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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103903
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20220701BHJP
【FI】
B60C11/00 B
B60C11/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218812
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇野 弘基
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BA05
3D131BB01
3D131BC02
3D131BC12
3D131BC19
3D131EA03U
3D131EA10V
3D131EA10X
3D131EB11X
3D131EB27V
3D131EC22U
(57)【要約】
【課題】必要なウェット性能を確保しながら、転がり抵抗の低減を達成できるタイヤ2の提供。
【解決手段】このタイヤ2の基準接地面の形状指数は、1.20以上1.50以下である。このタイヤ2のトレッド4は、キャップ層38と、30℃での損失正接がキャップ層38の30℃での損失正接よりも低い中間層40と、30℃での損失正接が中間層40の30℃での損失正接よりも低いベース層42とを備える。径方向において、中間層40はベース層42の外側に位置し、キャップ層38は中間層40の外側に位置する。トレッド4のショルダー陸部28sにおいて、軸方向幅の中心Pmでのキャップ層38の厚さTmは、ショルダー周方向溝26s側でのキャップ層38の厚さTgよりも薄い。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面と接地するトレッドを備えるタイヤであって、
前記タイヤを正規リムに組み、前記タイヤの内圧を230kPaに調整し、正規荷重の70%の荷重を縦荷重として前記タイヤに負荷して、平面からなる路面に前記タイヤを接触させて得られる接地面が基準接地面であり、
前記基準接地面において、前記タイヤの赤道に沿って計測される赤道接地長の、最大接地幅の80%の幅に相当する位置における基準接地長に対する比で表される形状指数が、1.20以上1.50以下であり、
前記トレッドに少なくとも3本の周方向溝を刻むことで、軸方向に並列した少なくとも4本の陸部が構成され、
少なくとも3本の周方向溝のうち、軸方向において外側に位置する周方向溝がショルダー周方向溝であり、
軸方向において、前記ショルダー周方向溝の外側に位置する陸部がショルダー陸部であり、前記ショルダー周方向溝の内側に位置する陸部がミドル陸部であり、
前記トレッドが、キャップ層と、30℃での損失正接が前記キャップ層の30℃での損失正接よりも低い中間層と、30℃での損失正接が前記中間層の30℃での損失正接よりも低いベース層とを備え、
径方向において、前記中間層が前記ベース層の外側に位置し、前記キャップ層が前記中間層の外側に位置し、
前記ショルダー陸部において、軸方向幅の中心での前記キャップ層の厚さが、前記ショルダー周方向溝側での前記キャップ層の厚さよりも薄い、
タイヤ。
【請求項2】
前記形状指数をF、前記ショルダー陸部の軸方向幅の中心での前記キャップ層の厚さの、前記ショルダー周方向溝の有効溝深さに対する比率をRm(単位:%)としたとき、前記比率Rmが次の式(1)及び(2)を充足する、
Rm≦33.333×F-18 (1)
Rm≧33.333×F-22 (2)
請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記ショルダー陸部において、前記ショルダー周方向溝側での前記キャップ層の厚さの、前記ショルダー周方向溝の有効溝深さに対する比率が、40%以上60%以下である、
請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記ミドル陸部において、前記キャップ層の厚さの、前記ショルダー周方向溝の有効溝深さに対する比率が、40%以上60%以下である、
請求項1から3のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記キャップ層の軸方向幅が前記中間層の軸方向幅と同等以下である、
請求項1から4のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記中間層の軸方向幅と前記キャップ層の軸方向幅との差が10mm以上30mm以下である、
請求項5に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記キャップ層の軸方向幅と前記トレッドの幅との差が-10mm以上10mm以下である、
請求項1から6のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項8】
前記キャップ層の30℃での損失正接の、前記中間層の30℃での損失正接に対する比率が、110%以上250%以下である、
請求項1から7のいずれか一項に記載のタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
低発熱性のゴムをトレッドに使用すると、低い転がり抵抗を有するタイヤが得られる。低発熱性のゴムのグリップ力は、高いグリップ力を発揮できる発熱性のゴムに比べて劣る。このため、低発熱性のゴムをトレッドに使用すると、例えば、濡れた路面での制動性能(以下、ウェット性能とも称される。)が低下する。転がり抵抗とウェット性能とをバランスよく整えるのは難しい。転がり抵抗の低減と、ウェット性能の向上とを目指し、様々な検討が行われている(例えば、下記の特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-2008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トレッドの外面部分には、高いグリップ力の発揮の観点から発熱性のゴムからなるキャップ層が構成される。トレッドには周方向溝が刻まれ、複数の陸部が構成される。前述の特許文献1にも開示されているように、通常、各陸部は、キャップ層が略一様な厚さを有するように構成される。
【0005】
ところでタイヤの接地形状によっては、陸部が全体として一様に摩耗するのではなく、その一部が摩耗する場合がある。具体的には、トレッドの軸方向外側に構成されるショルダー陸部において、トレッドの端にあたる部分の中でもサイドウォール側の部分がほとんど摩耗しない場合がある。このような場合、走行により摩耗したタイヤのショルダー陸部には、キャップ層の一部が摩耗せずに残存する。
