(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103708
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】抗原結合分子、核酸組成物、ベクター組成物、細胞およびBacteroides doreiの精製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220701BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220701BHJP
C07K 16/12 20060101ALI20220701BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220701BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220701BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220701BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220701BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C07K16/12
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N1/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218501
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110002790
【氏名又は名称】One ip特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中藤 学
(72)【発明者】
【氏名】井上 浄
(72)【発明者】
【氏名】井上 ひかる
(72)【発明者】
【氏名】福田 真嗣
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BA30
4B065CA25
4B065CA46
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA15
(57)【要約】
【課題】Bacteroides doreiを分離可能とすること。
【解決手段】本発明は、抗原結合分子であって、Bacteroides doreiに結合する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bacteroides doreiに結合することを特徴とする、抗原結合分子。
【請求項2】
他のBacteroides属に属する細菌に結合しないこと、
を特徴とする、請求項1に記載の抗原結合分子。
【請求項3】
前記他のBacteroides属は、Bacteroides ovatus、Bacteroides stercoris、Bacteroides thetaiotaomicron、Bacteroides uniformis、Bacteroides vulgatusであること、
を特徴とする、請求項2に記載の抗原結合分子。
【請求項4】
前記抗原結合分子は、抗体、抗体断片またはペプチドであり、
アミノ酸配列として、配列番号3から8のいずれかに記載のアミノ酸配列、または配列番号3から8のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の抗原結合分子。
【請求項5】
前記抗原結合分子は、抗体または抗体断片であり、
重鎖のアミノ酸配列として配列番号3から5のいずれかに記載のアミノ酸、または配列番号3から5のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
軽鎖のアミノ酸配列として配列番号6から8のいずれかに記載のアミノ酸配列、または配列番号6から8のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
を含むことを特徴とする、請求項4に記載の抗原結合分子。
【請求項6】
配列番号3のアミノ酸配列、または配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むVHCDR1領域と、
配列番号4のアミノ酸配列、または配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むVHCDR2領域と、
配列番号5のアミノ酸配列、または配列番号5に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むVHCDR3領域と、
配列番号6のアミノ酸配列、または配列番号6に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むVLCDR1領域と、
配列番号7のアミノ酸配列、または配列番号7に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むVLCDR2領域と、
配列番号8のアミノ酸配列、または配列番号8に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むVLCDR3領域と、
を含むことを特徴とする、請求項5に記載の抗原結合分子。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の抗原結合分子をコードする核酸配列、または複数の核酸配列を含むことを特徴とする、核酸組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸配列、または複数の核酸配列を含むベクター組成物、または複数のベクターを含むことを特徴とする、ベクター組成物。
【請求項9】
