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特開2022-10438熱可塑性樹脂の射出成形に用いる金型部品、および熱可塑性樹脂の射出成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022010438
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂の射出成形に用いる金型部品、および熱可塑性樹脂の射出成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/26 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
B29C45/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020111042
(22)【出願日】2020-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松下 明史
(72)【発明者】
【氏名】恩田 輝明
(72)【発明者】
【氏名】西村 卓浩
(72)【発明者】
【氏名】西尾 孝夫
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AA16
4F202AH11
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK81
4F202CK90
4F202CM03
4F202CM74
4F202CM90
(57)【要約】
【課題】 本発明の目的は、熱可塑性樹脂(特に熱溶融性フッ素樹脂)の射出成形において、射出成形後に金型から成形品を取り出す際に、成形品と平行に摺接する面を有する金型部品の引き抜き方向(MD)に対して直行方向に現れる周期的な凹凸(ウロコ模様)が発生しない金型部品、及びそれを用いた射出成形方法、金型部品の引き抜き方向(MD)に対して直行方向に現れる周期的な凹凸(ウロコ模様)が現れていない成形品を提供することである。
【解決手段】 熱可塑性樹脂の射出成形に用いる金型部品であって、射出成形後に金型から成形品を取り出す際に成形品と略平行に摺接する面を有し、摺動方向(MD)の平均傾斜角が1.5°以上である金型部品、それを用いる射出成形方法、成形品を提供する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の射出成形に用いる金型部品であって、射出成形後に金型から成形品を取り出す際に成形品と略平行に摺接する面を有し、摺動方向(MD)の平均傾斜角が1.5°以上である金型部品。
【請求項2】
成形品の中空部を形成するためのコアピンである、請求項1に記載の金型部品。
【請求項3】
請求項1~2に記載の金型部品を用いた、熱可塑性樹脂の射出成形方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂が熱溶融性フッ素樹脂である請求項3に記載の射出成形方法。
【請求項5】
樹脂を金型に射出注入し成形したのちに、該金型部品を引き抜く引き抜き速度が20mm/sec以下であることを特徴とする請求項3~4に記載の射出成形方法。
【請求項6】
成形品を取り出す際に成形品と平行に摺接する面を有する金型部品を用いた射出成形によって成形された熱可塑性樹脂の成形品であって、成形品表面の金型引き抜き方向(MD)の平均傾斜角が1.5°以下である成形品。
【請求項7】
薬液用の継手部品である請求項6の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂(特に熱溶融性フッ素樹脂)の射出成形に適する金型部品(特にコアピン)、及び、射出成形方法、成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は耐薬品性に優れることから半導体の製造装置に用いる薬液チューブやチューブ継手などに使われている。チューブ継手のような複雑な形状のものは射出成形方法が用いられている。
一方、半導体の製造においては、シリコン基板上に微小な異物(パーティクルと呼ばれる)が付着すると不良品の発生につながってしまうために、半導体製造装置に用いる薬液用のチューブ継手の内表面は可能な限り清浄である必要がある。そのため異物(パーティクル)が滞留したり、あるいは異物(パーティクル)の発生源となったりするような凹凸の全く無い、平滑な表面が求められる。
【0003】
しかし継手等の中空上の構造を有するものは、その中空を形成する金型のコアの部分を樹脂射出後に引き抜くことで成形されるが、金型のコアの部分(コアピン)の引き抜き方向(MD)に対して直行方向に周期的な凹凸(ウロコ模様)が発生することがわかった。
