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  • 特開-玄蕎麦の加工方法 図1
  • 特開-玄蕎麦の加工方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104763
(43)【公開日】2022-07-11
(54)【発明の名称】玄蕎麦の加工方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20220704BHJP
【FI】
A23L7/10 H
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020220106
(22)【出願日】2020-12-29
(71)【出願人】
【識別番号】518127200
【氏名又は名称】米山そば工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】米山 慎太郎
【テーマコード(参考)】
4B023
【Fターム(参考)】
4B023LC08
4B023LE30
4B023LG10
4B023LL05
4B023LP05
4B023LP15
4B023LP17
4B023LP20
(57)【要約】
【課題】従前の寒晒しでは、蕎麦の嫌味である灰汁(苦渋味成分)等の抜けが十分でなく、冷水に晒すことから、雑菌の繁殖が起こり、製麺したそばの劣化防止が必要になる。また、冷水に浸漬することで、玄蕎麦の発芽がみられるが、浸漬で冷水に晒す期間が7~10日間と長期間を要することから、発芽が進み、成分変化が過度になり、そばの味覚に影響を及ぼすことから、発芽の抑制が必要になる。
【解決手段】収容袋に所定量の玄蕎麦を詰めて、4~5℃以下の冷水中に48時間浸漬し、冷水から引き上げ、50%程度までに水切りを行い、酒精液(エタノール製剤)に4~5分浸漬し、引き上げ水切り後、脱水機による強制脱水を行い、屋外で氷点下の条件に晒し、乾燥を行い、水分を30%以下とし、室内において、風力を用いて水分15%程度まで乾燥し、冷温下条件で、60~90日間熟成したことを特徴とする玄蕎麦の加工方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性、耐水性及び耐久性のある収容袋に所定量の玄蕎麦を詰めて、4~5℃以下の冷水中に48時間浸漬し、
冷水から引き上げ、50%程度まで水切りを行い、
酒精液(エタノール製剤)に4~5分浸漬し、
引き上げ水切り後、
脱水機による強制脱水を行い、
屋外で氷点下の条件に晒し、乾燥を行い、水分を30%以下とし、
室内において、風力を用いて水分15%まで乾燥した後、
冷温下条件で、60~90日熟成した
ことを特徴とする玄蕎麦の加工方法。
【請求項2】
脱水機による強制脱水が800rpmで1~2分行う
ことを特徴とする請求項1記載の玄蕎麦の加工方法。
【請求項3】
熟成が冷温下-1~-5℃で行う
ことを特徴とする請求項1~2記載の玄蕎麦の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玄蕎麦に関する加工方法で、雑菌の繁殖を抑制し、蕎麦の風味を増し、品質の劣化を防止するための加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古来から、秋に収穫した玄蕎麦を袋に収容し、厳寒期に冷水中に浸漬し、引き上げ、水切り脱水後、寒風に晒しながら乾燥(熟成)させる寒晒し蕎麦が生産されている。寒晒し蕎麦は灰汁が抜け、舌ざわりが良く、甘みのある味わいの良い蕎麦になるといわれている。
冷水中に7~10日浸漬して灰汁抜きした蕎麦を天然の雪中に埋入して風味を増してから天日干しによって含水率を16%前後に調整した蕎麦が提案されている。(特許文献1)
しかし、玄蕎麦を冷水に浸漬することにより、玄蕎麦に付着している雑菌数が増えることから、製粉後に製麺したそばの劣化により、麺が褐変現象を起こして日持ちしないという問題がある。これを防止するために製麺したそばをエタノール溶液に浸漬して雑菌の繁殖を防ぐことが行われている。(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-189807号公報
