(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103580
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】炭酸カルシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 11/18 20060101AFI20220701BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20220701BHJP
B01D 53/72 20060101ALI20220701BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
C01F11/18 C ZAB
B01D53/62
B01D53/72 200
B01D53/14 210
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218308
(22)【出願日】2020-12-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】598039965
【氏名又は名称】白石工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】阪口 裕允
(72)【発明者】
【氏名】大國 咲也夏
(72)【発明者】
【氏名】江口 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】南里 泰徳
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
4G076
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC10
4D002BA02
4D002CA06
4D002DA02
4D002DA12
4D002FA04
4D002GA01
4D002GB08
4D020AA03
4D020BA01
4D020BA08
4D020BB03
4D020CB01
4D020DA03
4D020DB07
4G076AA16
4G076AB02
4G076AC10
4G076BA13
4G076BC02
4G076BC06
4G076BC07
4G076BD02
4G076BE11
4G076CA02
4G076CA07
4G076CA26
4G076CA28
4G076CA29
(57)【要約】 (修正有)
【課題】炭酸ガスを効率的に利用しつつ、形態の制御された炭酸カルシウムを製造する方法を提供する。
【解決手段】以下の工程:5~20%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液に、炭酸ガスを吸収させ、6~24%の濃度の炭酸ナトリウム水溶液を得る、炭酸ガス吸収工程と;酸化カルシウムと水とを反応させて、BET比表面積が5~40m
2/gの水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を得る、水化工程と;該石灰乳に、該炭酸ナトリウム水溶液を添加して反応させる、炭酸化工程と;を含む、炭酸カルシウムの製造方法とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
5~20%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液に、炭酸ガスを吸収させ、6~24%の濃度の炭酸ナトリウム水溶液を得る、炭酸ガス吸収工程と;
酸化カルシウムと水とを反応させて、BET比表面積が5~40m2/gの水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を得る、水化工程と;
該石灰乳に、該炭酸ナトリウム水溶液を添加して反応させる、炭酸化工程と;
を含む、炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
該炭酸化工程において、該石灰乳の固形分濃度を5~20%に調整し、該固形分濃度を調整した石灰乳に、該炭酸ナトリウム水溶液を添加して、温度10~80℃で反応させる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
該炭酸化工程の後に、水酸化ナトリウムを含む濾液と、炭酸カルシウムとに分離する、固液分離工程をさらに含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
