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特開2022-104191前処理装置、前処理方法、製造方法、及び水溶液
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  • 特開-前処理装置、前処理方法、製造方法、及び水溶液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104191
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】前処理装置、前処理方法、製造方法、及び水溶液
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/00 20060101AFI20220701BHJP
【FI】
D06P5/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020219238
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】三輪 卓也
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 真未
【テーマコード(参考)】
4H157
【Fターム(参考)】
4H157AA03
4H157CB04
4H157CB15
4H157CB32
4H157CC01
4H157GA06
(57)【要約】
【課題】 前処理剤のにじみを防ぎ、且つ、前処理の前処理剤と前処理剤との反応による跡残りを低減可能な前処理装置を提供する。
【解決手段】 本発明の前処理装置は、浸透性を有しインクが塗布される被記録媒体に、前処理を行う前処理装置であって、アルギン酸塩を含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する第1塗布部と、キレート剤を含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する第2塗布部と、多価金属塩を含む前処理剤を前記被記録媒体に塗布する第3塗布部と、を含み、前記第3塗布部は、前記第1塗布部及び前記第2塗布部による前記塗布後、前記前処理剤を塗布する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸透性を有しインクが塗布される被記録媒体に、前処理を行う前処理装置であって、
アルギン酸塩を含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する第1塗布部と、
キレート剤を含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する第2塗布部と、
多価金属塩を含む前処理剤を前記被記録媒体に塗布する第3塗布部と、を含み、
前記第3塗布部は、前記第1塗布部及び前記第2塗布部による前記塗布後、前記前処理剤を塗布する、
前処理装置。
【請求項2】
前記第2塗布部は、前記キレート剤を含む水溶液における前記キレート剤の濃度が5%以下である前記水溶液を塗布する、
請求項1記載の前処理装置。
【請求項3】
前記第2塗布部は、前記キレート剤を含む水溶液における前記キレート剤の濃度が1%以上である前記水溶液を塗布する、
請求項1または2記載の前処理装置。
【請求項4】
前記第2塗布部は、前記キレート剤を含む水溶液における前記キレート剤としてEDTA4Na4水和物を含む前記水溶液を塗布する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の前処理装置。
【請求項5】
前記第3塗布部は、前記第2塗布部が塗布した前記キレート剤を含む水溶液がウエットの状態で、前記前処理剤を塗布する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の前処理装置。
【請求項6】
前記第1塗布部が前記第2塗布部を兼ねており、前記第1塗布部が前記アルギン酸塩と前記キレート剤とを含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の前処理装置。
【請求項7】
浸透性を有しインクが塗布される被記録媒体に、前処理を行う前処理方法であって、
アルギン酸塩を含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する第1塗布工程と、
キレート剤を含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する第2塗布工程と、
多価金属塩を含む前処理剤を前記被記録媒体に塗布する第3塗布工程と、を含み、
前記第3塗布工程は、前記第1塗布工程及び前記第2塗布工程による前記塗布後、前記前処理剤を塗布する、
前処理方法。
【請求項8】
前処理が行われた被記録媒体の製造方法であって、
前記被記録媒体の前処理を行う前処理工程を含み、
