(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103781
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】胆管腔形成の誘導方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20220701BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20220701BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220701BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N5/071 ZNA
C12Q1/02
C07K14/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218626
(22)【出願日】2020-12-28
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業「透過試験による新規胆汁中排泄評価システムの構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒川 大
(72)【発明者】
【氏名】玉井 郁巳
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ61
4B063QR48
4B063QS32
4B063QS33
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】薬物の胆汁中排泄を簡便にかつ精度が高く予測可能な評価系の確立。
【解決手段】器材表面にクローディンタンパク質層を形成させた細胞培養器材を用いて、肝臓由来細胞層を形成させ、該細胞と該器材の表面との接触部位に胆管腔形成を誘導する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
器材表面にクローディンタンパク質層を形成させた細胞培養器材。
【請求項2】
表面が透過性を有する膜を有する、請求項1記載の細胞培養器材。
【請求項3】
ヒト肝臓に発現するクローディン1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、22、23、24、25、26及び27からなる群より選択される1種以上を含む、請求項1又は2記載の細胞培養器材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の細胞培養器材と、肝臓由来培養細胞とを含む、胆汁中への薬物排出評価のためのキット。
【請求項5】
透過性を有する器材表面にクローディンタンパク質を含有する層をコーティングすることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項記載の培養器材の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項記載の培養器材に肝臓由来細胞層を形成させることを特徴とする、胆汁中への薬物排出評価系の作製方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項記載の培養器材に肝臓由来細胞層を形成させ、該細胞と該器材の表面との接触部位に胆管腔形成を誘導する方法。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項記載の培養器材に肝臓由来細胞層を形成させ、該肝臓由来細胞から該培養器材を介して排出される薬物を評価することを特徴とする、該肝臓由来細胞における薬物代謝及び/又は膜輸送の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養器材に関し、具体的には器材表面にクローディンタンパク質層を形成させた細胞培養器材に関する。また、本発明は、上記本発明の細胞培養器材表面に胆管腔形成を誘導する方法、並びに上記本発明の細胞培養器材を用いる、肝臓由来細胞における薬物代謝及び/又は膜輸送の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓はヒトにおいて最大の容積を持つ臓器であり、生体の内部環境の維持に大きな役割を果たしている他、薬物動態においても重要な役割を果たしており、その機能として薬物の代謝および胆汁中排泄が挙げられる。
【0003】
胆汁中排泄は脂溶性の高い化合物の体外排泄を担う機構の一つであり、肝実質細胞の血管側膜からの受動拡散あるいはトランスポーター(輸送体)を介する輸送により取り込まれた薬物は、あるものは代謝・抱合を受け、胆管腔側膜に局在する薬物排出輸送体によって胆汁中へ排泄される。胆管腔側膜に局在する輸送体としては、P-糖タンパク質 (P-gp)、胆汁酸塩輸出ポンプ (BSEP)、乳がん抵抗性タンパク質(BCRP)及び多剤耐性関連タンパク質2(MRP2)等のABC (ATP-結合カセット)輸送体が挙げられる。これらの輸送体は、投与された種々の薬物などの生体異物に加え、胆汁酸や生体内代謝産物を胆汁中へ排泄する重要な役割を担っている。
【0004】
薬物の研究開発において胆汁中排泄の評価は非常に重要であるが、現在、これは実験動物によるin vivo試験、あるいはin vitroでヒトやげっ歯類の初代培養肝細胞や株化した培養肝細胞を用いて評価されている。また、in vitro胆汁排泄評価法としてサンドイッチ培養ヒト肝細胞も用いられている(非特許文献1~4)。
【0005】
