(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104062
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】ホローカソードおよびイオン源
(51)【国際特許分類】
H01J 27/14 20060101AFI20220701BHJP
H01J 37/08 20060101ALI20220701BHJP
H01J 1/16 20060101ALI20220701BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
H01J27/14
H01J37/08
H01J1/16
H05H1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020219049
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永尾 友一
(72)【発明者】
【氏名】宇井 利昌
(72)【発明者】
【氏名】安田 圭佑
【テーマコード(参考)】
2G084
5C030
【Fターム(参考)】
2G084AA08
2G084AA12
2G084BB02
2G084BB05
2G084CC18
2G084CC32
2G084DD25
2G084DD39
2G084FF27
2G084FF28
2G084FF32
5C030DE02
5C030DE03
5C030DE08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】Ar等のプラズマ生成ガスを使用せず、プラズマ原料ガスをプラズマ生成ガスとして使用できるホローカソードおよびイオン源を提供する。
【解決手段】イオンビーム照射装置のイオン源100の有するプラズマ生成容器101に取り付けられるホローカソード、およびホローカソード10A、10Bを備えるイオン源において、ホローカソード10A、10Bは加熱されることにより電子を放出し、内部流路11aが形成された電子放出部材を備える。内部流路11aには原料ガスが導入され内部流路11aを通過した原料ガスGおよび内部流路11aで生成した電子がプラズマ生成容器101に供給される構成とされており、さらに電子放出部材11は単体金属により形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスからプラズマが生成されるプラズマ生成容器に取り付けられるホローカソードであって、
単体金属により形成され、加熱されることにより電子を放出する電子放出部材を備え、
前記電子放出部材には、前記原料ガスが導入される内部流路が形成されており、
前記内部流路を通過する前記原料ガスと、前記内部流路において前記原料ガスから生成される電子と、を前記プラズマ生成容器に供給するホローカソード。
【請求項2】
前記電子放出部材は、通電されて発熱する請求項1に記載のホローカソード。
【請求項3】
原料ガスからプラズマが生成されるプラズマ生成容器と、前記プラズマ生成容器に取り付けられるホローカソードとを備えるイオン源であって、
前記ホローカソードは、
単体金属により形成され、加熱されることにより電子を放出する電子放出部材を備え、
前記電子放出部材には、前記原料ガスが導入される内部流路が形成されており、
前記内部流路を通過する前記原料ガスと、前記内部流路において前記原料ガスから生成される電子と、を前記プラズマ生成容器に供給するイオン源。
【請求項4】
前記電子放出部材は、通電されて発熱する請求項3に記載のイオン源。
【請求項5】
前記プラズマ生成容器内に配置され、前記プラズマ生成容器内に電子を供給する少なくとも一つの電子供給部材をさらに備える請求項3または4に記載のイオン源。
【請求項6】
前記ホローカソードを複数備え、
各前記ホローカソードは、前記プラズマ生成容器の一方向について互いに離間するように配置されている請求項3または4に記載のイオン源。
【請求項7】
前記ホローカソードを複数備え、
