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特開2022-103900モリブデン酸金属塩含有物及び樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103900
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】モリブデン酸金属塩含有物及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C01G 39/00 20060101AFI20220701BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220701BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
C01G39/00 Z
C08L101/00
C08K3/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218809
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】390000527
【氏名又は名称】住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】川村 泰史
【テーマコード(参考)】
4G048
4J002
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD03
4G048AE05
4G048AE07
4J002AA001
4J002BB031
4J002BB061
4J002BB071
4J002BB121
4J002BC051
4J002BC061
4J002BD041
4J002BD081
4J002BN151
4J002CD001
4J002CF061
4J002CF211
4J002CG001
4J002CK011
4J002CK021
4J002CL001
4J002DE186
4J002FD186
4J002GH01
4J002GL00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】樹脂中に混合されたときにモリブデン酸金属塩の凝集を抑制可能なモリブデン酸金属塩含有物及びモリブデン酸金属塩の凝集が抑制された樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】モリブデン酸銀及びモリブデン酸亜鉛の少なくともいずれかのモリブデン酸金属塩を含み、水を加えて調製した濃度1.0質量%の液体の電気伝導度が1.0mS/cm以下である、モリブデン酸金属塩含有物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン酸銀及びモリブデン酸亜鉛の少なくともいずれかのモリブデン酸金属塩を含み、
水を加えて調製した濃度1.0質量%の液体の電気伝導度が1.0mS/cm以下である、モリブデン酸金属塩含有物。
【請求項2】
請求項1に記載のモリブデン酸金属塩含有物と樹脂とを含む、樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モリブデン酸金属塩含有物及び該モリブデン酸金属塩含有物を含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
モリブデン酸銀やモリブデン酸亜鉛等のモリブデン酸金属塩は、抗菌剤や抗ウイルス剤として使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、建材等の樹脂製品にモリブデン酸金属塩を含ませることによって、該樹脂製品に抗ウイルス性を付与することが記載されている。
【0004】
この他、建材等の表面に貼り付けるためのフィルムや、該表面を塗工するための塗料等の樹脂製品に、モリブデン酸金属塩を配合することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-190808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、モリブデン酸金属塩を含む樹脂製品に抗菌性等の所望の性能を発揮させる上では、樹脂製品中にモリブデン酸金属塩が適度に分散していることが好ましい。しかしながら、該モリブデン酸金属塩が凝集する場合があり、これが原因となって、樹脂製品の性能が低下するおそれがある。
