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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103749
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】糊剤組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 23/12 20060101AFI20220701BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20220701BHJP
   D06M 13/00 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
D06M23/12
D06M15/55
D06M13/00
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218576
(22)【出願日】2020-12-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】596173779
【氏名又は名称】穂高株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】南口 広史
【テーマコード(参考)】
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4L031AB01
4L031DA12
4L033AA02
4L033AA07
4L033AB01
4L033AB05
4L033AC10
4L033AC12
4L033BA00
4L033BA08
4L033CA49
(57)【要約】
【課題】本願は、付与した香りの持続性を高めることができる技術を提供することを課題とする。
【解決手段】糊剤と;アニオン性を帯びたマイクロカプセルと;下記式1:

この際、Rと、Rと、Rとは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である、で示される化合物Aと、下記式2:

この際、Rと、Rと、Rとは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である、で示される、前記化合物Aとは異なる化合物Bと、下記式3:

で示される化合物との重縮合物と;水と;を混合することを有し、前記重縮合物の添加を、前記マイクロカプセル剤の添加の後に行うことを有する、糊剤組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糊剤と;
アニオン性を帯びたマイクロカプセルと;
下記式1:
【化1】

この際、Rと、Rと、Rとは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である、
で示される化合物Aと、
下記式2:
【化2】

この際、Rと、Rと、Rとは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である、
で示される、前記化合物Aとは異なる化合物Bと、
下記式3:
【化3】

で示される化合物との重縮合物と;
水と;
を混合することを有し、
前記重縮合物の添加を、前記マイクロカプセルの添加の後に行うことを有する、糊剤組成物の製造方法。
【請求項2】
前記マイクロカプセルが、芳香性抗菌剤を内包する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記芳香性抗菌剤が、ヒノキチオールである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記化合物Aにおいて、Rと、Rと、Rの少なくとも2つが水素原子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記化合物Bにおいて、Rと、Rと、Rの少なくとも2つが炭素数1~3のアルキル基である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記化合物Bにおいて、Rと、Rと、Rの2つが炭素数1~3のアルキル基である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記アルキル基が、メチル基である、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