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  • 特開-変性セルロースナノファイバー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103969
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】変性セルロースナノファイバー
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/00 20060101AFI20220701BHJP
【FI】
C08B15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218900
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】金井 将浩
(72)【発明者】
【氏名】星 徹
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090BA34
4C090BD19
4C090BD36
4C090CA35
4C090DA31
(57)【要約】
【課題】セルロースの適用範囲を容易に広げることができ、また、優れた疎水性が付与され、疎水性物質との親和性に優れた変性セルロースナノファイバーを提供する。
【解決手段】セルロースの水酸基の少なくとも一部が、エポキシ基を有するシランカップリング剤によって修飾された変性セルロースナノファイバー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースの水酸基の少なくとも一部が、エポキシ基を有するシランカップリング剤によって修飾された変性セルロースナノファイバー。
【請求項2】
前記シランカップリング剤が、少なくともエポキシ基とアルコキシ基を有する請求項1に記載の変性セルロースナノファイバー。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が、エポキシ基とアルコキシ基とアルキル基を有する請求項1または2に記載の変性セルロースナノファイバー。
【請求項4】
前記シランカップリング剤が、下記一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、Xは、エポキシ基を含む有機官能基を示し、R、R、Rは、それぞれ、独立して、クロリド、炭素数1~5個のアルコキシ基または炭素数1~5個のアルキル基を表す。)で表される化合物である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の変性セルロースナノファイバー。
【請求項5】
前記R、前記R、前記Rのうち、少なくとも1つは炭素数1~5個のアルコキシ基であり、少なくとも1つは炭素数1~5個のアルキル基である請求項4に記載の変性セルロースナノファイバー。
【請求項6】
前記シランカップリング剤が、3-グリシドキシプロピル(ジメトキシ)メチルシランを含む請求項1乃至5のいずれか1項に記載の変性セルロースナノファイバー。
【請求項7】
前記セルロースのβ―グルコースユニット1.0モルあたり、0.001モル以上3.0モル以下の前記シランカップリング剤の仕込み割合で修飾されている請求項1乃至6のいずれか1項に記載の変性セルロースナノファイバー。
【請求項8】
平均繊維長が20μm以上200μm以下、平均繊維径が4nm以上100nm以下である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の変性セルロースナノファイバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シランカップリング剤によって修飾された変性ナノセルロースに関し、特に、疎水性物質に対しても親和性を示す変性セルロースナノファイバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノセルロースは、パルプなどの植物繊維を水媒体中で解繊して得られる、太さがナノメートルオーダーのセルロース繊維である。ナノセルロースの構造化セルロースによって、セルロースナノファイバーやセルロースクリスタル、セルロースウィスカー、バクテリアナノセルロースなどに分類される。セルロースナノファイバーは、軽量且つ高強度であることから、例えば、熱可塑性樹脂などの補強材としての利用が注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方で、セルロースナノファイバーは、親水性であることから、有機溶媒への均一分散や樹脂等の疎水性対象への均一な混ぜ込みなどが困難であり、適用範囲が限定されるという問題があった。そこで、例えば、従来、含水状態のセルロースナノファイバーに有機酸ビニルを反応させ、その後に生成物を回収することによって、セルロースナノファイバーに疎水性を付与する技術などが提案されている(例えば、特許文献2参照)。以下、植物繊維などから得られた天然由来のセルロースナノファイバーに対して疎水性などの所望の特性を付与したセルロースナノファイバーを、変性セルロースナノファイバーということがある。
