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特開2022-104432マイクロチップ、マイクロチップ測定装置および被験物質の測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104432
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】マイクロチップ、マイクロチップ測定装置および被験物質の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20220701BHJP
   G01N 27/28 20060101ALI20220701BHJP
   G01N 27/327 20060101ALI20220701BHJP
   G01N 35/00 20060101ALI20220701BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N27/28 321F
G01N27/327 357
G01N35/00 D
G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020219645
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】517417681
【氏名又は名称】株式会社TKResearch
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 貴之
(72)【発明者】
【氏名】野口 正生
(72)【発明者】
【氏名】青木 大一郎
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058DA07
2G058GA12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】被験物質を特異的に結合するリガンドを固定した電極を内蔵し、高感度測定に必須である洗浄操作と反応溶液量の定量を簡便に行うことができ、小型で安価であることに加えて、正確かつ迅速な分析を実現することができるマイクロチップ及び該マイクロチップを用いた免疫分析方法を提供する。
【解決手段】被験物質測定用のマイクロチップ1において、試薬反応部位を有する電極1dを内蔵する反応槽1eと、検体、洗浄用試薬および測定用試薬を注入する導入部1b、廃液を保持する廃液槽1gを有し、導入部1bと反応槽1eとを連結する導入流路1c、反応槽1eと廃液槽1gとを連結する廃液流路1fを有し、導入流路1bに比して小さい断面積をもつ廃液流路1fにすることで、表面張力や遠心力によって溶液の反応槽への保持、廃液槽への送液を簡便に行うバイオチップ。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物質測定用のマイクロチップにおいて、試薬反応部位を有する電極を内蔵する反応槽と、検体、洗浄用試薬および測定用試薬を注入する導入部、廃液を保持する廃液槽を有し、前記導入部と前記反応槽とを連結する導入流路、前記反応槽と前記廃液槽とを連結する廃液流路を有することを特徴とするマイクロチップ。
【請求項2】
前記マイクロチップの導入流路に比して断面積の小さい廃液流路を有することを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記マイクロチップが免疫化学測定用のマイクロチップであって、酸化還元反応を電気化学的に測定することで前記被験物質の測定を行うものであることを特徴とする請求項1記載のマイクロチップ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項記載のマイクロチップと、前記マイクロチップを装着する反応用治具と、前記電極に接続し電圧をかけることで被験物質を含む溶液の電荷を測定しうる測定機器とを有することを特徴とするマイクロチップ測定システム。
【請求項5】
前記反応用治具が、遠心力を変動させることで検体および試薬等を送液することを特徴とする請求項4に記載のマイクロチップ測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易迅速に被験物質の検出・定量を行うためのマイクロチップ及びこれを用いた被験物質の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療、食品、創薬、診断等の分野で、RNA(リボ核酸)、DNA(デオキシリボ核酸)などの核酸、抗原、抗体や酵素等のタンパク質、ウィルス、細胞などの生体物質ならびに化学物質が種々の方法で分析されており、これらの分析を簡便に行う一手段として、様々なマイクロチップ(バイオチップやマイクロ化学チップとも称する。)が提案されている。
