(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104655
(43)【公開日】2022-07-11
(54)【発明の名称】高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢及び該高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を含有するパン類、餅類の防黴剤
(51)【国際特許分類】
C12J 1/00 20060101AFI20220704BHJP
A21D 2/14 20060101ALI20220704BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20220704BHJP
A23L 3/3508 20060101ALI20220704BHJP
A23L 35/00 20160101ALN20220704BHJP
【FI】
C12J1/00 A
A21D2/14
A23L7/10 102
A23L3/3508
A23L35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020219738
(22)【出願日】2020-12-29
(71)【出願人】
【識別番号】000101215
【氏名又は名称】アサマ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122574
【弁理士】
【氏名又は名称】吉永 貴大
(72)【発明者】
【氏名】矢嶋 瑞夫
(72)【発明者】
【氏名】古賀 元樹
(72)【発明者】
【氏名】新井 千秋
【テーマコード(参考)】
4B021
4B023
4B032
4B036
4B128
【Fターム(参考)】
4B021LA41
4B021LP09
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4B128BC06
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4B128BX01
(57)【要約】
【課題】パン類または餅類の製造において、生地のpH調整を酢酸ナトリウム中和液と高酸度醸造酢の配分を調整することにより最適化することで、パン類または餅類の保存性と品質を維持するとともに、有機酸由来の酸味、塩味、エグ味を抑制することが可能な高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢、該高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を用いた食品用日持向上剤、食品の日持向上方法及びパン類または餅類の製造方法を提供する。
【解決手段】酸度が10~30%の範囲内にある高酸度醸造酢に含まれる酢酸を無機のナトリウム塩で中和してなる酢酸ナトリウム含有中和液と、高酸度醸造酢との混合物を含有する高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢であって、酢酸ナトリウム800~1500ppmと、酢酸200~600ppmと、を含有する高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢により解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸度が10~30%の範囲内にある高酸度醸造酢に含まれる酢酸を無機のナトリウム塩で中和してなる酢酸ナトリウム含有中和液と、酸度が10~30%の範囲内にある高酸度醸造酢との混合物を含有する高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢であって、
酢酸ナトリウム800~1500ppmと、
酢酸200~600ppmと、
を含有する高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢。
【請求項2】
前記無機のナトリウム塩が炭酸水素ナトリウム又は炭酸ナトリウムである、請求項1に記載の高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢。
【請求項3】
前記高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢が液状である、請求項1又は2に記載の高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢。
【請求項4】
