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特開2022-104855耐食性ネオジム鉄ホウ素磁石、表面処理方法及び水酸基化合物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104855
(43)【公開日】2022-07-12
(54)【発明の名称】耐食性ネオジム鉄ホウ素磁石、表面処理方法及び水酸基化合物の使用
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20220705BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20220705BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20220705BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20220705BHJP
   B05D 1/18 20060101ALI20220705BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20220705BHJP
   B05D 3/04 20060101ALI20220705BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F7/02 E
H01F1/057
C23C26/00 K
B05D1/18
B05D7/14 P
B05D3/04 Z
B05D7/24 303E
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048778
(22)【出願日】2021-03-23
(31)【優先権主張番号】2020116042300
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】520018200
【氏名又は名称】包頭天和磁気材料科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】張雅文
(72)【発明者】
【氏名】胡占江
(72)【発明者】
【氏名】冀平
(72)【発明者】
【氏名】白継華
(72)【発明者】
【氏名】張明▲しん▼
(72)【発明者】
【氏名】董義
(72)【発明者】
【氏名】袁易
(72)【発明者】
【氏名】陳雅
(72)【発明者】
【氏名】袁文傑
【テーマコード(参考)】
4D075
4K044
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4D075AB01
4D075BB02X
4D075BB08X
4D075BB13X
4D075BB21Z
4D075BB57Z
4D075BB65X
4D075BB79X
4D075BB91Z
4D075BB93Z
4D075BB95Z
4D075CA33
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA10
4D075DB01
4D075DB02
4D075DC13
4D075DC16
4D075DC19
4D075EA05
4D075EC07
4D075EC30
4D075EC51
4K044AA02
4K044AB10
4K044BA21
4K044BC02
4K044CA59
5E040AA04
5E040BC01
5E040BC05
5E040CA01
5E040HB14
5E040NN05
5E040NN18
5E062CD04
5E062CG07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐食性ネオジム鉄ホウ素磁石、表面処理方法および水酸基化合物の使用を提供する。
【解決手段】表面処理において、表面処理に用いる水酸基化合物は、C2~C15の炭化水素基を含むため、加熱処理を行うことにより、その表面に酸化鉄を主成分とする緻密な酸化物層を形成し、ネオジム鉄ホウ素磁石の耐食性を向上させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネオジム鉄ホウ素磁石の耐食性を向上させるための水酸基化合物の使用であって、前記水酸基化合物が式(I)で示す構造を有することを特徴とする、水酸基化合物の使用。
(そのうち、RはC2~C15の炭化水素基から選ばれたものであり、nは1~3の自然数である。)
【請求項2】
前記水酸基化合物は、一価アルコールまたは二価アルコールであり、RはC2~C15のアルキルから選ばれたものであり、nは1または2である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記水酸基化合物は一価アルコールであり、RはC3~C6のアルキルから選ばれたものであり、nは1である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記水酸基化合物は、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、n-ペンタノール、イソアミルアルコール、ネオペンチルアルコール、n-ヘキサノールまたはイソヘキサノールである、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
ネオジム鉄ホウ素磁石の表面に水酸基化合物層を形成してプリフォームを得る工程を含み、前記水酸基化合物が式(I)に示される構造を有することを特徴とする、ネオジム鉄ホウ素磁石の表面処理方法。
