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特開2022-103682遮熱コーティングの施工方法及び耐熱部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103682
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】遮熱コーティングの施工方法及び耐熱部材
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/129 20160101AFI20220701BHJP
【FI】
C23C4/129
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218460
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岡嶋 芳史
(72)【発明者】
【氏名】川澄 草介
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 泰治
(72)【発明者】
【氏名】関川 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】水谷 孝治
(72)【発明者】
【氏名】木内 新
【テーマコード(参考)】
4K031
【Fターム(参考)】
4K031AA02
4K031AB03
4K031CB42
4K031DA01
4K031EA02
4K031EA07
(57)【要約】
【課題】遮熱コーティングを形成する際の作業効率を向上させる。
【解決手段】本開示の少なくとも一実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法は、溶射ブース内に配置された対象物の耐熱合金基材上に該溶射ブース内に配置された溶射ガンによって、ボンドコート層を高速フレーム溶射によって形成する工程と、該溶射ブース内に配置された対象物のボンドコート層上に該溶射ブース内に配置された溶射ガンによって、セラミックス粉末を含む懸濁液を高速フレーム溶射によって溶射することでトップコート層を形成する工程と、を備える。
【選択図】図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶射ブース内に配置された対象物の耐熱合金基材上に該溶射ブース内に配置された溶射ガンによって、ボンドコート層を高速フレーム溶射によって形成する工程と、
該溶射ブース内に配置された前記対象物の前記ボンドコート層上に該溶射ブース内に配置された溶射ガンによって、セラミックス粉末を含む懸濁液を高速フレーム溶射によって溶射することでトップコート層を形成する工程と、
を備える
遮熱コーティングの施工方法。
【請求項2】
ボンドコート層を高速フレーム溶射によって形成する工程では、第1移動装置で第1溶射ガンを移動させながら前記ボンドコート層を高速フレーム溶射によって形成し、
トップコート層をセラミックス粉末を含む懸濁液を高速フレーム溶射によって溶射することで形成する工程では、前記第1移動装置とは異なる第2移動装置で前記第1溶射ガンとは異なる第2溶射ガンを移動させながら前記トップコート層を形成する
請求項1に記載の遮熱コーティングの施工方法。
【請求項3】
ボンドコート層を高速フレーム溶射によって形成する工程では、移動装置で第1溶射ガンを移動させながら前記ボンドコート層を高速フレーム溶射によって形成し、
トップコート層をセラミックス粉末を含む懸濁液を高速フレーム溶射によって溶射することで形成する工程では、該移動装置で前記第1溶射ガンとは異なる第2溶射ガンを移動させながら前記トップコート層を形成する
請求項1に記載の遮熱コーティングの施工方法。
【請求項4】
ボンドコート層を高速フレーム溶射によって形成する工程では、移動装置で溶射ガンを移動させながら前記ボンドコート層を高速フレーム溶射によって形成し、
トップコート層をセラミックス粉末を含む懸濁液を高速フレーム溶射によって溶射することで形成する工程では、該移動装置で該溶射ガンを移動させながら前記トップコート層を形成する
請求項1に記載の遮熱コーティングの施工方法。
【請求項5】
ボンドコート層を高速フレーム溶射によって形成する工程と、トップコート層をセラミックス粉末を含む懸濁液を高速フレーム溶射によって溶射することで形成する工程とでは、前記溶射ガンで溶射する溶射材の供給部を変更する
請求項4に記載の遮熱コーティングの施工方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の遮熱コーティングの施工方法によって形成された前記ボンドコート層と前記トップコート層とを有する耐熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遮熱コーティングの施工方法及び耐熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機エンジンにおける燃焼器パネルやタービン翼、産業用ガスタービンにおけるタービン翼や分割環等のように、高温の燃焼ガスに曝される耐熱部材には、遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating,TBC)を設けることが知られている。このような遮熱コーティングでは、耐熱合金基材上に形成されるボンドコート層と、ボンドコート層上に形成される遮熱層としてのトップコート層とを含んでいる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-117012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えばボンドコート層では、耐熱合金基材との密着力が大きいことが望まれている。そのため、ボンドコート層の原料粉末を超音速度で耐熱合金基材に衝突させることで比較的大きい密着力が得られる高速フレーム溶射によってボンドコート層を形成したいというニーズがある。
