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特開2022-104889免疫刺激性リポプレックス、免疫刺激性リポプレックスを含む医薬組成物、およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104889
(43)【公開日】2022-07-12
(54)【発明の名称】免疫刺激性リポプレックス、免疫刺激性リポプレックスを含む医薬組成物、およびその用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/711 20060101AFI20220705BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220705BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220705BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220705BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220705BHJP
   C12N 15/117 20100101ALI20220705BHJP
【FI】
A61K31/711
A61K31/713 ZNA
A61K31/7105
A61K48/00
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 121
A61K9/127
A61K47/18
A61K47/28
A61K47/34
C12N15/117 Z
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021209444
(22)【出願日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】63/131,134
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】No.195,Sec.4,ChungHsingRd.,Chutung,Hsinchu,Taiwan 31040
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100204582
【弁理士】
【氏名又は名称】大栗 由美
(72)【発明者】
【氏名】ネン-チャン ユ
(72)【発明者】
【氏名】フェリス チェン
(72)【発明者】
【氏名】チー-ペン リウ
(72)【発明者】
【氏名】ミン-シ ウ
(72)【発明者】
【氏名】シー-タ チェン
(72)【発明者】
【氏名】チア-ム トゥ
(72)【発明者】
【氏名】リ-ウェン チャン
(72)【発明者】
【氏名】ジェン-シアン リ
(72)【発明者】
【氏名】メン-ピン シ
(72)【発明者】
【氏名】シャン-チン ワン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】免疫チェックポイント阻害剤の治療効果の改善(例えば、治療奏効率、組織の薬剤暴露量等の向上等)またはその使用できる適応症の増加を可能とする送達ビヒクルを提供する。
【解決手段】リポソームおよび少なくとも1つの免疫刺激核酸医薬を含む免疫刺激性リポプレックスであって、免疫刺激核酸医薬とリポソームとが複合化しており、リポソームが、40から85モル%のカチオン性脂質、10から50モル%のコレステロール、および0.001から20モル%の修飾ポリエチレングリコール脂質を含む、免疫刺激性リポプレックスを提供する。本開示はまた、前記免疫刺激性リポプレックスを含む医薬組成物も提供する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫刺激性リポプレックスであって:
リポソーム;および
前記リポソームと複合化する少なくとも1つの免疫刺激核酸医薬、
を含み;
前記リポソームが、40から85モル%のカチオン性脂質、10から50モル%のコレステロール、および0.001から20モル%の修飾ポリエチレングリコール(PEG)脂質を含む、免疫刺激性リポプレックス。
【請求項2】
前記免疫刺激核酸医薬には、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG-ODN)、低分子干渉リボヌクレオチド(siRNA)、マイクロリボヌクレオチド(miRNA)または前述の組み合わせが含まれる、請求項1に記載の免疫刺激性リポプレックス。
【請求項3】
前記カチオン性脂質には、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2-ジオレイルオキシ-3-ジメチルアミノプロパン(DODMA)、脂質GL67(Genzyme Lipid 67)、エチルホスホコリン(ethyl PC)、3-β-[Ν-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)]カルバモイル(DC-cholesterol)、前記各カチオン性脂質の誘導体または前記カチオン性脂質およびその誘導体の組み合わせが含まれる、請求項1または2に記載の免疫刺激性リポプレックス。
【請求項4】
前記修飾PEG脂質には、DSPE-PEG脂質、DMG-PEG脂質または前述の組み合わせが含まれる、請求項1から3のいずれか1項に記載の免疫刺激性リポプレックス。
【請求項5】
前記DSPE-PEG脂質および前記DMG-PEG脂質のPEG平均分子量が500から15000Daである、請求項4に記載の免疫刺激性リポプレックス。
【請求項6】
前記DSPE-PEG脂質および前記DMG-PEG脂質のPEG末端官能基にはアミン基(NH)またはマレイミド基(maleimide)が含まれる、請求項4に記載の免疫刺激性リポプレックス。
【請求項7】
その粒径範囲が50ナノメートルから350ナノメートルであり、かつその重合体分散度(polymer dispersity index,PDI)が0.4未満である、請求項1から6のいずれか1項に記載の免疫刺激性リポプレックス。
【請求項8】
がんを治療する薬剤を作製するのに用いる、請求項1から7のいずれか1項に記載の免疫刺激性リポプレックスの用途。
【請求項9】
前記がんには、結腸がん、乳がん、肺がん、膵臓がん、肝臓がん、胃がん、食道がん、頭頚部扁平上皮がん、前立腺がん、膀胱がん、リンパ腫、胆嚢がん、腎臓がん、血液がん、大腸がん、多発性骨髄腫、卵巣がん、子宮頸がんまたはグリオーマが含まれる、請求項8に記載の免疫刺激性リポプレックスの用途。
【請求項10】
前記薬剤を個体に投与する方式には、静脈(intravenous)注射、皮下(subcutaneous)注射、筋肉(intramuscular injection)注射または吸入剤が含まれる、請求項8に記載の免疫刺激性リポプレックスの用途。
【請求項11】
前記免疫刺激性リポプレックスが免疫チェックポイント阻害剤と併用され、かつ前記免疫チェックポイント阻害剤には抗PD-1/PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体または前述の組み合わせが含まれる、請求項8から10のいずれか1項に記載の免疫刺激性リポプレックスの用途。
【請求項12】
請求項1から7のいずれか1項に記載の免疫刺激性リポプレックスを含む医薬組成物。
【請求項13】
前記免疫刺激性リポプレックスと併用される免疫チェックポイント阻害剤をさらに含み、前記免疫チェックポイント阻害剤には抗PD-1/PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体または前述の組み合わせが含まれる、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
がんを治療する薬剤を作製するのに用いる請求項12または13に記載の医薬組成物の用途。
【請求項15】
請求項12または13に記載の医薬組成物を含むキット。



【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年12月28日に出願された米国仮特許出願第63/131,134号の利益を主張するもので、その全体が参照することにより本明細書に援用される。
【技術分野】
【0002】
本開示は、免疫刺激性リポプレックスおよび免疫刺激性リポプレックスを含む医薬組成物に関し、特にがん治療に有効に応用できる免疫刺激性リポプレックスおよびその医薬組成物に関する。
【0003】
免疫療法は、人体に元より備わる免疫システムの強化または免疫能力を外から与えることにより、疾病を治療または予防するものであり、近年、免疫療法はがんの治療に広く応用されるようになってきている。免疫療法には多種の方式があり、免疫チェックポイントブロッケード(immune checkpoint blockade,ICB)は、臨床がん治療を有効に改善する効果がある方式であると認められており、例えば、免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitor,ICI)を用いて治療を行うことができる。しかし、免疫チェックポイント阻害剤の単剤療法によるいくつかのがん(例えば、結腸直腸がん、トリプルネガティブ乳がん、肺がん、肝臓がん、腎癌等)への治療効果は理想的とは言えない。
【0004】
さらに、既知となっている多くの免疫チェックポイント阻害剤(例えば、TLR9活性剤)の安全な投薬方式は腫瘍内投与(intratumoral injection)または皮下(subcutaneous)注射であるが、こうした状況は免疫チェックポイント阻害剤が使用できる適用症を制限してしまっており、例えば表在性腫瘍の治療にしか使用できないものとなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果の改善(例えば、治療奏効率、組織の薬剤暴露量等の向上等)またはその使用できる適応症の増加を可能とする送達ビヒクルの開発は、医薬分野で取り組まれている研究課題の1つである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のいくつかの実施形態により、リポソームおよび少なくとも1つの免疫刺激核酸医薬を含む免疫刺激性リポプレックスであって、免疫刺激核酸医薬とリポソームとが複合化しており、リポソームが40から85モル%のカチオン性脂質、10から50モル%のコレステロール、および0.001から20モル%の修飾ポリエチレングリコール脂質を含む、免疫刺激性リポプレックスを提供する。本開示はまた、前記免疫刺激性リポプレックスを含む医薬組成物も提供する。