前記高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢が粉末状である、請求項1~3のいずれか1項に記載の高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を含有することを特徴とする、食品用日持向上剤。
【請求項6】
前記食品が、パン類である、請求項5に記載の食品用日持向上剤。
【請求項7】
前記食品が、餅類である、請求項5に記載の食品用日持向上剤。
【請求項8】
さらに、トウガラシ抽出物、ペクチン分解物、ホップ抽出物、プロタミン、ポリリジン、ナイシン、卵白リゾチーム、甘草抽出物などの天然物由来の添加物;ベタイン、グリシン、アラニンなどのアミノ酸系添加物;乳酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、アジピン酸、コハク酸、グルコン酸などの有機酸及びこれらの無機塩;酢酸カルシウム、酢酸カリウム;低級脂肪酸エステル、シュガーエステル、ビタミンB1ラウリル硫酸塩からなる群から選択された少なくとも1種を含有する、請求項5~7のいずれか1項に記載の食品用日持向上剤。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項に記載の高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を含有する、パン類の防黴剤。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか1項に記載の高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を含有する、餅類の防黴剤。
【請求項11】
請求項9に記載のパン類の防黴剤を生地に混合する工程を有する、パン類の製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載の餅類の防黴剤を生地に混合する工程を有する、餅類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン類または餅類の味を損ねることなく優れたパン類、餅類の防黴を目的とした高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢、および、該高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を用いたパン類または餅類の常温流通に対応可能なパン類または餅類の製造を目的とした製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パン類のカビは焼成時に死滅するので、発生するカビは焼成後の2次汚染が原因として考えられる。パン類の防黴の目的では主にプロピオン酸、酢酸、酢酸ナトリウム、醸造酢が使われてきた。餅類においても同様に製造後の2次汚染により、黴が発生することが知られている。餅類については、官能的な問題から有機酸の添加は敬遠されており、一般的には糖類等を配合し、水分活性を調整することにより防黴対策をとられている。
【0003】
しかしながら、プロピオン酸は合成保存料の故に消費者から敬遠され、酢酸、酢酸ナトリウム、醸造酢は防黴効果を高めるために、添加量を増やすと酸味、酸臭が出やすく、パン類については、グルテンの網目構造形成に影響が出てパン類のふくらみが弱くなる。
【0004】
特開2017-93357号公報には、無水酢酸ナトリウム、酢酸および高度分岐環状デキストリンを含む食品用粉末状日持向上剤が提案されている。(特許文献1)。
【0005】
特許第3277251号には新規な乳酸菌及びそれを含む醗酵風味液とそれを用いた製パン方法が提案されている(特許文献2)。
【0006】
特許第4839860号公報には、サッカロミセス・セレビシエに属するKGLY59株(受託番号:FERM P-20635)であることを特徴とするパン酵母と糖添加量の多い菓子パンの防黴方法が提案されている(特許文献3)。
【0007】
特許第4182145号公報には、ラクトバチルス・プランタルムの新菌株、並びに、それを含む飲食品、それを用いた製パン用種及び製パン法を提案している(特許文献4)。
【0008】
本発明者らは、高酸度醸造酢を中和し、高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を生成させ、その高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を食品の保存に利用する技術を提案している(特許文献5)。この技術は味質改良された高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢の日持向上効果を謳ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017-93357号公報
