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特開2022-103810繊維強化樹脂シート及び繊維強化複合材並びに成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103810
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂シート及び繊維強化複合材並びに成形品
(51)【国際特許分類】
   B29B 11/16 20060101AFI20220701BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20220701BHJP
   B29C 70/10 20060101ALI20220701BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20220701BHJP
   B29K 105/10 20060101ALN20220701BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20220701BHJP
【FI】
B29B11/16
B29C43/34
B29C70/10
B29C70/42
B29K105:10
B29K101:12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218665
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】金森 尚哲
【テーマコード(参考)】
4F072
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB22
4F072AD44
4F072AG03
4F072AG17
4F072AG20
4F072AH06
4F072AH13
4F072AH18
4F072AH19
4F072AH49
4F072AK02
4F072AK14
4F204AA29
4F204AB25
4F204AC03
4F204AD16
4F204AG01
4F204AG03
4F204FA01
4F204FB01
4F204FG02
4F204FG09
4F204FN11
4F204FN15
4F205AA29
4F205AB25
4F205AC03
4F205AD16
4F205AG01
4F205AG03
4F205HA08
4F205HA14
4F205HA25
4F205HA34
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HC06
4F205HK03
4F205HK04
(57)【要約】
【課題】強化繊維の含有率が高くかつ成形不良が生じ難い繊維強化樹脂シートを提供する。
【解決手段】繊維強化樹脂シートは、熱可塑性の樹脂フィルムと、強化繊維の繊維束から開繊されかつ同一方向に配向された状態で樹脂フィルムの両面に積層された複数の強化繊維とを備える。樹脂フィルムの厚みは5μm以上15μm以下であり、強化繊維の目付量は25g/m以上60g/m以下であり、強化繊維の体積含有率は60%以上75%以下であり、繊維強化樹脂シートの厚みは30μm以上65μm以下である。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
30μm以上65μm以下の厚みを有する繊維強化樹脂シートであって、
熱可塑性の樹脂フィルムと、
強化繊維の繊維束から開繊されかつ同一方向に配向された状態で前記樹脂フィルムの両面に積層された複数の強化繊維とを備え、
前記樹脂フィルムの厚みが5μm以上15μm以下であり、
前記強化繊維の目付量が25g/m以上60g/m以下であり、
前記強化繊維の体積含有率が60%以上75%以下である、ことを特徴とする繊維強化樹脂シート。
【請求項2】
請求項1に記載の複数の繊維強化樹脂シートが厚み方向に積層された繊維強化複合材であって、
複数の前記繊維強化樹脂シートは、前記強化繊維の配向方向である繊維方向が平面視で互いに角度差を有する状態で互いに積層される、ことを特徴とする繊維強化複合材。
【請求項3】
請求項1に記載の繊維強化樹脂シートから切り出された複数のチョップ材が厚み方向に積層された繊維強化複合材であって、
複数の前記チョップ材は、それぞれ短辺の長さが2mm以上50mm以下でかつ長辺の長さが2mm以上80mm以下の長方形状に形成されるとともに、前記強化繊維の配向方向である繊維方向が二次元的にランダムになる状態で積層される、ことを特徴とする繊維強化複合材。
【請求項4】
請求項2または3に記載の繊維強化複合材を用いて成形された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムと強化繊維とを含む繊維強化樹脂シート、及び当該繊維強化樹脂シートを用いて成形される繊維強化複合材、並びに当該繊維強化複合材を用いて成形される成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂シートの一例として、下記特許文献1のものが知られている。この特許文献1の繊維強化樹脂シート(熱可塑性炭素繊維プリプレグ)は、開繊されたシート状の炭素繊維と、当該炭素繊維の両面(一面および他面)に重ねられた一対の熱可塑性の樹脂フィルムとを備えている。このような構造の繊維強化樹脂シートは、炭素繊維を一対の樹脂フィルムの間に挟んで加圧および加熱することにより製造される。