(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104590
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】強誘電体記録媒体および強誘電体記憶装置
(51)【国際特許分類】
G11B 9/02 20060101AFI20220701BHJP
G11B 11/08 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
G11B9/02
G11B11/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210484
(22)【出願日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2020219654
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020219655
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020219656
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020219657
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020219658
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020219659
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020219660
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020219661
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020219662
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020219663
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020219664
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020219665
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021050640
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021050641
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021068376
(32)【優先日】2021-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021098592
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021101046
(32)【優先日】2021-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021117508
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021160168
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 正明
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高記録密度で、強誘電体記録媒体に記憶された情報を高速で読み込むことが可能で、単位記憶容量における小型化と、エネルギー消費量の増大を抑える強誘電体記録媒体及び強誘電体記憶装置を提供する。
【解決手段】強誘電体記録媒体10は、基板11の上に、電極層12、強誘電体記録層13、保護層14をこの順に備える。強誘電体記録層13は、強誘電体層131を含み、強誘電体層131を構成する材料が有する格子定数と、電極層12又は基板11を構成する材料が有する格子定数とが、±10%の範囲内で格子整合されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に、電極層、強誘電体記録層、保護層をこの順に備える強誘電体記録媒体であって、
前記強誘電体記録層は、強誘電体層を含み、
前記強誘電体層を構成する材料が有する格子定数と、前記電極層又は前記基板を構成する材料が有する格子定数とが、±10%の範囲内で格子整合されている強誘電体記録媒体。
【請求項2】
前記強誘電体層が、単結晶膜である請求項1に記載の強誘電体記録媒体。
【請求項3】
前記強誘電体層は、短距離秩序性を有するアモルファス構造を有し、
前記短距離秩序性の長さが、2nm以下であり、
前記アモルファス構造が有する格子定数と、前記基板を構成する材料が有する格子定数とが、±10%の範囲内で格子整合させている請求項1に記載の強誘電体記録媒体。
【請求項4】
前記基板が、シリコンを有し、
前記強誘電体層が、酸化ハフニウムを有する請求項1~3の何れか1項に記載の強誘電体記録媒体。
【請求項5】
前記強誘電体層が、酸化ハフニウムと、シリコン、アルミニウム、ガドリニウム、イットリウム、ランタン及びストロンチウムからなる群から選択される一種以上の添加物とを含む混合物、又は酸化ハフニウムと二酸化ジルコニウムとを含む混晶HfxZr1-xO2(xは、0.3~0.6である。)を含む請求項4に記載の強誘電体記録媒体。
【請求項6】
前記添加物の含有量が、1原子%~20原子%である請求項5に記載の強誘電体記録媒体。
【請求項7】
前記強誘電体記録層は、前記強誘電体層と、前記強誘電体層と前記電極層との間に設けられる常誘電体層を備え、
前記常誘電体層が、酸化物、窒化物、炭化物、ホウ化物及びケイ化物からなる群から選択される1種以上の常誘電体を含む請求項1~6の何れか1項に記載の強誘電体記録媒体。
【請求項8】
前記常誘電体層を構成する常誘電体が有する格子定数と、前記強誘電体層を構成する強誘電体が有する格子定数とが、±10%の範囲内で格子整合させている請求項7に記載の強誘電体記録媒体。
【請求項9】
前記常誘電体層の膜厚が、1nm~100nmである請求項7又は8に記載の強誘電体記録媒体。
【請求項10】
前記常誘電体層の膜厚が、1nm~30nmであり、
前記強誘電体層の膜厚が、1nm~30nmであり、
前記常誘電体層と前記強誘電体層の膜厚は等しいか前記常誘電体層が薄く、
前記常誘電体層と前記強誘電体層の膜厚の差が10nm以下である請求項7~9の何れか一項に記載の強誘電体記録媒体。
【請求項11】
請求項1~10の何れか一項に記載の強誘電体記録媒体と、
前記強誘電体記録媒体に対して情報の書き込み及び読み込みを行う導電性プローブと、
前記導電性プローブを前記強誘電体記録媒体の表面で浮上走行させるプローブスライダーと、
前記強誘電体記録媒体を回転させる強誘電体記録媒体駆動部と、
前記導電性プローブと情報の書き込み信号及び読み込み信号の処理を行う記録再生信号処理部と、
を備える強誘電体記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体記録媒体および強誘電体記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ、各種記録メディア等の記録媒体として、強誘電体の分極を変えることで繰り返し情報を記録することが可能な強誘電体記録媒体がある。強誘電体記録媒体は、強誘電体層を備え、外部電界の印加によって生じる強誘電体の自発分極を利用することにより、記録容量の高容量化を図った超高密度の記録媒体である。強誘電体記録媒体は、大容量化が可能であることから、強誘電体記録媒体を備えた強誘電体記憶装置の開発が検討されている。
【0003】
特許文献1には、誘電体記録媒体を構成する誘電体材料に交流電界を印加し、誘電体材料の有する非線形誘電特性により誘電体記録媒体に記録された情報を再生する誘電体記録再生装置が開示されている。
【0004】
特許文献2には、絶縁性の基板の上に電極層及び強誘電体層を設けた記録媒体をスピンドルに装着し、ヘッドアッセンブリに取り付けたヘッドスライダを記録媒体の表面から所定量浮上した状態で保持して、記録媒体に情報の記録及び再生を行う情報記憶装置が開示され、また、情報の読み込みに半導体センサーを用いることが開示されている。また、強誘電体層の材料としては、チタン酸鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ストロンチウムバリウム等のペロブスカイト系材料やタンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等が開示されている。
【0005】
特許文献3には、プローブの先端部近傍を取り囲むように円環状のガードを設け、塵埃がプローブに接触及び衝突するのを防ぎ、移動手段として圧電材料を用いてプローブを記録面と略直交する方向に移動させる情報記録読取ヘッドが開示されている。
【0006】
特許文献4には、先端が誘電体記録媒体に対向するように支持部材に立設された突起部を備え、突起部は、先端において稜線を有しており、突起部が異方性エッチングを施して形成された鋳型を用いて形成される記録再生ヘッドが開示されている。
【0007】
特許文献5には、強誘電体と常誘電体を積層してなる誘電体積層体を備えるメモリ装置が開示されている。
【0008】
特許文献6には、探針と各バイアス電極間にデータに対応した電圧を印加することで、探針と各バイアス電極とで誘電体記録媒体の表面と平行な分極方向を有する分極ドメインを形成し、4種のデータが誘電体記録媒体の所定部位に記録され、多値情報を記録する誘電体記録再生ヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004-14016号公報
【特許文献2】特開2007-272961号公報
【特許文献3】特開2004-171622公報
【特許文献4】特開2005-158117号公報
【特許文献5】特開平9-307073号公報
【特許文献6】特開2004-178750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
超高速通信技術を利用したストレージサービスは進化しつつある。ストレージサービスでは、コンピュータ、通信端末等の様々な機器がインターネットを通じてストレージに接続され、種々の情報が共有されている。これらの通信には、一般に光ファイバーが用いられ、その通信速度は10Gbps(ギガビット/秒)を超える。
【0011】
また、光ファイバーの敷設が難しい環境や移動体においては、10Gbps以上の無線及び移動体通信、いわゆる5Gへと移行し、さらには100Gbps以上の6Gへの適用も検討されている。
【0012】
これらのストレージサービスでは、ストレージとして、主に、HDD、フラッシュメモリ(SSD)等の記録媒体が用いられる。HDDでの転送速度は一般的に1Gbps程度であり、SSDでの転送速度は一般的に3Gbps程度である。そのため、1台のストレージでは超高速通信の厳しい入出力要件を満たすことは困難である。また、ストレージに求められる容量も増加の一途をたどっている。
【0013】
また、地球温暖化が大きな社会問題となる中、ストレージサービスの利用拡大に伴う電力消費量の増加が懸念されている。そのため、単位記憶容量当たりのエネルギー消費量が少なく、環境負荷を低減できる効率的なストレージが求められている。
【0014】
強誘電体記憶装置では、高記録密度の強誘電体記録媒体を多数枚積層して高速回転させることで、高い転送速度と高記憶容量化を実現できる。そのためには、先鋭化されたプローブを再現性良く製造し、これを記録媒体の表面にナノレベルまで近づけ、情報の読み書きを行う必要がある。
【0015】
しかしながら、特許文献1の誘電体記録再生装置では、強誘電体層に外部電界を印加する際、交流電界を使用している。そのため、強誘電体記録媒体が備える強誘電体層に記憶した情報をプローブによって読み込む際、読み込み速度は、交流電界の周波数の制限を受けるため、交流電界以上の周波数では情報を読み込むことができないという問題があった。また、高速読み込みが可能な非線形誘電特性を有する誘電体材料も限られていた。さらに、安定して読み書きできるヘッドの探針を作るのが難しく、探針と強誘電体層との距離を高い精度で高速に制御するのが難しかった。
【0016】
また、特許文献2に記載の情報の読み込み方法では、強誘電体層から得られる電界が弱く、半導体センサーの感度も低いという問題点があった。また、強誘電体層として用いる強誘電体の単結晶薄膜の形成が困難であった。さらに、情報の書き込みに用いる先鋭化された先端部を有する針状電極を得るのが難しかった。
【0017】
また、特許文献5に記載のメモリ装置では、プローブと強誘電体層との間に流れる微弱なトンネル電流を検知するのは困難であった。
【0018】
さらに、特許文献3、4及び6の技術でも、高記録密度で強誘電体層に記憶した情報を高速に読み取ることは検討されていなかった。
【0019】
そのため、従来の技術では、高記録密度で、強誘電体層に記憶した情報の高速読み込みが可能な記憶装置は得られなかった。
【0020】
本発明の一態様は、高記録密度で、強誘電体記録媒体に記憶された情報を高速で読み込むことが可能で、単位記憶容量における小型化と、エネルギー消費量の増大を抑えることができる強誘電体記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る強誘電体記録媒体の一態様は、基板の上に、電極層、強誘電体記録層、保護層をこの順に備える強誘電体記録媒体であって、前記強誘電体記録層は、強誘電体層を含み、前記強誘電体層を構成する材料が有する格子定数と、前記電極層又は前記基板を構成する材料が有する格子定数とが、±10%の範囲内で格子整合されている。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る強誘電体記憶媒体の一態様は、高記録密度で、強誘電体記録媒体に記憶された情報を高速で読み込むことが可能で、単位記憶容量における小型化と、エネルギー消費量の増大を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る強誘電体記録媒体の構成を示す部分断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る強誘電体記録媒体の斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る強誘電体記録媒体が情報記録装置のスピンドルシャフトに挿入された状態の一例を示す断面図である。
【
図4】導電性プローブの曲率半径と、電界強度との関係の一例を示す図である。
【
図5】強誘電体層の分極反転が導電性プローブ直下の中央部から周辺部へと広がっていく過程を模式的に示す説明図である。
【
図6】強誘電体記録媒体のデータ領域とサーボ情報領域を示す図である。
【
図7】従来の強誘電体記録媒体が情報記録装置のスピンドルシャフトに挿入した状態の一例を示す断面図である。
【
図9】ヘッドアッセンブリを下側から見たときの構成を示す斜視図である。
【
図10】プローブスライダーの構成の一例を示す断面図である。
【
図11】プローブスライダーの構成の別の一例を示す断面図である。
【
図13】
図11の他の方向から見た時に部分拡大断面図である。
【
図15】導電性プローブの構成を示す断面図である。
【
図16】導電性プローブの製造方法の一例を示す図である。
【
図17】導電性プローブの他の製造方法の一例を示す図である。
【
図18】導電性プローブの他の構成を示す斜視図である。
【
図19】導電性プローブの他の構成を示す斜視図である。
【
図20】導電性プローブの他の構成を示す断面図である。
【
図21】プローブスライダーの構成の一例を示す断面図である。
【
図22】導電性プローブの他の製造方法の一例を示す説明図である。
【
図23】導電性プローブの他の構成を示す断面図である。
【
図24】導電性プローブの他の製造方法の一例を示す説明図である。
【
図25】導電性プローブの変位を示す説明図である。
【
図26】強誘電体記録媒体駆動部の構成を示す断面図である。
【
図28】プローブスライダーの他の構成の一例を示す断面図である。
【
図29】従来の磁気ヘッドスライダーの構成の一例を示す説明図である。
【
図30】本発明の実施形態に係るデータ管理システムの構成を示す図である。
【
図31】外部記憶装置の構成の一例を示す図である。
【
図32】強誘電体記録媒体に保存されるデータの接続関係の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する。また、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。本明細書において数値範囲を示す「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0025】
<強誘電体記録媒体>
本発明の実施形態に係る強誘電体記録媒体について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る強誘電体記録媒体の構成を示す部分断面図であり、
図2は、本発明の実施形態に係る強誘電体記録媒体の斜視図であり、
図3は、本発明の実施形態に係る強誘電体記録媒体が情報記録装置のスピンドルシャフトに挿入された状態の一例を示す断面図である。
図1に示すように、強誘電体記録媒体10は、基板11、電極層12、強誘電体記録層13、保護層14及び潤滑剤層15を備え、基板11上に、電極層12、強誘電体記録層13、保護層14及び潤滑剤層15をこの順に積層している。強誘電体記録媒体10の表面(主面)101の近傍には、プローブスライダー16の強誘電体記録媒体10に対向する面側に取り付けられた導電性プローブ17が配置され、導電性プローブ17によって、強誘電体記録層13に含まれる強誘電体層131への情報の記録(書き込み)及び再生(読み出し)が行われる。
【0026】
図2に示すように、強誘電体記録媒体10は、主面の中心部分に開口部10aを有する円盤状(ディスク状)に形成されている。
図3に示すように、強誘電体記録媒体10の開口部10aには、強誘電体記録媒体10を回転させる強誘電体記録媒体駆動部のスピンドルシャフト18が挿入されることで、強誘電体記録媒体10がスピンドルシャフト18に固定される。
【0027】
強誘電体記録媒体10は、
図3に示すように、基板11の上下両面の上に、強誘電体記録層13(強誘電体層131、常誘電体層132)を有し、情報を基板11の上下両面に記録(両面記録)できるが、基板11の上面又は下面の一方の面のみに強誘電体記録層13を有し、情報を基板11の片面にのみ記録(片面記録)できるものでもよい。
【0028】
[基板]
基板11は、電極層12、強誘電体記録層13、保護層14及び潤滑剤層15を保持する機能を有する。
【0029】
基板11の電気的特性は特に限定されず、絶縁体、導電体のいずれであってもよい。
【0030】
絶縁体としては、例えば、ガラス、シリコン、酸化マグネシウム(MgO)、サファイア等を用いることができる。
【0031】
導電体としては、アルミニウム及びその合金、クロム、白金、金、銀、鉄等の金属材料、酸化インジウム(InO2)等の酸化物等を用いることができる。また、ドーピングにより導電性を付与したシリコンを用いることができる。
【0032】
基板11が導電体である場合には、基板11は電極層12としての機能を有することができる。そのため、基板11上に電極層12が配置されない場合には、基板11を構成する材料は、導電体であることが好ましい。
【0033】
基板11は、うねりが少なく、平滑性が高く、高速回転させた場合に生じるばたつき(フラッタリング)が小さいものであることが好ましい。
【0034】
基板11の厚さは、その目的を達成するものであれば特に限定されず、例えば、100μm~1mmが好ましい。
【0035】
基板11を構成する材料は、強誘電体層131との格子整合を考慮して、強誘電体層131を構成する材料が有する格子定数と、基板11を構成する材料が有する格子定数とを、±10%の範囲内で格子整合させることが好ましい。これにより、強誘電体層131の結晶性が高まり、強誘電体記録媒体の記録密度を高めることができる。
【0036】
また、基板11を構成する材料の結晶系と、強誘電体層131を構成する材料の結晶系を同じにするのが好ましく、また、基板11を構成する材料の結晶型と、強誘電体層131を構成する材料の結晶型を同じにするのが好ましい。この結晶系と結晶型は、どちらか一方が同じなら良いが、最も好ましくは、結晶系と結晶型の両者を同じにする。これにより、強誘電体層131の結晶性が高まり、強誘電体記録媒体の記録密度を高めることができる。
【0037】
ここで、結晶系には、結晶の対称性を定める分類により、三斜晶系、単斜晶系、直方晶系(斜方晶系)、正方晶系、六方晶系、立方晶系等があるので、基板11を構成する材料と強誘電体層131を構成する材料でこれを同じにすることが好ましい。
【0038】
また、結晶構造には、結晶の最密充填を基にする分類により、単純立方格子構造、面心立方格子構造、体心立方格子構造、六方最密充填構造、ダイヤモンド構造、白スズ型構造、グラファイト構造、A15型構造、塩化ナトリウム型構造、塩化セシウム型構造、閃亜鉛鉱型構造、ウルツ鉱型構造、ヒ化ニッケル型構造、一酸化鉛型構造、蛍石型構造、黄鉄鉱型構造、赤銅鉱型構造、ルチル型構造、ヨウ化カドミウム型構造、フッ化ビスマス型構造、酸化レニウム型構造、Ni4Mo型構造、Al4Ba型構造、ホウ化カルシウム型構造、CaCu5型構造、コランダム型構造、ペロブスカイト型構造、ウルマナイト型構造、スピネル型構造、リン酸銀型構造、CuAuI型構造、K4結晶構造等がある。基板11を構成する材料と強誘電体層131を構成する材料で結晶構造を同じにすることが好ましい。
【0039】
例えば、強誘電体層131に酸化ハフニウムを選択した場合、酸化ハフニウムは直方晶系、蛍石型構造であり、格子定数は、a軸が5.30Å、b軸が5.11Å、c軸が5.10Åである。しかしながら、酸化ハフニウムの結晶系は、安定相である単斜晶系から正方晶系さらに立方晶系と変化することが知られている。これらの結晶系では強誘電体性を示さないので、この立方晶系の酸化ハフニウムを熱処理等によって直方晶系に変化させ、強誘電体とすることが重要である。
【0040】
そのため、基板11を構成する材料は、その格子定数が±10%の範囲内で格子整合するように、4.6Å~5.8Åとし、結晶系は、直方晶系、単斜晶系、正方晶系、立方晶系の何れかとするのが好ましく、より好ましくは、直方晶系か立方晶系とする。また、結晶構造が蛍石型構造である材料を用いることが好ましい。このような材料として、例えば、シリコン、Ge、Pd、CeO2等がある。シリコンは、a軸、b軸及びc軸の格子定数が5.4Åであり、立方晶系である。Geは格子定数が5.7Åであり、立方晶系である。Pdは格子定数が5.0Åであり、立方晶系である。CeO2は格子定数が5.4Åであり、立方晶系である。