【0006】
環境への影響が考慮され、タイヤの転がり抵抗のさらなる低減が求められている。キャップ層は発熱性のゴムからなるので、残存したキャップ層を、このキャップ層よりも発熱しにくいゴムに置き換えることで、転がり抵抗のさらなる低減を図れる見込みがある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、必要なウェット性能を確保しながら、転がり抵抗の低減を達成できるタイヤの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るタイヤは路面と接地するトレッドを備える。前記タイヤを正規リムに組み、前記タイヤの内圧を230kPaに調整し、正規荷重の70%の荷重を縦荷重として前記タイヤに負荷して、平面からなる路面に前記タイヤを接触させて得られる接地面が基準接地面である。前記基準接地面において、前記タイヤの赤道に沿って計測される赤道接地長の、最大接地幅の80%の幅に相当する位置における基準接地長に対する比で表される形状指数が、1.20以上1.50以下である。前記トレッドに少なくとも3本の周方向溝を刻むことで、軸方向に並列した少なくとも4本の陸部が構成される。前記少なくとも3本の周方向溝のうち、軸方向において外側に位置する周方向溝がショルダー周方向溝である。軸方向において、前記ショルダー周方向溝の外側に位置する陸部がショルダー陸部であり、前記ショルダー周方向溝の内側に位置する陸部がミドル陸部である。前記トレッドは、キャップ層と、30℃での損失正接が前記キャップ層の30℃での損失正接よりも低い中間層と、30℃での損失正接が前記中間層の30℃での損失正接よりも低いベース層とを備える。径方向において、前記中間層が前記ベース層の外側に位置し、前記キャップ層が前記中間層の外側に位置する。前記ショルダー陸部において、軸方向幅の中心での前記キャップ層の厚さは、前記ショルダー周方向溝側での前記キャップ層の厚さよりも薄い。
【0009】
好ましくは、このタイヤでは、前記形状指数をF、前記ショルダー陸部の軸方向幅の中心での前記キャップ層の厚さの、前記ショルダー周方向溝の有効溝深さに対する比率をRm(単位:%)としたとき、前記比率Rmが次の式(1)及び(2)を充足する。
Rm≦33.333×F-18 (1)
Rm≧33.333×F-22 (2)
【0010】
好ましくは、このタイヤでは、前記ショルダー陸部において、前記ショルダー周方向溝側での前記キャップ層の厚さの、前記ショルダー周方向溝の有効溝深さに対する比率は、40%以上60%以下である。
【0011】
好ましくは、このタイヤでは、前記ミドル陸部において、前記キャップ層の厚さの、前記ショルダー周方向溝の有効溝深さに対する比率は、40%以上60%以下である。
【0012】
好ましくは、このタイヤでは、前記キャップ層の軸方向幅が前記中間層の軸方向幅と同等以下である。
【0013】
好ましくは、このタイヤは、前記中間層の軸方向幅と前記キャップ層の軸方向幅との差は10mm以上30mm以下である。
【0014】
好ましくは、このタイヤでは、前記キャップ層の軸方向幅と前記トレッドの幅との差は-10mm以上10mm以下である。
【0015】
好ましくは、このタイヤでは、前記キャップ層の30℃での損失正接の、前記中間層の30℃での損失正接に対する比率は、110%以上250%以下である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、必要なウェット性能を確保しながら、転がり抵抗の低減を達成できるタイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤの一部を示す断面図である。
図2図2は、図1のタイヤのショルダー部分の輪郭を示す拡大断面図である。
図3図3は、図1のタイヤの一部を示す拡大断面図である。
図4図4は、基準接地面の形状指数の算出方法を説明するイメージ図である。
図5図5は、形状指数と、キャップ層の厚さ比率との関係をプロットしたグラフである。
図6図6は、比較例1のタイヤの一部を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0019】
本開示においては、タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を正規内圧に調整し、このタイヤに荷重をかけない状態は、正規状態と称される。タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を230kPaに調整し、このタイヤに荷重をかけない状態は、標準状態と称される。
【0020】
本開示においては、特に言及がない限り、タイヤ各部の寸法及び角度は、正規状態で測定される。正規リムにタイヤを組んだ状態で測定できないタイヤの子午線断面における各部の寸法及び角度は、回転軸を含む平面に沿ってタイヤを切断することにより得られる、タイヤの断面において、左右のビード間の距離を、正規リムに組んだ状態のタイヤにおけるビード間の距離に一致させて、測定される。
【0021】
正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0022】
正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0023】
正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0024】
本開示において、架橋ゴムとは、ゴム組成物を加圧及び加熱して得られるゴム組成物の成形体である。ゴム組成物は、バンバリーミキサー等の混錬機において、基材ゴム及び薬品を混合することにより得られる未架橋状態のゴムである。架橋ゴムは加硫ゴムとも称され、ゴム組成物は未加硫ゴムとも称される。
【0025】
基材ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)及びブチルゴム(IIR)が例示される。薬品としては、カーボンブラックやシリカのような補強剤、アロマチックオイル等のような可塑剤、酸化亜鉛等のような充填剤、ステアリン酸のような滑剤、老化防止剤、加工助剤、硫黄及び加硫促進剤が例示される。基材ゴム及び薬品の選定、選定した薬品の含有量等は、ゴム組成物が適用される、トレッド、サイドウォール等の各要素の仕様に応じて、適宜決められる。
【0026】
本開示において、タイヤを構成する要素のうち、架橋ゴムからなる要素の温度30℃での損失正接(tanδとも称される。)は、JIS K6394の規定に準拠し、粘弾性スペクトロメータ((株)岩本製作所製の「VES」)を用いて下記の条件にて測定される。
初期歪み=10%
動歪み=2%
