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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104668
(43)【公開日】2022-07-11
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20220704BHJP
   A61B 3/103 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
A61B3/10 100
A61B3/103
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020219765
(22)【出願日】2020-12-29
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】山口 伸二
(72)【発明者】
【氏名】高橋 義嗣
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA03
4C316AA11
4C316AA13
4C316AA24
4C316AA25
4C316AA26
4C316AB02
4C316AB11
4C316AB16
4C316AB17
4C316FA06
4C316FA18
4C316FB26
4C316FY05
(57)【要約】
【課題】安全で且つ速やかに左右眼切替を行うことができる眼科装置を提供すること。
【解決手段】眼科装置1は、被検者Hの片方の眼から他方の眼に自動的に移動可能なOCT光学系30と、被検者Hの顔Hfを撮像可能なステレオカメラ31、32と、ステレオカメラ31、32により撮像した画像から被検者Hの顔Hfの鼻Nを検出する顔解析部35と、OCT光学系30を被検者Hの片方の眼から他方の眼に移動させる際に、被検者Hの鼻NとOCT光学系30の移動経路との間隔を算出し、当該間隔が所定の距離以上となるようOCT光学系30を移動させる移動制御部36と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の片方の眼から、他方の眼に自動的に移動可能な測定部と、
前記被検者の顔を撮像可能なカメラと、
前記カメラにより撮像した画像から前記被検者の顔の凸部を検出する凸部検出部と、
前記測定部を前記被検者の片方の眼から他方の眼に移動させる際に、前記凸部検出部により検出された前記被検者の顔の凸部と前記測定部の移動経路との間隔を算出し、当該間隔が所定の距離以上となるよう前記測定部を移動させる移動制御部と、
を備える眼科装置。
【請求項2】
前記凸部検出部は、前記カメラにより撮像した画像から顔の鼻の特徴点を抽出し、当該鼻を凸部として検出する請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記カメラは、ステレオカメラである請求項1又は2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記ステレオカメラは、広角から挟角に画角を調整可能なズームレンズを備えている請求項3に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記ステレオカメラは、前記測定部のアライメントを行うためのステレオカメラと、前記被検者の顔を撮像するためのステレオカメラと、を備えている請求項3に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記移動制御部は、前記測定部の前記被検者の片方の眼から他方の眼への移動中に、一方のステレオカメラにより前記他方の眼を撮像し当該他方の眼までの残りの移動経路を調整する請求項3から5のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項7】
前記カメラは、ToFカメラである請求項1又は2に記載の眼科装置。
【請求項8】
前記カメラは、前記被検者の額を支持する額当て部分にて、レンズを下方に指向して設けられたカメラである請求項1又は2に記載の眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、片方の被検眼を測定した後、自動的に他方の被検眼側に測定部を移動して測定を行う眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科装置には、装置の一部が被検眼に接近して測定を行うものがある。例えばこの種の眼科装置としては、被検眼に空気を瞬間的に吹き付ける眼圧測定装置や、光の干渉現象を利用して被検眼の断層面を観察可能なOCT(Optical Coherence Tomography:光干渉断層計)等がある。