【0003】
マイクロチップとは、典型的には掌に収まる程度の大きさで、一対のマイクロチップ基板が対向して接着された構造である。このマイクロチップ内部には様々な領域が機能的に集積された流体回路が形成されている。流体回路の各領域としては、検査対象の検体(血液等)を注入する検体導入部、検体を検査または分析するための検査試薬を導入するための試薬導入部、該検査試薬と検体を混合して反応させる反応槽、該反応液を検査または分析して検体中の被験物質を検出する検出部、使用済みの検体や検査試薬を排出する廃棄槽などがある他、マイクロチップ内部にはこれら各部位を接続する微細な流路(例えば幅・深さが10~数100マイクロメーター程度)などが設けられている。
【0004】
近年、高齢化に伴い増加する在宅医療の現場や救急医療の現場において、誰もが検体中の被験物質を迅速簡便かつ安全に検出・定量することができる、小型かつ安価なマイクロチップおよび測定システム(例えば測定キット)が求められている。
【0005】
従来技術では、このようなマイクロチップおよびマイクロチップ測定システムとして次のものが開示されている。
【0006】
特許文献1のマイクロチップは、「被験物質測定用のマイクロチップ1において、試薬反応部位111を有する電極11と、洗浄溶液および測定溶液の保持ならびに試薬反応部位111への送液を行う送液部12と、洗浄溶液および
測定溶液を吸収することで送液を促す吸液部13と、送液部12と試薬反応部位111と吸収部13とを連結する流路14とを有するマイクロチップ1。(要約参照)」である。
【0007】
特許文献2のマイクロチップは、「被験物質と、標識化合物が抗体部分に結合した標識抗体とを混合するための混合槽と、抗イディオタイプ抗体を固定するための固定手段を含む反応槽と、前記被験物質を検出する検出部とを含むバイオチップであって、前記反応槽と検出部とが、前記固定手段を通過させないチャネル部によって分離されてなり、前記標識抗体は、前記標識化合物と1:1~1:n(nは整数)で結合するF(ab)フラグメントからなり、前記抗イディオタイプ抗体は、前記被験物質と標識抗体との反応生成物には結合できない、前記標識抗体に対する抗体であるバイオチップ(要約参照)」である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-190977号公報
【特許文献2】特開2007-064827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら安定的な測定においては、反応に供する試薬量や反応時間を制御することと共に、適切なB/F分離を行うことが不可欠であり、これらを簡便かつ適切に行うことのできるマイクロチップおよび測定システムは未だ実用化されていない。
【0010】
特許文献1では、洗浄溶液および測定溶液を内蔵したマイクロチップであり、指で圧すという手動操作で洗浄処理等を行う。この場合、試薬注入量が不均一になりやすく、測定結果を安定にするために必要な、抗原抗体反応の時間も不均一になりやすく、一連の操作の自動化が求められていた。
【0011】
特許文献2では、未反応の標識抗体を固定手段に担持された抗イディオタイプ抗体で捕捉することで検出部への移行を防ぎ、一方、標識抗体と結合した被験物質は抗イディオタイプ抗体に捕捉されず検出部に移動する(段落0039)。これにより洗浄工程を省略することができるが、洗浄工程を省略するための手段として抗イディオタイプ抗体(別の抗体の抗原認識部位(相補性決定領域)に対する抗体)を必要とする。また測定試薬等を順次注入していく必要があり、試薬注入量の正確な定量を行う機械装置および、溶液を反応槽に搬送する装置等を用いる必要がある。
【0012】
そこで本発明の目的は、被験物質を特異的に結合するリガンドを固定した電極を内蔵し、高感度測定に必須である洗浄操作と反応溶液量の定量を簡便に行うことのできるマイクロチップを提供することにある。また、該マイクロチップは、小型で安価であることに加えて、正確かつ迅速な分析を実現することができるマイクロチップ及びこれを用いた免疫分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のマイクロチップは、検査対象の検体(血液等)および検体を検査または分析するための検査試薬、洗浄用試薬等を注入する導入部、被験物質を特異的に補足するリガンドを固定した電極を内蔵し、該検査試薬と検体を反応させる反応槽、使用済みの検体や検査試薬を蓄積する廃液槽を有するマイクロチップであって、前記導入部と反応槽を繋ぐ流路構造である導入流路、反応槽と廃液槽を繋ぐ流路構造である廃液流路を有することを特徴とする。
