(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103683
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】シリカ系中空粒子及びその製造方法、並びに樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20220701BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220701BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
C08L101/00
C08K3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218461
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】江上 美紀
(72)【発明者】
【氏名】谷口 正展
(72)【発明者】
【氏名】荒金 宏忠
(72)【発明者】
【氏名】榎本 直幸
(72)【発明者】
【氏名】村口 良
【テーマコード(参考)】
4G072
4J002
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072BB05
4G072BB16
4G072DD04
4G072DD05
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH21
4G072LL06
4G072MM24
4G072MM26
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4G072RR01
4G072RR11
4G072TT01
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4G072TT04
4G072UU09
4J002AA001
4J002CD001
4J002DJ016
4J002FD016
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】絶縁材料の低誘電率化及び低誘電正接化を可能とし、製造プロセスでの絶縁材料形成用液の濾過性及び注入性を妨げないシリカ系粒子、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】無孔質の外殻の内部に空洞を有し、平均粒子径(D50)が0.1~10μmの中空粒子であって、水に懸濁した際、浮遊粒子aが0.5~7.0質量%、懸濁粒子bが0~4.0質量%、沈降粒子cが89.0~99.5質量%であるシリカ系中空粒子、及びその製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無孔質の外殻の内部に空洞を有し、平均粒子径(D50)が0.1~10μmのシリカ系中空粒子であって、
水に懸濁した際、浮遊粒子が0.5~7.0質量%、懸濁粒子が0~4.0質量%、沈降粒子が89.0~99.5質量%であることを特徴とするシリカ系中空粒子。
【請求項2】
粒子径8.0μmを超える粗大粒子の含有量が、10体積%以下であることを特徴とする請求項1記載のシリカ系中空粒子。
【請求項3】
請求項1又は2記載のシリカ系中空粒子を含むことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項4】
珪酸アルカリ水溶液を熱風気流中で噴霧乾燥して中空粒子を調製する中空粒子調製工程と、
前記調製された中空粒子に含まれるアルカリを酸で中和して除去するアルカリ除去工程と、
前記アルカリ除去された中空粒子を焼成する焼成工程と、
を有するシリカ系中空粒子の製造方法であって、
前記中空粒子調製工程と前記焼成工程の間に、中空粒子を分級して粗大粒子を除去する分級工程を有することを特徴とするシリカ系中空粒子の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ除去工程において、中空粒子に含まれるアルカリ量を200ppm以下に低減することを特徴とする請求項4記載のシリカ系中空粒子の製造方法。
【請求項6】
前記分級工程が、アルカリ除去された中空粒子を乾燥した後に行われることを特徴とする請求項4又は5記載のシリカ系中空粒子の製造方法。
【請求項7】