また、トップコート層は、ボンドコート層とは求められる性質や材料が異なるため、ボンドコート層を形成する溶射方法とは異なる溶射方法でセラミック層を形成したいというニーズがある。
このように、ボンドコート層とトップコート層とで異なる溶射方法によってそれぞれを形成する場合、装置構成の違いや、使用するガス等のような必要とされる周辺装置やユーティリティの違いにより、同一の溶射ブースで溶射を行うことが困難である。そのため、溶射の対象物を異なる溶射ブースに移動させる手間や、対象物を移動させた後の溶射開始までの対象物のセッティング等の段取り作業が必要である。
【0005】
本開示の少なくとも一実施形態は、上述の事情に鑑みて、遮熱コーティングを形成する際の作業効率向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法は、
溶射ブース内に配置された対象物の耐熱合金基材上に該溶射ブース内に配置された溶射ガンによって、ボンドコート層を高速フレーム溶射によって形成する工程と、
該溶射ブース内に配置された前記対象物の前記ボンドコート層上に該溶射ブース内に配置された溶射ガンによって、セラミックス粉末を含む懸濁液を高速フレーム溶射によって溶射することでトップコート層を形成する工程と、
を備える。
【0007】
(2)本開示の少なくとも一実施形態に係る耐熱部材は、上記(1)の方法による遮熱コーティングの施工方法によって形成された前記ボンドコート層と前記トップコート層とを有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、遮熱コーティングを形成する際の作業効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法によって施工された遮熱コーティングを備える耐熱部材の断面の模式図である。
図2】耐熱部材の一例としての航空機エンジン向けの燃焼器パネルの外観を表す図である。
図3】幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法の手順を示すフローチャートである。
図4A】一実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法に係る装置の概略を説明するための図である。
図4B】他の実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法に係る装置の概略を説明するための図である。
図4C】さらに他の実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法に係る装置の概略を説明するための図である。
図5A】内部供給式の溶射ガンの構造を説明するための模式的な図である。
図5B】外部供給式の溶射ガンの構造を説明するための模式的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0011】
(遮熱コーティング3について)
図1は、幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法によって施工された遮熱コーティング3を備える耐熱部材1の断面の模式図である。
図2は、耐熱部材1の一例としての航空機エンジン向けの燃焼器パネル1Aの外観を表す図である。
航空機エンジン向けの燃焼器パネル1Aやタービン翼、産業用ガスタービン向けのタービン翼や分割環等の耐熱部材1には、耐熱部材1の遮熱のための遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating : TBC)3が形成されている。
幾つかの実施形態に係る耐熱部材1の耐熱合金基材(母材)5上には、金属結合層(ボンドコート層)7と、遮熱層としてのトップコート層9が順に形成される。即ち、幾つかの実施形態では、遮熱コーティング3は、ボンドコート層7と、トップコート層9を含んでいる。
【0012】
幾つかの実施形態に係るボンドコート層7は、MCrAlY合金(Mは、Ni,Co,Fe等の金属元素またはこれらのうち2種類以上の組合せを示す)などで構成される。
【0013】
幾つかの実施形態に係るトップコート層9は、ZrO系の材料、例えば、Yで部分安定化または完全安定化したZrOであるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)で構成されているとよい。また、幾つかの実施形態に係るトップコート層9は、DySZ(ジスプロシア安定化ジルコニア)、ErSZ(エルビア安定化ジルコニア)、GdZr、又は、GdHfの何れかで構成されていてもよい。
これにより、遮熱性に優れた遮熱コーティング3が得られる。
【0014】
