(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103823
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】移動足場
(51)【国際特許分類】
E04G 3/28 20060101AFI20220701BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
E04G3/28 302B
E04G3/28 302L
E01D22/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218691
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】519246283
【氏名又は名称】リバークル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110814
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】江波 清隆
【テーマコード(参考)】
2D059
2E003
【Fターム(参考)】
2D059EE02
2D059EE04
2E003EA01
2E003EB00
(57)【要約】
【課題】 移動経路上に障害物などがあっても簡単に回避して点検・修理作業を行うことができる簡単な構成でコストと時間の削減が可能な移動足場を提供する。
【解決手段】 構造物の保守・点検・維持管理・修理等の作業を行う際に用いられる移動足場において、前記作業を行う作業者が搭乗する移動体10と、移動体10を前記構造物のレール部Rに沿って移動させる車輪12と、車輪12をレール部Rに対して退避可能にする車輪支持手段13と、移動体10に連結された第一のワイヤW1及び第二のワイヤW2と、第一のワイヤW1及び第二のワイヤW2をレール部Rに着脱自在に連結するワイヤ連結手段15,16と、第一のワイヤW1を引き込むことで移動体10を持ち上げ、第一のワイヤW1で移動体10を吊り下げた状態にし、第一のワイヤW2を引き出すことで第二のワイヤW2で移動体10を吊り下げた状態に移行させる駆動手段14とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の保守・点検・維持管理・修理等の作業を行う際に用いられる移動足場において、
前記作業を行う作業者が搭乗する移動体と、
この移動体に設けられ、前記構造物の長手方向に沿って配設されたレール部に載置されて、前記移動体を前記レール部に沿って移動させる車輪と、
この車輪を前記レール部に対して退避可能に支持する車輪支持手段と、
前記移動体に連結された第一のワイヤ及び第二のワイヤと、
前記第一のワイヤの先端及び前記第二のワイヤの先端を前記レール部に着脱自在に連結するワイヤ連結手段と、
第一のワイヤを引き込むことで前記移動体を持ち上げ、前記第一のワイヤで前記移動体を吊り下げた状態にし、前記第一のワイヤを引き出すことで前記第二のワイヤで前記移動体を吊り下げた状態に移行させる駆動手段と、
を有すること、
を特徴とする移動足場。
【請求項2】
前記駆動手段が前記第一のワイヤを巻き込み・巻き出すドラムを備えたウィンチ又は前記第一のワイヤを引き込み・引き出す進退移動部材を備えた直進駆動体であることを特徴とする請求項1に記載の移動足場。
【請求項3】
前記第一のワイヤを引き出し又は引き込むための前記駆動手段を、複数の前記第一のワイヤに対して共通して設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の移動足場。
【請求項4】
前記第一のワイヤを巻き込み・巻き出す前記ウィンチのドラムに、複数の前記第一のワイヤを互いに逆向きに巻回したことを特徴とする請求項3に記載の移動足場。
【請求項5】
離間した位置に配置された前記第一のワイヤを巻き込み・巻き出す複数の前記ドラム又は前記第一のワイヤを引き込み・引き出す複数の進退移動部材を駆動伝達手段で連結したことを特徴とする請求項3又は4に記載の移動足場。
【請求項6】
