IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 五洋建設株式会社の特許一覧

特開2022-104057土砂の分析方法および土砂利用の評価方法
<>
  • 特開-土砂の分析方法および土砂利用の評価方法 図1
  • 特開-土砂の分析方法および土砂利用の評価方法 図2
  • 特開-土砂の分析方法および土砂利用の評価方法 図3
  • 特開-土砂の分析方法および土砂利用の評価方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104057
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】土砂の分析方法および土砂利用の評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6869 20180101AFI20220701BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20220701BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220701BHJP
   G01N 33/24 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6851 Z
G01N33/50 P
G01N33/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020219042
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕一
(72)【発明者】
【氏名】中瀬 浩太
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045DA13
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ19
4B063QR08
4B063QR62
4B063QS24
(57)【要約】
【課題】利用対象の土砂全体について対象生物の有無等による利用の評価が可能な土砂の分析方法および土砂利用の評価方法を提供する。
【解決手段】この土砂の分析方法は、利用対象の土砂を評価対象とし、評価対象の土砂を貯槽部に投入するステップS01と、貯槽部内の土砂を攪拌するステップS03と、貯槽部から水を採取し、この水について対象生物由来の環境DNAを分析するステップS07と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用対象の土砂を評価対象とする土砂の分析方法であって、
前記評価対象の土砂を貯槽部に投入するステップと、
前記貯槽部内の土砂を攪拌するステップと、
前記貯槽部から水を採取し、前記水について対象生物由来の環境DNAを分析するステップと、を含む土砂の分析方法。
【請求項2】
利用対象の土砂を評価対象とする土砂の分析方法であって、
前記評価対象の土砂を貯槽部に投入するステップと、
前記貯槽部内の土砂を攪拌するステップと、
前記貯槽部内の浮上物を目視で観察し、前記浮上物に対象生物が含まれているかを判断するステップと、
前記貯槽部から水を採取し、前記水について対象生物由来の環境DNAを分析するステップと、を含む土砂の分析方法。
【請求項3】
前記目視による観察で前記浮上物に対象生物が含まれていないと判断した場合、または、前記判断が不可能な場合、前記浮上物のDNA分析を行う請求項2に記載の土砂の分析方法。
【請求項4】
前記評価対象の土砂を前記利用対象の土砂の全量とする請求項1乃至3のいずれかに記載の土砂の分析方法。
【請求項5】
前記利用対象の土砂が10000m以上である場合、前記利用対象の土砂10000mあたり1000mの土砂を評価対象とする請求項1乃至3のいずれかに記載の土砂の分析方法。
【請求項6】
前記攪拌前および/または前記攪拌中に前記貯槽部に加水する請求項1乃至5のいずれかに記載の土砂の分析方法。
【請求項7】
前記攪拌は、ミキサ、バックホウ、および、空気圧送の少なくともいずれかを用いて行う請求項1乃至6のいずれかに記載の土砂の分析方法。
【請求項8】