【0004】
しかし、特許文献2に示す変性セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバーと有機酸ビニルとの反応条件が厳しく、また生産工程も煩雑であり、さらには、有機酸ビニルで変性されたセルロースナノファイバーでは、変性の程度によりセルロースナノファイバーの分子構造自体が変化してしまい、セルロースナノファイバーの疎水性の向上の点で改善の余地があった。
【0005】
また、セルロースナノファイバーに疎水性を付与する技術として、芳香族基等の濡れ性から選定した修飾基とポリアルキレングリコール基等の立体反発性と疎水性から選定した修飾基という2種類の修飾基をセルロースナノファイバーの表面に結合させることで、少ない修飾基の質量でセルロースナノファイバーを疎水性へ改質することが提案されている。しかし、芳香族基等とポリアルキレングリコール基等の2種類の修飾基を用いた変性セルロースナノファイバーは、化学構造が複雑であり、依然として、疎水性の向上に改善の余地があった。また、芳香族基等とポリアルキレングリコール基等の2種類の修飾基を用いた変性セルロースナノファイバーは、反応性に優れた官能基を有していないので、適用分野の拡大が難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-11392号公報
【特許文献2】国際公開第2016/010016号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、セルロースの適用範囲を容易に広げることができ、また、優れた疎水性が付与され、疎水性物質との親和性に優れた変性セルロースナノファイバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]セルロースの水酸基の少なくとも一部が、エポキシ基を有するシランカップリング剤によって修飾された変性セルロースナノファイバー。
[2]前記シランカップリング剤が、少なくともエポキシ基とアルコキシ基を有する[1]に記載の変性セルロースナノファイバー。
[3]前記シランカップリング剤が、エポキシ基とアルコキシ基とアルキル基を有する[1]または[2]に記載の変性セルロースナノファイバー。
[4]前記シランカップリング剤が、下記一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、Xは、エポキシ基を含む有機官能基を示し、R、R、Rは、それぞれ、独立して、クロリド、炭素数1~5個のアルコキシ基または炭素数1~5個のアルキル基を表す。)で表される化合物である[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の変性セルロースナノファイバー。
[5]前記R、前記R、前記Rのうち、少なくとも1つは炭素数1~5個のアルコキシ基であり、少なくとも1つは炭素数1~5個のアルキル基である[4]に記載の変性セルロースナノファイバー。
[6]前記シランカップリング剤が、3-グリシドキシプロピル(ジメトキシ)メチルシランを含む[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の変性セルロースナノファイバー。
[7]前記セルロースのβ―グルコースユニット1.0モルあたり、0.001モル以上6.0モル以下の前記シランカップリング剤の仕込み割合で修飾されている[1]乃至[6]のいずれか1つに記載の変性セルロースナノファイバー。
[8]平均繊維長が20μm以上200μm以下、平均繊維径が4nm以上100nm以下である[1]乃至[7]のいずれか1つに記載の変性セルロースナノファイバー。
【0009】
