(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104095
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】精製ポリマーエマルジョンの製造方法および揮発性有機物質の除去方法
(51)【国際特許分類】
C08F 6/16 20060101AFI20220701BHJP
C08F 2/24 20060101ALI20220701BHJP
C08C 1/02 20060101ALI20220701BHJP
C08F 36/18 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
C08F6/16
C08F2/24 Z
C08C1/02
C08F36/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020219101
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】村田 智映
(72)【発明者】
【氏名】尾川 展子
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 彰
【テーマコード(参考)】
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
4J011AA05
4J011DA01
4J011DB28
4J011KA04
4J100AS07P
4J100FA20
4J100GD02
4J100JA03
4J100JA05
4J100JA13
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】乳化重合によって得られるポリマーエマルジョン中に残存する残留モノマーや溶剤などの揮発性有機物質を除去して、精製ポリマーエマルジョンを提供する。
【解決手段】精製ポリマーエマルジョンを製造する方法であって、
揮発性有機物質を含むポリマーエマルジョンにSiO2/Al2O3モル比が35以上、かつ平均細孔径が6Å以上12Å以下であるゼオライトを添加することを特徴とする、精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製ポリマーエマルジョンを製造する方法であって、
揮発性有機物質を含むポリマーエマルジョンにSiO2/Al2O3モル比が35以上、かつ平均細孔径が6Å以上12Å以下であるゼオライトを添加することを特徴とする、精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
【請求項2】
前記ポリマーエマルジョンがポリクロロプレンラテックスである、請求項1に記載の精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
【請求項3】
前記精製ポリマーエマルジョンに含まれる揮発性有機物質の濃度が、前記精製ポリマーエマルジョンの固形分質量を基準として300質量ppm以下である、請求項1または請求項2に記載の精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
【請求項4】
前記揮発性有機物質が、前記ポリマーエマルジョンの製造における重合反応での残留モノマーである、請求項1~3のいずれか1項に記載の精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
【請求項5】
前記揮発性有機物質が、前記ポリマーエマルジョンの製造工程における洗浄溶媒由来である、請求項1~4のいずれか1項に記載の精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
【請求項6】
前記ゼオライトが粉末もしくはペレット状である、請求項1~5のいずれか1項に記載の精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
【請求項7】
前記ゼオライトがポリマーエマルション100質量部に対し3質量部以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
【請求項8】
前記ゼオライトがポリマーエマルションの処理量の固形分100質量部に対し4質量部以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
【請求項9】
前記ゼオライトを除去する工程を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
【請求項10】
