(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104790
(43)【公開日】2022-07-11
(54)【発明の名称】腱及び/又は靭帯に使用するための組織スキャフォールド
(51)【国際特許分類】
A61L 27/40 20060101AFI20220704BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20220704BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20220704BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20220704BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20220704BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20220704BHJP
A61L 27/10 20060101ALI20220704BHJP
A61L 27/12 20060101ALI20220704BHJP
A61P 19/04 20060101ALI20220704BHJP
A61K 38/39 20060101ALI20220704BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20220704BHJP
D03D 15/37 20210101ALI20220704BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20220704BHJP
D06M 15/15 20060101ALI20220704BHJP
D01F 6/48 20060101ALI20220704BHJP
D01F 6/92 20060101ALI20220704BHJP
D01F 6/46 20060101ALI20220704BHJP
D01F 6/70 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
A61L27/40
A61L27/54
A61L27/34
A61L27/50
A61L27/16
A61L27/18
A61L27/10
A61L27/12
A61P19/04
A61K38/39
D03D1/00 Z
D03D15/37
D03D15/20 100
D06M15/15
D01F6/48 A
D01F6/92 301M
D01F6/46 A
D01F6/70 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173146
(22)【出願日】2021-10-22
(31)【優先権主張番号】109146596
(32)【優先日】2020-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】No.195,Sec.4,ChungHsingRd.,Chutung,Hsinchu,Taiwan 31040
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】沈 欣欣
(72)【発明者】
【氏名】蔡 佩宜
(72)【発明者】
【氏名】黄 志傑
(72)【発明者】
【氏名】戴 建丞
(72)【発明者】
【氏名】▲温▼ 奕泓
(72)【発明者】
【氏名】郭 正亮
(72)【発明者】
【氏名】馬 俊賢
(72)【発明者】
【氏名】徐 麗道
(72)【発明者】
【氏名】黄 馨怡
(72)【発明者】
【氏名】楊 國義
(72)【発明者】
【氏名】呉 宗憲
【テーマコード(参考)】
4C081
4C084
4L033
4L035
4L048
【Fターム(参考)】
4C081AB18
4C081BA12
4C081BB08
4C081CA02
4C081CA021
4C081CA13
4C081CA131
4C081CA16
4C081CA161
4C081CA21
4C081CA211
4C081CD122
4C081CE02
4C081CF01
4C081CF011
4C081CF012
4C081CF03
4C081CF031
4C081CF032
4C081CF11
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4C081CF13
4C081CF131
4C081CF132
4C081DA05
4C081DB01
4C081DC03
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084CA18
