(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104260
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット部材及びその製造方法、スパッタ膜の製造方法、並びにマグネトロンスパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20220701BHJP
C23C 14/35 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C23C14/34 B
C23C14/35 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020219356
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】今野 善紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 嗣人
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA35
4K029BC07
4K029BD01
4K029CA05
4K029DC02
4K029DC13
4K029DC15
4K029DC39
4K029DC45
(57)【要約】
【課題】均一なスパッタリングを可能にするとともに、ターゲット母材を高効率で使用することが可能なスパッタリングターゲット部材を提供する。
【解決手段】ターゲット母材層を備えるスパッタリングターゲット部材であって、更に、磁性材料を含有する磁性層を、前記ターゲット母材層のスパッタ面に露出しないように備える、ことを特徴とする、スパッタリングターゲット部材。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット母材層を備えるスパッタリングターゲット部材であって、
更に、磁性材料を含有する磁性層を、前記ターゲット母材層のスパッタ面に露出しないように備える、ことを特徴とする、スパッタリングターゲット部材。
【請求項2】
前記磁性材料が、鉄、ニッケル及びコバルトから選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のスパッタリングターゲット部材。
【請求項3】
前記磁性層の質量全体に対する前記磁性材料の含有割合が50質量%以上である、請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット部材。
【請求項4】
前記磁性層の厚みが100μm以上である、請求項1~3のいずれかに記載のスパッタリングターゲット部材。
【請求項5】
前記ターゲット母材層の厚みに対する前記磁性層の厚みが、1%以上50%以下である、請求項1~4のいずれかに記載のスパッタリングターゲット部材。
【請求項6】
前記ターゲット母材層が円筒状であり、前記スパッタリングターゲット部材が円筒状である、請求項1~5のいずれかに記載のスパッタリングターゲット部材。
【請求項7】
前記磁性層が、円筒長手方向で見て、前記ターゲット母材層の一方の端部位置と、前記ターゲット母材層の全長の1/4の距離だけ当該一方の端部位置から中央に寄った位置との間に配置された、請求項6に記載のスパッタリングターゲット部材。
【請求項8】
前記磁性層が、前記ターゲット母材層のスパッタ面方向で見て部分的に配置された、請求項1~7に記載のスパッタリングターゲット部材。
【請求項9】
前記磁性層をプラズマ溶射法により形成する、ことを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載のスパッタリングターゲット部材の製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載のスパッタリングターゲット部材を用い、スパッタリングにより、前記ターゲット母材層の構成原子を含むスパッタ膜を基板上に形成する、ことを特徴とする、スパッタ膜の製造方法。
【請求項11】
請求項6又は7に記載の円筒状のスパッタリングターゲット部材と、当該円筒の内部に配置されたマグネット部材とを備える、ことを特徴とする、マグネトロンスパッタリング装置。
【請求項12】
前記スパッタリングターゲット部材における前記磁性層が、前記スパッタリングターゲット部材の円筒長手方向で見て、前記マグネット部材の一方の端部位置よりも完全に外側に配置されるか、或いは、前記マグネット部材の一方の端部位置と、前記マグネット部材の両端の距離の1/4の距離だけ当該一方の端部位置から中央に寄った位置との間に少なくとも配置された、請求項11に記載のマグネトロンスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲット部材及びその製造方法、スパッタ膜の製造方法、並びにマグネトロンスパッタリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングは、スパッタリングターゲットとよばれる材料を用い、基板表面に均質な膜を形成する技術であり、半導体、液晶、プラズマディスプレイ、光ディスク等の製造に広く用いられている。
