(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104036
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】乗物用シート装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/427 20060101AFI20220701BHJP
B60N 2/90 20180101ALI20220701BHJP
【FI】
B60N2/427
B60N2/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020219011
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 重正
(72)【発明者】
【氏名】松崎 勉
(72)【発明者】
【氏名】小森 剛史
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 修一
(72)【発明者】
【氏名】糸井 博行
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087CD04
3B087DE10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】エアバッグ装置によるパッド部材の隆起変形が表皮によって阻害されることを低減し、所要のサブマリン抑制効果が得られるようにする。
【解決手段】フレームと、フレーム上に設けられたパッド部材40及びパッド部材40を覆う表皮42を含むシートクッション22と、パッド部材40の前部を上向きに隆起するように変形させるべくフレームに設けられたエアバッグ装置54とを有する乗物用シート装置であって、表皮42は、パッド部材40の隆起変形を許容するように伸長可能な折返し部(展開部)46を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームと、前記フレーム上に設けられたパッド部材及び前記パッド部材を覆う表皮を含むシートクッションと、前記パッド部材の前部を上向きに隆起するように変形させるべく前記フレームに設けられたエアバッグ装置とを有する乗物用シート装置であって、
前記表皮は、前記パッド部材の隆起変形を許容するように伸長可能な展開部を含む乗物用シート装置。
【請求項2】
前記展開部は、前記表皮の折返し部を含む請求項1に記載の乗物用シート装置。
【請求項3】
前記展開部は、前記表皮の互いに重なり合う部分を、前記エアバッグ装置の展開時に破断可能に接合した接合部を含む請求項1に記載の乗物用シート装置。
【請求項4】
前記展開部は、前記表皮の互いに重なり合う2つの末端部を、前記エアバッグ装置の展開時に破断可能に接合する第1の接合部と、前記第1の接合部よりも前記末端部の末端側に位置し、前記表皮の互いに重なり合う前記両末端部を、前記エアバッグ装置の展開時に破断不能に接合した第2の接合部とを含む請求項1に記載の乗物用シート装置。
【請求項5】
前記接合部が縫合部を含む請求項3又は4に記載の乗物用シート装置。
【請求項6】
前記展開部は、前記表皮の互いに重なり合う2つの末端部を弾発的に把持するクリップを含み、前記クリップが、前記エアバッグ装置の展開時に前記末端部を解放するように構成されている請求項1に記載の乗物用シート装置。
【請求項7】
前記クリップが、前記表皮の吊込み部を形成する請求項6に記載の乗物用シート装置。
【請求項8】
前記パッド部材の、前記エアバッグ装置と対応する前後方向の位置に於ける上面に、横方向に延在する溝を有する請求項1~7の何れか一項に記載の乗物用シート装置。
【請求項9】
前記パッド部材の、前記エアバッグ装置と対応する前後方向の位置に於ける下面に、横方向に延在する溝を有する請求項1~7の何れか一項に記載の乗物用シート装置。
【請求項10】
前記フレームと前記シートクッションとの間に延在して前記エアバッグ装置に接続されたハーネスと、前記フレームに固定され、前記ハーネスを覆うカバー部材とを更に有する請求項1~9の何れか一項に記載の乗物用シート装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シート装置に関し、特に、サブマリン現象の発生を抑制する機構を組み込まれた乗物用シート装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の乗物用のシート装置として、シート装置の着座者に、前後方向に大きい加速度が作用した時に、着座者の下半身がシートクッションから前滑りするサブマリン現象の発生を抑制すべく、シートクッションの前側をエアバッグ装置によって上方に隆起変形させるサブマリン抑制機構を組み込まれたものが知られている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-193844号公報