4C084DA40
4C084MA05
4C084MA34
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4C084ZA962
4L033AA05
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4L033AA07
4L033AB05
4L033AC15
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4L035JJ09
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4L048AA15
4L048AA20
4L048AA21
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4L048AA34
4L048AA37
4L048AA46
4L048AA56
4L048AB11
4L048AC00
4L048CA00
4L048DA22
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】長期使用後の既存の人工移植物の疲労、摩耗、断裂、及び安定性の低下を改善するために、生物学的活性及び組織誘導性を備えた組織スキャフォールドを提案する必要がある。
【解決手段】経糸及び緯糸を織り交ぜることによって形成された織物を含み、前記経糸は、代替的形状の断面構造を有する複数の繊維を有し、前記織物は、本体部及び固定部を含み、前記本体部は、繊維表面に形成された生物活性成分を有し、前記固定部は、バイオセラミック材料を含む緯糸を有する、腱及び/又は靭帯に使用するための組織スキャフォールドを提供する。本開示で作製される組織スキャフォールドは、組織の成長を刺激し、組織修復を誘発し、組織再生及び骨治癒の能力を効果的に改善するという特徴を有し、腱及び/又は靭帯の再建に有益である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸(101)及び緯糸(110、120)を織り交ぜることによって形成された織物を含み、
前記経糸(101)は、代替的形状の断面構造をそれぞれ有する複数の繊維を有し、
前記織物は、本体部(11)及び固定部(121、122)を有し、
前記本体部(11)は、その繊維表面にある生物活性成分を含み、
前記固定部(121、122)は、前記本体部(11)の両側に形成されており、
前記緯糸(120)は、バイオセラミック材料を含む、
腱及び/又は靭帯に使用するための組織スキャフォールド(1)。
【請求項2】
前記経糸(101)は、代替的形状の断面構造を有する繊維を含み、
前記繊維の長軸の直径は、15~50μmであり、
前記織物を構成する前記緯糸(110、120)の各繊維の直径は、それぞれ、20~50μmである、請求項1に記載の組織スキャフォールド(1)。
【請求項3】
前記代替的形状の断面構造が、H字型断面、S字型断面、W字型断面、Y字型断面又は十字型断面を含む、請求項1に記載の組織スキャフォールド(1)。
【請求項4】
代替的形状の断面構造を有する繊維を含む前記経糸の細かさは、1.5~50デニールであり、
前記織物を構成する前記緯糸(110、120)の繊維の細かさは、40~100デニールである、請求項1に記載の組織スキャフォールド(1)。
【請求項5】
前記織物の孔径は、0.1~1mmである、請求項1に記載の組織スキャフォールド(1)。
【請求項6】
前記織物の材料は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の組織スキャフォールド(1)。
【請求項7】
前記生物活性成分は、コラーゲンを含み、
コラーゲンの含有量は、前記本体部(11)の総重量の0.5~5重量%を占める、請求項1に記載の組織スキャフォールド(1)。
【請求項8】
前記バイオセラミック材料は、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、バイオガラス、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の組織スキャフォールド(1)。
【請求項9】
前記固定部(121、122)の前記緯糸(120)は、前記バイオセラミック材料を含み、前記バイオセラミック材料の含有量は、前記固定部(121、122)の前記緯糸(120)の総重量の1~4重量%を占め、
前記固定部(121、122)の前記経糸(101)は、前記バイオセラミック材料を含まない、請求項1に記載の組織スキャフォールド(1)。
【請求項10】
