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特開2022-103970変性セルロースナノファイバーの製造方法
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  • 特開-変性セルロースナノファイバーの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103970
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】変性セルロースナノファイバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/05 20060101AFI20220701BHJP
【FI】
C08B15/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218901
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】金井 将浩
(72)【発明者】
【氏名】星 徹
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090BA34
4C090BB68
4C090BD04
4C090CA35
4C090DA11
4C090DA31
(57)【要約】
【課題】セルロースの適用範囲を容易に広げることができ、また、優れた疎水性が付与されて疎水性物質との親和性に優れた変性セルロースナノファイバーを、簡易な生産工程で製造できる、変性セルロースナノファイバーの製造方法を提供する。
【解決手段】水にセルロースナノファイバーを分散させたセルロースナノファイバー分散液を用意する、セルロースナノファイバー分散液用意工程と、前記セルロースナノファイバー分散液に、エポキシ基を有するシランカップリング剤を添加してシランカップリング剤含有分散液を得る、シランカップリング剤含有分散液調製工程と、前記シランカップリング剤含有分散液に乾燥処理を施して、前記シランカップリング剤で前記セルロースナノファイバーを修飾する乾燥工程と、を有する変性セルロースナノファイバーの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水にセルロースナノファイバーを分散させたセルロースナノファイバー分散液を用意する、セルロースナノファイバー分散液用意工程と、
前記セルロースナノファイバー分散液に、エポキシ基を有するシランカップリング剤を添加してシランカップリング剤含有分散液を得る、シランカップリング剤含有分散液調製工程と、
前記シランカップリング剤含有分散液に乾燥処理を施して、前記シランカップリング剤で前記セルロースナノファイバーを修飾する乾燥工程と、を有する
変性セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
前記乾燥処理が、凍結乾燥法を用いた乾燥処理である請求項1に記載の変性セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項3】
前記シランカップリング剤含有分散液調製工程と前記乾燥工程との間に、透析膜を用いて前記シランカップリング剤含有分散液を透析する透析工程を、さらに有する請求項1または2に記載の変性セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
前記シランカップリング剤が、少なくともエポキシ基とアルコキシ基を有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の変性セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項5】
前記シランカップリング剤が、エポキシ基とアルコキシ基とアルキル基を有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の変性セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
前記シランカップリング剤が、下記一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、Xは、エポキシ基を含む有機官能基を示し、R、R、Rは、それぞれ、独立して、クロリド、炭素数1~5個のアルコキシ基または炭素数1~5個のアルキル基を表す。)で表される化合物である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の変性セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項7】
前記R、前記R、前記Rのうち、少なくとも1つは炭素数1~5個のアルコキシ基であり、少なくとも1つは炭素数1~5個のアルキル基である請求項6に記載の変性セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項8】
前記シランカップリング剤が、3-グリシドキシプロピル(ジメトキシ)メチルシランを含む請求項1乃至7のいずれか1項に記載の変性セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項9】
前記シランカップリング剤含有分散液調製工程において、前記シランカップリング剤を、前記セルロースナノファイバーのβ―グルコースユニット1.0モルあたり、0.001モル以上6.0モル以下添加する請求項1乃至8のいずれか1項に記載の変性セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項10】