【0041】
[電極層]
電極層12は、基板11上に設けることができる。電極層12は、強誘電体記録層13の下側(導電性プローブ17側とは反対側)に設けて、強誘電体記録層13に対して情報の読み書きを行う導電性プローブ17の対向電極として機能することができる。
【0042】
電極層12を構成する材料は、強誘電体記録層13を構成する強誘電体層131との格子整合を考慮して、強誘電体層131と同一の結晶系及び結晶型の何れか一方又は両方とするのが好ましい。これにより、強誘電体層131の結晶性が高まり、強誘電体記録媒体の記録密度を高めることができる。
【0043】
電極層12を構成する材料が有する格子定数は、強誘電体層131を構成する材料が有する格子定数と±10%の範囲内で格子整合させるのが好ましい。これにより、強誘電体層131の結晶性が高まり、強誘電体記録媒体の記録密度を高めることができる。
【0044】
強誘電体層131は、単結晶膜であることが好ましい。
【0045】
電極層12を構成する材料は、強誘電体層131を構成する材料に応じて適宜選択でき、例えば、アルミニウム、クロム、白金、金、銀、鉄等の金属材料、InO2等の酸化物等を用いることができる。
【0046】
例えば、強誘電体層131に酸化ハフニウムを選択した場合は、前述のように、電極層12を構成する材料は、その格子定数が±10%の範囲内で格子整合するように、4.6Å~5.8Åとし、結晶系は、直方晶系、単斜晶系、正方晶系、立方晶系の何れかとするのが好ましく、より好ましくは、直方晶系か立方晶系とする。また、結晶構造が蛍石型構造である材料を用いることが好ましい。このような材料として、例えば、Ge、Pd等がある。Geは格子定数が5.7Åであり、立方晶系である。Pdは格子定数が5.0Åであり、立方晶系である。
【0047】
ここで、金属材料は、酸化物に比べて格子歪を緩和させやすいので、強誘電体層131と結晶系、結晶型、格子定数が相違しても、それにより生じた格子歪を緩和させやすい。その観点では、強誘電体層131の結晶性を高める効果は、電極層12より基板11の方が高くなる。
【0048】
電極層12は、電極層12を構成する材料を用いて、スパッタや蒸着等の任意の形成方法により、基板11上に導電性薄膜を形成することにより作製できる。
【0049】
電極層12の厚さは、その目的を達成するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、10nm~500nmが好ましい。
【0050】
[強誘電体記録層]
強誘電体記録層13は、電極層12の上面に設けられ、情報を記録する機能を有する。強誘電体記録層13は、強誘電体層131を含み、他の層を含んでもよい。
【0051】
強誘電体層131は、情報を記録する機能を有する。強誘電体層131は、強誘電性を示す強誘電体であれば特に限定されないが、電気的特性の点から、酸化物強誘電体が好ましい。
【0052】
酸化物強誘電体としては、例えば、チタン酸鉛(PbTiO3)、ジルコン酸鉛(PbZrO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、酸化ハフニウム(HfO2)等を挙げることができる。これらの中でも、特に、酸化ハフニウムを用いるのが好ましい。チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等の酸化物強誘電体は正方晶系ペロブスカイト型結晶構造であり、結晶構造が複雑で成膜温度も高い。一方、酸化ハフニウムは直方晶系(orthorhombic crystal system)蛍石型構造であり、2元系でペロブスカイト型結晶構造よりも単純な構造であるため、低い温度で成膜できる。
【0053】
強誘電体層131は、酸化ハフニウムを含む場合、添加物を含むか、酸化ハフニウムと二酸化ジルコニウム(ZrO2)の混晶(HfxZr1-xO2)を含むことが好ましい。
【0054】
強誘電体層131が、酸化ハフニウムと添加物を含む場合、添加物としては、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、ガドリニウム(Gd)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
添加物の含有量は、1原子%~20原子%の範囲内が好ましく、3原子%~17原子%の範囲内がより好ましく、5原子%~15原子%の範囲内が更に好ましい。添加物の含有量が、上記好ましい範囲内であれば、強誘電体層131の形成時の成膜の温度を低下させることができると共に、添加物の使用量を低減できる。
【0056】
添加物を酸化ハフニウムに添加する方法は、特に限定されず、適宜任意の方法を用いて含めることができる。
【0057】
強誘電体層131が酸化ハフニウムと二酸化ジルコニウムの混晶(HfxZr1-xO2)を含む場合、HfxZr1-xO2中のxは、0.3~0.6が好ましい。
【0058】
強誘電体層131は、好ましくは単結晶で構成するが、短距離秩序性を有するアモルファス構造を含んでもよい。強誘電体層131は、短距離秩序性を有するアモルファス構造のみで構成されてもよいし、単結晶領域を含んでもよい。短距離秩序性とは、アモルファス構造を構成する原子同士の短距離の秩序であり、具体的には、最近接原子数(最も近い原子の数)、原子間の結合距離、原子間の結合角等が秩序立った性質をいう。一方、長距離秩序性とは、結晶を構成する原子のうち、離れた位置にある原子同士の秩序であり、具体的には、最近接原子数、結合距離、結合角等が原子間距離をはるかに超えた範囲で規則性をもつことをいい、その構造を有する物質の総称が単結晶である。強誘電体層131は、短距離秩序性を有するアモルファス構造を含むと、アモルファス構造を含む領域において結晶格子歪による分極反転が生じて、情報を記録できる。また、アモルファス構造を含む領域は、結晶粒界及び格子欠陥を含まないため、アモルファス構造を形成している領域が広いほど強誘電体層131の記録領域が広くなる。
【0059】
強誘電体層131の短距離秩序性の長さは、2nm以下とするのが好ましい。短距離秩序性の長さとは、原子間の短距離の秩序性を有する領域の長さであり、強誘電体記録媒体面に対して、原子間の縦方向の長さと横方向の長さを意味する。短距離秩序性の長さは、短距離秩序性の縦横高さともいう。現在のハードディスクドライブ(HDD)のビットサイズは磁気記録媒体面において縦横10nm程度の長さであり、その領域は数個程度の磁性粒子で構成される。強誘電体記録媒体が磁気記録媒体より高い記録密度を有するためには、強誘電体記録媒体のビットサイズは磁気記録媒体のビットサイズより小さくする必要がある。強誘電体層131の1ビット領域内に数個程度の記録領域を含むためには、短距離秩序性を有する領域(即ち、磁気記録媒体に含まれる磁性粒子に相当する)の長さは2nm以下であることが好ましい。
【0060】
長さが2nm以下の短距離秩序性を有するアモルファス構造は、X線回折、電子顕微鏡観察、電子線回折等によって確認できる。即ち、このような構造は、電子顕微鏡観察で明瞭な結晶は確認できず、電子線回折ではハローパターンと呼ばれるぼやけた強度分布が得られる。また、X線回折においても、短距離秩序性を有する結晶面位置にハローパターンが得られる。そして、強誘電体層131を成膜温度以上(おおよそ成膜温度から+200℃)に加熱すると、そのハローパターンが鋭いピークを持つシグナルに変化する。これは、強誘電体層131で生じていた短距離秩序性が、基板加熱によって長距離秩序性へと変化するためである。
【0061】
アモルファス構造が有する短距離秩序性の格子定数と、基板11を構成する材料が有する格子定数とは、±10%の範囲内で格子整合させるのが好ましい。これにより、強誘電体層131の短距離秩序性が高められ、強誘電体記録媒体10の記録密度が高められる。
【0062】
強誘電体層131の膜厚は、合計で1nm~1000nmの範囲内で適宜選択される。強誘電体層131の膜厚が上記の範囲内であれば、強誘電体層131に分極反転を生じさせることができると共に、強誘電体層131を分極反転するために必要な電圧を抑えることができる。
【0063】
また、強誘電体層131の膜厚は、強誘電体層131に分極反転を生じさせつつ、その強誘電体層131の分極反転に必要な電圧をできる限り小さく抑える観点から、合計で1nm~30nmが好ましく、3nm~25nmがより好ましく、5nm~20nmがさらに好ましい。
【0064】
強誘電体層131の実際の膜厚は、次の観点から総合的に決定するのが好ましい。
【0065】
強誘電体記録媒体の記録密度の観点では、トラック方向のビット長さを例えば10nmとする場合は、強誘電体層131の膜厚はビット長の1倍~5倍である10nm~50nmとするのが好ましく、ビット長さを1nmとする場合は、膜厚を1nm~5nmとするのが好ましい。強誘電体層131における1ビットは、強誘電体の立体で構成されるため、その縦横高さの比率は経験上1倍から5倍の範囲内であると安定するからである。
【0066】
導電性プローブでの読み込み感度の観点では、読み込みにトンネル電流を用いる場合であり、読み込み感度を高めたい場合は、強誘電体層の膜厚は厚くし、読み込み感度を下げたい場合は、強誘電体層131の膜厚を薄くする。即ち、強誘電体は絶縁体でバンドギャップが大きいので、強誘電体層131の膜厚が厚くなるほどエネルギーバンドの障壁が大きくなり、トンネル電流は流れにくくなり、これを検知する導電性プローブの感度も高める必要がある。一方で、強誘電体層131の膜厚が薄くなると、トンネル電流は流れやすくなり、導電性プローブの感度を下げることができる。
【0067】
また、読み込みに原子間力を用いる場合は、強誘電体層131の膜厚が厚くなるほど強誘電体層131の電荷量も増えるので、これを検知する導電性プローブの読み込み感度は下げることができる。一方で、強誘電体層131の膜厚が薄くなると、強誘電体層131の電荷量も減少するので、導電性プローブの感度を高める必要がある。
【0068】
強誘電体層131のリーク電流の観点では、強誘電体層131の膜厚が厚くなるほど強誘電体層131の電荷量も増えるので、リーク電流の影響を低減することができるので、リフレッシュ(再書き込み)頻度を下げることができる。一方で、強誘電体層131の膜厚が薄くなると電荷量も減少するので、リーク電流の影響も高まり、リフレッシュ頻度は高まる。
【0069】
強誘電体層131の結晶性の観点では、強誘電体層131の膜厚が厚くなるほど結晶性が高まる傾向がある。
【0070】
強誘電体層131の成長表面の平滑性の観点では、強誘電体層131の膜厚が薄いほど平滑性が高まる傾向がある。
【0071】
強誘電体層131の形成方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、スパッタ法、CVD法、ゾルゲル法、レーザーアブレーション法等が挙げられる。これらの中でも、スパッタ法及びCVD法が好ましい。
【0072】
強誘電体記録層13の結晶性を高めるためには、成膜温度を500℃程度に高めるのが好ましい。しかし、成膜温度が500℃を超えると、強誘電体層131が多結晶化し易くなると共に、成長面も荒れ易くなる。また、使用できる基板11の種類も制限される。成膜方法として、スパッタ法及びCVD法を用いれば、成膜温度を抑えることができ、強誘電体層131の多結晶化を抑制すると共に、成長面の荒れを抑えることができる。
【0073】
強誘電体層131の形成方法として、スパッタ法を用いる場合には、スパッタ法の中でも、成膜領域のガス温度を下げつつ電子温度を高めるため、プラズマアシストを用いた、高周波スパッタ法及び反応性スパッタ法を用いるのが好ましい。強誘電体層131の形成方法として、CVD法を用いる場合には、プラズマCVD法、EACVD法及び有機金属CVD法(MOCVD法)を用いるのが特に好ましい。これにより、立方晶系の酸化ハフニウムを直方晶系に変化させやすくなる。
【0074】
強誘電体層131には、上述の通り、情報が記録される。強誘電体層131に情報を記録し、保持する原理は、以下の通りである。即ち、強誘電体層131を構成する強誘電体は、その抗電界を超える電界を印加することによって分極方向が変化する性質を有する。また、強誘電体は、電界の印加によって分極方向を変化させると、その後、電界の印加を止めても、その分極方向を維持する性質を有する(自発分極)。これらの性質を利用することで、情報を強誘電体層131に記録して保持できる。例えば、強誘電体層131の全体の分極方向を、強誘電体記録媒体10の表面と垂直の一方向に予め揃えておく。そして、強誘電体層131に、抗電界を超える電界を、強誘電体記録媒体10の表面と垂直な方向に、局所的に印加する。これにより、電界を印加した部分の分極方向が反転した後、電界の印加を止めても、当該分極方向は反転した状態が維持される。
【0075】
例えば、記録すべき情報が「0」及び「1」からなる2値のデジタルデータである場合には、ビット状態「0」を下向きの分極方向に対応させ、ビット状態「1」を上向きの分極方向に対応させる。この場合には、ビット状態「1」を記録するときに限り、強誘電体層131に電界を印加すればよい。このようにして、情報を強誘電体層131に記録し、保持することができる。
【0076】
一方、強誘電体層131に分極方向として記録された情報を再生する方法については後述する。
【0077】
強誘電体記録層13は、複数の強誘電体層131を積層して多層にしてもよい。
【0078】
強誘電体記録層13は、後述する強誘電体記憶装置により、強誘電体層131に3値以上含む多値の情報の記録(多値記録)が行われる、最も小さな1つの記録領域(以下、単に、「記録領域」ともいう場合がある。)を有するのが好ましい。記録領域の多値記録は、強誘電体記憶装置により、再生される。記録領域に記録される情報を多値とすることで、強誘電体層131の記録密度は高められる。
【0079】
多値記録とは、最も小さな1つの記録領域に3値以上の情報を記録する方式である。例えば、HDD等の磁気記録媒体の磁気記録層では、最も小さな1つの記録領域はN極かS極の2値の磁極で構成される。一方で、強誘電体記録層13の最も小さな1つの記録領域は3値以上で構成されるのが好ましい。
【0080】
強誘電体層131は分極により情報が記録される。例えば、強誘電体層131の表面側が正、裏面側が負に自発分極していたとする。この場合、この個所に対向させた導電性プローブ17の先端に一定強度以上の正の電界を発生させると、この個所を、表面側を負、裏面側を正に分極反転させることができる。
【0081】
導電性プローブ17には、一般に針状の先鋭化された導電性電極が用いられる。針状電極の先端部の曲率半径rと、その先端の空間に生ずる電界強度Eとの関係の一例を
図4に示す。
図4に示すように、針状電極の先端部の曲率半径rとその先端の空間に生ずる電界強度Eとは反比例し、曲率半径rが小さくなるほど電界強度Eは大きくなる。導電性プローブ17は、通常は錐形でその先端部は微視的には球面で、最先端部のrが最も小さく、その周辺はrが少しずつ大きくなるので、導電性プローブ17の先端部直下で電界強度Eは最も高くなり、その周辺に行くに従って電界強度Eは低くなる。そのため、導電性プローブ17への印加電圧を徐々に高めると、強誘電体層131の分極反転は導電性プローブ17の直下の中央部から周辺部へと広がっていく。
【0082】
図5は、強誘電体記録層が分極反転する過程を模式的に示す説明図である。
図5に示すように、正に自発分極した強誘電体層131の表面に、非接触の状態で導電性プローブ17を対向させる(
図5(a)参照)。この導電性プローブ17に正電圧を印加し、その印加電圧によって先端部の空間に生ずる電界強度が強誘電体層131の分極反転電位を超えると、先ず導電性プローブ17の直下が負に分極反転する(
図5(b)参照)。そして、さらに印加電圧を高めていくと、負への分極反転が導電性プローブ17の直下から周辺部へと進行する(
図5(c)及び
図5(d)参照)。
【0083】
ここで、
図5で示される5つの連なる帯電位置を、最も小さな1つの記録領域とする。この場合、この1つの記録領域内の正電荷の数は、
図5(a)では5個、
図5(b)では4個、
図5(c)では2個、
図5(d)ではゼロとなる。この正電荷の数により、4値の多値情報が記録される。この最も小さな1つの記録領域への多値情報の書き込みは、強誘電体記憶装置における最も簡素な1回の書き込み操作によって行われる。
【0084】
強誘電体層131に多値記録された情報(多値情報)は、強誘電体記憶装置により読み込まれて再生される。この多値情報の再生(読み込み)は、強誘電体記憶装置における最も簡素な1回の読み込み操作によって行われる。
【0085】
強誘電体層131に記録された情報を再生する方法としては、例えば、強誘電体層131の分極方向によって強誘電体層131の誘電率が異なることを利用する方法、導電性プローブ17と電極層12との間に流れる微弱なトンネル電流を検出する方法、導電性プローブ17と強誘電体層131との間の原子間力を検出する方法等がある。何れの方法も、強誘電体層131の最も小さな1つの記録領域の帯電量から、多値記録された情報を再生することができる。
【0086】
即ち、強誘電体層131の分極方向によって強誘電体層131の誘電率が異なることを利用する方法を採用する場合では、1つの記録領域内の正電荷量と負電荷量の差が大きいほど誘電率差も大きくなる。
【0087】
導電性プローブ17と電極層12との間に流れる微弱なトンネル電流を検出する方法を採用する場合では、強誘電体層131のトンネル障壁は分極方向、分極量に応じて変化する。電極層12から注入されるトンネル電流も変化し、この変化量を検知することで、強誘電体記録媒体10に多値記録された情報を再生できる。
【0088】
導電性プローブ17と強誘電体層131との間の原子間力を検出する方法を採用する場合では、強誘電体層131の分極方向及び分極量に応じて、強誘電体層131と導電性プローブ17との間の電気力(マクスウェル応力)は変動する。この変化量を原子間力と共に検知することで、強誘電体記録媒体10に多値記録された情報を再生できる。
【0089】
強誘電体記憶装置では、導電性プローブ17と強誘電体記録媒体10との強誘電体記録媒体10におけるトラック方向における相対位置を検出するための位置情報(「サーボ情報」ともいう)が、強誘電体層131に記録されていることが好ましい。この場合、強誘電体層131には、サーボ情報を記録したサーボ情報領域と、データの記録再生を行うデータ領域が、トラックの周方向に対して一定の間隔で交互に並んでいることが好ましい。これにより、導電性プローブ17は、記録されたデータの再生中、サーボ情報により導電性プローブ17の位置を検出できる。
【0090】
図6は、強誘電体層131のデータ領域とサーボ情報領域を示す図であり、
図6(a)は、強誘電体層131の平面図であり、
図6(b)は、
図6(a)の長方形の領域Aの拡大図である。
図6(a)及び
図6(b)に示すように、強誘電体層131は、円盤状の電極層12の一方の表面に、データ領域131Aとサーボ情報領域131Bとを備えてよい。なお、
図6(a)においては、中心から放射状に延びる線で示された領域がサーボ情報領域131Bであり、放射状の線同士の間の領域がデータ領域131Aである。
図6(b)に示すように、データ領域131Aは、円環状の規則的な形状となっている。
【0091】
図6(b)に示すように、サーボ情報領域131Bは、バースト情報領域131B-1、アドレス情報領域131B-2、プリアンブル情報領域131B-3及び基準信号情報131B-4を含む。なお、
図6(b)において、導電性プローブ17は図の左から右に走行する場合を例とするが、バースト情報領域131B-1、アドレス情報領域131B-2、プリアンブル情報領域131B-3及び基準信号情報131B-4を設ける順番は適宜変更してもよい。
【0092】
バースト情報領域131B-1は、導電性プローブ17を記録トラックの中央に位置付けさせるためのバースト情報等を記録する。
【0093】
アドレス情報領域131B-2は、データ領域131Aの番地を示すトラック情報(半径方向の情報)及びセクター情報(円周方向の情報)を含むアドレス情報を記録する。
【0094】
プリアンブル情報領域131B-3及び基準信号情報131B-4は、記録トラック内でデータ領域131Aからサーボ情報領域131Bに移る箇所の識別に用いられるプリアンブル情報を記録する。
【0095】
図6(a)に示す強誘電体層131では、表面上を円周方向に移動する導電性プローブ17が、プリアンブル情報領域131B-3のプリアンブル情報を読み込んでアドレス情報を読み込む準備をする。そして、導電性プローブ17は、アドレス情報領域131B-2において、データ領域131Aのアドレス情報を読み込み、バースト情報領域131B-1のバースト情報を読み込んでトラック位置(半径位置)の微調整を行う。その後、導電性プローブ17は、データ領域131Aにおいて情報の記録及び再生を行うことができる。
【0096】
サーボ情報領域131Bは、多値記録された情報の信号レベルの基準を示す基準信号情報131B-4を含むことが好ましい。基準信号情報131B-4は、例えば、
図5の4値記録では、
図5(a)、
図5(b)、
図5(c)及び
図5(d)の4種の電荷量を記録したものでよい。また、基準信号情報131B-4は、
図5(a)及び
図5(d)の2種の電荷量を記録し、
図5(b)及び
図5(c)は、
図5(a)及び
図5(d)の信号レベルの差の1/3又は2/3としてもよい。
【0097】
導電性プローブ17によりサーボ情報領域131B内の基準信号情報131B-4が読み込まれることで、多値記録の信号レベルが把握され、その把握した信号レベルを用いてデータ領域131Aに記録された多値情報が再生される。
【0098】
図1に示すように、強誘電体記録層13は、常誘電体層132を含むことが好ましい。
【0099】
常誘電体層132は、強誘電体記録層13の電極層12側に設けられ、強誘電体層131と電極層12との間に設けるのが好ましい。
【0100】
強誘電体記録層13が強誘電体層131のみの単層で構成される場合、強誘電体層131は電極層12に接して設けることとなるが、その場合、分極した強誘電体層131の電荷が電極層12に漏れ出て、強誘電体層131に記録した情報が消失する可能性がある。
【0101】
特に、強誘電体層131の成長初期の領域、即ち電極層12との界面付近の領域は成膜時に結晶性が悪化し易く、例えば、多結晶又はアモルファス構造となり易い。そのため、この多結晶又はアモルファス構造の箇所から電極層12に電荷が漏洩(リーク)し易くなる。即ち、強誘電体層131の界面付近に形成されるアモルファス構造部分は、長距離秩序性に加え短距離秩序性もない完全なアモルファスであるため、多結晶体の粒界部分と同様に電荷のリークを生じさせるからである。
【0102】
強誘電体層131と電極層12との間に絶縁性の常誘電体層132が設けられることで、強誘電体層131からの電荷のリークを抑制できる。
【0103】
また、強誘電体層131と電極層12との間に絶縁性の常誘電体層132が設けられることで、強誘電体層131からのトンネル電流を増加させる効果がある。
【0104】
