(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103592
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】描画材
(51)【国際特許分類】
C09D 13/00 20060101AFI20220701BHJP
C09D 5/06 20060101ALI20220701BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20220701BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20220701BHJP
C09C 1/32 20060101ALI20220701BHJP
C09C 3/06 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
C09D13/00
C09D5/06
C09D201/00
C09D7/62
C09C1/32
C09C3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218323
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 修
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
4J039
【Fターム(参考)】
4J037AA17
4J037CA24
4J037FF09
4J038BA011
4J038HA466
4J038KA08
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA01
4J038PB02
4J038PC10
4J039AB12
4J039BE01
4J039CA09
4J039EA33
4J039GA32
(57)【要約】
【課題】高い透明性を有するとともに、色の鮮やかさに優れる描画材を提供する。
【解決手段】描画材は、着色顔料と、体質顔料と、バインダとを含む。前記着色顔料は、硫黄を含むアルミノシリケート化合物を含む無機顔料粒子と、シリカを含むとともに前記無機顔料粒子を被覆する被覆層と、を有する被覆粒子を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色顔料と、体質顔料と、バインダとを含み、
前記着色顔料は、硫黄を含むアルミノシリケート化合物を含む無機顔料粒子と、シリカを含むとともに前記無機顔料粒子を被覆する被覆層と、を有する被覆粒子を含む、描画材。
【請求項2】
前記体質顔料の含有率は、0.1質量%以上である、請求項1に記載の描画材。
【請求項3】
前記バインダの含有率は、80質量%以下である、請求項1または2に記載の描画材。
【請求項4】
前記被覆粒子の含有率は、0.1質量%以上50質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の描画材。
【請求項5】
前記被覆粒子の色相は、6PB以上9PB以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の描画材。
【請求項6】
前記被覆粒子中の前記被覆層の比率は、5質量%以上35質量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の描画材。
【請求項7】
前記被覆層は、さらに樹脂を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の描画材。
【請求項8】
前記バインダとしてワックスおよびオイルを含み、かつ固形である、請求項1~7のいずれか1項に記載の描画材。
【請求項9】
前記バインダとして水溶性樹脂を含む水彩絵具である、請求項1~7のいずれか1項に記載の描画材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、描画材に関する。
【背景技術】
【0002】
群青は、ウルトラマリン顔料としても知られる無機顔料の一種であり、硫黄を含むアルミノシリケート化合物(ナトリウム錯体など)である。群青は、耐光性、耐熱性などに優れるため、樹脂またはセメントなどの着色用途に利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、表面に被複層を有する群青粒子を用いた群青組成物を、セメント組成物などの着色に利用することが提案されている。特許文献2では、ウルトラマリンバイオレットおよび/またはウルトラマリンピンクを含む樹脂マスターバッチが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-182938号公報