【特許文献2】特許第3277251号公報
【特許文献3】特許第4839860号公報
【特許文献4】特許第4182145号公報
【特許文献5】特許第6715916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、欧米を含めて日本でも消費者の声として、食品の製造に、化学合成品を避け天然素材の利用を求める声があり、醸造酢の多方面への利用の動きは、この流れに沿ったものと思われる。パン類の防黴目的で酢酸ナトリウム製剤が使用されるが、酢酸ナトリウムは解離してナトリウムイオンができるため、生地のpHが高くなり、酢酸を添加する場合と比べて非解離型酢酸濃度は相対的に低くなる。従って防黴効果を確保するには酢酸を単独で添加する場合よりも多くの酢酸ナトリウム製剤を使用する必要があり、トータルの酢酸濃度が高くなり、パン類に酸味などの味が出てしまう。
【0011】
また、酢酸、醸造酢もパンの防黴に使用されるが、酢酸でパン類生地のpHを下げると、非解離型酢酸濃度が上昇して防黴作用が高まるものの、生地グルテンの網目構造を弱め、炭酸ガスの保持力を低下させ、パン類のふくらみを悪くすることになる。
【0012】
そこで、本発明は、パン類または餅類の製造において、生地のpH調整を酢酸ナトリウム中和液と高酸度醸造酢の配分を調整することにより最適化することで、パン類または餅類の保存性と品質を維持するとともに、有機酸由来の酸味、塩味、エグ味を抑制することが可能な高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢、該高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を用いた食品用日持向上剤、食品の日持向上方法及びパン類または餅類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らはpH調整を最適化することにより、パン類または餅類の保存性と品質を維持することを目指して、高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢の主成分である酢酸ナトリウムと酢酸を分けて、夫々の能力と両方を組み合わせたときの能力を食パンまたは餅の系で発見すべく、検討を行った。その結果、対象食品に対して酢酸ナトリウムが800~1500ppm、酢酸が200~600ppm含まれるように調製した高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を用いることにより、上記課題を解決することができるとの知見を得た。
【0014】
すなわち、本発明は、酸度が10~30%(以下、全て重量%表示)の範囲内にある高酸度醸造酢に含まれる酢酸を無機のナトリウム塩で中和してなる酢酸ナトリウム中和液と、酸度が10~30%の範囲内にある高酸度醸造酢との混合物を含有する高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢であって、酢酸ナトリウム800~1500ppmと、酢酸200~600ppmと、を含有する高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、前記高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を含有することを特徴とする、食品用日持向上剤を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、前記高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を含有する、パン類または餅類の防黴剤を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、前記防黴剤を生地に混合する工程を有する、パン類または餅類の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢、食品用日持向上剤、パン類または餅類の防黴剤及びパン類または餅類の製造方法によれば、防黴作用が高く、かつ、有機酸由来の酸味、塩味、エグ味が抑制されたパン類および餅類を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢について説明する。本実施形態の高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢は、酸度が10~30%の範囲内にある高酸度醸造酢に含まれる酢酸を無機のナトリウム塩で中和してなる酢酸ナトリウム含有中和液と、酸度が10~30%の範囲内にある高酸度醸造酢とを含有する高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢であって、酢酸ナトリウム800~1500ppmと、酢酸200~600ppmと、を含有する。
