(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103652
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】骨手術用器具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/17 20060101AFI20220701BHJP
【FI】
A61B17/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218409
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】304050912
【氏名又は名称】オリンパステルモバイオマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【弁理士】
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】横山 靖治
(72)【発明者】
【氏名】黒田 宏一
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL12
4C160LL29
(57)【要約】 (修正有)
【課題】骨に圧迫を加えながらインプラントを骨に挿入することができる骨手術用器具を提供する。
【解決手段】骨手術用器具は、インプラントが挿入されるガイド穴3aを有する筒状のガイド部材3と、ガイド部材を長手方向に移動可能に支持する支持部およびガイド部材の先端から長手方向に間隔を空けて配置された受け部を有する本体と、ガイド部材の先端部に着脱可能であるワッシャ部材5とを備え、ワッシャ部材が、受け部側に配置される接触面5fと、ガイド穴と同軸に配置され、ガイド穴の直径よりも小さい直径を有し、インプラントの軸部が貫通可能である貫通穴5dと、受け部とは反対側において貫通穴の周囲に配置され、インプラントの頭部が長手方向に係合する係合面5gとを有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部および該軸部よりも大径の頭部を有するインプラントを骨に挿入する骨手術用器具であって、
筒状のガイド部材であって、該ガイド部材を該ガイド部材の長手方向に貫通し前記インプラントが挿入されるガイド穴を有するガイド部材と、
該ガイド部材を前記長手方向に移動可能に支持する支持部と、前記ガイド部材の先端から前記長手方向に間隔を空けて配置された受け部とを有する本体と、
前記ガイド部材の先端部に着脱可能であるワッシャ部材とを備え、
該ワッシャ部材が、
前記受け部側に配置され前記骨の表面に接触させられる接触面と、
前記ガイド穴と同軸に配置され、前記ガイド穴の直径よりも小さい直径を有し、前記軸部が貫通可能である貫通穴と、
前記受け部とは反対側において前記貫通穴の周囲に配置され、前記頭部が前記長手方向に係合する係合面とを有する骨手術用器具。
【請求項2】
前記ワッシャ部材が、前記係合面の周囲に形成され前記ガイド部材の先端部が前記長手方向に貫通するスロットを有し、
前記ガイド部材の先端に、前記受け部側に向かって突出する針状の突起が設けられている、請求項1に記載の骨手術用器具。
【請求項3】
前記ワッシャ部材が、前記ガイド部材の先端部を受け入れる嵌合部を有し、前記ガイド部材の先端部と前記嵌合部との間の摩擦によって前記ガイド部材の先端部に固定される、請求項1または請求項2に記載の骨手術用器具。
【請求項4】
前記ワッシャ部材が、前記ガイド部材の先端部にねじ止めされる、請求項1に記載の骨手術用器具。
【請求項5】
前記ワッシャ部材が、前記ガイド部材の前記先端部の外周面の外側に配置される環状の外側壁を有し、
前記外側壁の内面および前記ガイド部材の前記先端部の前記外周面の一方に、凸部が設けられ、
前記外側壁の内面および前記ガイド部材の前記先端部の前記外周面の他方に、前記凸部を受け入れる凹部が設けられている、請求項1または請求項2に記載の骨手術用器具。