すなわち、特許文献1における繊維強化樹脂シートは、供給ローラを通じて炭素繊維を開繊しつつ繰り出す工程と、繰り出された炭素繊維の両面に熱可塑性の樹脂フィルムを重ねた上で当該樹脂フィルムをローラで挟圧しつつプレートヒータで加熱する工程とを含む。これにより、樹脂フィルムを軟化させて炭素繊維中に含浸させることができ、上述した構造の繊維強化樹脂シートを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-122137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、樹脂フィルムの厚みを8~55μmに設定することが望ましいとされている。その理由は、繊維強化樹脂シートにおける炭素繊維の含有率(Vf値)を50~60%まで高めることができ、高い強度を達成できるというものである。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1では、炭素繊維の両面にそれぞれ樹脂フィルムが配置される(一対の樹脂フィルムの間に炭素繊維が挟み込まれる)構造であるため、樹脂の比率が本来的に高くなり易い。言い換えると、上記特許文献1において実際に炭素繊維の含有率を50~60%にまで高めようとすると、一対の樹脂フィルムの間に多量の炭素繊維を積層する必要が生じる。このため、成形の際に樹脂フィルムを加圧および加熱したとしても、軟化した樹脂フィルムが炭素繊維の内部まで十分に含浸しない可能性がある。樹脂フィルムの含浸が不十分になると、成形後に炭素繊維がばらけるなどの不良が生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、強化繊維の含有率が高くかつ成形不良が生じ難い繊維強化樹脂シートを提供し、もって繊維強化複合材または成形品の機械的性質を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためのものとして、本発明の一局面に係る繊維強化樹脂シートは、30μm以上65μm以下の厚みを有する繊維強化樹脂シートであって、熱可塑性の樹脂フィルムと、強化繊維の繊維束から開繊されかつ同一方向に配向された状態で前記樹脂フィルムの両面に積層された複数の強化繊維とを備え、前記樹脂フィルムの厚みが5μm以上15μm以下であり、前記強化繊維の目付量が25g/m以上60g/m以下であり、前記強化繊維の体積含有率が60%以上75%以下である、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0008】
この構成によれば、5~15μmという比較的薄い樹脂フィルムの両面に強化繊維を積層することで繊維強化樹脂シートが成形され、しかも当該強化繊維の樹脂フィルムに対する目付量が25~60g/mに設定されるので、繊維強化樹脂シートの成形不良を防止しつつ当該シート中の強化繊維の体積含有率を60~75%まで高めることができる。
【0009】
すなわち、樹脂フィルムの両面に強化繊維が積層されるという構造上、樹脂フィルムの各面(一面および他面)に対する強化繊維の積層量を過度に増やさなくても、全体として25~60g/mという目付量を達成することが可能になる。このため、成形時の加熱および加圧によって樹脂フィルムの各面に強化繊維を十分に含浸させることができ、樹脂フィルムと強化繊維との結合強度を高めることができる。しかも、樹脂フィルムの厚みが5~15μmと薄いため、加熱により樹脂フィルムが迅速に軟化し、強化繊維を樹脂フィルムの内部までしっかり含浸させることができる。このことは、成形後に強化繊維がばらけるなどの不良が生じるのを防止することにつながる。そして、これらの条件下で60~75%という高い体積含有率の繊維強化樹脂シートが実現される結果、当該繊維強化樹脂シートを用いて成形される成形品の強度を十分に高めることができる。
【0010】
本発明の他の局面に係る繊維強化複合材は、上述した繊維強化樹脂シートが厚み方向に積層された繊維強化複合材であって、複数の前記繊維強化樹脂シートは、前記強化繊維の配向方向である繊維方向が平面視で互いに角度差を有する状態で互いに積層される、ことを特徴とするものである(請求項2)。
【0011】
この構成によれば、繊維強化複合材に対し強化繊維による補強効果を複数の異なる方向に及ぼすことができ、繊維強化複合材の機械的性質を向上させることができる。
【0012】
本発明のさらに他の局面に係る繊維強化複合材は、上述した繊維強化樹脂シートから切り出された複数のチョップ材が厚み方向に積層された繊維強化複合材であって、複数の前記チョップ材は、それぞれ短辺の長さが2mm以上50mm以下でかつ長辺の長さが2mm以上80mm以下の長方形状に形成されるとともに、前記強化繊維の配向方向である繊維方向が二次元的にランダムになる状態で積層される、ことを特徴とするものである(請求項3)。
【0013】
この構成によれば、繊維強化複合材の機械的性質に十分な等方性(疑似等方性)を付与することができ、強化繊維による好ましい補強効果を得ることができる。
【0014】
本発明のさらに他の局面に係る成形品は、上述した繊維強化複合材を用いて成形された成形品である(請求項4)。
【0015】
この構成によれば、成形品の強度を十分に高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、強化繊維の含有率が高くかつ成形不良が生じ難い繊維強化樹脂シートを提供することができ、もって繊維強化複合材または成形品の機械的性質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係る成形品を製造する方法を示す工程図である。