前記貯槽部は、前記評価対象の土砂の容量に応じた容積を有する請求項1乃至7のいずれかに記載の土砂の分析方法。
【請求項9】
前記貯槽部として、鋼製水槽、掘込み式のポンド、または土運船の土槽を使用する請求項1乃至8のいずれかに記載の土砂の分析方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の土砂の分析方法における前記環境DNA分析の結果、前記DNA分析の結果および前記観察の結果の少なくともいずれか1つに基づいて前記評価対象の土砂について利用の可否を評価する土砂利用の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用対象の土砂の分析方法および土砂利用の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土砂、建設発生土、浚渫土等(以下、便宜上「土砂」という。)に含まれる生物を検出し分析するために分析対象の土砂から分離(ふるいや土壌動物の場合のツルグレン法等を含む)した後の目視、あるいは試料を採取し、DNAを抽出し分析していた。たとえば、ラボでの抽出操作において少量の土砂から水にDNAを移動させている。
【0003】
特許文献1は、微生物が含まれる土壌を瞬間凍結し、この瞬間凍結した土壌を凍結乾燥した後粉砕し、土壌に含まれる微生物のDNAを抽出する土壌中の微生物のDNA抽出方法を開示する。特許文献2は、所定の環境から採取された環境水試料に含まれる核酸を分析することにより、環境水試料の採取場所における生物相又は特定の生物の量を推定するための環境水試料の前処理方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-81061号公報
【特許文献2】特開2017-99376号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「環境 DNA 調査・実験マニュアル」Ver. 2.2(2020 年4月3日発行)一般社団法人環境DNA学会
【非特許文献2】日本の外来種対策(環境省HP)https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list.html
【非特許文献3】外来種の対策について(東京都環境局HP)https://gairaisyu.tokyo/species/measure.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
土砂に特定の生物等が含まれる場合には、土砂の有効利用や広域利用の妨げとなることがある。たとえば、浚渫土に二枚貝に寄生するカイヤドリウミグモ、アサリ等に被害を与えるツメタガイ等が含まれていた場合、浚渫土を干潟・浅場の造成材として使用する際の妨げとなることが予想される。また、昆虫類や植物等の外来生物(特定外来生物を含む)等が含まれる土砂を利用した場合、移動先の生態系を撹乱するおそれがある。
【0007】
上述のような悪影響を避けるために、問題が懸念される場所の土砂を使用しない方法、問題となる特定の生物が含まれる表層土壌や表層浚渫土を使用しない方法が考えられるが、そこに問題となる特定の生物が含まれないことを証明することは従来の技術では難しい。特許文献1は、土壌から直接DNAを抽出する方法であるが、土砂に含まれる植物を対象とするには試料量が少ない。特許文献2は、環境中のDNAを分析することにより、分布する生物を確認する方法であり、環境DNA解析は主に水を対象とする技術であるが、上記問題に対処可能なものではない。
【0008】
土砂中の生物は特定の場所に偏在すること、DNAは土壌中での移動性が小さいと考えられることから、少量の試料の分析結果をもとに、数千m3~数万m3の土砂中の生物の有無の判定を行い土砂利用の可否判断を行うことは適切ではない。少量の試料により大量の土砂の全体における対象生物の有無の判定をするためには、多地点での試料採取と大量の試料の分析が必要であるが、図4のように、利用対象の土砂SAにおいて多くの地点Pから採取した多量の試料を分析した場合でも、の状況は必ずしも明らかでない。