(そのうち、RはC2~C15の炭化水素基から選ばれたものであり、nは1~3の自然数である。)
【請求項6】
前記水酸基化合物は一価アルコールまたは二価アルコールであり、RはC2~C15のアルキルから選ばれたものであり、nは1または2であることを特徴とする、請求項5に記載の表面処理方法。
【請求項7】
ネオジム鉄ホウ素磁石を、前記水酸基化合物に含浸し、取り出した後、ブロー乾燥してプリフォームを得ることを特徴とする、請求項5に記載の表面処理方法。
【請求項8】
プリフォームを熱処理してネオジム鉄ホウ素磁石の表面に酸化物層を形成する工程を含むことを特徴とする、請求項5~7のいずれに記載の表面処理方法。
【請求項9】
前記熱処理は、プリフォームをトンネル加熱炉に入れ、380~450℃で25~50min加熱する工程であって、加熱中トンネル加熱炉に窒素ガスを流し、窒素ガスの流量を25~100L/minに制御する工程を含むことを特徴とする、請求項8に記載の表面処理方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の表面処理方法から得られた耐食性のネオジム鉄ホウ素磁石であって、前記酸化物層の厚さが0.6~3.5μmであり、GB/T 10125-2012《人工雰囲気腐食試験・塩水噴霧試験》に従って35℃、5wt%NaClの条件下で測定した前記耐食性のネオジム鉄ホウ素磁石が腐食し始めるまでの時間が45分間を超えており、GB/T2423.3-2006に従って85℃、85%RHの条件下で測定した前記耐食性のネオジム鉄ホウ素磁石が腐食し始めるまでの時間が1.2時間超えることを特徴とする、耐食性のネオジム鉄ホウ素磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性ネオジム鉄ホウ素磁石、表面処理方法および水酸基化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超高エネルギー密度を有するネオジム鉄ホウ素(NdFeB)磁石は電子製品、電動/ハイブリッド自動車、家電製品、産業用モーター、風力発電、核磁気共鳴などの分野で広く利用されており、強い市場需要がある。また、希土類磁石技術革新は日進月歩であり、生産量及び性能が絶えず向上しており、現代技術と情報産業の発展を強力に促進している。しかし、ネオジム鉄ボロン磁石表面におけるNd原子とFe原子は空気中の酸素と反応してNd2O3、FeO、Fe2O3、Fe3O4を形成する。ネオジム鉄ホウ素磁石は、湿度の高い環境においてより腐食し易くなる。このため、耐食性を向上させるために、耐食処理を施す必要がある。
【0003】
現在、ネオジム鉄ホウ素磁石の表面に保護層を形成する方法として、金属めっき、めっき-無電解めっき、電着塗装、不動態化などが広く採用されている。ネオジム鉄ボロン磁石は多孔質構造であるため、金属めっき法ではめっき中にめっき液が素材内部に入り込み、内部の粒界腐食を引き起こし、得られる保護層の厚さが不均一で寿命が短く、深い穴で複雑な部品には適していない。めっき-無電解めっき法により得られる保護層は、基体との密着性が悪く、剥離しやすく、また汚水が発生する。電着法による塗層の厚さは不均一である。
【0004】
不動態化とは、金属の表面に安定で緻密で基体と密着が強固な膜を形成するプロセスである。この膜は、金属マトリックスを腐食媒体から分離し、それにより金属の更なる腐食を防止する。このような膜はパッシベーション膜と呼ばれる。
【0005】
CN102084438Aには、R-Fe-B系焼結磁石を湿度変化環境において450℃~900℃の温度範囲で酸化熱処理した後、その表面に処理液を塗布し、その後乾燥して、構成元素として少なくともFe、Zr、Nd、フッ素、酸素を含有する化成皮膜を形成することで、ネオジム鉄ホウ素の耐食性を向上させる耐食性磁石の製造方法が開示されている。しかし、この方法では、処理液を安定に保存することが困難であり、現場での準備が必要となり、作業の煩雑さが増す。また、処理液は温度に敏感であり、処理液を塗布する温度が80℃を超えると、処理液の安定性に影響を与え、さらにネオジム鉄ホウ素の耐食性に影響を与える。
【0006】
CN101809690Bには、磁石を200~600℃で、酸素分圧を102~105Pa、水蒸気分圧を0.1~1000Paに制御して熱処理することにより、表層がヘマタイトを主成分とする表面改質層を含む希土類焼結磁石の製造方法が開示されている。このような方法で改質された希土類焼結磁石は、耐食性が酸素分圧及び水蒸気分圧の影響を大きく受ける。処理室に前述の分圧環境を作り出すためには、酸化ガスを導入する必要があり、製造コストが高くなるだけでなく、装置の密閉性にも厳しい要件がある。
CN105839045Aには、ネオジム鉄ホウ素磁石を真空炉に入れ、20Pa以下まで排気した後、0.1~0.2MPaの窒素ガスを充填し、さらに排気することを2~3回繰り返し、そして、真空炉の温度を400~750℃に昇温し、窒素ガスを圧力1×103~1×105Paになるまで導入し、2~24時間処理することにより、磁石表面に厚さ1~50μmの窒素元素を含む化合物の耐食層を形成することが開示されている。この方法は設備に対する要求が厳しい要件があり、設備の投資コストが増大し、かつ処理時間が長い。
【0007】
CN111441017Aには、ネオジム鉄ホウ素磁石の表面に複合コーティングを蒸着させることによって、ネオジム鉄ホウ素磁石の表面に防食コーティングを製造する方法が開示されている。この方法では、めっき層と基体との密着性を高めることができるものの、設備の投資が大きい、生産効率が悪い、複雑な部品を処理できないなどの欠点がある。