胆汁の分泌、及び薬物等の胆汁中排泄は、肝細胞の細胞膜に形成される胆管腔を介して行われる。肝細胞における胆管腔の形成には、肝細胞同士の接着を担う密着結合(タイトジャンクション、TJ)の形成が必須である。密着結合にはオクルディン、クローディン、及びJAM等の膜貫通タンパク質、zonula occludens (ZO)タンパク質(ZO-1、2、3)等の足場タンパク質、Par-3やaPKC等の極性シグナル分子が関与しており、そのうちクローディンファミリーが主要な役割を果たすことが報告されている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Swift B. et al., Drug Metab Rev., 42: 446-471, 2010
【非特許文献2】Nakanishi T. et al., Toxicology and Applied Pharmacology 263 (2012)244-250
【非特許文献3】Matsunaga N. et al., Drug Metab Dispos 46:680-691, May 2018
【非特許文献4】Wada S. et al., Drug metabolism and Pharmacokinetics 35 (2020) 432-440
【非特許文献5】Gunzel & Yu, Physiol Rev. 93 : 525-569, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来用いられているin vitroの方法では、胆管腔が肝細胞間に形成されるため、胆汁中排泄された化合物を回収して直接測定することができず、蛍光化合物の利用や胆管腔の崩壊を利用するなど、間接的な評価によってなされている。さらに、細胞培養に手間がかかること、胆管腔崩壊の有無の両条件下で測定が必要なため、多くの試験を行う必要があり、迅速かつ定量的な胆汁中排泄評価法として利用することができなかった。そのため、薬物の胆汁中排泄を簡便にかつ精度が高く予測可能な評価系が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の課題は、肝細胞の胆管腔を培養器材の基底面側に誘導し、透過試験型の評価系を樹立することで解決することができると考えた。胆管腔の形成位置を基底膜側に誘導することで透過試験が可能となれば、胆管腔へ排出された化合物の経時的かつ定量的な解析が可能となり、ヒトにおける胆汁中排泄の精度の高い予測システムの構築が可能となる。
【0009】
本発明者等は、上記のような効果的な評価系の確立を目的として種々検討した結果、驚くべきことに、クローディンタンパク質を利用することで、胆管腔形成を培養器材表面に誘導することができた。更に本発明者等は、種々の条件を検討した結果、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
(1)器材表面にクローディンタンパク質層を形成させた細胞培養器材。
(2)表面が透過性を有する膜を有する、上記(1)記載の細胞培養器材。
(3)ヒトの肝臓に発現するクローディン1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、22、23、24、25、26及び27からなる群より選択される1種以上を含む、上記(1)又は(2)記載の細胞培養器材。
(4)上記(1)~(3)のいずれか記載の細胞培養器材と、肝臓由来培養細胞とを含む、胆汁中への薬物排出評価のためのキット。
(5)透過性を有する器材表面にクローディンタンパク質を含有する層をコーティングすることを特徴とする、上記(1)~(3)のいずれか記載の培養器材の製造方法。
(6)上記(1)~(3)のいずれか記載の培養器材に肝臓由来細胞層を形成させることを特徴とする、胆汁中への薬物排出評価系の作製方法。
(7)上記(1)~(3)のいずれか記載の培養器材に肝臓由来細胞層を形成させ、該細胞と該器材の表面との接触部位に胆管腔形成を誘導する方法。
(8)上記(1)~(3)のいずれか記載の培養器材に肝臓由来細胞層を形成させ、該肝臓由来細胞から該培養器材を介して排出される薬物を評価することを特徴とする、該肝臓由来細胞における薬物代謝及び/又は膜輸送の評価方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、透過試験が可能なインサート膜にクローディンをコーティングして肝細胞を培養することで、肝細胞を用いた透過試験系を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】15種類のクローディンタンパク質をそれぞれ発現させたHepG2細胞の胆管腔形成数をMRP2染色数で示す。結果は平均±標準偏差で示す(n=6)。*:P≦0.05。
【
図2】クローディン1、2、3及び9を発現させたHeLa細胞とHepG2細胞の共培養の結果を示す。A:WGA(形質膜)、GFP(HeLa細胞)及びMRP2(毛細胆管)の染色結果を示す。B:共培養による胆管腔形成の誘導を模式的に示す。C:クローディンを発現させたHeLa細胞との共培養によってMRP2染色数が有意に増大したことを示す。
【
図3】クローディン1精製サンプルのCBB染色(A)及びウェスタンブロッティング(B)による検出結果を示す。
【
図4】クローディン2精製サンプルのCBB染色(A)及びウェスタンブロッティング(B)による検出結果を示す。
【
図5】クローディン3精製サンプルのCBB染色(A)及びウェスタンブロッティング(B)による検出結果を示す。
【
図6】クローディン9精製サンプルのCBB染色(A)及びウェスタンブロッティング(B)による検出結果を示す。