【0009】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、利用対象の土砂について対象生物の有無等による利用の評価が可能な土砂の分析方法および土砂利用の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための第1の土砂の分析方法は、利用対象の土砂を評価対象とし、前記評価対象の土砂を貯槽部に投入するステップと、前記貯槽部内の土砂を攪拌するステップと、前記貯槽部から水を採取し、前記水について対象生物由来の環境DNAを分析するステップと、を含む。
【0011】
第1の土砂の分析方法によれば、利用対象の土砂を評価対象の土砂として貯槽部に投入し、貯槽部内の土砂を攪拌してから、貯槽部内から水を採取し、その水について環境DNAを分析するので、評価対象の土砂に含まれるDNAを土砂の攪拌により水中に確実に溶出させてからその水について環境DNA分析を行うことができる。利用対象の土砂が評価対象であり、大量の土砂が評価対象となっても必要に応じて数度に分けて実施し、貯槽部内での攪拌により評価対象の土砂全体について対象生物由来の環境DNA分析が可能である。このように、利用対象の土砂について対象生物の環境DNA分析を行うのでその利用の可否を精度よく判断できる。
【0012】
なお、環境DNAとは、水中、土壌中、空気中などの環境中に放出された生物由来のDNAであり、かかる環境DNAの採取・分析により対象生物の存否や生物量の多寡を推定可能である。
【0013】
上記目的を達成するための第2の土砂の分析方法は、利用対象の土砂を評価対象とする土砂の分析方法であって、前記評価対象の土砂を貯槽部に投入するステップと、前記貯槽部内の土砂を攪拌するステップと、前記貯槽部内の浮上物を目視で観察し、前記浮上物に対象生物が含まれているかを判断するステップと、前記貯槽部から水を採取し、前記水について対象生物由来の環境DNAを分析するステップと、を含む。
【0014】
第2の土砂の分析方法によれば、利用対象の土砂を評価対象の土砂として貯槽部に投入し、貯槽部内の土砂を攪拌してから、貯槽部内の水面に浮上した浮上物を目視観察し、その浮上物に対象生物が含まれているかを判断するので、評価対象の土砂に含まれる対象生物または対象生物の一部を土砂の攪拌により水面に確実に浮上させて目視観察を行うことができる。また、攪拌後に貯槽部内から水を採取し、その水について環境DNAを分析するので、評価対象の土砂に含まれるDNAを土砂の攪拌により水中に確実に溶出させてからその水について環境DNA分析を行うことができる。利用対象の土砂が評価対象であり、大量の土砂が評価対象となっても必要に応じて数度に分けて実施し、貯槽部内での攪拌により評価対象の土砂全体について対象生物の目視観察・対象生物由来の環境DNAの分析が可能である。このように、利用対象の土砂について対象生物の分析を行うのでその利用の可否を精度よく判断できる。
【0015】
第2の土砂の分析方法において、前記目視による観察で前記浮上物に対象生物が含まれていないと判断した場合、または、前記判断が不可能な場合、前記浮上物のDNA分析を行うようにしてもよい。
【0016】
第1,第2の土砂の分析方法において、前記評価対象の土砂を前記利用対象の土砂の全量とすることが好ましい。利用対象の土砂全体を評価対象とすることで、利用対象の土砂全体についてその利用の可否を確実に判断できる。
【0017】
また、 前記利用対象の土砂が10000m以上である場合、前記利用対象の土砂10000mあたり1000mの土砂を評価対象としてもよい。この場合、評価対象の土砂の結果に基づいて利用対象の土砂全体を判断する。
【0018】
前記攪拌前および/または前記攪拌中に前記貯槽部に加水することが好ましい。必要に応じて加水することで土砂の水分含有量が少ない場合でも貯槽部内でのDNAの水中への溶出、貯槽部内からの採水、また、対象生物の水面浮上が可能となる。
【0019】
前記攪拌は、ミキサ、バックホウ、および、空気圧送の少なくともいずれかを用いて行うことが好ましい。
【0020】
前記貯槽部は、前記評価対象の土砂の容量に応じた容積を有することが好ましい。かかる貯槽部として、鋼製水槽、掘込み式のポンド、または土運船の土槽を使用することが好ましく、評価対象の土砂の容量に応じて適切な貯槽部を選択できる。これにより、数10~数千m程度の比較的大量の土砂を評価対象とすることができる。
【0021】