強誘電体は、絶縁体でバンドギャップが大きいのでトンネル電流は流れ難い。しかしながら、強誘電体を薄膜とすることで、トンネル障壁を小さくし、かつ導電体である電極層との接合構造を形成することで、接合部での電子状態から、微弱なトンネル電流を流すことができる。さらにこの接合部に常誘電体層を加え、強誘電体、常誘電体及び導電体をこの順に接合した接合構造にすると、強誘電体と常誘電体の界面部では電荷によってトンネル障壁を下げる方向のバンドベンディングが生じ、トンネル電流はさらに流れ易くなる。
【0105】
常誘電体層132としては、公知の材料を常誘電体として使用できる。常誘電体としては、例えば、酸化物、窒化物、炭化物、ホウ化物、ケイ化物を用いるのが好ましい。これらは一種単独で用いてもよし、2種以上を併用してもよい。
【0106】
酸化物としては、アルミナ、ジルコニア、イットリウム安定化ジルコニア、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化セリウム、酸化チタン、酸化鉛、酸化イットリウム、酸化バリウム、酸化クロム、酸化鉄、酸化ランタン等が挙げられる。
【0107】
窒化物としては、窒化チタン、窒化珪素、窒化クロム、窒化アルミ等が挙げられる。
【0108】
炭化物としては、炭化チタン、炭化タングステン、炭化ホウ素、炭化珪素、炭化クロム等が挙げられる。
【0109】
ホウ化物としては、ホウ化チタン、ホウ化鉄、ホウ化ネオジウム等が挙げられる。
【0110】
ケイ化物としては、ケイ化モリブデン等が挙げられる。
【0111】
また、常誘電体層132を構成する常誘電体は、基板11、電極層12と同様、強誘電体層131との格子整合を考慮して、強誘電体層131と同一の結晶系及び同一の結晶構造の何れか一方又は両方を有するものを用いることが好ましい。
【0112】
常誘電体層132を構成する常誘電体が有する格子定数は、基板11、電極層12と同様、強誘電体層131を構成する強誘電体が有する格子定数と±10%の範囲内で格子整合させることが好ましい。これにより、常誘電体層132の上に強誘電体層131が成長しやすくなり、強誘電体層131の結晶性を高めることができる。
【0113】
例えば、強誘電体層131に酸化ハフニウムを選択した場合、上述のように、常誘電体層132を構成する材料は、その格子定数が±10%の範囲内で格子整合するように、4.6Å~5.8Åとすることが好ましい。結晶系は、直方晶系、単斜晶系、正方晶系及び立方晶系の何れかとするのが好ましく、より好ましくは、直方晶系又は立方晶系とする。また、結晶構造が蛍石型構造である材料を用いることが好ましい。
【0114】
このような材料として、例えば、酸化セリウム(立方晶系、蛍石型構造、格子定数5.4Å)、シリコン(立方晶系、ダイヤモンド型構造、格子定数5.4Å)、10(Y2O3)-90(ZrO2)(立方晶系、蛍石型構造、格子定数5.1Å)、酸化アルミニウム(三方晶系、コランダム型構造、格子定数4.8Å)、酸化チタン(正方晶系、ルチル型構造、格子定数4.6Å)等がある。
【0115】
常誘電体層132が強誘電体層131との格子整合により強誘電体層131の結晶性を高める効果は、基板11によるものと同程度に高く、また電極層12によるものより高い。また、前述のように、強誘電体層131と常誘電体層132の界面部では、トンネル障壁を下げる方向のバンドベンディングが生ずるが、このバンドベンディングは界面部の格子歪に強く影響を受ける。すなわち、格子歪は界面部のエネルギーを増大させるため、この増大したエネルギーが前述のバンドベンディングによるエネルギー状態を覆い隠す場合がある。そのため、導電性プローブ26と強誘電体層131との間に流れる微弱なトンネル電流を検知するためには、常誘電体層132と強誘電体層131との格子整合性を高め、格子歪に起因するエネルギー上昇を低減することが重要となる。
【0116】
常誘電体層132の膜厚は、1nm~100nmが好ましく、強誘電体層131からの電荷の漏れを抑制する観点から、5nm~50nmがより好ましい。
【0117】
常誘電体層132の膜厚が上記の好ましい範囲内であれば、強誘電体層131に分極反転を生じさせることができると共に、強誘電体層131からの電荷の漏れを抑制し、強誘電体層131から電荷が外部にリークすることを抑制できる。また、常誘電体層132の膜厚が上記の好ましい範囲内であれば、トンネル電流を流れ易くすることができるので、トンネル電流を増加させることができる。
【0118】
また、強誘電体層131と電極層12との距離の拡がりが抑えられるため、強誘電体層131を分極反転するために必要な電圧を抑えることができる。そのため、強誘電体記録層13の膜厚の増大を抑えつつ、強誘電体層131を分極反転するために必要な電圧の増大を抑えることができる。
【0119】
また、強誘電体層131からのトンネル電流を増加させる観点から、常誘電体層132の膜厚は、1nm~30nmが好ましく、強誘電体層131の膜厚と同程度であることがより好ましい。この場合、強誘電体層131の膜厚も、合計で1nm~30nmであることが好ましい。常誘電体層132の膜厚は強誘電体層131の合計の膜厚と等しいことが好ましい。常誘電体層132の膜厚と、強誘電体層131の合計の膜厚とに差が設けられる場合は、常誘電体層132は、強誘電体層131の合計の膜厚よりも薄いことが好ましく、常誘電体層132の膜厚と、強誘電体層131の合計の膜厚との差は10nm以下であることが好ましい。
【0120】
[保護層]
保護層14は、強誘電体記録層13の上面に設けられている。保護層14は、強誘電体記録層13を外部から保護する機能を有し、強誘電体記録媒体10が導電性プローブ17と接触等しても、強誘電体記録層13が損傷するのを低減できる。
【0121】
保護層14は、強誘電体記録層13の情報の記録及び再生機能を害さないために、絶縁性であり、誘電率の低い材料を用いるのが好ましい。
【0122】
保護層14の材料としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等の酸化物、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物、炭化ケイ素、炭化ホウ素等の炭化物、ダイヤモンド状炭素膜、高分子絶縁材料等が使用可能である。強誘電体記録層を保護し、その耐久性低下を抑制する観点から、硬度が高い材料が好ましい。
【0123】
保護層14の厚さは、0.5nm以上が好ましい。一方、強誘電体層131の強誘電体が分極反転するために要する電圧を考慮すると、保護層14の厚さは50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましく、20nm以下が更に好ましい。
【0124】
図3に示すように、強誘電体記録媒体10は、開口部10aの周辺に強誘電体記録層13(強誘電体層131、常誘電体層132)及び保護層14を有さないことが好ましい。即ち、強誘電体記録層13及び保護層14は、強誘電体記録媒体10の中央の開口部10a及びその周辺以外の領域に設けられることが好ましい。なお、開口部10aの周辺とは、基板11の大きさ、開口部10aの大きさ等によるが、開口部10aの内周から10mm程度の長さの範囲をいう。強誘電体記録層13及び保護層14は、開口部10a及びその周辺以外の領域に設けられることで、強誘電体記録層13及び保護層14がスピンドルシャフト18と接することがなくなり、強誘電体層131の電荷が保護層14を通してスピンドルシャフト18に漏れることを抑制できる。
【0125】
強誘電体記録媒体10は、基板11及び電極層12の両表面に強誘電体記録層13、保護層14及び潤滑剤層15を積層した構造を有する。この強誘電体記録媒体10を取り付けるスピンドルシャフト18は、円柱状で上部に径を小さくした段差があり、その段差に強誘電体記録媒体10を設け、その上に取り付け金具19を載せてスピンドルシャフト18にねじ止めすることで、強誘電体記録媒体10はスピンドルシャフト18に固定される。強誘電体記録媒体10をスピンドルシャフト18に固定する個所において強誘電体記録層13、保護層14及び潤滑剤層15を設けておらず、基板11とスピンドルシャフト18が直接接している。そして、スピンドルシャフト18は基板11を介して強誘電体層131とつながり、強誘電体層131に対して情報の読み書きを行う回路の一部を構成する。
【0126】
例えば、
図7に示すように、基板11の全面に電極層12、強誘電体層131及び保護層14が設けられた強誘電体記録媒体をスピンドルシャフト18に取り付けた場合、強誘電体層131は絶縁性を有するため、強誘電体層131がスピンドルシャフト18と接しても、強誘電体記録媒体10への情報の読み書きができない。しかしながら、強誘電体記録層13と保護層14は薄いため、スピンドルシャフト18の取り付け面181の凸部181aを強誘電体層131及び保護層14を貫通して電極層12に食い込ませることで、基板11とスピンドルシャフト18との導通を取ることで、基板11と導通を取ることが可能である。
【0127】
強誘電体記録媒体10を強誘電体記憶装置に設置して長期間使用していると、強誘電体記憶装置の装置内部の水分や汚れの影響で保護層14が劣化して、保護層14の絶縁性が低下し、強誘電体記録層13を構成する強誘電体層131の電荷が漏れる可能性がある。また、強誘電体記録層13は保護層14に覆われているため劣化の程度は少ないが、強誘電体記録層13も保護層14と同様に劣化して、強誘電体層131から電荷が漏れる可能性がある。本実施形態では、
図3に示すように、強誘電体記録層13及び保護層14は、強誘電体記録媒体10の開口部10a及びその周辺領域以外の領域に形成することで、保護層14からスピンドルシャフト18へ強誘電体記録層13の電荷が漏れることを防ぐことができる。
【0128】
図1に示すように、潤滑剤層15は、保護層14の表面に、導電性プローブ17との接触による磨耗を抑制するために設けてもよい。
【0129】
潤滑剤層15に用いる潤滑剤としては、ステアリン酸等の飽和脂肪酸、フタロシアニン等の染料、パーフルオロポリエーテル(PFPE)等のフッ素系樹脂等、特にPFPE等のフッ素系樹脂が、潤滑性が良く好ましい。
【0130】
潤滑剤層15は、強誘電体記録層13の情報の記録及び再生機能を害さないために、絶縁性で、誘電率の低い材料を用いるのが好ましい。
【0131】
このように、本実施形態に係る強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131を構成する材料が有する格子定数と電極層12を構成する材料が有する格子定数とを±10%の範囲内で格子整合させることができる。これにより、強誘電体層131を構成する強誘電体の結晶性を高めることができる。そして、強誘電体層131に含まれる強誘電体は単結晶となり、結晶粒界をなくすことで、結晶粒界の影響を小さくすることができる。強誘電体層131に含まれる強誘電体の分極反転は結晶格子歪により生ずるので、強誘電体層131に含まれる強誘電体が単結晶となることで、強誘電体層131において強誘電体の分極反転が生ずる領域を増やすことができる。よって、強誘電体記録媒体10は、高い記録密度を有することができる。
【0132】
また、強誘電体記録媒体10は、基板11が導電体である場合、基板11は導電性を有するため、電極を兼ねることができる。この場合、基板11は電極層12としての機能を発揮でき、電極層12は不要となる。そのため、強誘電体記録媒体10は、基板11上に電極層12を備えずに、強誘電体層131を構成する材料が有する格子定数と基板11を構成する材料が有する格子定数とを±10%の範囲内で格子整合させることができる。よって、強誘電体記録媒体10は、上述と同様に、強誘電体層131において強誘電体の分極反転が生ずる領域を増やすことができるため、高い記録密度を有することができる。
【0133】
強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131を単結晶膜とすることもできる。これにより、強誘電体層131の結晶粒界をなくすことができるため、強誘電体記録媒体10の1枚当たりの記録容量をさらに高めることができる。
【0134】
強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131を含み、強誘電体層131が短距離秩序性を有するアモルファス構造を有し、短距離秩序性の長さを2nm以下とし、アモルファス構造が有する格子定数と、基板11を構成する材料が有する格子定数とを、±10%の範囲内で格子整合させることができる。強誘電体層131は、短距離秩序性を有するアモルファス構造を有することで、短距離秩序性を有する領域で結晶格子歪による分極反転を生じさせることができると共に、結晶粒界を低減できる。そのため、強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131の広い領域を記録領域にすることができる。また、強誘電体層131の短距離秩序性の長さを2nm以下とすることで、記憶領域を増やすことができるため、記録密度を高めることができる。よって、強誘電体記録媒体10は、高い記録密度を有することができる。
【0135】
また、強誘電体層131が、短距離秩序性を有するアモルファス構造を有する場合、強誘電体層131が単結晶膜で形成されている場合に比べ、強誘電体層131の成膜温度を更に下げることができる。これにより、強誘電体層131の成長面が平滑となるため、強誘電体記録媒体10の表面を平滑にできる。よって、強誘電体記録媒体10は、導電性プローブ17とのスペーシングロスを低下できるため、記録密度をより高めることができる。
【0136】
また、強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131が、短距離秩序性を有するアモルファス構造を有することで、強誘電体層131の成膜温度を更に下げることができるため、使用できる基板11の種類も増やすことができる。
【0137】
強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131を、短距離秩序性を有するアモルファス構造を含むことで、強誘電体層131を薄膜化し易くすることができるため、強誘電体層131は平滑な表面を容易に形成できる。よって、強誘電体記録媒体10は、その平滑性を高めることができる。
【0138】
さらに、強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131を、短距離秩序性を有するアモルファス構造を含むことで、強誘電体層131の結晶粒界を減らすことができるため、強誘電体記録媒体10の1枚当たりの記録容量を高めることができる。
【0139】
強誘電体記録媒体10は、基板11がシリコンを有し、強誘電体層131が酸化ハフニウムを有することができる。基板11と強誘電体層131の格子整合性が高まり、強誘電体層131の結晶性を高めることができる。よって、強誘電体記録媒体10は、より高い記録密度を確実に有することができる。
【0140】
強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131を、酸化ハフニウムに、シリコン、アルミニウム、ガドリニウム、イットリウム、ランタン及びストロンチウムからなる群から選択される1種以上の添加物を含む混合物、又は、酸化ハフニウムと二酸化ジルコニウムの混晶(HfxZr1-xO2)(xは、0.3~0.6である。)で形成できる。これにより、強誘電体層131は、酸化ハフニウムを含む、上記混合物又は混晶に形成されることで、強誘電体層131を基板11の上に形成する際、成膜温度を下げることができるため、強誘電体層131を基板11の上に低温で形成できる。一般に、強誘電体層131の形成時の温度が高いほど多結晶化し易くなる。本実施形態では、強誘電体は単結晶の領域を増やすことができるため、強誘電体層131の単結晶の領域の増大をより図ることができる。よって、強誘電体記録媒体10は、より高い記録容量を有することができる。
【0141】
また、強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131を単結晶の領域を増やすことで、より薄膜化し易くなり、強誘電体層131は平滑な表面をより広範囲に形成できるため、強誘電体層131の平滑性をより高めることができる。
【0142】
強誘電体記録媒体10は、添加物の含有量を1原子%~20原子%の範囲内にできる。これにより、強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131の強誘電性を高めることができる。
【0143】
強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131の膜厚を5nm~1000nmにできる。これにより、強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131に含まれる強誘電体に分極反転を生じさせることができると共に、強誘電体の分極反転に要する電圧を抑えることができるため、強誘電体層131に加わる負担を軽減できる。
【0144】
強誘電体記録媒体10は、強誘電体記録層13と電極層12との間に常誘電体層132を備え、常誘電体層132に、酸化物、窒化物、炭化物、ホウ化物及びケイ化物からなる群から選択される1種以上の常誘電体を含むことができる。強誘電体層131の形成時では、成長初期領域、即ち電極層12との界面付近の領域は多結晶又はアモルファスであり、膜厚の成長方向に行くに従って結晶性が高くなり、最終的に表面は単結晶化している。そのため、強誘電体層131の電荷は、界面付近の多結晶又はアモルファス領域から基板11側にリークし易い。常誘電体層132は、強誘電体層131の電荷が基板11に漏洩することを抑制できる。よって、強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131から電荷がリークすることを抑制できるため、強誘電体層131に記録した情報の消失を抑制できる。
【0145】
また、強誘電体記録媒体10は、常誘電体層132を構成する材料が有する格子定数を、強誘電体層131を構成する材料が有する格子定数の±10%の範囲内で格子整合させることができる。これにより、強誘電体層131の結晶性をより高め、強誘電体層131からの電荷のリークをより抑制できる。
【0146】
さらに、強誘電体記録媒体10は、常誘電体層132の膜厚を1nm~100nmにできる。これにより、強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131に分極反転を生じさせつつ、強誘電体層131からの電荷のリークの抑制効果をより高めることができる。
【0147】
強誘電体記録媒体10は、常誘電体層132の膜厚を1nm~30nmとし、強誘電体層131の膜厚を1nm~30nmとし、常誘電体層132と強誘電体層131の膜厚を略等しいか常誘電体層132の膜厚を強誘電体層131の合計の膜厚よりも薄くし、常誘電体層132と強誘電体層131の膜厚の差を10nm以下にできる。これにより、強誘電体記録媒体10は、強誘電体記憶装置に適用した際、導電性プローブ17と強誘電体層131との間に流れる微弱なトンネル電流を増加させることができる。
【0148】
強誘電体記録媒体10は、基板11の中央部に開口部10aを有し、開口部10a及びその周辺以外の領域に保護層14を設けることができる。保護層14がスピンドルシャフト18と接することがなくなるため、保護層14が経時的に劣化しても、強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131の電荷が保護層14を通してスピンドルシャフト18に漏れることを抑制できる。よって、強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131からの電荷のリークを抑制できるため、強誘電体層131に記録した情報の消失を抑制でき、保護層14の経時的な劣化による悪影響を抑制できる。
【0149】
また、強誘電体記録媒体10は、開口部10a及びその周辺以外の領域に強誘電体記録層13を設けることができる。これにより、強誘電体記録層13がスピンドルシャフト18と接することがなくなるため、強誘電体記録層13及び保護層14が経時的に劣化しても、強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131の電荷が強誘電体記録層13及び保護層14を通してスピンドルシャフト18に漏れることを抑制できる。よって、強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131からの電荷のリークをより確実に抑制できるため、強誘電体層131に記録した情報の消失をより安定して抑制でき、強誘電体記録層13及び保護層14の経時的な劣化による悪影響をさらに効果的に抑制できる。
【0150】
<強誘電体記憶装置>
本実施形態に係る強誘電体記録媒体10を備える強誘電体記憶装置について説明する。強誘電体記憶装置は、強誘電体記録媒体として、上述の強誘電体記録媒体10を備える。
図8は、強誘電体記憶装置を示す斜視図である。
図8に示すように、強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10、ヘッドアッセンブリ20、強誘電体記録媒体駆動部30、プローブ駆動部40、不図示の制御部及び記録再生信号処理部50を備え、これらを筐体60内に備えている。なお、強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10を複数枚備えてもよい。強誘電体記録媒体10は、上述の本実施形態に係る強誘電体記録媒体が適用されるため、詳細は省略する。
【0151】
[ヘッドアッセンブリ]
図8に示すように、ヘッドアッセンブリ20は、強誘電体記憶装置100内の固定軸に固定され、アクチュエータアーム21、サスペンションアーム22、及びプローブスライダー23を備える。
【0152】
図9は、ヘッドアッセンブリ20を下側から見たときの構成を示す斜視図である。
図9に示すように、サスペンションアーム22には、信号の書き込み及び読み取り用のリード線24が配線されている。リード線の一端はプローブスライダー23に組み込まれた導電性プローブ26に電気的に接続され、他端は電極パッド25に接続されている。
【0153】
図8に示すように、アクチュエータアーム21は、一方の端部側に強誘電体記憶装置100の固定軸に固定されるための穴を有し、先端側にサスペンションアーム22が接続される。
【0154】
図8に示すように、サスペンションアーム22は、その一方の端部にアクチュエータアーム21が接続され、先端にはプローブスライダー23が取り付けられている。
【0155】
(プローブスライダー)
図8に示すように、プローブスライダー23は、サスペンションアーム22の先端に設けられている。
【0156】
図10は、プローブスライダー23の構成の一例を示す断面図である。なお、
図10中の矢印のうち、+X軸方向及び-X軸方向が強誘電体記録媒体10のセクター方向であり、+Y軸方向及び-Y軸方向が強誘電体記録媒体10のトラック方向であり、Z軸方向が強誘電体記録媒体10の記録面と対向する方向である。
図10に示すように、プローブスライダー23は、先端部に、導電性プローブ26を備えている。
【0157】
また、
図11は、プローブスライダー23の構成の別の一例を示す断面図である。なお、
図11中の矢印の方向は、