記縮合物が、アンモニアと、エピクロルヒドリンと、ジメチルアミンとの重縮合物である、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記アニオン性を帯びたマイクロカプセルの固形分の質量に対する前記重縮合物の固形分の質量が0.1質量%以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記アニオン性を帯びたマイクロカプセルの固形分の質量に対する前記重縮合物の固形分の質量が0.2質量%以上である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法によって糊剤組成物を得;当該糊剤組成物を、繊維製品に接触することを有する、繊維製品の糊付け加工品の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法によって繊維製品の糊付け加工品を得、当該繊維製品の糊付け加工品をプレス折り加工することを有する、繊維製品のプレス加工品の製造方法。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法によって得られる糊剤組成物。
【請求項14】
請求項13に記載の糊剤組成物が繊維製品に糊付けされてなる、繊維製品の糊付け加工品。
【請求項15】
請求項14に記載の糊付け加工品をプレス折り加工することによってなる、繊維製品のプレス加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糊剤組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維製品に抗菌性を付与したものとしては、例えば、特許文献1に、抗菌性を有する銀を銀スルホネートの形で含有する繊維が開示されており、これを抗菌性の繊維製品に利用できるとしている。
【0003】
しかしながら、このように繊維に抗菌性を持たせた場合、水洗いできる一般的な繊維製品では洗濯を行うにつれその抗菌性が低下する問題があった。さらに、こうした繊維を用いて繊維製品とした後に同様の抗菌性を付与することはできないものであった。
【0004】
また、特許文献2には、第4級アンモニウム塩基を有するキトサンと皮膜形成能を有する樹脂とが繊維布帛の表面に固着している抗菌性繊維布帛が開示されており、洗濯耐久性を有するとしている。
【0005】
しかしながら、このような繊維布帛を加工した繊維製品においても繰り返し洗濯を行ううちに抗菌性が劣化する問題があり、抗菌性が低下した際に、一般のクリーニング店や家庭で特殊な抗菌処理を行うのは困難であった。
【0006】
上記のような問題を解決すべく、本来抗菌性を持たない通常の繊維製品あるいは抗菌性が低下したような繊維製品に対し、特殊な抗菌処理を行うことなく、クリーニング店や一般家庭等で通常行っている簡単な糊付け加工により、保存中に必要な優れた抗菌性、並びに使用中に必要な防臭性および芳香性が必要とされる時に十分発現できる糊剤および該糊剤を用いた繊維製品の抗菌性加工品を提供する技術が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3-130465号公報号公報
【特許文献2】特開平3-51369号公報
【特許文献3】特開平10-168751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
需要者の要求は、時代とともに、高度化および多様化しており、近年では、香りにも注目が集まっており、特に、付与した香りの持続性も製品の訴求力に重要な要素となっている。
【0009】
そこで、本発明は、付与した香りの持続性を高めることができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための一態様は、糊剤と;アニオン性を帯びたマイクロカプセルと;下記式1:
【0011】
【化1】
【0012】
この際、Rと、Rと、Rとは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である、で示される化合物Aと、
下記式2:
【0013】
【化2】
【0014】
この際、Rと、Rと、Rとは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である、で示される、前記化合物Aとは異なる化合物Bと、
下記式3:
【0015】
【化3】
【0016】
で示される化合物との重縮合物と;
