(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103918
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】樹脂シート表面処理方法及び樹脂シート表面処理装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/02 20060101AFI20220701BHJP
C25D 5/56 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
C23C14/02 A
C25D5/56 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218834
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】393006425
【氏名又は名称】ロック技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】河添 昭造
【テーマコード(参考)】
4K024
4K029
【Fターム(参考)】
4K024AA09
4K024AB15
4K024BA12
4K024DA10
4K024GA01
4K024GA16
4K029AA11
4K029AA25
4K029BA08
4K029DC39
4K029FA05
(57)【要約】
【課題】樹脂シートの接着面の表面を粗らすことなく、接着面に官能基を生成することができ、成膜工程における薄膜の接着面への密着力を高めることができる樹脂シート表面処理方法を提供すること。
【解決手段】本発明の樹脂シート表面処理方法は、樹脂シート3の表面に薄膜を接着させる成膜工程の前に、薄膜を接着させる樹脂シート3の接着面に対する表面処理工程を行い、電極2を配置した真空室1内に、不活性ガス10を導入し、樹脂シート3を接地電位とし、マイナス電位を周期的に与える高周波電源6によって電極2に印加することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂シートの表面に薄膜を接着させる成膜工程の前に、前記薄膜を接着させる前記樹脂シートの接着面に対する表面処理工程を行う樹脂シート表面処理方法であって、
電極を配置した真空室内に、不活性ガスを導入し、
前記樹脂シートを接地電位とし、
マイナス電位を周期的に与える高周波電源によって前記電極に印加する
ことを特徴とする樹脂シート表面処理方法。
【請求項2】
前記電極として板状電極を用い、
前記板状電極を難エッチング材とした
ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂シート表面処理方法。
【請求項3】
前記真空室内を0.1Pa以上10Pa以下とする
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の樹脂シート表面処理方法。
【請求項4】
前記樹脂シートをポリイミドシートとし、前記薄膜を銅薄膜とする
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の樹脂シート表面処理方法。
【請求項5】
前記表面処理工程によって、前記接着面にN-C=0結合基を32×10-3%/Area以上生成する
ことを特徴とする請求項4に記載の樹脂シート表面処理方法。
【請求項6】
前記表面処理工程によって、前記接着面に前記N-C=0結合基とC-O基とを64×10-3%/Area以上生成する
ことを特徴とする請求項5に記載の樹脂シート表面処理方法。
【請求項7】
前記樹脂シートをポリテトラフルオロエチレンシートとし、前記薄膜を銅薄膜とする
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の樹脂シート表面処理方法。
【請求項8】
前記不活性ガスをN2とし、
前記真空室内に、前記N2とともにH20を導入する
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の樹脂シート表面処理方法。
【請求項9】
真空室内に電極を配置し、前記真空室内に不活性ガスを導入して、樹脂シートの接着面に対して表面処理を行う樹脂シート表面処理装置であって、
前記樹脂シートを接地電位とし、
マイナス電位を周期的に与える高周波電源によって前記電極に印加する
ことを特徴とする樹脂シート表面処理装置。
【請求項10】
前記電極として板状電極を用い、
前記板状電極を難エッチング材とした