各前記ホローカソードと、前記電子供給部材とは、前記プラズマ生成容器の一方向について互いに離間するように配置されている請求項5に記載のイオン源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホローカソードおよびホローカソードを備えるイオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンビーム照射装置のイオン源においては、プラズマが生成されるプラズマ生成容器内に電子を供給するため、ホローカソードが用いられることがある。一般に、このようなホローカソードは、加熱されることにより電子を放出する筒状の電子放出部材を備え、電子放出部材の内部には、プラズマ生成用ガスが導入されるよう構成されている。電子放出部材の内部では、プラズマ生成用ガスが導入されるとともに、加熱された電子放出部材から電子が放出されることでプラズマが点灯する。その後、電子放出部材の内部で生成されたプラズマ中に含まれる電子がプラズマ生成容器の内部に取り出される。
【0003】
また、一般に、プラズマ生成容器は、プラズマ生成容器内で生成されるプラズマの原料となる原料ガスを導入するガス導入口を有している。つまり、ホローカソードを備えるイオン源においては、ホローカソードから供給される電子が、ガス導入口から導入された原料ガスを電離させることにより、プラズマ生成容器の内部で所定のイオンを含むプラズマが生成される。プラズマ生成容器の外部には、引出電極等から成る電極群が配置されており、この電極群の作用により、当該イオンはイオンビームとしてプラズマ生成容器の外部に取り出される。
【0004】
特許文献1には、このようなホローカソードを備えたイオン源が開示されており、さらに、上記の原料ガスに相当するイオン化ガスをプラズマ生成容器に導入するガス導入口を設けることなく、ホローカソード内に供給されるプラズマ生成用ガスをプラズマ化してもよいことが記載されている。すなわち、特許文献1には、原料ガスをプラズマ生成用ガスとして使用してもよいことが示されている。この場合、電子放出部材の内部を通過した原料ガスと、電子放出部材の内部において原料ガスから生成したプラズマ中の電子が、ホローカソードからプラズマ生成容器に供給されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、プラズマ生成容器に電子を供給するために使用されるホローカソードにおいて、電子放出部材は、比較的仕事関数が低いことが知られているLaB6や、BaO等の酸化物が含浸されたタングステン等、金属を含む化合物または混合物により形成されている。また、ホローカソードの電子放出部材に導入されるプラズマ生成用ガスとしては、Arガス等の希ガスが使用される。一方、原料ガスには、イオンビームとして取り出す所定のイオンに応じて種々のガスが使用される。しかしながら、特許文献1には、原料ガスをプラズマ生成用ガスとして使用するための具体的構成は示されていない。
【0007】
本発明は、原料ガスをプラズマ生成用ガスとしても使用できるホローカソードおよびイオン源を提供するものである。すなわち、本発明は、プラズマ生成容器において生成するプラズマの原料となる原料ガスおよび電子を、ホローカソードを通じて安定してプラズマ生成容器に供給することができるホローカソードおよびイオン源を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明におけるホローカソードは、原料ガスからプラズマが生成されるプラズマ生成容器に取り付けられるホローカソードであって、単体金属により形成され加熱されることにより電子を放出する電子放出部材を備え、前記電子放出部材には、前記原料ガスが導入される内部流路が形成されており、前記内部流路を通過する前記原料ガスと、前記内部流路において前記原料ガスから生成される電子とを、前記プラズマ生成容器に供給するよう構成されている。
【0009】
この構成によれば、ホローカソードの備える電子放出部材に形成された内部流路において、導入された原料ガスと加熱された電子放出部材から放出された電子からプラズマが点灯し、原料ガスから生成されたプラズマ中の電子がプラズマ生成容器に取り出される。このとき、内部流路の表面は、原料ガスから生成されたプラズマに曝されるが、電子放出部材は単体金属により形成されていることから、内部流路表面の組成は変化し難い。したがって、本発明のホローカソードは、プラズマ生成容器に安定して電子を供給することができる。
【0010】
また、本発明におけるホローカソードにおいては、前記電子放出部材は、通電されて発熱するよう構成されていてもよい。