【0003】
従来、スパッタリングターゲット部材を用いてスパッタリングを行うと、当該ターゲット部材の表面でエロージョン(機械的作用による浸食)が発生することが知られている。かかるスパッタリングターゲット部材においては、エロージョンの最深部の深さが、ライフエンド(使用限界)の目安となる。
【0004】
一般に、スパッタリングターゲット部材は、バッキングプレート上に、ターゲット母材(成膜材料)が平面且つ平行に形成されてなる。また、特にマグネトロン方式のスパッタリングでは、磁場強度が高い箇所にプラズマが集中することに起因して、ターゲット部材におけるエロージョン発生領域がより局所的となる傾向にある。これらの事情により、比較的多量のターゲット母材が残存しているにもかかわらず、安定した成膜を行うためにはターゲット部材の使用終了を余儀なくされるケースが多い。
【0005】
現状として、ターゲット母材の使用効率が比較的高いとされる円筒状のターゲット部材においても、当該使用効率は30%程度である。なお、使用効率とは、一般には、使用開始前のターゲット母材全質量のうち、ライフエンドまでに減少したターゲット母材質量の割合を指す。
【0006】
これまで、ターゲット母材の使用効率を高める手段としては、ターゲット母材のうちエロージョンが発生する部分をより肉厚にする技術が、いくつか報告されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-119847号公報
【特許文献2】特開2002-302762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1,2に記載されたようなターゲット部材は、ターゲット母材が平面且つ平行に形成されてなるターゲット部材に比べ、材料費及び加工費等のコストが嵩むという問題がある。更に、肉厚部分の存在に起因して、ターゲット母材と成膜対象の基板との距離が一定ではないため、スパッタ膜の膜厚分布に悪影響を及ぼすという問題もある。そのため、これらに代替される技術が求められている。
【0009】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的の少なくとも一つを達成することを課題とする。即ち、本発明の目的は、均一なスパッタリングを可能にするとともに、ターゲット母材を高効率で使用することが可能なスパッタリングターゲット部材を提供することにある。
また、本発明の目的は、上述したスパッタリングターゲット部材を容易に得ることが可能な、スパッタリングターゲット部材の製造方法を提供することにある。
また、本発明の目的は、均一な厚みを有するスパッタ膜を効率的に得ることが可能な、スパッタ膜の製造方法を提供することにある。
更に、本発明の目的は、均一なスパッタリングを可能にするとともに、ターゲット母材を高効率で使用することが可能なマグネトロンスパッタリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成すべく、鋭意検討を行った。そして、スパッタリングターゲット部材に対し、磁性材料を所定の態様で内蔵させることで、磁場強度を平坦化できる結果、均一なスパッタリングの実施とターゲット母材の効率的使用とを両立できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。
【0012】
<1> ターゲット母材層を備えるスパッタリングターゲット部材であって、
更に、磁性材料を含有する磁性層を、前記ターゲット母材層のスパッタ面に露出しないように備えることを特徴とする、スパッタリングターゲット部材。
【0013】
<2> 前記磁性材料が、鉄、ニッケル及びコバルトから選択される少なくとも1種である、<1>に記載のスパッタリングターゲット部材。
【0014】
<3> 前記磁性層の質量全体に対する前記磁性材料の含有割合が50質量%以上である、<1>又は<2>に記載のスパッタリングターゲット部材。
【0015】
<4> 前記磁性層の厚みが100μm以上である、<1>~<3>のいずれかに記載のスパッタリングターゲット部材。
【0016】
<5> 前記ターゲット母材層の厚みに対する前記磁性層の厚みが、1%以上50%以下である、<1>~<4>のいずれかに記載のスパッタリングターゲット部材。
【0017】
<6> 前記ターゲット母材層が円筒状であり、前記スパッタリングターゲット部材が円筒状である、<1>~<5>のいずれかに記載のスパッタリングターゲット部材。
【0018】
