(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104391
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】特定の組成を有するアミド酸オリゴマー、ワニス、硬化物、複合材料
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20220701BHJP
B29C 70/06 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
C08G73/10
B29C70/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020219577
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】古田 武史
(72)【発明者】
【氏名】古川 誉士夫
(72)【発明者】
【氏名】横田 力男
(72)【発明者】
【氏名】石田 雄一
【テーマコード(参考)】
4F205
4J043
【Fターム(参考)】
4F205AA40
4F205AB11
4F205AB18
4F205AC04
4F205AD16
4F205HA08
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4F205HA33
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4F205HA43
4F205HB01
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4F205HK03
4F205HK04
4F205HK05
4F205HK24
4J043PA05
4J043PA06
4J043PA10
4J043PB02
4J043PB23
4J043RA05
4J043RA34
4J043SA06
4J043SB01
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4J043TA22
4J043TB01
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4J043UA121
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4J043UA131
4J043UA132
4J043UB121
4J043XA04
4J043YA06
4J043ZA12
4J043ZA32
4J043ZA34
4J043ZB47
4J043ZB51
(57)【要約】
【課題】溶融流動性を改善できるアミド酸オリゴマー等を実現する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係るアミド酸オリゴマー等は、芳香族テトラカルボン酸類に由来する構造単位として特定の2種類の構造単位を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、アミド酸オリゴマー。
【化1】
〔式(1)において、
nは1≦n≦100の整数であり、
Qは、芳香族テトラカルボン酸類(A)に由来する4価の残基(A’)を表し、
ここで4価の残基(A’)は、式(2)で表される構造単位(A1)と、式(3)で表される構造単位(A2)とを含み、
【化2】
構造単位(A1)と構造単位(A2)とのモル比は80/20~20/80の範囲であり、
4価の残基(A’)は構造単位(A1)と構造単位(A2)との合計を50モル%以上含み、
Yは、芳香族ジアミン(B)に由来する2価の残基(B’)を表し、
ここで2価の残基(B’)は、式(4)で表される構造単位(B1)を含むか、式(4)で表される構造単位(B1)と式(5)で表される構造単位(B2)とを含み、
【化3】
X
1は直接結合、または、メチレン基、エーテル基、カルボニル基、スルホニル基、スルフィド基、アミド基、エステル基、イソプロピリデン基、六フッ素化イソプロピリデン基、9,9-フルオレニリデン基、m-フェニレンジオキシ基、およびp-フェニレンジオキシ基からなる群から選択される2価の結合基を示し、
(i)R
1~R
10のいずれもがアリール基またはハロゲン化アリール基に該当せず、R
1~R
5のいずれか1つが酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R
6~R
10のいずれか1つが酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表すか、
(ii)R
1~R
5のいずれか1つがアリール基、およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、他のいずれか1つが酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表し、残りの3つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R
6~R
10はいずれか1つが酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表すか、または、
(iii)R
1~R
5のいずれか1つが酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R
6~R
10のいずれか1つがアリール基、およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、他のいずれか1つが酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表し、残りの3つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、
ただし、R
3とR
8とが同時に酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表すことはなく、
構造単位(B1)と構造単位(B2)とのモル比は100/0~20/80の範囲であり、
2価の残基(B’)は構造単位(B1)と構造単位(B2)とを合計で50モル%以上含み、
Zは下記式(6)で表される構造単位(C)および芳香族ジアミン(B)に由来する構造単位からなる群から選択される構造単位であり、
【化4】
当該Z100モル%中、前記式(6)で表される構造単位(C)の含有量は85モル%以上100モル%以下である。〕
【請求項2】
構造単位(B1)は、3,4’-ジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位である、請求項1に記載のアミド酸オリゴマー。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアミド酸オリゴマーを、沸点が135℃以下である溶媒に溶解してなるワニス。
【請求項4】
前記溶媒が、アルコール系溶媒とエーテル系溶媒との混合溶媒、ヒドロキシエーテル系溶媒の単独溶媒、アルコール系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒、エーテル系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒、および、アルコール系溶媒とエーテル系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒、からなる群より選択される少なくとも1つの溶媒である、請求項3に記載のワニス。
【請求項5】