幾つかの実施形態に係るトップコート層9では、トップコート層9の厚さ方向に延在する縦割れCvが面方向、すなわち図1における図示左右方向及び紙面奥行き方向に分散している。また、幾つかの実施形態に係るトップコート層9では、面方向に延在する横割れChが分散している。
幾つかの実施形態に係る遮熱コーティング3では、トップコート層9における複数の縦割れCvを有する構造により、耐熱合金基材5との線膨張係数の違いによる熱応力の発生を緩和できるので、熱サイクル耐久性に優れる。
【0015】
(フローチャート)
図3は、幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法の手順を示すフローチャートである。幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法は、ボンドコート層7を形成する工程S10と、トップコート層9を形成する工程S20とを含んでいる。
【0016】
幾つかの実施形態において、ボンドコート層7を形成する工程S10は、後述する溶射ブース20内に配置された対象物(耐熱部材1)の耐熱合金基材5上に該溶射ブース20内に配置された後述する溶射ガン30によって、ボンドコート層7を高速フレーム溶射によって形成する工程である。
すなわち、幾つかの実施形態において、ボンドコート層7を形成する工程S10では、溶射材としてのMCrAlY合金等の粉末を高速フレーム溶射によって耐熱合金基材5の表面に溶射する。
【0017】
幾つかの実施形態において、トップコート層9を形成する工程S20は、ボンドコート層7を形成する工程S10を実施した溶射ブース20内に配置された上記対象物(耐熱部材1)のボンドコート層7上に該溶射ブース20内に配置された溶射ガン30によって、セラミックス粉末を含む懸濁液を高速フレーム溶射によって溶射することでトップコート層9を形成する工程である。
すなわち、幾つかの実施形態において、トップコート層9を形成する工程S20で実施する溶射は、懸濁液による高速フレーム溶射(S-HVOF)である。幾つかの実施形態において、トップコート層9を形成する工程S20では、溶射材としてのセラミックス粉末を溶媒に分散した懸濁液を高速フレーム溶射によってボンドコート層7の表面に溶射する。懸濁液による高速フレーム溶射では、懸濁液として供給された溶射材TMは、燃焼炎ジェット流CFによって溶射対象物の表面に吹き付けられる(後述する図5A図5B参照)。
【0018】
高速フレーム溶射(HVOF)と懸濁液による高速フレーム溶射(S-HVOF)とでは、溶射に用いる原料(溶射材)の供給形態が粉体のままであるか溶媒に分散させた懸濁液であるかの違いがあるが、共に高速フレーム溶射装置を用いた溶射方法である。そのため、高速フレーム溶射と懸濁液による高速フレーム溶射とでは、溶射ガン30等の装置構成の違いがあるものの、使用するガス等のような必要とされる周辺装置やユーティリティの違いはほとんどない。そのため、高速フレーム溶射を行うため溶射ガン30と懸濁液による高速フレーム溶射を行うための溶射ガン30とを同一の溶射ブース20内に配置して、それぞれ溶射を行うことができる。
したがって、幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法によれば、ボンドコート層7の形成後に対象物としての耐熱部材1を他の溶射ブースに移動させなくてもよいので、耐熱部材1を異なる溶射ブースに移動させる手間が不要となり、懸濁液による高速フレーム溶射による溶射開始までの耐熱部材1のセッティング等の段取り作業が大幅に削減できるので、遮熱コーティング3を形成する際の作業効率が向上し、製造コストを削減できる。
【0019】
なお、従来、トップコート層9は、熱サイクル耐久性を確保するため、トップコート層9の厚さ方向に延在する縦割れと称される亀裂(縦割れCv)を層内に含むようにするため、電子ビーム物理蒸着(EB-PVD)によって形成されることが多かった。しかし、電子ビーム物理蒸着を行うための装置は、装置のイニシャルコストが溶射装置等と比べて10倍以上高価である。また、電子ビーム物理蒸着による層の形成のためのランニングコストは、溶射等による層の形成のためのランニングコストの10倍程度と高価である。さらに、電子ビーム物理蒸着による層の形成速度は、溶射等による層の形成速度の数分の1程度と低い。
発明者らが鋭意検討した結果、セラミックス粉末を含む懸濁液を高速フレーム溶射によって溶射することでトップコート層を形成するようにすれば、電子ビーム物理蒸着によってボンドコート層7上にトップコート層を形成した場合と同等の遮熱性や熱サイクル耐久性等の性能を確保できることが判明した。
幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法によれば、電子ビーム物理蒸着によってボンドコート層7上にトップコート層9を形成した場合と比べて、低いランニングコストで、且つ、より短時間でトップコート層を形成できる。また、幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法によれば、トップコート層9を形成するための設備の導入コストも大幅に抑制できる。
【0020】
また、幾つかの実施形態に係る耐熱部材1は、幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法によって形成されたボンドコート層7とトップコート層9とを有する。
