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特開2022-104654常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104654
(43)【公開日】2022-07-11
(54)【発明の名称】常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/00 20060101AFI20220704BHJP
   C08G 14/073 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
C08G73/00
C08G14/073
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020219733
(22)【出願日】2020-12-29
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000105648
【氏名又は名称】コニシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慎一
(72)【発明者】
【氏名】藤野 直彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 嘉晃
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 剛
【テーマコード(参考)】
4J033
4J043
【Fターム(参考)】
4J033EA34
4J033EB23
4J033HB03
4J043PA02
4J043QC23
4J043RA52
4J043ZB50
(57)【要約】
【課題】 耐熱性に優れた硬化物を与える、常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 常温固形のビスフェノールA型シアネート樹脂を加熱溶融した溶融液を得る。この溶融液中に、常温液状のトリメチロールプロパンジアリルエーテルを添加混合して混合液を得る。この混合液中に、常温固形のP-d型ベンゾオキサジンを添加混合し、P-d型ベンゾオキサジンを溶融させる。その後、常温に冷却して、多官能シアネート化合物と水酸基含有化合物との反応生成物、多官能シアネート化合物及びベンゾオキサジン環含有化合物が相溶されてなる、常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物を得る。溶融液として、常温固形のビスフェノールA型シアネート樹脂及び常温固形の多官能マレイミド化合物の両者を加熱溶融したものを用いて、さらに、多官能マレイミド化合物が相溶されてなる、常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物を得る。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能芳香族系シアネート化合物と水酸基含有化合物との反応生成物、多官能芳香族系シアネート化合物及びベンゾオキサジン環含有化合物が相溶されてなる、常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物。
【請求項2】
水酸基含有化合物の水酸基がフェノール性である請求項1記載の無溶剤型熱硬化性組成物。
【請求項3】
水酸基含有化合物の水酸基がアルコール性である請求項1記載の無溶剤型熱硬化性組成物。
【請求項4】
多官能芳香族系シアネート化合物1モルに対して、反応生成物が0.0001~0.3モル存在する請求項1記載の無溶剤型熱硬化性組成物。
【請求項5】
多官能芳香族系シアネート化合物100質量部に対して、ベンゾオキサジン環含有化合物が1~30質量部存在する請求項1記載の無溶剤型熱硬化性組成物。
【請求項6】
さらに、多官能マレイミド化合物が相溶されてなる、請求項1記載の無溶剤型熱硬化性組成物。
【請求項7】
多官能シアネート化合物100質量部に対して、多官能マレイミド化合物が1~30質量部存在する請求項6記載の無溶剤型熱硬化性組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物が凍結してなる冷凍物。
【請求項9】
常温固形の多官能芳香族系シアネート化合物を加熱溶融した溶融液と、常温液状の水酸基含有化合物とを混合した混合液に、常温固形のベンゾオキサジン環含有化合物を投入し、該混合液中でベンゾオキサジン環含有化合物を溶融させた後、常温に冷却することを特徴とする請求項1記載の常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物の製造方法。
【請求項10】
