IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オリンパステルモバイオマテリアル株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-骨手術用器具 図1
  • 特開-骨手術用器具 図2
  • 特開-骨手術用器具 図3
  • 特開-骨手術用器具 図4
  • 特開-骨手術用器具 図5
  • 特開-骨手術用器具 図6
  • 特開-骨手術用器具 図7
  • 特開-骨手術用器具 図8
  • 特開-骨手術用器具 図9
  • 特開-骨手術用器具 図10
  • 特開-骨手術用器具 図11
  • 特開-骨手術用器具 図12
  • 特開-骨手術用器具 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103566
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】骨手術用器具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/17 20060101AFI20220701BHJP
【FI】
A61B17/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218283
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】304050912
【氏名又は名称】オリンパステルモバイオマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【弁理士】
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】横山 靖治
(72)【発明者】
【氏名】原田 実
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL12
4C160LL29
(57)【要約】      (修正有)
【課題】骨にドリルで穴を開ける際の切削粉の発生および骨への衝撃を防止することができる骨手術用器具を提供する。
【解決手段】骨手術用器具1は、貫通穴4aを有する圧迫部材4と、圧迫部材を中心軸線Aに沿う軸線方向に移動可能に支持する支持部7および圧迫部材の先端から軸線方向に間隔を空けて配置された受け部8を有する本体6と、本体に接続され工具を中心軸線に沿って案内するガイド部材5とを備え、受け部が、貫通穴から突出する工具の軸部の先端を受け入れる凹部8bを有し、ガイド部材が、圧迫部材4の基端側に配置され工具の大径面が突き当たるストッパ面5bを有し、受け部およびガイド部材がL2<L1を満たす寸法を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨に穴を開ける工具を案内する骨手術用器具であって、前記工具が、長尺の軸部と、該軸部の基端に設けられ該軸部よりも大径の大径面とを有し、
筒状の圧迫部材であって、該圧迫部材を長手方向に貫通し前記工具の軸部が挿入される貫通穴を有する圧迫部材と、
該圧迫部材を前記貫通穴の中心軸線に沿う軸線方向に移動可能に支持する支持部、および、前記圧迫部材の先端から前記軸線方向に間隔を空けて配置された受け部を有する本体と、
該本体に接続され、前記工具を前記貫通穴の中心軸線に沿って案内するガイド部材と、を備え、
前記受け部が、前記圧迫部材側に配置され前記骨の表面に接触させられる骨接触面と、該骨接触面に対して前記圧迫部材とは反対側に凹み前記貫通穴から突出する前記軸部の先端を受け入れる凹部と、を有し、
前記ガイド部材が、前記圧迫部材の基端側に配置され、前記工具の前記大径面が前記軸線方向に突き当たるストッパ面を有し、
前記受け部および前記ガイド部材が下記関係式(1)を満たす寸法を有する、骨手術用器具。
L2<L3<L1 ・・・(1)
ただし、
L1は、前記凹部の底から前記ストッパ面までの前記軸線方向の距離、
L2は、前記骨接触面から前記ストッパ面までの前記軸線方向の距離、
L3は、前記工具の先端から前記大径面までの前記工具の長手方向の距離
である。
【請求項2】
前記ガイド部材が、前記圧迫部材の基端側から前記貫通穴内に挿入される筒部を有し、