これにより、耐熱部材1の製造コストを抑制できる。
【0021】
図4Aは、一実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法に係る装置の概略を説明するための図である。
図4Bは、他の実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法に係る装置の概略を説明するための図である。
図4Cは、さらに他の実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法に係る装置の概略を説明するための図である。
図5Aは、内部供給式の溶射ガン30Iの構造を説明するための模式的な図である。
図5Bは、外部供給式の溶射ガン30Eの構造を説明するための模式的な図である。
【0022】
図4A乃至図4Cに示すように、幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法では、溶射ガン30と、溶射ガン30の移動装置50と、集塵フード70とを用いて遮熱コーティング3を施工する。なお、幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法では、図4A乃至図4Cに示したこれらの装置以外にも、図示はしていないが、溶射制御盤、移動装置50の駆動を制御する制御装置や、溶射材の供給装置なども装置構成中に含まれる。
遮熱コーティング3の施工に際し、遮熱コーティング3の施工の対象物である耐熱部材1を固定する必要がある場合には、固定治具91を用いてもよく、耐熱部材1を連続的に回転させる必要がある場合には、不図示の回転駆動装置を用いてもよい。
【0023】
幾つかの実施形態に係る移動装置50は、例えば産業用ロボットであるが、例えばNC装置のように複数の方向に移動可能なスライド軸を有する走査装置であってもよい。
【0024】
図4A乃至図4Cに示すように、幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法では、例えば、溶射ガン30、移動装置50、及び集塵フード70は、1つの溶射ブース20の内部に配置される。溶射ブース20は、遮音のためや粉塵の周囲への飛散防止のために周囲とは仕切られた空間を形成するものである。例えば溶射ブース20は、作業室内に配置された箱状のものであってもよく、作業室の一部を壁等で区切った一区画であってもよく、建屋内に設けた専用の部屋であってもよい。
遮熱コーティング3の施工の対象物である耐熱部材1は、この溶射ブース20内で遮熱コーティング3、すなわち、ボンドコート層7とトップコート層9とが形成される。
【0025】
図4Aに示すように、一実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法において、ボンドコート層7を形成する工程S10では、移動装置50で第1溶射ガン30Aを移動させながらボンドコート層7を高速フレーム溶射によって形成してもよい。そして、トップコート層9を形成する工程では、ボンドコート層7を形成する工程S10で使用した移動装置50で第1溶射ガン30Aとは異なる第2溶射ガン30Bを移動させながらトップコート層を形成してもよい。
すなわち、図4Aに示す一実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法では、ボンドコート層7を形成する工程S10とトップコート層9を形成する工程とで、使用する溶射ガン30(移動装置50に取り付ける溶射ガン30)を交換する。これにより、ボンドコート層7を形成する工程S10とトップコート層9を形成する工程とを同一の溶射ブース20内で実施できる。
【0026】
例えば、図5Aに示すような、溶射材TMを溶射ガン30の内部に供給するように構成された内部供給式の溶射ガン30Iを用いる場合には、ボンドコート層7を形成する工程S10とトップコート層9を形成する工程とで、使用する溶射ガン30を交換すればよい。
【0027】
図4Aに示す一実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法によれば、ボンドコート層7を形成後、トップコート層9の形成を開始する前に移動装置50に装着する溶射ガン30を第1溶射ガン30Aから第2溶射ガン30Bに変更すれば、移動装置50は変更しなくてもよいので、ボンドコート層7を形成後にトップコート層9の形成を開始するまでの段取り作業を簡素化できる。
【0028】
図4Bに示すように、他の実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法において、ボンドコート層7を形成する工程S10では、移動装置50で溶射ガン30を移動させながらボンドコート層7を高速フレーム溶射によって形成してもよい。そして、トップコート層9を形成する工程S20では、ボンドコート層7を形成する工程S10で使用した移動装置50によって、ボンドコート層7を形成する工程S10で使用した溶射ガン30を移動させながらトップコート層9を形成してもよい。
すなわち、図4Bに示す他の実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法では、ボンドコート層7を形成する工程S10とトップコート層9を形成する工程S20とで、使用する溶射ガン30(移動装置50に取り付ける溶射ガン30)を交換せず、同一の溶射ガン30でボンドコート層7を形成する工程S10とトップコート層9を形成する工程S20とを実施する。