低分子化合物を揮発性有機物質として含むポリマーエマルジョンに対し、SiO2/Al2O3比が35以上、かつ平均細孔径が6Å以上12Å以下であるゼオライトを接触させる、ポリマーエマルジョン中の揮発性有機物質の除去方法。
【請求項11】
前記ポリマーエマルジョンがポリクロロプレンラテックスである、請求項10に記載のポリマーエマルジョン中の揮発性有機物質の除去方法。
【請求項12】
前記揮発性有機物質がクロロプレンモノマー、トルエンである、請求項11に記載のポリマーエマルジョン中の揮発性有機物質の除去方法。
【請求項13】
前記ゼオライトが粉末もしくはペレット状である、請求項10~12のいずれか1項に記載のポリマーエマルジョン中の揮発性有機物質の除去方法。
【請求項14】
前記ゼオライトがポリマーエマルション100質量部に対し3質量部以上である、請求項10~13のいずれか1項に記載のポリマーエマルジョン中の揮発性有機物質の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は精製されたポリマーエマルジョンの製造方法に関するものであり、揮発性有機物質の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリクロロプレンラテックスは、機械的強度、耐候性、耐熱性及び耐薬品性などの特性が良好であるため、浸漬成形品、繊維処理剤、紙加工剤、粘着剤、接着剤、弾性アスファルト(改質アスファルト)及び弾性セメントなどの種々の分野で利用されている。
【0003】
このようなポリクロロプレンラテックスは、乳化重合によって製造されていた。
一般に乳化重合によって得られるポリマーエマルジョンには、モノマーや洗浄時に使用した溶媒などの低分子量成分を含む揮発性有機物質が含まれている。
【0004】
このような揮発性有機物質は、光化学オキシダント及び浮遊粒子状物質等の二次生成粒子の原因物質とされており、シックハウス症候群や化学物質過敏症などの健康被害の原因となったり、また、作業環境を低下させるなどの原因となっていた。
また、大気汚染防止法による揮発性有機物質の排出規制が進められ、事業者には、いっそうの排出減少が求められている。
【0005】
残留している揮発性有機物質の除去方法として、従来は、減圧下でのスチームストリッピング(特許文献1)や触媒・重合開始剤の添加条件や圧力などの反応条件を調整することによる残存モノマー除去などが一般的に用いられてきた(特許文献2)。スチームストリッピングにはスチームによるエマルジョンからの析出等の課題があり、また反応条件を調整する方法では揮発性有機物質の減少に限界があった。
【0006】
なお、ポリマーエマルジヨンを精製方法として、ケイソウ土を使用することも知られていたが(特公平3-65820号公報)、微細凝固物のろ過除去方法に関するものであり、揮発性有機物質の除去という観点にあるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第2467769号明細書
【特許文献2】特開2003-82006号公報
【特許文献3】特公平3-65820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来法では、ポリマーエマルジョン中の揮発性有機物質を減少させる適切な方法は何ら知られていなかった。
なお、均一な溶液中においては活性炭やメソポーラスシリカ、ゼオライトなどの吸着材を用いた反応後の水分、金属イオン、揮発性有機物質の除去が検討されているが、ポリマーエマルジョンでは検討されていない。その理由はポリマーエマルジョンのように界面活性剤によってポリマーを水に微分散させている場合、吸着材が連続層である水を吸着してしまうと一時的に吸着材近辺で水分が不足する状況が発生し吸着材近辺からポリマーが凝集物として析出するためである。また、吸着材においては目的物質である揮発性有機物質以外にもエマルジョン中に含有する乳化剤や安定剤も同時に吸着してしまいポリマーエマルジョンを不安定化させることも検討されていない一因と考えられる。
【0009】
したがって本発明の課題は、ポリマーエマルジョン中に存在する揮発性有機物質の除去方法であり、熱履歴などによるポリマーエマルジョンの変性を抑制し、かつ吸着材を用いた条件においても界面活性剤の吸着などによるポリマーエマルジョンの不安定化を発生させない方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる状況下において、本発明者達は鋭意検討した結果、特定のゼオライトをポリマーエマルジョンに添加することで、精製ポリマーエマルジョンを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
[1]精製ポリマーエマルジョンを製造する方法であって、