水と;を混合することを有し、前記重縮合物の添加を、前記マイクロカプセル剤の添加の後に行うことを有する、糊剤組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、付与した香りの持続性を高めることができる技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0019】
<糊剤組成物の製造方法>
本発明の一実施形態は、糊剤と;アニオン性を帯びたマイクロカプセル(本明細書中、マイクロカプセルとも称する)と;下記式1:
【0020】
【化4】
【0021】
この際、Rと、Rと、Rとは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である、で示される化合物Aと、
下記式2:
【0022】
【化5】
【0023】
この際、Rと、Rと、Rとは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である、で示される、前記化合物Aとは異なる化合物Bと、
下記式3:
【0024】
【化6】
【0025】
で示される化合物との重縮合物と;
水と;を混合することを有し、前記重縮合物の添加を、前記マイクロカプセル剤の添加の後に行うことを有する、糊剤組成物の製造方法である。かかる実施形態であることによって付与した香りの持続性を高めることができる技術を提供することができる。
【0026】
(糊剤)
本発明の一実施形態において、糊剤としては、特に制限されるものでなく、合成糊、天然糊あるいはその混合品が好適である。
【0027】
本発明の一実施形態において、合成糊としては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0028】
本発明の一実施形態において、天然糊としては、例えば、デンプン類(コーンスターチ(トウモロコシデンプンなど))、天然ゴム類(トラガカントゴム、アラビアゴムなど)、タンパク類(ゼラチン、ニカワ、カゼインなど)などが挙げられる。
【0029】
本発明の一実施形態において、糊剤は、固体の形態でもよいし、水に含まれている形態(例えば、水溶液の形態)でもよいが、水洗いでの洗濯を考慮すると、水に含まれている形態(例えば、水溶液の形態)が好ましい。水に含まれている形態(例えば、水溶液の形態)における固形分濃度は、10~45質量%、あるいは、15~35質量%である。
【0030】
本発明の一実施形態において、糊剤は、糊剤組成物中の固形分を100質量%としたときに、固形分換算で、20~95質量%、30~94質量%、50~92質量%、70~90質量%、あるいは、80~89質量%である。かような範囲であることによって肌触りを良好し、また、アイロンやプレスにより繊維製品の皺などを効率的に取ることができる。
【0031】
本発明の一実施形態において、糊剤は、カチオン性である。本発明の一実施形態において、糊剤のカチオン性の付与は、公知の方法で行ってよく、一例を挙げると、糊剤(例えば、デンプン)に、例えば、4級アンモニウムを反応させることによって行ってもよい。カチオン性を帯びていることは、ブロムフェノールブルー溶液(呈色液)を数滴滴下し、青色に呈色すれば、カチオン性を帯びていると判断することができる。
【0032】
(アニオン性を帯びたマイクロカプセル)
本発明の一実施形態において、アニオン性を帯びたマイクロカプセルは、芳香性抗菌剤(例えば、ヒバ油またはヒバ油中の抗菌性を有する少なくとも1種の成分)を含む。かような芳香性抗菌剤を含むことによって香りを繊維製品等に付与することができる。本発明の一実施形態において、ヒバ油は、中性油(ツヨプセン、パラサイメン、ジヒドロサイメン、セドロール、ウィドロール等)及び酸性油(カルバクロール、1-ロジン酸、ヒノキチオール、β-ドラブリン等)からなる。本発明の一実施形態において、ヒバ油は、青森ヒバ(ヒノキアスナロ)の製材工程で発生する廃材(オガクズ、端材)等から水蒸気蒸留等によって抽出される様々な生物活性を示す物質が好適である。上記ヒバ油の成分のうち、特にヒノキチオール、β-ドラブリンが高い、芳香性、抗菌性、防カビ活性を示す成分である。よって、ヒバ油の芳香性、抗菌性を有する成分としては、特にヒノキチオール、β-ドラブリンが挙げられる。ここで、ヒバ油およびヒバ油の抗菌性を有する成分の抗菌スペクトルは、一般細菌に限らず非常に幅広く、また、ほとんどの耐性菌の出現が認められず、さらに高いダニ忌避効果を有するという性質をも兼ね備えている。さらに、ヒバ油およびヒバ油の抗菌性を有する成分は、毒性や発ガン性の面から見て既存の薬剤と比較しても極めて高い安全性を有しているため、医薬品及び化粧品等の医薬部外品、さらには食品の保存剤としての利用が認められており、直接人体、特に皮膚に接する繊維製品、例えば、ワイシャツ等に利用しても安全上の問題もない。本発明の一実施形態において、芳香性抗菌剤として、上記ヒバ油およびヒバ油の抗菌性を有する成分以外の他の芳香性抗菌剤を使用してもよい。