該水酸化ナトリウムを含む濾液の水酸化ナトリウムの濃度を5~20%に調整し、該炭酸ガス吸収工程に再利用する、請求項3に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼炉等の煙道排ガスを利用して炭酸カルシウムを合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的な炭酸カルシウムの合成方法として、石灰乳中に炭酸ガスを吹き込み炭酸化させる炭酸ガス化合法が知られている。炭酸ガス化合法にて使用する炭酸ガスとしては、炭酸カルシウム製造プラントに近接して設置されている石灰焼成炉の煙道排ガスが利用されることが多い。このほか、炭酸ガスの供給源として、ボイラーやごみ焼却炉等の排ガスも利用することもできる。しかしながら、この場合、炭酸カルシウム製造プラントを焼成炉の近くに設置することができないことがあり、炭酸ガスの供給源となる施設から炭酸カルシウム製造プラントまで通じる煙道排ガス配管を敷設する必要が生じる。煙道排ガスを利用する場合も、炭酸ガスの供給量が一定ではない煙道排ガスの炭酸ガス濃度は通常均一ではなく、炭酸化を効率よく行うことができないという問題があった。さらに煙道排ガスの温度制御ができないため、生成する炭酸カルシウムの性状が煙道排ガス温度の影響を受けやすく、所望の形状の炭酸カルシウムを製造することができない、という問題もあった。一方、炭酸ガス化合法による炭酸カルシウムの合成反応では、炭酸ガスが一旦水に溶解する必要があるため、反応時間が長く、反応効率も高くない。炭酸ガスの吸収効率を高めるために低温で反応させることが多く、高温での反応には適していない。炭酸ガスのすべてが反応に使用されることはなく、使われなかった炭酸ガスは大気中に放出されるという問題もあった。
【0003】
特許文献1には、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)水溶液に炭酸ガスを吸収させて炭酸ソーダ(炭酸ナトリウム)とし、炭酸ソーダと石灰乳(水酸化カルシウム水懸濁液)とを反応させて炭酸カルシウムを製造する方法が開示されている。特許文献1の方法では、炭酸ガス濃度が不均一であっても苛性ソーダ水溶液への吸収が可能であり、炭酸ガスを貯蔵しておくことができる。そのため、炭酸ガス発生場所から離れた場所に炭酸カルシウム製造プラントを設置することが可能となる。炭酸ソーダの水への溶解度は炭酸ガスのそれよりも遥かに高く、またその溶解度は高温下でも低下しないため、高温かつ高濃度の条件下での炭酸カルシウムの製造が可能になる。先に説明した炭酸ガス化合法で反応に使われなかった炭酸ガスを苛性ソーダ水溶液にて回収できれば、大気に放出される炭酸ガスの量の削減も期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引用文献1の製造方法では、低濃度の苛性ソーダに炭酸ガスを吸収させると炭酸ガスの吸収効率が低下するため、炭酸ガスを最大限に利用することができない。この場合、得られる炭酸ソーダの濃度も低くなるため、炭酸カルシウムの製造効率も低下する。そこで本発明は、炭酸ガスを効率的に利用しつつ、形態の制御された炭酸カルシウムを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の工程:5~20%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液に、炭酸ガスを吸収させ、6~24%の濃度の炭酸ナトリウム水溶液を得る、炭酸ガス吸収工程と;酸化カルシウムと水とを反応させて、BET比表面積が5~40m2/gの水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を得る、水化工程と;該石灰乳に、該炭酸ナトリウム水溶液を添加して反応させる、炭酸化工程と;を含む、炭酸カルシウムの製造方法に係る。
【0007】
ここで、炭酸化工程において、石灰乳の固形分濃度を5~20%に調整し、固形分濃度を調整した石灰乳に、炭酸ナトリウム水溶液を添加して、温度10~80℃で反応させることができる。
【0008】
さらに炭酸化工程の後に、水酸化ナトリウムを含む濾液と、炭酸カルシウムとに分離する、固液分離工程をさらに含んでいてもよい。
【0009】
また、上記の製造方法において、水酸化ナトリウムを含む濾液の水酸化ナトリウムの濃度を5~20%に調整し、炭酸ガス吸収工程に再利用してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法は、比較的高濃度の水酸化ナトリウム水溶液を利用するため、炭酸ガスを最大限に利用して効率よく炭酸カルシウムを製造することができる。本発明の方法により、炭酸ナトリウム水溶液と石灰乳の固形分濃度とのバランスを調整することにより、形態の制御された炭酸カルシウムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1で得られた、微細な粒状粒子が連鎖状に連なる形状の炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率:50000倍)である。