対となる前記第一のワイヤと前記第二のワイヤを、前記移動体の同じ位置で連結したことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の移動足場。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高架道路や橋梁などの構造物に用いられる移動足場であって、予め設定された移動経路に沿って移動しつつ点検・補修・組み立てなどの各種作業を行うための移動足場に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の移動足場は古くから種々のものが提案されていて、橋梁などに設けられた走行用ビームに沿って作業足場などの移動体が移動できるように車輪を備えたものなどが知られている(特許文献1、2参照)。
これら車輪で移動する移動足場においては、前記走行用ビームの途中に継ぎ目や仕切壁、隙間などの障害物があった場合、前記移動体を前記走行用ビームから取り外して前記障害物を回避させなければならないという問題がある。
【0003】
しかし、前記障害物に突き当たるたびに前記移動体を前記走行ビームから取り外して前記障害物を回避させ、再び前記走行ビームに戻す作業は、作業場所が高所で、かつ、前記移動体がある程度の重量物であることから、クレーンなどの別の設備を準備する必要があるとともに、前記移動体に搭乗して点検・補修・組み立てなどの作業(以下、単に「作業」と記載する)を行う作業者のほかに、障害物回避のためにクレーンなどの設備を操作する別の作業者も必要になってコスト高となるうえ、前記障害物の回避作業中は作業が中断されて作業時間が無駄になるという問題がある。また、障害物の部分を飛び越えてしまうため、当該障害物部分の作業がしにくかったり、点検漏れや補修漏れ生じる恐れがあったりするという問題もある。さらに、このような車輪を備えた移動足場は、急傾斜の移動経路に沿って移動させることは難しく、利用できる構造物やその部位が限られるという問題がある。
【0004】
特許文献3に記載の移動吊り足場は、2本4対のワイヤで足場(移動体)を吊り下げ、各対の一方のワイヤで足場を吊り下げながら他方のワイヤを斜めに張設してウィンチで巻き取ることで前記足場を移動させるもので、障害物が存在しても足場を回避させる必要なく移動させることができ、急傾斜の走行ビームであっても足場を移動させることができるという利点がある。
しかし、特許文献3に記載の移動吊り足場は、足場(移動体)を吊り下げる八本のワイヤのそれぞれに対応してウィンチを設ける必要があることから、これを搭載する足場が大型化・大重量化するうえ、価格も高くなるという問題がある。また、傾かないように足場を移動させるには、八つのウィンチを同期して駆動させ、各ワイヤを同量だけ巻き出したり巻き取ったりしなければならず、操作が難しいという問題がある。さらに、障害物が存在しない部分での移動速度が遅く、特許文献1,2よりも多大な作業時間を要するという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59-10604号公報
【特許文献2】特開2004-100192号公報
【特許文献3】特開2001-248298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたもので、移動体の移動経路上に障害物が存在しても短時間かつ簡単に回避することができるとともに、障害物が存在しない移動経路上では車輪を使って高速で移動することが可能で、移動経路に急傾斜があっても車輪を使って移動することができ、簡素な構成で構造物の種類や大きさに応じて小型化が可能で、移動足場に搭乗して作業を行う人員を削減して、移動足場による作業コストの低減と作業時間の短縮を図ることのでき
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために請求項1に記載の移動足場は、構造物の保守・点検・維持管理・修理等の作業を行う際に用いられる移動足場において、前記作業を行う作業者が搭乗する移動体と、この移動体に設けられ、前記構造物の長手方向に沿って配設されたレール部に載置されて、前記移動体を前記レール部に沿って移動させる車輪と、この車輪を前記レール部に対して退避可能に支持する車輪支持手段と、前記移動体に連結された第一のワイヤ及び第二のワイヤと、前記第一のワイヤの先端及び前記第二のワイヤの先端を前記レール部に着脱自在に連結するワイヤ連結手段と、第一のワイヤを引き込むことで前記移動体を持ち上げ、前記第一のワイヤで前記移動体を吊り下げた状態にし、前記第一のワイヤを引き出すことで前記第二のワイヤで前記移動体を吊り下げた状態に移行させる駆動手段と、を有する構成としてある。
