-ジメチル-5,5'-ジエチル-4,4'-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6'-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、4,4'-ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4'-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、2,2'-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン等のマレイミド樹脂が挙げられる。
【0031】
前記セラミックス樹脂複合体には、適宜、セラミックスと樹脂組成物間の密着性を向上させるためのシランカップリング剤、濡れ性やレベリング性の向上及び粘度低下を促進して含浸・硬化時の欠陥の発生を低減するための消泡剤、表面調整剤、湿潤分散剤を含有することができる。さらに、硬化速度や発熱開始温度を制御するために、硬化促進剤を加えても良い。硬化促進剤としては、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート等の有機リン化合物、アセチルアセトン銅(II)、亜鉛(II)アセチルアセトナート等の金属触媒が挙げられる。
【0032】
セラミックス樹脂複合体は、前記セラミックスと前記樹脂組成物を複合化したものであり、例えばセラミックス一次粒子焼結体に樹脂組成物を含浸させることにより、複合化したものである。この場合セラミックス一次粒子焼結体への樹脂組成物の含浸は、例えば真空含浸及び/または1~300MPa(G)での加圧含浸を実施することにより行うことができる。なお、真空含浸時の圧力は、1000Pa(abs)以下が好ましく、100Pa(abs)以下が更に好ましい。加圧含浸では、圧力1MPa(G)未満ではセラミックス一次粒子焼結体の内部まで樹脂組成物が十分含浸できない可能性があり、300MPa(G)超では設備が大規模になるためコスト的に不利である。なお、窒化ホウ素一次粒子焼結体の内部に樹脂組成物を容易に含浸させるため、真空含浸及び加圧含浸時に100~180℃に加熱し、樹脂組成物の粘度を低下させることも可能である。
【0033】
前記樹脂組成物が、熱硬化性樹脂組成物である場合は、熱硬化性樹脂組成物を半硬化(Bステージ化)させることも可能であり、好ましい方法である。半硬化させるための加熱方式は、赤外線加熱、熱風循環、オイル加熱方式、ホットプレート加熱方式又はそれらの組み合わせで行うことができる。半硬化は、熱硬化性樹脂組成物を含浸させた後に、含浸装置の加熱機能を利用してそのまま行っても良いし、含浸装置から取り出した後に、熱風循環式コンベア炉等の公知の装置を用いて別途行っても良い。
【0034】
本発明のある実施形態では、前記セラミックス樹脂複合体に対して、本発明の放熱構造の特性を損なわない限り、放熱グリース層を、前記セラミックス樹脂複合体と前記放熱板の露出面との界面、または前記セラミックス樹脂複合体と冷却器との界面のいずれか一方に設けても良い。放熱グリースとしては、例えばシリコーン樹脂に熱伝導性フィラーが充填されたものであり、その熱伝導率としては1~5W/(m・K)程度のものを用いることが好ましく、例えばセラミックス樹脂複合体の表面に塗布する形で用いることができる。塗布する場合の厚さとしては20~100μmであることが好ましい。伝熱部材に放熱グリースを塗布することで、セラミックス樹脂複合体は放熱板または冷却器と、より密着しやすくなるため、放熱構造の伝熱性能が高まることがある。別の実施形態における放熱構造では、放熱板を二面有している場合に、一方の放熱板には放熱グリース層が一層存在し、他方の放熱板には放熱グリース層を含まないようにもできる。なおも別の実施形態においては、放熱構造が放熱グリース層を含まないようにもできる。
【0035】
伝熱部材の厚みは、電気回路装置の放熱構造の、電気的及び熱的な要求特性に沿って、適宜変えることができる。伝熱部材は、例えばマルチワイヤーソー(「MWS-32N」 タカトリ社製)などを用いて、所定厚みのシート状に加工することができ、特に熱抵抗を少なくしたい場合は、0.1~0.35mmの薄シート状とすることも可能である。
【0036】
<冷却器>
冷却器は、一般に金属が好ましく、例えば成形したアルミニウムが好ましく用いられる。冷却器は、伝熱部材に接して配置するのに適した面を有することが好ましいが、その他の形状や内部構造については特に限定はなく、冷却液が内部に流れるようにした液冷式の構造であっても、冷却フィンを有する空冷式の構造であっても、特に制限はない。