この周期的な凹凸(ウロコ模様)は金型部品(特にコアピン)の表面と樹脂の相互作用によるものと推定され、離型性を高めることで解決の可能性がある。しかし、一般的に射出成形において成形体の離型性を上げるためには金型に離型剤の塗布が行われるが、離型剤自体が不純物の要因となり得るため、離型剤を使用することは清浄さが求められる物の成形には不向きである。
【0004】
特にフッ素樹脂を用いた半導体製造装置用薬液チューブやチューブ継手の成形においては、フッ素樹脂(特にPFA)の融点が高く、高温で成形するために、離型剤が揮発して欠陥となったり、不純物(パーティクル)となったりする懸念もあり、離型剤は使用できない。そのため、金型部品の引き抜き方向(MD)に対して直行方向に現れる周期的な凹凸(ウロコ模様)が発生しない金型部品、射出成形方法(及び成形品)が求められている。
【0005】
下記特許文献1には、透明性に優れ、かつ、タンパク質等が内壁に吸着し難い樹脂製容器の製造方法として、金型のコアの表面粗さ(Ra)が0.02~0.20μmであるものを用いることが記載されているが、このような非常に平滑な表面の金型部品を用いても、引き抜き方向(MD)に対して直行方向に現れる周期的な凹凸(ウロコ模様)が発生してしまう(本願比較例1~3)。
【0006】
一方、下記特許文献2には、成形金型のキャビティ内に貫通孔または窪みを形成するための入子部材を配置して射出成形した成形品を型開きによって金型より離型する際、入子部材を成形品から引き抜いた後に、再び入子部材を元の位置に挿入して成形品を金型より離型させることを特徴とする射出成形における離型法が記載されている。しかしこの方法には生産性が低下するという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-155327号公報
【特許文献2】特公平6-94148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、熱可塑性樹脂(特に熱溶融性フッ素樹脂)の射出成形において、射出成形後に金型から成形品を取り出す際に、成形品と平行に摺接する面を有する金型部品の引き抜き方向(MD)に対して直行方向に現れる周期的な凹凸(ウロコ模様)が発生しない金型部品、及びそれを用いた射出成形方法、金型部品の引き抜き方向(MD)に対して直行方向に現れる周期的な凹凸(ウロコ模様)が現れていない成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、射出成形後に金型から成形品を取り出す際に成形品と略平行に摺接する面を有し、かつ特定の表面状態である金型部品を用いることで、金型部品の引き抜き方向(MD)に対して直行方向に現れる成形品表面の周期的な凹凸(ウロコ模様)の発生を抑制できることを見出したものである。
【0010】
すなわち本発明は、以下の通りのものである。
1.熱可塑性樹脂の射出成形に用いる金型部品であって、射出成形後に金型から成形品を取り出す際に成形品と略平行に摺接する面を有し、摺動方向(MD)の平均傾斜角が1.5°以上である金型部品。
2.成形品の中空部を形成するためのコアピンである、1に記載の金型部品。
3.1~2に記載の金型部品を用いた、熱可塑性樹脂の射出成形方法。
4.熱可塑性樹脂が熱溶融性フッ素樹脂である3に記載の射出成形方法。
5.樹脂を金型に射出注入し成形したのちに、該金型部品を引き抜く引き抜き速度が20mm/sec以下であることを特徴とする3~4に記載の射出成形方法。
6.成形品を取り出す際に成形品と平行に摺接する面を有する金型部品を用いた射出成形によって成形された熱可塑性樹脂の成形品であって、成形品表面の金型引き抜き方向(MD)の平均傾斜角が1.5°以下である成形品。
7.薬液用の継手部品である6の成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、離型剤を用いなくても金型部品の引き抜き方向(MD)に対して直行方向に現れる周期的な凹凸(ウロコ模様)が成形品の表面に発生しない金型部品、射出成形方法、及び金型部品の引き抜き方向(MD)に対して直行方向に周期的な凹凸(ウロコ模様)が無い成形品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は成形品の中空部を示した説明図である。
図2図2は平均傾斜角の説明図である。
図3図3は試作評価用の三方継手の断面図である。
図4図4は試作評価用の三方継手の立体図である。
図5図5は試作評価用の三方継手を金型から取り出した後の写真である。
図6図6は試作評価用のコアピンの断面図である。
図7】実施例1の金型部品(コアピン)引き抜き速度4.5mm/secでの射出成形により得られた成形品表面(継手内面)写真。
図8】比較例2の金型部品(コアピン)引き抜き速度4.5mm/secでの射出成形により得られた成形品表面(継手内面)写真。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