揮発性有機物質を含むポリマーエマルジョンにSiO2/Al2O3モル比が35以上、かつ平均細孔径が6Å以上12Å以下であるゼオライトを添加することを特徴とする、精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
[2]前記ポリマーエマルジョンがポリクロロプレンラテックスである、[1]の精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
[3]前記精製ポリマーエマルジョンに含まれる揮発性有機物質の濃度が、前記精製ポリマーエマルジョンの固形分質量を基準として150質量ppm以下である、[1]または[2]の精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
[4]前記揮発性有機物質が、前記ポリマーエマルジョンの製造における重合反応での残留モノマーである、[1]~[3]の精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
[5]前記揮発性有機物質が、前記ポリマーエマルジョンの製造工程における洗浄溶媒由来である、[1]~[4]の精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
[6]前記ゼオライトが粉末もしくはペレット状である、[1]~[5]の精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
[7]前記ゼオライトがポリマーエマルション100質量部に対し3質量部以上である、[1]~[6]の精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
[8]前記ゼオライトがポリマーエマルションの処理量の固形分100質量部に対し4質量部以上である、[1]~[7]の精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
[9]前記ゼオライトを除去する工程を含む、[1]~[8]の精製ポリマーエマルジョンの製造方法。
[10]低分子化合物を揮発性有機物質として含むポリマーエマルジョンに対し、SiO2/Al2O3比が35以上、かつ平均細孔径が6Å以上12Å以下であるゼオライトを接触させる、ポリマーエマルジョン中の揮発性有機物質の除去方法。
[11]前記ポリマーエマルジョンがポリクロロプレンラテックスである、[10]のポリマーエマルジョン中の揮発性有機物質の除去方法。
[12]揮発性有機物質のクロロプレンモノマー、トルエンを吸着除去する、[10]または[11]のポリマーエマルジョン中の揮発性有機物質の除去方法。
[13]前記ゼオライトが粉末もしくはペレット状である、[10]~[12]のポリマーエマルジョン中の揮発性有機物質の除去方法。
[14]前記ゼオライトがポリマーエマルション100質量部に対し3質量部以上である、[10]~[13]のポリマーエマルジョン中の揮発性有機物質の除去方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のように所定のゼオライトを吸着材として使用することによる揮発性有機物質除去は加熱工程や化学反応を含まないため、ポリマーの変性が抑制される方法として優れ、しかも、ポリマーエマルジョンに適用した場合に固形分濃度の変動を抑えられるという点でも優れている。このため、有利な除去方法であるといえる。
【0013】
このため本発明によれば、エマルジョンから凝集物の析出を抑制しつつ、揮発性有機物質を効率よく除去することが可能な、精製ポリマーエマルジョンの製造方法および揮発性有機物質の除去方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施態様に係る精製ポリマーエマルジョンの製造方法および揮発性有機物質の除去方法について説明する。
本明細書中、「精製ポリマーエマルジョン」とは、後述する工程を経て製造され、工程を経ることによって「揮発性有機物質量が減少したポリマーエマルジョン」を意味する。
【0015】
また、本明細書中、「粗ポリマーエマルジョン」または、単に「ポリマーエマルジョン」との記載は、後述する工程を経ていないか、その途中であるポリマーエマルジョンを意味する。
【0016】
また、本明細書中、「除去」とは、ポリマーエマルジョン中の残留揮発性物質の少なくとも一部を取り除くことを意味する。
ポリマーエマルジョンの「固形分」とは、重合体の他に、乳化剤などの各種添加剤を含み、分散媒以外の成分に相当する。
【0017】
本実施形態の精製ポリマーエマルジョンの製造方法は、ポリマーエマルジョンにSiO2/Al2O3比が35以上かつ平均細孔径が6Å以上12Å以下であるゼオライトを添加することで、含まれる揮発性有機物質を少なくすることを特徴とする。