【特許文献2】特開2007-153030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シートクッションは、発泡ポリウレタン等によるパッド部材及びパッド部材を覆う皮革や樹脂シート等による表皮を含んでいる。エアバッグ装置によるパッド部材の隆起変形時に、表皮が突っ張り、表皮がパッド部材の変形を阻害する傾向がある。このことにより、サブマリン抑制作用が低下する。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、エアバッグ装置によるパッド部材の隆起変形が表皮によって阻害されることを低減し、所要のサブマリン抑制効果が得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの実施形態による乗物用シート装置は、フレーム(10)と、前記フレーム上に設けられたパッド部材(40)及び前記パッド部材を覆う表皮(42)を含むシートクッション(22)と、前記パッド部材の前部を上向きに隆起するように変形させるべく前記フレームに設けられたエアバッグ装置(54)とを有する乗物用シート装置(10)であって、前記表皮は、前記パッド部材の隆起変形を許容するように伸長可能な展開部(46、42C、80A、43A、45A)を含む。
【0007】
この構成によれば、パッド部材の隆起変形が表皮によって阻害されることが低減し、所要のサブマリン抑制効果が得られる。
【0008】
上記乗物用シート装置において、好ましくは、前記展開部は、前記表皮の折返し部(46)を含む。
【0009】
この構成によれば、簡素な構成で展開部が得られる。
【0010】
上記乗物用シート装置において、好ましくは、前記展開部は、前記表皮の互いに重なり合う部分(42C、80A)を、前記エアバッグ装置の展開時に破断可能に接合した接合部(82)を含む。
【0011】
この構成によれば、簡素な構成で展開部が得られる。
【0012】
上記乗物用シート装置において、好ましくは、前記展開部は、前記表皮の互いに重なり合う2つの末端部(42C、80A)を、前記エアバッグ装置の展開時に破断可能に接合する第1の接合部(82)と、前記第1の接合部よりも前記末端部の末端側に位置し、前記表皮の互いに重なり合う前記両末端部を、前記エアバッグ装置の展開時に破断不能に接合した第2の接合部(84)とを含む。
【0013】
この構成によれば、簡素な構成で展開部が得られる。
【0014】
上記乗物用シート装置において、好ましくは、上記乗物用シート装置において、好ましくは、前記接合部が縫合部を含む。
【0015】
この構成によれば、確実な接合部が得られる。
【0016】
上記乗物用シート装置において、好ましくは、前記展開部は、前記表皮の互いに重なり合う2つの末端部(43A、45A)を弾発的に把持するクリップ(90)を含み、前記クリップが、前記エアバッグ装置の展開時に前記末端部を解放するように構成されている
【0017】
この構成によれば、表皮の吊込み部分を利用して展開部が簡便に構成される。
【0018】
上記乗物用シート装置において、好ましくは、上記乗物用シート装置において、好ましくは、前記クリップが、前記表皮の吊込み部を形成する。
【0019】
この構成によれば、表皮の吊込み部が展開部に利用される。
【0020】
上記乗物用シート装置において、好ましくは、前記パッド部材の、前記エアバッグ装置と対応する前後方向の位置に於ける上面に、横方向に延在する溝(41)を有する。
【0021】
この構成によれば、エアバッグ装置によるパッド部材の隆起変形が容易になる。
【0022】
上記乗物用シート装置において、好ましくは、前記パッド部材の、前記エアバッグ装置と対応する前後方向の位置に於ける下面に、横方向に延在する溝(41)を有する。
【0023】
この構成によれば、エアバッグ装置によるパッド部材の隆起変形が容易になる。
【0024】
上記乗物用シート装置は、好ましくは、前記フレームと前記シートクッションとの間に延在して前記エアバッグ装置に接続されたハーネス(58)と、前記フレームに固定され、前記ハーネスを覆うカバー部材(60)とを更に有する。
【0025】
この構成によれば、ハーネスが断線し難くなる。
