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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103728
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】眼科用撮影装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/13 20060101AFI20220701BHJP
【FI】
A61B3/13 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218535
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000143282
【氏名又は名称】株式会社コーナン・メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】隅井 康博
(72)【発明者】
【氏名】矢野 裕嗣
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA01
4C316AA04
4C316AB16
4C316FA04
4C316FA06
4C316FY02
4C316FZ01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】強膜近傍の角膜内皮撮影を行う場合でも精度のよい撮影が可能な眼科用撮影装置を提供する。
【解決手段】被検眼の前眼部を観察及び撮影する前眼部撮影光学系と、被検眼に照明光を照射する照明光学系と、角膜内皮からの反射光を撮影する角膜内皮撮影光学系と、被検眼を正面固視させる中心固視灯61と、中心固視灯の周辺に配置される周辺固視灯と、アライメントを行うXYZ架台と、周辺固視をした時に、被検眼が正面固視をした時に設定されたアライメント位置を基準として、適切なアライメント位置になるように装置本体をXY方向にオフセット移動させるオフセット駆動制御手段と、オフセット値が設定されたオフセット値設定手段と、を備え、周辺固視灯は、中心固視灯の右側と左側にそれぞれ設けられており、右側の周辺固視灯に対して設定される右側オフセット値と、左側に対して設定される左側オフセット値とを異ならせる。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の前眼部を観察及び撮影する前眼部撮影光学系と、
被検眼に対して斜め前方から照明光を照射する照明光学系と、
前記照明光の被検眼の角膜内皮からの反射光を撮影する角膜内皮撮影光学系と、
被検眼を正面位置に固視させる中心固視灯と、
前記中心固視灯の周辺に配置される周辺固視灯と、
アライメント指標光に基づいて、被検眼に対する装置本体のアライメントを行うアライメント駆動部と、
被検眼が周辺固視をした時に、角膜内皮撮影に適切なアライメント位置になるように、前記アライメント指標光により設定される位置に対してオフセットされた位置に前記装置本体をX(左右)及び/又はY(上下)方向に移動させるオフセット駆動制御手段と、
前記オフセットさせるときのオフセット値が設定されたオフセット値設定手段と、を備え、
前記周辺固視灯は、中心固視灯の右側と左側にそれぞれ設けられており、右側の周辺固視灯に対して設定される右側オフセット値と、左側の周辺固視灯に対して設定される左側オフセット値とを異ならせていることを特徴とする眼科用撮影装置。
【請求項2】
周辺固視の時の前記適切なアライメント位置は、前記前眼部撮影光学系の撮影光軸と、角膜内皮の表面が直交する位置であることを特徴とする請求項1に記載の眼科用撮影装置。
【請求項3】
右眼用に設定されたオフセット値と、左眼用に設定されたオフセット値とは、前記右側オフセット値と、前記左側オフセット値とが入れ替わった値に設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の眼科用撮影装置。
【請求項4】
前記オフセット値は、第1オフセット値と第2オフセット値の組み合わせにより設定されており、
前記オフセット駆動制御手段は、
第1段階において、第1オフセット値によるX及び/又はY方向のアライメントと、Z(前後)方向の移動を行い、
第2段階において、第2オフセット値のみによる移動もしくは第2オフセット値によるX及びY方向のアライメントと、Z方向の移動を行うように制御することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の眼科用撮影装置。
【請求項5】
前記周辺固視灯は、前記中心固視灯の周辺に配置される第1周辺固視灯と、さらにその周辺に配置される第2周辺固視灯とを備えており、
前記第2周辺固視灯に対して設定されるオフセット値は、前記第1周辺固視灯に対して設定される第1オフセット値と、第1オフセット値から最終目的位置までの残りの第2オフセット値とにより構成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の眼科用撮影装置。
【請求項6】
前記第2段階におけるZ方向の駆動速度は、前記第1段階におけるZ方向の駆動速度よりも速くなるように設定されていることを特徴とする請求項4に記載の眼科用撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検眼の角膜の中心及び周辺の角膜内皮を撮影する眼科用撮影装置に関するものであり、特に、強膜に近い位置の角膜内皮を撮影したときの問題点を解決した眼科用撮影装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかる眼科用撮影装置として、下記特許文献1に開示される角膜細胞撮影装置がある。この装置は、中心固視灯のほかに周辺固視灯を備えており、被検眼に周辺を固視させることで、角膜内皮の周辺も撮影できるようにしている。この装置の基本的な構成は、被検眼の前眼部を観察及び撮影する前眼部撮影光学系と、被検眼に対して斜め前方から照明光を照射する照明光学系と、前記照明光の被検眼の角膜内皮からの反射光を撮影する角膜内皮撮影光学系と、を備えており、これらは装置本体に搭載されている。
