(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104747
(43)【公開日】2022-07-11
(54)【発明の名称】抗ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/47 20060101AFI20220704BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20220704BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20220704BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
A61K31/47
A61P31/12
A61P31/14
A61P31/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020219885
(22)【出願日】2020-12-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「RdRP阻害剤による抗SARS-CoV-2戦略」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(71)【出願人】
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100109542
【弁理士】
【氏名又は名称】田伏 英治
(72)【発明者】
【氏名】増富 健吉
(72)【発明者】
【氏名】安川 麻美
(72)【発明者】
【氏名】渡士 幸一
(72)【発明者】
【氏名】本間 光貴
(72)【発明者】
【氏名】関根 俊一
(72)【発明者】
【氏名】小山 裕雄
(72)【発明者】
【氏名】深見 竹広
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC28
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB33
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、ウイルスに起因する疾患の予防または治療剤を提供することにある。
【解決手段】式(I):
(式中、各記号は明細書に記載の通りである。)
で表される化合物またはその塩を有効成分として含有する、ウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
(式中、m個のR
1およびn個のR
2は、互いに独立して、ハロゲン原子を示し、および
mおよびnは、互いに独立して、0~3の整数を示す。)
で表される化合物またはその塩を有効成分として含有する、ウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
【請求項2】
式(I)で表される化合物またはその塩が、式(Ia):
【化2】
(式中、R
1a、R
1b、およびR
2aは、互いに独立して、ハロゲン原子を示し、および
R
2bは、水素原子またはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物またはその塩である、請求項1に記載のウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
【請求項3】
式(I)で表される化合物またはその塩が、以下の式:(RK-X)、(RK-Y)または(RK-Z):
【化3】
で表される化合物から選択される化合物またはその塩である、請求項1に記載のウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
【請求項4】
ウイルスが、RNAウイルスである、請求項1~3に記載のウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
【請求項5】
ウイルスが、一本鎖RNAウイルスである、請求項4に記載のウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
【請求項6】
ウイルスが、コロナウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)、インフルエンザウイルス、エボラウイルス、ポリオウイルス、デングウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、麻疹ウイルス、および/または西ナイル熱ウイルスである、請求項5に記載のウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
【請求項7】
ウイルスが、コロナウイルスである、請求項6に記載のウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
【請求項8】
ウイルスが、SARS-CoV-2である、請求項7に記載のウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
【請求項9】
ヒトに投与するための、請求項1~8に記載のウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNA依存性RNAポリメラーゼ(以下、RdRPと表記する場合がある)の阻害作用を有するスルホンアミド誘導体を有効成分として含有するウイルスに起因する疾患の予防または治療剤に関するものであり、医薬の分野において有用である。
【背景技術】
【0002】
感染の拡大が問題となっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する有効な治療法としては、未だ完全に確立されたものはなく、有効性の高い新たな治療薬またはワクチンの開発が期待されている。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を含むコロナウイルスは、1本鎖のプラス鎖RNAをゲノムとして持つRNAウイルスである。プラス鎖あるいはマイナス鎖の違いはあるが、1本鎖RNAをゲノムとしてもつRNAウイルスには、C型肝炎ウイルス(HCV)、インフルエンザウイルス、エボラウイルス、ポリオウイルス、デングウイルス、西ナイル熱ウイルス等が挙げられる。これらの「RNAウイルス」に共通する生物学的特徴として、ゲノム複製(すなわちRNA複製)にRdRPを用いるという特徴があり、いいかえれば、「RdRPは、RNAウイルスの種を超えてlife cycleに必須の酵素」であると考えられるため、RdRPを阻害することにより治療効果を示す抗ウイルス剤の開発が進められて来た。
このような薬剤としてレムデシビルの検討が進められ(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)、既に承認されている。しかし、レムデシビルは点滴静注薬であるため、臨床上の利便性が必ずしも高いとは言えなかった。従って、医療現場では経口投与可能な、有効性の高い抗ウイルス剤が待たれていた。
【0003】
特許文献1には、糖尿病等の治療に用い得るPPAR-γ活性調節用化合物としてのスルホンアミド誘導体が記載されているが、RdRP阻害作用を有することについては記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cell Research 30,269-271(2020)
【非特許文献2】Science. 2020 May 15;368(6492):779-782.