【0008】
EP0326088A3には、アルカリ性溶液に磁石を洗浄する工程、洗浄した磁石をまず水洗い、次に酸性洗浄溶液で洗浄し、最後に水で洗浄する工程、洗浄した磁石をリン酸亜鉛含有メッキ液にて清浄処理してリン酸亜鉛保護層を形成し、表面腐食を抑制する工程、および、リン酸亜鉛保護層表面にアミドイミドコーティング層をコーティングすることにより耐食性のある耐久コーティング層を施して腐食から保護する工程を含む、ネオジムボンド磁石に十分な腐食防止を提供する方法が開示されている。この方法は操作が複雑で生産効率が低く、構造が複雑なネオジム鉄ホウ磁石を操作することができない。
【0009】
US4917778Bには、ネオジム鉄ホウ素系焼結磁石を、酸化性を有する酸に含浸して表面を活性化させ、1000kgf/cm2以下の内部応力を有するニッケルで磁石をメッキし、カチオン電着塗装を施るネオジム鉄ホウ素系焼結磁石の製造方法が開示されている。この方法では、得られる塗膜の厚さが不均一で、塗膜と基体との密着性が悪く、作業が煩雑で設備投資にコストが高い。
【0010】
以上のように、上記方法は、工程が複雑で、サイクルが長く、設備に対する要求が高く、環境汚染、生産コストの増加、量産効率が低く、且つ製造されたコーティングの厚さが均一でなく、マトリックスとの結合力が弱く、脱落し易いなどの多くの技術的問題点を有する。
【発明の概要】
【0011】
これを考慮して、本発明の目的は、ネオジム鉄ホウ素磁石の耐食性を改善するための水酸基化合物の用途を提供することである。本発明は、水酸基化合物がネオジム鉄ホウ素磁石の耐食性を改善できることを見出した。
【0012】
本発明のもう1つの目的は、ネオジム鉄ホウ素磁石の表面処理方法を提供することである。当該方法は、プロセスが簡単で、処理サイクルが短く、かつ、環境を汚染しにくい。
【0013】
本発明の他の目的は前述した方法で得られた耐食性ネオジム鉄ホウ素磁石を提供することである。前述した方法で処理した後、ネオジム鉄ホウ素磁石は表面から空孔まで緻密な酸化物層が形成されているため、酸素ガスから効果的にブロックされ、より高い耐食性を有する。
【0014】
一方、本発明は、ネオジム鉄ホウ素磁石の耐食性を向上させるための式(I)に示される構造を有する水酸基化合物の使用を提供する。
(そのうち、RはC2~C15の炭化水素基から選ばれたものであり、nは1~3の自然数である。)
【0015】
本発明の使用によれば、前記水酸基化合物は、一価アルコールまたは二価アルコールであり、RはC2~C15のアルキルから選ばれたものであり、nが1または2であることが好ましい。
【0016】
本発明の使用によれば、前記水酸基化合物は、一価アルコールであり、RはC3~C6のアルキルから選ばれたものであり、nが1であることが好ましい。
【0017】
本発明の使用によれば、前記水酸基化合物は、エタノール、N-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、n-ペンタノール、イソアミルアルコール、ネオペンチルアルコール、n-ヘキサノールまたはイソヘキサノールであることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、ネオジム鉄ホウ素磁石の表面に式(I)に示される構造を有する水酸基化合物の層を形成してプリフォームを得る工程を含むネオジム鉄ホウ素磁石の表面処理方法を提供する。
(そのうち、RはC2~C15の炭化水素基から選ばれたものであり、nは1~3の自然数である。)
【0019】
本発明に係る表面処理方法によれば、前記水酸基化合物は一価アルコールまたは二価アルコールであり、RはC2~C15のアルキルから選ばれたものであり、nは1または2であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る表面処理方法によれば、ネオジム鉄ホウ素磁石を前記水酸基化合物に含浸し、取り出した後ブロー乾燥してプリフォームを得ることは、好ましい。
【0021】
本発明に係る表面処理方法によれば、さらにプリフォームを熱処理してネオジム鉄ホウ素磁石表面に酸化物層を形成する工程を含むことは、好ましい。
【0022】
本発明に係る表面処理方法によれば、前記熱処理は、プリフォームをトンネル加熱炉に入れ、380~450℃で25~50min加熱し、加熱中トンネル加熱炉に窒素ガスを流し、窒素ガスの流量を25~100L/minに制御することが好ましい。
【0023】
また、本発明は、さらに前記酸化物層の厚さが0.6~3.5μmであり、GB/T 10125-2012《人工雰囲気腐食試験・塩水噴霧試験》に従って35℃、5wt%NaClの条件で測定した前記耐食性のネオジム鉄ホウ素磁石が腐食し始めるまでの時間が45分間超え、GB/T2423.3-2006に従って85℃、85%RHの条件で測定した前記耐食性のネオジム鉄ホウ素磁石が腐食し始めるまでの時間が1.2時間超える前記の方法で得られた耐食性のネオジム鉄ホウ素磁石を提供する。
【0024】
水酸基化合物は、通常、有機溶剤として使用されるものであるが、本発明は、ネオジム鉄ホウ素磁石の耐食性を向上させることができることを見出した。水酸基化合物層が付着したネオジム鉄ホウ素磁石は、加熱処理を行うことにより、その表面に酸化鉄を主成分とする緻密な酸化物層を形成する。この緻密な酸化物層は、磁石との密着力が強い。塩水噴霧試験および一定湿度での熱試験によれば、当該酸化物層は、水酸基化合物層を付着せずに形成されたフィルムよりも優れた耐食性を有することが示された。本発明は、水酸基化合物を利用してネオジム鉄ホウ素磁石表面を処理し、プロセスは単純であり、温度および窒素の流量を適当に制御すれば、製造期間が短く、環境が汚染されない。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0026】