【0014】
本発明において「洗浄用試薬」とは、電極を洗浄するための溶液のことである。例えば、抗原抗体反応後に残存した抗体を洗い流す溶液を含む。
本発明において「検査試薬」とは、電極の電位制御及び電気化学測定の際に用いる溶液のことである。例えば、抗原抗体反応を行うための抗原溶液、酵素標識抗体溶液や酵素基質溶液を含む。
本発明において「反応槽」とは、試薬が反応して抗原抗体反応や酸化還元反応が発生する場所である。より具体的にはこれらの化学反応の場である電極が露出した領域のことである。反応槽には試薬を導入するための導入流路があり、対極、参照極および作用極が外部に露出している。
【0015】
本発明によれば、導入部から注入された検体もしくは試薬は、反応槽に外力または吸引力により導入され、廃液流路に導入されずに反応槽に保持され、反応槽の容量を超える試薬は導入部および導入流路に保持される。この際の外力または吸引力は毛細管現象等の表面張力、空気圧、遠心力等が挙げられる。本発明のマイクロチップでは、反応槽の容量が一定であるため、正確な定量を簡便に実施することができる。
【0016】
本発明のマイクロチップは、導入流路に比較して十分に断面積が小さい廃液流路を有することを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、廃液流路の幅を導入流路に比して十分に小さくすることで、導入部から反応槽に試薬等を注入する際に必要な外力と、反応槽から廃液槽に試薬等を注入する際に必要な外力に十分な差異をつけることができ、外力の強さを変動させることで試薬を保持する槽を規定することができる。
【0018】
本発明によれば、反応槽に保持された検体もしくは試薬は、外力を加えることで廃液流路に導入される。この際の外力は例えば遠心力が挙げられる。本発明によれば、洗浄溶液や測定溶液を蓄積する廃液槽を有するため使用済みまたは感染性の疑われる廃液に触れることなく測定することができる。
また、本発明によれば、使用済み溶液等は廃液槽に導入され、導入部および導入流路内に残存する試薬類が非常に少なくなる為、新たな測定試薬もしくは洗浄用試薬は同一の導入部から順次反応槽へ円滑に注入することができる。従って、このマイクロチップを用いることにより、複数の溶液を別々に反応槽に導入する必要がないために、複数の溶液を別個に導入するための導入部、流路を配置する必要がなく、その結果、バイオチップ自体の占有面積を小型化することができる。
【0019】
本発明によれば、検出用試薬として、電子伝達メディエータ又は発色物質が含まれていることが好ましい。これにより、酵素標識抗体と結合した被検物質を、基質を利用して、より確実に定量することができ、精度よく被検物質の分析をすることが可能になる。特に、電子伝達メディエータ又は発色物質等を基質として用いる場合には、光学的又は電気化学的手法という通常の方法により、被検物質のより正確な分析を行うことができる。
【0020】
本発明によれば、電気化学的手法により分析を行う。このような構成により、従来の光学的検出装置のような大掛かりで、高価かつ大型の装置を用いることなく、電流又は電圧等の検出という簡便な方法によって、被検物質の分析を行うことができる。従って、分析にかかる費用を低減させることができるとともに、より小型のマイクロチップ及びより小型で安価な分析装置の使用を実現することができる。
また、本発明のマイクロチップに対して特別な設計や変更を行うことなく、従来から当該分野で用いられている原材料をそのまま利用することができ、安価な試薬提供が可能となる。
【0021】
本発明のマイクロチップ測定システムは、請求項1から5のいずれか一項記載のマイクロチップと、前記マイクロチップを装着し外力を加える反応用治具と、前記電極に接続し電圧をかけることで微分パルスボルタンメトリ法等により酸化還元電流を測定する測定機器を有することを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、本発明のマイクロチップは小型、低コストであり、在宅医療等の現場において患者のベッドサイドで使用可能な小型、軽量および低コストの携帯型マイクロチップ測定システムを提供できる。
【0023】
本発明の測定方法は、マイクロチップを用いた被検物質の測定方法において、前記マイクロチップに内蔵された電極上で各種反応を行い、外力により送液することで、前記電極に固相化されたリガンドと結合していない試薬類を前記電極上から流し出し、前記電極上に検出用試薬を送液し分析することを特徴とする。