【0018】
[ポリマーエマルジョン]
ポリマーエマルジョンとは、重合体が分散媒中に安定に分散した乳濁液である。
重合体としては特に限定されないが、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、天然ゴム(NR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化もしくは部分水素化ニトリルゴム(HNBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)、ブチルゴム(IIR)、ポリクロロプレン(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、塩素化ポリエチレン(CM)、クロロスルホン化ゴム(CSM)が挙げられ、好ましくはポリクロロプレンやポリイソプレンのような共役ジエンであり、更に好ましくはポリクロロプレンである。ポリクロロプレンは、モノマーがクロロプレンのみから構成される単独重合体でもよく、また、クロロプレンと他のモノマーとの共重合体でもよい。このようなポリクロロプレン単独重合体およびポリクロロプレン共重合体のエマルジョンを、ポリクロロプレンラテックスと称すこともある。
【0019】
前記ポリクロロプレン共重合体の場合、クロロプレンと共重合する前記他のモノマーは、特に限定されるものではないが、例えば、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸及びそのエステル類、メタクリル酸及びそのエステル類等が挙げられる。これらは、1種単独であっても、2種以上が併用されてもよい。
【0020】
前記共重合体を構成するモノマーは、クロロプレンが主成分であることが好ましく、該共重合体を構成する全モノマーの合計含有量100質量%中、クロロプレンが70.0~99.9質量%であることが好ましく、より好ましくは75.0~99.8質量%、さらに好ましくは80.0~99.7質量%である。
【0021】
分散媒としては、エマルジョンを形成するものであれば特に制限されないが、通常、水、メタノール、エタノールなどが挙げられ、好ましくは水である。
ポリマーエマルジョンの固形分濃度は、安定な分散状態が保持されている限り、特に限定されるものではない。好ましくは40~70質量%であり、より好ましくは42~65質量%、さらに好ましくは45~62質量%である。
【0022】
なお、本明細書におけるポリマーエマルジョンの固形分濃度は、ポリマーエマルジョンを140℃で25分間加温して乾燥させたときの、乾燥前のエマルジョンの質量に対する乾燥残分の質量の割合である。
【0023】
なお、本実施形態におけるポリマーエマルジョンの合成方法は、特に限定されるものではなく、本実施形態の製造方法は、公知の合成方法で得られるポリマーエマルジョンに適用することができる。例えば、ポリクロロプレンラテックスの場合、特開2007-106994号公報や、特開2019-044116号公報などの記載する方法により合成することができる。
【0024】
ポリマーエマルジョンの合成方法としては、好ましくは乳化重合を採用できる。特に、工業的には、水性乳化重合が採用できる。乳化重合法における乳化剤としては、たとえば、ロジン酸石鹸を用いることができる。特に、着色安定性の観点から、不均化ロジン酸のナトリウム及びまたはカリウム塩を使用することが好ましい。ロジン酸石鹸の使用量は、モノマー100質量部に対して、3~8質量部が好ましい。この範囲にあると、十分に乳化できるので、重合発熱制御が容易であり、凝集物が生成することもないので、最終的に外観に優れた製品を得ることが可能となる。
【0025】
したがって、ポリマーエマルジョンには、重合体の他に、分散媒、乳化剤が含まれている。さらに重合時に使用した、硫酸銅や乳化の際に使用したアルカリ成分(金属水酸化物)が含まれていることもある。さらにまた、重合体の分子量及び分布を調整するため、例えばフェノチアジン、パラ-t-ブチルカテコール、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジエチルヒドロキシルアミン等の重合停止剤や、酸素による劣化を抑制するために、受酸剤や酸化防止剤などの安定剤を適宜含まれていることもある。
【0026】
[揮発性有機物質]
ポリマーエマルジョンに含まれる揮発性有機物質としては、例えば、ポリマーエマルジョン製造における重合反応での未反応モノマー(残留モノマー)、ポリマーエマルジョンの製造過程で使用された有機溶媒(残留有機溶媒)等が挙げられる。
【0027】