【0003】
近年、このような眼科装置において、自動的に、被検眼の位置を検出して片方の被検眼の測定を行い、その後他方の被検眼に測定部を移動させて測定を行うこと(以下、自動左右眼切替という)が可能なモデルも開発されている。
【0004】
例えば特許文献1に記載の眼科装置では、測定ユニットとして、被検眼の眼屈折力及び角膜形状の眼特性を測定するためのレフ・ケラト測定部と、非接触で被検眼の眼圧を測定するための眼圧測定部とを備えており、自動左右眼切替が可能である。当該特許文献1では、特にノズルが被検者側に突出している眼圧測定部の自動左右眼切替の際に、ノズルの先端と被検者の鼻との接触を回避するよう測定ユニットを移動させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-282671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、自動左右眼切替の際に被検者の鼻を回避するように測定ユニットを移動させることが記載されているが、具体的にどの程度の量を回避させるかまでは記載されていない。
【0007】
現状、眼科装置の自動左右眼切替にかかる時間(片方の眼の測定完了から他方の眼の測定開始までの時間)は、手動による左右眼切替よりも長い場合が多く、被検者に煩わしさを感じさせるという問題がある。一方で、測定部を被検者の顔との距離が近いまま素早く左右眼切替を行うと、測定部が被検者と接触しなかったとしても、被検者に恐怖感を与えるおそれがある。また、被検者の鼻の高さは被検者によって異なっており、鼻に対する測定部の回避量を小さく設定すると鼻の高い被検者の場合には測定部が接触する可能性が生じる。しかし、安全を考慮して回避量を大きく設定すると鼻の低い被検者に対しては必要以上な回避を行うことになり、左右眼切替にかかる時間の不要な長期化を招くという問題がある。
【0008】
以上により、本発明の目的は、安全で且つ速やかに左右眼切替を行うことができる眼科装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本開示に係る眼科装置は、被検者の片方の眼から、他方の眼に自動的に移動可能な測定部と、前記被検者の顔を撮像可能なカメラと、前記カメラにより撮像した画像から前記被検者の顔の凸部を検出する凸部検出部と、前記測定部を前記被検者の片方の眼から他方の眼に移動させる際に、前記凸部検出部により検出された前記被検者の顔の凸部と前記測定部の移動経路との間隔を算出し、当該間隔が所定の距離以上となるよう前記測定部を移動させる移動制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、安全で且つ速やかに左右眼切替を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施形態に係る眼科装置の概略側面図である。
図2】本開示の一実施形態に係る眼科装置の概略正面図である。
図3】右眼測定時の測定部と被検者との位置関係を示す概略上面図である。
図4】左右眼切替移動中の測定部と被検者との位置関係を示す概略上面図である。
図5】本開示の一実施形態に係る眼科装置が実行する自動左右眼切替ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(眼科装置の構成)
以下、本開示の実施形態を図面に基づき説明する。図1は本開示の一実施形態に係る眼科装置の概略側面図であり、図2は眼科装置の概略正面図である。この眼科装置1は、被検者の眼の眼軸長、瞳孔間距離、角膜曲率、角膜径、屈折度数等の複数の項目を測定することができる。これらは主に、眼科装置1の屈折力測定(レフ測定)計としての機能と、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)を用いた光干渉式眼軸長測定装置としての機能により実現される。
【0013】
図中のX軸方向は被検者Hを基準とした左右方向(被検眼Eの眼幅方向)であり、Y軸方向は上下方向であり、Z軸方向は眼科装置1が被検者Hに近づく前方向と被検者Hから遠ざかる後方向とに平行な前後方向(作動距離方向ともいう)である。
【0014】
図1に示すように、眼科装置1は、主に顔支持部10と、架台11と、測定ヘッド12を備えている。
【0015】
顔支持部10は、架台11のZ軸方向前側(つまり被検者H側)にて架台11と一体に設けられている。顔支持部10は、Y軸方向に延びる基部20の上部に顎受け部21と額当て部22を有している。図2に示すように顎受け部21は正面から見てT字状をなしており、基部20の上面に立設されている。額当て部22は基部20の上部両側面から上方に矩形の環状をなしており、上辺部にて被検者Hの額を支持可能である。