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明は、樹脂と混合されたときにモリブデン酸金属塩の凝集を抑制可能なモリブデン酸金属塩含有物及びモリブデン酸金属塩の凝集が抑制された樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のモリブデン酸金属塩含有物は、
モリブデン酸銀及びモリブデン酸亜鉛の少なくともいずれかのモリブデン酸金属塩を含み、
水を加えて調製した濃度1.0質量%の液体の電気伝導度が1.0mS/cm以下である。
【0009】
斯かる構成によれば、前記液体の電気伝導度が1.0mS/cm以下であることによって、樹脂と混合されたときのモリブデン酸金属塩の凝集を抑制することができる。
【0010】
また、本発明に係る樹脂組成物は、前記モリブデン酸金属塩含有物と樹脂とを含む。
【0011】
斯かる構成によれば、前記電気伝導度が1.0mS/cm以下のモリブデン酸金属塩含有物を含むことによって、モリブデン酸金属塩の凝集が抑制されたものとなる。
【発明の効果】
【0012】
以上の通り、本発明によれば、樹脂と混合されたときにモリブデン酸金属塩の凝集を抑制可能なモリブデン酸金属塩含有物及びモリブデン酸金属塩の凝集が抑制された樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、各樹脂シートの外観を比較するための写真である。
図2図2は、樹脂製シートにおける凝集物のカウント箇所を示す図である。
図3図3は、比較例5のPVCシートの拡大画像である。
図4図4は、実施例10PVCシートの拡大画像である。
図5図5は、比較例9のPEシートの拡大画像である。
図6図6は、実施例17のPEシートの拡大画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係るモリブデン酸金属塩含有物について説明する。
【0015】
本実施形態のモリブデン酸金属塩含有物は、モリブデン酸銀及びモリブデン酸亜鉛の少なくともいずれかのモリブデン酸金属塩を含む。前記モリブデン酸金属塩含有物は、前記モリブデン酸銀及び前記モリブデン酸亜鉛の両方を含んでいてもよい。
【0016】
前記モリブデン酸銀の調製では、通常、銀源として、硝酸銀、酢酸銀、又は硫酸銀等の銀塩を用いる。また、モリブデン酸源として、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸リチウム、又はモリブデン酸アンモニウム等のモリブデン酸塩を用いる。そして、前記銀塩と前記モリブデン酸塩とを反応溶媒としての水中で反応させることによって、前記モリブデン酸銀を生成させる。反応中、前記モリブデン酸銀は、反応液中で析出物を形成する。また、反応の副生成物として、硝酸ナトリウムや硝酸カリウム等の硝酸塩(無機系塩化合物)、酢酸ナトリウムや酢酸カリウム等の酢酸塩(有機系塩化合物)、又は、硫酸ナトリウムや硫酸カリウム等の硫酸塩(無機系塩化合物)等が副生する。これらの塩化合物は、通常、反応溶媒として用いた水に溶解している。そして、前記析出物を含む反応液を固液分離し、ウェット状態の該析出物を乾燥させて水分を除去し乾燥物を得る。このような調整方法のため、前記乾燥物は、前記モリブデン酸銀と、前記塩化合物とを含み得るものとなる。すなわち、前記乾燥物たる前記モリブデン酸金属塩含有物は、前記モリブデン酸銀と、前記塩化合物とを含み得るものとなる。
【0017】
また、前記モリブデン酸亜鉛は、前記モリブデン酸銀と同様にして調製することができる。なお、前記モリブデン酸亜鉛の調製では、亜鉛源として、通常、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛等の亜鉛塩を用いる。そして、同様にして得られる乾燥物たる前記モリブデン酸金属塩含有物は、前記モリブデン酸亜鉛と、前記塩化合物とを含み得るものとなる。また、亜鉛源として塩化亜鉛を用いることもできる。この場合、前記塩化合物として、塩化ナトリウムや塩化カリウム等の無機系塩化合物が副生することとなる。
【0018】
前記モリブデン酸金属塩含有物は、これに水を加えて調製した濃度1.0質量%の液体の電気伝導度が1.0mS/cm以下であることが重要である。前記電気伝導度は、0.6mS/cm以下が好ましく、0.5mS/cm以下がより好ましく、0.4mS/cm以下がさらに好ましく、0.3mS/cm以下がより一層好ましく、0.2mS/cm以下がとりわけ好ましい。これによって、前記モリブデン酸金属塩含有物が樹脂と混合された際に、樹脂中での前記モリブデン酸金属塩の凝集が抑制され、前記モリブデン酸金属塩が樹脂中に均一に分散され得る。