前記バイオセラミック材料は、ヒドロキシアパタイトであり、その平均粒子径は、10~200nmである、請求項1に記載の組織スキャフォールド(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組織工学に使用するためのスキャフォールド、特に、腱及び/又は靭帯損傷に使用するための組織スキャフォールドに関する。
【背景技術】
【0002】
腱又は靭帯の裂傷又は破裂、特に、膝関節の十字靭帯で発生した損傷は、よくある臨床的なスポーツ損傷である。靭帯組織は、そのの生物学的環境と血液供給の制限のため、破裂した後に自然に治癒する能力がなく、手術によって再建する必要がある。
【0003】
腱や靭帯の再建に関しては、修復材料の種類に応じて、自家移植物、同種移植物、人工移植物に分けることができる。自家移植物は、再建効果が良好であり、免疫拒絶反応はないが、ドナー部位の合併症などの問題がある。同種移植物は、コストが高いだけでなく、免疫拒絶反応や病気の伝染のリスクもある。一方、人工移植物は、材料の取得が便利であり、病気の伝染のリスクがなく、かつ高い機械的強度があるため、近来、医学界でだんだん注目されている。ただし、人工移植物には、機械的な耐荷重効果しかなく、腱/靭帯及び骨界面の治癒には適する生物学的活性及び組織誘導はない。さらに、人工靭帯の表面の細胞及び組織は、正常な腱又は靭帯組織を形成するために成長するのが難しい。長期間使用した後、人工移植物は、疲労、摩耗、骨折を起こしやすく、膝関節の不安定性につながる可能性があり、摩耗した欠片は関節腔内の水分蓄積などの医原性損傷を引き起こしやすくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、長期使用後の既存の人工移植物の疲労、摩耗、断裂、及び安定性の低下を改善するために、生物学的活性及び組織誘導性を備えた組織スキャフォールドを提案する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、経糸及び緯糸を織り交ぜることによって形成された織物を含み、前記経糸は、代替的形状の断面構造を有する複数の繊維を含む、腱及び/又は靭帯に使用するための組織スキャフォールドを提供する。前記織物は、本体部(main body area)及び固定部(fixed area)を含み、前記本体部は、当該本体部の繊維表面に生物活性成分があり、前記生物活性成分は、前記本体部の細孔にさらに含浸させることができ、前記固定部は、前記本体部の両側に形成されており、前記緯糸は、バイオセラミック材料を含む。
【0006】
本開示によれば、独特の織物構造の設計を通して、組織スキャフォールドのセクションに従って、対応する生物活性材料をそれぞれ組み合わせることにより、より多くの細胞接着領域及び良好な増殖環境を提供し、軟組織及び骨組織の活性及び増殖能力を効果的に増強する。これにより、腱及び/又は靭帯組織の再建に提供することができ、その応用の見通しを持っている。
【0007】
本開示の実施形態は、図面を例として参照することによって説明される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】例示的な実施態様による組織スキャフォールドの概略図である。
【
図2】例示的な実施態様による組織スキャフォールドの実際の使用状態の概略図である。
【
図3】実施例と比較例との間の組織スキャフォールドの増殖細胞数の比較図である。実施例及び比較例の各グループは、それぞれ、左から右へ、D1、D3及びD7であり、D1、D3及びD7は、織物の繊維表面にそれぞれ1、3、7日間培養された細胞の数を示す。
【
図4】本開示による実施例及び比較例の組織スキャフォールドの細胞接着率の比較図である。
【
図5】実施例及び比較例の組織スキャフォールドの細胞培養の7日目及び14日目の骨形成酵素ALP活性の比較図である。7日目及び14日目の各グループは、左から右へ、0%、1%、2%、4%及びディッシュ(dish)である。0%は、比較例8においてバイオセラミック材料を添加しない織物繊維の表面培養を示す。1%は、比較例9において1重量%のバイオセラミック材料を含む織物繊維の表面培養を示す。2%は、実施例1において2重量%のバイオセラミック材料を含む織物繊維の表面培養を示す。4%は、実施例6において4重量%のバイオセラミック材料を含む織物繊維の表面培養を示す。ディッシュは、対照として、織物繊維の表面に培養されるものはなく、細胞培養プレートのみに培養される骨形成酵素ALP活性の結果を意味する。
【
図6】本開示による実施例及び比較例の細胞培養の7日目、14日目及び21日目の組織スキャフォールドのカルシウム沈着染色の比較図である。
【
図7A】本開示による実施例の組織スキャフォールドによって促進される腱及び靭帯組織の再生の走査型電子顕微鏡画像である。