ネオジム鉄ホウ素磁石は、酸化による腐食しやすい。磁石の耐食性を向上させるための従来の方法では、コストが高く、工程が複雑である。不動態保護膜は磁石の耐食性を向上させることができるが、効果が十分ではない。本発明者らは、驚くべきことに、通常有機溶媒として使用される水酸基化合物がネオジム鉄ホウ素磁石の耐食性を向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0027】
<水酸基化合物の使用>
本発明は、ネオジム鉄ホウ素磁石の耐食性を向上させるための水酸基化合物の使用を提供する。ネオジム鉄ホウ素磁石はネオジム鉄ホウ素永久磁石またはネオジム鉄ホウ素永久磁材と呼ばられる。ネオジム鉄ホウ素磁石は、主成分がNd、Fe及びBであり、さらに他の遷移金属元素、他の希土類元素およびC、OおよびNなどの不可避の不純物を含む。これらは当技術分野で周知なことであるため、ここではその詳細な説明を省略する。ネオジム鉄ホウ素磁石は、ボンド磁石または焼結磁石であってもよく、好ましくは焼結磁石である。特に、焼結磁石は多孔質構造を有する可能性が高いため、本発明は特に焼結ネオジム鉄ホウ素磁石が好適である。本発明の好ましい実施形態によれば、焼結ネオジム鉄ホウ素磁石の耐食性を向上させるための水酸基化合物の使用を提供する。
【0028】
以下、主に一般式( I )で示される構造を有する水酸基化合物について説明する。
(そのうち、RはC2~C15の炭化水素基から選ばれたものであり、nは1~3の自然数である。)
【0029】
本発明に係る水酸基化合物は、融点が15℃未満であってもよく、好ましくは10℃未満であり、より好ましくは5℃未満である。本発明に係る水酸基化合物は、沸点が35℃超えてもよく、好ましくは75℃超え、より好ましくは80℃超える。本発明に係る水酸基化合物は、常温で液状であり、例えば、15~30℃で液状である。これはネオジム鉄ホウ素磁石表面に均一な水酸基化合物層を形成するのに有利であり、完全に揮発しにくいため、水酸基化合物がネオジム鉄ホウ素磁石表面の空孔に浸漬し、耐食性を向上させるのにも有利である。従来の加熱処理ではネオジム鉄ホウ素磁石表面の空孔に耐食層を形成することは確保できない。水酸基化合物はネオジム鉄ホウ素磁石表面の空孔に侵入したため、従来の加熱処理では達成できなかった耐食性を実現できる。
【0030】
本発明に係る水酸基化合物はアルコール系であってもよく、アルコール系として一価アルコール、二価アルコールまたは三価アルコールを含むがこれらに限定されていない。本発明は、アルコール系が磁石の耐食性向上に有利であり、特に一価アルコールがより効果的であることを見出した。nは1~3の自然数であり、好ましくは、nが1または2であり、より好ましくは、nが1である。
【0031】
本発明において、RはC2~C15の炭化水素基から選ばれたものであってもよい。炭化水素基はアルキル、アルケニル又はアルキニルであってもよく、好ましくはアルキルである。本発明の1つの実施態様によれば、RはC2~C15のアルキルから選ばれたものであり、好ましくはC3~C9のアルキルであり、より好ましくはC3~C6のアルキルである。アルキルは直鎖アルキルまたは分枝鎖アルキルであってもよい。アルキルの例としてメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシルなどを含むがこれらに限定されていない。
【0032】
本発明の1つの実施態様によれば、前記水酸基化合物は一価アルコールまたは二価アルコールであり、RはC2~C15のアルキルであり、nは1または2である。本発明の他の実施態様によれば、前記水酸基化合物は一価アルコールであり、RはC3~C6のアルキルから選ばれたものであり、nは1である。
【0033】
水酸基化合物の例として、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、n-ペンタノール、イソアミルアルコール、ネオペンチルアルコール、n-ヘキサノール、イソヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノナノールなどを含むがこれらに限定されない。本発明の1つの実施態様によれば、水酸基化合物はエタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、n-ペンタノール、イソアミルアルコール、ネオペンチルアルコール、n-ヘキサノールまたはイソヘキサノールである。本発明の1つの具体的な実施態様によれば、前記水酸基化合物はn-プロパノールである。これにより、ネオジム鉄ホウ素磁石の耐食性を著しく向上させることができ、常温での成膜が可能となり、コストの低減、プロセスの簡略化が可能となる。
【0034】
本発明の使用によれば、下記の工程でネオジム鉄ホウ素磁石表面を処理してもよい。
(1)ネオジム鉄ホウ素磁石素材を前処理してネオジム鉄ホウ素磁石を形成する工程、
(2)ネオジム鉄ホウ素磁石の表面に水酸基化合物層を形成してプリフォームを得る工程、および、
(3)プリフォームを熱処理してネオジム鉄ホウ素磁石表面に酸化物層を形成する工程。
詳細な工程及びプロセスパラメータは以下と同じ、ここでは説明を省略する。
【0035】