【0033】
本発明の一実施形態において、所望の芳香性抗菌剤を包含するマイクロカプセル化技術としては、特に制限されるものではなく、従来既知のマイクロカプセル化技術が適用できる。例えば、高分子溶液中に心物質とよばれる内容物(つまり芳香性抗菌成分)を微粒子として分散し、塩、高分子の非溶媒あるいは他の高分子を溶液に添加して、壁(壁をつくっているのが心物質を包む高分子膜である)物質の溶解度を低下させることにより相分離を生じさせ、分離した高分子濃厚溶液で心物質を被覆する相分離法(コンプレックスコアセルベーション法);高分子を揮発性の有機溶媒に溶解した溶液中に心物質を分散し、さらにこの分散液を水中に分散する界面沈殿法などの物理化学方法;液状の心物質中の一方の単量体を溶解し、この溶液へ心物質を微粒子状に分散させた別の単量体の液を加え、微粒子の表面で重縮合反応を起こさせ、高分子膜を生成させると同時にマイクロカプセル化を行う界面重縮合法;心物質を高分子溶液中に分散させて硬化剤を含む液に滴下し、マイクロカプセルを得る液中硬化被覆法(オリフィス法);などが知られている。そのほか、insitu重合法、溶剤揮発法(これらの詳細な説明は、加工技術,1990年3月号他)などの化学的方法;膜材料としてろう状物質(パラフィン、低重合度ポリエチレン、脂肪など)を溶融して液体または蒸気媒質中に分散させ、冷却して膜を固化させマイクロカプセルを得る溶融分散冷却法;膜になるものに粉末状の重合体を用い、それが内容物となる溶剤に溶解して高分子膜を形成する粉床法;心物質を流動床上に気流中に懸濁させ、膜材料をスプレーしてマイクロカプセル化する気中懸濁被覆法などの機械的方法;などが知られている。この他、比較的容易な方法で芳香性抗菌剤を内包するマイクロカプセルを作ることのできる方法として、例えば、ポバールを溶解した水溶液に、芳香性抗菌剤(一実施形態では、ヒバ油またはヒノキチオール等の芳香性抗菌剤、界面活性剤、補強剤となる樹脂(例えば、マレイン酸系共重合樹脂+変性メラミン樹脂など))を撹拌しながら添加し、さらに撹拌を続けてエマルジョンとし、このエマルジョンを撹拌しつつ、アトマイザーより噴霧しスプレードライすることで球状のマイクロカプセルが得られるとしたスプレードライ法などがある。無論、販売されているものがあればそれを購入して準備をしてもよい。
【0034】
本発明の一実施形態において、マイクロカプセルは、芳香性抗菌剤を内包する微小容器であるといえ、該マイクロカプセルの大きさ(粒径)は、例えば、0.2~50μm、あるいは、0.5~20μm程度が好適である。かようなサイズであれば糊付けした場合の皮膚への違和感を抑制し、また、繊維製品をアイロンしたり、こすった際にマイクロカプセルの殻を破壊しやすく、必要なときに抗菌、防臭並びに芳香効果を発現するというメリットを向上させる。なお、マイクロカプセルの大きさ(粒径)は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-7000、(株)島津製作所)を用いて測定することができる。
【0035】
本発明の一実施形態において、マイクロカプセルは、アニオン性を帯びている。アニオン性を帯びていることは以下の基準を以て定義してよい。まず、例えばマイクロカプセル(皮膜原料)のみを重縮合反応させ、フィルム(樹脂塊)を形成させる。その後、それを、所定のカチオン量に調整した液層(カチオン液体:具体的には4級アンモニウム塩)に添加する。次いで液層のカチオン量を指示薬にて定性し、カチオン量の減少が確認された場合、アニオン性を帯びていると定義する。アニオン性の付与も、材料自体がアニオン性を帯びているものを使用することで行ってもよいし、従来公知の方法でアニオン性を付与してもよい。
【0036】
ここで、マイクロカプセルが、カチオン性のみ、あるいは、ノニオン性を帯びていると、香りの付与対象物(特にはYシャツなどの繊維製品)にマイクロカプセルを固着できない虞がある。
【0037】
本発明の一実施形態において、マイクロカプセルは、固体の形態でもよいし、水に含まれている形態(例えば、水溶液の形態)でもよいが、水洗いを考慮すると、水に含まれている形態(例えば、水溶液の形態)が好ましい。水に含まれている形態(例えば、水溶液の形態)における固形分濃度は、15~40質量%、あるいは、25~35質量%である。