前記変性セルロースナノファイバーの平均繊維長が20μm以上200μmnm以下、平均繊維径が4nm以上100nm以下である請求項1乃至9のいずれか1項に記載の変性セルロースナノファイバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シランカップリング剤によって修飾された変性ナノセルロースの製造方法に関し、特に、疎水性物質に対しても親和性を示す変性セルロースナノファイバーの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノセルロースは、パルプなどの植物繊維を水媒体中で解繊して得られる、太さがナノメートルオーダーのセルロース繊維である。ナノセルロースの構造化セルロースによって、セルロースナノファイバーやセルロースクリスタル、セルロースウィスカー、バクテリアナノセルロースなどに分類される。セルロースナノファイバーは、軽量且つ高強度であることから、例えば、熱可塑性樹脂などの補強材としての利用が注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方で、セルロースナノファイバーは、親水性であることから、有機溶媒への均一分散や樹脂等の疎水性対象への均一な混ぜ込みなどが困難であり、適用範囲が限定されるという問題があった。そこで、例えば、従来、含水状態のセルロースナノファイバーに有機酸ビニルを反応させ、その後に生成物を回収することによって、セルロースナノファイバーに疎水性を付与する疎水性のセルロースナノファイバーの製造方法の技術などが提案されている(例えば、特許文献2参照)。以下、植物繊維などから得られた天然由来のセルロースナノファイバーに対して疎水性などの所望の特性を付与したセルロースナノファイバーを、変性セルロースナノファイバーということがある。
【0004】
しかし、特許文献2に示す変性セルロースナノファイバーの製造方法は、セルロースナノファイバーと有機酸ビニルとの反応条件が厳しく、また生産工程も複雑であり、さらには、有機酸ビニルで変性された変性セルロースナノファイバーの製造方法では、セルロースナノファイバーの変性の程度によりセルロースナノファイバーの分子構造自体が変化してしまい、セルロースナノファイバーの疎水性の向上の点で改善の余地があった。
【0005】
また、セルロースナノファイバーに疎水性を付与する技術として、芳香族基等の濡れ性から選定した修飾基とポリアルキレングリコール基等の立体反発性と疎水性から選定した修飾基という2種類の修飾基をセルロースナノファイバーの表面に結合させることで、少ない修飾基の質量でセルロースナノファイバーを疎水性へ改質する変性セルロースナノファイバーの製造方法が提案されている。しかし、芳香族基等とポリアルキレングリコール基等の2種類の修飾基を用いた変性セルロースナノファイバーの製造方法は、生産工程が複雑であり、生産性の向上に改善の余地があった。また、芳香族基等とポリアルキレングリコール基等の2種類の修飾基を用いた変性セルロースナノファイバーは、反応性に優れた官能基を有していないので、適用分野の拡大が難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-11392号公報
【特許文献2】国際公開第2016/010016号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、セルロースの適用範囲を容易に広げることができ、また、優れた疎水性が付与されて疎水性物質との親和性に優れた変性セルロースナノファイバーを、簡易な生産工程で製造できる、変性セルロースナノファイバーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]水にセルロースナノファイバーを分散させたセルロースナノファイバー分散液を用意する、セルロースナノファイバー分散液用意工程と、
前記セルロースナノファイバー分散液に、エポキシ基を有するシランカップリング剤を添加してシランカップリング剤含有分散液を得る、シランカップリング剤含有分散液調製工程と、
前記シランカップリング剤含有分散液に乾燥処理を施して、前記シランカップリング剤で前記セルロースナノファイバーを修飾する乾燥工程と、を有する
変性セルロースナノファイバーの製造方法。
[2]前記乾燥処理が、凍結乾燥法を用いた乾燥処理である[1]に記載の変性セルロースナノファイバーの製造方法。
[3]前記シランカップリング剤含有分散液調製工程と前記乾燥工程との間に、透析膜を用いて前記シランカップリング剤含有分散液を透析する透析工程を、さらに有する[1]または[2]に記載の変性セルロースナノファイバーの製造方法。
[4]前記シランカップリング剤が、少なくともエポキシ基とアルコキシ基を有する[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の変性セルロースナノファイバーの製造方法。
[5]前記シランカップリング剤が、エポキシ基とアルコキシ基とアルキル基を有する[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の変性セルロースナノファイバーの製造方法。 [6]前記シランカップリング剤が、下記一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、Xは、エポキシ基を含む有機官能基を示し、R、R、Rは、それぞれ、独立して、クロリド、炭素数1~5個のアルコキシ基または炭素数1~5個のアルキル基を表す。)で表される化合物である[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の変性セルロースナノファイバーの製造方法。
[7]前記R、前記R、前記Rのうち、少なくとも1つは炭素数1~5個のアルコキシ基であり、少なくとも1つは炭素数1~5個のアルキル基である[6]に記載の変性セルロースナノファイバーの製造方法。
[8]前記シランカップリング剤が、3-グリシドキシプロピル(ジメトキシ)メチルシランを含む[1]乃至[7]のいずれか1つに記載の変性セルロースナノファイバーの製造方法。
[9]前記シランカップリング剤含有分散液調製工程において、前記シランカップリング剤を、前記セルロースナノファイバーのβ―グルコースユニット1.0モルあたり、0.001モル以上6.0モル以下添加する[1]乃至[8]のいずれか1つに記載の変性セルロースナノファイバーの製造方法。
[10]前記変性セルロースナノファイバーの平均繊維長が20μm以上200μm以下、平均繊維径が4nm以上100nm以下である[1]乃至[9]のいずれか1つに記載の変性セルロースナノファイバーの製造方法。