【請求項6】
前記ワッシャ部材が、前記ガイド部材の前記先端部の外周面の外側に配置される環状の外側壁と、該外側壁に設けられ該外側壁を厚さ方向に貫通するねじ穴とを有し、
前記ガイド部材の前記先端部の前記外周面に、前記ねじ穴を貫通するねじを受け入れる凹部が設けられている、請求項1または請求項2に記載の骨手術用器具。
【請求項7】
前記接触面に、該接触面から突出する針状の突起が設けられている、請求項1から請求項6のいずれかに記載の骨手術用器具。
【請求項8】
前記係合面にねじ溝が形成されている、請求項1から請求項7のいずれかに記載の骨手術用器具。
【請求項9】
前記ワッシャ部材が、前記貫通穴の径方向外側にもう1つの貫通穴を有する、請求項1から請求項8のいずれかに記載の骨手術用器具。
【請求項10】
前記ワッシャ部材が、前記貫通穴を含む第1部分と、前記もう1つの貫通穴を含む第2部分とを有し、
前記第2部分の幅が、前記第1部分の幅よりも小さい、請求項9に記載の骨手術用器具。
【請求項11】
前記ワッシャ部材が、前記貫通穴と前記もう1つの貫通穴との間に、前記ワッシャ部材の他の部分と比較して低い剛性を有する低剛性部を有する、請求項9または請求項10に記載の骨手術用器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨手術用器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、骨にインプラント用の下穴をあける際に、ドリルを案内する骨手術用器具が使用されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1の骨手術用器具は、ドリルが挿入される筒状の本体部と、本体部の先端と対向しドリルの先端を受け止める受け部とを備える。本体部および受け部によって骨を径方向に把持し、本体部内にドリルを挿入することによって、骨に径方向の圧迫を加えながら骨に下穴を作製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
骨切り術の術式の1つであるDTO(Distal-tuberosity osteotomy)の場合、膝蓋腱の張力によって、前方に浮く方向の力が粗面部に加わる。したがって、骨に下穴を作製するときのみならず、下穴内にインプラントを挿入するときも、粗面部が該粗面部の後方の骨片に近付く方向に脛骨に圧迫を加えることが求められる。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、骨に圧迫を加えながらインプラントを骨に挿入することができる骨手術用器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、軸部および該軸部よりも大径の頭部を有するインプラントを骨に挿入する骨手術用器具であって、筒状のガイド部材であって、該ガイド部材を該ガイド部材の長手方向に貫通し前記インプラントが挿入されるガイド穴を有するガイド部材と、該ガイド部材を前記長手方向に移動可能に支持する支持部と、前記ガイド部材の先端から前記長手方向に間隔を空けて配置された受け部とを有する本体と、前記ガイド部材の先端部に着脱可能であるワッシャ部材とを備え、該ワッシャ部材が、前記受け部側に配置され前記骨の表面に接触させられる接触面と、前記ガイド穴と同軸に配置され、前記ガイド穴の直径よりも小さい直径を有し、前記軸部が貫通可能である貫通穴と、前記受け部とは反対側において前記貫通穴の周囲に配置され、前記頭部が前記長手方向に係合する係合面とを有する骨手術用器具である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係る骨手術用器具の全体構成を示す側面図である。
【
図2】骨手術用器具に使用されるインプラントの一例の側面図である。
【
図3】ワッシャ部材が取り付けられたガイド部材の斜視図である。
【
図4】ワッシャ部材を基端側から見た上面図である。
【
