(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103720
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】炭化珪素単結晶製造装置および炭化珪素単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20220701BHJP
C30B 23/02 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218521
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】金田一 麟平
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB09
4G077BE08
4G077DA18
4G077ED06
4G077EG03
4G077EG04
4G077EG25
4G077HA12
4G077SA04
(57)【要約】
【課題】炭化珪素種結晶と黒鉛台座との間の接合不良を低減できる炭化珪素単結晶製造装置を提供できる。
【解決手段】本発明の炭化珪素単結晶製造装置100は、坩堝本体1と蓋部2とからなる坩堝10と、蓋部2の下面2Aに支持される蓋部側の面(蓋部側面)20Aと、蓋部側面20Aの反対側に種結晶Sが取り付けられる種結晶取付面20Bとを有する台座部20とを備え、台座部20は黒鉛材料からなり、種結晶取付面20Bの面積は蓋部側面20Aの面積より大きく、台座部20は、蓋部側面20Aと種結晶取付面20Bとを結ぶ直線に対して直交する台座部20の断面積が種結晶取付面20Bから蓋部側面20Aに向かうに従って徐々に小さくなっている部分を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
坩堝本体と蓋部とからなる坩堝と、
前記蓋部の下面に支持される蓋部側面と、前記蓋部側面の反対側に種結晶が取り付けられる種結晶取付面とを有する台座部とを備え、
前記台座部は黒鉛材料からなり、
前記種結晶取付面の面積は前記蓋部側面の面積より大きく、
前記台座部は、前記蓋部側面と前記種結晶取付面とを結ぶ鉛直方向に対して直交する断面積が前記種結晶取付面から前記蓋部側面に向かうに従って徐々に小さくなっている部分、及び、段階的に小さくなっている部分の少なくとも一方を有する、炭化珪素単結晶製造装置。
【請求項2】
前記台座部は円錐台形状である、請求項1に記載の炭化珪素単結晶製造装置。
【請求項3】
前記台座部の前記蓋部側面は円状であり、その半径をr1とし、前記種結晶取付面は円状であり、その半径をr2とし、前記前記台座部の高さをhとすると、
(r2-r1)/h>0.15 を満たす、請求項1又は2のいずれかに記載の炭化珪素単結晶製造装置。
【請求項4】
前記半径r1と前記半径r2と前記高さhとが、(r2-r1)/h>0.30を満たす、請求項3に記載の炭化珪素単結晶製造装置。
【請求項5】
前記台座部は、ヤング率5GPa以上の黒鉛材料からなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の炭化珪素単結晶製造装置。
【請求項6】
坩堝本体と蓋部とからなる坩堝と、前記蓋部の下面に支持される蓋部側面と、前記蓋部側面の反対側に種結晶が取り付けられる種結晶取付面とを有する台座部とを用い、坩堝内に炭化珪素単結晶からなる種結晶と炭化珪素原料とを配して、前記炭化珪素原料から昇華した昇華ガスを前記種結晶上に析出させて炭化珪素単結晶を成長させる炭化珪素単結晶を製造する方法において、
前記台座部は黒鉛材料からなり、
前記種結晶取付面の面積は前記蓋部側面の面積より大きく、
前記台座部は、前記蓋部側面と前記種結晶取付面とを結ぶ鉛直方向に対して直交する断面積が前記種結晶取付面から前記蓋部側面に向かうに従って徐々に小さくなっている部分、及び、段階的に小さくなっている部分の少なくとも一方を有する、炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記種結晶と前記台座部との間に応力緩衝部材を配置する、請求項6に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記応力緩衝部材はヤング率5GPa未満である、請求項7に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項9】