【0007】
本開示のいくつかの実施形態により、がんを治療する薬剤を作製するのに用いる前記免疫刺激性リポプレックスの用途を提供する。
【0008】
本開示のいくつかの実施形態により、前記免疫刺激性リポプレックスを含む医薬組成物を提供する。
【0009】
本開示のいくつかの実施形態により、がんを治療する薬剤を作製するのに用いる前記医薬組成物の用途を提供する。
【0010】
本開示の特徴または利点を明らかかつ理解し易くするため、以下に好ましい実施形態を挙げ、添付の図面と対応させながら、詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の一実施例において、CpGオリゴデオキシヌクレオチドおよび免疫刺激性リポプレックスを注射した後のマウス組織内のCpGオリゴデオキシヌクレオチドの濃度測定結果を示している。CpG-ODN群:50μg/マウス、100μL/マウスの単回容量でCpG-7909オリゴデオキシヌクレオチドをマウスに静脈注射;リポプレックス群:50μg/マウス、100μL/マウスの単回用量で放射標識CpG-7909と複合化した配合組成F12のリポプレックスをマウスに静脈注射。
図2図2は、本開示の一実施例において、ヒトTLR9を発現するHEK-Blue(登録商標)hTLR9細胞株を濃度の異なるCpGオリゴデオキシヌクレオチドおよび免疫刺激性リポプレックスで処理した後に生じたSEAPの相対発光量(relative light unit,RLU)の結果を示している。CpG-ODN群:CpG-7909オリゴデオキシヌクレオチドで処理した細胞群であり、EC50は約485nM;リポプレックス群:配合組成C1のリポプレックスで処理した細胞群であり、EC50は約46nM。
図3図3は、本開示の一実施例において、ヒトTLR9を発現するHEK293-hTLR9/NF-κB-luc細胞株を濃度の異なるCpGオリゴデオキシヌクレオチドおよび免疫刺激性リポプレックスで処理した後に生じたFLucの相対発光量(RLU)の結果を示している。CpG-ODN群:CpG-7909オリゴデオキシヌクレオチドで処理した細胞群であり、EC50は約242nM;リポプレックス群-1:配合組成C1のリポプレックスで処理した細胞群であり、EC50は約18nM;リポプレックス群-2:配合組成C3のリポプレックスで処理した細胞群であり、EC50は約20nM;リポプレックス群-3:配合組成C2のリポプレックスで処理した細胞群であり、EC50は約9nM;リポプレックス群-4:配合組成C6のリポプレックスで処理した細胞群であり、EC50は約12nM。
図4図4A~4Cは、本開示の一実施例において、末梢血単核細胞(PBMC)を濃度の異なるCpGオリゴデオキシヌクレオチドおよび免疫刺激性リポプレックスで処理した後に生じたIFN-α、IL-6、IFN-γの濃度変化をそれぞれ示している。コントロール群:10mM Tris buffer、pH7.5。CpG-ODN群:CpG-7909オリゴデオキシヌクレオチドで処理したPBMC群;リポプレックス群:配合組成C1のリポプレックスで処理したPBMC群。
図5図5は、本開示の一実施例において、CT26腫瘍細胞株を接種したマウスの投薬後の腫瘍体積の変化を示している。コントロール群:生理食塩水を週に2回静脈注射;抗PD-1抗体群:抗マウスPD-1抗体(250μg/マウス)を週に2回腹腔注射;CpG-ODN群:CpG-7909(50μg/マウス)を週に2回静脈注射;リポプレックス群(BIW):配合組成C1のリポプレックス(50μg/マウス)を週に2回静脈注射;抗PD-1抗体+CpG-ODN群:抗PD-1抗体(250μg/マウス)を週に2回腹腔注射、およびCpG-7909(50μg/マウス)を週に2回静脈注射;抗PD-1抗体+リポプレックス群(QW):抗PD-1抗体(250μg/マウス)を週に2回腹腔注射、および配合組成C1のリポプレックス(50μg/マウス)を週に1回静脈注射;抗PD-1抗体+リポプレックス群(BIW):抗PD-1抗体(250μg/マウス)を週に2回腹腔注射、および配合組成C1のリポプレックス(50μg/マウス)を週に2回静脈注射。
図6図6は、本開示の一実施例において、CT26腫瘍細胞株を接種したマウスの投薬後の腫瘍体積の変化を示している。コントロール群:生理食塩水を週に2回静脈注射。抗PD-1抗体+リポプレックス群-1:抗PD-1抗体(250μg/マウス)を週に2回腹腔注射、および配合組成C10のリポプレックス(15μg/マウス)を週に2回静脈注射;抗PD-1抗体+リポプレックス群-2:抗PD-1抗体(250μg/マウス)を週に2回腹腔注射、および配合組成C9のリポプレックス(15μg/マウス)週に2回静脈注射;抗PD-1抗体+リポプレックス群-3:抗PD-1抗体(250μg/マウス)を週に2回腹腔注射、および配合組成C8のリポプレックス(15μg/マウス)週に2回静脈注射。
図7図7は、本開示の比較例において、CT26腫瘍細胞株を接種したマウスの投薬後の腫瘍体積の変化を示している。コントロール群:生理食塩水を週に2回静脈注射;抗PD-1抗体群:抗PD-1抗体(250μg/マウス)を週に2回腹腔注射;抗PD-1抗体+リポプレックス群:抗PD-1抗体(250μg/マウス)を週に2回腹腔注射、および配合組成E2のリポプレックス(15μg/マウス)を週に1回静脈注射。
図8図8は、本開示の一実施例において、CT26腫瘍細胞株を接種したマウスの投薬後の腫瘍体積の変化を示している。コントロール群:生理食塩水を週に2回静脈注射;抗PD-1抗体+リポプレックス群-1:抗PD-1抗体(250μg/マウス)を週に2回腹腔注射、および配合組成C8のリポプレックス(15μg/マウス)を週に1回静脈注射;抗PD-1抗体+リポプレックス群-2:抗PD-1抗体(250μg/マウス)を週に2回腹腔注射、および配合組成C14のリポプレックス(15μg/マウス)を週に1回静脈注射。
図9図9は、本開示の一実施例において、CT26腫瘍細胞株を接種したマウスの投薬後の腫瘍体積の変化を示している。コントロール群:生理食塩水を週に2回静脈注射;抗PD-1抗体+リポプレックス群-1:抗PD-1抗体(250μg/マウス)を週に2回腹腔注射、および配合組成C11のリポプレックス(15μg/マウス)を週に1回静脈注射;抗PD-1抗体+リポプレックス群-2:抗PD-1抗体(250μg/マウス)を週に2回腹腔注射、および配合組成C13のリポプレックス(15μg/マウス)を週に1回静脈注射。
図10図10は、本開示の一実施例において、CT26腫瘍細胞株を接種したマウスの投薬後の腫瘍体積の変化を示している。抗PD-1抗体+リポプレックス-1および抗PD-1抗体+リポプレックス-2:2匹のマウスに対し、抗PD-1抗体(250μg/マウス)を週に2回腹腔注射、および配合組成C1のリポプレックス(50μg/マウス)を週に2回静脈注射し、投薬期間は14日(11~25日目)とし;コントロール群:81日目にCT26細胞株を正常マウスに再接種。
図11図11は、本開示の一実施例において、マウスTLR9を発現するHEK-Blue(登録商標)mTLR9細胞株を濃度の異なるCpGオリゴデオキシヌクレオチドおよび免疫刺激性リポプレックスで処理した後に生じたSEAPの相対発光量(RLU)の結果を示している。CpG-ODN群:CpG-30-PSオリゴデオキシヌクレオチドで処理した細胞群であり、EC50は約419M;リポプレックス群-1:配合組成C20のリポプレックスで処理した細胞群であり、EC50は約9nM。
図12図12A~12Bは、本開示の一実施例において、末梢血単核細胞(PBMC)を濃度の異なるCpGオリゴデオキシヌクレオチドおよび免疫刺激性リポプレックスで処理した後に生じたIL-6、IFN-γの濃度変化をそれぞれ示している。コントロール群:10mM Tris biffer、pH7.5;CpG-ODN群:CpG-30-PSオリゴデオキシヌクレオチドによるPBMC群;リポプレックス群:配合組成C20のリポプレックスで処理したPBMC群。
図13図13A~13Bは、本開示の一実施例におけるマウスの投薬後の体重変化を示している。コントロール群:生理食塩水を週に2回静脈注射;リポプレックス群-1:配合組成C15のリポプレックス(50μg/マウス)を週に1回静脈注射;リポプレックス群-2:配合組成C2のリポプレックス(50μg/マウス)を週に1回静脈注射;リポプレックス群-3:配合組成C9のリポプレックス(15μg/マウス)を週に1回静脈注射;リポプレックス群-4:配合組成C19のリポプレックス(5μg/マウス)を週に1回静脈注射。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態による核酸医薬複合体について詳細に説明する。以下の記載では、本開示のいくつかの実施形態の異なる態様を実施するために用いられる多くの異なる実施形態または例を提示しているという点が理解されなければならない。下記の特定の要素および構成は、単に本開示のいくつかの実施形態を簡潔に表すものにすぎない。当然に、これらは単なる例示に過ぎず、本開示を限定するものではない。
【0013】
本明細書において、「約」、「およそ」、「実質的に」なる用語は、通常の場合、所定の値または範囲の5%以内、または3%以内、または2%以内、または1%以内、または0.5%以内にあるということを表す。本明細書における所定の数はおおよその数である。つまり「約」、「およそ」、「実質的に」ということが特に説明されていない場合にも、「約」、「およそ」、「実質的に」という意味であり得るということである。さらに、数値の範囲を表す用語「第1の数値と第2の数値の間の」および「第1の数値から第2の数値までの」は、前記範囲が第1の数値、第2の数値、およびこれらの間のその他の数値を含むことを示す。