[1]の変性セルロースナノファイバーは、セルロースの水酸基にシランカップリング剤のシラノール基が化学結合することで、セルロースがシランカップリング剤で修飾される。すなわち、変性セルロースナノファイバーは、セルロースの水酸基にシランカップリング剤が化学結合した構造となっている。なお、「セルロースナノファイバー」とは、平均繊維径が1.0μm未満である、すなわち、平均繊維径がナノオーダーであるセルロースファイバーを意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の変性セルロースナノファイバーによれば、セルロースの水酸基の少なくとも一部がエポキシ基を有するシランカップリング剤によって修飾されていることにより、優れた疎水性が付与され、疎水性物質との親和性に優れている。従って、本発明の変性セルロースナノファイバーでは、有機溶媒や樹脂等の疎水性物資への分散を均一化できるので、セルロースナノファイバーの適用範囲を広げることができ、また、セルロースナノファイバーの特性を適用対象へ確実に付与することができる。
【0011】
また、本発明の変性セルロースナノファイバーによれば、官能基として反応性に優れたエポキシ基を有するので、変性セルロースナノファイバーは、エポキシ基を介してさらなる修飾が可能となる。従って、本発明の変性セルロースナノファイバーでは、適用対象となる疎水性物質の範囲を容易に広げることができる。
【0012】
本発明の変性セルロースナノファイバーによれば、シランカップリング剤が、少なくともエポキシ基とアルコキシ基を有することにより、セルロースを確実に修飾して変性セルロースナノファイバーに優れた疎水性を確実に付与することができる。
【0013】
本発明の変性セルロースナノファイバーによれば、シランカップリング剤が、エポキシ基とアルコキシ基とアルキル基を有することにより、セルロースを確実に修飾して優れた疎水性を確実に付与しつつ、変性セルロースナノファイバー同士が凝集することを確実に抑制できるので、有機溶媒や樹脂等の疎水性物質への分散をより確実に均一化できる。
【0014】
本発明の変性セルロースナノファイバーによれば、シランカップリング剤が、下記一般式(1)
【化2】
(一般式(1)中、Xは、エポキシ基を含む有機官能基を示し、R、R、Rは、それぞれ、独立して、クロリド、炭素数1~5個のアルコキシ基または炭素数1~5個のアルキル基を表す。)で表される化合物であることにより、変性セルロースナノファイバーの疎水性が確実に向上する。
【0015】
本発明の変性セルロースナノファイバーによれば、シランカップリング剤が、3-グリシドキシプロピル(ジメトキシ)メチルシランを含むことにより、より優れた疎水性を確実に付与しつつ、変性セルロースナノファイバー同士が凝集することをより確実に抑制できる。
【0016】
本発明の変性セルロースナノファイバーによれば、セルロースのβ―グルコースユニット1.0モルあたり、0.001モル以上3.0モル以下の前記シランカップリング剤の仕込み割合で修飾されていることにより、変性セルロースナノファイバーに優れた疎水性を確実に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)は、実施例1の、分散溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いた分散液サンプルの調製直後の分散状態を示す写真であり、(b)は、実施例2の、分散溶媒としてテトラヒドロフランを用いた分散液サンプルの調製直後の分散状態を示す写真であり、(c)は、比較例1の、分散溶媒としてテトラヒドロフランを用いた分散液サンプルの調製直後の分散状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の変性セルロースナノファイバーは、セルロースの水酸基の少なくとも一部が、エポキシ基を有するシランカップリング剤によって修飾されている。すなわち、本発明の変性セルロースナノファイバーは、シランカップリング剤で変性されたセルロースナノファイバーである。
【0019】
本発明の変性セルロースナノファイバーは、優れた疎水性が付与されており、疎水性物質との親和性に優れている。従って、本発明の変性セルロースナノファイバーは、有機溶媒や樹脂等の疎水性物資への分散を均一化できるので、セルロースナノファイバーの適用範囲を広げることができ、また、セルロースナノファイバーの特性を樹脂等の適用対象へ確実に付与することができる。また、本発明の変性セルロースナノファイバーは、官能基として反応性に優れたエポキシ基を有するので、エポキシ基を介してさらなる修飾が可能となる。従って、本発明の変性セルロースナノファイバーでは、エポキシ基に結合させる化合物を適宜選択することで、適用対象となる疎水性物質の範囲を容易に広げることができる。
【0020】
<セルロース>