【
図7】器材表面へのクローディン1タンパク質コーティングによって、器材との接触面においてHepG2細胞の胆管腔形成が誘導されたことを示す。A:Cellmatrix+クローディン1、B:クローディン1のみ、C:Cellmatrixのみ。
【
図8】クローディン1、2、3及び9をCellmatrixと共に器材表面にコーティングした場合の胆管腔形成を示す。A:xz平面、B:yz平面、C:xy平面、D:観察の模式図。
【
図9】Cellmatrixのみを器材表面にコーティングした場合の胆管腔形成を示す。A:xz平面、B:yz平面、C:xy平面、D:観察の模式図。
【
図10】クローディン1、2、3及び9をMatrigelと共に器材表面にコーティングした場合の胆管腔形成を示す。A:xz平面、B:yz平面、C:xy平面、D:観察の模式図。
【
図11】Matrigelのみを器材表面にコーティングした場合の胆管腔形成を示す。A:xz平面、B:yz平面、C:xy平面、D:観察の模式図。
【
図12】クローディン1、2、3及び9(CLDN1,2,3,9)をコーティングした場合の胆管腔形成が対照と比較して有意に増加していることを示す。結果は平均±標準偏差(n=4)を示す。**:p≦0.01。
【
図13】本発明の培養器材を用いた薬剤透過試験を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、器材表面にクローディンタンパク質層を形成させた細胞培養器材を提供する。
【0014】
<クローディンタンパク質>
クローディンは、上記の通り、細胞間結合の1種であるタイトジャンクションの形成に関わる主要なタンパク質であることが知られている。ヒト及びマウスにおいてこれまでに27種類のクローディンタンパク質が報告されており、それぞれ分子量が20~27kDaの膜貫通タンパク質である。
【0015】
本発明において使用するクローディンタンパク質は、肝細胞の機能や、薬物の代謝について評価する系を作成するために使用するものであるため、特に限定するものではないが、評価に使用する肝細胞が由来する動物種と同じ種由来のものとすることが好適である。
【0016】
動物種としては、肝臓を有する動物としての哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類、魚類をいずれも挙げることができ、限定するものではないが、特に哺乳類、例えばイヌ、ネコ、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル、ヒト等が挙げられる。例えばヒトにおける代謝研究のためにはヒト由来のクローディンを用いることが好ましい。
【0017】
クローディンとして、ヒトでは26種のクローディン(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、22、23、24、25、26及び27)が発現し、そのうち肝臓ではクローディン1、2、3、4、5、6、7、8、9、11及び14の11種が発現していることが報告されている。そして、クローディン分子は、同じ分子間のみならず、異なるクローディン分子間でも結合が生じてその機能を発揮することも知られている(Gunzel & Yu, 2013 Physiol Rev. 93 : 525-569;D’Souza et al., 2009 J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 64: 1146-1153;Yang et al., 2015 Oncol Rep. 34 : 1415-1423)。
【0018】
従って、本発明においては、ヒトにおいて発現が確認されている26種のクローディンをいずれも単独又は組み合わせて使用することができる。好ましくは、ヒト肝臓での発現が確認されている11種のクローディンを単独又は組み合わせて使用することができる。すなわち、本発明において、クローディンタンパク質は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、22、23、24、25、26及び27から1種、又は2種以上を使用することができる。好ましくは、本発明において、クローディンタンパク質は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、11及び14から1種、又は2種以上を使用することができる。本発明者等は、上記のうち、クローディン1、2、3及び9が本発明において好適に使用可能であることを確認している。従って、本発明の好ましい実施形態において、クローディンタンパク質は、クローディン1、2、3及び9からなる群より選択される1種以上を使用し得る。
【0019】
ヒトクローディン1(本明細書において「CLDN1」と記載することがある)のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列は、例えばアメリカ国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information、NCBI)の配列データベースにおいて、それぞれアクセッション番号NP_066924及びGene ID:9076として入手することができる。
【0020】
ヒトクローディン2(本明細書において「CLDN2」と記載することがある)のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列は、例えばNCBIの配列データベースにおいて、それぞれアクセッション番号NP_065117及びGene ID:9075として入手することができる。