前記前処理工程が、請求項7記載の前処理方法により実施される、
製造方法。
【請求項9】
浸透性を有しインクが塗布される被記録媒体に、アルギン酸塩を含む水溶液、及び多価金属塩を含む前処理剤の順に前処理を行う前処理装置に供給される前記水溶液であって、
さらに、キレート剤を含む、
水溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前処理装置、前処理方法、製造方法、及び水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式による画像の印刷において、画質の改善等のために、印刷イメージ範囲に予め前処理剤(以下、PTともいう。)を吐出する前処理方法が知られている。しかし、印刷範囲外への前記PTのにじみが生じる場合があった。
【0003】
これを改善するために、さらに、前処理の前処理剤(以下、PPTともいう。)を塗布し、その後、前記PTの塗布を行う技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006―124842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らは、PPTとしてアルギン酸塩を含む水溶液を用いた場合、PPTに含まれるアルギン酸塩とPTのカルシウムイオンとがゲル化し、ゲル化の跡が残るという問題が生じることを見出した。
【0006】
そこで、本発明は、前処理剤(PT)のにじみを防ぎ、且つ、前処理の前処理剤(PPT)とPTとの反応による跡残りを低減可能な前処理装置、前処理方法、製造方法、及び水溶液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の前処理装置は、
浸透性を有しインクが塗布される被記録媒体に、前処理を行う前処理装置であって、
アルギン酸塩を含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する第1塗布部と、
キレート剤を含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する第2塗布部と、
多価金属塩を含む前処理剤を前記被記録媒体に塗布する第3塗布部と、を含み、
前記第3塗布部は、前記第1塗布部及び前記第2塗布部による前記塗布後、前記前処理剤を塗布する。
【0008】
本発明の前処理方法は、
浸透性を有しインクが塗布される被記録媒体に、前処理を行う前処理方法であって、
アルギン酸塩を含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する第1塗布工程と、
キレート剤を含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する第2塗布工程と、
多価金属塩を含む前処理剤を前記被記録媒体に塗布する第3塗布工程と、を含み、
前記第3塗布工程は、前記第1塗布工程及び前記第2塗布工程による前記塗布後、前記前処理剤を塗布する。
【0009】
本発明の製造方法は、
前処理が行われた被記録媒体の製造方法であって、
前記被記録媒体の前処理を行う前処理工程を含み、
前記前処理工程が、前記本発明の前処理方法により実施される。
【0010】
本発明の水溶液は、
浸透性を有しインクが塗布される被記録媒体に、アルギン酸塩を含む水溶液、及び多価金属塩を含む前処理剤の順に前処理を行う前処理装置に供給される前記水溶液であって、
さらに、キレート剤を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の前処理装置は、前処理剤(PT)のにじみを防ぎ、且つ、前処理の前処理剤(PPT)とPTとの反応による跡残りを低減可能な前処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の前処理装置の一例の構成を示す模式図である。
図2図2は、実施形態1の前処理方法における処理の一例を示すフローチャートである。
図3図3は、実施例1における、布帛の写真である。
図4図4は、実施例2における、布帛の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の前処理装置は、浸透性を有しインクが塗布される被記録媒体に、前処理を行う前処理装置であって、アルギン酸塩を含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する第1塗布部と、キレート剤を含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する第2塗布部と、多価金属塩を含む前処理剤を前記被記録媒体に塗布する第3塗布部と、を含み、前記第3塗布部は、前記第1塗布部及び前記第2塗布部による前記塗布後、前記前処理剤を塗布する。
【0014】
まず、本発明における、前記アルギン酸塩を含む水溶液、前記キレート剤を含む水溶液、前記多価金属塩を含む前処理剤、前記インク、及び前記被記録媒体について、説明する。