【0038】
本発明の一実施形態において、糊剤に対するマイクロカプセルの配合比率(質量比)は、固形分換算で、3~20、4~15、あるいは、5~10である。かような範囲であることによって十分な抗菌、防臭、芳香作用を発現する。
【0039】
本発明の一実施形態において、マイクロカプセルは、糊剤組成物中の固形分を100質量%としたときに、固形分換算で、2.5~25質量%、3.0~20質量%、5.0~18質量%、8.0~16質量%である。かような範囲であることによって糊付けの効果を担保し、マイクロカプセルの固着性を高めることができる。
【0040】
本発明において、アニオン性を帯びたマイクロカプセル(芳香性抗菌剤(例えば、ヒバ油またはヒバ油中の抗菌性を有する少なくとも1種の成分(ヒノキチオール))を含有するマイクロカプセル)は、公知の方法で合成してもよいし、販売されているものを購入してもよい。
【0041】
(重縮合物)
本発明の糊剤組成物の製造方法は、特定の重縮合物を包含させる工程を有させることが必須である。かような工程を必須にさせることによって付与した香り(特にヒノキチオール由来の香り)の持続性を、従来より格段に高めることができる。当該特定の重縮合物は付与した香り(特にヒノキチオール由来の香り)を、香りの付与対象物(特にはYシャツなどの繊維製品)に長期に固着させることができるためその意味で固着剤としての作用効果を有する。よって、本明細書中、重縮合物は、固着剤とも称される場合がある。
【0042】
本発明の一実施形態において、特定の重縮合物は、下記式1:
【0043】
【化7】
【0044】
この際、Rと、Rと、Rとは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である、で示される化合物Aと、下記式2:
【0045】
【化8】
【0046】
この際、Rと、Rと、Rとは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である、で示される、前記化合物Aとは異なる化合物Bと、下記式3:
【0047】
【化9】
【0048】
で示される化合物との重縮合物である。かような重縮合物と、特にはヒノキチオールを含むアニオン性マイクロカプセルとを特定の順番で添加することによって繊維製品に付与した香りを長期間継続することができる。
【0049】
本発明の一実施形態によれば、炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、あるいは、i-プロピル基である。
【0050】
本発明の一実施形態によれば、アルキル基は炭素数1または2のアルキル基、すなわち、メチル基またはエチル基である。
【0051】
本発明の一実施形態によれば、アルキル基は炭素数1のアルキル基、すなわちメチル基である。
【0052】
本発明の一実施形態によれば、前記化合物Aにおいて、Rと、Rと、Rの少なくとも2つが水素原子である。本発明の一実施形態によれば、前記化合物Aにおいて、Rと、Rと、Rの3つが水素原子である、すなわちアンモニアである。
【0053】
本発明の一実施形態によれば、前記化合物Bにおいて、Rと、Rと、Rの少なくとも2つが炭素数1~3のアルキル基である。より好ましい実施形態において、Rと、Rと、Rの少なくとも2つが炭素数1または2のアルキル基である。本発明の一実施形態によれば、前記化合物Bにおいて、Rと、Rと、Rの2つが炭素数1~3のアルキル基である。より好ましい実施形態において、Rと、Rと、Rの2つが炭素数1または2のアルキル基である。本発明の一実施形態によれば、前記アルキル基が、メチル基である。本発明の一実施形態によれば、前記化合物Bが、ジメチルアミンである。
【0054】
本発明の一実施形態によれば、前記縮合物が、アンモニアと、エピクロルヒドリンと、ジメチルアミンとの重縮合物である。本発明の一実施形態によれば、前記縮合物の分子量が、100万~200万である。
【0055】
本発明の重縮合物は、マイクロカプセルを繊維製品に固着させるための固着剤が、アンモニアと、エピクロルヒドリンと、ジメチルアミンとの反応物であると考えてもよい。
【0056】
本発明の一実施形態において、重縮合物は、固体の形態でもよいし、水に含まれている形態(例えば、水溶液の形態)でもよいが、繊維製品を水洗いすることを考慮すると、水に含まれている形態(例えば、水溶液の形態)が好ましい。水に含まれている形態(例えば、水溶液の形態)における固形分濃度は、1~5質量%、あるいは、2~4質量%である。