前記残留モノマーは、上述したポリマーエマルジョンを構成するモノマーのうちの未反応モノマーであり、主に、クロロプレン重合体の主成分であるクロロプレンモノマーである。ポリマーエマルジョンの品質及び性状等を良好に保持する観点から、これらの残留モノマーが除去されることが好ましい。特に、クロロプレンモノマーは、主成分として最も多く含まれ得る残留モノマーであり、エマルジョン中から、できる限り除去されることが好ましい。
【0028】
前記残留有機溶媒は、たとえば、反応溶媒として、モノマーを溶解する際に使用されていたり、各種添加剤の溶媒として含まれていたり、さらに製造物から不純物を分別し、洗浄する際に使用されるプラントの洗浄溶媒などが挙げられ、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、4-メチルシクロヒドロピラン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン等のケトン系溶媒等が挙げられる。
【0029】
このうちトルエンは、前記記載の各種添加剤の分散や製造装置の洗浄の目的で使用され、残っていると、精製ポリマーエマルジョンに臭気をもたらすという影響を及ぼすために、除去されることが望ましい。
【0030】
粗ポリマーエマルジョンに含まれる揮発性有機物質の濃度は、特に制限されるものではなく、粗ポリマーエマルジョンの固形分質量を基準として300~5000質量ppmが好ましく、より好ましくは400~3000質量ppm、さらに好ましくは500~1000質量ppmである。
【0031】
本実施形態の製造方法は、前記揮発性有機物質の濃度が300質量ppm以上である場合に、前記濃度をより低減させるために適用することが有利である。また、前記濃度が5000質量ppm以下であれば、該濃度のさらなる低減を効率よく行うことができる。
【0032】
粗ポリマーエマルジョンに含まれる揮発性有機物質の濃度は、特に制限されるものではなく、粗ポリマーエマルジョンの溶媒を含む総質量を基準として150~10000質量ppmが好ましく、より好ましくは175~5000質量ppm、さらに好ましくは200~1000質量ppmである。
【0033】
[ゼオライト]
本実施形態の製造方法に用いるゼオライトのSiO2/Al2O3比は35以上であり、好ましくは100以上であり、より好ましくは200以上である。SiO2/Al2O3比が35以上であると、ポリマーエマルジョン、特にクロロプレンラテックスに含有する主要な有機揮発分であるクロロプレンモノマーおよびトルエンを選択的に吸着可能となるので好ましい。
【0034】
ゼオライトのSiO2/Al2O3比は好ましくは10000以下であり、より好ましくは5000以下であり、更に好ましくは3000以下である。ゼオライトのSiO2/Al2O3比が10000以下であれば、ポリマーエマルジョンのpH低下による不安定化を回避可能であり好ましい。
【0035】
ゼオライトの平均細孔径は6Å以上であり、より好ましくは8Å以上である。ゼオライトの平均細孔径は6Å以上であれば、ポリマーエマルジョン、特にクロロプレンラテックスに含有する主要な有機揮発分であるクロロプレンモノマーを吸着可能であり好ましい。ゼオライトの平均細孔径は12Å以下であり、好ましくは10Å以下である。ゼオライトの平均細孔径は12Å以下であれば、界面活性剤などの有機揮発成分以外の吸着が発生しないためエマルジョンの安定性が保持され好ましい。
【0036】
なお、一般に、ゼオライトとは、結晶性アルミノケイ酸塩の総称である。本実施形態で用いるゼオライトは天然又は合成のいずれであってもよいが、合成ゼオライトであることが好ましい。
【0037】
一般に、ゼオライトが有する結晶構造(骨格構造ともいう。)の基本的な単位は、ケイ素原子又はアルミニウム原子を取り囲んだ4個の酸素原子からなる四面体であり、これらが3次元方向に連なって結晶構造を形成している。
【0038】
本実施形態で用いるゼオライトの結晶構造は、特に制限はなく、例えば、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association)が定めるアルファベット3文字からなる構造コードにて表される各種の結晶構造が挙げられる。構造コードの例としては、例えば、LTA、FER、MWW、MFI、MOR、LTL、FAU、BEAのコードが挙げられる。また、本実施形態で用いる当該結晶構造の好適な一態様を結晶構造の名称で示すと、好ましくはA型、X型、β型、Y型、L型、ZSM-5型、MCM-22型、フェリエライト型及びモルデナイト型からなる群より選ばれる少なくとも1種である。さらに、モノデナイト、アルナサイト、ソーダライト族アルミノケイ酸塩、クリノブチロライト、エリオナイト、およびチャバサイトも使用できる。このうち好ましいのは、ZMS-5型ゼオライトである。