図10と同様である。
【0158】
図11に示すように、プローブスライダー23は、先端部に、導電性プローブ26と、プローブスライダー23と導電性プローブ26との間に設けられた圧電素子27を備えてよい。圧電素子27は、第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bを有する。第1の圧電素子27Aは導電性プローブ26を+Z軸方向及び-Z軸方向に駆動し、第2の圧電素子27Bは導電性プローブ26を+Y軸方向及び-Y軸方向に駆動する。なお、圧電素子27は、第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bの他に、後述を第3の圧電素子27C及び第4の圧電素子27Dを有してもよい。
【0159】
図12は、
図11の部分拡大断面図であり、
図13は、
図11の他の方向から見た時に部分拡大断面図であり、
図14は、
図11の下面から見た時の部分拡大図である。
図12~
図14に示すように、導電性プローブ26と第1の圧電素子27Aとの間には電極28A-1が設けられ、第1の圧電素子27Aと第2の圧電素子27Bとの間には電極28A-2が設けられている。電極28A-1と電極28A-2は第1の圧電素子27AのZ軸方向の上下両面に第1の圧電素子27Aを挟んで対をなしている。
【0160】
また、プローブスライダー23と電極28A-2との間には、第2の圧電素子27Bが設けられ、第2の圧電素子27BのY軸方向の側面には、電極28B-1と電極28B-2が設けられている。電極28B-1は第2の圧電素子27Bの+Y軸方向面に設けられ、電極28B-2は第2の圧電素子27Bの-Y軸方向面に設けられ、電極28B-1と電極28B-2は第2の圧電素子27Bを挟んで対をなしている。
【0161】
電極28A-2は配線L11が連結され、電極28B-1には配線L12が連結され、電極28B-2は配線L21が連結され、電極28A-1には配線L22が連結されている。電極28A-1、28A-2、28B-1及び28B-2は、それぞれ、配線により、プローブスライダー23の下面の、電極28A-2よりもY軸方向の外側に設けられている電極パッド28Cに連結されている。
【0162】
ここで、電極28A-2は第1の圧電素子27Aを分極させるのに用いられるが、一方で第2の圧電素子27Bとも接するため、第2の圧電素子27Bを分極させる場合がある。これを防ぐため、電極28A-2と第2の圧電素子27Bとの間に誘電率の低い絶縁層を設けるのが好ましく、その際の誘電率は第2の圧電素子27Bの誘電率の1/100以下とするのが好ましい。
【0163】
また、圧電効果には圧電縦効果、圧電横効果、圧電厚みすべり効果があるところ、
図12及び
図13に示す電極位置は、第1の圧電素子27A、第2の圧電素子27Bと共に圧電縦効果を用いるものであるが、他の効果を用いる場合は各電極を圧電素子の別の面に設けることができる。
【0164】
また、第1の圧電素子27Aを+Z軸方向又は-Z軸方向に駆動すると、第1の圧電素子27Aは圧電横効果により+Y軸方向又は-Y軸方向にも変位することになる。この第1の圧電素子27Aの+Y軸方向又は-Y軸方向の変位は、第2の圧電素子27Bを+Y軸方向又は-Y軸方向に駆動するによって補償するのが好ましい。
【0165】
(導電性プローブ)
導電性プローブ26は、強誘電体記録媒体10の強誘電体記録層13に対して情報の記録及び再生を行う機能を有する。導電性プローブ26は、走査型トンネル顕微鏡(STM)や原子間力顕微鏡(AFM)等の走査型プローブ顕微鏡に用いられる針状の導電性電極である。
【0166】
図11に示すように、導電性プローブ26は、第2の圧電素子27Bの下面に電極28A-1を介して設けられており、第2の圧電素子27Bの下面の中央から強誘電体記録媒体10のトラック方向(+Y軸方向又は-Y軸方向)側にずらした位置に設けるのが好ましい。例えば、
図14に示すように、導電性プローブ26は、第2の圧電素子27Bの下面の中央よりも+Y軸方向側に位置する電極28B-2側に設けるのが好ましい。または、
図14とは異なるが、導電性プローブ26は、第2の圧電素子27Bの下面の中央よりも-Y軸方向側に位置する電極28B-1側に設けられてもよい。
【0167】
導電性プローブ26は、強誘電体記録媒体10の表面で浮上走行させる。強誘電体記録媒体10への情報の記録や再生は、HDDのように記録媒体を高速で回転させ、それによって記録媒体表面に生じた気流でプローブスライダー23を浮上させ、そのプローブスライダー23に取り付けた導電性プローブ26で情報の記録や再生を行うのが好ましい。即ち、プローブスライダー23に針状の導電性プローブ26を取り付け、このプローブスライダー23を強誘電体記録媒体10の表面にナノレベルで浮上走行させることで、針状の導電性プローブ26を強誘電体記録媒体10の表面の極めて近い位置に接近させて情報の記録再生を行う。
【0168】
導電性プローブ26を形成する材料としては、例えば、タングステン、モリブデン、白金等の金属を用いることができる。
【0169】
図15は、導電性プローブ26の構成を示す断面図である。
図15に示すように、導電性プローブ26は、例えば、圧電素子27に設けられる基体261と、基体261の上に形成され、先鋭化された針状電極262とを有する。なお、基体261と針状電極262とは、同一材料で一体に形成されてもよいし、異なる材料で形成されていてもよい。
【0170】
なお、圧電素子27に代えて、電歪素子を用いてもよい。圧電素子も電歪素子も電界を加えると変位する点では共通した機能を有するが、圧電素子は電界の向きにより変位の方向が変わるのに対し、電歪素子は伸びだけで縮まない。また、圧電素子は応力に応じた電荷を発生するのに対し、電歪素子は応力を加えても電荷は生じない。圧電素子も電歪素子も電界を加えると変位する点では共通した機能を有するため、強誘電体記憶装置には同様に使用できる。
【0171】
針状電極262は、錐状に形成された電極であり、針状電極262の幅方向及び高さは、例えば、数nm~数mmである。
【0172】
針状電極262の先端の曲率が小さいほど先端の電界強度が高まり針状電極262への印加電圧が下げられるので、強誘電体記録媒体10への情報記録に際して有利となる。また、針状電極262の先端を強誘電体記録媒体10に近づけ易くなるため、情報の読み込みの際に有利になる。針状電極262の先端の曲率半径は、数nm以下が好ましい。
【0173】
導電性プローブ26は、強誘電体記録媒体10の表面(記録面)の上で走査させる。導電性プローブ26は、強誘電体記録媒体10の表面(記録面)の極めて近い位置に接近させる。そして、導電性プローブ26から強誘電体層131の抗電界を超える電界を印加し、導電性プローブ26の直下に位置する強誘電体層131の分極方向を反転させる。この印加電圧を記録すべき情報に従ってレベルが変化するパルス信号とし、電圧を、導電性プローブ26を介して強誘電体記録媒体10に印加しながら、強誘電体記録媒体10に対する導電性プローブ26の位置を強誘電体記録媒体10の表面に平行な方向に移動させる。これにより、情報を強誘電体記録媒体10が備える強誘電体層131の強誘電体を分極状態として記録できる。
【0174】
強誘電体記録媒体10に記録された情報を再生する方法については後述する。
【0175】
導電性プローブ26は、任意の製造方法を用いて製造できる。導電性プローブ26の製造方法は、例えば、導電性材料の表面にドット状のマスクを形成する工程と、導電性材料をエッチングして、円錐に形成された針状電極を得る工程と、マスクを除去する工程とを含むことができる。これにより、エッチングされた導電性材料からなる基体261の上に円錐状に形成され、先鋭化された針状電極262を有する導電性プローブ26が形成される。
【0176】
導電性プローブ26の製造方法の一例を説明する。
図16は、導電性プローブ26の製造方法の一例を示す図である。
図16に示すように、導電性材料260の表面にドット状のマスク71を形成した後(
図16(a)参照)、導電性材料260をエッチングする(
図16(b)参照)。導電性材料260のマスク71が設置されている部分のエッチングが遅れるため、マスク71のリフトオフにより、マスク71の下には、略円錐形状の針状電極262が形成される(
図16(c)参照)。その後、針状電極262の周辺の導電性材料260を切り抜くことで、基体261の上に円錐状に形成された針状電極262を有する導電性プローブ26が形成される(
図16(d)参照)。
【0177】
なお、針状電極262を切り抜く工程を機械加工で行う場合は、針状電極262にダメージを与える場合がある。その場合は、針状電極の形成予定個所を切り抜いた後に、導電性材料260のエッチングを行うのが好ましい。
【0178】
また、上記工程で使用する導電性材料260が絶縁体や半導体材料の場合には、製造した針状電極の表面にAu(金)等をスパッタ法でコーティングして導電膜を形成し、針状電極が導電性を有するようにしてもよい。
【0179】
また、導電性プローブ26は、他の製造方法を用いて製造できる。
図17は、導電性プローブ26の他の製造方法の一例を示す図である。
図17に示すように、導電性材料260の表面にフォトレジスト72を塗布する(フォトレジスト塗布工程(
図17(a)参照))。
【0180】
次いで、フォトレジスト72を円形にエッチングして、フォトレジスト72に円形状の微細な貫通孔(ホール)72aを有するマスク72Aを形成する(マスク形成工程(
図17(b)参照))。
【0181】
次いで、貫通孔72a内の導電性材料260の表面及びマスク72Aの上に金属73を蒸着して、略円錐状に形成された針状電極262を形成する(針状電極の形成工程(
図17(c)及び(d)参照))。
【0182】
このとき、マスク72Aの上に蒸着して形成される金属73の蒸着量が増えるにしたがい、貫通孔72aが塞がり貫通孔72aの幅が狭くなる。これにより、マスク72Aの貫通孔72a内の底部に蒸着する金属73は、底部では広く蒸着し、上にいくにしたがって徐々に蒸着範囲が狭くなり、最終的に、略円錐状に堆積した針状電極262が形成される(
図17(d)参照)。
【0183】
次いで、マスク72Aを除去して、針状電極262を有する導電性プローブ26を得る(導電性プローブの作製工程(
図17(e)参照))。マスク72Aを除去し、針状電極262の周辺の導電性材料260を切り抜くことで、基体261の上に円錐状に形成された針状電極262を有する導電性プローブ26が得られる。
【0184】
導電性プローブ26は、様々な形態として用いることができる。導電性プローブ26の態様について説明する。
【0185】
((第1の態様))
図18及び
図19に示すように、導電性プローブ26Aは、三角錐又は四角錐に形成することが好ましい。導電性材料に単結晶を用いて異方性エッチングを行えば、任意の結晶面(テクスチャ面)により形成された頂部を形成し易い。
【0186】
例えば、導電性材料260がSi等のダイヤモンド構造を有する単結晶の(100)面を用いる場合、(100)面を結晶面として加工することで、導電性プローブ26Aは、4つの(111)等価面からなり、鋭利な頂部を有する四角錐を容易に形成できる。よって、導電性プローブ26Aが略三角錐又は略四角錐である場合、略円錐である場合に比べて、鋭利な頂部を有する導電性プローブにできる。
【0187】
また、導電性プローブ26Aが略三角錐又は略四角錐である場合、導電性プローブ26のように、略円錐である場合に比べて、より鋭利な頂部を有することができる。
【0188】
さらに、書き込み時に導電性プローブ26Aの先端で生ずる電界分布を均一化し、また、読み込み時に導電性プローブ26Aと強誘電体層131との間に流れるトンネル電流を安定化させるためには、導電性プローブ26Aはその先端を通る軸を中心とした回転対称形とするのが好ましい。
【0189】
導電性プローブ26Aは、任意の製造方法を用いて製造できる。導電性プローブ26Aの製造方法としては、例えば、上記の
図16に示す導電性プローブの製造方法において、導電性材料260の表面に形成するマスク71の形状を三角形又四角形とする。これにより、
図18及び
図19に示すように、基体261の上に三角錐又は四角錐の針状電極262Aを有する導電性プローブ26Aが形成できる。
【0190】
また、導電性材料260に単結晶を用いて異方性エッチングを行い、任意の結晶面(テクスチャ面)により形成された頂部を形成する方法を用いるのが好ましい。例えば、導電性材料260がSi等のダイヤモンド構造を有する単結晶の(100)面を用いる場合、導電性プローブ26Aは、4つの(111)等価面からなり、鋭利な頂部を有する四角錐を再現性良く形成できる。
【0191】
この際の異方性エッチングには、SF6等のエッチングガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)、及びエッチャントにKOHを用いた湿式エッチング等を用いるのが好ましい。
【0192】
また、導電性プローブ26Aは、他の製造方法を用いて製造できる。導電性プローブ26Aの他の製造方法としては、例えば、上記の
図17に示す導電性プローブの製造方法のマスク形成工程において、フォトレジスト72に形成する貫通孔72aの形状を三角形状又四角形状とし、フォトレジスト72に三角形状又四角形状の貫通孔72aを有するマスク72Aを形成する。貫通孔72aの形状を三角形又は四角形にすることで、導電性材料260の上に略三角錐状又は四角錐状の針状電極262が形成される。これにより、
図18及び
図19に示すように、基体261の上に三角錐又は四角錐の針状電極262Aを有する導電性プローブ26Aが得られる。
【0193】
((第2の態様))
導電性プローブ26の他の構成の断面図を
図20に示す。
図20に示すように、導電性プローブ26Bは、導電性材料からなる基体261と、基体261に形成された凹部261aと、凹部261aに円錐状に形成された針状電極262とを有し、針状電極262の一部は基体261の表面(主面)261bから突出させることが好ましい。なお、基体261の表面261bとは、基体261の主面であって、凹部261a以外の表面をいう。
【0194】
導電性プローブ26Bは、針状電極262の大部分が周囲を基体261で覆われるため、導電性プローブ26Bが偶発的に強誘電体記録媒体10に接触した際に針状電極262が損傷することを軽減できる。また、強誘電体記録媒体10の回転によって生じた気流により、針状電極262に振動及び変形が生じることを抑制できる。
【0195】
図21は、導電性プローブ26Bを搭載したプローブスライダー23の構成の一例を示す断面図である。
【0196】
導電性プローブ26Bの製造方法について説明する。導電性プローブ26Bの製造方法は、導電性材料の表面にフォトレジストを塗布する工程と、フォトレジスをパターニングして微細な貫通孔(ホール)を有するマスクを形成する工程と、ホール内の導電性材料をエッチングして、導電性材料の表面に凹部を形成する工程と、貫通孔内に形成した導電性材料の凹部の底部の上に金属膜を蒸着する工程と、フォトレジストを除去し、導電性材料の凹部の底部に円錐状に形成された針状電極を得る工程とを含み、針状電極262の一部を、導電性材料から突出させる。これにより、導電性プローブ26Bが得られる。
【0197】
図22は、導電性プローブ26Bの製造方法の一例を示す説明図である。
図22に示すように、導電性材料260の表面にフォトレジスト82を塗布して(
図22(a)参照)、パターニングした後、フォトレジスト82に微細な貫通孔(ホール)82aを有するマスク82Aを形成する(
図22(b)参照)。その後、適宜任意のエッチング方法を用いて、貫通孔82aをエッチングして、導電性材料260の表面に凹部260aを形成する(
図22(c)参照)。エッチング後、貫通孔82a内に形成した導電性材料260の凹部260aの底部と、フォトレジスト82の上に、金属83を蒸着させる(
図22(d)参照)。このとき、フォトレジスト82の上に蒸着して形成される金属83の蒸着量が増えるにしたがい、貫通孔82aが塞がり貫通孔82aの幅が狭くなる。これにより、導電性材料260の凹部260a内の底部に蒸着する金属83は、底部では広く蒸着し、上にいくにしたがって徐々に蒸着範囲が狭くなり、最終的に、円錐状に堆積した針状電極262が形成される(
図22(e)参照)。
【0198】
その後、マスク82Aを除去することで(
図22(f)参照)、導電性材料260から円錐状の針状電極262の頂部を含む一部を僅かに突出させる。
【0199】
針状電極262の周辺の導電性材料260を切り抜くことで、
図20に示す、基体261の凹部261aに円錐状に形成された針状電極262を有する導電性プローブ26Bが形成される。
【0200】
この製造方法によれば、針状電極262は凹部261a内に形成され、周囲を基体261で覆われるため、導電性プローブ26Bが偶発的に強誘電体記録媒体10に接触した際に針状電極262が損傷することを軽減できる。また、強誘電体記録媒体10の回転によって生じた気流により、針状電極262に振動が生じることを抑制することができると共に変形することを抑制できる。
【0201】
なお、貫通孔82aの形状を三角形又は四角形にすることで、導電性プローブ26Bは三角錐状又は四角錐状に形成できる。
【0202】
((第3の態様))
導電性プローブ26の他の構成の一例を
図23に示す。
図23に示すように、導電性プローブ26Cは、導電性材料からなる基体261の上に、導電性材料260を加熱して酸化することで形成した絶縁層263を備え、絶縁層263の貫通孔263aの内部の基体261の上に針状電極262を設けて、針状電極262の一部は絶縁層263の表面(主面)263bから突出させることが好ましい。なお、絶縁層263の表面263bとは、絶縁層263の主面であって、貫通孔263a以外の表面をいう。
【0203】
針状電極262は、貫通孔263a内の基体261の表面上に形成され、周囲を絶縁層263で覆われるため、針状電極262が偶発的に強誘電体記録媒体10に接触した際に針状電極262が損傷することを軽減できる。また、強誘電体記録媒体10の回転によって生じた気流により、針状電極262に振動及び変形が生じることを抑制できる。さらに、針状電極262の周囲に絶縁層263を設けられることで、針状電極262がシールドされるため、周囲の電荷の影響及び針状電極262に加えられた電荷が外部に漏れることを抑制できる。
【0204】
導電性プローブ26Cの製造方法について説明する。導電性プローブ26Cの製造方法は、導電性材料260の上に、導電性材料260を酸化して絶縁層を形成する工程と、絶縁層の上に分離層を形成する工程とを含み、針状電極の一部を、絶縁層から突出させる。これにより、導電性プローブ26Cが得られる。
【0205】
図24は、導電性プローブ26Cの製造方法の一例を示す説明図である。
図24に示すように、導電性材料260を加熱して酸化することで絶縁層263を形成する(
図24(a)及び(b)参照)。その後、絶縁層263の上に分離層29を形成して、分離層29の表面にフォトレジスト82を塗布してパターニングし、フォトレジスト82に円形の微細な貫通孔82aを形成する(
図24(c)参照)。その後、適宜任意のエッチング方法を用いて、貫通孔82aの絶縁層263及び分離層29をエッチングする(
図24(d)参照)。なお、
図24(d)では、絶縁層263及び分離層29のエッチング後、フォトレジスト82を除去しているが、少なくとも一部のフォトレジスト82を残してもよい。
【0206】
エッチング後、絶縁層263及び分離層29の貫通孔263a及び29a内の導電性材料260の表面と、分離層29の上に、金属83を蒸着させる(
図24(e)参照)。このとき、フォトレジスト82の上に蒸着して形成される金属83の蒸着量が増えるにしたがい、貫通孔29aが塞がりその幅が狭くなる。これにより、貫通孔29a内の導電性材料260の表面に蒸着する金属は、表面では広く蒸着し、上にいくにしたがって徐々に蒸着範囲が狭くなり、最終的に、円錐状に堆積する。これにより、先鋭化された針状電極262が形成される。
【0207】
その後、分離層29をエッチングすることで、絶縁層263の主面から円錐状の針状電極262の頂部を含む一部を僅かに突出させる(
図24(f)参照)。
【0208】
針状電極262の周辺の導電性材料260を切り抜くことで、
図23に示す、基体261上の絶縁層263の貫通孔263aに円錐状に形成された針状電極262を有する導電性プローブ26Cが形成される。
【0209】
この製造方法によれば、針状電極262は貫通孔263a内の基体261の表面上に形成され、周囲を絶縁層263で覆われるため、導電性プローブ26Cが偶発的に強誘電体記録媒体10に接触した際に針状電極262が損傷することを軽減できる。また、強誘電体記録媒体10の回転によって生じた気流により、針状電極262に振動が生じることを抑制することができると共に変形することを抑制できる。さらに、導電性プローブ26Cは、針状電極262の周囲に絶縁層263を設けることで、針状電極262をシールドして周囲の電荷の影響及び針状電極262からの電荷のリークを抑制できる。
【0210】
(第1の圧電素子及び第2の圧電素子)
図11に示すように、
図11に示す構成のプローブスライダー23では、第1の圧電素子27Aは、プローブスライダー23の先端部の、プローブスライダー23と導電性プローブ26との間に、電極28A-1及び電極28A-2に挟まれて設けられる。また、第2の圧電素子27Bは、プローブスライダー23の先端部と電極28A-2との間に設けられ、第2の圧電素子27Bの+Y軸方向側の側面及び-Y軸方向側の側面には、それぞれ、電極28B-1及び電極28B-2が設けられる。第1の圧電素子27Aは、導電性プローブ26のヘッド浮上高(Dynamic Fly height:DFH)の調整に用いられ、第2の圧電素子27Bは、導電性プローブ26を強誘電体記録媒体10のトラック方向に移動させる機能を有する。
【0211】
なお、本実施形態では、第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bに代えて、電歪素子を用いてもよい。第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bも電歪素子も電界を加えると変位する点では共通した機能を有するが、第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bは電界の向きにより変位の方向が変わるのに対し、電歪素子は伸びだけで縮まない。また、第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bは応力に応じた電荷を発生するのに対し、電歪素子は応力を加えても電荷は生じない。第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bも電歪素子も電界を加えると変位する点では共通した機能を有するため、強誘電体記憶装置には同様に使用できる。
【0212】