【0014】
別段の定義がない限り、本明細書中で使用する全ての用語(技術および科学用語を含む)は、本開示の属する技術分野における技術者が通常理解するものと同じ意味を有する。例えば、通常使用される辞書で定義されるこれら用語は、関連技術および本開示の背景または前後の文脈と一致する意味に解されるべきであって、理想化された、または過度に正式な仕方で解釈されてはならないということが、理解できる。本開示の内容がより容易に理解されるよう、以下に術語および用語の定義を提供する。
【0015】
術語「カチオン性脂質」とは、多種の脂質種中のいずれかのことであって、生理的pHにおいて正味の正電荷を有するか、またはプロトン化可能基を有し、かつpKaより低いpHで正に帯電するものである。
【0016】
術語「核酸」、「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」および「核酸分子」は、本明細書においてほぼ同じ意味で用いることができ、一本鎖DNA(ssDNA)、二本鎖DNA(dsDNA)、一本鎖RNA(ssRNA)および二本鎖RNA(dsRNA)が含まれ得る任意の長さのヌクレオチドの重合体のことをいう。ヌクレオチドはデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾ヌクレオチドであり得る。ヌクレオチドは、プリン(アデニン(A)もしくはグアニン(G)もしくはそれらの誘導体)またはピリミジン(チミン(T)、シトシン(C)もしくはウラシル(U)もしくはそれらの誘導体)塩基および糖の結合からなる。DNA中の4つのヌクレオチドのユニット(または塩基)は、デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシチミジンおよびデオキシシチジンと称される。RNA中の4つのヌクレオチドのユニット(または塩基)は、アデノシン、グアノシン、ウリジンおよびシチジンと称される。ヌクレオチドは、ヌクレオチドのリン酸エステルである。核酸の非限定的な例には、遺伝子または遺伝子断片、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、転移RNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、RNAi、siRNA、miRNA、組換えポリヌクレオチド、分枝ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブおよびプライマー等が含まれる。核酸には、修飾ヌクレオチド、例えばメチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログが含まれ得る。
【0017】
術語「CpG」および「CG」は、本明細書においてほぼ同じ意味で用いることができ、ホスホジエステル結合により分離されているシトシンおよびグアニンのことを指す。本開示の実施形態によれば、オリゴヌクレオチドには、1つまたは複数の非メチル化CpGジヌクレオチドが含まれ得る。本開示のいくつかの実施形態によれば、オリゴヌクレオチドはオリゴデオキシヌクレオチド(oligodeoxynucleotide,ODN)である。
【0018】
術語「プログラムされたデスリガンド-1」は、「PD-L1」、「表面抗原分類274(cluster of differentiation 274,CD274)」または「B7ホモログ-1(B7 homolog-1,B7-H1)」とも称され、ヒトにおいてCD274遺伝子にコードされるタンパク質のことを指す。ヒトPD-L1は40kDa 1型膜貫通タンパク質であり、その主な機能は免疫システムを抑制することにある。PD-L1は、活性化されたT細胞、B細胞および骨髄細胞における受容体PD-1に結合して、活性化または抑制を制御する。PD-L1はまた、共刺激分子CD80(B7-1)に対して顕著な親和性を有するものでもある。PD-L1とT細胞における受容体PD-1との結合により、T細胞受容体に制御されるIL-2の産生、およびT細胞増殖の活性化を抑制することのできるシグナルが伝達され得る。PD-L1は、チェックポイント(checkpoint)と見なすことができ、かつその腫瘍における増加は、T細胞に制御される抗腫瘍応答の抑制を助ける。本開示の実施形態によれば、PD-L1は哺乳動物由来のPD-L1であってよく、例えば、ヒト由来のPD-L1であってよい。
【0019】
術語「がん」は、哺乳動物における細胞集団の制御されない細胞成長に特徴付けられる生理学的な病状のことをいう。術語「腫瘍」は、過度な細胞成長または増殖により生じた何らかの組織腫瘤のことを指し、前がん病変を含む良性(非がん性)または悪性(がん性)腫瘍を含む。
【0020】
術語「免疫反応」には、自然免疫系および獲得免疫系からの応答が含まれ、それには細胞制御の免疫応答または体液性免疫応答が含まれる。免疫応答には、T細胞およびB細胞応答、ならびに免疫系の他の細胞、例えばナチュラルキラー(natural killer,NK)細胞、単核細胞、マクロファージ等からの応答が含まれる。
【0021】
さらに、術語「治療」は、診断された病理学的な症状あるいは病気を治癒し、緩和し、症状を軽減し、および/もしくは進行を止める治療手段、ならびに/または目的とする病理学的な症状あるいは病気の進行を予防および/もしくは緩和する予防手段のことを指す。よって、治療を必要とする個体には、すでに疾病にかかっている者、疾病にかかり易い者、および疾病を予防すべき者が含まれ得る。本開示の実施形態によれば、がんまたは腫瘍を有する患者が以下の状態のうちの1つまたは複数を示した場合は、個体の治療が成功したことを表す:免疫応答の増加、抗腫瘍応答の増加、免疫細胞の細胞溶解活性の増加、免疫細胞の腫瘍細胞殺傷の増加、がん細胞数の減少もしくは完全な不存在;腫瘍サイズの縮小;周辺器官へのがん細胞浸潤の抑制もしくは不存在;腫瘍もしくはがん細胞の転移の抑制もしくは不存在;がん細胞成長の抑制もしくは不存在;具体的ながんに関連する1つまたは複数の症状の寛解;罹患率および死亡率の低下;生活の質の改善;腫瘍形成性の低減;またはがん幹細胞の数もしくは出現頻度等の減少等。
【0022】
本開示のいくつかの実施形態により、特定の組成を有するリポソーム、およびリポソームと複合化した免疫刺激核酸医薬を含む免疫刺激性リポプレックスを提供し、それは、全身性投与の方式(例えば静脈注射)により投与されてよい。本開示の実施形態により提供されるリポプレックスは、免疫刺激核酸医薬(例えばオリゴデオキシヌクレオチド)の低い安定性、および不十分な組織暴露量の問題を改善することができ、薬剤の特異的免疫賦活作用を高め、単回用量の薬剤の作用時間を延長することもでき、薬剤により引き起こされる全身性免疫副作用を低減させ得る。さらに、本開示のいくつかの実施形態により、免疫刺激性リポプレックスを現行の免疫チェックポイント阻害剤と併用すれば、相乗効果を発揮して、がん免疫療法の治療効果をより一層高めることができる。
【0023】
本開示の実施形態により提供される免疫刺激性リポプレックス(lipoplex)は、リポソーム(liposome)、および少なくとも1つの免疫刺激核酸医薬を含み、免疫刺激核酸医薬とリポソームとは複合化され、かつリポソームは約40から約85モル%(mol%)のカチオン性脂質、約10から約50モル%のコレステロール、および約0.001から約20モル%の修飾ポリエチレングリコール(polyethylene glycol,PEG)脂質を含む。
【0024】
いくつかの実施形態によれば、リポソームは、約50から約80モル%のカチオン性脂質、約15から約35モル%のコレステロール、および約0.01から約15モル%の修飾PEG脂質を含む。いくつかの実施形態によれば、リポソームは約60から約80モル%のカチオン性脂質、約15から約30モル%のコレステロール、および約0.1から約15モル%の修飾PEG脂質を含む。
【0025】
いくつかの実施形態によれば、リポソームは、カチオン性脂質、コレステロールおよび修飾PEG脂質を含む組成から形成されるナノ粒子集合体である。本明細書において、術語「ナノ粒子」とは、サイズがナノメートルスケールで測定される粒子のことをいい、例えば、ナノ粒子は、粒径が約10000ナノメートル(nm)未満の構造を有する粒子のことをいう。いくつかの実施形態によれば、リポソームの粒径範囲は、約50ナノメートルから約200ナノメートル、または約60ナノメートルから約170ナノメートル、または約70ナノメートルから約165ナノメートルであり、例えば約80ナノメートル、約90ナノメートル、約100ナノメートル、約110ナノメートル、約120ナノメートル、約130ナノメートル、約140ナノメートル、約150ナノメートル、約160ナノメートル、または約170ナノメートルである。
【0026】
リポソームのカチオン性脂質、コレステロールおよび修飾PEG脂質の比率を特定の範囲内として調製し(例えば、約40~85mol%のカチオン性脂質、約10~50mol%のコレステロール、および約0.001~20mol%の修飾PEG脂質を含む)、ナノ粒子構造を有するリポソームを形成する必要があるという点に留意すべきである。
【0027】