【0019】
また、前記電気伝導度は、0.01mS/cm以上であることが好ましく、0.03mS/cm以上であることがより好ましい。これによって、前記モリブデン酸金属塩含有物の製造の際、前記析出物を過度に洗浄する必要がなくなるため製造上好ましい。
【0020】
なお、前記液体は、下記実施例に示すような容器に前記モリブデン酸金属塩含有物1gと蒸留水(比抵抗1MΩ・cm以上)99gとを添加し、超音波洗浄機を用いて容器内の内容物に3分間超音波照射を行うことによって調製するものとする。また、前記電気伝導度は、該液体の調製後、液温が20℃になった時点から24時間経過後(この間、液温20℃を維持)に測定した値を採用するものとする。前記電気伝導度の測定には、堀場製作所社製の測定機(Twin Cond B-173)を用いることができる。
【0021】
前記モリブデン酸金属塩含有物の総質量に対する前記塩化合物の含有量は、0.01~10質量%であってもよく、0.01~5.5質量%であってもよく、0.01~1.5質量%であってもよい。
【0022】
なお、前記モリブデン酸金属塩含有物における前記塩化合物の含有量は、原子吸光光度法、ICP発光法、又はイオンクロマトグラフ法によって測定することができる。
【0023】
前記モリブデン酸金属塩含有物の総質量に対する前記モリブデン酸金属塩の含有量は、90質量%以上であってもよく、94.5質量%以上であってもよく、98.5質量%以上であってもよい。
【0024】
次に、本実施形態のモリブデン酸金属塩含有物の製造方法を説明する。
【0025】
本実施形態のモリブデン酸金属塩含有物の製造方法は、前記銀塩と前記モリブデン酸塩とを反応溶媒としての水中で反応させることによって前記モリブデン酸金属塩を生成させる反応工程と、反応液を固液分離することによって前記モリブデン酸金属塩を含むウェット状態の析出物を得る固液分離工程と、該析出物を乾燥させることによって水分を除去する乾燥工程とを備える。
【0026】
前記反応工程では、反応液の基質濃度(前記銀塩と前記モリブデン酸塩を合わせた基質濃度)は、特に限定されないが、1.0mol/L以下とすることが好ましい。これによって、次工程の固液分離工程において、不純物としての前記塩化合物と前記モリブデン酸金属塩とを比較的効率良く分離することができる。
【0027】
前記反応工程では、水に前記銀塩を添加して調製した銀塩水溶液と、水に前記モリブデン酸塩を添加して調製したモリブデン酸塩水溶液とを混合することが好ましい。反応は、大気圧下、常温で行ってもよく、反応液を適宜加温して行ってもよい。また、一般的に用いられている撹拌装置を用いて反応液の撹拌を行うことが好ましい。
【0028】
前記固液分離工程では、反応液中に析出した析出物が沈殿するように反応液を静置し、該反応液から上澄液を除去してもよい。また、反応液を減圧濾過や遠心分離等の方法によりろ過することによって、前記析出物と水とを分離してもよい。これによって、前記析出物から、前記塩化合物の一部を除去することができ、前記電気伝導度を上記した好ましい値以下に低減することが可能となり得る。また、前記固液分離工程では、ろ過後に、後述するイオン交換水等による洗浄を経ない未洗浄析出物を得てもよい。この場合、前記未洗浄析出物の総質量に対する該未洗浄析出物に含まれる水(具体的には前記塩化合物が溶解した水)の量は、20~45質量%(含水率)であってもよい。これによって、前記電気伝導度を好ましい値にしつつ、ろ過時間を短縮することが可能となる。
【0029】
前記固液分離工程では、前記析出物をイオン交換水や蒸留水等によってさらに洗浄してもよい。この際、ウェット状態の前記析出物を採取して乾燥させた試料1gを用い、前記モリブデン酸金属塩含有物の電気伝導度の測定方法と同様の方法で電気伝導度を測定し、該電気伝導度の測定値に基づいて洗浄を実施するか否かを判断してもよい。
【0030】
前記乾燥工程では、前記固液分離工程を経ずに得られた反応液又は前記固液分離工程において上澄液が除去された反応液を濃縮乾固することによって、前記モリブデン酸金属塩含有物を得てもよい。また、前記固液分離工程においてろ過により水と分離させ且つイオン交換水等により洗浄された析出物、又は、乾燥機等を用いて前記未洗浄析出物を乾燥させることによって、前記モリブデン酸金属塩含有物を得てもよい。乾燥は、大気圧条件下で実施してもよく、減圧条件下で実施してもよい。乾燥温度は、60~120℃であることが好ましい。