前記溶媒がヒドロキシエーテル系溶媒の単独溶媒、またはエーテル系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒である、請求項4に記載のワニス。
【請求項6】
請求項1または2に記載のアミド酸オリゴマーから得られるイミドオリゴマー。
【請求項7】
請求項1または2に記載のアミド酸オリゴマー、請求項3~5のいずれか1項に記載のワニス、あるいは請求項6に記載のイミドオリゴマーを加熱硬化してなる硬化物。
【請求項8】
さらに強化繊維を含む、請求項7に記載の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の組成を有するアミド酸オリゴマー、ワニス、硬化物、複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは高分子の中で最高レベルの耐熱性を有し、機械的特性および電気的特性などにも優れている。そのため、ポリイミドは、航空宇宙および電気電子などの広い分野で素材として使用されている。
【0003】
例えば特許文献1には、特定の芳香族ジアミンと特定の芳香族テトラカルボン酸とから形成されている塩からなる全芳香族ポリイミド前駆体粉体が開示されている。また、特許文献1には、末端封止剤としてジカルボン酸を有する芳香族誘導体またはアミン基を一つ有する芳香族誘導体をポリイミド前駆体粉体の製造時に添加することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術は、溶融流動性の観点から改善の余地があった。本発明の一態様は、溶融流動性を改善できるアミド酸オリゴマー等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、芳香族テトラカルボン酸類に由来する特定の2種類の構造単位を含むアミド酸オリゴマーを用いることにより、溶融流動性を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は以下の態様を含む。
<1>下記式(1)で表される、アミド酸オリゴマー。
【0007】
【0008】
〔式(1)において、
nは1≦n≦100の整数であり、
Qは、芳香族テトラカルボン酸類(A)に由来する4価の残基(A’)を表し、
ここで4価の残基(A’)は、式(2)で表される構造単位(A1)と、式(3)で表される構造単位(A2)とを含み、
【0009】
【0010】
構造単位(A1)と構造単位(A2)とのモル比は80/20~20/80の範囲であり、
4価の残基(A’)は構造単位(A1)と構造単位(A2)との合計を50モル%以上含み、
Yは、芳香族ジアミン(B)に由来する2価の残基(B’)を表し、
ここで2価の残基(B’)は、式(4)で表される構造単位(B1)を含むか、式(4)で表される構造単位(B1)と式(5)で表される構造単位(B2)とを含み、
【0011】
【0012】
X1は直接結合、または、メチレン基、エーテル基、カルボニル基、スルホニル基、スルフィド基、アミド基、エステル基、イソプロピリデン基、六フッ素化イソプロピリデン基、9,9-フルオレニリデン基、m-フェニレンジオキシ基、およびp-フェニレンジオキシ基からなる群から選択される2価の結合基を示し、
(i)R1~R10のいずれもがアリール基またはハロゲン化アリール基に該当せず、R1~R5のいずれか1つが酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10のいずれか1つが酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表すか、
(ii)R1~R5のいずれか1つがアリール基、およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、他のいずれか1つが酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表し、残りの3つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10はいずれか1つが酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表すか、または、
(iii)R1~R5のいずれか1つが酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10のいずれか1つがアリール基、およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、他のいずれか1つが酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表し、残りの3つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、
ただし、R3とR8とが同時に酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表すことはなく、
構造単位(B1)と構造単位(B2)とのモル比は100/0~20/80の範囲であり、
2価の残基(B’)は構造単位(B1)と構造単位(B2)とを合計で50モル%以上含み、
Zは下記式(6)で表される構造単位(C)および芳香族ジアミン(B)に由来する構造単位からなる群から選択される構造単位であり、
【0013】
【0014】
当該Z100モル%中、前記式(6)で表される構造単位(C)の含有量は85モル%以上100モル%以下である。〕
<2>構造単位(B1)は、3,4’-ジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位である、<1>に記載のアミド酸オリゴマー。
<3><1>または<2>に記載のアミド酸オリゴマーを、沸点が135℃以下である溶媒に溶解してなるワニス。
<4>前記溶媒が、アルコール系溶媒とエーテル系溶媒との混合溶媒、ヒドロキシエーテル系溶媒の単独溶媒、アルコール系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒、エーテル系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒、および、アルコール系溶媒とエーテル系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒、からなる群より選択される少なくとも1つの溶媒である、<3>に記載のワニス。
<5>前記溶媒がヒドロキシエーテル系溶媒の単独溶媒、またはエーテル系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒である、<4>に記載のワニス。
<6><1>または<2>に記載のアミド酸オリゴマーから得られるイミドオリゴマー。
<7><1>または<2>に記載のアミド酸オリゴマー、<3>~<5>のいずれか1つに記載のワニス、あるいは<6>に記載のイミドオリゴマーを加熱硬化してなる硬化物。
<8>さらに強化繊維を含む、<7>に記載の硬化物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、溶融流動性を改善できるアミド酸オリゴマー等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、以下に詳細に説明する。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0017】
〔1.アミド酸オリゴマー〕
本発明の一実施形態に係るアミド酸オリゴマーは、下記式(1)で表される。
【0018】
【0019】
〔式(1)において、
nは1≦n≦100の整数であり、
