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  • 特開-ポリエステル系シーラントフィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104928
(43)【公開日】2022-07-12
(54)【発明の名称】ポリエステル系シーラントフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220705BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20220705BHJP
   B65D 65/02 20060101ALN20220705BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B27/36
B65D65/02 E
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046741
(22)【出願日】2022-03-23
(62)【分割の表示】P 2018505903の分割
【原出願日】2017-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2016055076
(32)【優先日】2016-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石丸 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】春田 雅幸
(57)【要約】
【課題】高いヒートシール強度を有するのみならず、種々の有機化合物を吸着しにくく、加熱時に収縮が少なく、引張強度の高いシーラント用途に好適なポリエステル系フィルムを提供すること。また、前記のポリエステル系フィルムを少なくとも一層として含む積層体、及びそれを用いた包装袋を提供すること。
【解決手段】エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で形成され、少なくとも1層のヒートシール層を有し、所定のヒートシール強度、温度変調DSCから測定される所定の可逆熱容量差、及び熱収縮率を有するポリエステル系フィルム。また、前記のポリエステル系フィルムを少なくとも一層として含む積層体、及びそれを用いた包装袋
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で形成され、下記要件(1)~(5)を満たすことを特徴とするポリエステル系シーラントフィルム。
(1)少なくとも一層のヒートシール層を有し、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層に該ヒートシール層を有する。
(2)ポリエステル系フィルムのヒートシール層同士を160℃、0.2MPa、2秒間でヒートシールした後の剥離強度が4N/15mm以上25N/15mm以下である。
(3)温度変調DSCから測定されるポリエステル系フィルムのヒートシール層のガラス転移温度前後の可逆熱容量差が、0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下である。
(4)80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下である。
(5)タテ、ヨコ両方向の引張破壊強度がいずれも、100MPa以上300MPa以下である。
【請求項2】
ポリエステル系フィルムを構成するポリエステル成分中に、ネオペンチルグリコール、1,4―シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸、及びジエチレングリコールからなる群より選択されてなる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系シーラントフィルム。
【請求項3】
ポリエステル系フィルムを構成するポリエステル成分中に、1,4-ブタンジオールを含むことを特徴とする請求項1、2いずれかに記載のポリエステル系シーラントフィルム。
【請求項4】
フィルムの厚みが5~200μmであることを特徴とする請求項1~3いずれかに記載のポリエステル系シーラントフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシール強度に優れたポリエステル系フィルム、ならびにそれを用いた積層体、包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品、医薬品および工業製品に代表される流通物品の多くの包装材として、シーラントフィルムが用いられている。包装袋や蓋材等を構成する包装材の最内層には、高いシール強度を示すポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂や、アイオノマー、EMMA等のコポリマー樹脂からなるシーラント層が設けられている。これらの樹脂は、ヒートシールにより高い密着強度を達成することができることが知られている。
しかし特許文献1に記されているようなポリオレフィン系樹脂からなる無延伸のシーラントフィルムは、油脂や香料等の有機化合物からなる成分を吸着しやすいため、シーラントフィルムを最内層、すなわち内容物と接する層としている包装材は内容物の香りや味覚を変化させやすいという欠点を持っている。化成品、医薬品、食品等の包装袋の最内層としてポリオレフィン系樹脂からなるシーラント層を使用する場合、あらかじめ内容物の有効成分を多めに含ませる等の対策が必要であるため、使用に適さないケースが多い。
【0003】
一方、特許文献2に記されているようなアクリロニトリル系樹脂からなるシーラントフィルムは、化成品、医薬品、食品等に含まれる有機化合物を吸着しにくい特徴がある。しかし、アクリロニトリル系フィルムは、良好なシール強度が得られない場合がある。