【特許文献2】特開昭53-148527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、従来の寒晒し蕎麦と同じであるが、蕎麦の嫌味である灰汁(苦渋味成分)等の抜けが十分でなく、また、冷水に晒すことから、雑菌の繁殖が起こり、製麺としたそばの劣化防止の対策が必要になる。また、冷水に浸漬することで、玄蕎麦の発芽がみられるが、浸漬で冷水に晒す期間が7~10日と長期間を要することから、発芽が進み、過度の成分変化が起こり、そばの味覚に影響を及ぼすことから、発芽の抑制を行うことが必要になる。
冷水に浸漬後の乾燥・熟成期間に雑菌の繁殖が起こることから、蕎麦の味覚・品質に影響を及ぼすことがあり、特許文献2のように製麺後のそばの雑菌の繁殖抑制ではなく、冷水に浸漬することからの雑菌の繁殖を抑制することが必要になる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成すべくなされたもので、第1の発明は、
通気性、耐水性及び耐久性のある収容袋に所定量の玄蕎麦を詰めて、4~5℃以下の冷水中に48時間浸漬し、
冷水から引き上げ、50%程度までに水切りを行い、
酒精液(エタノール製剤)に1~2分浸漬し、
引き上げ水切り後、
脱水機による強制脱水を行い、
屋外で氷点下の条件に晒し、乾燥を行い、水分を30%以下とし、
室内において、風力を用いて水分15%程度まで乾燥し、
冷温下条件で、60~90日間熟成した
ことを特徴とする玄蕎麦の加工方法。
【0006】
第2の発明は、脱水機による強制脱水が800rpmで1~2分行う
ことを特徴とする上記1記載の玄蕎麦の加工方法。
第3の発明は、乾燥後の熟成が冷温下-1~-5℃で行う
ことを特徴とする上記1~2記載の玄蕎麦の加工方法
である。
【発明の効果】
【0007】
玄蕎麦を冷水に晒すことで灰汁を除くことができるが、強制脱水することで、黒い水が除去できることから、冷水に晒して灰汁を除去する以上に灰汁を除去することができる。
エタノールを主成分とする酒精液に浸漬することで、雑菌の繁殖抑制が可能であり、乾燥・熟成期間中の雑菌の繁殖抑制、製麺した後の麺の劣化を抑制することができる。また、エタノール液に浸漬することで、酵素活性の抑制、発芽の抑制ができることから、たんぱく質等の内容成分の変化において、蕎麦の旨味成分の過度の変化を抑制することで、蕎麦本来の旨味成分を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の工程概要図
図2】製麺したそばの生菌数等の試験報告書
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の玄蕎麦の加工方法は、図1の工程概要図に示すように、袋に収容した玄蕎麦を冷水に浸漬し、引き上げ水切り後、エタノールを主成分とする酒精液に浸漬後、引き上げ水切りを行い、脱水機で強制脱水後、乾燥・熟成を行う玄蕎麦の加工方法である。
【0010】
玄蕎麦の加工方法について説明する。
1.玄蕎麦の袋詰め
通気性、耐水性及び耐久性のある収容袋に約5.5kgの玄蕎麦を詰めた。
2.冷水中に浸漬
玄蕎麦を詰めた袋を4~5℃以下の冷水中に浸漬し、灰汁抜きを行い、48時間後に冷水中から引上げた。
冷水中での浸漬を48時間としたのは、玄蕎麦が発芽を開始するのに24時間以上浸漬することで、発芽が開始するとの知見を今までの経験から得られていることから、48時間とした。
【0011】
3.引上げ・水切り
冷水から引上げた玄蕎麦を収容した袋を載置した状態で水分が50%以下になるよう4~5日間水切りを行った。
【0012】
4.酒精液に浸漬
水切りを行った玄蕎麦を収容した袋をエタノールを主成分とする酒精液に4~5分間浸漬した。
酒精液の検討を行った結果、酒精液は、エタノール:65.2%、グリセリン脂肪酸エステル:1.0%、水:33.8%である株式会社タイショウテクノス社製の「フードフレッシュ・AR」を使用した。
