(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104696
(43)【公開日】2022-07-11
(54)【発明の名称】複合吸収体及び高分子吸収剤
(51)【国際特許分類】
B01J 20/26 20060101AFI20220704BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20220704BHJP
C08F 8/12 20060101ALI20220704BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
B01J20/26 D
B01J20/28 Z
C08F8/12
C08F220/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020219811
(22)【出願日】2020-12-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(72)【発明者】
【氏名】高田 仁
(72)【発明者】
【氏名】岩浦 竜太
【テーマコード(参考)】
4G066
4J100
【Fターム(参考)】
4G066AB03D
4G066AC17B
4G066AC35B
4G066BA01
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA43
4G066DA07
4G066DA13
4G066EA05
4J100AB16Q
4J100AL03P
4J100BA17H
4J100CA04
4J100CA31
4J100FA03
4J100FA20
4J100HA08
4J100HB39
4J100JA15
(57)【要約】
【課題】本発明は、多量の液体を瞬時に吸収することができる、吸収性能の高い吸収体を提供するものである。
【解決手段】本発明の複合吸収体(1)は、液体を吸収するための複合吸収体(1)であって、親水性の連続骨格及び連続空孔を備えた高分子吸収剤(4)と、高吸収性ポリマー(5)と、を含み、液体を吸収する際に、液体を連続骨格に取り込んだ後に連続空孔に取り込むことを特徴とするものである。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吸収するための複合吸収体であって、
前記複合吸収体は、親水性の連続骨格及び連続空孔を備えた高分子吸収剤と、高吸収性ポリマーと、を含み、
前記高分子吸収剤は、液体を吸収する際に、液体を前記連続骨格に取り込んだ後に前記連続空孔に取り込むことを特徴とする、前記複合吸収体。
【請求項2】
前記高分子吸収剤は、保液限界吸液時において、膨張した前記高分子吸収剤の体積が取り込んだ液体の体積よりも大きいことを特徴とする、請求項1に記載の複合吸収体。
【請求項3】
前記高分子吸収剤は、前記連続空孔の吸液量が前記連続骨格の吸液量よりも大きいことを特徴とする、請求項1又は2に記載の複合吸収体。
【請求項4】
前記高分子吸収剤は、前記連続空孔の吸液量と前記連続骨格の吸液量との質量比が60:40~95:5であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合吸収体。
【請求項5】
前記高分子吸収剤は、吸液開始直後から保液限界に達するまでの吸収速度が相対的に大きく、保液限界以降の吸収速度が相対的に小さいことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の複合吸収体。
【請求項6】
前記高分子吸収剤は、モノリス状の吸収剤であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の複合吸収体。
【請求項7】
前記高分子吸収剤は、(メタ)アクリル酸エステルと、一分子中に2個以上のビニル基を含有する化合物の架橋重合体の加水分解物であり、且つ、少なくとも1個以上の-COONa基を含有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の複合吸収体。
【請求項8】
高吸収性ポリマーと共に用いられる高分子吸収剤であって、
親水性の連続骨格及び連続空孔を備え、
液体を吸収する際に、液体を前記連続骨格に取り込んだ後に前記連続空孔に取り込むことを特徴とする高分子吸収剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合吸収体及び高分子吸収剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶液等の液体の吸収に用いられる吸収体として、スポンジ材等の多孔質材や高い吸収量を有する高吸収性ポリマー(いわゆる「SAP」)を含むものが知られている。
このような多孔質材やSAPを含む吸収体は、例えば特許文献1~5に開示されているように、使い捨て紙おむつをはじめとして、結露防止シートや簡易土壌等の土木・建築資材、医薬品等の基材、漏出液体の吸収用資材などの様々な分野に適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3231320号公報
【特許文献2】特開2017-36638号公報
【特許文献3】特開2017-205225号公報
【特許文献4】特開昭63-75016号公報
【特許文献5】特開平8-38893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来の吸収体に用いられている吸収素材には、以下のような特徴がある。
例えば、特許文献1に開示されているような相互連結された連続気泡の親水性可撓性構造物からなる高分子フォーム材料(すなわち、多孔質材)は、所定の空間を有する複数の空孔に液体を取り込むことによって吸収するものであるため、毛細管現象を利用して液体を瞬時に吸収することができるものの、液体を吸収し得る空間が複数の空孔による所定の空間に限られるため、多量の液体を吸収することが難しい。
一方、特許文献2~5に開示されているような高吸収性ポリマー(SAP)は、取り込んだ液体の体積分の空間を広げながら(すなわち、膨張しながら)液体を取り込むものであるため、多量の液体を保持することができる(すなわち、保液能力が高い)ものの、吸液速度が遅いため、液体を瞬時に吸収することが難しい。
また、これらの吸収素材の欠点を補うために、これらの吸収素材を同時に用いることも考えられるが、例えば、吸収対象となる液体が大量に供給された場合などにおいては、吸収の初期段階で多孔質材の吸収可能量(吸収限界)を超えてしまうことがあり、さらに多孔質材に吸収されなかった液体がSAPでも直ぐには吸収されないため、結果的に高い吸収性能が得られない恐れがあった。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、多量の液体を瞬時に吸収することができる、吸収性能の高い吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様(態様1)は、液体を吸収するための複合吸収体であって、
前記複合吸収体は、親水性の連続骨格及び連続空孔を備えた高分子吸収剤と、高吸収性ポリマーと、を含み、
前記高分子吸収剤は、液体を吸収する際に、液体を前記連続骨格に取り込んだ後に前記連続空孔に取り込むことを特徴とする、前記複合吸収体である。
【0007】
本態様の複合吸収体は、親水性の連続骨格及び連続空孔を備えた高分子吸収剤が水溶液等の液体を吸収する際に、親水性の連続骨格が液体を浸透圧によって瞬時に取り込んで膨張することで、連続空孔の容積を拡大し、さらにその拡大した連続空孔内に液体を取り込むことができるため、多量の液体を瞬時に吸収することができ、さらにその吸収した液体を保液能力の高い高吸収性ポリマー(SAP)へ受け渡して、SAP内で着実に保持することができる。
これにより、本態様の複合吸収体は、吸収体として高い吸収性能を発揮することができる。
【0008】