前記分級工程の分級処理が、乾式分級処理であることを特徴とする請求項4~6のいずれか一項に記載のシリカ系中空粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の絶縁材料のフィラーとして有用なシリカ系中空粒子及びその製造方法、並びに樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信におけるデータ通信の大容量化が進んでおり、通信機器の高速処理が求められている。このような通信機器に使用される半導体のプリント配線板における絶縁材料は、高速通信を実現するために、低誘電率化(低Dk化)、及び低誘電正接化(低Df化)が求められている。絶縁材料の誘電率が高いと誘電損失に繋がり、また、絶縁材料の誘電正接が高いと、誘電損失に繋がるだけでなく、発熱量の増大などの問題が生じることがある。
【0003】
このような半導体のプリント配線板における絶縁材料においては、低誘電率化、及び低誘電正接化を実現すべく、絶縁材料の主体となる樹脂材料の開発が行われている。このような樹脂材料としては、例えば、エポキシ系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、フッ素系樹脂等が提案されている(例えば、特許文献1~5参照)。
【0004】
一方、このような樹脂材料には、耐久性(剛性)や耐熱性等の点から、フィラーが配合される。このフィラーとしては、シリカ、窒化ホウ素、タルク、カオリン、クレー、マイカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物が用いられている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2009/041137号
【特許文献2】特表2006-516297号公報
【特許文献3】特開2017-057352号公報
【特許文献4】特開2001-288227号公報
【特許文献5】特開2019-172962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記半導体の絶縁材料に含まれるフィラーの中でも、シリカは、低誘電率及び低誘電正接の点で優れている。しかしながら、データ通信の大容量化及び高速処理化が急速に進む今日においては、さらなる低誘電率化、及び低誘電正接化が求められている。また、半導体の絶縁材料のフィラーは、絶縁材料の製造プロセスでの絶縁材料形成用液の濾過性や注入性を妨げないことも重要である。
【0007】
本発明の課題は、絶縁材料の低誘電率化及び低誘電正接化を可能とし、製造プロセスでの絶縁材料形成用液の濾過性及び注入性を妨げないシリカ系粒子、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、データ通信の大容量化及び高速処理化が急速に進む中、半導体の絶縁材料のフィラーとして有用なシリカ粒子について鋭意研究した結果、粗大粒子を含まない所定条件を満たすシリカ系中空粒子が、絶縁材料の低誘電率化及び低誘電正接化を実現でき、また、その製造プロセスにおける絶縁材料形成用液の濾過性及び注入性を妨げないことを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、無孔質の外殻の内部に空洞を有し、平均粒子径(D50)が0.1~10μmのシリカ系中空粒子であって、水に懸濁した際、浮遊粒子aが0.5~7.0質量%、懸濁粒子bが0~4.0質量%、沈降粒子cが89.0~99.5質量%であることを特徴とするシリカ系中空粒子に関する。
【0010】
また、本発明は、珪酸アルカリ水溶液を熱風気流中で噴霧乾燥して中空粒子を調製する中空粒子調製工程と、調製された中空粒子に含まれるアルカリを酸で中和して除去するアルカリ除去工程と、アルカリ除去された中空粒子を焼成する焼成工程とを有するシリカ系中空粒子の製造方法であって、中空粒子調製工程と焼成工程の間に、中空粒子を分級して粗大粒子を除去する分級工程を有することを特徴とするシリカ系中空粒子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシリカ系中空粒子は、絶縁材料の低誘電率化及び低誘電正接化を実現でき、ひいては、半導体の伝送速度の高速化や伝送損失の低減を図ることができる。また、本発明のシリカ系中空粒子は、その製造プロセスにおける絶縁材料形成用液の濾過性及び注入性を妨げないものであり、優れた絶縁材料を安定して製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[シリカ系中空粒子]
