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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103467
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】非接触電力伝送装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/12 20160101AFI20220701BHJP
   H01F 38/14 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
H02J50/12
H01F38/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218101
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】719005611
【氏名又は名称】澤山 昇
(72)【発明者】
【氏名】澤山 昇
(57)【要約】      (修正有)
【課題】磁気結合によって非接触で電力を送受電する非接触送電装置、非接触受電装置及び非接触電力伝送装置を提供する。
【解決手段】非接触電力伝送装置は、角周波数ωoの変動磁場を生成する非接触送電装置10と、その変動磁場から受電する非接触受電装置20からなる。非接触送電装置は、電力供給源100と励磁電源101と1次共振共役回路102と1次コイルLpからなる。電力供給源は、系統電力網や風力発電、太陽光発電及び蓄電池等の外部の電力を、変圧器や整流器等を介して電源101に供給する。非接触受電装置は、2次コイルLsと2次共振共役回路202と整流回路203と負荷204からなる。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の角周波数ωoの変動磁場によって起電力を生じる2次コイルと、前記2次コイルを含む2次回路を有する受電装置であって、
前記2次回路の共振角周波数をωsとし、前記2次回路の全抵抗をRsとして、前記2次コイルの実装状態でのインダクタンスLsが概略[数1]の関係を満たすことを特徴とする非接触受電装置。
【数1】
【請求項2】
所定の角周波数ωoの変動磁場によって起電力を生じる2次コイルと、前記2次コイルを含む2次回路を有する受電装置であって、前記変動磁場が1次コイルを含む1次回路を有する送電装置によって生成され、前記送電装置と前記受電装置の相対位置が変更可能なものにおいて、
前記1次コイルと前記2次コイルの結合係数をkとし、前記1次回路の消費電力Ppと前記2次コイルの受電電力Psの比Pp/Psをζとして、Kzが
【数10】
で与えられ、前記2次回路の全抵抗をRsとして、前記2次コイルの実装状態でのインダクタンスLsが概略[数2]の関係を満たす前記結合係数kが、所定の電力を受電可能な前記送電装置と前記受電装置の相対位置の範囲内に存在することを特徴とする非接触受電装置。
【数2】
【請求項3】
所定の角周波数ωoの変動磁場によって起電力を生じる2次コイルと、前記2次コイルを含む2次回路を有する受電装置であって、前記変動磁場が1次コイルを含む1次回路を有する送電装置によって生成され、前記送電装置と前記受電装置の相対位置が変更可能なものにおいて、
前記1次回路の消費電力Ppと前記2次コイルの受電電力Psの比Pp/Psを比装荷ζとし、前記2次回路の全抵抗をRsとして、前記2次コイルの実装状態でのインダクタンスLsが概略[数3]の関係を満たす前記1次コイルと前記2次コイルの結合係数kが、所定の電力を受電可能な相対位置の範囲内に存在することを特徴とする非接触受電装置。
【数3】
【請求項4】
外部の装置の作る変動磁場に感応して起電力を生じる2次コイルと、前記2次コイルを含む2次回路を有する受電装置であって、
前記2次回路の共振周波数ωsと、前記2次コイルの実装状態でのインダクタンスLsと、前記2次回路の全抵抗Rsから、[数4]で定義されるCQsが5~100の範囲の値であることを特徴とする非接触受電装置。
【数4】
【請求項5】
所定の角周波数ωoの変動磁場を生成する1次コイルを含む1次回路を有する送電装置であって、所定の2次コイルを含む2次回路を有する受電装置と前記送電装置の相対位置が変更可能なものにおいて、
前記1次コイルと前記2次コイルの結合係数をkとし、前記1次回路の消費電力Ppと前記2次コイルの受電電力Psの比Pp/Psをζとして、Kzが
【数10】
で与えられ、前記1次回路の全抵抗をRpとして、前記1次コイルの実装状態でのインダクタンスLpが概略[数5]の関係を満たす前記結合係数kが、所定の電力を送電可能な前記送電装置と前記受電装置の相対位置の範囲内に存在することを特徴とする非接触送電装置。
【数5】
【請求項6】
1次コイルを含む1次回路を有し所定の角周波数ωoの変動磁場を生成する送電装置であって、所定の2次コイルを含む2次回路を有する受電装置と前記送電装置の相対位置が変更可能なものにおいて、
前記1次回路の消費電力Ppと前記2次コイルの受電電力Psの比Pp/Psをζとし、前記1次回路の全抵抗をRpとして、前記1次コイルの実装状態でのインダクタンスLpが概略[数6]の関係を満たす前記結合係数kが、所定の電力を送電可能な相対位置における前記結合係数kの値の範囲内に存在することを特徴とする非接触送電装置。
【数6】
【請求項7】
1次コイルと、前記1次コイルを含む1次回路を有するものであって、
前記1次回路の共振周波数をωpとし、前記1次コイルの実装状態でのインダクタンスをLpとし、前記1次回路の全抵抗をRpとして、[数7]で定義されるCQpが5~100の範囲の値であることを特徴とする非接触送電装置。
【数7】
【請求項8】
前記特許請求項2記載の非接触受電装置と、前記特許請求項5記載の非接触送電装置よりなることを特徴とする非接触電力伝送装置。
【請求項9】
前記特許請求項3記載の非接触受電装置と、前記特許請求項6記載の非接触送電装置よりなることを特徴とする非接触電力伝送装置。
【請求項10】
前記特許請求項4記載の非接触受電装置と、前記特許請求項7記載の非接触送電装置よりなることを特徴とする非接触電力伝送装置。
【請求項11】
1次コイル有する送電装置の作る変動磁場によって起電力を生じる2次コイルと、前記2次コイルを含む2次回路を有し、前記送電装置との相対位置が変更可能であり、前記1次回路の消費電力Ppより前記2次コイルの受電電力Psが小さい装置であって、
前記2次回路の共振周波数をωsとし、前記2次コイルの実装状態でのインダクタンスをLsとし、前記2次回路の全抵抗をRsとして、[数11]で定義されるkCQsが1以下の値になる前記1次コイルと前記2次コイルの結合係数kが、所定の電力を受電可能な相対位置の範囲内に存在することを特徴とする非接触受電装置。
【数11】
【請求項12】
変動磁場を生成する1次コイルと、前記1次コイルを含む1次回路を有し、所定の2次コイル有する受電装置との相対位置が変更可能であり、前記2次コイルの受電電力Psより前記1次回路の消費電力Ppが小さい装置であって、
前記1次回路の共振周波数をωpとし、前記1次コイルの実装状態でのインダクタンスをLpとし、前記1次回路の全抵抗をRpして、[数12]で定義されるkCQpが1以下の値になる前記1次コイルと前記2次コイルの結合係数kが、所定の電力を受電可能な相対位置の範囲内に存在することを特徴とする非接触送電装置。
【数12】
【請求項13】
2次コイルと、前記2次コイルを含む2次回路を有し、所定の1次コイル有する送電装置の生成する変動磁場より受電する装置であって、