【0011】
この構成によれば、電子放出部材が自己発熱することから、電子放出部材をより効率的に昇温させることができる。したがって、内部流路において、より確実にプラズマを生成できるようになる。
【0012】
また、本発明におけるイオン源は、原料ガスからプラズマが生成されるプラズマ生成容器と、前記プラズマ生成容器に取り付けられるホローカソードとを備えるイオン源であって、前記ホローカソードは、単体金属により形成され、加熱されることにより電子を放出する電子放出部材を備え、前記電子放出部材には、前記原料ガスが導入される内部流路が形成されており、前記内部流路を通過する前記原料ガスと、前記内部流路において前記原料ガスから生成される電子とを、前記プラズマ生成容器に供給する構成とされている。
【0013】
この構成によれば、ホローカソードの備える電子放出部材に形成された内部流路において、導入された原料ガスと加熱された電子放出部材から放出された電子からプラズマが点灯し、原料ガスから生成されたプラズマ中の電子はプラズマ生成容器に取り出される。このとき、内部流路の表面は、原料ガスから生成されたプラズマに曝されるが、電子放出部材は単体金属により形成されていることから、内部流路表面の組成は変化し難い。したがって、本発明のイオン源においては、ホローカソードは、反応性の高い原料ガスでも安定してプラズマを生成でき、プラズマ生成容器に供給することができる。
【0014】
また、本発明におけるイオン源においては、前記電子放出部材は、通電されて発熱する構成としてもよい。
【0015】
この構成によれば、電子放出部材が自己発熱することから、電子放出部材をより効率的に昇温させることができる。したがって、内部流路において、より確実にプラズマを生成できるようになる。
【0016】
また、本発明におけるイオン源においては、前記プラズマ生成容器内に配置され、前記プラズマ生成容器内に電子を供給する少なくとも一つの電子供給部材をさらに備える構成としてもよい。
【0017】
この構成によれば、プラズマ生成容器内には、ホローカソードから供給される電子に加え、電子供給部材からも電子が供給されるようになる。したがって、プラズマ生成容器内に供給される電子が増加し、プラズマ生成容器内において原料ガスからより効率的にプラズマを生成することができる。
【0018】
また、本発明におけるイオン源においては、前記ホローカソードを複数備え、各前記ホローカソードは、前記プラズマ生成容器の一方向について互いに離間するように配置されている構成としてもよい。
【0019】
この構成によれば、プラズマ生成容器内では、プラズマ生成容器の一方向について互いに離間した複数の位置において電子が供給される。したがって、プラズマ生成容器内のプラズマ密度を一方向についてより均一にすることができる。
【0020】
また、本発明におけるイオン源においては、前記ホローカソードを複数備え、各前記ホローカソードと、前記電子供給部材とは、前記プラズマ生成容器の一方向について互いに離間するように配置されている構成としてもよい。
【0021】
この構成によれば、プラズマ生成容器内では、プラズマ生成容器の一方向について互いに離間した複数の位置から電子が供給され、原料ガスからプラズマが生成する。したがって、プラズマ生成容器内のプラズマ密度を一方向についてより均一にすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のホローカソードおよびイオン源によれば、プラズマ生成容器において生成するプラズマの原料となる原料ガスおよび電子を安定してプラズマ生成容器に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態におけるホローカソードの縦断面図。
【
図3】同実施形態におけるイオン源の
図1のX-X線における横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のホローカソードおよびイオン源は、照射対象物に対して所定のイオンを含むイオンビームを照射するイオンビーム照射装置に使用されるものである。