【0009】
[1]の変性セルロースナノファイバーの製造方法では、セルロースの水酸基にシランカップリング剤のシラノール基を化学結合させることで、セルロースがシランカップリング剤で修飾された変性セルロースナノファイバーを製造する。すなわち、変性セルロースナノファイバーは、セルロースの水酸基にシランカップリング剤が化学結合した構造となっている。なお、「セルロースナノファイバー」とは、平均繊維径が1.0μm未満である、すなわち、平均繊維径がナノオーダーであるセルロースファイバーを意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法によれば、セルロースナノファイバー分散液にエポキシ基を有するシランカップリング剤を添加して、乾燥処理を施すことで、セルロースの水酸基の少なくとも一部がエポキシ基を有するシランカップリング剤によって修飾されている変性セルロースナノファイバーを製造できる。従って、簡易な生産工程にて変性セルロースナノファイバーを製造することができ、優れた生産効率が得られる。また、本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法によれば、優れた疎水性を付与し、疎水性物質との親和性に優れている変性セルロースナノファイバーを製造することができる。従って、本発明の製造方法で得られる変性セルロースナノファイバーは、有機溶媒や樹脂等の疎水性物質への分散が均一化されるので、セルロースナノファイバーの適用範囲を広げることができ、また、セルロースナノファイバーの特性を適用対象へ確実に付与することができる。
【0011】
また、本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法によれば、官能基として反応性に優れたエポキシ基を有する変性セルロースナノファイバーを得ることができるので、得られた変性セルロースナノファイバーは、エポキシ基を介してさらなる修飾が可能となる。従って、本発明の製造方法で得られる変性セルロースナノファイバーでは、適用対象となる疎水性物質の範囲を容易に広げることができる。
【0012】
本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法によれば、凍結乾燥法を用いた乾燥処理であることにより、乾燥処理作業を容易化することができる。
【0013】
本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法によれば、シランカップリング剤含有分散液調製工程と乾燥工程との間に、シランカップリング剤含有分散液を透析する透析工程を、さらに有することにより、シランカップリング剤含有分散液中の残留するシランカップリング剤を除去することができるので、変性セルロースナノファイバーの純度が向上する。
【0014】
本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法によれば、シランカップリング剤が、少なくともエポキシ基とアルコキシ基を有することにより、セルロースを確実に修飾して、優れた疎水性が確実に付与された変性セルロースナノファイバーを製造することができる。
【0015】
本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法によれば、シランカップリング剤が、エポキシ基とアルコキシ基とアルキル基を有することにより、セルロースを確実に修飾して優れた疎水性が確実に付与されつつ、変性セルロースナノファイバー同士が凝集することを確実に抑制できる変性セルロースナノファイバーを製造することができる。従って、有機溶媒や樹脂等の疎水性物質への分散をより確実に均一化できる変性セルロースナノファイバーを製造することができる。
【0016】
本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法によれば、シランカップリング剤が、下記一般式(1)
【化2】
(一般式(1)中、Xは、エポキシ基を含む有機官能基を示し、R、R、Rは、それぞれ、独立して、クロリド、炭素数1~5個のアルコキシ基または炭素数1~5個のアルキル基を表す。)で表される化合物であることにより、疎水性が確実に向上した変性セルロースナノファイバーを製造することができる。
【0017】
本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法によれば、シランカップリング剤が、3-グリシドキシプロピル(ジメトキシ)メチルシランを含むことにより、より優れた疎水性が確実に付与されつつ、変性セルロースナノファイバー同士が凝集することをより確実に抑制できる変性セルロースナノファイバーを製造することができる。
【0018】
本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法によれば、シランカップリング剤含有分散液調製工程において、シランカップリング剤をセルロースナノファイバーのβ―グルコースユニット1.0モルあたり0.001モル以上6.0モル以下添加することにより、変性セルロースナノファイバーに優れた疎水性を確実に付与しつつ、シランカップリング剤含有分散液中におけるシランカップリング剤の残留を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)図は、実施例1の、分散溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いた分散液サンプルの調製直後の分散状態を示す写真であり、(b)図は、実施例2の、分散溶媒としてテトラヒドロフランを用いた分散液サンプルの調製直後の分散状態を示す写真であり、(c)図は、比較例1の、分散溶媒としてテトラヒドロフランを用いた分散液サンプルの調製直後の分散状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法では、セルロースの水酸基の少なくとも一部が、エポキシ基を有するシランカップリング剤によって修飾されている変性セルロースナノファイバーを製造することができる。すなわち、本発明の製造方法で得られる変性セルロースナノファイバーは、シランカップリング剤で変性されたセルロースナノファイバーである。