図2】繊維強化樹脂シートを製造する装置の概略構成を示す図である。
図3】繊維強化樹脂シートを積層して繊維強化複合材を成形する方法を説明するための図である。
図4】熱プレス機を用いて繊維強化複合材から成形品を成形する方法を説明するための図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る成形品を製造する方法を示す工程図である。
図6】繊維強化樹脂シートからチョップ材を切り出す方法を説明するための図である。
図7】チョップ材を積層して繊維強化複合材を成形する方法を説明するための図である。
図8】繊維強化樹脂シートの実施例の特性を示す表である。
図9】繊維強化樹脂シートの比較例の特性を示す表である。
図10】繊維強化複合材の実施例および比較例の特性を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0019】
(1)第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る成形品30(図4)を製造する方法を示す工程図である。この第1実施形態において、成形品30は、強化繊維が含有された合成樹脂製の成形品(複合成形品)であり、図1に示す各工程(S1~S3)により製造される。すなわち、第1実施形態の成形品30は、繊維強化樹脂シート1(図2)を成形する工程S1と、繊維強化樹脂シート1を積層して繊維強化複合材10を成形する工程S2と、繊維強化複合材10をプレス加工して成形品30を成形する工程S3とを含む手順により製造される。各工程の詳細は次のとおりである。
【0020】
(繊維強化樹脂シートの成形)
工程S1は、図2に示す繊維強化樹脂シート1を成形する工程(シート成形工程)である。このシート成形工程S1により成形される繊維強化樹脂シート1は、熱可塑性の樹脂フィルム2に多数の強化繊維3が含浸されたUDシート(FRTPシート)である。
【0021】
強化繊維3としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミックス繊維等を用いることができる。中でも炭素繊維は、成形品の強度および耐食性等を向上させる上で有利である。炭素繊維としては、強度が特に高いPAN(ポリアクリロニトリル)系の炭素繊維を用いることが好ましい。
【0022】
樹脂フィルム2の材料である熱可塑性樹脂、つまり繊維強化樹脂シート1のマトリックス樹脂としては、ポリアミド(特にPA6,PA9T)、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリイミド、ポリアリレート、フッ素樹脂、液晶ポリマー、熱可塑性エポキシ樹脂等を例示することができる。また、これらの熱可塑性樹脂を2種類以上混合したポリマーアロイを樹脂フィルム2の材料として用いてもよい。
【0023】
樹脂フィルム2は、一定の厚みを有する極薄シート状(フィルム状)の部材であり、熱可塑性製樹脂により構成される。このような樹脂フィルム2は、例えば熱可塑性樹脂を押出成形することにより成形される。また、樹脂フィルム2の厚みは、5μm以上15μm以下に設定される。
【0024】
繊維強化樹脂シート1は、例えば図2に示されるシート製造装置50を用いて製造することができる。このシート製造装置50は、強化繊維の束である繊維束3’および熱可塑性の樹脂フィルム2から、繊維強化樹脂シート1を連続的に製造する装置である。
【0025】
具体的に、シート製造装置50は、上下に並ぶ複数対(ここでは2対)の加熱ローラ51と、加熱ローラ51の下側において上下に並ぶ複数対(ここでは2対)の冷却ローラ522と、加熱ローラ51と冷却ローラ52との間に掛け回された一対の無端ベルト54と、無端ベルト54の下側に位置する一対の引き出しローラ55と、引き出しローラ55の下側に配置された巻き取り用のボビン56とを備えている。
【0026】
最上段の加熱ローラ51の両側には、繊維束3’を開繊して帯状に広げる開繊機構(図示省略)が設けられている。この開繊機構は、繊維束3’を連続的に開繊することにより、薄い帯状に広がった多数の連続した強化繊維3を形成することが可能である。開繊機構としては、このような処理が可能な機構であればよく、繊維束を叩いて広げる機構、繊維束に風を当てて広げる機構、繊維束に超音波を当てて広げる機構など、種々の機構を用いることができる。
【0027】
図2の例において、上記開繊機構は、樹脂フィルム2の一方の面に開繊後の強化繊維3を供給する機構と、樹脂フィルム2の他方の面に開繊後の強化繊維3を供給する機構とを有する。前者の機構は、樹脂フィルム2の一方の面と当該面と接する加熱ローラ51との間に強化繊維3を導入するように設けられ、後者の機構は、樹脂フィルム2の他方の面と当該面と接する加熱ローラ51との間に強化繊維3を導入するように設けられる。
【0028】
加熱ローラ51は、電気ヒータもしくは加熱媒体等により加熱された高温のローラである。加熱ローラ51は、樹脂フィルム2およびその両面に導入された強化繊維3を無端ベルト54を介して両側から挟み込みつつ加熱することにより、強化繊維3を樹脂フィルム2に連続的に含浸させる。強化繊維3は、一方向(図2の上下方向)に引き揃えられた状態で樹脂フィルム2に含浸される。
【0029】
冷却ローラ52は、冷却媒体等により冷却された低温のローラである。冷却ローラ52は、強化繊維3が含浸された状態の樹脂フィルム2を無端ベルト54を介して両側から挟み込みながら冷却することにより、強化繊維3を樹脂フィルム2に固定する。これにより、樹脂フィルム2(マトリックス樹脂)と強化繊維3とが一体化された繊維強化樹脂シート1が成形される。