前記変動磁場の周波数が系統電力の周波数と等しく、前記1次回路の共振周波数をωpとし、前記1次コイルの実装状態でのインダクタンスをLpとし、前記1次回路の全抵抗をRpとし、前記1次コイルと前記2次コイルの結合係数をkとして、[数12]で定義されるkCQpの値が1~10の範囲内であることを特徴とする非接触受電装置。
【数12】
【請求項14】
1次コイルと、前記1次コイルを含む1次回路を有し、系統電力を電力源とし、前記電力源と同じ角周波数ωoの変動磁場を生成し、所定の2次コイル有する受電装置へ電力伝送する装置であって、
前記1次回路の共振周波数をωpとし、前記1次コイルの実装状態でのインダクタンスをLpとし、前記1次回路の全抵抗をRpとし、前記1次コイルと前記2次コイルの結合係数をkとして、[数12]で定義されるkCQpの値が1~10の範囲内であることを特徴とする非接触送電装置。
【数12】
【請求項15】
1次コイルを含む1次回路を有する送電装置によって生成される変動磁場に感応して起電力を生じる2次コイルと、前記2次コイルを含む2次回路を有する装置であって、
前記1次回路の消費電力Ppと前記2次コイルの受電電力Psの比Pp/Psを比装荷ζが0.2より小さいものであって、
前記2次回路の共振周波数をωsとし、前記2次コイルの実装状態でのインダクタンスをLsとし、前記2次回路の全抵抗をRsとして、[数11]で定義されるkCQsの値が1~10の範囲内であることを特徴とする非接触受電装置。
【数11】
【請求項16】
変動磁場を生成する1次コイルと、前記1次コイルを含む1次回路を有し、所定の2次コイル含む2次回路を有する装置であって、
前記1次回路の消費電力Ppと前記2次コイルの受電電力Psの比Pp/Psを比装荷ζが0.2より小さいものであって、
前記1次回路の共振周波数をωpとし、前記1次コイルの実装状態でのインダクタンスをLpとし、前記1次回路の全抵抗をRpして、[数12]で定義されるkCQpの値が1~10の範囲内であることを特徴とする非接触送電装置。
【数12】
【請求項17】
2次コイルが磁気回路を共有する2つの巻線からなり、前記2つの巻線が直列または並列に接続可能なことを特徴とする前記特許請求項15記載の非接触受電装置。
【請求項18】
1次コイルが磁気回路を共有する2つの巻線からなり、前記2つの巻線が直列または並列に接続可能なことを特徴とする前記特許請求項16記載の非接触送電装置。
【請求項19】
前記特許請求項17記載の非接触受電装置と、前記特許請求項18記載の非接触送電装置よりなり、
前記非接触受電装置の2次コイルを構成する2つの巻線を直列接続する場合には、前記非接触送電装置の1次コイルを構成する2つの巻線を直列接続し、前記非接触受電装置の2次コイルを構成する2つの巻線を並列接続する場合には、前記非接触送電装置の1次コイルを構成する2つの巻線を並列接続することを特徴とする非接触電力伝送装置。
【請求項20】
前記特許請求項19記載の非接触送電装置において、1次コイルおよび2次コイルの2つの巻線を直列接続する場合と並列接続する場合で1次コイル2次コイルの結合係数を変更することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気結合によって非接触で電力を送受電する非接触送電装置、非接触受電装置、非接触電力伝送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1980年代に、電動歯ブラシやシェーバーなどの小電力機器を、殆ど密着した状態で非接触充電するものが登場した(非特許文献1)。また、1990年代には、非接触ICカードやRFIDタグなどに、微弱ではあるが情報を処理するのには十分な電力を明確な空間を隔て伝送するが登場した。その後、ノートパソコンや携帯電話などのモバイル機器が急速に普及するに従い、ワイヤレス給電の開発やその規格化に検討も始まった。2000年台に入るとEV車やEVバスなどの大型機器への非接触電力伝送の研究開発や実証実験が広まった(非特許文献2,3)。
【0003】
このように大電力の非接触伝送への期待が高まる中、2007年にマサチューセッツ工科大学(MIT)のグループが、約2m離れた自己共振コイル間で実用的な電力伝送が可能なことを実証した(非特許文献4)。この技術はWiTricityと命名され、同名のベンチャー企業が設立された。また、WiTricityに触発されて多くの大学やメーカで非接触電力伝送の研究・開発に拍車がかかった。
【0004】
しかし、WiTricityの衝撃的な発表より10年以上経った今日でも実用化されていない。その要因として、WiTricityは新しい原理による電力伝送方式であると喧伝されたが、WiTricityの動作説明に用いられたCoupled-Mode Theory(CMT)は物理法則に立脚しないToy Modelであり、設計には使えない(非特許文献7)。代わりに、新しい原理という謳い文句に釣られてか、種々の新説・珍説が登場し、WiTricity以前の地道な研究は脇道に追いやられたこともその要因と考えられる。
【0005】
国内の学会では、Sパラメータの透過係数を効率と見做し、反射を抑えて透過を大きくするのが良いとする方法(非特許文献5,6)が、実験の容易さも手伝ってか多くの研究者が追随し主流となっている。しかし、周波数が高々数MHzで数メートル程度の装置における電磁現象は準静的であり、反射や透過といった波動特有の現象は起きない。学会活動が活発でない中小のメーカが多くの製品を発売しているにも拘わらず、反射や透過の概念を用いて開発された製品が出て来ないのは当然のことである。
【0006】
一方、科学的に実証された電磁誘導に立脚した研究も少なくない。例えば、非特許文献3ではコイルのkQ積が重要な因子であるとした。また、WiTricity発表直後から特許文献1等の出願を行い、日本でのWiTricity関連の出願の大半を占めていたメーカも、現在では通常の電磁誘導による電力伝送の出願に回帰ている。例えば、特許文献3では「送電コイルに流れる電流が最小となるように送電電力の周波数を調整することによって、送電コイルと受電コイルとの間の電力伝送効率を高めることができる」としている。
【0007】
しかし、これらの方法では、相対的に良い条件が得られたとしても、それが最適条件か否かは示せない。また、上記をはじめとする従来の非接触電力伝送の理論式は、電源の内部抵抗を無視している(これは、インピーダンスマッチングを前提に電源や負荷回路を省略する四端子法の手法を無批判に踏襲しているためと思われる)。しかし、電源の発熱は電力伝送装置の成否を決定づける主要な因子であり、電源の内部抵抗を含まず発熱量求められない理論は殆ど役に立たない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4453741号公報
【特許文献2】特許第5069726号公報
【特許文献3】特許第6409750号公報
【特許文献4】特願2019-195023号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】安倍秀明, 坂本浩, 原田耕介:「非接触充電システムにおける負荷整合」電学論D, Vol.119, No.4, pp.536-543 (1999)
【非特許文献2】紙屋雄史, 大聖泰弘, 松木英敏:「電動車両用非接触急速充電システム」,電学誌, Vol.128, No.12, pp.804-807 (2008)
【非特許文献3】遠井敬大,金子裕良,阿部茂,非接触給電の最大効率の結合係数kとコイルのQによる表現,電気学会論文誌, Vol. 132, No. l, pp. l23-124, 2012.