このような問題に鑑みて、特許文献3には有機化合物の非吸着性をもったシーラント用途のポリエステル系フィルムが開示されている。しかし、例えば特許文献3の実施例1のフィルムをシーラントとして使用し、真夏の車内(約80℃)といった高温環境下に放置すると、シーラントが収縮することによって元の形状を保てないという問題があった。
また、フィルムの収縮性を抑えるため、無延伸のポリエステル系フィルムをシーラントフィルムとして用いる試みもある。しかし、無延伸のポリエステル系フィルムは引張強度が低いため、ヒートシールや印刷等の加工を行う場合、機械からの張力にフィルムが耐えられず、変形、破断してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-256116号公報
【特許文献2】特開平7-132946号公報
【特許文献3】国際公開第2014/175313号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】R. Androsch, B. Wunderlich, Polym., 46, 12556-12566 (2005)
【非特許文献2】C. Lixon, N. Delpouve, A. Saiter, E. Dargent, Y. Grohens, Eur. Polym. J., 44, 3377-3384 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解消することを目的とするものである。すなわち、高いヒートシール強度を有するのみならず、種々の有機化合物を吸着しにくく、加熱時に収縮が少なく、引張強度の高いシーラント用途に好適なポリエステル系フィルムを提供することが本発明の要旨である。また、本発明は、前記のシーラント用途に好適なポリエステル系フィルムを少なくとも一層として含む積層体、及びそれを用いた包装袋を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成よりなる。
1.エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で形成され、下記要件(1)~(5)を満たすことを特徴とするポリエステル系フィルム。
(1)少なくとも一層のヒートシール層を有し、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層に該ヒートシール層を有する。
(2)ポリエステル系フィルムのヒートシール層同士を160℃、0.2MPa、2秒間でヒートシールした後の剥離強度が4N/15mm以上25N/15mm以下である。
(3)温度変調DSCから測定されるポリエステル系フィルムのヒートシール層のガラス転移温度前後の可逆熱容量差が、0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下である。
(4)80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下である。
(5)タテ、ヨコいずれか一方向の引張破壊強度が80MPa以上300MPa以下である。
2.ポリエステル系フィルムを構成するポリエステル成分中に、ネオペンチルグリコール、1,4―シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸、及びジエチレングリコールからなる群より選択されてなる少なくとも1種を含むことを特徴とする1.に記載のポリエステル系フィルム。
3.ポリエステル系フィルムを構成するポリエステル成分中に、1,4-ブタンジオールを含むことを特徴とする1.、2.いずれかに記載のポリエステル系フィルム。
4.フィルムの厚みが5~200μmであることを特徴とする1.~3.いずれかに記載のポリエステル系フィルム。
5.前記1.~4.に記載のポリエステル系フィルムを少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋。
6.前記1.~4.に記載のポリエステル系フィルムを少なくとも1層として有していることを特徴とする積層体。
7.前記6.に記載の積層体を少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリエステル系フィルムは、高いヒートシール強度を示すのみならず、種々の有機化合物を吸着しにくいため、化成品、医薬品、食品といった油分や香料を含む物品を衛生的に包装することができる。さらに、フィルムを加熱したときの収縮が少ないため、高温環境下でも収縮が少ない。また、前記のポリエステル系フィルムを加工しても破断等の問題が発生しにくい。さらに、前記のポリエステル系フィルムを少なくとも一層として含む積層体と、それを用いた包装袋を提供できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1のヒートシール層(フィルム1)と比較例1のヒートシール層(フィルム3)について、温度変調DSCで測定した可逆熱容量曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリエステル系フィルムは、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で形成され、下記要件(1)~(4)を満たすことを特徴とするポリエステル系フィルムである。
(1)少なくとも一層のヒートシール層を有し、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層に該ヒートシール層を有する。
(2)ポリエステル系フィルムのヒートシール層同士を160℃、0.2MPa、2秒間でヒートシールした後の剥離強度が4N/15mm以上25N/15mm以下である。