【0024】
本発明のマイクロチップを用いたELISA法による被検物質の測定方法によれば、反応は10分以内、測定は1分程度で、サンプル調整から測定終了まで15分以内で完了する。感度は測定対象物のCLEIA法測定と同等以上であり、チップは冷蔵または室温保存可能であり、抗体や試薬の活性は少なくとも1年は維持可能である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、試薬送液操作を簡略化することができ、正確かつ迅速な分析を実現することができるとともに、シンプルな構造とすることにより、チップの占有面積を低減し、より小型で安価なマイクロチップを提供することができる。さらに、このマイクロチップを用いることにより、簡便な工程によって、正確かつ迅速な分析を実現できる分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1の実施形態のマイクロチップ測定システムの概略図である。
図2】上記実施形態のマイクロチップの概略平面図である。
図3】上記実施形態のマイクロチップの概略断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明のマイクロチップは、少なくとも、導入部と、導入流路と、反応槽と、廃液流路と、廃液槽とを含んで構成される。これらは、この順に、直列に連結されていることが好ましく、さらに、これらの各要素の間に流路が直列的に形成されていてもよいし、各構成要件に、流路を介して又は介さないで、別の槽又は部分が直列的に、付加的に又は並列的に接続されていてもよい。
【0028】
導入部は、検体もしくは試薬等をマイクロチップに導入するための空間であって、後述する反応槽及び廃液槽とは別個の空間として規定されている。その大きさは、特に限定されるものではなく、この目的を実現するために十分な大きさを有していることが必要であるが、これらの物質の種類、量などに応じて適宜設定することができる。例えば、10-2~103mm3程度が挙げられる。また、導入部の形状は導入目的に適切なものであれば特に限定されるものではなく、平面及び断面形状ともに、例えば、四角形、台形等の多角形及びこれらの角部分が丸みを帯びた形状、円形、だ円形、ドーム形状あるいは左右非対称の不均一形等どのような形状であってもよい。
【0029】
なお、導入部には、外部から検体及び試薬類を注入する注入口が形成されているか、流路を介して注入口に連結されていることが好ましい。ここでの注入口の形状、大きさ等は特に限定されるものでなく、この目的を実現するために十分な大きさを有していることが必要であるが、これらの物質の種類、量などに応じて適宜設定することができる。例えば、10-2~103mm程度が挙げられる。また、注入口の形状は注入目的に適切なものであれば特に限定されるものではなく、平面及び断面形状ともに、例えば、四角形、台形等の多角形及びこれらの角部分が丸みを帯びた形状、円形、だ円形、ドーム形状あるいは左右非対称の不均一形等どのような形状であってもよい。
【0030】
また、導入部には、反応槽へ検体及び試薬類を導入するために、導入流路が連結されていることが好ましい。ここでの流路の形状、大きさ等は特に限定されるものでなく、例えば、断面積が0.01μm2~100mm2程度、長さが1μm~100mm程度のものが挙げられるが、その幅は反応槽よりも大きく、導入部よりも小さいことが好ましい。
【0031】
反応槽は、検出を行うための電極をその内部に含んでいる。電極には被験物質と特異的に結合するリガンドを固定しており、被験物質が電極上に固定(担持)するための固定手段として用いる。したがって、反応槽は固定手段を保持するための十分な空間を有していることが必要であるが、固定手段の種類、量等に応じて適宜設定することができる。例えば、10-2~103mm3程度が挙げられる。また、その形状は、導入部と同様に、種々の形態に設定することができる。
【0032】
反応槽に含まれる固定手段は、被験物質を固定し得るものであり、電極の性能に影響を与えないものであれば特に限定されるものではなく、その形状、材質、量等は、被検物質の種類、用いるリガンドの種類等によって適宜調整することができる。固定の方法は、物理的吸着、共有結合、イオン結合、架橋、静電相互作用等公知の方法のいずれかを利用することができる。なお、固定の方法は、リガンドの結合活性に影響を与えないものであることが好ましい。
【0033】
導入部と反応槽とは、導入流路を通して又は導入流路を介さないで直接、直列で連結されていることが好ましい。いずれの場合にも、反応槽に流入した検体もしくは試薬が、導入流路側及び/又は導入部側に移行しないように、導入部と反応槽との間に、後述するようなカバー構造と同様又は類似の構成を含むものが好ましい。