請求項8に記載のベクター組成物を含むことを特徴とする、細胞。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか一項に記載の抗原結合分子を用いて、Bacteroides doreiを含む試料からBacteroides doreiを単離する、Bacteroides doreiの精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原結合分子、核酸組成物、ベクター組成物、細胞およびBacteroides doreiの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの腸管、主に大腸には約1000種類、40兆個にも及ぶ腸内細菌(腸内細菌叢(そう)や腸内フローラとよばれる)が生息しているといわれている。ヒトの腸内細菌は、互いに密接な関係を持ちながら複雑にバランスをとっており、個人によって極めて多様で異なり、更に食事・在住国などの要因によっても異なることが知られている。
【0003】
ヒトの下部消化管に存在する腸内細菌として、Bacteroides属が知られている。Bacteroides属に対する抗原結合分子として、例えば、Bacteroides thetaiotaomicronに対する抗体(例えば、非特許文献1)、Bacteroides fragilisの構成成分に対する抗体作製報告例がある(例えば、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】インターネット<URL:https://www.funakoshi.co.jp/contents/132358>
【非特許文献2】J Clin Microbiol. 1984 Sep; 20(3): 519-524. , PLoS One. 2017; 12(3): e0173128.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Bacteroides属を含む細菌集団から、標的とする所定のBacteroides種を分離することが望まれている。
【0006】
本発明の目的は、B.doreiを分離可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の主たる発明は、抗原結合分子であって、Bacteroides doreiに結合する。
【0008】
その他本願が開示する課題やその解決方法については、発明の実施形態の欄および図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、B.doreiのみが分離可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本抗原結合分子の交差性の有無を検討した、Bacteroides属の、他の種類の細菌を示す図である。
【
図2】本抗原結合分子の、他のBacteroides属との交差性の有無を検討した結果を示す図である。
【
図3】本抗原結合分子の交差性の有無を検討した、グラム陰性菌、グラム陽性菌を示す図である。
【
図4】本抗原結合分子の、他のグラム陰性菌、グラム陽性菌との交差性の有無を検討した結果を示す図である。
【
図5】本抗原結合分子を用いて、B.doreiの単離を行う検討をする際に用いた、腸内細菌基準株を示す図である。
【
図6】本抗原結合分子を用いて、MACS(登録商標)によりB.doreiの単離を行った結果を示す図である。
【
図7】MACS(登録商標)によりB.doreiが単離できているかを調べるためのRT-PCRに用いた、核酸増幅用のプライマーの塩基配列を示す図である。
【
図9】MACSにより単離したB.doreiを培養した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態の内容を列記して説明する。本発明は、以下のような構成を備える。
[項目1]
Bacteroides doreiに結合することを特徴とする、抗原結合分子。
[項目2]
他のBacteroides属に属する細菌に結合しないこと、
を特徴とする、項目1に記載の抗原結合分子。
[項目3]
前記他のBacteroides属は、Bacteroides ovatus、Bacteroides stercoris、Bacteroides thetaiotaomicron、Bacteroides uniformis、Bacteroides vulgatusであること、
を特徴とする、項目2に記載の抗原結合分子。
[項目4]
前記抗原結合分子は、抗体、抗体断片またはペプチドであり、
アミノ酸配列として、配列番号3から8のいずれかに記載のアミノ酸配列、または配列番号3から8のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
を含むことを特徴とする、項目1から3のいずれか一項に記載の抗原結合分子。
[項目5]
前記抗原結合分子は、抗体または抗体断片であり、
重鎖のアミノ酸配列として配列番号3から5のいずれかに記載のアミノ酸、または配列番号3から5のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
軽鎖のアミノ酸配列として配列番号6から8のいずれかに記載のアミノ酸配列、または配列番号6から8のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
を含むことを特徴とする、項目4に記載の抗原結合分子。
[項目6]
配列番号3のアミノ酸配列、または配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むVHCDR1領域と、
配列番号4のアミノ酸配列、または配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むVHCDR2領域と、
配列番号5のアミノ酸配列、または配列番号5に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むVHCDR3領域と、
配列番号6のアミノ酸配列、または配列番号6に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むVLCDR1領域と、
配列番号7のアミノ酸配列、または配列番号7に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むVLCDR2領域と、
配列番号8のアミノ酸配列、または配列番号8に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むVLCDR3領域と、
を含むことを特徴とする、項目5に記載の抗原結合分子。
[項目7]
項目1から6のいずれか一項に記載の抗原結合分子をコードする核酸配列、または複数の核酸配列を含むことを特徴とする核酸組成物。
[項目8]
項目7に記載の核酸配列、または複数の核酸配列を含むベクター組成物、または複数のベクターを含むことを特徴とするベクター組成物。