<7> 前記磁性層が、円筒長手方向で見て、前記ターゲット母材層の一方の端部位置と、前記ターゲット母材層の全長の1/4の距離だけ当該一方の端部位置から中央に寄った位置との間に配置された、<6>に記載のスパッタリングターゲット部材。
【0019】
<8>前記磁性層が、前記ターゲット母材層のスパッタ面方向で見て部分的に配置された、<1>~<7>に記載のスパッタリングターゲット部材。
【0020】
<9> 前記磁性層をプラズマ溶射法により形成する、ことを特徴とする、<1>~<8>のいずれかに記載のスパッタリングターゲット部材の製造方法。
【0021】
<10> <1>~<8>のいずれかに記載のスパッタリングターゲット部材を用い、スパッタリングにより、前記ターゲット母材層の構成原子を含むスパッタ膜を基板上に形成する、ことを特徴とする、スパッタ膜の製造方法。
【0022】
<11> <6>又は<7>に記載の円筒状のスパッタリングターゲット部材と、当該円筒の内部に配置されたマグネット部材とを備える、ことを特徴とする、マグネトロンスパッタリング装置。
【0023】
<12> 前記スパッタリングターゲット部材における前記磁性層が、前記スパッタリングターゲット部材の円筒長手方向で見て、前記マグネット部材の一方の端部位置よりも完全に外側に配置されるか、或いは、前記マグネット部材の一方の端部位置と、前記マグネット部材の両端の距離の1/4の距離だけ当該一方の端部位置から中央に寄った位置との間に少なくとも配置された、<11>に記載のマグネトロンスパッタリング装置。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、均一なスパッタリングを可能にするとともに、ターゲット母材を高効率で使用することが可能なスパッタリングターゲット部材を提供することができる。
また、本発明によれば、上述したスパッタリングターゲット部材を容易に得ることが可能な、スパッタリングターゲット部材の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、均一な厚みを有するスパッタ膜を効率的に得ることが可能な、スパッタ膜の製造方法を提供することができる。
更に、本発明によれば、均一なスパッタリングを可能にするとともに、ターゲット母材を高効率で使用することが可能なマグネトロンスパッタリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲット部材(平板状)を示す模式断面図である。
【
図2】別の態様に係るスパッタリングターゲット部材を部分的に示す模式断面図である。
【
図3】別の態様に係るスパッタリングターゲット部材を部分的に示す模式断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲット部材(円筒状)を示す模式断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るマグネトロンスパッタリング装置の一部を示す模式断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るマグネトロンスパッタリング装置で使用可能なマグネット部材の模式斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0027】
(スパッタリングターゲット部材)
本実施形態のスパッタリングターゲット部材(以下、単に「ターゲット部材」と称することがある。)は、ターゲット母材層を備えるとともに、更に、磁性材料を含有する磁性層を、上記ターゲット母材層のスパッタ面に露出しないように備える、ことを特徴とする。かかるターゲット部材は、磁性材料を所定の態様で内蔵しているので、均一なスパッタリングを可能にするとともに、ターゲット母材を高効率で使用することが可能である。
【0028】
なお、上記ターゲット部材は、例えば、後述する本実施形態のスパッタリングターゲット部材の製造方法により製造することができる。
【0029】
まず、第1実施形態のターゲット部材について説明する。
図1は、第1実施形態のターゲット部材の模式断面図である。
図1に示すスパッタリングターゲット部材100は、平板状であり、より具体的には、平板状のバッキングプレート3aの一方の面上に、ターゲット母材層1が平板状に形成されている。なお、
図1のターゲット母材層1の平面視形状は、図示しないが、例えば、矩形状、真円状、楕円状等であってもよい。
【0030】
また、
図1に示すように、上記スパッタリングターゲット部材100は、磁性材料を含有する磁性層2を備える。なお、
図1の磁性層2の平面視形状は、図示しないが、例えば、矩形状、真円状、楕円状等であってもよい。
【0031】