【0020】
本実施形態において、「高酸度醸造酢」とは、酸度が10%以上の醸造酢をいい、15%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。但し、中和剤の溶解性の観点から、上限は30%程度であることが好ましい。すなわち、高酸度醸造酢の酸度は10~30%の範囲内とする。
【0021】
本実施形態において、高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢における「高濃度」とは、液状の場合は、酢酸ナトリウムの0℃の水に対する溶解度である26%付近を意味し、粉状の場合は酢酸ナトリウムが60%以上であることを意味する。
【0022】
本実施形態において、前記無機のナトリウム塩は、水酸化ナトリウムでもよいが、炭酸水素ナトリウム又は炭酸ナトリウムであることが好ましい。
【0023】
本実施形態において、高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢は液状であることが好ましい。液状であれば、一般的な醸造酢と同様の使い方ができる。
【0024】
本実施形態において、高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢は粉末状であることもできる。粉末状であれば、濃度を60%以上まで高めることができる。
【0025】
本実施形態に係る高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢は、酢酸濃度が10~30%の範囲内にある高酸度醸造酢を無機のナトリウム塩で中和した高濃度酢酸ナトリウム中和液と、酸度が10~30%の範囲内にある高酸度醸造酢とを混合することにより製造することができる。
【0026】
高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢の製造方法について具体例を以下に記す。酢酸酸度20%の高酸度醸造酢(DV-20(商標)、内堀醸造社製)3kgに炭酸水素ナトリウム840gを加え中和反応を行い、醸造酢中の酢酸を完全に中和すると、中和液中に24.1%の酢酸ナトリウムが生成する。この酢酸ナトリウム中和液に酢酸酸度20%の高酸度醸造酢(DV-20(商標)、内堀醸造社製)を適宜混合して、酢酸ナトリウム800~1500ppmと酢酸200~600ppmを含有した高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を調製する。
【0027】
対象食品または使用目的に応じて、醸造酢の酸度と酢酸ナトリウムの含量を適宜選択することが好ましい。このように製造した高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を食品に対して適宜配合し、酢酸ナトリウムが800~1500ppmの範囲内にあり、酢酸が200~600ppmの範囲内となるようにする。
【0028】
次に、本発明の食品用日持向上剤について説明する。本実施形態に係る食品用日持向上剤は、上述した高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を含有することを特徴とする。
【0029】
本実施形態の食品用日持向上剤の形態は特に限定されない。例えば、粉末状、粒状、顆粒状、錠剤、液状、ペースト状としてよい。粉末状、粒状又は顆粒状とした場合、保管コストや輸送コストを大きく減少させることができるので好ましい。
【0030】
本実施形態において、食品用日持向上剤の添加量は、食品の重量に対し0.1~3.0%であることが好ましく、0.2~1.0%であることがより好ましく、0.3~0.8%であることがさらに好ましい。
【0031】
次に、本発明の食品の日持向上方法について説明する。本実施形態に係る食品の日持向上方法は、上述した高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を食品に添加することを特徴とする。
【0032】
添加のタイミングは特に限定されることなく、食品の調理前、調理中、調理後のいずれかに、必要量の高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を食品に添加すればよい。
【0033】
