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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103507
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】肌表面の立体形状評価方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/107 20060101AFI20220701BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20220701BHJP
   A61B 5/16 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
A61B5/107 800
A61B5/00 M
A61B5/16 110
A61B5/16 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218193
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】松ヶ下 かおり
【テーマコード(参考)】
4C038
4C117
【Fターム(参考)】
4C038PP03
4C038VA04
4C038VB22
4C117XA01
4C117XB01
4C117XC01
4C117XD05
4C117XE03
4C117XE20
4C117XE23
4C117XE27
4C117XE48
4C117XG18
4C117XG19
4C117XG52
4C117XJ13
4C117XQ11
4C117XR01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】熟練した専門判定者による目視評価に頼ることなく、誰にでも客観的に肌表面の立体形状の評価ができ、肌表面だけでなく、肌年齢、肌内部性状、身体内性状、心理状態をも評価する方法を提供する。
【解決手段】肌又は肌のレプリカから任意の方法により、Sal(最小自己相関長さ)、Sdq(二乗平均平方根傾斜)、Vmc(コア部の実体体積)、Str(表面性状のアスペクト比)から選択される少なくとも1つを計測する工程を含み、Sal、Sdq、Vmc、Strから選択される少なくとも1つの項目の値を指標として肌表面の立体形状を評価する。
【効果】肌表面の立体形状を皮溝の太さと異方性それぞれの指標パラメータで評価することができる。対象物の角度や測定の方向性などを限定する必要性がないので、経験の少ない者でも、肌理、シワを含んだ肌表面の立体形状の評価を行うことができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌又は肌のレプリカから任意の方法により、Sal(最小自己相関長さ)、Sdq(二乗平均平方根傾斜)、Vmc(コア部の実体体積)、Str(表面性状のアスペクト比)から選択される少なくとも1つを計測する工程
を含み、
前記Sal、Sdq、Vmc、Strから選択される少なくとも1つの項目の値を指標とする肌表面の立体形状評価方法。
【請求項2】
肌又は肌のレプリカから任意の方法により、Sal、Sdq、Vmc、Strから選択される少なくとも1つを計測する工程
を含み、
前記Sal、Sdq、Vmcから選択される少なくとも1つの項目を指標として皮溝の太さを評価し、
前記Strを指標として皮溝の異方性を評価する肌表面の立体形状評価方法。
【請求項3】
肌又は肌のレプリカから任意の方法により、Sal、Sdq、Vmc、Strの少なくとも1つを計測する工程を含み、
前記Sal、Sdq、Vmc、Strから選択される少なくとも1つの項目の値を指標として、肌年齢、肌内部の性状、心理状態の少なくとも1つを評価する方法。
【請求項4】
前記肌内部の性状が、角層水分量、肌柔軟性から選択される少なくとも1つである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記心理状態が、CB(混乱-当惑)、DD(抑うつ-落込み)から選択される少なくとも1つである請求項3に記載の方法。
【請求項6】
肌又は肌のレプリカから任意の方法により、Sdq、Vmc、Strの少なくとも1つを計測する工程を含み、
前記Sdq、Vmc、Strから選択される少なくとも1つの項目の値を指標として、肌弾性、肌粘弾性比、心理状態のTA(緊張-不安)の少なくとも1つを評価する方法。
【請求項7】
肌又は肌のレプリカから任意の方法により、Sdq、Vmcの少なくとも1つを計測する工程を含み、
前記Sdq、Vmcから選択される少なくとも1つの項目の値を指標として、肌表面温度、身体内の性状の少なくとも1つを評価する方法。
【請求項8】
前記身体内の性状が、内臓脂肪レベル、全身皮下脂肪率、全身骨格筋率から選択される少なくとも1つである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
肌又は肌のレプリカから任意の方法により、Sal、Sdq、Strの少なくとも1つを計測する工程を含み、
前記Sal、Sdq、Strから選択される少なくとも1つの項目の値を指標として、心理状態のVA(活気-活力)、F(友好)から選択される少なくとも1つを評価する方法。
【請求項10】
肌又は肌のレプリカから任意の方法により、Vmcを計測する工程を含み、
前記Vmcの値を指標として、BMI値、心理状態のAH(怒り-敵意)から選択される少なくとも1つを評価する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌表面の立体形状の評価方法に関する。具体的には、肌の肌理、シワの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肌表面の微視的立体形状である肌理は、皮溝と皮丘によって構成され、肌の若々しさや美しさに大きく影響し、また肌質や年齢とも関係する重要な要素である。よって、美容や化粧料選択の観点から、この肌理を改善することは重要な目的である。一方、肌理の定義は明確には確立されてはいないが、これまでの研究や文献によると、肌理の形状変化を把握する上で、皮溝の太さ、皮丘の大きさや数、皮溝の均一性、深さ、間隔や皮溝の異方性などの項目を用いて評価されている。