上記目的を達成するための土砂利用の評価方法は、第1または第2の土砂の分析方法における前記環境DNA分析の結果、前記DNA分析の結果および前記観察の結果の少なくともいずれか1つに基づいて前記評価対象の土砂について利用の可否を評価する。
【0022】
この土砂利用の評価方法によれば、評価対象とされた利用対象の土砂についての環境DNA分析、DNA分析および観察の少なくともいずれか1つによる対象生物の検出結果に基づいて土砂の利用の可否を判断するので、利用対象の土砂について利用の可否を精度よく確実に判断でき評価できる。
【0023】
なお、目視観察により対象生物が検出され評価対象の土砂について利用が不可と判断されたときには環境DNA分析・DNA分析を省略することができる。
【0024】
また、第1,第2の土砂利用の評価方法において前記評価対象の土砂について利用が不可と判断されたとき、前記土砂の利用を中止するか、または、前記土砂に対し適切な処理を行い限られた用途に利用するようにできる。
【0025】
また、第1,第2の分析方法において検出されるべき対象生物は、予め設定しておくことが好ましい。かかる対象生物として、移動が制限される外来生物(環境省指定の特定外来生物を含む)や水産有用種の天敵生物等がある。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、利用対象の土砂全体について対象生物の有無等による評価が可能な土砂の分析方法および土砂利用の評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施形態による土砂利用の評価方法の各ステップを説明するためのフローチャートである。
図2図1の土砂の投入・攪拌・浮上物確認・採水の各ステップを模式的に示す貯槽部の側面図である。
図3】本実験例における実験結果を示す図である。
図4】従来の土砂から試料採取をした場合の問題点を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態による土砂利用の評価方法の各ステップを説明するためのフローチャートである。図2は、図1の土砂の投入・攪拌・浮上物確認・採水の各ステップを模式的に示す貯槽部の側面図である。
【0029】
図1図2を参照すると、まず、評価対象の土砂SAを貯槽部11に投入する(S01)。土砂SAは、土砂以外に浚渫土や泥土や建設残土であってもよく、有効利用や広域利用の対象とされるもので、土砂の利用先において好ましくない外来生物や微生物等の対象生物が含まれる可能性があるため評価対象とされる。評価対象の土砂は利用対象の土砂の全量である。また、評価対象の土砂の投入は、一度に投入してから後工程の攪拌を行ってよいが、攪拌しながら数度に分けて投入するようにしてもよい。
【0030】
貯槽部11としては、評価対象の土砂の容量に応じて選択され、土砂の容量が数~20mの場合には鋼製水槽、数十~数百mの場合は掘込み式のポンド、数百~2000mの場合には土運船の土槽を使用することが好ましい。なお、評価対象の土砂について貯槽部で一度に対応できない時には、数度に分けて実施する。
【0031】
次に、貯槽部11に必要に応じて加水をする(S02)。これにより、貯槽部11内の水12を充分な量にし、対象生物またはその一部の浮上や採水が可能な状態を形成する。加水は、次の攪拌ステップの前に行われるが、攪拌中に行ってもよく、また、土砂SAの貯槽部11への投入前に行っておいてもよい。必要に応じて加水することで土砂の水分含有量が少ない場合でも貯槽部11内でのDNAの水中への溶出、貯槽部11内からの採水および貯槽部11内における対象生物の水面浮上が可能となる。なお、加水する水として海水を用いる際には、事前に使用する海水の環境DNAを分析し評価し、採取した試料の環境DNAを分析する際に前記海水の評価を踏まえて評価を行うことが好ましい。また、高含水比の浚渫土のように含水比が大きいために水が充分に含まれる場合等には、加水ステップが省略される場合がある。
【0032】
次に、貯槽部11内の土砂SAを攪拌する(S03)。かかる撹拌により貯槽部11において土砂中の対象生物やその一部を浮上させ、また、土砂に含まれるDNAを確実に水12へ溶出させることができる。たとえば、図2のように、アームの先端に取り付けたバケットBKをバックホウBHで操作することで貯槽部11内の土砂SAを攪拌する。バケットBKは、ミキシングバケットやスケルトンバケット等を用いることが好ましい。また、攪拌のためにバックホウに代えて、ミキサや空気圧送(プラグ流による管中混合)等を使用してもよい。