本発明のシリカ系中空粒子は、無孔質の外殻の内部に空洞を有し、平均粒子径が0.1~10μmである。このシリカ系中空粒子を水に懸濁させたとき、浮遊粒子が0.5~7.0質量%、懸濁粒子が0~4.0質量%、沈降粒子が89.0~99.5質量%である。
【0013】
ここで、シリカ系とは、シリカを主成分とすることを意味し、シリカの他、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の無機酸化物を含んでいてもよい。粒子中のシリカの含有量としては、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、実質的にシリカのみからなることが特に好ましい。
【0014】
本発明の粒子は、無孔質の外殻の内部に空洞を有する中空の粒子であり、かつ、水に懸濁した際に浮遊する比重の軽い浮遊粒子(空隙率の高い粒子)を含んでいる。そのため、樹脂組成物に配合した場合に低誘電率化及び低誘電正接化が実現する。また、空隙率の高い中空粒子は、一般的に粒子径が大きいため、この浮遊粒子の量を粒子全体の0.5~7.0質量%に制御することは、粗大粒子の量を制御する(低減する)ことになる。そのため、絶縁材料等の樹脂組成物の製造プロセスにおける樹脂組成物形成用液の濾過性や注入性が向上し、成型後の表面平滑性の向上を図ることができる。このとき、粒子径8.0μmを超える粗大粒子の含有量が、10体積%以下が好ましく、5体積%以下がより好ましく、1体積%以下がさらに好ましい。
【0015】
なお、水に浮遊する比重の軽い粒子は、粒子径に対する外殻の厚みの比率が小さいため、粒子強度が低い傾向にある。そのため、絶縁材料等の樹脂組成物の製造時に、粒子が割れる恐れがある。この粒子の割れの発生は、低誘電率化及び低誘電正接化の妨げとなると共に、樹脂組成物形成用液の流動性を悪化させて、樹脂組成物(成型物)の均一性を低下させたり、樹脂組成物の内部にボイドを生じさせたりする要因となる。浮遊粒子の量を制御することで、粒子の割れを抑制できる。
【0016】
本発明では、特に浮遊粒子の量が制御されていることから、空隙率が高い粒子のもつ好ましい特性(特に低誘電率化及び低誘電正接化)を確保しつつ、空隙率の高い粒子のもつ好ましくない特性(特に割れの発生)が問題のない程度に抑制される。また、浮遊粒子は、空隙率が高くとも小径の粒子が存在しており、このような粒子は、製造プロセスにおいて、大径粒子に比べて割れが生じにくく、全体として、空隙率の高い粒子のもつ好ましくない特性を極力抑えることができる。
【0017】
浮遊粒子の含有量は、1.0~5.0質量%が好ましく、1.0質量~4.0質量%がより好ましく、2.0~4.0質量%がさらに好ましい。また、沈降粒子の含有量は、91.0~99.5質量%が好ましく、92.0~99.0質量%がより好ましく、95.0~98.0質量%がさらに好ましい。
【0018】
水に懸濁した際の浮遊粒子、懸濁粒子及び沈降粒子の割合は、懸濁液からそれぞれの粒子を回収して計量し、その割合を算出する。具体的には、実施例で説明する。
【0019】
また、本発明のシリカ系中空粒子の平均粒子径(D50)は、0.1~10μmの範囲にある。平均粒子径が0.1μm未満のものは、噴霧乾燥法を用いて製造することが困難である。また、平均粒子径が10μmを超えるシリカ系粒子は、半導体用途としては不向きである。半導体用途であることを考慮すると、平均粒子径は、0.5~10μmが好ましく、1.0~5.0μmがより好ましい。
【0020】
また、最大粒子径(D100)は50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましい。最大粒子径(D100)は、平均粒子径(D50)の10倍以下が好ましく、8倍以下が好ましい。通常は、2倍以上であり、本発明の要件を満たす限り、5倍を超えてもよい。
【0021】
平均粒子径(D50)、最大粒子径(D100)及び粗大粒子の含有量は、レーザー回折・散乱法により測定する。具体的には、実施例で説明する。
【0022】
本発明のシリカ系中空粒子の空隙率は、5体積%以上が好ましく、8体積%以上がより好ましく、10体積%以上がさらに好ましい。上限側は、50体積%以下が好ましく、35体積%以下がより好ましく、25体積%以下がさらに好ましく、20体積%以下が最も好ましい。このような空隙率により、低誘電率化及び低誘電正接化を図ることができると共に、粒子強度を所定以上に保持して粒子の割れを効果的に抑制することができる。ここで、空隙率は、粒子密度から算出する。具体的には、実施例で説明する。
【0023】