【特許文献2】特開2004-131661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無機顔料の粒子は、不定形であり、粒子表面の凹凸が多い。無機顔料の粒子表面で光の乱反射が生じ易いことから、無機顔料自体の透明性が低く、色の鮮やかさが損なわれ易い。樹脂製品またはセメントでは、無機顔料の粒子が樹脂またはセメントで覆われた状態となる。この場合、粒子の表面における光の乱反射は起こり難いため、無機顔料の透明性および色の鮮やかさの低下が問題にならない。しかし、クレヨンおよび絵具などの描画材用途では、無機の着色顔料であっても色相によって、描画材に高い透明性および色の鮮やかさが求められることがある。また、描画材用途では、紙面などの被描画面に描画材の薄い被膜が形成される。そのため、無機の着色顔料の粒子が描画材の被膜の表面から突出した状態になり易い。また、描画材には、無機の着色顔料だけでなく、体質顔料が含まれることが多い。そのため、被膜の表面から突出した着色顔料および体質顔料の粒子表面において、光の乱反射が顕著になり易く、描画材の透明性および色の鮮やかさが低下する課題が顕在化し易い。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、着色顔料と、体質顔料と、バインダとを含み、
前記着色顔料は、硫黄を含むアルミノシリケート化合物を含む無機顔料粒子と、シリカを含むとともに前記無機顔料粒子を被覆する被覆層と、を有する被覆粒子を含む、描画材に関する。
【発明の効果】
【0007】
高い透明性を有するとともに、色の鮮やかさに優れる描画材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
硫黄を含むアルミノシリケート化合物を含む無機顔料粒子は、群青またはそれに近い色相を示す。このような無機顔料粒子(無機の着色顔料粒子)を描画材に用いる場合、無機の着色顔料のきれいな色合いを生かすことが求められるため、描画材には高い透明性および鮮やかさ(彩度)が要求される。描画材用途では、無機の着色顔料粒子および体質顔料粒子が描画材の被膜の表面から露出した状態になり易い。これらの顔料粒子の表面の、描画材の被膜から露出した部分では、光の乱反射が顕著になる。そのため、描画材用途では、透明性または彩度が低下する課題が顕在化し易い。
【0009】
上記に鑑み、本発明の一側面の描画材は、着色顔料と、体質顔料と、バインダとを含む。着色顔料は、硫黄を含むアルミノシリケート化合物を含む無機顔料粒子と、シリカを含むとともに無機顔料粒子を被覆する被覆層と、を有する被覆粒子を含む。
【0010】
このような被覆粒子を用いることによって、描画材が無機の着色顔料粒子および体質顔料を含むにも拘わらず、無機の着色顔料粒子の表面における光の乱反射が低減される。これによって、高い透明性を有するとともに、色の鮮やかさ(彩度)に優れる描画材が得られる。
【0011】
本明細書において、描画材の透明性とは、黒画用紙および白画用紙のそれぞれに、描画材で描画したときの描画材の被膜(筆跡)の明るさをL*BおよびL*Wとするとき、L*B/L*Wの比で表される被覆力に基づいて評価される。被覆力が小さいほど、透明性が高いことを意味する。なお、被膜の明るさL*BおよびL*Wは、それぞれL*a*b*表色系のL*値である。被膜の明るさは、色彩計(例えば、日本電色工業(株)社製の分光式色彩計SE2000)を用いて測定できる。
【0012】
なお、本明細書中、色相、明度および彩度は、それぞれ、色の三属性の色相(Hue)、明度(Value)および彩度(Chroma)を意味する。各属性を数値で表す場合には、JIS Z 8721-1993に準じて、マンセル表色系を用いて表す。
【0013】
描画材には、例えば、絵具および固形描画材が含まれる。絵具には、水彩絵具(透明水彩、不透明水彩(ガッシュ)、ポスターカラーなど)、アクリル絵具(アクリルカラー、アクリルガッシュなど)、油彩絵具などが含まれる。固形描画材には、パステル(ハードパステル、ソフトパステルなど)、クレヨン、オイルパステル、コンテ、プラスチッククレヨン、色鉛筆の芯などが含まれる。本発明の描画材は、いずれの描画材として用いてもよい。中でも、水彩絵具および固形描画材は、他の描画材に比べてバインダの含有率が低い傾向があることに加え、描画材の被膜が薄いため、無機顔料粒子の表面における光の乱反射が顕著になり易い。そのため、本発明の描画材は、特に、水彩絵具および固形描画材としての使用に適している。
【0014】
以下、描画材についてより具体的に説明する。
【0015】
(着色顔料)
着色顔料は、バインダ中に体質顔料と共に分散して、描画材の発色性を担保する機能を有する。
【0016】
(第1着色顔料(被覆粒子))
着色顔料は、硫黄を含むアルミノシリケート化合物を含む無機顔料粒子と、この無機顔料粒子を被覆する被覆層と、を有する被覆粒子を含む。本明細書中、被覆粒子を第1着色顔料と称する場合がある。
【0017】
