(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103596
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】耐熱衝撃性部材
(51)【国際特許分類】
C04B 35/117 20060101AFI20220701BHJP
F27D 3/12 20060101ALI20220701BHJP
B23K 10/00 20060101ALI20220701BHJP
B23K 7/10 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
C04B35/117
F27D3/12 S
B23K10/00 501Z
B23K7/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218329
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】特許業務法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八嶋 美恵子
(72)【発明者】
【氏名】石田 文彦
【テーマコード(参考)】
4E001
4K055
【Fターム(参考)】
4E001BA04
4E001QA10
4K055AA05
4K055HA02
4K055HA27
(57)【要約】
【課題】ZTAが有する機械的強度および耐熱衝撃性を十分に発揮し得る耐熱衝撃性部材を提供すること。
【解決手段】本開示に係る耐熱衝撃性部材は、酸化アルミニウムを主成分とし、酸化ジルコニウムを含み、閉気孔の面積率が10%以上20%以下であるセラミックスを含む。セラミックスにおいて、隣り合う酸化ジルコニウムの結晶粒子の重心間距離の平均値と酸化ジルコニウムの結晶粒子の円相当径の平均値との差(A)が、隣り合う閉気孔の重心間距離の平均値と閉気孔の円相当径の平均値との差(B)の0.7倍以上1.3倍以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウムを主成分とし、酸化ジルコニウムを含み、閉気孔の面積率が10%以上20%以下であるセラミックスを含み、
該セラミックスにおいて、隣り合う前記酸化ジルコニウムの結晶粒子の重心間距離の平均値と前記酸化ジルコニウムの結晶粒子の円相当径の平均値との差(A)が、隣り合う前記閉気孔の重心間距離の平均値と前記閉気孔の円相当径の平均値との差(B)の0.7倍以上1.3倍以下である、
耐熱衝撃性部材。
【請求項2】
前記酸化ジルコニウムの結晶粒子における球状化率の平均値が、前記閉気孔の球状化率の平均値よりも大きい、請求項1に記載の耐熱衝撃性部材。
【請求項3】
前記酸化ジルコニウムが、前記セラミックス中に10質量%以上15質量%以下の割合で含まれる、請求項1または2に記載の耐熱衝撃性部材。
【請求項4】
前記セラミックスがクロムをさらに含み、Cr2O3に換算した含有量が0.5質量%以上2.5質量%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の耐熱衝撃性部材。
【請求項5】
前記セラミックスが、マグネシウム、カルシウム、イットリウムおよびチタンからなる群より選択される少なくとも1種をさらに含み、MgO、CaO、Y2O3およびTiO2に換算した含有量の合計が0.8質量%以上1.2質量%以下である、請求項1~4のいずれかに記載の耐熱衝撃性部材。
【請求項6】
前記セラミックスが、リチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群より選択される少なくとも2種をさらに含み、Li2O、Na2OおよびK2Oに換算した含有量の合計が0.08質量%以下である、請求項1~5のいずれかに記載の耐熱衝撃性部材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の耐熱衝撃性部材を含む、溶接切断用またはプラズマ切断用ノズル。