(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103931
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】モデルを生成する方法、プログラムおよび装置
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20220701BHJP
【FI】
G05B23/02 302T
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218849
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000156938
【氏名又は名称】関西電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑野 理
(72)【発明者】
【氏名】桑原 浩史
(72)【発明者】
【氏名】川本 耕三
(72)【発明者】
【氏名】有野 剛史
(72)【発明者】
【氏名】小川 勇磨
(72)【発明者】
【氏名】池田 聡
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA02
3C223AA05
3C223AA11
3C223AA17
3C223AA23
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223EB02
3C223EB03
3C223FF04
3C223FF22
3C223FF26
3C223FF35
3C223GG01
3C223HH03
3C223HH29
(57)【要約】 (修正有)
【課題】施設内の設備を監視するためのモデルの生成を容易にする。
【解決手段】施設内の複数の設備を監視するためのモデルを作成する方法は、複数の設備の各々を監視する複数のセンサーの各々から、各計測データを取得するステップ(S1815)と、各計測データに基づいて、設備の異常を検知するステップ(S1815)と、各計測データの中から、異常との関連度が最も高い第1の計測データを目的変数として選定するステップ(S1820)と、第1の計測データを除く各計測データの中から、複数の説明変数を選定するステップ(S1825,S1830,S1835)と、目的変数と、複数の説明変数と、その他の設定値とを学習エンジンに入力するステップ(S1840)とを含む。
【選択図】
図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
施設内の複数の設備を監視するためのモデルを作成する方法であって、
前記複数の設備の各々を監視する複数のセンサーの各々から、各計測データを取得するステップと、
各前記計測データに基づいて、前記設備の異常を検知するステップと、
各前記計測データの中から、前記異常との関連度が最も高い第1の計測データを目的変数として選定するステップと、
前記第1の計測データを除く各前記計測データの中から、複数の説明変数を選定するステップと、
前記目的変数と、前記複数の説明変数と、その他の設定値とを学習エンジンに入力するステップとを含む、方法。
【請求項2】
各前記計測データの中から、前記異常との関連度が最も高い第1の計測データを目的変数として選定するステップは、
前記複数のセンサーの使用条件を取得するステップと、
前記使用条件の各々における、前記複数のセンサーの各々の計測データのSN比を算出するステップと、
前記複数のセンサーの各々の計測データのSN比の平均値を算出するステップと、
前記SN比の平均値が最も大きい前記第1の計測データを目的変数として選定するステップとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の計測データを除く各前記計測データの中から、複数の説明変数を選定するステップは、
前記第1の計測データを除く各前記計測データの中から第2の計測データを選定するステップと、
前記第1の計測データと、前記第2の計測データとの相関係数を算出するステップと、
前記相関係数に基づいて前記第2の計測データを前記複数の説明変数に含めるか否かを決定するステップとを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の計測データを除く各前記計測データの中から、複数の説明変数を選定するステップは、
前記第1の計測データを除く各前記計測データの中から第2の計測データを選定するステップと、
前記モデルの式に前記第2の計測データを説明変数として加えて、前記モデルの1または複数の評価指標の値を算出するステップと、
前記モデルの式に前記第2の計測データを説明変数として加えたことにより前記1または複数の評価指標の値が改善したか否かを判定するステップと、
前記1または複数の評価指標の値が改善したと判定したことに基づいて、前記第2の計測データを前記説明変数として選定するステップとを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記モデルは、回帰モデル、重回帰分析に基づくモデル、または、ニューラルネットワークに基づくモデルである、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記学習エンジンが出力した前記モデルの評価値を求めるステップと、
前記評価値に基づいて、前記その他の設定値を更新するステップと、
更新された前記その他の設定値を前記学習エンジンに入力するステップとをさらに含む、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記その他の設定値は、中間層の数、ドロップ率および学習率の一部または全てを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記その他の設定値を更新するステップは、
今までの学習処理の中で最も高い前記その他の設定値である第1の設定値に対応する前記モデルの第1の評価値を記憶するステップと、
第2の設定値に対応する前記モデルの第2の評価値を算出するステップと、
前記第1の評価値と、前記第2の評価値とを比較するステップと、
前記第2の評価値が、前記第1の評価値より小さいことに基づいて、前記第2の設定値を前記第1の設定値に近づけるステップと、
前記第2の評価値が、前記第1の評価値より大きいことに基づいて、前記第2の設定値を前記第1の設定値から遠ざけるステップとを含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記モデルの評価値を求めるステップは、前記その他の設定値を変更して、複数の前記評価値を並列に算出するステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記モデルの評価値を求めるステップは、
前記設備に異常が発生していないときの計測データが前記モデルに入力された場合に、前記設備の異常を検出したとき、前記モデルの評価値を下げるステップと、
前記設備に異常が発生したときの計測データが前記モデルに入力された場合に、前記設備の異常を検出したとき、前記モデルの評価値を上げるステップとを含む、請求項6~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記モデルの評価値を求めるステップは、前記設備に異常が発生していないときの計測データを前記モデルに入力した場合に、前記設備の異常を検出したとき、前記モデルの評価値を下げるステップを含む、請求項6~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記モデルの評価値を求めるステップは、第1のモデルおよび第2のモデルの前記評価値が等しいことに基づいて、