該筒部は、前記貫通穴と同軸に配置され前記工具の軸部が挿入されるガイド穴を有し、前記筒部の基端面が、前記ストッパ面である、請求項1に記載の骨手術用器具。
【請求項3】
前記工具の前記軸部の先端部が、前記軸部の他の部分とは異なる外径を有し、
前記受け部および前記ガイド部材が下記関係式(2)および(3)を満たす寸法を有する、請求項1または請求項2に記載の骨手術用器具。
L1-L2>H ・・・(2)
L2<L3-H ・・・(3)
ただし、
Hは、前記工具の長手方向における前記先端部の寸法
である。
【請求項4】
前記軸線方向における前記ガイド部材の長さ寸法を変更可能であり、
前記ガイド部材の前記長さ寸法の変更によって前記ストッパ面の位置が前記軸線方向に変更可能である、請求項1から請求項3のいずれかに記載の骨手術用器具。
【請求項5】
前記圧迫部材に対する前記ガイド部材の前記中心軸線回りの回転を制限する回転制限部を備える、請求項1から請求項4のいずれかに記載の骨手術用器具。
【請求項6】
前記ガイド部材、前記本体および前記工具の少なくとも1つが、前記大径面が前記ストッパ面に接触したときの衝撃を緩衝する緩衝部を備える、請求項1から請求項5のいずれかに記載の骨手術用器具。
【請求項7】
前記大径面が、前記軸部に着脱される部品の先端面である、請求項1から請求項6のいずれかに記載の骨手術用器具。
【請求項8】
前記圧迫部材および前記ガイド部材が、下記関係を満たす寸法を有する、請求項1から請求項7のいずれかに記載の骨手術用器具。
d1<d4<d5<d2、d4<d3<d2、かつ、d6<d2
ただし、
d1は、前記工具の前記軸部の外径、
d2は、前記圧迫部材の前記貫通穴の内径、
d3は、前記ガイド部材の前記貫通穴内に挿入される部分の外径、
d4は、前記ガイド部材の前記貫通穴内に挿入される部分の内径、
d5は、前記穴内に挿入されるインプラントの最大外径、
d6は、前記インプラントの基端に接続される挿入具の外径
である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨手術用器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インプラント用の下穴を骨に開ける際に、ドリルを案内する骨手術用器具が使用されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1の骨手術用器具は、ドリルが挿入される筒状の軸部材と、軸部材の先端と対向しドリルの先端を受け止める受け部とを備える。軸部材および受け部によって骨を径方向に把持し、軸部材内にドリルを挿入することによって、骨に径方向の圧迫を加えながら骨に下穴を作製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/059405号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において、骨を貫通したドリルの先端が受け部に接触する。したがって、ドリルの先端または受け部が摩耗し切削粉が生じる可能性がある。また、ドリルの先端が受け部に接触したときに、骨に衝撃が加わる可能性がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、骨にドリルで穴を開ける際の切削粉の発生および骨への衝撃を防止することができる骨手術用器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、骨に穴を開ける工具を案内する骨手術用器具であって、前記工具が、長尺の軸部と、該軸部の基端に設けられ該軸部よりも大径の大径面とを有し、筒状の圧迫部材であって、該圧迫部材を長手方向に貫通し前記工具の軸部が挿入される貫通穴を有する圧迫部材と、該圧迫部材を前記貫通穴の中心軸線に沿う軸線方向に移動可能に支持する支持部、および、前記圧迫部材の先端から前記軸線方向に間隔を空けて配置された受け部を有する本体と、該本体に接続され、前記工具を前記貫通穴の中心軸線に沿って案内するガイド部材と、を備え、前記受け部が、前記圧迫部材側に配置され前記骨の表面に接触させられる骨接触面と、該骨接触面に対して前記圧迫部材とは反対側に凹み前記貫通穴から突出する前記軸部の先端を受け入れる凹部と、を有し、前記ガイド部材が、前記圧迫部材の基端側に配置され、前記工具の前記大径面が前記軸線方向に突き当たるストッパ面を有し、前記受け部および前記ガイド部材が下記関係式(1)を満たす寸法を有する、骨手術用器具である。