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の耐熱衝撃性部材を含む、接点装置用絶縁部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、耐熱衝撃性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化アルミニウムを主成分とし、酸化ジルコニウムを含むセラミックス(ZTA)は、優れた機械的強度および耐熱衝撃性を有している。そのため、ZTAは、誘電体、積層コンデンサ、サーミスタ、バリスタ、チップインダクターなどの電子部品を焼成するための焼成用治具、溶接用ノズル、各種電気炉用炉心管、サポートチューブ、ラジアントチューブ、ガス吹込み管、ガス採取管、測温用熱電対、各種機器用の保護管、接点装置用絶縁部材などが挙げられる。
【0003】
このようなZTAとして、特許文献1には、正方晶あるいは立方晶ジルコニア結晶相と単斜晶ジルコニア結晶相とを有し、気孔率(開気孔率)が10~40%であるアルミナ・ジルコニア質焼結体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のアルミナ・ジルコニア質焼結体は、隣り合う気孔(開気孔)の間隔と隣り合うジルコニアの間隔とのバランスが悪い。そのため、特許文献1に記載のアルミナ・ジルコニア質焼結体は、本来有する機械的強度および耐熱衝撃性を十分に発揮できない。
【0006】
本開示の課題は、ZTAが有する機械的強度および耐熱衝撃性を十分に発揮し得る耐熱衝撃性部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る耐熱衝撃性部材は、酸化アルミニウムを主成分とし、酸化ジルコニウムを含み、閉気孔の面積率が10%以上20%以下であるセラミックスを含む。セラミックスにおいて、隣り合う酸化ジルコニウムの結晶粒子の重心間距離の平均値と酸化ジルコニウムの結晶粒子の円相当径の平均値との差(A)が、隣り合う閉気孔の重心間距離の平均値と閉気孔の円相当径の平均値との差(B)の0.7倍以上1.3倍以下である。
【0008】
本開示に係る溶接切断用またはプラズマ切断用ノズル、および接点装置用絶縁部材は、上記の耐熱衝撃性部材を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る耐熱衝撃性部材は、閉気孔の面積率が10%以上20%以下であるZTAを含み、上記の差(A)が上記の差(B)の0.7倍以上1.3倍以下である。したがって、本開示に係る耐熱衝撃性部材は、ZTAが有する機械的強度および耐熱衝撃性を十分に発揮し得る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の一実施形態に係る耐熱衝撃性部材は、酸化アルミニウムを主成分とし、酸化ジルコニウムを含み、閉気孔の面積率が10%以上20%以下であるセラミックスを含む。閉気孔の面積率が10%以上20%以下であるセラミックスは、緻密質と多孔質との中間程度の性質を有する。
【0011】
本明細書において、耐熱衝撃性部材とは、JIS R 1648:2002で規定する精密法に準拠して得られる耐熱衝撃温度が350℃以上のセラミックスを含む部材を意味する。
【0012】
「酸化アルミニウムを主成分」とは、セラミックスを構成する成分の合計100質量%のうち、酸化アルミニウムが80質量%以上の割合で含むことを意味する。セラミックスを構成している成分は、CuKα線を用いたX線回折装置によって同定することができる。各成分の含有量は、例えばICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置または蛍光X線分析装置により求めることができる。
【0013】
閉気孔の面積率は、以下の方法によって測定される。まず、セラミックスの断面を鏡面研磨し、温度を1420℃としてサーマルエッチングした表面を500倍の倍率で観察する。平均的な範囲を選択して、例えば、面積が4.34×104μm2(横方向の長さが241μm、縦方向の長さが180μm)となる範囲を走査型電子顕微鏡で撮影して、観察像を得る。この観察像を対象として、画像解析ソフト「A像くん(ver2.52)」(登録商標、旭化成エンジニアリング(株)製)を用いて、粒子解析という手法で閉気孔の面積率を求めればよい。以下、画像解析ソフト「A像くん」と記載した場合、旭化成エンジニアリング(株)製の画像解析ソフトを示す。