【0003】
被検眼が中心固視灯を固視している状態では、装置本体の前眼部撮影光学系の撮影光軸は眼軸にアライメントされ、その撮影光軸上に角膜上皮中心と角膜内皮中心があり、照明光学系からの照明光は適切な方向に反射されて適切に角膜内皮を撮影することができる。また、この状態では、上皮表面と内皮表面は撮影光軸に直交する状態にアライメントされている。
【0004】
一方、被検眼に周辺固視をさせる場合は、被検眼が眼球旋回中心を中心として回転するが、角膜上皮中心と角膜内皮中心とは異なり同心円になっていない。そのため、アライメントされた撮影光軸は角膜上皮と直交していたとしても、撮影光軸と角膜内皮が直交しない状態に変化し、角膜内皮における照明光の反射方向も変化してしまう。そのため、角膜内皮撮影光学系による角膜内皮の撮影が適切に行われず精度の良い撮影を行うことができない。
【0005】
そこで、下記特許文献1においては、周辺固視をさせる場合には、被検眼の角膜内皮の曲率中心が前眼部撮影光学系の光軸上に位置するようにオフセット移動させて、撮影方向が角膜内皮面に直交するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2812421号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年は、臨床試験の現場などで、これまでの角膜内皮の撮影位置よりも更に強膜に近い周辺位置の角膜内皮を撮影したいという要望が増えつつある。そうすると、周辺の角膜内皮撮影を適切に行うために行っていたオフセットの移動量(オフセット値)を更に大きくしなければならなくなる。このオフセット移動量を大きくすることにより、次のような課題が生じる。
【0008】
例えば、特許文献1においては、中心固視灯の上下と左右に合計4つの周辺固視灯を配置した構成例が開示されている。これらの周辺固視灯に対して最適なオフセット値が設定されることになるが、右側の周辺固視灯(中心固視灯に対し4時の位置)と左側の周辺固視灯(中心固視灯に対し8時の位置)は、オフセットの方向を除けば同じオフセット値が設定されることになる。
【0009】
しかしながら、眼の光軸よりも視軸が鼻側に5゜程度傾斜しているという眼の構造上の理由により、左側と右側とでは、角膜内皮における反射方向は対称的ではなく、最適なオフセット値も同じではない。眼の光軸からそれほど距離が離れていない周辺固視灯の場合は、左右のオフセット値を同じにしても大きな問題は生じないが、強膜近傍の周辺固視灯の場合は、オフセット値そのものが大きくなるため悪影響が生じ、左右のオフセット値を同じにすると精度の良い内皮撮影を行えないという問題があった。
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、強膜近傍の角膜内皮撮影を行う場合でも精度のよい撮影が可能な眼科用撮影装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本発明に係る眼科用撮影装置は、
被検眼の前眼部を観察及び撮影する前眼部撮影光学系と、
被検眼に対して斜め前方から照明光を照射する照明光学系と、
前記照明光の被検眼の角膜内皮からの反射光を撮影する角膜内皮撮影光学系と、
被検眼を正面位置に固視させる中心固視灯と、
前記中心固視灯の周辺に配置される周辺固視灯と、
アライメント指標光に基づいて、被検眼に対する装置本体のアライメントを行うアライメント駆動部と、
被検眼が周辺固視をした時に、角膜内皮撮影に適切なアライメント位置になるように、前記アライメント指標光により設定される位置に対してオフセットされた位置に前記装置本体をX(左右)及び/又はY(上下)方向に移動させるオフセット駆動制御手段と、
前記オフセットさせるときのオフセット値が設定されたオフセット値設定手段と、を備え、
前記周辺固視灯は、中心固視灯の右側と左側にそれぞれ設けられており、右側の周辺固視灯に対して設定される右側オフセット値と、左側の周辺固視灯に対して設定される左側オフセット値とを異ならせていることを特徴とするものである。
【0012】
かかる構成による眼科用撮影装置の作用・効果を説明する。この装置は、被検眼が周辺固視をしたときの角膜内皮の撮影を行い、撮影された角膜内皮画像はモニター画面に表示される。適切な角膜内皮画像の撮影を行うためには、装置本体と被検眼が適切な位置関係になるようにアライメントを行う。被検眼に周辺固視をさせると、前眼部撮影光学系の光軸を角膜上皮と直交した状態にアライメントしても、角膜内皮とは直交しない状態に変化し、角膜内皮における照明光の反射方向も適正な方向から変化する。そこで、装置本体と被検眼の相対的な位置関係が適切になるように、前記アライメント指標光により設定される位置に対してオフセットされた位置に前記装置本体をX及び/又はY方向に移動させる。これにより、精度の良い角膜内皮撮影が行われる。
【0013】