常温固形の多官能芳香族系シアネート化合物及び常温固形の多官能マレイミド化合物の両者を加熱溶融した溶融液と、常温液状の水酸基含有化合物とを混合した混合液に、常温固形のベンゾオキサジン環含有化合物を投入し、該混合液中でベンゾオキサジン環含有化合物を溶融させた後、常温に冷却することを特徴とする請求項6記載の常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物の製造方法。
【請求項11】
多官能芳香族系シアネート化合物のシアネート基1モルに対して、水酸基含有化合物の水酸基が0.00005~0.1モルの比となるように混合液を調製する請求項9又は10記載の常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体又はプリント配線基板等の電気・電子材料の封止材、含浸材又は接着剤等として使用しうる熱硬化性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体等の電気・電子材料の封止材として、耐熱性に優れた硬化物が採用されている。かかる硬化物を得るための熱硬化性組成物として、多官能マレイミド化合物、ベンゾオキサジン環含有化合物及び多官能芳香族系シアネート化合物が混合されてなる組成物が知られている(非特許文献1)。しかるに、非特許文献1に記載されている各化合物は、いずれも常温で固形のものである。したがって、硬化物を得るためには、この組成物を加熱し各化合物を溶融混合した後に、さらに高温で加熱硬化させる方法が採用されている(非特許文献1、P.96左欄2.2.2の項を参照)。
【0003】
しかしながら、各化合物が固形であることから、加熱硬化の前に、硬化温度よりも低温で各化合物を溶融させ均一に混合しなければならず、使い勝手が悪いという欠点があった。また、各化合物を溶剤に溶解させて液状の組成物とすることも考えられるが、この場合には、加熱硬化時等において溶剤を蒸発させなければならず、作業環境が悪化するという問題があった。
【0004】
【非特許文献1】岡本真・高橋昭雄・大山俊幸共著、「マレイミド/ベンゾオキサジン/シアン酸エステルの反応に基づく高耐熱性樹脂」、ネットワークポリマー Vol.35 No.3(2014)P.94-101
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記した各化合物が相溶してなる、常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
多官能マレイミド化合物、ベンゾオキサジン環含有化合物及び多官能芳香族系シアネート化合物の各化合物は常温で一般的に固形であり、加熱し溶融させて各化合物を均一に混合し液状とした後に、常温に冷却すると、各化合物は再び固形に戻る。しかるに、液状とした時点で特定の化合物(反応生成物)が配合されていると、常温に冷却しても、各化合物は相溶した状態を一定期間維持し、固形に戻らないことを、本発明者等は発見した。本発明は、かかる発見に基づくものである。
【0007】
すなわち、本発明は、多官能芳香族系シアネート化合物と水酸基含有化合物との反応生成物、多官能芳香族系シアネート化合物及びベンゾオキサジン環含有化合物が相溶されてなる、常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物及びその製造方法に関するものである。また、本発明は、多官能芳香族系シアネート化合物と水酸基含有化合物との反応生成物、多官能マレイミド化合物、多官能芳香族系シアネート化合物及びベンゾオキサジン環含有化合物が相溶されてなる、常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物及びその製造方法に関するものである。
【0008】
[用語の定義]
本発明において、「常温」とは、10~30℃の温度をいう。したがって、「常温液状」とは、温度10~30℃の全範囲において、液状となっているということである。
本発明において、「無溶剤型」とは、溶剤を用いて各化合物を溶解させていないことをいう。したがって、無溶剤型熱硬化性組成物とは、組成物中の各化合物が溶剤によって溶解されていない組成物のことである。
【0009】
本発明に係る常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物は、多官能芳香族系シアネート化合物と水酸基含有化合物との反応生成物、多官能芳香族系シアネート化合物及びベンゾオキサジン環含有化合物が相溶されてなる。
【0010】
多官能芳香族系シアネート化合物は、一般的に常温固形のものが用いられる。常温固形の多官能芳香族系シアネート化合物としては、トリアジン環を形成して硬化するビスフェノールA型シアネート化合物等が用いられる。具体的には、三菱ガス化学社が「CYTESTER」なる登録商標で製造販売している各種のビスフェノールA型シアネート化合物を用いることができる。なお、例外的に、常温液状の多官能芳香族系シアネート化合物を単独で又は常温固形のものと併用して、用いることもできる。