【0014】
この手法の設定条件としては、例えば、画像の明暗を示す指標であるしきい値を91、明度を暗、小図形除去面積を1μm2、雑音除去フィルタを有とすればよい。観察像の明るさに応じて、しきい値は調整すればよい。明度を暗、2値化の方法を手動とし、小図形除去面積を1μm2および雑音除去フィルタを有とした上で、観察像に現れるマーカーが閉気孔の形状と一致するように、しきい値を調整すればよい。
【0015】
耐熱衝撃性部材が円筒状の溶接切断用またはプラズマ切断用ノズルである場合、軸方向に垂直な断面を鏡面研磨し、上述した方法に従って、開気孔の面積率を求めればよい。
【0016】
一実施形態に係る耐熱衝撃性部材は、酸化ジルコニウムを含むことによって、破壊靭性が高くなる。その結果、一実施形態に係る耐熱衝撃性部材は閉気孔を含んでいても、機械的強度をある程度維持することができ、かつ昇温および降温によって生じる応力を吸収することができる。
【0017】
酸化ジルコニウムの含有量は、酸化アルミニウムを主成分とする量であれば限定されない。酸化ジルコニウムは、セラミックスを構成する成分の合計100質量%のうち、10質量%以上15質量%以下の割合で含まれる。酸化ジルコニウムが、10質量%以上の割合で含まれていると、一実施形態に係る耐熱衝撃性部材の破壊靭性をより高くすることができる。酸化ジルコニウムが、15質量%以下の割合で含まれていると、熱伝導率の低下をより抑制することができる。
【0018】
酸化アルミニウムの結晶粒子および酸化ジルコニウムの結晶粒子の平均粒子径は、限定されない。例えば、酸化アルミニウムの結晶粒子の平均粒子径は、酸化ジルコニウムの結晶粒子の平均粒子径よりも大きい方がよい。このような構成であると、熱電度率の低下の抑制により効果的である。酸化アルミニウムの結晶粒子は、例えば、6μm以上12μm以下程度の平均粒子径を有する。酸化ジルコニウムの結晶粒子は、例えば、2μm以上4μm以下程度の平均粒子径を有する。
【0019】
酸化アルミニウムの結晶粒子の平均粒子径は、閉気孔の面積率を求めるために、作製した観察像を対象として、任意の点を中心にして放射状に同じ長さ、例えば、100μmの直線を6本引く。この6本の直線の長さをそれぞれの直線上に存在する結晶の個数で除すことで、平均結晶粒径を求めることができる。
【0020】
酸化ジルコニウムの結晶粒子の平均粒子径は、上記観察像を対象として、画像解析ソフト「A像くん」を用いて、粒子解析という手法で求めればよい。この手法の設定条件としては、例えば、画像の明暗を示す指標であるしきい値を182、明度を明、小図形除去面積を1μm2、雑音除去フィルタを有とすればよい。観察像の明るさに応じて、しきい値は調整すればよい。明度を明、2値化の方法を手動とし、小図形除去面積を1μm2および雑音除去フィルタを有とした上で、観察像に現れるマーカーが酸化ジルコニウムの結晶粒子の形状と一致するように、しきい値を調整すればよい。
【0021】
一実施形態に係る耐熱衝撃性部材に含まれるセラミックスにおいて、隣り合う酸化ジルコニウムの結晶粒子の重心間距離の平均値と酸化ジルコニウムの結晶粒子の円相当径の平均値との差(A)は、隣り合う閉気孔の重心間距離の平均値と閉気孔の円相当径の平均値との差(B)の0.7倍以上1.3倍以下である。
【0022】
隣り合う酸化ジルコニウムの結晶粒子の重心間距離の平均値と酸化ジルコニウムの結晶粒子の円相当径の平均値との差(A)は、隣り合う酸化ジルコニウムの結晶粒子の間隔を示す値である。隣り合う閉気孔の重心間距離の平均値と閉気孔の円相当径の平均値との差(B)は、隣り合う閉気孔の間隔を示す値である。
【0023】
