(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104372
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】電気回路遮断装置
(51)【国際特許分類】
H01H 39/00 20060101AFI20220701BHJP
【FI】
H01H39/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020219549
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 友秀
(57)【要約】
【課題】
作動時に発生したアークを迅速に消弧することの可能な電気回路遮断装置を提供する。
【解決手段】
電気回路遮断装置は、ハウジングに設けられた点火器と、ハウジング内に形成された収容空間に配置された発射体であって、点火器から受けるエネルギーにより収容空間に沿って発射される発射体と、ハウジングに設けられると共に電気回路の一部を形成する導体片であって、その一部に発射体によって切除される被切除部を有し、当該被切除部が収容空間を横切るように配置された導体片と、点火器の作動前において被切除部を挟んで発射体とは反対側に位置して発射体によって切除された被切除部を受けるための消弧領域と、消弧領域に配置された第1のクーラント材と、点火器の作動前において収容空間における発射体および被切除部の間に配置された第2のクーラント材と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに設けられた点火器と、
前記ハウジング内に形成されると共に一方向に延在する収容空間に配置された発射体であって、前記点火器から受けるエネルギーにより前記収容空間に沿って発射される発射体と、
前記ハウジングに設けられると共に電気回路の一部を形成する導体片であって、その一部に前記点火器から受けるエネルギーによって移動する前記発射体によって切除される被切除部を有し、当該被切除部が前記収容空間を横切るように配置された導体片と、
前記収容空間のうち、前記点火器の作動前において前記被切除部を挟んで前記発射体とは反対側に位置し、前記発射体によって切除された前記被切除部を受けるための消弧領域と、
前記消弧領域に配置された、第1のクーラント材と、
前記点火器の作動前において、前記収容空間における前記発射体および前記被切除部の間に配置された、第2のクーラント材と、
を備える、電気回路遮断装置。
【請求項2】
前記第2のクーラント材が固形状である、請求項1に記載の電気回路遮断装置。
【請求項3】
前記第2のクーラント材が保形体によって形成されている、請求項2に記載の電気回路遮断装置。
【請求項4】
前記第2のクーラント材が金属繊維によって形成されている、請求項2又は3に記載の電気回路遮断装置。
【請求項5】
前記第2のクーラント材を形成する金属繊維がスチールウールおよび銅ウールの少なくとも何れか一方を含む、請求項4に記載の電気回路遮断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路遮断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気回路には、その電気回路を構成する機器の異常時や、該電気回路が搭載されたシステムの異常時に作動することによって該電気回路での導通を緊急に遮断する遮断装置が設けられる場合がある。その一態様として、点火器等から付与されるエネルギーによって発射体を高速で移動させて、電気回路の一部を形成する導体片を強制的に且つ物理的に切断する電気回路遮断装置が提案されている(例えば、特許文献1、2等を参照)。また、近年では、高電圧の電源を搭載する電気自動車に適用される電気回路遮断装置の重要性が益々高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/093079号
【特許文献2】米国特許第8957335号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気回路遮断装置において、電気回路の一部を形成する導体片を切断した際にアークが発生し易いのが実情である。アークが発生してしまうと電気回路を迅速に遮断することができないため、電気回路遮断装置においては発生したアークを迅速に消弧することが要求される。
【0005】
本開示の技術は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、作動時にアークを迅速に消弧することの可能な電気回路遮断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示では、電気回路遮断装置のハウジング内に形成されると共に導体片における被切除部を受けるための消弧領域に第1のクーラントを配置することに加えて、収容空間における発射体および被切除部の間に第2のクーラント材を配置するようにした。
【0007】
より詳しくは、本開示に係る電気回路遮断装置は、ハウジングに設けられた点火器と、前記ハウジング内に形成されると共に一方向に延在する収容空間に配置された発射体であって、前記点火器から受けるエネルギーにより前記収容空間に沿って発射される発射体と、前記ハウジングに設けられると共に電気回路の一部を形成する導体片であって、その一部に前記点火器から受けるエネルギーによって移動する前記発射体によって切除される被切除部を有し、当該被切除部が前記収容空間を横切るように配置された導体片と、前記収容空間のうち、前記点火器の作動前において前記被切除部を挟んで前記発射体とは反対側に位置し、前記発射体によって切除された前記被切除部を受けるための消弧領域と、前記消弧領域に配置された、第1のクーラント材と、前記点火器の作動前において、前記収容空間における前記発射体および前記被切除部の間に配置された、第2のクーラント材と、を備える。