【0016】
架台11は、図示しないが、例えばY軸方向(上下方向)に位置を調整可能なテーブル上に配置されている。このテーブル前に椅子が配置され、この椅子に被検者Hが座った状態で眼科装置1が使用される。そして、架台11は、測定ヘッド12をX軸方向及びZ軸方向(即ち、前後左右方向)に移動自在に支持している。
【0017】
測定ヘッド12には、被検者Hと対向する面(Z軸方向前面)にOCT光学系30(測定部)と一対のステレオカメラ31、32が設けられており、その逆側の面(Z軸方向後面)に表示部33が設けられている。図2に示すように、OCT光学系30は測定ヘッド12の前面の略中央に配置されており、一対のステレオカメラ31、32はOCT光学系30に対してX軸方向両側下部に配置されている。表示部33は、例えばタッチパネル式のディスプレイであり、当該眼科装置1の操作部も兼ねている。なお、表示部はタッチパネル式に限られず、ディスプレイと、コントローラ、キーボード、及びマウス等の操作部とが別に設けられていてもよい。
【0018】
ここで、図3には右眼測定時の測定部と被検者との位置関係を示す概略上面図が示されており、同図に基づきOCT光学系30及びステレオカメラ31、32の構成について詳しく説明する。なお、同図においては説明の便宜上、実際の寸法とは異なっている部分がある。図中の符号O1はOCT光学系30の対物レンズ30aの光軸であり、符号O2は一方(被検者H右側)のステレオカメラ31の光軸、符号O3は他方(被検者H左側)のステレオカメラ32の光軸である。
【0019】
同図に示すように、右眼Erの測定時においては、Z軸方向において右眼Erに正対する位置にOCT光学系30が配置される。OCT光学系30は、主にZ軸の被検者H側に対物レンズ30aが配設され、当該対物レンズ30aの後方に光源30bと、検出器30cが配設されている。なお、OCT光学系30は、公知の構成であり、この他にも内部に他のレンズや部品を有しているがここでの説明は省略する。
【0020】
対物レンズ30aは測定ヘッド12において最も前面、即ちZ軸方向において被検者Hに最も近い位置に位置しており、Z軸方向における対物レンズ30aと被検眼E(図3では右眼Er)との間隔が作動距離WDとなる。また、被検者Hの顔Hfにおいては鼻Nが最も測定ヘッド12側に接近しており、鼻Nの先端と対物レンズ30aとのZ軸方向における間隔が測定ヘッド12と被検者Hとの最近接距離CDとなる。
【0021】
このように構成されたOCT光学系30は、光源30bからの光を測定光と参照光とに分割し、被検眼E(図3では右眼Er)に投射された測定光の戻り光と参照光路を経由した参照光とを重ね合わせた干渉光を検出器30cにより検出する。検出器30cにより検出された干渉光は検出信号として後述する測定制御部34に出力される。
【0022】
ステレオカメラ31、32は、被検眼Eに対するOCT光学系30のオートアライメントに用いられる。測定ヘッド12に設けられているステレオカメラ31、32は、測定ヘッド12の移動に伴いOCT光学系30と一体に移動する。
【0023】
ステレオカメラ31、32は、測定ヘッド12のZ軸方向の前面において、対物レンズ30aをその左右から挟み込むように配置されている。ステレオカメラ31、32のそれぞれの光軸O2、O3はOCT光学系30の光軸O1上で交わるように指向しており、被検者Hの顔Hfを互いに異なる方向、本実施形態では左右方向から同時撮像が可能である。
【0024】
ステレオカメラ31、32は、ズームレンズ光学系31a、32aと、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)型又はCCD(Charge Coupled Device)型の撮像素子31b、32bと、を備える。ズームレンズ光学系31a、32aは、図中では簡略化して記載しているが、複数のレンズを組み合わせた光学系であり、ズームレンズを光軸O2、O3に沿って移動可能である。つまり、ステレオカメラ31、32は、ズームレンズ光学系31a、32aと撮像素子31b、32bとの間の焦点距離を変化させて、画角(ステレオカメラ31、32によりそれぞれ撮像される撮像画像の画角)を広角から挟角に調整可能である。
【0025】
具体的には本実施形態のステレオカメラ31、32は、OCT光学系30による被検眼Eの測定時には、OCT光学系30のアライメントを行うため、図3に示すように被検眼Eを撮像範囲に収めるようにズームレンズ光学系31a、32aの画角を調整する。また、例えば、後述する自動左右眼切替時には被検者Hの顔Hfを撮像するためズームレンズ光学系31a、32aを広画角としたり、顔Hfから離れた位置から被検眼Eの位置を検出するために狭画角としたりすることが可能である。