【非特許文献3】N Engl J Med 2020; 383:1813-1826.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた抗ウイルス作用を有し、経口投与可能な、新たなRdRP阻害剤を提供することにより、上記の課題の解決を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる状況下、鋭意検討を重ねた結果、特定構造のスルホンアミド誘導体が、RdRP阻害作用を有し、コロナウイルス等のウイルスに起因する疾患の予防または治療に有効であることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0008】
[1]式(I):
【0009】
【0010】
(式中、m個のR1およびn個のR2は、互いに独立して、ハロゲン原子を示し、および
mおよびnは、互いに独立して、0~3の整数を示す。)
で表される化合物またはその塩を有効成分として含有する、ウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
[2]式(I)で表される化合物またはその塩が、式(Ia):
【0011】
【0012】
(式中、R1a、R1b、およびR2aは、互いに独立して、ハロゲン原子を示し、および
R2bは、水素原子またはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物またはその塩である、上記[1]に記載のウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
[3]式(I)で表される化合物またはその塩が、以下の式:(RK-X)、(RK-Y)または(RK-Z):
【0013】
【0014】
で表される化合物から選択される化合物またはその塩である、上記[1]または[2]に記載のウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
[4]ウイルスが、RNAウイルスである、上記[1]~[3]に記載のウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
[5]ウイルスが、一本鎖RNAウイルスである、上記[1]~[4]に記載のウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
[6]ウイルスが、コロナウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)、インフルエンザウイルス、エボラウイルス、ポリオウイルス、デングウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、麻疹ウイルス、および/または西ナイル熱ウイルスである、上記[1]~[5]に記載のウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
[7]ウイルスが、コロナウイルスである、上記[1]~[6]に記載のウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
[8]ウイルスが、SARS-CoV-2である、上記[1]~[7]に記載のウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
[9]ヒトに投与するための、上記[1]~[8]に記載のウイルスに起因する疾患の予防または治療剤。
[10]式(I):
【0015】
【0016】
(式中、m個のR1およびn個のR2は、互いに独立して、ハロゲン原子を示し、および
mおよびnは、互いに独立して、0~3の整数を示す。)
で表される化合物またはその塩の有効量を、その投与を必要とする哺乳動物に投与することを含む、ウイルスに起因する疾患の予防または治療方法。
(*)好適な化合物(I)、好適な対象ウイルス、および好適な対象者については、上記[2]~[9]を参照することができる。
[11]ウイルスに起因する疾患の予防または治療における使用のための、式(I):
【0017】
【0018】
(式中、m個のR1およびn個のR2は、互いに独立して、ハロゲン原子を示し、および
mおよびnは、互いに独立して、0~3の整数を示す。)
で表される化合物またはその塩。
(*)好適な化合物(I)、好適な対象ウイルス、および好適な対象者については、上記[2]~[9]を参照することができる。
[12]ウイルスに起因する疾患の予防または治療のための医薬を製造するための、式(I):
【0019】
【0020】
(式中、m個のR1およびn個のR2は、互いに独立して、ハロゲン原子を示し、および
mおよびnは、互いに独立して、0~3の整数を示す。)
で表される化合物またはその塩の使用。