本発明の変性セルロースナノファイバーの骨格を形成しているセルロースについて、以下に詳細を説明する。本発明の変性セルロースナノファイバーにおけるセルロースは、平均繊維径が1.0μm未満であるセルロースナノファイバーであれば、セルロースのサイズは、特に限定されないが、シランカップリング剤によるセルロースの修飾部位の均一化と変性セルロースナノファイバーの適用範囲の拡大の点から、平均繊維径は、4nm以上100nm以下が好ましく、10nm以上50nm以下が特に好ましい。また、セルロースの平均繊維長は、特に限定されないが、シランカップリング剤によるセルロースの修飾部位の均一化と変性セルロースナノファイバーの適用範囲の拡大の点から、20μm以上200μm以下が好ましく、50μm以上150μm以下が特に好ましい。セルロースの平均繊維径及び平均繊維長は、例えば、平均繊維径は、走査型プローブ顕微鏡や窒素吸着法、平均繊維長は、電子顕微鏡(透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM))や走査型プローブ顕微鏡で測定することができる。
【0021】
セルロースとしては、天然物由来のセルロースを挙げることができる。具体的には、セルロースとしては、例えば、原料となる天然物由来であるセルロース前駆体に解繊処理を施してナノファイバー化したものを挙げることができる。セルロースの原料であるセルロース前駆体としては、例えば、パルプなどの植物繊維などを挙げることができる。
【0022】
<シランカップリング剤>
シランカップリング剤とは、一分子内に官能基と加水分解性シリル基とを有する化合物であり、水と反応することにより、加水分解性シリル基がシラノール基となるものをいう。シランカップリング剤は、セルロースナノファイバーを構成するセルロースの水酸基を修飾するための置換基を有する。本発明の変性セルロースナノファイバーでは、シランカップリング剤は、官能基としてエポキシ基を有することが必要である。シランカップリング剤のシラノール基が、セルロースナノファイバーを構成するセルロースの水酸基と化学結合することにより、セルロースの水酸基を修飾する。セルロースの水酸基に、シランカップリング剤の加水分解性シリル基が加水分解されて生成したシラノール基が化学結合することで、セルロースがシランカップリング剤で修飾される。
【0023】
シランカップリング剤の有する加水分解性シリル基としては、セルロースを確実に修飾して変性セルロースナノファイバーに優れた疎水性を確実に付与することができる点から、アルコキシ基が好ましい。すなわち、シランカップリング剤としては、少なくともエポキシ基とアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物が好ましい。
【0024】
シランカップリング剤の有する加水分解性シリル基としては、セルロースを確実に修飾して優れた疎水性を確実に付与しつつ、シランカップリング剤を介して変性セルロースナノファイバー同士が凝集することを確実に抑制できる点から、アルコキシ基とアルキル基を有することがより好ましい。すなわち、シランカップリング剤としては、少なくともエポキシ基とアルコキシ基とアルキル基を有する有機ケイ素化合物がより好ましい。変性セルロースナノファイバー同士が凝集することを確実に抑制できることで、有機溶媒や樹脂等の疎水性物質への分散をより確実に均一化できる。
【0025】
シランカップリング剤としては、例えば、変性セルロースナノファイバーの疎水性が確実に向上する点から、下記一般式(1)
【化3】
(一般式(1)中、Xは、エポキシ基を含む有機官能基を示し、R、R、Rは、それぞれ、独立して、クロリド、炭素数1~5個のアルコキシ基または炭素数1~5個のアルキル基を表す。)で表される化合物が好ましい。一般式(1)の化合物では、R、R、RとSiとの化学結合で、加水分解性シリル基が形成されている。
【0026】
一般式(1)の化合物におけるR、R、Rとしては、セルロースをより確実に修飾できる点から、それぞれ、独立して、炭素数1~3個のアルコキシ基または炭素数1~3個のアルキル基がより好ましく、炭素数1~2個のアルコキシ基または炭素数1~2個のアルキル基が特に好ましい。また、セルロースをより確実に修飾して優れた疎水性を確実に付与しつつ、変性セルロースナノファイバー同士が凝集することをより確実に抑制できる点から、一般式(1)の化合物におけるR、R、Rのうち、少なくとも1つは炭素数1~5個のアルコキシ基であり、少なくとも1つは炭素数1~5個のアルキル基であることが好ましい。
【0027】
一般式(1)の化合物におけるXは、エポキシ基を含む有機官能基であれば、特に限定されないが、優れた疎水性を確実に付与する点から、Xとしては、下記一般式(2)
E-R-O-R- (2)