【0030】
引き出しローラ55は、成形された繊維強化樹脂シート1に張力を付与しつつこれを下方へ引き出すローラである。
【0031】
巻き取り用のボビン56は、繊維強化樹脂シート1を巻き取るための芯材である。ボビン56は、モータ等の駆動源により回転駆動され、引き出しローラ55により引き出された繊維強化樹脂シート1を順次巻き取ることにより、繊維強化樹脂シート1をロール状に纏める。
【0032】
以上の工程により繊維強化樹脂シート1が完成する。この繊維強化樹脂シート1における強化繊維3の目付量、つまり樹脂フィルム2に対しその単位面積あたりに含浸される強化繊維3の重量は、25g/m以上60g/m以下に設定される。言い換えると、上述したシート製造装置50の開繊機構は、強化繊維3の目付量が25~60g/mになるように樹脂フィルム2の両面に規定の密度で強化繊維3を供給する。なお、必要な場合、上述した一連の工程(樹脂フィルム2の両面に強化繊維3を供給、含浸させる処理)を複数回繰り返すことにより、上記目付量を達成するようにしてもよい。
【0033】
強化繊維3の体積含有率、つまり強化繊維3が占める体積を繊維強化樹脂シート1全体の体積で割った値(Vf値)は、60%以上75%以下に設定される。すなわち、5~15μmの厚みを有する樹脂フィルム2に対し強化繊維3が上述した目付量(25~60g/m)で含浸されることにより、強化繊維3の体積含有率が60~75%に設定されている。
【0034】
強化繊維の目付量および体積含有率がそれぞれ上記各範囲に収められることにより、繊維強化樹脂シート1の厚みは、30μm以上65μm以下に設定される。このような厚みの繊維強化樹脂シート1は、ロール状に纏めるのに支障のない高い柔軟性を有する。
【0035】
(繊維強化複合材の成形)
以上のようにして繊維強化樹脂シート1の成形が完了すると、次の工程S2において、繊維強化樹脂シート1を積層して繊維強化複合材10を成形する(シート積層工程)。このシート積層工程では、図3に示すように、繊維強化樹脂シート1から所定形状に切り出された複数の基材シート1Aを、その繊維方向Xが平面視で互いに角度差を有する状態で積層することにより、数mm程度(例えば2mm)の厚みを有する板状の繊維強化複合材10を成形する。なお、繊維方向Xとは、基材シート1A(繊維強化樹脂シート1)に含有される強化繊維3の配向方向のことである。
【0036】
具体的に、シート積層工程S2では、上述したシート成形工程S1により成形された繊維強化樹脂シート1(ロール状に纏められた長尺状の繊維強化樹脂シート1)をカットして、適宜の形状、サイズを有する複数の基材シート1Aを切り出す。そして、切り出された複数の基材シート1Aを厚み方向に積み重ねる。このとき、厚み方向に隣接する基材シート1Aの繊維方向Xが互い違いになるように基材シート1Aを積み重ねる。言い換えると、複数の基材シート1Aは、平面視における繊維方向Xの角度が隣接するシート間で必ず異なるような状態で積み重ねられる。
【0037】
図3では、矩形状に形成された複数の基材シート1Aを繊維方向Xの角度が平面視で45°ずつずれるように積み重ねた例を示している。すなわち、シート積層工程S2において積層される複数の基材シート1Aは、繊維方向Xの角度が0°になる第1基材シート1Aaと、繊維方向Xの角度が45°になる第2基材シート1Abと、繊維方向Xの角度が90°になる第3基材シート1Acと、繊維方向Xの角度が135°になる第4基材シート1Adとを含む。
【0038】
上記のような状態で基材シート1Aを積み重ねた後、さらに、当該基材シート1Aを例えば厚み方向に加圧しつつ加熱することにより、各基材シート1Aを互いに熱融着させる処理を施す。これにより、複数の基材シート1Aが一体に積層された板状の繊維強化複合材10が成形される。基材シート1Aの積層枚数は、繊維強化複合材10の厚みが数mm程度になるように設定される。
【0039】
(プレス成形)
以上のようにして繊維強化複合材10の成形が完了すると、次の工程S3において、図4に示す熱プレス機60を用いて繊維強化複合材10をプレス加工し、所定形状の成形品30を成形する(プレス工程)。
【0040】
具体的に、プレス工程S3では、図4に示すように、板状の繊維強化複合材10を複数枚用意し、これを厚み方向に積み重ねつつ熱プレス機60の金型内に配置する。繊維強化複合材10は、いずれも上述した積層工程S2によって成形された板材であり、数mm程度の厚みを有している。
【0041】
図4に示すように、熱プレス機60は、パンチ61およびダイ62を備える。ダイ62は、繊維強化複合材10を受け入れ可能な凹部62aを有する金型(雌型)である。パンチ61は、ベース部61aと当該ベース部61aの下面に突設された挿入部61bとを有する金型(雄型)である。繊維強化複合材10は、互いに積み重ねられた状態でダイ62の凹部62a内に配置される。ダイ62には、凹部62a内の繊維強化複合材10を高温に加熱するためのヒータ(図示省略)が取り付けられている。
【0042】
上記のようにして繊維強化複合材10のプレス金型への投入が完了すると、次に、繊維強化複合材10を加熱しつつダイ62にパンチ61を押し込む本加工(型締め)を行うことにより、成形品30を成形する。具体的には、上記ヒータによるダイ62の加熱を通じて繊維強化複合材10を所定の温度まで上昇させるとともに、パンチ61の挿入部61bをダイ62の凹部62aに挿入した状態で図外の加圧装置によりパンチ61を下方に押圧し、繊維強化複合材10を加圧する(図4(b)参照)。この加熱および加圧は、繊維強化複合材10を軟化および変形させる。