【0011】
水酸基含有化合物としては、分子内に水酸基を持つ化合物であり、特に分子内に一個の水酸基を持つモノオール化合物であるのが好ましい。水酸基含有化合物の水酸基は、芳香環に結合しているフェノール性水酸基であっても、アルキルに結合しているアルコール性水酸基であってもよい。具体的には、イソデシルアルコール、イソトリデシルアルコール、2-エチル-1-ヘキサノール、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、オクタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、グリセロールジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、クミルフェノール、ヒドロキシジシクロペンタジエン、ベンジルアルコール、ジアリルビスフェノールA、グリシドール又はα,α-ビス(トリフルオロメチル)ベンジルアルコール等が単独で又は混合して用いられる。
【0012】
多官能芳香族系シアネート化合物と水酸基含有化合物との反応生成物は、水酸基含有化合物の水酸基がフェノール性の場合、化1~化4に示す機構で反応して生成する。なお、多官能芳香族系シアネート化合物をN≡C-O-Ar-O-C≡N(但し、Arは芳香環を有する基であり、O-C≡Nは芳香環に結合している。)で表し、水酸基を一個持つ水酸基含有化合物をPh-OH(但し、Phは芳香環を有する基であり、OHは芳香環に結合している。)で表す。
【0013】
まず、多官能芳香族系シアネート化合物と水酸基含有化合物とが、化1に示す如き反応式で反応し、イミノカーボネート化合物を生成する。
【化1】
【0014】
次に、化1で生成したイミノカーボネート化合物と多官能芳香族系シアネート化合物とが、化2に示す如き反応式で反応し、三量体を生成する。
【化2】
【0015】
この三量体は、化3に示す如き反応式で脱フェノール縮合して、複素環化合物を生成する。
【化3】
【0016】
また、この三量体は、化4に示す如き反応式でシアネートモノマーが脱離して、化3に示した複素環化合物とは異なる複素環化合物を生成する。
【化4】
【0017】
水酸基含有化合物の水酸基がアルコール性の場合、多官能芳香族系シアネート化合物と水酸基含有化合物との反応生成物は、化5~化9に示す機構で反応して生成する。なお、アルコール性水酸基を一個持つ水酸基含有化合物をAlc-OH(但し、Alcは炭化水素基を有する基であり、OHは炭化水素の炭素原子に結合している。)で表す。
【0018】
まず、多官能芳香族系シアネート化合物と水酸基含有化合物とが、化5に示す如き交換反応を起こし、シアネート基と水酸基が交換せしめられる。
【化5】
ここで、N≡C-O-Ar-OHはフェノール性水酸基を持つ化合物であるので、以下、Ph’-OHと表記する。また、Alc-O-C≡Nは、殆どそのまま残存する。
【0019】
交換して生成したフェノール性水酸基とジシアネート基とが、化6に示す如き反応式で反応し、イミノカーボネート化合物を生成する。
【化6】
【0020】
次に、化6で生成したイミノカーボネート化合物と多官能芳香族系シアネート化合物とが、化7に示す如き反応式で反応し、三量体を生成する。
【化7】
【0021】
この三量体は、化8に示す如き反応式で脱フェノール縮合して、複素環化合物を生成する。
【化8】
【0022】
また、この三量体は、化9に示す如き反応式でシアネートモノマーが脱離して、化8に示した複素環化合物とは異なる複素環化合物を生成する。
【化9】
【0023】
したがって、多官能芳香族系シアネート化合物と水酸基含有化合物との反応生成物は、化3或いは化4で生成した複素環化合物又は化8或いは化9で生成した複素環化合物を主体とし、化1~化9で生成した種々の中間体を含むものである。本発明において、かかる反応生成物が組成物中に存在すると、加熱溶融させた多官能芳香族系シアネート化合物、ベンゾオキサジン環含有化合物及び/又は多官能マレイミド化合物を常温に冷却させる際、各化合物の結晶化が阻害され、組成物が常温で液状を維持すると考えられる。
【0024】
ベンゾオキサジン環含有化合物は、一般的に常温固形のものが用いられる。常温固形のベンゾオキサジン環含有化合物としては、P-d型ベンゾオキサジン又はF-a型ベンゾオキサジン等の特開2014-141426号公報に記載されているものが用いられる。また、小西化学工業社製のBS-BXZやBF-BXZ等も用いられる。なお、本発明において、常温粘稠液状のALP-d型ベンゾオキサジンを用いてもよい。さらに、これらのベンゾオキサジン環含有化合物を混合して用いてもよい。
【0025】