本発明のシリカ系中空粒子は、半導体等の電子材料の絶縁材料のフィラーとして用いることが好適である。具体的には、プリント配線板(リジッド基板及びフレキシブル基板を含む)を形成するための銅張積層板、プリプレグ、ビルドアップフィルム等に配合することができる。また、モールド樹脂、モールドアンダーフィル、アンダーフィル等の半導体パッケージ関連材料や、フレキシブル基板用接着剤等に配合することができる。
【0024】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物には、上述した本発明のシリカ系中空粒子が配合されている。このような樹脂組成物は、半導体等の電子材料の絶縁材料等、上述したシリカ系中空粒子の用途に用いることができる。
【0025】
本発明の樹脂組成物(樹脂組成物形成用液)に含まれる樹脂として、一般に半導体等の電子材料に使用されている硬化性樹脂を使用することができる。光硬化樹脂でもよいが、熱硬化樹脂が好ましい。このような硬化性樹脂として、エポキシ系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂、ビスマレイミド系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、BTレジン、シアネート系樹脂等を挙げることができる。エポキシ系樹脂として、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、トリフェノールアルカン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂等を具体的に例示することができる。これらの樹脂は、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0026】
本発明の樹脂組成物(樹脂組成物形成用液)中のシリカ系中空粒子の含有量としては、シリカ系中空粒子Aと硬化性樹脂Bの質量比(A/B)が、10/100~95/100が好ましく、30/100~80/100がより好ましい。このような質量比により、流動性等の樹脂組成物形成用液の特性を維持しつつ、フィラーとしての機能を十分に発揮することができる。
【0027】
本発明の樹脂組成物(樹脂組成物形成用液)は、フェノール化合物、アミン化合物、酸無水物等の硬化剤を含むことが好ましい。硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、硬化剤としては、1分子中にフェノール性水酸基を2個以上有する、ビスフェノール型樹脂、ノボラック樹脂、トリフェノールアルカン型樹脂、レゾール型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、ナフタレン型フェノール樹脂、シクロペンタジエン型フェノール樹脂等のフェノール樹脂や、メチルヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、無水メチルナジック酸等の酸無水物を挙げることができる。
【0028】
樹脂組成物(樹脂組成物形成用液)には、必要に応じて、着色剤、応力緩和剤、消泡剤、レベリング剤、カップリング剤、難燃剤、硬化促進剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、従来公知の方法で得ることができる。例えば、熱硬化性樹脂、シリカ系中空粒子、硬化剤、添加剤等を混合し、ロールミルなどで混練して塗布液(樹脂組成物形成用液)を調製し、基体に塗布後、熱、紫外線等により硬化させることにより得ることができる。
【0030】
[シリカ系粒子の製造方法]
本発明のシリカ系中空粒子の製造方法は、珪酸アルカリ水溶液を熱風気流中で噴霧乾燥して中空粒子を調製する中空粒子調製工程と、調製された中空粒子に含まれるアルカリを酸で中和して除去するアルカリ除去工程と、アルカリ除去された中空粒子を焼成する焼成工程とを有し、中空粒子調製工程と焼成工程の間に、中空粒子を分級して粗大粒子を除去する分級工程が設けられている。なお、各工程の間に、乾燥工程等の他の工程を有していてもよい。
【0031】
本発明の製造方法により、例えば、上記のような本発明のシリカ系中空粒子を製造することができる。すなわち、本発明の製造方法によれば、絶縁材料の低誘電率化及び低誘電正接化が可能となり、また、その製造プロセスにおける絶縁材料形成用液の濾過性及び注入性を妨げないシリカ系粒子を製造することができる。
【0032】