【0037】
本発明の実施形態に係る電気回路装置の放熱構造では、電気回路装置に備わる放熱板の露出面に接して、伝熱部材が配置され、さらに前記放熱板とは直接接触させずに前記伝熱部材に接して冷却器が配置されている。なお、前記電気回路装置が、発熱素子を挟んで向かい合う、少なくとも2枚以上の放熱板を備えていることも可能である。この場合の放熱板は、一般的には平行に向かい合っていることが好ましい。そのため、本発明の電気回路装置の放熱構造では、電気回路装置の両面に、それぞれ伝熱部材を介して冷却器を装着して積層構造とした放熱構造が好ましく採用される。さらに冷却器をより強く電気回路素子に密着させて放熱特性を向上させるため、電気回路装置、伝熱部材を挟み込み、強く締め付けて積層面に対して垂直な方向に圧縮荷重(すなわち圧縮方向の圧力)をかけることを可能とした構造も好ましく採用される。また積層面の全体にわたって圧縮荷重をかけることが熱伝導効率に鑑みてより好ましい。圧縮荷重をかける方法には、特に限定はないが、例えば、図1に示すように、例えば冷却器に孔を開け、ボルトやナットなどを利用した締め付け部材を取り付けて、互いに向かい合う冷却器同士をネジで引き合うようにして圧縮荷重をかける方式の放熱構造を、好ましく採用することができる。
【実施例0038】
以下、本発明を実施例、比較例を挙げて更に具体的に説明するが、これらは本発明及びその利点をより良く理解するために提供されるのであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0039】
実施例、及び比較例の放熱構造を構成するための準備として、以下に示す電気回路装置、伝熱部材、放熱グリース、冷却器を準備し、それぞれの概要を下記の表1に示した。
【0040】
<電気回路装置>
電気回路装置として、縦35mm×横21mmの平板長方形の放熱板を上面/下面の両面に有する、両面冷却型パワーモジュールを準備した。なお、前記パワーモジュールの発熱量は310Wである。これを電気回路装置Aとする。
【0041】
<伝熱部材>
伝熱部材として、シート状の窒化ホウ素一次粒子が3次元的に一体構造をなしているセラミックス焼結体に樹脂組成物を含浸させたセラミックス樹脂複合体を準備した。これを伝熱部材Bとする。伝熱部材Bの熱伝導率は80W/(m・K)であった。
【0042】
<セラミックス樹脂複合体>
前記セラミックス樹脂複合体は、窒化ホウ素粉末を3次元的に焼結させた窒化ホウ素焼結体に、熱硬化性樹脂組成物を含浸させた窒化ホウ素焼結体の樹脂複合体である。前記窒化ホウ素焼結体は、平均長径が18μm、アスペクト比が12の窒化ホウ素と、平均長径が6μm、アスペクト比が15の窒化ホウ素と、ホウ酸と、炭酸カルシウムとを、64.2:34.0:1.2:0.6の質量比で合わせ、これをエタノール、窒化ケイ素製ボ-ルミルを用いて湿式法で2時間混合後、乾燥、解砕して得た混合粉末を、金型に充填し、5MPaの圧力でブロック状にプレス成形し、得られたブロック状成形体を、さらにCIP(冷間等方圧加圧法)装置(ADW800、神戸製鋼所社製)により75MPa(G)の間で加圧処理を行った後、バッチ式高周波炉(FTH-300-1H、富士電波工業社製)にて2000℃で10時間、窒素流量10L/minの条件で焼結させて得たものである。この窒化ホウ素焼結体の比重は1.51であった。さらに、前記窒化ホウ素焼結体を縦45mm×横35mm×厚0.32mmのシート状に切り出し、真空加温含浸装置(G-555AT-R、協真エンジニアリング社製)を用いて、温度145℃、圧力15Pa(abs)の真空中で、各々10分間脱気した後、引き続き同装置内で前記の加温真空下で、熱硬化性樹脂組成物、即ちビスフェノールF型エポキシ樹脂(JER807、三菱化学社製、比重1.2)12.1質量%と、ノボラック型シアネート樹脂(PT-30、ロンザ社製、比重1.2)72質量%と、フェノールノボラック樹脂(TD-2131、DIC社製、比重1.2)7.9質量%と、ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン(比重1.3)8質量%とを混合させた樹脂組成物中に、10分間浸漬処理した。次いで、熱硬化性樹脂組成物を含浸させた窒化ホウ素焼結体を、さらに、加圧加温含浸装置(HP-4030AA-H45、協真エンジニアリング社製)内に設置し、温度145℃、圧力3.5MPaの加圧状態で120分間保持し、その後、大気圧下、160℃で、120分間の条件で加熱し、熱硬化性樹脂組成物を半硬化させたシート状のセラミックス樹脂複合体、即ち窒化ホウ素焼結体と樹脂組成物の複合体(以下、窒化ホウ素樹脂複合体シートとも表記する)を得た。このセラミックス樹脂複合体の大きさは元になった窒化ホウ素焼結体のそれと実質的に変わらなかった。またセラミックス樹脂複合体中の窒化ホウ素焼結体と樹脂組成物との体積比を、セラミックスと樹脂の複合化前後の重量測定及び比重によって算出したところ、52:48であった。