また、本発明の別の態様(態様2)では、上記態様1の複合吸収体において、前記高分子吸収剤は、保液限界吸液時において、膨張した前記高分子吸収剤の体積が取り込んだ液体の体積よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
本態様の複合吸収体は、高分子吸収剤がより多量の液体を連続空孔内に取り込むことができるため、吸収体としてより高い吸収性能を発揮することができる。
【0010】
本発明の更に別の態様(態様3)では、上記態様1又は2の複合吸収体において、前記高分子吸収剤は、前記連続空孔の吸液量が前記連続骨格の吸液量よりも大きいことを特徴とする。
【0011】
本態様の複合吸収体は、高分子吸収剤が更に多量の液体を連続空孔内に取り込むことができるため、吸収体として更に高い吸収性能を発揮することができる。
【0012】
本発明の更に別の態様(態様4)では、上記態様1~3のいずれかの複合吸収体において、前記高分子吸収剤は、前記連続空孔の吸液量と前記連続骨格の吸液量との質量比が60:40~95:5であることを特徴とする。
【0013】
本態様の複合吸収体は、高分子吸収剤の連続空孔の吸液量と連続骨格の吸液量との質量比が上記特定の範囲内にあるため、高分子吸収剤が液体を吸収する際に、液体を連続骨格に取り込んでから連続空孔に取り込むことをより着実に実現することができる。
【0014】
本発明の更に別の態様(態様5)では、上記態様1~4のいずれかの複合吸収体において、前記高分子吸収剤は、吸液開始直後から保液限界に達するまでの吸収速度が相対的に大きく、保液限界以降の吸収速度が相対的に小さいことを特徴とする。
【0015】
本態様の複合吸収体は、吸液開始直後から保液限界に達するまでの吸液初期段階においては、高分子吸収剤の吸収速度が相対的に大きく、液体を瞬時に連続骨格に取り込むことができる一方、保液限界以降の吸液後期段階においては、高分子吸収剤の吸収速度が相対的に小さく、連続骨格の膨張によって拡大した連続空孔内に液体を着実に取り込むことができるため、吸収体としての高い吸収性能をより確実に発揮することができる。
【0016】
本発明の更に別の態様(態様6)では、上記態様1~5のいずれかの複合吸収体において、前記高分子吸収剤は、モノリス状の吸収剤であることを特徴とする。
【0017】
本態様の複合吸収体は、高分子吸収剤がモノリス状の吸収剤であるため、液体を素早く吸収することができる上、当該高分子吸収剤に一時的に保持した液体をより着実にSAPへ受け渡すことができる。
【0018】
本発明の更に別の態様(態様7)では、上記態様1~6のいずれかの複合吸収体において、前記高分子吸収剤は、(メタ)アクリル酸エステルと、一分子中に2個以上のビニル基を含有する化合物の架橋重合体の加水分解物であり、且つ、少なくとも1個以上の-COONa基を含有することを特徴とする。
【0019】
本態様の複合吸収体は、高分子吸収剤が上記特定の構成を備えていることで、液体を吸収する時に、親水性の連続骨格が伸長しやすく(すなわち、膨張しやすく)、連続空孔も広がりやすいため、より多くの液体をより素早く連続空孔に取り込むことができ、吸収体として更に優れた吸収性能を発揮することができる。
【0020】
本発明の更に別の態様(態様8)は、高吸収性ポリマーと共に用いられる高分子吸収剤であって、
親水性の連続骨格及び連続空孔を備え、
液体を吸収する際に、液体を前記連続骨格に取り込んだ後に前記連続空孔に取り込むことを特徴とする高分子吸収剤である。
【0021】
本態様の高分子吸収剤は、水溶液等の液体を吸収する際に、親水性の連続骨格が液体を浸透圧によって瞬時に取り込んで膨張することで、連続空孔の容積を拡大し、さらにその拡大した連続空孔内に液体を取り込むことができるため、多量の液体を瞬時に吸収することができ、さらにその吸収した液体を保液能力の高い高吸収性ポリマー(SAP)へ受け渡して、SAP内で着実に保持させることができる。
したがって、本態様の高分子吸収剤をSAPと共に吸収体に用いると、吸収体は高い吸収性能を発揮することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、多量の液体を瞬時に吸収することができる、吸収性能の高い吸収体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である複合吸収体1の分解斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の別の実施形態である複合吸収体1’の分解斜視図である。
【
図3】
図3は、高分子吸収剤の一例である吸収剤Aの製造過程について説明する図である。
【
図4】
図4は、吸収剤Aの拡大倍率50倍のSEM写真である。
【
図5】
図5は、吸収剤Aの拡大倍率100倍のSEM写真である。
【
図6】
図6は、吸収剤Aの拡大倍率500倍のSEM写真である。
【
図7】
図7は、吸収剤Aの拡大倍率1000倍のSEM写真である。
【
図8】
図8は、吸収剤Aの拡大倍率1500倍のSEM写真である。
【
図9】
図9は、吸収剤Aの吸液前後の様子を示す、走査型電子顕微鏡による断面写真である。
【
図10】
図10は、蒸留水の各滴下量における吸収剤Aの吸収状態を示すCT画像である。
【
図11】
図11は、蒸留水の各滴下量における2種類のSAPの吸収状態を示すCT画像である。
【
図12】
図12は、蒸留水の各滴下量におけるInfinity粒子体の吸収状態を示すCT画像である。
【
図13】
図13は、高分子吸収剤の一例である吸収剤Aの吸液倍率と体積変化量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について、一実施形態である複合吸収体1を用いて、詳細に説明する。
なお、本明細書においては、特に断りのない限り、「展開状態で水平面上に置いた対象物(例えば、複合吸収体等)を、垂直方向の上方側から対象物の厚さ方向に見ること」を、単に「平面視」という。
【0025】
[複合吸収体]
図1は、本発明の一実施形態である複合吸収体1の分解斜視図である。
図1に示す複合吸収体1は、平面視にて略矩形状の外形形状を有しており、厚さ方向において、複合吸収体1の一方側の表面を形成する第1の保持シート2と、複合吸収体1の他方側の表面を形成する第2の保持シート3と、これらのシートの間に位置し且つ高分子吸収剤4及び高吸収性ポリマー5(SAP)の混合物からなる吸液性部材とを、基本構成として備えている。
【0026】
そして、複合吸収体1における吸液性部材は、第1の保持シート2と第2の保持シート3の間に位置する、親水性の連続骨格及び連続空孔を備えた高分子吸収剤4と高吸収性ポリマー5とによって、第1の保持シート2を透過してきた液体を吸収・保持し得るように構成されている。
さらに、上述の高分子吸収剤4は、液体を吸収する際に、液体を連続骨格に取り込んだ後に連続空孔に取り込むという特有の吸液挙動を示す。
【0027】
上述の親水性の連続骨格及び連続空孔を備えた高分子吸収剤4は、水溶液等の液体を吸収する際に、親水性の連続骨格が液体を浸透圧によって瞬時に取り込んで膨張することで、連続空孔の容積を拡大し、さらにその拡大した連続空孔内に液体を取り込むことができるため、多量の液体を瞬時に吸収することができ、さらにその吸収した液体を保液能力の高いSAPへ受け渡して、SAP内で着実に保持することができる。
したがって、このような高分子吸収剤4を含む複合吸収体1は、吸収体として高い吸収性能を発揮することができる。
【0028】
なお、本発明において、吸液性部材は上述の実施形態の複合吸収体1の態様に限定されず、吸液性部材は、少なくとも上記特有の吸液挙動を示す高分子吸収剤とSAPとを含むものであれば、その他の吸液性材料を含んでいても、含んでいなくてもよい。
【0029】
また、本発明においては、複合吸収体の構成も上述の実施形態の複合吸収体1の態様に限定されず、複合吸収体は、例えば、