図5】ワッシャ部材が取り付けられたガイド部材の部分縦断面図である。
【
図6】
図4のワッシャ部材のI-I線における縦断面図であり、係合面にインプラントの頭部が係合した状態を示す図である。
【
図7】骨手術用器具を使用した手術の一例を説明する図である。
【
図8】インプラントのねじ込みによる2つの骨片の圧迫を説明する図である。
【
図9】先端に突起を有するガイド部材の変形例の斜視図である。
【
図10】ガイド部材の先端部にねじ止め可能なワッシャ部材の変形例の斜視図である。
【
図11】凸部を有するワッシャ部材および凹部を有するガイド部材の変形例の縦断面図である。
【
図12】ねじ穴を有するワッシャ部材および凹部を有するガイド部材の変形例の縦断面図である。
【
図13】接触面に針状の突起を有するワッシャ部材の変形例の斜視図である。
【
図14】係合面にねじ溝を有するワッシャ部材の変形例の斜視図である。
【
図15】
図14のワッシャ部材がインプラントの頭部に取り付けられた状態を示す図である。
【
図16】2つの貫通穴を有するワッシャ部材の変形例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の一実施形態に係る骨手術用器具および骨手術用システムについて図面を参照して説明する。
骨手術用システムは、
図1に示される骨手術用器具1と、
図2に示されるインプラント2とを備える。骨手術用器具1は、インプラント2とは別に単体で提供されてもよく、インプラント2と一緒に骨手術用システムとして提供されてもよい。
【0009】
骨手術用器具1は、骨Aに開けた下穴内にインプラント2を挿入する手術に使用され、骨Aに下穴を開けるドリルとインプラント2とを案内するガイドデバイスである。
図1に示されるように、骨手術用器具1は、ドリルおよびインプラント2を案内する筒状のガイド部材3と、ガイド部材3を支持する本体4と、ガイド部材3の先端部に着脱可能であるワッシャ部材5とを備える。
【0010】
図2に示さるように、インプラント2は、骨Aに固定される固定具、例えばスクリュである。インプラント2は、長尺の軸部2aと、軸部2aの基端に位置し軸部2aよりも大径の頭部2bとを有し、軸部2aにはねじ山が設けられている。頭部2bの軸部2a側の面2cは、軸部2aの外径よりも大きな外径を有する環状のフランジ面である。フランジ面2cは、
図2に示されるテーパ面であってもよく、平坦面であってもよい。
軸部2aの外径は3mm~7mmであることが好ましく、頭部2bの外径は4mm~10mmであることが好ましい。インプラント2の外径が小さ過ぎる場合、インプラント2の強度が不足する可能性がある。インプラント2の外径が大き過ぎる場合、インプラント2の挿入位置が限られたり、インプラント2の周辺の軟組織への影響が増したりする可能性がある。
【0011】
図1および
図3に示されるように、ガイド部材3は、直線状に延びる円筒状の部材であり、ガイド部材3の長手方向に貫通しドリルおよびインプラント2が挿入されるガイド穴3aを有する。
ガイド部材3の先端部には、ガイド部材3の先端から基端側に向かってガイド部材3の長手方向に延びる少なくとも1つのスリット3bが設けられている。スリット3bは、ガイド部材3の外周面から内周面まで貫通し、ガイド穴3a内のドリルおよびインプラント2をスリット3bを経由してガイド部材3の外側から観察することができる。
図3の例において、4つのスリット3bが、周方向に間隔をあけた4つの位置に設けられ、ガイド部材3の先端部は、4つの部分3cに分割されている。
【0012】
本体4は、ガイド部材3を支持する支持部6と、ガイド部材3の先端から突出するドリルの先端を受け止める受け部7と、支持部6と受け部7とを相互に連結する鉤状の支柱8とを備える。
支柱8は、略U字状または略C字状に湾曲し、骨Aの略半周を囲むように骨Aの径方向外側に配置される。支持部6は、支柱8の一端に固定され、受け部7は、支柱8の他端に固定されている。
【0013】