【0043】
図4(c)は、パンチ61がストロークエンドまで押し付けられた状態を示している。この状態でパンチ61とダイ62との間に区画される空間(つまり成形キャビティ)は、変形した繊維強化複合材10によって満たされる。すなわち、成形キャビティに対応した形状に繊維強化複合材10が変形することにより、繊維強化樹脂製の成形品30が得られる。成形品30は、所定の冷却期間をおいた後、パンチ61をダイ62から抜き出した状態でダイ62から取り出される。
【0044】
(作用効果等)
以上説明したとおり、本発明の第1実施形態では、成形品30を成形する材料として、複数の繊維強化樹脂シート1(基材シート1A)が積層されてなる繊維強化複合材10が用いられるとともに、各繊維強化樹脂シート1として、強化繊維3が60~75%の体積含有率で含まれたシートが用いられるので、高い強度を有する成形品30を良好な成形性で製造できるという利点がある。
【0045】
具体的に、上記第1実施形態では、5~15μmという比較的薄い樹脂フィルム2の両面に強化繊維3を積層することで繊維強化樹脂シート1が成形され、しかも当該強化繊維3の樹脂フィルム2に対する目付量が25~60g/mに設定される。これにより、繊維強化樹脂シート1の成形不良を防止しつつ当該シート1中の強化繊維3の体積含有率(Vf値)を60~75%まで高めることができる。
【0046】
すなわち、樹脂フィルム2の両面に強化繊維3が積層されるという構造上、樹脂フィルム2の各面(一面および他面)に対する強化繊維3の積層量を過度に増やさなくても、全体として25~60g/mという目付量を達成することが可能になる。このため、成形時の加熱および加圧によって樹脂フィルム2の各面に強化繊維3を十分に含浸させることができ、樹脂フィルム2と強化繊維3との結合強度を高めることができる。しかも、樹脂フィルム2の厚みが5~15μmと薄いため、加熱により樹脂フィルム2が迅速に軟化し、強化繊維3を樹脂フィルム2の内部までしっかり含浸させることができる。このことは、成形後に強化繊維3がばらけるなどの不良が生じるのを防止することにつながる。そして、これらの条件下で60~75%という高い体積含有率(Vf値)の繊維強化樹脂シート1が実現される結果、当該繊維強化樹脂シート1を用いて成形される成形品の強度(繊維強化複合材10およびこれを用いて成形される成形品30の強度)を十分に高めることができる。
【0047】
特に、上記第1実施形態では、繊維強化樹脂シート1から繊維強化複合材10を成形する際に、繊維方向X(強化繊維3の配向方向)が平面視で互いに角度差を有する状態で複数の繊維強化樹脂シート1が積層されるので、繊維強化複合材10に対し強化繊維3による補強効果を複数の異なる方向に及ぼすことができ、繊維強化複合材10ひいては成形品30の機械的性質を向上させることができる。
【0048】
なお、上記第1実施形態では、繊維強化樹脂シート1(基材シート1A)から繊維強化複合材10を成形する際に、複数の繊維強化樹脂シート1を、隣接するシート間で繊維方向Xが必ず異なる(例えば繊維方向Xが45°ずつずれる)状態で積層したが、繊維方向Xを複数枚おきにずらしながら積層することも可能である。
【0049】
(2)第2実施形態
図5は、本発明の第2実施形態に係る成形品を製造する方法を示す工程図である。この第2実施形態の成形品は、先の第1実施形態の成形品30(図4)と同様に、強化繊維が含有された合成樹脂製の成形品(複合成形品)であり、図5に示す各工程(S11~S14)により製造される。
【0050】
(繊維強化樹脂シートの成形)
工程S11は、図2に示した繊維強化樹脂シート1を成形する工程(シート成形工程)である。すなわち、このシート成形工程S11では、繊維強化樹脂シート1として、熱可塑性の樹脂フィルム2と、当該樹脂フィルム2に一方向に引き揃えられた状態で含浸される多数の強化繊維3を含むUDシート(FRTPシート)を成形する。樹脂フィルム2の厚みは5~15μmであり、強化繊維3の目付量は25~60g/mであり、強化繊維3の体積含有率は60~75%であり、繊維強化樹脂シート1の厚みは30~65μmである。このシート成形工程S11の手順は、先の第1実施形態におけるシート成形工程S1と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
【0051】
(チョップ材の作製)
以上のようにして繊維強化樹脂シート1の成形が完了すると、次の工程S12において、繊維強化樹脂シート1から図6に示すチョップ材1Bを切り出す(チョップ材作製工程)。このチョップ材作製工程S12では、繊維強化樹脂シート1を長手方向および幅方向に切断することにより、所定サイズの長方形状のチョップ材1Bを多数作製する。具体的には、次のような手順でチョップ材1Bを作製する。
【0052】
まず、図6に示すように、長手方向に延びる切込みC1を形成する。すなわち、繊維強化樹脂シート1を長手方向に送り出しながら、その送り経路の途中の区間Iにおいて、長手方向に連続する多数の切込みC1を形成する。切込みC1は、例えば、繊維強化樹脂シート1の幅方向に等間隔に並ぶ多数の刃を含む切断装置を用いて形成することができる。
【0053】
次いで、続く区間IIにおいて、繊維強化樹脂シート1の幅方向の一端から他端まで連続する切込みC2を形成する。切込みC2は、例えばロータリーカッター等を用いて形成することができる。切込みC2は、繊維強化樹脂シート1が長手方向に一定距離ずつ送り出される度に形成される。これにより、切込みC1のピッチに相当する長さの短辺と切込みC2のピッチに相当する長さの長辺とを有する長方形状の多数のチョップ材1Bが切り出される。