周波数=10Hz
変形モード=引張
この測定では、試験片はタイヤからサンプリングされる。タイヤから試験片をサンプリングできない場合には、測定対象の要素の形成に用いられるゴム組成物を170℃の温度で12分間加圧及び加熱して得られる、シート状の架橋ゴム(以下、ゴムシートとも称される。)から試験片がサンプリングされる。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ2の一部を示す。このタイヤ2は、乗用車用タイヤである。図1には、タイヤ2の回転軸を含む平面に沿った、タイヤ2の断面(以下、子午線断面とも称される。)の一部が示される。図1において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の径方向である。図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の周方向である。
【0028】
図1において、一点鎖線ELはタイヤ2の赤道面である。このタイヤ2は、その外面に刻まれる、トレッドパターンや、模様や文字等の装飾を除いて、赤道面に対して対称である。
【0029】
図1において、タイヤ2はリムRに組まれている。リムRは正規リムである。タイヤ2の内部には空気が充填され、タイヤ2の内圧が調整される。リムRに組まれたタイヤ2は、タイヤ-リム組立体とも称される。タイヤ-リム組立体は、リムRと、このリムRに組まれたタイヤ2とを備える。
【0030】
図1において、符号PWで示される位置はタイヤ2の軸方向外端である。模様や文字等の装飾が外面にある場合、外端PWは、装飾がないと仮定して得られる仮想外面に基づいて特定される。
【0031】
図1において、符号WAで示される長さはタイヤ2の最大幅、すなわち断面幅(JATMA等参照)である。タイヤ2の断面幅WAは、一方の外端PWから他方の外端PWまでの軸方向距離である。外端PWは、このタイヤ2が最大幅を示す位置(以下、最大幅位置)である。断面幅WAは標準状態のタイヤ2において測定される。
【0032】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のクリンチ8、一対のビード10、カーカス12、ベルト14、バンド16、一対のクッション18、一対のチェーファー20及びインナーライナー22を備える。
【0033】
トレッド4は、その外面において路面と接地する。トレッド4には溝24が刻まれる。これにより、トレッドパターンが構成される。
【0034】
このタイヤ2では、周方向に連続して延びる少なくとも3本の周方向溝26がトレッド4に刻まれる。これにより、軸方向に並列した少なくとも4本の陸部28がこのトレッド4に構成される。図1に示されたタイヤ2では、3本の周方向溝26をトレッド4に刻むことで、4本の陸部28が構成される。周方向溝26は、トレッドパターンを構成する溝24の一部をなす。
【0035】
図1において、符号PEで示される位置はこのタイヤ2の赤道である。赤道PEは、トレッド4の外面と赤道面との交点である。図1に示されるように、赤道面上に溝24がある場合、赤道PEは、溝24がないと仮定して得られる、トレッド4の仮想外面に基づいて特定される。
【0036】
それぞれのサイドウォール6は、トレッド4の端に連なる。サイドウォール6は、径方向においてトレッド4の内側に位置する。サイドウォール6は、トレッド4の端からクリンチ8に向かってカーカス12に沿って延びる。サイドウォール6は耐カット性を考慮した架橋ゴムからなる。
【0037】
それぞれのクリンチ8は、径方向においてサイドウォール6の内側に位置する。クリンチ8はリムRと接触する。クリンチ8は耐摩耗性を考慮した架橋ゴムからなる。
【0038】
それぞれのビード10は、軸方向においてクリンチ8の内側に位置する。ビード10は、コア30と、エイペックス32とを備える。図示されないが、コア30はスチール製のワイヤを含む。
【0039】
エイペックス32は、径方向においてコア30の外側に位置する。エイペックス32は外向きに先細りである。エイペックス32は高い剛性を有する架橋ゴムからなる。
【0040】
カーカス12は、トレッド4、一対のサイドウォール6及び一対のクリンチ8の内側に位置する。カーカス12は、一方のビード10と他方のビード10との間を架け渡す。このカーカス12はラジアル構造を有する。
【0041】
カーカス12は、少なくとも1枚のカーカスプライ34を含む。軽量化の観点から、このタイヤ2のカーカス12は、1枚のカーカスプライ34で構成される。
【0042】
図示されないが、カーカスプライ34は並列した多数のカーカスコードを含む。これらカーカスコードはトッピングゴムで覆われる。それぞれのカーカスコードは、赤道面と交差する。カーカスコードは有機繊維からなるコードである。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0043】
ベルト14は、径方向においてトレッド4の内側に位置する。ベルト14は、径方向において外側からカーカス12に積層される。図1において、符号WRで示される長さはベルト14の軸方向幅である。軸方向幅WRはベルト14の一方の端から他方の端までの軸方向距離である。このタイヤ2では、ベルト14の軸方向幅WRは、断面幅WAの65%以上85%以下である。
【0044】
ベルト14は、径方向に積層された少なくとも2つの層36で構成される。このタイヤ2のベルト14は、径方向に積層された2つの層36からなる。2つの層36のうち、内側に位置する層36が内側層36aであり、外側に位置する層36が外側層36bである。図1に示されるように、内側層36aは外側層36bよりも幅広い。外側層36bの端から内側層36aの端までの長さは3mm以上10mm以下である。
【0045】
図示されないが、内側層36a及び外側層36bはそれぞれ、並列した多数のベルトコードを含む。これらベルトコードはトッピングゴムで覆われる。それぞれのベルトコードは赤道面に対して傾斜する。ベルトコードの材質はスチールである。
【0046】
バンド16は、径方向において、トレッド4とベルト14との間に位置する。バンド16は、トレッド4の内側においてベルト14に積層される。
【0047】
図示されないが、バンド16は、らせん状に巻かれたバンドコードを含む。バンドコードは実質的に周方向に延びる。詳細には、バンドコードが周方向に対してなす角度は、5°以下である。バンド16はジョイントレス構造を有する。このタイヤ2では、有機繊維からなるコードがバンドコードとして用いられる。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0048】