オフセットさせるときのオフセット値はオフセット値設定手段に設定され、これに基づいてオフセットされた状態のアライメントが行われる。ここで、周辺固視をさせるときに右側と左側を固視させる場合がある。例えば、2時の方向を固視させる場合と10時の方向を固視させる場合である。この場合、固視する方向は対称的であっても、前述のように、眼の光軸よりも視軸が鼻側に5゜程度傾斜しているという眼の構造上の問題がある。そこで、右側の周辺固視灯に対して設定される右側オフセット値と、左側の周辺固視灯に対して設定される左側オフセット値とを異ならせて設定する。その結果、適切なオフセットを行うことができ、強膜近傍の角膜内皮撮影を行う場合でも精度のよい撮影が可能になる。
【0014】
本発明において、周辺固視の時の前記適切なアライメント位置は、前記前眼部撮影光学系の撮影光軸と、角膜内皮の表面が直交する位置であることが好ましい。
【0015】
かかる位置に設定することで、反射光を適切な方向に反射させることができ、精度の良い撮影が可能になる。
【0016】
本発明において、右眼用に設定されたオフセット値と、左眼用に設定されたオフセット値とは、前記右側オフセット値と、前記左側オフセット値とが入れ替わった値に設定されていることが好ましい。
【0017】
これにより、右眼と左眼の双方について適切なオフセット値を設定することができ、右眼と左眼の双方について精度の良い撮影が可能になる。
【0018】
本発明に係る前記オフセット値は、第1オフセット値と第2オフセット値の組み合わせにより設定されており、
前記オフセット駆動制御手段は、
第1段階において、第1オフセット値によるX及び/又はY方向のアライメントと、Z(前後)方向の移動を行い、
第2段階において、第2オフセット値のみによる移動もしくは第2オフセット値によるX及びY方向のアライメントと、Z方向の移動を行うように制御することが好ましい。
【0019】
強膜に近い角膜内皮を撮影する場合、そのオフセット値が大きくなる。角膜内皮を撮影するときには、装置本体をZ方向に前進させていくが、最初に角膜上皮の画像が現れ、角膜上皮の画像が消失後に角膜内皮の画像が現れる。すなわち、角膜上皮の画像が現れることを確認している。しかし、いきなり大きなオフセット値によるアライメントを行うと、角膜上皮での反射光の反射方向も大きく変わり、角膜上皮の画像確認ができなくなるか困難になる。そこで、全体のオフセット値を2段階に分けることで、確実に角膜上皮の画像を確認できるようにする。これにより、適切なオフセットをさせることができ、角膜内皮の撮影も確実に行うことができる。
【0020】
本発明に係る前記周辺固視灯は、前記中心固視灯の周辺に配置される第1周辺固視灯と、さらにその周辺に配置される第2周辺固視灯とを備えており、
前記第2周辺固視灯に対して設定されるオフセット値は、前記第1周辺固視灯に対して設定される第1オフセット値と、第1オフセット値から最終目的位置までの残りの第2オフセット値とにより構成されていることが好ましい。
【0021】
第1オフセット値と第2オフセット値を設定することで、装置本体の最終目的地への移動を2段階で行うことができる。前述のように、これにより、適切なオフセットをすることができ、角膜内皮の撮影も確実に行うことができる。
【0022】
本発明において、前記第2段階におけるZ方向の駆動速度は、前記第1段階におけるZ方向の駆動速度よりも速くなるように設定されていることが好ましい。
【0023】
角膜内皮の曲率は角膜上皮の曲率よりも小さくなっており、曲率中心も異なるため、角膜の厚さは周辺に行くほど厚くなっている。従って、周辺に行くほど角膜内皮の合焦点に到達する距離が長くなり、装置本体のZ方向の移動に要する時間が長くなる。そこで、第2段階におけるZ方向の駆動速度を速くすることで、角膜内皮への到達時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】眼科用撮影装置の一例である角膜撮影装置の使用状態を示す図
図2】角膜撮影装置の主要な光学部品配置を示す平面図
図3】角膜撮影装置の主要な光学部品配置を示す裏面図
図4】角膜撮影装置の縦断面図
図5】角膜撮影装置の正面図
図6】角膜撮影装置の制御ブロック図
図7】角膜中心を撮影するときの被検眼と装置本体の関係を示す図
図8】角膜周辺を撮影するときの被検眼と装置本体の関係を示す図
図9】角膜周辺を撮影するときの被検眼と装置本体の関係を示す図
図10】右眼について設定されるオフセット値を示す図
図11】左眼について設定されるオフセット値を示す図
図12】正面固視をしたときの視軸のずれを説明する図
図13】周辺固視をしたときの視軸のずれとオフセット値を説明する図
図14】周辺固視をしたときの視軸のずれとオフセット値を説明する図
図15】2段階オフセットを行う理由を説明する図
図16】角膜内皮撮影動作を示すフローチャート
図17A】角膜上皮出現を表す撮影画像
図17B】角膜上皮出現を表す撮影画像
図17C】角膜上皮消失を表す撮影画像
図17D】角膜内皮出現を表す撮影画像
図17E】角膜内皮出現を表す撮影画像
図17F】撮影された角膜内皮画像
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る眼科用撮影装置の好適な実施形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明に係る眼科用撮影装置の一例である角膜撮影装置の使用状態を示し、被検者との位置関係を示す模式図である。図2は、図1に示す角膜撮影装置の主要な光学部品配置を示す平面図である。図3は、図2に示す角膜撮影装置の裏面図である。図4は、角膜撮影装置の縦断面図である。図5は、角膜撮影装置の正面図である。
【0026】
<装置の基本構成>
本装置は、光学系等の主要な部品が搭載される装置本体1を備えている。