【0033】
撹拌時に土砂内の生物体を破断し、個体中DNAの溶出を促進するような撹拌方法により対象生物の浮上や環境DNAの抽出効率を高めることが可能となる。かかる攪拌方法として、たとえば、ミキサや空気圧送時の土砂との接触による生物体のすり潰し、ミキシングバケットの刃を鋭利にすることによる生物体の切断等がある。
【0034】
次に、貯槽部11内の水12の水面に浮上した生物個体や断片等の浮上物13を目視で観察し、対象生物が含まれているかを判断する(S04)。かかる浮上物13として、たとえば、土砂中の植物体や植物の種子、昆虫(節足動物)、撹拌操作によって死亡した個体等が浮上する可能性がある。
【0035】
目視観察ステップS04で予め設定した対象生物が検出されない場合(S05の無)、次に、貯槽部11の水12から採水をする(S06)。かかる採水は、攪拌後に必要に応じて所定時間静置してから行うことが好ましい。採水量は、たとえば、1,000~5,000mL程度が好ましい。なお、小型の貯水部であれば一か所からの採水で良いが、貯槽部として大型貯槽部である土運搬船の土槽を用いる際には、少なくとも3か所から採水することが望ましい。
【0036】
また、目視観察ステップS04で予め設定した対象生物が検出されない場合(S05の無)、水面に浮上した浮上物13を採取する(S07)。
【0037】
次に、上述のように採水をした水について環境DNA分析を行う(S08)。かかる環境DNA分析により、採水した水に含まれる対象生物由来のDNAを増幅し解析することで、評価対象の土砂SAにおける対象生物の存在の有無、種類、おおよその生物量の多寡を判断することができる。なお、採水した水に含まれるDNAを網羅的に増幅し解析することで、目視観察では確認できなかった評価対象の土砂SAに存在する可能性のある生物種をリストアップすることもできる。また、環境DNA分析は、環境DNA学会による「環境 DNA 調査・実験マニュアル」(非特許文献1参照)に準拠して行われる。
【0038】
また、ステップS07で水面に浮上して採取された浮上物13についてDNA分析を行う(S09)。植物の葉・茎・根、昆虫の体の一部等の浮上物について、目視観察により種の判別が困難または不可能な場合、浮上物のDNA分析を行うことで、浮上物が対象生物であるか否かを確実に判断できる。かかるDNA分析は、水に溶出させたものよりも、濃度が高いため対象生物の検出が容易である。なお、浮上物採取ステップS07およびDNA分析ステップS09は、必要に応じて行ってよく、浮上物が目視観察により特定できる場合等には省略してもよい。
【0039】
環境DNA分析ステップS08およびDNA分析ステップS09で予め設定した対象生物が検出されない場合(S10の無)、評価対象の土砂SAは、通常の土砂や浚渫土や建設残土として使用し(S11)、土砂SAの有効利用や広域利用が可能となる。
【0040】
また、目視観察ステップS05、環境DNA分析ステップS08またはDNA分析ステップS09で予め設定した対象生物が検出された場合(S05の有、S10の有)、その評価対象の土砂SAは、利用対象から除外されるか、または、必要に応じてセメント固化、本出願人により特願2019-202962で提案された土の処理方法、熱処理、燻蒸処理等の対策を実施した上で使用する(S12)。なお、この対策後の土砂は用途が制限される場合がある。
【0041】
本実施形態による土砂の分析方法を含む土砂利用の評価方法によれば、利用対象の土砂の全量を評価対象の土砂SAとして貯槽部11に投入し、貯槽部11内の土砂SAを攪拌してから、貯槽部11内の水面に浮上した浮上物13を目視観察し、その浮上物13に対象生物が含まれているかを確認するので、評価対象の土砂SAに含まれる対象生物またはその一部を土砂の攪拌により水面に浮上させて目視観察による対象生物の確認を行うことができる。利用対象の土砂の全量が評価対象であり、大量の土砂が評価対象となっても、必要に応じて複数回に分けて貯槽部11内での攪拌により土砂全体について対象生物の確認が可能である。
【0042】