図2に示す本発明の別の実施形態の複合吸収体1’のように、第1の保持シート2と吸液性部材(すなわち、高分子吸収剤4及び高吸収性ポリマー5)との間に位置する親水性繊維シート6を有していてもよい。
【0030】
本発明において、複合吸収体の外形形状や各種寸法、坪量等は、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されず、各種用途や使用態様等に応じた任意の外形形状(例えば、円形状、長円形状、多角形状、砂時計形状、デザイン形状など)や各種寸法、坪量等を採用することができる。
【0031】
以下、本発明の複合吸収体の各種構成部材について、
図1に示す実施形態の複合吸収体1を例示的に用いて更に詳細に説明する。
【0032】
(保持シート)
図1に示す複合吸収体1において、当該複合吸収体1の一方側の表面を形成する第1の保持シート2は、平面視にて複合吸収体1の外形形状と同様の略矩形状の外形形状を有している。かかる第1の保持シート2は、複合吸収体1に供給された液体を透過させて、内側の吸液性部材に吸収・保持させることができる、液透過性のシート状部材によって形成されている。
【0033】
第1の保持シート2は、内側に配置される吸液性部材に比べて(すなわち、高分子吸収剤4等の吸液性材料の配置領域に比べて)、全体的にやや大きいサイズを有しており、周縁部において、複合吸収体1の厚さ方向の他方側に位置する第2の保持シート3と、任意の接着剤または熱融着手段等によって接合されている。
【0034】
一方、複合吸収体1の他方側の表面を形成する第2の保持シート3は、平面視にて複合吸収体1の外形形状と同様の略矩形状の外形形状を有している。かかる第2の保持シート3は、内側の吸液性部材に吸収・保持されなかった液体や吸液性部材から滲出した液体が複合吸収体1の外部へ漏出するのを防ぐ、液不透過性のシート状部材によって形成されている。
【0035】
本発明において、第1の保持シート及び第2の保持シートとして用い得る各々のシート状部材は、上述の実施形態のものに限定されず、本発明の複合吸収体は、第1の保持シート及び第2の保持シートのうちの少なくとも一方の保持シートが液透過性のシート状部材によって形成されていればよい。すなわち、本発明の複合吸収体は、第1の保持シート及び第2の保持シートのうちのいずれか一方の保持シートが液不透過性のシート状部材によって形成されていてもよい。
【0036】
なお、保持シートとして液透過性のシート状部材を用いる場合、その液透過性のシート状部材は、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されず、各種用途や使用態様等に応じた任意の液透過性のシート状部材を採用することができる。そのような液透過性のシート状部材の例としては、親水性を有するエアスルー不織布、スパンボンド不織布、ポイントボンド不織布等の不織布や織布、編布、多孔の樹脂フィルムなどが挙げられる。
【0037】
さらに、液透過性のシート状部材として親水性の不織布や織布、編布等(以下、これらを総称して「繊維シート」と称する。)を用いる場合、これらの繊維シートは、単層構造を有していても、2層以上の多層構造を有していてもよい。かかる繊維シートの構成繊維の種類も特に制限されず、例えばセルロース系繊維や親水化処理を施した熱可塑性樹脂繊維などの親水性繊維が挙げられる。これらの繊維は単独で用いても、二種類以上の繊維を併用してもよい。
繊維シートの構成繊維に用い得るセルロース系繊維としては、例えば、天然セルロース繊維(例えば、コットン等の植物繊維など)や再生セルロース繊維、精製セルロース繊維、半合成セルロース繊維などが挙げられる。また、繊維シートの構成繊維に用い得る熱可塑性樹脂繊維としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂、6-ナイロン等のポリアミド系樹脂などの公知の熱可塑性樹脂からなる繊維が挙げられる。これらの樹脂は単独で用いても、二種類以上の樹脂を併用してもよい。
【0038】
また、保持シートとして液不透過性のシート状部材を用いる場合、その液不透過性のシート状部材は、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されず、各種用途や使用態様等に応じた任意の液不透過性のシート状部材を採用することができる。そのような液不透過性のシート状部材の例としては、任意の疎水性の熱可塑性樹脂繊維(例えば、PE、PP等のポリオレフィン系繊維、PET等のポリエステル系繊維、芯鞘型等の各種複合繊維など)によって形成された疎水性不織布;PEやPP等の疎水性の熱可塑性樹脂によって形成された有孔又は無孔の樹脂フィルム;該樹脂フィルムに不織布を貼り合わせた積層体;SMS不織布等の積層不織布などが挙げられる。
【0039】
本発明において、保持シートの外形形状や各種寸法、坪量等は、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されず、各種用途や使用態様等に応じた任意の外形形状(例えば、円形状、長円形状、多角形状、砂時計形状、デザイン形状など)や各種寸法、坪量等を採用することができる。
【0040】
(吸液性部材)
図1に示す複合吸収体1において、吸液性部材は、上述のとおり第1の保持シート2と第2の保持シート3の間に位置する、親水性の連続骨格及び連続空孔を備えた高分子吸収剤4と高吸収性ポリマー5とによって、第1の保持シート2を透過してきた液体を吸収・保持し得るように構成されている。
【0041】
なお、複合吸収体1においては、吸液性部材の高分子吸収剤4及び高吸収性ポリマー5は、上述の第1の保持シート2及び第2の保持シート3の各々と、ホットメルト型接着剤等の任意の接着剤によって接合されているが、本発明の複合吸収体において、高分子吸収剤は保持シートと接合されていなくてもよい。
【0042】
そして、本発明において吸液性部材は、上述のとおり親水性の連続骨格及び連続空孔を備えた上記特有の吸液挙動を示す高分子吸収剤と、高吸収性ポリマーとを必須の構成成分として含んでいる。高分子吸収剤については後述するが、高吸収性ポリマーは、当分野において公知のアクリル酸ナトリウムコポリマー等の高吸収性ポリマーからなる粉状物又は粒状物であり、SAP(Super Absorbent Polymer)と称されるものである。
【0043】
本発明において、第1の保持シート及び第2の保持シートの間に位置する吸液性部材は、吸液性材料として上述の高分子吸収剤及び高吸収性ポリマーのみを含むものであっても、これらのほかに、当分野において公知の吸液性材料を更に含むものであってもよい。そのような吸液性材料としては、例えば、親水性繊維などが挙げられ、更に具体的には、パルプ繊維(例えば、粉砕パルプ等)、コットン、レーヨン、アセテート等のセルロース系繊維などが挙げられる。
【0044】
なお、本発明において、吸液性部材の外形形状(吸液性材料の配置領域の平面視形状)や各種寸法、坪量等は、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されず、所望の吸液性や柔軟性、強度等に応じた任意の外形形状や各種寸法、坪量等を採用することができる。
【0045】
(親水性繊維シート)
本発明においては、複合吸収体は、例えば、
図2に示す別の実施形態の複合吸収体1’のように、第1の保持シート2と吸液性部材(すなわち、高分子吸収剤4及び高吸収性ポリマー5)との間に、親水性繊維シート6を有していてもよい。
【0046】
本発明において、複合吸収体に用い得る親水性繊維シートは、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されず、各種用途や使用態様等に応じた任意の親水性繊維シートを採用することができる。そのような親水性繊維シートの例としては、親水性を有する不織布や織布、編布などが挙げられる。なお、親水性繊維シートは、単層構造を有していても、2層以上の多層構造を有していてもよい。
【0047】