[項目9]
項目8に記載のベクター組成物を含むことを特徴とする細胞。
[項目10]
項目1から6のいずれか一項に記載の抗原結合分子を用いて、Bacteroides doreiを含む試料からBacteroides doreiを単離する、Bacteroides doreiの精製方法。
【0012】
<実施の形態の詳細>
本実施形態に係る抗原結合分子は、例えば、特定の抗原と強く特異的に結合するモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つの異なるエピトープ結合断片から形成される多特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、ヒト抗体、ヒト化抗体、ラクダ科抗体、キメラ抗体、短鎖Fv、一本鎖抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン抗体、Fab断片、F(ab‘)2断片、抗体断片ジスルフィド結合Fv、および抗イディオタイプ抗体、細胞内抗体、抗体断片、並びに、上記のいずれかのエピトープ結合断片を包含し、また、ポリペプチド、ペプチド、核酸、合成低分子、合成高分子などが挙げられる。
【0013】
本実施形態では、抗原結合分子の一例として、モノクローナル抗体について図面を参照しながら説明する。
【0014】
本実施形態に係る抗原結合分子としてのモノクローナル抗体(以下、本抗体と記す)は、B.doreiに対して特異性の高いものである。このため、本実施形態に係る抗原結合分子を用いることで、B.doreiを含む試料から、B.doreiを単離し、または濃縮することが可能となる。
【0015】
本実施形態において、本抗体は、他のBacteroides属に結合しないことが好ましい。これにより、B.dorei以外の細菌も含む糞便などの試料から、B.doreiを単離し、または濃縮することが可能となる。
【0016】
本実施形態において、B.dorei以外の他のBacteroides属としては、例えば、Bacteroides ovatus、Bacteroides stercoris、Bacteroides thetaiotaomicron、Bacteroides uniformis、Bacteroides vulgatusであること、が挙げられる。
【0017】
本実施形態において、本抗体は、グラム陽性菌、グラム陰性菌に対して交差性がないことが好ましい。これにより、本抗体を用いることで、他の細菌が多く含まれる糞便などから、B.doreiを単離、濃縮することが可能である。
【0018】
また、本実施形態において、本抗体は、任意のアイソタイプ(例えば、IgG、IgA、IgM、IgD、IgE、およびIgY)、またはこれらのサブアイソタイプ、またはアロタイプのものでもあってもよい。
【0019】
更に、本実施形態において、本抗体は、任意の哺乳動物、例として、限定されるものではないが、ヒト、サル、ウサギ、ブタ、ウマ、ラット、イヌ、ネコ、マウス、ヒツジ、ラクダなど、または他の動物、例えば鳥類(例えばニワトリ)に由来するものであってもよい。
【0020】
本実施形態では、本抗体のアミノ酸配列の一部を以下に開示する。本実施形態において、以下に開示するアミノ酸配列と、70%の相同性を有することが好ましく、75%の相同性を有することがより好ましく、更に80%の相同性を有することが好ましく、更に85%の相同性を有することが好ましく、更に90%の相同性を有することが好ましく、更に95%の相同性を有することが好ましく、100%同一である方が好ましい機能を発揮する。
【0021】
以下に本抗体のアミノ酸配列の一部を示す。式1は配列番号1であり、式2は配列番号2であり、式3は配列番号3であり、式4は配列番号4であり、式5は配列番号5であり、式6は配列番号6であり、式7は配列番号7であり、式8は配列番号8である。なお、別途配列表に記載した、配列番号1に示すのは本抗体の重鎖アミノ酸配列であり、配列番号2に示すのは本抗体の軽鎖アミノ酸配列である。
[式1]
Gln Ile Gln Leu Val Gln Ser Gly Pro Glu Leu Lys Lys Pro Gly Glu Thr Val Lys Ile Ser Cys Lys Ser Ser Gly Tyr Thr Phe Thr Asp Cys Ser Met His Trp Val Gln Gln Ala Pro Gly Lys Gly Leu Lys Trp Met Gly Trp Ile Asn Thr Glu Thr Asp Glu Pro Thr Tyr Ala Asp Asp Phe Gln Gly Arg Phe Ala Phe Ser Leu Glu Thr Ser Ser Ser Thr Ala Tyr Leu Gln Ile Asn Asn Leu Lys Asn Glu Asp Thr Ala Thr Tyr Phe Cys Ala Arg Cys Lys Tyr Met Asp Tyr Trp Gly Gln Gly Thr Ser Val Thr Val Ser Ser
[式2]
Asp Val Val Val Thr Gln Thr Pro Leu Ser Leu Pro Val Ser Leu Gly Asp Gln Ala Ser Ile Ser Cys Arg Ser Ser Gln Ser Leu Val His Ser Asn Gly Ile Thr Tyr Leu Gln Trp Tyr Leu Gln Lys Pro Gly Gln Ser Pro Lys Leu Leu Ile Tyr Lys Val Ser Thr Arg Phe Ser Gly Val Pro Asp Arg Phe Ser Gly Ser Gly Ser Gly Thr Asp Phe Thr Leu Arg Ile Ser Arg Val Glu Ala Glu Glu Leu Gly Val Tyr Phe Cys Ser Gln Ser Thr His Ile Pro Trp Thr Phe Gly Gly Gly Thr Lys Leu Glu Ile Lys
[式3]
Gly Tyr Thr Phe Thr Asp Cys Ser Met His
[式4]
Trp Ile Asn Thr Glu Thr Asp Glu Pro Thr Tyr Ala Asp Asp Phe Gln Gly
[式5]
Cys Lys Tyr Met Asp Tyr