以下に、本発明の一実施形態におけるホローカソード10A、10Bおよびイオン源100について説明する。本実施形態においては、ホローカソード10A、10B、およびイオン源100は、フラットパネルディスプレイ製造工程で使用され、ガラス基板に対して所定のイオンを含むイオンビームを照射するイオン注入装置に使用されるものである。尚、ホローカソード10A、10B、およびイオン源100は、例えば、半導体製造工程において半導体ウエハにイオン注入を行うイオン注入装置に使用されるものであってもよい。すなわち、本実施形態は、本発明のホローカソード、イオン源、および、これらが適用されるイオンビーム照射装置の用途を何ら限定するものではない。
【0025】
まず、本実施形態におけるイオン源100について説明する。
図1に示すように、イオン源100は、内部でプラズマP1が生成されるプラズマ生成容器101と、
図3に示されたカスプ磁場Bを形成するための複数の磁石102と、二つのホローカソード10A、10Bを備えている。尚、
図1におけるホローカソード10A、10Bの構成は、
図2に示されたホローカソード10Aと同一である。また、
図1に示されたホローカソード10Aは、理解を容易にするために、ホローカソード10Aの一部の構成要素のみを模式的に示している。
【0026】
プラズマ生成容器101は、全体が略直方体形状をなしており、
図1に示すように、プラズマ生成容器101の一つの側壁101aには、プラズマ生成容器101の長手方向に沿った長方形の開口である引出し口103が形成されている。また、引出し口103の外側近傍には引出し口103を塞ぐようにイオンビームIBを引き出すための引出電極等からなる電極群(不図示)が配置されている。当該電極群はプラズマ生成容器101内で生成されるプラズマP1に含まれるイオンをイオンビームIBとして取り出すために使用されるものであり、周知の構成を採用することができる。尚、プラズマ生成容器101は、全体が略円柱状をなすものであってもよく、形状が限定されるものではない。
【0027】
プラズマ生成室101の長手方向について対向する底壁101e、101fにはそれぞれ、ホローカソード10A、10Bが配置されている。より詳細には、ホローカソード10A、10Bは、各ホローカソード10A、10Bの備える電子供給口18aがプラズマ生成容器101の内部に位置するよう底壁101e、101fに差し込まれるようにして取り付けられている。後述するように、ホローカソード10A、10Bは、プラズマ生成容器101内に原料ガスGおよび電子eを供給するよう構成されており、互いに101e、101f側から、つまり、プラズマ生成容器101の長手方向の両端側から、内側に向かって原料ガスGおよび電子eを放出するよう構成されている。尚、ホローカソード10A、10Bは、プラズマ生成容器101内に原料ガスGおよび電子eを供給できればよく、ホローカソード10A、10Bのプラズマ生成容器101に対する取り付け位置または取り付け構造は本実施形態に限定されるものではない。
【0028】
本実施形態においては、B+を含むイオンビームIBを取り出すため、原料ガスGとしてBF3ガスを用いている。尚、原料ガスGは、イオンビームIBとして取り出す所定のイオン、つまり、イオンビームIBとして取り出すことを目的とするイオンに応じて種々のガスを使用することができる。
【0029】
ホローカソード10A、10Bには、それぞれ原料ガスGを貯蔵または生成するガス源200a、200bに連通するガス流路201a、201bが接続されている。つまり、ホローカソード10A、10Bには、それぞれガス源200a、200bからガス流路201a、201bを経由して原料ガスGが導入される。
【0030】
プラズマ生成容器101の側壁101aと対向する側壁101bには、原料ガスGをプラズマ生成容器101内に導入するためのガス導入口104が形成されている。ガス導入口104には、原料ガスGを貯蔵または生成するガス源200cに連通するガス流路201cが接続されている。すなわち、プラズマ生成容器101内には、ガス流路201cおよびガス導入口104を経由してガス源200cからも原料ガスGが供給される。
【0031】
複数の磁石102はいずれも永久磁石により構成されており、
図3に示すように、プラズマ生成容器101の四つの側壁101a、101b、101c、101dのうち、引出し口103が形成された側壁101aを除く三つの側壁101b、101c、101dの外側に配置されている。本実施形態における磁石102は、ホローカソード10A、10B、および後述する電子供給部材105から放出される電子eをプラズマ生成容器101内に閉じ込めるカスプ磁場Bを形成できるものであればよく、磁石102の数、配置、および構成等は適宜変更してよい。