多官能マレイミド化合物は、一般的に常温固形のものが用いられる。多官能マレイミド化合物は、本発明に係る常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物を構成する必須の化合物ではないが、仮硬化後に本硬化を行って硬化物を得る場合、仮硬化の時間を短縮しうるので、本発明において用いるのに好ましいものである。多官能マレイミド化合物としては、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、ビス-(3エチル-5メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、フェニレンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド又は1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン等が単独で又は混合して用いられる。また、これらを重合させたポリマー(重合物)を用いてもよい。
【0026】
組成物中における上記した各化合物の配合割合は、以下のとおりであるのが好ましい。すなわち、多官能芳香族系シアネート化合物と水酸基含有化合物との反応生成物は、多官能芳香族系シアネート化合物1モルに対して、0.0001~0.3モル配合されているのが好ましい。ベンゾオキサジン環含有化合物は、多官能芳香族系シアネート化合物100質量部に対して、1~30質量部配合されているのが好ましい。また、多官能マレイミド化合物を配合する場合には、多官能芳香族系シアネート化合物100質量部に対して、多官能マレイミド化合物を1~30質量部配合するのが好ましい。
【0027】
本発明に係る常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物は、一般的に固形である多官能芳香族系シアネート化合物及びベンゾオキサジン環含有化合物を加熱溶融した上で、多官能芳香族系シアネート化合物と水酸基含有化合物との反応生成物を添加し、均一に混合した後に、常温に冷却することにより得ることができる。また、一般的に固形である多官能芳香族系シアネート化合物、ベンゾオキサジン環含有化合物及び多官能マレイミド化合物を加熱溶融した上で、多官能芳香族系シアネート化合物と水酸基含有化合物との反応生成物を添加し、均一に混合した後に、常温に冷却することにより得ることができる。
【0028】
本発明に係る常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物を製造する方法として、特に好ましいのは、以下の方法である。すなわち、常温固形の多官能芳香族系シアネート化合物を加熱溶融した溶融液と、常温液状の水酸基含有化合物とを混合した混合液に、常温固形のベンゾオキサジン環含有化合物を投入し、該混合液中でベンゾオキサジン環含有化合物を溶融させた後、常温に冷却する方法である。この方法の場合、混合液中で、多官能芳香族系シアネート化合物と水酸基含有化合物との反応生成物及び多官能芳香族系シアネート化合物が得られることになる。すなわち、多官能芳香族系シアネート化合物の一部を水酸基含有化合物と反応させて反応生成物を得て、多官能芳香族系シアネート化合物の残部をそのまま残存させることになる。したがって、多官能芳香族系シアネート化合物のシアネート基に対して、水酸基含有化合物の水酸基がごく少量となるようにしなければならない。具体的には、多官能芳香族系シアネート化合物のシアネート基1モルに対して、水酸基含有化合物の水酸基が0.00005~0.1モルの比となるように混合液を調製するのが好ましい。
【0029】
また、組成物中にさらに多官能マレイミド化合物を配合する場合、常温固形の多官能芳香族系シアネート化合物及び常温固形の多官能マレイミド化合物の両者を加熱溶融した溶融液と、常温液状の水酸基含有化合物とを混合した混合液に、常温固形のベンゾオキサジン環含有化合物を投入し、該混合液中でベンゾオキサジン環含有化合物を溶融させた後、常温に冷却する方法を採用するのが好ましい。この場合も、混合液中で、多官能芳香族系シアネート化合物と水酸基含有化合物との反応生成物、多官能芳香族系シアネート化合物及び多官能マレイミド化合物が得られることになる。したがって、上記の場合と同様に混合液中で、多官能芳香族系シアネート化合物のシアネート基に対して、水酸基含有化合物の水酸基がごく少量となるようにしなければならず、多官能芳香族系シアネート化合物のシアネート基1モルに対して、水酸基含有化合物の水酸基が0.00005~0.1モルの比となるように混合液を調製するのが好ましい。
【0030】
常温固形の多官能芳香族系シアネート化合物、常温固形のベンゾオキサジン化合物及び常温固形の多官能マレイミド化合物を溶融させるには、それぞれの融点以上の温度に加熱すればよい。具体的には、90~140℃程度であり、120℃前後であるのが好ましい。また、混合液や組成物を得る際の混合時間は、10分~24時間程度で十分である。なお、本発明に係る熱硬化性組成物を得た後、保管期間が長期間、たとえば一週間以上となる場合は、-15℃~-70℃又はそれ以下の温度で凍結し、冷凍物として保管するのが好ましい。一週間以上経過すると、常温であっても、反応生成物と、多官能芳香族系シアネート化合物、ベンゾオキサジン環含有化合物又は多官能マレイミド化合物との硬化反応が徐々に起こり、硬化するからである。