Qは、芳香族テトラカルボン酸類(A)に由来する4価の残基(A’)を表し、
ここで4価の残基(A’)は、式(2)で表される構造単位(A1)と、式(3)で表される構造単位(A2)とを含み、
【0020】
【0021】
構造単位(A1)と構造単位(A2)とのモル比は80/20~20/80の範囲であり、
4価の残基(A’)は構造単位(A1)と構造単位(A2)との合計を50モル%以上含み、
Yは、芳香族ジアミン(B)に由来する2価の残基(B’)を表し、
ここで2価の残基(B’)は、式(4)で表される構造単位(B1)を含むか、式(4)で表される構造単位(B1)と式(5)で表される構造単位(B2)とを含み、
【0022】
【0023】
X1は直接結合、または、メチレン基、エーテル基、カルボニル基、スルホニル基、スルフィド基、アミド基、エステル基、イソプロピリデン基、六フッ素化イソプロピリデン基、9,9-フルオレニリデン基、m-フェニレンジオキシ基、およびp-フェニレンジオキシ基からなる群から選択される2価の結合基を示し、
(i)R1~R10のいずれもがアリール基またはハロゲン化アリール基に該当せず、R1~R5のいずれか1つが酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10のいずれか1つが酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表すか、
(ii)R1~R5のいずれか1つがアリール基、およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、他のいずれか1つが酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表し、残りの3つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10はいずれか1つが酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表すか、または、
(iii)R1~R5のいずれか1つが酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10のいずれか1つがアリール基、およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、他のいずれか1つが酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表し、残りの3つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、
ただし、R3とR8とが同時に酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表すことはなく、
構造単位(B1)と構造単位(B2)とのモル比は100/0~20/80の範囲であり、
2価の残基(B’)は構造単位(B1)と構造単位(B2)とを合計で50モル%以上含み、
Zは下記式(6)で表される構造単位(C)および芳香族ジアミン(B)に由来する構造単位からなる群から選択される構造単位であり、
【0024】
【0025】
当該Z100モル%中、前記式(6)で表される構造単位(C)の含有量は85モル%以上100モル%以下である。〕
前記アミド酸オリゴマーは、芳香族テトラカルボン酸類に由来する構造単位として、構造単位(A1)と構造単位(A2)とを含む。それゆえに、前記アミド酸オリゴマーおよび前記アミド酸オリゴマーから得られるイミドオリゴマーは、優れた溶融流動性を示す。本明細書において、溶融流動性とは、アミド酸オリゴマーの固体およびイミドオリゴマーの固体を加熱することにより溶融させた場合の流動性を意図する。
【0026】
重合度nは、1≦n≦100であり、2≦n≦75が好ましく、2≦n≦50がより好ましく、2≦n≦30がさらに好ましく、2≦n≦10が特に好ましい。nが前記範囲であれば、溶融流動性の観点から好ましい。
【0027】
アミド酸オリゴマーは、式(1)で表される複数種のアミド酸オリゴマーの集合体であってもよい。
【0028】
<1-1.芳香族テトラカルボン酸類(A)>
前記アミド酸オリゴマーは、芳香族テトラカルボン酸類(A)に由来する4価の残基(A’)を含む。4価の残基(A’)は、少なくとも構造単位(A1)および構造単位(A2)を含む。
【0029】
芳香族テトラカルボン酸類(A)としては、芳香族テトラカルボン酸、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸のエステルおよび塩などの酸誘導体が挙げられる。なお、以下で芳香族テトラカルボン酸類(A)の名称に「~化合物」と付す場合、芳香族テトラカルボン酸、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸のエステルおよび塩などの酸誘導体を包含する概念であることを意味する。
【0030】
構造単位(A1)は、ピロメリット酸化合物に由来する4価の残基である。ピロメリット酸化合物としては、ピロメリット酸、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、ピロメリット酸のエステルおよび塩などの酸誘導体が挙げられる。
【0031】
構造単位(A2)は、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物に由来する4価の残基である。3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物としては、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸のエステルおよび塩などの酸誘導体が挙げられる。
【0032】
構造単位(A1)と構造単位(A2)とのモル比は、80/20~20/80であり、70/30~30/70であることが好ましく、60/40~40/60であることがより好ましい。構造単位(A1)と構造単位(A2)とのモル比が当該範囲であれば、溶融流動性がさらに改善される。
【0033】
4価の残基(A’)に含まれる構造単位(A1)と構造単位(A2)との合計の割合は、50モル%以上であり、60モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。これにより、溶融流動性がさらに改善される。4価の残基(A’)に含まれる構造単位(A1)と構造単位(A2)との合計の割合は、100モル%以下であり、95モル%以下であってもよい。
【0034】
4価の残基(A’)は、ピロメリット酸化合物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物以外の他の芳香族テトラカルボン酸類に由来する構造単位を含んでいてもよい。他の芳香族テトラカルボン酸類としては、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸化合物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸化合物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物、4,4’-スルホニルジフタル酸化合物、4,4’-チオジフタル酸化合物、4,4’-オキシジフタル酸化合物、3,4’-オキシジフタル酸化合物、4,4’-イソプロピリデンジフタル酸化合物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸化合物、4,4’-[1,4-フェニレンビス(オキシ)]ジフタル酸化合物、4,4’-[1,3-フェニレンビス(オキシ)]ジフタル酸化合物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸化合物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸化合物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸化合物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸化合物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸化合物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン化合物などが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