【0021】
ヒトクローディン3(本明細書において「CLDN3」と記載することがある)のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列は、例えばNCBIの配列データベースにおいて、それぞれアクセッション番号NP_001297及びGene ID:1365として入手することができる。
【0022】
ヒトクローディン9(本明細書において「CLDN9」と記載することがある)のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列は、例えばNCBIの配列データベースにおいて、それぞれアクセッション番号NP_066192及びGene ID:9080として入手することができる。
【0023】
その他のヒトクローディン及び他の動物種由来のクローディンタンパク質のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列も、それぞれ同様にして入手することができる。
【0024】
本発明において、クローディンタンパク質は、動物から単離・精製して使用することもできる。しかしながら、上記の配列情報に基づいて、目的のクローディンタンパク質を合成することで、夾雑物質のないタンパク質層の形成がより容易に達成される。膜貫通タンパク質であるクローディンの合成は、限定するものではないが、脂質/界面活性剤混合ミセルを用いる無細胞合成により好適に行うことができる(例えばShinoda T. et al., Sci Rep., 6: 30442, 2016を参照されたい)。
【0025】
本発明においては、器材表面にクローディンタンパク質層を形成させることを特徴とする。「クローディンタンパク質層」とは、器材表面の上にクローディンタンパク質が均一にコーティングされた状態であるものをいう。ただし、器材表面に存在するクローディンタンパク質量については、播種した細胞膜に局在する生理的なクローディンタンパク質と結合しうる量があればよく、必ずしも均一である必要はない。一例として、クローディンタンパク質は、器材表面に0.6~0.8μg/cm2の範囲の密度で存在することが好ましい。
【0026】
<器材>
本明細書において「器材」とは、当分野において細胞培養器材として通常用いられているものを意図し、形状及び材質を特に限定するものではない。例えばガラス又はプラスチック製の器材であって、セルカルチャーインサート、スライド、ディッシュ、プレート、マルチウェルプレートを適宜使用することができる。
【0027】
クローディンタンパク質層を介した薬物の透過を評価する目的のために、クローディンタンパク質層を形成させる器材表面は、透過性を有するものであることが必要である。ここで、「透過性」とは、細胞から分泌される気体・液体・溶質・イオン等が通過可能であることをいい、100nm以上の孔径を有する多孔質体、メッシュ、セルカルチャーインサート等を使用することができる。例えば、Corning社のトランズウェル(登録商標)のインサート膜は好適に使用できる透過性を有する器材の一例である。なお、使用する素材は物質透過ができれば良いため、100nm以下の孔径の使用も可能性として考えられる。
【0028】
上記の器材表面におけるクローディンタンパク質層は、器材表面にクローディンタンパク質をコーティングすることで形成される。クローディンタンパク質のコーティングは、特に限定するものではないが、クローディンタンパク質を10μg/mlの濃度の溶液として100μL/cm2の量で器材表面に載せ、例えば室温で60分間静置した後、溶液を除いて乾燥させることで行うことができる。
【0029】
クローディンタンパク質は、上記の器材表面に単独でコーティングすることができる。あるいはまた、クローディンタンパク質は、コラーゲン等の細胞外マトリックスタンパク質と組み合わせてコーティングすることもできる。当分野において、複数の細胞外マトリックスタンパク質を含有してゲルを形成する製品が、効果的な細胞培養のために器材表面にコーティングするために提供されており、これらをクローディンタンパク質と組み合わせても良い。例えば、限定するものではないが、Cellmatrix Type I-C(新田ゼラチン, Osaka, Japan)、Matrigel(Corning, NY, USA)は好適に使用できる例であり、これらはクローディンタンパク質と混合してコーティングしても良く、またクローディンタンパク質よりも先にコーティングしても良い。
【0030】
尚、本明細書において、「器材表面」又は「器材底面」とは、器材において培養する細胞、特に肝細胞と接する器材の面を意図する。透過性器材の場合、器材の双方の表面がコーティングされることもあり得る。
【0031】
本発明の細胞培養器材を用いることで、培養した細胞、特に肝細胞において胆管腔の器材表面側での形成が誘導され、透過性の器材を用いることで、クローディンタンパク質層を有する器材を通して細胞から分泌される物質を容易に回収することができる。
【0032】
<キット>
本発明はまた、上記の本発明の細胞培養器材と、肝臓由来培養細胞とを含む、胆汁中への薬物排出評価のためのキットを提供する。
本発明において、「肝臓由来培養細胞」(本明細書において「培養細胞」又は「肝細胞」と記載する場合もある)としては、特に限定するものではないが、例えば市販の肝臓由来培養細胞、iPS由来肝細胞、肝がん由来培養細胞、健康な個体又は肝疾患を有する個体(ヒト又は動物)由来の培養細胞等が挙げられる。
【0033】
正常な肝細胞又は健康な個体由来の肝細胞を用いる場合、本発明のキットは、正常な肝臓における薬物代謝の評価に使用することができ、例えば特定の薬物(化合物)の代謝について評価することができる。