【0008】
ここで、本開示に係る電気回路遮断装置において、前記第2のクーラント材が固形状であっても良い。また、前記第2のクーラント材が保形体によって形成されていても良い。
例えば、前記第2のクーラント材が金属繊維によって形成されていても良い。この場合、前記第2のクーラント材を形成する金属繊維がスチールウールおよび銅ウールの少なくとも何れか一方を含んでいても良い。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、作動時に発生したアークを迅速に消弧することの可能な電気回路遮断装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、遮断装置の内部構造を説明する図である。
【
図3】
図3は、遮断装置の作動状況を説明する図である。
【
図4】
図4は、電気回路遮断試験に用いた試験装置の概略を示す図である。
【
図5】
図5は、電気回路遮断試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を参照して本開示の実施形態に係る電気回路遮断装置について説明する。なお、実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0012】
<構成>
図1は、実施形態に係る電気回路遮断装置(以下、単に「遮断装置」という)1の内部構造を説明する図である。遮断装置1は、例えば、自動車や家庭電化製品等に含まれる電気回路や、当該電気回路のバッテリー(例えば、リチウムイオンバッテリー)を含むシステムの異常時に、電気回路を遮断することで大きな被害を未然に防止するための装置である。本明細書においては、
図1に示す高さ方向(後述する収容空間13が延在する方向)に沿った断面を遮断装置1の縦断面といい、縦断面に直交する方向の断面を遮断装置1の横断面という。
図1は、遮断装置1の作動前の状態を示している。
【0013】
遮断装置1は、外殻部材としてのハウジング10、点火器20、発射体40、導体片50、第1のクーラント材60、第2のクーラント材70等を含んでいる。ハウジング10は、上端側の第1端部11から下端側の第2端部12の方向に延在する収容空間13を有している。この収容空間13は、発射体40が移動可能なように直線状に形成された空間であり、遮断装置1の上下方向に沿って延在している。
図1に示すように、ハウジング10の内部に形成された収容空間13には、発射体40が収容されている。但し、本明細書において遮断装置1の上下方向とは、実施形態の説明の便宜上、遮断装置1における各要素における相対的な位置関係を示すものに過ぎない。
【0014】
[ハウジング]
ハウジング10は、ハウジング本体100、トップホルダ110、ボトム容器120を含む。ハウジング本体100には、トップホルダ110およびボトム容器120が結合されており、これによって一体のハウジング10が形成されている。
【0015】
ハウジング本体100は、例えば、概略角柱形状の外形を有している。但し、ハウジング本体100の形状は特に限定されない。また、ハウジング本体100には、上下方向に沿って空洞部が貫通するように形成されており、この空洞部は収容空間13の一部を形成している。更に、ハウジング本体100は、トップホルダ110のフランジ部111が固定される上面101と、ボトム容器120のフランジ部121が固定される底面102を
有する。本実施形態においては、ハウジング本体100における上面101の外周側には、当該上面101から上方に向けて筒状の上筒壁103が立設されている。本実施形態において、上筒壁103は、例えば角筒形状を有しているが、他の形状を有していても良い。また、ハウジング本体100における下面102の外周側には、当該下面102から下方に向けて筒状の下筒壁104が垂設されている。本実施形態において、下筒壁104は、例えば角筒形状を有しているが、他の形状を有していても良い。以上のように構成されるハウジング本体100は、例えば、合成樹脂等といった絶縁部材によって形成することができる。例えば、ハウジング本体100は、ポリアミド合成樹脂の一種であるナイロンによって形成されていても良い。
【0016】
[トップホルダ]
次に、トップホルダ110について説明する。トップホルダ110は、例えば、段付き円筒形状を有するシリンダ部材であり、内側が空洞状になっている。トップホルダ110は、上側(第1端部11側)に位置する小径シリンダ部112と、下側に位置する大径シリンダ部113と、これらを接続する接続部114と、大径シリンダ部113の下端から外側に向かって延在するフランジ部111等を含んで構成されている。例えば、小径シリンダ部112および大径シリンダ部113は同軸に配置されており、大径シリンダ部113は小径シリンダ部112よりも直径が一回り大きい。
【0017】