その中でも、肌理が粗くなる変化の指標として皮溝の太さと、皮溝に一方向の流れが表れる変化の指標として皮溝の異方性で評価されることが多い。
【0003】
さらに、シワは、肌理よりも大きな凹凸形状を示すことが多いが、初期段階は表皮の乾燥によって、角質層の水分が失われ、かつ表皮の柔軟性が低下することで、肌理が粗く、乱れる現象が伴う。具体的には、皮溝の太さの増大や、異方性の低下が顕著に表れる。また、筋力が低下し、皮下脂肪が支えられなくなって生じるたるみが原因で、シワが発生する現象も確認されている。このたるみが起因して生じるシワに関しても、酷くなるに従って、皮溝の太さの増大や異方性の低下が顕著に見受けられる。
【0004】
これまでの肌表面形状の評価方法の一つは、シリコンラバーなどの印象材を用いて肌表面のレプリカを取り、それを解析する方法(レプリカ法)であり、もう一つは、レプリカを介さずに直接、肌表面形状を調べる方法(in vivo法)である。
レプリカ法では、レーザー光を照射してレプリカ表面の立体形状を精度よく三次元計測する方法(三次元解析法)が挙げられる。
一方、直接、肌表面形状を測定する方法としては、PRIMOS(Canfield Scientific)やDermaTop(EOTECH SA)など三次元スキャナーを用い非接触で皮膚の三次元情報を得る方法(三次元解析法)などがある(非特許文献1参照)。
【0005】
また、特許文献1のように、肌の立体性に関する情報を有さない拡大撮影画像を得て、濃淡を表す数値を用いることにより、疑似算術平均粗さ(Sa’)、疑似粗さ曲線要素の平均長さ(PSm’)、疑似表面性状のアスペクト比(Str’)という表面粗さパラメータ演算値を算出し、これら値を用いて、肌理を評価する方法も報告されている。
確かに、このような手法を用いることで、肌理の目視評価より値のバラつきが軽減し、評価経験が少ない者でも肌理評価が可能となることが期待できそうである。
【0006】
しかし、先の方法においては、撮影画像から求められる演算値を用いているため、その撮影方法、画像処理の方法、算出方法などの条件設定が難しい。さらに、肌表面そのものの立体形状を正確に捉えているとは言い難い。
加えて、後述するとおり、本願発明者は、計測されるパラメータ算術平均粗さ(Sa)は、若い年代層のパネルを対象にした結果において、目視評価との相関性が著しく低下することを明らかにしており、特許文献1の方法では年齢層に関係なく肌理を評価する方法としては、不向きであると言える。
【0007】
特許文献2では、表面粗さ計を用いて、肌表面形状を計測している。ここでは、線粗さパラメータである平均溝間隔(Sm)、相対負荷長さ率(Pmr)や算術平均粗さ(Ra)を用いて評価している。
しかしながら、この方法では、単一方向の測定には比較的精度良い方法であるものの、凹凸パターンが規則正しくない肌表面の肌理やシワを対象とした場合、測定部位の微細な差異や測定方向の差異が測定結果に大きく影響を及ぼすため、信頼性に欠ける。
【0008】
さらに、特許文献2には、第三者の目に映る、肌の見た目の美しさを、これらパラメータを用いて数値化できるという結果も報告されている。しかしながら、この結果では、肌の美しさという不明慮な概念に留まっており、評価者の属性が異なった場合、評価基準が異なることが危惧される。肌の美しさを司る重要項目は、おそらく肌表面の立体形状つまり肌理の状態に起因していると推測できるが、実際肌理のどのような状態(太さなのか、筋目の状態なのか、あるいは複合的なのか)を示しているのかまで言及できない欠点があることが否めない。つまり、各パラメータが、それぞれ肌表面のどのような状態を説明しているのかまでは明らかとなっていない。
【0009】
さらに、得られた肌表面形状評価結果と年齢やその他の肌内部性状との関係性を調査した報告は次のようなものが挙げられる。
女性目尻部においては、撮影画像からの演算により得られた算術平均粗さ(Ra)、平均溝間隔(Sm)が年齢と共に有意に増加するという報告がある(特許文献3参照)。
また、粗さ測定を通じた結果に関しては、算術平均粗さ(Ra)、相対負荷長さ率(Pmr)や平均溝間隔(Sm)と年齢との間に関係性があることが報告されている(特許文献2参照)。
しかしながら、肌表面形状を捉えた粗さパラメータとその他の肌内部性状との関係性については、年齢との関係に言及する報告はあるが、その他の肌内部性状との具体的な関係性を示した報告は存在しない。
【0010】
一方、肌表面状態と心理状態との関係については、急性及び、慢性の精神ストレス負荷が、皮膚バリア機能の回復遅延、角層水分量の減少や炎症性皮膚疾患(乾癬、湿疹、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎など)の誘発や悪化を引き起こすことがいくつか報告されている。これより、心理状態の変化と肌状態の変化との関連性が推測できるが、心理状態と肌表面立体形状を示す肌理との関係性の明確化までには至っていない。(非特許文献2参照)。
このように、肌表面形状を粗さパラメータで把握する方法は種々提案されているが、いずれの方法によっても、肌表面の形状を詳細、正確、簡便に測定し、肌表面の目視評価結果の代替えとなる技術を報告した例がない。さらに、捉えた肌表面形状とその他の肌内部性状、身体内部性状や心理状態と関連づけた報告も著しく少ない状況にある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】高橋元次,皮膚の機能・特性と物性計測.:表面科学,35(1)4-10,2014.
【非特許文献2】針谷毅,平尾哲二,勝山雅子,市川秀之,相原道子,池澤善郎,アトピー性皮膚炎患者における心身の状態と皮膚症状の関連性について.:アレルギー,49(6)463-471,2000.