このように、差(A)が差(B)の0.7倍以上1.3倍以下であれば、隣り合う酸化ジルコニウムの結晶粒子の間隔と隣り合う閉気孔の間隔とのバランスがよいといえる。そのため、熱衝撃が加わり、酸化ジルコニウムまたは閉気孔を起点とするマイクロクラックが発生しても、マイクロクラックが進展しにくくなる。したがって、熱衝撃によって発生するクラックによる破壊が抑制される。熱衝撃によって発生するクラックによる破壊をより抑制するために、差(A)と差(B)とをほぼ同じ、例えば、差(A)が差(B)の0.9倍以上1.1倍以下程度となるようにしてもよい。
【0024】
酸化ジルコニウムの結晶粒子の重心間距離の平均値は、以下の方法によって測定される。上記観察像を対象として、画像解析ソフト「A像くん」を用いて、分散度計測の重心間距離法という手法で酸化ジルコニウムの結晶粒子の重心間距離の平均値を求めればよい。
【0025】
この手法の設定条件としては、例えば、画像の明暗を示す指標であるしきい値を182、明度を明、小図形除去面積を1μm2、雑音除去フィルタを無とすればよい。観察像の明るさに応じて、しきい値は調整すればよく、明度を明、2値化の方法を手動とし、小図形除去面積を1μm2および雑音除去フィルタを有とした上で、観察像に現れるマーカーが酸化ジルコニウムの結晶粒子の形状と一致するように、しきい値を調整すればよい。
【0026】
酸化ジルコニウムの結晶粒子の円相当径は、以下の方法で求めることができる。上記観察像を対象として、粒子解析という手法で酸化ジルコニウムの結晶粒子の円相当径を求めればよい。この手法の設定条件も分散度計測の重心間距離法で用いた設定条件と同じにすればよい。
【0027】
閉気孔の重心間距離および閉気孔の円相当径の各平均値についても、酸化ジルコニウムの結晶粒子の重心間距離および酸化ジルコニウムの結晶粒子の円相当径の各平均値と同様の方法で測定される。但し、設定条件は、閉気孔の面積率を求めるのに用いた設定条件と同じにする。
【0028】
酸化ジルコニウムの結晶粒子の球状化率の平均値は限定されない。酸化ジルコニウムの結晶粒界に発生する応力をより小さくすることができる点で、酸化ジルコニウムの結晶粒子の球状化率の平均値は、閉気孔の球状化率の平均値よりも大きい方がよい。酸化ジルコニウムの結晶粒子の球状化率の平均値は、例えば、閉気孔の球状化率の平均値よりも10%以上、具体的には14%以上20%以下程度大きい方がよい。酸化ジルコニウムの結晶粒子の球状化率の平均値は、例えば56%以上64%以下であってもよく、閉気孔の球状化率の平均値は、例えば40%以上46%以下であってもよい。
【0029】
ここで、酸化ジルコニウムの結晶粒子および閉気孔のそれぞれの球状化率とは、黒鉛面積法で規定される比率を転用したものであり、概念的には、以下の式(1)および(2)で規定される。
酸化ジルコニウムの結晶粒子の球状化率(%)=(A/B)×100・・・(1)
A:酸化ジルコニウムの結晶粒子の実面積
B:酸化ジルコニウムの結晶粒子の最小外接円の面積
閉気孔の球状化率(%)=(C/D)×100・・・(2)
C:閉気孔の実面積
D:閉気孔の最小外接円の面積
【0030】
具体的には、酸化ジルコニウムの結晶粒子および閉気孔のそれぞれの球状化率の平均値は、いずれも上記観察像を対象として、粒子解析という手法で求めればよい。但し、酸化ジルコニウムの結晶粒子の球状化率の平均値を求めるための設定条件は、酸化ジルコニウムの結晶粒子の重心間距離の平均値を求めるのに用いた設定条件と同じにする。閉気孔の球状化率の平均値を求めるための設定条件は、閉気孔の面積率を求めるのに用いた設定条件と同じにする。
【0031】
耐熱衝撃性部材が円筒状の溶接切断用またはプラズマ切断用ノズルである場合、軸方向に垂直な断面を鏡面研磨する。温度を1420℃としてサーマルエッチングした表面を上述した方法に従って、閉気孔および酸化ジルコニウムの重心間距離および円相当径の各平均値などを求めればよい。
【0032】
一実施形態に係る耐熱衝撃性部材に含まれるセラミックスは、マグネシウム、カルシウム、イットリウムおよびチタンからなる群より選択される少なくとも1種を、さらに含んでいてもよい。これらの元素の酸化物(MgO、CaO、Y2O3およびTiO2)は、酸化ジルコニウムの安定化剤として作用する。これらの元素は、酸化物(MgO、CaO、Y2O3およびTiO2)に換算して、例えば、合計で0.8質量%以上1.2質量%以下の割合で含まれていてもよい。
【0033】