【0032】
また、プラズマ生成容器101の内部には、プラズマ生成容器101内に電子eを供給する二つの電子供給部材105が、プラズマ生成容器101の長手方向について互いに離間した状態で配置されている。本実施形態における電子供給部材105はタングステンからなるフィラメントであり、不図示の電源に接続されて通電されることにより発熱し、プラズマ生成容器101内に電子eを放出するものである。電子供給部材105は、プラズマ生成容器101内の広い領域で均一なプラズマP1を生成させることを目的として配置されており、ホローカソード10A、10Bから供給される電子eが到達しにくい箇所に電子eを放出し得るように配置される。本実施形態のように、電子供給部材105として、ホローカソード10Aよりも構造が単純で安価なフィラメントを使用することにより、プラズマP1の均一性を容易に確保することができるようになる。
尚、本実施形態においては二つの電子供給部材105を備える構成としたが、電子供給部材105の数は必要に応じて適宜変更すればよい。また、電子供給部材105を配置せず、プラズマ生成容器101内にはホローカソード10A、10Bのみから電子eが供給される構成であってもよい。
【0033】
次に、本実施形態におけるホローカソード10Aについて説明する。尚、ホローカソード10Bは、ホローカソード10Aと同一構成であるため、ホローカソード10A、10Bにおける同一の構成要素には同一の符号を付与し、ホローカソード10Bの説明は省略する。また、
図2においては、ホローカソード10Aの電子供給口18a付近の構成のみが示されている。
【0034】
図2に示すように、本実施形態におけるホローカソード10Aは、円筒状の筐体19と、筐体19の一端側の開口を塞ぐように筐体19に取り付けられたキーパ電極18を備えている。また、キーパ電極18の中央には、プラズマ生成容器101の内部に供給される原料ガスGおよび電子eが通過する開口である電子供給口18aが形成されている。本実施形態においては、筐体19の長さ方向についてキーパ電極18が配置される側をホローカソード10Aの前方側と定義する。
【0035】
ホローカソード10Aは、加熱されることにより電子を放出する円筒状の電子放出部材11と、電子放出部材11を収容する支持筒12と、電子放出部材11の前方を覆うように配置されたオリフィス板17を備えている。電子放出部材11は単体金属により形成されており、本実施形態ではタンタルにより形成されている。尚、電子放出部材11は加熱されて電子を放出し得る単体金属であればよく、タンタルにより形成されていることに限定されない。例えば、タングステン、モリブデンまたはチタンであってもよい。また、電子放出部材11が単体金属により形成されることは、単一の金属材料のみにより形成されることに限定されるものではなく、例えば、電子放出部材11が複数種の単体金属が積層するように接合される構成を含むものである。
【0036】
また、ホローカソード10Aは、電子放出部材11を加熱する第一加熱部材13および第二加熱部材14を備えている。第一加熱部材13は円筒状のカーボンヒーターであり、オリフィス板17および支持筒12を前方側から覆うとともに、支持筒12の側面12aの周囲を側面12aからわずかに離間した状態で覆うように配置されている。また、第二加熱部材14は、内部に原料ガスGが流動し得る流路15を有する筒状のカーボンヒーターであり、支持筒12の後方側において支持筒12と接触するように配置されている。第一加熱部材13および第二加熱部材14は、いずれも通電されることで発熱し、第一加熱部材13は主に輻射によって支持筒12の側面12aを介して電子放出部材11を加熱する。また、第二加熱部材14は、第二加熱部材14で発生した熱を、支持筒12を介して電子放出部材11に伝導させることで電子放出部材11を加熱する。
【0037】
オリフィス板17には、板厚方向に開口するオリフィス17aが形成されている。また、第一加熱部材13には、オリフィス17aと連通する開口13aが形成されている。オリフィス17a、開口13a、および電子供給口18aはいずれも円形の開口であり、カソード10Aの長手方向に沿って同軸上に開口するよう形成されている。