図11に示すように、第1の圧電素子27Aは、プローブスライダー23の先端の下端側の面に設けられ、導電性プローブ26のヘッド浮上高(Dynamic Fly height:DFH)の調整に用いることができる。即ち、第1の圧電素子27Aは、プローブスライダー23と導電性プローブ26の間に設けられ、強誘電体記録媒体10と導電性プローブ26との距離を調整することで、プローブスライダー23を強誘電体記録媒体10の表面にナノレベルの距離が離れた状態で浮上走行させることができる。この第1の圧電素子27Aの変位量はナノレベルで制御可能であり、その応答性は10μ秒以下である。そのため、導電性プローブ26と強誘電体記録媒体10との距離は、高い精度で高速に制御することができる。
【0213】
第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bとしては、例えば、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、チタン酸鉛(PT)等を用いることができる。また、第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bの代わりに電歪素子を用いる場合も同様の材料を用いることができる。
【0214】
プローブスライダー23は、その先端部に第1の圧電素子27Aを備えることで、導電性プローブ26のDFH制御をより高精度かつ高速で行うことができ、導電性プローブ26と強誘電体記録媒体10との距離の制御を高い精度で高速に行うことができる。よって、強誘電体記憶装置100は、導電性プローブ26の記録及び再生感度を更に高めることができる。
【0215】
また、プローブスライダー23は、その先端部に第1の圧電素子27Aを備えることで、強誘電体記録媒体10のトラック間、セクター間でのAGC(automatic gain control)機能を有することができる。
【0216】
導電性プローブ26を強誘電体記録媒体10のトラック方向に移動させるプローブ駆動部40(
図8参照)として、後述の通り、例えば、ボイスコイルモータを用いることができる。しかし、ボイスコイルモータを用いた場合、導電性プローブ26の位置決め精度は10nm程度である。また、別のトラックへの移動時間(シーク時間)も数ミリ秒程度を要するため、強誘電体記憶装置100の高容量化及び高速化の障害となる。
【0217】
本実施形態では、導電性プローブ26を強誘電体記録媒体10のトラック方向に移動させるのに第2の圧電素子27Bを用いるので、強誘電体記録媒体10のトラック方向での位置決め精度を1nm以下にすることができると共に、同一トラック内での修正動作及び別のトラックへの移動動作を数マイクロ秒以下で行うことができる。これにより、強誘電体記憶装置100の高容量化及び高速化を実現できる。
【0218】
図12及び
図13に示すように、プローブスライダー23と導電性プローブ26との間に第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bが設けられる。第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bは、プローブスライダー23と導電性プローブ26との間に安定して配置される点から、立方体、直方体、円柱等の柱状体に形成されていることが好ましい。第1の圧電素子27Aの+Z軸方向及び-Z軸方向の面に一対の電極28A-1及び28A-2が設けられている。電極28A-1は、導電性プローブ26と第1の圧電素子27Aとの間に設けられている。電極28A-2は、第1の圧電素子27Aと第2の圧電素子27Bとの間に設けられている。
【0219】
図14に示すように、第2の圧電素子27Bには、1対の電極28B-1及び28B-2が設けられている。電極28B-1は、第2の圧電素子27Bの-Y軸方向側に設けられている。電極28B-2は、第2の圧電素子27Bの+Y軸方向側に設けられている。
【0220】
電極28A-1及び28A-2は、第1の圧電素子27Aを+Z軸方向及び-Z軸方向に伸縮させ、導電性プローブ26と強誘電体記録媒体10との距離を調整する電圧印加に使用される。この点については後述する。
【0221】
電極28B-1及び28B-2は、第2の圧電素子27Bを+Y軸方向及び-Y軸方向に伸縮させ、プローブスライダー23に設けられた導電性プローブ26を強誘電体記録媒体10のトラック方向に移動させるために用いられる。第2の圧電素子27Bは-Z軸方向の面はプローブスライダー23に固定されているが、+Z軸方向の面は固定されていない。そのため、電極28B-1及び28B-2に電圧を印加すると、第2の圧電素子27Bの+Z軸方向の面271は+Y軸方向及び-Y軸方向に伸縮する。ここで、第2の圧電素子27Bの+Z軸方向の面271は+Y軸方向及び-Y軸方向に均等に伸縮するので、面の中央はY軸方向に変位しないが、導電性プローブ26は第2の圧電素子27Bの+Z軸方向の面271の中央からずらして設けられているので、強誘電体記録媒体10のトラック方向である+Y軸方向又は-Y軸方向に変位することになる。例えば、
図25に示すように、第2の圧電素子27Bを+Y軸方向及び-Y軸方向に伸ばした場合は、導電性プローブ26は矢印に示す+Y軸方向に変位する。
【0222】
導電性プローブ26を強誘電体記録媒体10のトラック方向に移動させる際、導電性プローブ26の移動距離が10nm以上の粗動作においてはボイスコイルモータやパルスモーター等のプローブ駆動部40を使用し、導電性プローブ26の移動距離が10nm未満の微動作においては、プローブスライダー23に設けた第2の圧電素子27Bを使用して、第2の圧電素子27Bを伸縮させ、導電性プローブ26を移動させることが好ましい。
【0223】
[強誘電体記録媒体駆動部]
図8に示すように、強誘電体記録媒体駆動部30は、強誘電体記録媒体10を駆動して回転させるものである。
図26は、強誘電体記録媒体駆動部30の構成を示す断面図である。
図26に示すように、強誘電体記録媒体駆動部30は、ハウジング(軸受筒)31と、軸受スリーブ32と、軸部材(スピンドルシャフト)33と、ハウジング底部34と、永久磁石35と、ステータ36と、潤滑油Oを有する。強誘電体記録媒体駆動部30は、ハウジング31内で、スピンドルシャフト33を、潤滑油Oの動圧作用で発生する圧力により、スピンドルシャフト33のラジアル方向(スピンドルシャフト33に対して直交する方向)に非接触状態で支持している。
【0224】
ハウジング31は、スピンドルシャフト33の一部を収容する容器であり、スピンドルシャフト33を挿脱可能に形成されている。
【0225】
軸受スリーブ32は、ハウジング31の内部に設けられている。
【0226】
スピンドルシャフト33は、軸受スリーブ32の内周面に挿入された棒状部材であり、導電性を有する。スピンドルシャフト33は、金属等の導電性材料で形成できる。スピンドルシャフト33は、強誘電体記録媒体10の開口部10a(
図3参照)に挿入されることで、基板11及び電極層12を介して強誘電体記録層13に接続される(
図3参照)。スピンドルシャフト33が導電性を有することで、導電性プローブ26により、強誘電体記録層13に情報の読み書きを行うことができる。
【0227】
スピンドルシャフト33の軸端部331は、凸状に形成された曲面を有することが好ましい。軸端部331の曲面の曲率半径Rは、2mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましい。なお、軸端部331の曲面は、凹状に形成されていてもよい。
【0228】
スピンドルシャフト33は、その外周にV字型の溝部332を有することができる。スピンドルシャフト33が溝部332を有することで、スピンドルシャフト33が回転すると、潤滑油Oに流れが発生して、潤滑油Oを溝部332のV字の頂点に集め易くなる。そのため、圧力を発生させ、スピンドルシャフト33を支える。
【0229】
ハウジング底部34は、ハウジング31内に、スピンドルシャフト33の軸端部331と対向するように設けられ、導電性を有する。
【0230】
ハウジング底部34も、軸端部331と同様、凸状又は凹状に形成された曲面を有することが好ましい。ハウジング底部34の曲面の曲率半径Rは、2mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましい。
【0231】
永久磁石35は、カバー37の内周面に、周方向に沿って複数設けられている。
【0232】
ステータ36は、ハウジング31と永久磁石35との間に設けられている。
【0233】
潤滑油Oは、軸受スリーブ32の内周面とスピンドルシャフト33の外周面との間の隙間に充填されている。潤滑油Oは、動圧作用で圧力を発生させることで、スピンドルシャフト33をそのラジアル方向に非接触状態で支持している。
【0234】
潤滑油Oは、無機物の導電性紛体を含有することが好ましい。潤滑油Oは、無機物の導電性紛体を含有する構成とすることで、ハウジング31とスピンドルシャフト33とを導通させることができる。
【0235】
無機物の導電性紛体としては、銀、銅、ニッケル、錫、銀メッキ銅、ステンレス鋼、アルミニウム、黄銅、鉄、亜鉛等の金属系粉体;炭素、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ等の炭素系粉体;酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛等の金属酸化物系粉体;ガラス、マイカ紛、ガラスファイバー、炭素繊維等の表面に被覆層を形成した金属メッキ物;が好ましい。
【0236】
金属系粉体の形状としては、粉末、球状、繊維状、箔片が好ましい。
【0237】
炭素系粉体の形状としては、球状、繊維状が好ましい。
【0238】
金属酸化物系粉体の形状としては、粉末、球状が好ましい。
【0239】
金属メッキ物系粉体の形状としては、粉末、球状が好ましい。
【0240】
これらの材料は、耐熱性が高く、耐揮発性が良好で、潤滑油Oに含有させても潤滑油Oの粘度を高めない。
【0241】
導電性紛体の粒径は、粒子状の場合には、0.1μm~10μmが好ましい。導電性紛体が箔片の場合には、一辺が0.1μm~100μmが好ましい。導電性紛体が繊維の場合には、繊維の長さは0.1μm~100μmが好ましい。導電性紛体が、粒子状、箔片、又は繊維である場合、導電性紛体の粒径が上記の好ましい範囲内であれば、潤滑油Oの粘度を高めることなく、潤滑油O中に分散させることができる。
【0242】
強誘電体記録媒体駆動部30では、永久磁石35と、ステータ36の電磁石との結合により、スピンドルシャフト33を回転させる。スピンドルシャフト33には、ステータ36の電磁石との磁気結合、自重、その他の方法で、
図26中の下方へのスラストを加え、このスラストをハウジング底部34で支える。
【0243】
[プローブ駆動部]
図8に示すように、プローブ駆動部40は、プローブスライダー23を駆動する。
【0244】
[制御部]
強誘電体記憶装置100は、
図11に示すように、プローブスライダー23がその先端部の、プローブスライダー23と導電性プローブ26との間に第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bを備える場合、不図示の制御部を備えてよい。
【0245】
不図示の制御部は、筐体60の裏側にプリント基板(PCB)として取り付けられている。不図示の制御部は、第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bと導電性プローブ26に電気的に接続されている。不図示の制御部は、第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bへの印加電圧を制御して第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bを伸縮させ、強誘電体記録媒体10と導電性プローブ26との距離、および相対位置を調整する機能を有する。不図示の制御部は、導電性プローブ26からの読み込みシグナルに基づいて第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bへの印加電圧を制御して第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bを伸縮させることが好ましい。
【0246】
また、第1の圧電素子27Aを+Z軸方向又は-Z軸方向に伸縮すると、第1の圧電素子27Aは+Y軸方向又は-Y軸方向にも伸縮することになる。不図示の制御部は、この第1の圧電素子27Aの+Y軸方向又は-Y軸方向の伸縮を、第2の圧電素子27Bを+Y軸方向又は-Y軸方向に伸縮することによって補償する機能を有するのが好ましい。
【0247】
不図示の制御部は、導電性プローブ26からの読み込みシグナルレベルが低い場合には、第1の圧電素子27Aへの印加電圧を高めることで、導電性プローブ26と強誘電体記録媒体10との距離を近づけてシグナルレベルを高める。一方、不図示の制御部は、導電性プローブ26からの読み込みシグナルレベルが高い場合には、第1の圧電素子27Aへの印加電圧を下げることで、導電性プローブ26と強誘電体記録媒体10との距離を遠ざけてシグナルレベルを下げる。これにより、高い精度、レスポンスで強誘電体記録媒体10と導電性プローブ26Aとの距離の制御が可能となる。そのため、不図示の制御部は、強誘電体記憶装置100に強誘電体記録媒体10のトラック間及びセクター間でのAGC(automatic gain control)機能を持たせることができる。
【0248】
[記録再生信号処理部]
図8に示す記録再生信号処理部50は、導電性プローブ26との情報の書き込み及び読み込み信号の処理を行う機能を有する。
【0249】
記録再生信号処理部50は、導電性プローブ26を用いて正又は負の電圧を印加することで、強誘電体記録媒体10を構成する強誘電体記録層13に情報の書き込みを行う。また、導電性プローブ26を用いて、強誘電体記録層13に書き込まれた正又は負の電荷を読み込むことで情報の読み出しを行う。記録再生信号処理部50は、書き込み時は導電性プローブ26に印加する書き込み情報に対応する正又は負の電圧を生成し、読み込み時は導電性プローブ26からの電気信号を処理して書き込まれている情報に変換する。
【0250】
記録再生信号処理部50は、内部に不図示のバイポーラ電源を備えており、書き込み時については、例えば、書き込む情報が1又は0の2進数の場合、1は正の電圧、0は負の電圧を、不図示のバイポーラ電源を用いて発生させる。
【0251】
記録再生信号処理部50は、強誘電体記録媒体10の強誘電体記録層13に含まれる強誘電体層131への多値の情報を記録(書き込み)し、記録された多値の情報を再生(読み込み)するのが好ましい。多値情報の記録及び再生に関する内容は、上述の通りであるため、詳細は省略する。
【0252】
上述の通り、強誘電体層131には、プローブスライダー23の導電性プローブ26と強誘電体記録媒体10上のトラックとの相対位置を検出するための位置情報(サーボ情報)が記録されていてもよい。そして、強誘電体層131には、サーボ情報を記録したサーボ情報領域と、データの記録再生を行うデータ領域が、強誘電体記録媒体10の周方向に対して一定の間隔で交互に並んでもよい。
【0253】
サーボ情報は、強誘電体記録媒体10を強誘電体記憶装置100に組み込む前に不図示のサーボライターを用いて強誘電体記録媒体10に書き込んでもよいし、強誘電体記録媒体10を強誘電体記憶装置100に組み込んだ後に、記録再生信号処理部50を用いて書き込んでもよい。後者の場合は、強誘電体記憶装置100の外部から不図示のレバーを用いてアクチュエータアーム21又はサスペンションアーム22を機械的に固定した後、不図示のレバーを微動させて導電性プローブ26を強誘電体記録媒体10の表面で位置決めしながら、強誘電体記録媒体10にサーボ情報を書き込んでもよい。
【0254】
この場合、サーボ情報と、データの記録及び再生を行うデータ領域が、強誘電体記録媒体10上のトラックの周方向に一定の間隔で交互に配列されることが好ましい。これにより、プローブスライダー23は、記録されたデータの再生中、サーボ情報により導電性プローブ26の位置をより的確に検出できる。
【0255】
記録再生信号処理部50は、上述の通り、最も小さな1つの記録領域への多値情報の記録を、強誘電体記憶装置100における最も簡素な1回の書き込み操作によって行い、強誘電体記録媒体10に多値記録された情報の再生を、強誘電体記憶装置100における最も簡素な1回の読み込み操作によって行うのが好ましい。
【0256】
上述の通り、強誘電体層131のサーボ情報領域131Bにバースト情報領域131B-1、アドレス情報領域131B-2、プリアンブル情報領域131B-3が含められてもよい。この場合、強誘電体記録媒体10では、表面上を円周方向に移動する導電性プローブ26が、プリアンブル情報領域131B-3のプリアンブル情報を読み込んでアドレス情報を読み込む準備をする。そして、導電性プローブ26が、アドレス情報領域131B-2において、データ領域のアドレス情報を読み込む。そして、プローブスライダー23が、バースト情報領域131B-1のバースト情報を読み込んでトラック位置(半径位置)の微調整を行う。その後、導電性プローブ26は、データ領域131Aにおいて情報の記録を行うことができる。
【0257】
上述の通り、強誘電体層131のサーボ情報領域131Bに多値記録の基準信号情報131B-4を含んでもよい。この場合、導電性プローブ26でサーボ情報領域131B内の基準信号情報を読み込むことで、記録再生信号処理部50は、多値記録の信号レベルを把握し、その把握した信号レベルを用いてデータ領域131Aに記録された多値情報を再生できる。
【0258】
記録再生信号処理部50は、強誘電体記録媒体10に情報を書き込む際に、不図示のバイポーラ電源から発せられ、導電性プローブ26に印加する電圧波形を、
図27に示すように、三角波、ノコギリ波及び台形波の何れかに調整するのが好ましい。不図示のバイポーラ電源から発せられる電圧波形が、方形波である場合、正又は負の電圧が印加された瞬間に多量の電荷が流れるため、導電性プローブ26の鋭利な針先が、熱的な溶解や急激な電界蒸発により鈍くなる場合がある。本実施形態では、電圧波形を、三角波、ノコギリ波及び台形波の何れかにすることで、ゼロ電位から徐々に電位を高めることができるため、導電性プローブ26の損傷を低減できる。
【0259】
読み込み時においては、例えば、導電性プローブ26に強誘電体層131の抗電界よりも小さい交流電界を印加しながら、導電性プローブ26と電極層12との間の強誘電体層131の容量変化を計測することで、強誘電体記録媒体10に書き込まれた情報を容量変化として読み込むことが知られている。この原理は次である。
【0260】
導電性プローブ26に印加する電圧をE、強誘電体の電荷に由来する電束密度をD、誘電率をε、分極電圧をPとすると、強誘電体の電荷に由来する電束密度Dは、下記式(1)で表わされる。
【0261】
【0262】
ここで、電圧Eが交流である場合、下記式(2)となるが、これを上式(1)に代入すると、奇数添字の誘電率ε3、ε5、・・・は非線形となり、強誘電体の自発分極の向きに依存して符号が変化するため、この誘電率の変動を測定することで、強誘電体の自発分極の向きが分かる。
E=Epcosωt ・・・(2)
(式中、Epは交流のピーク電圧である。)
【0263】
一方、この方法は、情報の読み込み速度が交流電界の周波数の制限を受けるため、交流電界の周波数以上のビットレートで情報を読み込むことができない。例えば、1Gビット/秒以上の読み込み速度を実現するためには、1GHz以上の交流電界の印加が必要となる。ここで、強誘電体の誘電率は、交流電界の周波数に依存し、周波数が高くなるほど損失が大きくなる。そのため、高速動作が実現できる強誘電体回転媒体で使用できる強誘電体は限られている。
【0264】
本実施形態では、強誘電体記録媒体からの情報の読み込みに交流電界を使用せずに、導電性プローブ26と電極層12との間に流れる微弱なトンネル電流を用いて強誘電体層131の電荷を検出する。
【0265】
即ち、導電性プローブ26は、強誘電体層131の表面の極めて近い位置に接近させているので、導電性プローブ26と電極層12との間の、強誘電体層131に由来する容量Cは、下記式(3)となる。
C=ε・ε0A/d ・・・(3)
(式中、Aは、導電性プローブの相対的な面積であり、dは強誘電体層の厚さであり、εは強誘電体層の比誘電率であり、ε0は、真空の誘電率である。)
【0266】
そして、強誘電体層131に蓄えられた電荷をQとすると、導電性プローブ26に発生する電圧Vは、下記式(4)となる。この電圧Vを検知することで、強誘電体層131に書き込まれた情報を読み込むことができる。
V=Q/C ・・・(4)
【0267】
ここで、強誘電体は絶縁体でバンドギャップが大きいのでトンネル電流は流れ難く、上記式(4)の電圧Vを検知することは難しい。しかしながら、強誘電体を薄膜とすることで、トンネル障壁を小さくし、かつ導電体である電極層との接合構造を形成することで、接合部での電子状態から、微弱なトンネル電流を流すことができる。さらにこの接合部に常誘電体層を加え、強誘電体、常誘電体及び導電体をこの順に接合した接合構造にすると、強誘電体と常誘電体の界面部では電荷によってトンネル障壁を下げる方向のバンドベンディングが生じ、トンネル電流をさらに流れ易くすることができる。
【0268】
そして、強誘電体層131のトンネル障壁は分極方向によって変わるので、強誘電体層131と導電性プローブ26との間のトンネル電流を測定することで、強誘電体層131の分極方向を知ることができる。例えば、ある強誘電体においては表層側を正にチャージするとトンネル障壁は高まり、強誘電体層131側から導電性プローブ26方向へのトンネル電流は減少し、一方で、表層側を負にチャージすると強誘電体層131側から導電性プローブ26方向へのトンネル電流は増加する。
【0269】
記録再生信号処理部50は、強誘電体層131の電荷を検出して読み込みを行うに際して、導電性プローブ26に、バイアス電圧を印加してもよい。
【0270】
導電性プローブ26に印加するバイアス電圧は、強誘電体層131と導電性プローブ26との間のトンネル電流を検知しやすくするために用いられ、また、情報の読み出しに際して強誘電体層131に蓄えられている電荷量の変動を低減することができる。
【0271】
バイアス電圧には、正、負、又はその両方を用いることができる。導電性プローブ26に印加するバイアスが、正又は負の一定電圧である場合は、強誘電体層131の分極方向はバイアス印加によって生ずるトンネル電流の大小によって検知される。
【0272】
例えば、表層側を正にチャージするとトンネル障壁が高まり、表層側を負にチャージするとトンネル障壁が低くなる強誘電体においては、強誘電体層131側(電極層12側)から導電性プローブ26方向へのトンネル電流が流れるようにバイアス電圧を印加した場合、トンネル障壁の大小と、トンネル電流の大小は逆の関係となり、そこから強誘電体層131の電荷方向を検知することができる。
【0273】