<1-2.芳香族ジアミン(B)>
前記アミド酸オリゴマーは、芳香族ジアミン(B)に由来する2価の残基(B’)を含む。2価の残基(B’)は、少なくとも構造単位(B1)を含む。
【0036】
構造単位(B1)は例えば以下の芳香族ジアミン(B)に由来し得る。式(4)のX1が直接結合である芳香族ジアミン(B)としては、2,2’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンなどが挙げられる。式(4)のX1がメチレン基である芳香族ジアミン(B)としては、3,3’-ジアミノジフェニルメタンなどが挙げられる。式(4)のX1がエーテル基である芳香族ジアミン(B)としては、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル(3,3’-ODA)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(3,4’-ODA)、2,4’-ジアミノジフェニルエーテル(2,4’-ODA)、2,3’-ジアミノジフェニルエーテル(2,3’-ODA)、2,2’-ジアミノジフェニルエーテル(2,2’-ODA)などが挙げられる。式(4)のX1がカルボニル基である芳香族ジアミン(B)としては、3,3’-ジアミノベンゾフェノンなどが挙げられる。式(4)のX1がスルホニル基である芳香族ジアミン(B)としては、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホンなどが挙げられる。式(4)のX1がスルフィド基である芳香族ジアミン(B)としては、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィドなどが挙げられる。式(4)のX1がアミド基である芳香族ジアミン(B)としては、4-アミノ-N-(3-アミノフェニル)ベンズアミド、3-アミノ-N-(3-アミノフェニル)ベンズアミドなどが挙げられる。式(4)のX1がエステル基である芳香族ジアミン(B)としては、4-アミノフェニル-3-アミノベンゾエート、3-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、3-アミノフェニル-3-アミノベンゾエートなどが挙げられる。式(4)のX1がイソプロピリデン基である芳香族ジアミン(B)としては、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパンなどが挙げられる。式(4)のX1が六フッ素化イソプロピリデン基である芳香族ジアミン(B)としては、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンなどが挙げられる。式(4)のX1が9,9-フルオレニリデン基である芳香族ジアミン(B)としては、9,9-ビス(3-アミノフェニル)フルオレンなどが挙げられる。式(4)のX1がm-フェニレンジオキシ基である芳香族ジアミン(B)としては、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼンなどが挙げられる。式(4)のX1がp-フェニレンジオキシ基である芳香族ジアミン(B)としては、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼンなどが挙げられる。構造単位(B1)をもたらすこれらの芳香族ジアミン(B)は、アリール基またはハロゲン化アリール基によって置換されていてもよい。
【0037】
中でも、溶媒へのアミド酸オリゴマーおよびアミド酸オリゴマーから得られるイミドオリゴマーの溶解性、アミド酸オリゴマーおよびアミド酸オリゴマーから得られるイミドオリゴマーの成形性、硬化物の可撓性の観点から、構造単位(B1)は、非対称かつ非平面の構造を有することが好ましい。例えば、構造単位(B1)は、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(3,4’-ODA)に由来する構造単位であることが好ましい。
【0038】
2価の残基(B’)は、さらに構造単位(B2)を含んでもよい。構造単位(B2)は、1,3-ジアミノベンゼンに由来する2価の残基である。
【0039】
構造単位(B1)と構造単位(B2)とのモル比は、100/0~20/80であり、90/10~30/70であることが好ましく、80/20~40/60であることがより好ましい。構造単位(B1)と構造単位(B2)とのモル比が当該範囲であれば、得られる硬化物の耐熱性および機械的特性を向上できる。
【0040】
2価の残基(B’)に含まれる構造単位(B1)と構造単位(B2)との合計の割合は、50モル%以上であり、60モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。これにより、得られる硬化物の耐熱性および機械的特性がさらに改善される。2価の残基(B’)に含まれる構造単位(B1)と構造単位(B2)との合計の割合は、100モル%以下であり、95モル%以下であってもよい。
【0041】
2価の残基(B’)は、構造単位(B1)および構造単位(B2)以外に、他の芳香族ジアミンに由来する構造単位を含んでいてもよい。他の芳香族ジアミンとしては、1,4-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、4,6-ジエチル-2-メチル-1,3-ジアミノベンゼン、2,6-ジアミノトルエン、2,6-ジエチル-1,3-ジアミノベンゼン、2,5-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス(2,6-ジエチル-4-アミノフェニル)メタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、ビス(2-エチル-6-メチル-4-アミノフェニル)メタン、4,4’-メチレン-ビス(2-エチル-6-メチルアニリン)、4,4’-メチレン-ビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-ジアミノオクタフルオロビフェニル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)フルオレン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-ODA)、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルなどが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
<1-3.末端封止剤>