【0021】
<変性セルロースナノファイバーの製造方法>
以下に、本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法について詳細を説明する。本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法は、(1)水にセルロースナノファイバーを分散させたセルロースナノファイバー分散液を用意する、セルロースナノファイバー分散液用意工程と、(2)前記セルロースナノファイバー分散液に、エポキシ基を有するシランカップリング剤を添加してシランカップリング剤含有分散液を得る、シランカップリング剤含有分散液調製工程と、(3)前記シランカップリング剤含有分散液に乾燥処理を施して、前記シランカップリング剤で前記セルロースナノファイバーを修飾させる乾燥工程と、を有する。
【0022】
本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法によれば、セルロースナノファイバー分散液にエポキシ基を有するシランカップリング剤を添加して、乾燥処理を施すことで、セルロースの水酸基の少なくとも一部がエポキシ基を有するシランカップリング剤によって修飾されている変性セルロースナノファイバーを製造できるので、簡易な生産工程にて変性セルロースナノファイバーを製造することができる。従って、本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法では、変性セルロースナノファイバーの生産効率に優れている。また、本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法によれば、優れた疎水性を付与し、疎水性物質との親和性に優れている変性セルロースナノファイバーを製造することができる。従って、本発明の製造方法で得られる変性セルロースナノファイバーでは、有機溶媒や樹脂等の疎水性物質への分散が均一化されるので、セルロースナノファイバーの適用範囲を広げることができ、また、セルロースナノファイバーの特性を適用対象へ確実に付与することができる。
【0023】
また、本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法によれば、官能基として反応性に優れたエポキシ基を有する変性セルロースナノファイバーを得ることができるので、得られた変性セルロースナノファイバーは、エポキシ基を介してさらなる修飾が可能となる。従って、本発明の製造方法で得られる変性セルロースナノファイバーでは、適用対象となる疎水性物質の範囲を疎水性物質の特性に応じて容易に広げることができる。
【0024】
(1)セルロースナノファイバー分散液用意工程
セルロースナノファイバー分散液用意工程は、変性セルロースナノファイバーの原料として用いられるセルロースナノファイバー(以下、「原料セルロースナノファイバー」ということがある。)を水に分散させたセルロースナノファイバー水分散体を用意する工程である。原料セルロースナノファイバーは、変性セルロースナノファイバーの骨格を形成する。
【0025】
原料セルロースナノファイバーは、特定の疎水化処理などが施されていないことがあり、原料セルロースナノファイバーは、一般的に、親水性を有している。原料セルロースナノファイバーの調製方法としては、例えば、原料となる天然物由来であるセルロース前駆体に解繊処理を施してセルロース前駆体をナノファイバー化してセルロースナノファイバーを得る方法を挙げることができる。セルロースナノファイバーの原料であるセルロース前駆体としては、例えば、パルプなどの植物繊維などを挙げることができる。セルロース前駆体を解繊処理する方法は、特に限定されず、例えば、ミキサー、高速ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、高速回転ミキサー、グラインダー、凍結粉砕、メディアミル、ボールミル等を用いた解繊処理を挙げることができる。
【0026】
原料セルロースナノファイバーのサイズは、平均繊維径が1.0μm未満であれば、特に限定されないが、シランカップリング剤によるセルロースの修飾部位の均一化と変性セルロースナノファイバーの適用範囲の拡大の点から、平均繊維径は、4nm以上100nm以下が好ましく、10nm以上50nm以下が特に好ましい。また、原料セルロースナノファイバーの平均繊維長は、特に限定されないが、シランカップリング剤によるセルロースの修飾部位の均一化と変性セルロースナノファイバーの適用範囲の拡大の点から、20μm以上200μm以下が好ましく、50μm以上150μm以下が特に好ましい。原料セルロースナノファイバーの平均繊維径及び平均繊維長は、例えば、平均繊維径は、走査型プローブ顕微鏡や窒素吸着法、平均繊維長は、電子顕微鏡(透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM))や走査型プローブ顕微鏡で測定することができる。
【0027】
上記のようにして、あらかじめ水に分散された原料セルロースナノファイバーを、セルロースナノファイバー分散液として用意することができる。セルロースナノファイバー分散液中における原料セルロースナノファイバーの含有量は、特に限定されないが、その下限値は、マグネチックスターラー等の撹拌機を用いて、十分に撹拌できる状態まで水で適宜希釈するところ、特に、撹拌機、撹拌容器、原料セルロースナノファイバーの量によって適当な分散状態を決定するにあたり、原料セルロースナノファイバーの水への分散を確実に均一化しつつ、変性セルロースナノファイバーの生産効率を向上させる点から、水100質量部に対して、0.05質量部が好ましく、0.1質量部が特に好ましい。一方で、セルロースナノファイバー分散液中におけるセルロースナノファイバーの含有量の上限値は、マグネチックスターラー等の撹拌機を用いて、十分に撹拌できる状態まで水で適宜希釈するところ、特に、撹拌機、撹拌容器、原料セルロースナノファイバーの量によって適当な分散状態を決定するにあたり、原料セルロースナノファイバーの水への分散を確実に均一化しつつ、後述する乾燥工程にて、シランカップリング剤で原料セルロースナノファイバーを確実に均一に修飾させる点から、1.0質量部が好ましく、0.8質量部が特に好ましい。