ことを特徴とする請求項9に記載の樹脂シート表面処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シートの表面に薄膜を接着させる成膜工程の前に、薄膜を接着させる樹脂シートの接着面に対する表面処理工程を行う樹脂シート表面処理方法、及び真空室内に電極を配置し、真空室内に不活性ガスを導入して、樹脂シートの接着面に対して表面処理を行う樹脂シート表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、接着前にプラズマ(ないしイオン)の発生ユニットにより、導入されたガスをプラズマ(ないしイオン)化して1000~500,000Vの電圧で加速し、アース電位に保持された金属ロール上の樹脂シートに向けて照射処理を行うことが開示されている。このように、特許文献1では、高エネルギープラズマ(ないしイオン)による短時間且つ直前の処理により得られた過渡的活性化状態が、樹脂シートの劣化を招かずに、その直後に行われる接着により形成される薄膜の樹脂シートへの密着強度の著しい改善ができるとしている。
特許文献2には、樹脂層表面に銅膜を生成する前段階で、樹脂層表面を窒素プラズマ処理することで、樹脂層表面の平滑性を保ったまま、密着性を向上させる表面処理が開示されている。
また、イオン化された窒素ガスを用いて樹脂フィルムを表面処理する技術は、特許文献3から特許文献5にも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-71985号公報
【特許文献2】特開2004-162098号公報
【特許文献3】特開2005-199544号公報
【特許文献4】特開2004-31370号公報
【特許文献5】特開2005-54259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、高エネルギープラズマ(ないしイオン)を樹脂シートに照射するため、樹脂シートの表面粗さが増加する。
また、特許文献2においても、樹脂層を積層した基板を電極に設置しており、この電極にはマイナス電位を印加しているため、プラズマ化された窒素イオンが樹脂層に照射されるため、特許文献1と同様に樹脂層の表面粗さは増加する。
また、特許文献3から特許文献5においても、イオン化された窒素ガスを樹脂フィルムの表面に照射している。
このように、イオン化された窒素ガスを樹脂フィルムの表面に照射する従来の装置を
図7に示す。
図7は従来の樹脂シート表面処理装置を示す構成図である。
従来の樹脂シート表面処理装置は、真空室1内に板状電極2を配置し、真空室1内に不活性ガス10を導入して、樹脂シート3の接着面に対して表面処理を行う。
樹脂シート3は、ロール4によって所定速度で移動する。ロール4は、マッチングボックス5を介して高周波電源(Rf電源)6に接続されている。高周波電源6は、マイナス電位を周期的にロール4に与える。マッチングボックス5とロール4とをつなぐケーブルは、絶縁部材7により真空室1を形成するチャンバーと電気的に絶縁されている。
板状電極2は、接地電極に接続されている。従って、板状電極2は接地電位(0V)となる。
このような従来の樹脂シート表面処理装置によれば、マイナス電位の印加時には、プラズマ化された不活性ガス10は高運動エネルギーE
2で樹脂シート3の接着面に向かうため、樹脂シート3の接着面の表面にダメージを与え、樹脂シート3の接着面の表面を粗らしてしまう。
【0005】
そこで本発明は、樹脂シートの接着面の表面を粗らすことなく、接着面に官能基を生成することができ、成膜工程における薄膜の接着面への密着力を高めることができる樹脂シート表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の樹脂シート表面処理方法は、樹脂シート3の表面に薄膜を接着させる成膜工程の前に、前記薄膜を接着させる前記樹脂シート3の接着面に対する表面処理工程を行う樹脂シート表面処理方法であって、電極2を配置した真空室1内に、不活性ガス10を導入し、前記樹脂シート3を接地電位とし、マイナス電位を周期的に与える高周波電源6によって前記電極2に印加することを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の樹脂シート表面処理方法において、前記電極2として板状電極2を用い、前記板状電極2を難エッチング材としたことを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の樹脂シート表面処理方法において、前記真空室1内を0.1Pa以上10Pa以下とすることを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の樹脂シート表面処理方法において、前記樹脂シート3をポリイミドシートとし、前記薄膜を銅薄膜とすることを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項4に記載の樹脂シート表面処理方法において、前記表面処理工程によって、前記接着面にN-C=0結合基を32×10-3%/Area以上生成することを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項5に記載の樹脂シート表面処理方法において、前記表面処理工程によって、前記接着面に前記N-C=0結合基とC-O基とを64×10-3%/Area以上生成することを特徴とする。