【
図2】
図2は、実施例2で得られた、針状形状の炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率:10000倍)である。
【
図3】
図3は、実施例3で得られた、紡錘状の炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率:30000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について、さらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態にのみ限定されるものではない。
【0013】
本発明の実施形態は、以下の工程:5~20%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液に、炭酸ガスを吸収させ、6~24%の濃度の炭酸ナトリウム水溶液を得る、炭酸ガス吸収工程と;酸化カルシウムと水とを反応させて、BET比表面積が5~40m2/gの水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を得る、水化工程と;該石灰乳に、該炭酸ナトリウム水溶液を添加して反応させる、炭酸化工程と;を含む、炭酸カルシウムの製造方法である。本実施形態は、炭酸ガス吸収工程と、水化工程と、炭酸化工程とを少なくとも含む炭酸カルシウムの製造方法である。炭酸ガス吸収工程は、水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガスを吸収させ、炭酸ナトリウム水溶液を得る工程である。水酸化ナトリウムは一般に苛性ソーダとも呼ばれ、市販品を適宜利用することができる。水酸化ナトリウム水溶液は、水酸化ナトリウムを水に溶解して得られるほか、製紙工程で得られる水酸化ナトリウムを含む液体(いわゆる「白液」)を用いることもできる。本工程で用いられる水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウムの濃度は、5~20%、好ましくは8~19%、さらに好ましくは13~18%とすることができる。本工程で水酸化ナトリウム水溶液の濃度を最大で20%とすることにより、炭酸ガスの吸収効率を向上させることができる。本実施形態において、水酸化ナトリウム水溶液に吸収させる炭酸ガスは、二酸化炭素単独の気体のほか、炭酸ガスと他の気体とを含む混合気体であっても良いものとする。本実施形態で使用する炭酸ガスとして、炭酸ガスを含む排ガスを利用することができる。このような排ガスとして、たとえば、石灰焼成炉、ボイラー、ごみ焼却炉、セメント焼成炉、耐火物加熱炉、製鋼用転炉、製鋼用溶鉱炉、キュポラ、コークスガス発生炉、石炭ガス発生炉、石油分解用炉、ガラス製造反射炉、オイルガス発生炉およびアセチレン発生炉からの排ガスを挙げることができる。水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガスを吸収させると、炭酸ナトリウムが生成する。炭酸ナトリウムの濃度が6~24%、好ましくは10.2~22.8%、さらに好ましくは16.1~21.6%になるまで、炭酸ガスを吸収させることができる。なお、本明細書においては特に断らない限り、%は重量%のことである。
【0014】
実施形態において、水化工程は、酸化カルシウムと水とを反応させて石灰乳を得る工程である。石灰乳とは水酸化カルシウムの水懸濁液(水酸化カルシウム水スラリー)のことである。水化工程に用いる酸化カルシウムは、一般に生石灰とも呼ばれる、カルシウムの酸化体である。酸化カルシウムは市販のものを適宜利用することができる。本工程で得られる水酸化カルシウムは、一般に消石灰とも呼ばれるカルシウムの水酸化物である。水化工程においては、BET比表面積が5~40m2/gの水酸化カルシウムの懸濁液を得ることが好ましい。BET比表面積は、日本工業規格JIS Z 8830「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」にしたがい測定することができる。反応させる酸化カルシウムと水の量を調整することにより、BET比表面積が5~40m2/gの水酸化カルシウムを得ることができる。酸化カルシウムの量に対して水の量を多くすると、BET比表面積の大きい水酸化カルシウムを得ることができる。反対に酸化カルシウムの量に対して水の量を少なくすると、BET比表面積の小さい水酸化カルシウムを得ることができる。なお、水化工程と、上記の炭酸ガス吸収工程とは、並行して同時に行うことができ、炭酸ガス吸収工程に次いで水化工程、あるいは、水化工程に次いで炭酸ガス吸収工程、のように、続けて行うことも可能である。水化工程で適切な範囲のBET比表面積を有する水酸化カルシウムを得ることは、本実施形態にて最終的に所望の形態の炭酸カルシウムを得るために重要である。本工程で得られる水酸化カルシウムのBET比表面積を15~40m2/gとすると、以下に説明する炭酸化工程で得られる炭酸カルシウムの大部分の結晶形をカルサイトにすることができ、BET比表面積を5~20m2/gとすると、炭酸化工程で得られる炭酸カルシウムの大部分の結晶形をアラゴナイトにすることができる。