また、通常、焼成粒子を製造する際に分級処理を行う場合には、最終粒子を整えるために、焼成後の最終段階で行うことが好ましいと考えられるが、本発明の製造方法においては、あえて焼成工程前に行う。分級処理を行わずに焼成工程を行うと、本来取り除かれるべき高空隙率の粗大粒子が存在してしまう。この高空隙率の粗大粒子は割れやすいため、加熱による収縮のストレスで割れるおそれがある。そして、この割れにより生じた破片は、粒子径が小さくなるため、その後の分級工程で取り除くことができず、また、空隙もない緻密なシリカであるため、低誘電率化・低誘電正接化の妨げとなる。本発明の製造方法のように、分級処理を焼成前に行うことにより、このような不都合は回避され、製造した粒子の低誘電率化・低誘電正接化をより確実に実現でき、近時のデータ通信の高速化に対応した粒子が得られる。
【0033】
(中空粒子調製工程)
中空粒子調製工程では、珪酸アルカリ水溶液を熱風気流中で噴霧乾燥して中空粒子を調製する。
【0034】
珪酸アルカリとして、通常、水に可溶の珪酸ナトリウム、珪酸カリウムが用いられるが、珪酸ナトリウムが好ましい。珪酸アルカリのSiO2/M2Oモル比(但し、Mはアルカリ金属を示す。)としては、1~5が好ましく、2~4がより好ましい。珪酸アルカリのSiO2/M2Oモル比が1未満の場合は、アルカリ量が多すぎるためにアルカリ除去工程における酸洗浄が困難となるだけでなく、噴霧乾燥品の潮解性が顕著となるために所望のシリカ系中空粒子が得られない場合がある。珪酸アルカリのSiO2/M2Oモル比が5を超えると、珪酸アルカリの可溶性が低下し、水溶液の調製が困難であり、水溶液を調製できたとしても、噴霧乾燥により所望のシリカ系中空粒子が得られない場合がある。
【0035】
珪酸アルカリ水溶液のSiO2としての濃度は、1~30質量%が好ましく、5~28質量%が好ましい。1質量%未満としても製造は可能であるが、生産性が著しく低下する。30質量%を超えると、珪酸アルカリ水溶液としての安定性が著しく低下して高粘性になり噴霧乾燥が困難となる場合があり、また噴霧乾燥できたとしても、粒子径分布、外殻の厚さ等が極めて不均一になるおそれがあり、最終的な粒子の用途が制限される場合がある。
【0036】
噴霧乾燥方法としては、例えば、回転ディスク法、加圧ノズル法、2流体ノズル法等の従来公知の方法を採用することができる。ここでは、2流体ノズル法が好適である。
【0037】
噴霧乾燥において、噴霧乾燥器における入口温度は、300~600℃が好ましく、350~550℃がより好ましい。また、出口温度は、120~300℃が好ましく、130~250℃がより好ましい。入口温度及び出口温度が上記範囲にあることにより、内部に空洞を有する中空粒子を安定して得ることができる。
【0038】
(アルカリ除去工程)
アルカリ除去工程では、調製された中空粒子に含まれるアルカリを酸で中和して除去する。
【0039】
酸としては、塩酸、硝酸、硫酸等の鉱酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸等の有機酸等を用いることができる。これらの中でも、塩酸、硝酸、硫酸等の鉱酸が好適に用いられ、価数の点から、硫酸が特に好ましい。
【0040】
本工程の処理としては、酸を用いた処理であれば特に制限されるものではなく、酸の溶液に、調製された中空粒子を浸漬する処理が好ましい。
【0041】
中空粒子を酸水溶液に浸漬する際の中空粒子中のM2Oモル数(Msp)と酸のモル数(Ma)とのモル比(Ma)/(Msp)は、0.6~4.7が好ましく、1~4.5が好ましい。このモル比が0.6未満の場合は、M2Oに対して酸の量が少なすぎるために、アルカリの除去とともに起きると考えられるケイ酸のシリカ骨格化が進行せず、中空粒子が部分的に溶解したり、溶解した珪酸アルカリがゲル化する場合がある。モル比が4.7を超えてもさらにシリカ骨格化が進むことはなく、酸が過剰であり経済的でない。
【0042】
また、酸水溶液に浸漬した際の中空粒子の濃度は、SiO2として1~30質量%が好ましく、5~25質量%が好ましい。1質量%未満の場合は、アルカリ除去や洗浄性に問題はないが、製造効率が低下する。30質量%を超えると、濃度が濃すぎてアルカリ除去、洗浄効率が低下する場合がある。
【0043】
酸水溶液への浸漬処理の条件としては、アルカリを所望の量まで除去できれば特に制限はなく、通常、処理温度が5~100℃であり、処理時間が0.5~24時間である。浸漬処理の後、従来公知の方法で洗浄することが好ましい。例えば、純水にて濾過洗浄すればよい。なお、必要に応じて、上記酸処理及び洗浄を繰り返し行ってもよい。
【0044】