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2017-140206号公報
【特許文献2】特開2007-130295号公報
【特許文献3】特開平5-329133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、熟練した専門判定者による目視評価に頼ることなく、誰にでも客観的に肌表面の立体形状の評価ができ、肌表面だけでなく、肌年齢、肌内部性状、身体内性状、心理状態をも評価する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明は、
〔第1発明〕
肌又は肌のレプリカから任意の方法により、Sal(最小自己相関長さ)、Sdq(二乗平均平方根傾斜)、Vmc(コア部の実体体積)、Str(表面性状のアスペクト比)から選択される少なくとも1つを計測する工程
を含み、
前記Sal、Sdq、Vmc、Strから選択される少なくとも1つの項目の値を指標とする肌表面の立体形状評価方法。
〔第2発明〕
肌又は肌のレプリカから任意の方法により、Sal、Sdq、Vmc、Strから選択される少なくとも1つを計測する工程
を含み、
前記Sal、Sdq、Vmcから選択される少なくとも1つの項目を指標として皮溝の太さを評価し、
前記Strを指標として皮溝の異方性を評価する肌表面の立体形状評価方法。
〔第3発明〕
肌又は肌のレプリカから任意の方法により、Sal、Sdq、Vmc、Strの少なくとも1つを計測する工程を含み、
前記Sal、Sdq、Vmc、Strから選択される少なくとも1つの項目の値を指標として、肌年齢、肌内部の性状、心理状態の少なくとも1つを評価する方法。
〔第4発明〕
前記肌内部の性状が、角層水分量、肌柔軟性から選択される少なくとも1つである第3発明に記載の方法。
〔第5発明〕
前記心理状態が、CB(混乱-当惑)、DD(抑うつ-落込み)から選択される少なくとも1つである第3発明に記載の方法。
〔第6発明〕
肌又は肌のレプリカから任意の方法により、Sdq、Vmc、Strの少なくとも1つを計測する工程を含み、
前記Sdq、Vmc、Strから選択される少なくとも1つの項目の値を指標として、肌弾性、肌粘弾性比、心理状態のTA(緊張-不安)の少なくとも1つを評価する方法。
〔第7発明〕
肌又は肌のレプリカから任意の方法により、Sdq、Vmcの少なくとも1つを計測する工程を含み、
前記Sdq、Vmcから選択される少なくとも1つの項目の値を指標として、肌表面温度、身体内の性状の少なくとも1つを評価する方法。
〔第8発明〕
前記身体内の性状が、内臓脂肪レベル、全身皮下脂肪率、全身骨格筋率から選択される少なくとも1つである第7発明に記載の方法。
〔第9発明〕
肌又は肌のレプリカから任意の方法により、Sal、Sdq、Strの少なくとも1つを計測する工程を含み、
前記Sal、Sdq、Strから選択される少なくとも1つの項目の値を指標として、心理状態のVA(活気-活力)、F(友好)から選択される少なくとも1つを評価する方法。
〔第10発明〕肌又は肌のレプリカから任意の方法により、Vmcを計測する工程を含み、
前記Vmcの値を指標として、BMI値、心理状態のAH(怒り-敵意)から選択される少なくとも1つを評価する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法によれば、熟練した専門判定者による皮溝の太さ、異方性それぞれの目視評価結果と非常に高い相関性を有しているので、肌表面の立体形状を皮溝の太さと異方性それぞれの指標パラメータで評価することができる。また、対象物の角度や測定の方向性などを限定する必要性がないので、経験の少ない者でも、肌理、シワを含んだ肌表面の立体形状の評価を行うことができる。
さらに、皮溝の太さと異方性それぞれの指標パラメータ結果から、肌年齢や、立体形状以外の肌内部性状、身体内性状、心理状態などの性状を評価できるので、情報がほしい部位毎の測定等を行わなくても、フェイシャルカウンセリング等顔面を観察する機会の際や、ボディエステ等で長時間お客様を拘束している時間を利用して、肌表面の立体形状情報を得ることで、被験者であるお客様の負担を最小限に留めつつ、より多くの部位の性状評価情報を提供することが可能となり、被験者に適した化粧品等の提供や、カウンセリングツールとして用いることができる。これを通じて、悩みや状態に合わせて、より高い効果が得られるケア方法やケア部位などの美容情報を一般ユーザーに提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】年齢とSdqの関係
図2】キュートメーターパラメータの説明図
図3】Salと皮溝の太さ目視評価結果の関係
図4】Sdqと皮溝の太さ目視評価結果の関係
図5】Vmcと皮溝の太さ目視評価結果の関係
図6】Strと皮溝の異方性目視評価結果の関係
図7】Saと皮溝の太さ目視評価結果の関係(50歳代)
図8】Saと皮溝の太さ目視評価結果の関係(30歳~40歳代)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の肌表面の立体形状評価方法を説明する。
【0018】