装置本体1は、XYZ架台(アライメント駆動部)2に搭載され、さらにこのXYZ架台2はベース3の上に搭載されている。XYZ架台2により、装置本体1は、X方向(被検者から見て左右方向)、Y方向(被検者から見て上下方向)、Z方向(被検者から見て前後方向)に不図示の機構により移動させることができる。
【0027】
図1に示すように、装置本体1は、被検者が額当て部70に額を当て、さらに顎乗せ台71に顎をのせることで、被検者の顔10を固定した状態で利用される。
【0028】
次に、図2図4を利用して本装置1の内部の光学系を説明する。これらの図に示す構成は、あくまでも一実施形態を示すものであり、この構成に限定されるものではない。
【0029】
図2に示すように、本実施形態の本装置1には、内部に角膜内皮撮像光学系20、照明光学系30、前眼部撮影光学系40を備えている。前眼部撮影光学系40は、さらにアライメント指標光学系50と、固視灯投影光学系60を有している。角膜内皮撮像光学系20の光軸(以下、撮影光軸L1)と、照明光学系30の光軸(以下、照明光軸L2)とが交差しており、この交点が撮像光学系20の合焦点Fに対応する。合焦点Fは、XYZのアライメントにより角膜内皮上に位置するように、XYZ架台2を駆動する。
【0030】
前眼部観察光学系40の光軸(以下、観察光軸L3)が、撮影光軸L1と照明光軸L2を二分する位置となるように、各光学系が配置されている。すなわち、観察光軸L3が中心部に位置している。これらの光学系は、台板4の上に搭載されている。台板4の形状は、例えば、平面視で正方形あるいは長方形であり、金属や樹脂等の適宜の素材により形成される。
【0031】
角膜内皮撮像光学系20は、照明光学系30により放射された光が、被検眼の角膜面で反射された光を受光する光学系である。被検眼に近い側から、撮影光軸L1に沿って、対物レンズ21、マスク22、折り曲げミラー23、折り曲げミラー24、調整ガラス25、上皮分離フィルター26、折り曲げミラー27、リレーレンズ28、リレーレンズマスク29、赤外カットフィルター200、内皮撮影カメラ201の順に配置されている。対物レンズ21は、台板4から被検眼側に飛び出したレンズ鏡筒210の内部に保持されている。
【0032】
撮影光軸L1と照明光軸L2の交点、すなわち、合焦点Fを被検眼の角膜上に一致させたとき、角膜表面で反射した光が角膜内皮撮像光学系20の光路を介して内皮撮影カメラ201により撮影される。
【0033】
照明光学系30は、被検眼に対して斜め前方から照明光を照射する。被検眼に近い側から、照明光軸L2に沿って、対物レンズ31、折り曲げミラー32、照明スリット33、集光レンズ34、照明光束マスク35、内皮撮影用LED36(照明光源)の順に配置されている。対物レンズ31は、台板4から被検眼側に飛び出したレンズ鏡筒310の内部に保持されている。この構成により、内皮撮影用LED36からのスリット光が角膜表面に照射され、その反射光が内皮撮影カメラ201により撮影される。
【0034】
アライメント指標光学系50は、アライメント指標光の光源としての赤外LED47が設けられている。アライメント指標光学系50の光軸L4は、観察光軸L3でもあり、被検眼に近い側から、観察光軸L3,光軸L4に沿って、前面防塵ガラス41、ハーフミラー42、固視灯レンズ43、コールドミラー44、絞り45、集光レンズ46、赤外LED47の順に配置されている。
【0035】
アライメント指標光は、被検眼の前眼部にその正面から照射される。アライメント指標光の角膜表面における反射像であるプルキンエ像は、後述の前眼部撮影カメラ52(図3図4参照)により撮影される。
【0036】
図4は、前眼部撮影カメラ52までの光学系の部品配置を示す。観察光軸L3は、ハーフミラー42の位置で分岐し、台板4の下方に設定された光軸L6に沿って光学系が配置される。被検眼に近い側から、観察光軸L3と光軸L6に沿って、前面防塵ガラス41、ハーフミラー42、折り曲げミラー48、光学フィルター49、結合レンズ53、防塵ガラス51、前眼部撮影カメラ52の順に配置される。光軸L6に沿って配置される部品は、台板4の裏面に搭載される。また、台板4には開口部4aが形成され、ハーフミラー42で分岐した光路を前眼部撮影カメラ52まで導くようにしている。
【0037】
前眼部撮影カメラ52は、撮像光学系20及び照明光学系30の前部(被検者側)に固定配置された前眼部照明用のLED(不図示)からの照明によって照明された被検眼の前部画像も撮影する。前眼部撮影カメラ52で撮影された画像は、モニター80(図6参照)に送られ、前眼部観察光学系40で撮影された前眼部像が、前述のプルキンエ像と共に表示される。プルキンエ像が前眼部撮影カメラ52の表示画面上の所定位置に達するように、XYZ架台2をXY方向に移動させることで観察光軸L3を角膜頂点に一致させる(アライメント動作)。
【0038】
図2に戻り、固視灯投影光学系60は、被検者に対して被検眼を固視させるための指標光を発する中心固視灯61を有する。固視灯投影光学系60は、コールドミラー44により、光軸L4から分岐した光路に沿って、絞り62、中心固視灯61が配置される。コールドミラー44は、赤外LED47からの赤外光を透過させ、中心固視灯61からの可視光を反射させる。
【0039】
コールドミラー42で反射された指標光は、固視灯レンズ43、ハーフミラー42を通り、被検眼に投影される。中心固視灯61は、被験者の視線を正面方向に維持させるために利用される。
【0040】
<中心固視灯及び周辺固視灯>
本装置は、中心固視灯61のほかに周辺固視灯を備えているので、それを説明する。図5は、角膜撮影装置の正面図を示す。対物レンズ21,31を挟むように第1周辺固視灯600が6カ所設けられている。時計の12時、2時、4時、6時、8時、10時の位置に、第1周辺固視灯600a,b,c,d,e,fが配置される。これらの第1周辺固視灯600は、観察光軸L3の周囲に配置され、観察光軸L3から等距離の位置にある。特定の位置を示さない場合は、単に符号600で示す。これらの第1周辺固視灯600はLEDであり、基板610の上に配置される。これらの第1周辺固視灯600は、中心固視灯61の周囲に配置されるものである。