前記第1のモデルによる前記目的変数の予測値と、前記目的変数の実測値とを比較して第1の誤差を取得するステップと、
前記第2のモデルによる前記目的変数の予測値と、前記目的変数の実測値とを比較して第2の誤差を取得するステップと、
前記第1の誤差が前記第2の誤差よりも小さいことに基づいて、前記第1のモデルを前記第2のモデルよりも評価するステップとをさらに含む、請求項6~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記第1のモデルは、第3のモデルと、第4のモデルとを含み、
前記第2のモデルは、第5のモデルと、第6のモデルとを含み、
前記モデルの評価値を求めるステップは、前記第1のモデルおよび前記第2のモデルの前記評価値が等しいことに基づいて、
前記第3および第4のモデルの各々による前記目的変数の予測値と、前記目的変数の実測値とを比較して第3の誤差を取得するステップと、
前記第5および第6のモデルの各々による前記目的変数の予測値と、前記目的変数の実測値とを比較して第4の誤差を取得するステップと、
前記第3の誤差が前記第4の誤差よりも小さいことに基づいて、前記第1のモデルを前記第2のモデルよりも評価するステップとを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載の方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項15】
請求項14に記載のプログラムおよび前記学習エンジンを格納したメモリと、
前記プログラムを実行するためのプロセッサとを備える、装置。
【請求項16】
請求項14に記載のプログラムを格納したメモリと、
前記プログラムを実行するためのプロセッサと、
前記学習エンジンを含む外部装置と通信するための通信部とを備え、
前記通信部は、前記目的変数、前記複数の説明変数、学習除外期間、学習除外箇所、および、前記その他の設定値の一部または全てを前記外部装置に送信する、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モデルを生成する技術に関し、より特定的には、モデルの生成を容易にするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所または変電所等の設備における異常を検知するために、異常検知システムが使用されることがある。異常検知システムは、設備内の各設備またはその近傍に備え付けられたセンサーから得られる計測データに基づいて、設備に異常があるか否かを判定し得る。いくつかの異常検知システムは、機械学習により、設備を監視するためのモデルを生成する機能を備える。これらの機械学習を適切に行なうためには、専門スキルまたはノウハウを持つ作業員による学習エンジンへの設定の入力作業が必要となる。そのため、高度な専門知識を持たない作業員でも比較的容易にモデルを生成するための技術が望まれている。
【0003】
設備を監視するモデルに関し、例えば、特開2019-091113号公報(特許文献1)は、「プラントの運転状態を示す複数の運転データに基づいて異常を監視するプラント異常監視システムであって、前記複数の運転データを含む監視運転データに対して、相互に異な異常判定手法を実行する複数の検知モデルをそれぞれ適用することにより得られる複数の検知モデル判定結果を取得するよう構成される検知モデル判定結果取得部と、前記複数の検知モデル判定結果、および前記複数の検知モデルの各々に対して予め設定されている重み値に基づいて前記異常の有無を判定するよう構成される異常判定部と、前記異常判定部によって前記異常が有ると判定された場合に通知するよう構成される異常通知部と、を備える」プラント異常監視システムを開示している([要約]参照)。
【0004】
また、設備を監視するモデルに関する他の技術が、例えば、特許文献2および特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-091113号公報
【特許文献2】特開2020-107025号公報
【特許文献3】特開2018-037078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3に開示された技術によると、モデルの生成に高度な専門知識またはノウハウを要求されることがある。したがって、モデルの生成を容易にするための技術が必要とされている。
【0007】
本開示は、上記のような背景に鑑みてなされたものであって、ある局面における目的は、モデルの生成を容易にするための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ある実施の形態に従うと施設内の複数の設備を監視するためのモデルを作成する方法が提供される。この方法は、複数の設備の各々を監視する複数のセンサーの各々から、各計測データを取得するステップと、各計測データに基づいて、設備の異常を検知するステップと、各計測データの中から、異常との関連度が最も高い第1の計測データを目的変数として選定するステップと、第1の計測データを除く各計測データの中から、複数の説明変数を選定するステップと、目的変数と、複数の説明変数と、その他の設定値とを学習エンジンに入力するステップとを含む。
【0009】
ある局面において、各計測データの中から、異常との関連度が最も高い第1の計測データを目的変数として選定するステップは、複数のセンサーの使用条件を取得するステップと、使用条件の各々における、複数のセンサーの各々の計測データのSN比を算出するステップと、複数のセンサーの各々の計測データのSN比の平均値を算出するステップと、SN比の平均値が最も大きい第1の計測データを目的変数として選定するステップとを含む。
【0010】
ある局面において、第1の計測データを除く各計測データの中から、複数の説明変数を選定するステップは、第1の計測データを除く各計測データの中から第2の計測データを選定するステップと、第1の計測データと、第2の計測データとの相関係数を算出するステップと、相関係数に基づいて第2の計測データを複数の説明変数に含めるか否かを決定するステップとを含む。
【0011】
ある局面において、第1の計測データを除く各計測データの中から、複数の説明変数を選定するステップは、第1の計測データを除く各計測データの中から第2の計測データを選定するステップと、モデルの式に第2の計測データを説明変数として加えて、モデルの1または複数の評価指標の値を算出するステップと、モデルの式に第2の計測データを説明変数として加えたことにより1または複数の評価指標の値が改善したか否かを判定するステップと、1または複数の評価指標の値が改善したと判定したことに基づいて、第2の計測データを説明変数として選定するステップとを含む。
【0012】
ある局面において、モデルは、回帰モデル、重回帰分析に基づくモデル、または、ニューラルネットワークに基づくモデルである。
【0013】
ある局面において、方法は、学習エンジンが出力したモデルの評価値を求めるステップと、評価値に基づいて、その他の設定値を更新するステップと、更新されたその他の設定値を学習エンジンに入力するステップとをさらに含む。
【0014】
ある局面において、その他の設定値は、中間層の数、ドロップ率および学習率の一部または全てを含む。
【0015】