肌表面の立体形状とは、肌の肌理、小ジワ、たるみが起因して生じるものも含めたシワ等が挙げられる。これらは、程度の違いこそあれ、肌理を構成する皮溝の太さ、皮溝の異方性が変化して生じる点で共通する。本願発明では、これらの形状を特定のパラメータを用いて総合的に評価する。
【0019】
本願における「評価」とは、通常の意味として用いる場合の他、被験者の現在の状態を把握し判定することや、同じ被験者に対し、化粧品等の使用、サプリメントの服用、エステティックの施術等の実施の前後(短期的、長期的の場合を含む)を計測することで、化粧品等の効果を判定することも含む。また、予め年代毎の複数人の計測結果をデータベースとして保有し、これらと比較して被験者がどの年代レベルに位置づけられるかを判定することも含む。
また、被験者から得られた特定パラメータの計測結果から、肌内部や身体内部、心理状態等視覚では把握できない情報を推測、推定することも含む趣旨で用いる。
【0020】
肌又は肌のレプリカからSal、Sdq、Vmc、Strを計測する方法は、特に限定されない。肌又は肌のレプリカを対象として、二次元あるいは三次元情報を取得し、この情報からSal、Sdq、Vmc、Strを計測することができる。しかし、二次元情報である撮影画像からの方法では、得られる値は演算値になり、肌表面そのものの立体形状を正確に捉えているとは必ずしも言い切れないため、三次元情報からの取得が理想的である。
肌又は肌のレプリカ表面の三次元情報を取得する方法としては、表面粗さ計を用いた方法がある。
表面粗さ計は、主に針状のプローブを用いて、対象物の表面をトレースする触針式、対象物にレーザーを照射して、反射した光を検知して表面の粗さを測定するレーザー式があり、市販されている機器を用いることができる。例えば、ワンショット3D形状測定機(VR3000、VR5000 キーエンス社)、非接触三次元表面粗さ・形状測定機(Opt-Scope 東京精密社)、3D測定レーザー顕微鏡(LEXT OLS5000 オリンパス社)などが挙げられる。
【0021】
表面粗さ測定の種類は、大きく線粗さ測定と面粗さ測定に分類され、線粗さ測定は、JIS B 0601、面粗さ測定では、ISO 25178において、それら評価方法が日本工業標準調査会規定ならびに、国際規格として定められている。
また、粗さ測定データより計測できる粗さパラメータは、上記規格に基づいたものであれば、特に制限もなく用いることができ、三次元表面粗さ計に付属のソフトウェア、例えば、粗さ計解析ソフト(VR3000 G2 Application キーエンス社)、又は特注したソフトウェアを用いて計測すればよい。
【0022】
Sal、Sdq、Vmc、Strは、上述した三次元表面性状の国際標準規格ISO 25178で定められたパラメータに含まれている。
【0023】
Sal(最小自己相関長さ)は、最も速く自己相関が減衰するまでの距離を求めるため、表面の高さが急激に変化している箇所があるか否かを判定することができる空間パラメータである。Salの値が減少すると、表面の高さが急激に変化していることを示す。
【0024】
Sdq(二乗平均平方根傾斜)は、凹凸の傾きを表す複合パラメータであり、表面の局所的な勾配の平均値である。この値が増加すると表面に傾斜が多く、値が減少すると表面が平坦に近づくことを示す。
【0025】
Vmc(コア部の実体体積)は、負荷面積率p%における谷部の空隙容積を表す体積パラメータである。この値の増加は、表面の山谷の高さに均一性がなく、変動が大きいことを示す。
【0026】
Str(表面性状のアスペクト比)は、方向性を表す空間パラメータである。値には0から1の範囲があり、0に近い場合は、方向性があることを、1に近い場合は、表面が方向に依存しないことを示す。
【0027】
Sal、Sdq、Vmc、Strから選択される少なくとも一つの項目値を指標とするとは、肌又は肌のレプリカから任意の方法で得たSal、Sdq、Vmc、Strから選択された少なくとも1つの値を目印に肌表面の立体形状等を評価するという趣旨である。これらのパラメータは、後述するとおり、熟練した専門判定者の目視評価と非常に高い相関性を有しているので、本願の方法は、評価者の熟練度に左右されることはない。本願の方法では、これらのパラメータから少なくとも1つ用いればよいが、複数用いた方がより精度よく評価できる。また、これらのパラメータを用いる限り、これら以外のパラメータを併用しても差し支えない。後述する肌内部性状、身体内性状、心理状態について評価する場合も同様に考えればよい。
【0028】
肌年齢とは、肌の状態がどの年齢の水準にあるかを表した数値である。
例えば、予め任意の複数の被験者のSdq値と年齢情報を取得し、これを母集団として検量線を準備しておくことで、特定の被験者のSdq値を検量線と照らし合わせて、該当する肌年齢情報を取得することが可能となる。後述する実施例の場合では、例えば、Sdq値が0.25であると、肌年齢は50歳だと評価できる(図1参照)。
【0029】
肌内部性状とは、肌表面温度、角層水分量、皮脂量、経表皮水分蒸散量、肌柔軟性、肌弾性、肌粘弾性比、コラーゲン密度、肌色などを示し、身体の内部及び外部からの影響を受けながら、ターンオーバー、バリア機能、油水分バランス等、肌本来の働きが正常か、トラブルの少ない健やかな状態か、などを評価する指標となる項目である。