【0041】
第1周辺固視灯600の更に外側の周囲には第2周辺固視灯601が6カ所設けられている。時計の2時、3時、4時、8時、9時、10時の位置に、第2周辺固視灯601b,g,c,e,h,fが配置される。特定の位置を示さない場合は、単に符号601で示す。これらの第2周辺固視灯601はLEDである。
【0042】
これらの周辺固視灯600,601を搭載するために第1基板610と第2基板611,612が配置されている。第1基板610は、対物レンズ21,31を挟むように配置され、6つの第1周辺固視灯600と、2つの第2周辺固視灯601b,fが配置される。第2基板611は、対物レンズ31の右側に配置され、第2周辺固視灯601g,cが配置される。第2基板612は、対物レンズ21の左側に配置され、第2周辺固視灯601e,hが配置される。
【0043】
被検眼に周辺固視をしてもらうときは、第1周辺固視灯600と第2周辺固視灯601のいずれかを点灯させる。周辺固視灯を点灯することで被検眼にその方向を固視させて周辺の角膜内皮の撮影を可能にする。特に、強膜近傍の角膜内皮を撮影するときは、第2周辺固視灯601を点灯させる。
【0044】
<角膜撮影装置の制御ブロック>
図6は、角膜撮影装置の制御ブロックを示す図である。装置本体1はXYZ架台2(アライメント駆動部)により、X方向、Y方向、Z方向に独立して駆動させることができる。制御部8は、コンピュータを中核として構成されるものであり、角膜撮影装置の各部の動作を制御する。図6には、制御部8の主要な機能のみを図示する。
【0045】
駆動制御手段81は、XYZ架台2を駆動してXY方向のアライメント動作やZ方向の移動(合焦動作)を行うものである。これにより、被検眼の位置と装置本体1の光学系を所定の位置に調整して角膜内皮撮影を正しく行えるようにする。具体的には、アライメント指標光によるプルキンエ像を検出して、その位置に、装置本体1の観察光軸L3を移動させることでアライメントが行われる。
【0046】
駆動制御手段81は、オフセット駆動制御手段82としても機能する。周辺固視をする場合は、オフセット値に基づいて、XYZ架台2をXY方向に駆動してアライメントさせる。オフセットの詳細は後述する。
【0047】
オフセット値設定手段83は、オフセットするためのオフセット値を設定する。オフセット値は、あらかじめ実験的に求めておいた値やシミュレーションにより求めておいた値を記憶手段に保存しておくことができる。オフセット値の詳細は後述する。
【0048】
固視灯点灯制御手段84は、中心固視灯61、第1周辺固視灯600、第2周辺固視灯601の点灯・消灯の制御を行う。具体的には、作業者がモニター画面を見ながら撮影したい角膜内皮の位置に対応した固視灯を選択する。
【0049】
表示制御手段85は、モニター80に表示される内容を制御する。モニター80には、撮影された角膜内皮の拡大画像を表示したり、撮影された前眼部像の表示が行われる。また、角膜内皮細胞の解析方法や解析結果を表示させる。
【0050】
操作部89は、マウス等により構成され、モニター80の表示内容や装置本体1に対する操作などをモニター画面を介して行うことができる。また、点灯させるべき固視灯を指定することができる。
【0051】
<オフセット>
次に、オフセットについて説明する。まず、角膜内皮撮影を行うときの被検眼と装置本体1との位置関係を説明する。図7は、角膜の中心を撮影する場合の位置関係を示し、図8図9は、周辺固視をしたときの位置関係を示す。図7図9は、オフセットを分かりやすく説明するために、眼の光軸と視軸にズレがないとして説明する。実際は、後述するように眼の光軸と視軸にはズレがある。図7図9において、説明の便宜上、寸法関係等は誇張して描かれている。
【0052】
図7において、被検眼は正面を向いた状態であり、中心固視灯61を固視している。固視方向は符号Sで示されており、観察光軸L3と一致している。この観察光軸L3上に眼球旋回中心O、角膜内皮中心Q1、角膜上皮中心Q2、瞳孔中心P1がある。瞳孔中心Pは光彩Iの中心に位置する。角膜11は角膜上皮11aと角膜内皮11bで囲まれたエリアに存在する。なお、図示はしないが、角膜内皮11bの曲率半径は角膜上皮11aの曲率半径よりも小さく、その曲率中心Q1,Q2は図7に示すように異なっている。
【0053】
角膜上皮11aと角膜内皮11bは、曲率中心が異なっていると共に、曲率半径は角膜内皮11bの方が小さいために、角膜厚さは周辺に行くほど厚くなるような形状を有している。
【0054】
被検眼が正面固視をした状態では、角膜内皮11bの撮影位置ERは、観察光軸L3上に位置している。そして、角膜上皮11a及び角膜内皮11bと観察光軸L3は直交する状態に装置本体1がアライメントされている。この状態で照明光学系30のスリット光による照明光を照射し、その反射光を内皮撮影カメラ201により捕らえることで角膜内皮11bの撮影を行うことができる。得られた画像は静止画または動画であり、角膜内皮細胞の拡大画像になる。
【0055】
また、照明光学系30からの照射光が角膜上皮11aの照射する方向R1と反射する方向R2は、観察光軸L3に対して対称である。すなわち、入射角度と反射角度は等しい。また、角膜内皮11bに照射する方向R3と反射する方向R4も観察光軸L3に対して対称である。これは、観察光軸L3に対して角膜上皮11aおよび角膜内皮11bが直交しているからである。
【0056】
