(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103765
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】電力変換装置盤
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220701BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218599
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】小山 孝
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 正寿
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼永 翔平
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770AA21
5H770BA02
5H770BA03
5H770CA02
5H770QA35
5H770QA40
(57)【要約】 (修正有)
【課題】特別な接地極を必要が不要で、かつ、ダインピングインピーダンス挿入による発熱などを考慮することなく、漏れ電流の低減を図ることが可能な電力変換装置盤を提供する。
【解決手段】電力変換装置盤15は、主要回路機器アース導体12と盤接地アース導体13との接続を切り替えるアース接続切替機構11を備える。このアース接続切替機構11は、電力変換装置盤15側に配置された一対の導体部材と、盤扉14側に配置された絶縁部材と、を備える。この絶縁部材は、盤扉14が閉じられれば導体部材間に差し込まれ、両導体部材が非接続となる一方、盤扉14が開かれれば、導体部材間から抜脱され、両導体部材が接続される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力用半導体素子のスイッチング動作で電力変換して負荷に電力供給する電力変換器を備えた電力変換装置盤であって、
盤接地用のアースと、
前記アースの接続・非接続を切り替えるアース接続切替部と、
前記アースと分離構成され、前記アース接続切替部の切替動作を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする電力変換装置盤。
【請求項2】
前記アース接続切替部は、前記制御部としての扉の開閉に連動して前記アースの接続・非接続を切り替える
ことを特徴とする請求項1記載の電力変換装置盤。
【請求項3】
盤内の主要回路機器用の第1アース導体と、
前記盤接地用の第2アース導体と、
を備え、
前記アース接続切替部は、前記両アース導体の接続・非接続を切り替える
ことを特徴とする請求項2記載の電力変換装置盤。
【請求項4】
前記アース接続切替部は、
前記盤側に配置された一対の導体部材と、
前記扉側に配置された絶縁部材と、
を備え、
前記各導体部材の一端部にそれぞれの前記アース導体が接続されている一方、
前記両導体部材の他端部間に前記絶縁部材が抜差自在なことを特徴とする請求項3記載の電力変換装置盤。
【請求項5】
前記扉が閉じられれば、前記絶縁部材が前記両導体部材の他端部間に差し込まれて前記両アース導体が非接続となる一方、
前記扉が開かれれば、前記絶縁部材が前記両導体部材の他端部間から抜脱されて前記両アース導体が接続される
ことを特徴とする請求項4記載の電力変換装置盤。
【請求項6】
前記アース接続切替部は、
前記盤内に配置された電磁接触器と、
前記扉に設けられたスイッチと、
を備え、
前記電磁接触器は、前記両アース導体間に接続された開閉スイッチ部と、
前記開閉スイッチ部を電圧の印加または非印加に応じて開閉動作させる操作コイル部と、
を備えることを特徴とする請求項3記載の電力変換装置盤。
【請求項7】
前記アース接続切替部は、盤内に配置された電磁接触器により構成され、
前記制御部は、前記電力変換器の運転停止をコントロールする制御回路により構成され、
前記電磁接触器は、
前記両アース導体間に接続された開閉スイッチ部と、
前記開閉スイッチ部を電圧の印加または非印加に応じて開閉動作させる操作コイル部と、
を備え、
前記制御回路からの指令に応じて前記操作コイル部への電圧の印加または非印加を制御する
ことを特徴とする請求項3記載の電力変換装置盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばモータなどの負荷装置の駆動システムに用いられる電力変換装置盤に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のようにインバータ・コンバータ・チョッパなどの半導体電力変換装置は、交流電源または直流電源を電源とし、電力用半導体スイッチのスイッチング動作によって電圧・電流・周波数・位相などを制御した電力変換を行い、電気自動車や各種産業用設備のモータ駆動システムになどで数多く用いられている。
【0003】
このような半導体電力変換装置盤(以下、盤と省略する。)については、例えば特許文献1,2に記載された技術が公知となっている。
【0004】
特許文献1は、電力変換器やエレクトロニク機器・盤・負荷などにそれぞれ専用の接地極を設けている。この接地極同士の距離を十分に離間することでインバータの発生するノイズが他のエレクトロニクス機器などへ伝搬することを防止している。
【0005】