いくつかの実施形態によれば、カチオン性脂質には、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(1,2-dioleoyl-3-trimethylammonium propane,DOTAP)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(1,2-di-O-octadecenyl-3-trimethylammonium propane,DOTMA)、ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド(didodecyldimethylammonium bromide,DDAB)、1,2-ジオレイルオキシ-3-ジメチルアミノプロパン(1,2-dioleyloxy-3-dimethylamino propane,DODMA)、脂質GL67(Genzyme Lipid 67)、エチルホスホコリン(ethyl phosphocholine,ethyl PC)、3-β-[Ν-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)]カルバモイル(3s-[N-(N’,N’-dimethylaminoethane)-carbamoyl]cholesterol,DC-cholesterol)、前述した各カチオン性脂質の誘導体または前述したカチオン性脂質およびその誘導体の組み合わせが含まれるが、これに限定はされない。
【0028】
いくつかの実施形態によれば、修飾PEG脂質には、DSPE-PEG脂質(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-ポリ(エチレングリコール、1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine-N-[carboxy(polyethylene glycol)])、DMG-PEG脂質(1,2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メトキシポリエチレングリコール、1,2-dimyristoyl-rac-glycero-3-methoxypolyethylene glycol)または前述の組み合わせが含まれるが、これに限定はされない。
【0029】
いくつかの実施形態によれば、DSPE-PEG脂質およびDMG-PEG脂質のPEG平均分子量は約500から約15000Da、または約800から約12000Da、例えば約900Da、約1000Da、約2000Da、約3000Da、約4000Da、約5000Da、約6000Da、約7000Da、約8000Da、約9000Da、約10000Da、または約11000Da等であるが、本開示はこれに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、DSPE-PEG脂質およびDMG-PEG脂質のPEG末端官能基にはアミン基(NH)またはマレイミド基(maleimide)が含まれるが、これに限定はされない。
【0030】
いくつかの実施形態によれば、リポソームの重合体分散度(polymer dispersity index,PDI)は約0.4未満、例えば約0.3未満、約0.2未満、または約0.1未満である。PDIは粒子の粒径分布の広がりを評価するのに用いることができ、PDIが大きいほど、形成されるリポソーム中により多種の粒径サイズの粒子が存在するということであって、リポソームの均一性が低いということを表す。なお、いくつかの実施形態によれば、PDIが0.4より大きいと、リポソームの配合組成の均質性は低く、形成されるリポソーム粒子の均一性が低いということである、という点に注目すべきである。
【0031】
いくつかの実施形態によれば、リポソームのゼータ電位(zeta potential)は約0から約150mV、または約5から約100mVであってよいが、これに限定はされない。ゼータ電位は、粒子表面の帯電状況の指標を提供することができる。一般に、ゼータ電位の数値が+10mVから-10mVの間にあると、粒子表面が電気的に中性になることを表し;+30mVより大きい、または-30mVより小さいと、それぞれ粒子表面が明らかに正帯電または負帯電していることを表す。
【0032】
また、リポソームを形成するカチオン性脂質および修飾PEG脂質のタイプは、前述した実施形態で挙げたものに限られず、本開示のいくつかの実施形態によれば、その他の適したタイプのカチオン性脂質および修飾PEG脂質を選択することができ、形成されたリポソームが好ましいナノ粒子構造、例えば好ましい粒径範囲、PDI等を有するものであればよい、ということが理解されなければならない。
【0033】
また、いくつかの実施形態によれば、免疫刺激性リポプレックス中の免疫刺激核酸医薬は、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(oligodeoxynucleotide,ODN)、低分子干渉リボヌクレオチド(siRNA)、マイクロリボヌクレオチド(miRNA)または前述の組み合わせを含み得る。
【0034】
CpGオリゴデオキシヌクレオチドはTLR9受容体(toll-like receptor 9)に結合することができ、CpGオリゴデオキシヌクレオチドはTLR9を強力に活性化して、インターフェロン(interferon)の産生を促し、抗腫瘍または抗ウイルス等の免疫応答を誘発することができる。CpGオリゴデオキシヌクレオチドは、既知の免疫刺激性を有する任意のCpGオリゴデオキシヌクレオチド配列であってよい。いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴデオキシヌクレオチドの配列長は約15ヌクレオチドから約40ヌクレオチドであってよいが、これに限定はされない。例えば、いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴデオキシヌクレオチドの配列と、配列番号:1または2で示される核酸配列とは、少なくとも85%の相同性を有していてよく、例えば86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有していてよいが、これに限定はされない。
【0035】
いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴデオキシヌクレオチド配列は、1つまたは複数の非メチル化CpGモチーフ(motif)を含み得る。いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴデオキシヌクレオチド配列中のCpGモチーフは、85%から100%が非メチル化のものであってよく、例えば約88%、90%、92%、95%、98%等が非メチル化のものであってよいが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴデオキシヌクレオチド配列中のCpGモチーフは全部が非メチル化のものであり得る。また、いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴデオキシヌクレオチド配列は、修飾ホスホジエステル結合(phosphodiester bond)、例えばホスホロチオエート結合(phosphorothioate bond)を含み、これにより免疫刺激核酸医薬が生体内の酵素に分解されるリスクを低減し、リポプレックスの安定性を高めることができる。いくつかの実施形態によれば、ホスホロチオエート結合の数は、CpGオリゴデオキシヌクレオチド配列のホスホジエステル結合の数の約70%から100%、または約80%から100%を占めていてよく、例えば85%、90%または95%であってよいが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴデオキシヌクレオチド配列中の全てのホスホジエステル結合が、ホスホロチオエート結合に修飾されていてよい。
【0036】
さらに、前述したsiRNAおよびmiRNAは、既知の免疫刺激性を有する任意のsiRNA配列およびmiRNA配列であり得る。
【0037】
いくつかの実施形態によれば、リポソームと免疫刺激核酸医薬とが複合化して形成されるリポプレックスの粒径の範囲は、約50ナノメートルから350ナノメートル、または約60ナノメートルから約300ナノメートル、または約70ナノメートルから約250ナノメートル、例えば約80ナノメートル、約90ナノメートル、約100ナノメートル、約110ナノメートル、約120ナノメートル、約130ナノメートル、約140ナノメートル、約150ナノメートル、約160ナノメートル、約170ナノメートル、約180ナノメートル、約190ナノメートル、約200ナノメートル、約210ナノメートル、約220ナノメートル、約230ナノメートル、または約240ナノメートル等であってよいが、本開示はこれに限定されない。
【0038】
いくつかの実施形態によれば、リポソームと免疫刺激核酸医薬とが複合化して形成されたリポプレックスの重合体分散度(PDI)は約0.4未満、例えば約0.3未満、約0.2未満、または約0.1未満である。なお、いくつかの実施形態によれば、PDIが0.4より大きいと、リポプレックスの配合組成の均質性が低く、形成されるリポプレックス粒子の均一性が低いということである、という点に注目すべきである。
【0039】
いくつかの実施形態によれば、リポプレックスのゼータ電位(zeta potential)は約-70から約150mV、または約-60から約100mVであってよいが、これに限定はされない。
【0040】
本開示の実施形態によれば、特定の組成を有する免疫刺激性リポプレックスは、免疫刺激核酸医薬の低い安定性、および不十分な組織暴露量の問題を改善することができ、薬剤の特異的免疫賦活作用を高め得るという点に注目されたい。
【0041】
さらに、いくつかの実施形態によれば、前述した免疫刺激性リポプレックスは、がん治療の薬剤を作製するのに用いることができる。いくつかの実施形態によれば、免疫刺激性リポプレックスは、医薬的に許容され得る担体をさらに含んでいてよい。例えば、いくつかの実施形態によれば、有効量の前記免疫刺激性リポプレックスを必要な個体に投与することができる。いくつかの実施形態によれば、個体には哺乳動物、例えばマウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル、オランウータンまたはヒト等が含まれ得るが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、前記個体はヒトであり得る。いくつかの実施形態によれば、免疫刺激性リポプレックスを含む薬剤を個体に投与する方式には、静脈(intravenous)注射、皮下(subcutaneous)注射、筋肉(intramuscular injection)注射または吸入剤が含まれ得るが、これに限定はされない。