請求項7記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の樹脂シート表面処理方法において、前記樹脂シート3をポリテトラフルオロエチレンシートとし、前記薄膜を銅薄膜とすることを特徴とする。
請求項8記載の本発明は、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の樹脂シート表面処理方法において、前記不活性ガス10をN2とし、前記真空室1内に、前記N2とともにH20を導入することを特徴とする。
請求項9記載の本発明の樹脂シート表面処理装置は、真空室1内に電極2を配置し、前記真空室1内に不活性ガス10を導入して、樹脂シート3の接着面に対して表面処理を行う樹脂シート表面処理装置であって、前記樹脂シート3を接地電位とし、マイナス電位を周期的に与える高周波電源6によって前記電極2に印加することを特徴とする。
請求項10記載の本発明は、請求項9に記載の樹脂シート表面処理装置において、前記電極2として板状電極2を用い、前記板状電極2を難エッチング材としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂シート表面処理方法によれば、マイナス電位の印加時には、プラズマ化された不活性ガスは高運動エネルギーで電極に向かい、樹脂シートの接着面には、マイナス電位の非印加時に、プラズマ化された不活性ガスが低運動エネルギーで作用するため、樹脂シートの接着面の表面を粗らすことなく、接着面に官能基を生成することができ、成膜工程における薄膜の接着面への密着力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例による樹脂シート表面処理装置を示す構成図
【
図2】樹脂シートとしてポリイミド(PI)シートを用いた場合の表面処理結果を示す図
【
図3】樹脂シートとしてポリイミドシートを用い、プラズマ処理量Q[kW/Fs]を変更した場合の成膜の評価結果を示す図
【
図4】樹脂シートとしてポリイミドシートを用い、プラズマ処理量Q[kW/Fs]を一定とし、導入ガスを変更した場合の成膜の評価結果を示す図
【
図5】樹脂シートとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを用い、プラズマ処理量Q[kW/Fs]を一定とし、導入ガスを変更した場合の成膜の評価結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態による樹脂シート表面処理方法は、電極を配置した真空室内に、不活性ガスを導入し、樹脂シートを接地電位とし、マイナス電位を周期的に与える高周波電源によって電極に印加するものである。本実施の形態によれば、マイナス電位の印加時には、プラズマ化された不活性ガスは高運動エネルギーで電極に向かい、樹脂シートの接着面には、マイナス電位の非印加時に、プラズマ化された不活性ガスが低運動エネルギーで作用するため、樹脂シートの接着面の表面を粗らすことなく、接着面に官能基を生成することができ、成膜工程における薄膜の接着面への密着力を高めることができる。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による樹脂シート表面処理方法において、電極として板状電極を用い、板状電極を難エッチング材としたものである。本実施の形態によれば、板状電極を難エッチング材とすることで、電極から飛び出す物質による樹脂シートの接着面への影響を防ぐことができる。
【0011】
本発明の第3の実施の形態は、第1又は第2の実施の形態による樹脂シート表面処理方法において、真空室内を0.1Pa以上10Pa以下とするものである。本実施の形態によれば、10Pa以下の真空度とすることで、不活性ガスの運動エネルギーを調整しやすくなる。
【0012】
本発明の第4の実施の形態は、第1から第3のいずれかの実施の形態による樹脂シート表面処理方法において、樹脂シートをポリイミドシートとし、薄膜を銅薄膜とするものである。本実施の形態によれば、ポリイミドシートの表面粗さの平滑性を保ったまま、銅薄膜を強固に密着させることができるとともに、平滑性のある銅薄膜を形成できるため、銅薄膜の薄膜表面抵抗値を小さくでき、銅薄膜の高周波による電力損失を少なくすることができる。更に、銅薄膜を形成した樹脂シートをパターンエッチングする場合には、エッチングによる端面が平滑であるため、微細なパターンを形成でき、パターン精度を高めることができる。