L2<L3<L1 ・・・(1)
ただし、L1は、前記凹部の底から前記ストッパ面までの前記軸線方向の距離、L2は、前記骨接触面から前記ストッパ面までの前記軸線方向の距離、L3は、前記工具の先端から前記大径面までの前記工具の長手方向の距離である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】一実施形態に係る骨手術用器具の全体構成図であり、ガイド部材が本体から分離された状態における骨手術用器具の側面図である。
図2】ガイド部材が本体に取り付けられた状態における図1の骨手術用器具の側面図である。
図3図2の骨手術用器具の圧迫部材の中心軸線に沿う縦断面図である。
図4図1のガイド部材を筒部側から見た図である。
図5図1の骨手術用器具に使用されるインプラントの一例の側面図である。
図6図1の骨手術用器具に使用される工具の一例の側面図である。
図7】骨手術用器具を使用した手術の一例を説明する図である。
図8】骨手術用器具の変形例の中心軸線に沿う縦断面図である。
図9】ガイド部材が本体から分離された状態における骨手術用器具の他の変形例の側面図である。
図10図2の骨手術用器具を基端側から見た上面図である。
図11】ガイド部材が本体から分離された状態における他の変形例の骨手術用器具の側面図である。
図12】大径面がドライバに設けられた工具の変形例の部分側面図である。
図13】ワッシャを有するインプラントの変形例の部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の一実施形態に係る骨手術用器具および骨手術用システムについて図面を参照して説明する。
骨手術用システムは、図1から図4に示される骨手術用器具1と、図5に示されるインプラント2と、図6に示される工具3と、を備える。
【0008】
図5に示されるように、インプラント2は、骨Bに固定される固定具、例えばスクリュである。インプラント2は、長尺の軸部2aと、軸部2aの基端に固定され軸部2aよりも大径の頭部2bとを有し、軸部2aにはねじ山が設けられている。
【0009】
図6に示されるように、工具3は、インプラント2を挿入するための下穴を骨Bに開けるドリルである。工具3は、長尺の軸部3aと、軸部3aの基端側に設けられた大径部3bと、大径部3bの基端側に設けられた接続部3cとを有する。軸部3aは、先端に設けられた切れ刃と、らせん溝とを有する。接続部3cには、軸部3aを回転させるドライバが接続される。大径部3bは、軸部3aの外径よりも大きな外径を有し、大径部3bの先端側の面3dは、軸部3aの外周面から径方向外方に突出する環状の大径面である。
【0010】
骨手術用器具1は、骨Bに径方向の圧迫を加えながら工具3を案内するガイドデバイスである。骨手術用器具1は、インプラント2および工具3とは別に単体で提供されてもよく、インプラント2および工具3と一緒に骨手術用システムとして提供されてもよい。
図1から図4に示されるように、骨手術用器具1は、骨Bに圧迫を加える圧迫部材4と、工具3を案内するガイド部材5と、圧迫部材4およびガイド部材5を支持する本体6と、を備える。
【0011】
図1から図3に示されるように、圧迫部材4は、直線状に延びる円筒状の部材であり、圧迫部材4を長手方向に貫通し工具3およびインプラント2が挿入される貫通穴4aを有する。貫通穴4aの内径d2は、インプラント2の最大外径d5および軸部3aの外径d1よりも大きい。
圧迫部材4の先端部に、圧迫部材4の先端から基端側に向かって圧迫部材4の長手方向に延びる少なくとも1つのスリット4bが設けられていてもよい。スリット4bは、圧迫部材4の外周面から内周面まで貫通する。作業者は、貫通穴4a内の工具3およびインプラント2を、スリット4bを経由して圧迫部材4の外側から観察し、工具3およびインプラント2の挿入量を確認することができる。
【0012】
圧迫部材4の先端は、骨Bの表面に接触させられる接触端である。圧迫部材4の先端には、受け部8(後述)側に向かって突出し先鋭な先端を有する針状の突起4cが設けられていてもよい。突起4cを骨Bの表面に刺すことによって、圧迫部材4を骨Bに対して固定することができる。
【0013】