【0057】
本発明の一実施形態において、前記アニオン性を帯びたマイクロカプセルの固形分の質量に対する前記重縮合物の固形分の質量が0.05以上、0.1以上、あるいは、0.2以上である。本発明の一実施形態において、前記アニオン性を帯びたマイクロカプセルの固形分の質量に対する前記重縮合物の固形分の質量が2以下、1以下、あるいは、0.5以下である。
【0058】
本発明の一実施形態において、重縮合物に対する糊剤の配合比率(質量比)は、固形分換算で、15~150、20~120、あるいは、35~110である。かような範囲であることによって十分な抗菌、防臭、芳香作用を発現する。
【0059】
本発明の一実施形態において、重縮合物は、糊剤組成物中の固形分を100質量%としたときに、固形分換算で、0.1~6質量%、0.3~5質量%、0.5~4質量%、あるいは、0.7~3.5質量%含まれるように混合される。かような範囲であることによって本発明の所期の効果を効率的に奏する。
【0060】
本発明において、特定の重縮合物は、公知の方法で合成してもよいし、販売されているものを購入してもよい。
【0061】
(その他の成分)
本発明の一実施形態において、糊剤組成物は、必要に応じて、柔軟剤、界面活性剤、分散剤、乳化安定剤等の添加剤の少なくとも1種を適当に加えてもよい。
【0062】
本発明の一実施形態において、その他の成分(2種以上混合される場合はその合計量)は、糊剤組成物中の固形分を100質量%としたときに、固形分換算で、0.1~4質量%、0.2~4質量%、0.4~3質量%、あるいは、0.6~2質量%含まれるように混合される。かような範囲であることによって本発明の所期の効果を効率的に奏する。
【0063】
〔糊剤組成物の製造方法のより詳細な工程〕
本発明の一実施形態において、糊剤組成物の製造方法は、糊剤と、マイクロカプセルと、重縮合物と、水とを混合することを有し、前記重縮合物の添加を、前記マイクロカプセル剤の添加の後に行うことを有する。ここで、前記重縮合物の添加を、前記マイクロカプセル剤の添加の前に行うと、本発明の所期の効果を奏することができない(比較例4)。換言すれば、糊剤組成物の製造方法においては、重縮合物とマイクロカプセルの添加順番にさえ留意すれば、他の成分の、添加順番、混合方法には特に制限はない。
【0064】
本発明の一実施形態において、例えば、マイクロカプセル、ならびに、必要に応じて、糊剤およびその他の成分の少なくとも一方を水に添加し攪拌を行う。その後、攪拌が終了した後、例えば、30秒~15分、1~10分後、2~4分後、あるいは、3~4分後に、特定の重縮合物、ならびに、必要に応じて、糊剤およびその他の成分の少なくとも一方を添加し、攪拌を行う。
【0065】
<繊維製品の糊付け加工品の製造方法、繊維製品のプレス加工品の製造方法>
本発明の一実施形態において、上記の製造方法によって糊剤組成物を得;当該糊剤組成物を、繊維製品に接触することを有する、繊維製品の糊付け加工品の製造方法が提供される。
【0066】
繊維製品に糊付け加工する方法は、繊維製品の全体に糊付けを行う形態や、繊維製品の一部に糊付けを行う形態が挙げられる。前者の形態では、例えば、繊維製品全体を糊剤組成物に浸漬することによって行うことが好適である。後者の形態では、例えば、繊維製品の糊付けしたい部分に糊剤組成物を噴霧等することが好適である。噴霧は、例えば、スプレーを用いて行うことができる。かようなスプレーは、例えば、スプレー容器中に糊剤組成と揮発性の高いスプレーガスとを共に封入することによって準備することができる。
【0067】
上述のとおり、本発明の一実施形態において、アニオン性を帯びたマイクロカプセルは、芳香性抗菌剤を内包する。かかる実施形態によれば、糊剤組成物において、糊剤と芳香性抗菌剤との分離を抑制し、糊付け加工を容易にする。また、内包された芳香性抗菌剤を必要になるまで保護でき、必要なときに圧力、熱などで殻を破壊して、その機能を発現できる。つまり、繊維製品を使用するまで(例えば、ワイシャツにプレス加工、アイロンをするまで、あるいは、ワイシャツを着るまでは)、マイクロカプセルの少なくとも一部が破壊されずにその状態を保ったまま保持されている。繊維製品を使用した後(例えば、ワイシャツにプレス加工、アイロンをした後、あるいは、ワイシャツを着た後)は、プレス加工、アイロンによる外的圧力による付加、あるいは、こすったり、こすられたりするなどで、マイクロカプセルの殻が破壊され、芳香性抗菌剤(例えば、ヒバ油(ヒノキチオール)が放出される。そのことで、ヒバ油、ヒノキチオール等の防臭、芳香作用により、ワイシャツ等の繊維製品から汗などの臭いをとり(防臭作用)、ヒバ油やヒノキチオールのもつさわやかな香りによる森林浴効果(芳香作用)が得られる。また、ベットカバー、シーツのようなものでは、就寝中に寝返りなどを打つことでマイクロカプセルの殻が破壊されその芳香作用により快適な眠りが得られる。また、上述のとおり本発明では特定の固着剤を特定の方法で糊剤組成物中に含有させる。そのことによって付与した香りの持続性を高めることができる。