【
図7B】本開示による実施例の組織スキャフォールドによって促進される腱及び靭帯組織の再生の走査型電子顕微鏡画像である。
【
図7C】本開示による実施例の組織スキャフォールドによって促進される腱及び靭帯組織の再生の走査型電子顕微鏡画像である。
【
図7D】市販の組織スキャフォールドの走査型電子顕微鏡画像である。
【
図7E】市販の組織スキャフォールドの走査型電子顕微鏡画像である。
【
図8A】本開示による実施例の組織スキャフォールドのヘマトキシリン・エオシン及びマッソントリクロームでそれぞれ染色された組織切片である。
【
図8B】本開示による実施例の組織スキャフォールドのヘマトキシリン・エオシン及びマッソントリクロームでそれぞれ染色された組織切片である。
【
図8C】市販のヘマトキシリン・エオシン及びマッソントリクロームでそれぞれ染色された組織切片である。
【
図8D】市販のヘマトキシリン・エオシン及びマッソントリクロームでそれぞれ染色された組織切片である。
【
図9A】本開示による実施例の組織スキャフォールドによって促進されるオッセオインテグレーション能力のマイクロコンピュータ断層撮影画像である。
【
図9B】本開示による実施例の組織スキャフォールドによって促進されるオッセオインテグレーション能力のマイクロコンピュータ断層撮影画像である。
【
図9C】市販のスキャフォールドのマイクロコンピュータ断層撮影画像である。
【
図9D】市販のスキャフォールドのマイクロコンピュータ断層撮影画像である。
【
図10】本開示による実施例及び比較例の1か月目及び3か月目における骨トンネル内の組織スキャフォールドの機械的強度の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、具体的な実施態様により、本発明の技術内容を説明する。当業者であれば、本明細書に記載される内容によって、本発明の利点や効果を容易に理解できる。また、本開示は、他の異なる形態によって施行や適用することができ、本明細書の様々な詳細は、本開示で開示される範囲から逸脱することなく、異なる修正及び変更を加えて、異なる視点及び応用に基づくこともできる。さらに、ここに記載されているすべての範囲と値は、包括的であり、組み合わせることができる。本明細書に記載の範囲内にある任意の値又は点、例えば、任意の整数は、最小値又は最大値として使用し、より下位の範囲などを導出することができる。
【0010】
本開示によれば、腱及び/又は靭帯に使用するための組織スキャフォールドが提供される。
図1に示すように、組織スキャフォールド1は、経糸101と緯糸110、120を織り交ぜることによって形成された織物によって構成される。経糸101は、代替的形状の断面構造を有する複数の繊維を含み、前記複数の繊維が前記経糸を構成する。前記織物は、本体部11及び固定部121、122を含み、前記本体部11は、その表面にある生物活性成分を含み、前記生物活性成分は、本体部11の細孔にさらに含浸されてもよい。また、前記固定部121と122は、バイオセラミック材料緯糸120を含み、前記本体部の両側に形成されている。
【0011】
本明細書で使用される「経糸」という用語は、織物の間に織機の長さに沿って延伸し、織物の主要な支持構造として使用される糸を指し、その方向は、腱及び/又は靭帯の延伸作用を行うときの張力の方向と同じである。また、
図1に示すように、本開示の組織スキャフォールドの固定部121及び122並びに本体部11の経糸101は一体的に形成されている。一方、「緯糸」という用語は、経糸と織り交ぜられた又は垂直な糸を指す。
【0012】
上記の経糸と緯糸は、複数の繊維を撚り合わせて引くことによって形成されるものである。特定の実施態様において、本開示の組織スキャフォールド内の経糸は、200~800デニールまで撚られ、緯糸は、50~100デニールまで撚られている。
【0013】
本明細書で使用される「織物」という用語は、経糸及び緯糸を織り交ぜる又は相互に垂直になる方法で織られたものであり、それによって形成された織り合わせ点は、連続的又は不連続的に配置されてもよく、織り合わせ点の位置は、周期的又は不規則に選択されてもよい。
【0014】
一つの実施態様において、本開示の組織スキャフォールドの織物の孔径は0.1~1mmであり、前記織物の孔は、細胞に十分な成長空間を提供し、細胞の成長中にガス交換、栄養素及び代謝のための輸送空間を提供する。
【0015】
一方、本開示の織物は、単層織物構造に限定されず、多層の上下織物構造も含む。別の実施態様において、織物の厚さ又は直径は、1.0~10mmである。
【0016】