【0034】
カバー構造は、反応槽と導入部との間に形成されており、反応槽内に導入した検体もしくは試薬が導入部側に移行することを防ぐものであれば特に限定されるものではなく、その形状、材質、大きさは、用いる試薬の種類によって適宜調整することができる。例えば、図2のような構造が挙げられ、毛細管現象により溶液の移行を防ぐ効果が得られる。
【0035】
また、反応槽は、被検物質、標識化合物又は基質から生成される生成物を検出するための空間でもある。よって反応槽において、被検物質を含む溶液の電荷を検出し得るように、導電性材料による一対の電極がこの溶液に接触するように形成されていることが必要である。
【0036】
ここで、一対の電極は、通常、電極として機能することができる材料、大きさ及び形状であれば特に限定されることはなく、どのようなものでも用いることができる。例えば、グラファイト、カーボン、カーボンファブリック等; 金、白金、銀、銅、アルミニウム等の金属又は合金、SnO2、In23、WO3、TiO2等導電性酸化物等の単層又は2以上の積層構造が挙げられる。この電極は、導電材料片をマイクロチップに貼り付けるか、一部を埋設するなどして形成してもよいし、導電剤ペーストを用いたスクリーン印刷法等の印刷法を用いて形成してもよい。
【0037】
ここで、被検物質を含む溶液の電荷を検出し得る試薬とは、標識物質を検出するための試薬類であって、通常使用されているものが適用できる。例えば、色素、染料、蛍光物質等、有機酸又は無機酸、電極と被検物質との間で電子を授受し得る電子移動媒体として機能し得る電子伝導メディエータ等の1種又は2 種以上の組み合わせが挙げられる。色素、染料、蛍光物質としては、OPD(オルトフェニレンジアミン)、TMBZ(3,3',5,5',-テトラメチルビンジジン)、チラミン(Tyramin)、ルミノール、ルシフェリン等が挙げられる。
【0038】
有機酸又は無機酸としては、過酸化水素、蟻酸、酢酸等が挙げられる。
電子伝達メディエータとしては、例えば、フェロセン、フェリシアン化アルカリ金属(フェリシアン化カリウム、フェリシアン化リチウム、フェリシアン化ナトリウム等)又はこれらのアルキル置換体(メチル、エチル、プロピル置換体等)、メチレンブルー、フェナジンメトサルフェート、p-ベンゾキノン、2,6-ジクロロフェノールインドフェノール、β-ナフトキノン-4-スルホン酸カリウム、フェナジンエトサルフェート、ビオローゲン、ビタミンK等の酸化還元性の化合物の1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。なかでも、フェロセン、フェリシアン化カリウム等が好ましい。
【0039】
上述したマイクロチップは、上述した種々の名称で呼ばれている従来のチップと同様の材料で形成することができる。例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PC(ポリカーボネイト)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、ポリエチレン、ポリシロキサン、アリルエステル樹脂、シクロオレフィンポリマーなどの有機化合物、あるいは、ゼオノア、シリコン、石英、ガラス、セラミック等の無機化合物等が挙げられる。
【0040】
このマイクロチップは、例えば、主として、一方又は双方に凹部による種々の形状のパターンを有する第1基板と第2基板とが、例えば、溶着、接着剤、超音波処理等によって、貼り合わせによって簡便に製造することができる。具体的には、所望の反応槽等に対応する形状を有する金型を準備する。この金型は、機械的加工により形成することができる。次に、この金型に、樹脂をモールド等して反応槽等の形状が転写された基板を得る。最後に、この基板を、パターン同士が対向するように、2枚張り合わせる。なお、導入部等に対応するパターンを有する基板を一方のみとし、他方を平板基板としてもよい。また、金型を用いたモールディングに代えて、射出成型法あるいはインプリント法等を利用してもよい。
さらに、平板基板の一方又は双方に、フォトリソグラフィー工程、機械的加工等を直接施して、反応槽等に対応するパターンが転写された基板を得てもよい。
【0041】
なお、本発明のバイオチップは、その取り扱い(例えば、試料等の導入、試料等の移行、検出など)が手動で行ってもよいし、自動で行ってもよいし、一部のみ自動で行ってもよい。例えば、試料等の移行は、ポンプを利用する方法、振動又は遠心力を利用する方法を用いることができる。