【0068】
本発明の一実施形態においては、糊剤組成物の製造と、繊維製品の糊付け加工とを平行して行ってもよい。つまり、本発明の一実施形態においては、糊剤と、マイクロカプセルと、重縮合物と、水と、繊維製品とを混合することを有し、前記重縮合物の添加を、前記マイクロカプセル剤の添加の後に行うことを有する、糊剤組成物の製造方法と、繊維製品の糊付け加工品の製造方法が提供される。かかる実施形態の好適な態様を説明すると、まず、繊維製品を水に浸漬させる。次いで、かかる繊維製品と水との混合物に、マイクロカプセルならびに、必要に応じて、糊剤およびその他の成分の少なくとも一方を添加、攪拌を行う。攪拌が終了した後、例えば、30秒~15分、1~10分後、2~4分後に、あるいは、3~4分後に、重縮合物ならびに、必要に応じて、糊剤およびその他の成分の少なくとも一方を添加する。このようにすることによって糊剤組成物の製造と、繊維製品の糊付け加工とを平行して行うことができる。なお、当該実施形態における糊剤組成物における組成、組成比率等の説明は、<糊剤組成物の製造方法>で行った説明が同様に妥当するのでここではその説明を省略する。
【0069】
本発明の一実施形態において、上記の製造方法によって繊維製品の糊付け加工品を得、当該繊維製品の糊付け加工品をプレス折り加工することを有する、繊維製品のプレス加工品の製造方法が提供される。上記繊維製品の糊付け加工品に、例えば、アイロンがけやプレス処理を行った際に、一部のマイクロカプセルの殻が破壊されうる。そのため、上記の糊付け加工で説明した技術的効果の他、繊維製品のプレス加工品が仕上がった際にすでに、強い芳香性、抗菌性を有する。そのため、その後この抗菌性加工品(例えば芳香抗菌性加工されたYシャツ)を使用するまでの保管中にも効果的に芳香抗菌作用を発現できる。またマイクロカプセルを用いることで、保存中の芳香、抗菌効果をより高めることができる。
【0070】
上述のとおり、本発明の一実施形態において、芳香性抗菌剤がヒノキチオールである。ヒノキチオールは、芳香性、抗菌、防臭、防ダニ、防カビ性を有するため長期間、快適、清潔に保つことができる。
【0071】
本発明における加工法では、従来のように繊維自体に芳香抗菌性を付与するものでないため、洗濯の都度、新たに芳香性付与、抗菌性加工を行うことができ、常時変わらぬ優れた、芳香、抗菌、抗菌、防臭、防ダニ、防カビ性を適宜再生することができる汎用的、普遍的な加工手段といえる。
【実施例0072】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
【0073】
<サンプル品の洗濯の実施>
公称負荷量35kgの洗濯機に、負荷量を安定させるためワイシャツ(ポリエステルと綿の混合品)150枚(ワイシャツの型体、大小等によりそれぞれ重量は異なる場合がある(全部で約30~35kg))と、サンプル品(ポリエステルと綿の混紡品)のワイシャツ1枚と、片布(15cm角)とを投入し洗濯を行った。
【0074】
<糊付け加工の実施>
(実施例1)
糊付け加工は、表1に示されるように、2段階に分けて行った。具体的には、洗濯済のサンプル品のワイシャツ1枚を73Lの水に浸漬させ、抗菌性芳香剤C 33g(固形分換算で9.57g)を、サンプル品のワイシャツが浸漬されている水に添加し、よく攪拌を行った(第1段)。攪拌を行った後、約3分後に、糊剤A2 260g(固形分換算で50.7g)と;柔軟剤B 7g(固形分換算で1.05g)と;固着剤D1 33g(固形分換算で0.825g)と;を、任意の順番で添加し、よく攪拌を行った(第2段)。このようにして糊付け加工済みのサンプル品を得た。
【0075】
(実施例2~実施例7、比較例1、2、6~8)
実施例2~実施例7、比較例1、2、6~8においては、糊剤組成物を構成する成分を表1に示される成分に変更した以外、実施例1と同様にして、糊付け加工済みのサンプル品を得た。なお、第2段に示されている成分は、実施例1と同様、任意の順番で添加された。
【0076】
(比較例3~5)