(*)好適な化合物(I)、好適な対象ウイルス、および好適な対象者については、上記[2]~[9]を参照することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、ウイルスに起因する疾患の予防または治療に有効かつ安全に使用可能な薬剤が、提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】後記実施例1における、試験方法の概要を示す。
【
図1B】後記実施例1における、被験化合物RK-X、RK-Y、およびRK-Z投与時の、相対的ウイルス量の定量結果を示す。
【
図2】後記の実施例2における、被験化合物RK-Xの投与による蛍光強度の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、RdRP阻害作用を有する前記式(I)で表される特定構造のスルホンアミド誘導体またはその塩(以下、両者を総称して「化合物(I)」と表記する場合がある)を有効成分として含有する、ウイルスに起因する疾患の予防または治療剤;有効量の化合物(I)をその投与を必要とする哺乳動物に投与することを含む、ウイルスに起因する疾患の予防または治療方法;ウイルスに起因する疾患の予防または治療における使用のための、化合物(I);ウイルスに起因する疾患の予防または治療のための医薬を製造するための、化合物(I)の使用;に関する。
【0024】
以下、上記した本発明について詳述するが、特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味をもつ。
【0025】
(本発明の化合物(I)について)
本発明の化合物(I)は、以下の式:
【0026】
【0027】
(式中、m個のR1およびn個のR2は、互いに独立して、ハロゲン原子を示し、および
mおよびnは、互いに独立して、0~3の整数を示す。)
で表される化合物またはその塩である。
【0028】
上記化合物(I)において、好ましいものは、以下の式(Ia):
【0029】
【0030】
(式中、R1a、R1b、およびR2aは、互いに独立して、ハロゲン原子を示し、および
R2bは、水素原子またはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物またはその塩である。
【0031】
上記各式中、「ハロゲン原子」としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
【0032】
ここで、より好ましい化合物(I)は、以下の式(RK-X)、(RK-Y)または(RK-Z)で表される化合物またはその塩である。
【0033】
【0034】
本発明の化合物(I)またはその塩は、当業者であれば、例えば、国際公開第2001/00579号に記載された方法(例えば、実施例178、180等)や当技術分野で公知の方法を適宜活用して製造し、本発明の実施のために使用することができる。また、化合物(I)またはその塩が市販されている場合は、購入して使用することもできる。
【0035】
本発明の実施に当たっては、化合物(I)は、遊離の形態、またはその塩(好ましくは、その医薬として許容される塩)の形態のいずれにおいても使用することができる。使用される個々の化合物(I)の特性を踏まえて当業者であれば両形態から適宜選択して本発明を実施することができる。
医薬として許容される塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸との塩、酢酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トシル酸塩、マレイン酸塩等の有機酸との塩;グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等のアミノ酸との塩等が挙げられる。
【0036】
本発明を実施するに当たっては、化合物(I)はそのプロドラッグ(以下、両者を総称して、「本発明化合物」と表記する場合がある)の形態で使用することもできる。当業者であれば、適宜当該プロドラッグを設計することができ、また当該プロドラッグは自体公知の方法によって製造することができる。当該プロドラッグは、広川書店1990年刊「医薬品の開発」第7巻分子設計163頁から198頁に記載されているような、生理的条件で目的とするSSTR5拮抗剤に変化するものであってもよい。
【0037】
(本発明のウイルスに起因する疾患について)
本発明のウイルスに起因する疾患としては、各種のウイルスの感染により惹起される疾患が挙げられるが、本発明化合物がより有効なものとしては、RNAウイルスに起因する疾患が挙げられる。本発明化合物がさらに有効なものとしては、一本鎖RNAウイルス(例えば、コロナウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)、インフルエンザウイルス、エボラウイルス、ポリオウイルス、デングウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、麻疹ウイルス、西ナイル熱ウイルス等)に起因する疾患が挙げられ、特に有効なものとしては、コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2等)に起因する疾患が挙げられる。