【0015】
前記アルギン酸塩を含む水溶液は、アルギン酸塩を含む。前記アルギン酸塩を含む水溶液において、その他の構成は、特に制限されない。
【0016】
前記アルギン酸塩は、例えば、アルギン酸ナトリウムがあげられる。ただし、これには制限されず、例えば、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム等の水溶性塩を用いることができる。
【0017】
前記アルギン酸塩を含む水溶液において、アルギン酸塩の濃度は、前処理の前処理剤としての効果を発揮可能な範囲であればよく、特に制限されず、例えば、0.5質量%~15質量%であり、好ましくは、1質量%である。
【0018】
前記キレート剤を含む水溶液は、キレート剤を含む。前記キレート剤を含む水溶液において、その他の構成は、特に制限されない。
【0019】
前記キレート剤は、例えば、EDTA4Na4水和物、クエン酸3Na2水和物があげられる。ただし、これには制限されず、例えば、EDTA(エチレンジアミン四酢酸類/Ethylenediamine tetraacetic Acid)、NTA(Nitrilo Triacetic Acid)、DTPA(Diethylene Triamine Pentaacetic Acid)、HEDTA(Hydroxyethyl Ethylene Diamine Triacetic Acid)、TTHA(Triethylene Tetramine Hexaacetic Acid)、PDTA(1,3-Propanediamine Tetraacetic Acid)、DPTA-OH(1,3-Diamino-2-hydroxypropane Tetraacetic Acid)、HIDA(Hydroxyethyl Imino Diacetic Acid)、DHEG(Dihydroxyethyl Glycine)、GEDTA(Glycol Ether Diamine Tetraacetic Acid)、CMGA(Dicarboxymethyl Glutamic Acid)、EDDS (S,S)‐Ethylene Diamine Disuccinic Acid)、HIDS系(ヒドロキシイミノジコハク酸)等のアミノカルボン酸系キレート剤;HEDP(Hydroxyethylidene Diphosphonic Acid)、NTMP(Nitrilotris (Methylene Phosphonic Acid))、PBTC(Phosphonobutane Tricarboxylic Acid)、EDTMP(Ethylene Diamine Tetra(Methylene Phosphonic Acid))等のホスホン酸系キレート剤;ASDA(L-アスパラギン酸-N,N-二酢酸四ナトリウム塩/L-aspartate-N, N- diacetic acid tetrasodium salt)、グルコン酸(Gluconic Acid)、クエン酸、リンゴ酸等のその他のキレート剤;等を用いることができる。なお、以下の説明において、「ナトリウム」を「Na」とも記載する。
【0020】
前記キレート剤を含む水溶液において、前記キレート剤の濃度は、例えば、5%以下、および1%以上である。前記キレート剤の濃度は、例えば、1%、3%、および5%とすることができる。
【0021】
前記多価金属塩を含む前処理剤は、多価金属塩を含む。前記多価金属塩を含む水溶液において、その他の構成は、特に制限されない。
【0022】
前記多価金属塩は、例えば、硝酸カルシウム2水和物があげられる。ただし、これには制限されず、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、及び亜鉛の水溶性塩を用いることができ、マグネシウム、及びカルシウムの水溶性塩が好ましい。
【0023】
前記インクは、一般的なインクジェット方式によるインクの塗布に用いられるインクとすることができ、特に制限されない。前記インクは、例えば、着色剤として、顔料、及び染料等を含んでもよい。また、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等の樹脂を含んでもよい。前記インクは、例えば、さらに、水、並びに、湿潤剤、及び界面活性剤等のその他の成分を含んでもよい。
【0024】
前記被記録媒体は、浸透性を有する。前記被記録媒体において、その他の構成は、特に制限されない。前記浸透性を有する被記録媒体は、例えば、布帛、紙、段ボール、セラミックス、不織布、スポンジ、金属メッシュ等があげられる。前記浸透性を有する被記録媒体は、例えば、多孔質の素材からなる。
【0025】
(前処理装置)
つぎに、本発明の前処理装置について説明する。本発明の前処理装置は、一つの筐体の内部に第1塗布部、第2塗布部、及び、第3塗布部を備えた一体型のものであってもよいし、別個独立した第1塗布部、第2塗布部、及び、第3塗布部を含むシステムであってもよい。