支持部6は、円筒状の部材であり、支持部6を長手方向に貫通しガイド部材3が挿入される貫通穴6aを有する。支持部6は、長手方向に移動可能にガイド部材3を貫通穴6a内に支持する。ガイド部材3の移動によって、骨Aの太さに応じてガイド部材3の先端と受け面7aとの間の距離が調整される。また、支持部6は、支持部6に対してガイド部材3を長手方向に固定および固定解除可能である。
【0014】
例えば、支持部6は、ガイド部材3を長手方向に固定および固定解除するロック機構を有する。
ロック機構の一例は、貫通穴6aの内面から突没する突起を有するクリック機構である。ガイド部材3の外周面には、ガイド部材3の長手方向に配列する複数の溝が形成される。突起は、ばね等によって径方向内方に付勢される。突起が溝内に嵌った状態において、ガイド部材3は支持部6に対して長手方向に固定される。ガイド部材3に一定の大きさ以上の長手方向の力が加わったとき、突起が引っ込むことによってガイド部材3の固定が解除される。
ロック機構の他の例は、支持部6に設けられた固定ねじである。支持部6には、支持部6の外周面から内周面まで貫通するねじ穴が形成される。ねじ穴内に挿入した固定ねじを締めることによって、ガイド部材3は支持部6に対して長手方向に固定され、固定ねじを緩めることによって、ガイド部材3の固定が解除される。
【0015】
受け部7は、ガイド穴3aの中心軸の延長線に直交する板状の部材である。受け部7は、ガイド部材3の先端からガイド部材3の長手方向に間隔を空けた位置に配置され、ガイド部材3の先端と長手方向に対向する。受け部7は、ドリルの先端をガイド部材3側の受け面7aにおいて受け止める。受け面7aは、平坦面であってもよく、骨Aの表面形状に沿う曲面であってもよい。
【0016】
図3および
図4に示されるように、ワッシャ部材5は、ガイド部材3の先端部の外径よりも大きな外径を有する略円板状の部材である。ワッシャ部材5の厚さは、0.5mm~3mmであることが好ましく、ワッシャ部材5の幅(外径)は、7mm~16mmであることが好ましい。
ワッシャ部材5は、同心または略同心の2つの円環状の壁5a,5bと、壁5a,5b間に形成されたスロット5cと、内側に位置する壁5bの径方向内側に形成された貫通穴5dとを有する。
【0017】
外側壁5aは、ガイド部材3の先端部の外径と略等しい内径を有し、ガイド部材3の先端部の外周面の径方向外側に配置される。内側壁5bは、ガイド部材3の先端部の内径と略等しい外径を有し、ガイド部材3の先端部の内周面の径方向内側に配置される。2つの壁5a,5bは、壁5a,5b間を径方向に延びる少なくとも1本の支柱5eによって相互に連結されている。
スロット5cは、外側壁5aの内周面と内側壁5bの外周面との間に形成されワッシャ部材5を厚さ方向に貫通する円弧状の空間である。スロット5cの両端は、支柱5eにおいて終端している。ガイド部材3の先端部は、スリット3b内に支柱5eを通過させながら、スロット5cを厚さ方向に貫通可能である。すなわち、スロット5cは、ガイド部材3の先端部を受け入れる嵌合部として機能する。
【0018】
ガイド部材3の先端部をスロット5c内に嵌め込み貫通させることによって、ワッシャ部材5は、ガイド部材3の先端部に取り付けられる。すなわち、ワッシャ部材5は、スロット5cの内面とガイド部材3の先端部の外周面および内周面との間の摩擦によって、ガイド部材3の先端部にセルフホールドされる。ワッシャ部材5を受け部7側に向かって押圧するまたは引っ張ることによって、ワッシャ部材5をガイド部材3の先端部から取り外すことができる。
図3および
図4において、4つのスロット5cの各々をガイド部材3の部分3cが貫通している。ワッシャ部材5がガイド部材3の先端部に取り付けられた状態において、ガイド部材3の先端はワッシャ部材5の受け部7側の面(先端面)5fから突出する。
【0019】
図5は、ワッシャ部材5が先端部に取り付けられたガイド部材3の長手軸に沿う縦断面図である。