【0043】
<放熱グリース>
放熱グリースとしては、熱伝導率2W/(m・K)を示す放熱グリース(G-765、信越化学工業社製)を準備した。これを放熱グリースCとする。
【0044】
<冷却器>
冷却器としては熱伝導率200W/(m・K)の、伝熱部材に接する面が50mm×30mmであり、厚み5mmである平板状の、アルミニウム製の水冷式冷却器を準備した。これを冷却器Dとする。
【0045】
【表1】
【0046】
<実施例1>
準備した電気回路装置Aと窒化ホウ素樹脂複合体シートである伝熱部材Bとの両中心線を一致させ、かつ放熱板の長さ35mmの辺と、伝熱部材Bの45mmの辺とが平行になるように、前記電気回路装置Aの上下両面の放熱板に接して、伝熱部材Bを積層させてから、プレス機圧力10MPa、温度200℃で24時間かけて接着した。さらにその外側に、伝熱部材Bの中心線と冷却器Dの中心線を一致させ、かつ伝熱部材Bの45mmの辺と冷却器の50mmの辺とが平行になるように上下両面から、2個の冷却器を積層させ、実施例の放熱構造とした。2個の冷却器の四隅には、それぞれボルトとナットによる締め付け部材を取り付け、積層面全体にわたって均一に10MPaの圧縮方向の圧力がかかるように調整した。
【0047】
<放熱構造の放熱特性評価>
実施例1の放熱構造の放熱特性である熱抵抗を以下の方法で評価した。熱抵抗は放熱板と冷却器にいたる経路の熱抵抗(℃/W)である。電気回路装置Aの発熱量を310W、冷却器に送る冷却水の入口温度を65℃、冷却水流量を5(l/分)に設定し、放熱板の外側表面と冷却器の外側表面に熱電対を挿入し、温度を測定した。さらに熱抵抗(℃/W)=(放熱板の温度(℃)-冷却器の温度(℃))÷310(W)の式を用いて放熱構造全体の熱抵抗を算出した。実施例1の放熱構造の1段目からの積層順やその締め付け圧力と熱抵抗値は下記表2に示した。また絶縁破壊強さをJISC2110で測定し、その値も表2に示した。
【0048】
<実施例2>
電気回路装置Aの上下両面の放熱板と伝熱部材Bの界面に、厚み20μmの放熱グリースC層を設けた以外は、実施例1と同じ構成、作製手順により、実施例2の放熱構造を作製し、その熱抵抗を実施例1と同様に測定した。この結果は、表2に示した。なお放熱グリースC層はスクリーン印刷機を用いて形成させた。
【0049】
<実施例3>
伝熱部材Bと冷却器Dの2箇所の界面に、厚み20μmの放熱グリースC層を設けた以外は、実施例1と同じ構成、作製手順により、実施例3の放熱構造を作製した。実施例3の熱抵抗も実施例1と同様に測定し、結果を表2に示した。
【0050】
<比較例1>
電気回路装置Aの上下両面の放熱板と伝熱部材Bの界面に、厚み20μmの放熱グリースC層を、伝熱部材Bと冷却器Dの2箇所の界面に、厚み20μmの放熱グリースC層をそれぞれ設けた以外は、実施例1と同じ構成として、比較例1の放熱構造を作製し、その熱抵抗を実施例1と同様に測定した。この結果も表2に示した。
【0051】
<比較例2>
伝熱部材を緻密な窒化ケイ素焼結体とした以外は、比較例1と同じ構造の放熱構造を作製し、比較例2の放熱構造とした。比較例2は従来技術の典型的な構成を持つ放熱構造の例である。なお、前記窒化ケイ素焼結体は、市販の製品(SN-90、マルワ社製)から伝熱部材Bと同寸法になるように切り出したものを使用した。比較例2の放熱構造の構成と熱抵抗値も表2に示した。
【0052】
実施例、比較例の放熱構造が示す放熱特性の比較により、本発明の放熱構造は、放熱グリースC層を片面あたり2層ずつ有していた従来技術の放熱構造より低い熱抵抗であり、より優れた放熱構造であることが示された。
【0053】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の電気回路装置の放熱構造は、一般産業用や車載用パワーモジュールに使用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 発熱素子(パワー半導体素子等)
2 封止材
3 放熱板
(1~3が一体となり電気回路装置を形成している)
4 セラミックス樹脂複合体
5 冷却器
6 締め付け部材
図1