かかる親水性繊維シートの構成繊維の種類も特に制限されず、例えばセルロース系繊維や親水化処理を施した熱可塑性樹脂繊維などの親水性繊維が挙げられる。これらの繊維は単独で用いても、二種類以上の繊維を併用してもよい。
さらに、親水性繊維シートの構成繊維に用い得るセルロース系繊維としては、例えば、天然セルロース繊維(例えば、コットン等の植物繊維など)や再生セルロース繊維、精製セルロース繊維、半合成セルロース繊維などが挙げられる。また、親水性繊維シートの構成繊維に用い得る熱可塑性樹脂繊維としては、例えば、PE、PP等のオレフィン系樹脂、PET等のポリエステル系樹脂、6-ナイロン等のポリアミド系樹脂などの公知の熱可塑性樹脂からなる繊維が挙げられる。これらの樹脂は単独で用いても、二種類以上の樹脂を併用してもよい。
【0048】
本発明において、親水性繊維シートの外形形状や各種寸法、坪量等は、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されず、各種用途や使用態様等に応じた任意の外形形状や各種寸法、坪量等を採用することができる。
【0049】
以下、本発明の複合吸収体に用いられる高分子吸収剤について、更に詳細に説明する。
【0050】
[高分子吸収剤]
本発明において高分子吸収剤は、親水性の連続骨格及び連続空孔を備え、液体を吸収する際に、液体を上述の連続骨格に取り込んだ後に連続空孔に取り込むという特有の吸液挙動を示すものであれば特に限定されない。そのような高分子吸収剤としては、例えば、少なくとも(メタ)アクリル酸エステルを含む2個以上のモノマーの架橋重合体の加水分解物であり、官能基に少なくとも1個以上の親水基を有する高分子化合物が挙げられる。より具体的には、(メタ)アクリル酸エステルと、一分子中に2個以上のビニル基を含有する化合物の架橋重合体の加水分解物であり、少なくとも-COONa基を有する高分子化合物が挙げられる。かかる高分子吸収剤は、一分子中に少なくとも1個以上の-COONa基を有する有機多孔質体であり、さらに、-COOH基を有していてもよい。多孔質体の骨格中には、-COONa基が略均一に分布している。
【0051】
高分子吸収剤がこのような(メタ)アクリル酸エステルと、一分子中に2個以上のビニル基を含有する化合物の架橋重合体の加水分解物であり、且つ、少なくとも1個以上の-COONa基を含有するものであると、後述するように、水溶液等の液体を吸収する時に親水性の連続骨格が伸長しやすくなり(すなわち、膨張しやすくなり)、連続空孔も広がりやすくなるため、より多くの液体をより素早く連続空孔に取り込むことができる。したがって、このような高分子吸収剤を含む複合吸収体は、吸収体として更に優れた吸収性能を発揮することができる。
【0052】
なお、本明細書において(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルをいう。
【0053】
このような(メタ)アクリル酸エステルと、ジビニルベンゼンとの架橋重合体の加水分解物によって形成される高分子吸収剤においては、少なくとも-COONa基を有する有機ポリマーによって親水性の連続骨格が形成され、骨格間に液体の吸収場となる連通孔(連続空孔)を有している。
なお、加水分解処理は、架橋重合体の-COOR基(すなわち、カルボン酸エステル基)を-COONa基又は-COOH基にするものであるため(
図3を参照)、高分子吸収剤は-COOR基を有していてもよい。
【0054】
親水性の連続骨格を形成する有機ポリマー中の-COOH基及び-COONa基の存在は、赤外分光光度法及び弱酸性イオン交換基の定量法で分析することにより確認することができる。
【0055】
ここで、
図3は、高分子吸収剤の一例である吸収剤Aの製造過程について説明する図である。この
図3において、上図は重合の構成原料を示し、中図は(メタ)アクリル酸エステルとジビニルベンゼンとの架橋重合体であるモノリスAを示し、下図は中図のモノリスAに加水分解及び乾燥処理をして得られる吸収剤Aを示している。
【0056】
以下、高分子吸収剤の一例である、(メタ)アクリル酸エステルと、ジビニルベンゼンとの架橋重合体の加水分解物によって形成される吸収剤Aを用いて説明する。
【0057】
なお、高分子吸収剤としては、このような吸収剤Aに限られず、(メタ)アクリル酸エステルと、一分子中に2個以上のビニル基を有する化合物の架橋重合体の加水分解物、或いは、少なくとも(メタ)アクリル酸エステルを含む2種類以上のモノマーの架橋重合体の加水分解物などであってもよい。
但し、高分子吸収剤がモノリス状の吸収剤であると、液体を素早く吸収することができる上、当該高分子吸収剤に一時的に保持した液体をより着実にSAPへ受け渡すことができるという利点がある。
【0058】
なお、以下の説明において、「モノリスA」とは、加水分解処理がなされる前の(メタ)アクリル酸エステルとジビニルベンゼンとの架橋重合体からなる有機多孔質体であり、「モノリス状有機多孔質体」と称することがある。
また、「吸収剤A」は、加水分解処理及び乾燥処理がなされた後の(メタ)アクリル酸エステルとジビニルベンゼンとの架橋重合体(モノリスA)の加水分解物である。なお、以下の説明において、吸収剤Aは乾燥状態のものをいう。
【0059】
まず、吸収剤Aの構造について説明する。
吸収剤Aは、上述のとおり親水性の連続骨格と連続空孔を有している。親水性の連続骨格を有する有機ポリマーである吸収剤Aは、
図3に示すように、重合モノマーである(メタ)アクリル酸エステルと、架橋モノマーであるジビニルベンゼンとを架橋重合し、得られた架橋重合体(モノリスA)を更に加水分解することにより得られる。
【0060】
親水性の連続骨格を形成する有機ポリマーは、構成単位として、エチレン基の重合残基(以下、「構成単位X」と称する。)と、ジビニルベンゼンの架橋重合残基(以下、「構成単位Y」と称する。)と、を有する。
さらに、親水性の連続骨格を形成する有機ポリマー中のエチレン基の重合残基(構成単位X)は、カルボン酸エステル基の加水分解により生成する-COONa基、又は-COOH基と-COONa基の両方の基を有する。なお、重合モノマーが(メタ)アクリル酸エステルである場合、エチレン基の重合残基(構成単位X)は、-COONa基、-COOH基及びエステル基を有する。
【0061】
吸収剤Aにおいて、親水性の連続骨格を形成する有機ポリマー中の、ジビニルベンゼンの架橋重合残基(構成単位Y)の割合は、全構成単位に対し、例えば0.1~30モル%であり、好ましくは0.1~20モル%である。例えば、メタクリル酸ブチルを重合モノマーとし、ジビニルベンゼンを架橋モノマーとした吸収剤Aにおいては、親水性の連続骨格を形成する有機ポリマー中の、ジビニルベンゼンの架橋重合残基(構成単位Y)の割合は、全構成単位に対し、例えば約3%であり、好ましくは0.1~10モル%であり、より好ましくは0.3~8モル%である。
なお、親水性の連続骨格を形成する有機ポリマー中のジビニルベンゼンの架橋重合残基の割合が0.1モル%以上であると、吸収剤Aの強度が低下しにくくなり、また、このジビニルベンゼンの架橋重合残基の割合が30モル%以下であると、吸収対象となる液体の吸液量が低下しにくくなる。
【0062】
また、吸収剤Aにおいて、親水性の連続骨格を形成する有機ポリマーは、構成単位X及び構成単位Yのみからなるものであってもよいし、或いは、構成単位X及び構成単位Yに加えて、構成単位X及び構成単位Y以外の構成単位、すなわち(メタ)アクリル酸エステル及びジビニルベンゼン以外のモノマーの重合残基を有していてもよい。
【0063】
構成単位X及び構成単位Y以外の構成単位としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、(メタ)アクリル酸グリシジル、イソブテン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどのモノマーの重合残基が挙げられる。
【0064】