【非特許文献4】Andre Kurs et al.: “Wireless Power Transfer via Strongly Coupled Magnetic Resonances”, Science 06 Jul 2007: Vol. 317, Issue 5834, pp. 83-86 アンドレ・クルス(Andre Kurs)、他5名、“ワイヤレス パワー トランスファー バイア ストロングリィ カップルド マグネティック レゾナンス(Wi reless Power Transfer via Strongly Coupled Magnetic Resonances)”、 [online]、 2007年7月6日、サイエンス(SCIENCE)、第317巻、p.83-86、[平成2 007年9月12日検索]、 インターネット URL:http://www.sciencemag.org/cgi/reprint/317/5834/83.pdf
【非特許文献5】居村岳宏, 内田利之, 堀洋一:「近傍界用磁界アンテナの共振を利用した高効率電力転送の解析と実験―基本特性と位置ずれ特性―」, 平成 20 年電学産応部門大会, Vol.II, 2-62, pp.539?542 (2008)
【非特許文献6】日下佳祐, 伊東淳一:「磁界共振結合による非接触給電の駆動用電源及び受電側整流器に関する一考察」, 電学論 D, Vol. 132, No. 8,pp.849-857(2012)
【非特許文献7】澤山昇:「磁気結合共振回路の一般解と伝送電力の理論式」, 電学論D, Vol.136 No.4, pp.291-301, (2016).
【非特許文献8】澤山昇:「磁気結合共振回路の解空間の構造と等時定数解」, 電学論D, Vol.136 No.10, pp.798-810, (2016).
【非特許文献9】澤山昇:「最大電力伝送定理の結合共振回路への拡張及び統合共振条件の導出」, 電学論D, Vol.137 No.4, pp.284-294, (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来は、個別の非接触電力伝送装置に対して四端子法や経験則を適用して改良条件を提案したり、シミュレーションによって提案回路が改善が認められたと主張されているが、それが最良のものかどうかを議論する術がなかった。最良であることを知るには解全体を俯瞰する方法が必要である。そして、Kirchhoffの法則から演繹された解析解が恐らく唯一の方法である。然しながら、非接触電力伝送装置は複雑で非線形素子を含むので、解析解を求めるのは困難である。
また、従来の方法では、共振周波数は決定できても、非接触電力伝送装置の最も重要なコイルのインダクタンスを決定することができなかった。さらに、電源の内部損失やコイルの磁場によるヒステリシス損や渦電流損に起因する抵抗やコイルの周辺材料によるインダクタンスの変化やコイル自体の静電容量等々が組み込まれていないために理論は実際との乖離が大きく、定性的な議論はできても、定量的に電流・電圧・発熱量を算出し、要求仕様を満たす装置の実現性や設計要件を知ることはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
《1》任意効率の最大電力伝送定理(MPTTwAE)の導出
理想化した磁気結合共振回路の等価回路にKirchhoffの法則を適用し、任意の(目標)効率を制約条件にして最大電力となる解「任意効率の最大電力伝送定理:Maximum Power Transfer Theorem with Arbitry Efficiency(MPTTwAE)」を導出する。これによって、要求仕様から全ての回路定数を決定することができ、解全体を俯瞰できるようになる。
《2》MPTTwAEを実際の装置に適用する方法(設計理論)の確立
実際の非接触電力伝送装置とMPTTwAEの導出に用いた等価回路との対応関係を明確にし、実際の装置でMPTTwAEの諸因子を測定する方法を明確にする。
《3》実施例(MPTTwAEとその設計理論の応用)
MPTTwAEの回路定数を用いた非接触電力伝送装置で生じる電流・電圧・発熱量等を算出し、非接触電力伝送装置の成立性や設計要件を明らかにする。また、磁気結合共振回路の理論限界領域を探査することで、新たなコンセプトの装置やシステムを提案する。
【発明の効果】
【0012】
与えられた仕様からコイルのインダクタンスを含む全ての回路定数を決定し、電力伝送に伴う電流・電圧・仕事量(発熱)を算出することで、与えられた仕様が達成可能なものか事前に判定し、達成不可能な仕様による無駄な開発投資を無くす。また、非接触電力伝送装置の実現可能な限界領域を探査し、付加価値の高い製品の企画・開発に役だてる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】磁気結合共振回路が線形な特性のLCRの素子からなる等価回路
図2】磁気結合共振回路の周波数特性例(市販品の回路定数を使用)
図3】臨界領域(実線)と1点で接する伝達インピーダンスFの軌跡(点線と破線)
図4】時定数τをパラメータとするFの軌跡(実線)、周波数をパラメータとするFの軌跡(破線)
図5】被装荷ζをパラメータとするFの軌跡(実線)と、被装荷ζ=0.11(効率0.9)の場合の周波数をパラメータとするFの軌跡(破線)
図6】効率0.5の場合の周波数をパラメータとするFの軌跡(破線)
図7】効率0.1の場合の周波数をパラメータとするFの軌跡(破線)
図8】非接触電力伝送装置のブロック図(実施例3)
図9】角周波数ωoの変動磁場を生成する非接触送電装置のブロック図
図10】角周波数ωoの変動磁場から受電する非接触受電装置のブロック図
図11】交流電圧を整流し、IGBTで高周波の交番電圧を発生する非接触電力伝送装置
図12】交流電圧を整流し、IGBTで高周波の交番電圧を発生する非接触送電装置
図13】変動磁場から電力を受電し、MOS-FETで整流して二次電池を充電する非接触受電装置
図14】[図11]の非接触電力伝送装置における[図1]の等価回路に相当する領域
図15】コイルの前後に共振コンデンサが接続された磁気結合共振回路
図16】共振コンデンサが直列と並列に接続された磁気結合共振回路
図17】実施例1の等価回路:直流電源を電力源とする非接触電力伝送装置
図18】実施例2の等価回路:商用電源を変圧して用いる非接触電力伝送装置
図19】実施例4及び実施例5の等価回路:直列接続の例
図20】実施例4の等価回路:並列接続の例
図21】実施例5の等価回路:移動可能なコアが設置された並列接続の例
【発明を実施するための形態】
【0014】
《1》任意効率の最大電力伝送定理(MPTTwAE)の導出
経験則に頼ることなく、第一原理であるKirhhoffの法則のみを用いて「高効率で最大の電力伝送する解」を演繹することを試みた(非特許文献7,8,9)が、求める解は得られなかった。しかし、MPTTwAEの導出や設計理論のための有用な知見が得られたので、以下で簡単に紹介する。
【0015】
非特許文献7では、磁気結合共振回路の電流に関する二階の二元微分積分方程式(特性方程式は4次)を電流と電荷の四元ベクトルに関する一階のベクトル微分方程式に変換して一般解を求めた。それを足掛かりにすれば最適解にたどり着けるという目論見であったが、一般解の式は複雑で見通しの悪いものであった。しかし、後日役に立つ以下の知見が得られた。