【0013】
5.強制脱水
酒精液に浸漬した玄蕎麦を収容した袋を引上げ、水切りを行い、脱水機により、強制脱水を行った。脱水は、水分が30%前後になるまで行った。
脱水機は、岩月機械製作所製遠心脱水機OKS-18Sを用いて行った。
脱水機の回転数は、▲1▼500rpm▲2▼600rpm▲3▼700rpm▲4▼800rpmの4パターンで比較検証し、4パターンとも余剰水分の脱水が実証され、その後の乾燥工程に移行し、玄蕎麦のほぐれる適切な水分で、玄蕎麦に損傷を与えずに行えたことが確認できたことから短時間で脱水を完了できる「800rpm」を採用し、作動時間を1~2分間行った。
強制脱水することで、黒い水が除去されることから、水分中に溶解した灰汁成分が除去されたものと思われる。
【0014】
6.乾燥
脱水した玄蕎麦の入った袋を室内で最終水分含有15%程度になるように風力を利用して乾燥した。
室内での風力は、室内の天井に扇風機を設置し、換気扇を設け、袋から玄蕎麦を取り出し、台の上に並べ、天井からの線風紀で風を送風し、換気扇からの排出を行うようにして行った。
【0015】
7.熟成
乾燥した玄蕎麦を-2℃の冷温条件下で60~90日間熟成した。
熟成した玄蕎麦を必要量脱殻し、製紛後、そばに製麺した。
【0016】
次に本発明で加工した玄蕎麦の生菌数及び内容成分の分析値を示す。
・一般生菌数の比較を表1に示す
対象として、加工処理での酒精液に浸漬なしで強制脱水なしの玄蕎麦、酒精液に浸漬なしで強制脱水ありの玄蕎麦を用い、熟成後の玄蕎麦の殻あり、殻なしでの生菌数を示す。
生菌数の測定は、寒天培養法で行った。
【表1】
【0017】
殻の有、無では殻の有る方が生菌数は多く、酒精液に浸漬したサンプルの生菌数が他のサンプルより少なく、雑菌の繁殖が抑制されていることがわかる。
生菌数が多いと脱穀・製粉後、製麺としたときの経時劣化で麺が赤く変色し、日持ちしない状態がみられるが、本発明の加工方法を経た玄蕎麦を脱殻し、製紛したものから製麺したものは、経時劣化の変色を防止することができる。
次に麺にした時の日持ちのするそばの一般生菌数等を株式会社江東微生物研究所食品分析センターに依頼した試験報告書を参考に図2に示す。
この結果から、酒精液に浸漬することで、雑菌の繁殖が抑制されているといえる。
【0018】
・内容成分総ポリフェノール含量及びアミノ酸量の比較
表2に総ポリフェノール量、表3にアミノ酸量の熟成後の含量比較を示す。
加工処理なしの玄蕎麦、酒精液浸漬なしで脱水ありの玄蕎麦で、脱殻したものでの成分含量を測定した。
総ポリフェノール量は、吸光度法で行った。機器は、HITACHI製のU5100を使用した。
アミノ酸量は、吸光度法で行い、機器は、HITACHI製のU5100を使用した。
【表2】
【表3】
【0019】
冷水中に浸漬することで、総ポリフェノール含量の低下が認められ、ポリフェノールに起因する苦味、えぐ味成分が低減されているといえる。
アミノ酸含量は、冷水に浸漬することで増加がみられるが、酒精液に浸漬することで減少している。酒精液に浸漬することで、総ポリフェノール量及びアミノ酸量が減少していることから、酵素活性の抑制が起因しているものと思われる。
【0020】
本発明によると、従前までの方法より、酒精液に浸漬することで、酵素活性の抑制が図られ、過度の成分変化を抑制することができたものと思われる。また、強制脱水することで、そばの旨味に影響する灰汁成分の除去ができたものと思われる。
【0021】
本発明の玄蕎麦の加工方法により、酒精液に浸漬することで、雑菌の繁殖抑制及び過度の成分変化を抑制することができる。また、強制脱水により、残存しているポリフェノールに起因する灰汁の除去をすることができる。
【0022】
本発明により、従来の寒晒し蕎麦で言われている歯触り、喉超し感に加え、灰汁の除去が図られ、そば本来の旨味成分に富んだそばを得ることができる。また、冷水に浸漬することからの雑菌繁殖を抑制することから、日持ちのするそばを得ることができる。
【0023】
秋蕎麦の収穫は緑色の残った玄蕎麦を収穫するが、本発明の玄蕎麦の加工法では、緑色の残った玄蕎麦を得ることができた。
図1
図2