このようなスパッタリングターゲット部材100を、所定のマグネトロンスパッタリング装置内の適所に配置し、更にターゲット部材100の下部に所定のマグネットを配置して、離間して対向する基板へのスパッタリング成膜を行った場合には、磁性層2の存在に起因して、磁性層2が配置された箇所の上部領域における磁場強度が抑えられる。即ち、磁性層2を、スパッタリングターゲット部材100の中でも、実際にスパッタリングを行った際に磁場強度が局所的に高くなるような領域の近傍に少なくとも配置することで、スパッタリングの際の磁場強度の平坦化を図ることができる。これにより、エロージョンの局所化が抑えられるので、均一なスパッタリングを維持することができ、これに加えて、スパッタ面方向で見たときのターゲット母材の減り方がより均一となるので、ターゲット母材の使用効率を高めることができる。なお、使用効率とは、使用開始前のターゲット母材全質量のうち、ライフエンドまで(或いは、ライフエンド近傍において使用者が任意に決定したエロージョン深さに到達するまで)に減少したターゲット母材質量の割合を指す。
【0032】
更に、磁性層2は、
図1に示すように、ターゲット部材100のスパッタ面に露出しないように当該ターゲット部材100内に配置されている。そのため、磁性層2がスパッタされることはない。
【0033】
上記スパッタリングターゲット部材100において、磁性材料を含有する磁性層2は、ターゲット母材層1のスパッタ面(ターゲット母材層1の構成原子がスパッタリングによって叩き出される表面をいう。以下、単に「ターゲット母材層の表面」又は「ターゲット部材の表面」ということがある。)方向で見たときに、全面にではなく、部分的に配置されていることが好ましい。例えば、
図1では、上記磁性層2が、ターゲット母材層1の左端近傍及び右端近傍のみに配置されている。磁性層2の平面視形状は、図示しないが、例えば、矩形状、真円状、楕円状等であってもよい。
【0034】
図1に示すような平板状のスパッタリングターゲット部材100における磁性層2の配置箇所は、特に限定されず、適用するマグネトロンスパッタリング装置の構造(例えば、マグネットの設置位置)などの目的に応じて適宜選択することができる。また、ターゲット部材100に配置される磁性層2の数も、特に限定されない。
【0035】
例えば、
図1のターゲット部材100では、磁性層2が、ターゲット母材層1のスパッタ面に対する側部からは露出していない。しかしながら、磁性材料がスパッタ面に存在しなければ成膜に影響がないことから、磁性層2は、
図2に示すように、ターゲット母材層1のスパッタ面に対する側部から露出していてもよい。
【0036】
また、例えば、
図1のターゲット部材100では、磁性層2の断面が矩形状である。しかしながら、磁性層2の断面形状は、これに限定されず、例えば、
図3に示すようにテーパ形状であってもよく、或いは、真円状、楕円状等であってもよい。
【0037】
次に、第2実施形態のターゲット部材について説明する。第2実施形態のターゲット部材は、円筒状であり、
図4は、第2実施形態のターゲット部材の模式断面図(円筒の中心軸を含む面方向に切断したときの断面図)である。
図4に示すスパッタリングターゲット部材100は、一点鎖線を中心軸とする円筒状であり、より具体的には、円筒状のバッキングチューブ3bの外表面上に、ターゲット母材層1が円筒状に形成されている。
【0038】
また、
図4に示すように、上記スパッタリングターゲット材100は、磁性材料を含有する磁性層2を備える。なお、磁性層2は、ターゲット母材層1の円筒と同心円状に配置されていることが好ましい。
【0039】
このようなスパッタリングターゲット部材100を、所定のマグネトロンスパッタリング装置内の適所に配置し、更にターゲット部材100の円筒内部に所定のマグネットを配置して、ターゲット部材100を回転させながら、離間した基板へのスパッタリング成膜を行った場合には、磁性層2の存在に起因して、磁性層2が配置された箇所の上部領域における磁場強度が抑えられる。更に、磁性層2は、
図4に示すように、ターゲット部材100のスパッタ面に露出しないように当該ターゲット部材100内に配置されている。これらによる作用効果は、第1実施形態のターゲット部材について既述したものと同様である。
【0040】
上記スパッタリングターゲット部材100において、磁性材料を含有する磁性層2は、ターゲット母材層1の円筒長手方向で見たときに、全面にではなく、部分的に配置されていることが好ましい。例えば、
図4では、上記磁性層2が、ターゲット母材層1の両端近傍のみに、円筒状に配置されている。
【0041】
図4に示すような円筒状のスパッタリングターゲット部材100における磁性層2の配置箇所は、特に限定されない。
【0042】
例えば、
図4のターゲット部材100では、磁性層2が、ターゲット母材層1のスパッタ面に対する側部からは露出していない。しかしながら、磁性材料がスパッタ面に存在しなければ成膜に影響がないことから、磁性層2は、ターゲット母材層1のスパッタ面に対する側部から露出していてもよい(