アルカリ除去工程終了後のアルカリ(M)の残存量(質量割合)は、300ppm以下が好ましく、200ppm以下がより好ましく、100ppm以下がさらに好ましく、50ppm以下が特に好ましい。本工程で十分にアルカリを除去することにより、後の工程での粒子の合着を防止して、焼成工程での焼結粒子の発生を防ぐことができる。また、アルカリの残存量(含有量)は、誘電特性に影響を及ぼすことが知られている。本工程において十分にアルカリを除去することにより、原料に珪酸アリカリ水溶液を用いた場合でも、低誘電率化及び低誘電正接化を可能とするシリカ系中空粒子を得ることができる。
【0045】
なお、最終製品(シリカ系中空粒子)のアルカリ量も上述の範囲が好ましく、通常、最終製品のアルカリ量はアルカリ除去工程後のアルカリ量と同等になる。
【0046】
アルカリ残存量は、粒子を酸で溶解させたものを試料とし、原子吸光光度計を用いてNa又はKを測定する。珪酸ナトリウムを用いた場合はNaを測定し、珪酸カリウムを用いた場合はKを測定する。具体的には、実施例で説明する。
【0047】
(焼成工程)
焼成工程は、アルカリ除去された中空粒子を焼成する工程である。焼成温度は、600~1200℃が好ましく、900~1100℃が好ましい。焼成温度が600℃未満の場合は、SiOH基の残存量が多く、粒子の誘電正接が高くなり、樹脂に配合した場合にも、誘電正接低減効果が得られにくい。焼成温度が1200℃を超える場合は、中空粒子同士が焼結しやすく、異形状の粒子や、粗大粒子となるため、樹脂組成物形成用液の濾過性や、注入性が低下する原因となる。
【0048】
(分級工程)
分級工程では、中空粒子を分級して粗大粒子を除去する。この分級工程は、中空粒子調製工程と焼成工程の間で行われる。中空粒子調製後に分級処理を行う場合には、中空粒子が吸湿(潮解)して凝集・合着することを防止するために造粒後直ちに分級処理をする必要がある。したがって、実際の製造上は、分級処理は、アルカリ除去工程後に行うことが好ましい。また、アルカリ除去工程後に分級処理を行う場合、分級処理は、アルカリ除去処理に続けて行ってもよいし、アルカリ除去処理の後に乾燥処理を行った後に行ってもよい。本発明の効果をより享受するには、乾燥処理の後に行うことが好ましい。
【0049】
分級工程では、粒子径8.0μmを超える粗大粒子の量を10体積%以下とすることが好ましく、5体積%以下とすることがより好ましく、1体積%以下とすることがさらに好ましい。この分級工程により、本発明のシリカ系中空粒子の浮遊粒子割合を所定範囲に制御することができる。
【0050】
本発明の分級工程での分級とは、粉体の粒度を揃えることを目的に、粒子径によって粉体を分ける粒度分級を意味する。この粒度分級の操作としては、流体分級を挙げることができ、流体分級は乾式分級と湿式分級に分類することができる。湿式分級は、粒子を水に懸濁した状態で分級処理を行う必要があり、粒子表面にSiOH基が生じ、誘電特性に悪影響を及ぼすおそれがあるため、乾式分級が好ましい。
【0051】
乾式分級に用いられる分級機を原理的に分類すると、重力分級機、慣性分級機、遠心分級機に大別することができ、本発明の目的を達成できる範囲でいずれの分級機を用いてもよいが、より精密な分級が可能な点から、粒子の慣性力を利用して分級する慣性分級機や、遠心分級機を用いることが好ましい。特に、本発明の中空粒子は軽く、粒子に遠心力が掛かりにくいため、そのような粒子でも特性を発揮する分級機が好ましい。このような分級機としては、例えば、日鉄鉱業株式会社製エルボージェット、日本スリーエム株式会社製SGセパレーター、日清エンジニアリング株式会社製エアロファインクラシファイア、日本ニューマチック工業株式会社マイクロスピン等を挙げることができる。これらの中でも、軽い中空粒子を精密に分級できることから、日鉄鉱業株式会社製エルボージェット、日清エンジニアリング株式会社製エアロファインクラシファイアが好ましい。
【0052】
(乾燥工程)
本発明の製造方法においては、適宜、乾燥工程を設けることができる。乾燥工程は、例えば、アルカリ除去工程と分級工程の間や、分級工程と焼成工程の間や、その両方に設けることができる。必要に応じて複数回設けてもよい。
【0053】
乾燥方法としては、加熱乾燥が好ましい。乾燥温度は、50~400℃が好ましく、50~200℃がより好ましい。具体的には、50~200℃程度の低温で時間をかけて乾燥させる方法や、温度を徐々に上昇させて乾燥させる方法や、温度を何段階かに分けて変更して乾燥させる方法を挙げることができる。
【0054】
(篩分け工程)