ある局面において、その他の設定値を更新するステップは、今までの学習処理の中で最も高いその他の設定値である第1の設定値に対応するモデルの第1の評価値を記憶するステップと、第2の設定値に対応するモデルの第2の評価値を算出するステップと、第1の評価値と、第2の評価値とを比較するステップと第2の評価値が、第1の評価値より小さいことに基づいて、第2の設定値を第1の設定値に近づけるステップと、第2の評価値が、第1の評価値より大きいことに基づいて、第2の設定値を第1の設定値から遠ざけるステップとを含む。
【0016】
ある局面において、モデルの評価値を求めるステップは、その他の設定値を変更して、複数の評価値を並列に算出するステップを含む。
【0017】
ある局面において、モデルの評価値を求めるステップは、設備に異常が発生していないときの計測データがモデルに入力された場合に、設備の異常を検出したとき、モデルの評価値を下げるステップと、設備に異常が発生したときの計測データがモデルに入力された場合に、設備の異常を検出したとき、モデルの評価値を上げるステップとを含む。
【0018】
ある局面において、モデルの評価値を求めるステップは、設備に異常が発生していないときの計測データをモデルに入力した場合に、設備の異常を検出したとき、モデルの評価値を下げるステップを含む。
【0019】
ある局面において、モデルの評価値を求めるステップは、第1のモデルおよび第2のモデルの評価値が等しいことに基づいて、第1のモデルによる目的変数の予測値と、目的変数の実測値とを比較して第1の誤差を取得するステップと、第2のモデルによる目的変数の予測値と、目的変数の実測値とを比較して第2の誤差を取得するステップと、第1の誤差が第2の誤差よりも小さいことに基づいて、第1のモデルを第2のモデルよりも評価するステップとをさらに含む。
【0020】
ある局面において、第1のモデルは、第3のモデルと、第4のモデルとを含む。第2のモデルは、第5のモデルと、第6のモデルとを含む。モデルの評価値を求めるステップは、第1のモデルおよび第2のモデルの評価値が等しいことに基づいて、第3および第4のモデルの各々による目的変数の予測値と、目的変数の実測値とを比較して第3の誤差を取得するステップと、第5および第6のモデルの各々による目的変数の予測値と、目的変数の実測値とを比較して第4の誤差を取得するステップと、第3の誤差が第4の誤差よりも小さいことに基づいて、第1のモデルを第2のモデルよりも評価するステップとを含む。
【0021】
他の実施の形態に従うと、上記のいずれかの方法をコンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。
【0022】
他の実施の形態に従うと、施設内の複数の設備を監視するためのモデルを作成するための装置が提供される。装置は、上記のプログラムおよび学習エンジンを格納したメモリと、プログラムを実行するためのプロセッサとを備える。
【0023】
さらに他の実施の形態に従うと、施設内の複数の設備を監視するためのモデルを作成するための別の装置が提供される。別の装置は、上記のプログラムを格納したメモリと、プログラムを実行するためのプロセッサと、学習エンジンを含む外部装置と通信するための通信部とを備える。通信部は、目的変数と、複数の説明変数、学習除外期間、学習除外箇所、および、その他の設定値の一部または全てを外部装置に送信する。
【発明の効果】
【0024】
ある実施の形態に従うと、モデルの生成を容易にすることが可能である。
この開示内容の上記および他の目的、特徴、局面および利点は、添付の図面と関連して理解される本開示に関する次の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】ある実施の形態に従う監視システムの適用例の第1の例を示す図である。
【
図2】ある実施の形態に従う監視システムの適用例の第2の例を示す図である。
【
図3】初期設定の一部である目的変数および説明変数の選択手順の一例を示す図である。
【
図4】パターン認識モデルによる設備の監視の一例を示す図である。
【
図5】目的変数および説明変数の候補の選定手順の一例を示す図である。
【
図6】センサー140の計測データ間の相関関係の算出手順の一例を示す図である。
【
図8】相関関係を用いない説明変数の選択手順の一例を示す図である。
【
図9】学習エンジン110に入力される設定の一例を示す図である。
【
図10】監視装置100のモデルの第1の評価方法の一例を示す図である。
【
図11】第1の評価方法の詳細な手順の前半の一例を示す図である。
【
図12】第1の評価方法の詳細な手順の後半の一例を示す図である。
【
図13】第2の評価方法の詳細な手順の一例を示す図である。
【
図14】評価値が同一の複数のモデルの選択基準の一例を示す図である。
【
図15】その他の設定値(設定項目930)と、モデルの評価値との関係の一例を示す図である。
【
図16】その他の設定値の範囲を絞る手順の一例を示す図である。
【
図17】監視装置100のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図18】監視装置100によるモデルを生成して、当該モデルによる設備150の監視を開始するまでの手順の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ、本開示に係る技術思想の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。なお、これ以降の説明では、複数の同一の構成に対して言及する場合、構成123A,123Bのように表現することがある。また、それらを総称する場合は、構成123と表現する。
【0027】
図1は、本実施の形態に従う監視システムの適用例の第1の例を示す図である。監視システム10は、監視装置100と、データ収集装置130と、センサー140とを備える。監視装置100は、学習エンジン110と、学習支援機能120とを含む。監視対象の施設160内には、多数の設備150が配置されている。ある局面において、施設160は、発電所、変電所、化学工場、食品工場、工業製品の工場、または、工場の自動生産ライン等を含み得る。他の局面において、設備150は、ポンプ、ファン、熱交換器、系統温度計、ガスタービン、蒸気タービン、ガスタービン、配管、コンベア、レーザー加工装置、または、プレス装置等を含み得る。
【0028】
監視装置100は、設備150の状態、または、設備150に異常がないか否かを監視する。ある局面において、設備150の異常は、個別の設備150の異常、または、複数の設備150の異常により引き起こされる異常を含み得る。また、他の局面において、異常は、異常振動、配管漏れ、軸受け破損、異常高温、燃焼不安定、差圧上昇、燃料漏れ、または、制御不良等を含み得る。
【0029】
学習エンジン110は、設備150の異常を検知するためのモデル(設備150の異常を検知するための検知ツール、または、設備150の監視モデル)を生成する。学習支援機能120は、学習エンジン110に入力するパラメータを生成し、また、生成されたモデルを評価する。
【0030】
データ収集装置130は、施設160内の各センサー140から計測データを収集し、当該収集した計測データを監視装置100に送信する。ある局面において、データ収集装置130は、PC(Personal Computer)、サーバー、その他の任意の情報機器、または、これらの組み合わせであってもよい。他の局面において、データ収集装置130は、有線LAN(Local Area Network)または無線LANにより監視装置100と接続されていてもよく、その場合、データ収集装置130は、有線LANまたは無線LANを介して、監視装置100と通信し得る。
【0031】