前記種結晶の外径が150mm以上である、請求項6~8のいずれか一項に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項10】
前記種結晶の外径が200mm以上である、請求項9に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化珪素単結晶成長装置および炭化珪素単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。そのため炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。このため、近年、上記のような半導体デバイスにSiCエピタキシャルウェハが用いられるようになっている。
【0003】
SiCエピタキシャルウェハは、炭化珪素単結晶基板上に化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)によってSiC半導体デバイスの活性領域となるSiCエピタキシャル膜を成長させることによって製造される。
【0004】
炭化珪素単結晶基板は、炭化珪素単結晶を切り出して作製する。この炭化珪素単結晶は、一般に昇華法によって得ることができる。昇華法は、黒鉛製の坩堝内に配置した台座に炭化珪素単結晶からなる種結晶を配置し、坩堝を加熱することで坩堝内の原料粉末から昇華した昇華ガスを種結晶に供給し、種結晶をより大きな炭化珪素単結晶へ成長させる方法である。
【0005】
昇華法では、上記種結晶を上記台座に保持する必要があり、保持する際には一般的に接着剤を用いる。また、種結晶と黒鉛台座との熱膨張差で生じる、接着面に平行に生じる応力(せん断応力)を緩和するために応力緩衝材を用いる場合がある(特許文献1)。
【0006】
種結晶保持の際に上記応力により発生する接着不良や応力緩衝材の裂け(以下、これらを合わせて「接合不良」という。)によって、種結晶面内で局所的な温度分布が生じる。この温度分布が大きい場合、単結晶にマクロ欠陥が発生しやすくなり、単結晶の品質の低下を招くという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-269297号公報
【特許文献2】特開2008-88036号公報
【特許文献3】特開2009-120419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この課題に対して、特許文献2では、種結晶を保持する部材として室温における炭化珪素の線膨張係数に近い部材を用いることで、種結晶と黒鉛台座間に発生するせん断応力を抑制する方法が提案されている。また、特許文献3では台座に3層以上の黒鉛部材で多層構造として構成し、それぞれのグラファイト部材の線膨張係数の平均値を種結晶の熱膨張係数に近づけることでせん断応力を抑制する方法が提案されている。
【0009】
昇華法では、部材が常温~2400℃以上と広い温度範囲に曝される。この範囲で温度依存性を持つ部材の線膨張係数をより正確に把握し、炭化珪素単結晶と黒鉛台座の線膨張係数を各温度帯で一致させることは容易ではなく、特許文献2、3のような成長方法を用いてもマクロ欠陥の発生を完全に抑制することは難しい。
【0010】
炭化珪素種結晶と黒鉛台座の線膨張係数の差で生じるせん断応力は熱膨張量の差が大きくなる外周部で大きくなる。せん断応力は接触している部材が熱膨張によって相対的にズレようとするときに発生する応力であり、外周部ほどそのズレが大きいからである。接着不良もこの部分で生じることが多い。種結晶の径が大きくなるにつれてこの現象は顕在しやすくなる。
【0011】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、炭化珪素種結晶と黒鉛台座との間の接合不良を低減できる炭化珪素単結晶製造装置及び炭化珪素単結晶の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を提供する。
【0013】