乾燥工程及び/又は焼成工程後に粒子塊を篩分けする篩分け工程を設けることが好ましい。なお、粒子塊とは、例えば、粒径が50μmを超えるような異物をいい、本工程では、このような粒子塊を取り除けるような目開き(メッシュ数)の篩を適宜用いる。
【実施例0055】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0056】
[実施例1]
水ガラス水溶液(SiO2/Na2Oモル比3.2、SiO2濃度24質量%)30000gを用い、2流体ノズルの一方に0.62kg/hrの流量で、他方のノズルに空気を31800L/hr(空/液体積比63600)の流量で、入口温度400℃の熱風に噴霧してシリカ中空粒子を得た。この時、出口温度は150℃であった(中空粒子調製工程)。
【0057】
ついで、シリカ中空粒子5000gを濃度10質量%の硫酸水溶液32000gに浸漬して15時間撹拌した。この時、固形分(SiO2)濃度は10.2質量%、分散液の温度は35℃、pHは3.0であった。また、酸のモル数(Ma)とのモル比(Ma)/(Msp)は1.2であった。浸漬処理後、純水にて濾過洗浄を行った(アルカリ除去工程)。
【0058】
ついで、乾燥機にて、120℃で24時間乾燥処理した(乾燥工程)。乾燥後、解砕して目開き75μmの篩にかけて粗大粒子を除去した。
【0059】
ついで、自社製サイクロンを用いて、粉体輸送ラインの流速を5m/sとして、乾式遠心分級処理を行った(分級工程)。サイクロンに捕集されずに通過した粒子をバグフィルターで回収した。
【0060】
最後に、分級した粒子を1000℃で10時間加熱処理することで目的の実施例に係るシリカ系中空粒子(A1)を得た(焼成工程)。なお、焼成後、目開き150μmの篩で粒子塊(異物)を取り除いた。
【0061】
また、製造したシリカ系中空粒子(A1)を、新日本理化株式会社製液状酸無水物「リカシッドMH700」、四国化成株式会社製イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤「2PHZ-PW」と共に、日鉄ケミカル&マテリアル社製液状エポキシ樹脂「ZX-1059」に配合して、遊星ミルで予備混錬後、三本ロールで混練し、樹脂組成物形成用液を調製した。なお、「ZX-1059」が100質量部、「リカシッドMH700」が86質量部、「2PHZ-PWが1質量部の割合で配合した。また、シリカ系中空粒子(A1)は、樹脂組成物中の割合が35体積%になるように配合した。この調製した樹脂組成物形成用液を170℃で2時間加熱して硬化し、50mm×50mm×1mmの実施例に係る板状樹脂組成物(A1R)を得た。
【0062】
[実施例2]
分級工程以外は、実施例1と同様に行い、実施例に係るシリカ系中空粒子(A2)及び板状樹脂組成物(A2R)を製造した。分級工程では、日鉄鉱業株式会社製エルボージェット(EJ-15)を用いて乾式慣性分級処理を行った。この装置では、分級によって、粉をF粉(微粉)、M粉(細粉)、G粉(粗粉)の3種類に分けることができるが、この内の、F粉(微粉)に含まれる8.0μmを超える粗大粒子が5体積%以下となるようにFエッジ距離を調整し、バグフィルターにて回収し、以降の工程に用いた。
【0063】
[実施例3]
実施例2において、分級工程で、F粉(微粉)に含まれる8.0μmを超える粗大粒子が1体積%以下となるようにFエッジ距離を調整したこと以外は同様にして、実施例に係るシリカ系中空粒子(A3)及び板状樹脂組成物(A3R)を製造した。
【0064】
[実施例4]
実施例1において、分級工程で、日清エンジニアリング株式会社製エアロファインクラシファイアを用いて乾式遠心(半自由渦)分級処理を行ったこと以外は同様にして、実施例に係るシリカ系中空粒子(A4)及び板状樹脂組成物(A4R)を製造した。分級は、回収粉に含まれる8.0μmを超える粗大粒子が1体積%以下となるように、羽根の角度等を調整して行った。
【0065】
[比較例1]
実施例1において、アルカリ除去工程で、浸漬撹拌時間を15時間から1.5時間に変更し、分級処理(分級工程)を行わないこと以外は同様にして、比較例に係るシリカ系中空粒子(B1)及び板状樹脂組成物(B1R)を製造した。
【0066】
[比較例2]
実施例1において、中空粒子調製工程において、噴霧乾燥器の入口温度を250℃とし、分級工程を行わなかったこと以外は同様にして、比較例に係るシリカ系中空粒子(B2)及び板状樹脂組成物(B2R)を製造した。
【0067】
[比較例3]
実施例1において、分級工程を焼成工程後に行った以外は同様にして(分級条件も同じにして)、比較例に係るシリカ系中空粒子(B3)及び板状樹脂組成物(B3R)を製造した。
【0068】