四元ベクトルの時間発展行列を対角化する変換行列は、2つの固有値とその複素共役と2つの複素数(混合係数と命名)で表すことができる。また、全ての構成要素でのエネルギー収支:エネルギーの流入量から搬出・消費量を引いたものは蓄積量に一致することや、1次回路の伝送電力と2次回路の受電電力と2次回路の消費電力(負荷での消費を含む)は等しいことを確認した。
【0016】
非特許文献8では、解空間を対称性(1次と2次回路の共振周波数が等しい等)によって分類した。狙いに反して、最適解の含まれている領域を絞り込むことはできなかったが、以下の発見があった。
混合係数(非特許文献7)を実数に限定することは、1次と2次回路の時定数を等しくすること(等時定数条件)と等価である。混合係数を実数に限定すると四元ベクトルの成分間の混合が単純になるので、等時定数条件を付与することで最適解求まる可能性が高い。
【0017】
非特許文献9では、最大電力伝送定理(1ループ回路では既知)を磁気結合共振回路(2ループ回路)へ拡張した。1次回路の全抵抗を小さくし、2次回路の全抵抗を大きくすれば、高効率での最大電力伝送が可能になるのではないかと期待したからである。しかし、最大電力伝送条件にすることで抵抗値の違いは補償され、電力伝送効率は50%に帰着てしまうことが分かった。
結局、一般解を求めたり最大電力伝送条件を解くといった正攻法、つまり自然法則のみを利用する方法では、高効率で最大電力を送る条件は得られな分かった。
【0018】
「任意効率の最大電力伝送定理(MPTTwAE)の導出」
これまで「何らかの方法で回路定数を決定し、その結果としての効率」を算出していた。しかし、この常識的な方法とは逆に「任意の効率を拘束条件として、最大の電力を伝送する回路定数を決定する」ことが目的に適う方法であった。このようにして導いた定理を「任意効率の最大電力伝送定理:Maximum Power Transfer Theorem with Arbitry Efficiency」と呼びMPTTwAEと略記する。
MPTTwAEの導出のStep
Step-1 Kirchhoffの法則を用い磁気結合共振回路の回路方程式を作る
Step-2 駆動点インピーダンスG及び伝達インピーダンスFを求める
Step-3 最大電力伝送条件(既知:非特許文献9)を求める
Step-4 任意の効率ηが得られる回路条件を求める
Step-5 上記条件下での最大電力伝送条件(MPTTwAE)を求める
応用に適した形への修正と展開
Step-6 結合係数kが小さい場合の漸近式を求める
Step-7 電力伝送の状態量(電流・電圧・仕事量)を求める
【0019】
Step-1:図1は対象とする磁気結合共振回路の等価回路である。記号は慣例に従い、Rq:抵抗、Cq:コンデンサ容量、Lq:コイルインダクタンス、M:相互インダクタンス、k:結合係数を表す。ただし、サフィックスpは1次、sは2次回路に関する量であることを表し、双方を指す場合はqで代表させる。文中ではサフィックスをこのように小文字で表すが、数式の中では大文字の下付き文字で表す。
【0020】
図1の等価回路にKirchhoffの電圧則を適用すると[数1]が得られる。
【数1】
ここで、Mの前の複合"±"は、起電力と2次電流の方向の任意性による。
【0021】
Step-2:電源の電圧波形が三角関数の場合、電流も同じ周波数の三角関数になると考えられ、これらを[数2]の複素指数関数で表す。
【数2】
ただし、Ee:実効値、ω=2πf、f:周波数、j:虚数単位である。
すると[数1]は次のような複素係数の代数方程式になる。
【数3】
この式は簡単に解け、[数4]が得られる。
【数4】
ここで、Gは駆動点インピーダンス、Fは伝達インピーダンスと呼ばれる時間項を含まない回路定数と周波数のみの関数である。
以上で、磁気結合共振回路の一般解が求まった。図2は、[数4]に市販品の回路定数を代入して周波数特性を計算ものである。
【0022】
Step-3:電力伝送経路の抵抗は小さい方が望ましく、負荷抵抗は使用目的によって規定されるのでRqは調整因子にはなりえない。送電装置と受電装置の相対位置が一定しない系を対象とするので、結合係数も調整因子にはならない。また、一般に、電源周波数も送電装置と受電装置の整合を取るための規格によって規定されるので調整因子にはならない。従って、1次回路と2次回路の全抵抗と結合係数や電源周波数は与えられたものとし、LqとCqを調整因子して伝達インピーダンスFの絶対値が最小となる条件を求めることが課題となる。
【0023】
Xqを調整因子としてFの動径が極小となる条件を求める(非特許文献9)。
【数5】
これを[数4]に代入すると、最大電力転送条件でのF,Gが求まる。
【数6】
なお、引数の‘$’はXqが常に[数5]の条件を満たしていることを表す。
【0024】
ωoをωcから無限大まで変化させたときのFの軌跡は、図3に実線で示す半円(臨界領域と呼ぶ)を描く。L,Cがどのような値であっても、Fがこの臨界領域の内側に入ることはない。例えば。或る最大電力転送条件の回路定数に固定して周波数を変化させた場合のFの軌跡は、臨界領域に1点で接する曲線となる(図3の破線や点線)。このとき、Fの動径が最小となり最大の電力が伝送される。しかし、同じ電力が1次回路でも消費され、効率は0.5である。
【数7】
以上が非特許文献9で導いた「最大電力伝送定理の拡張」である。
【0025】
Step-4:効率を制約条件として最大電力伝送条件を求める。通常、効率は「全消費電力に対する負荷RLでの消費電力に比」で定義されるが、本発明では効率ηを「全消費電力に対する2次回路の消費電力の比」で定義する。
【数8】
通常の効率はηRL/Rsで求まる(Rs:2次回路の抵抗)。
【0026】
1次と2次回路の消費電力の比ζ(比装荷と呼ぶ)は、
【数9】
と展開できる。ただし、kは1次コイルと2次コイルの結合係数である。
【数10】
【0027】
[数9]の第2項が0(ζ:最小)となるのは、Lsが次式を満たすときである。
【数11】
このときζは次のように表せる。
【数12】
これをLpについて解くと、目標の比装荷ζを得るためのLpの値が得られる。
【数13】
【0028】
Step-5:残る自由度2(CpとCs)を用いて最大電力条件を求める。非特許文献9に習ってCpとCsによる二重最適化を試みたが、[数11][数13]を用いてLs,Lpを消去したFの表式は複雑で、最適化できなかった。そこで、自由度を1つ減らすために、以下の等時定数条件を付与する。
【数14】
すると[数11][数13]は次のように表される。
【数15】
この[数14][数15]を[数4]の伝達インピーダンスFの式に代入すると、Fは可変量が時定数τのみ(自由度1)の関数となる。
【数16】
ここで、[数17]の変数変換を行うと[数18]が得られる。
【数17】
【数18】
【0029】
図4に、uを変化させたときのFの軌跡を実線で示す。Fの動径が最小となる点uo(x印)では、FとFのuによる微分dF/duが直交する。破線は最適回路定数で周波数を変化させたときのFの軌跡である。uoを解析的に求めるために、まずFをuで微分する。
【数19】
すると、FとdF/duの内積(F,dF/du)は次のようになる。
【数20】
この内積(F,dF/du)=0の解で2より大きいものは、
【数21】
だけである。従って、最適条件での時定数τoは
【数22】
となり、このKzを用いて回路定数は次のように表せる。
【数23】
【0030】