硫黄を含むアルミノシリケート化合物は、錯体であってもよい。硫黄を含むアルミノシリケート化合物を含む無機顔料は、群青とも呼ばれる。群青は、アルミノケイ酸塩の一種とも言える。以下、硫黄を含むアルミノシリケート化合物を含む無機顔料またはその粒子を、群青または群青粒子と称することがある。群青には、その色調に応じて、いくつかの種類の顔料が存在する。群青としては、例えば、ピグメントブルー29(またはウルトラマリンブルー)、ピグメントグリーン24(またはウルトラマリングリーン)、ピグメントバイオレット15(またはウルトラマリンバイオレット)、およびピグメントレッド259(またはウルトラマリンピンク)が挙げられる。被覆粒子は、これらの顔料を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0018】
群青の分子構造は、完全には明らかになっていないが、例えば、ウルトラマリンブルーは、Nax(Al6Si6O24)Sy(式中、xおよびyは、それぞれ、6≦x≦8および2≦y≦4を満たす。)などの構造式で表されるナトリウム錯体と考えられている。群青中のアルミニウム含有量は、例えば、5質量%以上30質量%以下である。
【0019】
被覆層は、少なくともシリカを含んでいる。被覆層は、シリカと、シリカ以外の金属酸化物とを含んでもよい。金属酸化物としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、およびチタニアからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。被覆層は、これらの成分に加え、樹脂を含んでもよい。群青に含まれるアルミニウムは、塩酸などの酸に溶出し易い。しかし、被覆層を有する被覆粒子を用いることによって、描画材からのアルミニウムの溶出を抑制することもできる。
【0020】
被覆層に含まれる樹脂は、特に制限されず、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂(熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂など)またはその組成物のいずれであってもよい。被覆層において、硬化性樹脂またはその組成物は、硬化していてもよい。樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂(アルキッド樹脂を含む)、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキッドメラミン樹脂、ポリ尿素が挙げられる。樹脂には、スルホ基、カルボキシ基などの酸基が導入されていてもよい。被覆層は、これらの樹脂を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0021】
被覆層は、例えば、シリカと、必要に応じて他の金属酸化物および樹脂からなる群より選択される少なくとも一種とで、群青粒子の表面を被覆することによって形成される。また、被覆層は、群青粒子の表面に、シランカップリング剤の反応を利用してシリカを生成させることによって形成してもよい。しかし、被覆層の製造方法は、これらに限定されない。
【0022】
被覆粒子としては、例えば、第一化成工業社製の強化群青APシリーズ(AP-205、AP-201、AP-151、AP-31など)、VENATOR社製のUltramarine Blue 71、FERRO社製のNUBI PERF AR、FERRO社製のNubicoat HWRが挙げられる。しかし、被覆粒子はこれらの具体例に限定されない。
【0023】
被覆粒子中の被覆層の比率は、例えば、5質量%以上であり、10質量%以上が好ましい。この場合、被覆粒子が、描画材の被膜から露出しても、被覆粒子表面における光の乱反射をさらに低減することができ、より高い透明性が得られ易い。被覆粒子中の被覆層の比率は、35質量%以下が好ましく、25質量%以下であってもよい。この場合、描画材において、群青の発色性が高まり、より高い彩度が得られる。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0024】
描画材は、被覆粒子を一種含んでもよく、群青粒子の種類および被覆層の組成の少なくともいずれかが異なる二種以上の被覆粒子を含んでもよい。
【0025】
被覆粒子の色相は、例えば、6PB以上であり、7PB以上であってもよい。被覆粒子の色相は、例えば、9PB以下であり、8.5PB以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。このような範囲の色相を有する無機の着色顔料を用いる場合、無機の着色顔料のきれいな色を生かすために、一般に、描画材には特に高い透明性および彩度が要求される。このような場合であっても、着色顔料として被覆粒子を用いることによって、描画材の高い透明性および彩度を確保することができる。また、被覆粒子を用いることによって、同程度の色相を有する被覆されていない無機顔料粒子または有機顔料を用いる場合に比べて、描画材のより高い彩度またはより高い透明性を確保することができる。