このタイヤ2のバンド16は、赤道PEを挟んで両端が相対するフルバンドからなる。バンド16はベルト14よりも幅広い。ベルト14の端からバンド16の端までの長さは3mm以上10mm以下である。バンド16はベルト14全体を覆う。このバンド16が、軸方向において離間して配置され、フルバンドの端及びベルト14の端を覆う、一対のエッジバンドを含んでもよい。このバンド16が、一対のエッジバンドのみで構成されてもよい。
【0049】
それぞれのクッション18は、軸方向において離間して配置される。クッション18は、ベルト14の端、及びバンド16の端と、カーカス12のプライ本体34aとの間に位置する。クッション18は低い剛性を有する架橋ゴムからなる。このタイヤ2では、クッション18が設けられなくてもよい。
【0050】
それぞれのチェーファー20は、ビード10の径方向内側に位置する。チェーファー20はリムRと接触する。このタイヤ2のチェーファー20は布とこの布に含浸したゴムとからなる。
【0051】
インナーライナー22はカーカス12の内側に位置する。インナーライナー22は、タイヤ2の内面を構成する。インナーライナー22は、気体透過係数が低い架橋ゴムからなる。インナーライナー22は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0052】
図1において、符号PHで示される位置はトレッド4の外面上の位置である。位置PHは、タイヤ2の、路面との接地面の、軸方向外端に対応する。
【0053】
位置PHを特定するための接地面は、例えば、接地面形状測定装置(図示されず)を用いて得られる。この接地面は、この装置において、標準状態のタイヤ2のキャンバー角を0°とした状態で、正規荷重の70%の荷重を縦荷重としてこのタイヤ2に負荷して、平面からなる路面にこのタイヤ2を接触させて得られる。このタイヤ2では、このようにして得られる接地面が基準接地面であり、この基準接地面の軸方向外端に対応する、トレッド4の外面上の位置が、前述の位置PHである。このタイヤ2では、この位置PHが基準接地端である。
【0054】
図2は、図1に示されたタイヤ2の一部を示す。図2において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の径方向である。図2の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の周方向である。
【0055】
図2には、子午線断面における、タイヤ2のショルダー部分の輪郭が示される。この図2に示される輪郭は、標準状態のタイヤ2の外面形状を変位センサーで計測することで得られる。
【0056】
子午線断面において、タイヤ2の外面(以下、タイヤ外面TS)の輪郭は、直線又は円弧からなる複数の輪郭線をつないで構成される。本開示において、直線又は円弧からなる輪郭線は単に輪郭線と称される。直線からなる輪郭線は直線輪郭線と称され、円弧からなる輪郭線は曲線輪郭線と称される。
【0057】
タイヤ外面TSは、トレッド面Tと、トレッド面Tの端に連なる一対のサイド面Sとを備える。子午線断面において、トレッド面Tの輪郭には、異なる半径を有する複数の曲線輪郭線が含まれる。このタイヤ2では、トレッド面Tの輪郭に含まれる複数の曲線輪郭線のうち、最小の半径を有する曲線輪郭線が、トレッド面Tの端の部分に位置し、サイド面Sに繋がる。子午線断面において、タイヤ外面TSの輪郭は、トレッド面Tの端の部分に、トレッド面Tの輪郭に含まれる複数の曲線輪郭線のうち、最小の半径を有する円弧からなり、サイド面Sに繋がる曲線輪郭線である曲線部を含む。図2には、この曲線部が符号RSで示される。
【0058】
タイヤ外面TSの輪郭において、曲線部RSは、その軸方向内側に隣接する輪郭線(以下、内側隣接輪郭線NT)と接点CTにおいて接する。この曲線部RSは、その軸方向外側に隣接するサイド面Sの輪郭を構成する輪郭線(以下、外側隣接輪郭線NS)と接点CSにおいて接する。このタイヤ外面TSの輪郭は、曲線部RSの軸方向内側に位置しこの曲線部RSに接する内側隣接輪郭線NTと、曲線部RSの軸方向外側に位置しこの曲線部RSに接する外側隣接輪郭線NSとを含む。
【0059】
図2において、実線LTは、内側隣接輪郭線NTと曲線部RSとの接点CTにおける、曲線部RSの接線である。実線LSは、外側隣接輪郭線NSと曲線部RSとの接点CSにおける、曲線部RSの接線である。符号PTで示される位置は、接線LTと接線LSとの交点である。このタイヤ2では、この交点PTが仮想トレッド端である。
【0060】
トレッド4のうち、一方の仮想トレッド端PTから他方の仮想トレッド端PTまでの部分が、タイヤ2の一般的な走行条件において、路面との接地が予定されている領域(以下、通常接地領域とも称される。)である。トレッド4の部分(以下、トレッド部とも称される。)の効果的な補強の観点から、前述のベルト14及びバンド16はこの通常接地領域に配置される。
【0061】
図1において、両矢印WTで示される長さはトレッド4の幅である。このトレッド4の幅は、一方の仮想トレッド端PTから他方の仮想トレッド端PTまでの軸方向距離である。両矢印WHで示される長さは、基準接地面の軸方向幅である。軸方向幅WHは、一方の基準接地端PHから他方の基準接地端PHまでの軸方向距離である。
【0062】
このタイヤ2では、トレッド4の幅WTの、断面幅WAに対する比率(WT/WA)は70%以上90%以下である。仮想トレッド端PTは、軸方向において、基準接地端PHの外側に位置する。言い換えれば、基準接地面の軸方向幅WHはトレッド4の幅WTよりも狭い。具体的には、軸方向幅WHの、トレッド4の幅WTに対する比率(WH/WT)は70%以上90%以下である。
【0063】
前述したように、このタイヤ2のトレッド4には3本の周方向溝26が刻まれる。このタイヤ2では、3本の周方向溝26の配置、溝深さ及び溝幅に特に制限はない。タイヤの周方向溝の配置、溝深さ及び溝幅として一般的な配置、溝深さ及び溝幅がこのトレッド4に適用される。
【0064】
このタイヤ2では、3本の周方向溝26のうち、軸方向において外側に位置する周方向溝26はショルダー周方向溝26sである。ショルダー周方向溝26sの内側に位置する周方向溝26はミドル周方向溝26mである。
【0065】
前述したように、このタイヤ2のトレッド4には4本の陸部28が構成される。4本の陸部28のうち、赤道面側に位置する陸部28がミドル陸部28mであり、ミドル陸部28mの外側に位置する陸部28がショルダー陸部28sである。
【0066】
ショルダー陸部28sは、軸方向においてショルダー周方向溝26sの外側に位置する陸部28である。このショルダー陸部28sには、基準接地端PHが含まれる。ミドル陸部28mは、軸方向において、ショルダー周方向溝26sの内側に位置する陸部28である。左右のミドル陸部28mの間が、ミドル周方向溝26mである。このタイヤ2では、ミドル周方向溝26mは赤道面上に位置する。このミドル周方向溝26mは、センター周方向溝とも称される。