【0026】
図1に、本発明の前処理装置の構成の一例を示す。図1に示すように、前処理装置1は、第1塗布部2、第2塗布部3、第3塗布部4、及び制御部を含む。なお、本発明の前処理装置1において、前記制御部は、任意の構成であり、例えば、あってもよいし、なくてもよい。前処理装置1は、例えば、一般的なインクジェット方式の画像形成装置と同様の構成とすることができる。
【0027】
第1塗布部2は、前記アルギン酸塩を含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する。第1塗布部2は、第1水溶液吐出手段21、及び第1水溶液収容部22を含む。
【0028】
第1水溶液吐出手段21は、スプレーがあげられる。ただし、これには制限されず、第1水溶液吐出手段21は、前記アルギン酸塩を含む水溶液を前記被記録媒体に吐出可能であればいかなる手段であってもよく、例えば、インクジェットノズル列を有する液体吐出ヘッド、インクを布帛に塗布するスタンプ、刷毛、ローラ等であってもよい。
【0029】
第1水溶液収容部22には、前記アルギン酸塩を含む水溶液が収容されている。第1水溶液収容部22において、カートリッジやタンク等の収容容器が、供給チューブを介して第1水溶液吐出手段21に接続されている。
【0030】
第2塗布部3は、前記キレート剤を含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する。第2塗布部3は、第2水溶液吐出手段31、及び第2水溶液収容部32を含む。
【0031】
第2水溶液吐出手段31は、第1水溶液吐出手段21と同様である。
【0032】
第2水溶液収容部32には、前記キレート剤を含む水溶液が収容されている。第2水溶液収容部32において、カートリッジやタンク等の収容容器が、供給チューブを介して第2水溶液吐出手段31に接続されている。
【0033】
図1において、第2塗布部3は、第1塗布部2とは別に設けられている。ただし、これには制限されず、前処理装置1において、第1塗布部2が第2塗布部3を兼ねており、第1塗布部2が前記アルギン酸塩と前記キレート剤とを含む水溶液を、前記被記録媒体に塗布する構成であってもよい。この場合、第1水溶液収容部22に、前記アルギン酸塩と前記キレート剤とを含む水溶液が収容されていてもよいし、第1水溶液収容部22及び第2水溶液収容部32に、前記アルギン酸塩を含む水溶液及び前記キレート剤を含む水溶液が、それぞれ収容されていてもよい。前者の場合、前記アルギン酸塩と前記キレート剤との両方を含む水溶液を用いることにより、例えば、前記キレート剤を含む水溶液、及び前記アルギン酸塩を含む水溶液が水溶液中に均一に拡散しているため、ゲル化を均一に抑えることができる。
【0034】
第3塗布部4は、前記多価金属塩を含む前処理剤を前記被記録媒体に塗布する。第3塗布部4は、第1塗布部2及び第2塗布部3による前記塗布後、前記前処理剤を塗布する。第3塗布部4は、前処理剤吐出手段41、及び前処理剤収容部42を含む。
【0035】
前処理剤吐出手段41は、インクジェットノズル列を有する液体吐出ヘッドがあげられる。ただし、これには制限されず、前処理剤吐出手段41は、前記前処理剤を前記被記録媒体における印刷範囲に吐出可能であればいかなる手段でもよい。
【0036】
前処理剤収容部42には、前記多価金属塩を含む前処理剤が収容されている。前処理剤収容部42において、カートリッジやタンク等の前処理剤収容容器が、供給チューブを介して前処理剤吐出手段41に接続されている。
【0037】
第3塗布部4は、第2塗布部3が塗布した前記キレート剤を含む水溶液がウエットの状態で、前記前処理剤を前記被記録媒体に塗布することができる。第3塗布部4は、例えば、乾燥処理を行わないことで、ウエットの状態で、前記前処理剤を前記被記録媒体に塗布することができる。また、第3塗布部4は、例えば、第2塗布部3による前記塗布後、予め設定した時間が経過する前に前記前処理剤の塗布を行うことで、ウエットの状態で、前記前処理剤を前記被記録媒体に塗布することができる。前記予め設定した時間は、適宜設定でき、例えば、1~60秒である。
【0038】
第3塗布部4が、前記キレート剤を含む水溶液がウエットの状態で、前記前処理剤を前記被記録媒体に塗布することにより、例えば、前記キレート剤を含む水溶液、及び前記アルギン酸塩を含む水溶液が均一に塗布されている状態で、前記前処理剤が前記被記録媒体に塗布されるため、ゲル化を均一に抑えることができる。また、前記前処理剤のにじみを防ぐことができる。
【0039】
前記制御部は、中央演算装置(例えば、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)と、入力インターフェースと、出力インターフェースとがバスを介して電気的に接続されている。
【0040】