また、導電性プローブ26に印加するバイアス電圧が、正及び負の両方である場合は、正のバイアス電圧を印加した時のトンネル電流と、負のバイアス電圧を印加した時のトンネル電流とを比較することで強誘電体層131の分極方向を検知することができる。この場合のバイアス電圧は、強誘電体層131からの情報の読み込み速度をNビット/秒(Nは1以上の数である。)とする場合は、その周波数をNHz(Nは1以上の数である。)以上とした正弦波又は矩形波とするのが好ましい。このようにすることで、より高い精度で強誘電体層131の分極方向を検知することができる。その理由は次である。すなわち、トンネル電流は強誘電体層131と導電性プローブ26との距離によって変動するため、強誘電体層131の分極方向を検知するためには、この変動と強誘電体層131の分極方向によるトンネル電流の変動とを区別する必要がある。一方、正及び負のバイアス電圧を用いた場合は、強誘電体層131の分極方向は正バイアス時及び負バイアス時のトンネル電流の相対比較となり、これにより、強誘電体層131と導電性プローブ26との距離によるトンネル電流の変動はキャンセルされるため、その影響を受けにくくなるからである。
【0274】
さらに、記録再生信号処理部50は、強誘電体記憶装置100において、強誘電体層131の電荷を検出して情報の読み込みを行うに際して、強誘電体層131に蓄えられている電荷量が減少し、それから得られるトンネル電流が減少した場合は、強誘電体記録媒体10からの情報の読み込みによって減少した電荷を補うため、強誘電体記録媒体10に書き込まれていた情報と同じ情報を強誘電体記録媒体10の同じ情報を読み出した個所に再書き込み(リフレッシュ)を行ってもよい。なお、強誘電体層131に蓄えられている電荷量の減少は、強誘電体層131に含まれる欠陥に電荷が捕獲されることによっても発生する。
【0275】
また、記録再生信号処理部50は、再書き込みを、強誘電体記録媒体10からの情報の一回の読み込みごとに行ってもよいし、定められた回数の読み込み後に行ってもよい。
【0276】
以上説明した強誘電体層131からの情報の読み込みは非破壊方式によるものであるが、強誘電体層131からの情報の読み込みに破壊方式を採用することもできる。
【0277】
情報の読み込みに非破壊方式を用いる場合は、導電性プローブ26に印加するバイアスによって生ずる電界が強誘電体層131を構成する強誘電体の抗電界を超えることはなく、よって情報の読み込み時に強誘電体層131の分極方向が変わることはない。
【0278】
一方、破壊方式を用いる場合は、導電性プローブ26に強誘電体の抗電界を超えるバイアス電圧を印加し、これにより、強誘電体層131の分極方向が変化するときのトンネル電流を検出することで情報の読み込みを行う。例えば、強誘電体層131の導電性プローブ26側が正の電荷を有する場合で、導電性プローブ26に負のバイアス電圧を印加した場合は、強誘電体層131の電荷は反転しないので強誘電体層131から導電性プローブ26に流れるトンネル電流は少ない。一方、強誘電体層131が負の電荷を有する場合は導電性プローブ26に印加された負のバイアスにより強誘電体層131の電荷は正に反転するのでトンネル電流は高まる。このトンネル電流の変動により、強誘電体層131に記録された情報を読み込むことができる。なお、情報の読み込みに破壊方式を用いる場合は、読み込んだ情報の強誘電体層131への再書き込みが必要になる。
【0279】
強誘電体記録媒体10からの情報の読み込みに、導電性プローブ26と強誘電体層131との間の原子間力を用いてよい。強誘電体記録媒体10からの情報の読み込みに、導電性プローブ26と強誘電体層131との間の原子間力を用いる方法について説明する。導電性プローブ26と強誘電体層131との間の原子間力は強誘電体層131の電荷によって影響を受けるため、両者間の原子間力を計測することで、強誘電体記録媒体10に記録された情報を読み込むことができる。この場合、情報の読み込みにトンネル電流を用いる場合と異なり、強誘電体層131に蓄えられている電荷量は減少しないため、リフレッシュは不要となる。また、強誘電体層131に用いる強誘電体のバンドギャップ及び電極層12との間の界面電子状態を考慮する必要がなくなる。
【0280】
ここで、試料の表面と探針との間に働く原子間を検出し、これをマッピングする装置として原子間力顕微鏡(AFM;atomic force microscope)が知られている。AFMでは光てこ方式を用い、試料をX-Y軸方向に移動しながら探針を設けたカンチレバーにレーザー光をあて、その反射光の変移から原子間を検出する。この方式はカンチレバーの物理的な変動を検知して行うため、GHz帯での情報の読み込みに用いるのは困難である。また、検出にレーザー光を用いるので、強誘電体記録媒体に用いる強誘電体の内部光電効果や昇温を誘発する場合がある。
【0281】
そこで、本実施形態では、
図28に示すように、プローブスライダー23と導電性プローブ26との間に第3の圧電素子27Cを備えることができる。これにより、第3の圧電素子27Cは、導電性プローブ26と強誘電体層131との間の原子間力を検出し、この検出された原子間力を電気信号に変換できる。この場合、原子間力の検知に光てこを用いないので、GHz帯での情報の読み込みが可能となる。
【0282】
第3の圧電素子27Cとしては、例えば、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、チタン酸鉛(PT)等を用いることができる。なお、第3の圧電素子27Cは、第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bと同一の材料を用いてもよい。
【0283】
第3の圧電素子27Cは、原子間力の検知能力を高めるためには、導電性プローブ26に近づけるのが好ましい。そのため、
図28に示すように、第3の圧電素子27Cは、導電性プローブ26と第4の圧電素子27Dとの間に設けることが好ましい。第4の圧電素子27Dは、前記第1の圧電素子27Aと同様に、導電性プローブ26を+Z軸方向又は-Z軸方向に駆動し、導電性プローブ26を強誘電体記録媒体10の表面へ近づけるのに用いる。なお、第4の圧電素子27Dは、第3の圧電素子27Cと同一の材料を用いてもよい。
【0284】
[筐体]
図8に示すように、筐体60は、略矩形状に形成され、強誘電体記録媒体10、導電性プローブ26、プローブスライダー23、強誘電体記録媒体駆動部30及び記録再生信号処理部50を内部に備える。
【0285】
強誘電体記憶装置100では、筐体60内をアルゴンガス、窒素ガス、及びヘリウムガスの少なくとも一つで満たすのが好ましい。筐体60内では、強誘電体記録媒体10、強誘電体記録媒体駆動部30、導電性プローブ26が動くことによる物体同士の摩擦や、これらと空気との摩擦で電荷が発生するいわゆる摩擦帯電が生じ、この電荷が強誘電体記録媒体10に記録された電荷と結合し書き込み情報が消失し、また、導電性プローブ26による情報の読み込み書き込みに悪影響を及ぼす場合がある。本実施形態では、筐体60内をこれらのガスで満たすことで、摩擦帯電を緩和できる。
【0286】
なお、筐体60内の摩擦帯電は、摩擦帯電電荷数を公知の測定方法により評価できる。
【0287】
このように、強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10、導電性プローブ26、プローブスライダー23、強誘電体記録媒体駆動部30及び記録再生信号処理部50を備える。記録再生信号処理部50は、強誘電体記録媒体10への多値の情報の記録及び記録された多値の情報の再生を行うことができる。多値の情報は、強誘電体記録媒体10が備える強誘電体記録層13の強誘電体層131の、最も小さな1つの記録領域に記録することができる。
【0288】
強誘電体記憶装置100は、記録再生信号処理部50で、強誘電体記録媒体10に多値の情報を記録できるため、強誘電体記録媒体10の記録密度を高めることができる。強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10の記録密度を高めることで、単位記憶容量における強誘電体記憶装置100の小型化を図ることができると共に、強誘電体層131への情報の記録及び記録された情報の再生に要する速度(読み書き速度)を例えば10Gbps以上に高めることができる。
【0289】
また、強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10の記録密度を高めることで、強誘電体記録媒体10への情報の記録及び再生に要する単位記憶容量当たりの電力消費量の増大を抑えることができる。
【0290】
よって、強誘電体記憶装置100は、記録密度の向上と、単位記憶容量当たりの装置の小型化と、読み書き速度の高速化とを図ることができると共に、エネルギー消費量の増大を抑えることができる。
【0291】
ここで、HDD等の一般的な磁気記録媒体では、磁気記録媒体を5000rmp~10000rmp(83回転/秒~167回転/秒)で回転させながら読み書きヘッドをトラック方向(半径方向)に移動させて情報の記録(書き込み)及び再生(読み込み)が行われる。情報一ビットのサイズは、おおよそセクター方向(円周方向)で5nm、トラック方向で50nmであり、この一ビットの中におおよそ10個程度の磁性粒子が含まれる。読み書き速度は、平均で1Gbps程度となる。強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131に含まれる強誘電体結晶の格子歪に起因する分極反転で情報を記録する。そのため、磁性粒子単位で磁性層を磁化して情報を記録する磁気記録媒体と比べて、記録密度及び読み書き速度を格段に高めることができる。そして、強誘電体記憶装置100では、強誘電体記録媒体10は、強誘電体層131が多値記録される記録領域を有するため、記録密度の向上、小型化及び処理速度の高速化を図ることができると共に、エネルギー消費量の増大を抑えることができる。
【0292】
強誘電体記憶装置100は、記録密度の向上、読み書き速度の高速化及び装置の小型化を図ることで、例えば10Gbps以上の無線及び移動体の通信のストレージを実現できる。また、強誘電体記憶装置100は、電力消費量の増加を抑え、省エネルギー化を図ることで、資源の消費を抑制することができるため、環境負荷を低減できる。
【0293】
強誘電体記憶装置100では、記録再生信号処理部50が、導電性プローブ26と強誘電体記録媒体10との強誘電体記録媒体10のトラック方向における相対位置を検出するための位置情報(サーボ情報)を強誘電体層131から読み込むことができる。これにより、強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10が備える強誘電体層131のデータ領域に記録されたデータの再生中に、サーボ情報によって導電性プローブ26の位置を精度良く検出できるため、強誘電体層131への記録及び再生を高い精度で行うことができる。よって、強誘電体記憶装置100は、情報の記録及び記録された情報の再生の際の処理速度を高めることができる。
【0294】
強誘電体記憶装置100は、サーボ情報が記録されたサーボ情報領域と、情報の書き込み及び読み込みを行うデータ領域は強誘電体記録媒体10上のトラックの周方向に交互に配列できる。これにより、強誘電体記憶装置100は、不図示の制御部で、データ領域に記録されたデータの再生中に、それぞれのデータ領域ごとに、サーボ情報によって導電性プローブ26の位置を精度良く検出できる。よって、強誘電体記憶装置100は、強誘電体層131への情報の書き込み及び記録された情報の読み込みの精度を高めることができるため、情報の記録及び記録された情報の再生の際の処理速度を更に高めることができる。
【0295】
強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10に含まれる強誘電体層131のサーボ情報領域131Bに基準信号情報131B-4を含めることができる。これにより、強誘電体記憶装置100は、導電性プローブ26により、基準信号情報131B-4が読み込まれて把握された多値記録の信号レベルを用いることで、データ領域131Aに記録された多値情報を再生できる。よって、強誘電体記憶装置100は、単位記憶容量当たりの消費エネルギーの更なる低減を図ることができる。
【0296】
上記構成を有する強誘電体記憶装置100における情報の書き込み及び読み込み方法は、強誘電体記録媒体10への多値の情報の書き込み及び記録された多値の情報の書き込みを、最も小さな1つの記録領域に対し最も簡素な1回の操作で行うことができる。上記の情報の書き込み及び読み込み方法を用いれば、記録再生信号処理部50において、強誘電体層131に蓄えられる記録密度の向上と、単位記憶容量当たりの装置の小型化と、読み書き速度の高速化とを図ると共に、エネルギー消費量の増大を抑えることができる。
【0297】
強誘電体記憶装置100は、プローブスライダー23に第1の圧電素子27A及び第2の圧電素子27Bを設けることができる。強誘電体記憶装置100は、第1の圧電素子27Aを一対の電極28A-1及び28A-2を用いて第1の圧電素子27Aの高さ方向に伸縮させ、第2の圧電素子27Bを電極28B-1及び28B-2を用いて第2の圧電素子27Bを強誘電体記録媒体10のトラック方向に伸縮させることができる。これにより、強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10と導電性プローブ26との間の距離をナノレベルで制御すると共に、導電性プローブ26を強誘電体記録媒体10のトラック方向にナノレベルで移動させることができる。また、同一トラック内での移動時間及び別のトラックへの移動時間(シーク時間)を数マイクロ秒以下にできる。そのため、強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10のデータ面方向及びトラック方向における導電性プローブ26の位置決め精度を1nm以下と高精度に行うことができると共に、同一トラック内での修正動作及び別のトラックへの移動動作を数マイクロ秒以下で行うことができる。よって、強誘電体記憶装置100は、記録容量の向上と、情報の記録及び再生に要する速度の高速化とを図ることができる。
【0298】
強誘電体記憶装置100は、第2の圧電素子27Bをプローブスライダー23と導電性プローブ26との間に設け、導電性プローブ26を第2の圧電素子27Bの取り付け面の中央から強誘電体記録媒体10のトラック方向にずらして設けることができる。これにより、導電性プローブ26は第2の圧電素子27Bの伸縮によりトラック方向へ移動することが可能となる。そのため、強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10のトラック方向における導電性プローブ26の位置決め精度を高めることができると共に、同一トラック内での修正動作及び別のトラックへの移動動作を数マイクロ秒以下でより確実に行うことができる。よって、強誘電体記憶装置100は、記録容量の更なる向上と、情報の記録及び再生に要する速度の更なる高速化とを図ることができる。
【0299】
強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10のトラック方向への導電性プローブ26の移動において、移動距離が10nm以上の粗動作ではプローブ駆動部40を使用し、移動距離が10nm未満の微動作では第2の圧電素子27Bを使用できる。これにより、強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10のトラック方向への導電性プローブ26の移動距離に応じて、導電性プローブ26の移動を適切に行うことができる。よって、強誘電体記憶装置100は、記録密度の更なる向上と、情報の記録及び再生に要する速度の更なる高速化とを図ることができる。
【0300】
強誘電体記憶装置100は、記録再生信号処理部50が、強誘電体層131の電荷の検出に際して、導電性プローブ26に正及び負のバイアス電圧を印加し、導電性プローブ26と電極層12との間に流れる微弱なトンネル電流を測定して強誘電体層131の電荷を検出する。これにより、強誘電体記憶装置100は、記録再生信号処理部50で、交流電界を使用することなく情報の読み込みを行うことができるため、読み込み速度が交流電界の周波数により制限を受けることがなくなる。よって、強誘電体記録媒体10に記憶された情報を高速で読み込むことができる。
【0301】
強誘電体記憶装置100は、記録再生信号処理部50が、強誘電体層131の電荷の検出に際して、導電性プローブ26に、正又は負のバイアス電圧を印加できる。強誘電体記憶装置100は、導電性プローブ26に電圧を印加することで、強誘電体層131に蓄えられた電荷を検出できるため、強誘電体層131に記憶された情報を高速で読み込むことができる。
【0302】
強誘電体記憶装置100は、記録再生信号処理部50が、強誘電体層131の電荷の検出に際して、正及び負のバイアス電圧を導電性プローブに印加できる。これにより、強誘電体記憶装置100は、正のバイアス電圧を印加した時のトンネル電流と、負のバイアス電圧を印加した時のトンネル電流とを比較して強誘電体層131の分極方向を検知することができる。よって、強誘電体記憶装置100は、導電性プローブ26に電圧を印加することで、強誘電体層131に蓄えられた電荷をより検出し易くすることができるため、強誘電体層131に記憶された情報をより確実に読み込むことができる。
【0303】
強誘電体記憶装置100は、正及び負のバイアス電圧を正弦波又は矩形波にすることができる。これにより、強誘電体記憶装置100は、強誘電体層131の分極方向をより検知し易くすることができる。よって、強誘電体記憶装置100は、導電性プローブ26に電圧を印加することで、強誘電体層131に蓄えられた電荷をさらに検出し易くすることができるため、強誘電体層131に記憶された情報をさらに確実に読み込むことができる。
【0304】
上記構成を有する強誘電体記憶装置100における情報の読み込み方法は、導電性プローブ26に正のバイアス電圧を印加した時に導電性プローブ26と強誘電体層131との間に流れるトンネル電流と、導電性プローブ26に負のバイアス電圧を印加した時に導電性プローブ26と強誘電体層131との間に流れるトンネル電流とを比較して、強誘電体層131の電荷を検出する。上記の情報の読み込み方法を用いれば、記録再生信号処理部50において、強誘電体層131に蓄えられた電荷をより検出し易くなり、強誘電体層131に記憶された情報をより確実に読み込むことができる。
【0305】
上記構成を有する強誘電体記憶装置100における情報の読み込み方法は、情報の読み込み速度がNビット/秒(Nは1以上の数である。)の場合、印加するバイアス電圧の周波数をNHz(Nは1以上の数である。)以上にできる。これにより、上記の情報の読み込み方法を用いれば、記録再生信号処理部50において、強誘電体層131に蓄えられた電荷をさらに検出し易くすることができるため、強誘電体層131に記憶された情報をさらに確実に読み込むことができる。
【0306】
上記構成を有する強誘電体記憶装置100における情報の書き込み及び読み込み方法は、強誘電体記録媒体10に書き込まれていた情報と同じ情報を強誘電体記録媒体10の同じ情報を読み出した個所に再書き込みを行う。上記の情報の書き込み及び読み込み方法を用いれば、強誘電体記録媒体10からの情報の読み込みによって減少した電荷を補うことができるため、記録再生信号処理部50において、導電性プローブ26と電極層12との間に流れる微弱なトンネル電流を測定する際、強誘電体層131の電荷を安定して検出することができる。
【0307】
上記構成を有する強誘電体記憶装置100における情報の書き込み及び読み込み方法は、再書き込みを、強誘電体記録媒体10からの情報の一回の読み込みごと、又は定められた回数の情報の読み込み後に行うことができる。これにより、強誘電体記録媒体10からの情報の読み込みによって減少した電荷を任意の読み込みごとに補うことができるため、強誘電体層131の電荷の減少量に応じて必要な時に再書き込みを適切に行うことができる。
【0308】
強誘電体記憶装置100は、導電性プローブ26の形状を円錐にできる。これにより、導電性プローブ26は鋭利な先端を有し、先鋭化することができるため、電界強度が高め、針状電極262への印加電圧を下げることができる。よって、強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10への情報記録を有利に行うことができる。
【0309】
強誘電体記憶装置100は、導電性プローブ26Aの形状を三角錐又は四角錐にできる。これにより、強誘電体記憶装置100は、鋭利な先端を有する導電性プローブ26を備えることができる。
【0310】
強誘電体記憶装置100は、導電性プローブ26Aの形状を、その先端を通る軸を中心とした回転対称形とすることができる。これにより、導電性プローブ26Aは、書き込み時において導電性プローブ26Aの先端で生ずる電界分布を均一化させると共に、読み込み時において導電性プローブ26Aと強誘電体層131との間に流れるトンネル電流を安定化させることができる。そのため、強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10への書き込み及び強誘電体記録媒体10の読み込みを安定して行うことができる。
【0311】
導電性プローブ26Aの製造方法は、導電性材料260の表面に三角形状又四角形状のマスクを形成する工程と、導電性材料260をエッチングして、三角錐又は四角錐に形成された針状電極262を得る工程とを含むことができる。これにより、基体261上に三角錐又は四角錐に形成された針状電極262を有する導電性プローブ26Aを再現性良く製造できる。
【0312】
また、導電性プローブ26Aの製造方法は、導電性材料260の表面に三角形状又四角形状の貫通孔72aを有するマスク72Aを形成する工程と、貫通孔72a内の導電性材料260の表面に導電材料を蒸着して、三角錐又は四角錐に形成された針状電極262Aを得る工程とを含むことができる。これにより、基体261上に三角錐又は四角錐に形成された針状電極262Aを有する導電性プローブ26Aを再現性良く製造できる。
【0313】
強誘電体記憶装置100は、導電性プローブ26Bが、導電性材料260からなる基体261と、凹部212と、先鋭化された針状電極213とを有し、針状電極213の一部を導電性材料260の表面から突出させることができる。これにより、強誘電体記憶装置100は、先鋭化された針状電極262の損傷を抑制できる。また、強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10の回転によって生じた気流により針状電極262が振動すること及び変形することを抑制できる。さらに、強誘電体記憶装置100は、針状電極262をシールドし、周囲の電荷の影響及び針状電極262からの電荷のリークを抑制できる。
【0314】
強誘電体記憶装置100は、導電性プローブ26Cが、導電性材料260からなる基体261と、基体261の上に設けられた、貫通孔263aを有する絶縁層263、貫通孔263aの内部の基体261の上に、円錐状に形成された針状電極262とを有し、針状電極の一部を、絶縁層263の表面から突出させることができる。この場合でも、強誘電体記憶装置100は、針状電極262の損傷を抑制できる。また、強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10の回転によって生じた気流により針状電極262が振動すること及び変形することを抑制できる。さらに、強誘電体記憶装置100は、針状電極262をシールドし、周囲の電荷の影響及び針状電極262からの電荷のリークを抑制できる。