本発明の第1態様に係る炭化珪素単結晶製造装置は、坩堝本体と蓋部とからなる坩堝と、前記蓋部の下面に支持される蓋部側面と、前記蓋部側面の反対側に種結晶が取り付けられる種結晶取付面とを有する台座部とを備え、前記台座部は黒鉛材料からなり、前記種結晶取付面の面積は前記蓋部側面の面積より大きく、前記台座部は、前記蓋部側面と前記種結晶取付面とを結ぶ鉛直方向に対して直交する断面積が前記種結晶取付面から前記蓋部側面に向かうに従って徐々に小さくなっている部分、及び、段階的に小さくなっている部分の少なくとも一方を有する。
【0014】
上記態様に係る炭化珪素単結晶製造装置は、その台座部が円錐台形状であってもよい。
【0015】
上記態様に係る炭化珪素単結晶製造装置は、その台座部の前記蓋部側面が円状であり、その半径をr1とし、前記種結晶取付面が円状であり、その半径をr2とし、前記前記台座部の高さをhとすると、(r2-r1)/h>0.15を満たすものであってもよい。
【0016】
上記態様に係る炭化珪素単結晶製造装置は、前記半径r1と前記半径r2と前記高さhとが、(r2-r1)/h>0.30を満たすものであってもよい。
【0017】
上記態様に係る炭化珪素単結晶製造装置は、その台座部が、ヤング率5GPa以上の黒鉛材料からなるものでもよい。
【0018】
本発明の第2態様に係る炭化珪素単結晶の製造方法は、坩堝本体と蓋部とからなる坩堝と、前記蓋部の下面に支持される蓋部側面と、前記蓋部側面の反対側に種結晶が取り付けられる種結晶取付面とを有する台座部とを用い、坩堝内に炭化珪素単結晶からなる種結晶と炭化珪素原料とを配して、前記炭化珪素原料から昇華した昇華ガスを前記種結晶上に析出させて炭化珪素単結晶を成長させる炭化珪素単結晶を製造する方法において、前記台座部は黒鉛材料からなり、前記種結晶取付面の面積は前記蓋部側面の面積より大きく、前記台座部は、前記蓋部側面と前記種結晶取付面とを結ぶ鉛直方向に対して直交する断面積が前記種結晶取付面から前記蓋部側面に向かうに従って徐々に小さくなっている部分、及び、段階的に小さくなっている部分の少なくとも一方を有する。
【0019】
上記態様に係る炭化珪素単結晶の製造方法は、前記種結晶と前記台座部との間に応力緩衝部材を配置してもよい。
【0020】
上記態様に係る炭化珪素単結晶の製造方法は、前記応力緩衝部材がヤング率5GPa未満であってもよい。
【0021】
上記態様に係る炭化珪素単結晶の製造方法は、前記種結晶の外径が150mm以上であってもよい。
【0022】
上記態様に係る炭化珪素単結晶の製造方法は、前記種結晶の外径が200mm以上であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、炭化珪素種結晶と黒鉛台座の線膨張係数の差に起因して生じるせん断応力を低減できる炭化珪素単結晶製造装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態である炭化珪素単結晶製造装置の一例を示す断面模式図である。
【
図2】
図1に示した炭化珪素単結晶製造装置のうち、台座部のみを取り出した断面模式図である。
【
図7】種結晶と台座部との間に応力緩衝部材を配置した構成を示す断面模式図である。
【
図8】実施例1の台座部の形状パラメータを説明するための図である。
【
図9】実施例1について台座部が円柱形状である場合のせん断応力を1とした、各形状で得られたせん断応力の相対値の結果である。
【
図10】シミュレーションを行った形状のうち、r1=80mmの場合を除いて、実施例1の形状とそのシミュレーション結果を示したものである。
【
図11】実施例2の台座部の形状パラメータを説明するための図である。
【
図12】実施例2について台座部が円柱形状である場合のせん断応力を1とした、各形状で得られたせん断応力の相対値の結果である。
【
図13】シミュレーションを行った形状のうち、r1=80mmの場合を除いて、実施例2の形状とそのシミュレーション結果を示したものである。
【
図14】実施例3について台座部が円柱形状である場合のせん断応力を1とした、各形状で得られたせん断応力の相対値の結果である。
【
図15】シミュレーションを行った形状のうち、r1=100mmの場合を除いて、実施例3の形状とそのシミュレーション結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には図中、同一符号を付してある場合がある。また、以下の説明で用いる図面は、特徴を分かりやすくするため便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。一つの実施形態で示した構成を他の実施形態に適用することもできる。