<表面処理方法>
本発明に係るネオジム鉄ホウ素磁石の表面処理方法はネオジム鉄ホウ素磁石の表面に水酸基化合物層を形成してプリフォームを得る工程を含み、さらに、プリフォームを熱処理してネオジム鉄ホウ素磁石の表面に酸化物層を形成する工程を含んでもよい。また、本発明に係る方法はネオジム鉄ホウ素磁石の前処理工程を含んでもよい。詳細は後述する。
【0036】
前処理工程
ネオジム鉄ホウ素磁石素材を、面取り研磨、化学脱脂、酸洗、超音波洗浄、水洗処理などの前処理工程を経てネオジム鉄ホウ素磁石を得、これをプリフォーム形成工程に供する。ネオジム鉄ホウ素磁石は、Nd、Fe、Bを主成分とし、他の遷移金属元素、他の希土類元素、C、O、Nなどの不可避不純物を含んでいてもよい。これらは当分野で周知なことであり、ここではその詳細な説明を省略する。焼結磁石は多孔質構造である可能性が高いという観点から、本発明に係るネオジム鉄ホウ素磁石は、焼結ネオジム鉄ホウ素磁石であることが好ましい。
【0037】
前記面取り研磨工程では、前記ネオジム鉄ホウ素磁石素材をラッピングすることによって研磨および面取りを行う。なお、面取り加工は、通常の方法で行えばよく、ここではその説明を省略する。
【0038】
化学脱脂工程では、アルカリ性脱脂剤を用いてネオジム鉄ホウ素磁石素材表面の油汚れを除去する。アルカリ性脱脂剤は水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸三ナトリウムおよびケイ酸ナトリウムから選ばれた1種または複数種である。本発明の1つの実施態様によれば、アルカリ性脱脂剤は水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび水からなる溶液である。具体的に、アルカリ性脱脂剤は水酸化ナトリウム20~30g/L、炭酸水素ナトリウム20~30g/Lおよびリン酸三ナトリウム3~10g/Lを含む。本発明の1つの実施態様によれば、アルカリ性脱脂剤は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ケイ酸ナトリウムおよび水からなる溶液である。具体的に、アルカリ性脱脂剤は、水酸化ナトリウム10~15g/L、炭酸ナトリウム20~30g/L、リン酸三ナトリウム50~70g/Lおよびケイ酸ナトリウム1~5g/Lを含む。前述したアルカリ性脱脂剤を用いると、脱脂効果が高く、更に水酸基化合物層の形成が促進され、耐食性が向上する。
【0039】
酸洗工程では、脱脂後のネオジム鉄ホウ素磁石素材を水洗し、次いで酸洗して錆を除去する。酸洗工程で用いる酸性溶液は、塩酸溶液でも硝酸溶液でもよいが、硝酸溶液が好ましい。硝酸溶液は、濃度が1~10wt%であってもよく、好ましくは2~8wt%であり、より好ましくは3~6wt%である。これにより、錆を効果的に除去することができ、水酸基化合物層を形成して耐食性を向上させることに有利である。
【0040】
超音波洗浄工程では、従来の超音波洗浄装置を使用し、さびおよび残留酸性溶液を十分に除去することができる。水洗処理は、残った酸性溶液をさらに除去し、プリフォーム形成工程用のネオジム鉄ホウ素磁石を得る工程である。
【0041】
プリフォーム形成工程
ネオジム鉄ホウ素磁石の表面に水酸基化合物層を形成してプリフォームを得る。水酸基化合物層は、耐食性に影響を与えない限り、他の物質を含んでもよい。好ましくは、水酸基化合物層が水酸基化合物のみからなる。これにより、耐食性を十分に確保できる。本発明に係る水酸基化合物は、下記の式(I)に示される構造を有する。
(そのうち、RはC2~C15の炭化水素基であり、nは1~3の自然数である。)
水酸基化合物は、融点が15℃未満であってもよく、好ましくは10℃未満であり、より好ましくは5℃未満である。水酸基化合物は、沸点が35℃超えてもよく、好ましくは75℃超え、より好ましくは80℃超える。水酸基化合物は、常温で、例えば、15~30℃で液状である。これにより、ネオジム鉄ホウ素磁石表面に均一な水酸基化合物層を形成し、水酸基化合物は、完全に揮発しにくいため、ネオジム鉄ホウ素磁石表面の空孔に浸漬し、耐食性をさらに向上された。水酸基化合物は、ネオジム鉄ホウ素磁石表面の空孔に浸漬するため、耐食性をさらに向上できる。
【0042】
水酸基化合物は、好ましくはアルコール系であり、例えば、一価アルコール,二価アルコールまたは三価アルコールである。アルコール、特により良い効果を有する一価アルコールは、本発明に非常に適している。nは1~3の自然数であり、好ましくはnが1または2であり、より好ましくは、nが1である。
【0043】
RはC2~C15の炭化水素基から選ばれたものであってもよい。炭化水素基はアルキル、アルケニル又はアルキニルであってもよく、好ましくはアルキルである。本発明のある実施態様によれば、RはC2~C15のアルキルから選ばれたものであってもよく、好ましくはC3~C9のアルキルであり、より好ましくはC3~C6のアルキルである。アルキルは直鎖アルキルまたは分枝鎖アルキルであってもよい。アルキルの実例としてメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシルなどを含むがこれらに限定されていない。ある実施態様によれば、前記水酸基化合物は一価アルコールまたは二価アルコールであり、RはC2~C15のアルキルから選ばれたものであり、nは1または2である。別の実施態様によれば、前記水酸基化合物は一価アルコールであり、RはC3~C6のアルキルから選ばれたものであり、nは1である。
【0044】