また、貯槽部11内から試料として水12を採取し、その水について環境DNAを分析するので、評価対象の土砂に含まれるDNAを土砂SAの攪拌により水中に溶出させてからその水について環境DNA分析を行うことができる。利用対象の土砂の全量が評価対象であり、大量の土砂が評価対象となっても、必要に応じて複数回に分けて貯槽部11内で土砂SAを攪拌しDNAを水中に移行させるとともに水は均質化しやすいため土砂全体の環境DNA分析が可能である。
【0043】
以上のように、利用対象の土砂全体について目視観察および/または環境DNA分析を行い対象生物の有無等を判断できるので、対象土砂の利用の可否を精度よく確実に判断でき評価できる。
【0044】
また、評価対象の土砂に加水し撹拌することにより、土砂中のDNAを水に溶出させ、対象生物を水中に移行させることは、大規模な抽出操作であり、かかる抽出操作の後、水面に浮上する浮上物の目視観察や水試料等の採取による環境DNA分析を行うので、評価対象の土砂の利用可否の確実な判断・評価が可能である。また、水は均質化しやすいので、たとえば、2000m程度の大容量の土砂であっても環境DNA分析により土砂全体の評価が可能である。
【0045】
本実施形態では、目視観察による浮上物の検出結果に基づいて検出対象生物として特定外来生物や移動を抑制したい生物種の有無を確認し、浮上物に対象種が確認されない場合、採水した試料の環境DNA分析や浮上物のDNA分析を必要に応じ行うことにより、土砂に含まれる植物、魚類、貝類、底生生物、節足動物等を確認し、対象生物の有無を確認することができる。また、必要なときには微生物も対象とすることができる。
【0046】
なお、特定の生物種の出現状況を確認する場合には、リアルタイムPCR装置等を用いてモバイルリアルタイムPCRを使用することにより、現地で30分程度の時間で判断することも可能である。
【0047】
上述の本実施形態による分析方法(加水後の浮上分離・目視確認、環境DNA分析、浮上物のDNA分析)は、事前の土砂や浚渫土の判定や選定(スクリーニング)、土砂や浚渫土の利用時の管理(数千mに1回の環境DNA分析等)に使用することができる。たとえば、1万mの土砂が利用対象の場合、1000m単位で土運船の土槽に投入・加水・攪拌する場合、全量評価で10船分が評価対象となり、たとえば、3試料/土運船を採水して環境DNA分析をする。
【0048】
また、検出対象生物として外来生物(特定外来生物を含む)や移動を抑制したい生物を予め設定しておくことが好ましい。外来生物とは、海外起源の外来種のことで、特定外来生物とは、環境省により、外来生物のうち、生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、又は及ぼすおそれがあるものの中から指定される。生きているものに限られ、個体だけではなく、卵、種子、器官等も含まれる。2020年11月現在、ヒアリやアルゼンチンアリ等の昆虫類25種類、セアカゴケグモやハイイロゴケグモ等のクモ・サソリ類7種類、軟体動物等5種類、アレチウリ等の植物19種類(非特許文献2参照)が土砂の場合に主な検出対象生物となる。
【0049】
外来生物の被害予防のための環境省による外来種被害予防三原則の第3は、既に野外にいる外来種を他地域に「拡げない」(増やさないことを含む)ことであり、オーストラリア原産の強い毒を持つセアカゴケグモは、既に西日本で繁殖してしまい、また、車に紛れ込んだものが運ばれ、遠く北海道でも発見されているように、今生息・生育している場所から、それ以上拡げないことが大切であるという趣旨に基づくものであるが(非特許文献3参照)、本実施形態の土砂利用の評価方法によれば、土砂を有効利用や広域利用する際にかかる外来生物の移動・拡散を未然に防止可能である。
【0050】
なお、図1の攪拌ステップS03における撹拌時間は、たとえば、15分~60分程度が好ましいが、攪拌対象土量、攪拌方法毎に事前の試験によって撹拌時間を決定することが好ましい。たとえば、土砂の撹拌時間を変化させて環境DNAを分析し、同様の出現種数や対象生物の環境DNA濃度が一定の値になる時間を設定することが好ましい。
【0051】