【0015】
実施形態において、炭酸化工程は、水化工程で得られた石灰乳と、炭酸ガス吸収工程で得られた炭酸ナトリウム水溶液とを反応させて、炭酸カルシウムを得る工程である。この工程は、一般に苛性化工程とも呼ばれる。この工程で、石灰乳の固形分濃度は5~20%に調整して用いることが非常に好ましい。好ましくは上記の範囲に固形分濃度を調製した石灰乳に炭酸ナトリウム水溶液を添加する際には、石灰乳に存在する水酸化カルシウムの量に対して、炭酸ナトリウム水溶液中に存在する炭酸ナトリウムの量がモル比で0.9~1.5となるように、炭酸ナトリウム水溶液を添加するのが好ましい。またこの際、石灰乳に炭酸ナトリウム水溶液を60~180分間、あるいは100~150分間かけて添加することが非常に好ましい。固形分濃度を調製した石灰乳に、炭酸ガス吸収工程で得られた炭酸ナトリウム水溶液を添加して、温度10~80℃、あるいは20~55℃で反応させることが好ましい。炭酸化工程の反応温度が高すぎても、低すぎても、加熱や冷却に必要なエネルギー等に必要なコストが増大する。なお、アラゴナイト結晶を多く含む炭酸カルシウムを製造すべく、水酸化カルシウムのBET比表面積を上記のように調整した場合、炭酸化工程の反応温度を高くすると、アラゴナイト結晶(針状)の形状が太くなる傾向がある。炭酸化工程の反応は、反応液を撹拌して行うのが好ましい。好ましくは、石灰乳に炭酸ナトリウム水溶液を徐々に添加してこれらが完全に混合するまでの時間(完全混合時間)が3~25秒間、あるいは5~22秒間となるように撹拌機を調整することができる。反応容器を撹拌する手段として、従来から用いられているプロペラ撹拌機、パドル翼撹拌機、リボン撹拌機、タービン翼撹拌機、馬蹄翼撹拌機、糸巻翼撹拌機、ミキサー撹拌機、磁気撹拌機等を使用することができる。本工程の反応では、炭酸カルシウムと水酸化ナトリウムが生じる。水溶性の水酸化ナトリウムは反応液中に溶解し、水溶性の低い炭酸カルシウムは固体として析出する。
【0016】
炭酸化工程の反応により生じた炭酸カルシウムを、反応液から分離して、固体の状態で取り出す固液分離工程をさらに含んでいて良い。固体の炭酸カルシウムを分離した後に残った反応液(濾液)は水酸化ナトリウム水溶液であり、これを上記の炭酸ガス吸収工程に再利用することができる。濾液を炭酸ガス吸収工程に再利用する場合は、水酸化ナトリウムの濃度を5~20%、好ましくは8~19%、さらに好ましくは13~18%に調整することが好適である。得られる炭酸カルシウムは、カルサイト結晶、アラゴナイト結晶、バテライト結晶等の結晶形を有していて良い。上記の各工程において、濃度や温度等を変えることにより、種々の結晶形の炭酸カルシウムを製造することができる。得られる炭酸カルシウムの粒子は、球状のほか、略立方体、紡錘状、針状、微小球形の結晶が連なった形状等のような、種々の形状を有していて良い。
【0017】
実施形態の炭酸カルシウムの製造方法によれば、比較的高い濃度の水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガスを効率よく吸収させることができる。この際、炭酸ガスの濃度に関わらず、所望の濃度の炭酸ナトリウム水溶液を得ることができる。また炭酸化工程には所定の濃度の炭酸ナトリウム水溶液と、所定の固形分濃度の石灰乳とを所定の温度で所定の時間反応させることにより、所望の形状の炭酸カルシウムを製造することが可能となる。
【0018】
実施形態の炭酸カルシウムの製造方法は、炭酸ガスの吸収剤である水酸化ナトリウム水溶液を繰り返し再利用することができるので、廃液が少なく、環境への負荷を低減することができる。
【実施例0019】
以下、本発明の実施例を説明する。
[実施例1]
(1)炭酸化工程
濃度11.8%の水酸化ナトリウム水溶液に、30体積%の炭酸ガスを含有する二酸化炭素-空気混合ガスを、水溶液のpHが11.5になるまで導入した。濃度14.8%の炭酸ナトリウム水溶液423kgを得た。
(2)水化工程
水に酸化カルシウムを混合し、水化させて水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を得た。得られた水酸化カルシウムのBET比表面積を日本工業規格JIS Z 8830にしたがい測定したところ、15.9m
3/gであった。石灰乳の濃度を調整して、固形分濃度6.6%の石灰乳を553kg得た。
(3)炭酸化工程