【0039】
前記ゼオライトは粉末であっても、ペレット状に成形されたものであってもよい。
本実施形態で用いるゼオライト粉末の平均粒径は、特に制限されず、たとえば20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることが更に好ましい。ゼオライトの粒径は0.1μm以上とするが好ましい。この範囲にあれば、ゼオライト粉末が凝集することもなく、また、エマルジョンからの分離も容易となる。
【0040】
本実施形態で用いるゼオライト粉末は、表面処理剤により表面処理されたものであってもよく、表面処理は、シランカップリング剤処理、イソシアネート化合物処理、チオール化合物処理、酸化合物処理、アルコール化合物処理、エポキシ化合物処理の少なくとも何れかであることが好ましい。
【0041】
ペレット状のゼオライトは前記粉末を公知の条件でペレット状に成形したものであればその形状は特に制限されない。
前記ゼオライトは、粗ポリマーエマルション100質量部に対し3質量部以上となるように接触させることが好ましく、さらには6質量部以上であることが好ましい。この範囲にあれば効率的に揮発性有機物質を除去できる。
【0042】
前記ゼオライトは、粗ポリマーエマルション中の固形分100質量部に対し4質量部以上となるように接触させることが好ましく、より好ましくは6質量部であり、さらには8質量部以上であることが好ましい。前記ゼオライトは、粗ポリマーエマルション中の固形分100質量部に対し30質量部以下となるように接触させることが好ましい。この範囲にあれば効率的に揮発性有機物質を除去できる。
【0043】
[処理方法および装置]
ゼオライトをポリマーエマルジョンに接触させる際のポリマーエマルジョンの温度は特に限定されないが、10℃以上60℃以下が好ましく、より好ましくは15℃以上50℃以下であり、更に好ましくは20℃以上40℃以下である。ゼオライトをポリマーエマルジョンに接触させる際のポリマーエマルジョンの温度が10℃以上60℃以下であれば、ポリマーエマルジョンの加熱にエネルギーを要さず好ましい。
【0044】
ゼオライトをポリマーエマルジョンに接触させる時間は特に限定されないが、バッチ装置の場合は0.1時間以上10時間以内が好ましく、より好ましくは1時間以上8時間以内であり、更に好ましくは2時間以上5時間以内である。ゼオライトをポリマーエマルジョンに接触させる時間が1時間以上10時間以内であれば、反応槽のサイズが適正となり好ましい。
【0045】
ゼオライトをポリマーエマルジョンに接触させる際の圧力は特に限定されず減圧加圧下でも適用可能であるが、常圧(大気圧)がより好ましい。
ゼオライトをポリマーエマルジョンと接触させる装置は特に限定されないが、上記の気圧及び温度の条件でラテックス中の揮発性有機物質の除去操作を行うことができるものであればよい。装置はバッチ式でも、連続装置のいずれも採用可能である。例えば、タンク等の容器内での撹拌、配管内でのミキシング、ストリッピング塔を用いた向流接触等の方法が挙げられる。これらのうち、装置のメンテナンスや増設のしやすさ、コスト等の観点から、タンク等の容器内での撹拌が好ましい。
【0046】
なお、本実施形態の製造方法においては、ポリマーエマルジョンからの凝集物の析出を抑制するという本実施形態の効果を妨げない範囲内であれば、ポリマーエマルジョン中の揮発性有機物質を除去するために、例えば、蒸留や吸着、噴霧等の他の方法を併用してもよい。
【0047】
上記工程後のポリマーエマルジョンから、ゼオライトを固液分離手段により、分離回収し、精製ポリマーエマルジョンが製造される。固液分離手段は特に制限されず、濾過やデカンテーションなどが挙げられる。
【0048】
本実施態様によれば、ポリマーエマルジョン中の揮発性有機物質が除去され、該揮発性有機物質の濃度が低減する。前記揮発性有機物質の濃度は、該精製ポリマーエマルジョンの固形分を基準として、好ましくは300質量ppm未満に低減され、より好ましくは250質量ppm以下、さらに好ましくは200質量ppm以下、よりさらに好ましくは100質量ppm以下に低減される。
【0049】
回収されたゼオライトは、150℃以上で加熱して再生することで、再利用することができる。
本実施態様によれば、低分子化合物を揮発性有機物質として含むポリマーエマルジョンに対し、SiO2/Al2O3比が35以上、かつ平均細孔径が6Å以上12Å以下であるゼオライトを接触させる、ポリマーエマルジョン中の揮発性有機物質の除去方法も提供される。
【0050】