なお、親水性の連続骨格を形成する有機ポリマー中の、構成単位X及び構成単位Y以外の構成単位の割合は、全構成単位に対し、例えば0~50モル%であり、好ましくは0~30モル%である。
【0065】
また、吸収剤Aは、親水性の連続骨格の厚みが0.1~100μmであることが好ましい。吸収剤Aの親水性の連続骨格の厚みが0.1μm以上であると、多孔質体における液体を取り込むための空間(空孔)が吸収時に潰れにくくなり、吸液量が低下しにくくなる。一方、親水性の連続骨格の厚みが100μm以下であると、優れた吸収速度が得られやすくなる。
【0066】
なお、吸収剤Aの親水性の連続骨格の細孔構造は、連続気泡構造であるため、連続骨格の厚みの測定は、電子顕微鏡測定用の試験片に現れる骨格断面を厚みの評価箇所とする。連続骨格は、加水分解後の脱水・乾燥処理で取り除かれる水(水滴)同士の間隔で形成されるため、多角形の形状であることが多い。そのため、連続骨格の厚みは、多角形断面に外接する円の直径(μm)の平均値とする。また、稀に多角形の中に小さな穴が開いている場合もあるが、その場合は、小さな穴を囲んでいる多角形の断面の外接円を測定する。
【0067】
さらに、吸収剤Aは、連続空孔の平均直径が1~1000μmであることが好ましい。吸収剤Aの連続空孔の平均直径が1μm以上であると、多孔質体における液体を取り込むための空間(空孔)が吸収時に潰れにくくなり、吸収速度が低下しにくくなる。一方、連続空孔の平均直径が1000μm以下であると、優れた吸収速度が得られやすくなる。
【0068】
なお、吸収剤Aの連続空孔の平均直径(μm)は、水銀圧入法によって測定することができ、かかる水銀圧入法によって得られた細孔分布曲線の最大値を採用する。連続空孔の平均直径の測定用試料については、吸収剤Aのイオン形によらず、50℃の温度に設定した減圧乾燥器で18時間以上乾燥させたものを試料として用いる。なお、最終到達圧力は0Torrとする。
【0069】
ここで、
図4は、吸収剤Aの拡大倍率50倍のSEM写真であり、
図5は、吸収剤Aの拡大倍率100倍のSEM写真であり、
図6は、吸収剤Aの拡大倍率500倍のSEM写真であり、
図7は、吸収剤Aの拡大倍率1000倍のSEM写真であり、さらに、
図8は、吸収剤Aの拡大倍率1500倍のSEM写真である。
これら
図4~
図8に示す吸収剤Aは、メタクリル酸ブチルを重合モノマーとし、ジビニルベンゼンを架橋モノマーとする吸収剤の一例であり、それぞれ2mm角の立方体の構造を有している。
【0070】
図4~
図8に示す吸収剤Aは、多数の気泡状のマクロポアを有しており、さらに、これら気泡状のマクロポア同士が重なる部分を有している。吸収剤Aは、このマクロポア同士が重なる部分が共通の開口(メソポア)となる連続気泡構造を有している、すなわち、連続気泡構造体(連続マクロポア構造体)となっている。
【0071】
このマクロポア同士が重なる部分は、乾燥状態の平均直径が1~1000μm、好ましくは10~200μm、特に好ましくは20~100μmである共通の開口(メソポア)となっており、その大部分がオープンポア構造となっている。メソポアの乾燥状態の平均直径が1μm以上であると、吸収対象となる液体の吸収速度がより良好なものとなる。一方、メソポアの乾燥状態の平均直径が1000μm以下であると、吸収剤Aが脆化しにくくなる。
なお、このようなマクロポア同士の重なりは、1個のマクロポアで1~12個程度、多くのものは3~10個程度である。
【0072】
また、吸収剤Aがこのような連続気泡構造を有することにより、マクロポア群やメソポア群を均一に形成することができるとともに、特開平8-252579号公報などに記載されているような粒子凝集型多孔質体に比べて、細孔容積や比表面積を格段に大きくすることができるという利点がある。
【0073】
なお、吸収剤Aの細孔(空孔)の全細孔容積は、0.5~50mL/gが好ましく、2~30mL/gがより好ましい。吸収剤Aの全細孔容積が0.5mL/g以上であると、多孔質体における液体を取り込むための空間(空孔)が吸収時に潰れにくくなり、吸液量及び吸収速度が低下しにくくなる。一方、吸収剤Aの全細孔容積が50mL/g以下であると、吸収剤Aの強度が低下しにくくなる。
【0074】
なお、全細孔容積は、水銀圧入法で測定することができる。全細孔容積の測定用試料は、吸収剤Aのイオン形によらず、50℃の温度に設定した減圧乾燥器で18時間以上乾燥させたものを用いる。なお、最終到達圧力は0Torrとする。
【0075】
以下、吸収剤Aと液体が接触した場合の様子について説明するが、吸収剤Aを含む吸液性部材ないし複合吸収体と液体が接触した場合についても同様である。また、吸収された液体の質量は、液体量に略比例するため、以下の説明においては、液体の質量を単に「液体量」と称することがある。
【0076】
まず、
図4~
図8に示す吸収剤Aが備える連続空孔は、複数の細孔(空孔)が互いに連通している空孔であり、外観からも空孔が多数設けられていることを肉眼で視認することができる。液体がこのような多数の空孔を備えた吸収剤Aに接触すると、まず親水性の連続骨格が一部の液体を浸透圧によって瞬時に取り込んで伸長する(すなわち、膨張する)。この連続骨格の伸長は、ほぼ全方位にわたって生じる。
ここで、
図9は、吸収剤Aの吸液前後の様子を示す、走査型電子顕微鏡(SEM)による断面写真である。この
図9において、左側のSEM写真(a)は吸液前の吸収剤Aであり、右側のSEM写真(b)は吸液後の吸収剤Aである。
図9に示すように、吸収剤Aは、吸液時の連続骨格の伸長によって吸収剤Aの外形が大きくなるのに伴い、各空孔の大きさも大きくなる。このようにして空孔の大きさが大きくなると、空孔内の容積が大きくなるため、空孔内に留めることができる液体の量も増えることとなる。すなわち、このようにして一定量の液体を吸収して大きくなった吸収剤Aは、毛細管現象によって、更に所定量の液体を拡大した空孔内に吸収することができるようになる。
このように吸収剤Aは、液体を吸収する際に、液体を親水性の連続骨格に取り込んだ後に連続空孔に取り込んで吸収するという特有の吸液挙動を示す。
【0077】
なお、吸収剤Aの親水性の連続骨格内に吸収された液体は連続骨格から放出されにくい(すなわち、離液しにくい)一方、連続空孔内に吸収された液体は放出しやすいため、複合吸収体内においては、この連続空孔内に吸収された液体が離液して、保液能力の高い高吸収性ポリマー(SAP)へ受け渡され、SAP内で着実に保持されることとなる。
ここで、吸収剤Aの連続骨格内に吸収された液体量と、連続空孔内に吸収された液体量は、吸収剤Aが吸収した全液体量のうち、遠心処理(150G/90秒間)にて吸収剤Aから放出した液体量(離液量)が連続空孔内に吸収された液体量となり、その他の液体量(すなわち、遠心処理にて吸収剤Aから離液しなかった液体量)が連続骨格内に吸収された液体量となる。
【0078】
また、吸収剤Aに吸収された液体は、親水性の連続骨格内に吸収される液体よりも、空孔内に留まる液体の方が多くなっている。吸収剤Aによる液体の吸収の大部分は、毛細管現象によって空孔内に液体を留めることによって行われるため、空孔の空隙の体積(全細孔容積)の割合である空隙率(吸収剤Aの体積に対する空孔の空隙の体積)が大きいほど、より多くの液体を吸収することができる。なお、この空隙率は85%以上であることが好ましい。
【0079】
例えば、上述の
図4~
図8に示す吸収剤Aの空隙率を求めると、以下のようになる。
まず、水銀圧入法によって得られた吸収剤Aの比表面積は400m
2/gであり、細孔容積は15.5mL/gである。この細孔容積15.5mL/gは、1gの吸収剤Aの中にある細孔の容積が15.5mLであることを意味する。
ここで、吸収剤Aの比重を仮に1g/mLと仮定すると、1gの吸収剤Aの中で細孔が占める体積、すなわち細孔容積は15.5mLとなり、また、1gの吸収剤Aの体積は1mLとなる。
そうすると、1gの吸収剤Aの全容積(体積)は、15.5+1(mL)となり、そのうちの細孔容積の比率が空隙率となるため、吸収剤Aの空隙率は、15.5/(15.5+1)×100≒94%となる。