図8は、被検眼が周辺固視したときの状態を示している。なお、説明を分かりやすくするために寸法関係は誇張して描いている。被検眼は眼球旋回中心Oを中心として旋回する。固視方向Sは観察光軸L3に対して傾斜した状態になる。固視方向Sを示す直線上に眼球旋回中心O,角膜内皮中心Q1、角膜上皮中心Q2、瞳孔中心Pが存在する。
【0057】
周辺固視を行うと、オフセットを行わない場合は、図8に示す位置に装置本体1の観察光軸L3がアライメントされることになる。すなわち、アライメント指標光により装置本体1がアライメントされる位置では、角膜上皮11aと観察光軸L3が直交する状態になる。しかし、角膜内皮11bと観察光軸L3とは直交しない状態になる。そのため、角膜内皮11bでの反射光が適切な方向に反射せず適切な角膜内皮撮影が行えなくなる。
【0058】
図8に示すようにアライメントされた状態では、角膜上皮11aでの入射角度θ1と反射角度θ2は等しいが、角膜内皮11bでの入射角度α1と反射角度α2では、反射角度α2の方が大きくなる。そうすると、反射角度は、角膜内皮撮影光軸L1から外側にはずれた方向に反射するため、精度のよい角膜内皮撮影を行えなくなる。
【0059】
そこで、装置本体1を図8に示す位置よりもXY方向にオフセットさせた位置に観察光軸L3をアライメントさせ、角膜内皮中心Q1上に観察光軸L3が位置するようにしている。すなわち、オフセットによるアライメントを行う。図9は、装置本体1のオフセットによるアライメントを完了した状態を示す。なおオフセットの方向は、X方向のみ、Y方向のみ、XY方向のいずれかであり、どの周辺固視灯を固視させるかによる。この状態では、観察光軸L3と角膜内皮11bの交点での入射角度α1と反射角度α2は等しくなり、適切な方向に照明光が反射される。
【0060】
<オフセット値の設定>
次に、オフセット値の設定について説明する。図10は右眼について設定されるオフセット値であり、図11は左眼について設定されるオフセット値である。図10において、図5で説明した各固視灯の配置を模式的に示している。枠で囲んだ数値が、各固視灯に対応して設定されるオフセット値である。オフセット値は、画像のピクセル数として設定および保存されている。なお、オフセット値をどのような形態で設定および保存するかは、適宜決めることができる。オフセット値とは、図9に示すように角膜上皮11aの頂点を通る直線と、角膜内皮11bの頂点を通る直線との距離に対応する値である。
【0061】
図10及び図11に示すように第1周辺固視灯600に関しては、1つのオフセット値のXYの組み合わせが保存されている。例えば、2時の位置にある第1周辺固視灯600bについてはX=+7,Y=-7である。オフセット方向に関しては+は下方向、左方向、-は上方向、右方向であるが、装置本体1の移動方向に関しては、+は上方向、右方向、-は下方向、左方向となる。
【0062】
第2周辺固視灯601に関しては、2つのオフセット値の組み合わせが保存されている(符号OF1,OF2で示す。)。例えば、2時の位置にある第2周辺固視灯601bについては、XY=(+7、-7)とXY=(+18、+3)が保存されている。前者が第1オフセット値であり、後者が第2オフセット値である。これらをトータルしたオフセット値XY=(+25、+10)が第2周辺固視灯601bを固視した場合のオフセット値になる。なお、第1オフセット値については、同じ2時の方向にある第1周辺固視灯600bのオフセット値と同じ値が設定される。他の位置にある第2周辺固視灯601についても同様である。3時の位置にある第2周辺固視灯601gは、X方向のオフセット値のみが設定され、Y方向にはオフセットしない。9時の位置についても同様である。
【0063】
図10を見ても分かるように、2時の位置の第2周辺固視灯601gに設定されるオフセット値(右側オフセット値)と10時の位置の第2周辺固視灯601hに設定されるオフセット値(左側オフセット値)は異なる。2時と10時の位置は、中心に対して対称な位置であるが、数値を異ならせている。その理由を以下図を用いて説明する。
【0064】
<左右オフセット値の違い>
図12は、右眼が正面固視をしたときの光軸と視軸のずれを表す模式図である。図13は、右眼が周辺固視をしたときの光軸と視軸のずれを表す模式図である。図の下側は耳側であり上側が鼻側である。固視方向Sと瞳孔が向いている方向(眼の光軸)Lは一致せず、瞳孔中心Pは固視方向Sを示す直線上にない。その理由は、人の眼の構造に起因するものであり、固視している方向(視軸)Sが瞳孔の向いている方向L(眼の光軸)に対して鼻側に5゜程度ずれているからである。図12図15において、説明の便宜上、寸法関係等は誇張して描かれている。
【0065】
図12において、固視方向を示す直線Sの上に角膜内皮中心Q1がある。瞳孔中心Pは、この直線上になく、Lの方向を向いている。これは眼球旋回中心と角膜内皮中心Q1と瞳孔中心Pを結ぶ直線の方向である。角膜内皮11bの撮影位置ERは、固視方向Sと角膜内皮11bの交点になる。照射光の角膜内皮11bの撮影位置ERにおける入射方向R3と反射方向R4を示している。入射方向R3と反射方向R4は、観察光軸L3(固視方向S)に対して対称的である。
【0066】
図13は、右眼が周辺固視をした状態を表わす。同じく固視方向Sと瞳孔が向いている方向Lとのずれ角度θは5゜程度になる。固視方向Sの周辺固視灯601が点灯している状態である。観察光軸L3は角膜内皮中心Q1を通るように、装置本体1はオフセットされた状態でアライメントされている。観察光軸L3と角膜内皮11bとの交点ERが撮影位置になる。この交点ERにおいて、入射方向R3と反射方向R4は観察光軸L3に対して対称的である。図13において、L3’はオフセットがない状態での装置本体1のアライメント位置になる。L3’は、角膜上皮中心Q2を通る直線である。L3はオフセットがある状態での装置本体1のアライメント位置になる。L3とL3’の距離がオフセット量OF(R)になる。