本実施形態に係る高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢は、天然抗菌物質や日持向上効果のある食品添加物と組み合わせて、食品全般に利用できる。本実施形態において、「食品」とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口または消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品等の区分に制限されるものではない。したがって、本実施形態における「食品」は、経口的に摂取される一般食品、健康食品(機能性飲食品)、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)等を幅広く含むものである。
【0034】
本実施形態においては、特にパン類または餅類に使用することが、その抗菌スペクトル、抗菌力、食味などの観点から好ましい。
【0035】
ここで「パン類」とは、小麦粉などの穀粉類、イースト、食塩及び水を主原料とし、糖類、乳製品、卵製品、食用油脂類などの副原料を添加し、混捏した生地を発酵、成形し、焼成、蒸し、フライ等の加熱により製造されるものをいう。パン類の具体例としては、角食パン、山型食パンなどの食パン;あんぱん、クリームパン、ジャムパン、スイートドウ、デニッシュペストリー、クロワッサンなどの菓子パン;ロールパン;フランスパン、ドイツパンなどの堅焼きパン;バラエティブレッド;調理パン;揚げパン;ドーナツ;蒸しパン;中華まんじゅう;パン粉;パトネーネ、パンドーロ、シュトーレンなどの発酵菓子;マドレーヌ、バターケーキなどの焼き菓子などを挙げることができる。
【0036】
ここで「餅類」とは、粒状のもち米を蒸して杵で搗いた搗き餅と、穀物(うるち米、アワ、キビなど)の粉に湯を加えて練り、蒸しあげた練り餅の二種類に大別される。餅生地原料粉は、例えば、餅米、上新粉(米粉)、白玉粉、餅粉、求肥粉、寒梅粉、道明寺粉、蕨粉、馬鈴薯澱粉、甘藷粉、片栗粉、きび粉、コーンスターチ、タピオカ粉等が挙げられ、これら餅生地原料粉に、適当量の水を加え、蒸煮して澱粉を糊化した後に、ミキサー等で搗きまとめたものである。得られた餅生地は、このまま成型して製品として使用される場合もあるが、副原料の添加や包餡等の作業を経て製品にする場合もある。餅類の具体例としては、例えば、あんころ餅、うぐいす餅、柏餅、桜餅、ちまき、大福餅、草餅、羽二重餅、蕨餅、葛餅、団子類などが挙げられる。
【0037】
天然抗菌物質や日持向上効果のある食品添加物としては、トウガラシ抽出物、ペクチン分解物、ホップ抽出物、プロタミン、ポリリジン、ナイシン、卵白リゾチーム、甘草抽出物などの天然物由来の添加物;ベタイン、グリシン、アラニンなどのアミノ酸系添加物;乳酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、アジピン酸、コハク酸、グルコン酸などの有機酸及びこれらの無機塩;酢酸カルシウム、酢酸カリウム;低級脂肪酸エステル、シュガーエステル、ビタミンB1ラウリル硫酸塩からなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。これらはいずれも食品添加物規格品である。
【0038】
次に、本発明の実施形態に係るパン類または餅類の防黴剤について説明する。本実施形態のパン類または餅類の防黴剤は、上述した高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を含有するものである。
【0039】
上述した高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢は、その抗菌スペクトル、抗菌力、食味などの観点からパン類または餅類の防黴剤として適している。すなわち、パン類については、一般的に、酢酸でパン類生地のpHを下げると、非解離型酢酸濃度が上昇して防黴作用が高まる一方、生地グルテンの網目構造が弱まり、炭酸ガスの保持力が低下し、パン類のふくらみが悪くなるが、本実施形態に係るパン類の防黴剤は、これらの問題が生じることなく、パン類の品質を維持したまま、防黴効果を発揮することができる。餅類については、有機酸由来の酸味、塩味、エグ味を抑制しつつ、防黴効果を発揮することができる。
【0040】
本実施形態のパン類または餅類の防黴剤の形態は特に限定されない。例えば、粉末状、粒状、顆粒状、錠剤、液状、ペースト状としてよい。粉末状、粒状又は顆粒状とした場合、保管コストや輸送コストを大きく減少させることができるので好ましい。
【0041】
本実施形態において、パン類または餅類の防黴剤の添加量は、焼成する前又は蒸す前のパン類または餅類の生地において、酢酸ナトリウムが800~1500ppm、酢酸が200~600ppm含まれるように添加することが好ましい。
【0042】
次に、本発明の実施形態に係るパン類または餅類の製造方法について説明する。本実施形態に係るパン類または餅類の製造方法は、上述したパン類または餅類の防黴剤を生地に混合する工程を有するものである。