【0008】
このように構成すれば、ゴンドラなどの移動体は、レール部に沿って車輪によって移動することができる。レール部の途中に継ぎ目や仕切壁、隙間など車輪では走行が困難な障害物がある場合は、前記第一のワイヤ又は第二のワイヤで前記移動体を吊り下げた状態とし、車輪支持手段によって前記車輪と前記障害部とが干渉しない位置まで、前記車輪をレール部から退避させる。
前記車輪を前記レール部から退避させる際には、前記第一のワイヤの先端をクランプなどのワイヤ連結手段によって前記レール部に連結し、前記駆動体を駆動させて前記第一のワイヤを引き込み、前記第一のワイヤで前記移動体を吊り下げた状態にする。この状態で前記車輪を前記レール部から退避させた後の前記移動体の移動は、前記第一のワイヤによる前記移動体の吊り下げと、前記第二のワイヤによる前記移動体の吊り下げを交互に切り替えながら行う。
【0009】
前記第一のワイヤで前記移動体を吊り下げた状態で、前記第二のワイヤの先端を前記移動体との連結部よりも前方で、前記ワイヤ連結手段によって前記レール部に連結する。この状態で前記駆動体を駆動させて前記第一のワイヤを引き出す(緩める)と、前記移動体の荷重が前記第二のワイヤに徐々に移行し、やがて第二のワイヤによって前記移動体が吊り下げられた状態になる。この際に、前記連結部が前記レール部に連結された前記第二のワイヤの先端の真下に来ようとして、前記移動体が前進する。次にこの状態で、前記第一のワイヤの先端を前方に移動させて前記レール部に連結しなおし、前記駆動体を駆動させて前記第一のワイヤを引き込む。これにより、前記移動体の荷重が前記第二のワイヤから前記第一のワイヤに徐々に移行し、第一のワイヤによって前記移動体が吊り下げられた状態になるとともに前記移動体が前進する。
この手順を繰り返すことで、前記移動体を所定距離移動させることができ、前記障害を越えたところで前記車輪を前記レール部に戻して前記車輪による走行の再開が可能になる。
【0010】
前記第一のワイヤを引き出し・引き込むための前記駆動手段としては、請求項2に記載するように、チェーンブロックなど前記第一のワイヤを巻き取るドラムを備えたウィンチや、ロッドやスライダなどの進退移動部材を備えたシリンダ、ボール螺旋・ナット機構、ラック・ピニオン機構又はリニアモータなどの直進駆動体を挙げることができる。これらウィンチや直進駆動体は、モータやポンプを備えた自動型のものであってもよいが、ハンドルを備えて機械的な回転や進退移動機構を行う手動型のものであってもよい。
前記駆動手段の駆動による前記第一のワイヤの引き込み・引き出しは、複数の前記第一のワイヤにおいて同期させる必要があるが、手動型のものでは複数の前記駆動手段を同期させて駆動させることは難しい。そこで、請求項3に記載するように、前記第一のワイヤを引き出し又は引き込むための前記駆動手段を、複数の前記第一のワイヤに対して共通して設けるとよい。
【0011】
この場合、請求項4に記載するように、前記第一のワイヤを巻き込み・巻き出す前記ウィンチのドラムに、複数の前記第一のワイヤを互いに逆向きに巻回するとよい。このようにすることで、前記ドラムを一方向に回転させるだけで、前記ドラムの両側から延びる複数の第一のワイヤを同期して同量だけ巻き込み・巻き出すことができる。
また、請求項5に記載するように、例えば移動体の左右両側に対向して配置されたウィンチのドラム、シリンダのピストンロッド、ボール螺旋・ナット機構、ラック・ピニオン機構やリニアモータなどスライダを、連結ロッドなどの駆動伝達手段で連結することで、前記移動体の左右に配置された複数の前記第一のワイヤを同期して同量だけ引き込み・引き出すことができる。
なお、前記移動体における前記第一のワイヤの連結位置と前記第二のワイヤの連結位置は異なるものであってもよいが、請求項6に記載するように前記連結位置を同じとしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、通常は車輪を使って移動経路上を高速で移動しながら点検・補修・組み立てなどの作業を行うことができ、車輪では走行が困難な障害物に突き当たっても、ワイヤを使って、短時間かつ簡単に前記障害物を回避することができる。また、車輪走行用のレール部が存在しない箇所やレール部が急傾斜であっても、ワイヤを使って移動することが可能である。