図2と同様)。
【0043】
また、例えば、
図4のターゲット部材100では、磁性層2が、ターゲット母材層1の表面から円筒中心方向(ターゲット母材層1の厚み方向)に向かって見たときに、単体で配置されている。即ち、
図4のターゲット部材100では、磁性層2が単層である。しかしながら、磁性層2の形態はこれに限定されず、ターゲット母材層1の表面から円筒中心方向(ターゲット母材層1の厚み方向)に向かって見たときに、複数が互いに離間しているように配置されていてもよい。即ち、磁性層2は、各層が互いに離間した複層(径が異なる複数のドーナツ状の層)であってもよい。或いは、磁性層2は、単層であっても、単層の中に間欠する部分(スリット)が設けられていてもよい。
【0044】
但し、円筒状のスパッタリングターゲット部材の内部にマグネットを配置してスパッタリング成膜を行う際には、ターゲット母材の材料に関わらず、磁場強度が局所的に高くなる場所(ひいては、エロージョン最深部となる場所)がある程度決まっていることが判明した(概ね、端部近傍である)。かかる観点を踏まえ、磁性層2の好適な配置箇所について、説明する。
【0045】
ここで、
図4において、(L1)は、ターゲット母材層1の全長(円筒長)を指し、(T1)は、ターゲット母材層1の厚みを指す。また、
図5は、
図4の一方の端部付近を拡大した図であり、当該
図5において、(L2)は、磁性層2の円筒長手方向の長さを指し、(T2)は、磁性層2の厚みを指す。更に、
図5において、(D)は、ターゲット母材層1の一方の端部位置と磁性層2の一方の端部位置との間隔を指す。
【0046】
なお、ターゲット母材層1の全長(L1)は、特に限定されず、適用するスパッタリング装置や、成膜対象の基板のサイズなどの諸条件に応じて、適宜選択することができる。
【0047】
図4及び
図5に示すような円筒状のスパッタリングターゲット部材100においては、磁性層2が、円筒長手方向で見て、ターゲット母材層1の一方の端部位置と、ターゲット母材層1の全長の1/4の距離だけ当該一方の端部位置から中央に寄った位置との間に配置されていることが好ましい。言い換えると、
図4及び
図5において、磁性層2が、ターゲット母材層1の少なくとも一方の端部近傍に、下式(1)(及び式(1’))を満たすように配置されていることが好ましい。
(D)≦{(L1)÷4} ・・・(1)
(D)/{(L1)÷4}≦1 ・・・(1’)
【0048】
更に、円筒状のスパッタリングターゲット部材100においては、磁性層2が、円筒長手方向で見て、ターゲット母材層1の一方の端部位置からターゲット母材層1の全長の1/4の距離だけ中央に寄った位置よりも中央寄りには配置されていないことが好ましい。言い換えると、
図4及び
図5において、磁性層2が、ターゲット母材層1の少なくとも一方の端部近傍に、下式(2)(及び式(2’))を満たすように配置されていることが好ましい。
{(D)+(L2)}≦{(L1)÷4} ・・・(2)
{(D)+(L2)}/{(L1)÷4}≦1 ・・・(2’)
【0049】
更に、円筒状のスパッタリングターゲット部材100においては、磁性層2の少なくとも一部が、円筒長手方向で見て、ターゲット母材層1の一方の端部位置から5~30mm中央寄りの位置に配置されていることが好ましい。この場合、より確実に、磁場強度の平坦化を図ることができる。
【0050】
また、円筒状のスパッタリングターゲット部材100においては、磁性層2の円筒長手方向の長さ(L2)が、5mm以上50mm以下であることが好ましい。この場合、必要最小限の磁性材料で、効果的に、磁場強度のコントロールを図ることができる。
【0051】
そして、円筒状のスパッタリングターゲット部材100においては、2つの磁性層2が、ターゲット母材層1の両端近傍に、対称的に配置されていることが好ましい。
【0052】
次に、ターゲット部材の形状に関わらない、本実施形態のターゲット部材の好適態様について説明する。
【0053】
ターゲット母材層の材料(成膜材料)としては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ケイ素(Si)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、銅(Cu)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、酸化ニオブ、酸化チタン、アルミニウム合金等が挙げられる。
【0054】
ターゲット母材層の質量全体に対する上記材料の含有割合(即ち、純度)は、95質量%以上であることが好ましい。この場合、より効率的にスパッタリングを実施でき、また、より高品質の膜を得ることができる。同様の観点から、上記含有割合は、99質量%以上であることがより好ましく、99.9質量%以上であることが更に好ましい。