【0026】
(炭化珪素単結晶製造装置)
図1は、本発明の一実施形態である炭化珪素単結晶製造装置の一例を示す断面模式図である。
図2は、
図1に示した炭化珪素単結晶製造装置のうち、台座部のみを取り出した断面模式図である。
図1に示す炭化珪素単結晶製造装置100は、坩堝本体1と蓋部2とからなる坩堝10と、蓋部2の下面2Aに支持される蓋部側の面(蓋部側面)20Aと、蓋部側面20Aの反対側に種結晶Sが取り付けられる種結晶取付面20Bとを有する台座部20とを備え、台座部20は黒鉛材料からなり、種結晶取付面20Bの面積は蓋部側面20Aの面積より大きく、蓋部側面20Aと種結晶取付面20Bとを結ぶ直線に対して直交する台座部20の断面積は、種結晶取付面20Bから蓋部側面20Aに向かうに従って徐々に小さくなっている。
坩堝本体1の外周には、坩堝10を保温する断熱材(不図示)と、加熱手段(不図示)とを備えている。
図1では、理解の助けになるように、単結晶成長用原料(原料粉末)G、種結晶Sを併せて図示した。
【0027】
炭化珪素単結晶の製造の際には、坩堝10内において、原料粉末Gを底部に充填し、炭化珪素からなる種結晶Sを台座部20上に設置する。台座部20は、原料粉末Gと対向する位置にある。次いで、減圧雰囲気中で坩堝10を2100~2400℃程度に加熱し、原料粉末Gを昇華させることで昇華ガス(原料ガス)を種結晶S上に供給する。原料粉末Gから昇華した原料ガスが、種結晶Sの表面で再結晶化することで、炭化珪素単結晶が結晶成長する。
【0028】
<坩堝>
坩堝10は、炭化珪素単結晶を昇華法により製造するための坩堝であり、坩堝本体1と蓋部2とからなる。坩堝本体1と蓋部2とは合わせて結晶成長空間を形成できれば、その形状に制限はない。
坩堝10は、例えば、黒鉛からなるものを用いることができる。坩堝10は、成長時に高温となる。そのため、高温に耐えることのできる材料によって形成されている必要がある。黒鉛は昇華温度が3550℃と極めて高く、成長時の高温にも耐えることができる。
坩堝10が黒鉛(黒鉛材料)からなる場合、その表面がTaCやSiCでコーティングされていてもよい。
【0029】
<台座部>
図1に示す台座部20は、蓋部2とは別部材であるが、蓋部2と一体に形成されたものであってもよい。台座部20と蓋部2とが別部材である場合には例えば、カーボン接着剤等で接合することができる。
【0030】
台座部20は坩堝10と同様に、単結晶を成長する際の高温に耐えることができる材料からなる必要があり、本実施形態では黒鉛(黒鉛材料)からなる。
台座部は、常温でヤング率5GPa以上の黒鉛材料からなるのが好ましい。安定して炭化珪素単結晶を支持できる剛性を備えるためである。
黒鉛材料からなる台座部20は、その表面がTaCやSiCでコーティングされていてもよい。
【0031】
台座部20は、種結晶取付面20Bの面積Sbは蓋部側面20Aの面積Saより大きく、蓋部側面20Aと種結晶取付面20Bとを結ぶ鉛直方向に延びる直線Lに対して直交する台座部20の断面積は、種結晶取付面20Bから蓋部側面20Aに向かうに従って徐々に小さくなっている。
図2中の符号CS1、CS2は2つの断面積の位置を示すものであり、蓋部側面20A寄りの断面積CS2は種結晶取付面20B寄りの断面積CS1より小さい。
【0032】
図2に示す台座部20は円錐台形状である。この場合、
図2に示すような縦断面図においては、その側面20aは直線状であり、蓋部側面20Aあるいは種結晶取付面20Bに対して所定の角度θを定義できる。
図2に示す台座部20では、台座部20の断面積は、種結晶取付面20Bから蓋部側面20Aに向かうに従って連続的に小さくなっており、その断面の円の半径は一定の割合で連続的に小さくなっている。
【0033】
台座部20を構成する黒鉛(黒鉛材料)の線膨張係数は昇華法が用いられる常温~2400℃以上の広い温度範囲全てで種結晶を構成する炭化珪素の線膨張係数と一致するということはなく、黒鉛台座部と炭化珪素種結晶の接合面(接着面)において、せん断応力が生じる。特に種結晶外周部において膨張差が大きくなる。このせん断応力が大きくなると、接合不良により種結晶と台座との間に隙間が生じ、結晶のマクロ欠陥の発生につながる。
これに対して、台座部の形状を円錐台形状とすることで、かかるせん断応力を抑制することができ、炭化珪素種結晶のマクロ欠陥を低減することができる。