圧迫部材4の基端部には、貫通穴4aを隔てて圧迫部材4の径方向に相互に連通する一対の穴4dが設けられていてもよい。穴4dは、突起4cによって骨Bに固定された圧迫部材4を骨Bから取り外すときに使用される。すなわち、一対の穴4dに貫通させた棒を回転させることによって、圧迫部材4にトルクを加えて圧迫部材4を骨Bから容易に分離することができる。
【0014】
ガイド部材5は、圧迫部材4の基端側から貫通穴4a内に挿入される筒部51と、筒部51を本体6に接続する接続部52と、を有する。
筒部51の外径d3は貫通穴4aの内径d2よりも小さく、圧迫部材4および貫通穴4a内の筒部51は、軸線方向に相対移動可能である。軸線方向は、貫通穴4aの中心軸線Aに沿う方向であり、図1から図3において縦方向である。
【0015】
図3に示されるように、筒部51は、筒部51を長手方向に貫通し工具3の軸部3aが挿入されるガイド穴5aを有する。ガイド穴5aの内径d4は、軸部3aの外径d1よりも大きく、かつ、大径面3dの外径よりも小さい。ガイド穴5aは、貫通穴4aと同軸に配置され、ガイド穴5a内に挿入された軸部3aを中心軸線Aに沿って案内する。筒部51の環状の基端面5bは、圧迫部材4の基端側に配置され、工具3の大径面3dと軸線方向に突き当たることによって工具3の骨Bへの挿入量を制限するストッパ面として機能する。
【0016】
接続部52は、筒部51の径方向外側に配置され筒部51と平行に延びる板状の部材である。接続部52の基端は筒部51の基端と接続されている。接続部52は、筒部51の先端を超えて延び、接続部52の先端部52aは本体6の所定の取付部10(後述)に取付可能である。例えば、図4に示されるように、先端部52aは、取付部10の外側に嵌合するU字形であり、先端部52aの基端側の内面が取付部10の基端面と接触する所定位置にガイド部材5は支持される。先端部52aは、圧迫部材4に対するガイド部材5の中心軸線A回りの回転を制限する回転制限部としても機能する。
なお、図1には、本体6に着脱可能であるガイド部材5が示されているが、ガイド部材5は、本体6に固定され本体6と一体であってもよい。
【0017】
本体6は、圧迫部材4を支持する支持部7と、圧迫部材4の先端から突出する工具3の先端を受け入れる受け部8と、支持部7と受け部8とを相互に連結する鉤状の支柱9と、を備える。
支柱9は、略U字状または略C字状に湾曲し、骨Bの略半周を囲むように骨Bの径方向外側に配置される。支持部7は、支柱9の一端に固定され、受け部8は、支柱9の他端に固定されている。支持部7の近傍の支柱9の一端部は、ガイド部材5が取り付けられる取付部10である。
【0018】
支持部7は、円筒状の部材であり、支持部7を長手方向に貫通し圧迫部材4が挿入される貫通穴7aを有する。支持部7は、圧迫部材4を軸線方向に移動可能に貫通穴7a内に支持する。圧迫部材4の移動によって、骨Bの太さに応じて圧迫部材4の先端と受け部8との間の距離が調整される。
【0019】
支持部7には、支持部7に対して圧迫部材4を固定および固定解除するロック機構11が設けられている。図3に示されるように、ロック機構11の一例は、貫通穴7aの内面から突没する突起を有するクリック機構である。圧迫部材4の外周面には、圧迫部材4の長手方向に配列する複数の溝が形成される。突起は、ばね等によって径方向内方に付勢される。突起が溝内に嵌った状態において、圧迫部材4は支持部7に対して長手方向に固定される。圧迫部材4に一定の大きさ以上の長手方向の力が加わったとき、突起が引っ込むことによって圧迫部材4の固定が解除される。
【0020】
ロック機構11は、支持部7に対して圧迫部材4をねじ止めする機構であってもよい。すなわち、支持部7に、支持部7の外周面から内周面まで貫通するねじ穴が形成される。ねじ穴内に挿入した固定ねじを締めることによって、圧迫部材4は支持部7に対して固定され、固定ねじを緩めることによって、圧迫部材4の固定が解除される。
【0021】
受け部8は、貫通穴4aの中心軸線Aの延長線に直交する板状の部材である。受け部8は、圧迫部材4の先端から軸線方向に間隔を空けた位置に配置され、圧迫部材4の先端と軸線方向に対向する。受け部8の圧迫部材4側の面には、骨Bの表面に接触させられる骨接触面8aと、圧迫部材4とは反対側に凹む凹部8bと、が設けられている。
【0022】