この除去方法では前記ポリマーエマルジョンとしてポリクロロプレンラテックスが好適に使用され、揮発性有機物質のクロロプレンモノマー、トルエンを吸着除去することができる。使用されるゼオライトは前記したように、粒子またはペレット状であることが好ましい。さらに前記ゼオライトがポリマーエマルションの処理量100質量部に対し3質量部以上であることが好ましく、さらには、6質量部以上であることが好ましい。
【実施例0051】
下記に実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが以下の例により本発明は何等限定されるものではない。
【0052】
[揮発性有機物質の定量]
ポリクロロプレンラテックスに含有する残留モノマーであるクロロプレンおよびトルエンを揮発性有機物質とみなして、高速液体クロマトグラフィーにより、以下の測定条件で測定した。
【0053】
<測定条件>
・測定試料:ラテックス0.1gにシクロヘキサン(純正化学株式会社製)20gを添加混合して得られたクロロプレンの抽出液と、プロピオン酸ブチルを100倍(質量基準)のシクロヘキサンで希釈した溶液とを、質量比9:1で混合して調製したもの
・測定機器:高速液体クロマトグラフ;株式会社島津製作所製、「Prominence(登録商標)」
・検出器:UV 220nm
・カラム:昭和電工株式会社製、「Shodex(登録商標) Asahipak(登録商標) ODP-50 4D」
・カラム温度:40℃
・溶離液:アセトニトリル/水=6/4(体積比)
・流速:0.8mL/min
・注入量:10μL
・内部標準物質:プロピオン酸ブチル
【0054】
[SiO2/Al2O3比]
ゼオライトのSiO2/Al2O3比は、核磁気共鳴測定装置(日本電子株式会社製、JNM-ECZR600)を用いて、29Si-および 27Al-MAS(マジック角試料回転)-NMRよりSi/Alのモル比を求め、SiO2/Al2O3モル比に換算して算出した。
【0055】
[平均細孔径]
JIS Z 8831-3:2010に則り求めた。
【0056】
[凝集物の生成確認]
精製ポリマーエマルジョンから吸着材を80mesh(目開き0.177mm)の金属網でクロロプレンラテックスを濾過除去した後に、金属網上に残された濾物の表面を顕微鏡(株式会社 キーエンス社製、型番:VH-6300)にて50倍にて観察し、凝集物の有無を確認した。
【0057】
[クロロプレン重合体ラテックスの合成例]
内容積60Lの反応器に、モノマーとして2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(東京化成工業株式会社製)20.0kg、純水11.2kgと、不均化ロジン酸(荒川化学工業株式会社製、「R-300」)340gと、n-ドデシルメルカプタン(東京化成工業株式会社製)10.0gと、水酸化カリウム(純正化学工業株式会社製)1.1kgと、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(花王株式会社製)2400gとを仕込んだ。
【0058】
これらの仕込み原料を乳化させて、不均化ロジン酸をロジン石鹸とした後、開始剤として過硫酸カリウム(三菱ガス化学株式会社製)を加えて、窒素雰囲気下、45℃で重合を行った。6時間後に重合転化率が90%に達したことを確認し、直ちにフェノチアジンをトルエンに溶解させ乳化させた乳濁液を添加して重合を停止した。
【0059】
次いで、水蒸気蒸留にて残留モノマーの除去処理を行い、クロロプレン重合体ラテックス(固形分濃度59質量%)を得た。このときのクロロプレンモノマー濃度は282質量ppm、トルエン濃度は482質量ppmであった。
【0060】
[実施例1]
合成例1で合成したクロロプレン重合体ラテックス100gを反応容器に入れ液温を23℃とし、ゼオライト(ユニオン昭和株式会社製、HiSiv3000、ZMS-5型)3gを添加し、3時間600rpm撹拌棒で撹拌した。この工程後、得られた精製ポリマーエマルジョンに含まれるクロロプレンモノマー濃度は24質量ppm、トルエン濃度は275質量ppmであった。
【0061】
[実施例2~4、比較例1~3]
表1記載の吸着剤種類、量、処理時間とした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0062】
【0063】
モノマー:クロロプレンモノマー
実施例のSiO2/Al2O3モル比が35以上かつ平均細孔径6-9Åのゼオライトを用いた場合、クロロプレンモノマーおよびトルエンを良好に除去することができ、エマルジョンの凝集が発生しない。一方で比較例2のように平均細孔径6-9Åのゼオライトを用いてもSiO2/Al2O3モル比が35未満のものを用いた場合は、クロロプレンモノマーおよびトルエンの除去効率が劣る。また比較例1、3のように異なる平均細孔径のゼオライトを用いた場合は、エマルジョンに凝集が発生した。