【0034】
図3に、台座部の断面積が種結晶取付面から蓋部側面に向かうに従って徐々に小さくなっている構成の他の例を示す。
【0035】
図3に示す台座部21は、種結晶取付面21Bの面積Sbが蓋部側面21Aの面積Saより大きく、その断面積が種結晶取付面21Bから蓋部側面21Aに向かうに従って徐々に小さくなっている点すなわち、種結晶取付面21Bから蓋部側面21Aに向かうに従っては連続的に小さくなっている点は、
図2に示した台座部20と共通する。
【0036】
一方、
図3に示す台座部21は、その断面積が種結晶取付面21Bから蓋部側面21Aに向かうに従って減少する割合が小さくなっており、側面21aが凹状(曲線状)に形成されている点で
図2に示した台座部20と異なる。
【0037】
図4に、台座部の断面積が種結晶取付面から蓋部側面に向かうに従って段階的に小さくなっている構成の例を示す。
【0038】
図4に示す台座部22は、種結晶取付面22Bの面積Sbが蓋部側面22Aの面積Saより大きい点は、
図2に示した台座部20及び
図3に示した台座部21と共通する。
【0039】
一方、
図4に示す台座部22は、その断面積が種結晶取付面22Bから蓋部側面22Aに向かうに従って段階的に小さくなっている点は、
図2に示した台座部20及び
図3に示した台座部21と異なる。
【0040】
図4に示す台座部22は、種結晶取付面22Bから蓋部側面22Aに向かって順に半径が小さい4個の円板(あるいは円柱)22-1、22-2、22-3、22-4が積み重なった形状を有している。各円板においては、断面積は同じである。4個の円板は一体に形成されたものでもよいし、4個の円板が例えば、カーボン接着剤等によって接合されたものであってもよい。
台座部22の側面22aは、種結晶取付面22B(あるいは蓋部側面22A)に対して直交する方向に延びる側面22-1a、22-2a、22-3a、22-4aと、種結晶取付面22B(あるいは蓋部側面22A)に平行な方向に延びる側面22-1b、22-2b、22-3bとからなる。
図4に示す台座部22は、4個の円板からなる構成であるが、これは一例であり、複数の円板からなるものであれば、その数に制限はない。
【0041】
図5に、断面積が種結晶取付面から蓋部側面に向かうに従って徐々に小さくなっている部分(以下、「断面積減少部」ということがある)と、断面積の変化がない部分(以下、「断面積不変部」ということがある)とからなる台座部の例を示す。
図5に示す台座部23は、種結晶取付面23Bの面積Sbが蓋部側面23Aの面積Saより大きい点は、
図2に示した台座部20と共通する。
【0042】
一方、
図5に示す台座部23は、その断面積が種結晶取付面23Bから蓋部側面23Aに向かうに従って徐々に小さくなっている部分23-1以外に、断面積の変化がない部分23-2を有する点は、
図2に示した台座部20と異なる。
断面積が種結晶取付面23Bから蓋部側面23Aに向かうに従って徐々に小さくなっている部分と断面積の変化がない部分とは一体に形成されたものでもよいし、例えば、カーボン接着剤等によって接合されたものであってもよい。
図5に示す台座部23は、断面積減少部と断面積不変部とがそれぞれ1個ずつの構成であるが、断面積減少部を少なくとも一つ有する構成であれば、その数に制限はない。
【0043】
図6に、断面積が種結晶取付面から蓋部側面に向かうに従って徐々に小さくなっている部分(以下、「断面積減少部」ということがある)と、断面積の変化がない部分(以下、「断面積不変部」ということがある)とからなる台座部の例を示す。
図6に示す台座部24は、種結晶取付面24Bの面積Sbが蓋部側面24Aの面積Saより大きい点は、
図3に示した台座部21と共通する。
一方、
図6に示す台座部24は、その断面積が種結晶取付面24Bから蓋部側面24Aに向かうに従って徐々に小さくなっている部分24-1以外に、断面積の変化がない部分24-2を有する点は、
図3に示した台座部21と異なる。
断面積が種結晶取付面24Bから蓋部側面24Aに向かうに従って徐々に小さくなっている部分と断面積の変化がない部分とは一体に形成されたものでもよいし、例えば、カーボン接着剤等によって接合されたものであってもよい。
図6に示す台座部24は、断面積減少部と断面積不変部とがそれぞれ1個ずつの構成であるが、断面積減少部を少なくとも一つ有する構成であれば、その数に制限はない。