係る疾患としては、例えば、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、COVID-19、C型肝炎、インフルエンザ、エボラ出血熱、ポリオ、デング熱、手足口病、麻疹、西ナイル熱等が挙げられる。
【0038】
本明細書中、「予防」には、疾患(病態の全体、もしくは1つまたは複数の病態)の発症の防止、および当該疾患の発症の遅延が含まれる。「予防有効量」とは、かかる目的を達成するに足る本発明化合物の用量をいう。
【0039】
本明細書において、「治療」には、疾患(病態の全体、もしくは1つまたは複数の病態)の治癒、当該疾患の改善、および当該疾患の重篤度の進展の抑制が含まれる。「治療有効量」とは、かかる目的を達成するに足る本発明化合物の用量をいう。
【0040】
(投与形態について)
本発明を実施するにあたっては、本発明化合物は、単独の形態で、または本発明化合物を有効成分として、医薬として許容される担体とともに含む医薬組成物の形態でのいずれの形態でも使用することができる。
【0041】
かかる医薬組成物としては、例えば錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠、舌下錠、口腔内崩壊錠、バッカル錠等を含む)、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤、マイクロカプセル剤を含む)、トローチ剤、シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁剤、放出制御製剤(例、速放性製剤、徐放性製剤、徐放性マイクロカプセル剤)、エアゾール剤、フィルム剤(例、口腔内崩壊フィルム、口腔粘膜貼付フィルム)、注射剤(例、皮下注射剤、静脈内注射剤(例、ボーラス)、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、経皮吸収型製剤、軟膏剤、ローション剤、貼付剤、坐剤(例、肛門坐剤、膣坐剤)、ペレット、経鼻剤、経肺剤(吸入剤)、点眼剤等が挙げられる。中でも、経口投与に適した医薬組成物の形態が好ましい。
【0042】
本明細書において、「医薬として許容される担体」としては、製剤技術の分野で慣用されている各種の担体を用いることができる。
【0043】
「医薬として許容される担体」の具体例としては、例えば、固形製剤においては、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、D-マンニトール、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、コロイドシリカ等)、結合剤(例えば、結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デンプン、ショ糖、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等)および崩壊剤(例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、L-ヒドロキシプロピルセルロース等)、等を用いることができる。
【0044】
液状製剤においては、溶剤(例えば、注射用水、等張食塩水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、等)、溶解補助剤(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等)、懸濁化剤(例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤;例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子等)、等張化剤(例えば、ブドウ糖、D-ソルビトール、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール等)、緩衝剤(例えば、リン酸塩、クエン酸塩等の緩衝液等)、および無痛化剤(例えば、ベンジルアルコール等)、等を用いることができる。
【0045】
必要により、防腐剤(例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、ソルビン酸等)、抗酸化剤(例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸、α-トコフェロール等)、着色剤、甘味剤等の製剤添加物をさらに添加してもよい。
【0046】
本発明の医薬組成物は、剤型、投与方法、担体などにより異なるが、本発明化合物を製剤全量に対して通常0.01~99%(w/w)、好ましくは0.1~85%(w/w)の割合で添加することにより、製造し得る。当該医薬組成物は、その形態に応じて、製剤技術の分野で慣用の方法により製造できる。本発明の医薬組成物は、有効成分を含む速放性製剤または徐放性製剤等の放出制御製剤に成形してもよい。
【0047】