(一般式(2)中、Eはエポキシ基、R、Rは、それぞれ、独立して、炭素数1~5個の脂肪族炭化水素基、好ましくは炭素数1~3個の脂肪族炭化水素基を表す。)で表される有機官能基が好ましい。
【0028】
シランカップリング剤としては、具体的には、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。このうち、より優れた疎水性を確実に付与しつつ、変性セルロースナノファイバー同士が凝集することをより確実に抑制できる点から、3-グリシドキシプロピル(ジメトキシ)メチルシランが好ましい。
【0029】
<変性セルロースナノファイバー>
変性セルロースナノファイバーのシランカップリング剤の仕込み割合は、特に限定されないが、その下限値は、セルロースに優れた疎水性を確実に付与する点から、セルロースのβ―グルコースユニット1.0モルあたり、0.001モルのシランカップリング剤の仕込み割合が好ましく、0.005モルのシランカップリング剤の仕込み割合がより好ましく、0.020モルのシランカップリング剤の仕込み割合がさらに好ましく、0.20モルのシランカップリング剤の仕込み割合が特に好ましい。一方で、変性セルロースナノファイバーのシランカップリング剤の仕込み割合の上限値は、セルロースナノファイバーの結晶構造を維持することで高い強度が損なわれるのを防止する点から、セルロースのβ―グルコースユニット1.0モルあたり、3.0モルが好ましく、セルロースナノファイバーの結晶構造をより確実に維持する点から、セルロースのβ―グルコースユニット1.0モルあたり、1.0モルが特に好ましい。上記したシランカップリング剤の仕込み割合は、セルロースの構成単位であるβ―グルコース1個当たりの、シランカップリング剤の個数割合を意味することとなる。
【0030】
変性セルロースナノファイバーの疎水性(すなわち、疎水性物質との親和性)については、得られた変性セルロースナノファイバーを有機溶媒中に分散させた直後における変性セルロースナノファイバーの有機溶媒中における分散状態や、変性セルロースナノファイバーを有機溶媒中に分散させて、変性セルロースナノファイバーが有機溶媒中で凝集・沈降状態となるまでに要する時間を目視で確認することで評価することができる。変性セルロースナノファイバーが有機溶媒中で凝集・沈降状態となるまでに要する時間が所定時間以上であれば、変性セルロースナノファイバーは、有機溶媒中で優れた分散性を有し、疎水性であることが証明される。
【0031】
変性セルロースナノファイバーの分散性を評価する際に使用する有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、アセトン、エタノール、プロパノール等の炭素数1~5個のアルコール等を挙げることができる。
【0032】
また、セルロースの水酸基の少なくとも一部が、エポキシ基を有するシランカップリング剤によって修飾されていることは、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)にて確認することができる。すなわち、シランカップリング剤によって修飾されていない、未処理のセルロースナノファイバーの赤外線吸収スペクトルと、変性セルロースナノファイバーの赤外線吸収スペクトルと、を比較することで、セルロースの水酸基の少なくとも一部がエポキシ基を有するシランカップリング剤によって修飾されていることを確認できる。
【0033】
具体的には、本発明の変性セルロースナノファイバーでは、シランカップリング剤が、アルキル基を有する場合には、赤外線吸収スペクトルの1260cm-1、798cm-1、763cm-1の領域にSi-C結合由来の吸収ピークが現れるのに対し、未処理のセルロースナノファイバーでは、1260cm-1、798cm-1、763cm-1の領域に吸収ピークが現れない。従って、赤外線吸収スペクトルの1260cm-1、798cm-1、763cm-1の領域における吸収ピークの有無を確認することで、セルロースがシランカップリング剤によって修飾されているか否かを確認することができる。
【0034】
また、本発明の変性セルロースナノファイバーでは、シランカップリング剤が、アルキル基を有さない場合でも、赤外線吸収スペクトルの900cm-1付近の領域にエポキシ基由来の吸収ピークが現れる。未処理のセルロースナノファイバーでも赤外線吸収スペクトルの900cm-1付近の領域に吸収ピークが現れるが、変性セルロースナノファイバーでは、900cm-1付近の領域においてはエポキシ基由来の吸収ピークとセルロースナノファイバー由来の吸収ピークが重なることでピーク強度が強くなる。従って、900cm-1付近の領域におけるピーク強度の強さを確認することで、セルロースがシランカップリング剤によって修飾されているか否かを確認することができる。