[数23]より、誘導リアクタンスωqLqと全抵抗Rqの比(回路qのクオリティーファクターと呼ぶ)は次式で与えられる。
【数24】
このCQqは無効電力と有効電力の比でもあるが、後述するように5~100とかなり大きな値になる。つまり「大きな無効電力によって大きな磁場を生成することで非接触電力伝送が可能になっている」のである。
【0031】
以上で、与えられた任意の効率η(比装荷ζ)と結合定数kに対して、最大電力となる回路定数(Lq,Cq)が分かった。これを用いて次式が得られる。
【数25】
Goは実関数であり、この系の電源から見た力率は常に1である。また、GoとFoの絶対値はkに依存しないが、Foの偏角ΘはKzに依存する。従って、Foのみ複素平面での軌跡を示す(Goの軌跡は割愛する)。
【0032】
「伝達関数Foの軌跡」
図5の実線はk=0.38に固定して、ζを1/64から64まで変化させたときのFoの軌跡である。 Foはζ=1/64のときx軸の遠方(y軸+側)にあり、ζ=1で臨界円に接し、さらにζが大きくなると第一象限斜め遠方に遠ざかる。 この実線上のζ=0.111(η=0.9)の点(×印)で、uをパラメータとしたFの軌跡(点線)と、ωをパラメータとした軌跡(破線)の3者が交差する。
【0033】
図6は、η=0.5(ζ=1)の場合のuをパラメータとした軌跡(点線)と、ωをパラメータとした軌跡(破線)で、非特許文献9の結果と一致する。このように全く異なった方法を用いて同じ結果が得られるということは、両方共に正しいことの傍証になっている。
【0034】
図7は、η=0.1(ζ=9)の場合のuをパラメータとした軌跡(点線)と、ωをパラメータとした軌跡(破線)である。このような低効率の領域では、uやωの変化に対して伝達インピーダンスの変化も小さい。
【0035】
「漸近式の導出」
Step-6:まずKzの漸近式を求める。kが十分小さいとき、Kzは次式に収束する(最初にk^4の項を無視する)。
【数26】
これを用いると、次の漸近式が得られる。
【数27】
このように、Lqがkに反比例するのでMはkに依存しなくなる。これが、任意のkに対して所定の電力伝送を行い目標効率を達成するメカニズムである。
このとき、GとFの絶対値は不変であるが、Fの偏角Θは次式に収束する。
【数28】
【0036】
時間tの関数f(t)に関する次の記法を導入する。第一の式はt0からt1までの平均を表し、1周期の平均の場合は第二の式のように略記する。第三の式はf(t)の実効値を表す。
【数29】
【0037】
「厳密解と漸近解の差異」
漸近解の導出で用いた[数26]はやや技巧的であり、多少の疑念がのこる。そこで数値計算による厳密解と漸近解の比較を行う。表1に、(1) Input Parameters:入力条件、(2) Optimized Circuit Constants:厳密解、(3) Asymptotic Circuit Constants:漸近解、(4) Percentage Difference:(2)と(3)差分の百分比を列記した。
【0038】
表1より、厳密解と漸近解の差はk=0.8では約24%であるが、k=0.4のとき約5%で、k=0.1では1%未満である。通常の非接触電力伝送装置では、kは0.4以下であり、漸近解でも十分な精度が得られる。
【表1】
【0039】
Step-7:電力伝送の状態量(電流・電圧・仕事量)を求める。
電源電圧が正弦波として複素式の虚部を取ると、[数30][数31]が得られる。
【数30】
【0040】
【数31】
ここで、電源電圧の実効値Eeにはサフィックス‘e’を添えたが、電流・電圧の実効値は単にIq,Vqと表す(瞬時値の(t)を省略したものではない)。
【0041】
電源の供給電力Peや1次2次回路の消費電力Pqは次式で与えられる。
【数32】
この式から以下のことが分かる。
(a) 効率ηを大きくすると電源の供給電力は小さくなる
(b) 電流Iqはkに依存しないが、電圧Vqはkに反比例る
(c) 1次と2次回路の消費電力は1次抵抗Rpに反比例する
これらは装置を設計する上で重要である。また、(c)は、計測機器の電源(50Ω)を用いた実験では、実用的な電力送電の知見は得られないことを示唆している。
【0042】
「数値計算による概要の把握」
[数31][数32]を用いることで、装置を作らずとも回路に流れる電流や各素子に掛かる電圧、各部での発熱量を知ることができる(表2参照)。
表2の(1),(2)は表1と同じで、表2の(3) Circuit Variables は、電圧Eeを印加したときの電流Iq、コンデンサ電圧Vq、仕事量Pqである。Vqの欄で太枠で囲ったセルは電圧が1kVを超えるもので高耐圧の設計が必要なことを表し、Ppの欄で太枠で囲ったセルはや発熱量が300Wを超えるもので、強制放熱等の対策が必要なことを表す。
【0043】
表2の第1行目(ref.1)は、Qiの市販品(図2)の回路定数を用い、電源電圧E0=5Vのものである。第2行目(ref.2)は、単にE0=100Vに変更したもので、1次回路の損失Pp=762Wとなり、発熱で製品化は困難である。第3行目(Opt)は、第1行目の(1) Input Parameters を条件として最適化したもので、1次回路の損失Pp=772Wである。1次回路の損失Ppは効率ηに大きく依存し、η≧0.8にすることでPp≦400Wになる(A列参照)。
【0044】
表2のB行は結合係数kを、D行はRpを、E行はRsを変化させたものである。これより、k=0.1で1kWの電力を伝送するには、Rpを1Ω以下にする必要があることが分かる。Rpは単にコイルの抵抗だけではなく、電源や周辺材料での損失に起因する抵抗が加わるので、この条件は然程簡単ではない。
【0045】
表2の(4) Circuit Quality には、回路qのクオリティーファクターCQq[数24]とkCQ=√(kCQp・kCQs)を記載した。本発明のMPTTwAEで決定した回路定数の場合、CQqはkに概略反比例するので、kが大きく変化してもkCQq積は略一定の値になる。この表より明らかなように、本発明の効率0.8以上の非接触電力伝送装置では、kCQは2~10の範囲に収まる(1次回路、2次回路個別のkCQq積に関しても同様である)。
【0046】
特許文献4で示したように、コイルの大きさはインダクタンスL/透磁率μの比(L/μ)の1/5乗に比例し、電流I/電流密度J0の比(I/J0)の2/5乗に比例する。表2の(5)Sizeは、ref.1に用いた市販品(フラットコイル:径約30mm, Ls=19μH, Is=1A)を基にした比例計算でコイル径を見積もったものである。
【表2】
【0047】
《2》MPTTwAEを実際の装置に適用する方法(設計理論)の構築
発明を実施する非接触電力伝送装置は図8のブロック図や図11の等価回路で表され、MPTTwAEの導出に用いた図1とは一見異なっているが、以下では
1.MPTTwAEの適用範囲(等価回路に相当する範囲)の明確化
2.非線形素子(電源や負荷のスイッチング素子)の線形化
3.回路定数(L,k,C,R)の測定法の明確化
を行うことによって、MPTTwAEが実際の装置に適用可能であることを示す。
【0048】
「1.MPTTwAEの適用範囲の明確化」
非接触電力伝送装置:図8は、角周波数ωoの変動磁場を生成する非接触送電装置:図8の10と、その変動磁場から受電する非接触受電装置:図8の20からなる。これらの装置は、図9図10に示すように独立した製品にもなるが、以下では非接触電力伝送装置として説明する。