例えば、角層水分量は、表皮角層水分量測定装置(SKICON ヤヨイ社)やコルネオメーター(Courage+Khazaka社)など、経表皮水分蒸散量は経表皮水分蒸散量測定装置(Tewameter Courage+Khazaka社)などを用いて測定することができる。
【0030】
肌表面温度は、常に一定に維持されている脳や内臓などの体の内部温度を示す深部温度とは異なり、環境温やその他の様々な要因によって変動している。この変動は、皮膚組織内を循環する血液量に依存しており、血液量が減少すれば肌の表面温度は低下し、血流量が増加すれば上昇する。また、肌の表面温度の変動は、環境温の変化のほか、深呼吸や体位、心理的要因が起因して、末梢神経の拡大、縮小が起こることによって生じるといわれている。
肌の表面温度の測定方法は、直接サーミスタを肌上に装着する方法と、肌から放射される赤外線強度を計測する赤外線サーモグラフィ、赤外線温度計によって非接触に計測する方法がある。
【0031】
肌の柔軟性とは、肌に外界から負荷を与えた時に、その負荷に応じて変位する度合いを意味し、変位する度合いが高いことを柔軟性が高いと捉える。一方、肌の弾性とは、負荷を与えられた肌が素早く回復する度合いを意味し、回復する度合いが高いことを弾性が高いと捉える。また、肌の粘弾性比とは、負荷から解放された肌が時間をかけて回復する度合いを粘性とし、弾性との比率で表し、肌の回復度合いを別の切り口で確認するために用いることができる。
【0032】
肌の柔軟性、弾性、粘弾性比を測定する方法としては、ある一定陰圧で吸引した時の伸び量や解放した時の戻り量を計測する方法、肌表面に円盤を当て水平方向に回転変位を与えて測定する方法、肌に負荷を与えたときの周波数変化を測定する方法、超音波振動する振動子を肌に当て、肌の硬さに応じて周波数変化が生じることを利用した測定方法、肌に衝撃波を与え、その衝撃波の伝播時間を測定する方法、また、ある一定荷重の接触子を肌に落下させたときの跳ね返りを計測する方法などが挙げられる。汎用機器として、減圧吸引法に基づくキュートメーターや波動電波法に基づくリビスコメーター(いずれもCourage and Khazaka社)が挙げられる。
【0033】
キュートメーターで計測されるパラメータは、吸引中最大変位量(R0)、開放した時の瞬間的な戻りの変位量(Ur)とし、R0を柔軟性、Ur/R0を弾性と捉えることが多い。しかし、例えば、長期の保湿剤の使用により肌の柔軟性が増加したため、測定値Ur/R0が低下し、弾性が減少した様な結果となってしまうことがよく見受けられる。そこで、本検討では、R0の影響を極力小さくするために、陰圧開放直後の戻り距離Urと開放2秒後の戻り距離Uaの差異は肌の粘性と捉えることができると考え、Ua-UrをUrvと設定し、粘弾性比(=Urv/Ur)の変化を測定することとした(図2、数式1 参照)。
【0034】
【数1】
【0035】
身体内性状とは、体脂肪率、BMI値、内臓脂肪レベル、全身皮下脂肪率、全身骨格筋率、基礎代謝などを指し、肥満の予防・改善をはじめ健康管理を行う際に参考となる身体を構成する脂肪や筋肉の状態を表わす項目である。
具体的には、体脂肪率とは、体重のうち、体脂肪の重さが占める割合、BMI値とは、体重と身長のバランスをチェックして肥満度を判定する基準、内臓脂肪レベルとは、内臓のまわりについた脂肪の蓄積程度、全身皮下脂肪率とは、体重のうち、皮膚の下に蓄積された皮下脂肪の重さが占める割合、全身骨格筋率とは、体重のうち、骨格筋の重さが占める割合、基礎代謝とは、体温維持や呼吸など、生命維持において消費する必要最小限のエネルギーを指す。
【0036】
身体内性状の測定方法は、例えば、体脂肪率は皮下脂肪厚測定器(キャリパー)という器具で皮下脂肪をつまみ、その厚みから計算する方法が挙げられる。その他に、水中で体重を測定し、陸上での体重との差異から身体密度を計算する水中体重秤量法(水中体重測定法)、密閉されたカプセル容器に入り、空気の圧をかけ圧力の変化から割り出す空気置換法、二種類の異なる波長のX線を身体にあて、身体における各組織の透過率の差異から体脂肪率を測定する二重エネルギーX線吸収法、CTやMRIや超音波を用い、身体の断面画像を撮影して脂肪の厚さを計る方法などがある。一方、両手、両足の電極から全身に流した微弱電流による電気抵抗値から計測できる生体インピーダンス法を採用した体重体組成計を用いると、短時間で容易に複数のパラメータが測定できる。
【0037】
心理状態とは、例えば認知的判断傾向や態度、行動、価値観、自己に関する知識や評価、感情や気分、ストレスや適応、さらには知能や性格などが含まれる。
具体的には、問診や心理テストなどによる主観評価法、血液や心拍などの電気生理信号を統計的、動力学的に解析する手法、血液や唾液等の生体試料中のストレス関連物質(コルチゾール、アドレナリンやアミラーゼなど)を計測する生化学手法がある。さらに、ストレス関連物質の計測法として、機器分析法と抗原抗体反応を利用した免疫分析法を用いることもできる。