【0026】
ステレオカメラ31、32の撮像素子31b、32bは、ズームレンズ光学系31a、32aを通して入射した光を撮像し、撮像画像として後述する測定制御部34及び顔解析部35に出力可能である。
【0027】
図1に戻り、測定ヘッド12の内部には測定制御部34、顔解析部35(凸部検出部)、移動制御部36が設けられており、架台11内部に駆動機構37が設けられている。なお、測定制御部34、顔解析部35、移動制御部36は、測定ヘッド12に搭載の1又は複数のコンピュータにより実現される機能を備えた部分であり、図示しない記憶部に記憶されているプログラムに含まれるコード又は命令によって実現する機能、及び/又は方法を実行する。具体的には、中央処理装置(CPU)、MPU、GPU、マイクロプロセッサ、プロセッサコア、マルチプロセッサ、ASIC、FPGA等を含み、集積回路等に形成された論理回路や専用回路によって実施形態に開示される各処理を実現してもよい。
【0028】
測定制御部34は、OCT光学系30、ステレオカメラ31、32、及び表示部33と電気的に接続されている。そして、測定制御部34は、ステレオカメラ31、32からの撮像画像を用いてOCT光学系30のアライメント処理を実行し、OCT光学系30からの検出信号を処理して被検眼Eの断面画像等の測定結果を表示部33に表示する機能を有する。
【0029】
顔解析部35は、ステレオカメラ31、32と電気的に接続されており、当該ステレオカメラ31、32により撮像された被検者Hの顔Hfの撮像画像から、顔Hfの凸部である鼻Nの三次元位置を検出する顔解析機能を有している。鼻Nの検出手法としては、例えば顔解析部35は、ステレオカメラ31、32により撮像された一対の撮像画像(ステレオ画像)から三次元画像処理を行うことで顔Hfの三次元モデルを生成し、予め記憶されている顔の特徴点と照合して鼻Nを識別する。
【0030】
移動制御部36は、顔解析部35と駆動機構37と電気的に接続されている。移動制御部36は駆動機構37を制御することで測定ヘッド12をX軸方向及びZ軸方向に移動制御可能である。
【0031】
具体的には、本実施形態の移動制御部36は、OCT光学系30により被検者Hの片方の眼を測定した後、自動的にOCT光学系30を含む測定ヘッド12を他方の眼に移動させる左右眼切替制御を実行可能である。この左右眼切替制御では、OCT光学系30を被検者Hの片方の眼から他方の眼に移動させる際に、顔解析部35により検出された被検者Hの鼻NとOCT光学系30の移動経路との間隔を算出し、当該間隔が所定の距離より近づかないようにOCT光学系30を含む測定ヘッド12を移動させる。つまり、移動制御部36は、少なくとも左右眼切替時の測定ヘッド12と被検者Hとの最近接距離CD(鼻Nの先端と対物レンズ30aとのZ軸方向における間隔)が所定の距離以上となるよう測定ヘッド12の移動経路を設定する。この所定の距離は、被検者Hの顔Hfの前を測定ヘッド12が通過する際に被検者Hに恐怖感を与えない距離であり且つ余分な移動時間を生じない距離に設定され、例えば鼻Nの先端からの一定距離であってもよいし、被検者Hの属性に応じて可変する値であってもよい。被検者Hの属性としては、性別、年齢等があり、例えば年齢が低いほど所定の距離を長く設定してもよい。
【0032】
また移動経路はベースとなる径路を設定可能であり、例えば顔HfのX軸方向(左右方向)における顔面形状に沿った移動経路でもよいし、鼻Nの前方を通過する際に最も間隔が大きくなる上面視V字状の移動経路でもよいし、Z軸方向に後退した後、X軸方向に移動して再度Z軸方向に前進する上面視略U字状(コの字状)の移動経路でもよい。これらのベースとなる移動経路の種類は予め眼科装置1に設定されていてもよいし、複数の移動経路の種類から被検者Hや操作者が任意に設定できるようにしてもよい。例えば特に短時間での測定を行う場合は最も移動経路の距離が短い種類(例えば顔面形状に沿った移動経路)を設定したり、被検者Hに対する安全性を優先する場合は最初から被検者Hとの距離を確保する種類(例えば上面視略U字状)を設定したりする。本実施形態では上面視略U字状の移動経路を例に以下説明する。
【0033】
さらに、本実施形態の移動制御部36は、OCT光学系30の被検者Hの片方の眼から他方の眼への移動中に、他方の眼から遠い側のステレオカメラ31(又は32)のズームレンズ光学系31a(又は32a)を狭画角として他方の眼を撮像し、当該他方の眼までの残りの移動経路を調整する経路調整制御も実行可能である。
【0034】