【0029】
図4Bに示す他の実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法よれば、ボンドコート層7を形成後、トップコート層9の形成を開始する前に、後述するように、例えばボンドコート層7の溶射材TMを供給するための供給部35をトップコート層9の溶射材TMを供給するための供給部35に変更すれば、移動装置50及び溶射ガン30は変更しなくてもよい。これにより、ボンドコート層7を形成後にトップコート層9の形成を開始するまでの段取り作業を簡素化できる。
【0030】
なお、ボンドコート層7とトップコート層9とでは溶射材が異なる他、溶射材の供給形態が、粉末のままであるか、懸濁液であるのかの違いがある。そのため、図4Bに示す他の実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法では、溶射ガン30として、例えば、図5Bに示すような、溶射材TMを溶射ガン30の外部で供給するように構成された外部供給式の溶射ガン30Eを用いるとよい。そして、外部供給式の溶射ガン30Eの外部に取り付けられた、溶射材TMを燃焼炎ジェット流CFに供給するための供給部35を、ボンドコート層7を形成する工程S10とトップコート層9を形成する工程とで交換するとよい。すなわち、図4Bに示す他の実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法では、ボンドコート層7を形成する工程S10と、トップコート層9を形成する工程S20とでは、溶射ガン30で溶射する溶射材TMの供給部35を変更するとよい。
【0031】
具体的には、図4Bに示す他の実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法では、ボンドコート層7を形成する工程S10を実施する場合、外部供給式の溶射ガン30Eにボンドコート層7の溶射材TMを供給するための第1供給部35Aを取り付けるとよい。また、トップコート層9を形成する工程S20を実施する場合、外部供給式の溶射ガン30Eにトップコート層9の溶射材TMを供給するための第2供給部35Bを取り付けるとよい。
これにより、ボンドコート層7を形成する工程S10とトップコート層9を形成する工程とを同一の溶射ブース20内で実施できる。
なお、第1供給部35A及び第2供給部35Bは、それぞれ溶射材TMを第1供給部35A及び第2供給部35Bに供給するための不図示の供給装置に接続されている。
【0032】
図4Bに示す他の実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法によれば、ボンドコート層7を形成後、トップコート層9の形成を開始する前に、第1供給部35Aを第2供給部35Bに変更すれば、移動装置50及び溶射ガン30は変更しなくてもよいので、ボンドコート層7を形成後にトップコート層9の形成を開始するまでの段取り作業を簡素化できる。
【0033】
図4Cに示すように、さらに他の実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法において、ボンドコート層7を形成する工程S10では、第1移動装置50Aで第1溶射ガン30Aを移動させながらボンドコート層7を高速フレーム溶射によって形成してもよい。そして、トップコート層9を形成する工程S20では、第1移動装置50Aとは異なる第2移動装置50Bで第1溶射ガン30Aとは異なる第2溶射ガン30Bを移動させながらトップコート層9を形成してもよい。
図4Cに示すさらに他の実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法では、ボンドコート層7を形成する工程S10とトップコート層9を形成する工程とで、使用する溶射ガン30及び移動装置50を交代する。これにより、ボンドコート層7を形成する工程S10とトップコート層9を形成する工程とを同一の溶射ブース20内で実施できる。
【0034】
図4Cに示すさらに他の実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法によれば、ボンドコート層7を形成するための装置として、第1移動装置50Aと第1溶射ガン30Aとを用い、トップコート層9を形成するための装置として、第2移動装置50Bと第2溶射ガン30Bとを用いることで、ボンドコート層7を形成後、トップコート層9の形成を開始するまでの段取り作業において、溶射ガン30の交換作業や供給部35の交換作業等を省略できる。
【0035】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0036】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法は、溶射ブース20内に配置された対象物(耐熱部材1)の耐熱合金基材5上に該溶射ブース20内に配置された溶射ガン30によって、ボンドコート層7を高速フレーム溶射によって形成する工程(S10)を備える。本開示の少なくとも一実施形態に係る遮熱コーティングの施工方法は、該溶射ブース20内に配置された上記対象物(耐熱部材1)のボンドコート層7上に該溶射ブース20内に配置された溶射ガン30によって、セラミックス粉末を含む懸濁液を高速フレーム溶射によって溶射することでトップコート層9を形成する工程(S20)を備える。