すなわち、撹拌時間の影響確認のため、土運船の土槽に浚渫土を投入する場合、必要に応じて浚渫土に加水してから、バックホウでの撹拌前、撹拌後たとえば5~10分の間隔で複数回採水し、採水試料および底質の環境DNA(魚類、貝類・底生生物等)を分析し、また、鋼製水槽に土砂を投入する場合、鋼製水槽へ土砂を投入し加水してから、ミキシングバケットでの撹拌前、撹拌後たとえば5~10分の間隔で複数回採水し、採水試料および土砂試料の環境DNA(植物、昆虫等)を分析し、これらの分析結果により攪拌時間を設定することが好ましい。
【0052】
(実験例)
室内試験で実施した環境DNA分析実験例について説明する。図3に本実験例の実験結果を示す。同図のように、土砂1kgに植物(カラスウリ(ウリ科))の種子1gを加えて混合してから、水道水を加えてハンドスコップで10回撹拌し、静置1時間後に1リットルの水試料を採水してDNAを分析した結果、カラスウリが検出された。一方、加水前の土砂から500mg程度の少量の土試料を採取してDNAを分析した結果、カラスウリは検出されなかった。なお、上記土試料・水試料からミヤコザサが検出されたが、ミヤコザサは、使用した土砂の採取場所周辺に広く分布している植物で、こうした種は、少量の土試料を採取して分析しても検出される。これに対し、添加した少量のカラスウリの種子は、元々の土にはなく、土中に偏在するため少量の土試料からは検出されていないが、加水撹拌後の水試料では検出された。
【0053】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、図1では、浮上物の目視観察S04で対象生物が検出されない場合(S05の無)に環境DNA分析・浮上物のDNA分析を行うようにしたが、本発明はこれに限定されず、ステップS05における検出の有無にかかわらず、環境DNA分析を行い、さらに必要に応じて浮上物のDNA分析を行うようにしてもよい。これにより、たとえば、比較的大型の生物は目視観察で比較的容易に確認できるが、個体の断片や植物体・植物種子等のように目視観察では確認が比較的難しいまたは不可能な場合や検出対象生物として微生物が含まれる場合に対応可能である。
【0054】
また、本実施形態では、対象生物の検出の有無により利用対象の土砂の利用可否を評価したが、本発明は、これに限定されず、対象生物の生物量や個体数に基づいて利用対象の土砂の利用可否を評価してもよい。
【0055】
また、土砂や浚渫土にスキムミルク等の薬剤を添加して撹拌し、環境DNAの抽出効率を上げるようにしてもよい。
【0056】
また、本実施形態では、利用対象の土砂全体を評価対象としたが、本発明は、これに限定されず、きわめて大量の土砂が利用対象であり、その一部の大量の土砂を評価対象とした場合にも適用して好ましく、利用対象の土砂が10000m以上である場合、利用対象の土砂10000mあたり1000mの土砂を評価対象としてもよく、この場合、評価対象の土砂の結果に基づいて利用対象の土砂全体を判断する。また、たとえば、利用対象の土砂が10000m以上である場合に少なくとも1000mの土砂を代表試料とし評価対象とするような場合にも適用可能である。本発明によれば、1000mレベルの大量の土砂の評価が可能である。この方法は、たとえば、外来生物がいても生物の分布する表層を除去し、下層土を利用するため生物混入の可能性が小さく、確認のために実施する場合や対象生物の出現可能性が低く埋め立て等で大量の土砂を扱う場合等に適する。一方、特定外来生物等の存在の可能性により重要性が高い場合等には利用対象の土砂全量を評価対象とすることで利用対象の土砂全体について評価可能である。
【0057】
また、本発明は、上述の土砂利用の評価方法の説明からも明らかなように、土砂の利用方法としても成立し、かかる土砂の利用方法は、上述の土砂利用の評価方法により利用可能と評価された土砂について上記土砂の原採取位置以外の地域で利用するものである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、利用対象の土砂について移動が規制される外来生物等の対象生物の有無等により利用の評価を行うので、土砂、建設発生土、浚渫土等を有効利用や広域利用する場合、対象生物の移動・拡散を未然に防止できる。
【符号の説明】
【0059】
11 貯槽部
12 貯槽部11内の水
13 浮上物
SA 評価対象の土砂
BK バケット
BH バックホウ
図1
図2
図3
図4