【0042】
いくつかの実施形態によれば、前述したがんには、結腸がん、乳がん、肺がん、膵臓がん、肝臓がん、胃がん、食道がん、頭頚部扁平上皮がん、前立腺がん、膀胱がん、リンパ腫、胆嚢がん、腎臓がん、血液がん、大腸がん、多発性骨髄腫、卵巣がん、子宮頸がんまたはグリオーマが含まれ得るが、これに限定はされない。
【0043】
本開示の実施形態によれば、免疫刺激性リポプレックスは、全身性投与の方式で投与されてよく、一般的な腫瘍内投与の投薬による限界の問題、例えば深部の腫瘍の不十分な治療効果といった問題を改善できるという点に注目されたい。
【0044】
また、いくつかの実施形態によれば、免疫刺激性リポプレックスは免疫チェックポイント阻害剤と併用することができる。免疫チェックポイント阻害剤には、抗PD-1/PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体または前述の組み合わせが含まれ得るが、これに限定はされない。免疫刺激性リポプレックスを現行の免疫チェックポイント阻害剤と併用することで、相乗効果が奏され、ひいてはがん免疫療法の効果をより一層高めることができる。
【0045】
いくつかの実施形態によれば、前述した免疫刺激性リポプレックスを含む医薬組成物を提供し、この医薬組成物はがんの治療に用いることができる。医薬組成物は医薬的に許容され得る担体をさらに含んでいてよい。いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、免疫チェックポイント阻害剤をさらに含んでいてよく、それは免疫刺激性リポプレックスと併用される。免疫チェックポイント阻害剤には抗PD-1/PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体または前述の組み合わせが含まれ得るが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、医薬組成物を個体に投与する方式には、静脈注射、皮下注射、筋肉注射または吸入剤が含まれ得るが、これに限定はされない。
【0046】
いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、溶液または懸濁液の形式とされていてよい。あるいは、医薬組成物は、脱水固形物(例えば冷凍乾燥または噴霧乾燥した固形物)であり得る。いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は無菌かつ個体に対して無毒性のものであり得る。さらに、いくつかの実施形態によれば、前述した医薬的に許容され得る担体には、賦形剤、溶解剤、緩衝剤、安定剤または防腐剤が含まれ得るが、これに限定はされない。
【0047】
例えば、賦形剤には溶媒が含まれていてよく、いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は溶媒として水性媒体を含み得る。水性媒体には、例えば無菌水、食塩水、リン酸緩衝食塩水またはリンゲル液(Ringer's solution)が含まれ得るが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、溶解剤は、冷凍もしくは噴霧乾燥時および/または保存時に免疫刺激性リポプレックスを安定させる助けとなり、かつその分解を防止する保護剤である。溶解剤には例えば、糖(単糖、二糖および多糖)、例として蔗糖、乳糖、トレハロース、マンニトール、ソルビトールまたはぶどう糖が含まれ得るが、これに限定はされない。さらに、いくつかの実施形態によれば、緩衝剤は、加工、保存時等において免疫刺激性リポプレックスに分解が発生しないようにpH値を調整することができる。緩衝液には例えば塩、例として酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩または硫酸塩が含まれ得るが、これに限定はされない。緩衝液には例えばアミノ酸、例としてアルギニン、グリシン、ヒスチジン、またはリジンが含まれていてもよいが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、安定剤には例えば右旋糖、グリセロール、塩化ナトリウム、グリセロールまたはマンニトールが含まれ得るが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、防腐剤には例えば、抗酸化剤または抗微生物劑が含まれ得るが、これに限定はされない。
【0048】
また、本開示の実施形態により、前述した医薬組成物および使用方法が記載された説明書を含むキットを提供する。医薬組成物を含むキットは適切に包装されている。いくつかの実施形態によれば、キットは、医薬組成物を投与するのに用いる装置(例えば、注射器および針、噴霧器、または乾燥粉末吸入装置等)をさらに含んでいてよい。
【0049】
本開示の上述およびその他の目的、特徴、ならびに利点をより明らかに分かり易くするため、以下に複数の作製例、実施例および比較例を挙げて詳細に説明するが、これらは本開示の内容を限定するものではない。
【0050】
作製例1:リポソームの作製
【0051】
下表1に示される配合組成番号F1~F25およびN1~N11のとおりに、カチオン性脂質、コレステロールおよび修飾PEG脂質を量り取り、丸底フラスコ中に入れ、メタノール(Merckより購入)で脂質を溶解した。ここで使用したカチオン性脂質DOTAPはAvantiより購入し(CAS番号132172-61-3)、コレステロールはNippon Fine Chemicalより購入し(CAS番号57-88-5)、修飾PEG脂質DSPE-PEG2000(DSPE-PEG-2K)はNippon Fine Chemicalより購入し(CAS番号247925-28-6)、DSPE-PEG-1K、5K、10KはNanocsより購入し;DSPE-PEG-2K-NHはAvantiより購入し(CAS番号474922-26-4);DSPE-PEG-2K-MaleimideはAvantiより購入した(CAS番号474922-22-0)。
【0052】
脂質が全て溶解したのを確認した後、丸底フラスコをバッファーボトルおよび減圧濃縮装置に接続し、60℃の水浴中にて回転速度150rpmで温度を平衡化した。次いで、真空度を150mPaに設定し、真空ポンプを起動して約5分動作させた。その後、真空度を20mPaに設定し、溶媒を完全に除去したところ、配合組成の混合物は薄膜を形成した。次いで、10mM Tris緩衝液(pH7.5、VWR Life Scienceより購入)を丸底フラスコ中に加えて水和(hydration)反応を進行させ、低出力超音波振動により薄膜を完全に溶解させた。その後、水和した溶液に対し、高出力超音波振動(Pulse sonicator)または高圧ホモジナイザー(microfluidizer)で粒度の分級(sizing)を行った。サンプルが透明で清澄であった場合、0.22μmのフィルターでろ過してから分けた;サンプルが沈殿していた場合は、サンプルを直接遠心管に移し、サンプルを4℃で保存した。
【0053】
次いで、サンプルを20μL取り、PBS980μL中に加え、振とうして均一にした後、Zetasizer Nano ZS (Malvern Panalytical)で各配合組成で形成されたリポソームの粒径を測定した。また、サンプルを20μL取り、10mM NaCl溶液980μL中に加え、振とうして均一にした後、Zetasizer Nano ZS (Malvern Panalyticalで各配合組成で形成されたリポソームのゼータ電位を測定した。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示されるように、配合組成番号F1~F25で形成されたリポソームの粒径範囲は50nmから200nm、リポソームのPDI値はいずれも0.4未満、その大部分が0.3未満であり、リポソーム粒子が均質性および均一性に優れるということが示されている。さらに、配合組成番号F1~F25で形成されたリポソームの粒子表面はほとんどが正に帯電していた。これに対し、配合組成番号N1およびN3~N10は沈殿が生じ、粒子構造のリポソームが形成されず、配合組成N2およびN11で形成されたリポソームにあっては粒径範囲が小さく(50nm未満)、かつリポソーム粒子表面は負に帯電していた。
【0056】
作製例2:リポプレックスの作製
【0057】
先ず、10mM Tris緩衝液(pH7.5、VWR Life Scienceより購入)でCpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG-ODN)の凍結結晶粉末CpG-7909(配列番号:1で示される核酸配列、Integrated DNA Technologiesにカスタム合成を委託)またはCpG-30-PS(配列番号:2で示される核酸配列、Integrated DNA Technologiesにカスタム合成を委託)を溶解し、軽く振とうし、CpG-ODN凍結結晶粉末が完全に溶解したのを確認した。さらに、0.22μmフィルターでCpG-ODN溶液をろ過した。
【0058】
その後、先ず10mM Tris緩衝液(pH7.5)をサンプルびんまたは遠心管に入れ、次いで、下表2に示される配合組成番号C1~C20およびE1~E2にしたがって、先ずリポソーム(リポソームの作製方式は作製例1の部分に記載されている)を加えてから、CpG-ODN溶液を加えた。サンプルを混ぜ合わせた後、30~40分撹拌を続け、リポソームとオリゴデオキシヌクレオチドとの複合化を完了させてリポプレックスを形成した。
【0059】