射出成形とは、加熱により溶融した樹脂を金型に流し込み、樹脂が融点以下に下がり固化した後に、樹脂を金型から取り出すことで成形体を得る成形方法である。
【0014】
本発明の射出成形に用いる熱可塑性樹脂とは、融点以上になると溶融流動性を示す樹脂であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、ポリカーボネート、ポリフタルアミド、ポリオキシメチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、熱溶融性フッ素樹脂などを用いることができる。
【0015】
本発明の金型部品を用いた射出成形には、上記各種の熱可塑性樹脂を用いることができるが、離型剤を用いなくても滑らかな表面の成形品を得ることができるため、熱溶融性フッ素樹脂を用いた半導体製造に用いる薬液配管や継手の成形には特に有用である。
熱溶融性フッ素樹脂とは、融点以上になると溶融流動性を示すフッ素樹脂であり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体などを用いることができる。
【0016】
熱溶融性フッ素樹脂の中では、特に低分子量PTFEやPFA、FEP、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体といった熱溶融性パーフルオロ樹脂が、薬液配管や継手等の用途では、耐薬品性に優れることから好ましく用いられる。中でもPFAは耐熱性に優れ、最も好ましい。
PFAに含まれるコモノマーであるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)としては、アルキル基の炭素数が1~5であるものが好ましく、炭素数が2であるパーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、3であるパーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)が好ましく用いられる。
PFAを用いる場合、射出成形時の金型への樹脂の充填を欠陥なく行うために、溶融時の流動性が大きいものを用いることが好ましく、メルトフローレート(MFR)が10g/10分以上であるものを用いることが好ましい。
また、PFAの分子鎖の末端を-CF基とした、それ以外の不安定末端基が炭素数10個あたり10個以下であるものが、金型からの離型性が改善すると考えられ好ましく用いられる。
フッ素ガスによって処理することによりポリマー鎖の末端を-CF基とすることが可能であり、特開昭62-104822号公報などに記載の方法によって行うことができる。
【0017】
本発明の射出成形に用いる金型部品は、射出成形後に成形品を取り出す際に略平行に摺接する面を有する金型部品である。例えば、中空部を形成するための金型部品(コアピン)や樹脂充填後の金型引き抜き方向と略平行の構成面を有する射出成形金型が挙げられる。
本発明において略平行に摺接する面とは、金型から成形品を取り出す際に、金型に対して成形品が取り出される方向、または成形品に対して金型が引き抜かれる方向と平行から5°以内の面である。
【0018】
中空部は、コアピンを一本または複数本用いることによって形成される構造であり、樹脂が固化した後にコアピンを引き抜くことが可能であれば形状は限定されない。
中空部は図1のAのように成形体を貫通していても、Bのように貫通していなくても良い。また中空部は円形であってもCのように四角形や他の形状でも良い。中空部はDのように曲線的でも良く、Eのように中空部同士が交わっていてもよい。
【0019】
本発明の射出成形に用いる金型部品の摺動方向(MD、引き抜き方向)の平均傾斜角は1.5°以上である。2.0°以上であるとより好ましい。
上限は定めないが、5.0°以下であると好ましく、4.5°以下がより好ましく、4.0°以下が更に好ましい。
平均傾斜角とは、白色干渉顕微鏡などの測定器を用いて得られる成形体の断面プロファイルから解析して得られる値である。本発明において、断面プロファイルとは成形体と金型の摺動方向の成形体表面の位置を横軸として縦軸に成形体表面の高さをとって得られるプロファイルである。図2のように断面プロファイルを形成する2つの連続した観測点を結んで得られる直線と摺動面に平行な直線が交差する角度を観測範囲において平均したものが平均傾斜角である。本発明における平均傾斜角の測定においては、高さ方向(縦軸)の分解能は5nm以上、幅方向(横軸)の分解能は1μm以上の装置を必要とする。測定条件として測定長さは100μm、サンプリング間隔は0.54μm、断面プロファイル同士の間隔を摺動方向と垂直方向に50μmとして、10回測定して平均したものを本発明の平均傾斜角とする。