また、トップホルダ110におけるフランジ部111の輪郭は、ハウジング本体100における上筒壁103の内側に収まるような概略四角形を有している。フランジ部111は、例えば、上筒壁103の内側に配置された状態で、ハウジング本体100における上面101にネジ等を用いて一体に締結されていても良いし、リベット等によって固定されていても良い。また、ハウジング本体100の上面101とトップホルダ110におけるフランジ部111の下面との間にシーラントを塗布した状態でトップホルダ110をハウジング本体100に結合しても良い。これにより、ハウジング10内に形成される収容空間13の気密性を高めることができる。また、シーラントの代わりに、或いはシーラントと併用してハウジング本体100の上面101とトップホルダ110のフランジ部111との間にOリングを介在させることによって収容空間13の気密性を高めるようにしても良い。
【0018】
トップホルダ110における小径シリンダ部112の内側に形成される空洞部は、
図1に示すように点火器20の一部を収容する収容空間として機能する。また、トップホルダ110における大径シリンダ部113の内側に形成される空洞部は、下方に位置するハウジング本体100の空洞部と連通しており、収容空間13の一部を形成している。上記のように構成されるトップホルダ110は、例えば、強度、耐久性に優れたステンレス、アルミニウム等といった適宜の金属製部材によって形成することができる。但し、トップホルダ110を形成する材料は特に限定されない。また、トップホルダ110の形状についても上記態様は一例であり、他の形状を採用しても良い。
【0019】
[ボトム容器]
次に、ボトム容器120について説明する。ボトム容器120は、内部が空洞状の概略有底筒形状を有し、側壁部122、側壁部122の下端に接続される底壁部123、側壁部122の上端に接続されるフランジ部121等を含んで構成されている。側壁部122は、例えば円筒形状を有しており、フランジ部121は側壁部122における上端から外側に向かって延在している。ボトム容器120におけるフランジ部121の輪郭は、ハウジング本体100における下筒壁104の内側に収まるような概略四角形を有している。フランジ部121は、例えば、下筒壁104の内側に配置された状態で、ハウジング本体100における下面102にネジ等を用いて一体に締結されていても良いし、リベット等によって固定されていても良い。ここで、ハウジング本体100の下面102とボトム容
器120におけるフランジ部121の上面との間にはシーラントが塗布された状態でボトム容器120がハウジング本体100に結合されても良い。これにより、ハウジング10内に形成される収容空間13の気密性を高めることができる。また、シーラントの代わりに、或いはシーラントと併用してハウジング本体100の下面102とボトム容器120のフランジ部121との間にOリングを介在させることによって収容空間13の気密性を高めるようにしても良い。
【0020】
なお、ボトム容器120の形状に関する上記態様は一例であり、他の形状を採用しても良い。また、ボトム容器120の内側に形成される空洞部は、上方に位置するハウジング本体100と連通しており、収容空間13の一部を形成している。上記のように構成されるボトム容器120は、例えば、強度、耐久性に優れたステンレス、アルミニウム等といった適宜の金属製部材によって形成することができる。但し、ボトム容器120を形成する材料は特に限定されない。また、ボトム容器120は複層構造となっていても良い。例えば、ボトム容器120は、外部に面する外装部を強度、耐久性に優れたステンレス、アルミニウム等といった適宜の金属製部材によって形成し、収容空間13側に面する内装部を合成樹脂等といった絶縁部材によって形成しても良い。勿論、ボトム容器120の全体を絶縁部材によって形成しても良い。
【0021】
上記のように、実施形態におけるハウジング10は、一体に組み付けられるハウジング本体100、トップホルダ110、およびボトム容器120を含んで構成され、その内側に第1端部11から第2端部12の方向に延在する収容空間13が形成される。この収容空間13には、以下に詳述する点火器20、発射体40、導体片50における被切除部53、第1のクーラント材60および第2のクーラント材70等が収容される。
【0022】
[点火器]
次に、点火器20について説明する。点火器20は、点火薬を含む点火部21と、点火部21に接続された一対の導電ピン(図示せず)を有する点火器本体22を備えた電気式点火器である。点火器本体22は、例えば、絶縁樹脂によって包囲されている。また、点火器本体22における一対の導電ピンの先端側は外部に露出しており、遮断装置1の使用時に電源と接続される。
【0023】
点火器本体22は、トップホルダ110における小径シリンダ部112の内部に収容された概略円柱状の本体部221と、本体部221の上部に位置するコネクタ部222を備えている。点火器本体22は、例えば、本体部221を小径シリンダ部112の内周面に圧入することによって小径シリンダ部112に固定されている。また、本体部221の軸方向中間部には、外周面が他所に比べて窪んだ括れ部が本体部221の周方向に沿って環状に形成されており、この括れ部にOリング223が嵌め込まれている。Oリング223は、例えば、ゴム(例えばシリコーンゴム)や合成樹脂によって形成されており、小径シリンダ部112における内周面と本体部221との間の気密性を高めるように機能する。
【0024】
点火器20におけるコネクタ部222は、小径シリンダ部112の上端に形成された開口部112Aを通じて外部に突出して配置されている。コネクタ部222は、例えば、導電ピンの側方を覆う円筒形状を有しており、電源側のコネクタと接続できるように構成されている。
【0025】