図5に示されるように、ガイド部材3の先端部の外周面が先端に向かって細くなるテーパ状であってもよい。この構成によれば、ガイド部材3の先端部をスロット5c内に容易に押し込むことができ、ワッシャ部材5をガイド部材3の先端部に容易に取り付けることができる。また、ワッシャ部材5をガイド部材3から容易に取り外すことができる。
ガイド部材3の先端部の外周面に代えて、スロット5cの径方向外側の内面がテーパ状であってもよい。
【0020】
貫通穴5dは、ワッシャ部材5を厚さ方向に貫通し、ワッシャ部材5がガイド部材3の先端部に取り付けられた状態においてガイド穴3aと同軸または略同軸に配置される。貫通穴5dの直径は、ドリルおよび軸部2aの外径よりも大きく、ガイド穴3aの直径およびフランジ面2cの外径よりも小さい。したがって、ドリルおよび軸部2aは貫通穴5dを通過することができるが、頭部2bは貫通穴5dを通過することができない。
【0021】
さらに、ワッシャ部材5は、受け部7側(先端側)に接触面5fを有し、受け部7とは反対側(基端側)に係合面5gを有する。
接触面5fは、骨Aの表面に接触させられる面である。具体的には、接触面5fは、壁5a,5bおよび支柱5eの先端面からなり、ガイド部材3の先端面およびフランジ面2cよりも大きな面積を有する。接触面5fは、平坦面であってもよく、骨Aの表面の凸形状に沿う曲面であってもよい。
【0022】
係合面5gは、内側壁5bの円環状の基端側の面であり、貫通穴5dの周囲に配置される。
図6は、
図4のワッシャ部材5のI-I線における断面図である。
図6に示されるように、フランジ面2cが係合面5gに突き当たることによって、頭部2bは、ガイド部材3の長手方向に係合面5gと係合する。係合面5gは、フランジ面2cの形状に対応する形状を有していてよい。例えば、フランジ面2cがテーパ状である場合、係合面5gは、受け部7側に凹み頭部2bを受け入れるテーパ面であってもよい。
【0023】
次に、骨手術用器具1および骨手術用システムの作用について説明する。
図7は、骨手術用器具1の一使用例として、DTO(Distal-tuberosity osteotomy)を示している。DTOは、粗面部Bを脛骨Aの近位骨片Cに連続させるために、高位脛骨骨切り術(HTO)において粗面部Bよりも遠位で骨切りを行う方法である。
なお、骨手術用器具1は、脛骨以外の部位の骨への下穴の作製およびインプラント2の挿入にも使用することができる。
【0024】
図7に示されるように、ワッシャ部材5が取り付けられたガイド部材3と受け部7とによって脛骨Aを粗面部Bの位置で前後方向に挟み、接触面5fから突出するガイド部材3の先端面および受け面7aが脛骨Aの表面に接触するまでガイド部材3を受け部7に近接する方向に移動させ、ガイド部材3を支持部6に対して固定する。これにより、ガイド部材3および受け部7によって脛骨Aが径方向に把持され、粗面部Bを含む前側の骨片A1と後側の骨片A2とを相互に近づける方向の圧迫が脛骨Aに加えられる。ガイド部材3は脛骨Aの前側に配置され、受け部7は脛骨Aの後側に配置される。
【0025】
次に、ガイド部材3のガイド穴3a内にドリルを挿入し、回転するドリルによって脛骨Aに下穴を作製する。下穴の作製中、ドリルは、ガイド穴3aの中心軸に沿って真っすぐに案内されるので、ガイド穴3aの中心軸の延長線に沿って真っすぐに延びる下穴を作製することができる。
【0026】
ドリルが脛骨Aを貫通したとき、ドリルの先端は、脛骨Aの表面上の受け面7aに突き当たり、受け部7によって受け止められる。これにより、ドリルの先端が脛骨Aの周囲の組織に対して露出することが防止され、脛骨Aの周囲の組織がドリルの先端から保護される。DTOの場合、脛骨Aを前方から後方に向かって貫通したドリルの先端が、脛骨Aの後方に存在する神経および血管等に対して露出することが防止される。
【0027】
下穴およびガイド穴3aからドリルを抜いた後、インプラント2をガイド穴3a内に挿入し、頭部2bに接続されたドライバ(図示略)を回転させることによって、インプラント2を下穴内にねじ込む。