【発明の効果】
【0026】
以上の構成によれば、
本発明による乗物用シート装置によれば、パッド部材の隆起変形が表皮によって阻害されることが低減し、所要のサブマリン抑制効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明による乗物用シート装置の実施形態1を示す部分断面斜視図
【
図2】実施形態1による乗物用シート装置の要部の拡大断面図
【
図3】実施形態1による乗物用シート装置の前部パン及びエアバッグ装置を示す拡大斜視図
【
図4】実施形態1による乗物用シート装置のハーネス配置部の拡大断面図
【
図5】実施形態2による乗物用シート装置の要部の拡大断面図
【
図6】実施形態3による乗物用シート装置のハーネス配置部の拡大断面図
【
図7】実施形態4による乗物用シート装置の要部の拡大断面図
【
図8】実施形態5による乗物用シート装置の部分断面斜視図
【
図9】他の実施形態による乗物用シート装置の要部の拡大断面図
【
図10】他の実施形態による乗物用シート装置の前部パン及びエアバッグ装置を示す拡大斜視図
【発明を実施するための形態】
【0028】
(実施形態1)
本発明に係る乗物用シート装置の実施形態1を、
図1~
図4を参照して説明する。
【0029】
図1に示されているように、乗物用シート装置10は、自動車用のシート装置であり、自動車のフロアパネル(不図示)に設置される左右のガイドレール(ロアレール)12にスライド可能に係合したスライダ(アッパレール)14上に設けられ、前後方向位置を変更可能である。
【0030】
乗物用シート装置10は、スライダ14に固定されたシートクッションフレーム16と、シートクッションフレーム16の後部に左右方向(横方向)に延在する支持軸18と、支持軸18に取り付けられた下端を含み、支持軸18を中心として傾動可能なシートバックフレーム20とを有する。シートクッションフレーム16の上部には着座者の臀部及び大腿部を支持するシートクッション22が取り付けられている。シートバックフレーム20の前部には着座者の背もたれをなすシートバック24が取り付けられている。シートバック24の上部にはヘッドレスト26が取り付けられている。
【0031】
シートクッションフレーム16は、前後方向に互いに平行に延在する左右のサイドメンバ30と、左右方向に延在して左右のサイドメンバ30の前部を互いに連結する前部パン32と、左右方向に延在して左右のサイドメンバ30の後部を互いに連結する後部ロッド34とを含み、平面視で四角枠状をなす。
【0032】
シートクッション22は、発泡ポリウレタン樹脂等によるパッド部材40と、パッド部材40の底面を除く外面を覆う表皮42とを有し、平面視で四角形状をなす。シートクッション22は、左右両側を左右のサイドメンバ30により、前部を前部パン32により、後部を後部ロッド34により各々支持され、略水平な上面を呈するように延在する。
【0033】
表皮42は、皮革、樹脂シート、織布等により構成されている。表皮42は、
図2に示されているように、パッド部材40の前部40Aに沿って延在する前部42Aを有する。表皮42の前部42Aは、下側の所定の上下長をもって上下に折り返されて前後に重なり合った折返し部46を有する。折返し部46は、重ね合わせ状態を維持すべく、両面粘着テープ(不図示)等によって隣接するもの同士を互いに貼り合わされている。
【0034】
折返し部46は、後述するエアバッグ装置54の展開動作により生じるパッド部材40の隆起変形を許容するように、所定値以上の張力を受けることにより、貼り合わせ破壊のもとに、表皮42の上面部の前後長を増大すべく伸長する展開部をなす。尚、ここで云う張力は、表皮42の上面においては前後方向である縦方向の張力である。
【0035】
表皮42は、折返し部46の下端から後方に折曲してパッド部材40の下方を後方に向けて延在し、後方延在部42Bの末端に縫合48等によって係止用金具50が取り付けられている。係止用金具50は先端のフック部50Aをもって前部パン32の後縁部32Aに係合している。この係合により、定常状態下で表皮42に所定の張力が付与される。この定常状態下で表皮42に付与される張力は、折返し部46の貼り合わせが破壊されない程度に設定される。
【0036】
前部パン32は