本開示の組織スキャフォールドにおいて、織物の材料は、ポリマー材料又はポリマー複合材料であってもよい。ポリマー複合材料は、ポリマー材料に加えて、炭素繊維などの他の充填剤を含む。ポリマー材料は、それらの機械的特性、安定性、耐摩耗性及び生体適合性を考慮して選択されるが、これらに限定されない。
【0017】
例示的な実施態様において、ポリマー材料は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、又はそれらの混合物もしくはコポリマーのうちの1つであってもよく、ここで、ポリエチレンは、超高分子量ポリエチレンを含んでもよい。
【0018】
別の特定の実施態様において、上記の織物の材料は、ポリエチレンテレフタレートである。
【0019】
本明細書で使用される「代替的形状の断面構造」という用語は、比較的に高い繊維表面積を有し、細胞の接着を増強する効果をもたらす、非円形断面を有する繊維構造を指す。一つの実施態様において、本開示の経糸繊維の代替的形状の断面構造は、H字型断面、S字型断面、W字型断面、Y字型断面、又は十字型断面を含んでもよい。
【0020】
本開示の組織スキャフォールドにおいて、織物の繊維の厚さは、全体の表面積に対応し、織物の表面特性及び機械的特性に影響を与える。別の実施態様において、経糸に含まれる代替的形状の断面構造を有する繊維の長軸の直径は、15~50μm(マイクロメートル)であり、織物を構成する緯糸の繊維の直径は20~50μmである。別の実施態様において、経糸に含まれる代替的形状の断面構造を有する繊維の細かさは、1.5~50デニールであり、織物を構成する緯糸の繊維の細かさは、40~100デニールである。
図2に示すように、
図2は、本開示の組織スキャフォールドの実際の実施方式を示す。「本体部」11は、骨の外側に露出した織物の部分を指し、「固定部」121と122は、例えば、元の腱及び/又は靭帯組織に接続された骨に使用される、骨に埋め込まれた織物の部分を指す。
【0021】
腱及び/又は靭帯組織の修復をさらに誘導するために、本体部の繊維表面に生物活性成分があり、生物活性成分を本体部の細孔にさらに含浸させて、細胞増殖能力を高めることができる。ここで、生物活性成分はコラーゲンである。
【0022】
一つの実施態様において、本開示の生物活性成分を含む組織スキャフォールドの修飾は、以下の工程によって行われる:
生物活性成分を含む反応溶液を提供する工程、及び
本体部を反応溶液と接触させる工程。
【0023】
「反応溶液」という用語は、生物活性成分に加えて、溶媒及びpH調整剤を含む。
【0024】
上記の生物活性成分は、コラーゲン、ゼラチン、絹タンパク質等を含む。
【0025】
別の実施態様において、生物活性成分は、コラーゲンを含み、コラーゲンは、本体部の総重量の0.5~5重量%を占める。
【0026】
いくつかの実施態様において、本体部の総重量に対するコラーゲンの重量比は、約0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0又は4.5重量%であってもよいが、それらに限定されない。
【0027】
例示的な実施態様では、上記の反応溶液において、生物活性成分は、コラーゲンである。溶媒は、pH≦3.0の酢酸水溶液である。pH調整剤は、リン酸緩衝生理食塩水と水酸化ナトリウムである。具体的な作製方法は、0.1gのコラーゲン粉末を60mlの酢酸水溶液に溶解し、1gの織物の本体部を加え、次に40mlのリン酸緩衝生理食塩水を加え、水酸化ナトリウムでpHを7.5に調整することを含む。本体部の繊維表面にコラーゲンが形成されるようにする。
【0028】
別の実施態様において、酢酸に溶解したコラーゲンの固形分は0.01~0.1重量%であり、本体部と反応溶液との反応温度は20~40℃であり、反応時間は24~48時間である。
【0029】
また、本開示の本体部は、ゼラチン、絹タンパク質、ケラチンなどの他の細胞増殖刺激成分を含むように修飾することができる。
【0030】
上記の固定部の緯糸については、骨界面の治癒力を効果的に高めるために、バイオセラミック材料を添加している。一つの実施態様において、バイオセラミック材料は、例えば、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、バイオガラス、又はそれらの組み合わせである。一つの実施態様において、リン酸カルシウムは、ヒドロキシアパタイト又はリン酸三カルシウムであってもよい。
【0031】
別の実施態様において、バイオセラミック材料は、ヒドロキシアパタイトであり、その平均粒子サイズは、約10~200nm(ナノメートル)である。
【0032】