頭部2bがワッシャ部材5の係合面5gに突き当たるまでインプラント2を下穴内にねじ込んだ後、頭部2bが係合面5gに係合した状態でさらにインプラント2の下穴内へのねじ込みを進める。ワッシャ部材5は、頭部2bによって脛骨A側へ押圧されることでガイド部材3に対して脛骨A側へ移動し、接触面5fが脛骨Aの表面に接触する。このとき、ワッシャ部材5の移動によって、ワッシャ部材5はガイド部材3の先端部から固定解除される。
【0028】
接触面5fが脛骨Aの表面に接触した後、さらにインプラント2の下穴内へのねじ込みを進めると、
図8に示されるように、後側の骨片A2が前方に引き寄せられ、骨片A1,A2を相互に近づける方向の圧迫が脛骨Aにさらに加えられる。
頭部2bが係合面5gに係合した状態でインプラント2をねじ込むとき、インプラント2からワッシャ部材5に回転力が伝達される。ただし、支柱5eがスロット5c内のガイド部材3に突き当たることによって、脛骨Aに対するワッシャ部材5の回転は阻止される。
脛骨Aに十分な圧迫が加えられるまでインプラント2をねじ込んだ後、ガイド部材3および本体4が脛骨Aから除去され、インプラント2およびワッシャ部材5が脛骨Aに残される。
【0029】
このように、本実施形態によれば、ガイド部材3によって脛骨Aに圧迫を加えながら、下穴の作製時および下穴内へのインプラント2のねじ込みが行われる。粗面部Bに接続されている膝蓋腱の張力によって、粗面部Bには前方に浮く力が加わっている。粗面部Bの位置において脛骨Aに圧迫を加えることによって粗面部Bを含む骨片A1の浮きを防止し、骨片A1を骨片A2に適切に接触させた状態で2つの骨片A1,A2をインプラント2によって固定することができる。
【0030】
また、ガイド部材3の先端面の面積は小さいので、ガイド部材3の先端は骨Aの表面に食い込みやすい。一方、接触面5fは、ガイド部材3の先端面と比較して、より大きな接触面積で骨Aの表面と接触するので、骨Aの表面が軟らかい場合であっても、ワッシャ部材5の骨Aへの食い込みは防止される。したがって、ガイド部材3の先端部に取り付けられたワッシャ部材5によって、ガイド部材3の先端の骨Aへの食い込みを防止することができる。
また、ワッシャ部材5が脛骨Aの表面に接触した状態において、インプラント2のねじ込みによってワッシャ部材5からも脛骨Aに圧迫が加えられる。すなわち、より大きな圧迫を脛骨Aに加えながらインプラント2を下穴内にねじこむことができる。
【0031】
また、ワッシャ部材5が存在せず頭部2bが骨Aの表面に直接接触した状態でインプラント2を下穴内にさらにねじ込む場合、インプラント2をねじ込むにつれて頭部2bが骨片A1の表面に埋没し、骨片A1,A2に圧迫を加えることができないことがある。特に、骨片A1の表面が柔らかい場合、頭部2bは骨片A1の表面に埋没しやすく、インプラント2のねじ込みによる圧迫を加えることが困難である。
本実施形態によれば、接触面5fは、フランジ面2cと比較して、より大きな接触面積で骨Aの表面と接触するので、ワッシャ部材5が骨片A1の表面に埋没することが防止される。これにより、インプラント2のねじ込みによって、骨片A1,A2により効果的に圧迫を加えることができる。
【0032】
上記実施形態において、
図9に示されるように、ガイド部材3の先端に突起3dが設けられていてもよい。
突起3dは、受け部7側に向かって突出し、先鋭な先端を有する針状である。突起3dを骨Aの表面に刺すことによって、ガイド部材3を骨Aに対して固定することができる。
【0033】
上記実施形態において、ワッシャ部材5が、ガイド部材3の先端部を受け入れる嵌合部として、ガイド部材3が貫通するスロット5cを有することとしたが、スロット5c以外の嵌合部がワッシャ部材5に設けられていてもよい。
例えば、嵌合部が、環状または筒状の外側壁5aによって画定される凹部または穴であり、外側壁5a内にガイド部材3の先端部が嵌合し、外側壁5aの内面とガイド部材3の先端部の外面との間の摩擦によってワッシャ部材5がガイド部材3の先端部に固定されるように構成されていてもよい。
【0034】