【0080】
そして、本発明においては、このような親水性の連続骨格及び連続空孔を備えた吸収剤A、すなわち高分子吸収剤が、例えば粒子状やシート状等の形態で複合吸収体に適用される。
さらに、この高分子吸収剤は、上述のとおり、液体を吸収する際に、液体を親水性の連続骨格に取り込んだ後に連続空孔に取り込むという特有の吸液挙動を示すものであるので、多量の液体を瞬時に吸収することができ、さらにその吸収した液体(主に連続空孔に吸収された液体)を保液能力の高いSAPへ受け渡して、SAP内で着実に保持することができる。したがって、このような高分子吸収剤を適用した複合吸収体は、吸収体として高い吸収性能を発揮することができる。
【0081】
ここで、本発明例としての高分子吸収剤と、比較例としての高吸収性ポリマー2種類(SAP(A)及びSAP(B))と、同じく比較例としてのInfinity粒子体とを用意し、それぞれに所定量の蒸留水を滴下した時の吸収状態を、3DマイクロX線CT装置(CosmoScan FX (リガク社製))を用いて撮影することにより観察した。この撮影に際しては、高分子吸収剤等のサンプルを両面テープで装置のベッドに固定し、その上方から蒸留水で加水した。撮影条件は、管電圧:90kV、管電流:88μA、照射時間:2分、分解能:20μm、matrix:512 x 512 x 512である。これらの観察結果は、
図10~
図12に示す。
なお、
図10は、蒸留水の各滴下量における吸収剤Aの吸収状態を示すCT画像であり、
図11は、蒸留水の各滴下量における2種類のSAPの吸収状態を示すCT画像であり、
図12は、蒸留水の各滴下量におけるInfinity粒子体の吸収状態を示すCT画像である。これら
図10~
図12において、各CT画像の白色部分が液体を吸収している部分に相当し、蒸留水の各滴下量は、高分子吸収剤等の吸収剤の単位質量当たりの吸液量(質量)、すなわち吸液倍率(g/g)により示している。
なお、上記のInfinity粒子体とは、P&G社製の吸収剤であり、高分子吸収剤と似た構造(発泡構造)を有しているものの、高分子吸収剤とは異なり、吸液して膨張する機能は有していない。
【0082】
図10に示すように、本発明例の吸収剤Aは、蒸留水の滴下量(吸液倍率)の増大に伴い、親水性の連続骨格における吸液が進行するとともに、当該連続骨格が伸長して、吸収剤Aの外形が大きくなっている。そして、吸液倍率が吸収剤Aの保液限界L
Hである10g/g(すなわち、25%吸液)に到達した後は、連続空孔における吸液が進行し、より多くの液体を吸収することができるようになっている。なお、吸液倍率が吸収剤Aの吸液限界L
Aである60g/gに到達した後は、
図10に示すように、液体を吸収しにくくなり、吸液倍率90g/gでは液体が溢れ出るようになる。
【0083】
一方、比較例のSAPでは、
図11に示すように、2種類のSAPのいずれもが蒸留水の滴下量(吸液倍率)の増大に伴い、液体を均一に拡散しながらSAP内に吸収しており、本発明例の吸収剤Aのような段階的な吸液挙動は示していない。
さらに、比較例のInfinity粒子体では、
図12に示すように、蒸留水の滴下量の増大に伴い、Infinity粒子体の上部側から吸液が進行しており、このInfinity粒子体もまた、本発明例の吸収剤Aのような段階的な吸液挙動は示していない。
【0084】
以上のように本発明例の吸収剤Aは、従来のSAPやInfinity粒子体にはない上記特有の吸液挙動を示すものであり、多量の液体を瞬時に吸収することができ、さらにその吸収した液体を保液能力の高いSAPへ受け渡すことができるという優れた吸収性能を発揮し得ることがわかる。
【0085】
なお、本発明において高分子吸収剤は、保液限界LH吸液時において、膨張した高分子吸収剤の体積が取り込んだ液体の体積よりも大きいものが好ましい。このような高分子吸収剤は、より多量の液体を連続空孔内に取り込むことができるため、このような高分子吸収剤を含む複合吸収体は、吸収体としてより高い吸収性能を発揮することができる。なお、このような高分子吸収剤の特性は、例えば上述の連続空孔の全細孔容積や高分子吸収剤の空隙率等を適宜調整することにより実現することができる。
ここで、保液限界LH吸液時における膨張した高分子吸収剤の体積、及び保液限界LH吸液時において高分子吸収剤が取り込んだ液体の体積は、それぞれ次のようにして測定することができる。
【0086】
<保液限界LH吸液時における膨張した高分子吸収剤の体積の測定方法>
(1)測定用の試料(高分子吸収剤)1gを10cm四方の切断したメッシュ袋((株)NBCメッシュテック製、N-No.255HD 115)に封入する。なお、メッシュ袋は、予め質量(g)を測定しておく。
(2)試料を封入したメッシュ袋を0.9%塩化ナトリウム水溶液に1時間浸漬する。
(3)メッシュ袋を5分間吊るして水切りした後の質量(g)を測定する。
(4)水切りした後のメッシュ袋に、150Gで90秒間の遠心処理を施し、その遠心処理後のメッシュ袋の質量(g)を測定する。
(5)遠心処理後のメッシュ袋の質量から試料の質量(=1g)及びメッシュ袋の合計質量を差し引くことにより試料の保液量(g)を算出し、さらにこの保液量を試料の質量(=1g)で除することにより試料(高分子吸収剤)の単位質量当たりの保液量(g/g)を得る。この単位質量当たりの保液量が保液限界LH(g/g)となる。
(6)別途、測定用の試料(高分子吸収剤)を30粒取り出してその質量を測定し、さらにその質量を粒数(30粒)で除することにより、試料1粒当たりの平均質量(g)を算出する。
(7)試料30粒の中から平均質量の値に最も合致する1粒を選び、その1粒の試料を3DマイクロX線CT装置(CosmoScan FX、リガク社製)のベッドに両面テープで固定する。
(8)固定した1粒の試料の上方から、上記(5)で得た保液限界LHに相当する量(g)の蒸留水を加水し、上記1粒の試料に蒸留水を含ませる。
(9)蒸留水を含ませた1粒の試料を、上記3DマイクロX線CT装置で観察し(管電圧:90kV、管電流:88μA、照射時間:2分、分解能:20μm、matrix:512 x 512 x 512)、得られたCT画像から保液限界LHにおいて膨張した1粒の試料の体積(cm3)を算出する。
【0087】
なお、保液限界LH吸液時において高分子吸収剤が取り込んだ液体の体積は、蒸留水を1g=1cm3として、上記保液限界LHの量(g)の体積(cm3)を算出する。
【0088】
また、測定用の試料(高分子吸収剤)を複合吸収体の製品から回収して用いる場合は、次の<測定用の試料(高分子吸収剤)の回収方法>に従って得ることができる。
【0089】
<測定用の試料(高分子吸収剤)の回収方法>
(1)複合吸収体の製品から保持シート等を剥がして、吸液性部材を露出させる。
(2)露出させた吸液性部材から測定対象物(高分子吸収剤)を落下させ、(粒子状の)測定対象物以外のもの(例えば、パルプや合成樹脂繊維等)を、ピンセット等を用いて取り除く。
(3)拡大観察手段として顕微鏡又は簡易ルーペを使用し、SAPとの違いを認識できる倍率又は多孔質体の空孔を視認できる倍率で観察しながら、ピンセット等を用いて測定対象物を回収する。なお、簡易ルーペの倍率は、多孔質体の空孔を視認できる倍率であれば特に限定されず、例えば25倍~50倍の倍率が挙げられる。
(4)このようにして回収した測定対象物を各種測定方法における測定用の試料とする。
【0090】
さらに、高分子吸収剤は、連続空孔の吸液量が連続骨格の吸液量よりも大きいものであることが好ましい。このような高分子吸収剤は、更に多量の液体を連続空孔内に取り込むことができるため、このような高分子吸収剤を含む複合吸収体は、吸収体として更に高い吸収性能を発揮することができる。なお、このような高分子吸収剤の特性は、例えば上述の連続空孔の全細孔容積や高分子吸収剤の空隙率等を適宜調整することにより実現することができる。
ここで、高分子吸収剤の連続空孔の吸液量及び連続骨格の吸液量は、それぞれ次のようにして測定することができる。