合計で0.8質量%以上の場合、酸化ジルコニウムの結晶について、室温で安定な正方晶および立方晶の割合が多くなる。その結果、一実施形態に係る耐熱衝撃性部材の破壊靭性、機械的強度などの機械的特性をより向上させることができる。合計で1.2質量%以下の場合、異常な粒成長の発生が抑制される。そのため、上記の機械的特性を維持することができる。
【0034】
一実施形態に係る耐熱衝撃性部材に含まれるセラミックスは、リチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群より選択される少なくとも2種が、酸化物(Li2O、Na2OおよびK2O)に換算して、合計で0.08質量%以下の割合で含まれていてもよい。
【0035】
合計で0.08質量%以下であれば、誘電正接(tanδ)の上昇を抑制することができる。その結果、プラズマCVD装置に用いられる成膜用反応容器などのプラズマの分布に依存した温度のばらつきが発生する環境で耐熱衝撃性部材を使用したとしても、誘電正接(tanδ)が抑制されているため、熱のばらつきが生じにくい。そのため、クラックの発生がより抑制される。
【0036】
一実施形態に係る耐熱衝撃性部材に含まれるセラミックスは、クロムをさらに含んでいてもよい。クロムの含有量は限定されず、例えば、Cr2O3に換算して0.5質量%以上2.5質量%以下の割合で含まれる。
【0037】
クロムがCr2O3に換算して0.5質量%以上2.5質量%以下の割合で含まれることによって、一実施形態に係る耐熱衝撃性部材に含まれるセラミックスの表面がピンク色を呈する。その結果、一実施形態に係る耐熱衝撃性部材の需要者に対し、高級感、美的満足感および癒し効果を与えることができる。
【0038】
耐熱衝撃性部材に含まれるセラミックスを構成する成分は、CuKα線を用いたX線回折装置による測定結果からJCPDSカードによって同定すればよい。各成分の割合は、成分を同定した後、蛍光X線分析装置(XRF)またはICP発光分光分析装置を用いて、成分を構成する元素の含有量を求め、同定された成分に換算すればよい。
【0039】
耐熱衝撃部材は、文字、記号、図形、ロゴ、マーク、QRコード((株)デンソーウェーブ、登録商標)などが施されていてもよい。これら文字などは、レーザー光による照射によって得ることができる。レーザー光によって照射された文字等は、高温(例えば、500℃~1200℃)で用いられても、消失することがないので、製品管理に有効である。
【0040】
一実施形態に係る耐熱衝撃性部材を製造する方法は限定されず、例えば下記のような手順で製造される。
【0041】
まず、酸化アルミニウム粉末、酸化ジルコニウム粉末を準備、調合して、調合粉末とする。これらの粉末の純度は限定されない。これらの粉末は、例えば、99質量%以上の純度を有しているのがよい。酸化アルミニウム粉末は、調合粉末100質量%中、例えば80質量%以上の割合で配合され、酸化ジルコニウム粉末は、例えば10質量%以上15質量%以下の割合で配合される。
【0042】
必要に応じて、酸化クロム粉末、酸化マグネシウム粉末、酸化カルシウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化チタン粉末、酸化リチウム粉末、酸化ナトリウム粉末、酸化カリウム粉末などが、特定の割合で配合されていてもよい。具体的には、酸化クロム粉末は調合粉末100質量%中、0.5質量%以上2.5質量%以下の割合で配合されていてもよく、酸化マグネシウム粉末、酸化カルシウム粉末、酸化イットリウム粉末および酸化チタン粉末の少なくとも1種は、合計で0.8質量%以上1.2質量%以下の割合で配合されていてもよい。酸化リチウム粉末、酸化ナトリウム粉末および酸化カリウム粉末については、少なくともこれらの2種が、合計で0.08質量%以下の割合で配合されていてもよい。
【0043】
これらの粉末以外に、セラミックスの原料となる粉末を使用してもよい。このような粉末としては、シリカ(二酸化ケイ素)、酸化ハフニウム、酸化イットリウムなどの粉末が挙げられる。
【0044】