図3に示されているように、左右方向に長い窪み部32Bを含む。前部パン32の上面には前部パン32の上面形状と同等の下面形状を有するマウントブラケット52がリベット等の締結具56によって固定されている。マウントブラケット52が窪み部32Bに対応する部分にはエアバッグ装置54が取り付けられている。エアバッグ装置54は、インフレータ(不図示)及びエアバッグ(不図示)を含み、外部からの電気信号によってインフレータが動作することにより、エアバッグが膨張する。以降、このエアバッグの膨張をエアバッグ装置54の展開動作と云う。エアバッグ装置54の展開動作は、自動車の衝突時等、所定値以上の前後加速度が乗物用シート装置10及び着座者に作用した時に行われてよい。
【0037】
パッド部材40の、エアバッグ装置54と対応する前後方向の位置に於ける上面には、左右方向(横方向)に延在する溝41が形成されている。
【0038】
外部からの電気信号によってエアバッグ装置54が展開動作すると、パッド部材40の前部が、エアバッグ装置54の真上を頂点として、上向きに山形に隆起するように変形する。パッド部材40の前部が隆起変形すると、着座者の大腿部が隆起変形に沿って持ち上げられる。この動作により、パッド部材40の隆起変形が着座者の下半身がシートクッション22から前滑りすることに対する抵抗となって、サブマリン現象の発生が抑制される。
【0039】
パッド部材40が隆起変形すると、表皮42に所定値以上の張力が作用する。この張力により、表皮42の折返し部46の貼り合わせが破壊され、折返し部46が展開する。これにより、表皮42の上面部の前後長が増大すべく伸長する。
【0040】
この挙動により、エアバッグ装置54の展開動作によってパッド部材40が隆起変形することが、表皮42によって阻害されることが低減し、パッド部材40の隆起変形が良好に行われ、所要のサブマリン抑制効果が得られる。
【0041】
溝41が設けられていることにより、エアバッグ装置54の展開動作によるパッド部材40の隆起変形に必要な力が低減する。これにより、大出力のエアバッグ装置54が用いられなくても、パッド部材40の隆起変形が確実に行われ、サブマリン抑制効果の確実性が向上する。
【0042】
外部から電気信号をエアバッグ装置54に送るために、
図1に示されているように、前部パン32上にハーネス(電線)58が配線される。ハーネス58は前部パン32の前部フランジ部32Cの上面とシートクッション22のパッド部材40の下面との間を延在してエアバッグ装置54に接続される。
【0043】
前部フランジ部32Cの上面には、
図1及び
図3に示されているように、ハーネス58の、前部フランジ部32Cの上面を前後に延在する部分を略全長に亘って覆うカバー部材60が設けられている。カバー部材60は、
図4(A)に示されているように、電気絶縁性の樹脂成形品であり、ハーネス58を収容する半円筒部60Aと、半円筒部60Aの両縁部より各々外方に延出したフランジ部60Bと、フランジ部60Bの下面より下方に延出した逆止形状の複数の係止爪部62とを有する。カバー部材60は、各係止爪部62が前部フランジ部32Cに形成された貫通孔32Dに挿入されることにより前部パン32に固定される。
【0044】
カバー部材60は、着座時の衝撃や振動やパッド部材40の隆起変形等により、ハーネス58がパッド部材40と干渉することにより断線することを防止する。
【0045】
カバー部材60は、
図4(B)に示されているように、左右の2個の半体64、66の組み合わせにより構成されていてもよい。この場合には、半体64、66の各々のフランジ部64A、66Aに係止爪部62が形成される。カバー部材60は、
図4(C)に示されているように、ハーネス58の受入部68がヒンジ68Aにより開閉可能な半割構造になっていてもよい。この場合には、受入部68の基部68Bに係止爪部62が形成される。
【0046】
(実施形態2)
本発明に係る乗物用シート装置の実施形態2を、
図5を参照して説明する。なお、
図5において、
図2に対応する部分は、
図2に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0047】
表皮42は後方延在部42Bの末端部42Cと前後に重なり合う末端部80Aを有する補助表皮80を含む。補助表皮80には縫合48等によって係止用金具50が取り付けられている。係止用金具50は先端のフック部50Aをもって前部パン32の後縁部32Aに係合している。
【0048】
末端部42Cと末端部80Aとは、所定の縦方向長をもって互いに重なり合い、エアバッグ装置54の展開動作時に破断可能な第1の接合部82と、第1の接合部82よりも末端部42C、80Aの端末側に位置し、エアバッグ装置54の展開動作時に破断不能に接合する第2の接合部84とにより2段階に互いに接合され、表皮42の縦方向長を伸長する展開部をなす。第1の接合部82と第2の接合部84とは縫合強さが互いに異なる縫合や接着強度が互いに異なる接着等によるものである。