センサー140は、設備150に関する計測データを生成し、当該計測データをデータ収集装置130に送信する。センサー140は、各設備150に取り付けられるか、または、各設備150の近傍に設置される。ある局面において、センサー140は、振動計、圧力計、温度計、湿度計、水位計、差圧計、CO計、NOx計、電圧計、電流計、回転数計、光度計、各種濃度計、その他の任意のセンサー、または、これらの組み合わせであってもよい。他の局面において、センサー140は、センサー素子と、MPU(Micro-Processing Unit)とを含む装置であってもよい。また、他の局面において、センサー140は、有線LANまたは無線LANを介して、データ収集装置130と通信し得る。
【0032】
図1に示す例では、データ収集装置130は、センサー140A~140Iから計測データを取得し、これらの計測データを監視装置100に送信する。ある局面において、各センサー140は、計測データを監視装置100に直接送信してもよい。
【0033】
学習支援機能120は、センサー140A~140Iの計測データに基づいて、学習エンジン110に入力する初期設定(目的変数および説明変数を含む)を自動で決定し、当該初期設定を学習エンジン110に入力する。また、学習支援機能120は、学習エンジン110が出力したモデルの評価に基づいて、学習エンジン110に入力する設定を更新し、当該更新した設定を学習エンジン110に再度入力する。学習エンジン110は、更新された設定に基づいて、繰り返しモデルを生成し続ける。その結果、モデルの精度は向上する。学習エンジン110に入力する初期設定の決定手順の詳細については、
図3~
図8を参照して説明する。学習エンジン110に入力される設定を更新する処理の詳細については、
図9~
図16を参照して説明する。監視装置100は、当該学習支援機能120を備えることにより、熟練した技能を持つ作業員による設定入力に依存することなく、精度の高いモデルを生成し得る。
【0034】
監視装置100は、パターン認識等のアルゴリズムを用いて、設備150の異常を検出する。監視装置100は、設備150が健全な状態で運用された期間の計測データを学習エンジン110の学習データとし得る。また、監視装置100は、十分な学習データ(計測データ)が得られた後に、学習支援機能120による設定に基づいて、各設備150を監視するためのモデル(回帰モデル等)を作成する。
【0035】
図2は、本実施の形態に従う監視システムの適用例の第2の例を示す図である。
図2に示す監視システム20において、監視装置200は、学習支援機能220のみを備える。外部装置205は、例えば、学習エンジン210を備える既存の装置である。
【0036】
学習支援機能220は、外部装置205と通信することで、学習エンジン110に初期設定を入力し、また、学習エンジン110に入力する設定を更新する。このように、
図2に示す監視装置200は、既にある学習エンジンを備える任意の装置と連携し得る。
【0037】
ある局面において、監視装置200は、外部装置205から受信したモデルを用いて、各設備150を監視し得る。他の局面において、外部装置205がモデルを用いて、各設備150を監視してもよい。その場合、監視装置200は、学習支援機能220のみを備え、各設備150を監視する機能を備えなくてもよい。これ以降、
図1に示す監視装置100の動作手順について説明するが、監視装置200も、監視装置100と同様の機能を備える。
【0038】
図3は、初期設定の一部である目的変数および説明変数の選択手順の一例を示す図である。
図3を参照して、学習支援機能120が、学習エンジン110に設定する目的変数および説明変数を選択する手順について説明する。
【0039】
「目的変数」とは、モデルの出力に相当する。「説明変数」とは、モデルの入力に相当する。一例として、モデルに設定される目的変数が、ボイラーの故障の有無であり、モデルに設定される説明変数がセンサー140A,140Dの計測データであったとする。この場合、当該モデルは、センサー140A,140Dの計測データに基づいて、ボイラーの故障の有無を判定するモデルとなる。
【0040】
ステップ1において、監視装置100は、データ収集装置130から受信したデータ310(各センサー140の計測データの集合)に基づいて、各センサー140の計測データ間の相関関係を解析する。ステップ2において、監視装置100は、各設備150を監視するパターン認識モデルを生成する。監視装置100は、当該パターン認識モデルにより、各設備150を監視する。パターン認識アルゴリズムの詳細については、
図4を参照して説明する。監視装置100は、ステップ1および2の実行順序を入れ替えてもよく、または、ステップ1および2の処理を平行に実行してもよい。
【0041】
ステップ3において、監視装置100は、パターン認識モデルによる監視で、閾値を超えた監視項目(異常値)を検出したとき、検出された異常値に最も関連があると推定されるセンサー140を特定する。検出された異常値に最も関連があると推定されるセンサー140の特定処理の詳細については、
図5を参照して説明する。
【0042】
ステップ4において、監視装置100は、検出された異常値に最も関連があると推定されるセンサー140の計測データを学習エンジンに入力する目的変数320に設定する。また、監視装置100は、それ以外のセンサー140の計測データを学習エンジンに入力する説明変数の候補330に設定する。説明変数の候補330は、説明変数になる可能性のある計測データの集合であり、説明変数の候補330の中から説明変数340が選択される。
【0043】
ステップ5において、監視装置100は、センサー140の計測データ間の相関関係に基づいて、説明変数の候補330の中から説明変数340を選択する。各センサー140間の相関関係の詳細については、
図6を参照して説明する。ある局面において、説明変数340は、1または複数の計測データを含んでいてもよい。監視装置は、目的変数320と、説明変数340と、その他の設定とを学習エンジン110に入力する。学習エンジン110は、入力された設定に基づいて、モデル(例えば、回帰モデル等の学習済みモデル)を生成する。
【0044】
図4は、パターン認識モデルによる設備の監視の一例を示す図である。
図4を参照して、監視装置100が用いるパターン認識モデルについて説明する。監視装置100は、学習エンジン110に入力するための十分な学習データがない間は、パターン認識モデルを使用して各設備150を監視し得る。
【0045】
監視装置100は、学習期間420の間に、データ収集装置130からデータ410(各センサー140からの計測データの集合)を受信する。監視装置100は、MT法(Maharanobis-Taguchi System)等を用いて、データ410から、パターン認識モデルを生成する。
【0046】
監視装置100は、生成したパターン認識モデルにより、監視期間430の間に、特定の監視項目を監視する。パターン認識モデルの異常判定のグラフ440によると、MD値(Mahalanobis Distance)に閾値が設定されており、監視装置100は、監視項目(設備150の温度または圧力等)の値が変化することで、MD値が閾値を超えた場合、アラートを出力する。
【0047】
図5は、目的変数および説明変数の候補の選定手順の一例を示す図である。監視装置100は、閾値を超えた監視項目(異常値)との関連度が最も高いセンサー140の計測データをSN比に基づいて、特定し得る。以下、センサーA,B,Cを例に説明する。テーブル510は、各センサー140の使用条件と、その使用条件におけるSN比(Signal-to-Noise Ratio)とを含む。例えば、「条件1」の場合、センサーA,B,Cが使用されている。この場合のSN比は、η