一つの実施態様において、バイオセラミック材料は、固定部の緯糸に存在し、バイオセラミック材料は、固定部の緯糸の総重量の1~4%を占める。別の実施態様において、バイオセラミック材料は、固定部内の緯糸の総重量の1重量%を超えて4重量%以下である。バイオセラミック材料の重量比が低すぎると、骨の成長を促進できない。バイオセラミック材料の重量比が高すぎると、繊維を紡ぐときに壊れやすくなる。
【0033】
他の実施態様において、固定部の緯糸の総重量に対するバイオセラミック材料の重量比は、約1.5、2.0、2.5、3.0、又は3.5重量%であってもよいが、これらに限定されない。
【0034】
一方、バイオセラミック材料を含む緯糸及びバイオセラミック材料を含まない緯糸は、本開示の固定部に選択することができるか、又は各緯糸にバイオセラミック材料が含まれてもよい。例示的な実施態様において、バイオセラミック材料を含む緯糸とバイオセラミック材料を含まない緯糸の比率は、約1:9~10:0である。別の実施態様において、バイオセラミック材料を含む緯糸は、本開示の固定部で単独に使用することができる。
【0035】
本開示の組織スキャフォールドの固定部におけるバイオセラミック材料を含む緯糸繊維は、以下の工程によって調製される:
バイオセラミック材料と混合したマスターバッチを提供する工程、及び
マスターバッチで紡ぐ工程。
【0036】
特定の実施態様において、マスターバッチは、上記織物材料及びバイオセラミック材料を含み、バイオセラミック材料の含有量は、マスターバッチの1~4重量%を占める。
【0037】
上記の織物材料及びバイオセラミック材料に加えて、マスターバッチシステムは分散剤も含む。分散剤は、ポリエステルポリマー材料であってもよく、分散剤の含有量は、マスターバッチの0.1~2重量%を占める。
【0038】
一つの実施態様において、マスターバッチの特定の作製方法は、ポリエチレンテレフタレート、ヒドロキシアパタイト及びポリエステル分散剤を、混合及び造粒することにより、マスターバッチを形成する工程を含む。
【0039】
本開示は、以下、特定の実施例でさらに詳細に説明するが、本開示の範囲は実施例の説明によって限定されない。
【0040】
[実施例]
実施例1:組織スキャフォールドの作製
経糸の作製:ポリエチレンテレフタレートを熱溶融紡糸し、270℃以上の温度で修飾された断面紡糸ノズルから半延伸糸を得た後、100~200℃の温度で延伸し、Y字型の断面構造を有する完全に伸ばされた糸が得られた。
【0041】
緯糸の作製:緯糸の作製方法について、修飾された断面紡糸ノズルが円形紡糸ノズルに調整された以外は、上記の経糸の作製方法と同じであった。
【0042】
バイオセラミックを含む緯糸を調製する場合、バイオセラミックを組み込んだマスターバッチを使用しており、ここで、バイオセラミックを組み込んだマスターバッチを調製する方法は、以下の工程で行われる:ポリエチレンテレフタレート、平均粒子径60nmのヒドロキシアパタイト及びポリエステル分散液を混合し、混合物を造粒して、2重量%のバイオセラミック材料を含むマスターバッチを形成する工程。
【0043】
織物の作製:
図1に示す織物の本体部及び固定部に基づき、経糸及び緯糸を織り交ぜるために選択し、本体部を、生物活性成分を含む反応溶液と接触させた。
【0044】
上記の反応溶液については、コラーゲンを生物活性成分とした。生物活性成分に加えて、反応溶液は、溶媒及びpH調整剤も含んでおり、溶媒は、pH≧3.0の酢酸水溶液であり、pH調整剤は、リン酸緩衝生理食塩水及び水酸化ナトリウムであった。その特定の修飾方法は、以下の調製のための工程を含む:0.1gのコラーゲン粉末を60mlの酢酸水溶液に溶解し、1gの織物の本体部を加え、次に40mlのリン酸緩衝生理食塩水を加え、水酸化ナトリウムでpHを7.5に調整し、20~40℃の反応温度で48時間反応させた後、本体部の繊維表面にコラーゲンを形成する工程。
【0045】
最後に、上記で準備した組織スキャフォールドの織物を適切なサイズに切断し、以下の細胞試験と分析を実行した。
【0046】
(1)細胞増殖数及び細胞接着率の測定:本実施例の本体部の織物(1cm
2)を取り、48ウェルプレートに入れ、表面に少量の細胞懸濁液(20μl)を滴下し、37℃のインキュベーター内に2時間置いた。0.8mlの骨髄間葉系幹細胞培養培地を添加し、付着していない細胞を培養培地によって織物の繊維表面から取り除いた。一晩の培養後、細胞が付着した織物を新しい48ウェルプレートに移し、37℃のインキュベーターで0.3mlのPrestoBlueを適用した。PrestoBlueは、ミトコンドリアにあるニコチンアデニンジヌクレオチド(NADH)デヒドロゲナーゼによりピンク色に還元され、反応した細胞の数は、蛍光(Ex/Em:560nm/590nm)で検出できた。1時間の反応後、100ulの反応物を除去し、96ウェルプレートに移して分析し、その蛍光読み取り値(Ex/Em:560nm/590nm)を検出した。繊維表面に付着した細胞の数を、標準曲線に従って補間することにより定量化し、細胞増殖の数及び細胞接着率の結果をそれぞれ