【0035】
本発明の変性セルロースナノファイバーのサイズは、特に限定されないが、骨格を形成するセルロースの平均繊維径が1.0μm未満であることに対応して、例えば、平均繊維径1.0μm未満が挙げられる。変性セルロースナノファイバーのサイズは、シランカップリング剤によるセルロースの修飾部位の均一化と変性セルロースナノファイバーの適用範囲の拡大の点から、平均繊維径は、4nm以上100nm以下が好ましく、10nm以上50nm以下が特に好ましい。また、変性セルロースナノファイバーの平均繊維長は、シランカップリング剤によるセルロースの修飾部位の均一化と変性セルロースナノファイバーの適用範囲の拡大の点から、20μm以上200μm以下が好ましく、50μm以上150μm以下が特に好ましい。
【0036】
本発明の変性セルロースナノファイバーは、優れた疎水性が付与されており、疎水性物質との親和性に優れているので、樹脂等の疎水性物質に対する混合分散性に優れている。また、本発明の変性セルロースナノファイバーは、変性されていてもセルロースナノファイバーの分子構造自体が変化することが抑制されているので、セルロースナノファイバー本来の特性が維持されている。従って、本発明の変性セルロースナノファイバーは、高強度を有していることから、例えば、疎水性物質に対する補強材として優れた機能を発揮する。
【0037】
<変性セルロースナノファイバーの製造方法>
本発明の変性セルロースナノファイバーは、例えば、変性セルロースナノファイバーの骨格を形成しているセルロース(セルロースナノファイバー)が水に分散したセルロース水分散体を用意するセルロース用意工程と、用意したセルロース水分散体にエポキシ基を有するシランカップリング剤を混合して反応液を得る反応液作製工程と、得られた反応液を乾燥処理してセルロースの水酸基がエポキシ基を有するシランカップリング剤によって修飾された変性セルロースナノファイバーを得る乾燥工程にて、製造することができる。
【0038】
セルロース用意工程としては、例えば、原料となる天然物由来であるセルロース前駆体に解繊処理を施してセルロース前駆体をナノファイバー化してセルロースナノファイバーを得る方法を挙げることができる。セルロース前駆体を解繊処理する方法は、特に限定されず、例えば、ミキサー、高速ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、高速回転ミキサー、グラインダー、凍結粉砕、メディアミル、ボールミル等を用いた解繊処理を挙げることができる。
【0039】
反応液作製工程としては、例えば、水にセルロースナノファイバーが分散しているセルロース水分散体に、所定量のエポキシ基を有するシランカップリング剤を添加する方法が挙げられる。また、乾燥工程としては、作製した反応液に乾燥処理を施すことで、反応液から水を除去する方法が挙げられる。
【実施例0040】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0041】
<変性セルロースナノファイバーの作製>
実施例1
セルロースナノファイバー水分散体(平均繊維長100μm、平均繊維径30~40nm、モリマシナリー株式会社製「CellFim C-100(水分量約95質量%)」)をセルロースナノファイバー成分で0.2gを水95gに分散させ、3-グリシドキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン(以下、「GOPDMS」ということがある。エポキシ基を有するシランカップリング剤に相当)を下記仕込み割合となるように所定量添加して、所定時間撹拌することで、セルロースナノファイバーとシランカップリング剤が混合した反応液を調製した。得られた反応液を乾燥処理することで、セルロースナノファイバーがGOPDMSで修飾された実施例1の変性セルロースナノファイバーを作製した。なお、実施例1では、セルロースナノファイバーとGOPDMSの配合割合から、セルロースのβ―グルコースユニット1.0モルあたりGOPDMSの仕込み割合は3.0モルとなっている。
【0042】
セルロースナノファイバーがGOPDMSで修飾されていることは、実施例1で得られた化合物をFT-IR(株式会社パーキンエルマー社製「Spectrum One(A)」)で分析して、得られた赤外線吸収スペクトルの1260cm-1、798cm-1、763cm-1の領域にSi-C結合由来の吸収ピークが現れ、また、GOPDMSで修飾する前のセルロースナノファイバーと比較して、赤外線吸収スペクトルの900cm-1付近の領域におけるピーク強度が強いことで確認をした。
【0043】
実施例2