次いで、サンプルを20μL取ってPBS980μL中に加え、振とうして均一にした後、Zetasizer Nano ZS (Malvern Panalytical)で各配合組成により形成したリポプレックスの粒径を測定した。また、サンプルを20μL取って10mM NaCl溶液980μL中に加え、振とうして均一にした後、Zetasizer Nano ZS (Malvern Panalytical)で各配合組成により形成したリポプレックスのゼータ電位を測定した。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示されるように、配合組成番号C1~C20で形成されたリポプレックスの粒径範囲は50nmから300nm、リポソームのPDI値はいずれも0.35未満、その大部分は0.2未満であり、リポソーム粒子が均質性および均一性に優れるということが示されている。さらに、リポプレックスの粒子表面は、正に帯電、または負に帯電し得る。
【0062】
実施例1:リポプレックスの薬物動態的評価
【0063】
マウスの薬物動態的評価を通して、リポプレックス(CpGオリゴデオキシヌクレオチドと複合化したリポソーム)およびCpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG-ODN)単独の動物体内における薬剤暴露量の差を分析し、不十分な標的組織(例えば腫瘍)薬剤暴露量が薬効に影響を与える主因を確かめた。
【0064】
先ず、配合組成F12のリポソームをサンプルびんまたは遠心管に入れてから、125I(N-スクシンイミジル4-メチル-3-トリメチルスタニルベンゾエート,N-Succinimidyl 4-methyl-3-trimethylstannyl benzoate,CENTRIPure MINI Spin Columns)で標識されたCpG-7909(5mg/mL、ddHO中、PH値7.5)を加えて複合反応を進行させた。複合反応は2ステップに分けて行い、各ステップの溶液の混合は、15~20分続けて撹拌するものとした。2ステップの複合体積は下表3に示すとおりであり、生体内薬物動態試験に必要な薬物濃度0.5mg/mLで調製した(用量50μg/マウス、投与体積100μL/マウス)。複合反応が完了した後、形成されたリポプレックスの粒径、PDIおよびゼータ電位を測定したところ、粒径89.81nm、PDI0.205、ゼータ電位24.3mVであった。
【0065】
【表3】
【0066】
次いで、用量50μg/マウス、注射体積100μL/マウスで、配合組成F12のリポプレックスまたは単独の125I標識CpG-7909(CpG-ODN)をマウス(メスBalb/cマウス、体重約25g、楽斯科生物科技社より購入)に単回用量静脈注射した。薬剤群をリポプレックス群およびCpG-ODN群に分け、かつ各薬剤群を採血(PK)群および組織分布(bio-distribution)群に分けた。採血群(マウス3匹)では、投薬の10分、30分、1時間、2時間、4時間、8時間、24時間、3日および7日後にそれぞれ血液を採取した。組織分布群(マウス3匹)では、投薬の4時間、24時間、3日および7日後にそれぞれ肝臓、腎臓、脾臓、リンパ節を採取した。そして、γカウンター(gamma counter)で標的物質の活性度の分析を行った。採血群の実験結果は表4に示すとおりであり、組織分布群の実験結果は図1および表5(定量化の結果)に示すとおりである。
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
表4に示されるように、リポプレックス群は、血液中のCpG-ODN薬剤暴露量を約2倍高めることができる。さらに、図1および表5の結果に示されるように、リポプレックス群は、組織中のCpG-ODN薬剤暴露量を約1.7~166倍高めることができる。これからわかるように、単独使用するCpGオリゴデオキシヌクレオチドと比較して、リポプレックスは、CpGオリゴデオキシヌクレオチドの生体内における薬物動態特性を改善することができる。
【0070】
実施例2:リポプレックスのTLR9活性化能力の評価
【0071】
ヒトTLR9を発現するHEK-Blue(登録商標)hTLR9細胞株(InvivoGenより購入、製品番号hkb-htlr9)を用いて、配合組成C1のリポプレックス(リポプレックス群)および単独CpG-7909(CpG-ODN群)のTLR9活性化能力を評価した。詳細には、HEK-Blue(登録商標)hTLR9細胞株は、活性化が誘導された後に、分泌型胎盤アルカリホスファターゼ(secreted embryonic alkaline phosphatase,SEAP)を生じるが、これによりリポプレックス群およびCpG-ODN群のTLR9を誘導する活性を評価することができる。SEAP発光レポーター遺伝子システムPhospha-Light(登録商標)SEAP Reporter Gene Assay System(Thermo Fisher Scientificより購入、製品番号T1017)を用いて、リポプレックス群およびCpG-ODN群で処理した細胞培養上清中のSEAPを検出した。誘導の2日前に96ウェルプレートに接種しておいたHEK-Blue(登録商標)hTLR9細胞の細胞培養上清を除去し、異なる誘導剤を含有する完全細胞培養液を加え、細胞培養器でさらに7時間培養してから、細胞培養上清のサンプルを収集して-80℃で保存した。-80℃で保存したサンプルを解凍した後、上述したSEAPレポーター遺伝子分析試薬キットを用いて細胞培養上清中のSEAPレポーター遺伝子活性を分析した。次いで、関連分析データをGraphPad Prism生物統計学ソフトウェアによりデータ処理した。結果は図2に示されるとおりである。
【0072】
図2に示されるように、実験結果より、CpG-ODN群のEC50値がおよそ485nM、リポプレックス群のEC50値がおよそ46nMであることが示された。単独使用のCpGオリゴデオキシヌクレオチドに比して、リポプレックス配合組成はTLR9活性能力を大幅に高めることができた(EC50が約10倍向上)。
【0073】
実施例3:リポプレックスのTLR9活性化能力の評価
【0074】
ヒトTLR9を発現するHEK293-hTLR9/NF-κB-luc細胞株(BPS Bioscienceより購入、製品番号60685)を用い、配合組成C1、C3、C2、C6のリポプレックス(それぞれリポプレックス群-1、リポプレックス群-2、リポプレックス群-3、リポプレックス群-4に対応)および単独CpG-7909(CpG-ODN群)のTLR9活性化能力を評価した。詳細には、HEK293-hTLR9/NF-κB-luc細胞株は、活性化が誘導された後に、ホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子(firefly luciferase,FLuc)を生じるが、これによりリポプレックス群-1~4およびCpG-ODN群のTLR9を誘導する活性を評価することができる。Rapid Detection of Firefly Luciferase Activity(Promegaより購入、製品番号E4550)を、CelLytic M Cell Lysis Reagent(Merck KGaAより購入、製品番号C2978)と組み合わせて用い、リポプレックス群-1~4およびCpG-ODN群で処理した細胞内のレポーター遺伝子活性分析を行った。誘導の2日前に96ウェルプレートに接種しておいたHEK293-hTLR9/NF-κB-luc細胞の細胞培養上清を除去し、異なる誘導剤を含有する完全細胞培養液を加え、細胞培養器でさらに6時間培養した後、上述したCelLytic M Cell Lysis Reagent溶解バッファを加え、かつ上述したRapid Detection of Firefly Luciferase Activity発光レポーター遺伝子試薬キットを用い、細胞溶解液中におけるレポーター遺伝子の活性を分析した。次いで、GraphPad Prism生物統計学ソフトウェアにより関連データの処理および分析を行った。結果は図3に示されるとおりである。
【0075】
図3に示されるように、実験結果より、CpG-ODN群のEC50値がおよそ242nM、リポプレックス群-1のEC50値がおよそ18nM、リポプレックス群-2のEC50値がおよそ20nM、リポプレックス群-3のEC50値がおよそ9nM、リポプレックス群-4のEC50値がおよそ12nMであることが示された。単独使用のCpGオリゴデオキシヌクレオチドに比して、配合組成の異なるリポプレックス-1~4はいずれもTLR9活性能力を大幅に高めることができていた(EC50が約10倍向上)。
【0076】
実施例4:リポプレックスのサイトカイン活性化能力の評価
【0077】
先ず、Ficoll-Paque PREMIUM 1.077(GE Healthcareより購入)を用いてヒト血液を分離し、400×gで40分遠心分離した後、末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell,PBMC)を分離し、PBMC細胞を収集した後、DPBS緩衝液で洗浄・遠心分離し、さらに100×gで10分遠心分離して血小板を分離した後、細胞数1.5×10で48ウェルプレートに接種した。次いで、培養プレート中に、系列希釈した濃度の異なるCpG-7909(CpG-ODN群)または配合組成C1のリポプレックス(リポプレックス群)を加え、24時間培養した後、上清を収集して、Bio-Plex Pro(登録商標)Human Cytokine 27-plex Assay(Bio-radより購入)でIFN-γ、IL-6の濃度変化を測定した。また、PBL VeriKine-HS Mouse IFN-α All Subtype ELISA Kit Product(PBL assay science,#42115より購入)でIFN-α濃度を測定した。
【0078】
図4A~4Cに示されるように、実験結果から、リポプレックス群は、低濃度(例えば,約10nM)のときに、ヒトPBMC細胞のIL-6、IFN-γ産生を促進することができ、活性化能力がCpG-ODN群よりも強いことが示されている。また、CpG-ODN群がほぼ活性化することのできなかったIFN-αも、リポプレックス群では分泌の促進が見られた。このことからわかるように、リポプレックス群は、免疫抗がんに関連するサイトカインの分泌を有効に促進することができる。