上記実施形態において、ワッシャ部材5が、摩擦によってガイド部材3の先端部に固定されることとしたが、これに代えて、ワッシャ部材5は、他の固定手段によってガイド部材3の先端部に固定されてもよい。
図10から
図12は、固定手段の他の例を示している。
図10から
図12において、ワッシャ部材5は、外側壁5aと、外側壁5aの先端に設けられた円環状の先端壁5hとを有する。貫通穴5dは先端壁5hの内周面によって囲まれた穴であり、接触面5fは先端壁5hの先端面であり、係合面5gは先端壁5hの基端面である。
【0035】
図10において、ワッシャ部材5は、ガイド部材3の先端部にねじ止めされる。すなわち、ワッシャ部材5の外側壁5aの内周面にねじ溝5iが形成され、ガイド部材3の先端部の外周面に、ねじ溝5iと締結するねじ山(図示略)が形成される。
この構成によれば、脛骨Aの適切な深さまでインプラント2を挿入した後、ワッシャ部材5に対してガイド部材3を回転させることによって、ワッシャ部材5とガイド部材3とを相互に分離することができる。
【0036】
図11おいて、ワッシャ部材5の外側壁5aの内周面に、径方向内方に突出する少なくとも1つの凸部9aが設けられ、ガイド部材3の先端部の外周面に、凸部9aを受け入れる少なくとも1つの凹部9bが設けられている。凹部9bは、ガイド部材3の外周面から内周面まで貫通していてもよい。
この構成によれば、インプラント2を脛骨A内に配置した後、ワッシャ部材5に対してガイド部材3を基端側に移動させることによって、凸部9aと凹部9bとの係合を解除し、ワッシャ部材5およびガイド部材3を相互に分離することができる。係合面5gに係合する頭部2bによってワッシャ部材5を押圧することで凸部9aと凹部9bとの係合が解除されるように構成されていてもよい。
凸部9aおよび凹部9bの配置は逆であってもよい。すなわち、ガイド部材3の先端部の外周面に、径方向外方に突出する少なくとも1つの凸部9aが設けられ、ワッシャ部材5の外側壁5aの内周面に、凸部9aを受け入れる少なくとも1つの凹部9bが設けられていてもよい。
【0037】
図12において、ワッシャ部材5の外側壁5aに径方向に貫通し固定ねじ(図示略)が締結されるねじ穴10aが設けられ、ガイド部材3の先端部の外周面に、固定ねじが挿入される凹部10bが設けられている。凹部10bは、ガイド部材3の外周面から内周面まで貫通していてもよい。
この構成によれば、ねじ穴10aを経由して固定ねじを凹部10bに挿入することによって、ワッシャ部材5がガイド部材3の先端部に固定される。固定ねじを凹部10bから抜くことによって、任意のタイミングでワッシャ部材5およびガイド部材3を相互に分離することができる。
【0038】
上記実施形態において、
図13に示されるように、少なくとも1つの針状の突起11が接触面5fに設けられていてもよい。
突起11は、接触面5fから受け部7側に突出し、先鋭な先端を有する。突起11が骨Aの表面に刺さることによって、ワッシャ部材5を骨Aの表面に固定することができる。また、インプラント2の移植後、ワッシャ部材5が骨Aの表面から浮いてしまうことを、骨Aに刺さる突起11によって防止することができる。
【0039】
上記実施形態において、
図14に示されるように、係合面5gにねじ溝12が形成されていてもよい。ねじ溝12を有するワッシャ部材5は、
図15に示されるように、頭部2bにねじ山2dが設けられたインプラント2と組み合わせて使用される。すなわち、ねじ山2dをねじ溝12に締結することによって、頭部2bがワッシャ部材5に固定される。
インプラント2の下穴内へのねじ込み時、頭部2bは、係合面5gと接触しながら係合面5gに対して回転する。上記構成によれば、頭部2bと係合面5gとの間で摩耗粉が発生することを防ぐことができる。
【0040】
上記実施形態において、
図16に示されるように、ワッシャ部材5が、貫通穴5dに加えて、貫通穴5dの径方向外側にもう1つの貫通穴13を有していてもよい。
図16のワッシャ部材5は、貫通穴5dを含む円環状の第1部分51と、もう1つの貫通穴13を含む円環状の第2部分52とが相互に接続された、略8の字形である。