図1に示すように、点火器20の点火部21は、ハウジング10の収容空間13(より詳しくは、大径シリンダ部113の内側に形成される空洞部)を臨むようにして配置されている。点火部21は、例えば、点火器カップ内に点火薬を収容する形態として構成されている。例えば、点火薬は、一対の導電ピンの基端同士を連結するように連架されたブリッジワイヤ(抵抗体)に接触した状態で点火部21における点火器カップ内に収容されて
いる。点火薬としては、例えば、ZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジル
コニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、THPP(水素化チタン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等を採用しても良い。
【0026】
点火器20を作動させる際、点火薬を点火するための作動電流が電源から導電ピンに供給されると、点火部21におけるブリッジワイヤが発熱する結果、点火器カップ内の点火薬が着火、燃焼し、燃焼ガスが生成される。そして、点火部21の点火器カップ内における点火薬の燃焼に伴って当該点火器カップ内の圧力が上昇し、点火器カップの開裂面21Aが開裂し、点火器カップから燃焼ガスが収容空間13へと放出される。より具体的には、点火器カップからの燃焼ガスは、収容空間13内に配置された発射体40の後述するピストン部41における窪み部411に放出される。
【0027】
[発射体]
次に、発射体40について説明する。発射体40は、例えば、合成樹脂等の絶縁部材によって形成されており、ピストン部41と、当該ピストン部41に接続されたロッド部42を含んでいる。ピストン部41は概略円柱形状を有し、トップホルダ110における大径シリンダ部113の内径と概ね対応する外径を有している。例えば、ピストン部41の直径は、大径シリンダ部113の内径に比べて僅かに小さくても良い。発射体40の形状はハウジング1の形状等に応じて適宜変更することができる。
【0028】
また、ピストン部41の上面には、例えば、円柱形状を有する窪み部411が形成されており、この窪み部411に点火部21を受け入れている。窪み部411の底面は、点火器20の作動時に当該点火器20から受けるエネルギーを受圧する受圧面411Aとして形成されている。また、ピストン部41の軸方向中間部には、外周面が他所に比べて窪んだ括れ部がピストン部41の周方向に沿って環状に形成されており、この括れ部にOリング43が嵌め込まれている。Oリング43は、例えば、ゴム(例えばシリコーンゴム)や合成樹脂によって形成されており、大径シリンダ部113における内周面とピストン部41との間の気密性を高めるように機能する。
【0029】
発射体40のロッド部42は、例えば、ピストン部41に比べて小径の外周面を有するロッド状部材であり、ピストン部41の下端側に一体に接続されている。ロッド部42の下端面は、遮断装置1の作動時に導体片50から被切除部53を切除するための切除面421として形成されている。なお、本実施形態におけるロッド部42は概略円筒形状を有しているが、その形状は特に限定されず、遮断装置1の作動時に導体片50から切除すべき被切除部53の形状や大きさに応じて変更なし得る。ロッド部42は、例えば、円柱、角柱などの柱形状を有していても良い。なお、
図1に示す発射体40の初期位置においては、発射体40のロッド部42における切除面421を含む先端側の領域は、ハウジング本体100の空洞部(収容空間13の一部を形成する)に位置付けられている。ロッド部42の直径は、例えば、ハウジング本体100の内周面の内径よりも僅かに小さく、発射体40の発射時に当該内周面に沿ってロッド部42の外周面がガイドされるように構成されている。
【0030】
上記のように構成される発射体40は、詳しくは後述するが、点火器20の作動時に当該点火器20からのエネルギーを、受圧面411Aを含むピストン部41の上面が受圧することで、発射体40が
図1に示す初期位置から発射され、収容空間13に沿って第2端部12側(下方)に向かって高速で移動する。具体的には、
図1に示すように、発射体40のピストン部41は、トップホルダ110における大径シリンダ部113の内側に収容されており、大径シリンダ部113の内壁面に沿って軸方向に摺動可能である。本実施形態において、発射体40のピストン部41を概略円柱形状としているが、その形状は特に限定されない。ピストン部41の外形は、大径シリンダ部113の内壁面の形状および大
きさに応じて適切な形状および大きさを採用し得る。
【0031】
[導体片]
次に、導体片50について説明する。
図2は、実施形態に係る導体片50の上面図である。導体片50は、遮断装置1の構成要素の一部を構成すると共に、遮断装置1を所定の電気回路に取り付けたときに当該電気回路の一部を形成する導電性の金属体であり、バスバー(bus bar)と呼ばれる場合がある。導体片50は、例えば、銅(Cu)等の金属に
よって形成することができる。但し、導体片50は、銅以外の金属で形成されていても良いし、銅と他の金属との合金で形成されても良い。なお、導体片50に含まれる銅以外の金属としては、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)等が例示できる。
【0032】
図2に示す一態様において、導体片50は全体として細長い平板片として形成されており、両端側の第1接続端部51および第2接続端部52と、これらの中間部分に位置する被切除部53等を含んでいる。導体片50における第1接続端部51および第2接続端部52には、それぞれ接続孔51A,52Aが設けられている。これら接続孔51A,52Aは、電気回路において他の導体(例えば、リードワイヤ)と接続するために使用される。なお、