【0034】
あるいはまた、肝がん由来の培養細胞、又は肝がん等の肝疾患を有する個体由来の肝細胞を用いる場合、本発明のキットは、正常な肝臓と比較して薬物代謝の変化、例えば代謝機能の低下の有無等を評価することができる。
【0035】
<培養器材の製造方法>
本発明はまた、透過性を有する器材表面にクローディンタンパク質を含有する層をコーティングすることを特徴とする、上記の培養器材の製造方法を提供する。本方法は、クローディンタンパク質を単独で、又は培養器材のコーティングに用いられる他の成分と組み合わせて器材表面にコーティングすることを含む。
本発明の方法によって得られた培養器材は、上記の通り、胆汁中への薬物排出評価系に使用することができる。
【0036】
<胆汁中への薬物排出評価系の作製方法>
本発明はまた、上記の本発明の培養器材に肝臓由来細胞層を形成させることを特徴とする、胆汁中への薬物排出評価系の作製方法を提供する。
肝臓由来細胞層は、単層培養され細胞間は密着して細胞間の透過性は低く保たれる。播種する細胞密度は、細胞種によって異なるため一概には規定できないが、例えば初代ヒト肝細胞においては2.0×105個/cm2で播種すると培養器材一面に肝細胞を播種できることがある。ただし、細胞の生存率や接着率の影響を受けるため、ロットごとの最適化が必要である。
【0037】
<胆管腔形成の誘導方法>
本発明はまた、上記の本発明の培養器材に肝臓由来細胞層を形成させ、該細胞と該器材の表面との接触部位に胆管腔形成を誘導する方法を提供する。
本発明の培養器材は、クローディンタンパク質層の存在によって、肝臓由来細胞における胆管腔の形成が培養器材と接触する面に誘導される。
【0038】
胆管腔の形成は、例えば胆管腔側膜に選択的に発現するMRP2タンパク質の発現の検出によって確認することができる。MRP2の発現は、MRP2に対する抗体を用いて検出することができる。MRP2に対する抗体は市販のものを好適に使用することができ、例えば、MRP2の発現は、抗MRP2マウスモノクローナル抗体を一次抗体、蛍光標識されたヤギ抗マウス抗体を二次抗体として用いる免疫染色によって可視化し、蛍光によって胆管腔の数を数えることができる。
【0039】
本発明の方法によって、本発明の培養器材を用いない場合と比較して、培養器材表面における胆管腔の数(1細胞あたり胆管腔が0.89個)が1.5倍以上、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上に増加し得る。
【0040】
胆管腔の形成は、MRP2の発現の他、オクルディン、JAM、zonula occluden (ZO)タンパク質(ZO-1、2、3)等の発現によっても確認することができる。
【0041】
<薬物代謝及び/又は膜輸送の評価方法>
本発明はまた、上記の本発明の培養器材に肝臓由来細胞層を形成させ、該肝臓由来細胞から該培養器材を介して排出される薬物を評価することを特徴とする、該肝臓由来細胞における薬物代謝及び/又は膜輸送の評価方法を提供する。
【0042】
図13に、本発明の培養器材を用いた薬物透過試験の例を模式的に示す。この例では、Corning社のトランズウェル(登録商標)等において、細胞培養インサートにクローディンタンパク質をコーティングすることが想定される。
【0043】
本発明の培養器材を用い、クローディンタンパク質をコーティングした器材上に肝細胞を播種して培養することで、器材と接触する面において胆管腔が形成され、この胆管腔から透過性プレート(インサート)を介して薬物が移動することができる。
従って、培養器材外部(下部コンパートメント)の液体を採取することで、透過した薬物を容易に回収し、薬物の種類や濃度を決定することが可能である。
【実施例0044】
以下に本発明を実施例によって更に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1 クローディンの発現による胆管腔形成の誘導]
HepG2細胞(ヒト肝がん由来細胞株、American Type Culture Collectionより入手)を37℃、5%CO2のインキュベーター内で、10% FBS、100 units/mL Penicillin G Potassium、100μg/mL Streptomycin、1% NEAAを含有するDMEM中で培養し、70-80%コンフルエントの状態でPBSで洗浄後、0.1% trypsin-EDTA/PBS処理により細胞を回収、継代した。
【0046】
0.75×105個のHepG2細胞に対して、クローディン1、2、3、4、5、7、8、9、10a、12、14、15、19、23及び25をコードする遺伝子をそれぞれ導入した。
【0047】
得られたクローディン発現細胞における機能的な胆管腔には、クローディンタンパク質の裏打ちタンパク質であるZO-1と、化合物を胆管腔へ排出するMRP2が共局在化すると考えられる。そこで、共局在化したMRP2/ZO-1の数を、導入しなかった場合(mock)を100として算出した。
【0048】
その結果、
図1に示すように、クローディン1、2、3及び9をそれぞれ導入した細胞において、胆管腔形成が増加することが示された(クローディン1、2及び9において有意、クローディン3においてp=0.07。)
【0049】
[実施例2 クローディン発現細胞と肝細胞との共培養による胆管腔形成の誘導]
クローディン発現細胞と肝細胞とを共培養した場合に、肝細胞における胆管腔形成が誘導されるか否かを検討した。
【0050】