【0028】
上記のようにして用意した原料セルロースナノファイバーを水に分散させる方法としては、例えば、原料セルロースナノファイバーを水に添加して、所定の撹拌条件にて撹拌する方法が挙げられる。撹拌条件は、原料セルロースナノファイバーのサイズや水への添加量に応じて、適宜選択可能であり、例えば、撹拌温度10℃以上60℃以下、撹拌時間1分以上120分以下、撹拌速度600rpm以上1350rpm以下が挙げられる。また、撹拌手段としては、特に限定されず、例えば、スターラー、撹拌翼等が挙げられる。
【0029】
(2)シランカップリング剤含有分散液調製工程
シランカップリング剤含有分散液調製工程は、(1)セルロースナノファイバー分散液用意工程で用意されたセルロースナノファイバー水分散体に、エポキシ基を有するシランカップリング剤を添加することで、原料セルロースナノファイバーとシランカップリング剤とを含有する分散液を得る工程である。本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法では、親水性の原料セルロースナノファイバーを水に分散させたセルロースナノファイバー分散液を反応系とすることができ、原料セルロースナノファイバーに対する前処理を必要としない。また、シランカップリング剤を原料セルロースナノファイバーの疎水化のための改質剤として利用することができる。従って、本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法では、簡易な操作によって原料セルロースナノファイバーの疎水化を行うことができる。
【0030】
上記シランカップリング剤とは、一分子内に官能基と加水分解性シリル基とを有する化合物であり、水と反応することにより、加水分解性シリル基がシラノール基となるものをいう。シランカップリング剤は、セルロースナノファイバーを構成するセルロースの水酸基を修飾するための置換基を有する。本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法では、シランカップリング剤は、官能基としてエポキシ基を有することが必要である。シランカップリング剤のシラノール基が、セルロースナノファイバーを構成するセルロースの水酸基と化学結合することにより、セルロースの水酸基を修飾する。セルロースの水酸基に、シランカップリング剤の加水分解性シリル基が加水分解されて生成したシラノール基が化学結合することで、セルロースがシランカップリング剤で修飾される。
【0031】
シランカップリング剤の有する加水分解性シリル基としては、セルロースを確実に修飾して、優れた疎水性が確実に付与された変性セルロースナノファイバーを製造することができる点から、アルコキシ基が好ましい。すなわち、シランカップリング剤としては、少なくともエポキシ基とアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物が好ましい。
【0032】
また、シランカップリング剤の有する加水分解性シリル基としては、セルロースを確実に修飾して優れた疎水性が確実に付与されつつ、変性セルロースナノファイバー同士が凝集することを確実に抑制できる変性セルロースナノファイバーを製造することができる点から、アルコキシ基とアルキル基を有することがより好ましい。すなわち、シランカップリング剤としては、少なくともエポキシ基とアルコキシ基とアルキル基を有する有機ケイ素化合物がより好ましい。変性セルロースナノファイバー同士が凝集することを確実に抑制できることで、有機溶媒や樹脂等の疎水性物質への分散をより確実に均一化できる。
【0033】
シランカップリング剤としては、例えば、疎水性が確実に向上した変性セルロースナノファイバーを製造することができる点から、下記一般式(1)
【化3】
(一般式(1)中、Xは、エポキシ基を含む有機官能基を示し、R、R、Rは、それぞれ、独立して、クロリド、炭素数1~5個のアルコキシ基または炭素数1~5個のアルキル基を表す。)で表される化合物が好ましい。一般式(1)の化合物では、R、R、RとSiとの化学結合で、加水分解性シリル基が形成されている。
【0034】
一般式(1)の化合物におけるR、R、Rとしては、セルロースをより確実に修飾できる点から、それぞれ、独立して、炭素数1~3個のアルコキシ基または炭素数1~3個のアルキル基がより好ましく、炭素数1~2個のアルコキシ基または炭素数1~2個のアルキル基が特に好ましい。また、セルロースをより確実に修飾して優れた疎水性を確実に付与しつつ、変性セルロースナノファイバー同士が凝集することをより確実に抑制できる変性セルロースナノファイバーを製造することができる点から、一般式(1)の化合物におけるR、R、Rのうち、少なくとも1つは炭素数1~5個のアルコキシ基であり、少なくとも1つは炭素数1~5個のアルキル基であることが好ましい。
【0035】
一般式(1)の化合物におけるXは、エポキシ基を含む有機官能基であれば、特に限定されないが、優れた疎水性が確実に付与された変性セルロースナノファイバーを製造することができる点から、Xとしては、下記一般式(2)
E-R-O-R- (2)
(一般式(2)中、Eはエポキシ基、R、Rは、それぞれ、独立して、炭素数1~5個の脂肪族炭化水素基、好ましくは炭素数1~3個の脂肪族炭化水素基を表す。)で表される有機官能基が好ましい。
【0036】
シランカップリング剤としては、具体的には、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。このうち、より優れた疎水性が確実に付与されつつ、変性セルロースナノファイバー同士が凝集することをより確実に抑制できる変性セルロースナノファイバーを製造することができる点から、3-グリシドキシプロピル(ジメトキシ)メチルシランが好ましい。
【0037】