前記CPUは、例えば、ユーザの入力を受付けする、表示装置、操作パネル、ボタン等によって入力された信号や、ROM及びRAM内の各種プログラムやデータに基づいて各種演算や処理を行う。そして、前記出力インターフェースを介して、第1塗布部2、第2塗布部3、及び第3塗布部4等の各構成部材にデータ等を送信する。RAMは、読み出し・書き込み可能な揮発性記憶装置であって、CPUでの各種演算結果等が記憶される。
【0041】
前処理装置1は、例えば、さらに、インク塗布部を含んでもよい。前記インク塗布部は、第1塗布部2、第2塗布部3、及び第3塗布部4により、前記アルギン酸塩を含む水溶液、前記キレート剤を含む水溶液、及び前記多価金属塩を含む前処理剤が塗布された前記被記録媒体に、前記インクを塗布する。
【0042】
本発明により、前処理の前処理剤(PPT)と前処理剤(PT)との反応による跡残り(以下、「ゲル化跡」ともいう。)を低減可能であることのメカニズムは、例えば、つぎのように推察される。すなわち、前述のように、本発明者らは、PPTとしてアルギン酸塩を含む水溶液を用いた場合、PPTに含まれるアルギン酸塩とPTのカルシウムイオンとがゲル化し、印刷範囲外までゲル化の跡が残るという問題が生じることを見出した。これに対し、本発明によれば、アルギン酸と結合したカルシウムイオンをキレート剤が回収することができ、これにより、カルシウムイオンとアルギン酸塩との結合によるゲル化が抑制されると推察される。ただし、本発明は、前記推察に限定されない。
【0043】
(前処理方法)
つぎに、本発明の前処理方法について説明する。
【0044】
本発明の前処理方法は、浸透性を有しインクが塗布される被記録媒体に、前処理を行う前処理方法であって、アルギン酸塩を含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する第1塗布工程と、キレート剤を含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する第2塗布工程と、多価金属塩を含む前処理剤を前記被記録媒体に塗布する第3塗布工程と、を含み、前記第3塗布工程は、前記第1塗布工程及び前記第2塗布工程による前記塗布後、前記前処理剤を塗布する。
【0045】
本実施形態の前処理方法について、図2を用いて説明する。図2は、前記前処理方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態の前処理方法は、例えば、前述の、前処理装置1を用いて、次のように実施できる。ただし、本実施形態の前処理方法は、前処理装置1の使用には限定されない。
【0046】
まず、第1塗布部2により、前記第1塗布工程(S101)を行う。前記第1塗布工程(S101)は、アルギン酸塩を含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する。
【0047】
前記第1塗布工程(S101)において、例えば、前記アルギン酸塩を含む水溶液を、前記被記録媒体において全体的に塗布してもよいし、印刷範囲に塗布してもよい。なお、後述する第3塗布工程(S103)における前記前処理剤(PT)の塗布において、PTのにじみの発生をより抑制する観点から、前記第1塗布工程(S101)及び後述する第2塗布工程(S102)において、前処理の前処理剤(PPT)、すなわち、前記アルギン酸塩を含む水溶液及び前記キレート剤を含む水溶液を、前記被記録媒体に全体的に塗布することが好ましい。
【0048】
前記被記録媒体への前記アルギン酸塩を含む水溶液の塗布量は、特に制限されず、例えば、5mg/cm~50mg/cmであればよい。なお、後述する第3塗布工程(S103)における前記前処理剤(PT)の塗布において、PTのにじみの発生をより抑制する観点から、前記第1塗布工程(S101)及び後述する第2塗布工程(S102)において、前処理の前処理剤(PPT)、すなわち、前記アルギン酸塩を含む水溶液及び前記キレート剤を含む水溶液を、前記被記録媒体が浸る程度に濡れている状態にすることが好ましい。
【0049】
つぎに、第2塗布部3により、前記第2塗布工程(S102)を行う。前記第2塗布工程(S102)は、キレート剤を含む水溶液を前記被記録媒体に塗布する。
【0050】
前記第2塗布工程(S102)において、例えば、前記キレート剤を含む水溶液を、前記被記録媒体において全体的に塗布してもよいし、印刷範囲に塗布してもよい。
【0051】
前記被記録媒体への前記キレート剤を含む水溶液の塗布量は、特に制限されず、例えば、5mg/cm~50mg/cmであればよい。
【0052】
つぎに、第3塗布部4により、前記第3塗布工程(S103)を行う。前記第3塗布工程(S103)は、多価金属塩を含む前処理剤を前記被記録媒体に塗布する。
【0053】
前記第3塗布工程(S103)において、例えば、前記前処理剤を、前記被記録媒体における印刷範囲に塗布することができる。
【0054】
前記被記録媒体への前記前処理剤の塗布量は、特に制限されず、例えば、1mg/cm~32mg/cmであればよい。
【0055】