【0013】
本発明の第5の実施の形態は、第4の実施の形態による樹脂シート表面処理方法において、表面処理工程によって、接着面にN-C=0結合基を32×10-3%/Area以上生成するものである。本実施の形態によれば、樹脂シートに形成する蒸着膜が樹脂シートから剥離する凝集剥離に至るレベルまで銅薄膜の密着力を高めることができる。
【0014】
本発明の第6の実施の形態は、第5の実施の形態による樹脂シート表面処理方法において、表面処理工程によって、接着面にN-C=0結合基とC-O基とを64×10-3%/Area以上生成するものである。本実施の形態によれば、樹脂シートに形成する蒸着膜が樹脂シートから剥離する凝集剥離に至るレベルまで銅薄膜の密着力を高めることができる。
【0015】
本発明の第7の実施の形態は、第1から第3のいずれかの実施の形態による樹脂シート表面処理方法において、樹樹脂シートをポリテトラフルオロエチレンシートとし、薄膜を銅薄膜とするものである。本実施の形態によれば、ポリテトラフルオロエチレンシートの表面粗さの平滑性を保ったまま、銅薄膜を強固に密着させることができるとともに、平滑性のある銅薄膜を形成できるため、銅薄膜の薄膜表面抵抗値を小さくでき、銅薄膜の高周波による電力損失を少なくすることができる。更に、銅薄膜を形成した樹脂シートをパターンエッチングする場合には、エッチングによる端面が平滑であるため、微細なパターンを形成でき、パターン精度を高めることができる。
【0016】
本発明の第8の実施の形態は、第1から第7のいずれかの実施の形態による樹脂シート表面処理方法において、不活性ガスをN2とし、真空室内に、N2とともにH20を導入するものである。本実施の形態によれば、樹脂シートの表面粗さの平滑性を保ち、薄膜を強固に密着させることができる。
【0017】
本発明の第9の実施の形態による樹脂シート表面処理装置は、樹脂シートを接地電位とし、マイナス電位を周期的に与える高周波電源によって電極に印加するものである。本実施の形態によれば、マイナス電位の印加時には、プラズマ化された不活性ガスは高運動エネルギーで電極に向かい、樹脂シートの接着面には、マイナス電位の非印加時に、プラズマ化された不活性ガスが低運動エネルギーで作用するため、樹脂シートの接着面の表面にダメージを与えることなく、接着面に官能基を生成することができ、成膜工程における薄膜の接着面への密着力を高めることができる。
【0018】
本発明の第10の実施の形態は、第9の実施の形態による樹脂シート表面処理装置において、電極として板状電極を用い、板状電極を難エッチング材としたものである。本実施の形態によれば、板状電極を難エッチング材とすることで、電極から飛び出す物質による樹脂シートの接着面への影響を防ぐことができる。
【実施例0019】
以下本発明の実施例による樹脂シート表面処理装置について説明する。
図1は本実施例による樹脂シート表面処理装置を示す構成図である。
本実施例による樹脂シート表面処理装置は、真空室1内に電極2を配置し、真空室1内に不活性ガス10を導入して、樹脂シート3の接着面に対して表面処理を行う。
薄膜を接着させる樹脂シート3の接着面に対する表面処理工程は、樹脂シート3の表面に薄膜を接着させる成膜工程の前に行う。
樹脂シート3は、ロール4によって所定速度で移動する。ロール4は接地電極に接続されている。従って、樹脂シート3はロール4を介して接地電位(0V)となる。
電極2は、マッチングボックス5を介して高周波電源(Rf電源)6に接続されている。
高周波電源6は、マイナス電位を周期的に電極2に与える。例えば、高周波電源6は、マイナス160Vと0Vとの間で電極2に印加する。高周波電源6の印加出力は、3kWから10kWとする。
なお、マッチングボックス5と電極2とをつなぐケーブルは、絶縁部材7により真空室1を形成するチャンバーと電気的に絶縁されている。
【0020】
本実施例による樹脂シート表面処理装置によれば、マイナス電位の印加時には、プラズマ化された不活性ガス10は高運動エネルギーE2で電極2に向かい、樹脂シート3の接着面には、マイナス電位の非印加時に、プラズマ化された不活性ガス10が低運動エネルギーE1で作用するため、樹脂シート3の接着面の表面にダメージを与えることなく、接着面に官能基を生成することができ、成膜工程における薄膜の接着面への密着力を高めることができる。
電極2には、板状電極2を用い、板状電極2を難エッチング材とすることが好ましい。板状電極2を難エッチング材とすることで、電極2から飛び出す物質による接着面への影響を防ぐことができる。難エッチング材としては、例えばタングステン、ジルコニウム、モリブテン、又はタンタルを用いることができる。なお、電極2としてマグネトロン電極を用いることで電子をトラップするため、樹脂シート3の温度上昇を防ぐことができる。