上記製造した実施例及び比較例に係るシリカ系中空粒子及び樹脂組成物について、その特性を評価した。各評価は以下のように行った。
【0069】
(1)シリカ系中空粒子の平均粒子径(D50)、最大粒子径(D100)、及び粗大粒子量
レーザー回折・散乱法により測定した。
具体的に、装置は、株式会社セイシン企業社製レーザーマイクロンサイザー(LMS-3000)を用い、乾式で測定した。
粗大粒子量は、8.0μmを超える粒子の体積比率として算出した。
【0070】
(2)シリカ系中空粒子のNa残存量
原子吸光分析法により測定した。
具体的に、Na残存量は、シリカ系中空粒子を硫酸・弗化水素酸で前処理した後、塩酸に溶解させ、原子吸光光度計(日立製Z-2310)を用いてNa量を測定した。
【0071】
(3)シリカ系中空粒子の粒子密度
ガスピクノメーター法により測定した。
具体的に、粒子密度は、Quantachrome Instruments社製Ultrapyc1200eを用いて、測定した。ガスは窒素ガスを用いた。
【0072】
(4)シリカ系中空粒子の空隙率
上記粒子密度から算出した。
具体的に、空隙率は、シリカの密度=2.2g/cm3を用い、下記式(1)を用いて算出した。
空隙率(%)=[2.2-(シリカ系中空粒子の粒子密度)]/2.2×100・・・式(1)
【0073】
(5)シリカ系中空粒子の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)
空洞共振器摂動法により測定した。
具体的に、シリカ系粒子の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)は、ネットワークアナライザー(アンリツ社製、MS46122B)と空洞共振器(1GHz)を用いて測定した。この測定はASTMD2520(JIS C2565)に準拠して行った。
【0074】
(6)水に懸濁した際の浮遊粒子a、懸濁粒子b及び沈降粒子cの割合
懸濁液からそれぞれの粒子を回収して計量し、その割合を算出した。
具体的には、まず、0.5質量%となるようにシリカ系中空粒子と水を混合し、10分間の超音波処理を行うことにより分散液を調製した。この分散液を25℃にて24時間静置した後、浮遊粒子a、懸濁粒子b及び沈降粒子cをそれぞれ回収した。続いて、各粒子を105℃で24時間乾燥した後に計量し、その割合を算出した。
【0075】
(7)樹脂組成物形成用液の濾過性
ロキテクノ社製フィルター(SHPタイプ:30μm)を用い、フィルター目詰まりまでの単位面積あたりの通液量で評価した。
【0076】
評価基準は、以下の通りである。
◎:≧1g/cm2
〇:0.5g/cm2以上1.0g/cm2未満
△:0.3g/cm2以上0.5g/cm2未満
×:<0.3g/cm2
【0077】
(8)樹脂組成物形成用液の注入性
20μmのギャップを有するガラス板間に対する注入を行い、25mm充填するのに要する時間で評価した。
【0078】
評価基準は、以下の通りである。
◎:200秒以内
〇:200秒を超えて400秒以内
△:400秒を超えて600秒以内
×:600秒超え
【0079】
(9)樹脂組成物の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)
50mm×50mm×1mmの板状成型体(樹脂組成物)の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)は、ネットワークアナライザー(アンリツ社製、MS46122B)と同軸共振器を用いて、9.4GHzで測定した。
【0080】
評価は、シリカ系中空粒子(フィラー)を配合していない樹脂組成物との比較で行った。評価基準は、以下の通りである。
【0081】
誘電率(Dk)の低減率(%)=(フィラー添加なしの誘電率-フィラー添加ありの誘電率)/フィラー添加なしの誘電率×100
【0082】
〇:低減率>0
△:低減率=0
×:低減率<0
【0083】
誘電正接(Df)の低減率(%)=(フィラー添加なしの誘電正接-フィラー添加ありの誘電正接)/フィラー添加なしの誘電正接×100
【0084】
◎:低減率50%以上
〇:低減率30%以上50%未満
△:低減率20%以上30%未満
×:低減率20%未満
【0085】
以上の結果を表1に示す。
【0086】
【0087】
表1に示すように、実施例に係るシリカ系中空粒子及びこれを配合した樹脂組成物は、低誘電率化及び低誘電正接化が図られる。また、実施例に係るシリカ系中空粒子を配合した樹脂組成物形成用液は、濾過性及び注入性にも優れている。