【0020】
平均傾斜角が小さいと金型部品の引き抜き方向(MD)に対して直行方向に現れる周期的な凹凸(ウロコ模様)が発生しやすくなる。
一方、平均傾斜角が大きすぎると、大きな凹凸が成形品に転写されてしまい、平滑な表面が得られ難くなるという問題がある。
【0021】
本発明の射出成形方法においては、樹脂を金型に射出注入し成形したのちに、成形品を取り出すために該金型部品を引き抜く引き抜き速度が20mm/sec以下であることが好ましい。より好ましくは10mm/sec以下であり、更に好ましくは5mm/sec以下であり、最も好ましくは3mm/sec以下である。
引き抜き速度が大きい(速い)と、金型部品の引き抜き方向(MD)に対して直行方向に現れる周期的な凹凸(ウロコ模様)が発生しやすくなるためである。金型部品の引き抜きによって樹脂表面では剪断応力を受けるが、引き抜き速度が大きいと剪断応力が大きくなり、樹脂を大きく変形させることとなり、結果的に周期的な凹凸(ウロコ模様)が発生しやすくなると考えられる。
【0022】
本発明の射出成形に用いる金型部品の素材は一般的な樹脂の射出成形用金型に用いる金属が利用でき、例えばステンレス鋼、プリハードン鋼、炭素鋼、ハイス鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼などが挙げられる。中でもニッケルクロムモリブデン鋼を用いることが好ましい。理由としては、フッ素樹脂は溶融状態では腐食性ガスを発生するため、腐食防止のために金型にはクロムやニッケルのメッキが施されることが多いが、成形を繰り返すことでメッキが剥がれてしまい、腐食された金属が成形体に入り込み不良品の原因となることがある一方、ニッケルクロムモリブデン鋼は耐腐食性が高くメッキを必要としないため上記の問題が発生しないためである。
【0023】
本発明の成形品は、金型部品の引き抜き方向(MD)に対して直行方向に現れる周期的な凹凸(ウロコ模様)が無く平滑な表面を有する。周期的な凹凸(ウロコ模様)の有無は顕微鏡による表面観察にて確認できるが、金型部品の引き抜き方向(MD)の平均傾斜角の測定によっても評価できる。
周期的な凹凸(ウロコ模様)があると平均傾斜角が大きくなり、本発明の成形品の表面の金型引き抜き方向(MD)の平均傾斜角は1.5°以下である。1.0°以下であるとより平滑であり好ましい。更に好ましくは0.5°以下である。
【0024】
更に、離型剤を用いる必要が無く、その場合、離型剤由来の異物がその表面に残留しないという利点も有する。これにより、本発明の成形品は、熱溶融性フッ素樹脂(特にPFA)の半導体製造装置用の薬液用の継手部品として好適である。
【実施例0025】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0026】
(射出成形)
日精樹脂工業株式会社製NEX180-36E射出成形機を用い、PFA(三井・ケマーズ フロロプロダクツ(株)製 テフロン(登録商標) PFA 440HP-J[テトラフルオロエチレン/パーフルオロエチルビニルエーテル共重合体、MFR15g/10分、融点308℃、不安定末端基(-CH2OH末端基、-CONH2末端基、-COF末端基)が炭素数10個あたり6個未満])を樹脂温度380℃、金型温度160℃にて、射出圧・保圧50MPa、射出速度6mm/secで、30秒間射出および保圧し、10秒間冷却した後、金型を開き、30秒後に成形体を金型から取り出し、図3図5に示す三方継手を成形した。中空部を成形するために、三本のコアピンが使われており、金型が開かれると同時にコアピンが抜ける仕組みになっている。コアピンの引き抜き速度は15mm/sec、4.5mm/sec、1.5mm/secの3水準とした。
コアピンの形状に関しては、樹脂との接触部において根元の部分は直径約9.8mmの円形であり、嵌入部の長さは50.47~60.77mm(三方継手のそれぞれの継手の方向(左右水平方向、下方向)によって若干異なる)、根本から先端にかけて細くなっており、その勾配は約1.1°(1.0~1.2°)であり、先端部分の直径は約8.8mmである。水平方向に嵌入するコアピンの断面の寸法図を図6に示す。コアピンは6水準あるが、外形寸法はいずれも同一である。材質としては表面にクロムメッキを施したハイス鋼SKH51(JIS G4403準拠)または、ニッケルクロムモリブデン鋼(日立金属株式会社製MA276)を用いた。
【0027】
(PFAのメルトフローレート)
ASTM D1238-95に準拠した耐食性のシリンダー、オリフィス、ピストンを備えたメルトインデックサ(株式会社東洋精機製作所製)を使用し、5gの試料を372±1℃に保持されたシリンダーに充填して5分間保持した後、5kgの荷重(ピストン及び重り)下でオリフィスを通して押し出し、この時の溶融物の10分間当たりの押し出し量(g/10分)をMFRとして求めた。