【0043】
本実施形態において、パン類または餅類の防黴剤を生地に混合する工程以外の工程は、一般的なパン類の製造方法で製造することができる。一般的なパン類の製造方法としては、例えば、ストレート法、中種法、加糖中種法、ノータイム法および冷蔵法と冷凍法などが挙げられる。また、パン類または餅類の防黴剤の添加量は、上述したとおりである。
【実施例0044】
1.食パンの保存試験
(1)防黴剤の調製
試験に用いた酢酸ナトリウム含有中和液は、醸造酢スーパービネガー20(商標、酸度20%、内堀醸造社製)を、重曹(炭酸水素ナトリウム)で部分中和したものを用いた。また、高酸度醸造酢として、醸造酢スーパービネガー20(商標、酸度20%、内堀醸造社製)を用いた。
【0045】
予め、予備実験で酢酸ナトリウム含有中和液と高酸度醸造酢の濃度範囲を狭めた後、表1のようなマトリックスを作って縦軸に酢酸ナトリウム中和液の酢酸ナトリウム純品換算値で0、700~1600ppmを並べ、横軸に高酸度醸造酢の酢酸の純品換算値で、0、100~700ppmの濃度系列を配した。
【0046】
【0047】
(2)製パン方法
製パンは短時間ストレート法により行った。すなわち、原材料(以下小麦粉重量1kgを基準として、小麦粉100%、グラニュー糖6%、ショートニング6%、脱脂粉乳2%、食塩2%、パン酵母2.5%、アスコルビン酸15ppm、水66%)をミキサボウルに入れ、竪型ミキサ(VM-3(商標)、オシキリ社製)でミキシングを行った。なお、酢酸ナトリウム中和液および高酸度醸造酢は水に置き換えて原材料の生地に添加した。ミキシング終了後は27℃、RH75%で60分間のフロアタイム後、生地を230gに分割し、丸めを行った。
【0048】
次いで、ベンチタイムを経た生地はモルダ(ワイドファインモルダWFS(商標)、オシキリ社製)を使用して、ロール状に成形した。ロール状に成形した生地をU字に曲げ、U字の向きが互い違いになるように合計6本を角型食パン用パン型に詰めた。38℃、RH85%の恒温恒湿器(ドウコンディショナOBS-D5(商標)、オシキリ社製)で生地が型下25mmに達するまで最終発酵を行い、オーブン(デッキオーブンDOV(商標)、オシキリ社製)で角型食パンを焼成(210℃、38分)した。焼成後のパンは、90分間室温で冷却後、スライスして試験用試料とした。
【0049】
酢酸の性質として、遊離の酢酸が10%ほど存在するpH5.8から、20%ほど存在するpH5.5付近は防黴性がまだ期待出来る。グルテンの網目構造の形成もこのpH付近では悪影響が出ないと思われる。このような仮定に基づき、酢酸ナトリウム中和液と高酸度醸造酢の組み合わせによる防黴剤の防黴試験と官能試験を行った。
【0050】
(3)試験
(3-1)官能試験
製造24時間後にパンの風味と体積の評価を行った。官能試験方法は、熟練パネラー10名にそれぞれの試験区のパンを喫食させ、パネラー10名中4名以上が酸味、塩味、エグ味のうち何れか一つを感じた試験区を(×)と評価した。一方、酸味、塩味、エグ味のうち何れか一つを感じた人が3名未満の試験区を(○)と評価した。結果を表2に示す。パンは酵母、乳酸菌による醗酵工程を経るので風味が複雑になり、官能評価に幅ができた。
【0051】
【0052】
(3-2)防黴試験
防黴試験は以下の通り行った。1試験区につき焼成したスライス食パンを5枚用意し、落下菌を接種する目的で常温にて1時間放置した。その後、ポリエチレン袋に個包装し、25℃にて4日間保管し、パン表面に発生したカビの集落数を計測した。スライス食パン5枚中の表面に1ケ以上の黴集落の発生が認められた試験区は防黴効果なしとして(×)を記載し、逆に全くカビの集落の発生が認められなかった試験区を防黴効果ありとして(○)と記載した。
【0053】
表3は食パンの防黴試験結果である。高酸度酢酸のみの試験区は全て効力不足であった(×)。酢酸ナトリウム中和液のみの試験区も効力不足であった(×)。酢酸ナトリウム中和液700~1600ppm(酢酸ナトリウム純品換算値)と高酸度酢酸100ppm(酢酸純品換算値)の組み合わせも効力不足であった(×)。一方、酢酸ナトリウム中和液の800~1600ppm(酢酸ナトリウム純品換算値)と高酸度酢酸の200~700ppm(酢酸純品換算値)の組み合わせの範囲の全てで満足すべき防黴効果を発揮した(○)。防黴効果を発揮した試験区の食パンの多くは、pH(5倍の水に希釈して測定)が5.5~5.8の範囲にあり非解離酢酸の防黴効果が寄与していたと考えられる。
【0054】
【0055】
表4は表2、表3の両方とも(○)であった組み合わせのみを(◎)で記載したものである。すなわち、風味、防黴力ともに優れた実用性のある組み合わせとして、酢酸ナトリウム中和液の800~1500ppm(酢酸ナトリウム純品換算値)と高酸度醸造酢の200~600ppm(酢酸純品換算値)の組み合わせが選抜された。