[式6]
Arg Ser Ser Gln Ser Leu Val His Ser Asn Gly Ile Thr Tyr Leu Gln
[式7]
Lys Val Ser Thr Arg Phe Ser
[式8]
Ser Gln Ser Thr His Ile Pro Trp Thr
【0022】
すなわち、本実施形態において、本抗体はアミノ酸配列として、配列番号3から8のいずれかに記載のアミノ酸配列、または配列番号3から8のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むことが好ましい。なお、本抗体は、好ましくはアミノ酸配列として、配列番号1、配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むことが好ましい。これにより、B.dorei以外の細菌も含む糞便などの試料から、より精度よくB.doreiを単離し、または濃縮することが可能となる。
【0023】
本実施形態において、本抗体は、重鎖のアミノ酸配列として配列番号3から5のいずれかに記載のアミノ酸、または配列番号3から5のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、軽鎖のアミノ酸配列として配列番号6から8のいずれかに記載のアミノ酸配列、または配列番号6から8のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列とを含むことが好ましい。なお、本抗体は、好ましくはアミノ酸配列として、配列番号1、配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むことが好ましい。これにより、B.dorei以外の細菌も含む糞便などの試料から、より精度よくB.doreiを単離し、または濃縮することが可能となる。
【0024】
本実施形態において、本抗体は、
配列番号3のアミノ酸配列、または配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むVHCDR1領域と、
配列番号4のアミノ酸配列、または配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むVHCDR2領域と、
配列番号5のアミノ酸配列、または配列番号5に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むVHCDR3領域と、
配列番号6のアミノ酸配列、または配列番号6に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むVLCDR1領域と、
配列番号7のアミノ酸配列、または配列番号7に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むVLCDR2領域と、
配列番号8のアミノ酸配列、または配列番号8に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むVLCDR3領域と、を含むことが好ましい。なお、本抗体は、好ましくはアミノ酸配列として、配列番号1、配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むことが好ましい。これにより、B.dorei以外の細菌も含む糞便などの試料から、より精度よくB.doreiを単離し、または濃縮することが可能となる。
【0025】
本抗体は、B.doreiの表面抗原に結合し得るが、他のポリペプチドに特異的に結合しないことが好ましい。これにより、B.dorei以外の細菌も含む糞便などの試料から、より精度よくB.doreiを単離し、または濃縮することが可能となる。
【0026】
本実施形態では、本抗体のアミノ酸配列の一部をコードする塩基配列を以下に開示する。本実施形態において、以下に開示する塩基配列と、70%の相同性を有することが好ましく、75%の相同性を有することがより好ましく、更に80%の相同性を有することが好ましく、更に85%の相同性を有することが好ましく、更に90%の相同性を有することが好ましく、更に95%の相同性を有することが好ましく、100%同一である方が好ましい機能を発揮する。
【0027】
以下に本抗体の塩基配列の一部を示す。式9は配列番号9であり、式10は配列番号10であり、式11は配列番号11であり、式12は配列番号12であり、式13は配列番号13であり、式14は配列番号14であり、式15は配列番号15であり、式16は配列番号16である。なお、配列表に記載した、配列番号9に示すのは本抗体の重鎖アミノ酸配列の全長をコードする塩基配列であり、配列番号10に示すのは軽鎖アミノ酸配列の全長をコードする塩基配列である。
[式9]
CAGATCCAGTTGGTGCAGTCTGGACCTGAGCTGAAGAAGCCTGGAGAGACAGTCAAGATCTCCTGCAAGTCTTCTGGTTATACCTTCACAGACTGTTCAATGCACTGGGTGCAGCAGGCCCCAGGAAAGGGTTTAAAGTGGATGGGCTGGATAAACACTGAGACTGATGAGCCAACATATGCAGATGACTTCCAGGGACGGTTTGCCTTCTCTTTGGAAACCTCTTCCAGCACTGCCTATTTGCAGATCAACAACCTCAAAAATGAGGACACGGCTACATATTTCTGTGCTAGATGTAAATATATGGACTACTGGGGTCAAGGAACCTCAGTCACCGTCTCCTCA
[式10]
GATGTTGTGGTGACCCAGACTCCACTCTCCCTGCCTGTCAGTCTTGGAGATCAAGCCTCCATCTCTTGCAGATCTAGTCAGAGCCTTGTACACAGTAATGGAATCACCTATTTACAGTGGTACCTGCAGAAGCCAGGCCAGTCTCCAAAGCTCCTGATCTACAAAGTCTCCACCCGATTTTCTGGGGTCCCAGACAGGTTCAGTGGCAGTGGATCAGGGACAGATTTCACACTCAGGATCAGCAGAGTGGAGGCTGAGGAGCTGGGAGTTTATTTCTGCTCTCAAAGTACACATATTCCGTGGACGTTCGGTGGAGGCACCAAGCTGGAAATCAAA
[式11]
GGTTATACCTTCACAGACTGTTCAATGCAC
[式12]
TGGATAAACACTGAGACTGATGAGCCAACATATGCAGATGACTTCCAGGGA