【0031】
次に、前記モリブデン酸金属塩含有物と樹脂とを含む一実施形態に係る樹脂組成物について説明する。
【0032】
前記樹脂組成物としては、例えば、前記モリブデン酸金属塩含有物と樹脂と含む樹脂成形体を製造するための成形用樹脂組成物や、前記モリブデン酸金属塩含有物と樹脂とを含む塗料を製造するための塗料用樹脂組成物が挙げられる。
【0033】
前記成形用樹脂組成物を構成する成形用樹脂としては、例えば、塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体等のポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体等のエチレン性不飽和結合を有する有機カルボン酸誘導体とエチレンとの共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン共重合体(AES)等のスチレン系共重合体、ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)や不飽和ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、及びポリスチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、尿素系樹脂、及びフェノール系樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0034】
前記成形用樹脂組成物は、その総質量に対して0.05~10質量%の前記モリブデン酸金属塩含有物を含むことが好ましい。また、前記成形用樹脂組成物がマスターバッチとして用いられる場合には、該成形用樹脂組成物は、1.0~30質量%の前記モリブデン酸金属塩含有物を含むことが好ましい。
【0035】
前記樹脂成形体によって構成される樹脂製品としては、例えば、手すり、床材、壁紙等の建材、便座等の電化製品、スマートフォンやタブレット等の携帯用電子機器を構成する筐体、コピー機等のOA機器を構成する筐体や操作ボタンが挙げられる。また、該樹脂製品として、各種製品の包装用フィルム、OA機器、電化製品、自動販売機、及びエレベータ等の操作ボタンに貼付するフィルム、タブレット等の画像表示部に貼付するフィルム、抗菌シート等が挙げられる。
【0036】
前記塗料用樹脂組成物を構成する塗料用樹脂としては、例えば、アルキド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、フェノール系樹脂、アミノ系樹脂、メラミン系樹脂、及びウレタン系樹脂等が挙げられる。この他、紫外線硬化型のウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、及びエポキシ系樹脂等が挙げられる。
【0037】
前記塗料用樹脂組成物は、これに含まれる前記塗料用樹脂の質量に対して0.05~10質量%の前記モリブデン酸金属塩含有物を含むことが好ましい。
【0038】
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂製品に種々の性能を付与するための成分として、安定剤、可塑剤、軟化剤、粘度調節剤、防汚剤、顔料、染料、脱臭剤、芳香剤、香料、展着剤、防錆剤、滑剤、アンチブロッキング剤、界面活性剤、帯電防止剤、加硫剤、加硫促進剤、架橋剤、発泡剤、有機充填剤、無機充填剤、樹脂強化用繊維、難燃剤等を含んでいてもよい。
【0039】
以上のように、例示として一実施形態を示したが、本発明に係るモリブデン酸金属塩含有物及び樹脂組成物は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係るモリブデン酸金属塩含有物及び樹脂組成物は、上記した作用効果により限定されるものではない。本発明に係るモリブデン酸金属塩含有物及び樹脂組成物は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例0040】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0041】
[比較例1]
(各水溶液の調製)