【0049】
定常時には、
図5に示されているように、第1の接合部82及び第2の接合部84が破断しておらず、第1の接合部82と第2の接合部84とが所定の縦方向長をもって互いに重なり合った状態にある。
【0050】
エアバッグ装置54の展開動作により、パッド部材40の前部が隆起変形すると、表皮42に所定値以上の張力が作用し、第1の接合部82が破断する。これにより、末端部42Cと末端部80Aとの重なり合いが互いに離れ、表皮42が上面部の前後長を増大すべく伸長する。
【0051】
この挙動により、エアバッグ装置54の展開動作によってパッド部材40が隆起変形することが、表皮42によって阻害されることが低減し、パッド部材40の隆起変形が良好に行われ、この実施形態でも、所要のサブマリン抑制効果が得られる。
【0052】
第2の接合部84は、エアバッグ装置54の展開動作後も接合状態を維持するから、パッド部材40が外部に露呈することがない。
【0053】
尚、表皮42と補助表皮80とが一体で、末端部42Cと末端部80AとはU字形に折曲したものであてもよい。この場合には、第2の接合部84は省略されてよい。
【0054】
(実施形態3)
本発明に係る乗物用シート装置の実施形態3を、
図6を参照して説明する。なお、
図6において、
図2に対応する部分は、
図2に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0055】
パッド部材40は前後方向の中間部を左右方向に延在する吊込み溝86を有する。吊込み溝86はパッド部材40の上面に開口した有底溝である。
【0056】
表皮42は、パッド部材40の吊込み溝86より後側を覆う後側表皮43及びパッド部材40の吊込み溝86より前側を覆う前側表皮45を含む。後側表皮43は前末端部43Aを吊込み溝86に落とし込まれている。前側表皮45は後末端部45Aを吊込み溝86に落とし込まれている。前末端部43Aと後末端部45Aとは、所定の縦方向長に亘って互いに重なり合い、端末部に縫合88によってアンカ部材90を連結されている。
【0057】
パッド部材40は、吊込み溝86の底部固定された樹脂成形品によるクリップ部材92を有する。クリップ部材92は、前後一対の把持爪部92A及び前側の把持爪部92Aからエアバッグ装置54の直上位置に対応する前後方向位置にまで延出した横転U字形状の作動アーム部92Bを有する。
【0058】
前後一対の把持爪部92Aは、定常状態下で、後側表皮43及び前側表皮45を縦方向の張力を与えた状態でアンカ部材90を弾発的に把持する、作動アーム部92Bは、エアバッグ装置54の展開動作時にエアバッグ装置54から上向きの力を遊端に受けることにより、前後一対の把持爪部92Aを互いに離れる方向に変形させる。
【0059】
これにより、エアバッグ装置54が展開動作すると、アンカ部材90がクリップ部材92との係合より離脱し、後側表皮43の前末端部43A及び前側表皮45の後末端部45Aが吊込み溝86から上方に自由に抜け出すことができる状態になる。
【0060】
エアバッグ装置54の展開動作によりパッド部材40の前部が隆起変形する際には、後側表皮43の前末端部43A及び前側表皮45の後末端部45Aが吊込み溝86から上方に自由な抜け出すことができ、表皮42の縦方向の伸長が抵抗で行われ得る状態にある。
【0061】
これにより、エアバッグ装置54の展開動作によってパッド部材40が隆起変形することが、表皮42によって阻害されることが低減し、パッド部材40の隆起変形が良好に行われ、この実施形態でも、所要のサブマリン抑制効果が得られる。
【0062】
この実施形態では、吊込み溝86が実施形態1の溝41と同等の作用をし、エアバッグ装置54の展開動作によるパッド部材40の隆起変形に必要な力が低減する。
【0063】
(実施形態4)
本発明に係る乗物用シート装置の実施形態4を、
図7を参照して説明する。なお、
図7
において、
図6に対応する部分は、
図6に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0064】
実施形態4では、吊込み溝86及びクリップ部材92がエアバッグ装置54の真上位置に対応する位置にクリップ部材92が配置されている。この実施形態では、クリップ部材92は一対の把持爪部92Aより外方に延出する一対のフランジ部92Cを有する。
【0065】
クリップ部材92は、エアバッグ装置54の展開動作時にエアバッグ装置54から上向きの力を底部に受けることにより、前後一対の把持爪部92Aが互いに離れる方向に変形する。