特許文献2は、モータとグランドとの間にノイズ電流経路の共振周波数を抑制するダンピングインピーダンス(抵抗)を挿入することでノイズ電流を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-281765
【特許文献2】特開2006-025467
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたインバータ専用接地極を設ける方法は、施設の制約から新たな接地極の工事ができない場合があるので、実現が難しい問題が生じ得る。
【0008】
また、特許文献2に記載された抵抗を挿入する方法は、抵抗に発生したノイズ電流のすべての周波数成分が通るため抵抗の発熱が問題となるおそれがある。
【0009】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされ、特別な接地極が不要であり、かつダインピングインピーダンス挿入による発熱などを考慮することなく、漏れ電流の低減を図ることを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明は、電力用半導体素子のスイッチング動作で電力変換して負荷に電力供給する電力変換器を備えた電力変換装置盤であって、
盤接地用のアースと、
前記アースの接続・非接続を切り替えるアース接続切替部と、
前記アースと分離構成され、前記アース接続切替部の切替動作を制御する制御部と、を備える。
【0011】
(2)本発明の一態様において、
前記アース接続切替部は、前記制御部としての扉の開閉に連動して前記アースの接続・非接続を切り替えることを特徴としている。
【0012】
(3)本発明の他の態様において、
盤内の主要回路機器用の第1アース導体と、
前記盤接地用の第2アース導体と、
を備え、
前記アース接続切替部は、前記両アース導体の接続・非接続を切り替えることを特徴としている。
【0013】
(4)本発明のさらに他の態様において、
前記アース接続切替部は、
前記盤側に配置された一対の導体部材と、
前記扉側に配置された絶縁部材と、
を備え、
前記各導体部材の一端部にそれぞれの前記アース導体が接続されている一方、
前記両導体部材の他端部間に前記絶縁部材が抜差自在なことを特徴としている。
【0014】
(5)本発明のさらに他の態様は、
前記扉が閉じられれば、前記絶縁部材が前記両導体部材の他端部間に差し込まれて前記両アース導体が非接続となる一方、
前記扉が開かれれば、前記絶縁部材が前記両導体部材の他端部間から抜脱されて前記両アース導体が接続されることを特徴としている。
【0015】
(6)本発明のさらに他の態様において、
前記アース接続切替部は、
前記盤内に配置された電磁接触器と、
前記扉に設けられたスイッチと、
を備え、
前記電磁接触器は、前記両アース導体間に接続された開閉スイッチ部と、
前記開閉スイッチ部を電圧の印加または非印加に応じて開閉動作させる操作コイル部と、を備えることを特徴としている。
【0016】
(7)本発明のさらに他の態様において、
前記アース接続切替部は、盤内に配置された電磁接触器により構成され、
前記制御部は、前記電力変換器の運転停止をコントロールする制御回路により構成され、
前記電磁接触器は、
前記両アース導体間に接続された開閉スイッチ部と、
前記開閉スイッチ部を電圧の印加または非印加に応じて開閉動作させる操作コイル部と、
を備え、
前記制御回路からの指令に応じて前記操作コイル部への電圧の印加または非印加を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、特別接地極が不要で、かつダインピングインピーダンス挿入による発熱などを考慮することなく、漏れ電流の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る電力変換器盤の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1中の15は、本発明の実施形態に係る電力変換装置盤を示している。この盤15は、主にモータなどの負荷装置の駆動システムに用いられ、交流電源1からACリアクトル2,3を介して電源供給を受けて任意の周波数・任意の電圧に変換する電力変換器(インバータ装置)8を備えている。
【0020】
電力変換器8は、入力交流電源を直流電圧に変換するコンバータ(順変換器)5と、コンバータ5から出力された直流電圧を平滑化する平滑コンデンサ7と、平滑コンデンサ7により平滑化された直流電圧を交流電圧に変換するインバータ(逆変換器)6とを備え、変換された交流電圧がACリアクトル9を介してモータ10に供給されている。
【0021】
このような電力変換器8を基本構成要素とする盤15内には、各種主要回路機器2~9用のアース導体(以下、主要回路機器アース導体と呼ぶ。)12と、盤接地用のアース導体(以下、盤接地アース導体と呼ぶ。)13と、両アース導体12,13の接続・非接続を切り替えるアース接続切替機構11とが設置されている。
【0022】
ここではアース接続切替機構11の切替動作を制御機器14により制御することで接地系への半導体スイッチング素子に起因する漏れ電流の低減を図っている。以下、実施例1~3に基づきアース接続切替機構11の詳細を説明する。
【実施例0023】
(1)構成例
図2中の11は本実施例に係る差込式のアース接続切替機構を示し、該アース接続切替機構11は盤扉を制御機器14として両アース導体12,13の切替動作が制御されている(以下、本実施例では盤扉14と呼ぶ。)。
【0024】
アース接続切替機構11は、盤15側(