前記第3塗布工程(S103)は、前記第2塗布工程(S102)において塗布した前記キレート剤を含む水溶液がウエットの状態で、前記前処理剤を塗布することができる。この場合、前記第2塗布工程(S102)及び前記第3塗布工程(S103)の間隔時間は、前記予め設定した時間とすることができる。
【0056】
本実施形態の前処理方法は、例えば、前記第3塗布工程(S103)の後、さらに、インク塗布工程を含んでもよい。前記インク塗布工程は、前記インクを、前記被記録媒体に塗布する。
【0057】
なお、図1では、前記第1塗布工程(S101)後、前記第2塗布工程(S102)を行う場合について説明したが、これには制限されず、例えば、前記第1塗布工程(S101)が前記第2塗布工程(S102)を兼ねており(S101’)、前記第1塗布工程(S101’)において、前記アルギン酸塩と前記キレート剤とを含む水溶液を前記被記録媒体に塗布してもよい。
【0058】
(製造方法)
つぎに、本発明の前処理が行われた被記録媒体の製造方法について説明する。
【0059】
本発明の製造方法は、前処理が行われた被記録媒体の製造方法であって、前記被記録媒体の前処理を行う前処理工程を含み、前記前処理工程が、前記本発明の前処理方法により実施される。本発明の製造方法において、この点以外は、特に制限されない。
【0060】
本発明の製造方法は、例えば、前述の、前処理装置1を用いて実施できる。ただし、本実施形態の製造方法は、前処理装置1の使用には限定されない。
【0061】
本発明の製造方法は、例えば、前記前処理工程の後、さらに、インク塗布工程を含んでもよい。前記インク塗布工程は、前記本発明の前処理方法における前記インク塗布工程と同様である。
【0062】
(水溶液)
つぎに、本発明の浸透性を有しインクが塗布される被記録媒体に、アルギン酸塩を含む水溶液、及び多価金属塩を含む前処理剤の順に前処理を行う前処理装置に供給される前記水溶液について説明する。
【0063】
本発明の水溶液は、アルギン酸塩を含む水溶液であり、さらに、キレート剤を含む。前記アルギン酸塩を含む水溶液、前記キレート剤、前記多価金属塩を含む前処理剤、及び前記前処理装置は、前述の、前処理装置1、及び前処理方法の説明を参照することができる。
【0064】
本発明の水溶液は、例えば、前述の、前処理装置1、及び本発明の前処理方法における、前記アルギン酸塩と前記キレート剤とを含む水溶液として使用できる。ただし、本実施形態のキットは、前処理装置1、及び本発明の前処理方法における使用には限定されない。
【0065】
(キット)
つぎに、本発明の浸透性を有しインクが塗布される被記録媒体に、前処理を行うための水溶液を含むキットについて説明する。
【0066】
本発明のキットは、アルギン酸塩を含む第1水溶液と、キレート剤を含む第2水溶液と、多価金属塩を含む前処理剤と、を含む。本発明のキットは、前記被記録媒体への塗布順が、前記第1水溶液および前記第2水溶液、前記前処理剤、ならびに前記インク、の順番である。
【0067】
本発明のキットは、例えば、前述の、前処理装置1、及び本発明の前処理方法における、前記アルギン酸塩を含む水溶液、前記キレート剤を含む水溶液、及び前記多価金属塩を含む前処理剤として使用できる。ただし、本実施形態のキットは、前処理装置1、及び本発明の前処理方法における使用には限定されない。
【0068】
本発明のキットは、例えば、前記第1水溶液が前記第2水溶液を兼ねており、前記第1水溶液が前記アルギン酸塩と前記キレート剤とを含んでもよい。
【0069】
本発明のキットは、例えば、さらに、前記インクを含んでもよい。
【実施例0070】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例及び比較例により限定及び制限されない。
【0071】
[実施例1]
前処理の前処理剤(PPT)として、アルギン酸ナトリウム及びキレート剤を含む水溶液を用いることにより、ゲル化跡の範囲が減少することを確認した。
【0072】
(前処理の前処理剤)
前記PPTとして、表1に示す組成の水溶液(PPT1~4)を調製した。なお、前記PPT1は、キレート剤を含まない、比較例のPPTである。
【表1】
【0073】
(前処理剤)
前処理剤(PT)として、硝酸カルシウム2水和物を含む水溶液を調製した。
【0074】
(インク)
インクとして、市販のインクジェット方式のプリンターに用いられるホワイトインクを使用した。
【0075】
(布帛)
被記録媒体である布帛として、市販のTシャツ(ポリエステル製、薄青色)を使用した。
【0076】
(印刷)
まず、作業者により、スプレー(市販のもの)を用いて、前記布帛に全体的に前記PPTを塗布した。塗布量は、約67mg/cmとした。
【0077】
つぎに、一般的なインクジェット印刷機を用いて、前記PTを印刷領域に吐出した。前記印刷領域は、後述する図3に示す、「永」の文字とした。
【0078】
つぎに、一般的なインクジェット印刷機を用いて、前記インクを前記印刷領域に吐出した。
【0079】