本発明の移動足場においては、手動型の駆動手段を用いることで、重量物であるモータなどの駆動体やこれを制御する制御装置などを設ける必要が無く、移動足場を低価格で簡素な構成かつ軽量化することができるが、複数の駆動手段を一人又は二人の作業者で操作することが可能であり、作業コストの低減を図ることができる。このように、本発明の移動足場によれば、あらゆる形態の構造物の作業に広範に適用することが可能で、かつ、点検・補修作業を漏れなく、かつ、低コスト・短時間で行うことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の好適な実施形態について、図を参照しながら詳細に説明する。
[第一の実施形態]
図1は本発明の移動足場の第一の実施形態にかかり、その構成を説明する概略図で、(a)はその側面図、(b)はその正面断面図、(c)は第二のワイヤの長さを調整する調整手段の一例を示す概略図である。
第一の実施形態の移動足場1Aは、橋梁の桁(主桁、横桁、縦桁など)を構成するI形鋼に沿って移動するものとし、前記I形鋼の底板がレール部Rとして機能するものとする。また、レール部Rは、平行に配置された左右一対のI形鋼のそれぞれに形成され、移動足場1Aはこの左右一対のレール部Rに案内されながら、レール部Rに沿って移動するものとする。
第一の実施形態において移動足場1Aは、作業者が搭乗するゴンドラ状の移動体10と、レール部Rに載置されて移動体10をレール部Rに沿って移動させる車輪12と、この車輪12を回転自在に支持する車輪支持部13と、この車輪支持部13を上端に備え、移動体10と車輪12とを連結するアーム11とを主な構成要素とする。
【0014】
[移動体10,アーム11,車輪12,車輪支持部13]
移動体10は、点検・補修・組み立てなどの作業を行う作業者が搭乗できる大きさを有するとともに、底部から進行方向(レール部Rの長手方向)に対して左右及び前後に側壁10aが立設された箱形に形成されていて、作業者が搭乗する部分を四周から囲堯している。
左右の側壁10aには上方のレール部Rに向けて棒状のアーム11が延設されていて、その上端に車輪12を回転自在に支持する車輪支持部13が取り付けられている。アーム11及び車輪12は、移動体10をレール部Rに沿って安定的に移動させることができるように、移動体10の四隅近傍のそれぞれに設けるとよい。
【0015】
車輪支持部13は、後述の第一のワイヤW1及び第二のワイヤW2で移動体10を移動させる際に、車輪12をレール部Rから退避させることができるように構成されている。例えば、アーム11の上端に対してレール部Rから遠ざかる方向に車輪12をスライドさせることができるように構成してもよいし、図示の例のように軸13aによって車輪12を退避方向に反転させることができるように設けてもよい。このような車輪支持部13に車輪12を支持させることで、レール部Rの途中部位に継ぎ手や仕切壁、隙間など車輪12では走行が困難な障害物Raが存在するときに、後述の第一のワイヤW1又は第二のワイヤW2で移動体10を吊り下げた状態として、障害物Raや第一のワイヤW1及び第二のワイヤW2と干渉しない位置まで、車輪12を退避させることが可能になる(車輪12を退避させた状態を
図1(b)中仮想線で示す)。
【0016】
また、アーム11とレール部Rとの間には、後述するワイヤ連結手段としてのクランプ15,16や第一のワイヤW1,第二のワイヤW2とアーム11とが干渉しないようにするための隙間Sが形成されている。この隙間Sは、広すぎると車輪12による走行時に移動体10が蛇行する要因ともなるため、クランプ15,16や第一のワイヤW1,第二のワイヤW2とアーム11とが干渉しない範囲で、最小のものとするのが好ましい。
【0017】
[第一のワイヤW1、第二のワイヤW2及び駆動手段14]
移動体10を交互に吊り下げつつ移動させるための第一のワイヤW1及び第二のワイヤW2は、移動体10を安定的に吊り下げることができるように、移動体10の少なくとも四カ所に配置するのが好ましい。図示の例では、対となる第一のワイヤW1及び第二のワイヤW2の組を四組準備して、四つのアーム11の近傍にそれぞれ配置している。