(投与対象について)
本発明化合物は、毒性が低く、かつ副作用も少ないことが期待でき、医薬品として優れた性質も有している。従って、本発明化合物は、哺乳動物(例えば、ヒト、サル、イヌ、ウマ等)に対して、安全に投与し得る。
【0048】
(投与経路について)
本発明を実施するに当たっては、本発明化合物は、単独で、または医薬組成物として、経口的又は非経口的(例、静脈内、筋肉内、皮下、臓器内、鼻腔内、皮内、点眼、脳内、直腸内、膣内、腹腔内投与、および病巣への投与)に投与し得る。中でも、経口投与が好ましい。
【0049】
(投与量について)
本発明化合物の投与量は、投与対象、投与経路および投与対象の年齢や症状によって異なるが、特に限定されない。例えば、その投与量は有効成分である本発明化合物として1回当たり、経口投与する場合、0.1~6000mg、非経口投与する場合、その投与量は0.01~600mgである。当該投与量を1日当たり1~3回に分けて投与することができる。また、徐放性製剤の形態で投与する場合には、当該投与量に相当するように隔日投与あるいはそれ以上の間隔を空けて投与することも可能である。
【0050】
(他剤との併用について)
本発明の実施に当たっては、本発明化合物は、他の薬剤と組み合わせて、対象疾患の予防または治療に用いることができ、他の薬剤との併用による優れた予防および/または治療効果が期待できる。また、かかる併用療法により他の薬剤の用量を下げて、これらが有する副作用を低減することも期待できる。
このような本発明の実施に当たって本発明化合物と組み合わせて用いられ得る薬剤(以下、併用薬剤と表記する場合がある)は、患者の疾患の種類、その症状の重篤度等に鑑みて、適宜選択することができる。
例えば、併用薬剤としては、抗ウイルス活性を有するレムデシビル、ネルフィナビル、ファビビラビル、ロピナビル、クロロキン等の抗ウイルス薬、デキサメタゾン、シクレソニド等のステロイド薬、ヒドロキシクロロキン等の抗炎症薬、ナファモスタット、カモスタット等のタンパク分解酵素阻害薬、あるいはトシリズマブ、サリルマブ等の抗IL-6R抗体、バリシチニブ、ルキソリチニブ等のJAK阻害薬、アカラブルチニブ等のBTK阻害薬、ラブリズマブ等の抗補体抗体等の重症化したサイトカインストーム症候群や急性呼吸窮迫症候群治療用の薬剤、又はインターフェロン製剤等が挙げられる。
併用薬剤の投与形態は、特に限定されず、投与時に、本発明化合物と併用薬剤とが組み合わされ得る。例えば、(1)本発明化合物と併用薬剤とを組み合わせて含有する製剤の投与、(2)本発明化合物と併用薬剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での同時または別々の投与、(3)本発明化合物と併用薬剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での同時または別々の投与、等の形態で用いることができる。好ましい形態は、医療現場の実態に応じて、適宜選択することができる。
上記の本発明化合物と併用薬剤とを組み合わせて含有する製剤は、先に説明された本発明化合物を含有する医薬組成物に準じて、当業者であれば適宜製造することができる。
併用薬剤の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択し得る。また、本発明化合物と併用薬剤との配合比は、投与対象の疾患や症状、投与経路、用いる併用薬剤の種類、等により適宜選択し得る。通常は、用いる併用薬剤の一般的な臨床用量を基準にして医療現場の実態に応じて適宜決定し得る。
【実施例0051】
以下、実施例に沿って本発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。また、本発明において使用する試薬や装置、材料は特に言及されない限り、商業的に入手可能であるか、当業者であれば適宜調製することが可能である。
【0052】
実施例1
Matsuyama,S.et al.PNAS,117,7001(2020)“Enhanced isolation of SARS-CoV-2 by TMPRSS2”に従い、VeroE6/TMPRSS2細胞を用いてSARS-CoV-2感染に対するRdRP阻害剤による阻害効果(in vitro)を確認した。VeroE6/TMPRSS2細胞は(JCRBno.JCRB1819)に保存されている。
(1)TMPRSS2過剰発現VeroE6細胞株をIWAKI社製の96穴の細胞培養プレートの各ウェルに培養した。次いで、被験薬物として、
・本発明のRdRP阻害剤の各濃度16μM、24μM、36μM
・ポジティブ薬物対照群として、レムデシビル10μM(MedChemExpress社製)、あるいは
・対照群として、ジメチルスルホキシド0.5%(Sigma社製)
を添加し、5%CO
2条件下、37℃で1時間培養した。培養には、Life Technologies社製のDMEM培地およびウシ胎仔血清を用いた。
以上の試験群に対して、SARS-CoV-2無添加で同様に処理したものを正常細胞対照群とした。