[式13]
TGTAAATATATGGACTAC
[式14]
AGATCTAGTCAGAGCCTTGTACACAGTAATGGAATCACCTATTTACAG
[式15]
AAAGTCTCCACCCGATTTTCT
[式16]
TCTCAAAGTACACATATTCCGTGGACG
【0028】
すなわち、本実施形態において、本抗体のアミノ酸配列をコードする塩基配列として、配列番号11から16のいずれかに記載のアミノ酸配列、または配列番号11から16のいずれかに記載の塩基配列に対して90%以上の相同性を有する塩基配列を含むことが好ましい。これにより、B.dorei以外の細菌も含む糞便などの試料から、より精度よくB.doreiを単離し、または濃縮することが可能となる。
【0029】
本実施形態において、核酸組成物とは、本実施形態に係る抗原結合分子をコードする核酸配列、または複数の核酸配列を含む核酸組成物も含む。また、本実施形態では、前記核酸配列、または複数の核酸配列を含むベクター組成物、または複数のベクター組成物も含む。更に、本実施形態では、前記ベクターをも含む。本実施形態において、ベクターとは、連結している別の核酸を運搬する核酸分子を意味する。ベクターの1例としてプラスミドがある。前記プラスミドは、その中に別のDNA断片をライゲーションすることでできる、環状の二本鎖DNAである。また、ベクターの1例として、ウイルスベクターがある。前記ウイルスベクターは、別のDNA断片をウイルスゲノム中にライゲーションすることができる。ある種のベクターは、導入される宿主細胞の中で、自律的に複製することができる。なお、一例として、宿主細胞のゲノム中に組み込むことができるベクターもある。当該ゲノム中に組み込むことができるベクターは、宿主のゲノムと一緒に複製される。
【0030】
本実施形態において、細胞とは、その中に発現ベクターが導入されている細胞を意味する。宿主細胞としては、細菌細胞、微生物細胞、植物細胞、または動物細胞があげられる。
【0031】
本実施形態において、抗体は以下の手法を用いて取得した。野生型マウス(BALB/cA)に免疫増強剤と抗原を混合したもので免疫し、そのマウスの脾臓を免疫不全マウス(C.B-17/Icr-scid/scid Jcl)に移植する。移植した免疫不全マウスに追加免疫を行った後、血清内における標的抗体の抗体価の上昇が観察されたマウスの脾臓を摘出しミエローマ細胞と融合することで樹立したハイブリドーマ由来の抗体である。
【0032】
-80℃で保存していた、健常者から単離したB.dorei(以下、B.dorei単離株)のグリセロールストックから、20μLを5mLのGAM液体培地に添加し、アネロパック(登録商標)ケンキ(三菱ガス化学社製)を用いて37℃で24時間培養する。次に、嫌気性チャンバーBACTRON 300(SHEL LAB社製)内にて200mLのGAM液体培地2本に対し、培養液をそれぞれ2mL添加し、更に24時間培養する。合計400mLの培養液を、7500rpm、15分間、4℃で遠心分離し、上清を除く。ペレットに滅菌したリン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSと記する)を加え洗浄を行う。菌体の洗浄は合計3回行う。回収した菌体の一部を、VD-800R凍結乾燥機(TAITEC社製)を用いて24時間乾燥し、乾燥重量と菌体重量の比率を求める。菌体/PBSが100μg/100μLになるように滅菌済みPBSで希釈し、以下、抗原として使用する。
【0033】
次に、調整した前記抗原を用いて免疫を行う。前記抗原に、免疫増強剤であるImject Alum Adjuvant(Invitrogen社製)を等量加えた(以下、腹腔内投与用抗原と記す)のちに、マウスの腹腔内(i.p.)投与をする。尾微静脈投与(i.v.)の際には、前記抗原のみを、マウスに追加投与する。BALB/cAマウスに、当該腹腔内投与用抗原を、隔週2回のi.p.投与をする。免疫したBALB/cAマウスから脾臓を摘出し、免疫不全マウス(C.B-17/Icr-scid/scid Jcl)へと移植を行う。
【0034】
脾臓を移植した免疫不全マウスに追加免疫および最終免疫をi.v.経路にて実施した後、脾臓を摘出し、ミエローマ細胞と融合することにより、ハイブリドーマの作製を行う。得られたハイブリドーマの中から、抗原に対し特異的反応を示し、かつ他の細菌への交差性の低い抗体を産生する能力を持つものを、フローサイトメトリーにより選抜する。
【実施例0035】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、これらの実施例は説明のためのものであり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
【0036】
本実施形態の一例であるモノクローナル抗体の作製にあたり、まず抗原であるB.doreiの調整を行った。
【0037】
-80℃で保存していた、健常者から単離したB.dorei単離株のグリセロールストックから、20μLを5mLのGAM液体培地(日水製薬株式会社製)に添加し、アネロパック(登録商標)ケンキ(三菱ガス化学社製)を用いて37℃で24時間培養した。次に、嫌気性チャンバーBACTRON 300(SHEL LAB社製)内にて200mLのGAM液体培地2本に対し、培養液をそれぞれ2mL添加し、更に24時間培養した。合計400mLの培養液を、7500rpm、15分間、4℃で遠心分離し、上清を除いた。残ったペレットに滅菌PBSを加え洗浄を行った。菌体の洗浄は合計3回行った。回収した菌体の一部を、VD-800R凍結乾燥機(TAITEC社製)を用いて24時間乾燥し、乾燥重量と菌体重量の比率を求めた。菌体/PBSが100μg/100μLになるように滅菌済みPBSで希釈し、以下、抗原として使用した。
【0038】
次に、調整した前記抗原を用いて免疫を行った。前記抗原に、免疫増強剤であるImject Alum Adjuvant(Invitrogen社製)を等量加えた(以下、調整済抗原と記す)のちに、マウスの腹腔内(i.p.)投与を行った。尾微静脈(i.v.)投与の際には、前記抗原のみを、マウスに追加投与した。BALBマウス5匹に、当該調整済抗原を、隔週2回のi.p.投与をした。抗原を免疫したBALB/cAマウス2匹より脾臓を摘出し、免疫不全マウス(C.B-17/Icr-scid/scid Jcl)4匹に移植を行った。
【0039】