【0037】
上記(1)の方法によれば、ボンドコート層7の形成後に対象物(耐熱部材1)を他の溶射ブースに移動させなくてもよいので、溶射の対象物(耐熱部材1)を異なる溶射ブースに移動させる手間が不要となり、懸濁液による高速フレーム溶射による溶射開始までの対象物(耐熱部材1)のセッティング等の段取り作業が大幅に削減できるので、遮熱コーティング3を形成する際の作業効率が向上し、製造コストを削減できる。
また、上記(1)の方法によれば、電子ビーム物理蒸着によってボンドコート層7上にトップコート層9を形成した場合と比べて、低いランニングコストで、且つ、より短時間でトップコート層9を形成できる。また、上記(1)の方法によれば、トップコート層9を形成するための設備の導入コストも大幅に抑制できる。
【0038】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、ボンドコート層7を高速フレーム溶射によって形成する工程(S10)では、第1移動装置50Aで第1溶射ガン30Aを移動させながらボンドコート層7を高速フレーム溶射によって形成してもよい。そして、トップコート層9を形成する工程(S20)では、第1移動装置50Aとは異なる第2移動装置50Bで第1溶射ガン30Aとは異なる第2溶射ガン30Bを移動させながらトップコート層9を形成してもよい。
【0039】
上記(2)の方法によれば、ボンドコート層7を形成するための装置として、第1移動装置50Aと第1溶射ガン30Aとを用い、トップコート層9を形成するための装置として、第2移動装置50Bと第2溶射ガン30Bとを用いることで、ボンドコート層7を形成後、トップコート層9の形成を開始するまでの段取り作業において、溶射ガン30の交換作業や供給部35の交換作業等を省略できる。
【0040】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、ボンドコート層7を高速フレーム溶射によって形成する工程(S10)では、移動装置50で第1溶射ガン30Aを移動させながらボンドコート層7を高速フレーム溶射によって形成してもよい。そして、トップコート層9を形成する工程(S20)では、該移動装置50で第1溶射ガン30Aとは異なる第2溶射ガン30Bを移動させながらトップコート層9を形成してもよい。
【0041】
上記(3)の方法によれば、ボンドコート層7を形成後、トップコート層9の形成を開始する前に移動装置50に装着する溶射ガン30を第1溶射ガン30Aから第2溶射ガン30Bに変更すれば、移動装置50は変更しなくてもよいので、ボンドコート層7を形成後にトップコート層9の形成を開始するまでの段取り作業を簡素化できる。
【0042】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、ボンドコート層7を高速フレーム溶射によって形成する工程(S10)では、移動装置50で溶射ガン30を移動させながらボンドコート層7を高速フレーム溶射によって形成してもよい。そして、トップコート層9を形成する工程(S20)では、該移動装置50で該溶射ガン30を移動させながらトップコート層9を形成してもよい。
【0043】
上記(4)の方法によれば、ボンドコート層7を形成後、トップコート層9の形成を開始する前に、例えばボンドコート層7の溶射材TMを供給するための供給部35をトップコート層9の溶射材TMを供給するための供給部35に変更すれば、移動装置50及び溶射ガン30は変更しなくてもよいので、ボンドコート層7を形成後にトップコート層9の形成を開始するまでの段取り作業を簡素化できる。
【0044】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)の方法において、ボンドコート層7を高速フレーム溶射によって形成する工程(S10)と、トップコート層9を形成する工程(S20)とでは、溶射ガン30で溶射する溶射材TMの供給部35を変更するとよい。
【0045】
上記(5)の方法によれば、ボンドコート層7を形成後、トップコート層9の形成を開始する前に、ボンドコート層7形成用の溶射材TMの供給部(第1供給部35A)をトップコート層9形成用の溶射材TMの供給部(第2供給部35B)に変更すれば、移動装置50及び溶射ガン30は変更しなくてもよいので、ボンドコート層7を形成後にトップコート層9の形成を開始するまでの段取り作業を簡素化できる。
【0046】
(6)本開示の少なくとも一実施形態に係る耐熱部材1は、上記(1)乃至(5)の何れかの方法による遮熱コーティングの施工方法によって形成されたボンドコート層7とトップコート層9とを有する。
【0047】
上記(6)の構成によれば、耐熱部材1の製造コストを抑制できる。
【符号の説明】
【0048】
1 耐熱部材
3 遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating : TBC)
5 耐熱合金基材(母材)
7 金属結合層(ボンドコート層)
9 トップコート層
20 溶射ブース
30 溶射ガン
35 供給部
50 移動装置
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B