真空室1内は、10Pa以下とすることが好ましい。10Pa以下の真空度とすることで、不活性ガス10の運動エネルギーを調整しやすくなる。
【0021】
図2は、樹脂シートとしてポリイミド(PI)シートを用いた場合の表面処理結果を示し、プラズマ処理量Q[kW/Fs]とX線光電子分光分析法(XPS)の解析結果である。
高周波電源6の印加出力を3kW、真空室1内を1.0Paとした。不活性ガス10をN
2とし、真空室1内に、N
2とともにH
20を導入した。
Fsは樹脂シート3の移動速度であり、単位スピード当たりの処理量Q[kW/Fs]を、実施例1では0.45[kW/Fs]、実施例2では0.65[kW/Fs]、実施例3では0.75[kW/Fs]、実施例4では1.50[kW/Fs]とした。比較例1は本発明による表面処理を行っていない。
各実施例について表面処理を行った後に、スパッタ法で成膜し、更に湿式電解メッキ処理で厚さが25μmの銅薄膜を形成した。F
90[N/2mm]は、樹脂シート3の接着面に対して90度の方向に銅薄膜を引っ張った時の力であり、幅2mm当たりの引張力[N]であり、樹脂シート3に対する銅薄膜の密着力を示している。なお、F
90[N/2mm]が2[N/2mm]を超えると、樹脂シート3に形成する蒸着膜が樹脂シート3から剥離する凝集剥離が発生し始める。
N-C=0結合基は、比較例1では14.8×10
-3%/Areaであるのに対して、実施例1から実施例4では32×10
-3%/Area以上生成され、C-O基は、比較例1に対して実施例1から実施例4では減少しているが、N-C=0結合基とC-O基との合計は、比較例1では55×10
-3%/Areaより少ないのに対して、実施例1から実施例4では64×10
-3%/Area以上生成されている。
また、比較例1ではF
90[N/2mm]は、ほぼゼロであるのに対し、実施例1から実施例4ではF
90[N/2mm]は、1.5[N/2mm]以上で、樹脂シート3に形成する蒸着膜が樹脂シート3から剥離する凝集剥離が発生し始める2[N/2mm]程度の密着力を示した。
【0022】
図3は、樹脂シートとしてポリイミドシートを用い、プラズマ処理量Q[kW/Fs]を変更した場合の成膜の評価結果である。
高周波電源6の印加出力を3kW、真空室1内を1.0Paとした。
実施例5から実施例7は、不活性ガス10をN
2とし、N
2とともにH
20を真空室1内に導入した。
Fsは樹脂シート3の移動速度であり、単位スピード当たりの処理量Qを、実施例5では0.5[kW/Fs]、実施例6では1.0[kW/Fs]、実施例7では1.5[kW/Fs]とした。
実施例5から実施例7については、表面処理を行った後に、スパッタ法で成膜し、更に湿式電解メッキ処理で厚さが25μmの銅薄膜を形成した。R
0は、スパッタ法で成膜した厚さ4.5μmのCu薄膜表面抵抗[Ω/□]、F
90[N/2mm]は、樹脂シート3の接着面に対して90度の方向に銅薄膜を引っ張った時の力であり、幅2mm当たりの引張力[N]である。
実施例5から実施例7に示すように、処理量Qを変更してもCu薄膜表面抵抗[Ω/□]が、表面処理を行っていない比較例1と変わらない値であることから、本発明の樹脂シート表面処理方法では、樹脂シート3の接着面の表面を粗らさないことが判る。
また、実施例5から実施例7では、F
90[N/2mm]は、樹脂シート3に形成する蒸着膜が樹脂シート3から剥離する凝集剥離が発生し始める2[N/2mm]程度の密着力を示した。
【0023】
図4は、樹脂シートとしてポリイミドシートを用い、プラズマ処理量Q[kW/Fs]を一定とし、導入ガスを変更した場合の成膜の評価結果である。
高周波電源6の印加出力を3kW、真空室1内を1.0Paとした。
実施例7は、不活性ガス10をN
2とし、N
2とともにH
20を真空室1内に導入した。
実施例8は、不活性ガス10をN
2とし、N
2を真空室1内に導入した。
実施例9は、不活性ガス10をArとし、ArとともにH
20を真空室1内に導入した。
実施例10は、不活性ガス10をArとし、Arを真空室1内に導入した。
Fsは樹脂シート3の移動速度であり、単位スピード当たりの処理量Qは、実施例7から実施例10は全て1.5[kW/Fs]とした。
各実施例について表面処理を行った後に、スパッタ法で成膜し、更に湿式電解メッキ処理で厚さが25μmの銅薄膜を形成した。F
90[N/2mm]は、樹脂シート3の接着面に対して90度の方向に銅薄膜を引っ張った時の力であり、幅2mm当たりの引張力[N]である。
実施例7から実施例10では、F