1である。また、「条件2」の場合、センサーAが使用されており、センサーB,Cが使用されていない。この場合のSN比は、η
2である。式520は、SN比の計算式である。テーブル530は、式520に代入される条件および計算結果を格納する。テーブル540は、各センサーの各々の計測データの平均SN比の計算式を格納している。また、テーブル550は、各センサーの各々の計測データの平均SN比の計算結果を格納している。
【0048】
監視装置100は、テーブル510,530,540および式520により、各センサーの各々の平均SN比を算出して、計算結果をテーブル550に格納する。テーブル550によると、センサーCの計測データの平均SN比が最も大きいことがわかる。監視装置100は、テーブル550(平均SN比の計算結果)に基づいて、最も平均SN比が大きいセンサーCの計測データを学習エンジンの目的変数として選択し、それ以外のセンサーA.Bの計測データを学習エンジン110の説明変数の候補として選択し得る。
【0049】
ある局面において、
図5に示すテーブルおよび式の各々は、監視装置100が参照するデータまたは実行するプログラムとして実現され得る。また、他の局面において、各テーブルはデータとして監視装置100のメモリ(図示せず)に格納されていてもよい。同様に、式520の計算を実行するためのプログラムも、監視装置100のメモリに格納されていてもよい。
【0050】
図6は、センサー140の計測データ間の相関関係の算出手順の一例を示す図である。式610は、2つのセンサー140の計測データ間の相関係数を算出する式である。2つのセンサー140の計測データ間の相関係数が大きいほど、2つのセンサー140の計測データの間には相関があると言える。テーブル620は、式610の各変数を格納する。
【0051】
図3のステップ1において、監視装置100は、式610を用いて、各センサー140の計測データ間の相関値を算出する。また、
図3のステップ5において、監視装置100は、目的変数として選択された計測データと、説明変数の候補の計測データとの間の相関係数に基づいて、説明変数の候補の中から説明変数を選択する。より具体的には、監視装置100は、目的変数として選択された計測データAと、ある説明変数の候補に含まれる計測データBとの間の相関係数が、予め定められた閾値以上である場合、計測データBを説明変数として選択し得る。そうでない場合、監視装置100は、計測データBを説明変数として選択しない。
【0052】
ある局面において、
図6に示すテーブルおよび式の各々は、監視装置100が参照するデータまたは実行するプログラムとして実現され得る。また、他の局面において、テーブル620はデータとして監視装置100のメモリに格納されていてもよい。同様に、式610の計算を実行するためのプログラムも、監視装置100のメモリに格納されていてもよい。
【0053】
図7は、モデルの一例を示す図である。
図3を参照した説明において、モデルの一例として回帰モデルを挙げたが、本開示の内容は、他のモデルにも適用可能である。式710は、重回帰分析の式である。テーブル720は、式710の各変数を格納する。ある局面において、学習エンジン110は、式710に基づくモデルを生成してもよい。他の局面において、学習エンジン110は、ニューラルネットワークに基づくモデルを生成してもよい。
【0054】
ある局面において、
図7に示すテーブルおよび式の各々は、監視装置100が参照するデータまたは実行するプログラムとして実現され得る。また、他の局面において、テーブル720はデータとして監視装置100のメモリに格納されていてもよい。同様に、式710の計算を実行するためのプログラムも、監視装置100のメモリに格納されていてもよい。
【0055】
図8は、相関関係を用いない説明変数の選択手順の一例を示す図である。監視装置100は、各センサー140の計測データ間の相関関係の代わりに、各計測データの評価指標を用いて、説明変数の候補の中から説明変数を選択してもよい。式810~式840は、評価指標を算出する式の一例である。テーブル850は各式の変数を格納する。各評価指標は小さいほどよい。
図8に示す処理は、
図3に示すステップ5において、
図6に示す処理の代わりに実行され得る。以下、
図8に示す処理について説明する。
【0056】
まず、第1の処理として、監視装置100は、説明変数の候補から1つの計測データを選択し、式710の係数を決定する。そして、監視装置100は、式710に対して、式810~式840の一部または全てを用いて、評価指標を計算する。この処理を、説明変数の候補に含まれる全ての計測データに対して実行する。
【0057】
次に、第2の処理として、監視装置100は、評価指標の値が最も良い(評価指標の値が最も小さい)計測データを目的変数に追加する。一例として、説明変数の候補は、計測データA~Eを含むとし、監視装置100は、計測データAを説明変数Aとして選択したとする。
【0058】
さらに、第3の処理として、監視装置100は、目的変数と、説明変数Aと、係数と、残りの説明変数の候補(計測データB~E)から選択した新たな説明変数とを式710に代入する。そして、監視装置100は、式710に対して、式810~式840の一部または全てを用いて、評価指標を計算する。この処理を、残りの説明変数の候補に含まれる全ての計測データに対して実行する。監視装置100は、評価指標が最も改善したときの計測データをさらに説明変数として選択する。監視装置100は、評価指標が改善しなくなるまで、第3の処理を繰り替えし実行する。第3の処理を繰り返すことにより、監視装置100は、最も評価指標が良くなる説明変数の組み合わせを発見し得る。
【0059】
ある局面において、
図8に示すテーブルおよび式の各々は、監視装置100が参照するデータまたは実行するプログラムとして実現され得る。また、他の局面において、テーブル850はデータとして監視装置100のメモリに格納されていてもよい。同様に、各式の計算を実行するためのプログラムも、監視装置100のメモリに格納されていてもよい。他の局面において、
図6~
図8に示す説明変数の選定手順は、回帰モデルに対して実行さてもよいし、重回帰分析のモデルに対して実行されてもよい。
【0060】
図9は、学習エンジン110に入力される設定の一例を示す図である。設定は、少なくとも、設定項目910と、設定項目920と、設定項目930とを含む。監視装置100は、各設定項目910,920,930を学習エンジン110に入力する。設定項目910は、目的変数および説明変数を含む。
図3~
図8を参照して説明したように、監視装置100は、センサー140の計測データに基づいて、設定項目910を自動的に決定し得る。
【0061】
設定項目920は、学習期間と、学習除外箇所とを含む。学習期間は、学習エンジン110の学習の繰り返し回数等である。学習除外箇所は、例えば設備150の休止期間中のデータ等、学習に含めないデータである。ある局面において、監視装置100は、予め定められた値を設定項目920に設定し得る。他の局面において、監視装置100は、ユーザーから入力された値を設定項目920に設定し得る。
【0062】
設定項目930は、その他の設定値(中間層の数、ドロップ率、学習率、alpha値、ε値、特徴量、または、これらの組み合わせ等)を含む。ある局面において、監視装置100は、予め定められた値を設定項目930に設定し得る。他の局面において、監視装置100は、ユーザーから入力された値を設定項目930に設定し得る。
【0063】
設定項目930は、モデルの精度に影響を及ぼすが、計測データ等に基づいて一意に値が決まるわけではない。そのため、監視装置100は、学習エンジン110の学習の結果(学習済みモデル)を評価し、当該評価に基づいて設定項目930の値を更新し、さらに、当該更新した値を学習エンジン110に入力して、学習エンジン110に新しいモデルを生成させる処理を繰り返す。これにより、監視装置100は、モデルの異常の検知精度を向上させ得る。