本発明に係る水酸基化合物の実例としてエタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、n-ペンタノール、イソアミルアルコール、ネオペンチルアルコール、n-ヘキサノール、イソヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノナノールなどを含むがこれらに限定されていない。ある実施態様によれば、水酸基化合物はエタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、n-ペンタノール、イソアミルアルコール、ネオペンチルアルコール、n-ヘキサノールまたはイソヘキサノールである。他の実施態様によれば、前記水酸基化合物はn-プロパノールである。これにより、ネオジム鉄ホウ素磁石の表面及び空孔での水酸基化合物層の成膜に有利であり、かつ、コストの低減、プロセスの簡略化が可能となる。
【0045】
ネオジボンド磁石の表面に溶射、含浸などの各種の方法で水酸基化合物層を形成することができる。含浸工程は、水酸基化合物をネオジム鉄ホウ素磁石に十分に密着させることができ、ネオジム鉄ホウ素磁石の空隙にも水酸基化合物を充填させることができるため、耐食性を向上させるのに本発明により適していることを見出した。従って、本発明に係る表面処理方法は、焼結ネオジム鉄ホウ素磁石の耐食性を向上させるのに極めて好適である。
【0046】
本発明の1つの実施態様によれば、ネオジム鉄ホウ素磁石を前記水酸基化合物に含浸し、取り出した後ブロー乾燥してプリフォームを得る。含浸時間は、水酸基化合物をネオジム鉄ホウ素磁石表面に十分結合させ、ネオジム鉄ホウ素磁石の空孔に十分浸漬するように、必要な時間であればよい。ネオジム鉄ホウ素磁石を水酸基化合物に完全に含浸する必要がある。含浸時間は5~60minであってもよく、好ましくは10~50minであり、より好ましくは20~30minである。これにより、水酸基化合物をネオジム鉄ホウ素磁石の表面に十分に結合させ、ネオジム鉄ホウ素磁石の空孔に十分に浸漬できるとともに、生産性が向上する。なお、ブロー乾燥は常法により行われるが、水酸基化合物層の破壊を避けるために、真空での操作を用いることは推奨されない。
【0047】
酸化物層形成工程
ネオジム鉄ホウ素磁石表面に酸化物層を形成するためにプリフォームを熱処理する。酸化物層の厚さは0.6~3.5μmであってもよく、好ましくは1~3μmであり、より好ましくは2~3μmである。
プリフォームをトンネル加熱炉に入れて熱処理し、加熱工程において、トンネル加熱炉に窒素ガスを流す。トンネル加熱炉は当業界に汎用な設備を採用すばれよく、ここではその説明を省略する。
【0048】
トンネル加熱炉は、熱処理温度が380~450℃であってもよく、好ましくは好ましくは400~450℃であり、より好ましくは420~450℃である。熱処理が高すぎると、製造コストの増加及び酸化物層の均一性の低下をもたらす。熱処理温度が低すぎると、形成される酸化物層の空隙率が大きく、厚みが不均一となり、磁石結合力が弱く、脱落しやすくなる。熱処理時間は25~50minであってもよく、好ましくは27~40minであり、より好ましくは30~40minである。熱処理時間が長すぎると、製造コストの増加および酸化物層の厚さの均一性の低下をもたらす。熱処理時間が短すぎると、空孔に酸化物層が形成されず、耐食性が劣化する。
【0049】
加熱において、トンネル加熱炉に窒素ガスを流し、窒素ガスの流量を25~100L/minに制御する。好ましくは、前記窒素ガスの流量を40~60L/minに制御する。より好ましくは、前記窒素ガスの流量を45~55L/minに制御する。窒素ガスの流量が高すぎると、ネオジム鉄ホウ素磁石の周囲の酸素濃度が低くなりすぎて緻密な酸化物層を形成することができない。窒素ガスの流量が少なすぎるとネオジム鉄ホウ素磁石の周囲の酸素濃度が高くなりすぎ、酸化反応速度が速くなりすぎて均一な酸化物層を形成することができない。
【0050】
<耐食性ネオジム鉄ホウ素磁石>
前述した表面処理方法により、耐食性のネオジム鉄ホウ素磁石を得た。酸化物層の厚さは0.6~3.5μmであってもよく、好ましくは1~3.5μmであり、より好ましくは1.2~3.5μmである。これにより、ネオジム鉄ホウ素磁石の耐食性をより高めることができる。酸化物層の厚さが薄すぎると、厚さが不均一で空隙率が大きくなり、また、酸化物層の厚さが薄いため、酸化物層の腐食防止期間が短くなる。酸化物層の厚さが厚すぎると、熱処理時間を長くする必要があり、生産コストが高くなる。
【0051】
GB/T 10125-2012《人工雰囲気腐食試験・塩水噴霧試験》に従って35℃、5wt%NaClの条件で測定した前記耐食性のネオジム鉄ホウ素磁石が腐食し始めるまでの時間は、45分間超え、好ましくは1時間超え、より好ましくは1.5時間超え、例えば、1.5~2時間である。
【0052】
GB/T2423.3-2006に従って85℃、85%RHの条件で測定された前記耐食性ネオジム鉄ホウ素磁石が腐食し始めるまでの時間は1.2時間超え、好ましくは1.5時間超え、より好ましくは2時間超え、例えば2~3時間である。
【0053】
以下、下記の実施例および比較例に使用された原料を説明する。
アルカリ性脱脂剤:水酸化ナトリウム25g/L、炭酸水素ナトリウム25g/Lおよびリン酸三ナトリウム5g/Lを含む水溶液。
【0054】
以下、実施例および比較例に使用された測定方法を説明する。
塩水噴霧試験:GB/T 10125-2012《人工雰囲気腐食試験・塩水噴霧試験》に従って35℃、5wt%NaClの条件でネオジム鉄ホウ素磁石が腐食し始めるまでの時間を測定し、記録した。