【0067】
図3は、図1に示されたタイヤ2の一部を示す。図3には、タイヤ2のトレッド4部が示される。図3において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の径方向である。図3の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の周方向である。
【0068】
このタイヤ2のトレッド4は、キャップ層38、中間層40及びベース層42を備える。径方向において、中間層40がベース層42の外側に位置し、キャップ層38が中間層40の外側に位置する。図3に示されるように、キャップ層38が中間層40に積層され、中間層40がベース層42に積層される。
【0069】
図3において、符号PCで示される位置はキャップ層38の外端である。符号WCで示される長さはキャップ層38の軸方向幅である。軸方向幅WCは一方の外端PCから他方の外端PCまでの軸方向距離である。符号PMで示される位置は中間層40の外端である。符号WMで示される長さは中間層40の軸方向幅である。軸方向幅WMは一方の外端PMから他方の外端PMまでの軸方向距離である。符号PBで示される位置はベース層42の外端である。符号WBで示される長さはベース層42の軸方向幅である。軸方向幅WBは一方の外端PBから他方の外端PBまでの軸方向距離である。
【0070】
キャップ層38の外端PCは、軸方向において、中間層40の外端PMの内側に位置する。キャップ層38の外端PCは、軸方向において、ベース層42の外端PBの位置とほぼ同じ位置にある。このタイヤ2では、このキャップ層38の外端PCの位置は、ウェット性能と転がり抵抗とを考慮して、基準接地端PHと中間層40の外端PMとの間で適宜調整される。
【0071】
ベース層42の外端PBは、軸方向において、中間層40の外端PMの内側に位置する。このタイヤ2では、ベース層42の軸方向幅WBとトレッド4の幅WTとの差(WB-WT)は-10mm以上10mm以下である。言い換えれば、ベース層42の軸方向幅WBはトレッド4の幅WTとほぼ同等である。
【0072】
図3において、符号Pgで示される位置はショルダー陸部28sのショルダー周方向溝26s側の縁である。この縁Pgから仮想トレッド端PTまでの軸方向距離が、ショルダー陸部28sの軸方向幅である。符号Pmで示される位置は、トレッド4の外面上の位置であり、このショルダー陸部28sの軸方向幅の中心である。この中心Pmは、軸方向において基準接地端PHの内側に位置する。
【0073】
符号Tgで示される長さは、ショルダー陸部28sにおける、ショルダー周方向溝26s側でのキャップ層の厚さである。この厚さTgは、ショルダー陸部28sのショルダー周方向溝26s側の縁Pgを通り径方向に延びる直線に沿って計測される。キャップ層38と中間層40との境界の形状がショルダー周方向溝26sの形状に合わせて変化する場合は、縁Pgから仮想トレッド端PT側に1mm離れた、トレッド4の外面上の位置を通り径方向に延びる直線に沿って計測される厚さが、厚さTgとして用いられる。
【0074】
符号Tmで示される長さは、ショルダー陸部28sにおける、その軸方向幅の中心Pmでのキャップ層38の厚さである。この厚さTmは、ショルダー陸部28sの軸方向幅の中心Pmを通り径方向に延びる直線に沿って計測される。
【0075】
符号Peで示される位置は、仮想トレッド端PTを通り径方向に延びる直線とトレッド4の外面との交点である。この交点Peは、トレッド4の基準端とも称される。キャップ層の外端PCが軸方向において仮想トレッド端PTの外側に位置する場合、この基準端Peを通り径方向に延びる直線に沿って計測される、キャップ層38の厚さが、トレッド4の基準端Peでのキャップ層38の厚さTeとして表される。
【0076】
図3において、符号PSで示される位置は、タイヤ外面TSにおける、トレッド4の外端である。このタイヤ2では、このトレッド4の外端PSは、軸方向において、キャップ層38の外端PCの外側に位置する。タイヤ外面TSのうち、外端PCから外端PSまでの部分は、中間層40により構成される。このタイヤ2では、中間層40の一部がタイヤ外面TSに露出する。
【0077】
図3において、符号DSで示される長さはショルダー周方向溝26sの溝深さである。この溝深さDSは、このショルダー周方向溝の最大溝深さにより表される。図示されないが、ショルダー周方向溝26sの溝底にはウェアインジゲータのような突起物が設けられる。このタイヤ2では、溝深さDS(単位はmm)から1.6mm差し引いて得られる値が、ショルダー周方向溝の有効溝深さDSeとして用いられる。
【0078】
このタイヤ2では、キャップ層38、中間層40及びベース層42はそれぞれ、異なる発熱性を有する架橋ゴムからなる。このタイヤ2では、キャップ層38が最も発熱しやすく、ベース層42が最も発熱しにくい。中間層40は、キャップ層38の発熱性とベース層42の発熱性との間の発熱性を有する。このタイヤ2では、中間層40の30℃での損失正接LTmはキャップ層38の30℃での損失正接LTcよりも低い。ベース層42の30℃での損失正接LTbは中間層40の30℃での損失正接LTmよりも低い。
【0079】
ベース層42の30℃での損失正接LTbは、好ましくは0.11以下である。ベース層42が転がり抵抗の低減に効果的に寄与するからである。この観点から、損失正接LTbは0.10以下がより好ましく、0.09以下がさらに好ましい。ベース層42の損失正接LTbは小さいほど好ましいので、好ましい下限は設定されない。
【0080】
中間層40の30℃での損失正接Ltmは、好ましくは0.15以下である。中間層40が転がり抵抗の低減に効果的に寄与するからである。この観点から、損失正接Ltmは0.14以下がより好ましく、0.13以下がさらに好ましい。中間層40の30℃での損失正接Ltmは、好ましくは0.11以上である。中間層40が必要な剛性を確保でき、ウェット性能の向上に効果的に貢献できるからである。この観点から、損失正接LTmは0.12以上がより好ましい。
【0081】
キャップ層38の30℃での損失正接LTcは、好ましくは0.15以上である。キャップ層38がウェット性能の向上に貢献できるからである。この観点から、損失正接LTcは0.16以上がより好ましく、0.17以上がさらに好ましい。キャップ層38は路面に接地する。ウェット性能の向上の観点では、損失正接LTcは高いほど好ましい。しかし高い損失正接LTcは、発熱を招く。熱を帯びたキャップ層38が中間層40の温度を想定以上に高めることが懸念される。トレッド4全体の温度状態を安定に保ち、低い転がり抵抗が維持できる観点から、キャップ層38の30℃での損失正接LTcは0.30以下が好ましく、0.28以下がより好ましく、0.27以下がさらに好ましい。