イオン交換水430.0gを1Lのガラスビーカーに量りとり、硝酸銀(富士フィルム和光純薬社製)50.0g(0.294mol)を加え、撹拌・溶解させ、硝酸銀水溶液を調製した。また、イオン交換水463.4gを1Lのセパラブル丸底のガラス容器に量りとり、セパラブルのカバーをした後、モリブデン酸ナトリウム二水和物(富士フィルム和光純薬社製)36.6g(0.151mol)を加え、撹拌・溶解させ、モリブデン酸塩水溶液を調製した。
【0042】
(反応工程)
撹拌しているモリブデン酸水溶液に、滴下ロートを用いて硝酸銀水溶液を滴下した。滴下後、硝酸銀水溶液を調製したガラスビーカーをイオン交換水20.0gで洗浄し同じように滴下して加え、モリブデン酸銀及び硝酸ナトリウムを含む反応液を得た。
【0043】
(乾燥工程)
固液分離工程を実施せずに、エバポレーターを用いて反応液を恒量になるまで濃縮、乾固し、モリブデン酸金属塩としてモリブデン酸銀及び塩化合物として硝酸ナトリウムを含むモリブデン酸金属塩含有物を得た。
【0044】
[比較例2]
(反応工程)
比較例1と同様にして反応工程を実施し、反応液を得た。
【0045】
(固液分離工程~乾燥工程)
静置させた反応液から上澄液2分の1を除去した後、上澄液を除去した反応液に対して比較例1と同様に乾燥工程を実施し、モリブデン酸金属塩含有物を得た。
【0046】
[実施例1]
比較例1と同様にして反応工程を実施し、反応液を得た。静置させた反応液の上澄液の4分の3を除去した後、上澄液を除去した反応液に対して比較例1と同様に乾燥工程を実施し、モリブデン酸銀金属塩含有物を得た。
【0047】
[実施例2]
比較例1と同様にして反応工程を実施し、反応液を得た。静置させた反応液の上澄液の8分の7を除去した後、上澄液を除去した反応液に対して比較例1と同様に乾燥工程を実施し、モリブデン酸金属塩含有物を得た。
【0048】
[実施例3]
比較例1と同様にして反応工程を実施し、反応液を得た。含水率が45質量%程度となるように、反応液を吸引ろ過することによって未洗浄析出物を得た。エバポレーターを用いて、未洗浄析出物を恒量になるまで濃縮、乾固し、モリブデン酸金属塩含有物を得た。
【0049】
[実施例4]
比較例1と同様にして反応工程を実施し、反応液を得た。含水率が20質量%程度となるように、反応液を吸引ろ過することによって未洗浄析出物を得た。エバポレーターを用いて、未洗浄析出物を恒量になるまで濃縮、乾固し、モリブデン酸金属塩含有物を得た。
【0050】
[実施例5]
(各水溶液の調製)
イオン交換水930.0gを2Lのガラスビーカーに量りとり、硝酸銀(富士フィルム和光純薬社製)50.0g(0.294mol)を加え、撹拌・溶解させ、硝酸銀水溶液を調製した。また、イオン交換水943.4gを2Lのセパラブル丸底のガラス容器に量りとり、セパラブルのカバーをした後、モリブデン酸ナトリウム二水和物(富士フィルム和光純薬社製)36.6g(0.151mol)を加え、撹拌・溶解させ、モリブデン酸塩水溶液を調製した。
【0051】
(反応工程)
撹拌しているモリブデン酸水溶液に、滴下ロートを用いて硝酸銀水溶液を滴下した。滴下後、硝酸銀水溶液を調製したガラスビーカーを蒸留水40.0gで洗浄し同じように滴下して加え、モリブデン酸銀及び硝酸ナトリウムを含む反応液を得た。
【0052】
上記で得られた反応液から、含水率が20質量%程度となるように、反応液を吸引ろ過することによって未洗浄析出物を得た。エバポレーターを用いて、恒量になるまで未洗浄析出物を濃縮、乾固させ、モリブデン酸金属含有物を得た。
【0053】
[比較例3]
イオン交換水430.0gを1Lのガラスビーカーに量りとり、硝酸銀(富士フィルム和光純薬社製)50.0g(0.294mol)を加え、撹拌・溶解させ、硝酸銀水溶液を調製した。また、イオン交換水463.4gを1Lのセパラブル丸底のガラス容器に量りとり、セパラブルのカバーをした後、モリブデン酸カリウム(富士フィルム和光純薬社製)35.96g(0.151mol)を加え、撹拌・溶解させ、モリブデン酸塩水溶液を調製した。次に、比較例1と同様にして反応工程及び乾燥工程を実施し、モリブデン酸金属塩としてモリブデン酸銀及び不純物の塩化合物として硝酸カリウムを含むモリブデン酸金属塩含有物を得た。
【0054】
[比較例4]
比較例1と同様にして反応工程を実施し、且つ、比較例2と同様にして固液分離工程及び乾燥工程を実施し、モリブデン酸金属塩含有物を得た。
【0055】
[実施例6]
比較例3と同様にして反応工程を実施し、且つ、実施例4と同様にして固液分離工程及び乾燥工程を実施し、モリブデン酸金属塩含有物を得た。