図1においては、導体片50における接続孔51A,52Aの図示を省略している。また、導体片50の被切除部53は、遮断装置1が適用される電気回路に過大電流等の異常が生じた場合に、発射体40のロッド部42によって強制的に且つ物理的に切断され、第1接続端部51および第2接続端部52から切除される部位である。導体片50における被切除部53の両端には、被切除部53が切断されて切除され易いように、切り込み(スリット)54が形成されている。
【0033】
ここで、導体片50は種々の形態を採用することができ、その形状は特に限定されない。
図2に示す例では、第1接続端部51、第2接続端部52および被切除部53の表面が同一面を形成しているが、これには限られない。例えば、導体片50は、第1接続端部51および第2接続端部52に対して被切除部53が直交、或いは、傾斜した姿勢で接続されていても良い。また、導体片50における被切除部53の平面形状についても特に限定されない。勿論、導体片50における第1接続端部51、第2接続端部52の形状も特に限定されない。また、導体片50における切り込み54は適宜、省略することができる。
【0034】
ここで、実施形態に係るハウジング本体100には、一対の導体片保持孔105A,105Bが形成されている。一対の導体片保持孔105A,105Bは、ハウジング本体100の上下方向(軸方向)に直交する横断面方向に延在している。より詳しくは、一対の導体片保持孔105A,105Bが、ハウジング本体100の空洞部(収容空間13)を挟んで一直線上に延在している。上記のように構成される導体片50は、ハウジング本体100に形成された一対の導体片保持孔105A,105Bに挿通された状態でハウジング本体100に保持されている。
図1に示す例では、導体片50の第1接続端部51が導体片保持孔105Aに挿通された状態で保持され、第2接続端部52が導体片保持孔105Bに挿通された状態で保持されている。また、この状態において、導体片50の被切除部53はハウジング本体100の空洞部(収容空間13)に位置付けられている。上記のように、ハウジング本体100に装着された導体片50は、被切除部53が収容空間13を横切るようにして、当該収容空間13の延在方向(軸方向)に直交する姿勢に保持される。なお、
図2に示す符号L1は、遮断装置1のハウジング本体100に装着された状態における導体片50の上部に位置するロッド部42の外周位置を示す。本実施形態においては、導体片50は、ロッド部42の外周位置L1が被切除部53の両端に位置する切り込み54の位置と概ね重なるように設置される。本実施形態においては、例えば、収容空間13の横断面積は、被切除部53の横断面積に比べて大きいため、被切除部53の側方には隙間が形成されている。
【0035】
[クーラント材]
次に、ハウジング10における収容空間13に配置される第1のクーラント材60および第2のクーラント材70について説明する。ここで、
図1に示すように、遮断装置1(点火器20)の作動前において、ハウジング本体100における一対の導体片保持孔105A,105Bに保持された状態の導体片50の被切除部53は、ハウジング10の収容空間13を横切るように横架されている。以下、ハウジング10における収容空間13のうち、導体片50の被切除部53を挟んで発射体40が配置されている方の領域(空間)を「発射体初期配置領域R1」と呼び、発射体40とは反対側に位置する領域(空間)を「消弧領域R2」と呼ぶ。なお、上記のように、収容空間13を横切るように配置された被切除部53の側方に隙間が形成されているため、発射体初期配置領域R1および消弧領域R2は被切除部53によって完全に隔離されているのではなく、双方は連通している。勿論、被切除部53の形状および大きさ次第では、発射体初期配置領域R1および消弧領域R2が被切除部53によって完全に隔離されていても良い。
【0036】
収容空間13の消弧領域R2は、遮断装置1(点火器20)の作動時に発射される発射体40のロッド部42によって切除された被切除部53を受けるための領域(空間)である。この消弧領域R2には、消弧材としての第1のクーラント材60が配置されている。更に、本実施形態においては、発射体初期配置領域R1に、消弧材としての第2のクーラント材70が配置されている。より詳しくは、第2のクーラント材70は、遮断装置1(点火器20)の作動前において、収容空間13における発射体40および被切除部53の間に配置されている。第1のクーラント材60および第2のクーラント材70は、発射体40が導体片50の被切除部53を切除した際に生じたアークおよび被切除部53の熱エネルギーを奪い、冷却することによって電流遮断時におけるアーク発生の抑制、或いは、発生したアークを消弧(消滅)させるための冷却材である。
【0037】
遮断装置1における消弧領域R2は、発射体40によって導体片50における第1接続端部51および第2接続端部52から切除された被切除部53を受け入れるための空間であると同時に、発射体40が被切除部53を切除した際に生じたアークを効果的に消弧するための空間としての意義を有する。そして、導体片50から被切除部53を切除する際に生じたアークを効果的に消弧するために、消弧領域R2に消弧材として第1のクーラント材60が配置されている。
【0038】