GOPDMSを使用するのに代えて、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(以下、「GOPTS」ということがある。エポキシ基を有するシランカップリング剤に相当)を、下記仕込み割合となるように所定量を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の変性セルロースナノファイバーを作製した。なお、実施例2では、セルロースナノファイバーとGOPTSの配合割合から、セルロースのβ―グルコースユニット1.0モルあたりGOPTSの仕込み割合は3.0モルとなっている。
【0044】
セルロースナノファイバーがGOPTSで修飾されていることは、実施例2で得られた化合物を実施例1と同じくFT-IRで分析して、得られた赤外線吸収スペクトルの900cm-1付近の領域におけるピーク強度が、GOPTSで修飾する前のセルロースナノファイバーの900cm-1付近の領域におけるピーク強度と比較して強いことで確認をした。
【0045】
比較例1
実施例1、2で使用したセルロースナノファイバー、すなわち、シランカップリング剤で修飾されていないセルロースナノファイバーを使用した。
【0046】
<評価項目>
(1)分散性(疎水性)
実施例1、2の変性セルロースナノファイバー試料、比較例1の未変性セルロースナノファイバー試料について、0.02gを計り取り、容器中の20mlのテトラヒドロフランに添加し、撹拌速度1350rpmにて24時間スターラーで撹拌して第1の分散液を調製した。さらに、調製した第1の分散液を1.0ml採取して、別の容器中に入れ、テトラヒドロフランを10ml添加して、第2の分散液を調製し、分散液サンプルとした。
【0047】
第2の分散液の調製直後(調製から5秒後)におけるテトラヒドロフラン中におけるセルロースナノファイバー試料の分散状態を目視にて観察し、以下のように評価した。
◎:セルロースナノファイバー試料の分散状態が非常に優れており、セルロースナノファイバー試料に優れた疎水性が認められる。
○:セルロースナノファイバー試料の凝集状態が若干見られるものの、良好な分散状態であり、セルロースナノファイバー試料に疎水性が認められる。
×:セルロースナノファイバー試料の多くが凝集状態となっており、セルロースナノファイバー試料に疎水性が認められない。
【0048】
(2)沈降時間
上記のようにして調製した分散液サンプルについて、第2の分散液の調製直後からセルロースナノファイバー試料の沈降量が安定するまでの時間を沈降時間として計測した。沈降時間は、実施例1、2、比較例1について、それぞれ、n=3にて試験を行い、その平均値から以下のように評価した。
◎:沈降時間100秒以上
○:沈降時間40秒以上100秒未満
×:沈降時間40秒未満
【0049】
評価結果を下記表1に示す。また、分散性の評価について、図1(a)に、実施例1の、分散溶媒としてテトラヒドロフランを用いた分散液サンプルの調製直後の分散状態の写真を示し、図1(b)に、実施例2の、分散溶媒としてテトラヒドロフランを用いた分散液サンプルの調製直後の分散状態の写真を示し、図1(c)に、比較例1の、分散溶媒としてテトラヒドロフランを用いた分散液サンプルの調製直後の分散状態の写真を示す。
【0050】
【表1】
【0051】
上記表1から、エポキシ基を有するシランカップリング剤で修飾した変性セルロースナノファイバーである実施例1、2では、分散性が○評価以上、沈降時間も○評価以上であり、疎水性物質である有機溶媒に対して、優れた分散特性を発揮した。特に、3-グリシドキシプロピル(ジメトキシ)メチルシランを使用した実施例1は、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを使用した実施例2と比較して、分散性と沈降時間ともにさらに優れていた。これは、シランカップリング剤の加水分解性シリル基が加水分解されて生成したシラノール基の数の違いが一因と考えられる。
【0052】
一方で、エポキシ基を有するシランカップリング剤で修飾しなかった未変性セルロースナノファイバーである比較例1では、疎水性物質に対する分散性が得られず、沈降時間も短時間であり、分散特性が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の変性セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバーの分子構造自体が維持されつつ、優れた疎水性が付与され、疎水性物質との親和性に優れているので、広汎な分野で利用可能であり、例えば、成形品の材料となる樹脂組成物の分野で利用価値が高い。
図1