(2)上記培養後の各ウェル中の細胞に、SARS-CoV-2(国立感染症研究所ウイルス第3部より入手)を処理した。1時間後に洗浄し過剰のSARS-CoV-2を除去した後、上記薬物等の共存下、37℃で24時間培養した(
図1Aに実験方法の概要を図示する)。
(3)各ウェルの培養液上清中のSARS-CoV-2のRNAをリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社)を用いて定量し、relative viral RNA(相対的ウイルスRNA 黒抜き)とcell viability(細胞生存率 白抜き)を求めた。なお、SARS-CoV-2無添加で同様に処理したものを正常細胞対照群とし、同様に計算した。
(4)結果を
図1Bに示す。
図1Bから、RK-X 24μMでウイルスRNAが0.27%、RK-Y 36μMで0.0087%、RK-Z 24μMで0.26%と、明らかな細胞毒性なく、ポジティブ薬物対照群を上回るウイルスRNA減少効果を認めた(ここでの数値は、「DMSO投与の対照群でのウイルス量に対する%」である)。
これらの濃度は、ヒトにRK-X(10mg)を投与したときに到達する濃度(477μg/L;Floren,L.C.;Pendleton,B.;Kwei,L.;et al.64th Annu Meet Sci Sess Am Diabetes Assoc (ADA)・2004-06-04/2004-06-08・ Orlando,United States・ Abst 651-P Diabetes 2004,53(Suppl.2))から示唆されるとおり、RdRP阻害剤の経口投与で十分に達成できる濃度である。したがって、本発明の組成物はSARS-CoV-2感染に対する十分な効果が得られることが明らかとなった。
【0053】
実施例2
RK-XのSARS-CoV-2由来nsp7-nsp8-nsp12複合体に対するRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)活性阻害効果を、二本鎖核酸に結合して蛍光を発するPicoGreen(Thermo Fisher Scientific社)の蛍光強度を指標として評価した。当該評価系は「Discovery of a small molecule inhibitor targeting dengue virus NS5 RNA-dependent RNA polymerase」(Shimizu et al.,PLoS Negl.Trop.Dis.,2019)で用いられた方法に基づいている。
(1)nsp12は大腸菌由来セルフリータンパク質合成系を用いて試験管内で作製し、各種クロマトグラフィーによって精製した。nsp7およびnsp8はそれぞれ大腸菌内において発現させ、細胞破砕段階から共精製することによってnsp7-nsp8複合体として調製した。
精製したnsp12とnsp7-nsp8複合体を混合し、室温で30分間静置した。次いで、ゲル濾過バッファー(20mM HEPES pH8.0,150mM NaCl)で平衡化されたSuperdex 200 10/300(Cytiva社)に混合物を通すことで、nsp7-nsp8-nsp12複合体を分離した。
(2)nsp7-nsp8-nsp12複合体溶液とPolycytidylic acid溶液を等量混合し、室温で30分間静置した。混合液に100% DMSOに溶解したRK-X、アッセイバッファー(40mM Tris-HCl pH7.4,23.8mM NaCl,15%(v/v) glycerol,10mM MgCl
2,0.1%(v/v) 2-mercaptoethanol)、GTP(Sigma-Aldrich社)溶液を順次添加した後、室温に1時間静置した。添加量に関しては、RK-X溶液は反応系の約1/60量、それ以外はnsp7-nsp8-nsp12複合体溶液と等量である。また、nsp7-nsp8-nsp12複合体、Polycytidylic acid、GTPの反応液における終濃度はそれぞれ2.6μM、0.3mg/ml、1mMである。
反応液全量とTEバッファーに溶解したPicoGreenを96ウェルプレート上で混合し、室温で20分間静置した。次いで、マルチモードプレートリーダーEnVision(PerkinElmer社)を用いて蛍光強度(励起波長/蛍光波長=485/535nm)の測定を行った。
(3)
図2に蛍光強度の測定結果を示す。RK-XのRdRp活性阻害効果は3種類の濃度(4.2μM,8.3μM,83μM)で評価した。
図2におけるw/oRK-Xは、RK-Xを含まない100% DMSO添加時の蛍光強度である。nsp7-nsp8-nsp12複合体存在下における著しい蛍光強度の増大は、RdRp反応が進行し二本鎖RNAが生成されていることを示している。また、nsp7-nsp8-nsp12複合体とRK-Xの共存在下において、RK-X濃度依存的な蛍光強度の減少が確認された。このことは、RK-Xがnsp7-nsp8-nsp12複合体に対する直接的なRdRp活性阻害効果を有することを示唆している。