実施形態の一態様として、第1のクーラント材60および第2のクーラント材70は、固形状である。また、実施形態の一態様として、第1のクーラント材60および第2のクーラント材70が保形体によって形成されている。ここでいう保形体とは、例えば、外力が加わっていないときは一定の形状を保ち、外力が加わったときには変形が起こり得るとしても一体性を保持可能(バラバラにならない)な材料である。例えば、繊維体を所望の形状に成形したものが保形体として例示できる。本実施形態においては、第1のクーラント材60および第2のクーラント材70を保形体である金属繊維によって形成している。ここで、第1のクーラント材60および第2のクーラント材70を形成する金属繊維としては、スチールウールおよび銅ウールの少なくとも何れか一方を含む態様が挙げられる。但し、第1のクーラント材60および第2のクーラント材70における上記態様は一例であり、これらに限定されるものではない。
【0039】
第1のクーラント材60は、例えば、概略円盤形状に成形されており、ボトム容器120の底部に配置されている。第2のクーラント材70は、例えば、発射体40におけるロッド部42に対応する大きさの直径を有する概略円盤形状に成形されおり、ロッド部42の外径と略等しい直径を有している。また、上記のように、ロッド部42の外周位置L1は、被切除部53の両端に位置する切り込み54の位置と概ね合致している。そのため、第2のクーラント材70の外周位置もまた、被切除部53の両端に設けられた切り込み5
4の位置(すなわち被切除部53の切除予定位置)に合致している。
【0040】
<動作>
次に、遮断装置1を作動させて電気回路を遮断する際の動作内容について説明する。上記のように、
図1は、遮断装置1の作動前の状態(以下、「作動前初期状態」ともいう)を示している。この作動前初期状態において、遮断装置1における発射体40は、ピストン部41が収容空間13における第1端部11側(上端側)に位置付けられる共にロッド部42の下端に形成された切除面421が、導体片50における被切除部53上に載置された第2のクーラント材70の上面に位置付けられた初期位置にセットされている。すなわち、作動前初期状態において、発射体40は、ロッド部42と被切除部53との間に第2のクーラント材70を挟み込んだ状態でセットされている。
【0041】
更に、実施形態に係る遮断装置1は、電気回路の異常電流を検知する異常検知センサー(図示せず)、および、点火器20の作動を制御する制御部(図示せず)を更に備えている。異常検知センサーは、導体片50を流れる電流の他に、電圧や導体片50の温度を検出することができても良い。また、遮断装置1の制御部は、例えば所定の制御プログラムを実行することで所定の機能を発揮できるコンピュータである。制御部による所定の機能は、対応するハードウェアで実現することもできる。そして、遮断装置1が適用される電気回路の一部を形成する導体片50に過大な電流が流れると、その異常電流が異常検知センサーによって検出される。検出された異常電流に関する異常情報は、異常検知センサーから制御部に引き渡される。例えば、制御部は、異常検知センサーによって検出された電流値に基づいて、点火器20の導電ピンに接続された外部電源(図示せず)から通電を受け、点火器20を作動させる。ここで、異常電流とは、所定の電気回路の保護のために設定された所定の閾値を超える電流値であっても良い。なお、上述した異常検知センサーおよび制御部は、遮断装置1の構成要素に含まれていなくても良く、例えば遮断装置1とは別の装置に含まれていても良い。また、上記異常検知センサーや制御部は、遮断装置1に必須の構成ではない。
【0042】
例えば、電気回路の異常電流を検知する異常検知センサーによって電気回路の異常電流が検知されると、遮断装置1の制御部は点火器20を作動させる。すなわち、外部電源(図示せず)から点火器20の導電ピンに作動電流が供給される結果、点火部21内の点火薬が着火、燃焼し、燃焼ガスが生成される。そして、点火部21内の圧力上昇に起因して開裂面21Aが開裂し、点火部21内から点火薬の燃焼ガスが収容空間13へと放出される。
【0043】
ここで、点火器20の点火部21はピストン部41における窪み部411に受け入れられており、点火部21の開裂面21Aは、発射体40における窪み部411の受圧面411Aに対向して配置されている。そのため、点火部21からの燃焼ガスは窪み部411に放出されると共に、燃焼ガスの圧力(燃焼エネルギー)が受圧面411Aを含むピストン部41の上面に伝えられる。その結果、発射体40は、収容空間13の延在方向(軸方向)に沿って収容空間13を下方に移動する。
【0044】
図3は、実施形態に係る遮断装置1の作動状況を説明する図である。
図3の上段には遮断装置1の作動途中の状況を示し、
図3の下段には遮断装置1の作動が完了した状況を示す。上記のように、点火器20の作動によって、点火薬の燃焼ガスの圧力(燃焼エネルギー)を受けた発射体40は勢いよく下方に押し下げられ、その結果、ロッド部42の下端側に形成された切除面421によって導体片50における第1接続端部51および第2接続端部52と被切除部53との間の各境界部を剪断によって押し切る。その結果、導体片50から被切除部53が切除される。なお、発射体40は、点火器20の作動時に収容空間13の延在方向(軸方向)に沿って円滑に移動することができる限りにおいて、発射体
40の形状、寸法を自由に決定することができ、例えば発射体40におけるピストン部41の外径はトップホルダ110における大径シリンダ部113の内径と等しい寸法に設定されていても良い。
【0045】
そして、発射体40は、