【0067】
図14は、図13と同じく右眼が周辺固視をした状態である。図13は、3時の方向を周辺固視した状態を示し、図14は、9時の方向を周辺固視した状態を示す。すなわち、周辺固視をする方向が左右対称の状態を対比している。なお、2時と10時の方向を対比した場合も同様である。撮影位置ERにおいて、入射方向R3と反射方向R4は、観察光軸L3に対して対称となるように、装置本体1がオフセットされた状態でアライメントされている。図13と同様にL3とL3’の距離がオフセット量OF(L)になる。図14に示すオフセット量OF(L)は図13に示すOF(R)よりも小さくなる。
【0068】
図13図14において、周辺固視する方向は対称であるが、最適なオフセット値OF(R)とOF(L)は等しくならない。これは前述のように固視方向Sと瞳孔が向いている方向Lとが角度θだけズレているからである。このように、右側オフセット値と左側オフセット値とを異ならせることで、最適な装置本体1のアライメントをさせることができる。
【0069】
仮に、左右のオフセット値を等しくした場合、例えば、最適な右側オフセット値と最適な左側オフセット値の平均値とした場合、角膜内皮11bからの反射光の反射方向R4が適切な方向に設定されず、精度のよい角膜内皮画像を撮影することが困難になる。
【0070】
図10図11に示すように、第2周辺固視灯601に関しては、右側オフセット値と左側オフセット値とを異ならせている。なお、第1周辺固視灯600に関しては、右側オフセット値と左側オフセット値の設定値は同じにしている。第1周辺固視灯600の場合は、オフセット値が小さいので、左右の最適値に設定しなくても、反射方向R4が大きくズレないので画質に対する影響は問題ない。
【0071】
なお図10は右眼に関するオフセット値を示し、図11は左眼に関するオフセット値を示すが、右側オフセット値と左側オフセット値とが入れ替わった数値に設定されている。図13図14は右眼に関しての説明であったが、左眼に関しても同様に考えることができる。これにより、右眼と左眼の両方について適切にオフセット移動をさせることができる。
【0072】
また、第2周辺固視灯601に関しては、第1オフセット値と第2オフセット値が設定されている理由を説明する。これは、いきなりトータルのオフセット値に基づいてアライメントをするのではなく、段階的にオフセットをさせるためである。図15において、オフセットがない状態での装置本体1の観察光軸をL3-1で示し、最終目的地である観察光軸をL3-3で示し、中間位置にある観察光軸をL3-2で示す。
【0073】
角膜内皮撮影を行うときは、装置本体1をZ方向に前進させていくと、それにあわせて合焦点も前進していき、最初に角膜上皮画像があらわれ、次に角膜内皮画像が現れる。すなわち、角膜上皮画像を確認してから角膜内皮画像の撮影を開始するという手順を踏んでいるため、角膜上皮画像の確認が重要である。
【0074】
ところが、いきなりトータルのオフセット値に基づいて装置本体1のアライメントを行うと、その反射方向R2が角膜上皮画像を確認するためには適切な方向ではく、反射方向R2が内側になる(図15においてθ1>θ2)。その結果、光束のケラレが生じて角膜上皮画像を捕らえることが困難になる。例えば、角膜上皮画像の消失が予定より早くなったり、全く捕らえられなくなったりする可能性がある。
【0075】
そこで、第2周辺固視灯601を固視させるようなオフセット値が大きくなる場合は、第1段階と第2段階に分けて装置本体1のアライメント及び移動を行うようにする。図15には、第1段階のオフセットによりアライメントされた装置本体1の観察光軸L3―2が図示されている。オフセットがない状態の位置L3-1と最終目的地のL3-3の中間位置が図示されている。この中間位置だと、角膜上皮における反射角度R2’は、角膜上皮の画像を捕らえるのに問題のない状態になる(θ2’>θ2)。
【0076】
なお、第1周辺固視灯600を点灯させる場合には、オフセットを2段階で行う必要はなく、最終目的地のオフセット値に基づいてアライメントすればよい。
【0077】
<角膜内皮撮影動作>
次に、本発明に係る角膜撮影装置を用いて角膜内皮撮影を行うときの動作を図16のフローチャートを用いて説明する。
【0078】
周辺固視灯を点灯して被検眼に周辺固視をさせる。ここでは、強膜に近い位置の角膜内皮を撮影するために第2周辺固視灯601のいずれか1つを点灯させるものとする。次に、モニター画面の中心位置から第1オフセット値の分オフセットされた位置にプルキンエ像が来るように装置本体1のXY方向のアライメントを開始する(S10)。ここで2時の位置にある第2周辺固視灯600bを点灯させたと仮定して説明する。第1段階のオフセット値は、図10に示すようにX=+7、Y=+7である。オフセット値は、オフセット値設定手段83にあらかじめ設定・保存されており、このオフセット値を取り込んだ状態でアライメントが開始される。XY方向のアライメントを行いながらZ方向の移動も行う(S10)。
【0079】
なお、上記のプルキンエ像の判別に関し、一般的に強膜に近い角膜周辺部は表面がきれいな鏡面になっておらず、アライメント指標光が乱反射してノイズ光が発生し、どの輝点がプルキンエ像か判別しにくくなる場合がある。この時は、瞳孔中心Pに近い輝点をプルキンエ像と判別する。その他、プルキンエ像の楕円率といった形状や明るさなどの要素を加味してプルキンエ像の判別を行い、判別精度を向上させることもできる。
【0080】