【0049】
図11,図12,図13は(図8,図9,図10に対応した)非接触電力伝送装置と非接触送電装置と非接触受電装置の等価回路の例である。結接点:a,a',b, b'・・は、全ての図で同じ機能ブロックを繋ぐものであり、結接点:a-a'間,b-b'間・・の電圧をVa,Vb,・・とし、b点へ左から入りb'点へ右から戻る電流をIp、d点へ左から入りd'点へ右から戻る電流をIsとする。
【0050】
図8の10は、電力供給源100と励磁電源(誤解の恐れの無い場合には単に電源と略称する)101と1次共振共役回路102と1次コイルLpから成る。電力供給源100は、系統電力網や風力発電、太陽光発電および蓄電池等の外部の電力を、変圧器や整流器等を介して電源101に供給するものであり、電力供給源100の内部の電流は一般にIpとは異なる。従って、図8の11(電源101と1次共振共役回路102と1次コイルLp)が図1の1次回路に相当する。
【0051】
図8の20は、2次コイルLsと2次共振共役回路202と整流回路203と負荷204から成る。図11,図13等の等価回路では二次電池のみの負荷となっているが、実際には二次電池の入力電圧を調整したり、二次電池から更に外部へ電力を供給する回路が付属するが割愛した。また、図示しないが、整流回路203以降(負荷204を含む)を負荷回路と呼ぶ。
【0052】
図1の等価回路に対応する非接触電力伝送装置の範囲は、励磁電源から等価抵抗が明確になった。1次共振共役回路102と2次共振共役回路202は、夫々1次コイルLpと2次コイルLsとエネルギーの交換を行う共振の共役回路であるが、単純なLCR直列共振回路を構成するとは限らない。また、励磁電源や負荷回路の非線形な動作を行う。しかし、電力伝送を効率的に行うためには電力伝送経路は単純な方が好ましく、図1の等価回路は十分な一般性を持っていることを以下に示す。
【0053】
「2.1 非線形素子の線形化:スイッチング電源の正弦波電源近似」
非接触で実用的な電力を伝送するには、リアクタンスωLを大きくする必要があり、インダクタンスLが過大にならないように周波数ωを電力伝送としては大きな値に設定される。そこで、励磁電源には電力源から供給されたDC電圧を所定の周波数でスイッチングし矩形波の交番電圧生成するものが用いられる。以下では、このような矩形波の励磁電源をどのように理論に組み込むべきか議論する。その結果は、矩形波以外の励磁電源(例えば系統電力をトランスやサイリスタで電力制限したもの)にも流用できる。
【0054】
図11のIGBTブリッジは、スイッチング(E'(t)=E0',0<t<π)⇔(E'(t)=-E0',π<t<2π)を繰り返すので、振幅E0'の矩形波電源と見做せる。そして、いずれの状態においても電流Ipは供給源である平滑化コンデンサC0まで還流するので、その還流路の途中にあるIGBTで生じる損失はIpに対する抵抗として作用する。
【0055】
振幅E0'の矩形波電源と同じ電力を供給する正弦波電源の振幅E0を求める。非接触電力伝送回路のCQは大きい(5~100程度)ので電流Ipは殆ど正弦波になる。従って、矩形波電源の供給電力Pt'は次式で求まる。
【数33】
この[数33]のPt'と[数31]のPtが等しくなるには、次式が成り立つ必要がある。
【数34】
なお、[数33]はフーリエ係数を求める式になっているので、電源電圧が任意の波形であっても[数33]を用いて正弦波近似での振幅を求めることができる。
【0056】
「2.2 非線形素子の線形化:整流・負荷回路の等価抵抗近似」
図11の2次回路のダイオードブリッジは交番電流Isを整流し、常に二次電池Ebを充電する方向に電流を流す。Isは充電電圧に抗して流れるので電力を消費する。その一周期の平均値PEBとし、等価負荷抵抗RLでの消費電力の実効値PRLと比較すると次のようになる。
【数35】
このPEBとPRLが等しくなる等価負荷抵抗RLの値は次式で求まる。
【数36】
結局、図8で表される一般の非接触電力伝送装置も図14のような正弦波電源と等価負荷抵抗の回路と見なせることが分かった。
【0057】
「3.1 回路定数の測定法の明確化:インダクタンスLqの測定」
磁気抵抗を下げるためのコアや周辺への磁気漏洩を小さくする磁気シールド、装置外への不要な輻射を低減する電磁シールドなどの周辺部材との相互作用は、回路定数に影響を与える(しかし、等価回路のトポロジーには影響しないので、本願では周辺部材を含む構造体を図示しない)。従って、特に断らない限り回路や装置の状態は、送電装置と受電装置の配置も含めて電力伝送するときの標準的な状態で測定するものとする。
【0058】
コイルのインダクタンスと抵抗の測定は、コイル以外に測定電流が流れないように、c,c'点及びd,d'点で回路を切断し、1次及び2次コイルを個別に測定(互いの測定電流による磁場の影響が出ないように)する。
【0059】
「3.2 回路定数の測定法の明確化:結合係数kの測定」
2次回路が結節点d,d'で断線:open状態での、1次電流Ipによって2次コイルLsの両端d,d'に誘起される電圧Vd,openは、相互インダクタンスMを用いて
【数46】
と表される。よって、結合係数kは次式で求まる。
【数47】
【0060】
「3.3 回路定数の測定法の明確化:静電容量の測定」
最初に、共振共役回路(図14でブラックボックスになっている102や202)が1個のコンデンサと見なせることを示す。
例えば、図15のように1次および2次コイルの前後に容量Cq1およびCq2のコンデンサが接続されている回路のインピーダンスは次式で与えられる。
【数37】
つまり、Kirchhoffの法則は、Cq1とCq2の合成容量のコンデンサ1つの回路と図15の回路を区別しない。しかし、このようにコンデンサを分割することで、個々のコンデンサ電圧を小さくし静電破壊に対する余裕度を向上したり、接地点(図示しない)とのバランスを取り発振を安定させる効果がある。
【0061】
一方、図16のように、Cq1,Cq2の片方のみを通るループ電流が存在する場合は、Cq1,Cq2を統合することはできない。
【数38】
しかし、Cq2は電力伝送に寄与しないバイパス電流の通り道になるので、あまり大きくできない。そこで、Cq2がCq1に対して十分小さいとすると、Zqは
【数39】
となり、コンデンサCq2はインダクタンスに組み込まれる。つまり、図1の等価回路と同形の式が得られる。Zqのリアクタンス成分がゼロとなるωqは、
【数40】
であるから、Cq2は共振角周波数をシフトする効果があることが分かる。
【0062】
一般の共振共役回路は図15図16より複雑であるが、電力伝送のロスを小さくするためにはバイパス電流を大きくはできない。また、アナログ回路は、電源E、コイルL、コンデンサC、抵抗Rの4種類の素子しか含まないので、共振共役回路をそれと等価なコンデンサに置き換え、図14をELCRの直列回路(図1)に帰着させることができる。
【0063】
1次回路の共振周波数fpは励磁電源101に代えてb,b'点に共振測定器を接続し、2次回路の共振周波数fsは負荷回路203に代えてe,e'点に共振測定器を接続して計測する。このfqより共振角周波数ωp=2πfqが求まり、共振共役回路の静電容量Cqは次式で求まる。
【数41】