【0064】
次に、
図10~
図12を参照して、監視装置100のモデルの第1の評価方法について説明する。第1の評価方法では、モデルは、設備150に異常が発生していない期間の計測データ(正常時の計測データ)および設備150に異常が発生している期間の計測データ(異常時の計測データ)を入力される。監視装置100は、モデルの正常時の計測データおよび異常時の計測データの各々に対する出力結果を評価する。
【0065】
図10は、監視装置100のモデルの第1の評価方法の一例を示す図である。監視装置100は、学習エンジン110が出力したモデルに、正常時の計測データ1020と、異常時の計測データ1030とを入力する。そして、監視装置100は、モデルが出力する目的変数の値を評価する。グラフ1050は、モデルの出力データである。出力データの値が閾値以上であれば、モデルは異常を検知したことになる。
【0066】
より具体的には、まず、監視装置100は、正常時の計測データ1020をモデルに入力する。次に、監視装置100は、モデルが閾値以上の目的変数の値(異常値)を出力したとき(異常を検知したとき)、モデルは誤検知をしたと判定して、モデルの評価値を下げる。なぜならば、正常時の計測データ1020は、いずれの設備150にも異常が発生していない期間のデータであり、モデルは異常を検知すべきではないためである。
【0067】
また、監視装置100は、異常時の計測データ1030をモデルに入力する。次に、監視装置100は、モデルが閾値以上の目的変数の値(異常値)を出力したとき(異常を検知したとき)、モデルは異常を正確に検知できたと判定して、モデルの評価値を上げる。なぜならば、異常時の計測データ1030は、いずれかの設備150に異常が発生している期間のデータであり、モデルは異常を検知すべきだからである。最終的に、モデルが出力する目的変数の予測値1040Bは、目的変数の実測値1040Aにできる限り近くなることが望ましい。
【0068】
図11は、第1の評価方法の詳細な手順の前半の一例を示す図である。
図12は、第1の評価方法の詳細な手順の後半の一例を示す図である。
図11および
図12を参照して、第1の評価方法の手順について説明する。
【0069】
グラフ1100は、モデルが出力する目的変数の値のグラフである。時刻1110は、設備150に異常が発生した時刻である。基準時刻1111は、モデルが正常に異常を検出したか否かを判定するための基準点である。監視装置100は、モデルが基準時刻1111以降に異常を検知した場合、モデルが正常に異常を検知したと判定してモデルの評価値を上げる。逆に、監視装置100は、モデルが基準時刻1111以前に異常を検知した場合、モデルが異常を誤検知したとしてモデルの評価値を下げる。
【0070】
ステップ1において、監視装置100は、最初、時刻1110を基準時刻1111に設定する。ステップ2において、監視装置100は、時刻1110から時間を遡り、目的変数の値が閾値未満になる時刻1120を発見した場合、時刻1120を基準時刻1111に設定する。
【0071】
ステップ3において、監視装置100は、時刻1110から時間を遡り、目的変数の値が閾値以上になる時刻1130を発見した場合、時刻1120から時刻1130までの期間を算出する。監視装置100は、時刻1120から時刻1130までの期間が予め定められたN時間未満(例えば12時間未満)である場合、時刻1130を基準時刻1111に設定する。そうでない場合、監視装置100は、基準時刻1111を時刻1120から変更しない。
【0072】
ステップ4において、監視装置100は、時刻1130から時間を遡り、目的変数の値が閾値未満になる時刻1240を発見した場合、時刻1240を基準時刻1111に設定する。
【0073】
ステップ5において、監視装置100は、時刻1240から時間を遡り、目的変数の値が閾値以上になる時刻を探す。
図12に示す例では、時刻1140からN時間以内の範囲で、目的変数の値が閾値以上になる時刻はない。そのため、監視装置100は、基準時刻1111を時刻1240から変更しない。この時点で、基準時刻1111の最終的な位置が決定する。
【0074】
監視装置100は、ステップ2~5の処理を繰り返すことで、異常の発生時刻から遡って、N時間以上目的変数の値が閾値未満になる区間(
図12の例では、区間1245)を発見する。そして、監視装置100は、N時間以上目的変数の値が閾値未満になる区間の直後の目的変数の値が閾値を超える時刻(
図12の例では、時刻1240)を基準時刻1111に設定する。
【0075】
ステップ6において、監視装置100は、最終的な基準時刻1111(時刻1240)に基づいて、モデルの出力結果を評価する。監視装置100は、モデルが基準時刻1111以前に異常を検知したことに基づいて、モデルの評価を下げる。逆に、監視装置100は、モデルが基準時刻1111以降に異常を検知したことに基づいて、モデルの評価を上げる。例えば、基準時刻1111以前の期間1250,1260において、モデルの出力データは閾値を超えている。この場合、監視装置100は、モデルが異常を誤検知したと判定し、モデルの評価値を下げる。基準時刻1111以降の期間1270において、モデルの出力データは閾値を超えている。この場合、監視装置100は、モデルが正常に異常を検知したと判定し、モデルの評価値を上げる。監視装置100は、上述した評価方法により、モデルの評価値を算出する。
【0076】
図13は、第2の評価方法の詳細な手順の一例を示す図である。第2の評価方法は、第1の評価方法と異なり、正常時の計測データ1310のみが、モデルに入力される。監視装置100は、モデルの正常時の計測データに対する出力結果を評価する。グラフ1350は、モデルの出力データである。出力データの値が閾値以上であれば、モデルは異常を検知したことになる。
【0077】
より具体的には、まず、監視装置100は、正常時の計測データ1310をモデルに入力する。次に、監視装置100は、モデルが閾値以上の目的変数の値(異常値)を出力したとき(異常を検知したとき)、モデルは誤検知をしたと判定して、モデルの評価値を下げる。第2の評価方法は、第1の評価方法と異なり、単純に減点のみの評価方法となる。一例として、第2の評価方法における評価値は、式1360により表される。最終的に、モデルが出力する目的変数の予測値1340Bは、目的変数の実測値1340Aにできる限り近くなることが望ましい。
【0078】
上述したように、監視装置100は、
図10~
図13を参照して示した第1の評価方法または第2の評価方法により、モデルを評価し得る。監視装置100は、例えば、設定項目930を変更してモデルを作成する毎に、第1の評価方法または第2の評価方法を実行する。そして、最終的に最も評価値の高いモデルを選択する。
【0079】
図14は、評価値が同一の複数のモデルの選択基準の一例を示す図である。例えば、評価値が同率で一位の2つのモデルがあるとする。この場合、監視装置100は、目的変数の実測値1420Aと、各モデルの予測値1420B(目的変数の予測値)との誤差を算出する。そして、この誤差が小さいほうのモデルを選択し得る(誤差の小さい方のモデルをより評価する)。誤差は、例えば、式1410により算出される。
【0080】