【0082】
図4には、基準接地面の輪郭形状のモデルが示される。図4において、上下方向はタイヤ2の周方向に相当し、左右方向はタイヤ2の軸方向に相当する。図4の紙面に対して垂直な方向はこのタイヤ2の径方向に相当する。
【0083】
図4において、一点鎖線LPは、基準接地面における、タイヤ2の赤道PEに対応する直線である。基準接地面において赤道PEの特定が困難な場合は、この基準接地面の軸方向中心線がこの赤道PEに対応する直線として用いられる。両矢印P100は、直線LPを含む平面と基準接地面との交線の長さである。このタイヤ2では、この交線の長さP100が、基準接地面において、赤道PEに沿って計測される赤道接地長である。
【0084】
図4において、実線LMは、基準接地面の基準接地端PHを通り、直線LPに平行な直線である。実線L80は、直線LMと直線LPとの間に位置し、直線LM及び直線LPに平行な直線である。両矢印A100は、直線LPから直線LMまでの軸方向距離を表す。この距離A100は基準接地面の最大接地幅の半分に相当する。両矢印A80は、直線LPから直線L80までの軸方向距離を表す。このタイヤ2では、距離A80の距離A100に対する比率は80%に設定される。つまり、直線L80は、基準接地面の最大接地幅の80%の幅に相当する位置を表す。両矢印P80は、直線L80を含む平面と基準接地面との交線の長さである。このタイヤ2では、この交線の長さP80が、基準接地面において、最大接地幅の80%の幅に相当する位置における基準接地長である。
【0085】
このタイヤ2では、基準接地面において特定される、赤道接地長P100及び基準接地長P80を用いて表される、赤道接地長P100の、基準接地長P80に対する比(P100/P80)が、基準接地面の輪郭形状の形状指数として用いられる。この形状指数は、値が大きいほど基準接地面が丸みを帯びた輪郭を有することを表す。
【0086】
前述したように、トレッド面Tの輪郭は直線又は円弧からなる複数の輪郭線をつないで構成される。詳述しないが、基準接地面の形状指数Fは、トレッド面Tの輪郭を構成する輪郭線の仕様(例えば、直線輪郭線の長さ並びに曲線輪郭線の半径及び長さ)を調整することでコントロールされる。
【0087】
このタイヤ2では、基準接地面の形状指数は1.20以上1.50以下である。このタイヤ2では、ショルダー陸部28s全体が一様に摩耗するのではなく、その一部が摩耗する傾向にある。このタイヤ2では、トレッド4の端の部分の中でも、特に、サイドウォール6側の部分がほとんど摩耗しないので、使用によりタイヤ2が摩耗しても、ショルダー陸部28sの軸方向外側部分においてキャップ層38が残存することが懸念される。
【0088】
このタイヤ2では、ミドル陸部28mにおけるキャップ層38は全体として概ね一様な厚さを有する。これに対して、ショルダー陸部28sのキャップ層38は、そのショルダー周方向溝26s側ではミドル陸部28mにおけるキャップ層38の厚さと同等であるが、ショルダー周方向溝26s側から軸方向外側に向かってこのキャップ層38の厚さは漸減する。このショルダー陸部28sにおいて、軸方向幅の中心Pmでのキャップ層38の厚さTmは、ショルダー周方向溝26s側でのキャップ層38の厚さTgsよりも薄い。
【0089】
このタイヤ2では、ショルダー陸部28sの軸方向外側部分において、摩耗せずにキャップ層38が残存することが防止される。言い換えれば、ショルダー陸部28sの基準接地端PH付近に必要な厚さのキャップ層38が設けられる。このタイヤ2では、従来タイヤにおいて、キャップ層38が設けられていた部分の一部が、このキャップ層38よりも発熱しにくい中間層40に置き換えられる。このタイヤ2は、必要なウェット性能を確保しながら、転がり抵抗の低減を達成できる。
【0090】
前述したように、このタイヤ2では、基準接地面の形状指数は1.20以上1.50以下である。例えば、赤道接地長P100が同じであれば、大きな形状指数を有する基準接地面の基準接地長P80は、小さな形状指数を有する基準接地面の基準接地長P80に比べて短い。
【0091】
形状指数が大きいほど基準接地長P80は短いので、形状指数が大きいタイヤ2ほど基準接地面の基準接地端PH付近の接地圧は高まる。高い接地圧は摩耗を促すので、基準接地面の形状指数が大きい場合、ショルダー陸部28sの軸方向幅の中心Pmにおけるキャップ層38の厚さTmを厚くすることで、このタイヤ2は良好なウェット性能を確保することができる。逆に、基準接地面の形状指数が小さい場合には、ショルダー陸部28sでは、摩耗が進行しにくいので、キャップ層38の厚さTmを薄くすることで、このタイヤ2は転がり抵抗のさらなる低減を図ることができる。
【0092】
このタイヤ2では、ウェット性能の確保と転がり抵抗の低減との観点から、ショルダー陸部28sの軸方向幅の中心Pmでのキャップ層38の厚さTmの、ショルダー周方向溝26sの有効溝深さDSeに対する比率(Tm/DSe)は15%以上35%以下が好ましい。特に、このタイヤ2では、基準接地面の形状指数に応じて、必要な位置に必要な厚さのキャップ層38をショルダー陸部28sに効果的に構成できる観点から、形状指数をF、比率(Tm/DSe)をRm(単位:%)としたとき、この比率Rmが次の式(1)及び(2)を充足するのがより好ましい。
Rm≦33.333×F-18 (1)
Rm≧33.333×F-22 (2)
【0093】
このタイヤ2では、ウェット性能の確保と転がり抵抗の低減との観点から、比率Rmは次の式(3)を充足するのがさらに好ましい。
Rm=33.333×F-20 (3)
【0094】
図5には、形状指数Fと、ショルダー陸部28sの軸方向幅の中心Pmでのキャップ層38の厚さTmの、ショルダー周方向溝26sの有効溝深さに対する比率Rm(以下、キャップ層38の厚さ比率Rm)との関係がプロットされる。この図2において、横軸は形状指数Fを表し、縦軸はキャップ層の厚さ比率Rmを表す。
【0095】
図5において、符号Yで示される領域は、前述の式(1)及び(2)を充足するタイヤ2によって構成される領域である。この領域Yに含まれるタイヤ2では、基準接地面の形状指数Fが大きい場合、ショルダー陸部28の軸方向幅の中心Pmにおけるキャップ層38の厚さTmは厚く、逆に、基準接地面の形状指数Fが小さい場合、キャップ層38の厚さTmは薄い。このタイヤ2では、基準接地面の形状指数Fに応じて、必要な位置に必要な厚さのキャップ層38をショルダー陸部28sに効果的に構成できる。このタイヤ2は良好なウェット性能を効果的に確保することができるとともに、転がり抵抗のさらなる低減を図ることができる。
【0096】