【0031】
本発明に係る熱硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、種々の添加剤を添加してもよい。たとえば、無溶剤液状フェノール樹脂(群栄化学工業社製レヂトップELPC75又は明和化成社製MEH-8000Hなど)を添加することで、硬化温度の低下又は電気特性を向上させることができる。また、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化アルミニウム、ガラス、タルク、クレー、マイカ、炭酸カルシウム又はカーボン等の充填剤;ガラス繊維又はカーボン繊維等の繊維状強化剤;染料や顔料等の着色剤;シリコーンやフッ素系化合物等の離型剤等を添加してもよい。
【0032】
本発明に係る熱硬化性組成物は、130~170℃で10分~2時間程度の条件で予備硬化させ、その後、180~230℃で2~7時間程度の条件で本硬化させることにより、電気・電子材料等の封止材として又は回路基板等の含浸材として、用いることができる。本硬化した後の硬化物は耐熱性に優れたものである。
【0033】
本発明に係る無溶剤型熱硬化性組成物は、電子部品の封止材料、注型材料、回路基板の含浸材、積層材料、塗料、接着剤又はレジストインク等として用いられる。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る無溶剤型熱硬化性組成物は、常温液状であるので、硬化物を得る際に、硬化前に溶融混合させる必要がなく、効率的に作業しうるという効果を奏する。また、溶剤を含んでいないため、作業環境を悪化させず、溶媒の蒸発による硬化物の体積収縮や割れが発生しにくくなるという効果を奏する。なお、本発明に係る無溶剤型熱硬化性組成物が冷凍物として供給される場合には、解凍して液状として用いればよいことは言うまでもない。したがって、本発明に係る無溶剤型熱硬化性組成物を用いれば、耐熱性が要求される電子部品等を効率良く、生産しうるのである。
【実施例0035】
実施例1
常温固形のビスフェノールA型シアネート化合物(三菱ガス化学社製:製品名「トリアジン(TA)」)278g(1モル)を120℃で加熱溶融した溶融液中に、常温液状のトリメチロールプロパンジアリルエーテル15.0g(0.07モル)を添加し、同温度で2時間混合して混合液を得た。この混合液中に、常温固形のP-d型ベンゾオキサジン(四国化成社製)30.4g(0.07モル)を添加し、同温度で1時間溶融混合させた。その後、常温に冷却して、7日間貯蔵したところ、安定な常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物が得られた。また、この常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物を凍結して、冷凍物を得た後、これを保管した。
【0036】
実施例2
常温液状のトリメチロールプロパンジアリルエーテル15.0g(0.07モル)に代えて、常温液状のペンタエリスリトールトリアリルエーテル17.9g(0.07モル)を用いる他は、実施例1と同一の方法により、安定な常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物及びその冷凍物を得た。
【0037】
実施例3
常温液状のトリメチロールプロパンジアリルエーテル15.0g(0.07モル)に代えて、常温液状のベンジルアルコール0.21g(0.002モル)を用いる他は、実施例1と同一の方法により、安定な常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物及びその冷凍物を得た。
【0038】
実施例4
常温固形のビスフェノールA型シアネート化合物(三菱ガス化学社製:製品名「トリアジン(TA)」)278g(1モル)及び常温固形の4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド(ケイ・アイ化成社製:製品名「BMI」)35.8g(0.1モル)を120℃で加熱溶融した溶融液中に、常温液状のトリメチロールプロパンジアリルエーテル15.0g(0.07モル)を添加し、同温度で2時間混合して混合液を得た。この混合液中に、常温固形のP-d型ベンゾオキサジン(四国化成社製)30.4g(0.07モル)を添加し、同温度で1時間溶融混合させた。その後、常温に冷却して、7日間貯蔵したところ、安定な常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物が得られた。また、この常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物を凍結して、冷凍物を得た後、これを保管した。