各組の第一のワイヤW1の一端は、移動体10の側壁10aや床面に取り付けられた駆動手段14に連結される。駆動手段14としては、チェーンブロックのように、第一のワイヤW1を巻回するドラム14bを備えたウィンチや、進退移動するロッドやスライダ(進退移動部材)を備えたシリンダ、ボール螺旋・ナット機構又はリニアモータなどの直進駆動体を挙げることができる。
駆動手段14は、モータや油圧機構などを備えた自動型のものであってもよいが、移動体10を軽量、小型かつ簡素な構成で低廉なものとするために手動型のものとするのが好ましい。図示の例では、駆動手段14は第一のワイヤW1を巻き取り又は巻き出すことのできるドラム14bと、このドラム14bを一方向に制限的に回転させるハンドル14aとを備えた手動型のチェーンブロック(ウィンチ)で、四本の第一のワイヤW1のそれぞれに対応して、移動体10の四カ所に配置して設けられている。この実施形態では、四つの駆動手段14のドラム14bが、第一のワイヤW1の一端を移動体10に連結する連結部W1aである。
第一のワイヤW1の他端は、ドラム14bから巻き出されて移動体10から上方のレール部Rまで延出し、ワイヤ連結手段であるクランプ15によってレール部Rに着脱自在に連結される。
【0018】
また、第二のワイヤW2の一端は、移動体10の予め設定された位置(この実施形態では側壁10aや手摺り部分)に配置された連結部W2aで、ボルトなどによって移動体10に連結され、他端はワイヤ連結手段であるクランプ16によってレール部Rに着脱自在に連結される。
第二のワイヤW2の長さは四本とも同じとしてあるが、第二のワイヤW2と移動体10との連結部W2aとの鉛直方向の最短距離(鉛直最短距離:符号Lで示す)よりも長くする。この実施形態では、第二のワイヤW2の長さによって、一回の操作で移動体10を移動させる距離が決定されるため、短かすぎると、幅Hの障害物Raを乗り越えるために十分な移動距離を得ることができず、長すぎると、レール部Rにおけるクランプ16の連結位置を切り替える際に作業者の手が届かなくなったり、移動の際に必要以上に移動体10が下降したりするなどの不具合が生じる。
【0019】
なお、連結部W2aとレール部Rとの間に張設される第二のワイヤW2の長さは上記したとおり固定的なものであるが、連結部W2aに第二のワイヤW2の前記長さを調整できる長さ手段を設けてもよい。
連結部W2aに設けられる第二のワイヤW2の長さ調整手段としては、例えば
図1(c)に示すようなものを挙げることができる。図示の例において前記長さ調整手段は、移動体10に取り付けられ、第二のワイヤW2が挿通する貫通孔20aが形成されたリング状の本体20と、この本体20の中央の孔内に対向配置するように嵌め込まれた一対の駒部材21,22と、本体20の側周面から前記中央の孔まで螺入されて一方の駒部材22を押圧するボルト23とから構成されている。
第二のワイヤW2は、一方(
図1(c)において下方)の貫通孔20aから二つの駒部材21,22の間を挿通し、他方の貫通孔20a(同上方)を経てレール部Rまで延び、二つの駒部材21,22に挟持されることで固定されるが、連結部W2aとレール部Rとの間の第二のワイヤW2の長さを調整するには、ボルト23を緩めて駒部材21,22による第二のワイヤW2の挟持を解放すればよい。
なお、第二のワイヤW2の長さ調整手段は上記以外の構成のものであってもよく、例えば第一のワイヤW1の引き出し・引き込みを行うウィンチなど駆動手段14のドラム14bと同じものを連結部W2aに設けてもよい。
また、連結部W2aとレール部Rとの間に張設される第二のワイヤW2の長さは、四本とも同じになるようにする必要があるため、当該長さがわかるような目印を第二のワイヤW2に付しておくとよい。
【0020】
[第一の実施形態の変形例]
図2は第一の実施形態の移動足場の変形例を示すものである。
第一の実施形態の移動足場1Aでは、四本の第一のワイヤW1のそれぞれに対応して駆動手段14を設けている。駆動手段14の数は、移動体10の構成の簡素化、低廉化、操作の容易性の観点から、可能な限り少なくするのが好ましい。
そこで