このタイヤ2では、ショルダー陸部28sにおいて、ショルダー周方向溝26s側でのキャップ層38の厚さTgの、ショルダー周方向溝26sの有効溝深さDSeに対する比率(Tg/DSe)は好ましくは40%以上60%以下である。
【0097】
比率(Tg/DSe)が40%以上に設定されることにより、キャップ層38が良好なウェット性能の確保に貢献できる。この観点から、比率(Tg/DSe)は45%以上がより好ましい。
【0098】
比率(Tg/DSe)が60%以下に設定されることにより、キャップ層38による転がり抵抗への影響が抑えられる。この観点から、比率(Tg/DSe)は55%以下がより好ましい。
【0099】
前述したように、ミドル陸部28mにおけるキャップ層38は全体として概ね一様な厚さを有する。ミドル陸部28mの幅方向中心でのキャップ層の厚さを、このミドル陸部28mの厚さTMとしたとき、このタイヤ2では、良好なウェット性能の確保と、転がり抵抗の低減との観点から、ミドル陸部28mにおけるキャップ層38の厚さTMの、ショルダー周方向溝26sの有効溝深さDSeに対する比率(TM/DSe)は好ましくは40%以上60%以下である。
【0100】
比率(TM/DSe)が40%以上に設定されることにより、キャップ層38が良好なウェット性能の確保に貢献できる。この観点から、比率(Tg/DSe)は45%以上がより好ましい。
【0101】
比率(TM/DSe)が60%以下に設定されることにより、キャップ層38による転がり抵抗への影響が抑えられる。この観点から、比率(Tg/DSe)は55%以下がより好ましい。
【0102】
このタイヤ2では、ウェット性能の発揮にキャップ層38が効果的に貢献できる観点から、キャップ層38の軸方向幅WCの、タイヤ2の断面幅WAに対する比率(WC/WA)は70%以上が好ましく、75%以上がより好ましい。キャップ層38による転がり抵抗への影響が効果的に抑えられる観点から、この比率(WC/WA)は90%以下が好ましく、85%以下がより好ましい。
【0103】
制動時においてタイヤ2には、大きな荷重が作用する。これにより、タイヤ2の接地幅が広がる傾向にある。このタイヤ2では、キャップ層38の外端PCは軸方向において基準接地端PHの外側に位置する。制動時においても、キャップ層38が路面と十分に接地できる。このタイヤ2では、良好なウェット性能が得られる。この観点から、軸方向において、キャップ層38の外端PCは基準接地端PHの外側に位置するのが好ましい。
【0104】
このタイヤ2では、キャップ層38による転がり抵抗への影響が抑えられる観点から、好ましくは、キャップ層38の軸方向幅WCは中間層40の軸方向幅WMと同等以下である。転がり抵抗のさらなる低減を図ることができる観点から、キャップ層38は中間層40よりも幅狭であるのがより好ましい。
【0105】
前述したように、このタイヤ2では、キャップ層38の外端PCは、軸方向において、ベース層42の外端PBの位置とほぼ同じ位置にある。中間層40の外端PMは、軸方向において、キャップ層38の外端PCの外側に位置する。限界走行時におけるベース層42の露出防止に中間層40が効果的に貢献できる観点から、中間層40の軸方向幅WMとキャップ層38の軸方向幅WCとの差(WM-WC)は10mm以上が好ましい。転がり抵抗の低減の観点から、この差(WM-WC)は30mm以下が好ましく、20mm以下がより好ましく、10mm以下がさらに好ましい。このタイヤ2では、ベース層42の露出を防止しながら、転がり抵抗を効果的に低減できる観点から、この差(WM-WC)は10mmであるのが特に好ましい。
【0106】
このタイヤ2では、好ましくは、キャップ層38の軸方向幅WCとトレッド4の幅WTとの差(WC-WT)は-10mm以上10mm以下である。言い換えれば、キャップ層38の軸方向幅WCはトレッド4の幅WTとほぼ同等であるのが好ましい。これにより、直進走行時だけでなく、大きな荷重が作用する制動時においても、キャップ層38が路面と十分に接地できる。このタイヤ2では、良好なウェット性能が得られる。この観点から、この差(WC-WT)は-5mm以上が好ましく、5mm以下が好ましい。
【0107】
このタイヤ2では、トレッド4のうち、キャップ層38及び中間層40からなる部分が、キャップ層及びベース層からなる従来タイヤのトレッドのキャップ層に相当する。トレッド4がウェット性能の向上と転がり抵抗の低減とに効果的に貢献できる観点から、30℃でのキャップ層38の損失正接LTcの、30℃での中間層40の損失正接LTmに対する比率(Ltc/Ltm)は110%以上250%以下が好ましい。この比率(Ltc/Ltm)は、130%以上がより好ましく、150%以上がさらに好ましい。この比率(Ltc/Ltm)は240%以下がより好ましく、230%以下がさらに好ましい。
【0108】
以上説明したように、本発明によれば、必要なウェット性能を確保しながら、転がり抵抗の低減を達成できるタイヤが得られる。
【実施例0109】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0110】
[実験1]
[実施例1]
図1に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤサイズ=205/55R16)を得た。
【0111】
キャップ層、中間層及びベース層を備え、図3に示された構成を有するトレッドが使用された。キャップ層の30℃での損失正接LTcは0.27であった。中間層の30℃での損失正接LTmは0.12であった。ベース層の30℃での損失正接LTbは0.10であった。
【0112】
キャップ層の軸方向幅WCとトレッドの幅WTとの差(WC-WT)は0mmであった。ベース層の軸方向幅WBとトレッドの幅WTとの差(WB-WT)は0mmであった。中間層の軸方向幅WMとベース層の軸方向幅WBとの差(WM-WB)は10mmであった。
【0113】
ショルダー陸部において、ショルダー周方向溝側でのキャップ層の厚さTgの、ショルダー周方向溝の有効溝深さDSeに対する比率Rgは50%であった。軸方向幅の中心でのキャップ層の厚さTmの、ショルダー周方向溝の有効溝深さDSeに対する比率Rmは30%であった。キャップ層の軸方向幅WCとトレッドの幅WTとが同等であり、トレッドの基準端Peでのキャップ層の厚さTeの、ショルダー周方向溝の有効溝深さDSeに対する比率Reは0%であった。
【0114】
[比較例1]
比率Rm、比率Re及び差(WC-WT)を下記の表1に示される通りにした他は実施例1と同様にして、比較例1のタイヤを得た。この比較例1のトレッドの構成が図6に示される。
【0115】
[実施例2]
比率Re及び差(WC-WT)を下記の表1に示される通りにした他は実施例1と同様にして、実施例2のタイヤを得た。