【0039】
実施例5
常温液状のトリメチロールプロパンジアリルエーテル15.0g(0.07モル)に代えて、常温液状のペンタエリスリトールトリアリルエーテル17.9g(0.07モル)を用いる他は、実施例4と同一の方法により、安定な常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物及びその冷凍物を得た。
【0040】
実施例6
常温液状のトリメチロールプロパンジアリルエーテル15.0g(0.07モル)に代えて、常温液状のペンタエリスリトールトリアリルエーテル35.8g(0.14モル)を用いる他は、実施例4と同一の方法により、安定な常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物及びその冷凍物を得た。
【0041】
実施例7
常温液状のトリメチロールプロパンジアリルエーテル15.0g(0.07モル)に代えて、常温液状のヒドロキシジシクロペンタジエン10.5g(0.07モル)を用いる他は、実施例4と同一の方法により、安定な常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物及びその冷凍物を得た。
【0042】
実施例8
常温液状のトリメチロールプロパンジアリルエーテル15.0g(0.07モル)に代えて、常温液状のエチレングリコールモノブチルエーテル4.73g(0.04モル)を用いる他は、実施例4と同一の方法により、安定な常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物及びその冷凍物を得た。
【0043】
実施例9
常温液状のトリメチロールプロパンジアリルエーテル15.0g(0.07モル)に代えて、常温液状のα、α-ビス(トリフルオロメチル)ベンジルアルコール9.8g(0.04モル)を用いる他は、実施例4と同一の方法により、安定な常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物及びその冷凍物を得た。
【0044】
実施例10
常温液状のトリメチロールプロパンジアリルエーテル15.0g(0.07モル)に代えて、常温液状のベンジルアルコール0.54g(0.005モル)を用いる他は、実施例4と同一の方法により、安定な常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物及びその冷凍物を得た。
【0045】
実施例11
常温液状のトリメチロールプロパンジアリルエーテル15.0g(0.07モル)に代えて、常温液状のジアリルビスフェノールA1.54g(0.005モル)を用いる他は、実施例4と同一の方法により、安定な常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物及びその冷凍物を得た。
【0046】
実施例12
常温液状のトリメチロールプロパンジアリルエーテル15.0g(0.07モル)に代えて、常温液状のグリシドール0.37g(0.005モル)を用いる他は、実施例4と同一の方法により、安定な常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物及びその冷凍物を得た。
【0047】
実施例13
常温固形のビスフェノールA型シアネート化合物(三菱ガス化学社製:製品名「トリアジン(TA)」)278g(1モル)及び常温固形のビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン(ケイ・アイ化成社製:製品名「BMI-70」)110.6g(0.25モル)を120℃で加熱溶融した溶融液中に、常温液状のペンタエリスリトールトリアリルエーテル15.4g(0.06モル)を添加し、同温度で2時間混合して混合液を得た。この混合液中に、常温固形のP-d型ベンゾオキサジン(四国化成社製)30.4g(0.07モル)を添加し、同温度で1時間溶融混合させた。その後、常温に冷却して、7日間貯蔵したところ、安定な常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物が得られた。また、この常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物を凍結して、冷凍物を得た後、これを保管した。
【0048】
実施例14