駆動機構37は、測定ヘッド12をX軸方向及びZ軸方向に移動させるための各種アクチュエータを備えており、移動制御部36の信号に応じて測定ヘッド12を駆動可能である。
【0035】
(処理の流れ)
次に、図4には、本実施形態の眼科装置が実行する左右眼切替制御ルーチンを示すフローチャートが示されており、図5には移動経路調整時の被検者と測定ヘッドの位置関係を示す概略上面図が示されており、以下、図4のフローチャートに沿って、途中図5を参照しつつ、左右眼切替制御について説明する。なお、当該フローチャートは一例であり、左右眼切替制御は当該フローチャートの処理手順に限られるものではない。
【0036】
当該左右眼切替制御を実行する前提として、被検者Hは顔支持部10の顎受け部21に顎を載せ、額を額当て部22の上辺部に当てている状態にある。また、測定ヘッド12は、ステレオカメラ31、32により被検者Hの鼻Nを含む顔Hfを撮像可能な位置を初期位置とする。具体的な測定ヘッド12の初期位置としては、例えば被検者Hの鼻Nの前方となるX軸方向中央位置や、先に測定を行う一方の眼の前方位置がある。そして、被検者H又は眼科装置1の操作者が測定開始操作を行うことで以下の左右眼切替制御ルーチンがスタートする。以下、先に測定を行う片方の眼を右眼Erとし、後に測定を行う他方の眼を左眼Elとして説明する。
【0037】
ステップS1として、眼科装置1の測定制御部34は、ステレオカメラ31、32により被検者Hの鼻Nを含む顔Hfの画像を撮像する。このとき測定制御部34は、少なくとも鼻Nがステレオカメラ31、32の撮影範囲に収まるようにズームレンズ光学系31a、32aを調整する。ここで撮像された撮像画像は、顔解析部35に出力される。
【0038】
次のステップS2において、顔解析部35は上記ステップS1で撮像された鼻Nを含む一対の撮像画像から顔解析を行い、鼻Nの位置を特定する。この鼻Nの位置情報は移動制御部36に出力される。
【0039】
ステップS3として、測定制御部34は、OCT光学系30により右眼Erの測定を行う。この右眼Erの測定の際には、ステレオカメラ31、32により右眼Erを撮像しアライメントを行う。なお、測定ヘッド12の初期位置が右眼Erから離れている場合、測定制御部34は駆動機構37を制御して測定ヘッド12を右眼Erに近づけてもよい。そして、測定制御部34はOCT光学系30により測定された右眼Erの干渉信号を処理して、測定結果を表示部33に表示する。
【0040】
また、ステップS4において、移動制御部36は移動経路の設定を行う。具体的には、図5に実線及び点線の太矢印で示すように、ベースの移動経路の種類が上面視略U字状である場合、X軸方向の移動経路と鼻NとのZ軸方向の間隔が所定の距離となるよう設定される。これにより、測定ヘッド12において最前面にあるOCT光学系30の対物レンズ30aが被検者Hの鼻Nの前方を通過する際も所定の距離以上の最近接距離CDを確保することが可能となる。なお、ここまでのステップS1からS4の処理の順番はこれに限られず、順番を入れ替えたり、同時並行で実行したりしてもよい。
【0041】
ステップS5において、移動制御部36は左右眼切替の移動を開始する。つまり、移動制御部36はステップS4にて設定した移動経路で測定ヘッド12を移動させるよう駆動機構37を制御する。なお、左右眼切替移動中、ステレオカメラ31、32はズームレンズ光学系31a、32aを狭画角に調整し、継続して撮像を行う。
【0042】
ステップS6において、移動制御部36は、一方(被検者H右側)のステレオカメラ31の撮像範囲内に左眼Elが含まれた時点で、左眼Elの位置を検出する。例えば図5に示すように、一方のステレオカメラ31の画角内に左眼Elが含まれている時点でのOCT光学系30の対物レンズ30aの相対位置関係から、左眼Elの位置を検出する。一方のステレオカメラ31の光軸O2の方向や画角からステレオカメラ31に対する左眼Elの相対位置は算出可能であり、且つ測定ヘッド13の位置や対物レンズ30aの位置も既知であることから、左眼Elに対する測定位置(対物レンズ30aの相対位置)は算出可能である。
【0043】
ステップS7において、移動制御部36はステップS6にて検出した左眼Elの位置から、測定ヘッド12の移動経路の調整を行う。例えば、図5に示すようにステップS4で設定した移動経路ではX軸方向において左眼Elの位置を超えるような場合は、X軸方向の移動距離を短縮するよう修正する。
【0044】
ステップS8において、移動制御部36は、ステップS7での調整後の移動経路で、測定ヘッド12を左眼Elまで移動させ、OCT光学系30の対物レンズ30aが左眼Elと正対するよう位置決めする。
【0045】