【0055】
恒温恒湿試験:GB/T2423.3-2006に従って85℃、85%RH条件でネオジム鉄ホウ素磁石が腐食し始めるまでの時間を測定し、記録した。
【0056】
実施例1
研磨加工を採用して50枚の焼結ネオジム鉄ホウ素磁石素材(長さ55mm、幅さ21.4mm、高さ1.8mm)を面取り研磨した。アルカリ性脱脂剤を用いてネオジム鉄ホウ素磁石素材表面を脱脂した。脱脂した後のネオジム鉄ホウ素磁石素材を水洗い、そして3wt%硝酸溶液によって酸洗し、表面の酸化物を除去した。最後に超音波洗浄および水洗することを2回繰り返し、ネオジム鉄ホウ素磁石を得た。
ネオジム鉄ホウ素磁石をイソプロパノールに20分間含浸し、これを取り出してブロー乾燥し、プリフォームを得た。前記プリフォームを銅網の上に整然と並べ、トンネル加熱炉をオンにして温度380℃に加熱し、窒素バルブを開き、炉内の窒素ガス流量を50L/minに制御し、1分間後にプリフォーム入り銅網をベルトのフィード口に置き、ベルトからトンネル加熱炉内に送り、25min加熱して表面に酸化物層を有するネオジム鉄ホウ素磁石を得た。酸化物層の厚さは1μmであった。
【0057】
実施例2
研磨加工を採用して50枚の焼結ネオジム鉄ホウ素磁石素材(長さ55mm、幅さ21.4mm、高さ1.8mm)を面取り研磨した。アルカリ性脱脂剤を用いてネオジム鉄ホウ素磁石素材表面を脱脂した。脱脂した後のネオジム鉄ホウ素磁石素材を水洗い、そして3wt%硝酸溶液によって酸洗し、表面の酸化物を除去した。最後に超音波洗浄および水洗することを2回繰り返して、ネオジム鉄ホウ素磁石を得た。
ネオジム鉄ホウ素磁石をイソプロパノールに20分間含浸し、そして取り出してブロー乾燥し、プリフォームを得た。前記プリフォームを銅網の上に整然と並べ、トンネル加熱炉をオンにして温度400℃に加熱し、窒素バルブを開き、炉内の窒素ガス流量を50L/minに制御し、1分間後にプリフォーム入り銅網をベルトのフィード口に置き、ベルトからトンネル加熱炉内に送り、30min加熱して表面に酸化物層を有するネオジム鉄ホウ素磁石を得た。酸化物層の厚さは2μmであった。
【0058】
実施例3
研磨加工を採用して50枚の焼結ネオジム鉄ホウ素磁石素材(長さ55mm、幅さ21.4mm、高さ1.8mm)を面取り研磨した。アルカリ性脱脂剤を用いてネオジム鉄ホウ素磁石素材表面を脱脂した。脱脂した後のネオジム鉄ホウ素磁石素材を水洗い、そして3wt%硝酸溶液によって酸洗し、表面の酸化物を除去した。最後に超音波洗浄および水洗することを2回繰り返して、ネオジム鉄ホウ素磁石を得た。
ネオジム鉄ホウ素磁石をイソプロパノールに20分間含浸し、そして取り出してブロー乾燥し、プリフォームを得た。前記プリフォームを銅網の上に整然と並べ、トンネル加熱炉をオンにして温度420℃に加熱し、窒素バルブを開き、炉内の窒素ガス流量を45L/minに制御し、1分間後にプリフォーム入り銅網をベルトのフィード口に置き、ベルトからトンネル加熱炉内に送り、40min加熱して表面に酸化物層を有するネオジム鉄ホウ素磁石を得た。酸化物層の厚さは3μmであった。
【0059】
実施例4
研磨加工を採用して50枚の焼結ネオジム鉄ホウ素磁石素材(長さ55mm、幅さ21.4mm、高さ1.8mm)を面取り研磨した。アルカリ性脱脂剤を用いてネオジム鉄ホウ素磁石素材表面を脱脂した。脱脂した後のネオジム鉄ホウ素磁石素材を水洗い、そして3wt%硝酸溶液によって酸洗し、表面の酸化物を除去した。最後に超音波洗浄および水洗することを2回繰り返して、ネオジム鉄ホウ素磁石を得た。
ネオジム鉄ホウ素磁石をイソプロパノールに20分間含浸し、そして取り出してブロー乾燥し、プリフォームを得た。前記プリフォームを銅網の上に整然と並べ、トンネル加熱炉をオンにして温度450℃に加熱し、窒素バルブを開き、炉内の窒素ガス流量を55L/minに制御し、1分間後にプリフォーム入り銅網をベルトのフィード口に置き、ベルトからトンネル加熱炉内に送り、35min加熱して表面が酸化物層を有するネオジム鉄ホウ素磁石を得た。酸化物層の厚さは3.5μmであった。
【0060】
比較例1
研磨加工を採用して50枚の焼結ネオジム鉄ホウ素磁石素材(長さ55mm、幅さ21.4mm、高さ1.8mm)を面取り研磨した。アルカリ性脱脂剤を用いてネオジム鉄ホウ素磁石素材表面を脱脂した。脱脂した後のネオジム鉄ホウ素磁石素材を水洗い、そして3wt%硝酸溶液によって酸洗し、表面の酸化物を除去した。最後に超音波洗浄および水洗することを2回繰り返して、ネオジム鉄ホウ素磁石を得た。
前記ネオジム鉄ホウ素磁石を銅網の上に整然と並べ、トンネル加熱炉をオンにして温度380℃に加熱し、窒素バルブを開き、炉内の窒素ガス流量を50L/minに制御し、1分間後にプリフォーム入り銅網をベルトのフィード口に置き、ベルトからトンネル加熱炉内に送り、25min加熱して表面に酸化物層を有するネオジム鉄ホウ素磁石を得た。酸化物層の厚さは0.8μmであった。
【0061】
比較例2
研磨加工を採用して50枚の焼結ネオジム鉄ホウ素磁石素材(長さ55mm、幅さ21.4mm、高さ1.8mm)を面取り研磨した。アルカリ性脱脂剤を用いてネオジム鉄ホウ素磁石素材表面を脱脂した。脱脂した後のネオジム鉄ホウ素磁石素材を水洗い、そして3wt%硝酸溶液によって酸洗し、表面の酸化物を除去した。最後に超音波洗浄および水洗することを2回繰り返して、ネオジム鉄ホウ素磁石を得た。