HeLa細胞(ヒト子宮頸がん由来細胞株、American Type Culture Collectionより入手)を37℃、5%CO2のインキュベーター内で、10% FBS、100 units/mL Penicillin G Potassium、100 μg/mL Streptomycinを含有するDMEM中で培養し、70-80%コンフルエントの状態でPBS洗浄後、0.1% trypsin-EDTA/PBS処理により細胞を回収、継代した。
【0051】
5.0×104個/cm2のHeLa細胞をNunc6ウェルプレート(Thermo Fisher Scientificより入手)に播種し、24時間後に培地を取り除き、以下のように調製したレンチウイルス溶液含有DMEMを加えた。さらに24時間後に通常培養用の培地に交換を行った。
【0052】
レンチウイルス含有DMEM
培養用DMEM (FBS, 抗生剤含有) 37.5%
レンチウイルス溶液(CLDN-1) 12.5%
レンチウイルス溶液(CLDN-2) 12.5%
レンチウイルス溶液(CLDN-3) 12.5%
レンチウイルス溶液(CLDN-9) 12.5%
レンチウイルス溶液(EGFP) 12.5%
【0053】
レンチウイルス溶液の作成方法として、HEK293T細胞(金沢大学がん進展制御研究所平尾敦教授より分譲された)をプラスミドの導入前日に、0.95×105個/cm2でnunc 6ウェルプレートに播種した。培養液は110 mg/L ピルビン酸ナトリウム、10% FBSを含むDMEMを用いた。FG12/hCLDNs 1.0μg、pCMC-VSV-G (Addgeneより入手) 0.5μg、psPAX2 (Addgeneより入手) 1.0μgをそれぞれLipofectamine3000(Thermo fisher Scientificより入手)を用いて導入した。遺伝子導入から6-12時間後に培地交換した。導入から72時間後に培地上清を15mLチューブに回収し、150×g、5分間遠心を行い、上清を回収し、レンチウイルス溶液とした。
【0054】
一方、実施例1と同様にして継代したHepG2細胞を0.3×105個/ウェルとなるようにして、上記のクローディン発現HeLa細胞と10% FBS、100 units/mL Penicillin G Potassium、100 μg/mL Streptomycin、1% NEAAを含有するDMEM中で37℃で4日間共培養した。
【0055】
その結果、
図2に示すように、上記の遺伝子導入したHeLa細胞とHepG2細胞を共培養した場合、HepG2細胞間だけでなく、HeLa細胞とHepG2細胞の間においても胆管腔の形成が誘導されることが示された。
【0056】
[実施例3 クローディンタンパク質の合成]
1.クローディン1、2、3、及び9タンパク質の無細胞合成
クローディンは膜タンパク質のため、膜貫通構造の維持が重要となる。そこで、Shinoda T. et al., Sci Rep., 6: 30442, 2016に記載されたような無細胞タンパク質合成系を用い、リポソームを利用したin vitroタンパク質合成を行った。
【0057】
具体的には、クローディン1、2、3、及び9タンパク質の無細胞合成は、再構成型無細胞合成キットPUREfrex (GeneFrontier, Kashiwa, Japan)を用いて行った。無細胞合成反応液中へ、N末端側にT7プロモーター及びribosomal binding site (RBS)配列を付加したクローディンテンプレート、及び脂質/界面活性剤混合ミセルを加え、37℃で4時間反応させ、クローディン1、2、3、及び9タンパク質を合成した。
【0058】
先ず、クローディン1タンパク質の合成のために、pcDNA3.1(+)/hCLDN1 myc-tag plasmid(配列番号1)を鋳型にし、以下のプライマー(表1)及びPrimeSTAR Max DNA Polymerase (TaKaRa Bio, Inc, Shiga, Japan)を用いた3段階PCRを行い、N末端領域にT7 promoter配列、Ribosomal binding site (RBS)、Hisタグ配列を付加したin vitro合成用クローディン1テンプレートを調製した。PCRの反応条件は、熱変性反応 (98℃, 10秒)、アニーリング (55℃, 5秒)、伸長反応 (72℃, 5秒)を1サイクルとし、30サイクル行った。
【0059】
【0060】
混合ミセルは、6.7 mg/mL 脂質 [5 % (w/w)コレステロールおよび95 % (w/w)卵黄ホスファチジルコリン]および10.0 mg/mL ジギトニンから溶液が透明になるまで超音波処理することにより、調製した。
【0061】
クローディン2、3、及び9タンパク質についても同様に、それぞれ配列番号2~4に示す配列を有するプラスミド(hCLDN2 myc-tag plasmid(配列番号2)、hCLDN3 myc-tag plasmid(配列番号3)、hCLDN9 myc-tag plasmid(配列番号4))を用い、それぞれ表2~4に示すプライマーを用いた3段階PCRを行ってテンプレートを調製した。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
2.クローディン1、2、3、9タンパク質の精製
合成したクローディン1、2、3、及び9タンパク質は、Dynabeads His-tag Isolation & Pulldown (Thermo Fisher Scientific)を用いて精製した。
【0066】