比較例3~5においては、糊剤組成物を構成する成分を表1に示される成分に変更した以外、実施例1と同様にして、糊付け加工済みのサンプル品を得た。なお、比較例3~5において第1段に示されている成分は、任意の順番で添加された。
【0077】
<プレス折り加工の実施>
実施例、比較例の糊付け加工済みのサンプル品のワイシャツに対し、プレス折り加工してサンプル品のワイシャツのプレス加工品を得た。
【0078】
<評価>
(経時の臭気)
プレス加工品を、隣り合った製品の影響を受けないように1m以上の間隔をあけ1時間吊り干しを行った(初期)。その後、プレス加工品の全体を丸める様にして10回擦り合わせ、再度、隣り合ったプレス加工品の影響を受けないように1m以上の間隔をあけさらに6時間吊り干した(長期)。
【0079】
ワイシャツのプレス加工品に対して、パネラー(成人男女合計6人)が鼻をから約10cmの距離に近付けて臭気(ヒノキの香り)を確認し、各パネラーが下記基準に基づく評価点を付け、その合計を6で除することによって臭気の値を算出した。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
(SEMによる抗菌性芳香剤の付着確認)
上記洗濯済の片布に上記と同様に糊付け加工を行った(ただしプレス加工は行わなかった)。その片布の表面を電子顕微鏡(トプコン(株)社製走査型電子顕微鏡SM-300)を用いて観察を行った。観察は3回行い、マイクロカプセルの付着数の合計を3回で除した数を評価した。
【0082】
【表2】
【0083】
(抗菌性確認)
得られたプレス加工品を用いて、保管中(最大4週間)の抗菌性、防臭性も調べたが、実施例のいずれのサンプルも所期の効果を有することが確認された。
【0084】
【表3】
【0085】
<結果、考察>
実施例の方法によって糊剤組成物を製造することで繊維製品に付与した香りの持続性を高めることができることが示唆された。
【0086】
これに対して、固着剤を使用しなかった例である比較例1~3は、初期、長期の臭気の結果がいずれも不良であった。またSEMの試験も不良であった。比較例4は、実施例と同様に固着剤D1を添加した例である。その結果、初期の臭気の結果は良好であったが、固着剤D1(特定の重縮合物)の添加を芳香性抗菌剤C(マイクロカプセル剤)の添加の前に行った例であるため長期の臭気の結果が不良であった(特に実施例6との比較)。またSEMの試験も不良であった。比較例6~8は、アミン系の構成単位を有するという点で固着剤D1の重縮合物に類似する成分を使って評価を行った例である。その結果、初期の臭気の結果は良好であったが、本願の特定の構造を有する重縮合物を使用した例でないため、長期の臭気の結果が不良であった。またSEMの試験も不良であった。
【0087】
以上のとおり、本発明の特徴的な構造を有する固着剤(特定の重縮合物)を用いて、かつ、当該重縮合物の添加を、抗菌性芳香剤(マイクロカプセル剤)の添加の後に行うことによって、本発明では、繊維製品に対して付与した香りの持続性を高めることができる技術を提供できることが確認された。
【手続補正書】
【提出日】2021-05-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糊剤と;
アニオン性を帯びたマイクロカプセルと;
アンモニアと、エピクロルヒドリンと、ジメチルアミンとの重縮合物と;
水と;
繊維製品と;
を混合することを有し、
前記混合が、
前記繊維製品を水に浸漬させて繊維製品と水との混合物を得、前記混合物に前記マイクロカプセルを添加し、攪拌を行い、前記攪拌が終了した後、前記重縮合物および前記糊剤を添加することを有する、繊維製品の糊付け加工品の製造方法。
【請求項2】
前記マイクロカプセルが、芳香性抗菌剤を内包する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記芳香性抗菌剤が、ヒノキチオールである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記アニオン性を帯びたマイクロカプセルの固形分の質量に対する前記重縮合物の固形分の質量が0.1質量%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記アニオン性を帯びたマイクロカプセルの固形分の質量に対する前記重縮合物の固形分の質量が0.2質量%以上である、請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法によって繊維製品の糊付け加工品を得、当該繊維製品の糊付け加工品をプレス折り加工することを有する、繊維製品のプレス加工品の製造方法。