図3の下段に示すように、ハウジング本体100の上面101にピストン部41の下端面が当接(衝突)するまで、所定のストロークだけ収容空間13の延在方向(軸方向)に沿って下方に移動する。そして、この状態において、発射体40におけるロッド部42によって導体片50から切除された被切除部53は、第1のクーラント材60が配置されている消弧領域R2内に受け入れられる。その結果、導体片50の両端に位置する第1接続端部51および第2接続端部52は電気的に不通状態となり、遮断装置1が適用される所定の電気回路が強制的に遮断される。
【0046】
実施形態における遮断装置1は、消弧領域R2に第1のクーラント材60が配置されている。そのため、消弧領域R2に受け入れた切除後の被切除部53を第1のクーラント材60によって急速に冷やすことができる。これにより、発射体40によって所定の電気回路の一部を構成する導体片50から被切除部53を切除した際、導体片50の被切除部53における切断面にたとえアークが発生したとしても、発生したアークを迅速且つ効果的に消弧することができる。
【0047】
更に、遮断装置1は、発射体初期配置領域R1に消弧材としての第2のクーラント材70を配置するようにした。これにより、ロッド部42における切除面421と被切除部53との間に第2のクーラント材70を挟み込んだ状態で導体片50から被切除部53を切除することができる。更に、その後においても、第2のクーラント材70を被切除部53に接触させた状態を維持しつつ、
図3の下段に示すように第1のクーラント材60が配置されている消弧領域R2に被切除部53を受け入れることができる。これによれば、
図3の上段に示すように、ロッド部42の切除面421によって導体片50から被切除部53を切除した瞬間およびその直後、すなわち、導体片50から被切除部53が切除された瞬間から、当該被切除部53が消弧領域R2に配置された第1のクーラント材60に接触するまでの過渡状態においても、被切除部53を第2のクーラント材70によって冷却し続けることができる。これにより、導体片50から被切除部53を切除した瞬間およびその直後の過渡状態において、被切除部53の切断面にアークが発生することを好適に抑制することができる。
【0048】
以上のように、本実施形態における遮断装置1によれば、第1のクーラント材60および第2のクーラント材70によって2段階で被切除部53を冷却し、アークの発生を効果的に抑制することができる。その結果、遮断装置1が適用される電気回路に異常が検知された場合等に、当該電気回路を迅速に遮断できる。すなわち、電気回路を遮断する際に発生したアークの消弧が遅延することを効果的に抑制することで、電気回路の遮断が遅延することを抑制できる。また、遮断装置1によれば、電気回路の遮断時に大きな火花や火炎が生じたり、大きな衝撃音が発生することを好適に抑制できる。また、これらに起因して遮断装置1のハウジング10等が破損することも抑制できる。
【0049】
また、本実施形態に係る遮断装置1によれば、第1のクーラント材60および第2のクーラント材70を固形状の消弧材によって形成したので、例えば液体状、ゲル状の消弧材を採用する場合に比べて、所望の形状に成形することが容易となる。特に、第2のクーラント材70は、遮断装置1(点火器20)の作動前において発射体40のロッド部42と被切除部53との間に配置される。このような第2のクーラント材70に関しては、特に固形状の消弧材とすることで、ロッド部42および被切除部53の間に挟み込んだ状態で第2のクーラント材70を配置し易いという利点がある。したがって、例えば収容空間13における被切除部53の側方に隙間が形成されることで、当該隙間を通じて発射体初期
配置領域R1および消弧領域R2が連通する環境下においても、遮断装置1(点火器20)の作動前に第2のクーラント材70が上記隙間を通じて消弧領域R2に脱落したりこぼれ落ちたりすることを抑制できる。
【0050】
更に、第2のクーラント材70を、金属繊維を成形することによって得られた保形体によって形成することで、以下の更なる利点を有する。すなわち、遮断装置1の作動前においては、第2のクーラント材70をロッド部42および被切除部53の間に挟み込んだ状態で一定の形状に保形することが容易となる。更に、遮断装置1の作動時に第2のクーラント材70がロッド部42によって被切除部53に向かって勢いよく押し込まれた際においても、第2のクーラント材70がバラバラになり難い。これによれば、遮断装置1の作動時にロッド部42による被切除部53の切除が開始されてから、切除後の被切除部53が消弧領域R2に配置された第1のクーラント材60に接触するまでの間、第2のクーラント材70を被切除部53に対して接触させた状態に維持し易い。よって、遮断装置1の作動時にアークが発生することを、より好適に抑制できる。但し、第2のクーラント材70は、遮断装置1(点火器20)の作動前に、収容空間13における発射体40および被切除部53の間に第2のクーラント材70を配置できる限りにおいて、必ずしも保形体によって形成する必要は無く、また、固形状の消弧材でなくても良い。例えば、粉末状又は粒状の材料を圧縮成形するなどして第2のクーラント材70を形成しても良いし、液状又はゲル状の消弧材によって第2のクーラント材70を形成しても良い。
【0051】
なお、実施形態に係る遮断装置1は、種々の変形例を採用することができる。例えば、収容空間13の消弧領域R2に配置される第1のクーラント材60の形状、位置、範囲等は適宜変更することができる。例えば、ボトム容器120の内側に形成される領域の全体、或いは、消弧領域R2の全体に亘って金属繊維からなる第1のクーラント材60が配置されていても良い。そして、遮断装置1の作動時において、発射体40によって導体片50から切除した被切除部53を第1のクーラント材60内に埋没させることによって被切除部53を急冷するようにしても良い。