クローディン1、2、3、及び9タンパク質合成反応液を混合し、1 × Binding/Wash bufferへ添加して700μLとした。その後、磁気ビーズと共に室温で5分振盪し、上清を回収した (フロースルー)。磁気ビーズを300μLの1 × Binding/Wash bufferと混合し、室温で2分静置したのち、上清を回収した。この操作を4回繰り返した(洗浄液1-4)。磁気ビーズを100μLのHis-Elution bufferと混合し、室温で5分振盪したのち、上清を回収した。この操作を2回繰り返した (溶出液1、2)。
【0067】
3.ウエスタンブロッティングによるクローディン1、2、3、及び9の検出
クローディン1、2、3、及び9タンパク質精製サンプル(フロースルー、洗浄液、溶出液1及び2)をそれぞれ4 × SDS loading bufferで希釈し、3% スタッキングゲルを含む14% ポリアクリルアミドゲルで分離した。分子量はBlueStar Prestained Protein Marker (日本ジェネティクス, Tokyo, Japan)を使用して決定した。
【0068】
タンパク質を100 mAで30分、Trans-BlotSD Semi-Dry Transfer Cell (Bio-Rad, Hercules, CA)を使用して、PVDF膜に転写した。メンブレンを0.1% Tween-20および2% スキムミルクを含むPBS-Tで1時間ブロッキングした。PBS-Tで洗浄した後、一次抗体(anti-claudin 1 antibody, mouse monoclonal (sc-81796、Santa Cruz Biotechnology)、anti-claudin2 antibody, rabbit polyclonal (ab53032、abcam)、anti-claudin3 antibody, rabbit monoclonal (ab214487、abcam)、anti-claudin9 antibody, rabbit polyclonal (sc-398836、santa Cruz Biotechnology))を4℃、一晩反応させ、さらに二次抗体(蛍光標識ヤギ抗マウス抗体又は蛍光標識ヤギ抗ウサギ抗体、Thermo Fisher Scientific)を室温、2時間で反応させ、ImmunoStarZeta (富士フイルム和光純薬)を使用して発光を検出した。
【0069】
4.CBB染色によるクローディン1、2、3、及び9の検出
ポリアクリルアミドゲルでサンプルを分離した後、ゲルをCBB固定液に浸して30分間振盪した。固定液を捨て、ゲルをCBB染色液に浸し、40分間振盪した。染色液を捨て、ゲルをCBB脱色液に浸し脱色を行い、バンドを確認した。
【0070】
ImageJアプリケーション (National institutes of health, Bethesda, MD, USA)を用いたデンシトメトリー分析により、各質量のBSAのバンドから検量線を作成し、クローディン1、2、3、及び9のバンドの濃さから、合成量及び精製量を見積もった。合成量については各クローディンのDNAを添加した合成反応液 [DNA (+)]のバンドから、DNAを添加していない合成反応液 [DNA(-)]のバンドを差し引くことにより見積もった。
【0071】
その結果、
図3~6に示すように、クローディン1(23kDa)、クローディン2(25kDa)、クローディン3(23kDa)、及びクローディン9(22kDa)がそれぞれ単一のバンドとして精製された。精製率はいずれも15~26%の範囲であった。
【0072】
[実施例4 培養器材へのクローディンタンパク質のコーティングの確認]
培養器材として、ibidi 8 well plate(日本ジェネティクス, Tokyo, Japan)をそのまま、又はコラーゲンIをコーティングしたものを用い、クローディンタンパク質がコーティングできるか否かを確認した。
【0073】
コラーゲンコーティング器材の調製のために、ibidi 8 well plateに300μg/mlになるようにpH 3.0塩酸で希釈したCellmatrix Type I-C (新田ゼラチン, Osaka, Japan)を100μl/wellで添加し、15分静置した。その後、溶液を取り除き、室温で1時間風乾させた。使用直前にPBSで2回洗浄した。
【0074】
ibidi 8 well plate、又は予めCellmatrixでコーティングしたibidi 8 well plateに、実施例3で合成したクローディン1タンパク質の溶液(最終濃度44μg/ml)をコーティングした後、4%PFAを含むPBS溶液で10分固定した。2%BSAを含むPBSで60分ブロッキングした後、一次抗体(anti-claudin 1 antibody, mouse monoclonal (sc-81796、Santa Cruz Biotechnology))を4℃、一晩反応させ、さらに二次抗体(蛍光標識ヤギ抗マウス抗体、Thermo Fisher Scientific)を室温、1時間反応させた。蛍光をHSオールインワン蛍光顕微鏡 (BZ-9000, KEYENCE, Osaka, Japan)で観察した。
【0075】
その結果、クローディン1をコーティングしたウェルでは、Cellmatrixのコーティングの有無にかかわらず、均一な蛍光が観察され、クローディン1が器材に均一にコーティングされたことが示された(データは示さない)。
【0076】
[実施例5 クローディン1、2、3、9コーティングプレートの作製]
Cellmatrix Type I-C (最終濃度300μg/ml)と実施例3で合成したクローディン1(最終濃度43.9μg/mL)の溶液を1 : 1で混合し、コーティング溶液を作製した。
【0077】