前記アミド酸オリゴマーは、末端に、前記式(6)で表される構造単位(C)および芳香族ジアミン(B)に由来する構造単位からなる群から選択される構造単位を含む。すなわち、前記アミド酸オリゴマーは、両方の末端が構造単位(C)であるか、あるいは前記アミド酸オリゴマーは、いずれか一方の末端が構造単位(C)であり、かつ他の末端が芳香族ジアミン(B)に由来する構造単位であってもよい。「末端が芳香族ジアミン(B)に由来する構造単位である」とは、Yを構成するジアミンに由来する「-NH2」が末端になっている状態を意味する。
【0043】
構造単位(C)は、フェニルエチニル基を含む末端封止剤に由来する。フェニルエチニル基を含む末端封止剤としては、4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物を使用することが好ましい。4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物としては、4-(2-フェニルエチニル)フタル酸、4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物(PEPA)、4-(2-フェニルエチニル)フタル酸のエステルまたは塩などの酸誘導体が挙げられる。4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物を使用することで、得られる硬化物は優れた耐熱性および機械的特性を示す。
【0044】
Z100モル%中、構造単位(C)の含有量は85~100モル%であり、90~100モル%であることが好ましく、95~100モル%であることがより好ましい。これにより、得られる硬化物は優れた耐熱性および機械的特性を示す。本明細書において、Z100モル%中の構造単位(C)の含有量とは、式(1)で表されるアミド酸オリゴマーの集合体に含まれるZ100モル%中の構造単位(C)の割合を意味する。
【0045】
〔2.ワニス〕
本発明の一実施形態に係るワニスは、上述のアミド酸オリゴマーを、沸点が135℃以下である溶媒に溶解してなる。溶媒の沸点が135℃以下であれば、溶媒の除去が容易である。溶媒の沸点は125℃以下であることが好ましい。また、溶媒の沸点は80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましい。溶媒の沸点が80℃以上であれば、前記アミド酸オリゴマーのワニスを強化繊維に含浸させて作製したプリプレグの室温付近での取り扱い時に、溶媒が揮発しにくく長時間タック性が保持される。なお、本明細書における溶媒の沸点の範囲に関する記載は、溶媒が混合溶媒である場合、混合溶媒に含まれる各溶媒の沸点がいずれも前記範囲であることを意図する。
【0046】
前記溶媒としては、アルコール系溶媒とエーテル系溶媒との混合溶媒、ヒドロキシエーテル系溶媒の単独溶媒、アルコール系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒、エーテル系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒、および、アルコール系溶媒とエーテル系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒、からなる群より選択される少なくとも1つの溶媒が挙げられる。これらの溶媒であれば、上述のアミド酸オリゴマーを安定的に溶解できる。中でも、前記溶媒は、ヒドロキシエーテル系溶媒の単独溶媒、またはエーテル系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒であることが好ましい。
【0047】
本明細書において、「ヒドロキシエーテル系溶媒の単独溶媒」とは、ヒドロキシエーテル系溶媒のみからなる溶媒を指す。ヒドロキシエーテル系溶媒の単独溶媒は、1種のヒドロキシエーテル系溶媒のみからなってもよく、複数種のヒドロキシエーテル系溶媒を含んでいてもよい。
【0048】
アルコール分子およびヒドロキシエーテル分子が有しているヒドロキシル基は、例えば酸素による自動酸化の途中でエーテル系溶媒から形成されるおそれのあるラジカルを安定化させる。そのため、アミド酸オリゴマーを得るときに過酸化物が生成され難くなる。すなわち、アルコール系溶媒およびヒドロキシエーテル系溶媒は、エーテル系溶媒の安定化剤としての働きも備えている。上記ヒドロキシエーテル系溶媒は、エーテル系溶媒と異なり、単独溶媒として用いた場合でも自己を安定化させる働きがある。ただし、更なる安定化を期待して、ヒドロキシエーテル系溶媒をアルコール系溶媒と混合してもよい。
【0049】
前記溶媒に含まれるアルコール分子、エーテル分子および/またはヒドロキシエーテル分子は、一分子当たり酸素原子を2つ以上有していることが好ましい。このような分子を含む溶媒は、アミド酸オリゴマーを溶解させる能力が高い。
【0050】
アルコール系溶媒としては、メタノール(沸点65℃)、エタノール(沸点78℃)、1-プロパノール(沸点98℃)、2-プロパノール(沸点82℃)などが挙げられる。エーテル系溶媒としては、1,3-ジオキサン(沸点105℃)、1,4-ジオキサン(沸点101℃)、テトラヒドロフラン(沸点66℃)、1,3-ジオキソラン(沸点75℃)、1,2-ジメトキシエタン(沸点83℃)などが挙げられる。ヒドロキシエーテル系溶媒としては、メトキシメタノール(沸点90~95℃)、エトキシメタノール(沸点102℃)、2-メトキシエタノール(沸点124℃)、2-エトキシエタノール(沸点135℃)、1-メトキシ-2-プロパノール(沸点119℃)などが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
〔3.アミド酸オリゴマーの製造方法〕
本発明の一実施形態に係るアミド酸オリゴマーの製造方法は、特に限定されず、任意の方法を用いて得ることができるが、その一例について以下に説明する。
【0052】
上述のアミド酸オリゴマーは、芳香族テトラカルボン酸類と、芳香族ジアミンと、フェニルエチニル基を含む末端封止剤とを混合および加熱することにより得られる。例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンと、4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物とを、全成分の酸無水基の全量とアミノ基の全量とがほぼ等量になるように使用する。これらの各成分を溶媒中で約100℃以下、特に80℃以下の温度で反応させることにより、アミド酸オリゴマーを生成することができる。
【0053】
上述のアミド酸オリゴマーの特に好ましい製法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。まず芳香族ジアミンを溶媒中に均一に溶解後、芳香族テトラカルボン酸二無水物をその溶液中に加えて約5~60℃で反応させるとともに均一に溶解させる。その後、さらにその溶液に、末端封止剤として4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物を加えて、約5~60℃で反応させることにより、前記のアミド酸オリゴマーを生成させる。前記の反応において、全反応工程あるいは一部の反応工程を窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性のガスの雰囲気あるいは真空中で行うことが好適である。
【0054】
アミド酸オリゴマーの製造に用いる溶媒は、前記〔2.ワニス〕にて例示した溶媒であり得る。
【0055】
〔4.イミドオリゴマー〕