【0038】
また、ホローカソード10Aは、ホローカソード10Aの外部に配置された電源Eと電気的に接続された導線16a、16bを備えている。導線16a、16bは、それぞれ第一加熱部材13、第二加熱部材14に電気的に接続されている。より詳細には、ホローカソード10Aの内部には、電源Eからの直流電流が、導線16a、第一加熱部材13、オリフィス板17、電子放出部材11、支持筒12、第二加熱部材14、導線16bの順に流れた後に電源Eに戻る直流回路が形成されている。すなわち、第一加熱部材13、第二加熱部材14、および電子放出部材11は、いずれも電源Eからの電流が導通することで発熱するものである。尚、本実施形態におけるホローカソード10Aでは、支持筒12の側面12aが第一加熱部材13からわずかに離間していることにより、第一加熱部材13から支持筒12に直接電流が流れることがなく、電子放出部材11に確実に電流が流れるよう構成されている。
【0039】
電子放出部材11の内部には、外部から供給される原料ガスGが流動し得る内部流路11aが形成されており、内部流路11aは第二加熱部材14の有する流路15と連通している。すなわち、ホローカソード10Aにおいては、原料ガスGは、外部に配置されたガス源201aからガス流路201aを介してホローカソード10A内に導入された後、流路15を流動して内部流路11aに到達する。
【0040】
図1に示すように、内部流路11aに到達した原料ガスGの一部は、オリフィス板17aから電子放出部材11の外部に放出されるようにして内部流路11aを通過した後、電子供給口18aからプラズマ生成容器101内に流入する。また、内部流路11aに到達した原料ガスGの一部から、内部流路11aにおいてプラズマP2が生成される。このとき、キーパ電極18には電子放出部材11に対して正の電位が与えられており、キーパ電極18はプラズマP2に含まれる電子eを電子供給口18aから外部に取り出すよう作用する。すなわち、プラズマP2に含まれる電子eは、キーパ電極18の作用により、電子供給口18aからプラズマ生成容器101内に供給される。また、プラズマP2に含まれる原料ガスGから生成されるイオンも内部流路11aから拡散するようにしてプラズマ生成容器101に流入し得る。
【0041】
本実施形態においては、電子放出部材11は、第一加熱部材13および第二加熱部材14により加熱されるとともに、電子放出部材11自体が発熱することによって昇温し、内部流路11aの内部空間に電子を放出する。このとき、内部流路11aに外部から原料ガスGが導入されることで原料ガスGが電離されてプラズマP2が点灯する。その後、内部流路11aでは原料ガスGから生成されたプラズマP2に含まれる電子eが、キーパ電極18の作用によって、オリフィス17aを通じて内部流路11aから取り出され、プラズマ生成容器101内に供給されることになる。
【0042】
次に、本実施形態におけるイオン源100により原料ガスGからイオンビームIBが生成される過程について説明する。
まず、ガス源200a、200bから、二つのホローカソード10A、10Bの電子放出部材11の有する内部流路11aに原料ガスGが導入される。このとき、電子放出部材11は、第一加熱部材13および第二加熱部材14により加熱さるとともに、電源Eからの電流が導通されることで自己発熱することで高温となり、内部流路11aに電子を放出する。そして、内部流路11aにおいては、原料ガスGの一部が電離されてプラズマP2が点灯する。その後、内部流路11aに導入された原料ガスGの一部はそのまま内部流路11aを通過して電子供給口18aを通じてプラズマ生成容101内に供給される。また、内部流路11aに導入された原料ガスGの一部からはプラズマP2が生成され、プラズマP2内の電子eが電子供給口18aを通じてプラズマ生成容101内に取り出される。このようにして、ホローカソード10A、10Bからプラズマ生成容器101内に原料ガスGおよび電子eが供給される。また、ホローカソード10Aからは、プラズマP2に含まれる原料ガスGから生成されたイオンが流入する。当該イオンは所定のイオンを含むものであるから、プラズマP1のプラズマ密度を高めることに寄与することになる。
【0043】