【0079】
実施例5:リポプレックスの生体内における免疫抗がん効果の評価
【0080】
マウス大腸がん細胞株CT26(ATCCより購入)を、10%ウシ胎児血清(FBS)を添加したRPMI 1640培地(Thermo Fisher Scientificより購入)中で培養し、37℃、5%COの培養器に入れた。細胞数2×10のCT26細胞株を、5~8週齢のマウス(メスBALB/cマウス、楽斯科生物科技社より購入)の右背部皮下に接種し、平均腫瘍体積が100~200mmとなったときに、下記のようにグループ分けして投薬を行った:コントロール群、抗PD-1抗体群、CpG-ODN群、リポプレックス群(BIW)、抗PD-1抗体+CpG-ODN群、抗PD-1抗体+リポプレックス群(QW)、抗PD-1抗体+リポプレックス群(BIW)。
【0081】
コントロール群は、週に2回生理食塩水を静脈注射し、注射体積は100μLとし;抗PD-1抗体群は、抗マウスPD-1抗体(Bio X Cellより購入、型番BE0146)を用い、週に2回腹腔注射し、注射用量は250μg、注射体積は100μLとし;CpG-ODN群は、CpG-7909を用い、週に2回静脈注射し、注射用量は50μg、注射体積は100μLとし;リポプレックス群(BIW)は、配合組成C1のリポプレックスを用い、週に2回静脈注射し、注射用量は50μg、注射体積は100μLとし;抗PD-1抗体+CpG-ODN群は、抗マウスPD-1抗体およびCpG-7909を併用し、抗PD-1抗体は週に2回腹腔注射し、注射用量は250μg、体積は100μLとし、CpG-7909は週に2回静脈注射し、注射用量は50μg、体積は100μLとし;抗PD-1抗体+リポプレックス群(QW)は、抗マウスPD-1抗体および配合組成C1のリポプレックスを併用し、抗PD-1抗体は週に2回腹腔注射し、注射用量は250μg、体積は100μLとし、リポプレックスは週に1回静脈注射し、注射用量は50μg、体積は100μLとし;抗PD-1抗体+リポプレックス群(BIW)は、抗マウスPD-1抗体および配合組成C1のリポプレックスを併用し、抗PD-1抗体は週に2回腹腔注射し、注射用量は250μg、体積は100μLとし、リポプレックスは週に2回静脈注射し、注射用量は50μg、体積は100μLとした。薬剤投与の期間は14日とし、各群につきそれぞれ6匹のマウスを使用して実験を行い(n=6)、腫瘍体積を週に2回測定した。結果は図5に示されるとおりである。また、下式(A)により腫瘍増殖抑制率(tumor growth inhibition value,TGI)を算出することができる。
(1-[(Tn)/(Cn)])×100%…式(A)
式中、Tnはn日目の処理群の腫瘍体積であり、Cnはn日目のコントロール群の腫瘍体積である。
【0082】
【表6】
【0083】
図5および表6に示されるように、実験結果より、抗PD-1抗体およびリポプレックスを併用した抗PD-1抗体+リポプレックス群(QW)ならびに抗PD-1抗体+リポプレックス群(BIW)は、同用量のときに相乗効果を発揮することができ、より優れた腫瘍増殖抑制効果(TGI)を奏し、かつ投薬の頻度が週に1回(QW)と週に2回(BIW)とで薬効に有意な差はなかった。
【0084】
実施例6:リポプレックスの生体内における免疫抗がん効果の評価
【0085】
実施例6では、異なる配合組成のリポプレックス(異なる組成比)および投薬用量減少の免疫抗がん効果に対する影響を評価した。実施例5と同じ方法を用い、細胞数2×10のCT26細胞株を、5~8週齢のマウス(メスBALB/cマウス、楽斯科生物科技社より購入)の右背部皮下に接種し、平均腫瘍体積が100~200mmとなったときに、下記のようにグループ分けして投薬を行った:コントロール群、抗PD-1抗体+リポプレックス群-1、抗PD-1抗体+リポプレックス群-2、抗PD-1抗体+リポプレックス群-3。
【0086】
コントロール群は、週に2回生理食塩水を静脈注射し、注射体積は100μLとし;抗PD-1抗体+リポプレックス群-1は、抗マウスPD-1抗体および配合組成C10のリポプレックスを併用し、抗PD-1抗体は週に2回腹腔注射し、注射用量は250μg、体積は100μLとし、リポプレックスは、週に1回静脈注射し、注射用量は15μg、体積は100μLとし;抗PD-1抗体+リポプレックス群-2は、抗マウスPD-1抗体および配合組成C9のリポプレックスを併用し、抗PD-1抗体は週に2回腹腔注射し、注射用量は250μg、体積は100μLとし、リポプレックスは週に1回静脈注射し、注射用量は15μg、体積は100μLとし;抗PD-1抗体+リポプレックス群-3は、抗マウスPD-1抗体および配合組成C8のリポプレックスを併用し、抗PD-1抗体は週に2回腹腔注射し、注射用量は250μg、体積は100μLとし、リポプレックスは週に1回静脈注射し、注射用量は15μg、体積は100μLとした。薬剤投与の期間は14日とし、各群につきそれぞれ8匹のマウスを使用して実験を行い(n=8)、腫瘍体積を週に2回測定した。結果は図6に示されるとおりである。また、各群の腫瘍増殖抑制率を算出した。結果は表7に示されるとおりである。
【0087】
【表7】
【0088】
図6および表7に示されるように、実験結果より、抗PD-1抗体および異なる配合組成を併用するリポプレックスの抗PD-1抗体+リポプレックス群-1~3は、いずれも優れた腫瘍増殖抑制効果(TGI)を有しており、3つの群の配合組成の異なるリポプレックスの薬効に有意な差は無いことが分かった。さらに、抗PD-1抗体との併用時に、全投薬用量を減らしても腫瘍増殖抑制効果には影響しないが、投薬用量の低下によって、元の活性成分により生じる副作用の懸念が低減され得るという点に注目されたい。
【0089】
比較例1:リポプレックスの生体内における免疫抗がん効果の評価
【0090】
比較例1では、異なる配合組成のリポプレックス(異なる組成比)および投薬用量減少の免疫抗がん効果に対する影響を評価した。実施例5と同じ方法を用い、細胞数2×10のCT26細胞株を、5~8週齢のマウス(メスBALB/cマウス、楽斯科生物科技社より購入)の右背部皮下に接種し、平均腫瘍体積が100~200mmとなったときに、下記のようにグループ分けして投薬を行った:コントロール群、抗PD-1抗体群、抗PD-1抗体+リポプレックス群。
【0091】
コントロール群は週に2回生理食塩水を静脈注射し、注射体積は100μLとし;抗PD-1抗体群は、抗マウスPD-1抗体(Bio X Cellより購入、型番BE0146)を用い、週に2回腹腔注射し、注射用量は250μg、注射体積は100μLとし;抗PD-1抗体+リポプレックス群は、抗マウスPD-1抗体および配合組成E2のリポプレックスを併用し、抗PD-1抗体は週に2回腹腔注射し、注射用量は250μg、体積は100μLとし、リポプレックスは週に1回静脈注射し、注射用量は15μgとした。薬剤投与の期間は24日とし、各群につきそれぞれ8匹のマウスを使用して実験を行い(n=8)、腫瘍体積を週に2回測定した。結果は図7に示されるとおりである。また、各群の腫瘍増殖抑制率を算出した。結果は表8に示されるとおりである。
【0092】
【表8】
【0093】
図7および表8に示されるように、実験結果より、抗PD-1抗体を単独使用した抗PD-1抗体群と比べて、抗PD-1抗体およびリポプレックスを併用した抗PD-1抗体+リポプレックス群は、統計データ的に有意な差がないことが分かった。このことから分かるように、特定範囲内の組成比を有するリポプレックスでなければ、免疫抗がんの効果を有効に発揮することはできない。
【0094】
実施例7:リポプレックスの生体内における免疫抗がん効果の評価
【0095】
実施例7では、異なる配合組成のリポプレックス(異なるタイプのPEG脂質)の免疫抗がん効果に対する影響を評価した。実施例5と同じ方法を用い、細胞数2×10のCT26細胞株を、5~8週齢のマウス(メスBALB/cマウス、楽斯科生物科技社より購入)の右背部皮下に接種し、平均腫瘍体積が100~200mmとなったときに、下記のようにグループ分けして投薬を行った:コントロール群、抗PD-1抗体+リポプレックス群-1、抗PD-1抗体+リポプレックス群-2。
【0096】
コントロール群は週に2回生理食塩水を静脈注射し、注射体積は100μLとし;抗PD-1抗体+リポプレックス群-1は、抗マウスPD-1抗体および配合組成C8のリポプレックスを併用し、抗PD-1抗体は週に2回腹腔注射、注射用量は250μg、体積は100μLとし、リポプレックスは週に1回静脈注射、注射用量は15μg、体積は100μLとし;抗PD-1抗体+リポプレックス群-2は、抗マウスPD-1抗体および配合組成C14のリポプレックスを併用し、抗PD-1抗体は週に2回腹腔注射、注射用量は250μg、体積は100μLとし、リポプレックスは週に1回静脈注射、注射用量は15μg、体積は100μLとした。薬剤投与の期間は14日とし、各群につきそれぞれ8匹のマウスを使用して実験を行い(n=8)、腫瘍体積を週に2回測定した。結果は図8に示されるとおりである。また、各群の腫瘍増殖抑制率を算出した。結果は表9に示されるとおりである。
【0097】
【表9】
【0098】
図8および表9に示されるように、実験結果より、CT26細胞株の同種組織腫瘍モデルにおいて、抗PD-1抗体および異なる配合組成のリポプレックス(異なるタイプのPEG脂質)を併用した抗PD-1抗体+リポプレックス群-1~2はいずれも優れた腫瘍増殖抑制効果(TGI)を有することが示され、DSPE-PEG-2KおよびDMG-PEG-2Kの異なる配合組成を用いたリポプレックスの薬効に有意な差は無かった。
【0099】
実施例8:リポプレックスの生体内における免疫抗がん効果の評価
【0100】
実施例8では、異なる配合組成のリポプレックス(分子量が異なるPEG)の免疫抗がん効果に対する影響を評価した。実施例5と同じ方法を用い、細胞数2×10のCT26細胞株を、5~8週齢のマウス(メスBALB/cマウス、楽斯科生物科技社より購入)の右背部皮下に接種し、平均腫瘍体積が100~200mmとなったときに、下記のとおりにグループ分けして投薬を行った:コントロール群、抗PD-1抗体+リポプレックス群-1、抗PD-1抗体+リポプレックス群-2。