【0026】
本明細書中、被覆粒子の色相とは、以下の手順で調製されるサンプルについてJIS Z 8721-1993に準じて測定される色相である。被覆粒子の色相を測定するためのサンプルは、水(イオン交換水)とデキストリンとアラビアガムとを混合し、得られる混合物に、被覆粒子、シリカ、グリセリン、エチレングリコール、および防腐剤を添加して、三本ロールを用いて均一になるまで混合することにより得られる。サンプル中の各成分の含有率は、デキストリン10.8質量%、アラビアガム13.5質量%、被覆粒子35.1質量%、シリカ1.8質量%、グリセリン2.7質量%、エチレングリコール5.4質量%、防腐剤0.2質量%であり、残部が水である。
【0027】
描画材中の被覆粒子の含有率は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上または1質量%以上がより好ましく、5質量%以上または10質量%以上であってもよい。描画材が水彩絵具である場合、水彩絵具中の被覆粒子の含有率は、15質量%以上または20質量%以上であってもよい。一般に、描画材中の無機の着色顔料の含有率が、このような範囲である場合、描画材の被膜において、着色顔料粒子の表面で光が乱反射し易くなるため、描画材の透明性が低下する傾向がある。しかし、被覆粒子を用いることによって、被覆粒子の含有率がこのような範囲であっても、描画材の高い透明性を確保することができる。描画材中の被覆粒子の含有率は、50質量%以下であってもよく、40質量%以下であってもよい。固形描画材においては、被覆粒子の含有率は30質量%以下であってもよい。被覆粒子の含有率がこのような範囲である場合、被覆粒子の表面における光の乱反射が低減され、描画材のより高い透明性を確保できる。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0028】
(第2着色顔料)
着色顔料は、被覆粒子(第1着色顔料)に加え、被覆粒子以外の着色顔料(第2着色顔料)を含んでもよい。第2着色顔料としては、描画材に使用される公知の着色顔料のうち、例えば、有機顔料、無機顔料、蛍光顔料、金属粉顔料が使用できる。第2着色顔料は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0029】
描画材のより高い透明性および彩度を確保し易い観点からは、着色顔料全体に占める第2着色顔料としての無機顔料および金属粉顔料の比率は少ないことが好ましい。着色顔料全体に占める第2着色顔料としての無機顔料および金属粉顔料の比率の合計は、例えば、30質量%以下であり、10質量%以下が好ましく、1質量%以下であってもよい。
【0030】
描画材のより高い透明性および彩度を確保し易い観点からは、着色顔料全体に占める被覆粒子の比率が多い方が好ましい。着色顔料全体に占める被覆粒子の比率は、例えば、50質量%以上が好ましく、75質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよい。着色顔料全体に占める被覆粒子の比率は100質量%以下である。
【0031】
(体質顔料)
描画材は、体質顔料を含む。固形描画材では、体質顔料によって、成形性が高まる。また、体質顔料を用いることによって、描画時に固形描画材が崩れ易くなり、滑り性が高まるとともに、被描画面に固形描画材を付着させ易くなる。より多くの固形描画材が被描画面に付着することによって、着色性または発色性が高まる。水彩絵具では、体質顔料によって、粘度を容易に調節することができ、コスト的にも有利である。一方で、描画材が体質顔料を含む場合、体質顔料粒子が描画材の被膜から露出し易くなり、露出した部分において光の乱反射が起こることによって透明性が低下し易い。本発明では、描画材が体質顔料を含むにも拘わらず、着色顔料として被覆粒子を用いることによって、描画材の高い透明性および高い彩度を確保することができる。
【0032】
体質顔料としては、無機酸塩(アルカリ土類金属、遷移金属などの無機酸塩など)、酸化物(二酸化ケイ素、珪藻土など)、金属水酸化物(水酸化アルミニウムなど)、粘土鉱物、セラミックス(シリカ、アルミナなど)、ケイ酸、ケイ酸塩[例えば、アルミノケイ酸塩(またはケイ酸アルミニウム)、ゼオライト]などが挙げられる。無機酸塩としては、炭酸塩[例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸金属塩(炭酸のアルカリ土類金属塩、炭酸の遷移金属塩など)]、硫酸塩[例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸金属塩(硫酸のアルカリ土類金属塩、硫酸の遷移金属塩など)]などが挙げられる。粘土鉱物としては、タルク、クレー、カオリン、ベントナイトが例示できる。描画材は、体質顔料を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。体質顔料は、描画材の種類に応じて選択される。