本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーは、上述のアミド酸オリゴマーから得られる。例えば、上述のアミド酸オリゴマーを、約0~140℃で化学イミド化剤を添加する方法、あるいは140~275℃の高温に加熱する方法によって、脱水および環化させて、イミドオリゴマーを得ることができる。例えば上述のアミド酸オリゴマーを含む溶液、あるいはアミド酸オリゴマーの溶液から溶媒を除去して得たアミド酸オリゴマーの固体を140~275℃で5分~24時間加熱することにより、前記アミド酸オリゴマーをイミド化反応させて、その結果、イミドオリゴマーを得ることができる。前記の反応において、全反応工程あるいは一部の反応工程を窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性のガスの雰囲気あるいは真空中で行うことが好適である。
【0056】
〔5.プリプレグおよびセミプレグ〕
本発明の一実施形態に係るプリプレグまたはセミプレグは、上述のアミド酸オリゴマー、ワニスまたはイミドオリゴマーを強化繊維に加熱融着または含浸させてなる。本明細書においてセミプレグとは、樹脂(例えば、アミド酸オリゴマーまたはイミドオリゴマー)が強化繊維に部分的に含浸して(半含浸状態)、一体化した樹脂-強化繊維複合体を意味する。セミプレグは、前記イミドオリゴマーの粉末を強化繊維と混合させて得ることもできる。また、前記セミプレグから、プリプレグを得ることができる。例えば、セミプレグをさらに加熱溶融することによって、樹脂を強化繊維に含浸させることによりプリプレグを得ることができる。
【0057】
プリプレグは、前記ワニスを強化繊維に含浸させ、必要により、溶媒の一部を加熱などで蒸発除去させることで得られる。例えば、適度に濃度調整したアミド酸オリゴマーのワニスを、例えば平面状に一方向に引き揃えた強化繊維または強化繊維織物などに含浸させ、20~180℃の乾燥機中で1分~20時間乾燥させてプリプレグを得ることができる。また、ワニスとして、粉末状のイミドオリゴマーを溶媒に溶解して得られたイミドオリゴマー溶液を用いてもよい。
【0058】
強化繊維または強化繊維織物などに付着する樹脂含有量は10~60重量%が好ましく、20~50重量%がより好ましい。なお、本明細書において、樹脂含有量とは、樹脂の重量と強化繊維または強化繊維織物などの重量との合計に対する、樹脂の重量の割合を意図する。
【0059】
また、強化繊維または強化繊維織物などに付着する溶媒の量は、プリプレグ全体の重量に対して1~30重量%であることが好ましく、5~25重量%であることがより好ましく、5~20重量%であることがさらに好ましい。強化繊維または強化繊維織物などに付着する溶媒の量が前記範囲であれば、プリプレグの積層時の取り扱いを簡便にすることができる。また、高温での繊維強化複合材料の成形過程において樹脂の流出を阻止することにより、優れた機械強度を発現する繊維強化複合材料を作製することができる。
【0060】
強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維およびセラミック繊維などの無機繊維、並びにポリアミド繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維およびノボロイド繊維などの有機合成繊維などが挙げられる。これらの強化繊維は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0061】
特に、プリプレグから作製される繊維強化複合材料に優れた機械的特性および高い耐熱性を発現させるためには、強化繊維は炭素繊維であることが好ましい。炭素繊維としては、炭素の含有率が85~100重量%の範囲にあり、少なくとも部分的にグラファイト構造を有する連続した繊維形状を有する材料であれば特に限定されない。このような炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系、リグニン系およびピッチ系などの炭素繊維が挙げられる。これらの中でも、汎用的かつ安価であり、高い強度を備えていることから、PAN系またはピッチ系などの炭素繊維が好ましい。
【0062】
一般的に、炭素繊維には、サイジング処理が施されている。この炭素繊維をそのまま用いてもよい。必要に応じて、サイジング剤使用量の少ない炭素繊維を用いてもよい。または有機溶剤処理もしくは加熱処理などの既存の方法にて炭素繊維からサイジング剤を除去することもできる。
【0063】
サイジング剤の使用量は、炭素繊維に対して0.5重量%以下とすることが好ましく、0.2重量%以下とすることがより好ましい。通常、炭素繊維に使用されているサイジング剤はエポキシ樹脂用のものであるため、イミドオリゴマーを硬化させる280℃以上の温度では分解することがある。サイジング剤使用量を前記範囲とすることで、サイジング剤の分解物の揮発が原因となる欠陥(ボイド)などが低減された、良品質の繊維強化複合材料を得ることができる。
【0064】
また、あらかじめ炭素繊維の繊維束をエアーまたはローラーなどを用いて開繊してもよい。これにより炭素繊維の単糸間に樹脂または樹脂溶液を含浸させることができる。開繊することで樹脂の含浸距離が短くなり、よりボイドなどの欠陥が低減された、または欠陥が無くなった繊維強化複合材料を得易くなる。
【0065】
プリプレグを構成する強化繊維材料の形態としては、UD(一方向材)、織物(平織、綾織、朱子織など)、編物、組物、不織布などの構造体が挙げられ、特に限定されるものでない。強化繊維材料の形態は、その目的に応じ適宜選択すれば良く、これらを単独あるいは組み合わせて用いることができる。
【0066】
得られたプリプレグは、その両面のどちらか一方、またはそれぞれを、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂シート、または紙などの被覆シートにより被覆した状態で保存または輸送することが好ましい。このような被覆状態にあるプリプレグは、ロール状態、またはロールから切り出されたシート状態などで保存と輸送がなされる。
【0067】
〔6.硬化物〕
本発明の一実施形態に係る硬化物は、上述のアミド酸オリゴマー、ワニスまたはイミドオリゴマーを加熱硬化してなる。なお、上述のアミド酸オリゴマー、ワニスまたはイミドオリゴマーを加熱すると、アミド酸オリゴマーまたはイミドオリゴマーが末端に有する4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物の残基が他の分子と反応することによって高分子量となる。それとともに、アミド酸オリゴマーまたはイミドオリゴマーが硬化する。その反応においては、4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物の残基が有する三重結合、並びにその三重結合に由来する二重結合および単結合が関連すると考えられている。従って、反応後の硬化物に含まれるアミド酸オリゴマーまたはイミドオリゴマーの構造は非常に複雑となる。
【0068】
硬化物の形状は、特に限定されず、任意の方法で所望の形状に成形すればよい。硬化物の形状としては、例えば、フィルム、シート、直方体状または棒状などの2次元的または3次元的に成形加工された状態などが挙げられる。例えば、前記ワニスを支持体に塗布し、次いで260~500℃で5~200分間加熱硬化することにより、フィルム形状に成形された硬化物を得る。または、イミドオリゴマーの粉末をホットプレスすることにより、フィルム形状に成形された硬化物を得てもよい。すなわち、本発明の一実施形態には、前記硬化物から得られるフィルム(フィルム形状の硬化物)も包含される。
【0069】
また、粉末状の前記イミドオリゴマーを金型などの型内に充填し、10~330℃で0.1~100MPaで1秒~100分程度の圧縮成形によって予備成形体を形成してもよい。この予備成形体を280~500℃で10分~40時間程度加熱することによっても硬化物を得ることができる。なお、本明細書における圧力の値は全てサンプルにかかる実圧の値である。