凹部8bは、中心軸線Aの延長線上に位置し、貫通穴4aを貫通する工具3の先端を受け入れる。凹部8bは、圧迫部材4とは反対側に閉塞された底を有する。
骨接触面8aは、凹部8bを囲む環状の面である。骨接触面8aは、平坦面であってもよく、骨Bの表面の形状に沿う曲面であってもよい。
受け部8は、基端側(圧迫部材4側)から先端側(圧迫部材4とは反対側)に向かって外径が次第に小さくなるテーパ形状であってもよい。後述するように、受け部8は、脛骨Bと、脛骨Bの後側に存在する組織との間に挿入される。受け部8をテーパ形状とすることによって、受け部8の挿入を容易にすることができる。
【0023】
前述したように、圧迫部材4およびガイド部材5は、インプラント2、挿入具および工具3に対して、下記関係式(i)、(ii)、(iii)および(iv)を満たす寸法を有する。挿入具(図示略)は、インプラント2の頭部2bに接続されインプラント2を下穴内に挿入するための器具であり、例えばドライバである。
d1<d4<d5<d2 ・・・(i)
d4<d3<d2 ・・・(ii)
d6<d2 (iii)
d2<d7 (iv)
図6に示されるように、d1は軸部3aの外径であり、d7は大径面3dの外径(直径)である。図3に示されるように、d2は貫通穴4aの内径、d3は筒部51の貫通穴4a内に挿入される部分の外径、d4はガイド穴5aの内径である。図5に示されるように、d5はインプラント2の最大外径であり、d6(図示略)は挿入具の外径である。
【0024】
好ましい設計例において、d1は2.4mm~5.0mm、d2は3.5mm~12mm、d3は3.4mm~11.9mm、d4は2.4mm~5.2mm、d5は3.4mm~11.9mm、d6は4mm~11.5mmである。
d1とd4との差は、軸部3aの外周面とガイド穴5aの内周面との間のクリアランスに相当する。d2とd3との差は、貫通穴4aの内周面とガイド部材5の外周面と間のクリアランスに相当する。d2とd5との差は、貫通穴4aの内周面とインプラント2の最大外径部分の外周面との間のクリアランスに相当する。上記設計例の場合、各クリアランスが1mm以下に抑えられ、さらに好ましくは0.2mm以下に抑えられる。これにより、ガイド穴5a内での軸部3aのがたつき、および、貫通穴4a内でのインプラント2のがたつきを無くし、中心軸線Aに沿って真っすぐに軸部3aおよびインプラント2を案内することができる。
また、インプラント2の長尺の軸部2aの外径は3mm~7mmであることがより好ましい。インプラント2の外径が小さ過ぎる場合、インプラント2の強度が不足する可能性がある。インプラント2の外径が大き過ぎる場合、インプラント2が骨Bおよび周辺組織に影響を与える可能性が有る。
【0025】
前述したように、接続部52によって本体6に取り付けられたガイド部材5は、本体6に対して軸線方向の所定位置に配置され、かつ、圧迫部材4はガイド部材5とは独立に軸線方向に移動可能である。したがって、圧迫部材4の軸線方向の位置に関わらず、受け部8とストッパ面5bとの間の軸線方向の距離は一定である。
ここで、ガイド部材5および受け部8は、下記関係式(1)を満たす寸法を有する。
L2<L3<L1 ・・・(1)
【0026】
図3に示されるように、L1は、凹部8bの底からストッパ面5bまでの軸線方向の距離であり、L2は、骨接触面8aからストッパ面5bまでの軸線方向の距離である。図6に示されるように、L3は、工具3の先端から大径面3dまでの工具3の長手方向の距離である。
式(1)を満たすことによって、大径面3dがストッパ面5bに接触するまで貫通穴4a内に工具3を挿入したとき、軸線方向において工具3の先端は骨接触面8aと凹部8bの底との間に配置され、凹部8b内に収容される。
【0027】
次に、骨手術用器具1および骨手術用システムの作用について説明する。
図7は、骨手術用器具1の一使用例として、DTO(Distal-tuberosity osteotomy)を示している。DTOは、粗面部Cを脛骨Bの近位骨片Dに連続させるために、高位脛骨骨切り術(HTO)において粗面部Cよりも遠位で骨切りを行う方法である。
なお、骨手術用器具1は、脛骨以外の部位の骨への下穴の作製およびインプラント2の挿入にも使用することができる。
【0028】