この構成によれば、2つのインプラント2を2つの貫通穴5d,13を経由して骨Aに挿入することによって、より強固に骨片A1,A2同士を固定することができる。
図16において、貫通穴5dの係合面5gにねじ溝12が形成されている。貫通穴13内のインプラント2の頭部2bをワッシャ部材5に固定するために、貫通穴13の内面にもねじ溝12が形成されていてもよい。
ワッシャ部材5は、3以上の貫通穴を有していてもよい。複数の貫通穴を有する場合、ワッシャ部材5の長さは、軟組織への影響を低減するために25mm以下であることが好ましい。長さは、複数の貫通穴の配列方向の寸法である。
【0041】
2つの貫通穴5d,13の中心軸(一点鎖線参照。)は、相互に平行であってもよく、相互に傾斜していてもよい。
中心軸が相互に傾斜している場合、2つのインプラント2を骨Aから抜け難くすることができる。すなわち、2つの貫通穴5d,13を経由して骨Aに挿入された2つのインプラント2の長手軸は、相互に傾斜する。したがって、例えば、一方のインプラント2に骨Aから抜ける方向の長手方向の力が加わったときに、一方のインプラント2が骨Aから抜けることが、他方のインプラント2によって阻止される。また、長手軸が相互に傾斜する2つのインプラント2によって、骨片A1,A2が相互に離間することを構造的に防止することができる。
【0042】
2つのインプラント2の長手軸が成す角度、すなわち2つの貫通穴5d,13の中心軸が成す角度Xは、-45°<X<45°を満たすことが好ましい。角度Xの大きさが45°以上である場合、2つ目のインプラント2を骨Aに挿入する際に骨片A1,A2同士がずれる方向の力が大きくなり好ましくない。
【0043】
2つの貫通穴5d,13を有するワッシャ部材5は、貫通穴5dを1つのみ有するワッシャ部材5と比較して大きいので、骨Aの周囲の軟組織に与える影響が増す可能性がある。したがって、軟組織への影響を低減するために、ワッシャ部材5のガイド部材3に接続されない部分の幅は狭いことが好ましい。具体的には、第2部分52の幅は、第1部分51の幅よりも小さいことが好ましい。幅は、貫通穴5d,13の配列方向に直交する方向の寸法である。
【0044】
第1部分51と第2部分52との間の連結部53は、第1部分51および第2部分52と比較して低い剛性を有する低剛性部であってもよい。例えば、連結部53は、第2部分52の幅よりも狭い幅を有するくびれ部であってもよく、第1部分51および第2部分52よりも薄くてもよい。この構成によれば、ワッシャ部材5が骨Aの表面の凸形状に合うように、低剛性部である連結部53においてワッシャ部材5を容易に曲げることができる。
【0045】
また、ワッシャ部材5の変形および強度を考慮すると、低剛性部53の幅は、第2部分52の幅の50%~90%であり、低剛性部53の厚さは、第1部分51および第2部分52の厚さの60%~90%であることが好ましい。低剛性部53と部分51,52との間の幅および厚さの差が小さ過ぎる場合、低剛性部53以外の意図しない位置でワッシャ部材5が曲がってしまう可能性がある。差が大き過ぎる場合、低剛性部53に過度な応力が集中し低剛性部53が破損しやすくなる。
【0046】
上記実施形態において、ワッシャ部材5が、円形の板状であることとしたが、ワッシャ部材5の形状はこれに限定されるものではなく、適宜変更可能である。
上記実施形態において、インプラント2が固定具であることとしたが、インプラント2は、軸部および頭部を有する他の用途のものであってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 骨手術用器具
2 インプラント
2a 軸部
2b 頭部
3 ガイド部材
3a ガイド穴
4 本体
5 ワッシャ部材
51 第1部分
52 第2部分
53 連結部、低剛性部
5a 外側壁
5c スロット、嵌合部
5d,13 貫通穴
5f 接触面
5g 係合面
6 支持部
7 受け部
9a 凸部
9b 凹部
10a ねじ穴
10b 凹部
11 突起
12 ねじ溝