イオン源100のプラズマ生成容器101の内部には、ホローカソード10A、10Bに加え、ガス導入口104を通じてガス源200cからも原料ガスGが供給される。また、プラズマ生成容器101の内部には、ホローカソード10A、10Bに加え、電子供給部材105から放出された電子eが供給される。プラズマ生成容器101の内部では、原料ガスGが電子eによって電離されてプラズマ化され、プラズマP1が生成する。その後、プラズマP1に含まれる所定のイオンが不図示の電極群の作用によってイオンビームIBとしてプラズマ生成容器101の外部に引き出される。
【0044】
本実施形態においては、原料ガスGとしてBF3ガスが使用されている。したがって、内部流路11aにおいて生成するプラズマP2はBF3ガスから生成されるプラズマである。従来のホローカソードおける電子放出部材は、LaB6等の化合物や、タングステンを含浸させたBaO等の混合物により形成されていた。また、従来、電子放出部材の内部には、Arなどの希ガスがプラズマ生成用ガスとして導入されていた。本発明者らは、このような従来の材料を使用した電子放出部材に希ガスとは異なるBF3ガス等の原料ガスを導入する場合、従来と比較して、電子放出部材の寿命が短くなる、すなわち、電子放出部材の内部でプラズマが生成され得る期間が短くなることを確認した。これは、LaB6等から成る電子放出部材の内部流路の表面組成がBF3ガスにより変化させられ、内部流路の表面からLa等の金属成分が取り除かれたことによると推察される。
【0045】
これに対し、本実施形態における電子放出部材11はタンタルにより形成されている。したがって、本実施形態における電子放出部材11の内部流路11aの表面組成は、BF3から生成されたプラズマP2に曝されても変化することがない。したがって、電子放出部材11をLaB6等の化合物やBaOを含浸させたタングステン等の混合物からなる材料で形成する場合と比較して、プラズマP2を長期間にわたり安定して生成することができる。
【0046】
すなわち、電子放出部材11の内部流路11aの表面は、原料ガスGから生成されたプラズマP2に曝されることになるが、本実施形態においては、電子放出部材11が単体金属により形成されていることによって内部流路11aの表面組成は変化し難いものとなる。したがって、内部流路11aにプラズマ生成容器101内で生成されるプラズマP1の原料となる原料ガスGを導入する場合であっても、電子放出部材11が単体金属により形成されることにより、電子放出部材11は長期間にわたって安定して電子を放出することができる。すなわち、内部流路11aで安定してプラズマP2を生成できることから、ホローカソード10A、10Bは、プラズマ生成容器101に安定して電子eを供給することができる。
【0047】
また、電子放出部材11をタンタル等の単体金属により形成した場合には、従来のLaB6等を用いた場合と比較して、電子放出部材11の仕事関数が大きくなることが想定される。すなわち、プラズマP2を点灯させるために、電子放出部材11を従来と比較してより高温にする必要があることが想定さる。これに対し、ホローカソード10A、10Bにおいては、電子放出部材11は、第一加熱部材13および第二加熱部材14によって加熱されるのに加え、自己発熱するため、十分に高温となり得る。
【0048】
図1に示すように、本実施形態においては、ホローカソード10A、10Bはそれぞれプラズマ生成容器101の底壁101eおよび底壁101fに配置されており、ホローカソード10A、10Bの電子供給口18a、18aはそれぞれ、プラズマ生成容器101内において、プラズマ生成容器101の長手方向の両端側に位置している。したがって、ホローカソード10A、10Bのうち、一方のみが設けられている場合と比較して、プラズマ生成容器内の広範囲に電子eを供給できるようになる。
【0049】
また、二つのホローカソード10A、10Bとは別のホローカソードを当該長手方向について互いに離間するように配置すれば、プラズマ生成容器101内のより広い領域にわたって電子eを供給できるようになる。すなわち、ホローカソード10Aを複数備え、これらがプラズマ生成容器101の一方向について互いに離間するように配置されている構成とすることによって、プラズマ生成容器101の内部に、一方向について互いに離間した複数の位置から電子eを供給できるようになる。この場合、プラズマ生成容器101内では、一方向について複数の位置から電子eが供給されることから、原料ガスGから生成されるプラズマP1のプラズマ密度を当該一方向についてより均一なものとすることができる。尚、イオン源100は、ホローカソード10Aまたはホローカソード10Bの一方のみを備える構成でもよく、本発明は複数のホローカソードを備えることに限定されるものではない。