本願では、主観評価法の中でも最も汎用されているPOMS(気分プロフィール検査)を用いて心理状態を評価する。これは、性格傾向を評価するのではなく、その人の置かれた条件下で変化する一時的な気分・感情を表し、AH(怒り-敵意)、CB(混乱-当惑)、DD(抑うつ-落込み)、FI(疲労-無気力)、TA(緊張-不安)、VA(活気-活力)、F(友好)の7つの因子で評価できる自己記入式の質問紙による心理テストである。なお、AH(怒り-敵意)は、怒りと他者への反感、強烈な怒りのほか、内心の腹立たしさや他人に意地悪したいなどの思いを示している。CB(混乱-当惑)は当惑と認知効率の低さ、頭が混乱して考えがまとまらない状態を示す。DD(抑うつ-落込み)は、自分に価値がない、希望が持てない、罪悪感があるなど自信を喪失している状態を示す。FI(疲労-無気力)は、疲労感があり、意識や活力が低下している状態を示す。TA(緊張-不安)は、緊張や不安の高まりを表し、神経の高ぶりや落ち着かないなどの特徴を示す。VA(活気-活力)は、元気さ、躍動感、活力の高さを表す。F(友好)は、ポジティブな気分状態、対人関係の影響を表す。
【0038】
評価方法は、POMS2(R)日本語版 マニュアル(金子書房)に記載のPOMS2(R)日本語版 成人用 全項目版/短縮版 T得点表(年齢階級・男女別)に準ずる方法を用いることもできる。まず、得られた回答を先述の7項目に分類し、該当する年齢と性別の換算表を用いて、各合計点をそれぞれの項目のT得点に換算する(数式2参照)。
【0039】
【数2】
【0040】
粗得点が平均の時はT得点が50になり、40~60点の範囲では健常な状態と評価できる。
また、AH、CB、DD、FI、TA得点については、高いとネガティブな感情、気分障害に関連する感情が強い状態であり、逆に、VA、Fに関しては、ポジティブな感情がより強い状態であると評価できる。
【0041】
以下、実施例に基づき、具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0042】
[実施例1]:肌理目視評価結果に影響する指標パラメータの検討
<被験者>
被験者として、36歳から58歳の健常女性12名(30~40歳代 6名、50歳代 6名)を対象にして測定した。

<測定条件>
(1) 馴化時間
被験者は、クレンジング剤、洗顔料を用いて洗顔した後、測定室と同じ環境下で15分間以上馴化させた後、測定に臨んだ。
(2) 測定室環境条件
測定室の環境は、温度22℃、湿度50%とした。
(3) 測定期間
2年間の偶数月を測定日とした。(2016年8月から2018年4月)

<測定条件と計測するパラメータ>
被験者の頬部を対象に、SILFLO(アミックグループ社)を用いて、肌表面のレプリカ標本を採取した。全サンプルのうち3回測定分(2016年12月、2017年6月、2018年4月)のレプリカ標本について、ワンショット3D形状測定機(VR3000 キーエンス社)を用いて撮影し三次元形状データを得た後、粗さ計解析ソフト(VR3000 G2 Application キーエンス社)にて、各種パラメータ値の平均値を計測した。計測したパラメータは表1、表2に示す。
なお、撮影条件は、以下の通り
倍率 高倍率モード40倍
撮影範囲 7.6mm×5.7mmの1枚撮影
モード ファインモード
目視にて、おおよその肌理の流れが水平になるようにレプリカ標本を設置して撮影を行い、次に、同じレプリカ標本を90°回転させて撮影を実施し、同じ標本を対象として、設置角度を変え、線粗さ測定及び面粗さ測定を行った。なお、線粗さ測定では、測定方向も水平方向及び垂直方向の2種実施した。
粗さ計測条件は、以下の通り
表面フィルター処理 カットオフλc値8mm、sフィルター25μm
評価領域 34.967mm
なお、線粗さ測定の場合は、撮影画面の中心を通る水平線及び、垂直線を取り、それぞれ周囲本数20本、間隔を8本飛ばしにて設定し、測定ラインとした。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
<目視評価値の算出>
上記粗さ計測に用いたレプリカ標本のワンショット3D形状測定機撮影画像を対象として、皮溝の太さ、皮溝の異方性それぞれの項目について、2名の専門判定者における5段階評点をつけた。なお、皮溝の太さについては、細いほど評点が高く、逆に太いほど評点は低くなるように評価した。また、皮溝の異方性については、異方性が高い(一方向の流れがない)ほど評点が高く、異方性が低く、一定の方向性が表れるほど、評点は低くなるように評価した。
評価基準:
(1) 皮溝の太さ
全ての皮溝が細く細かい:5
僅かに太い皮溝が見られる:4
太い皮溝がやや見られる:3
ほとんどの皮溝が太い:2
全ての皮溝が顕著に太い:1

(2) 皮溝の異方性
皮溝に方向性がなく、異方性に富んでいる:5
皮溝に僅かな方向性が見られる:4
皮溝にやや方向性が見られる:3
皮溝に方向性が見られる:2
皮溝に顕著な方向性が見られる:1

<解析>
各パラメータと皮溝の太さ及び皮溝の異方性の目視評価結果間の解析は、ピアソンの相関分析を行った後、対応のあるt検定を用いて検証した。
【0046】
<結果>
解析の結果、多くのパラメータとの間に相関性が認められたが、特に相関係数の高いものについて挙げる。
まず、皮溝の太さ目視評価結果は、最小自己相関長さ(Sal)、二乗平均平方根傾斜(Sdq)、コア部の実体体積(Vmc)との間に高い相関性(R=0.62 p<0.01、R=-0.71 p<0.01、R=-0.60 p<0.01)が認められた(図3、4、5参照)。それ以外にも、Sa、Sz、Str、Sdr、Sq、Sv、Spd、Sk、Svk、Smr1、Smr2、Sxp、Vvv、Vvcとも相関性が確認できたが、先述のSal、Sdq、Vmcよりもその相関性は低かった。