図7に示されるように、圧迫部材4と受け部8とによって脛骨Bを粗面部Cの位置で前後方向に挟み、圧迫部材4の先端および受け部8の骨接触面8aが脛骨Bの表面に接触するまで圧迫部材4を受け部8に近接する方向に移動させ、圧迫部材4を支持部7に対して固定する。これにより、圧迫部材4および受け部8によって脛骨Bが径方向に把持され、粗面部Cを含む前側の骨片B1と後側の骨片B2とを相互に近づける方向の圧迫が脛骨Bに加えられる。圧迫部材4は脛骨Bの前側に配置され、受け部8は脛骨Bの後側に配置される。
【0029】
次に、ガイド部材5のガイド穴5aを経由して圧迫部材4の貫通穴4a内に工具3を挿入し、回転する工具3によって脛骨Bに下穴を作製する。下穴の作製中、工具3は、ガイド穴5aによって中心軸線Aに沿って案内されるので、中心軸線Aの延長線に沿って真っすぐに延びる下穴を作製することができる。
【0030】
工具3が脛骨Bを貫通したとき、工具3の先端は、受け部8の凹部8b内に収容される。これにより、工具3の先端が脛骨Bの周囲の組織に対して露出することが防止され、脛骨Bの周囲の組織が工具3の先端から保護される。DTOの場合、脛骨Bを前方から後方に向かって貫通した工具3の先端が、脛骨Bの後方に存在する神経および血管等に対して露出することが防止される。
【0031】
次に、下穴および穴4a,5aから工具3を抜き、圧迫部材4および本体6からガイド部材5を取り外し、インプラント2を貫通穴4a内に挿入し、頭部2bに接続されたドライバ(図示略)を回転させることによって、インプラント2を下穴内にねじ込む。これにより、インプラント2によって骨片B1が骨片B2に固定される。
【0032】
このように、本実施形態によれば、ガイド部材5および受け部8によって脛骨Bに圧迫を加えながら、下穴の作製と下穴内へのインプラント2のねじ込みとが行われる。粗面部Cに接続されている膝蓋腱の張力によって、粗面部Cには前方に浮く力が加わっている。粗面部Cの位置において脛骨Bに圧迫を加えることによって粗面部Cを含む骨片B1の浮きを防止し、骨片B1を骨片B2に適切に接触させた状態で下穴の作製および下穴へのインプラント2の挿入を行うことができる。
【0033】
また、下穴の作製時、骨Bを貫通した工具3の先端は受け部8の凹部8b内に収容される。このとき、工具3の大径面3dがガイド部材5のストッパ面5bに接触することによって、工具3の先端は、凹部8bの底に到達する前に停止し、工具3の先端が受け部8と接触することが防止される。これにより、受け部8に工具3が接触することによる衝撃を生じることなく、受け部8は工具3の先端を受け入れることができ、骨Bへの影響を低減することができる。また、受け部8および工具3の摩耗と切削粉の発生とを防ぐことができる。
【0034】
また、工具3の大径面3dがストッパ面5bに接触したとき、工具3の先端は骨接触面8aを超えた位置に配置されるので、工具3を骨Bに確実に貫通させ、下穴を骨Bに確実に貫通させることができる。
また、ストッパ面5bから大径面3dまでの距離は、受け部8から工具3の先端までの距離と略等しいので、作業者は、ストッパ面5bから大径面3dまでの距離から、骨Bの残りの切削距離が分かる。したがって、作業者は、工具3の先端が骨Bの受け部8側の表面に近付いたときに骨Bの切削を慎重に進める等の適切な対応をとることができる。
【0035】
上記実施形態において、受け部8の凹部8bが、閉塞された底を有する穴であることとしたが、凹部8bは、底が開放された穴、すなわち受け部8を軸線方向に貫通する穴であってもよい。底が開放された凹部8bの場合、凹部8bの底の位置は、骨接触面8aとは反対側の受け部8の面の位置である。凹部8bが底が開放された穴である場合、受け部8をより薄くすることができ、脛骨Bの後側への受け部8の設置がより容易になる。
【0036】
上記実施形態において、工具3の軸部3aの先端部3eが、軸部3aの他の部分とは異なる外径を有していてもよい。例えば、図6に示されるように、軸部3aの先端部3eは、先端に向かって先細になるテーパ状であり、軸部3aの他の部分よりも細径であってもよい。あるいは、先端部3eが、軸部3aの他の部分よりも大径であってもよい。先端部3eが軸部3aの他の部分とは異なる外径を有する場合、受け部8およびガイド部材5は、下記関係式(2)および(3)を満たす寸法を有する。式(2)および式(3)において、Hは、工具3の長手方向における先端部3eの寸法である。
L1-L2>H ・・・(2)
L2<L3-H ・・・(3)
【0037】