【0033】
描画材中の体質顔料の含有率は、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。体質顔料の含有率がこのような範囲である場合、描画材の被膜において透明性が低下し易いが、このような場合であっても、被覆粒子を用いることによって高い透明性および高い彩度を得ることができる。また、体質顔料の含有率が上記の範囲である場合、固形描画材では、描画時の高い滑り性を確保し易く、固形描画材の高い定着性が得られる。水彩絵具では、適度な粘度に調整し易く、コスト的に有利である。固形描画材では、体質顔料の含有率は、5質量%以上がさらに好ましい。この場合、描画時の滑り性および固形描画材の定着性をさらに高めることができる。描画材中の体質顔料の含有率は、例えば、60質量%以下であり、50質量%以下であってもよい。体質顔料の含有率がこのような範囲である場合、高い着色性が得られ易い。また、固形描画材では、高い成形性が得られる。水彩絵具では、より高い発色を確保する観点から、体質顔料の含有率は、30質量%以下が好ましく、10質量%以下または5質量%以下がより好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組合せることができる。
【0034】
(バインダ)
バインダは、着色顔料および体質顔料を分散させるとともに、被描画面に描画材を定着させる作用を有する。バインダは、描画材の種類に応じて選択される。例えば、水彩絵具は、バインダとして水溶性樹脂を含む。アクリル絵具は、バインダとしてアクリル樹脂を含む。油彩絵具のバインダは乾性油(リンシードオイル(アマニ油)など)である。パステルのバインダは水溶性樹脂である。固形描画材(クレヨン、オイルパステル、プラスチッククレヨンおよび色鉛筆の芯など)は、バインダとしてワックスを含み、さらにオイルを含んでもよい。描画材は、バインダを一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。固形描画材において、ワックスは、固形描画材の構成成分を結着させるとともに、固形描画材を被描画面に付着および定着させる作用を有する。オイルは、固形描画材に滑らかな描画性を付与する。
【0035】
水溶性樹脂としては、例えば、多糖類(アラビアガム、デキストリン、アルギン酸またはその塩(ナトリウム塩など)、キサンタンガム、カチオン化グアーガムなど)、水溶性のセルロース誘導体(水溶性セルロースエーテルなど)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンが挙げられる。水溶性セルロースエーテルとしては、カルボキシアルキルセルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC))またはその塩(ナトリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩など)、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC))などが挙げられる。描画材は、水溶性樹脂を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0036】
ワックスには、室温(20~35℃)で固形の油成分が含まれる。ワックスは、例えば、35℃よりも高い融点を有する。ワックスの融点は、40℃以上であってもよい。ワックスの融点は、120℃以下であってもよい。ワックスは、例えば、天然ワックス、合成ワックス、加工(または変性)ワックスのいずれであってもよい。ワックスには、室温で固形の長鎖脂肪族化合物も包含される。
【0037】
ワックスとしては、動物由来のワックス(蜜ロウ、鯨ロウ、牛脂、牛脂硬化油、ラードなど)、植物由来のワックス(カルナウバワックス、木ロウ、ヒマシ硬化油など)、石油由来のワックス(パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなど)、鉱物由来のワックス(モンタンワックスなど)、合成ワックス(ポリエチレンワックス、α-オレフィンオリゴマーなど)、長鎖脂肪酸(ステアリン酸など)、長鎖脂肪酸エステル、長鎖脂肪酸アミド、長鎖脂肪族ケトン(ジヘプタデシルケトンなど)が挙げられる。
【0038】
描画材は、ワックスを一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0039】