【0054】
上述したように、繊維強化樹脂シート1は、その長手方向に配向された多数の強化繊維3を含有する熱可塑性樹脂シートである。このため、当該繊維強化樹脂シート1から切り出された各チョップ材1Bも、その長手方向(長辺の方向)に配向された多数の強化繊維3を含有している。すなわち、チョップ材1Bは、熱可塑性の樹脂フィルム2と、当該樹脂フィルム2(マトリックス樹脂)に同一方向に配向された状態で含浸された多数の強化繊維3とを有している。
【0055】
チョップ材1Bのサイズは、後述するプレス工程(S14)での材料の賦形性等を考慮した適宜のサイズに定められる。具体的に、チョップ材1Bは、短辺の長さが2mm以上50mm以下で、かつ長辺の長さが2mm以上80mm以下の長方形状に形成される。好適な例として、チョップ材1Bは、5×20mmの長方形状に形成される。なお、チョップ材1Bの厚みは、繊維強化樹脂シート1の厚みと同一であり、30μm以上65μm以下である。
【0056】
(繊維強化複合材の成形)
以上のようにしてチョップ材1Bの作製が完了すると、次の工程S13において、チョップ材1Bを積層して互いに一体化することにより、図7に示す繊維強化複合材20を成形する(チョップ材積層工程)。このチョップ材積層工程S13では、熱可塑性樹脂製のキャリアシート21の上面に多数のチョップ材1Bを二次元的にランダムに配置しつつ積層、固定し、繊維強化複合材20を成形する。具体的には、次のような手順で繊維強化複合材20を成形する。
【0057】
まず、図7に示すように、キャリアシート21をその長手方向に送り出しながら、当該キャリアシート21の上面に多数のチョップ材1Bを分散させつつ配置する。このチョップ材1Bの分散配置は、例えばキャリアシート21の上方からチョップ材1Bを振動させつつ落下させる落下装置を用いて行うことができる。そして、このような落下装置を用いたチョップ材1Bの落下操作をキャリアシート21の送り方向の複数個所で繰り返すことにより、キャリアシート21上のチョップ材1Bの密度および積層枚数を増やしていく。すなわち、キャリアシート21の長手方向の複数の区間XI,XII,XIII‥‥において、上記落下装置を用いたチョップ材1Bの落下操作を繰り返し行うことにより、各チョップ材1Bに含有される強化繊維3の繊維方向(換言すればチョップ材1Bの長手方向)が水平面上で種々の方向にばらつき、かつ厚み方向に複数枚のチョップ材1Bが積み重なるように、キャリアシート21の上に多数のチョップ材1Bを積層する。
【0058】
次に、図外の加熱ローラを用いてキャリアシート21およびその上のチョップ材1Bを加圧および加熱し、キャリアシート21とチョップ材1Bとを互いに一体化する。すなわち、上記加熱ローラを用いた加圧および加熱により、キャリアシート21とチョップ材1Bとを結合(融着)するとともに、積層されたチョップ材1Bどうしを互いに結合(融着)する。この結合により、キャリアシート21と多数のチョップ材1Bとが一体化されたシートが成形される。そして、当該シートを適宜の形状、サイズにカットしたものを、繊維強化複合材20として得る。繊維強化複合材20の厚み、つまりキャリアシート21とその上に積層されたチョップ材1Bとの合計の厚みは、数mm程度(例えば2mm)に設定される。言い換えると、チョップ材1Bの積層枚数は、繊維強化複合材20の厚みが数mm程度になるような枚数に設定される。
【0059】
キャリアシート21の材質としては、基本的にチョップ材1Bのマトリックス樹脂(つまり樹脂フィルム2)と同一の熱可塑性樹脂を用いることができる。ただし、熱可塑性樹脂である限り種々の材質のキャリアシート21を使用可能であり、チョップ材1Bとは異なる材質のキャリアシート21を用いてもよい。
【0060】
なお、図7では、キャリアシート21の上面のみにチョップ材1Bを積層して繊維強化複合材20を作製する場合を例示したが、キャリアシート21の両面にチョップ材1Bを積層することも当然に可能である。この場合は、キャリアシート21にチョップ材1Bを積層、固定する処理(つまりチョップ材1Bを多重にランダム配置して加圧・加熱する処理)を、キャリアシート21の上面および下面に対し順に行うとよい。すなわち、キャリアシート21の上面にチョップ材1Bを積層、固定した後、キャリアシート21の下面が上にくるようにキャリアシート21を裏返し、その状態でチョップ材1Bを積層、固定する作業を同様に繰り返すことにより、キャリアシート21の両面にチョップ材1Bが積層された繊維強化複合材20を作製することができる。
【0061】
(プレス成形)
以上のようにして繊維強化複合材20の成形が完了すると、次の工程S14において、図4に示した熱プレス機60を用いて繊維強化複合材20をプレス加工し、所定形状の成形品30を成形する(プレス工程)。このプレス工程S14の手順は、先の第1実施形態におけるプレス工程S3と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
【0062】
(作用効果等)
以上説明したように、本発明の第2実施形態では、成形品30を成形する材料として、繊維強化樹脂シート1から切り出されて積層された多数のチョップ材1Bを含む繊維強化複合材20が用いられるとともに、繊維強化樹脂シート1として、強化繊維3が60~75%の体積含有率で含まれたシートが用いられるので、上述した第1実施形態と同様に、高い強度を有する成形品30を良好な成形性で製造できるという利点がある。
【0063】