L1-L2は、凹部8bの深さである。式(2)を満たすことによって、先端部3eの全長を凹部8b内に収容することができる。
式(3)を満たすことによって、大径面3dがストッパ面5bに接触した状態において、先端部3eの全長が骨接触面8aを超えて凹部8b内に配置される。したがって、大径面3dがストッパ面5bに接触するまで工具3を前進させることによって、先端部3eの全長を骨Bに貫通させ、全長にわたって同一径を有する下穴を確実に作製することができる。
【0038】
先端部3eの長さHが大きい程、受け部8が厚くなる。受け部8を脛骨Bの後側の表面上に設置することを容易にするために、受け部8は薄いことが好ましい。具体的には、長さHは、6mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましい。軸線方向の受け部8の厚さは、3mm~8mmであることが好ましく、凹部8bの深さ(L1-L2)は、1.5mm~7mmであることが好ましい。
【0039】
上記実施形態において、軸線方向におけるガイド部材5の長さ寸法が変更可能であり、ガイド部材5の長さ寸法の変更によってストッパ面5bの位置が軸線方向に変更可能であってもよい。
例えば、筒部51は、外筒内に内筒が長手方向に移動可能に挿入されたテレスコープ構造を有し、ガイド部材5が長手方向に伸縮可能である。内筒は、ラチェット機構またはねじ等の固定手段によって外筒に対して固定可能である。必要に応じて、接続部52も、筒部51と同様に、長手方向に伸縮可能であってもよい。筒部51の伸縮によって、ストッパ面5bの位置が軸線方向に段階的にまたは連続的に変化する。これにより、使用する工具3の長さに応じて、ストッパ面5bの位置を式(1)を満たす位置に変更することができ、長さL3の異なる複数の工具3を骨手術用器具1に使用することができる。図9に示す変形例のように筒部51の交換によってガイド部材5の長さを変更してもよく、ガイド部材5が本体6に着脱可能である場合にはガイド部材5の交換によってガイド部材5の長さを変更してもよい。
【0040】
上記実施形態において、ガイド部材5が、筒部51と、筒部51と平行に延び筒部51と一体である接続部52とを備えることとしたが、ガイド部材5の構成はこれに限定されるものではなく、適宜変更可能である。図8および図9は、ガイド部材5の他の例を示している。
【0041】
図8のガイド部材5は、圧迫部材4に基端側から被せられる筒状の部材であり、圧迫部材4を介して本体6に取り付けられる。このガイド部材5は、先端面から基端に向かって延び圧迫部材4が軸線方向に移動可能に挿入される筒状のスリットを有し、圧迫部材4の内周面および外周面を覆う。ガイド部材5の先端側の面が本体6の基端側の面に突き当たることによって、ガイド部材5は本体6に対して所定位置に支持される。
図8のガイド部材5にも、圧迫部材4に対する回転を制限する回転制限部として、先端部52aのような取付部10に嵌合するU字形の先端部が設けられていてもよい。あるいは、回転制限部として、圧迫部材4または本体6に対してガイド部材5をねじ止めするねじ、またはピン止めするピンが設けられていてもよい。
【0042】
図9のガイド部材5は、接続部52とは別体の筒部51を有する。接続部52の基端部には、中心軸線Aと同軸であり筒部51が貫通する貫通穴52cが設けられている。筒部51の基端部に設けられたフランジ面51aが接続部52の基端面に突き当たるまで筒部51を貫通穴52cを経由して貫通穴4aに挿入したとき、筒部51およびストッパ面5bは、所定位置に支持される。
この構成によれば、筒部51の交換によって、ガイド部材5の長さ寸法およびストッパ面5bの位置を変更可能である。したがって、使用する工具3の長さL3に応じて、式(1)を満たす寸法の筒部51に交換することによって、長さL3の異なる複数の工具3を骨手術用器具1に使用することができる。
接続部52が、取付部10において本体6に固定され、本体6と一体であってもよい。この構成によれば、骨手術用器具1の操作がより簡便になる。
【0043】
上記実施形態において、骨手術用器具1の第1合成重心および第2合成重心が、中心軸線Aの近傍に配置されることが好ましい。第1合成重心は、圧迫部材4が本体6に支持された状態での圧迫部材4および本体6の合成重心である。第2合成重心は、圧迫部材4が本体6に支持されガイド部材5が本体6に取り付けられた状態での圧迫部材4、ガイド部材5および本体6の合成重心である。