図2(a)の変形例の移動足場1Bでは、一つの駆動手段14で前後二つの第一のワイヤW1の引き込み・引き出しを行えるようにしてある。図示の例では、駆動手段14は移動体10の前後方向のほぼ中央に配置されている。そのため、この変形例において移動体10に設けられる駆動手段14の数は、移動体14の左右において各々一つずつの合計二つである。駆動手段14のドラム14bから前後に二つの第一のワイヤW1を巻き出しているため、ドラム14bの回転によって前後に延びる二つの第一のワイヤW1がともに巻き出し又は巻き取られるようにするには、ドラム14bに対して図示のようにそれぞれ逆向きに二つの第一のワイヤW1を巻回すればよい。
なお、図示の例では、移動体10に回転自在に取り付けられたプーリ1cによってドラム14bから巻き出された第一のワイヤW1の向きを変え、プーリ1cから鉛直上方に第一のワイヤW1が延びるようにしているが、第一のワイヤW1と他の部材等との間に干渉が生じないのであれば、プーリ14cは特に設けなくてもよい。
この変形例の移動足場1Bでは、ハンドル14aを操作してドラム14bを回転させれば、前後二つの第一のワイヤW1を同時に同量だけ巻き出し又は巻き取ることができる。なお、この作用はウィンチ形の駆動手段14に限らず、シリンダ、ボール螺旋ナット機構、リニアモータなどの直進駆動手段においても同じである。
第一の実施形態の移動足場1Aでは、駆動手段14のハンドル14aを操作するために、移動体10が小型の場合は2人、大型の場合は4人の作業者が必要であり、かつ、2人又は4人がタイミングを合わせてハンドル14aを操作する必要があったが、この変形例の移動足場1Bでは、移動体10が大型の場合でも2人の作業者で操作することが可能となり、操作性及作業コストにおいて有利である。
【0021】
図2(b)の別の変形例の移動足場1Cでは、
図2(a)の移動足場1Bにおいて対向配置された左右二つの駆動手段14を、連結ロッド14dなどの駆動伝達手段で連結している。この例において駆動手段14はドラム14bを備えたウィンチで、対向配置された左右二つの前記ウィンチのドラム14bの回転軸を連結ロッド14dで連結して、一方(図示の例では紙面左方)のドラム14bの回転が他方のドラム14bに伝達されるようになっている。そのため、一つのハンドル14aの操作で二つの駆動手段14を同時に駆動させて、四本の第一のワイヤW1の巻き取りと巻き出しを同時に同量だけ行うことができるようになる。
この変形例の移動足場1Cでは、移動体10がある程度大型化しても、一人の作業者で二つの駆動体14の操作を行うことが可能になり、複数の作業者によるタイミング合わせが不要となり、確実かつ正確に四本の第一のワイヤW1を同期させて同量だけ巻き込み・巻き出しすることが可能になる。
なお、
図2(b)の例では移動体10の中央の床面近傍に駆動手段14を配置し、連結ロッド14dがなるべく作業の支障にならないようにしているが、複数のプーリ14cを用いて第一のワイヤW1の向きを変えることで、例えば移動体10内の前端や後端に駆動手段14及び連結ロッド14cを配置することも可能である。
さらに、先の実施形態の移動足場1Aにおいても左右に対向配置された駆動手段14を連結ロッド14dなどの駆動伝達手段で連結することで、左右の駆動手段14の同期操作を行うことが可能になる。
【0022】
[作用の説明]
上記構成の移動足場1A,1B,1C(総称して移動足場1と記載する)の作用を、
図3及び
図4を参照しつつ説明する。
初期状態において移動足場1は、
図3(a)に示すように、前後左右に設けられた四つの車輪12がレール部R上を転動することで、レール部Rに沿って移動する(
図3において移動方向は紙面の右方向である)。
図3(b)に示すように、前方の車輪12が障害物Raに突き当たった際に、駆動手段14のドラム14bから巻き出した第一のワイヤW1の他端を、駆動手段14の真上位置でレール部Rにクランプ15で連結する。
この後、ハンドル14aを操作して車輪12がレール部Rから僅かに浮き上がる程度に第一のワイヤW1を巻き取り、当該位置で駆動手段14をロックする。
図3(b)に示す状態では、移動体10は四本の第一のワイヤW1によって吊り下げられた状態になっているので、この状態で車輪支持部13を反転させて車輪12をレール部Rから退避させる(退避させた後の車輪12の図示は省略する)。
【0023】
次いで
図3(c)に示すように、第二のワイヤW2を準備し、一端を連結部W2aに連結し、前方の斜め上方向に真っ直ぐ延ばして、他端をクランプ16でレール部Rに連結する。
この状態で駆動手段14のハンドル14aを操作して第一のワイヤW1をドラム14bから巻き出していくと、移動体10の荷重が第一のワイヤW1から第二のワイヤW2に移行しつつ、移動体10が前進する。