移植した免疫不全マウスに、6回の追加免疫・最終免疫をi.v.経路にて実施したあと、脾臓を摘出し、ミエローマ細胞と融合することにより、ハイブリドーマの作製を行った。
【0040】
次に、作製したハイブリドーマの中から、抗原に対し特異的反応を示す抗体を産生する能力を持つものをフローサイトメトリーにより選抜した。
【0041】
前記選抜した、いくつかのハイブリドーマが産生する抗体に関して、B.doreiへの特異性と、他の細菌への交差性を検討した。前記抗原として使用した、健常者から単離したB.dorei単離株に加え、他のBacteroides属細菌として、理化学研究所バイオリソースセンターの微生物材料開発室(JCM)より購入した細菌種(
図1)を、第1試験細菌群として検討対象とした。
【0042】
第1試験細菌群の培養条件(以下、試験用培養条件1と記す)は以下の通りである。GAM液体培地(日水製薬株式会社製)5mLに対して、各細菌のグリセロールストックより20μLを添加し、嫌気性チャンバーBACTRON 300(SHEL LAB社製)内にて24時間培養した。
【0043】
第1試験細菌群は、以下に示すグラム染色法を用いて、培養後に単一細菌であることを確認した。5μLの前記菌培養液をスライドガラスに塗布し、火炎固定した。クリスタル紫を各スポットあたり100μLずつ作用させ、1分間染色したのち水洗した。次に、ヨウ素を100μL作用させ、30秒染色したのち水洗した。ヨウ素液染色をもう一度繰り返した。エタノール/アセトン混合脱色液を各スポットあたり100μLずつ作用させ、水洗し乾燥した。最後に、パイフェル溶液を100μL作用させ、1分間染色したのち水洗した。乾燥後、光学顕微鏡下で観察しToupView(ToupTek Photonics社製)を用いて画像を取得した。
【0044】
特異性と交差性の検討のため、以下の方法により、抗体を含むハイブリドーマ細胞培養上清(以下、GS1培養上清)を調整した。50mLの細胞培養培地が含まれたフラスコに2×106Cellsの前記ハイブリドーマ細胞を添加し、37℃ 5% CO2 環境下で一週間培養した。フラスコ内の溶液を50mLチューブに移し、1000 rpm、5min、4℃で遠心分離して上清を取得した。更に夾雑物を除くために上清を、0.22μmフィルターに通し、50mLチューブに回収した。最終濃度0.05%になるようにNaN3を加え、使用まで4℃で保管した。
【0045】
GS1培養上清に含まれる抗体の特異性と交差性の測定にはフローサイトメーターAccuri C6 plus(BD社製)を用いた。前記試験用培養条件1に従い、対象の細菌種を培養し、当該培養液を8000×g、5min、4℃で遠心分離し、培養上清を除いた。その後、PBSにて二回洗浄した後、菌体ペレットをPBSで再懸濁した。分光光度計Nanodrop(登録商標) 2000 C(Thermo Fisher Scientific社製)でOD値(光学濃度)を測定し、大腸菌における菌体数変換式である1OD660=8×108 cells/mLに基づき、2%BSAを含むPBSで1×107 cells/tubeまたは1×108 cells/tubeに希釈した。希釈後、17,800×g、5min、4℃で遠心分離して上清を除き、残ったペレットにGS1培養上清を100μL加えて懸濁し、30min、4℃で静置しGS1培養上清に含まれる抗体と反応させた。また、第1試験細菌群と反応性をもたないIgG1 Isotype Control(SIGMA社製)をネガティブコントロールとし、同様に第1試験細菌群と反応させた。その後、滅菌済みPBSを1mL加え洗浄し、17,800×g、5min、4℃で遠心分離し、GS1培養上清又はIgG1 Isotype Controlを除去した。この過程を二回繰り返した後、二次抗体を100μLずつ添加し、30min、4℃で静置し、検討に使用した。なお、二次抗体はGoat anti-Mouse IgG (H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody、 Alexa Fluor(登録商標) 488(Thermo Fisher Scientific社製)を、2%BSAを含むPBSで500倍希釈したものを用いた。更に、FACS測定の直前に、死細菌と区別するため、Propidium iodide(PI: Invitrogen社製)を1μLずつ添加した。FACS測定により取得されたFCSファイルは、FlowJo version 10.5.3(FlowJo LLC)にて解析した。なお、本段落に記載した方法を、以下FACS測定法という。
【0046】
図2に、GS1培養上清を用いた、前記FACS測定の結果を示す。当該結果は、GS1培養上清に含まれる抗体(以下、GS1抗体と記す)は、B.doreiには結合するが、
図1に示した他のBacteroides属には結合しないことを示した。
【0047】
次に、Bacteroides属以外のグラム陽性菌およびグラム陰性菌に対する交差反応性を検討するため、JCMより購入した細菌種(
図3に示す。以下、第2試験細菌群と記す)とGS1培養上清の反応性を調べた。各細菌の培養条件は前記試験用培養条件1と同様であり、培養上清は前記GS1培養上清と同様であり、FACSの手法は前記FACS測定法を用いた。
【0048】
図4に、第2試験細菌群に対し、GS1培養上清を反応させたFACSの結果を示す。当該結果は、GS1培養上清は第2試験細菌群には反応しないことを示した。これにより、GS1抗体はB.doreiに対して特異性が高く、他の細菌に対して交差性が低い抗体であることが証明された。
【0049】
次に、GS1抗体の有用性を示すため、B.doreiおよび
図5に記載した計5種類の腸内細菌基準株を混合した腸内細菌基準株混合溶液から、Magnetic-activated cell sorting(MACS、登録商標)を用いて、B.doreiを単離、濃縮できるかどうかの検討を行った。
【0050】
前記試験用培養条件1に従い培養した、B.doreiおよび
図5に記載した計5種類の腸内細菌基準株を8000×g、5min、4℃で遠心分離し、培養上清を除いた。その後、PBSにて二回洗浄した後、菌体ペレットをPBSで再懸濁した。分光光度計Nanodrop(登録商標) 2000 C(Thermo Fisher Scientific社製)でOD値(光学濃度)を測定し、大腸菌における菌体数変換式である1OD
660=8×10
8 cells/mLに基づき、2%BSAを含むPBSで1×10