骨手術用器具1を骨Bに設置するとき、作業者は、骨手術用器具1を支柱9において持つ。このとき、第1合成重心および第2合成重心が中心軸線Aの近傍に配置されることによって、骨手術用器具1の姿勢を安定させることができる。
【0044】
好ましくは、第1合成重心および第2合成重心は、図10においてハッチングで示される範囲S内に位置する。図10は、図2の骨手術用器具1を基端側から中心軸線Aに沿う方向に見た上面図である。範囲Sは、中心軸線Aから半径11mm以内、かつ、支柱9の厚さ方向において中心軸線Aから1mm以内の範囲である。支柱9の厚さ方向は、鉤状の支柱9によって画定される平面に垂直な方向である。
支柱9において骨手術用器具1を持ったときの骨手術用器具1の姿勢を安定させるためには、支柱9の厚さ方向において合成重心が中心軸線Aの近いことが有利である。したがって、第1合成重心および第2合成重心が範囲S内に存在することによって、骨手術用器具1の姿勢をより安定させることができる。
【0045】
上記実施形態において、ガイド部材5および本体6、工具3の少なくとも1つが、大径面3dがストッパ面5bに接触したときの衝撃を緩衝する緩衝部を備えていてもよい。
図11に示されるように、緩衝部12aは、ガイド部材5の一部分からなり、例えば、筒部51の基端部に設けられる。緩衝部12bは、本体6の一部分からなり、例えば、取付部10または取付部10の近傍に設けられる。工具3の大径部3bまたは接続部3cに緩衝部(図示略)が設けられていてもよい。
【0046】
骨手術用器具1は、高い強度を確保するために、主としてステンレス、チタンまたはチタン合金等の高剛性の材料から形成される。緩衝部12a,12bは、ガイド部材5および本体6の他の部分と比較して低い弾性率を有する。緩衝部12a,12bの一例は、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)またはシリコーン等の樹脂からなる弾性部材または粘弾性部材である。緩衝部12a,12bの他の例は、ガイド部材5および本体6の他の部分と同一または異なる材料から形成され、圧縮ばねのように弾性圧縮可能な構造体である。
ガイド部材5、本体6および工具3の少なくとも1つに低弾性率の緩衝部12a,12bを設けることによって、工具3の大径面3dがストッパ面5bに接触したときの衝撃を緩衝部12a,12bによって吸収し、圧迫部材4および受け部8を経由して骨Bに衝撃が伝達されることを抑制することができる。
【0047】
本実施形態において、工具3の軸部3aが大径面3dを有することとしたが、これに代えて、軸部3aに着脱される部品の先端面を大径面として利用してもよい。例えば、図12に示されるように、部品31は、接続部3cに接続されるドライバであり、ドライバ31のチャックの先端面31aが、大径面である。
工具3の所定位置に先端面31aが配置されるようにドライバ31を軸部3aに取り付けることによって、先端面31aを大径面3dと同じく機能させることができる。これにより、大径面3dを有しない工具3も、骨手術用器具1に使用することができる。
【0048】
上記実施形態において、図13に示されるように、インプラント2が、スクリュの頭部2bの外径よりも大きな外径を有するワッシャ2cをさらに有していてもよい。この場合、式(i)におけるd5はワッシャ2cの外径であり、外径d5は貫通穴4aの内径d2よりも小さい。
スクリュと一緒に、頭部2bと骨Bの表面との間に挟まれるワッシャ2cを使用することがある。スクリュをワッシャ2cと一緒に貫通穴4a内に挿入し下穴にねじ込むことによって、骨Bに圧迫を加えながらスクリュを骨Bにより強固に固定することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 骨手術用器具
2 インプラント
3 工具
3a 軸部
3d 大径面
31 部品
4 圧迫部材
4a 貫通穴
4b スリット
5 ガイド部材
51 筒部
5a ガイド穴
5b ストッパ面
6 本体
7 支持部
8 受け部
8a 骨接触面
8b 凹部
12a,12b 緩衝部
A 中心軸線
B 骨
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13