ここで、Lqは先に求めたコイルのインダクタンスである。磁場と電場のエネルギーが互いに交換することが共振という現象の本質であり、[数24]で見たように磁気結合共振回路はこの共振による電流増幅効果に依って強い磁場を形成し、必要な電力伝送を可能にしている。従って、これまでCqとLqを形式的に独立変数として取り扱ってきたが、ωqとLqを非接触電力伝送装置における独立変数と考えた方が自然である。
【0064】
「3.4 回路定数の測定法の明確化:全抵抗Rqの測定」
図12,13,14には抵抗が描かれていないが、これは抵抗素子が組み込まれていないことを意味しているだけである。全ての素子はその機能を発揮する過程で多かれ少なかれ電力を消費する。例えば、コイルは磁場を生成する過程で銅損を生じ、スイッチング電源は接続を切り替える過程でスイッチング損を発生する。さらに、周辺部材でヒステリシス損や渦電流損を生じるこもある。これらの損失は電流に対する抵抗となる。Kirchhoffの電圧則は、全抵抗Rqによる電位降下が起電力と平衡することを要請しているので、以下でRqの測定法を明確にする。
【0065】
2次コイルの端子間電圧Vd(t)は、コイルの内部抵抗RLsで減衰した結果として現れる。従って、2次回路の消費電力Psは次のようになる。
【数42】
よって、2次回路の全抵抗Rsは次式で求まる。
【数43】
【0066】
1次回路の消費電力Ppは、1次回路に入力した電力Paから2次回路への送電電力(これは2次回路の消費電力Psに等しい)を引いたものである。
【数44】
よって、1次回路の全抵抗Rpは次式で求まる。
【数45】
なお、Ps≒0となる距離に受電装置を離した場合にはPp≒Paと見なせ、[数44][数45]の右辺は第1項のみが残る。
【0067】
一方、[数31][数32]を逆に解いたRqの式
【数51】
は、2次回路への伝送電力Psや2次回路の上限電圧VsによるRq関する制約条件になる。以下では、[数31][数32]と[数51]を適時使い分ける。
以上で、最適化理論に用いる全てのパラメータを実際の装置で測定する方法が明らかになった。
【0068】
《3》実施例(MPTTwAEとその設計理論の応用)
本発明の実施例を、図8図9図10に示す。その代表的な等価回路を図11図12図13に示すが、構成そのものに新規性はない。本発明は、要求仕様から[数27]や[数33]でコイルインダクタンスを決定し、[数35]で電流・電圧・仕事(発熱)量を予測できる点に特徴がある。従って、表2のref.1、ref.2を除く全ての行の回路条件が本発明の実施例になっている(後述する表3~表5の全ての行もまた本発明の実施例である)。
【0069】
表2のA列(A1~A16)において、効率0.7以下の条件では1次回路の消費電力(発熱)が大きいため効率が0.8以上のものが望ましく、このときCQqは5~25の範囲に収まる。また、B列から、結合係数kが0.04以下の場合は2次回路の電圧が3kVを超える(CQqも100を超える)ため高耐圧の設計が必要なことが分かる。
【0070】
本発明の有用性は単に個別の装置の最適条件を求めることに留まらず、磁気結合共振回路方式の理論限界領域での製品構想をも可能にすることである。以下では、Psが1Wクラス(Ls≒数100nH,Is≒数100mA)の小型のものから、500kWクラス(Ls≒数10mH,Is≒数100A)の大型のものに関する本発明の活用例示す。特許文献4で示したように、コイルの大きさはインダクタンスL/透磁率μの比(L/μ)の1/5乗に比例し、電流I/電流密度J0の比(I/J0)の2/5乗に比例する。そこで、表2のref.1に用いた市販品(フラットコイル:径約30mm, Ls=19μH, Is=1A)を基にした比例計算で、各活用例の代表的な条件でのコイル径を見積もる。
【実施例0071】
表3は、MPTTwAEを用いて小電力(1W程度)を可能な限り遠方(結合係数k=0.02程度)へ伝送する条件を探査したもので、ウエアラブル端末や体内埋め込み型機器等への応用を想定している。図17はその等価回路の一例で、直流電圧V0(5V)をMOS-FETブリッジでスイッチングして矩形波電圧を発生するもので、これと等価な正弦波の振幅Eeは4/π倍(6.37V)となる。
【0072】
小型の小電力機器では効率は殆ど問題にならないが、電圧が問題になる。A列(A1~A9)に示すように、Vsは効率ηと共に増加するので、効率が小さい領域(η=0.05~0.2)を詳細に調べた。なお、高周波(13.56MHz)を用いることでインダクタンス(コイルサイズ)を小さくできるが、発生する電圧を小さくすることはできない。従って、更にコイルサイズを小さくしたい場合には、例えば24.5GHzを用いてもよいし、コイルサイズを大きくできる場合には6.78MHzを用いればよい。
【0073】
表3では、Rpが0.5Ω以下のもの、Lsが1000nH以上のもの、Vsが100V以上のものを太枠で囲い難易度が高いこと示した。従って、太枠で囲った項目の無い行(Å6,7,8やB6,B7,… )が実現性の高い条件である。また、C6,7はPs=3Wを得る条件であるが、これはEeを2倍にすればPsが4倍の12Wが得られることも意味している(ただし、Vsが2倍の90~130Vなることへの対策が必要)。
【0074】
更に、D8(Ps=1W)やE8,E9(Ps=0.3W)は、結合係数kが0.01というWiTricity並みに小さい中距離での電力伝送も可能なことを表す。このように、低効率・長距離の電力伝送条件でのkCQは1以下であることが(4) Circuit Qualityから読み取れ、逆にkCQqが1以下になるように設計することで、2次電圧が過大にならない長距離の電力伝送条件が得られる。表2に関する[0045]の記述で「効率0.8以上ではkCQは2~10」としたが、このように効率が0.2以下の領域では全く異なった条件になる。
【0075】
ref.1(市販品の実測値)を基にした比例計算で、Å8の条件のコイル径は10.2mm、E9の条件のコイル径は8.5mmと見積もれる。また、棒状のコアに導線を巻き付けたソレノイド型にすれば、コイル径を半分以下にすることも可能である。
【表3】
【実施例0076】
表4(表4-1,表4-2)は、図18に示すような系統電力源から直接またはトランスを介して励磁電源に入力する系にMPTTwAEを適用したものである。励磁電源もトランスでありスイッチング損が発生しない。また、駆動周波数が50Hzと低いのでヒステリシス損や渦電流損を極めて小く抑えることができる。
【0077】
表4-1は、2次抵抗Rsを5Ωとし、励磁電圧Eeを100V,200Vとし、効率ηが0.8,0.9,0.98となり、伝送電力Psが100W~2kWとなる条件を求めた。その結果、問題になる大きさの電流や電圧は発生しないが、インダクタンスLsが100mH(コイル径500mm)程度と2kW以下の電力伝送装置としては大きなコイルが必要なことが分かった。従って、この条件は、電磁ノイズ(EMC)を極端に嫌うが容積に余裕のある場所での非接触電力伝送に有用である。
【表4-1】
【表4-2】
【0078】
表4-2は、1kVと6.6kVを励磁電源電圧とし、効率を0.97,0.98,0.99とし、結合係数kを0.4,0.6,0.8,0.9として、伝送電力Psが10kWと500kWになる条件を求めた。Ps=10kW程度の場合には大きな障害は無いが、Ps=500kWではVsが20kV以上になり、耐圧設計のため容積が大きくなる。また、インダクタンスは表4-1条件と同等であるが、コイル径は1~2m程度の大きさになる。従って、船舶などの比較的容積に余裕のあるものへの給電に適している。非接触電力伝送装置は電極を外界に晒さずに済むので、水上・水中での給電も可能である。