【0091】
<高分子吸収剤の連続空孔の吸液量及び連続骨格の吸液量の測定方法>
(1)測定用の試料(高分子吸収剤)1gを10cm四方の切断したメッシュ袋((株)NBCメッシュテック製、N-No.255HD 115)に封入する。なお、メッシュ袋は、予め質量(g)を測定しておく。
(2)試料を封入したメッシュ袋を0.9%塩化ナトリウム水溶液に1時間浸漬する。
(3)メッシュ袋を5分間吊るして水切りした後の質量(g)を測定する。
(4)上記(3)で測定した水切り後のメッシュ袋の質量から試料の質量(=1g)及びメッシュ袋の合計質量を差し引くことにより試料の吸液量(g)を算出し、さらにこの吸液量を試料の質量(=1g)で除することにより試料(高分子吸収剤)の単位質量当たりの吸液量(g/g)を得る。この単位質量当たりの吸液量が吸液限界LA(g/g)となる。
(5)さらに、上記(3)で水切りした後のメッシュ袋に、150Gで90秒間の遠心処理を施し、その遠心処理後のメッシュ袋の質量(g)を測定する。
(6)上記(5)で測定した遠心処理後のメッシュ袋の質量から試料の質量(=1g)及びメッシュ袋の合計質量を差し引くことにより試料の保液量(g)を算出し、さらにこの保液量を試料の質量(=1g)で除することにより試料(高分子吸収剤)の単位質量当たりの保液量(g/g)を得る。この単位質量当たりの保液量が保液限界LH(g/g)となり、この保液限界LHを「連続骨格の吸液量」とする。
(7)そして、上記(4)で得た吸液限界LAから保液限界LHを差し引いた量(g/g)を、「連続空孔の吸液量」とする。
【0092】
なお、高分子吸収剤は、連続空孔の吸液量と連続骨格の吸液量との質量比が60:40~95:5であることが好ましい。高分子吸収剤の連続空孔の吸液量と連続骨格の吸液量との質量比がこのような特定の範囲内にあると、高分子吸収剤が液体を吸収する際に、液体を連続骨格に取り込んでから連続空孔に取り込むことを、より着実に実現することができる。なお、このような高分子吸収剤の特性も、例えば上述の連続空孔の全細孔容積や高分子吸収剤の空隙率等を適宜調整することにより実現することができる。
【0093】
また、高分子吸収剤は、吸液開始直後から保液限界に達するまでの吸収速度が相対的に大きく、保液限界以降の吸収速度が相対的に小さいものが好ましい。
ここで、
図13は、本発明の高分子吸収剤の一例である吸収剤Aの吸液倍率と体積変化量との関係を示すグラフである。
図13に示すように、吸収剤Aは、吸液開始後において、吸液倍率の増大に伴って体積変化量が急速に増大している(すなわち、液体の吸収速度R
1が大きい)が、吸液倍率が吸収剤Aの保液限界L
Hである10g/gに到達した後は、体積変化量が緩やかに増大している(すなわち、液体の吸収速度R
2が小さい)ことがわかる。
このように、吸収剤Aは、吸液開始直後から保液限界L
Hに達するまでの吸液初期段階において、吸収速度が相対的に大きいことで、液体を瞬時に連続骨格に取り込むことができる一方、保液限界L
H以降の吸液後期段階においては、吸収速度が相対的に小さいため、連続骨格の膨張によって拡大した連続空孔内に液体を着実に取り込むことができる。これにより吸収剤Aは、吸収体としての高い吸収性能をより確実に発揮することができる。
【0094】
なお、高分子吸収剤の体積変化量は、上述の<保液限界LH吸液時における膨張した高分子吸収剤の体積の測定方法>に準じ、各吸液倍率における膨張した高分子吸収剤の体積を測定し、それを吸液前の高分子吸収剤の体積で除して100を乗ずることにより得ることができる。
【0095】
以下、このような高分子吸収剤の製造方法について、上述の吸収剤Aを例にして詳細に説明する。
【0096】
[高分子吸収剤の製造方法]
上述の吸収剤Aは、
図3に示すように、架橋重合工程と加水分解工程を経ることにより得ることができる。以下、これらの各工程について説明する。
【0097】
(架橋重合工程)
まず、架橋重合用の油溶性モノマーと、架橋性モノマーと、界面活性剤と、水と、必要に応じて重合開始剤とを混合し、油中水滴型エマルションを得る。この油中水滴型エマルションは、油相が連続相となって、その中に水滴が分散したエマルションである。
【0098】
そして、上述の吸収剤Aにおいては、
図3の上図に示すように、油溶性モノマーとして、(メタ)アクリル酸エステルであるメタクリル酸ブチルを用い、架橋性モノマーとして、ジビニルベンゼンを用い、界面活性剤としてソルビタンモノオレエートを用い、さらに重合開始剤としてイソブチロニトリルを用いて架橋重合させ、モノリスAを得る。
【0099】
具体的には、吸収剤Aにおいては、
図3の上図に示すように、まず、油溶性モノマーとしてのメタクリル酸t-ブチル9.2gと、架橋性モノマーとしてのジビニルベンゼン0.28gと、界面活性剤としてのソルビタンモノオレエート(以下、「SMO」と略す。)1.0gと、重合開始剤としての2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.4gとを混合し、均一に溶解させる。
次に、メタクリル酸t-ブチル/ジビニルベンゼン/SMO/2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)の混合物を180gの純水に添加し、遊星式撹拌装置である真空撹拌脱泡ミキサー(イーエムイー社製)を用いて減圧下で撹拌し、油中水滴型エマルションを得る。
【0100】
さらに、このエマルションを速やかに反応容器に移して密封し、静置下で60℃、24時間の条件で重合させる。重合終了後に内容物を取り出し、メタノールで抽出した後、減圧乾燥して、連続マクロポア構造を有するモノリスAを得る。なお、モノリスAの内部構造をSEMにより観察した結果、モノリスAは、連続気泡構造を有しており、連続骨格の厚みは5.4μmであった。また、水銀圧入法により測定した連続空孔の平均直径は36.2μm、全細孔容積は15.5mL/gであった。
【0101】
なお、全モノマーに対するジビニルベンゼンの含有量は、0.3~10モル%であることが好ましく、0.3~5モル%であることがより好ましい。また、メタアクリル酸ブチルとジビニルベンゼンの合計に対するジビニルベンゼンの割合が0.1~10モル%であることが好ましく、0.3~8モル%であることがより好ましい。なお、上述の吸収剤Aにおいては、メタアクリル酸ブチルとジビニルベンゼンの合計に対するメタアクリル酸ブチルの割合が97.0モル%であり、ジビニルベンゼンの割合が3.0モル%である。
【0102】
界面活性剤の添加量は、油溶性モノマーの種類及び所望のエマルション粒子(マクロポア)の大きさに応じて設定することができ、油溶性モノマーと界面活性剤の合計量に対して約2~70%の範囲とすることが好ましい。
【0103】
なお、モノリスAの気泡形状やサイズなどを制御するために、メタノール、ステアリルアルコール等のアルコール;ステアリン酸等のカルボン酸;オクタン、ドデカン、トルエン等の炭化水素;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテルなどを重合系内に共存させてもよい。
【0104】
また、油中水滴型エマルションを形成させる際の混合方法は特に制限されず、例えば各成分を一括して一度に混合する方法、油溶性モノマー、界面活性剤及び油溶性重合開始剤である油溶性成分と、水や水溶性重合開始剤である水溶性成分とを別々に均一溶解させた後、それぞれの成分を混合する方法などの任意の混合方法を採用することができる。
【0105】
さらに、エマルションを形成させるための混合装置も特に制限されず、所望のエマルション粒径に応じて、通常のミキサーやホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等の任意の装置を採用することができ、さらには、被処理物を混合容器に入れ、該混合容器を傾斜させた状態で公転軸の周りに公転させながら自転させることにより被処理物を攪拌混合する、いわゆる遊星式攪拌装置なども用いることができる。