【0116】
[実施例3]
比率Rmを下記の表1に示される通りにした他は実施例1と同様にして、実施例3のタイヤを得た。
【0117】
[転がり抵抗係数(RRC)]
転がり抵抗試験機を用い、試作タイヤが下記の条件でドラム上を速度80km/hで走行するときの転がり抵抗係数(RRC)を測定した。その結果が比較例1を100とした指数で下記の表1に示されている。数値が小さいほど、タイヤの転がり抵抗は低い。
リム:16×6.5J
内圧:210kPa
縦荷重:4.82kN
【0118】
[新品タイヤのウェット性能(WET)]
新品の試作タイヤをリム(サイズ=16×6.5J)に組み、空気を充填してタイヤの内圧を230kPaに調整した。タイヤを試験車両(乗用車)に装着した。ウェット路面(水膜厚=1.4mm)のテストコースで試験車両を走行させた。試験車両が100km/hの速度で走行している状態でブレーキをかけ、ブレーキをかけてから停止するまでの走行距離(制動距離)を測定した。その結果が比較例1を100とした指数で下記の表1の「NEW」の欄に示されている。数値が大きいほど、制動距離は短く、タイヤはウェット性能に優れる。この評価では、指数が95以上であれば、良好なウェット性能が確保されているとして許容される。
【0119】
[摩耗タイヤのウェット性能(WET)]
新品の試作タイヤをリム(サイズ=16×6.5J)に組み、空気を充填してタイヤの内圧を230kPaに調整した。タイヤを試験車両(乗用車)に装着した。ドライアスファルト路面のテストコースで試験車両を走行させてタイヤを摩耗させた。有効溝深さが新品タイヤの有効溝深さの50%に到達した時点で、前述の新品タイヤのウェット性能と同様にして、摩耗タイヤのウェット性能を評価した。その結果が比較例1を100とした指数で下記の表1の「OLD」の欄に示されている。数値が大きいほど、制動距離は短く、タイヤはウェット性能に優れる。この評価では、指数が95以上であれば、タイヤは良好なウェット性能を維持しているとして許容される。
【0120】
[総合評価]
各評価において得た指数に基づいて総合評価を行った。この総合評価では、転がり抵抗係数については数値が小さいほど好ましいので、100から指数を差し引いた値を評価値として求めた。新品タイヤ及び摩耗タイヤのウェット性能については、数値が大きいほど好ましいので、指数から100を差し引いた値を評価値として求めた。各評価値の合計を算出し、この合計に基づいて総合評価を行った。その結果が、下記の表1の「総合評価」の欄に示されている。この数値が大きいほど、好ましい。
【0121】
【表1】
【0122】
[実験2]
[実施例4-5及び比較例2]
トレッド面の輪郭を構成する輪郭線の仕様を調整して形状指数Fを下記の表2に示される通りとし、比率Tg、比率Rm、比率Re及び差(WC-WT)をこの表2に示される通りにした他は実施例1と同様にして、実施例4-5及び比較例2のタイヤを得た。
【0123】
[転がり抵抗係数(RRC)]
実験1と同様にして、転がり抵抗係数(RRC)を測定した。その結果が比較例2を100とした指数で下記の表2に示されている。数値が小さいほど、タイヤの転がり抵抗は低い。
【0124】
[新品タイヤのウェット性能(WET)]
実験1と同様にして、新品タイヤのウェット性能を評価した。その結果が比較例2を100とした指数で下記の表2の「NEW」の欄に示されている。数値が大きいほど、制動距離は短く、タイヤはウェット性能に優れる。この評価では、指数が95以上であれば、良好なウェット性能が確保されているとして許容される。
【0125】
[摩耗タイヤのウェット性能(WET)]
実験1と同様にして、摩耗タイヤのウェット性能を評価した。その結果が比較例2を100とした指数で下記の表2の「OLD」の欄に示されている。数値が大きいほど、制動距離は短く、タイヤはウェット性能に優れる。この評価では、指数が95以上であれば、タイヤは良好なウェット性能を維持しているとして許容される。
【0126】
[総合評価]
実験1と同様にして、各評価において得た指数に基づいて総合評価を行った。その結果が、下記の表2の「総合評価」の欄に示されている。この数値が大きいほど、好ましい。
【0127】
【表2】
【0128】
[実験3]
[実施例6-7及び比較例3]
トレッド面の輪郭を構成する輪郭線の仕様を調整して形状指数Fを下記の表3に示される通りとし、比率Tg、比率Rm、比率Re及び差(WC-WT)をこの表2に示される通りにした他は実施例1と同様にして、実施例6-7及び比較例3のタイヤを得た。実施例7では、軸方向においてキャップ層の外端が仮想トレッド端PTの内側に位置するため、差(WC-WT)が負の数で表されている。
【0129】
[転がり抵抗係数(RRC)]
実験1と同様にして、転がり抵抗係数(RRC)を測定した。その結果が比較例3を100とした指数で下記の表3に示されている。数値が小さいほど、タイヤの転がり抵抗は低い。
【0130】
[新品タイヤのウェット性能(WET)]
実験1と同様にして、新品タイヤのウェット性能を評価した。その結果が比較例3を100とした指数で下記の表3の「NEW」の欄に示されている。数値が大きいほど、制動距離は短く、タイヤはウェット性能に優れる。この評価では、指数が95以上であれば、良好なウェット性能が確保されているとして許容される。
【0131】
[摩耗タイヤのウェット性能(WET)]
実験1と同様にして、摩耗タイヤのウェット性能を評価した。その結果が比較例3を100とした指数で下記の表3の「OLD」の欄に示されている。数値が大きいほど、制動距離は短く、タイヤはウェット性能に優れる。この評価では、指数が95以上であれば、タイヤは良好なウェット性能を維持しているとして許容される。
【0132】
[総合評価]
実験1と同様にして、各評価において得た指数に基づいて総合評価を行った。その結果が、下記の表3の「総合評価」の欄に示されている。この数値が大きいほど、好ましい。
【0133】
【表3】
【0134】
表1-3に示されるように、実施例では、必要なウェット性能を確保しながら、転がり抵抗の低減を達成できることが確認されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0135】
以上説明された、必要なウェット性能を確保しながら、転がり抵抗の低減を達成できる技術は種々のタイヤにも適用されうる。
【符号の説明】
【0136】
2・・・タイヤ
4・・・トレッド
6・・・サイドウォール
12・・・カーカス
14・・・ベルト
16・・・バンド
26、26s、26m・・・周方向溝
28、28s、28m・・・陸部
34、34a、34b・・・カーカスプライ
36、36a、36b・・・層
38・・・キャップ層
40・・・中間層
42・・・ベース層
図1
図2
図3
図4
図5
図6