90[N/2mm]は、樹脂シート3に形成する蒸着膜が樹脂シート3から剥離する凝集剥離が発生し始める2[N/2mm]以上の密着力を示しているが、不活性ガス10とともにH
20を真空室1内に導入した実施例7及び実施例9では特に強固な密着力を示した。
【0024】
図5は、樹脂シートとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを用い、プラズマ処理量Q[kW/Fs]を一定とし、導入ガスを変更した場合の成膜の評価結果である。
比較例2は本発明による表面処理を行っていない。
比較例3から比較例5は、
図7に示す従来の装置で表面処理を行ったものであり、プラズマ化された不活性ガス10を高運動エネルギーで樹脂シート3に衝突させたものである。
実施例11から実施例14、及び比較例3から比較例5は、高周波電源6の印加出力を3kW、真空室1内を1.0Paとした。また処理量Qは、は全て1.5[kW/Fs]とした。
実施例11及び比較例3は、不活性ガス10をN
2とし、N
2とともにH
20を真空室1内に導入した。
実施例12は、不活性ガス10をArとし、ArとともにH
20を真空室1内に導入した。
実施例13及び比較例4は、不活性ガス10をN
2とし、N
2を真空室1内に導入した。
実施例14及び比較例5は、不活性ガス10をArとし、Arを真空室1内に導入した。
各実施例及び各比較例について表面処理を行った後に、スパッタ法で成膜し、更に湿式電解メッキ処理で厚さが25μmの銅薄膜を形成した。R
0は、スパッタ法で成膜した厚さ5μmのCu薄膜表面抵抗[Ω/□]、F
90[N/2mm]は、樹脂シート3の接着面に対して90度の方向に銅薄膜を引っ張った時の力であり、幅2mm当たりの引張力[N]である。
不活性ガス10とともにH
20を真空室1内に導入した実施例11及び実施例12は、不活性ガス10だけを真空室1内に導入した実施例13及び実施例14に対して、F
90[N/2mm]が高く、強い密着力を示した。
ところで、比較例3から比較例5においても強い密着力を示したが、実施例11から実施例14に対して、Cu薄膜表面抵抗[Ω/□]が一桁多くなっている。これは、比較例3から比較例5では、不活性ガス10を高運動エネルギーで樹脂シート3に衝突させているため、樹脂シート3の表面粗さが増加したことにより、密着力は高まるが、表面粗さの増加によってCu薄膜表面抵抗が増えたものと考えられる。
一方、実施例11から実施例14は、表面処理を行っていない比較例2と同等のCu薄膜表面抵抗[Ω/□]となっていることから、樹脂シート3の表面を粗らすことなく、不活性ガス10が低運動エネルギーで作用していることが判る。
【0025】
図6は、樹脂シートの接着面を示す写真であり、
図6(a)は比較例2、
図6(b)は実施例11、
図6(c)は比較例3であり、倍率は5000倍である。
図6(b)に示す実施例11は、表面処理を行っていない
図6(a)に示す比較例2と変わらない表面粗さであるのに対して、
図6(c)に示す比較例3は、細かな凹部が形成されていることが判る。
【0026】
このように、本発明の樹脂シート表面処理方法によれば、マイナス電位の印加時には、プラズマ化された不活性ガス10は高運動エネルギーで電極に向かい、樹脂シート3の接着面には、マイナス電位の非印加時に、プラズマ化された不活性ガス10が低運動エネルギーで作用するため、樹脂シート3の接着面の表面を粗らすことなく、接着面に官能基を生成することができ、成膜工程における薄膜の接着面への密着力を高めることができる。そして、本発明の樹脂シート表面処理方法によって表面処理した樹脂シート3に、銅薄膜を接着させる場合には、銅薄膜を強固に密着させることができるとともに、平滑性のある銅薄膜を形成できるため、銅薄膜の薄膜表面抵抗値を小さくでき、銅薄膜の高周波による電力損失を少なくすることができる。更に、銅薄膜を形成した樹脂シートをパターンエッチングする場合には、エッチングによる端面が平滑であるため、微細なパターンを形成でき、パターン精度を高めることができる。
また、従来の装置では、樹脂シート3を高運動エネルギーE2の不活性ガス10でエッチングしてしまうため、真空室1内が汚染するために洗浄が必要であるとともに、成膜工程を同じ真空室1内で行うことができないが、本発明の樹脂シート表面処理方法によれば、高運動エネルギーE2の不活性ガス10を樹脂シート3に作用させないため、汚染されることがなく、成膜工程を同じ真空室1内で行うこともできる。更には、従来の装置では、高周波電源(Rf電源)6をロール4に接続しなければならないため、高電圧、高周波絶縁のための構成が複雑化するために、ロール4の幅も制約を受けるが、本発明の樹脂シート表面処理装置によれば、このような制約を受けることがない。
なお、樹脂シート3は、枚葉式のシートでもよく、更には樹脂シート3が厚さを有する樹脂板であってもよい。