【0315】
導電性プローブ26Bの製造方法は、導電性材料260の表面にフォトレジストを塗布する工程と、フォトレジスに微細な貫通孔(ホール)を形成する工程と、ホールを介してホール内の導電性材料260の表面をエッチングして凹状の窪み(凹部)を形成する工程と、ホールを有するフォトレジスの上に金属を蒸着する工程と、フォトレジストを除去し円錐状に形成された針状電極262を得る工程とを含み、針状電極262の一部を、導電性材料260から突出させることができる。これにより、導電性プローブ26Bを再現性良く製造することができる。
【0316】
導電性プローブ26Cの製造方法は、導電性材料260の上に、導電性材料260を酸化して絶縁層263を形成する工程と、絶縁層263の上に分離層29を形成する工程と、分離層29の表面にフォトレジスト82を塗布する工程と、フォトレジスト82に貫通孔82aを形成する工程と、貫通孔82aを導電性材料260の表面までエッチングする工程と、貫通孔82a内の導電性材料260の表面の上に金属を蒸着して、針状電極262を得る工程と、フォトレジスト82を除去する工程と、を含み、針状電極262の一部を、絶縁層263から突出させることができる。この場合でも、導電性プローブ26Cを再現性良く製造することができる。
【0317】
また、導電性プローブ26Cの製造方法は、導電性材料260の表面に三角形状又四角形状のマスクを形成する工程と、導電性材料260をエッチングして、三角錐又は四角錐に形成された針状電極262を得る工程とを含むことができる。これにより、基体261上に三角錐又は四角錐に形成された針状電極262を有する導電性プローブ26Cを再現性良く製造できる。
【0318】
また、導電性プローブ26Cの製造方法は、導電性材料260の表面に三角形状又四角形状の貫通孔72aを有するマスクを形成する工程と、貫通孔72a内の導電性材料260の表面に導電材料を蒸着して、三角錐又は四角錐に形成された針状電極262を得る工程とを含むことができる。これにより、基体261上に三角錐又は四角錐に形成された針状電極262を有する導電性プローブ26Cを再現性良く製造できる。
【0319】
即ち、導電性プローブ26の製造方法は、フォトレジスを用いて導電性プローブ26を製造する際、フォトレジスのホールを円形、三角形、四角形とすることができる。これにより、フォトレジスの上に金属を蒸着した後、フォトレジストを除去することで、基体261上に円錐状、三角錐又は四角錐に形成された針状電極262を有する導電性プローブ26を再現性良く製造できる。
【0320】
強誘電体記憶装置100は、記録再生信号処理部50で、導電性プローブ26と強誘電体記録媒体10との間の原子間力により生じた信号を検出することができる。これにより、強誘電体記憶装置100は、記録再生信号処理部50で、交流電界を使用することなく情報の読み込みを行うことができるため、読み込み速度が交流電界の周波数により制限を受けることがなくなる。よって、強誘電体記録媒体10に記憶された情報を高速で読み込むことができる。また、強誘電体層131に蓄えられている電荷量は減少しないため、再読み込みを行うことを省略することができる。
【0321】
強誘電体記憶装置100は、原子間力の検出を、プローブスライダー23と導電性プローブ26との間に設けられた圧電素子27によって行うことができる。これにより、強誘電体記憶装置100は、原子間力の検知能力を高めることができるため、強誘電体記録媒体10に記憶された情報をより高速で読み込むことができる。
【0322】
強誘電体記憶装置100は、圧電素子27又は電歪素子と、不図示の制御部とを備えることができる。強誘電体記憶装置100は、不図示の制御部で、導電性プローブ26からの読み込みシグナルに基づいて圧電素子27又は電歪素子への印加電圧を制御して圧電素子27又は電歪素子を伸縮させる。これにより、強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10と導電性プローブ26との距離を調整できるため、導電性プローブ26と強誘電体記録媒体10との距離の制御を高い精度で高速に行うことができる。
【0323】
ここで、従来の磁気ヘッドスライダーの構成の一例を示す断面図を
図29に示す。
図29に示すように、HDDに用いられる磁気ヘッドスライダー110は、磁気ヘッドスライダー110の内部に設けられた発熱体111と、発熱体111の下方側に磁気記録媒体120と対向するように設けられた磁気ヘッド112とを備える。磁気ヘッドスライダー110では、発熱体111に通電して発熱させることで磁気ヘッドスライダー110を熱膨張させ、磁気ヘッド112と磁気記録媒体120との距離、即ちDFHを調整する技術が用いられている(例えば、特開2003-168274号公報参照)。発熱体111は、DFHヒーターと呼ばれ、発熱体111に加えられる電力はDFHパワーと呼ばれる。このDFHを調整する技術により、磁気記録媒体120の表面での磁気ヘッドスライダー110の浮上量をナノレベルに保ちつつ、磁気記録媒体120の表面から磁気ヘッド112までの距離はサブナノレベルにまで狭くしていた。しかし、発熱体111を用いる場合の加熱範囲は磁気ヘッド112とこれを搭載する磁気ヘッドスライダー110の広範囲に及ぶため、発熱体111による磁気ヘッド112の加熱には時間を要し、DFH制御のレスポンスや精度は高くはない。また、強誘電体記録媒体10における漏れ電界は、磁気記録媒体120における磁気情報の読み込みに用いられる漏れ磁場よりも少ないため、それを検知する強誘電体記憶装置100では、更に高い精度のDFHの調整技術が求められる。
【0324】
また、
図29に示すような従来のDFH技術は発熱体111を用いるため、この技術を用いると、強誘電体層131の誘電率が熱変動する可能性がある。一方、強誘電体記憶装置100は、従来のDFH技術のような発熱体111を備えないため、強誘電体層131の誘電率が熱変動することを防ぐことができる。
【0325】
強誘電体記憶装置100は、不図示の制御部で、導電性プローブ26からの読み込みシグナルに基づいて圧電素子27又は電歪素子への印加電圧を制御して圧電素子27又は電歪素子を伸縮させることができる。これにより、強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10と導電性プローブ26との距離の制御をより簡易に高い精度で高速に行うことができる。
【0326】
強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体駆動部30が、ハウジング31と、軸受スリーブ32と、スピンドルシャフト33と、ハウジング底部34と、永久磁石35と、ステータ36と、潤滑油Oを有する。スピンドルシャフト33の軸端部331とハウジング底部34の少なくとも一方の曲率半径Rは、2mm以上の凸状又は凹状の球面とし、潤滑油Oは、無機物の導電性紛体を含有する。これにより、強誘電体記録媒体駆動部30は、すべり軸受の一種である流体軸受であり、スピンドルシャフト231とハウジング31との間に充填した潤滑油Oによって、スピンドルシャフト231の回転時に発生する動圧によって非接触でスピンドルシャフト231を安定して回転させることができるため、強誘電体記録媒体10を軸振れを少なくして低振動で回転駆動させることができる。また、無機物の導電性紛体は、耐熱性が高く、耐揮発性も良好で、潤滑油O中に含まされても、潤滑油Oの粘度が上昇することを抑制できる。よって、強誘電体記憶装置100は、長時間使用しても、強誘電体記録媒体駆動部30のトルクを安定させることができると共に、スピンドルシャフト231とハウジング31との導通の低下を抑えることができる。したがって、強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体10に対する情報の読み書きを安定化させることができる。
【0327】
従来は、非導電性である潤滑流体の流体膜の介在によりスピンドルシャフト33がハウジング31と接触しないため、スピンドルシャフト33は強誘電体記録媒体駆動部のハウジング31に対して電気的に浮いた状態となる。ここで、スピンドルシャフト33は強誘電体記録媒体を介して強誘電体層131とつながり、強誘電体層131に対して情報の書き込みを行う回路の一部を構成する。そのため、スピンドルシャフト33がハウジング31に対して電気的に浮いた状態となるのは強誘電体記録媒体10と導電性プローブ26との間に電圧を印加し情報の書き込みを行うのに支障がある。
【0328】
また、潤滑流体O中に導電材料を含有させる方法もある(例えば、特開2001-208069号公報参照)が、導電材料の添加により、潤滑油Oの粘度が高くなり、軸受トルクの増大を招いていた。使用時間が長くなると、導電材料が劣化して導電性が低下するため、強誘電体記録媒体10に適用しても、強誘電体記録媒体10に情報を書き込む際のエラーレートが高まる可能性が高い。
【0329】
強誘電体記憶装置100が、上記構成を有することで、強誘電体記録媒体駆動部30の長時間の使用に際してもトルクが安定し、スピンドルシャフト231とハウジング31との導通の低下を抑えることができるため、強誘電体記録媒体10に対する情報の読み書きを安定して行うことができる。
【0330】
強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体駆動部30が備えるスピンドルシャフト33の軸端部331とハウジング底部34の少なくとも一方の曲率半径Rは、2mm以上の凸状又は凹状の球面にできる。これにより、強誘電体記憶装置100は、強誘電体記録媒体駆動部30の長時間の使用に際してもトルクをより安定化し、またスピンドルシャフト231とハウジング31との導通の低下をより抑制できる。
【0331】
強誘電体記憶装置100は、スピンドルシャフト33の外周にV字型の溝部231Bを有することができる。これにより、スピンドルシャフト33が回転すると、潤滑油Oを溝部231BのV字の頂点に集め易くなるため、潤滑油Oに流れが発生し易くできる。そのため、潤滑油Oによる圧力を発生させ易くなるため、スピンドルシャフト33を支持し易くできる。
【0332】
強誘電体記憶装置100は、カバー37内に、永久磁石35とステータ36とを対向するように設けることができる。永久磁石35とステータ36の電磁石との結合により、スピンドルシャフト33を回転させることができると共に、スピンドルシャフト33には、下方へのスラストを発生させることができるため、スピンドルシャフト33を確実にハウジング底部34で支持することができる。
【0333】
強誘電体記憶装置100は、記録再生信号処理部50が、強誘電体記録層13に情報を書き込む際に導電性プローブ26に印加する電圧波形を、三角波、ノコギリ波及び台形波の何れかに調整できる。これにより、強誘電体記憶装置100は、導電性プローブ26の損傷を軽減できる。
【0334】
強誘電体記憶装置100は、筐体60を備え、筐体60内をアルゴンガス、窒素ガス、及びヘリウムガスの少なくとも一つで満たすことができる。筐体60内には、強誘電体記録媒体10、導電性プローブ26、プローブスライダー23、強誘電体記録媒体駆動部30及び記録再生信号処理部50が収容されているため、筐体60内をこれらのガスで満たすことで、強誘電体記憶装置100は、筐体60内で発生する摩擦帯電を緩和できる。よって、強誘電体記憶装置100は、電荷が強誘電体記録媒体10に記録された電荷と結合し書き込み情報が消失することと、導電性プローブ26による書き込みに悪影響を及ぼすことを抑制できる。
【0335】
<データ管理システム>
外部記憶装置として、上述の強誘電体記憶装置100を備えるデータ管理システムについて説明する。
図30は、データ管理システムの構成を示す図である。
図30に示すように、データ管理システム300は、高速通信ネットワーク上のデータを管理するデータ管理システムであり、データ管理部310と、少なくとも1つの外部記憶装置320とを備える。
【0336】
図30に示すように、データ管理部310は、内部記憶装置311を備える。
【0337】
データ管理部310は、高速通信ネットワーク上を流れる高速で多量のデータをそのまま外部記憶装置320に保存すると共に、保存するデータの読み出しに使用するメタデータを内部記憶装置311に記憶して保存する。これにより、データ管理部310は、高速通信ネットワーク上を流れる高速で多量のデータを外部記憶装置320に保存できる。外部記憶装置320は、内部記憶装置311に比べ交換が容易なので、データ管理システムの拡張性を高めることができる。また、データ管理部310は、内部記憶装置311に保存したメタデータを利用することで外部記憶装置320から保存したデータを簡易に読み出すことができる。
【0338】
メタデータは、内部記憶装置311に保存され、外部記憶装置320に保存されたデータの付帯情報が記載されたデータである。メタデータは、具体的には、データの種類、サイズ、属性、書式、表題、著作者名、出版社名、関連キーワード、データが発生した時間、場所等を含む。また、メタデータは、データが保存された外部記憶装置320内での位置、例えば、ドライブ番号、トラック番号、セクター番号を含む。
【0339】
図30に示すように、外部記憶装置320は、データ管理部310とデータの送受信が可能に有線又は無線で連結されており、データ管理部310から送られる高速通信ネットワーク上のデータを記憶する。
【0340】
外部記憶装置320は、複数備えることができる。複数の外部記憶装置320は、並列に配置して設けられることが好ましい。複数の外部記憶装置320は、多量のデータを高速で保存できると共に、それぞれの外部記憶装置320のデータの保存に要する負荷を軽減できる。また、複数の外部記憶装置320が並列に配置して設けられることで、複数の外部記憶装置320は高い拡張性を有するので、保存可能なデータ容量を高めることができる。
【0341】
外部記憶装置320の構成の一例を
図31に示す。
図31に示すように、外部記憶装置320は、強誘電体記録媒体321を備え、記憶素子322、読み込み素子323及び駆動部324をさらに備えることが好ましい。
【0342】
強誘電体記録媒体321は、上述の強誘電体記録媒体10(
図8参照)と同様であるため、詳細は省略する。
【0343】
記憶素子322は、強誘電体記録媒体321にデータを保存するための素子である。
【0344】
読み込み素子323は、強誘電体記録媒体321からデータを読み出すための素子である。
【0345】
記憶素子322及び読み込み素子323は、上述の導電性プローブ26(
図15参照)等と同様であるため、これらの詳細は省略する。
【0346】
駆動部324は、記憶素子322を強誘電体記録媒体321の記憶面321a上で駆動させる第1駆動部324Aと、読み込み素子323を記憶面321a上で駆動させる第2駆動部324Bとを有する。第1駆動部324A及び第2駆動部324Bは、上述のプローブ駆動部40(
図8参照)と同様であるため、詳細は省略する。
【0347】
記憶素子322及び読み込み素子323は、駆動部324により、強誘電体記録媒体321の同一の記憶面321aを独立して駆動させてよい。
【0348】
外部記憶装置320は、過去に保存された古いデータを更新せずに削除して高速通信ネットワーク上の新しいデータを保存する、又は古いデータに新しいデータを上書きして保存してよい。
【0349】
即ち、外部記憶装置320に保存されたデータは、過去に保存された古いデータを更新したものではなく、過去に保存された古いデータを削除又は上書きして、高速通信ネットワーク上の新しいデータを保存したものであるのが好ましい。
【0350】
強誘電体記録媒体は回転媒体であり、強誘電体記録媒体321を高速で回転させながら、読み書き素子(記憶素子322及び読み込み素子323)をセクター方向(円周方向)及びトラック方向(半径方向)に移動させて情報の読み書きを行う。この方式で最も効率的なのは、連続したセクター及び連続したトラックでの情報の読み書きである。連続しない別のトラックやセクターへの情報の読み書きは、読み書き素子を別のトラック及びセクター等に移動するためのタイムロスが生ずる。そのため、過去に保存した古いデータを更新するためには、書き込み素子をそのデータが記憶されたトラック及びセクターに移動する必要があるため、タイムロスが生ずる。
【0351】
外部記憶装置320は、強誘電体記録媒体321に、過去に保存された古いデータを更新せずに削除して高速通信ネットワーク上の新しいデータを保存する、又は古いデータに新しいデータを上書きして保存するので、連続したセクター及び連続したトラックに情報を書き込むことができるので、高速でデータを保存できる。
【0352】
強誘電体記録媒体321に保存されるデータの接続関係の一例を
図32に示す。
図32(a)に示すように、外部記憶装置320に保存するデータは、階層構造をもつ記憶領域ではなく、
図32(b)に示すように、階層構造を持たない一元的な記憶領域に保存する。これにより、外部記憶装置320は、情報の書き込み時に記憶素子を強誘電体記録媒体321の別の階層位置に移動させるのに要する時間を軽減できるため、高速でデータを強誘電体記録媒体321に保存できる。
【0353】
なお、階層構造とは、強誘電体記録媒体321のある階層に属する一つのデータから、強誘電体記録媒体321の下位階層に位置する複数のデータが枝分かれした状態で配置されている構造である。
【0354】
このように、データ管理システム300は、データ管理部310と、少なくとも1つの外部記憶装置320とを備える。データ管理部310は、高速通信ネットワーク上のデータを外部記憶装置320に保存すると共に、メタデータを内部記憶装置311に保存する。外部記憶装置320は、複数備えることができる。データ管理システム300は、高速通信ネットワーク上を流れる高速で多量のデータをデータ管理部310から外部記憶装置320に保存できると共に、内部記憶装置311に保存したメタデータを利用することで、外部記憶装置320に保存したデータを簡易に読み出すことができる。また、外部記憶装置320は交換や追加が容易であり、複数備えることができるので、保存可能なデータ容量を高め、外部記憶装置320のデータの保存に要する負担を軽減できる。よって、データ管理システム300は、高記録密度で、高速に書き込むことができると共に、高い拡張性を有することができる。したがって、データ管理システム300は、高速通信ネットワーク上のデータを効率的に保存できると共に、利便性を高めることができる。
【0355】
データ管理システム300は、データ管理部310を高速通信ネットワークに接続し、外部記憶装置320をデータ管理部310に接続して構成することができる。これにより、データ管理システム300は、高速通信ネットワーク上のデータをデータ管理部310を介して外部記憶装置320に保存できると共に、外部記憶装置320に保存したメタデータの読み出しに使用するメタデータを内部記憶装置311に確実に保存できる。よって、データ管理システム300は、データ管理システム300は、高速通信ネットワーク上のデータを効率的に保存できると共に、外部記憶装置320に保存したデータをより速く読み出すことができる。
【0356】
データ管理システム300は、複数の外部記憶装置320を並列に配置できる。これにより、データ管理システム300は、高速通信ネットワーク上のデータをそれぞれの外部記憶装置320に分散して均等に書き込みことができる。よって、データ管理システム300は、複数の外部記憶装置320に多量のデータを高速でさらに効率的に保存できると共に、拡張性をより向上させることができる。したがって、データ管理システム300は、保存可能なデータ容量を高めつつ、利便性をより高めることができる。
【0357】
データ管理システム300では、外部記憶装置320が、強誘電体記録媒体321に記録された古いデータを更新せずに削除して高速通信ネットワーク上の新しいデータを保存するか古いデータに新しいデータを上書きして保存できる。これにより、データ管理システム300は、外部記憶装置320の強誘電体記録媒体321にデータを書き込み易くすることができると共に、外部記憶装置320に保存したデータを読み出しも容易になる。よって、データ管理システム300は、外部記憶装置320にデータを高速を維持したまま確実に保存し、また読み出しすることができる。
【0358】
データ管理システム300では、外部記憶装置320が、記憶素子322、読み込み素子323及び駆動部324を備えることができる。これにより、データ管理システム300は、強誘電体記録媒体321の同一の記憶面321aにおいて、連続したセクター及び連続したトラックでの情報の書き込み及び読み込みを同時に行うことができる。また、連続したセクター及び連続したトラックでの情報の書き込み中に、散発的に発生する情報の読み込み要求を処理することが可能となる。よって、データ管理システム300は、強誘電体記録媒体321に高速でデータを保存できると共に、保存したデータの読み出しを行うことができる。
【実施例0359】
以下、実施例及び比較例を示して実施形態を具体的に説明するが、実施形態はこれらの実施例及び比較例により限定されるものではない。
【0360】
<実施例1>
[強誘電体層形成用ターゲットの作製]
(Hf0.5Zr0.5O2ターゲットの作製)
HfO2粉末とZrO2粉末を1:1で混合した混合物を、水を溶媒としてスラリー化した後、スプレードライして混合紛体を製造した。この混合紛体をプレスにより形成した成形体を、不活性雰囲気中で焼結してターゲットを作製した。作製したターゲットの密度は、Hf0.5Zr0.5O2の理論値に対して約96%であった。
【0361】
(4(Y2O3)-96(HfO2)ターゲットの作製)
Y2O3粉末、酸化ハフニウム(HfO2)粉末を4:96で混合したこと以外は、上記の(Hf0.5Zr0.5O2ターゲットの製造)と同様に行い、4(Y2O3)-96(HfO2)ターゲットを作製した。作製したターゲットの密度は4(Y2O3)-96(HfO2)の理論値に対して約95%であった。
【0362】
[強誘電体記録媒体の作製]
強誘電体記録媒体を次の方法で作製した。基板としてノンドープ単結晶シリコン、面方位(001)を用いた。基板の形状は、中央に開口部を有する円盤状で、外径65mm、内径20mm、厚さ0.8mmとした。円盤状の基板を、成膜装置(キャノンアネルバ社製)内に入れて、基板の表面にRFスパッタ法を用いて、基板温度200℃、スパッタガスにAr、圧力1Paで、電極層として金(Au)を30nm成膜した。次に、RFスパッタ法を用いて、基板温度350℃、スパッタガスにArとO2(混合比率は3:1)、圧力1Paで、常誘電体層としてCeO2を30nm成膜した。次に、RFスパッタ法を用いて、基板温度400℃、スパッタガスにArとO2(混合比率は3:1)、圧力1Paで、強誘電体層としてHf0.5Zr0.5O2を30nm成膜した。その上に、イオンビーム法を用いて、基板温度150℃で、保護層として硬質炭素膜(DLC膜)を5nm成膜した。なお、電極層は基板の全表面に成膜したが、常誘電体層、強誘電体層、保護層は、内周部の幅10mmをマスキングすることで、中央の開口部周辺には成膜しなかった。最後に、保護層上に、ディップ法でパーフルオロポリエーテル系の潤滑剤を膜厚1.5nm塗布して潤滑剤層を形成し強誘電体記録媒体を得た。