【0106】
また、混合条件についても特に制限されず、所望のエマルション粒径に応じて、攪拌回転数や攪拌時間等を任意に設定することができる。なお、上記の遊星式攪拌装置では、W/Oエマルション中の水滴を均一に生成させることができ、その平均径を幅広い範囲で任意に設定することができる。
【0107】
油中水滴型エマルションの重合条件は、モノマーや開始剤の種類等に応じて様々な条件を採用することができる。例えば、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルや過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム等を用いる場合は、不活性雰囲気下の密封容器内において、30~100℃の温度で1~48時間加熱重合すればよく、重合開始剤として過酸化水素-塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム-酸性亜硫酸ナトリウム等を用いる場合は、不活性雰囲気下の密封容器内において、0~30℃の温度で1~48時間重合すればよい。
【0108】
なお、重合終了後は、内容物を取り出して、イソプロパノール等の溶剤でソックスレー抽出を行うことにより未反応モノマーと残留界面活性剤を除去し、
図3の中図に示すモノリスAを得ることができる。
【0109】
(加水分解工程)
続いて、モノリスA(架橋重合体)を加水分解して、吸収剤Aを得る工程(加水分解工程)について説明する。
【0110】
まず、モノリスAを、臭化亜鉛を加えたジクロロエタンに浸漬させて40℃で24時間撹拌し、メタノール、4%塩酸、4%水酸化ナトリウム水溶液及び水にこの順で接触させて加水分解を行った後、乾燥させてブロック状の吸収剤Aを得る。さらに、このブロック状の吸収剤Aを所定の大きさに粉砕して粒子状の吸収剤Aを得る。なお、この吸収剤Aの形態は粒子状に限定されず、例えば、乾燥させる際に又は乾燥後にシート状に成形してもよい。
【0111】
また、モノリスAの加水分解の方法は特に制限されず、種々の方法を採用することができる。例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒、テトラヒドロフランやイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、メタノールやエタノール等のアルコール系溶媒、酢酸やプロピオン酸等のカルボン酸系溶媒または水を溶媒として、水酸化ナトリウム等の強塩基と接触させる方法、或いは、塩酸等のハロゲン化水素酸、硫酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等のブレンステッド酸または臭化亜鉛、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化チタン(IV)、塩化セリウム/ヨウ化ナトリウム、ヨウ化マグネシウム等のルイス酸と接触させる方法などが挙げられる。
【0112】
また、吸収剤Aの親水性の連続骨格を形成する有機ポリマーの重合原料のうち、(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に制限されないが、(メタ)アクリル酸のC1~C10(すなわち、炭素数1~10)のアルキルエステルが好ましく、(メタ)アクリル酸のC4(すなわち、炭素数4)のアルキルエステルが特に好ましい。
なお、(メタ)アクリル酸のC4のアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸t-ブチルエステル、(メタ)アクリル酸n-ブチルエステル、(メタ)アクリル酸iso-ブチルエステルが挙げられる。
【0113】
また、架橋重合に用いるモノマーは、(メタ)アクリル酸エステル及びジビニルベンゼンのみであってもよいし、(メタ)アクリル酸エステル及びジビニルベンゼンに加えて、(メタ)アクリル酸エステル及びジビニルベンゼン以外の他のモノマーを含有していてもよい。
後者の場合、他のモノマーとしては、特に限定されないが、例えばスチレン、α―メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2エチルヘキシル、イソブテン、ブタジエン、イソブレン、クロロプレン、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
なお、架橋重合に用いる全モノマー中の、(メタ)アクリル酸エステル及びジビニルベンゼン以外の他のモノマーの割合は、0~80モル%が好ましく、0~50モル%がより好ましい。
【0114】
また、界面活性剤は、上述のソルビタンモノオレエートに限定されず、架橋重合用モノマーと水とを混合した際に、油中水滴型(W/O)エマルションを形成し得るものであればよい。そのような界面活性剤としては、例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレン基ノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン基ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン基ソルビタンモノオレエート等の非イオン界面活性剤、オレイン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム等の陰イオン界面活性剤、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤、ラウリルジメチルベタイン等の両性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は一種類を単独で用いても、二種類以上を併用してもよい。
【0115】
また、重合開始剤は、熱及び光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。さらに、重合開始剤は、水溶性でも油溶性でもよく、例えば、アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素-塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム-酸性亜硫酸ナトリウム、テトラメチルチウラムジスルフィドなどが挙げられる。ただし、場合によっては、重合開始剤を添加しなくても加熱のみや光照射のみで重合が進行する系もあるため、そのような系では重合開始剤の添加は不要である。
【0116】
なお、本発明の複合吸収体は、特に限定されないが、例えば、結露防止シートや簡易土壌等の土木・建築資材、医薬品等の基材、漏出液体の吸収用資材などの様々な分野の複合吸収体に適用することができる。したがって、複合吸収体の吸収対象となる液体も特に限定されず、例えば、水や水溶液(例えば、海水など)、酸(例えば、塩酸など)、塩基(例えば、水酸化ナトリウムなど)、有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン等のエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)など)が挙げられる。なお、これらの液体は、2種類以上の液体の混合物であってもよい。
【0117】
また、本発明は、上述の実施形態等に制限されることなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜組み合わせや代替、変更等が可能である。なお、本明細書において、「第1」、「第2」等の序数は、当該序数が付された事項を区別するためのものであり、各事項の順序や優先度、重要度等を意味するものではない。
【符号の説明】
【0118】
1 複合吸収体
2 第1の保持シート
3 第2の保持シート
4 高分子吸収剤
5 高吸収性ポリマー(SAP)
6 親水性繊維シート