モニター画面で観察される画像を図17A図17Eに時系列で示す。Z方向に移動していくと、角膜上皮画像が出現する(S12及び図17A図17B)。図17A図17Bにおいて、角膜上皮をCO1で示す。モニター80により内皮撮影カメラ201により撮影される画像を観察する。Z方向に前進するにつれて、角膜上皮画像は右方向に移動していき、角膜上皮が消失する(S14及び図17C)。角膜上皮は白い帯の形で確認することができる。以上によりXY方向のアライメントを終了し(S16)、Z方向の移動も停止する(S18)。この状態における観察光軸L3は図15に示すL3-2にある。
【0081】
次に、第2段階のオフセット移動を行う(S20)。オフセット値はX=+18、Y=+3である。第1段階のオフセット値と合わせてトータルのオフセット値はX=+25、Y=+10となる。観察光軸L3は図15のL3-3の位置に設定される。
【0082】
次に不図示の前眼部照明を点灯させる(S22)。この状態で前眼部撮影カメラ52により前眼部の撮影を行う(S24)。撮影された前眼部像は必要に応じてモニター画面に表示させ記憶装置に保存する。次いで、前眼部照明を消灯する(S24)。
【0083】
次に、装置本体1をZ方向に前進させると共に、内皮撮影カメラ201による動画撮影を開始する。撮影された動画は適宜記憶装置に保存される。保存された動画から静止画を抽出して角膜内皮細胞の確認や分析等が行われる。なお、第2段階におけるZ方向の駆動速度は、第1段階よりも速くなるように設定されている。その理由は、角膜の厚さは中心よりも周辺の方が厚くなっているため、内皮撮影位置まで到達する距離が長くなるからである。図13及び図14に周辺部の厚さをd2、中心部の厚さをd1で示すが、d2>d1の関係がある。
【0084】
第2段階における駆動速度は固定された速度であってもよいし、可変速度であってもよい。駆動速度としては、例えば、1.2倍、1.5倍のように設定することができる。可変にする場合は、1.2~1.5倍の間で設定することができる。可変にする場合は、あらかじめプログラムされた速度曲線により制御してもよい。
【0085】
装置本体1のZ方向の移動に伴い角膜内皮が検出される。撮影された画像は図17D図17Eに示される。角膜内皮はCO2で示される。更にZ方向に前進させると角膜内皮が消失する(S28)。撮影された角膜内皮画像は図17Fに示される。
【0086】
角膜内皮細胞の画像としては、動画より抽出した複数枚の画像の中から最も鮮明に撮影された最適画像を選択する。周辺固視時の内皮細胞画像は、正面固視時の内皮細胞画像と明るさや見え方に違いがある。このため、最適な画像を選択する条件は、周辺固視時と正面固視時とで異なる。
【0087】
Z方向の移動に伴い、角膜内皮が消失した後、Z方向の移動を反転させる(S28)。反転させるときの駆動速度も同様に第1段階よりも速い速度で行われる。
【0088】
所定の撮影時間が経過したか否かを判断する(S30)。経過した場合は、角膜内皮の撮影は終了する(S32)。
【0089】
本実施形態において、第2段階のZ方向の移動ではXY方向のアライメントは行っていないが、これを行うようにしてもよい。
【0090】
<別実施形態>
眼科用撮影装置の具体的な構成は、本実施形態の構成に限定されず、種々の構成を採用することができる。例えば、光学系については特開2020-14761号公報に開示されるものの他、特許第2812421号等に開示される光学系の配置を採用してもよい。本実施形態では前眼部撮影カメラ52と内皮撮影カメラ201は別々のカメラとして設けられているが、共通のカメラを使用できるような光学系を採用してもよい。
【0091】
本実施形態では、第1周辺固視灯600と第2周辺固視灯601の配置個数は、それぞれ6個であるが、これに限定されるものではなく、配置個数は適宜設定することができる。また、時計の何時の位置に配置するかについても適宜設定することができる。
【0092】
本実施形態では、第1オフセット値は、第1周辺固視灯600について設定されたオフセット値を用いているが、これに限定されるものではない。第1周辺固視灯600に設定されたオフセット値とは関係なく、第1オフセット値と第2オフセット値を設定してもよい。例えば、1:1あるいは1:2など適宜の比率で設定してもよい。また、第1周辺固視灯600については、オフセット値は1つのみ設定されているが、第2周辺固視灯601と同様に第1オフセット値と第2オフセット値を設定してもよい。
【0093】
適切なアライメント位置になるように装置本体1をX(左右)及びY(上下)方向に移動させており、本実施形態の説明では、角膜内皮11bの表面と観察光軸L3が直交する状態にしている。被検眼の個体差が存在するため、本発明としては、厳密な直交状態でなくてもよい。角膜内皮撮影に支障がない程度まで移動させる構成でもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 装置本体
2 XYZ架台(アライメント駆動部)
11 角膜
11a 角膜上皮
11b 角膜内皮
20 角膜内皮撮像光学系
30 照明光学系
40 前眼部撮像光学系
50 アライメント指標光学系
52 前眼部撮影カメラ
60 固視灯投影光学系
61 中心固視灯
600 第1周辺固視灯
601 第2周辺固視灯
8 制御部
81 駆動制御手段
82 オフセット駆動制御手段
83 オフセット値設定手段
L1 撮影光軸
L2 照明光軸
L3 観察光軸
O 眼球旋回中心
P 瞳孔中心
Q1 角膜内皮中心
Q2 角膜上皮中心
S 固視方向
ER 撮影位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図17C
図17D
図17E
図17F