ネオジム鉄ホウ素磁石をイソプロパノールに20分間含浸し、そして取り出してブロー乾燥し、プリフォームを得た。前記プリフォームを銅網の上に整然と並べ、トンネル加熱炉をオンにして温度350℃に加熱し、窒素バルブを開き、炉内の窒素ガス流量を40L/minに制御し、1分間後にプリフォーム入り銅網をベルトのフィード口に置き、ベルトからトンネル加熱炉内に送り、20min加熱して表面が酸化物層を有するネオジム鉄ホウ素磁石を得た。酸化物層の厚さは0.5μmであった。
【0062】
比較例3
研磨加工を採用して50枚の焼結ネオジム鉄ホウ素磁石素材(長さ55mm、幅さ21.4mm、高さ1.8mm)を面取り研磨した。アルカリ性脱脂剤を用いてネオジム鉄ホウ素磁石素材表面を脱脂した。脱脂した後のネオジム鉄ホウ素磁石素材を水洗い、そして3wt%硝酸溶液によって酸洗し、表面の酸化物を除去した。最後に超音波洗浄および水洗することを2回繰り返して、ネオジム鉄ホウ素磁石を得た。
ネオジム鉄ホウ素磁石をイソプロパノールに20分間含浸し、そして取り出してブロー乾燥し、プリフォームを得た。前記プリフォームを銅網の上に整然と並べ、トンネル加熱炉をオンにして温度500℃に加熱し、窒素バルブを開き、炉内の窒素ガス流量を50L/minに制御し、1分間後にプリフォーム入り銅網をベルトのフィード口に置き、ベルトからトンネル加熱炉内に送り、25min加熱して表面が酸化物層を有するネオジム鉄ホウ素磁石を得た。酸化物層の厚さは0.7μmであった。
【0063】
【0064】
表1から分かるように、本発明に係るネオジム鉄ホウ素磁石は耐食性が著しく改善した。実施例1および比較例1からわかるように、イソプロピルアルコールを含浸しなかったネオジム鉄ホウ素磁石(比較例1)は、熱処理後の耐食性が劣っていた。イソプロピルアルコールを含浸したネオジム鉄ホウ素磁石(実施例1)は、熱処理後の耐食性が著しく向上された。
【0065】
熱処理条件を調整することにより、ネオジム鉄ホウ素磁石の耐食性をさらに向上させることができる。実施例1~3によれば、熱処理温度を適度に高くし、熱処理時間を長くすることにより、酸化層の厚さを厚くしてネオジム鉄ホウ素磁石の耐食性を向上させた。実施例4と実施例3との比較から分かるように、熱処理温度を上げるには、過剰な酸化を避けるために窒素ガス流量をその分増加させる必要があり、さもないと耐食性が低下する。
【0066】
実施例1と比較例2~3との比較からわかるように、熱処理温度が低すぎる場合も高すぎる場合もネオジム鉄ホウ素磁石の耐食性の改善には不利である。
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者が思いつく任意の変形、改良、置換などを本発明の範囲に含まれるものとする。
【手続補正書】
【提出日】2022-04-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基化合物を含む、ネオジム鉄ホウ素磁石の耐食性向上剤であって、前記水酸基化合物が式(I)
[上式中、RはC2~C15の炭化水素基から選ばれたものであり、nは1~3の自然数である
で示す構造を有することを特徴とする、向上剤。
【請求項2】
前記水酸基化合物は、一価アルコールまたは二価アルコールであり、RはC2~C15のアルキルから選ばれたものであり、nは1または2である、請求項1に記載の向上剤
【請求項3】
前記水酸基化合物は一価アルコールであり、RはC3~C6のアルキルから選ばれたものであり、nは1である、請求項1に記載の向上剤
【請求項4】
前記水酸基化合物は、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、n-ペンタノール、イソアミルアルコール、ネオペンチルアルコール、n-ヘキサノールまたはイソヘキサノールである、請求項1に記載の向上剤
【請求項5】
ネオジム鉄ホウ素磁石の表面に水酸基化合物層を形成してプリフォームを得る工程を含み、前記水酸基化合物が式(I)
[上式中、RはC2~C15の炭化水素基から選ばれたものであり、nは1~3の自然数である
に示される構造を有することを特徴とする、ネオジム鉄ホウ素磁石の表面処理方法。
【請求項6】
前記水酸基化合物は一価アルコールまたは二価アルコールであり、RはC2~C15のアルキルから選ばれたものであり、nは1または2であることを特徴とする、請求項5に記載の表面処理方法。
【請求項7】
ネオジム鉄ホウ素磁石を、前記水酸基化合物に含浸し、取り出した後、ブロー乾燥してプリフォームを得ることを特徴とする、請求項5に記載の表面処理方法。
【請求項8】
プリフォームを熱処理してネオジム鉄ホウ素磁石の表面に酸化物層を形成する工程を含むことを特徴とする、請求項5~7のいずれに記載の表面処理方法。
【請求項9】
前記熱処理は、プリフォームをトンネル加熱炉に入れ、380℃以上450℃以下で25min以上50min以下加熱する工程であって、加熱中トンネル加熱炉に窒素ガスを流し、窒素ガスの流量を25L/min以上100L/min以下に制御する工程を含むことを特徴とする、請求項8に記載の表面処理方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の表面処理方法から得られた耐食性のネオジム鉄ホウ素磁石であって、前記酸化物層の厚さが0.6μm以上3.5μm以下であり、GB/T 10125-2012《人工雰囲気腐食試験・塩水噴霧試験》に従って35℃、5wt%NaClの条件下で測定した前記耐食性のネオジム鉄ホウ素磁石が腐食し始めるまでの時間が45分間を超えており、GB/T2423.3-2006に従って85℃、85%RHの条件下で測定した前記耐食性のネオジム鉄ホウ素磁石が腐食し始めるまでの時間が1.2時間超えることを特徴とする、耐食性のネオジム鉄ホウ素磁石。