オイルとしては、例えば、室温(20~35℃)で液状の油成分が挙げられる。オイルの融点は、例えば、35℃以下であってもよく、20℃以下であってもよい。オイルとしては、動植物由来のオイル(ヤシ油、ヒマシ油など)、石油由来のオイル(流動パラフィンなど)、合成オイル(シリコーンオイルなど)、融点が35℃以下の長鎖脂肪酸(オレイン酸、リノレン酸など)などが挙げられる。描画材は、オイルを一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0040】
描画材中のバインダの含有率は、例えば、80質量%以下であり、70質量%以下または60質量%以下であってもよい。描画材中のバインダの含有率がこのような範囲である場合、描画材の透明性が低くなる傾向があるが、被覆粒子を用いることによって、描画材の高い透明性および高い彩度を確保し易い。水彩絵具中のバインダの含有率は、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。この場合、水彩絵具の粘度を適度な範囲に調節し易いことに加え、水彩絵具の伸びが優れる。描画材の被描画面に対する高い定着性を確保する観点からは、描画材中のバインダの含有率は、例えば、0.1質量%以上であり、0.3質量%以上であってもよい。固形描画材では、被描画面に対するより高い定着性を確保する観点から、固形描画材中のバインダの含有率は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上または20質量%以上がより好ましい。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。
【0041】
固形描画材では、ワックスの含有率は、70質量%以下または60質量%以下が好ましい。固形描画材中のバインダの含有率がこのような範囲である場合、描画材の透明性が低くなる傾向があるが、被覆粒子を用いることによって、描画材の高い透明性および高い彩度を確保することができる。固形描画材中のワックスの含有率は、10質量%以上または20質量%以上が好ましい。固形描画材中のバインダの含有率がこのような範囲である場合、固形描画材の強度および成形性を高める上で有利である。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。
【0042】
固形描画材がオイルを含む場合、固形描画材中のオイルの含有率は、1質量%以上または5質量%以上が好ましい。この場合、描画時の固形描画材の滑り性が高まり、描画性を向上できる。固形描画材中のオイルの含有率は、40質量%以下または30質量%以下が好ましい。この場合、固形描画材の高い強度および耐熱性を確保できるとともに、高い成形性を確保し易い。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。
【0043】
(その他)
描画材は、必要に応じて、描画材に使用される公知の添加剤を含むことができる。このような添加剤としては、例えば、湿潤剤、樹脂(例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体)、酸化防止剤、界面活性剤、防腐剤、防かび剤、抗菌剤、離型剤(例えば、ステアリン酸カルシウム)、金属酸化物(酸化マグネシウムなど)が挙げられる。添加剤は、一種を単独でまたは二種以上を組合せて使用できる。添加剤は、描画材の種類に応じて選択すればよい。
【0044】
水彩絵具は、湿潤剤を含んでもよい。湿潤剤としては、ポリオールおよび尿素などが挙げられる。ポリオールとしては、アルキレングリコールまたはポリアルキレングリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなど)、糖または糖アルコール(グリセリン、ソルビトールなど)などが挙げられる。水彩絵具は、湿潤剤を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。湿潤剤は、凍結防止剤または乾燥遅延剤などとしての機能を有する。
【0045】
水彩絵具中の湿潤剤の含有率は、例えば、0.1質量%以上であり、0.5質量%以上であってもよい。この場合、水彩絵具のひび割れを抑制できる。水彩絵具中の湿潤剤の含有率は、例えば、20質量%以下であり、10質量%以下であってもよい。この場合、水彩絵具の塗膜の乾燥速度を高めることができるとともに、形成される被膜が高湿度環境下で溶け出すことを抑制することができる。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0046】
描画材は、必要に応じて、液状媒体(水、有機溶媒など)を含んでもよい。例えば、バインダとして水溶性樹脂を用いる場合には、描画材は水を含んでもよい。水彩絵具には、通常、水が含まれる。
【0047】