第一のワイヤW1の巻き出しを継続していくと、移動体10は、
図3(d)に示すように、斜めに張設した第二のワイヤW2が鉛直になるまで前進する。前記巻き出しは第一のワイヤW1に僅かな弛みが生じるまで継続させる。この状態では第一のワイヤW1の荷重が0となり、移動体10は四本の第二のワイヤW2によって吊り下げられた状態に移行する。
【0024】
次いで、
図4(a)に示すように、駆動手段14のドラム14bから第一のワイヤW1を巻き出し、レール部Rにおけるクランプ15の連結位置を前方に移動させる。
この状態で駆動手段14のハンドル14aを操作して第一のワイヤW1を巻き取ると、第二のワイヤW2の荷重が第一のワイヤW1に移行しつつ、移動体10が前進する。第一のワイヤW1の巻き取りを継続すると、移動体10は、
図4(b)に示すように、第一のワイヤW1が鉛直になるまで前進する。第二のワイヤW2に僅かな弛みが生じるまで前記巻き取りを継続すると、第二のワイヤW2の荷重が0となり、移動体10は四本の第一のワイヤW1によって吊り下げられた状態に移行する。
【0025】
図4(c)に示すように、障害物Raとクランプ15又はクランプ16が接近したときは、
図4(b)の状態からクランプ15又はクランプ16を障害物Raの前方に移動させ、当該位置でレール部Rに連結する。以後、障害物Raを越えるまで
図3(c)~
図4(b)の操作を繰り返して移動体10を前進させる。
障害物Raを越えた後は、ハンドル14aを操作して第一のワイヤW1を巻き取って第一のワイヤW1で移動体10を吊り下げた状態とし、車輪12をレール部R側に戻す。そして、第一のワイヤW1を巻き出して車輪12がレール部Rに載置されるまで移動体10を下降させる。この後、クランプ15,16を取り外して、車輪12による走行を再開する。
【0026】
[第二の実施形態]
図5は、本発明の移動足場の第二の実施形態にかかりその構成と作用を説明する図である。なお、先の実施形態と同一部位・同一部材には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
第一のワイヤW1及び第二のワイヤW2による移動足場1の一回の操作による移動距離は、第二のワイヤW2の長さによって決定され、第二のワイヤW2の長さが長いほど一回の操作による移動距離が長くなる。
この第二の実施形態の移動足場1Dでは、第一のワイヤW1及び第二のワイヤW2の一端を移動体10に連結する連結部W1a,W2aの位置を、ともに移動体10の床面付近に設けてある。なお、連結部W1a,W2aの位置は、第一の実施形態と同様に別々の位置(互いに離間した位置)であってもよいが、この実施形態の移動足場1Dでは、連結部W1a,W2aは同じ位置としてある。
このようにすることで、可能な限り第二のワイヤW2の長さを長くすることができ、一回の操作による移動体10の移動距離を長くすることができる。
【0027】
第二の実施形態の移動足場1Dにおいても、先の実施形態と同様に、まず、駆動手段14に連結された第一のワイヤW1で移動体10を吊り下げ、車輪12を退避させる。そして、移動体10の床面近傍の連結部W2aから第二のワイヤW2の他端を進行方向の斜め前方に真っ直ぐに張って、クランプ16でレール部Rに連結する(
図5(a)参照)。この状態で第一のワイヤW1をドラム14bから巻き出せば、第二のワイヤW2が鉛直になるまで移動体10が移動し、移動体10が第二のワイヤW2で吊り下げられた状態になる(同(b)参照)。
次いで、第一のワイヤW1をドラム14bから巻き出して、連結部W1aから第一のワイヤW1の他端を進行方向の斜め前方に真っ直ぐに張り、クランプ15でレール部Rに連結する(同(c)参照)。この状態で第一のワイヤW1をドラム14bに巻き込めば、第一のワイヤW1が鉛直になるまで移動体10が移動し、移動体10が第一のワイヤW1で吊り下げられた状態になる(同(d)参照)。
そして、第二のワイヤW2のクランプ16をレール部Rから取り外し、連結部W2aから第二のワイヤW2の他端を進行方向の斜め前方に真っ直ぐに張り、クランプ16でレール部Rに連結すれば、
図5(a)の状態に戻ることになる。以後、障害物Raを越えるまで上記の手順を繰り返す。
【0028】
[第三の実施形態]