【0056】
[実施例7]
モリブデン酸ナトリウムをモリブデン酸カリウムに変更した以外は、実施例5と同様にして反応工程、固液分離工程及び乾燥工程を実施し、モリブデン酸金属塩含有物を得た。
【0057】
[電気伝導度の測定]
110mLスクリュー管瓶に恒量になるまで濃縮、乾固した各モリブデン酸金属塩含有物1g及び蒸留水99g(比抵抗1MΩ・cm)を加え、超音波洗浄機(ヤマト科学社製、型番CPX5800-J)を用いて3分間超音波照射を行い、各モリブデン酸金属塩含有物の濃度が、1.0質量%の液体を調製した。調製後、20℃で24時間静置し、上澄液の電気伝導度を電気伝導度計(堀場製作所社製、Twin Cond B-173)を用いて測定した。結果は、表1に示した通りである。
【0058】
また、各モリブデン酸金属塩含有物に含まれる塩化合物の含有量は、原子吸光光度計によりナトリウムイオン濃度又はカリウムイオン濃度を測定して、硝酸ナトリウム含有量又は硫酸カリウム含有量を算出することによって求めた。結果は、表1に示した通りである。
【0059】
【表1】
【0060】
[樹脂製シート(PVCシート)の作製例1]
下記表2に示す配合割合の原料を用い、1.0質量%のモリブデン酸銀を含むPVCシートを作製した。具体的には、混練り機(Labo Plastomill 4C150、東洋精機製作所社製)を用いて150℃で3分間、混練りした。ヒートプレス機(卓上用テストプレス、神藤金属工業所社製)を用い、混練物を上下のステンレス板に15cm×15cm×1mmの大きさのスペーサーを入れて、160℃、3分間加圧して成形した後、20℃、3分間冷却してPVCシート(15cm×15cm)を作製した。
【0061】
[樹脂製シート(PEシート)の作製例2]
下記表3に示す配合割合の原料を用い、作製例1と同様の方法で、1.0質量%のモリブデン酸銀を含むPEシート(15cm×15cm)を作製した。
【0062】
図1に、各シートの外観を比較した写真を示した。比較例5~8のPVCシート及び比較例9~12のPEシートには、顕微鏡等で拡大せずとも凝集物の存在が認められた。
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
[樹脂製シートの評価]
作製例1及び作製例2で作製した各樹脂製シートにおける凝集物の数を評価した。具体的には、まず、得られた樹脂製シートから4cm×4cmの試験片を切り出した。各試験片をデジタルマイクロスコープ(HIROX社製、RH-2000)を用い、カウント機能(二値化機能、対象:輝度(PEシート測定時)赤(PVCシート測定時)、閾値:175、グラフ(黒領域)、平滑化:0)を使用して、直径(面積から算出される円相当径)0.1mm以上の凝集物をカウントした。測定レンズはACSレボズームレンズ(30-2500x、型式:MXB-2500REZ)を使用し、LowRangeの倍率35に設定して測定した。なお、試験片におけるカウント箇所は、図2に示すおおよそ5つの領域とした。図2に示すように、各領域は4mm×8mmの大きさとし、互いの短辺及び長辺の延びる方向が平行するようにした。本評価結果は、下記表4に示した通りである。また、デジタルマイクロスコープによる拡大画像を図3~6に示した。
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
表4及び表5に示したように、比較例5PVCシート(図3、比較例1に係る電気伝導度が2.7mS/cmのモリブデン酸金属塩含有物を含有)、及び、比較例9のPEシート(図5、比較例1のモリブデン酸金属塩含有物を含有)には、多くの凝集物が認められた。一方、実施例10のPVCシート(図4、実施例3に係る電気伝導度が0.14mS/cmのモリブデン酸金属塩含有物を含有)、及び、実施例17のPEシート(図6、実施例5に係る電気伝導度が0.030mS/cmのモリブデン酸金属塩含有物を含有)には、0.1mm以上の凝集物は認められなかった。これらの結果から、モリブデン酸金属塩含有物の電気伝導度が1.0mS/cm以下であれば、樹脂製のシートにおいてモリブデン酸金属塩の凝集が抑制されることが示唆された。さらに、比較例7~8及び11~12と、実施例13~14及び20~21の評価結果から、塩化合物として硝酸カリウムが含まれる場合においても、同様の傾向が認められることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6