同様にして、Cellmatrix Type I-C (最終濃度300μg/ml)又はMatrigel(最終濃度42μg/ml)と実施例3で合成したクローディン1、2、3、及び9のミックス溶液を1 : 1で混合し、コーティング溶液を作製した(クローディン1、2、3、及び9はそれぞれ最終濃度として22.0、9,55、17.8、及び10.25 μg/mL)。その後、各コーティング剤のコーティング方法に従いコーティングプレートを作製した。
【0078】
[実施例6 クローディン1コーティングプレート上でのヒト肝がん細胞における胆管腔形成の誘導]
実施例5で作製したクローディン1コーティングプレートに、HepG2細胞を0.75×105個/cm2で播種し、10% FBS、100 units/mL Penicillin G Potassium、100μg/mL Streptomycin、1% NEAAを含有するDMEM中で72時間培養し、培地交換後に更に培養して、合計4日間培養した。
【0079】
HepG2細胞の播種より96時間培養後、4%PFAを含むPBS溶液で10分固定し、Wheat germ agglutinin (WGA) (5μg/mL, Thermo Fisher Scientificより入手)で細胞膜を染色した後、0.2% Triton X-100を含むPBSで透過処理を行った。2% BSAを含むPBSで60分ブロッキング後、一次抗体 (anti-MRP2 mouse monoclonal antibody : 100倍)を室温で2時間反応させ、さらに二次抗体 (Goat anti-Mouse Alexa flour 594 : 200倍)を室温で1 時間反応させた。DRAQ5 (5μM, 室温, 30分)で核染色を行い, 蛍光を共焦点顕微鏡 (LSM710, Carl-Zeiss)で観察した。
【0080】
その結果、
図7Aに示すように、MRP2染色が器材底面側へ誘導される傾向が観察された。また、この誘導はCellmatrixのコーティングの有無による影響を受けなかった(
図7B)。一方、CellmatrixのみをコーティングしたウェルでHepG2細胞を培養した条件では, MRP2染色は肝細胞の隣接細胞間に観察された(
図7C)。
【0081】
[実施例7 クローディン1、2、3、9コーティングプレート上でのヒト初代肝細胞における胆管腔形成の誘導]
凍結ヒト初代肝細胞 (Lot: Hu1663, Thermo Fisher Scientific)を37℃に温めた温浴で融解し、37℃のCHRMに懸濁後、100×g、10分遠心した。デカントで上清を捨て、1×106 個/mlになるようにPrimary Hepatocyte Thawing and Maintenance Supplements(Thermo Fisher Scientificより入手)含有Williams' Medium E(Thermo Fisher Scientificより入手)を加え、トリパンブルー染色により細胞数を計数した。
【0082】
その後、実施例5でCellmatrix Type I-Cと共にクローディン1、2、3、9をコーティングしたプレート上に4.0×105個/cm2の播種密度で初代ヒト肝細胞を播種した。37℃、5% CO2下で4時間インキュベート後、氷冷Matrigel及びPrimary Hepatocyte Maintenance Supplements(Thermo Fisher Scientificより入手)含有Williams' Medium Eに培地交換した。さらに24時間ごとにPrimary Hepatocyte Maintenance Supplements含有Williams' Medium Eに培地を交換し、播種から72時間後に実験に用いた。
【0083】
初代ヒト肝細胞の播種より72時間後、4% PFAを含むPBS溶液で10分固定し、Wheat germ agglutinin (WGA) (5 μg/mL, Thermo Fisher Scientific)で細胞膜を染色した後、0.2% Tritonを含むPBSで透過処理を行った。2% BSAを含むPBSで60分ブロッキング後、一次抗体 (anti-MRP2 mouse monoclonal antibody : 100倍)を室温で2時間反応させ、さらに二次抗体 (Goat anti-Mouse Alexa flour 594 : 200倍)を室温で1 時間反応させた。DRAQ5 (5 μM, 室温, 30分)で核染色を行い、蛍光を共焦点顕微鏡 (LSM710, Carl-Zeiss)で観察した。
【0084】
その結果、
図8に示すように、MRP2染色が器材底面側へ誘導される傾向が観察された。一方、CellmatrixのみをコーティングしたウェルでHepG2細胞を培養した条件では, MRP2染色は肝細胞の隣接細胞間に観察された(
図9)。
【0085】
同様の結果は、実施例5でMatrigelと共にクローディン1、2、3、9をコーティングしたプレートを用いた場合においても観察された(
図10及び11)。
【0086】
[実施例8 培養器材側に誘導されたヒト初代肝細胞胆管腔の計測]
実施例7において、クローディン1、2、3、及び9の存在下で培養器材側に誘導されたヒト初代肝細胞胆管腔の計測を、共焦点顕微鏡 (LSM710, Carl-Zeiss)のZ-stack機能を用い、胆管腔マーカーであるMRP2の染色の数を計数し、目視で行った。
【0087】
その結果、
図12に示すように、Cellmatrixを用いた場合、及びMatrigelを用いた場合のいずれにおいても、クローディン1、2、3、及び9をコーティングしたプレート上で培養した場合に器材側におけるMRP2染色数が3倍以上に増加したことが示された。