図2中のP側)に配置された一対の導体部材16,17と、盤扉14側(同Q側)に配置された絶縁部材19とを備えている。
【0025】
導体部材16,17は、銅などの金属で製作され、アース導体12,13の一端部12a,13aがそれぞれねじ止めされた接続部16a,17aと、互いの底面16c,17c同士が背中合わせに接触されたコ字状部16b,17bとを有している。
【0026】
ここではコ字状部16b,17bの盤15側に配置された側壁16e,17eの先端に接続部16a,17aが折曲されて盤15側方向に延設されている一方、コ字状部16b,17bの盤扉14側の側壁16d,17dが絶縁部材19に対向配置されている。
【0027】
絶縁部材19は、エポキシ樹脂やファイバーグラスなどの絶縁材料で製作され、盤扉14に取り付けられている。また、絶縁部材19は、盤扉14に接着剤・ねじ止めなどの手段で固定された取付部19bと、取付部19b上に立設されてコ字状部16b,17bの底面16c,17c間に抜き差しされる差込部19aとを有している。
【0028】
このようなアース接続切替機構11によれば、盤扉14を閉じることで差込部19aがコ字状部16b,17bの底面16c,17c間に差し込まれる一方、盤扉14を開くことで差込部19aが前記底面16c,17c間から抜脱され、盤扉14の開閉に連動してアース接続が切り替えられる。
【0029】
(2)作用・動作
図3に基づき
図1の構成による高周波漏れ電流の等価回路の動作例を説明する。
【0030】
図3中の「E」は、インバータ6から発生するコモンモード電圧を示し、「L1」・「R1」はそれぞれ電力変換器8内部の導体インダクタンス・導体抵抗を示し、「C1」は主回路導体-主要回路機器アース間浮遊容量を示している。
【0031】
また、「L2」・「R2」はそれぞれモータケーブルインダクタンス・モータ巻線抵抗を示し、「C2」はモータ-対地間浮遊容量を示し、「C3」は主要回路機器アース-接地間浮遊容量を示している。
【0032】
まず、インバータ運転時に盤扉14は閉じられるため、前述のように差込部19aがコ字状部16b,17bの底面16c,17c間に差し込まれアース導体12,13間が絶縁される。したがって、両アース導体12,13が離線して非接続となり、主要回路機器アースと盤接地アースとが切り離される。これにより電力変換器8から流出した漏れ電流は、「C3」を介してインバータ6に戻ってくることとなる。
【0033】
そして、装置出力端からみた浮遊容量は、式(1)に示すように、「C2」と「C3」との合成容量「C」となる。このとき「C2」と「C3」とは直列接続なため、両者の関係は「C<C2」が成立している。
【0034】
【0035】
一方、
図4は、先行技術など採用されている高周波漏れ電流の等価回路を示している。ここでは主要回路機器アースと盤接地アースとをアース線で接続しているため、電力変換器8から流出した漏れ電流はアース線を介してインバータ6へ戻ってくることとなる。
【0036】
このとき装置出力端からみた浮遊容量は「C2」となり、LCR直列共振回路に振幅のステップ状電圧「E」を印加した場合に回路に漏れる電流「ic(t)」は式(2)となる。
【0037】
【0038】
ここで共振各周波数「ωn」・減算係数「ξ」・特性インピーダンス「Zo」は、式(3)で与えられる。
【0039】
【0040】
ところで、一般にパワー半導体デバイスのスイッチングにより発生する高周波漏れ電流は、減衰するまでに数周期かかり、減衰係数「ξ」は小さい。この場合の電流「ic(t)」は、式(4)に示すように近似できる。
【0041】
【0042】
そうすると電流「ic(t)」のピーク値は、ステップ電圧の振幅「E」を特性インピーダンス「Zo」で除算した値となる。よって、浮遊容量「C」が低減することにより漏れ電流のピーク値を抑制することができる。
【0043】
このとき
図3の等価回路によれば、盤扉14を閉じることでアース接続切替機構11により主要回路機器アースと盤接地アースとが切離されるため、「C<C2」が成立し、浮遊容量Cのピーク値を抑えることが可能である。
【0044】
したがって、特許文献1に示すインバータ専用接地極を設ける必要がなく、また特許文献2のようにダンピングインピーダンス挿入による発熱などを考慮することなく、漏れ電流を低減する効果が得られる。
【0045】
つぎに盤扉14が開いているときには差込部19aが前記底面16c,17c間から抜脱されるため、両アース導体12,13間が接続された状態となる。これは盤内機器のメンテナンスの際に主要回路機器2~9のアースがとられていないと感電の危険があるので、人体保護の観点から必要となる。
前記電磁接触器11は、操作コイル部と開閉スイッチとにより構成される。この開閉スイッチ部は、主要回路機器アース導体12と盤接地アース導体13との間に接続する構成とされ、前記操作コイル部の電圧印加回路には切換用スイッチ14が接続され、前記電圧印加回路に電圧を印加することで前記開閉スイッチ部が閉じられる。
ここでは切換用スイッチ14をオンにすれば、前記電圧印加回路に電圧が印加されるため、前記開閉スイッチ部が閉じられ、両アース導体12,13が接続される。一方、切換用スイッチ14をオフにすれば、前記電圧印加回路に非印加となるため、前記開閉スイッチ部が開かれ、両アース導体12,13が離線して非接続となる。
これにより切換用スイッチ14のオン・オフに連動してアース接続切り替えが行われ、実施例1と同様な効果をより簡易な機構で実現することができる。なお、切換用スイッチ14のオン・オフは、盤扉14の開閉に応じて行うことが好ましい。