【0070】
硬化物のガラス転移温度(Tg)は、250℃以上であることが好ましく、290℃以上であることがより好ましく、310℃以上であることがさらに好ましい。硬化物の引張弾性率は、2.60GPa以上であることが好ましく、2.90GPa以上であることがより好ましく、3.00GPa以上であることがさらに好ましい。硬化物の引張破断強度は、110MPa以上であることが好ましく、120MPa以上であることがより好ましい。硬化物の引張破断伸びは5.0%以上であることが好ましく、7.0%以上であることがより好ましく、9.0%以上であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、ガラス転移温度(Tg)、引張弾性率、引張破断強度および引張破断伸びは、後述の実施例に記載の方法によって測定されたものを意図する。
【0071】
また、硬化物は、さらに強化繊維を含んでいてもよい。このような強化繊維を含む硬化物は、前記プリプレグを積層し、加熱硬化して得られる繊維強化複合材料であってもよい。または硬化物は、前記イミドオリゴマーの粉末を繊維に付着させた後、イミドオリゴマーの融着工程を経て作製されるセミプレグおよび/またはプリプレグを積層し、加熱硬化して得られる繊維強化複合材料であってもよい。
【0072】
前記プリプレグを所望のサイズに切断し、所定枚数重ねて、オートクレーブまたはホットプレスなどを用いて、280~500℃の温度かつ0.1~100MPaの圧力で10分から40時間程度加熱硬化して、繊維強化複合材料を得ることができる。なお、当該加熱硬化の前に必要であれば、所定枚数重ねたプリプレグを200~310℃で常圧または減圧下で5分~40時間程度加熱して乾燥させてもよい。また、前記イミドオリゴマーの粉末を強化繊維に付着させた後、イミドオリゴマーの融着工程を経て作製されるセミプレグおよび/またはプリプレグを積層し、前記と同様にして加熱硬化した積層板として繊維強化複合材料を得ることもできる。
【0073】
また、繊維強化複合材料は、ガラス転移温度(Tg)が300℃以上であることが好ましく、310℃以上であることがより好ましい。
【0074】
また、フィルム形状のイミドオリゴマーの成形体、イミドオリゴマーの粉末、セミプレグまたはプリプレグを繊維強化複合材料と異種材料または同種材料との間に挿入し、加熱溶融して一体化することにより、繊維強化複合材料構造体を得てもよい。ここで、異種材料としては特に限定されず、この分野で常用されるものをいずれも使用できるが、例えば、ハニカム形状などの金属材料およびスポンジ形状などのコア材料などが挙げられる。
【0075】
〔7.用途〕
前記アミド酸オリゴマー、ワニス、イミドオリゴマー、セミプレグ、プリプレグ、それらの硬化物、および繊維強化複合材料などは、一般産業用途をはじめとした易成形性および高耐熱性が求められる広い分野で利用可能である。そのような分野としては、航空機、宇宙産業用機器、車輌用エンジン(周辺)部材、搬送用アーム、ロボットアーム、ロール材、摩擦材、軸受けなどの摺動性部材などが挙げられる。航空機部材であれば、エンジンのファンケース、インナーフレーム、動翼(ファンブレードなど)、静翼(構造案内翼(SGV)など)、バイパスダクト、各種配管などが挙げられる。車輌部材であれば、ブレーキ部材、エンジン部材(シリンダー、モーターケース、エアボックスなど)、エネルギー回生システム部材などが好ましく挙げられる。
【0076】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0077】
以下に本発明の一実施形態を説明するための実施例および比較例を示すが、これらは本発明を限定するものではない。まず、各物性の測定条件は次のとおりとした。
【0078】
〔試験方法〕
(1)ガラス転移温度(Tg)
硬化物について、RSA3型動的粘弾性測定装置(DMA、TAインスツルメンツ社製)を用いて空気雰囲気下、引張方式、0.3%のひずみ、1Hzの周波数および昇温速度5℃/minの条件で貯蔵弾性率曲線を測定した。得られた貯蔵弾性率曲線の変曲点の前後それぞれにおいて、貯蔵弾性率曲線に対する接線を引いた。接線の交点の温度を硬化物のガラス転移温度とした。
【0079】
(2)硬化物の引張弾性率、引張破断強度および引張破断伸び
硬化物について、引張試験機TENSILON/UTM-II-20(オリエンテック社製)を用いて引張試験を実施した。試験温度は室温、引張速度は5mm/min、並びに試験片形状は長さ30mmおよび幅3mmとした。
【0080】
〔原料化合物〕
以下に記載する実施例および比較例において、各原料化合物および溶媒は下記の表示により示した。
【0081】
<(A)成分:芳香族テトラカルボン酸類>
PMDA:1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(融点の文献値:286℃)
s-BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(融点の文献値:303℃)
<(B)成分:芳香族ジアミン>
3,4’-ODA:3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(融点の文献値:67~71℃)
1,3-DAB:1,3-ジアミノベンゼン(融点の文献値:63~67℃)
4,4’-ODA:4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(融点の文献値:190~1
94℃)
<(C)成分>
PEPA:4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物(融点の文献値:149~154℃)
<溶媒>
2-ME:2-メトキシエタノール
〔実施例1〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶(ガラス製容器、以下同様)に(B)成分である3,4’-ODA4.5900g(0.02292モル)と溶媒である2-ME32.3797gとを投入した。続いて、20℃で瓶内の原料を攪拌して(B)成分が均一に溶解している溶液を得た。次いで(A)成分であるPMDA2.0003g(0.00917モル)およびs-BPDA2.6978g(0.00917モル)と、2-ME9.2519gとを瓶内に投入した。続いて、瓶を窒素で封入した。その後、(A)成分が完全に溶解するまで、瓶内の溶液を60℃で15分攪拌して均一な溶液を得た。さらに(C)成分であるPEPA2.2763g(0.00917モル)と2-ME4.6247gとを瓶内に投入した。続いて、瓶を窒素で封入した。その後に瓶内の溶液を20℃で3時間攪拌することにより、アミド酸オリゴマーが均一に溶解している溶液を得た。以下ではこの溶液をアミド酸オリゴマー溶液と称する。なお、式(1)におけるZ100モル%中の構造単位(C)の含有量は100モル%であった。
【0082】
続いて、アミド酸オリゴマー溶液を金属バットへ移した。次いで、そのバットを真空乾燥機へ投入し、45℃で終夜真空乾燥することで2-MEを除去した。これによりアミド酸オリゴマーの固体を得た。このアミド酸オリゴマーの固体を細かく粉砕して粉末化した。その後、アミド酸オリゴマーの粉末をオーブンで空気雰囲気下、260℃で1時間加熱してイミド化することにより、イミドオリゴマーの固体を得た。このイミドオリゴマーの固体を細かく粉砕して粉末化した。得られたイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱することによりイミドオリゴマーを溶融および硬化させ、フィルム形状の硬化物を得た。得られたフィルムの厚みは約0.13mmであった。各成分の添加量および反応条件から設定されるアミド酸オリゴマーおよびイミドオリゴマーの重合度nは4であった。この重合度の設定については以下の実施例および比較例において同様である。イミドオリゴマーのフィルム形状の硬化物の特性を表1に示す。