他の例として、監視装置100は、複数のモデルを生成する場合がある。例えば、モデルAが、目的変数の下限値の予測値を出力する第1のモデルと、目的変数の上限値の予測値を出力する第2のモデルとを含むとする。このように複数のモデルがある場合、監視装置100は、目的変数の実測値1440Aおよび第1のモデルの予測値1440Bの間の第1の誤差と、目的変数の実測値1440Aおよび第2のモデルの予測値1440Cの間の第2の誤差とを算出する。そして、監視装置100は、第1の誤差および第2の誤差の合計をモデルAの誤差として算出し得る。モデルAの誤差は、例えば、式1430により算出される。監視装置100は、同様に、2つのモデルを含むモデルBの誤差を算出し、モデルAと、モデルBとの誤差を比較し、誤差の小さい方のモデルを選択し得る(誤差の小さい方のモデルをより評価する)。
【0081】
次に、
図15および
図16を参照して、設定項目930の変更手順の詳細について説明する。設定項目930を総当たりで変更して学習モデルを作り直すことは、膨大な時間を要する。そのため、監視装置100は、効率よく、設定項目930の範囲を絞り込む。
【0082】
図15は、その他の設定値(設定項目930)と、モデルの評価値との関係の一例を示す図である。グラフ1500は、その他の設定値およびモデルの評価値の関係を示す。その他の設定値が最適値1510のとき、評価値は最大となる。しかし、その他の設定値およびモデルの評価値の関係は、数式で表せないことが大半であり、最適値1510を発見することは容易ではない。
【0083】
仮に、単純に最適値1510を求める場合、監視装置100は、その他の設定値を総当たりで学習エンジン110に入力する必要があり、非効率である。そのため、監視装置100は、以下に説明する手順で、効率的にその他の設定値の範囲を絞り込む。
【0084】
図16は、その他の設定値の範囲を絞る手順の一例を示す図である。
図16に示す例では、グラフ1500上に、粒子(1)1640,1650,1660が表示されている。「粒子」は、学習エンジン110にその他の設定値tが設定されたときの、モデルの評価値を示す。監視装置100が、学習エンジン110に設定するその他の設定値tが変化する毎に、粒子の位置も変化する。以下に、粒子(1)を例に、監視装置100がその他の設定値tの値を変更する手順について説明する。
【0085】
第1に、監視装置100は、その他の設定値t
1を学習エンジン110に設定する。そして、監視装置100は、学習エンジン110により生成されたモデルAの評価値を算出する。評価値の算出は、
図10~
図14を参照して説明した手順に従って実行する。モデルAの評価値(粒子(1)の位置)は、x
1(t
1)になる。
【0086】
第2に、監視装置100は、今回の粒子(1)の位置(今回のモデルAの評価値)と、過去の粒子(1)の最大評価値の位置P1(tp1)とを比較する。監視装置100は、今回の粒子(1)の位置が過去の粒子(1)の最大評価値の位置より低い(評価値が低い)場合、次に学習エンジン110に設定するその他の設定値t1+1を、過去の粒子(1)のその他の設定値tp1に近づける。逆に、今回の粒子(1)の位置が過去の粒子(1)の最大評価値の位置より低い(評価値が低い)場合、監視装置100は、次に学習エンジン110に設定するその他の設定値t1+1を、過去の粒子(1)のその他の設定値tp1から遠ざける。監視装置100は、例えば、式1610,1620に基づいて、その他の設定値の変化量(次に学習エンジン110に設定するその他の設定値t1+1の値)を決定し得る。テーブル1630は、式1610,1620の変数を格納する。
【0087】
ある局面において、監視装置100は、最初の1回目の粒子の位置を設定するときは、上記の比較処理を実行しなくてもよい。また、監視装置100は、最初の1回目の粒子の位置を設定するときは、その他の設定値の範囲の中央値をその他の設定値t1として選択してもよいし、ランダムな値をその他の設定値t1として選択してもよい。
【0088】
第3に、監視装置100は、予め定められた規定の回数だけ、上記の比較処理を繰り返し得る。ある局面において、監視装置100は、モデルの評価値が予め定められた閾値以上になるまで比較処理を繰り返し得る。最終的に、監視装置100は、粒子(1)の今までで最大の評価値を選択し得る。
【0089】
他の局面において、監視装置100は、上記の第1~第3の処理を並列に実行してもよい。例えば、
図16に示すように、監視装置100は、粒子(1)~(3)の位置(評価値)を同時並行的に算出してもよい。その場合、最終的に、各粒子(1)~(3)の最大評価値の位置(最大の評価値)の中から、全体で最も評価値の高い粒子を選択し得る。
図16に示す例では、P
3(t
p3)が全体で最も評価値の高い粒子となる。そして、監視装置100は、最も評価値の高い粒子に対応するモデルを用いて、施設160内の設備150を監視し得る。
【0090】
また、ある局面において、
図16に示すテーブルおよび式の各々は、監視装置100が参照するデータまたは実行するプログラムとして実現され得る。また、他の局面において、テーブル1630はデータとして監視装置100のメモリに格納されていてもよい。同様に、各式の計算を実行するためのプログラムも、監視装置100のメモリに格納されていてもよい。
【0091】
上述したように、監視装置100は、今回のモデルの粒子の位置(評価値)と、過去の粒子の最大評価値の位置との比較結果に基づいて、次に学習エンジン110に入力するその他の設定値を決定する。これにより、監視装置100は、効率よくその他の設定値の範囲を絞り込み、モデルの精度を向上させることができる。
【0092】
図17は、監視装置100のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3~
図16までを参照して説明した処理は、
図17に示すハードウェアにより実行されるプログラムとして実現され得る。
【0093】
監視装置100は、CPU(Central Processing Unit)1701と、1次記憶装置1702と、2次記憶装置1703と、外部機器インターフェイス1704と、入力インターフェイス1705と、出力インターフェイス1706と、通信インターフェイス1707とを含む。
【0094】
CPU1701は、監視装置100の各種機能を実現するためのプログラムを実行し得る。CPU1701は、例えば、少なくとも1つの集積回路によって構成される。集積回路は、例えば、少なくとも1つのCPU、少なくとも1つのFPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらの組み合わせ等によって構成されてもよい。
【0095】
1次記憶装置1702は、CPU1701によって実行されるプログラムと、CPU1701によって参照されるデータとを格納する。ある局面において、1次記憶装置1702は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)またはSRAM(Static Random Access Memory)等によって実現されてもよい。
【0096】
2次記憶装置1703は、不揮発性メモリーであり、CPU1701によって実行されるプログラムおよびCPU1701によって参照されるデータを格納してもよい。その場合、CPU1701は、2次記憶装置1703から1次記憶装置1702に読み出されたプログラムを実行し、2次記憶装置1703から1次記憶装置1702に読み出されたデータを参照する。ある局面において、2次記憶装置1703は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)またはフラッシュメモリー等によって実現されてもよい。
【0097】
外部機器インターフェイス1704は、プリンター、スキャナーおよび外付けHDD等の任意の外部機器に接続され得る。ある局面において、外部機器インターフェイス1704は、USB(Universal Serial Bus)端子等によって実現されてもよい。