特に、上記第2実施形態では、短辺の長さが2~50mmでかつ長辺の長さが2~80mmの長方形状に切り出された多数のチョップ材1Bが用意され、しかも各チョップ材1Bに含有される強化繊維3の繊維方向が二次元的にランダムになる状態でチョップ材1Bが積層されることにより、繊維強化複合材20が成形されるので、当該繊維強化複合材20の機械的性質に十分な等方性(疑似等方性)を付与することができ、強化繊維3による好ましい補強効果を得ることができる。
【0064】
なお、上記第2実施形態では、熱可塑性樹脂製のキャリアシート21の上に多数のチョップ材1Bを積層、固定することにより繊維強化複合材20を成形したが、キャリアシート21は省略してもよい。すなわち、繊維強化複合材20として、互いに積層、固定されたチョップ材1Bのみからなる複合材を成形することも可能である。
【0065】
(3)実施例
次に、上述した第1実施形態または第2実施形態で述べた方法(図1のステップS1または図5のステップS11)により製造された繊維強化樹脂シート1の実施例について説明する。ここで説明する実施例は、図2に示したシート製造装置50を用いて、下記の製造条件により製造した繊維強化樹脂シート1である。
【0066】
(製造条件)
フィルム材料‥‥ナイロン9T(PA9T)
フィルム成形条件‥‥290~310℃の成形温度で押出成形
ロール温度‥‥280℃
送り線速‥‥20m/min
ここで、フィルム材料およびフィルム成形条件とは、樹脂フィルム2の材料および成形条件のことであり、ロール温度とは、シート製造装置50における加熱ローラ51の温度のことであり、送り線速とは、シート製造装置50において強化繊維3を樹脂フィルム2に送り出す速度のことである。
【0067】
本実施例の作製にあたっては、強化繊維3として下記材料1~3のいずれかを使用した。
【0068】
(強化繊維の材料)
材料1‥‥繊維径7μm、本数12000、繊度800texの炭素繊維
材料2‥‥繊維径5μm、本数24000、繊度1030texの炭素繊維
材料3‥‥繊維径7μm、本数15000、繊度1000texの炭素繊維
【0069】
上記材料1~3のいずれかからなる強化繊維3を用いて、上述した製造条件により繊維強化樹脂シート1を製造し、図8に示す実施例1~8を得た。図8には、実施例1~8について、フィルム厚、目付量、体積含有率、およびシート厚の各パラメータが示されている。なお、フィルム厚とは、樹脂フィルム2の厚み(μm)のことであり、目付量とは、樹脂フィルム2に対する強化繊維3の目付量(g/m)のことであり、体積含有率とは、繊維強化樹脂シート1中の強化繊維3の体積含有率(%)のことであり、シート厚とは、繊維強化樹脂シート1の厚み(μm)の実測値のことである。
【0070】
図8に示すように、実施例1~8の場合、樹脂フィルム2の厚みはいずれも5~15μmの範囲に含まれ、強化繊維3の目付量はいずれも25~60g/mの範囲に含まれ、強化繊維3の堆積含有率はいずれも60~75%の範囲に含まれ、繊維強化樹脂シート1の厚みはいずれも30~65μmの範囲に含まれる。なお、以下では、これらの各範囲のことを総称してターゲット範囲という。
【0071】
ここで、樹脂フィルム2と強化繊維3の目付量との関係に着目すると、両者は、大まかに言って、樹脂フィルム2の厚みが大きいほど強化繊維3の目付量が大きくなる関係にある。すなわち、樹脂フィルム2の厚みが10mmの場合(実施例2,3,6)の目付量は、当該厚みが5mmの場合(実施例1,8)の目付量よりも平均的に大きく、樹脂フィルム2の厚みが15mmの場合(実施例4,5,7)の目付量は、当該厚みが10mmの場合(実施例2,3,6)の目付量よりも平均的に大きい。そして、このように樹脂フィルム2の厚みに応じて強化繊維3の目付量が調整された結果、強化繊維3の堆積含有率がいずれも上記ターゲット範囲(60~75%)に収められ、かつ繊維強化樹脂シート1の厚みも上記ターゲット範囲(30~65μm)に収められている。
【0072】
図8には、各実施例において成形不良が生じたか否かの確認結果も併せて示している。図8に示すように、実施例1~8にはいずれも成形不良は確認されなかった(後述する不良1~3のいずれも確認されず)。すなわち、実施例1~8は、成形不良が生じず、しかも強化繊維3の体積含有率が60%以上と高いため、繊維強化複合材用の材料として優れていることが理解される。
【0073】
一方、図9には、成形不良、もしくは強化繊維3の体積含有率が60%を下回る繊維不足が生じたいくつかの例を比較例1~5として示している。すなわち、比較例1~5では、フィルム厚、目付量、体積含有率、およびシート厚の各パラメータが上記ターゲット範囲から外れており(グレー背景のセルの数値はターゲット範囲から外れたパラメータを示している)、このパラメータのずれに起因して、成形不良(不良1~3)もしくは繊維不足が生じている。なお、不良1とは、強化繊維3と樹脂フィルム2との結合が弱いことで強化繊維3の剥離が起きる不良であり、不良2とは、シート幅方向に強化繊維3の密度が大きくばらつく不良であり、不良3とは、樹脂フィルム2自体(強化繊維3を含浸させる前の樹脂フィルム2)に生じる不良である。
【0074】
例えば、比較例1では、強化繊維3の目付量は上記ターゲット範囲内であるものの、樹脂フィルム2の厚みが上記ターゲット範囲よりも大きい(15μmを超える)ことで、強化繊維3の体積含有率が上記ターゲット範囲(60~75%)を下回る繊維不足が生じている。このことは、繊維強化樹脂シート1を用いて繊維強化複合材を成形したときに、この繊維強化複合材の強度を十分に高められないことを意味する。