図3及び
図4に記録する。
図3及び
図4の結果から、本実施例の組織スキャフォールドは、織物の本体部及び代替的形状の断面構造を有する経糸繊維の表面修飾により、細胞増殖及び細胞接着を著しく改善する効果をもたらすことが分かる。
【0047】
(2)骨形成酵素のALP活性の測定:間葉系幹細胞(MSC)を使用して、骨形成酵素ALPの活性を測定した。細胞播種密度は、5×10
4/cm
2であり、骨分化培地は、10%ウシ胎児血清(FBS)、アスコルビン酸(50μgの/ml)、デキサメタゾン(0.1μM)、及びβ-糖リン酸(10mM)を含むα-MEMが含まれでおり、対照培地は、10%FBSを含むα-MEMが含まれた。分析のために、7日目と14日目にサンプルを収集した。pNPPアルカリホスファターゼ検出キット(SensoLyte(登録商標))及びマイクロプレートリーダー(Biotek、Synergy(登録商標) H1)を用いて骨形成の酵素ALPの活性を測定し、その結果を
図5に記録する。細胞培養プレート(ディッシュ)のALP活性の結果を対照として使用した。本実施例の組織スキャフォールドは、バイオセラミック材料を含むことにより、骨形成酵素ALPの活性の効果を増強するため、本開示の組織スキャフォールドが骨再生を効果的に促進できることを示すことは明らかである。
【0048】
(3)骨分化能力の測定:間葉系幹細胞(MSC)をカルシウム沈着分析に使用した。細胞播種密度は、5×10
4/cm
2であり、骨分化培地は、10%ウシ胎児血清(FBS)、アスコルビン酸(50μg/ml)、デキサメタゾン(0.1μM)、及びβ-糖リン酸(10mM)を含むα-MEMが含まれた。対照培地は、10%FBSを含むα-MEMが含まれた。分析のために、7日目、14日目、21日目にサンプルを収集した。細胞サンプルを培地で処理した後、アリザリンレッドで染色して7日目、14日目、及び21日目のカルシウム沈着を評価し、
図6に記録する。
図6の結果から、本実施例のバイオセラミック材料を含む組織スキャフォールドにより、カルシウム沈着が有意に増加することが示されている。これは、本開示の組織スキャフォールドは、間葉系幹細胞の骨分化を促進する能力を有することを示している。
【0049】
次に、上記で作製された組織スキャフォールドを、その後の動物実験に用いた。
【0050】
靭帯再建手術の動物実験:ニュージーランド白ウサギを内側側副靭帯(MCL)再建手術の動物モデルとして使用した。手術前の麻酔には、麻酔薬(zoletil50:Rompun20=1:1、0.5ml/kg)を使用した。後肢の膝関節をメスで開き、大腿骨と脛骨にそれぞれ骨トンネルをあけた。次に、組織スキャフォールドを脛骨端から骨トンネルに貫通させた後、骨トンネルの大腿骨端に貫通させた。脛骨の端は金属製のボタンで固定され、大腿骨の端は金属製の骨の釘で固定された。最後に、組織と皮膚の分離された層を縫合して手術を完了した。
【0051】
最後に、1か月後又は3か月後の上記の動物実験の移植された組織スキャフォールドについて、以下の分析を行った。
【0052】
(1)走査型電子顕微鏡:走査型電子顕微鏡(QUANTA400F/Thermo Scientific(登録商標))を使用し、3か月後の動物実験で移植された組織スキャフォールドの断面と表面の組織成長を観察した。
図7Aから、本実施例の組織スキャフォールドの繊維表面に線維芽細胞が観察されたことがわかる。
図7B及び
図7Cでは、コラーゲン線維軟組織は、組織スキャフォールドの内部及び表面に分布し、組織ネットワークのロープ状構造を形成し、本実施例の組織スキャフォールドをしっかりと覆うことが分かる。本実施例の組織スキャフォールドは、優れた生体適合性及び生物活性を有し、腱及び靭帯組織(線維芽細胞及びコラーゲン線維)の再生を誘導することができることを示している。
【0053】
(2)組織切片:組織切片をパラフィンに包埋し、ヘマトキシリン・エオジン及びマッソントリクローム染色で染色した。3か月後の動物実験における移植された組織スキャフォールドの組織成長を観察した。本実施例の組織スキャフォールドの周辺及び内部空間は、ヘマトキシリン・エオジン染色(
図8A)及びマッソントリクローム染色(
図8B)の両方を介して、新しい細胞及びコラーゲン線維組織で満たされていることが分かる。本実施例の組織スキャフォールドが、腱及び靭帯組織(細胞及びコラーゲン線維)の再生を促進する効果を有することは明らかであり、これは、組織スキャフォールドが靭帯化されていることを意味する。
【0054】