また、本発明の分析方法においては、まず、反応槽で被検物質と電極に固定したリガンドとを反応させる。
【0042】
反応槽で保持される被検物質としては、これに対するリガンドが得られれば分子量等は特に問わない。例えば、細菌、ウィルス、寄生虫、タンパク質、ペプチド、DNA、薬物等が挙げられる。
検出用試薬は、被検物質と結合(好ましくは、抗原抗体反応によって) する部位、つまりリガンド部分に、被検物質を定量するための標識化合物が結合して構成されるものである。
標識化合物としては、酵素、色素、酸化還元物質、蛍光物質、放射性物質、金属粒子、磁性体等、当該分野で通常使用される標識化合物のいずれをも用いることができる。
標識化合物と、リガンド部分は、予め当該分野で通常使用される方法(共有結合)によって結合させておくことが適当である。
【0043】
反応槽で、被検物質と標識リガンドとを混合して反応させる方法は、例えば、被検物質を含む試料を反応槽に導入し、予め、同時に又はその後、標識抗体を導入すればよい。この際、被検物質の量に対して、過剰量の標識リガンドを反応させることが好ましい。これによって、被検物質の全てに標識することが可能となる。ここで、被検物質自体の量は、通常は不明であるため、過剰量の標識リガンドを導入するために、例えば、予めマイクロチップを用いて測定可能な被検物質濃度又はその範囲を設定しておき、その設定した濃度又は範囲上限の1~100倍(モル比)を過剰量として導入することが適当である。
反応させる場合の条件は、特に限定されるものではなく、測定しようとする被検物質、標識リガンドの種類等により適宜設定することができるが、これらの物質の活性に影響を与えない条件、例えば、20~40℃程度の温度で、30秒間~10分間程度が挙げられる。
【0044】
次いで、検出用試薬を反応槽に導入し、反応させる。
反応させる場合の条件は、特に限定されるものではなく、測定しようとする被検物質、標識リガンドの種類等により適宜設定することができるが、これらの物質の活性に影響を与えない条件、例えば、20~40℃程度の温度で、30秒間~10分間程度が挙げられる。
【0045】
ところで、標識リガンドや検出用試薬を導入する直前に、洗浄用試薬によって反応槽を洗浄することが必要である。
洗浄用試薬としては、当該分野で通常使用される組成であれば特に制限はなく、緩衝液、界面活性剤、アルコール等が例示される。
【0046】
続いて、反応生成物を反応槽にて分析する。ここでの分析は、例えば、標識化合物の定量を、色素の発色強度を測定する光学的方法、電子の授受による電流値又は電圧値用を測定する電気化学的方法、電気的方法、放射性同位元素の強度を測定するラジオイムノアッセイ法、磁気による方法(例えば、標識に磁気ビーズを用いた場合)等の当該分野で公知の方法のいずれかによって行うことができる。好ましくは、電気化学的方法である。
【0047】
実施例1
本発明のマイクロチップ1は、図2に示したように、混合槽11と、導入部1bと反応槽1eが導入流路1cで連結され、反応槽1eと廃棄槽1gが廃棄流路1fで連結されている。流路の厚み1mmのマイクロチップを作製し、導入部1aから滅菌水を導入し、遠心力による溶液の導入試験を実施した。なお、この時の廃液流路は反応槽と廃液槽を結ぶ直線形状とした。
【0048】
反応槽は半径4mmの円形とし、導入流路は4mm幅とした。廃液流路の幅を0.5mm、0.3mm、0.03mmとして、回転数を変動させて溶液の移動を目視で確認した。
【0049】
4mm幅の導入流路は、毛細管現象によって徐々に導入され、200回転以上で完全に溶液を導入することができた。しかし、0.5mmおよび0.3mm幅の廃液流路の場合、200回転で廃液槽への溶液の導入が確認され、反応槽に溶液を保持することが出来なかった。一方、0.03mm幅の廃液流路の場合、200回転~270回転の範囲では、反応槽に溶液が保持され、270回転以上で溶液が廃棄槽に導入されることが確認された。
【0050】
実施例2
反応槽は半径4mmの円形とし、導入流路は4mm幅とした。廃液流路の幅を0.03mmの矩形として、回転数を変動させて溶液の移動を目視で確認した。
【0051】
試験の結果、200回転~350回転の範囲では、反応槽に溶液が保持され、350回転以上で溶液が廃棄槽に導入されることが確認された。
【符号の説明】
【0052】
S マイクロチップ測定システム、
1 マイクロチップ、
1a 導入口、
1b 導入部、
1c 導入流路、
1d 測定用電極、
1e 反応槽、
1f 廃棄流路、
1g 廃棄槽
1h 吸収性素材
1i 電極端子
2 反応用治具、
3 測定機器、
4 外部出力機器、
5 リード線
11 マイクロチップ電極基盤、
12 マイクロチップ流路基盤、
図1
図2
図3