【0050】
また、イオン源100においては、プラズマ生成容器101の長手方向について、互いに離間するように配置された二つの電子供給部材105、105をさらに備えている。この構成によれば、プラズマ生成容器1010内には、ホローカソード10A、10Bから供給される電子eに加え、電子供給部材105、105からも電子eが供給されるようになる。したがって、プラズマ生成容器101内に供給される電子eが増加し、プラズマ生成容器101内において原料ガスGからより効率的にプラズマP1を生成することができる。特に、電子供給部材105としてホローカソード10A、10Bよりも構造が簡単で安価なタングステン等のフィラメントを使用することにより、プラズマ生成容器101内の電子eが不足する領域に容易に電子eを供給できるようになる。電子供給部材105は、プラズマ生成容器101内で生成するプラズマP1のプラズマ密度や均一性を微調整するように電子eを供給するもので、プラズマ生成容器101内に複数の電子供給部材105が配置されていた場合であっても、常にすべての電子供給部材105から電子eが放出されている必要はない。つまり、適切な位置または数の電子供給部材105から電子が放出されるよう、イオン源100を外部から制御するようにしてもよい。
【0051】
本実施形態においては、さらに、二つの電子供給部材105、105は、プラズマ生成容器101の長手方向について、ホローカソード10A、10Bの間に位置するように配置されている。したがって、プラズマ生成容器101内には、当該長手方向について4つの異なる位置から電子eが供給される。したがって、プラズマ生成容器101内のより広い領域に電子eが供給されることになり、プラズマP1の当該長手方向においてプラズマ密度をより均一なものとすることができる。
【0052】
このように、ホローカソード10A、10Bと、電子供給部材105、105が、プラズマ生成容器1010の一方向について互いに離間するように配置されている構成により、プラズマ生成容器101内に生成するプラズマP1のプラズマ密度を当該一方向についてより均一にすることができる。換言すれば、電子供給部材105は、プラズマP1のプラズマ密度を均一にするため、ホローカソード10Aまたはホローカソード10Bから離れた位置に電子eを供給できるよう配置すればよい。
【0053】
プラズマ生成容器101に配置されるホローカソード10Aまたはホローカソード10Bの数、および電子供給部材105の数は、プラズマ生成容器101の大きさや、ホローカソード10Aまたはホローカソード10Bが電子eを供給する能力等に応じて適宜変更すればよい。また、ホローカソード10Aまたはホローカソード10Bは、例えば、側壁101bに配置されていてもよい。
【0054】
また、本実施形態におけるイオン源101は、原料ガスGが導入されるガス導入口104を備えているが、ホローカソード10A、10Bから十分な量の原料ガスGが供給される場合には、ガス導入口104を設ける必要はない。本実施形態における原料ガスGは、所定のイオンを生成するための原料を含むガスを指しており、純物質に限定されない。例えば、本実施形態における原料ガスGは、BF3ガスであるが、Arガス等を混合させた混合ガスであってもよい。また、ガス源200a、200bはBF3とArからなる混合ガス、200cはBF3ガスを供給する構成としてもよく、200a、200b、200cからは同一組成の原料ガスGが供給されることに限定されない。
【0055】
また、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0056】
イオン源100
プラズマ生成容器101
磁石102
ガス導入口104
電子供給部材105
ホローカソード10A、10B
内部流路11a
第一加熱部材13
第二加熱部材14
電子供給口18a
イオンビームIB
カスプ磁場B
原料ガスG
電子e