【0055】
ターゲット母材層の厚みとしては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、2.0mm以上15mm以下とすることができる。
【0056】
磁性層を構成する磁性材料は、高磁性の観点から、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)から選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、磁性材料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせた合金又は混合物として用いてもよい。
【0057】
磁性層の質量全体に対する前記磁性材料の含有割合(即ち、純度)は、50質量%以上であることが好ましい。この場合、より効果的に、スパッタリングを行った際の磁場強度のコントロールを図ることができる。同様の観点から、上記含有割合は、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0058】
磁性層の厚みは、100μm以上であることが好ましい。この場合、より効果的に、スパッタリングを行った際の磁場強度のコントロールを図ることができる。同様の観点から、磁性層の厚みは、200μm以上であることがより好ましく、500μm以上であることが更に好ましい。また、磁性層の厚みは、特に限定されないが、3mm以下とすることができる。
【0059】
また、ターゲット母材層の厚みに対する磁性層の厚みの割合(磁性層の厚み/ターゲット母材層の厚み)が、1%以上50%以下であることが好ましい。上記割合が1%以上であれば、より確実に、スパッタリングを行った際の磁場強度のコントロールを図ることができる。また、上記割合が50%以下であれば、ターゲット母材の使用効率を十分良好に維持することができる。同様の観点から、ターゲット母材層の厚みに対する前記磁性層の厚みは、20%以上であることがより好ましく、また、40%以下であることがより好ましい。
【0060】
本実施形態のターゲット部材は、バッキングプレート(平板状)又はバッキングチューブ(円筒状)等のターゲット基材を更に備えるとともに、上記磁性層が、当該ターゲット基材の表面上に直接形成されていることが好ましい。この場合、ターゲット母材層の形成工程が1回で足りるため、ターゲット部材の製造がより容易となる。
【0061】
なお、ターゲット基材は、例えば、銅、ステンレス、アルミニウム、チタン等の金属製とすることができる。また、ターゲット基材は、水冷のジャケット構造を有していてもよい。更に、ターゲット基材は、ターゲット母材層との密着性を向上させる目的で、当該ターゲット母材層が配置される表面上に任意の密着層を備えていてもよい。この場合、密着層は、磁性層と同じ材料を含有していてもよい。
【0062】
本実施形態のターゲット部材は、ターゲット母材層の表面が平坦であることが好ましい。この場合、ターゲット母材と成膜対象の基板との距離を一定にすることができるため、より均一なスパッタ膜を得ることができる。
【0063】
(スパッタリングターゲット部材の製造方法)
本実施形態のスパッタリングターゲット部材の製造方法(以下、単に「ターゲット部材の製造方法」と称することがある。)は、上記磁性層を、プラズマ溶射法により形成する、ことを特徴とする。プラズマ溶射法は、設計自由度が高いため、厚みの調整を容易に行うことができる。更に、プラズマ溶射法は、装置毎にカスタマイズが可能な技術であるため、多くのスパッタリング装置に応用することができる。
【0064】
一方、ターゲット母材層は、特に限定されず、例えば、プラズマ溶射法により形成することもできるし、或いは、コールドスプレー法により形成することもできる。いずれも、ターゲット母材層を容易に形成できる方法である。ここで、コールドスプレー法とは、常温の又は加熱した高圧ガスを特殊ノズルによって超音速に加速し、そのガス流の中心に粉末材料を投入することにより当該材料も加速させて、ノズル出口より噴出した材料を固体のまま基材に衝突させて成膜する方法である。
【0065】
なお、磁性層及びターゲット母材層を形成にした後は、必要に応じて、ターゲット母材層の表面の平坦化処理を行ってもよい。平坦化処理としては、例えば、切削加工、研削加工等が挙げられる。
【0066】
(スパッタ膜の製造方法)
本実施形態のスパッタ膜の製造方法は、上述したスパッタリングターゲット部材を用い、スパッタリングにより、前記ターゲット母材層の構成原子を含むスパッタ膜を基板上に形成する、ことを特徴とする。かかる本実施形態のスパッタ膜の製造方法によれば、上述したスパッタリングターゲット部材を用いるので、スパッタリングの際にもターゲット母材と成膜対象の基板との距離をより一定に保持することができる結果、均一な厚みを有するスパッタ膜を効率的に得ることが可能である。