図6は、本発明の移動足場の第三の実施形態にかかりその構成と作用を説明する図である。
上記した第一及び第二の実施形態において駆動手段14はチェーンブロックなどのウィンチであるとして説明した。この第三の実施形態において移動足場1Eの駆動手段24は、直線的に進退移動することで第一のワイヤW1を引き込み・引き出す進退移動部材を備えた直進駆動体である。前記直進駆動体としては、進退移動するピストンロッドを備えたシリンダや、進退移動するスライダを備えたボール螺旋ナット機構、ラック・ピニオン機構及びリニアモータなどを挙げることができる。この実施形態ではピストンロッド24aを備えたシリンダ24であるとして説明する。
【0029】
移動体10の床面近傍には、シリンダ24の基部が予め位置決めされた連結部W1aで前記床面に対して回動自在に取り付けられ、その進退移動自在なピストンロッド24aの先端に、第一のワイヤW1の一端が連結される。第二のワイヤW2の一端は、連結部W1aと同じ位置に配置された連結部W2aで移動体10に連結されている。
第一のワイヤW1と第二のワイヤW2で移動体10を移動させる際には、まず、ピストンロッド24aを伸長させた状態とし、クランプ15で第一のワイヤW1の他端をレール部Rに連結する。この状態でシリンダ24を駆動してピストンロッド24aを縮退させると、移動体10は第一のワイヤW1で吊り下げられた状態(
図6(a)に示す状態)となる。
次いで
図6(a)に示すように、第二のワイヤW2を斜め前方に真っ直ぐに張って、その他端をクランプ16でレール部Rに連結する。そして、シリンダ24を駆動してピストンロッド24aを伸長させれば、第二のワイヤW2が鉛直になる位置まで移動体10が移動して、移動体10が第二のワイヤW2に吊り下げられた状態となる(
図6(b)参照)。
次いで、ピストンロッド24aを伸長させた状態のまま、第一のワイヤW1を斜め前方に真っ直ぐに張ってクランプ15でレール部Rに連結する(
図6(c)参照)。この状態でシリンダ24を駆動してピストンロッド24aを縮退させれば、第一のワイヤW1が鉛直になるまで移動体10が移動して、移動体10が第一のワイヤW1に吊り下げられた状態となる。
そして、第二のワイヤW2のクランプ16をレール部Rから取り外し、連結部W2aから第二のワイヤW2の他端を進行方向の斜め前方に真っ直ぐに張り、クランプ16でレール部Rに連結すれば、
図6(a)の状態に戻ることになる。以後、障害物Raを越えるまで上記の手順を繰り返す。
【0030】
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の説明により限定されるものではない。
例えば、上記の説明では、プーリ14cによって第一のワイヤW1を所定位置まで導くものとしたが、第一のワイヤW1を挿通可能なガイドチューブを利用して所定位置まで導くようにしてもよい。
また、上記では障害物Raを回避する場合について説明しているが、本発明の移動足場は、車輪12による走行が困難なあらゆる場合に適用が可能で、例えばレール部Rの傾斜が大きい場所やレール部Rが存在しない場所でも第一のワイヤW1と第二のワイヤW2を使って移動体10を移動させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、橋梁などの構造物の大きさや種類に関わらず、移動足場が利用されるあらゆる構造物に適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の移動足場の第一の実施形態にかかり、その構成を説明する概略図で、(a)はその側面図、(b)はその正面断面図、(c)は第二のワイヤの長さを調整する調整手段の一例を示す概略図である。
【
図3】第一の実施形態の別の変形例を示す図である。
【
図4】第一の実施形態の移動足場の作用を説明する図である。
【
図5】本発明の移動足場の第二の実施形態にかかり、その構成と作用を説明する図である。
【
図6】本発明の移動足場の第三の実施形態にかかり、その構成と作用を説明する図である。
【符号の説明】
【0033】
1,1A~D 移動足場
10 移動体
11 アーム
12 車輪
13 車輪支持部
13a 軸
14 駆動手段(チェーンブロック・ウィンチ)
14a ハンドル
14b ドラム
14c プーリ
14d 連結ロッド
15,16 クランプ
R レール部
Ra 障害物
S 隙間