8 cells/mlに希釈した。それぞれの培養溶液を100ulずつ混合した腸内細菌基準株混合溶液を作成した後、17,800×g、5min、4℃で遠心分離して上清を除き、残ったペレットにGS1培養上清を100μL加えて懸濁し、30min、4℃で静置しGS1培養上清に含まれる抗体と反応させた。また、比較対象としてIgG1 Isotype Control(SIGMA社製)をネガティブコントロールとし、同様に腸内細菌基準株混合溶液と反応させた。これらのサンプルを2本ずつ(GS1抗体反応サンプル2本、IgG1 isotype control抗体反応サンプル2本、合計4本)用意した。その後、滅菌済みPBSを1mL加え洗浄し、17,800×g、5min、4℃で遠心分離し、GS1培養上清又はIgG1 Isotype Controlを除去した。この過程を二回繰り返した後、二次抗体を100μLずつ添加し、30min、4℃で静置し、検討に使用した。なお、二次抗体はGoat anti-Mouse IgG (H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody, FITC(Thermo Fisher Scientific社製)を2%BSAを含むPBSで500倍希釈したものを用いた。その後、滅菌済みPBSを1mL加え洗浄し、17,800×g、5min、4℃で遠心分離し、未反応の二次抗体を除去した。この過程を二回繰り返した後、GS抗体反応サンプル1本とIgG1 Isotype Control反応サンプルの1本は500ulの2%BSAを含むPBSに再懸濁し、分離前サンプルとして測定まで遮光しながら4℃で保管した。残り2本のサンプルに関しては1%BSAを含むPBSで20倍希釈したAnti-FITC標識 MACS(登録商標) beads(Miltenyi Biotec社製)を、200μLずつ添加し、15min、4℃で反応させた。反応後、滅菌済みPBSを1mL加え懸濁し、14000rpm、5min、4℃で遠心分離し上清を除去した。この洗浄工程を合計3回行った後、MACS バッファー(0.5%BSAを含むPBS(2mM EDTA含有))500μLで懸濁した。この懸濁液をMACS(登録商標) midi column(Miltenyi Biotec社製)を用いて分離した。MACS用マグネットにカラムをセットし、カラム内を500uLのMACSバッファーにて洗浄した。次にその他の分画(Flow Through)を回収するためのチューブをカラムの下にセットし、サンプル500ulを添加した。カラムから出てきた溶液を回収した。カラムに1mlのMACSバッファーを加え、出てきた溶液はFlow Throughチューブに回収(Flow ThroughサンプルAとする)した。この工程をさらに二回繰り返した。洗浄工程を終えたカラムはマグネットから外し、標的分画(Elution)回収用チューブ上に設置し、500ulのMACSバッファーを添加し、プランジャーにて押し出すことにより回収(ElutionサンプルBとする)した。これらの分離した溶液を8,000×g、15min、4℃で遠心分離し、2%BSAを含むPBS400μLに懸濁した。Accuri C6 plus(BD社製)を用いてMACS(登録商標)による分離前と分離後における各種細菌懸濁液、Flow ThroughとElutionと、GS1抗体およびIgG1 Isotype Controとの反応性を解析した。FACS測定により取得されたFCSファイルは、解析ソフトFlowJo version 10.5.3(FlowJo LLC)で解析した。またFlow ThroughとElutionの一部は14000rpm、10min、4℃で菌体ペレットを回収し、使用まで-80℃にて保管した。
【0051】
図6に、MACS(登録商標)の検討結果を示す。GS1抗体に反応せず流れ出たFlow Throughと、GS1抗体に反応した後、抗体からはがしたElutionには、流れ出たものに差があることが判明した。
【0052】
次に、Flow ThroughとElutionに含まれる菌体の種類について、RT(Real Time)-PCRを用いて確認をした。
【0053】
-80℃で保存したFlow ThroughサンプルAとElutionサンプルBの菌体に対して、400μLのTE10バッファー(10 mM Tris, 10mM EDTA)を加え溶解し、Lysozyme(300 mg/mL)(WAKO社製)を20μL加え、ローテーションしながら37℃、8時間反応させた。その後、精製されたAchromopeptidase(登録商標)(20000units/mL)(WAKO社製)を12μL加えて混合し、更にローテーションしながら37℃、8時間反応させた。その後、50μLの10%SDS(pH7.2)を加えて混合し、更にProteinase K(25 mg/mL)(MERCK社製)を12μL加え、55℃で一晩インキュベートした。インキュベート後、500μLのPhenol/Chloroform/Isoamylalcohol(25:24:1)を加え、Micro Mixer(TAITEC社製)を用いて最大速度で3min撹拌したのち、17,800×g、10min、20℃で遠心分離し、上清を採取した。上清に、再度500μLのPhenol/Chloroform/Isoamylalcoholを加え、同様に撹拌し遠心分離した後に上清を採取した。回収した上清に40μLの3M Sodium Acetateを加え混合し、1mLの冷やした100%Ethanolを加え、ボルテックスで撹拌した後に-80℃で1時間静置した。その後、17,800×g、10min、4℃で遠心分離し上清を捨て、70%Ethanolを500μL加え、転倒混和した。17,800×g、10min、4℃で遠心分離し上清を捨て、遠心エバポレーターでチューブ内の水分を蒸発させた。残った沈殿は精製された核酸であり、当該沈殿に、TE10を100μL加え、Micro Mixerを用いて最大速度で1min撹拌後、80μLを別チューブに移し、RNaseA(10mg/mL)を1μL加え、37℃、一晩インキュベートした。
【0054】
前記取得した核酸を用いて、Nanodrop(登録商標) 2000 C(Thermo Fisher Scientific社製)によりDNA濃度を測定し、Pure Water(Wako社製)を用いて10ng/ulになるように調整した。希釈したDNA1uLを鋳型とし、SYBR(登録商標) Premix Ex Taq2(TaKaRa社製)を用いて、RT-PCRを行った。PCR条件は初期変性95℃、30sec→(96℃、30sec、55℃、45sec、72℃、1min)×40サイクル、で実施した。使用したプライマーを