【0044】
(炭化珪素単結晶の製造方法)
本発明の一実施形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法は、坩堝本体と蓋部とからなる坩堝と、蓋部の下面に支持される蓋部側面と、蓋部側面の反対側に種結晶が取り付けられる種結晶取付面とを有する台座部とを用い、坩堝内に炭化珪素単結晶からなる種結晶と炭化珪素原料とを配して、炭化珪素原料から昇華した昇華ガスを種結晶上に析出させて炭化珪素単結晶を成長させる炭化珪素単結晶を製造する方法において、台座部は黒鉛材料からなり、種結晶取付面の面積は蓋部側面の面積より大きく、台座部は、蓋部側面と種結晶取付面とを結ぶ鉛直方向に対して直交する断面積が種結晶取付面から蓋部側面に向かうに従って徐々に小さくなっている部分、及び、段階的に小さくなっている部分の少なくとも一方を有する。
【0045】
台座部と種結晶とはカーボン接着剤等を用いて接着(接合)することができる。カーボン接着剤は有機溶媒中に炭素(カーボン)粉末を分散させたものであり、溶媒を揮発させることにより炭素材料の特性を損なうことなく、接着(接合)できる。
【0046】
図7に、
図2で示した台座部20を用いた場合に、種結晶Sと台座部20との間に応力緩衝部材30を配置した構成を一例として示す。応力緩衝部材は、他の構成の台座部と種結晶Sとの間に配置してもよい。
【0047】
この炭化珪素単結晶の製造方法では、成長中、種結晶Sにかかる応力を低減する目的で、種結晶と台座部との間に配置する応力緩衝部材(応力緩衝層)を用いてもよい。
上述の通り、台座部20を構成する黒鉛(黒鉛材料)の線膨張係数は昇華法が用いられる常温~2400℃以上の広い温度範囲全てで種結晶を構成する炭化珪素の線膨張係数と一致するということはなく、黒鉛台座部と炭化珪素種結晶の接合面(接着面)において、せん断応力が生じる。せん断応力が大きくなると、接合不良により種結晶と台座との間に隙間が生じ、結晶のマクロ欠陥の発生につながる。
これに対して、種結晶Sと台座部20との間に応力緩衝部材30を備えることにより、かかるせん断応力を抑制することができ、炭化珪素種結晶のマクロ欠陥を低減することができる。
【0048】
応力緩衝部材は、ヤング率5GPa未満であることが好ましい。ヤング率5GPa未満である応力緩衝部材としては、カーボンシートなどを例示できる。
【0049】
この炭化珪素単結晶の製造方法では、種結晶Sとしてその外径が150mm以上であるものを用いることができる。また、外径が200mm以上であるものを用いることもできる。
【実施例0050】
(実施例1)
図2に示す構成(炭化珪素種結晶と台座部とが応力緩衝部材を用いずに直接接合(接着)した構成)をシミュレーションで再現し、材料の弾性域である1000℃の温度を与えた際に、炭化珪素種結晶と台座部との間に生ずるせん断応力を台座部の形状パラメータに基づいて評価した。
図8は台座部の形状パラメータを説明するための図であり、
図9は台座部が円柱形状である場合のせん断応力を1として、各形状で得られたせん断応力の相対値の結果である。
シミュレーションには汎用FEM解析ソフトウェアANSYS Mechanical(ANSYS,Inc.)を用いた。シミュレーションは計算負荷を低減するために、中心軸を通る任意の断面の半分の構造を扱い、二次元でのシミュレーションを実施した。シミュレーション条件は以下の通りである。
炭化珪素種結晶厚み:3mm
炭化珪素種結晶半径:80mm
r2(種結晶取付面の半径(
図8参照)):80mm
また、各種材料の物性値としては表1に示すように典型的な値を用いた。
【0051】
【0052】
図9において、横軸は形状パラメータ(r2-r1)/h、縦軸はせん断応力の相対値である。ここで、
図8に示すように、r1は蓋部側面の半径、r2は種結晶取付面の半径、hは台座部の高さ(厚み)である。
図9は、台座部の蓋部側面の半径r1及び台座部の高さhをそれぞれ40~80mm、20~80mmの範囲で10mmずつ変更して網羅的にシミュレーションを行った結果である。
【0053】
(r2-r1)/h>0.30より大きい範囲で、炭化珪素種結晶と台座部との間に生ずるせん断応力が10%以上抑制されていることがわかる。
炭化珪素種結晶と台座部との間に生ずるせん断応力が10%低下することで、接合(接着)部分での接合(接着)不良を抑制することができる。