常温固形のビスフェノールA型シアネート化合物(三菱ガス化学社製:製品名「トリアジン(TA)」)278g(1モル)、常温液状のシアネート化合物(三菱ガス化学社製:製品名「P-201」26.4g(0.1モル)及び常温固形の4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド(ケイ・アイ化成社製:製品名「BMI」)35.8g(0.1モル)を120℃で加熱溶融した溶融液中に、常温液状のトリメチロールプロパンジアリルエーテル15.0g(0.07モル)を添加し、同温度で2時間混合して混合液を得た。この混合液中に、常温固形のP-d型ベンゾオキサジン(四国化成社製)30.4g(0.07モル)を添加し、同温度で1時間溶融混合させた。その後、常温に冷却して、7日間貯蔵したところ、安定な常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物が得られた。また、この常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物を凍結して、冷凍物を得た後、これを保管した。
【0049】
比較例1
常温固形のビスフェノールA型シアネート化合物(三菱ガス化学社製:製品名「トリアジン(TA)」)278g(1モル)及び常温固形の4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド(ケイ・アイ化成社製:製品名「BMI」)35.8g(0.1モル)を120℃で加熱溶融し、2時間混合して、溶融液を得た。この溶融液を常温に冷却したところ、各化合物が析出し、固形の組成物しか得られなかった。
【0050】
比較例2
常温固形のビスフェノールA型シアネート化合物(三菱ガス化学社製:製品名「トリアジン(TA)」)278g(1モル)及び常温固形の4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド(ケイ・アイ化成社製:製品名「BMI」)35.8g(0.1モル)を120℃で加熱溶融した溶融液中に、常温固形のP-d型ベンゾオキサジン(四国化成社製)30.4g(0.07モル)を添加し、同温度で2時間溶融混合させて、混合液を得た。この混合液を常温に冷却したところ、各化合物が析出し、固形の組成物しか得られなかった。
【0051】
比較例3
常温固形のビスフェノールA型シアネート化合物(三菱ガス化学社製:製品名「トリアジン(TA)」)278g(1モル)及び常温固形のP-d型ベンゾオキサジン(四国化成社製)30.4g(0.07モル)を120℃で加熱溶融し、2時間混合して溶融液を得た。この溶融液を常温に冷却したところ、各化合物が析出し、固形の組成物しか得られなかった。
【0052】
比較例4
常温固形のビスフェノールA型シアネート化合物(三菱ガス化学社製:製品名「トリアジン(TA)」)278g(1モル)を120℃で加熱溶融した溶融液中に、常温液状のトリメチロールプロパンジアリルエーテル15.0g(0.07モル)を添加し、同温度で2時間混合して混合液を得た。この混合液を常温に冷却したところ、シアネート化合物が析出し、固-液型の組成物しか得られなかった。
【0053】
実施例1~12及び14で得られた常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物を150℃で1時間の条件で仮硬化させた後、200℃で2時間の条件で本硬化を行って、硬化物を得た。また、実施例13で得られた常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物については、150℃で1時間の条件で仮硬化させた後、220℃で3時間の条件で本硬化を行って得た硬化物を得た。なお、比較例1~4に係る組成物は、常温液状の組成物ではないので、硬化物を得ることを行っていない。
【0054】
これらの硬化物を、引張り型動的粘弾性測定装置(日立ハイテクサイエンス社製:製品名「DMA7100」)に掛けて、周波数1Hz及び昇温速度2℃/分の測定条件で、常温から300℃までの動的粘弾性を測定した。得られたtanδのピークトップをガラス転移点(℃)とし、その結果を表1に示した。
[表1]
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tanδガラス転移点(℃)
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実施例1 236.3
実施例2 244.5
実施例3 273.1
実施例4 243.7
実施例5 249.8
実施例6 204.9
実施例7 238.3
実施例8 251.9
実施例9 256.0
実施例10 271.3
実施例11 274.5
実施例12 281.6
実施例13 244.5
実施例14 244.0
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【0055】
表1から明らかなように、実施例1~14に係る常温液状の無溶剤型熱硬化性組成物を硬化させた硬化物は、ガラス転移点が高く、耐熱性に優れていることが分かる。