【0067】
本実施形態のスパッタ膜の製造方法では、好適には、マグネトロン式のスパッタリングを採用することができる。また、本実施形態のスパッタ膜の製造方法では、好適には、後述する本実施形態のマグネトロンスパッタリング装置を用いることができる。
【0068】
(マグネトロンスパッタリング装置)
本実施形態のマグネトロンスパッタリング装置(以下、単に「スパッタリング装置」と称することがある。)は、少なくとも、上述した本実施形態の円筒状のスパッタリングターゲット部材と、当該円筒の内部に配置されたマグネット部材とを備える、ことを特徴とする。かかる本実施形態の装置によれば、上述した円筒状のスパッタリングターゲット部材を用いるので、均一なスパッタリングを可能にするとともに、ターゲット母材を高効率で使用することが可能である。
【0069】
本実施形態のスパッタリング装置は、例えば、真空チャンバを備え、当該真空チャンバ内において、円筒状のスパッタリングターゲット部材が配置されるとともに、当該ターゲット部材の円筒内部にマグネット部材が配置される。なお、マグネット部材は、円筒状のターゲット部材の内部で、支持部材により支持されていてもよい。更に、当該真空チャンバ内においては、成膜対象の基板が、当該ターゲット部材から離間して配置される。そして、所定の圧力に調整された真空チャンバ内にガス(アルゴンガスなど)を導入し、ターゲット部材を回転させながら、当該ターゲット部材に電力を供給する。このとき、マグネット部材による磁場と、ターゲット部材に供給される電圧とにより、ターゲット部材の表面近傍で放電プラズマが励起される。この励起されたプラズマにより、ガス由来のイオン(アルゴンイオンなど)がターゲット部材の表面に衝突し、ターゲット母材の構成原子が叩き出されて、基板上に付着する。このようにして、基板上にスパッタ膜を形成することができる。
【0070】
図6は、本実施形態のスパッタリング装置の一部(円筒状のスパッタリングターゲット部材の部分)を示す模式断面図である。
図6では、円筒状のスパッタリングターゲット部材100の内部に、マグネット部材4が配置されている。マグネット部材4は、円筒状のスパッタリングターゲット部材の円筒内部に配置可能なサイズを有する。また、マグネット部材4は、例えば、
図7に示す斜視図の通り、輪状とすることができる。或いは、マグネット部材4は、複数のマグネットからなるユニットであってもよい。
【0071】
ここで、
図6において、(L4)は、マグネット部材4の全長を指す。また、
図8は、
図6の一方の端部付近を拡大した図であり、当該
図8において、(D’)は、ターゲット母材層1の一方の端部位置とマグネット部材4の一方の端部位置との間隔を指す。通常、マグネット部材4の全長(L4)は、ターゲット母材層1の全長(L1)と同じか、又はそれよりも小さい((L1)≧(L4)である)。そのため、通常、ターゲット母材層1の端部位置は、マグネット部材4の端部位置と同じか、又はそれよりも外側にある。
【0072】
ここで、本実施形態のスパッタリング装置においては、スパッタリングターゲット部材100における上記磁性層2が、上記スパッタリングターゲット部材100の円筒長手方向で見て、前記マグネット部材の一方の端部位置よりも完全に外側に配置されるか、或いは、上記マグネット部材4の一方の端部位置と、上記マグネット部材4の両端の距離の1/4の距離だけ当該一方の端部位置から中央に寄った位置との間に少なくとも配置されていることが好ましい。即ち、
図6及び
図8に示すようなスパッタリング装置においては、磁性層2が、ターゲット母材層1の少なくとも一方の端部近傍に、下式(3)を満たすか、或いは、式(4-1)及び式(4-2)の両方を満たすように配置されていることが好ましい。
(D)+(L2)≦(D’) ・・・(3)
(D)+(L2)≧(D’) ・・・(4-1)
(D)≦(D’)+{(L4)÷4} ・・・(4-2)
このような配置でスパッタリングを行うことで、より効果的に、磁場強度の平坦化を図ることができる。
【実施例0073】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0074】
(比較例1)
外径133mm、筒長940mmのバッキングチューブを準備した。このバッキングチューブの表面に、プラズマ溶射法により、Siを含有するターゲット母材層(Siの純度:99.9%以上)を形成して、スパッタリングターゲット部材を作製した。形成したターゲット母材層は、円筒長手方向の長さ900mm、厚み6.0mmとした。即ち、スパッタリングターゲット部材のうち、
ターゲット母材層が形成された箇所の外径は、145mmとした。
【0075】