【0054】
図10は、シミュレーションを行った形状のうち、r1=80mmの場合を除いて、実施例1の形状とそのシミュレーション結果を示したものである。
図10に示す結果に基づくと、半径r1が同じ場合、高さhが低いほどせん断応力は小さくなり、また、高さhが同じ場合、半径r1が小さいほどせん断応力は小さくなる。
高さhが20mm~40mmのときは、半径r1が40mm~70mmのいずれのときにも、せん断応力の相対値は0.90以下であった。すなわち、炭化珪素種結晶と台座部との間に生ずるせん断応力が10%以上抑制されている。
【0055】
(実施例2)
実施例2は、実施例1と比べて、炭化珪素種結晶と台座部との間に応力緩衝部材(応力緩衝層)を有する点が異なるが、それ以外の条件は共通する。応力緩衝部材の厚みは1mmであり、用いた物性値は表1に示した通りである。
図11は台座部の形状パラメータを説明するための図であり、
図12は台座部が円柱形状である場合のせん断応力を1として、各形状で得られたせん断応力の相対値の結果である。応力緩衝部材内に発生するせん断応力は高さ方向1/2の位置で評価した。
【0056】
図12は、台座部の蓋部側面の半径r1及び台座部の高さhをそれぞれ40~80mm、20~80mmの範囲で10mmずつ変更して網羅的にシミュレーションを行った結果である。
図9と同様に、横軸は形状パラメータ(r2-r1)/h、縦軸はせん断応力の相対値である。
図8と同様に、r1は蓋部側面の半径、r2は種結晶取付面の半径、hは台座部の高さ(厚み)である(
図11参照)。
【0057】
(r2-r1)/h>0.15より大きい範囲で、評価位置でのせん断応力が10%以上抑制されていることがわかる。
評価位置のせん断応力が10%低下することで、応力緩衝部材の裂け(クラック)を抑制することができる。
【0058】
図12ではx軸が0の時、せん断応力の値は1~3MPaの範囲となり、この範囲でのせん断応力10%の抑制は0.1~0.3MPaに相当する。
黒鉛の強度は材料によって幅があるが、応力緩衝部材としてヤング率5GPa未満となる黒鉛シート(カーボンシート)などを用いる場合、その引張強度は一般的に、数MPa程度である。せん断強度は、引張強度よりも小さく、なおかつ異方性を持つカーボンシードのような部材では、せん断強度はさらに小さくなる。そのため数MPa以下の応力抑制が、応力緩衝部材のクラックに十分に影響を持つと考えられる。
【0059】
図13は、シミュレーションを行った形状のうち、r1=80mmの場合を除いて、実施例2の形状とそのシミュレーション結果を示したものである。
図13に示す結果に基づくと、半径r1が40~70mm、かつ、高さhが20~80mmのときは、せん断応力の相対値は0.81以下であった。すなわち、炭化珪素種結晶と台座部との間に生ずるせん断応力が20%程度抑制されている。
また、半径r1が40mm~60mmで、かつ、高さhが20mm~50mmのときは、せん断応力の相対値は0.70以下であった。すなわち、炭化珪素種結晶と台座部との間に生ずるせん断応力が30%以上抑制されている。
【0060】
(実施例3)
実施例3は、実施例2と比べて、結晶取付面の半径r2を100mmに変更した点が異なるが、それ以外の条件は共通する。
【0061】
図14は、台座部の種結晶取付面の半径r1及び台座部の高さhをそれぞれ40~100mm、20~80mmの範囲で変更してシミュレーションを行った結果である。
【0062】
(r2-r1)/h>0.15より大きい範囲で、評価位置でのせん断応力が10%以上抑制されていることがわかる。
評価位置のせん断応力が10%低下することで、応力緩衝部材の裂け(クラック)を抑制することができる。
【0063】
図15は、シミュレーションを行った形状のうち、r1=100mmの場合を除いて、実施例3の形状とそのシミュレーション結果を示したものである。
図15に示す結果に基づくと、半径r1が40~90mm、かつ、高さhが20~80mmのときは、せん断応力の相対値は0.90以下であった。すなわち、炭化珪素種結晶と台座部との間に生ずるせん断応力が10%以上抑制されている。
また、半径r1が40mm~80mmで、かつ、高さhが20mm~50mmのときは、せん断応力の相対値は0.72以下であった。すなわち、炭化珪素種結晶と台座部との間に生ずるせん断応力が30%近く抑制されている。