シランカップリング剤含有分散液調製工程におけるシランカップリング剤の添加量は、特に限定されないが、その下限値は、変性セルロースナノファイバーに優れた疎水性を確実に付与することができる点から、セルロースのβ―グルコースユニット1.0モルあたり、0.001モルのシランカップリング剤の添加が好ましく、0.005モルのシランカップリング剤の添加がより好ましく、0.020モルのシランカップリング剤の添加が特に好ましい。一方で、シランカップリング剤含有分散液調製工程におけるシランカップリング剤の添加量の上限値は、シランカップリング剤含有分散液中におけるシランカップリング剤の残留を防止する点から、セルロースのβ―グルコースユニット1.0モルあたり、6.0モルの添加が好ましく、3.0モルの添加が特に好ましい。なお、上記「β―グルコースユニット」とは、セルロースの構成単位である。
【0038】
セルロースナノファイバー分散液に、エポキシ基を有するシランカップリング剤を分散させる方法としては、例えば、エポキシ基を有するシランカップリング剤をセルロースナノファイバー分散液に添加して、所定の撹拌条件にて撹拌する方法が挙げられる。撹拌条件は、原料セルロースナノファイバーのサイズや量、シランカップリング剤の添加量、撹拌容器の大きさ、攪拌機の種類等に応じて、適宜選択可能であり、例えば、撹拌温度10℃以上60℃以下、撹拌時間1分以上120分以下、撹拌速度600rpm以上1350rpm以下が挙げられる。撹拌時間及び撹拌速度については、撹拌機の種類、撹拌容器の大きさ、原料セルロースナノファイバーのサイズや量等によって、適当な条件にて決定することができる。また、撹拌手段としては、特に限定されず、例えば、スターラー、撹拌翼等が挙げられる。
【0039】
(3)乾燥工程
乾燥工程は、(2)シランカップリング剤含有分散液調製工程で得られたシランカップリング剤含有分散液に乾燥処理を施すことで、シランカップリング剤で原料セルロースナノファイバーを修飾する工程である。原料セルロースナノファイバーがシランカップリング剤で修飾されることで、変性セルロースナノファイバーを製造することができる。
【0040】
乾燥工程は、シランカップリング剤含有分散液調製工程で得られたシランカップリング剤含有分散液の水分を除去することで、目的物としての変性セルロースナノファイバーを得る工程である。上記のようにして得られた変性セルロースナノファイバーは、原料セルロースナノファイバーを構成するセルロースの水酸基にエポキシ基を有するシランカップリング剤のシラノール基が脱水縮合により化学結合していることで、セルロースナノファイバーがシランカップリング剤で修飾された変性セルロースナノファイバーとなる。
【0041】
シランカップリング剤含有分散液の乾燥方法は、特に限定されないが、例えば、乾燥処理作業の容易性の点から、凍結乾燥法が好ましい。シランカップリング剤のエポキシ基の開環反応の発生を抑制できることで、得られる変性セルロースナノファイバーは、エポキシ基を介したさらなる修飾が可能となり、適用対象となる疎水性物質の範囲を疎水性物質の特性に応じて容易に広げることができる。また、凍結乾燥法により、疎水性物質との親和性に優れている変性セルロースナノファイバーをより確実に製造することができる。
【0042】
凍結乾燥の条件としては、特に限定されることはないが、例えば、凍結温度-45℃以下、減圧条件(真空度)30Pa以下、凍結乾燥時間72時間以上120時間以下が挙げられる。
【0043】
任意工程について
本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法では、上記した(1)セルロースナノファイバー分散液用意工程、(2)シランカップリング剤含有分散液調製工程、(3)乾燥工程に加えて、必要に応じて、任意に他の工程を追加することができる。
【0044】
必要に応じて追加することができる他の工程としては、例えば、(2)シランカップリング剤含有分散液調製工程と(3)乾燥工程との間に、透析膜を用いてシランカップリング剤含有分散液を透析する透析工程を挙げることができる。透析工程を、さらに有することにより、シランカップリング剤含有分散液中の残留するシランカップリング剤を除去することができるので、変性セルロースナノファイバーの純度が向上する。
【0045】
透析工程における透析時間は、特に限定されないが、例えば、シランカップリング剤含有分散液中の残留するシランカップリング剤をより確実に除去する点から、48時間以上が好ましく、シランカップリング剤をより確実に除去しつつ、変性セルロースナノファイバーの生産効率を確実に得る点から、48時間以上120時間以下が特に好ましい。
【0046】
透析工程に用いる透析膜としては、例えば、親水性が高く、且つ高強度なため、水中の透析を行うことができる点から、再生セルロース(RC)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、セルローストリアセテート(CTA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)、アクリロニトリルメタクリルスルホン酸ナトリウム重合体(AN69)、エチレンビニルアルコール重合体(EVAL)等が好ましい。
【0047】
<変性セルロースナノファイバー>
本発明の製造方法で得られる変性セルロースナノファイバーは、エポキシ基を有するシランカップリング剤で変性されたセルロースナノファイバーである。より具体的には、本発明の製造方法で得られる変性セルロースナノファイバーは、セルロースの水酸基にエポキシ基を有するシランカップリング剤のシラノール基が脱水縮合により化学結合していることで、セルロースナノファイバーがシランカップリング剤で修飾された変性セルロースナノファイバーである。
【0048】
本発明の製造方法で得られる変性セルロースナノファイバーのシランカップリング剤の仕込み割合は、特に限定されないが、その下限値は、セルロースに優れた疎水性を確実に付与する点から、セルロースのβ―グルコースユニット1.0モルあたり、0.001モルのシランカップリング剤の仕込み割合が好ましく、0.005モルのシランカップリング剤の仕込み割合がより好ましく、0.020モルのシランカップリング剤の仕込み割合がさらに好ましく、0.20モルのシランカップリング剤の仕込み割合が特に好ましい。一方で、変性セルロースナノファイバーのシランカップリング剤の仕込み割合の上限値は、セルロースナノファイバーの結晶構造を維持することで高い強度が損なわれるのを防止する点から、セルロースのβ―グルコースユニット1.0モルあたり、3.0モルが好ましく、セルロースナノファイバーの結晶構造をより確実に維持する点から、セルロースのβ―グルコースユニット1.0モルあたり、1.0モルが特に好ましい。上記したシランカップリング剤の仕込み割合は、セルロースの構成単位であるβ―グルコース1個当たりの、シランカップリング剤の個数割合を意味することとなる。