【0101】
コントロール群は週に2回生理食塩水を静脈注射し、注射体積は100μLとし;抗PD-1抗体+リポプレックス群-1は、抗マウスPD-1抗体および配合組成C11のリポプレックスを併用し、抗PD-1抗体は週に2回腹腔注射、注射用量は250μg、体積は100μLとし、リポプレックスは週に1回静脈注射、注射用量は15μg、体積は100μLとし;抗PD-1抗体+リポプレックス群-2は、抗マウスPD-1抗体および配合組成C13のリポプレックスを併用し、抗PD-1抗体は週に2回腹腔注射、注射用量は250μg、体積は100μLとし、リポプレックスは週に1回静脈注射、注射用量は15μg、体積は100μLとした。薬剤投与の期間は14日とし、各群につきそれぞれ8匹のマウスを使用して実験を行い(n=8)、腫瘍体積を週に2回測定した。結果は図9に示されるとおりである。また、各群の腫瘍増殖抑制率を算出した。結果は表10に示されるとおりである。
【0102】
【表10】
【0103】
図9および表10に示されるように、実験結果より、CT26細胞株の同種組織腫瘍モデルにおいて、抗PD-1抗体および異なる配合組成のリポプレックス(分子量の異なるPEG、つまり長さの異なるPEG分子)を併用した抗PD-1抗体+リポプレックス群-1~2はいずれも優れた腫瘍増殖抑制効果(TGI)を有することが示され、DSPE-PEG-1KおよびDSPE-PEG-10Kの異なる配合組成を用いたリポプレックスの薬効に有意な差は無かった。
【0104】
実施例9:リポプレックスの生体内における免疫抗がん効果の評価
【0105】
実施例9では、リポプレックスの腫瘍に対する特異性および記憶性を評価した。マウス大腸がん細胞株CT26(ATCCより購入)を、10%ウシ胎児血清(FBS)を添加したRPMI 1640培地(Thermo Fisher Scientificより購入)中で培養し、また、マウス乳がん由来細胞株4T1(ATCCより購入)を、10%ウシ胎児血清(FBS)を添加したRPMI 1640培地中で培養し、それらを37℃、5%COの培養器に入れた。次いで、細胞数2×10のCT26細胞株を、5~8週齢のマウス(メスBALB/cマウス、楽斯科生物科技社より購入)の右背部皮下に接種し、平均腫瘍体積が100~200mmとなったときに、下記のとおりにグループ分けして投薬を行った:抗PD-1抗体+リポプレックス群-1、抗PD-1抗体+リポプレックス群-2。
【0106】
抗PD-1抗体+リポプレックス-1~2は、2匹のマウスにそれぞれ抗マウスPD-1抗体および配合組成C1のリポプレックスを併用し、抗PD-1抗体は週に2回腹腔注射、注射用量は250μg、体積は100μLとし、リポプレックスは、週に2回静脈注射、注射用量は50μg、体積は100μLとした。薬剤投与の期間は14日(11~25日目)とし、各群につきそれぞれ2匹のマウスを使用して実験を行い(n=2)、腫瘍体積を週に1~2回測定した。また、81日目にCT26細胞株を完全寛解したマウスおよび正常マウス(コントロール群とした。n=5)に再接種し、かつ117日目に4T1細胞を完全寛解マウスに接種した(n=2)。
【0107】
図10に示されるように、実験結果から、抗PD-1抗体およびリポプレックスを併用した抗PD-1抗体+リポプレックス-1~2の投薬後、腫瘍が完全寛解され、かつ腫瘍完全寛解(tumor-free)となったマウスにマウス大腸がん細胞株CT26を再接種した後も、腫瘍が成長することは無かった(n=2)。これに対し、正常マウス(コントロール群)では、CT26細胞株接種後に腫瘍が形成された(n=5)。また、前述した完全寛解マウスに、異なる腫瘍細胞株(マウス乳がん細胞株4T1)をさらに接種したところ、腫瘍は成長し得た(n=2)。このことからわかるように、抗PD-1抗体およびリポプレックスの併用は、同種の腫瘍に対して特異的な免疫記憶を有し、臨床応用において腫瘍再発の確率を有効に低減させることができる。
【0108】
実施例10:リポプレックスのTLR9活性化能力の評価
【0109】
実施例10では、異なるタイプのCpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG-ODN)を担持したリポプレックスのTLR9活性化能力に対する影響を評価した。実施例10の実験方法は実施例2とほぼと同じようであるが、実施例10ではマウスTLR9を発現するHEK-Blue(登録商標)mTLR9細胞株(InvivoGenより購入、製品番号hkb-mtlr9)を用いて配合組成C20のリポプレックス(リポプレックス群)およびCpG-30-PS単独(CpG-ODN群)のTLR9活性化能力を評価した。
【0110】
図11に示されるように、実験結果より、CpG-ODN群のEC50値はおよそ419nMであり、リポプレックス群のEC50値はおよそ9nMであることが示された。単独使用のCpGオリゴデオキシヌクレオチドに比べ、異なるタイプのCpGオリゴデオキシヌクレオチドを担持したリポプレックスは、TLR9活性化能力を大幅に高めることもできた(EC50が約45倍向上)。
【0111】
実施例11:リポプレックスのサイトカイン活性化能力の評価
【0112】
実施例11では、異なるタイプのCpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG-ODN)を担持したリポプレックスのTLR9活性化能力に対する影響を評価した。実施例11の実験方法は実施例4とほぼと同じようであるが、実施例11で用いたサンプルはCpG-30-PS(CpG-ODN群)および配合組成C20のリポプレックス(リポプレックス群)とした。
【0113】
図12A~12Bに示されるように、実験結果より、リポプレックス群は低濃度(例えば約10nM)のときでもヒトPBMC細胞のIL-6、IFN-γ産生を促進することができており、活性化能力がCpG-30-PS単独(CpG-ODN群)よりも強いことが示された。よって、異なるタイプのCpGオリゴデオキシヌクレオチドを担持したリポプレックスは、免疫抗がんに関連するサイトカイン分泌を有効に促進することもできる。
【0114】
実施例12:リポプレックスの安全性評価
【0115】
実施例12により、リポプレックスのPEG脂質の含量および免疫刺激核酸医薬の含量の、配合組成の安全性に対する影響を評価した。BALB/cマウス(楽斯科生物科技社より購入)を用いて反復投与毒性試験を行った。週に1回静脈投与し、投薬期間は14日間とした。試験の過程でマウスの体重を量り、臨床観察を行った。実験は下記のとおりにグループ分けして投薬を行った:ブランクコントロール群、リポプレックス群-1、リポプレックス群-2、リポプレックス群-3、リポプレックス群-4。
【0116】
コントロール群は週に1回生理食塩水を静脈注射し、注射体積は100μLとし;リポプレックス群-1は配合組成C15を用い、注射用量は50μg、注射体積は100μLとし;リポプレックス群-2は配合組成C2を用い、注射用量は50μg、注射体積は100μLとし;リポプレックス群-3は、配合組成C9を用い、注射用量は15μg、注射体積は100μLとし;リポプレックス群-4は、配合組成C9を用い、注射用量は5μg、注射体積は100μLとした。投薬期間は11日間とし、各群につきそれぞれ5匹のマウスを用いて実験を行った(n=5)。結果は13A~13Bに示されるとおりである。
【0117】
図13A~13Bに示されるように、リポプレックス群-1では、投薬2日目に体重が約14%減り、かつ2匹のマウスが死亡した。残りのマウスを犠牲死させ、剖検・採取したところ、肺実質、胸水、肝小葉隔壁が明らかであることがわかり、一部のマウスは摂餌しない等の有害反応が見られた。このことからわかるように、リポプレックス配合組成中のPEG脂質の含量は、安全性において非常に大きく影響するため、リポプレックスの組成にはPEG脂質が含まれている必要がある。
【0118】
上に述べたように、本開示の実施形態が提供する新規核酸医薬複合体は、CpGオリゴヌクレオチド配列と抗PD-L1アプタマーとを結合させたものであり、腫瘍標的指向性および免疫チェックポイント阻害活性を備え、核酸医薬複合体の腫瘍への集積、および腫瘍微小環境の免疫細胞障害効果を増加させることができ、かつ多種の免疫細胞を刺激して活性化させる能力を備えており、腫瘍微小環境の免疫細胞活性化および凝集を増加させることができる。また、本開示の実施形態が提供する核酸医薬複合体は、CpGオリゴヌクレオチドと抗PD-L1アプタマーとを単純に組み合わせて用いるよりも、抗腫瘍の薬効に優れる。
【0119】
上に述べたように、本開示の実施形態が提供する免疫刺激性リポプレックスは、特定の組成を有するリポソーム、およびリポソームと複合化された免疫刺激核酸医薬を含み、全身性投与の方式により投与されてよい。リポプレックスは、免疫刺激核酸医薬の低い安定性、および不十分な組織暴露量の問題を改善することができ、薬剤の特異的免疫賦活作用を高め、単回用量の薬剤の作用時間を延長させることもでき、薬剤により引き起こされる全身性免疫副作用を低減させ得る。さらに、本開示のいくつかの実施形態によれば、免疫刺激性リポプレックスを現行の免疫チェックポイント阻害剤と併用すれば、相乗効果を発揮して、がん免疫療法の治療効果をより一層高めることができる。
【0120】
本開示の実施形態およびその利点を上のように開示したが、当該技術分野において通常の知識を有する者は、本開示の精神および範囲を逸脱しない限りにおいて、当然に変更、置換および修飾することができるという点が理解されなければならない。さらに、各請求項は個別の実施形態をそれぞれ構成し、かつ本開示の保護範囲には各請求項および実施形態の組み合わせも含まれる。本開示の保護範囲は、添付の特許請求の範囲で定義されたものが基準となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
2022104889000001.app
【外国語明細書】