【0075】
比較例2では、強化繊維3の目付量が上記ターゲット範囲よりも大きい(60g/mを超える)ことで、強化繊維3の剥離が起きる不良1が生じている。これは、強化繊維3の量に対して樹脂フィルム2の樹脂量が少なすぎたことが原因であると考えられる。
【0076】
比較例3では、樹脂フィルム2の厚みおよび強化繊維3の目付量の双方が上記ターゲット範囲を下回ることで、幅方向の繊維密度のばらつきが過大になる不良2と、樹脂フィルム2の成形不良である不良3との双方が生じている。また繊維強化樹脂シート1の厚みも上記ターゲット範囲から外れる結果になっている。
【0077】
比較例4,5では、強化繊維3の目付量が上記ターゲット範囲よりも小さい(60g/mを下回る)ことで、幅方向の繊維密度のばらつきが過大になる不良2が生じている。さらに、比較例5については、強化繊維3の体積含有率が過少になる(60%を下回る)繊維不足も生じている。
【0078】
以上のことから、成形性を確保しつつ強化繊維3の含有率を十分に高めるには、上記各パラメータをそれぞれターゲット範囲に収めることが必要であることが逆説的に理解される。
【0079】
次に、繊維強化複合材の実施例および比較例について説明する。ここでは、上述した実施例または比較例の繊維強化樹脂シート1を用いて成形した厚さ2mmの板状の繊維強化複合材を、実施例9~11および比較例6,7として得た。それぞれの特性を図10に示す。
【0080】
実施例9は、上述した実施例6の繊維強化樹脂シート1を上述した第1実施形態(図3)の方法で積層することにより得られた繊維強化複合材10である。すなわち、実施例9の繊維強化複合材10は、複数の実施例6の繊維強化樹脂シート1を繊維方向Xの角度が45°ずつずれるように積層(4軸積層)したものであり、厚さ2mmの板状の複合材である。
【0081】
実施例10は、材料として使用するシートが実施例4の繊維強化樹脂シート1である以外は、実施例9と同様である。
【0082】
比較例6も、材料として使用するシートが比較例1の繊維強化樹脂シート1である以外は、実施例9と同様である。
【0083】
実施例11は、上述した実施例6の繊維強化樹脂シート1を上述した第2実施形態(図7)の方法で積層することにより得られた繊維強化複合材20である。すなわち、実施例11の繊維強化複合材20は、複数の実施例6の繊維強化樹脂シート1から切り出された長方形状(ここでは5×20mmの)の多数のチョップ材1Bをキャリアシート21の上面に積層したものであり、厚さ2mmの板状の複合材である。
【0084】
比較例7は、材料として使用するシートが比較例1の繊維強化樹脂シート1である以外は、実施例11と同様である。
【0085】
実施例9、実施例10、および比較例6は、繊維強化樹脂シート1のみを材料として成形した繊維強化複合材10であるから、当該繊維強化複合材10における強化繊維3の体積含有率は、材料とする繊維強化樹脂シート1(実施例6、実施例4、比較例1)のそれと同一である。一方、実施例11および比較例7は、繊維強化樹脂シート1をチョップ材1Bにしてからキャリアシート21上に積層することで成形した繊維強化複合材20であるから、当該繊維強化複合材20における強化繊維3の体積含有率は、材料とする繊維強化樹脂シート1(実施例6、比較例1)のそれよりもやや小さくなる。これは、キャリアシート21の分だけ樹脂成分が増えたからである。
【0086】
上述した実施例9~11および比較例6,7について引張試験および曲げ試験を行い、引張強度および引張弾性率と、曲げ強度および曲げ弾性率とをそれぞれ測定した。引張試験は、幅25mm、長さ250mm、厚さ2mmの試験片を長手方向に引っ張ることで行った。曲げ試験は、幅15mm、長さ100mm、厚さ2mmの試験片にいわゆる4点曲げを施すことで行った。それぞれの試験の結果を図10に示す。本図に示すように、引張強度および曲げ強度は、図3に示した第1実施形態の方法(4軸シート積層)により成形されたもの(実施例9,10、比較例6)の方が、図7に示した第2実施形態の方法(チョップ材積層)により成形されたもの(実施例11、比較例7)よりも高い。これは、前者の方が後者よりも、含有される強化繊維3の長さが平均的に長いからと考えられる。一方、後者については、含有される強化繊維3の長さは短いものの、繊維方向に十分なランダムさが付与されるので、機械的性質の等方性が高いということができる。
【0087】
第1実施形態の方法(4軸シート積層)により成形されたもの(実施例9,10、比較例6)どうしを比較すると、比較例6よりも実施例9,10の方が強度(引張強度、曲げ強度)および弾性率(引張弾性率、曲げ弾性率)が高い。これは、実施例9,10の強化繊維3の体積含有率の方が比較例6のそれよりも高いことが主な原因であると考えられる。
【0088】
同様に、第2実施形態の方法(チョップ材積層)により成形されたもの(実施例11、比較例7)どうしを比較すると、比較例7よりも実施例11の方が強度および弾性率が高い。これも、強化繊維3の体積含有率の差が主な原因と考えられる。
【0089】
以上より、実施例の繊維強化樹脂シートから成形した繊維強化複合材の方が、比較例の繊維強化樹脂シートから成形した繊維強化複合材よりも優れた機械的性質を有することが理解される。
【符号の説明】
【0090】
1 繊維強化樹脂シート
1B チョップ材
2 樹脂フィルム
3 強化繊維
3’ 繊維束
10 繊維強化複合材
20 繊維強化複合材
30 成形品
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10