【0083】
〔比較例1〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶に(B)成分である3,4’-ODA4.5901g(0.02292モル)と溶媒である2-ME30.4257gとを投入した。続いて22℃で瓶内の原料を攪拌して(B)成分が均一に溶解している溶液を得た。次いで(A)成分であるPMDA4.0000g(0.01834モル)と、2-ME8.6931gとを瓶内に投入した。続いて、瓶を窒素で封入した。その後、(A)成分が完全に溶解するまで、瓶内の溶液を50℃で2時間攪拌して均一な溶液を得た。さらに(C)成分であるPEPA2.2763g(0.00917モル)と、2-ME4.3463gとを瓶内に投入した。続いて、瓶を窒素で封入した。その後に瓶内の溶液を70℃で4時間攪拌することにより、アミド酸オリゴマー溶液を得た。なお、式(1)におけるZ100モル%中の構造単位(C)の含有量は100モル%であった。
【0084】
続いて、このアミド酸オリゴマー溶液から、実施例1と同様の方法により、アミド酸オリゴマーの粉末を得た。また、このアミド酸オリゴマーの粉末から、実施例1と同様の方法により、イミドオリゴマーの粉末を得た。得られたイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱したが、粉末が十分溶融せずフィルム形状の硬化物を得られなかった。
【0085】
〔実施例2〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶に(B)成分である3,4’-ODA2.2950g(0.01146モル)および1,3-DAB1.2395g(0.01146モル)と、溶媒である2-ME29.4237gとを投入した。続いて、20℃で瓶内の原料を攪拌して(B)成分が均一に溶解している溶液を得た。次いで(A)成分であるPMDA2.0000g(0.00917モル)およびs-BPDA2.6979g(0.00917モル)と、2-ME8.4067gとを瓶内に投入した。続いて、瓶を窒素で封入した。その後、(A)成分が完全に溶解するまで、瓶内の溶液を20℃で1時間40分攪拌して均一な溶液を得た。さらに(C)成分であるPEPA2.2763g(0.00917モル)と、2-ME4.2033gとを瓶内に投入した。続いて、瓶を窒素で封入した。その後に瓶内の溶液を20℃で2時間30分攪拌することにより、アミド酸オリゴマー溶液を得た。なお、式(1)におけるZ100モル%中の構造単位(C)の含有量は100モル%であった。
【0086】
続いて、このアミド酸オリゴマー溶液から、実施例1と同様の方法により、アミド酸オリゴマーの粉末を得た。また、このアミド酸オリゴマーの粉末から、実施例1と同様の方法により、イミドオリゴマーの粉末を得た。得られたイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱することによりイミドオリゴマーを溶融および硬化させ、フィルム形状の硬化物を得た。得られたフィルムの厚みは約0.09mmであった。イミドオリゴマーのフィルム形状の硬化物の特性を表1に示す。
【0087】
〔比較例2〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶に(B)成分である3,4’-ODA2.2951g(0.01146モル)および1,3-DAB1.2395g(0.01146モル)と、溶媒である2-ME27.4672gとを投入した。続いて20℃で瓶内の原料を攪拌して(B)成分が均一に溶解している溶液を得た。次いで(A)成分であるPMDA4.0000g(0.01834モル)と、2-ME7.8486gとを瓶内に投入した。続いて、瓶を窒素で封入した。その後、(A)成分が完全に溶解するまで、瓶内の溶液を20℃で30分攪拌して均一な溶液を得た。さらに(C)成分であるPEPA2.2763g(0.00917モル)と、2-ME3.9242gとを瓶内に投入した。続いて、瓶を窒素で封入した。その後に瓶内の溶液を20℃で3時間攪拌することにより、アミド酸オリゴマー溶液を得た。なお、式(1)におけるZ100モル%中の構造単位(C)の含有量は100モル%であった。
【0088】
続いて、このアミド酸オリゴマー溶液から、実施例1と同様の方法により、アミド酸オリゴマーの粉末を得た。また、このアミド酸オリゴマーの粉末から、実施例1と同様の方法により、イミドオリゴマーの粉末を得た。得られたイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱したが、粉末が十分溶融せずフィルム形状の硬化物を得られなかった。
【0089】
〔比較例3〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶に(B)成分である4,4’-ODA4.5901g(0.02292モル)と、溶媒である2-ME30.4259gとを投入した。続いて70℃で瓶内の原料を攪拌して(B)成分が均一に溶解している溶液を得た。次いで(A)成分であるPMDA4.0001g(0.01834モル)と、2-ME8.6930gとを瓶内に投入した。続いて、瓶を窒素で封入した。その後、50℃で攪拌したところ不溶分の析出が見られ、それ以上攪拌することが困難となり反応させることができなかった。よって、PEPAの投入に至らなかった。
【0090】
【0091】
〔結果の説明〕
(A)成分としてPMDAおよびs-BPDAを、(B)成分として3,4’-ODAを、(C)成分としてPEPAを用いた実施例1は、(A)成分としてPMDAのみを用いた比較例1よりも、硬化物の成形性(高温での溶融流動性)が優れていた。また、(A)成分としてPMDAおよびs-BPDAを、(B)成分として3,4’-ODAおよび1,3-DABを、(C)成分としてPEPAを用いた実施例2は、(A)成分としてPMDAのみを用いた比較例2よりも、硬化物の成形性(高温での溶融流動性)が優れていた。これらのことから、(A)成分としてPMDAおよびs-BPDAを併用することが本発明の一実施形態には必須であることが分かる。
【0092】
(A)成分としてPMDAおよびs-BPDAを、(B)成分として3,4’-ODAおよび1,3-DABを、(C)成分としてPEPAを用いた実施例2は、(B)成分として3,4’-ODAのみを用いた実施例1よりもガラス転移温度(Tg)、引張破断強度および引張破断伸びが向上している。このことから、(B)成分として3,4’-ODAおよび1,3-DABを併用することが硬化物のガラス転移温度(Tg)および機械的特性の観点から好ましい。
【0093】
なお、(B)成分として、構造単位(B1)および構造単位(B2)のいずれにも該当しない4,4’-ODA(式(4)においてR3とR8とが同時に酸無水物成分とのアミド結合における窒素原子との直接結合を表すジアミンに該当する)を50モル%以上用いた比較例3では、アミド酸オリゴマー溶液を得ることができなかった。このことから、(B)成分として、構造単位(B1)および構造単位(B2)を合計で50モル%以上用いることが本発明の一実施形態には必須であることが分かる。
本発明の一実施形態は、航空機、宇宙産業用機器、一般産業用途および車輌用エンジン(周辺)部材をはじめとした易成形性および高耐熱性が求められる広い分野で利用可能である。