【0052】
また、収容空間13の発射体初期配置領域R1に配置される第2のクーラント材70の設置態様についても上記態様に限定されない。例えば、
図1に示す例では、遮断装置1の作動前において、第2のクーラント材70が発射体40におけるロッド部42の切除面421に当接させた状態で配置されているが、これには限定されず、例えば、ロッド部42の切除面421と第2のクーラント材70との間に隙間が形成されるように、第2のクーラント材70が被切除部53上に配置されていても良い。また、遮断装置1の作動前において、例えば、第2のクーラント材70をロッド部42の切除面421に固定する等して、第2のクーラント材70と被切除部53との間に隙間が形成されるように第2のクーラント材70が配置されても良い。また、
図3の下段に示す例では、遮断装置1の作動後において、発射体40におけるロッド部42の切除面421と第2のクーラント材70とが離れた状態となっているが、ロッド部42の切除面421と第2のクーラント材70とが接触した状態となっていても良い。この場合、例えば遮断装置1の作動時に発射された発射体40のロッド部42の切除面421に第2のクーラント材70を接触させた状態に維持しつつ、第2のクーラント材70及び被切除部53を消弧領域R2の底部側まで押し込むようにしても良い。
【0053】
<電気回路遮断試験>
次に、遮断装置1に対して行った電気回路遮断試験について説明する。
図4は、電気回路遮断試験に用いた試験装置の概略を示す図である。符号1000は電源、符号2000は絶縁抵抗計、符号3000は作動用電源である。また、符号4000は、遮断装置1における導体片50と協働して電気回路ECを形成するための配線である。また、符号5000は、遮断装置1の点火器20における導電ピンに作動用電源3000から供給される
作動用電流を流すための配線である。
【0054】
【0055】
表1は、電気回路遮断試験の条件および結果一覧を示す。表中の試験サンプルNo.1~No.6は、遮断装置1の収容空間13における発射体40のロッド部42と導体片50における被切除部53の間に第2のクーラント材70を配置しないで試験を行った。一方、試験サンプルNo.7~No.12は、遮断装置1の収容空間13における発射体40のロッド部42と導体片50における被切除部53の間に第2のクーラント材70を配置して試験を行った。なお、本試験においては、第2のクーラント材70の有無の違いがアークの消弧性能に及ぼす影響を検証すべく、全ての試験において消弧領域R2に第1のクーラント材60を配置しないで試験を行った。
【0056】
次に、電気回路遮断試験の手順について説明する。
(手順1)
図4に示すように、遮断装置1における導体片50の第1接続端部51および第2接続端部52をそれぞれ配線4000によって電源1000に接続し、遮断装置1における点火器20を配線5000によって作動用電源3000に接続する。
(手順2)電源1000からの電流を電気回路ECに流す。
(手順3)作動用電源3000をオンにし、遮断装置1における点火器20に作動用電流を通電することによって点火器20を作動させる。
(手順4)電源1000、作動用電源3000をオフにする。
【0057】
本遮断試験では、各試験サンプルに対して上記手順に従って試験を行い、発射体40によって導体片50から被切除部53を切除したときの第1接続端部51および第2接続端部52間における絶縁抵抗値を、市販の絶縁抵抗計2000(横河電機株式会社製のMY40)によって測定した。なお、各試験での共通条件として、電源1000によって電気回路ECを流れる電流値は8[kA]とし、各遮断試験において被切除部53の切除後に導
体片50の第1接続端部51および第2接続端部52間に生じる電位差を450[V]とした。また、試験サンプルNo.7~No.12においては、第2のクーラント材70として日本スチールウール株式会社製(商品名:ボンスター、標準線径φ0.035mm)における標準タイプのスチールウールを厚さ約3mmに押し固め、重量約2.5gのものを用いた。
【0058】
図5は、電気回路遮断試験の結果を示すグラフである。左側に試験サンプルNo.1~No.6(第2のクーラント材無し)の試験結果を示し、右側に試験サンプルNo.7~No.12(第2のクーラント材有り)の試験結果を示している。
【0059】
図5から明らかなように、遮断装置1の収容空間13における発射体40のロッド部42と被切除部53の間に第2のクーラント材70を配置しないで試験を行った試験サンプルNo.1~No.6に比べて、第2のクーラント材70を配置した試験サンプルNo.7~No.12の方が、第1接続端部51および被切除部53間における絶縁抵抗値が高くなる結果が得られた。ここで、試験サンプルNo.1~No.6における絶縁抵抗値の平均値は3.7[MΩ]であった。一方、試験サンプルNo.7~No.12における絶縁抵抗値の平均値は14.7[MΩ]であった。以上のように、遮断装置1の収容空間13における発射体40のロッド部42と被切除部53の間に第2のクーラント材70を配置することによって、導体片50から被切除部53の切除した際の絶縁抵抗が高まり、アークの消弧性能が向上することが確認された。
【0060】
以上、本開示に係る電気回路遮断装置の実施形態について説明したが、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 :遮断装置
10 :ハウジング
13 :収容空間
20 :点火器
40 :発射体
50 :導体片
53 :被切除部
60 :第1のクーラント材
70 :第2のクーラント材