【0066】
これにより、エアバッグ装置54が展開動作すると、実施形態3と同様に、アンカ部材90がクリップ部材92との係合より離脱し、後側表皮43の前末端部43A及び前側表皮45の後末端部45Aが吊込み溝86から上方に自由に抜け出すことができる状態になる。
【0067】
これにより、実施形態4でも、エアバッグ装置54の展開動作によってパッド部材40が隆起変形することが、表皮42によって阻害されることが低減し、パッド部材40の隆起変形が良好に行われ、この実施形態でも、所要のサブマリン抑制効果が得られる。
【0068】
また、この実施形態でも、吊込み溝86が実施形態1の溝41と同等の作用をし、エアバッグ装置54の展開動作によるパッド部材40の隆起変形に必要な力が低減する。
【0069】
(実施形態5)
本発明に係る乗物用シート装置の実施形態5を、
図8を参照して説明する。なお、
図8において、
図1に対応する部分は、
図1に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0070】
実施形態5では、シートクッションフレーム16の前部パン32が左右のサイドメンバ30の前端部に水平方向に延在する枢軸100によって前上がりに傾動可能に設けられている。
【0071】
前部パン32は、スライダ14に連結された支持板15と前部パン32との間に設けられた圧縮コイルばね102によって上方に向けて付勢されている。
【0072】
支持板15上にはブラケット104によってロック部材108が水平軸線周りに回動可能に設けられている。ロック部材108は捩りコイルばね(不図示)によって係止爪部108Aが前部パン32に形成されている係合凹部110に係合する方向に付勢している。
【0073】
ロック部材108の係止爪部108Aが係合凹部110に係合している状態では、前部パン32は略水平姿勢を取り、これに応じてシートクッション22は略水平な姿勢の定常状態を維持する。
【0074】
ロック部材108は不図示のアクチュエータにより係止爪部108Aが係合凹部110との係合より離間する方向に駆動される。ロック部材108の係止爪部108Aが係合凹部110との係合より離間すると、前部パン32は圧縮コイルばね102のばね力によって枢軸100を中心として前上がりに傾動する。この傾動に伴ってシートクッションフレーム16の前部が前上がりに傾動するように変形する。これにより、着座者の下半身がシートクッション22から前滑りことに対する抵抗が増加し、サブマリン現象の発生が抑制される。
【0075】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、溝41は、
図9に示されているように、パッド部材40の、エアバッグ装置54と対応する前後方向の位置に於ける下面に、左右方向に延在していてもよい。ハーネス58は、
図10に示されているように、エアバッグ装置54から前部パン32上を前部パン32の後縁部32Aに向けて延在すべく配置されていてもよい。この場合も、ハーネス58は、前部パン32に沿って延在する部分の全長に亘ってカバー部材60によって覆われる。
【符号の説明】
【0076】
10 :乗物用シート装置
14 :スライダ
15 :支持板
16 :シートクッションフレーム
18 :支持軸
20 :シートバックフレーム
22 :シートクッション
24 :シートバック
26 :ヘッドレスト
30 :サイドメンバ
32 :前部パン
32A :後縁部
32B :窪み部
32C :前部フランジ部
32D :貫通孔
34 :後部ロッド
40 :パッド部材
40A :前部
41 :溝
42 :表皮
42A :前部
42B :後方延在部
42C :末端部
43 :後側表皮
43A :前末端部
45 :前側表皮
45A :後末端部
46 :折返し部
48 :縫合
50 :係止用金具
50A :フック部
52 :マウントブラケット
54 :エアバッグ装置
56 :締結具
58 :ハーネス
60 :カバー部材
60A :半円筒部
60B :フランジ部
62 :係止爪部
64 :半体
66 :半体
68 :受入部
68A :ヒンジ
68B :基部
80 :補助表皮
80A :末端部
82 :第1の接合部
84 :第2の接合部
86 :吊込み溝
88 :縫合
90 :アンカ部材
92 :クリップ部材
92A :把持爪部
92B :作動アーム部
92C :フランジ部
100 :枢軸
102 :圧縮コイルばね
104 :ブラケット
108 :ロック部材
108A :係止爪部
110 :係合凹部