【0098】
入力インターフェイス1705は、キーボード、マウス、タッチパッドまたはゲームパッド等の任意の入力装置に接続され得る。ある局面において、入力インターフェイス1705は、USB端子、PS/2端子およびBluetooth(登録商標)モジュール等によって実現されてもよい。
【0099】
出力インターフェイス1706は、ブラウン管ディスプレイ、液晶ディスプレイまたは有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等の任意の出力装置に接続され得る。ある局面において、出力インターフェイス1706は、USB端子、D-sub端子、DVI(Digital Visual Interface)端子およびHDMI(登録商標)(High-Definition Multimedia Interface)端子等によって実現されてもよい。
【0100】
通信インターフェイス1707は、有線または無線のネットワーク機器と接続される。ある局面において、通信インターフェイス1707は、有線LAN(Local Area Network)ポートおよびWi-Fi(登録商標)(Wireless Fidelity)モジュール等によって実現されてもよい。他の局面において、通信インターフェイス1707は、TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)、UDP(User Datagram Protocol)等の通信プロトコルを用いてデータを送受信してもよい。
【0101】
図18は、監視装置100によるモデルを生成して、当該モデルによる設備150の監視を開始するまでの手順の一例を示す図である。ある局面において、CPU1701は、
図18の処理を行うためのプログラムを2次記憶装置1703から1次記憶装置1702に読み込んで、当該プログラムを実行してもよい。他の局面において、当該処理の一部または全部は、当該処理を実行するように構成された回路素子の組み合わせとしても実現され得る。
【0102】
ステップS1805において、CPU1701は、学習用データ(センサー140の計測データ)を取得する。CPU1701は、データ収集装置130から学習用データを取得し得る。ステップS1810において、CPU1701は、パターン認識モデルの生成パラメータを設定する。ステップS1805,S1810の処理は、
図4を参照して説明した手順に対応する。
【0103】
ステップS1815において、CPU1701は、パターン認識モデルによる監視結果および各センサーの計測データを取得する。ステップS1820において、CPU1701は、得られたセンサー140の計測データの中から目的変数を特定する。本ステップの処理は、
図3および
図5を参照して説明した目的変数の特定手順に対応する。
【0104】
ステップS1825において、CPU1701は、説明変数の候補を特定する。ステップS1830において、CPU1701は、目的変数と、各説明変数との相関関係を計算する。ステップS1835において、CPU1701は、説明変数を選定する。ステップS1825~S1835までの処理は、
図3および
図6~8を参照して説明した説明変数の選定手順に対応する。
【0105】
ステップS1840において、CPU1701は、学習エンジン110に、目的変数、説明変数およびその他の設定を入力する。また、CPU1701は、学習エンジン110に、学習期間および学習除外箇所等の設定も入力し得る。本ステップの処理は、
図9を参照して説明した手順に対応する。
【0106】
ステップS1845において、CPU1701は、モデルの評価回数が規定回数になるまでステップS1850~S1870までの処理を繰り返す。ある局面において、CPU1701は、モデルの評価値が規定の評価値に到達するまでステップS1850~S1870までの処理を繰り返してもよい。
【0107】
ステップS1850において、CPU1701は、学習済みモデルを作成する。より具体的には、学習エンジン110は、ステップS1840にて入力された設定に基づいて、学習処理を実行し、学習済みモデルを出力する。
【0108】
ステップS1855において、CPU1701は、学習済みモデルの出力データを取得する。すなわち、CPU1701は、学習済みモデルに検証用データを入力し、学習済みモデルによる当該検証用データに対する出力データを取得する。
【0109】
ステップS1860において、CPU1701は、学習済みモデルを評価して、学習済みモデルの評価値を得る。本ステップの処理は、
図10~
図14を参照して説明した手順に対応する。
【0110】
ステップS1865において、CPU1701は、学習エンジン110に入力するその他の設定を更新する。ステップS1870において、CPU1701は、学習エンジンに更新した設定を入力する。併せて、CPU1701は、学習エンジン110に、目的変数、説明変数、学習期間および学習除外箇所等も入力する。学習エンジン110は、更新された設定に基づいて、学習処理を実行し、新しい学習済みモデルを出力する。ある局面において、CPU1701は、その他の設定の一部を更新してもよいし、その他の設定の全てを更新してもよい。ステップS1865,S1870の処理は、
図15および
図16を参照して説明した手順に対応する。CPU1701は、モデルの評価回数が規定回数未満、または、モデルの評価値が規定の評価値未満である場合、制御をステップS1845に移す。そうでない場合、CPU1701は、制御をステップS1875に移す。ステップS1875において、CPU1701は、学習済みモデルによる設備150の監視を開始する。
【0111】
以上説明した通り、本実施の形態に従う監視システムおよび監視装置は、学習エンジンに入力する設定を自動で選定する機能と、学習済みモデルの評価に基づいて、学習エンジンに入力する設定を更新する機能とを備える。これらの機能により、監視システムおよび監視装置は、熟練した作業員による学習エンジンへの設定入力を必要とすることなく、精度の高い監視用のモデルを生成することができる。
【0112】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内で全ての変更が含まれることが意図される。また、実施の形態および各変形例において説明された開示内容は、可能な限り、単独でも、組合わせても、実施することが意図される。
【符号の説明】
【0113】
10,20 監視システム、100,200 監視装置、110,210 学習エンジン、120,220 学習支援機能、130 データ収集装置、140 センサー、150 設備、160 施設、205 外部装置、320 目的変数、330 説明変数の候補、340 説明変数、310,410 データ、420 学習期間、430 監視期間、440,1050,1100,1350,1500 グラフ、510,520,530,540,550,620,720,850 テーブル、910,920,930 設定項目、1020,1310 正常時の計測データ、1030 異常時の計測データ、1040A,1420A,1440A 実測値、1040B,1420B,1440B,1440BC 予測値、1110,1120,1130,1140,1240 時刻、1111 基準時刻、1245 区間、1250,1260,1270 期間、1510 最適値、1701 CPU、1702 1次記憶装置、1703 2次記憶装置、1704 外部機器インターフェイス、1705 入力インターフェイス、1706 出力インターフェイス、1707 通信インターフェイス。