【0049】
本発明の製造方法で得られる変性セルロースナノファイバーのサイズは、特に限定されないが、原料セルロースナノファイバーの平均繊維径が1.0μm未満であることに対応して、例えば、平均繊維径1.0μm未満が挙げられる。変性セルロースナノファイバーのサイズは、上記した原料セルロースナノファイバーの平均繊維径に対応して、シランカップリング剤によるセルロースの修飾部位の均一化と変性セルロースナノファイバーの適用範囲の拡大の点から、平均繊維径は、4nm以上100nm以下が好ましく、10nm以上50nm以下が特に好ましい。また、変性セルロースナノファイバーの平均繊維長は、上記した原料セルロースナノファイバーの平均繊維長に対応して、シランカップリング剤によるセルロースの修飾部位の均一化と変性セルロースナノファイバーの適用範囲の拡大の点から、20μm以上200μm以下が好ましく、50μm以上150μm以下が特に好ましい。
【0050】
原料セルロースナノファイバーをシランカップリング剤で修飾した変性セルロースナノファイバーを製造できたことについては、得られた変性セルロースナノファイバーを有機溶媒中に分散させた直後における変性セルロースナノファイバーの有機溶媒中における分散状態や、得られた変性セルロースナノファイバーを有機溶媒中に分散させて、変性セルロースナノファイバーが有機溶媒中で凝集・沈降状態となるまでに要する時間を目視で観察することで、確認することができる。変性セルロースナノファイバーが有機溶媒中で凝集・沈降状態となるまでに要する時間が所定時間以上であれば、変性セルロースナノファイバーは、有機溶媒中で優れた分散性を有し、シランカップリング剤で修飾されていることが証明される。
【0051】
シランカップリング剤で修飾された変性セルロースナノファイバーを製造できたことを確認する際に使用する有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、アセトン、エタノール、プロパノール等の炭素数1~5個のアルコール等を挙げることができる。
【0052】
また、原料セルロースナノファイバーの水酸基をシランカップリング剤によって修飾した変性セルロースナノファイバーを製造できたことは、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)にて確認することができる。すなわち、シランカップリング剤によって修飾されていない、原料セルロースナノファイバーの赤外線吸収スペクトルと、得られた変性セルロースナノファイバーの赤外線吸収スペクトルと、を比較することで、セルロースの水酸基の少なくとも一部がエポキシ基を有するシランカップリング剤によって修飾されていることを確認できる。
【0053】
具体的には、シランカップリング剤で修飾された変性セルロースナノファイバーでは、シランカップリング剤が、アルキル基を有する場合には、赤外線吸収スペクトルの1260cm-1、798cm-1、763cm-1の領域にSi-C結合由来の吸収ピークが現れるのに対し、原料セルロースナノファイバーでは、1260cm-1、798cm-1、763cm-1の領域に吸収ピークが現れない。従って、赤外線吸収スペクトルの1260cm-1、798cm-1、763cm-1の領域における吸収ピークの有無を確認することで、シランカップリング剤で修飾された変性セルロースナノファイバーを製造できたか否かを確認することができる。
【0054】
また、エポキシ基を有するシランカップリング剤で修飾された変性セルロースナノファイバーでは、シランカップリング剤が、アルキル基を有さない場合でも、赤外線吸収スペクトルの900cm-1付近の領域にエポキシ基由来の吸収ピークが現れる。原料セルロースナノファイバーでも赤外線吸収スペクトルの900cm-1付近の領域に吸収ピークが現れるが、変性セルロースナノファイバーでは、900cm-1付近の領域においてはエポキシ基由来の吸収ピークと原料セルロースナノファイバー由来の吸収ピークが重なることでピーク強度が強くなる。従って、900cm-1付近の領域におけるピーク強度の強さを確認することで、シランカップリング剤で修飾された変性セルロースナノファイバーを製造できたか否かを確認することができる。
【実施例0055】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0056】
<変性セルロースナノファイバーの製造>
実施例1
水95gをスターラーにて撹拌しながらセルロースナノファイバー水分散体(平均繊維長100μm、平均繊維径30~40nm、モリマシナリー株式会社製「CellFim C-100(水分量約95質量%)」)をセルロースナノファイバー成分で0.2gを添加してセルロースナノファイバー分散液を用意した(セルロースナノファイバー分散液用意工程)。用意したセルロースナノファイバー分散液を、撹拌速度1350rpm、室温の条件にてスターラーで撹拌しながら、3-グリシドキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン(以下、「GOPDMS」ということがある。エポキシ基を有するシランカップリング剤に相当)の添加量がセルロースのβ―グルコースユニット1.0モルあたり3.0モルとなるように調製して、GOPDMSを添加し、GOPDMSの添加後、60分撹拌して、セルロースナノファイバーとシランカップリング剤とを水に分散させたシランカップリング剤含有分散液を調製した(シランカップリング剤含有分散液調製工程)。次に、得られたシランカップリング剤含有分散液を、透析膜を用いて純水中で透析した。透析膜を用いた透析は、24時間行った。GOPDMSの添加から透析膜による透析の終了までは、25℃の室温環境下にて行った(透析工程)。透析したシランカップリング剤含有分散液を、凍結乾燥機にて、凍結温度-45℃、減圧条件(真空度)10Pa、凍結乾燥時間72時間の条件で乾燥処理することで、凍結したシランカップリング剤含有分散液中の水分を昇華させた(乾燥工程)。このようにして、セルロースナノファイバーをGOPDMSで修飾した実施例1の変性セルロースナノファイバーを製造した。なお、実施例1では、セルロースナノファイバーとGOPDMSの配合割合から、セルロースのβ―グルコースユニット1.0モルあたりGOPDMSの仕込み割合は3.0モルとなっている。