また、皮溝の異方性目視評価結果とは、表面性状のアスペクト比(Str)との間に高い相関性(R=0.71 p<0.01)が認められた(図6参照)。その他には、Spc、Sdr、Spd、Sk、Vmcとも相関性が確認できたが、先述のStrよりもその相関性は低かった。
この結果より、肌表面の立体形状である肌理状態が、皮溝の太さ、皮溝の異方性それぞれの肌理目視評価の指標となるパラメータで評価できること、さらに、この場合の、皮溝の太さ目視評価の指標となるパラメータはSal、Sdq、Vmc、皮溝の異方性目視評価の指標となるパラメータはStrであることが明らかとなった。さらに、この結果は、対象となるレプリカ標本の設置角度を問わないことも明らかとなった。
一方、算術平均高さ(Sa)に関しては、パネルを比較的若い層に限定した場合、高い年齢層の場合と比較して、皮溝の太さ目視評価結果との相関性が著しく低下することが確認できた(図7、8参照)。
また、RaやRSmなどの線粗さパラメータに関しては、対象となるレプリカ標本や測定方向の角度が異なると、得られる結果に差異が生じることが明らかになった。
例えば、RSmについては、肌理の流れが水平になるようにレプリカ標本を設置して垂直方向に測定した際、皮溝の太さ目視評価結果との間に非常に高い相関性(R=-0.70 p<0.01)が確認できたが、同じレプリカ標本を90°回転させて測定した場合は、相関性は見受けられなかった。
【0047】
<考察>
レプリカを対象とした測定結果より、皮溝の太さ、皮溝の異方性の肌理目視評価結果と相関性の高いパラメータがそれぞれに対応して存在していることが明確となった。また、これらの相関関係(正又は負)より、皮溝の太さについては、Salの場合は値が「増加」することが、Sdq、Vmcの場合は値が「減少」することが、皮溝が細くなり好ましい状態への変化を示すと判断できる。
一方、皮溝の異方性については、Str値の「増加」が、皮溝が一定方向に偏らず異方性に富む、好ましい状態への変化を示すと判断できる。
さらに、これらパラメータを計測する面粗さ測定は、対象物の設置角度や測定の方向性への留意が必要のない汎用性の高い測定法であることが示唆された。以上より、Sal.Sdq、Vmc及びStrが、皮溝の太さ、皮溝の異方性それぞれの目視評価の指標にできることが明らかとなった。
【0048】
[実施例2]:指標パラメータと年齢、肌内部性状、身体内性状及び心理状態との関係性確認
以下、実施例に基づき、粗さ測定により肌理評価の指標として有用であると確認できたパラメータと年齢、肌内部性状、身体内性状及び心理状態を表す各パラメータとの関係性について確認した。

<被験者>
実施例1と同様

<測定条件>
実施例1と同様

<測定条件と計測するパラメータ>
被験者の頬部を対象に、SILFLO(アミックグループ社)を用いて、肌表面のレプリカ標本を採取した。採取した全てのレプリカ標本を対象として、ワンショット3D形状測定機(VR3000 キーエンス社)を用いて撮影し三次元形状データを得た後、粗さ計解析ソフト(VR3000 G2 Application キーエンス社)にて、最小自己相関長さ(Sal)、二乗平均平方根傾斜(Sdq)、コア部の実体体積(Vmc)及び表面性状のアスペクト比(Str)の平均値を計測した。

<肌内部性状の測定項目>
(1)肌表面温度
肌表面温度は、赤外線放射温度計(InfraRed Thermometer IR-66B CEM社)にて測定した。仰臥位にて頬部の温度を1回測定し、肌表面温度とした。
(2)角層水分量
角層水分量は、表皮角層水分量測定装置(SKICON-200EX ヤヨイ社)を用いて測定した。仰臥位にて頬部の水分量を5回測定し、平均値を角層水分量とした。
(3)経表皮水分蒸散量
経表皮水分蒸散量は、経皮水分蒸散量(TEWL)測定装置(Tewameter TM300 Courage and Khazaka社)を用いて測定した。仰臥位にて頬部の蒸散量を1回測定し、経表皮水分蒸散量とした。
(4)肌柔軟性、肌弾性、肌粘弾性比
肌柔軟性、肌弾性、肌粘弾性比はキュートメーター(MPA580 Courage and Khazaka社)を用いて測定した。測定条件は、プローブ測定開口部2mm、陰圧300mbar、陰圧時間及び陰圧開放時間は各2秒とした。結果は、柔軟性(=R0)(陰圧2秒後の最大伸展距離(mm))、弾性(=R7=Ur/R0)(陰圧開放0.1秒後の戻り距離を陰圧2秒後の最大伸展距離で割った値、つまり最大伸長に対する皮膚の瞬間的な戻り率(%))及び粘弾性比(=Urv/Ur=(Ua-Ur)/Ur)(陰圧開放2秒後の戻り距離と陰圧開放0.1秒後の戻り距離の差と陰圧開放後0.1秒後の戻り距離の比率)を用いた。仰臥位での頬部を4回測定し、各平均値を肌柔軟性、肌弾性、肌粘弾性比値とした。

<身体内性状の測定項目>
体重、体脂肪率、BMI値、内臓脂肪レベル、全身皮下脂肪率、全身骨格筋率及び基礎代謝は、体重体組成計(Karada Scan HBF-375 オムロン社)を用いて測定した。
素足で体重体組成計にのり、1回測定を行い、体脂肪率、BMI値、内臓脂肪レベル、全身皮下脂肪率、全身骨格筋率及び基礎代謝値を計測した。

<心理状態の測定項目>
洗顔後の馴化中に、気分プロフィール検査短縮版(POMS2(R)日本語版 成人用 金子書房)を用いて、測定日の最近1週間における気分状態に関する回答を得た。