次いで、これらの粉末と溶媒(例えば、イオン交換水など)とを、粉砕用ミルに投入する。次いで、粉末の平均粒径(D50)が1.5μm以下になるまで粉砕した後、有機結合剤と粉末を分散させる分散剤とを添加し、混合してスラリーを得る。分散剤としては、例えば、アクリル酸エステル共重合体、クエン酸などが挙げられる。有機結合剤としては、例えば、アクリルエマルジョン、ポリビニールアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイドなどが挙げられる。
【0045】
得られたスラリーを噴霧造粒して顆粒を得た後、1軸プレス成形装置あるいは冷間静水圧プレス成形装置を用いて、成形圧を78MPa以上160MPa以下として加圧してセラミックスの元となる成形体を得た後、必要に応じて切削加工を施す。この成形体を、大気雰囲気中、1500℃以上1700℃以下および4時間以上6時間以下の条件で焼成することによって、セラミックスが得られる。得られたセラミックスを所望の形状に加工して、一実施形態に係る耐熱衝撃性部材が得られる。
【0046】
あるいは、所望の耐熱衝撃性部材の形状に応じた成形型に、得られた顆粒を充填して成形体を得、得られた成形体を焼成して、セラミックスで形成された一実施形態に係る耐熱衝撃性部材を製造してもよい。成形体を得るための加圧条件および成形体を焼成する条件は、上述のとおりであり、詳細な説明は省略する。
【0047】
具体的に、次の処方によって、一実施形態に係る耐熱衝撃性部材に含まれるセラミックスを得た。まず、酸化アルミニウム粉末を約80.2質量%、酸化ジルコニウム粉末を約12.2質量%、二酸化ケイ素粉末を約4.7質量%、酸化クロム粉末を約1.53質量%、酸化マグネシウム粉末を約0.57質量%、酸化カルシウム粉末を約0.33質量%、酸化イットリウム粉末を約0.03質量%、酸化チタン粉末を約0.06質量%、酸化ナトリウム粉末を約0.05質量%、酸化カリウム粉末を約0.01質量%、およびその他微量成分を含む混合粉末と、イオン交換水とを粉砕用ミルに投入した。
【0048】
次いで、粉末の平均粒径(D50)が1.5μm以下になるまで粉砕した後、有機結合剤(ポリビニールアルコールおよびポリエチレングリコール)と粉末を分散させる分散剤(アクリル酸エステル共重合体)とを添加し、混合してスラリーを得た。得られたスラリーを噴霧造粒して顆粒を得た後、1軸プレス成形装置を用いて98MPa程度加圧し、セラミックスの元となる角柱状および円柱状の成形体を得た。
【0049】
次いで、得られた成形体を、大気雰囲気中、表1に示す温度で2時間、焼成することによって、セラミックスからなる試料No.1~6を得た。試料No.1~6について、上述の差(A)および差(B)は、円柱状のセラミックスからなる試料を用いて上述した測定方法により求めた。試料No.1~6の閉気孔の面積率を、上述した測定方法により測定した。測定した結果、いずれも12%以上16%以下であった。
【0050】
試料No.1~6について、機械的特性を示す3点曲げ強度は、JIS R 1601:2005に準拠して角柱状のセラミックスからなる試料を用いて測定した。試料No.1~6について、耐熱衝撃性を示す耐熱衝撃温度は、JIS R 1648:2002で規定する精密法に準拠して円柱状のセラミックスからなる試料を用いて測定した。
【0051】
試料No.1~6について、差(A)、差(B)、比の値(A)/(B)、3点曲げ強度および耐熱衝撃温度を、表1に示す。
【0052】
【0053】
表1に示すように、差(A)が差(B)の0.7倍以上1.3倍以下である試料No.2~5は、高い機械的特性と高い耐熱衝撃性とを兼ね備えていることがわかる。一方、差(A)が差(B)の1.3倍を超える試料No.1は、良好な耐熱衝撃性を有するものの、機械的特性に乏しいことがわかる。差(A)が差(B)の0.7倍未満である試料No.6は、良好な機械的特性を有するものの、耐熱衝撃性に乏しいことがわかる。
【0054】
本開示に係る耐熱衝撃性部材は、ZTAが有する機械的強度および耐熱衝撃性を十分に発揮し得る。したがって、本開示の耐熱衝撃性部材は、例えば、溶接切断用またはプラズマ切断用ノズル、接点装置用絶縁部材、電子部品を熱処理するための治具などの材料として使用される。