【0056】
【0057】
2.団子の保存試験
前述した食パンと同様に酢酸ナトリウム含有醸中和液と高酸度醸造酢を併用した団子を製造し、防黴効果と官能面について試験を行った。
【0058】
試験に用いた酢酸ナトリウム含有中和液は、醸造酢スーパービネガー20(商標、酸度20%、内堀醸造社製)を、重曹(炭酸水素ナトリウム)で中和したものを用いた。また、高酸度醸造酢として、醸造酢スーパービネガー20(商標、酸度20%、内堀醸造社製)を用いた。
【0059】
団子生地の製造は以下の通り行った。すなわち、原材料(以下上新粉重量1kgを基準として、上新粉100%、上白糖50%、水95%)をミキサボウルに入れ、竪型ミキサ(VM-3(商標)、オシキリ社製)でミキシングを行った。その後、スチームコンベクションオーブンを用いて、130℃にて18分蒸煮し、さらにミキサーで10分間混練した。尚、酢酸ナトリウム含有中和液および高酸度醸造酢はあらかじめ水に溶解した状態で添加した。上記のように製造した団子生地を、官能試験用には一口大の大きさに成型し、防黴効果試験用には直径10cmのポリエチレン製カップに押し伸べて保管した。
【0060】
官能試験方法は、熟練パネラー10名にそれぞれの試験区の団子を喫食させ、パネラー10名中4名以上が酸味、塩味、エグ味のうち何れか一つを感じた試験区を(×)と評価した。一方、酸味、塩味、エグ味のうち何れか一つを感じた人が3名未満の試験区を(○)と評価した。結果を表5に示す。
【0061】
【0062】
防黴試験は、製造した団子生地を各試験区5ケ用意し、25℃恒温インキュベーター内にて3日間保管し、団子生地表面に発生したカビの集落数を計測した。団子生地5ケ中の表面に1ケ所以上の黴集落の発生が認められた試験区は防黴効果なしとして(×)を記載し、逆に全くカビの集落の発生が認められなかった試験区を防黴効果ありとして(○)と記載した。結果を表6に示す。
【0063】
【0064】
表7は表5、表6の両方とも(○)であった組み合わせのみを(◎)で記載したものである。すなわち、風味、防黴力ともに優れた実用性のある組み合わせとして、酢酸ナトリウム中和液の800~1500ppm(酢酸ナトリウム純品換算値)と高酸度醸造酢の200~600ppm(酢酸純品換算値)の組み合わせが選抜された。
【0065】
【0066】
3.中華まんじゅうの保存試験
中華まんじゅうに高酸度酢酸ナトリウム含有醸造酢と乳酸、グリシン、プロタミンを併用した防黴剤の実施例を以下に示す。
【0067】
中華まんじゅうの試作は以下の通り行った。すなわち、原材料(以下小麦粉重量1kgを基準として、小麦粉100%、上白糖14%、ショートニング4%、食塩2%、ドライイースト0.8%、水50%)をミキサボウルに入れ、竪型ミキサ(VM-3(商標)、オシキリ社製)でミキシングを行った。なお、ドライイーストはあらかじめ水に懸濁した状態で添加した。
【0068】
一方、醸造酢スーパービネガー20(商標、酸度20%、内堀醸造社製)を重曹(炭酸水素ナトリウム)で中和した酢酸ナトリウム含有中和液と、醸造酢スーパービネガー20(商標、酸度20%、内堀醸造社製)とを混合することにより、酢酸ナトリウム純品換算値で1000ppm、酢酸純品換算値500ppmのこの酢酸ナトリウム含有醸造酢を調製した。また、プロタミン(アサマ化成社製)、乳酸(50%品、武蔵野化学研究所社製)を用いて、日持向上効果を検討した。表8に各防黴剤の処方を示す。
【0069】
【0070】
各種防黴剤は、水に置き換えて生地に添加した。ミキシング終了後、生地を分割し、フロアタイム30分とった後、53℃、RH40%の乾ホイロで30分間発酵を行い、スチームコンベクションオーブン(スチームコンベクションオーブンMIC-5TB3(商標)、ホシザキ社製)で中華まんじゅうを蒸しあげた(スチームモード、100℃、30分)。蒸し上げ後の中華まんじゅうは、90分間室温で冷却後、試験用試料とした。
【0071】
実施例1、2、3および比較例1、2の処方にて試作した中華まんじゅう表面にカビ(Aspergillus niger)胞子液を接種し、25℃にて保管して、カビの生育度合いを比較した。結果を表9に示した。
【0072】
表9に示すように、比較例1、2の防黴剤を添加した中華まんじゅうは、試験開始から3日目(D+3)にはカビの発生が認められたのに対し、実施例1の防黴剤を添加した中華まんじゅうは試験開始から3日目(D+3)でもカビの発生が確認されなかった。また、実施例2の防黴剤を添加した中華まんじゅうは試験開始から4日目(D+4)でもカビの発生が確認されず、プロタミンの併用効果が認められた。さらに、実施例3の防黴剤を添加した中華まんじゅうは試験開始から5日目(D+5)でもカビの発生が確認されず、乳酸の併用効果が認められた。
【0073】