【0028】
(PFAの不安定末端基)
米国特許第3,085,083号明細書および米国特許第4,675,380号明細書に記載の方法によって測定される。
【0029】
(表面状態測定)
本発明の金型部品及び成形品の表面状態測定(平均傾斜角、表面粗さRa)の方法を以下に示す。
株式会社日立ハイテクサイエンス製 走査型白色干渉顕微鏡を用いて、10倍の干渉対物レンズを使用し、測定モードをwaveに設定し、サンプル表面をスキャンした。スキャンした三次元画像から、摺動方向(MD)の断面プロファイルを摺動方向(MD)と垂直方向に50μm間隔で10点(N=10)取得し、得られた各断面プロファイルの算術平均粗さ(Ra)[μm]と平均傾斜角[°]を平均して、これを測定値とした。
また、顕微鏡画像観察より周期的な凹凸(ウロコ模様)の有無を目視で判断した。
【0030】
(実施例1)
MA276を材質とする表面研磨されたコアピンに、ブラスト処理を施した。摺動方向(MD)の算術平均粗さ(Ra)は0.202μm、平均傾斜角は2.546°であった。
このコアピンを用いて上記の方法で射出成形を行い得られた成形品(三方継手)のコアピン摺動面(継手内面)について表面測定を行った。結果を表1に示す。
【0031】
(実施例2)
MA276を材質とする表面研磨されたコアピンに、ブラスト処理を施した。摺動方向(MD)の算術平均粗さ(Ra)は0.263μm、平均傾斜角は4.043°であった。
このコアピンを用いて上記の方法で射出成形を行い得られた成形品(三方継手)のコアピン摺動面(継手内面)について表面測定を行った。結果を表1に示す。
【0032】
(実施例3)
ハイス鋼SKH51にクロムメッキした後に表面研磨されたコアピンを用いた。摺動方向(MD)の算術平均粗さ(Ra)は0.123μm、平均傾斜角は1.737°であった。
このコアピンを用いて上記の方法で射出成形を行い得られた成形品(三方継手)のコアピン摺動面(継手内面)について表面測定を行った。結果を表1に示す。
【0033】
(比較例1)
ハイス鋼SKH51にクロムメッキした後に表面研磨されたコアピンに、微細ブラストによる鏡面処理を施した。摺動方向(MD)の算術平均粗さ(Ra)は0.048μm、平均傾斜角は1.089°であった。
このコアピンを用いて上記の方法で射出成形を行い得られた成形品(三方継手)のコアピン摺動面(継手内面)について表面測定を行った。結果を表1に示す。
【0034】
(比較例2)
ハイス鋼SKH51にクロムメッキした後に表面研磨されたコアピンを用いた。表面研磨は実施例3よりも表面が平滑になるように細かく行った。摺動方向(MD)の算術平均粗さ(Ra)は0.059μm、平均傾斜角は0.762°であった。
このコアピンを用いて上記の方法で射出成形を行い得られた成形品(三方継手)のコアピン摺動面(継手内面)について表面測定を行った。結果を表1に示す。
【0035】
(比較例3)
ハイス鋼SKH51にクロムメッキした後に表面研磨されたコアピンに、微細ブラストによる鏡面処理を施した。比較例1よりもより微細なブラスト処理を施した。摺動方向(MD)の算術平均粗さ(Ra)は0.030μm、平均傾斜角は0.131°であった。
このコアピンを用いて上記の方法で射出成形を行い得られた成形品(三方継手)のコアピン摺動面(継手内面)について表面測定を行った。結果を表1に示す。
コアピン引き抜き速度15mm/secでは、金型から取り出す際に成形品が引きちぎれてしまい、成形品が得られなかった。
【0036】
(表1)
【0037】
顕微鏡画像(写真)による周期的な凹凸(ウロコ模様)の有無の判定の例として、実施例1の金型部品(コアピン)引き抜き速度4.5mm/secでの射出成形により得られた成形品表面(継手内面)の画像と、比較例2の金型部品(コアピン)引き抜き速度4.5mm/secでの射出成形により得られた成形品表面(継手内面)の画像をそれぞれ図7及び図8に示す。
図8では周期的な凹凸(ウロコ模様)が観察される一方、図7では若干の凹凸らしき部分もあるが周期的な凹凸(ウロコ模様)が無いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により、熱可塑性樹脂の射出成形において、射出成形後に金型から成形品を取り出す際に、成形品と平行に摺接する面を有する金型部品の引き抜き方向(MD)に対して直行方向に現れる周期的な凹凸(ウロコ模様)が発生しない金型部品、及びそれを用いた射出成形方法、金型部品の引き抜き方向(MD)に対して直行方向に現れる周期的な凹凸(ウロコ模様)が現れていない成形品が提供される。特に、離型剤を用いなくても滑らかな表面の成形品を得ることができるため、熱溶融性フッ素樹脂を用いた半導体製造に用いる薬液配管や継手の成形には特に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8