回答より算出した項目は、AH(怒り-敵意)、CB(混乱-当惑)、DD(抑うつ-落込み)、FI(疲労-無気力)、TA(緊張-不安)、VA(活気-活力)、F(友好)の7つとし、各T得点は、POMS2(R)日本語版 マニュアル(金子書房)に記載のPOMS2(R)日本語版 成人用 全項目版/短縮版 T得点表(年齢階級・男女別)に準じて算出した。

<解析>
各パラメータ間の関係は、被験者ごとの測定値数を重みとし、重み付けを行った相関係数により確認した。
【0049】
<結果>
<年齢と指標パラメータとの関係>
表3に示す通り、年齢とSdq、Vmcとの間に、正の相関性、さらに、Sal、Strとの間には、負の相関性が見受けられた。この結果より、加齢と共に、皮溝の太さが増加し、異方性が減少することが明確となった。
【0050】
【表3】
【0051】
<肌表面温度と指標パラメータ間の関係>
表4に示す通り、皮膚表面温度とSdq、Vmcとの間に、正の相関性が見受けられた。一方で、皮膚表面温度とStrとの間には相関性は見受けられなかった。この肌表面温度は気温との相関性は認められず、年齢とも極めて低い相関に留まっていることより、この関係性は気温、年齢を介在変数とする疑似相関ではないと推測できる。これより、肌表面温度が高くなると皮溝の太さが増加することが明確となった。
【0052】
【表4】
【0053】
<角層水分量と指標パラメータとの関係>
表5に示す通り、角層水分量とSdq、Vmcとの間に正の相関性、さらに、SalとStrとの間には、負の相関性が見受けられた。この結果より、角層水分量の増加と共に、皮溝は太さが増加、異方性が減少することが示された。
【0054】
【表5】
【0055】
<経表皮水分蒸散量と指標パラメータとの関係>
経表皮水分蒸散量と、Sdq、Vmc、Sal及びStrとの間には、いずれも相関性が見受けられなかった。この結果より、皮溝の太さ、異方性共に、肌の経表皮水分蒸散量に伴った変動がないことが推測できる。
【0056】
<肌柔軟性、肌弾性、肌粘弾性比と指標パラメータとの関係>
表6に示す通り、R0とSdq、Vmcとの間に正の相関性、さらに、Sal、Strとの間には、負の相関性が見受けられた。また、R7とSdq、Vmcとの間に負の相関性、さらに、Strとの間には正の相関性が見受けられた。
一方、Urv/UrとSdq、Vmcとの間に正の相関性、さらに、Strとの間には、負の相関性が見受けられた。この結果より、肌の柔軟性の増加、弾性の減少や粘性比率の増加に伴い、皮溝の太さが増加、異方性が減少することが示唆された。
【0057】
【表6】
【0058】
<身体内性状と指標パラメータとの関係>
表7に示す通り、BMI値、内臓脂肪レベル、全身皮下脂肪率とVmcとの間に正の相関性、全身骨格筋率とVmcとの間に負の相関性が見受けられた。しかし、一方で、いずれもStrとの間には相関性は見受けられなかった。
この結果より、BMI値、内臓脂肪レベル、全身皮下脂肪率が増加、あるいは全身骨格筋率が減少すると、皮溝が太くなるが、皮溝の異方性には影響を及ぼさないことが示唆された。
【0059】
【表7】
【0060】
<心理状態と指標パラメータとの関係>
表8に示す通り、F、VA得点とSal、Strとの間に高い正の相関性、また、Sdqとの間には、負の相関性が見受けられた。さらに、TA、DD、CB得点とSdq、Vmcとの間には、高い正の相関性、Strとの間には負の相関性が見受けられた。また、AH得点は、Vmcとの間に正の相関性が見受けられるが、Strとの相関性は見受けられない。さらに、FI得点は、いずれのパラメータとも相関性が見受けられない。
これより、皮溝の太さ及び異方性いずれも心理状態と関連しており、友好、活気というポジティブな感情の増加に伴い、皮溝が細く、異方性が増加することが明確となった。一方で、緊張、憂鬱、混乱などのネガティブな感情の増加に伴い、皮溝の太さ、異方性共に状態が悪くなることも明確となった。ただし、怒りの感情は、皮溝の太さのみに影響し、疲労感情は、肌理状態に影響を及ぼしていないことも明らかとなった。
【0061】
【表8】
【0062】
<考察>
レプリカを対象とした指標パラメータ値と年齢、肌内部性状、身体内性状及び心理状態に関する測定結果との関係性を確認した結果、皮溝の太さ、皮溝の異方性それぞれの目視評価の指標となるパラメータ(Sal.Sdq、Vmc及びStr)と年齢、肌内部性状、身体内性状及び心理状態との間に相関性があることが明確となった。これより、肌理状態と年齢、肌内部性状、身体内性状及び心理状態は相互に影響を及ぼしていることが示唆された。
さらに、この結果を用いると、皮溝の太さ、皮溝の異方性それぞれの肌理目視評価の指標となるパラメータを計測することで、肌年齢、肌内部性状、身体内性状及び心理状態の評価が可能となったり、逆に肌年齢、肌内部性状、身体内性状及び心理状態の測定結果から、皮溝の太さ、皮溝の異方性それぞれの評価が可能になると考えられる。
また、本結果は、肌表面の肌理だけでなく、肌理より高低差や幅が大きな凹凸で構成される立体形状を示す小ジワ、シワ及びたるみが起因して生じるシワの形状評価に活用できると考えられる。




図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8