続くステップS9において、測定制御部34は、OCT光学系30により左眼Elの測定を行う。この左眼Elの測定時においても、右眼Erと同様に、ステレオカメラ31、32によりアライメントを行う。そして、測定制御部34はOCT光学系30により測定された左眼Elの干渉信号を処理して、測定結果を表示部33に表示し、当該ルーチンを終了する。
【0046】
このように、本開示の実施形態に係る眼科装置1によれば、OCT光学系30を含む測定ヘッド12を被検者Hの片方の眼から他方の眼に移動させる際に、ステレオカメラ31、32により検出された被検者Hの顔Hfの鼻Nと測定ヘッド12の移動経路との間隔を算出し、当該間隔が所定の距離以上となるようOCT光学系30を含む測定ヘッド12を移動させている。つまり、被検者Hごとに鼻Nと測定ヘッド12との間隔を算出した上で、左右眼切替における移動経路を設定しており、被検者ごとに異なる鼻の高さに応じて適切な間隔を保ちつつ左右眼切替を行うことができる。これにより、眼科装置1は測定ヘッド12を被検者Hに接触させたり、被検者Hに恐怖感を与えたりすることなく、且つ必要以上の回避を抑えることができる。
【0047】
また、顔解析部35は、ステレオカメラ31、32により撮像された撮像画像から被検者Hの鼻Nの特徴点を抽出することで、容易に被検者Hにおいて最も測定ヘッドに近い凸部を検出することができる。
【0048】
さらに、被検者Hの顔Hfを撮像するカメラとして、ステレオカメラ31、32を用いることで、OCT光学系30のような測定部におけるアライメントと兼用して顔Hfの撮影を行うことができる。特に本実施形態のように広角から挟角に画角を調整可能なズームレンズ光学系31a、32aを備えたステレオカメラ31、32であれば、新たに部品を追加する必要なく、コストの増加を抑えることができる。
【0049】
また、本実施形態のように測定ヘッド12の左右眼切替移動中に、一方のステレオカメラ31により他方の眼(左眼El)を撮像し、他方の眼までの残りの移動経路を調整することで、さらに必要以上の回避を抑え、より速やかな左右眼切替を実現できる。
【0050】
以上のように、本実施形態の眼科装置1は、安全で且つ速やかに左右眼切替を行うことができる。
【0051】
以上で本発明の実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。
【0052】
例えば上記実施形態では眼科装置はOCTを例に説明したが、自動左右眼切替を行う他の眼科装置にも適用可能である。
【0053】
また、上記実施形態では、ズームレンズ光学系31a、32aを有するステレオカメラ31、32により被検者Hの顔Hfの凸部である鼻Nを検出し、鼻NとOCT光学系30の対物レンズ30aとの間隔を算出しているが、鼻の検出手段はこれに限られるものではない。
【0054】
例えば、OCT光学系のような測定部のアライメントを行うためのステレオカメラと、被検者の顔を撮像するためのステレオカメラを別々に備えた眼科装置としてもよい。これにより、ステレオカメラにおける画角の調整をすることなくアライメントと被検者の顔の撮像を行うことができ、より簡易な左右眼切替制御を実現することができる。
【0055】
又は、眼科装置にToF(Time of Flight)カメラを設け、当該ToFカメラにより鼻の検出と、鼻と測定部との間隔の算出を行ってもよい。これにより、ステレオカメラを用いることなく、容易に被検者の顔の鼻(凸部)の検出から鼻(凸部)との間隔の算出を行うことができる。
【0056】
又は、被検者の額を支持する額当て部の額当て部分にてレンズを下方に指向して設けられたカメラにより鼻を撮像して、この撮像画像から鼻を検出してもよい。額当ての下に鼻は位置することから、より確実に被検者の顔の凸部である鼻の検出及び鼻との間隔の算出を行うことができる。
【0057】
また、上記実施形態では被検者Hの顔Hfの凸部を鼻Nとしているが、顔の凸部とは顔面から前方に突出し測定部に最も接近する部分であり、鼻に限られるものではない。例えば、被検者がマスク等を装着している場合は、マスク前面が凸部となり得る。
【符号の説明】
【0058】
1 :眼科装置
10 :顔支持部
11 :架台
12 :測定ヘッド
20 :基部
21 :顎受け部
22 :額当て部
30 :OCT光学系(測定部)
30a :対物レンズ
30b :光源
30c :検出器
31、32 :ステレオカメラ
31a、32a :ズームレンズ光学系
31b、32b :撮像素子
33 :表示部
34 :測定制御部
35 :顔解析部(凸部検出部)
36 :移動制御部
37 :駆動機構
E :被検眼
El :左眼
Er :右眼
H :被検者
Hf :顔
N :鼻
図1
図2
図3
図4
図5