【0363】
強誘電体記録媒体を構成する各層の構成を表1~表4に示す。
【0364】
[強誘電体層の特性の評価]
強誘電体記録媒体が有する強誘電体層の特性として、強誘電体層の、XRDによる(111)面の回折強度、平滑性、リーク電流密度及び経時的な劣化によるリーク電流密度を評価した。
【0365】
(強誘電体層の、XRDによる(111)面の回折強度の評価)
[強誘電体記録媒体の作製]において強誘電体層まで成膜した後、基板を成膜装置から取り出した。取り出した基板について、X線回折装置(XRD、入射X線:θ、検出角度:2θ)を用いて、Hf0.5Zr0.5O2の(111)面の回折強度を測定した結果、強度は1200cpsであった。測定結果を表5に示す。
【0366】
(強誘電体層の平滑性の評価)
[強誘電体記録媒体の作製]において強誘電体層まで成膜した後、強誘電体層まで成膜した基板を成膜装置から取り出した。取り出した基板の強誘電体層側の表面粗さ(Ra)を測定し、下記評価基準に基づいて、強誘電体層の表面粗さを評価した。測定には、原子間力顕微鏡(BRUKER社製)を用いた。
((評価基準))
A:基板の表面粗さが、0.5nm未満であった。
B:基板の表面粗さが、0.5nm~1.0nm未満であった。
C:基板の表面粗さが、1.0nm以上であった。
【0367】
(強誘電体層のリーク電流密度の評価)
上述の(強誘電体層の結晶構造の評価)と同様、上述の[強誘電体記録媒体の作製]において強誘電体層まで成膜した後、基板を成膜装置から取り出した。取り出した基板の強誘電体層の表面に0.5mm角のAu電極パッド(膜厚200nm)を形成し、評価用サンプルを作製した。この評価用サンプルの電極層とAu電極パッドの間のリーク電流密度を測定した結果、5V印加時で、約5×10-6A/cm2であった。測定結果を表5に示す。
【0368】
(強誘電体層の経時的な劣化によるリーク電流密度の評価)
上述の[強誘電体記録媒体の作製]において作製した強誘電体記録媒体を、温度80℃、湿度80%の環境下に2週間保持した。取り出した強誘電体記録媒体を乾燥後、半径40mmの位置に0.5mm角のAu電極パッド(膜厚200nm)を形成し、評価用サンプルを作製した。この評価用サンプルを強誘電体記憶装置のスピンドルシャフトに取り付け、評価用サンプルのスピンドルシャフトとAu電極パッドの間のリーク電流密度を測定した結果、5V印加時で、約5×10-6A/cm2であった。測定結果を表5に示す。
【0369】
なお、後述する実施例13の強誘電体記録媒体の、経時的な劣化によるリーク電流密度は、5V印加時で、約1×10-5A/cm2であった。測定結果を表5に示す(実施例13参照)。
【0370】
強誘電体層の上記各特性の評価結果を表5に示す。
【0371】
[強誘電体記憶装置の製造]
(第1の導電性プローブの製造)
第1の導電性プローブを次の方法で製造した。厚さ0.2mmの水晶基板、面方位(0001)の上にモリブデンをスパッタ法により厚さ1μm成膜し、フォトレジスト法によりモリブデン表面に1辺が0.3μmの正三角形の開口部を有するフォトレジストパターンを形成した。次に、ウェットエッチングにより、フォトレジストパターンに覆われていない部分のモリブデンを約0.3μmの深さまでエッチングした。エッチング液としては、リン酸(H3PO4)、硝酸(HNO3)、酢酸(CH3COOH)及び水の混合液を用いた。その後、スパッタ法によりモリブデンを厚さ1μm成膜した。その後、プローブ形成部を含む水晶基板を0.5mm角に切断し、その後、フォトレジストを剥離することで、水晶基板上にモリブデンの針状電極を有する第1の導電性プローブのチップを形成した。このチップの針状電極は、周囲はモリブデン層で覆われ、針の先端部はこのモリブデン層からわずかに突出していた。
【0372】
(第1のプローブスライダーの製造)
Al2O3-TiC(AlTiC)からなる第1のプローブスライダーを製造した。第1のプローブスライダーの外形は、浮上面が2mm×1.5mm、厚さが0.5mm、空気流の流入端面であるリーディング端面の幅が0.2mmとし、流出端面には第1の導電性プローブのチップを取り付けるための0.2mmの凹部を設けた。また、流出端面には、導電性プローブへのAu配線、圧電素子(水晶)に電圧を印加するためのAu電極及び配線を設けた。
【0373】
(第2の導電性プローブ及び第2のプローブスライダーの製造)
厚さ0.2mmの単結晶シリコン基板(面方位(001))を550℃に加熱し、その表面にRFスパッタ法で、200nmのAuの電極層(第1電極)、500nmのPZT層(電歪素子)、200nmのAuの電極層(第2電極)、500nmのPZT層(圧電素子)、200nmのAuの電極層(第3電極)を成膜した。各電極層についてはフォトリソグラフィーにより積層構造の外部に電極層と通ずる回路パターンを設けた。その上に第1の導電性プローブと同様の方法でモリブデンの針状電極を形成し、第2の導電性プローブのチップを製造した。
【0374】
この第2の導電性プローブのチップを用いて、第1のプローブスライダーと同様の方法で、第2のプローブスライダーを製造した。第2のプローブスライダーには、第1電極、第2電極、第3電極と通ずる配線を設けた。ここで、第1電極と第2電極は電歪素子への電圧印加に、第2電極と第3電極は圧電素子からの出力信号の検出に、また第3電極は強誘電体記録媒体への書き込み信号の印加に用いられる。
【0375】
(強誘電体記録媒体駆動部の製造)
強誘電体記録媒体の回転駆動として、
図26に示す構造を有するスピンドルモータを製造した。ハウジングにはアルミニウム合金を使用し、軸部材はS45C焼入れ鋼で直径は3mm、軸端部は曲率半径Rが6mmの凸形状とした。軸受スリーブには円筒状の50Cu-47Fe-3Sn焼結金属を、ハウジング底部には平板の50Cu-47Fe-3Sn焼結金属を用いた。潤滑油には、ISO VG100を使用し、これに導電性炭素繊維(VGCF-H、昭和電工社製、繊維径150nm)を2質量%添加した。
【0376】
(プローブ駆動部の製造)
プローブ駆動部として、
図8に示す構造を有するプローブ駆動部を製造した。汎用のHDD用駆動部を用いて製造した。
【0377】
(制御部の製造)
制御部として、
図8に示す構造を有する制御部を製造した。汎用の電源、制御機器を用いて製造した。
【0378】
(記録再生信号処理部の製造)
記録再生信号処理部を製造した。書き込み信号については、書き込み情報に対応する正又は負の電圧を生成するバイポーラ電源で、読み込みについては、導電性プローブと強誘電体記録層との間に流れる微弱なトンネル電流を増幅するアンプと、これをデジタルデータに変換するA/D変換装置で構成した。バイポーラ電源の発生波形には三角波を用いた。また、導電性プローブとヘッドスライダーの間に設けた圧電素子を伸縮させるDC電源を設けた。
【0379】
(筐体)
筐体として、
図8に示す構造を有する筐体を製造した。
【0380】
(強誘電体記憶装置1の製造)
製造した、強誘電体記録媒体、第1の導電性プローブ、第1のプローブスライダー、強誘電体記録媒体駆動部、プローブ駆動部、制御部、記録再生信号処理部及び筐体を用いて、
図8に示す構造を有する強誘電体記憶装置1を製造した。プローブスライダーの先端の下面に導電性プローブを搭載し、このプローブスライダーをサスペンションアームに取り付け、これをボイスコイルモータで強誘電体記録媒体の表面を駆動する構造とした。強誘電体記憶装置の筐体は密閉し、内部は大気圧のアルゴンガスで満たした。また、筐体内に乾燥剤として1gのシリカゲルを封入した。
【0381】
(強誘電体記憶装置2の製造)
強誘電体記憶装置1の導電性プローブ及びプローブスライダーを第2の導電性プローブ及び第2のプローブスライダーに変更したこと以外は、強誘電体記憶装置1と同様にして行い、強誘電体記憶装置2を製造した。
【0382】
[強誘電体記憶装置1の性能]
強誘電体記憶装置1の性能として、強誘電体記憶装置1の記録再生試験1と、読み込み時のトンネル電流差の測定と、摩擦帯電電荷量の測定とを行った。
【0383】
(記録再生試験)
製造した強誘電体記憶装置1の記録再生試験を行った。強誘電体記録媒体を5400rpmで回転させ、プローブスライダーを強誘電体記録媒体表面で浮上走行させ、プローブスライダーの位置を強誘電体記録媒体の半径40mmのトラック位置に固定した。その後、導電性プローブを情報読み込み回路に切り替え、強誘電体記録媒体と導電性プローブとの間に+500mVのバイアス電圧を印加し、導電性プローブからのトンネル電流をモニターした。そして、圧電素子にDC電圧を印加することで導電性プローブを強誘電体記録媒体に徐々に近づけ、トンネル電流の平均値が2pAとなる位置で圧電素子に印加する電圧を固定した。
【0384】
その後、導電性プローブを情報書き込み回路に切り替え、そのトラック位置で255個のセクターの情報を書き込んだ。各セクターは、データ領域とサーボ情報領域から構成し、サーボ情報領域はバースト情報領域とアドレス情報領域から構成した。情報の書き込みはピーク電圧が±5Vの三角波によって行い、書き込み周波数は2.3GHzとした。情報の書き込みは1回とし、書き込み時間は約10m秒とした。これは、強誘電体記録媒体の表面での円周方向の一ビット長さで10nmに相当する。
【0385】
強誘電体記録媒体への情報の書き込み後、導電性プローブを情報読み込み回路に切り替え、トンネル電流をモニターした。その際、圧電素子に印加する電圧を調整し、SNRが3dB以上になるようにした。トンネル電流の振幅は約3pA、強誘電体記録媒体への情報の書き込み終了から読み込みまでの時間は約0.1m秒であった。
【0386】
以上の方法により、強誘電体記憶装置1に情報を書き込み、書き込んだ情報を読み込むことができることを確認した。
【0387】
以上の情報の読み込みを10回繰り返したところ、情報の読み込み時のSNRが3dB未満となったため、同一のトラック位置に、同一のデータの再書き込みを行った。その結果、情報読み込み時のSNRは3dB以上に回復した。
【0388】
(読み込み時のトンネル電流差の測定1)
強誘電体記録媒体からの情報の読み込みに際し、強誘電体層を正にチャージしたビットと負にチャージしたビットでのトンネル電流差を測定した。強誘電体記録媒体と導電性プローブとの間のバイアス電圧は+500mVとした。具体的には、強誘電体層の表層側を正にチャージしたビットのトンネル電流は減少し、負にチャージしたビットのトンネル電流は増加するが、表層側を正にチャージしたビットのトンネル電流が1pAとなるよう導電性プローブと強誘電体記録媒体との距離を調整した時の、負にチャージしたビットからのトンネル電流を測定した。その結果、負にチャージしたビットからのトンネル電流は約3pAで、両者のトンネル電流差は約2pAであった。結果を表6に示す。
【0389】
(読み込み時のトンネル電流差の測定2)
強誘電体記録媒体からの情報の読み込みに際し、強誘電体記録媒体と導電性プローブとの間に±500mVのバイアス電圧を印加した。バイアス電圧は1GHzの矩形波とし、読み込み速度は500Mビット/秒とした。
【0390】
導電性プローブへのバイアス電圧が-500mV時で、強誘電体層の表層側を正にチャージしたビットのトンネル電流が平均で5pAとなるよう導電性プローブと強誘電体記録媒体との距離を調整した。この時、導電性プローブへのバイアス電圧を+500mVとすると、トンネル電流の平均値は1pAに低下した。これは、強誘電体層と常誘電体層との接合部において整流効果を有するためと考えられる。また、強誘電体層の表層側を負にチャージしたビットにおいて同様の評価を行うと、順方向のトンネル電流は平均で25pA、逆方向のトンネル電流は5pAとなった。以上の測定から、導電性プローブへのバイアス電圧を正及び負に変化させた場合の、正にチャージしたビットと負にチャージしたビットのトンネル電流差は、最大で20pAであった。結果を表6に示す。
【0391】
(摩擦帯電電荷量)
上述の[強誘電体記憶装置の製造]で作製した強誘電体記憶装置(即ち、内部を大気圧のアルゴンガスを満たして筐体を密閉して乾燥剤を封入した強誘電体記憶装置)を除電した。その後、強誘電体記録媒体を5600rpmで回転させ、プローブスライダーを4Hz(最内周から最外周へシークした後、最内周へ戻る動作を1周期とする)で1時間のシーク動作を行った。その後、シーク動作を停止して1秒後の筐体と導電性プローブとの間の電荷量を測定した結果、摩擦帯電電荷量は0.1nCであった。
【0392】
参考用強誘電体記憶装置として、内部を大気圧の窒素ガスで満たして筐体を密閉して乾燥剤を封入した第1の参考用強誘電体記憶装置(実施例11)を製造すると共に、内部に乾燥剤を配置してフィルターを通して内部を大気とした第2の参考用強誘電体記憶装置(実施例12)を製造した。これらの参考用強誘電体記憶装置を、実施例1の強誘電体記憶装置と同様にして電荷量を測定した結果、第1の参考用強誘電体記憶装置では摩擦帯電電荷量は3nCであり、第2の参考用強誘電体記憶装置では摩擦帯電電荷量は4nCであった。
【0393】
よって、実施例1の強誘電体記憶装置は、筐体内にアルゴンガスを封入することで、摩擦帯電を緩和できることを確認された。
【0394】
[強誘電体記憶装置2の性能]
強誘電体記憶装置2の性能として、強誘電体記録媒体からの情報の読み込みに際し、原子間力を用いた読み込みを行った。原子間力を用いた読み込みは、強誘電体記憶装置2の記録再生試験時の圧電素子から得られた読み込み情報の信号の振幅を測定して行った。
【0395】
(原子間力を用いて読み込んだ時の圧電素子から得られた読み込み情報の信号の振幅の測定3)
製造した強誘電体記憶装置の記録再生試験を行った。強誘電体記録媒体を5400rpmで回転させ、プローブスライダーを強誘電体記録媒体表面で浮上走行させ、プローブスライダーの位置を強誘電体記録媒体の半径40mmのトラック位置に固定した。その後、第2電極、第3電極間の圧電素子からの出力電圧をモニターしながら、第1電極、第2電極間の電歪素子に印加するDC電圧を徐々に高めることで導電性プローブを強誘電体記録媒体に近づけ、圧電素子からの出力電圧の平均値が+5μV程度となるように電歪素子に印加する電圧を制御した。
【0396】
この状態で、第3電極より導電性プローブに情報書き込み信号を印加し、そのトラック位置に255個のセクターの情報を書き込んだ。各セクターは、データ領域とサーボ情報領域から構成し、サーボ情報領域はバースト情報領域とアドレス情報領域から構成した。情報の書き込みはピーク電圧が±5Vの三角波によって行い、書き込み周波数は2.3GHzとした。情報の書き込みは1回とし、書き込み時間は約10m秒とした。これは、強誘電体記録媒体の表面での円周方向の一ビット長さで10nmに相当する。
【0397】
強誘電体記録媒体への情報の書き込み後、圧電素子からの出力電圧をモニターしながら、電歪素子に印加する電圧を調整し、圧電素子からの出力電圧のSNRが3dB以上になるようにした。その結果、強誘電体記録媒体からは書き込んだものと同じの、255個のセクターの情報が読み込まれた。圧電素子からの読み込み情報の信号の振幅は約3μVで、強誘電体記録媒体への情報の書き込み終了から読み込みまでの時間は約0.1m秒であった。圧電素子から得られた読み込み情報の信号の振幅の測定結果を表6に示す。
【0398】
<実施例2~6>
実施例1において、[強誘電体記録媒体の作製]で、電極層に含まれる材料を、表2に示すように、Ge、Pb、Al、Cu、Crに変更したこと以外は、実施例1と同様にして行った。各実施例における強誘電体層のHf0.5Zr0.5O2の(111)面の回折強度と、強誘電体記憶装置の記録再生試験を行った。強誘電体記録媒体を構成する各層の構成を表1~表4に示し、強誘電体層の形成条件及び特性の評価結果を表5に示し、誘電体記憶装置の試験結果を表6に示す。
【0399】
<実施例7~9>
実施例1において、[強誘電体記録媒体の作製]で、常誘電体層に含まれる材料を、表3に示すように、10(Y2O3)-90(ZrO2)、Al2O3、TiO2に変更したこと以外は、実施例1と同様にして行った。各実施例における強誘電体層のHf0.5Zr0.5O2の(111)面の回折強度と、強誘電体記憶装置の記録再生試験を行った。強誘電体記録媒体を構成する各層の構成を表1~表4に示し、強誘電体層の形成条件及び特性の評価結果を表5に示し、誘電体記憶装置の試験結果を表6に示す。
【0400】
<実施例10>
実施例1において、[強誘電体記録媒体の作製]で常誘電体層を設けなかったこと以外は実施例1と同様にして行った。本実施例における強誘電体層のHf0.5Zr0.5O2の(111)面の回折強度と、強誘電体記憶装置の記録再生試験と、摩擦帯電電荷量の測定とを行った。なお、本実施例では、強誘電体層まで成膜した基板の電極層とAu電極パッドの間のリーク電流密度は、5V印加時で、約1×10-5A/cm2であった。強誘電体記録媒体を構成する各層の構成を表1~表4に示し、強誘電体層の形成条件及び特性の評価結果を表5に示し、誘電体記憶装置の試験結果を表6に示す。
【0401】
<実施例11及び12>
実施例1において、内部を大気圧の窒素ガス又は大気で満たして筐体を密閉して乾燥剤を封入したこと以外は、実施例1と同様にして行った。強誘電体記録媒体を構成する各層の構成を表1~表4に示し、強誘電体層の形成条件及び特性の評価結果を表5に示し、誘電体記憶装置の試験結果を表6に示す。
【0402】
<実施例13>
実施例1において、[強誘電体記録媒体の作製]で、基板の内周部の幅10mmをマスキングせずに成膜したこと以外は実施例1と同様にして行い、基板の全表面に電極層、常誘電体層、強誘電体層、保護層を成膜した強誘電体記録媒体を作製した。強誘電体記録媒体を構成する各層の構成を表1~表4に示し、強誘電体層の形成条件及び特性の評価結果を表5に示し、誘電体記憶装置の試験結果を表6に示す。
【0403】
<実施例14、比較例1~4>
実施例1において、[強誘電体記録媒体の作製]で、基板に用いる材料を、表1に示すように、サファイア基板a面(実施例14)、NiP無電解メッキアルミニウム5000系合金基板(比較例1)、アモルファスガラス基板(比較例2)、MgO(100)面基板(比較例3)、サファイア基板c面(比較例4)に変更し、比較例1では電極層を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にして行った。各実施例及び比較例における強誘電体層のHf0.5Zr0.5O2の(111)面の回折強度と、強誘電体記憶装置の記録再生試験を行った。強誘電体記録媒体を構成する各層の構成を表1~表4に示し、強誘電体層の形成条件及び特性の評価結果を表5に示し、誘電体記憶装置の試験結果を表6に示す。
【0404】
<実施例15>
実施例1において、強誘電体層の成膜時の基板温度を80℃下げて320℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして行った。強誘電体記録媒体を構成する各層の構成を表1~表4に示し、強誘電体層の形成条件及び特性の評価結果を表5に示し、誘電体記憶装置の試験結果を表6に示す。
【0405】
<実施例16>
実施例5において、強誘電体層の成膜時の基板温度を80℃下げて320℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして行った。強誘電体記録媒体を構成する各層の構成を表1~表4に示し、強誘電体層の形成条件及び特性の評価結果を表5に示し、誘電体記憶装置の試験結果を表6に示す。
【0406】
<実施例17>
実施例6において、強誘電体層の成膜時の基板温度を80℃下げて320℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして行った。強誘電体記録媒体を構成する各層の構成を表1~表4に示し、強誘電体層の形成条件及び特性の評価結果を表5に示し、誘電体記憶装置の試験結果を表6に示す。
【0407】
なお、実施例15~17は、何れもXRD(111)回折パターンはハローとなり回折強度も低下したが、基板を520℃(成膜温度に対して+200℃)で加熱したところ、ハローパターンは鋭いピークを持つシグナルに変化し、回折強度はそれぞれ、1800(実施例15)、1600(実施例16)、1600(実施例17)となった。この結果、電子顕微鏡観察及び電子線回折結果から、実施例15~17の強誘電体層は、縦横高さが2nm以下の短距離秩序性を有するアモルファス構造となっていたことが推測される。よって、実施例15~17は、それぞれ、実施例1、5及び6と対比して、リーク電流密度に変化はなかったが、強誘電体層の成長面の平滑性は何れも向上した。
【0408】
<実施例18~23>
実施例1において、[強誘電体記録媒体の作製]で、常誘電体層及び強誘電体層の膜厚を表3及び表4に示す値に変更したこと以外、実施例1と同様にして行った。
【0409】
【0410】
【0411】
【0412】
【0413】
【0414】
【0415】
表6より、実施例1、2-1~2-3、3~23では、情報の読み込みが可能であることが確認され、読み込み時に強誘電体記録媒体から得られる原子間力とトンネル電流には相関があることが確認された。
【0416】
よって、電歪素子に電圧印加する方法により、強誘電体記憶装置に情報を書き込むと共に、書き込んだ情報を読み込むことができる。
【0417】
<実施例2-1~2-3>
実施例2において、[強誘電体記録媒体の作製]における、強誘電体層の組成及び成膜方法を、表7に示すように変更したこと以外は、実施例2と同様にして強誘電体層まで成膜して、基板を成膜装置から取り出し、各実施例における強誘電体層の酸化ハフニウムの(111)面の回折強度を測定した。また、作製した強誘電体層を用いて、実施例1と同様にして強誘電体記憶装置を製造し、製造した強誘電体記憶装置の記録再生試験と、読み込み時のトンネル電流差の測定とを行った。これらの試験結果を表7に示す。
【0418】
なお、成膜時の基板温度は、何れも400℃とした。また、マイクロ波プラズマMOCVD法では、原料ガスとして、ハフニウム源にテトラキス(エチルメチルアミド)ハフニウム、ジルコニウム源にテトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウムを使用し、これに酸素とアルゴンを1:1で加えて用いた。反応圧力は100Pa、投入電力は800W(2.45GHz)とした。MOCVD法では、マイクロ波を印加せずに、基板加熱のみを行った。取り出した基板について、XRD θ-2θスキャンを行い、酸化ハフニウムの(111)面回折強度を測定した。測定結果を表7に示す。
【0419】
【0420】
表7より、成膜時の反応空間をプラズマでアシストすることで、強誘電体層の結晶性が高まることが確認された。
【0421】
また、表7より、実施例2-1~2-3でも、実施例1と同様に情報の読み込みが可能であり、読み込み時に強誘電体記録媒体から得られる原子間力とトンネル電流には相関があることが確認された。よって、実施例2-1~2-3においても、電歪素子に電圧印加する方法により、強誘電体記憶装置に情報を書き込むと共に、書き込んだ情報を読み込むことができる。
【0422】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更等を行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。