図7に示す。解析方法は、Eubacteriumを標的とし16S rRNA配列特異的プライマーにより増幅された遺伝子発現量を基準に、Bacteroides属菌特異的プライマーもしくはAkkermansia muciniphila(A.muciniphila)特異的プライマーにより増幅された遺伝子発現量を比較Ct法により解析した。
【0055】
図8にRT-PCRの結果を示す。Bacteroides属菌特異的プライマーを用いた結果は、MACS(登録商標)を行う前のサンプルに比べ、標的分画中にBacteroides属菌の割合が増加していることが判明した。なお、もともとのサンプルにBacteroides属菌としてはB.doreiのみが含まれていることから、Elution中にB.doreiが含まれていることとなる。一方でGS1抗体が結合しないと考えられるA.muciniphila量は、MACS(登録証商標)前に比べ、標的分画で減少していた。これにより、GS1抗体を用いて、B.doreiを特異的に単離、濃縮できることが判明した。
【0056】
更に、単離、濃縮したB.doreiが、培養可能かどうかを検討した。
【0057】
段落0051に記載の手法でMACS分離前の培養液、MACS分離後の標的分画の各溶液を17,800×g、5min、4℃で遠心分離し、2%BSAを含むPBSで400μLに懸濁した。当該懸濁した溶液を50μL、滅菌済みコンラージ棒を用いて菌液をGAM寒天培地に撒き、Bactron300(SHEL LAB)内において37℃嫌気環境下( N2ガスをベースに5.02%CO2、 4.95% H2を添加した混合ガス)で培養した。24時間培養した後、プレート上に形成されたコロニーを撮影した。
【0058】
図9に単離、濃縮したB.doreiの培養試験の結果を示す。MACS分離前の培養液ではコロニーが形成された。また、前記RT-PCRの結果からB.doreiが単離されている標的分画でもコロニーの形成が見られた。この結果はGS1抗体が結合した菌も増殖可能であることを示すものであった。
【0059】
GS1抗体を産生するハイブリドーマの維持は以下のように行った。ハイブリドーマが保存された凍結バイアルチューブを37℃で急速解凍した。1mLのハイブリドーマ細胞溶液に10mLの細胞培養培地(RPMI/10%FCS/1%ピルビン酸ナトリウム溶液/1X penicillin- streptomycin-グルタミン溶液(GIBCO社製))を添加し、1000rpm、5min、4℃で遠心分離した。上清を除去し、1mLの培地で再懸濁したのちに、14mLの培地が入った培養フラスコに移し、37℃、5%CO2環境下で培養した。飽和状態に達する直前に培養細胞液1mLを13mLの培地を含んだ培養フラスコに移し、培養することで維持した。
【0060】
更に、シークエンス解析のために、以下のようにGS1抗体産生ハイブリドーマ細胞の調整を行った。培養したハイブリドーマを回収し、1000rpm、5min、4℃で遠心分離した。上清を除き、10mLの滅菌PBSに細胞を再懸濁した。1000rpm、5min、4℃で遠心分離し、滅菌PBSを加え、血球計算版を用いて細胞数を数えた。細胞を2×107Cells/mLになるように調整し、100μLの細胞溶液を新しいチューブ分取し、そこにRNA later(Invitrogen)を900μL加え懸濁し、4℃で一晩インキュベートし、当該サンプルをDNAシークエンス解析に用いた。
【0061】
以上示したように、得られた抗体は、B.doreiに対して高い特異性を有し、B.doreiを特異的に精製することができる。このため、本抗体は、B.dorei以外の細菌も含む糞便などの試料から、より精度よくB.doreiを単離し、更には濃縮することができるため、医薬、ヘルスケア等の分野において貢献することができる。また、本実施形態により、腸内細菌叢を構成する腸内細菌の中の一つであるB.doreiに対し高い特異性を持つ抗原結合分子と、当該抗原結合分子を用いてB.doreiを含む細菌集団から、標的とするB.doreiのみを効率よく単離、濃縮することができる。
【0062】
特定の腸内細菌を標的とする特異的性の高い抗体は作製例も少なく、便検体など多種の腸内細菌が存在する中から標的細菌を分離・濃縮するためには選択培地を使用し、形成されたコロニーを単離、核酸を抽出したのちにシークエンスにより配列を確認する必要があった。本実施形態による抗体はB.doreiに対する特異性が高く、他の細菌種への交差反応がほとんどないため、抗体が結合した菌はほぼ標的細菌となる。そのため従来の手法よりも簡便に効率よく標的の菌を単離・濃縮することが可能となる。便試料などBacteroides属を多く含むような検体からも本抗体を用いることでB. doreiを効率よく単離できることが期待される。また本抗体を用いて、腸内細菌叢の中におけるB. doreiの割合を評価する方法を構築することで小児一型糖尿病などの非侵襲診断に応用できる可能性がある。
【0063】
これまで腸内細菌のゲノム配列は個人ごとに異なることが知られており、同じ腸内細菌でも発現する因子や機能が異なることが知られている。そのため、他者の腸内細菌を摂取しても殆ど定着しないことがある。B. doreiは有用菌の一つであり、腸内細菌由来のリポ多糖を減少させることでアテローム性動脈硬化症の抑制に寄与することが報告されている(Circulation. 2018 Nov 27;138(22):2486-2498.)。そのため、適正数のB. doreiを保持し続けることは健康維持に重要である。本申請で作製したB. dorei特異的抗体を用いることで、個人固有のB. doreiを効率よく単離、再培養する手法を確立し、宿主に戻すことによりB. doreiの存在割合を意のままに調整し、かつ長期的な定着させることできる可能性がある。一方で、B. doreiは疾患とも関連しており、小児一型糖尿病の発症前に増加することが報告されている(Front Microbiol. 2014; 5: 678)。本抗体を利用し、便中B. doreiの割合を適切に評価することで、これらの疾患の診断薬として応用できる可能性もある。
【0064】
上述した実施形態は、本発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良することができると共に、本発明にはその均等物が含まれることは言うまでもない。