【0057】
セルロースナノファイバーをGOPDMSで修飾した変性セルロースナノファイバーを製造できたことは、実施例1で得られた化合物をFT-IR(株式会社パーキンエルマー社製「Spectrum One(A)」)で分析して、得られた赤外線吸収スペクトルの1260cm-1、798cm-1、763cm-1の領域にSi-C結合由来の吸収ピークが現れ、また、原料セルロースナノファイバーと比較して、赤外線吸収スペクトルの900cm-1付近の領域におけるピーク強度が強いことで確認をした。
【0058】
実施例2
GOPDMSを使用するのに代えて、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(以下、「GOPTS」ということがある。エポキシ基を有するシランカップリング剤に相当)の添加量がセルロースのβ―グルコースユニット1.0モルあたり3.0モルとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の変性セルロースナノファイバーを製造した。なお、実施例2では、セルロースナノファイバーとGOPTSの配合割合から、セルロースのβ―グルコースユニット1.0モルあたりGOPTSの仕込み割合は3.0モルとなっている。
【0059】
セルロースナノファイバーをGOPTSで修飾した変性セルロースナノファイバーを製造できたことは、実施例2で得られた化合物を実施例1と同じくFT-IRで分析して、得られた赤外線吸収スペクトルの900cm-1付近の領域におけるピーク強度が、原料セルロースナノファイバーの900cm-1付近の領域におけるピーク強度と比較して強いことで確認をした。
【0060】
比較例1
実施例1、2で使用した原料セルロースナノファイバー、すなわち、シランカップリング剤で修飾されていないセルロースナノファイバーを使用した。
【0061】
<評価項目>
(1)分散性(疎水性)
実施例1、2の変性セルロースナノファイバー試料、比較例1の原料セルロースナノファイバー試料について、0.02gを計り取り、容器中の20mlのテトラヒドロフランに添加し、撹拌速度1350rpmにて24時間スターラーで撹拌して第1の分散液を調製した。さらに、調製した第1の分散液を1.0ml採取して、別の容器中に入れ、テトラヒドロフランを10ml添加して、第2の分散液を調製し、分散液サンプルとした。
【0062】
第2の分散液の調製直後(調製から5秒後)におけるテトラヒドロフラン中におけるセルロースナノファイバー試料の分散状態を目視にて観察し、以下のように評価した。
◎:セルロースナノファイバー試料の分散状態が非常に優れており、セルロースナノファイバー試料に優れた疎水性が認められる。
○:セルロースナノファイバー試料の凝集状態が若干見られるものの、良好な分散状態であり、セルロースナノファイバー試料に疎水性が認められる。
×:セルロースナノファイバー試料の多くが凝集状態となっており、セルロースナノファイバー試料に疎水性が認められない。
【0063】
(2)沈降時間
上記のようにして得られた分散液サンプルについて、第2の分散液の調製直後からセルロースナノファイバー試料の沈降量が安定するまでの時間を沈降時間として計測した。沈降時間は、実施例1、2、比較例1について、それぞれ、n=3にて試験を行い、その平均値から以下のように評価した。
◎:沈降時間100秒以上
○:沈降時間40秒以上100秒未満
×:沈降時間40秒未満
【0064】
評価結果を下記表1に示す。また、分散性の評価について、図1(a)に、実施例1の、分散溶媒としてテトラヒドロフランを用いた分散液サンプルの調製直後の分散状態の写真を示し、図1(b)に、実施例2の、分散溶媒としてテトラヒドロフランを用いた分散液サンプルの調製直後の分散状態の写真を示し、図1(c)に、比較例1の、分散溶媒としてテトラヒドロフランを用いた分散液サンプルの調製直後の分散状態の写真を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
上記表1から、セルロースナノファイバー分散液用意工程とシランカップリング剤含有分散液調製工程とシランカップリング剤含有分散液に乾燥処理を施す乾燥工程にて製造した実施例1、2の変性セルロースナノファイバーでは、分散性が○評価以上、沈降時間も○評価以上であり、疎水性物質である有機溶媒に対して優れた分散特性を発揮した変性セルロースナノファイバーを製造することができた。特に、3-グリシドキシプロピル(ジメトキシ)メチルシランを使用して変性セルロースナノファイバーを製造した実施例1は、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを使用して変性セルロースナノファイバーを製造した実施例2と比較して、分散性と沈降時間ともにさらに優れていた。これは、シランカップリング剤の加水分解性シリル基が加水分解されて生成したシラノール基の数の違いが一因と考えられる。
【0067】
一方で、エポキシ基を有するシランカップリング剤で修飾しなかった、原料セルロースナノファイバーである比較例1では、疎水性物質に対する分散性が得られず、沈降時間も短時間であり、分散特性が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法は、優れた疎水性を付与した、疎水性物質との親和性に優れた変性セルロースナノファイバーを、簡易な生産工程で製造することができるので、広汎な分野で利用可能であり、例えば、成形品の材料となる樹脂組成物の分野で利用価値が高い。
図1