描画材は、構成成分を、混合することによって製造することができる。描画材の製造は、特に制限されず、公知の方法によって行うことができる。例えば、固形描画材は、溶融状態のワックスに、必要に応じて、オイルを混合し、さらに固形の成分(着色顔料、体質顔料、他の添加剤など)を加えて混合し、混合物を、固形描画材の金型に流し込み、冷却して固化させ、金型から取り出すことによって得ることができる。例えば、水彩絵具は、水溶性樹脂および水を混合し、さらに他の構成成分(着色顔料、体質顔料、他の添加剤など)を混合することによって得ることができる。
【0048】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0049】
《実施例1~4および比較例1~2(固形描画材の作製)》
以下の手順で、表1に示す成分を用いて固形描画材(オイルパステル)を作製した。
まず、ワックスを加熱して溶融させ、オイルと混合した。得られた混合物に、着色顔料を加えて、均一になるまで混合した。得られた混合物に、さらに体質顔料を加え、三本ロールによって、加熱下で均一になるまで混合した。得られた混合物を、所定形状の金型に流し込み、冷却および固化させることによって、固形描画材を作製した。なお、固形描画材中の各成分の含有率が表1の値となるように、各成分の使用量を調節した。
【0050】
《実施例5~8および比較例3~4(固形描画材の作製)》
実施例1~4および比較例1~2と同様の手順で、表2に示す成分を用いて固形描画材(クレヨン)を作製した。なお、固形描画材中の各成分の含有率が表2の値となるように、各成分の使用量を調節した。
【0051】
《実施例9~12および比較例5~6(水彩絵具の調製)》
以下の手順で、表3に示す成分を用いて水彩絵具を作製した。
まず、水(イオン交換水)と水溶性樹脂とを混合した。得られた混合物に他の構成成分を添加して、三本ロールを用いて、均一になるまで混合した。このようにして、水彩絵具を調製した。なお、水彩絵具中の各成分の含有率が表3の値となるように、各成分の使用量を調節した。
【0052】
なお、使用した着色顔料は、以下の通りである。
(a1)群青と群青の粒子表面に形成されたシリカを含む被覆層とを有する被覆粒子(FERRO社製、NUBI PERF AR(被覆粒子の色相:7.6PB))
(a2)群青と群青の粒子表面に形成されたシリカを含む被覆層とを有する被覆粒子(VENATOR社製、Ultramarine Blue 71(被覆層の比率:25%質量%、被覆粒子の色相:7.9PB))
(a3)群青と群青の粒子表面に形成されたシリカを含む被覆層とを有する被覆粒子(第一化成工業社製、AP-151(被覆粒子の色相:8.5PB))
(a4)群青と群青の粒子表面に形成されたシリカおよびアルキッドメラミン樹脂を含む被覆層とを有する被覆粒子(FERRO社製、Nubicoat HWR(被覆粒子の色相:7.5PB))
(b1)群青(被覆層無し、VENATOR社製、ブルー65、顔料粒子の色相:8.0PB)
(b2)有機青色顔料(TOYO COLOR社製、リオノールブルーES、顔料粒子の色相:8.3PB)
なお、(a1)~(a4)の被覆粒子における被覆層の比率は10~25質量%であった。
【0053】
《評価》
実施例および比較例の描画材を用いて以下の評価を行った。
【0054】
(a)色相(H)、明度(V)、彩度(C)、および描画材の鮮やかさ
描画材の色相、明度、および彩度を、JIS Z 8721-1993に準じて測定した。
【0055】
各描画材について、比較例1、3、または5の彩度を100としたときの彩度の相対値に基づいて、描画材における群青色の鮮やかさを下記の基準で評価した。
A:相対値が100.0より高い
B:相対値が95.0以上100.0以下
C:相対値が95.0未満
【0056】
(b)透明性
実施例および比較例の描画材を用いて、黒画用紙((株)竹尾製、NTラシャ黒)および白画用紙(日本製紙(株)製、N白糸ケント)のそれぞれの表面に描画した。描画により形成された描画材の塗膜を一昼夜乾燥した。各画用紙の表面に形成された描画材の被膜の明るさL*値を日本電色工業(株)社製の分光式色彩計SE2000で測定した。黒画用紙の表面に形成した描画材の被膜の明るさL*Bに、白画用紙の表面に形成した描画材の被膜の明るさL*Wに対する比(被覆力=L*B/L*W)を求めた。
【0057】
各描画材について、比較例1、3、または5の被覆力を100としたときの被覆力の相対値に基づいて、描画材の透明性を下記の基準で評価した。
A:相対値が99未満
B:相対値が99以上101以下
C:相対値が101を超える
【0058】
評価結果を表1~3に示す。E1~E12は実施例であり、C1~C6は比較例である。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
表1~表3に示されるように、実施例の描画材では、被覆層を有さない群青を用いた比較例1、3、または5に匹敵するかまたは優れる鮮やかさを確保しながら、描画材の高い透明性を確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の描画材は、絵具(水彩絵具など)、および固形描画材などとして利用できる。