(3)マイクロコンピューター断層撮影分析(micro-CT):マイクロコンピューター断層撮影(Bruker micro-CT、Kontich、ベルギー)を使用して、3か月後の動物実験における移植物の骨トンネルに固定された組織スキャフォールドを分析した。
図9A及び
図9Bにより、本実施例の骨トンネルに固定された組織スキャフォールドが新しい骨を形成していることが分かる。本実施例の組織スキャフォールドが、インプラントと骨との間の界面を治癒する能力を有することは明らかである(オッセオインテグレーションの能力を有することを意味する)。
【0055】
(4)生体力学試験:引張試験機(INSTRON 3400)を使用して、骨トンネルに固定された組織スキャフォールドの機械的強度を測定した。まず、脛骨に試料を固定している金属製のボタンを切り取り、次に、試料を試験台に移して固定した。組織のスキャフォールドは、動物実験に移植されてから1か月と3か月後に、脛骨から引き抜く力、又は最終的に脛骨を破裂させる力について試験された。
図10に示されるように、本実施例の組織スキャフォールドの独特な織物構造設計及び優れたオッセオインテグレーション能力により、より大きな引張張力に耐えることができるため、組織スキャフォールドの機械的特性を改善する。
【0056】
実施例2~5:経糸繊維の異なる断面構造
組織スキャフォールドの作製方法について、経糸繊維の断面構造をH字型、S字型、W字型および十字型のそれぞれに変更した外は、実施例1と同じであった。次に、作製された組織スキャフォールドを使用して、細胞増殖の数を測定し、細胞接着率を分析し、
図3及び
図4に記録する。
【0057】
実施例6:バイオセラミック材料の異なる濃度
組織スキャフォールドの作製方法について、バイオセラミック材料の含有量が4%であった以外は、実施例1と同じであった。次に、作製された組織スキャフォールドの骨形成酵素の活性を分析し、
図5に記録する。
【0058】
比較例1
組織スキャフォールドの作製方法について、経糸繊維の断面構造が円形断面であった以外は、実施例1と同じであった。次に、作製した組織スキャフォールドを使用して、細胞増殖の数を測定し、細胞接着率を分析し、
図3及び
図4に記録する。
【0059】
比較例2
組織スキャフォールドの作製方法について、織物の本体部の表面が変更されていなかった以外は、実施例1と同じであった。次に、作製した組織スキャフォールドを使用し、細胞増殖の数を測定し、細胞接着率を分析し、
図3及び
図4に記録する。
【0060】
比較例3~7
組織スキャフォールドの作製方法について、経糸繊維の断面構造をそれぞれ円形断面、H字型断面、S字型断面、W字型断面及び十字型断面に変更した以外は、比較例2と同じであった。次に、作製された組織スキャフォールドを使用して、細胞増殖の数を測定し、細胞接着率を分析し、
図3及び
図4に記録する。
【0061】
比較例8
組織スキャフォールドの作製方法について、バイオセラミック材料を添加しなかった以外は、実施例1と同じであった。次に、作製された組織スキャフォールドの骨形成酵素の活性及び骨分化能力について分析し、
図5及び
図6に記録する。
【0062】
比較例9
組織スキャフォールドの作製方法について、バイオセラミック材料の含有量を1%に調整した以外は、実施例1と同じであった。次に、作製された組織スキャフォールドの骨形成酵素の活性について分析し、
図5に記録する。
【0063】
比較例10
実施例1の靱帯再建手術の動物試験において市販の組織スキャフォールド(Orthomed、LCA60NEF)を使用した。次に、組織スキャフォールドを表面観察、組織切片、マイクロCT及び生体力学的試験等によって分析した。結果は
図7D~
図7E、
図8C~
図8D、
図9C~
図9D及び
図10に記録されている。
【0064】
まとめると、本開示は、組織スキャフォールドの異なるセクションに従って、対応する生物活性材料を組み合わせることにより、腱又は靭帯の再生を誘導すると同時に、オッセオインテグレーション能力を改善する。これにより、自家と同様の腱や靭帯組織が徐々に形成され、長期使用後の既存の人工移植物の疲労、摩耗、破裂や安定性の低下などの問題が解決される。
【0065】
上述した実施態様は、単なる例示的なものに過ぎず、本発明の実施範囲を限定するためのものではない。当業者であれば、本発明の主旨を逸脱することなく、上記の実施態様を修正や変更することができる。したがって、本開示の請求項の保護の範囲は、本発明の添付の特許請求の範囲により限定され、また、本開示の効果及び実行可能な目的に影響を及ぼさない限り、本開示の技術的内容に含まれるべきである。
【符号の説明】
【0066】
1:組織スキャフォールド
11:本体部
101:経糸
110、120:緯糸
121、122:固定部