作製したスパッタリングターゲット部材を用い、マグネトロンスパッタリング方式により、スパッタガス(Ar+O2)圧0.3Pa、電力15kWにて、ターゲット母材層に由来するSiを含有するスパッタ膜(SiO2膜)を基板上に形成した。その後、ターゲット母材層の一方の端部から40mmの位置、80mmの位置、及び120mmの位置において、三次元測定機によりエロージョン深さを測定した。また、各位置における磁場強度については、スパッタリング前に測定した。更に、スパッタリング前後におけるスパッタリングターゲット部材の質量(バッキングチューブの質量は考慮せず)の比から、ターゲット母材層の使用効率を算出した。ここでの使用効率とは、最大エロージョン深さが、ライフエンド近傍である4.5mmに到達するまでスパッタリングを行った場合の使用効率を意味する。これらの結果を表1に示す。
【0076】
【0077】
表1より、比較例1では、ターゲット母材層の端部から40mmの位置において、エロージョン深さ(削り取られた量)が5.0mmと最も大きく、この位置が、エロージョン最深部と推測された。なお、エロージョン深さ5.0mmは、ターゲット母材層の残存高さが1.0mm(=6.0-5.0)であることを意味するところ、かかる残存高さは、スパッタリングターゲット部材のライフエンドの目安となる。
【0078】
(実施例1)
比較例1と同様、外径133mm、筒長940mmのバッキングチューブを準備した。このバッキングチューブの両端近傍の表面に、プラズマ溶射法により、鉄(Fe)を含有する磁性層(鉄の純度:99%程度)をそれぞれ形成した。次いで、上記磁性層を覆うようにして、プラズマ溶射法により、Siを含有するターゲット母材層(Siの純度:99.9%以上)を形成した。その後、適宜、切削により表面の平坦化処理を行って、スパッタリングターゲット部材を作製した。作製したスパッタリングターゲット部材の概形は、
図4及び
図5に示す通りであり、2つの磁性層が、両端近傍に対称的に配置された。具体的に、
図4及び
図5において、ターゲット母材層の全長(L1)=900mm、ターゲット母材層の厚み(T1)=6.0mm、磁性層の円筒長手方向の長さ(L2)=40mm、磁性層の厚み(T2)=2.0mm、また、ターゲット母材層の一方の端部位置と磁性層の一方の端部位置との間隔(D)=15mmとした。
【0079】
作製したスパッタリングターゲット部材を用い、マグネトロンスパッタリング方式により、比較例1と同様、スパッタガス(Ar+O2)圧0.3Pa、電力15kWにて、ターゲット母材層に由来するSiを含むスパッタ膜(SiO2膜)を基板上に形成した。その後、比較例1と同様、ターゲット母材層の一方の端部から40mmの位置(磁性層が存在する位置)、80mmの位置、及び120mmの位置において、三次元測定機によりエロージョン深さを測定した。また、各位置における磁場強度については、スパッタリング前に測定した。更に、比較例1と同様、スパッタリング前後におけるスパッタリングターゲット部材の質量(バッキングチューブの質量は考慮せず)の比から、ターゲット母材層の使用効率(最大エロージョン深さが、ライフエンド近傍である4.5mmに到達するまでスパッタを行った場合の使用効率)を算出した。これらの結果を表2に示す。
【0080】
【0081】
表2より、実施例1では、ターゲット母材層の端部から40mmの位置、即ち、磁性層を設けない場合にエロージョン最深部になると推測される位置においては、エロージョン深さは3.5mmに留まり、更に端部から離れるにつれて、エロージョン深さが深くなる結果となった。また、磁場強度の標準偏差の比較から、実施例1のように磁性層を設けることで、磁場強度の平坦化が図れたものと考えられる。
【0082】
そして、使用効率(最大エロージョン深さが、ライフエンド近傍である4.5mmに到達するまでスパッタを行った場合の使用効率)について、実施例1は比較例1よりも19ポイント上昇した(30%→49%)。この点に関し、上述の通り、ライフエンドの目安となる最大エロージョン深さが5.0mmであることを踏まえると、実際の使用効率(ライフエンドまでに減少したターゲット母材質量の割合)については、実施例1と比較例1とのポイント差が更に大きくなることが推測される。
【0083】
以上のように、ターゲット母材層を備えるスパッタリングターゲット部材において、磁性材料を含有する磁性層を内蔵させることで、スパッタリングターゲット部材の使用効率を高めることができることが分かる。
本発明に係るスパッタリングターゲット部材、スパッタリングターゲット部材の製造方法、スパッタ膜の製造方法、及びマグネトロンスパッタ装置は、様々な種類のスパッタ膜に適用することが可能である。一例を挙げると、本発明は、反射防止フィルム、波長選択反射(透過)膜、拡散フィルムなどの機能性フィルムを構成するスパッタ膜の製造に適用可能である。また、本発明は、上述した機能性フィルムのハードコート膜や保護膜等の製造にも適用可能である。更に、本発明は、TFT(薄膜トランジスタ)などの半導体素子や、液晶ディスプレイ及び有機ELディスプレイ等に用いられるスパッタ膜の製造にも、適用可能である。