【0079】
励磁電源の周波数が系統電力の周波数(50Hz,60Hz)に等しい本方式は、必然的にコイル径が大きくなる。そこで、結合係数kを0.4以上にしてコイル径を小さくするのが望ましい。電気機関車や電動バスなどのコイル間隔をあまり小さくできない系においては、給電時にコア(フェライト等の磁性体)をコイルの間に挿入したり、コアの姿勢を変更して結合係数を大きくすることで、結合係数を大きくできる。また、1次回路のクオリティーファクターCQpを2次回路のクオリティーファクターCQsより5%以上大きくすることで、所定の効率を達成することができる。
【実施例0080】
表5(表5-1,表5-2)は、電気自動車等へ非接触電力伝送を想定し、表2のA10~A16の周辺の条件を詳細にしらべたもので、基本的な回路構成を図11に示す。商用電源のAC電圧(100V,200V)を整流し概略√2倍となった直流電圧をf=90kHzでスイッチングして矩形波電圧を発生させるとして、等価な正弦波電源の振幅Eeは[数34]で示したように2√2/π倍(125V,250V)とした。Rpが0.5Ωを下回るような装置(電気回路と磁気回路)の設計は難易度が高いので太枠で囲った。
【表5-1】
【0081】
表5-1は、結合係数k=0.08とし、Rs=5Ωとし、Eeを250Vとして、効率ηと伝送電力Psを変化させて、Rp等の値を求めたものである。伝送電力Psが1.1kW,2.2kWでは、効率η=0.98でもRpが0.5Ωを下回らないが、4.4kWではη=0.96まで、6.6kWではη=0.94まで効率を下げた設計が必要になる。
従って、6.6kWでの急速充電が可能な装置を設計する場合、η=0.94のD13からη=0.92のD12の条件を目標にして、1次コイルはインダクタンスがLp=46~53uHのものを用いることになる。この装置で、例えば(Eeを下げて)1.1kWの低速充電を行ったとしても、効率は殆どコイルで決定されるので、効率は0.94からそれほど改善されない。
【0082】
表5-2は、結合係数k=0.1とし、Rs=5Ωとし、Eeを125Vとして、効率ηと伝送電力Psを変化させて、Rp等の値を求めたものである。ただし、D行(D05~D10)はk=0.2とした。伝送電力Psが1.1kWのA16では効率η=0.96,Rp=0.55Ωであり、2.2kWのB13ではη=0.92,Rp=0.52Ωであり、3.3kWのC11ではη=0.88,Rp=0.50Ωである。このように、伝送電力を3kW以上にするには効率を0.9未満に設定する必要がある。
【表5-2】
【実施例0083】
図19図20に示すLqAとLqBは、磁気抵抗Rmqの磁気回路を共有するコイルの固有インダクタンス(互いに他方に電流が流れないときのインダクタンス)を表している。今、LqA≒LqBとすると、直列接続の合成インダクタンスは、並列接続での合成インダクタンスの4倍になる。
【0084】
一方、同じ容量のコンデンサの直列接続の合成容量は、並列接続の合成容量は4倍になる。従って、コイルとコンデンサを共に直列接続している状態と、共に並列接続している状態への切り替えを行えば、共振周波数を一定に保てる。
【0085】
そこで、直列接続(図19)での合成インダクタンスが表5-1のA15~A17辺り値になり、並列接続(図20)での合成インダクタンスが表5-1のD12~D13辺り値になるように設計することで、200Vの商用電源からの給電で、通常は1.1kWの低速だが0.97程度の高効率の充電を行い、必要な場合には6.6kWの効率0.93程度の急速充電に切り替えることができる。
【0086】
直列接続から並列接続への変更で、コイルの導線抵抗やコイルの磁場によるヒステリシス損や渦電流損は4分の1になるが、電源の損失や負荷に相当する等価抵抗成分は変わらないので、抵抗Rqは単純に4分の1にはならない。従って、表5-1のA16条件はRp=1.65Ωである。表5-1のD12~D13条件の間にRp=0.6Ωとなる条件が存在する(この条件でのLpも50uHに近い値と推測される)。もしこの条件でのコイルに起因するRpが0.35Ωで、不変部分が0.25Ωであれば、直列接続の場合のRpは1.65ΩとなりA16条件と一致し、Lpも208uHに近い値になる。無論、ピッタリ一致するものがあるとは限らないが、そのような場合にも効率や伝送電力が若干低下するだけで、破綻を来すことはないと考えられる(実施例5の場合も同様)。
【実施例0087】
図21は、図19の直列接続のLqAとLqBを並列接続に変更し、コア(透磁率が大きくヒステリシスロスの少ないソフトフェライト等)を装置間に挿入したものである。このコアの挿入によって磁気抵抗が変化し、1次コイルと2次コイルの結合係数が変化する。また、コイルのインダクタンスも変化するのでLqA’,LqB’と(’)を付けた。同様の効果は、短径と長径の差の大きなコアを装置間に配置し、磁力線の向きと長径のなす角度を変更することで、磁気抵抗を変化させることも可能である。更に、コアを用いる代わりに(図20のままで)、装置間隔を変更することによってもで同様の変化が得られる。
【0088】
そこで、表5-2のA15周辺の値にする場合には図19のような直列接続にし、表5-2のD10周辺の値にする場合には図21並列接続にし、かつ、結合係数を調整する変更を加えることで、100Vの商用電源からの給電で、通常は1.1kWの低速だが0.95程度の高効率の充電を行い、必要な場合には3.3kWの効率0.93程度の急速充電に切り替えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
携帯電話を始めとするモバイル機器のワイヤレス充電、
キッチンやバズなどの水回りの機器の充電
AGV(無人搬送車)やドローンなどの小型機への充電
EV、HEV、バス、機動車、小型船舶の蓄電池充電
【符号の説明】
【0090】
Lp:1次回路のコイル(1次コイル)のインダクタンス
Cp:1次回路のコンデンサ(1次コンデンサ)の静電容量
Rp:1次回路の全抵抗(1次抵抗)
Ls:2次回路のコイル(2次コイル)のインダクタンス
Cs:2次回路のコンデンサ(2次コンデンサ)の静電容量
Rs:2次回路の全抵抗(2次抵抗)
RL:2次回路に接続された負荷抵抗
Rsl:2次回路の全抵抗Rsから負荷抵抗RLを引いた残留抵抗
M :1次コイルと2次コイルの相互インダクタンス
k :1次コイルと2次コイルの結合係数
f :周波数(foは最適条件の周波数)
ω :角周波数(ωoは最適条件の角周波数)
G :駆動点インピーダンス(Goは最適条件での駆動点インピーダンス)
F :伝達インピーダンス(Foは最適条件での伝達インピーダンス)
E0:電源電圧の振幅
Ee:電源電圧の実効値
Ip:1次電流の実効値(Ip(t)は瞬時値)
Vp:1次コンデンサの電圧の実効値(Vp(t)は瞬時値)
Pp:1次回路の消費電力
Is:2次電流の実効値(Is(t)は瞬時値)
Vs:2次コンデンサの電圧の実効値(Vs(t)は瞬時値)
Ps:2次回路の消費電力
η :効率:2次回路の消費電力の全消費電力に対する比率 Ps/(Pp+Ps)
ζ :被装荷(1次回路の消費電力と2次回路の消費電力の比)Pp/Ps
なお、サフィックスにqは1次と2次の両方の回路定数や回路変数を表す。
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