つぎに、一般的なオーブンを用いて、110℃、10分の条件で、定着を行った。
【0080】
前記PPTの塗布から、前記定着による乾燥までを、ウエットな状態で行った。前記ウエットな状態は、作業者により、前記PPT、前記PT、及び前記インクが乾燥していないことを目視により確認した。
【0081】
(ゲル化跡確認)
前記定着後の前記布帛について、前記印刷領域からはみ出したゲル化跡の範囲及び濃さを、目視で確認した。
【0082】
この結果を図3および表2に示す。図3(A)~(D)は、それぞれ、前処理の前処理剤(PPT)として、前記PPT1~4を塗布した場合における、前記布帛の写真である。各図中、左が、前記写真であり、右が、前記写真の状態を示す模式図である。図3(A)~(D)の前記模式図において、ゲル化跡の範囲を、グレーで示す(符号「X」)。また、図3(D)の前記模式図において、にじみのようなムラが生じていた領域を、ドットで示す(符号「Y」)。表2は、前記図3の結果を表にまとめたものである。
【表2】
【0083】
図3(A)に示すように、前記PPTとして、比較例であるPPT1を塗布した場合、全体的に、各文字の周りにゲル化跡が見えていた。これに対し、図3(B)に示すように、前記PPTとしてPPT2を塗布した場合、PPT1を塗布した場合と比較して、ゲル化跡の濃さはほぼ同程度であったが、ゲル化跡の範囲がやや減少していた。図3(C)に示すように、前記PPTとしてPPT3を塗布した場合、PPT1を塗布した場合と比較して、ゲル化跡の範囲がやや狭くなっていた。一方、ゲル化跡については濃くなっていた。図3(D)に示すように、前記PPTとしてPPT3を塗布した場合、PPT1を塗布した場合と比較して、ゲル化跡の範囲が大幅に狭くなっていた。一方、ゲル化跡とは別に、にじみのようなムラが生じていた。
【0084】
以上のように、前記PPTとして、アルギン酸ナトリウム及びキレート剤を含む水溶液を用いることにより、前記PPTとして、アルギン酸ナトリウムのみを含む水溶液を用いた場合と比較して、ゲル化跡の範囲が減少することが確認できた。
【0085】
前記キレート剤としてEDTA4Na4水和物を含む前記PPTを用いることで、ゲル化跡の範囲を減少させ、ゲル化跡の濃さの上昇がなく、にじみのようなムラの発生がないことから、好ましいといえる。
【0086】
[実施例2]
前記PPTを塗布することによる、前記PPT自体の跡残りを確認した。
【0087】
前記PPTとして、表3に示す組成の水溶液(PPT5~9)を調製した。なお、PPT5~7は、実施例1におけるPPT1~3と同じ組成の水溶液である。
【表3】
【0088】
布帛として、実施例1と同じものを使用した。
【0089】
(PPT塗布)
まず、作業者により、スポイト(市販のもの)を用いて、前記布帛に全体的に前記PPTを数滴滴下した。
【0090】
つぎに、実施例1と同様にして、110℃、10分の条件で、定着を行った。
【0091】
(跡残り確認)
前記定着後の前記布帛について、前記PPTの跡残りの状態を、目視で確認した。
【0092】
この結果を図4および表4に示す。図4は、前記PPT5~9を塗布した場合における、前記布帛の写真であり、(A)が、PPT5、(B)が、PPT6、(C)が、PPT7、(D)が、PPT8、(E)が、PPT9の結果を示す。図4(D)および(E)において、上段が、前記写真であり、下段が、前記写真において、PPTの跡残りが確認された範囲を線で示したものであり、線の内側がPPTの跡残りが確認された範囲である。表4は、前記図4の結果を表にまとめたものである。
【表4】
【0093】
図4(A)~(C)に示すように、前記PPTとして、PPT5~7を塗布した場合、前記PPTの跡残りは確認されなかった。これに対し、図3(D)及び(E)に示すように、前記PPTとして、PPT8及び9を塗布した場合、前記PPTの跡残りがわずかに確認された。
【0094】
以上のように、前記キレート剤の種類に関わらず、キレート剤の濃度が1%以下である前記PPTを塗布した場合、前記PPTの跡残りは確認されず、キレート剤の濃度が5%である前記PPTを塗布した場合、前記PPTの跡残りがわずかに確認された。
【0095】
前記キレート剤の濃度が5%を超えると前記PPT自体の跡残りがさらに濃くなると考えられることから、前記キレート剤の濃度が5%以下である前記PPTを用いることが、好ましいといえる。また、前記キレート剤の濃度が1%以下である前記PPTを用いることで、前記PPT自体の跡残りが生じないことから、より好ましいといえる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上のように、浸透性を有しインクが塗布される被記録媒体の印刷において、前処理剤(PT)のにじみを防ぎ、且つ、ゲル化跡を低減可能な前処理装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 前処理装置
2 第1塗布部
3 第2塗布部
4 第3塗布部
図1
図2
図3A
図3B
図4