水化工程で得られた553kgをプロペラ撹拌機を備えた反応タンクに導入した。ここに炭酸化工程で得られた炭酸ナトリウム水溶液423kgを120分間かけて添加し、反応液を撹拌した。この時、反応タンク内での完全混合時間が20秒間となるようにプロペラ撹拌機を作動させ、反応タンク内温度は15℃となるように調整した。得られた炭酸カルシウム懸濁液を濾過し、濾過ケーキを水で洗浄した後、105℃の恒温乾燥機で1時間乾燥した。炭酸カルシウム粉体を49kg得た。得られた炭酸カルシウムを電子顕微鏡にて観察したところ、20nm程度の微細な粒状粒子が連鎖状に連なる形状をしていた。
図1は、実施例1で得られた炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率:50000倍)である。この微細粒状炭酸カルシウムのBET比表面積(JIS Z 8830にしたがい測定)は、75.0m
2/gであった。
【0020】
[実施例2]
(1)炭酸化工程
濃度18.0%の水酸化ナトリウム水溶液に、30体積%の炭酸ガスを含有する二酸化炭素-空気混合ガスを、水溶液のpHが11.5になるまで導入した。濃度21.7%の炭酸ナトリウム水溶液548kgを得た。
(2)水化工程
水に酸化カルシウムを混合し、水化させて水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を得た。得られた水酸化カルシウムのBET比表面積を日本工業規格JIS Z 8830にしたがい測定したところ、15.9m
3/gであった。石灰乳の濃度を調整して、固形分濃度15.0%の石灰乳を462kg得た。
(3)炭酸化工程
水化工程で得られた462kgをプロペラ撹拌機を備えた反応タンクに導入した。ここに炭酸化工程で得られた炭酸ナトリウム水溶液548kgを120分間かけて添加し、反応液を撹拌した。この時、反応タンク内での完全混合時間が21秒間となるようにプロペラ撹拌機を作動させ、反応タンク内温度は50℃となるように調整した。得られた炭酸カルシウム懸濁液を濾過し、濾過ケーキを水で洗浄した後、105℃の恒温乾燥機で1時間乾燥した。炭酸カルシウム粉体を94kg得た。得られた炭酸カルシウムを電子顕微鏡にて観察したところ針状形状であるアラゴナイトであった。
図2は、実施例2で得られた炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率10000倍)である。この針状炭酸カルシウムのBET比表面積(JIS Z 8830にしたがい測定)は、5.1m
2/gであった。
【0021】
[実施例3]
(1)炭酸化工程
濃度11.8%の水酸化ナトリウム水溶液に、30体積%の炭酸ガスを含有する二酸化炭素-空気混合ガスを、水溶液のpHが11.5になるまで導入した。濃度14.8%の炭酸ナトリウム水溶液610kgを得た。
(2)水化工程
水に酸化カルシウムを混合し、水化させて水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を得た。得られた水酸化カルシウムのBET比表面積を日本工業規格JIS Z 8830にしたがい測定したところ、15.9m
3/gであった。石灰乳の濃度を調整して、固形分濃度13.2%の石灰乳を399kg得た。
(3)炭酸化工程
水化工程で得られた399kgをプロペラ撹拌機を備えた反応タンクに導入した。ここに炭酸化工程で得られた炭酸ナトリウム水溶液610kgを120分間かけて添加し、反応液を撹拌した。この時、反応タンク内での完全混合時間が21秒間となるようにプロペラ撹拌機を作動させ、反応タンク内温度は25℃となるように調整した。得られた炭酸カルシウム懸濁液を濾過し、濾過ケーキを水で洗浄した後、105℃の恒温乾燥機で1時間乾燥した。炭酸カルシウム粉体を71kg得た。得られた炭酸カルシウムを電子顕微鏡にて観察したところ紡錘状形状をしていた。
図3は、実施例3で得られた炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率30000倍)である。この紡錘状炭酸カルシウムのBET比表面積(JIS Z 8830にしたがい測定)は、6.6m
2/gであった。
【0022】
本発明の方法は、比較的高濃度の水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガスを吸収させるので、炭酸ガスを効率よく用いることができる。本発明の方法により、微細球状結晶、針状結晶、および紡錘状結晶の炭酸カルシウムを製造することができた。炭酸化工程における石灰乳と炭酸ナトリウム水溶液の濃度、反応温度ならびに反応時間、混合時間等を変えることにより、所望の結晶形を有する炭酸カルシウムを作り分けることができる。
本発明の方法により製造した炭酸カルシウムは、特に、シーリング材、接着剤、ゴム組成物、プラスチック組成物および紙等の充填剤として利用されるほか、紙塗工用顔料ならびに塗料やインキ用の顔料として広く用いることができる。