(3)温度変調DSCから測定されるポリエステル系フィルムのヒートシール層のガラス転移温度前後の可逆熱容量差が、0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下である。
(4)80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも-10%以上10%以下である。
(5)引張破壊強度が80MPa以上300MPa以下である。
【0011】
前記の要件を満たす、本発明のポリエステル系フィルムは、ヒートシール性に優れたポリエステル系フィルムであり、シーラント用途に好適である。また、種々の有機化合物を吸着し難いので、包装袋として適したシーラント材を提供できる。さらに、フィルムを加熱したときの収縮が少ないため、高温環境下でもその形状を保つことができる。加えて、本発明のポリエステル系フィルムは引張強度が高いため、加工性が良好である。
特に、前記のヒートシール性と低収縮性及び、ヒートシール性と高い引張強度はそれぞれ2律背反の特性であり、これらの特性を全て満足できるポリエステル系フィルムは従来にはなかった。以下、本発明のポリエステル系フィルムについて説明する。
【0012】
1.ヒートシール層を構成するポリエステル原料の種類
本発明のヒートシール層に用いるポリエステルは、エチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とするものである。
また、本発明に用いるポリエステルにエチレンテレフタレートユニット以外の成分として、非晶成分となりうる1種以上のモノマー成分(以下、単に非晶成分と記載する)を含むことが好ましい。これは、非晶成分の存在により、後述する可逆熱容量差が、延伸や熱固定といった製膜工程中でも低下しにくくなり、ヒートシール強度が向上するためである。非晶成分となりうるカルボン酸成分のモノマーとしては、例えばイソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
また、非晶成分となりうるジオール成分のモノマーとしては、例えばネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、2,2-ジエチル1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオールを挙げることができる。
これらの非晶性カルボン酸成分、ジオール成分のうち、イソフタル酸、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコールを用いることが好ましい。これらの成分を用いることで、フィルムの可逆熱容量差を高めてヒートシール強度を向上させやすくなる。
本発明においては、エチレンテレフタレートや非晶成分以外の成分を含んでいてもよい。ポリエステルを構成するジカルボン酸成分としては、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。ただし、3価以上の多価カルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物等)はポリエステル中に含有させないことが好ましい。
また、上記以外でポリエステルを構成する成分としては、1,4-ブタンジオール等の長鎖ジオール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。この中でも1,4-ブタンジオールを含有することが好ましい。さらに、ポリエステルを構成する成分として、ε-カプロラクトンやテトラメチレングリコールなどを含むポリエステルエラストマーを含んでいてもよい。これらの成分は、フィルムの可逆熱容量差を高めるだけでなく、フィルムの融点を下げる効果があるため、ヒートシール層の成分として好ましい。ただし、ポリエステルには炭素数8個以上のジオール(例えば、オクタンジオール等)、または3価以上の多価アルコール(例えば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ジグリセリンなど)はフィルムの強度を著しく下げてしまうため、含有させないことが好ましい。
【0013】
本発明のポリエステル系フィルムの中には、必要に応じて各種の添加剤、例えば、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤などを添加することができる。また、フィルムのすべり性を良好にする滑剤としての微粒子を、少なくともフィルムの表層に添加することが好ましい。微粒子としては、任意のものを選択することができる。例えば、無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウムなどをあげることができ、有機系微粒子としては、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子などを挙げることができる。微粒子の平均粒径は、コールターカウンタにて測定したときに0.05~3.0μmの範囲内で必要に応じて適宜選択することができる。
本発明のポリエステル系フィルムの中に粒子を配合する方法として、例えば、ポリエステル系樹脂を製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコールなどに分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールや水、そのほかの溶媒に分散させた粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法や、乾燥させた粒子とポリエステル系樹脂原料とを混練押出し機を用いてブレンドする方法なども挙げられる。
【0014】
2.ポリエステル系フィルムの層構成
本発明のポリエステル系フィルムは、上述のヒートシール層を少なくとも一層含んで、かつフィルム面のどちらか表層にヒートシール層を有することが必要である。本発明のポリエステル系フィルムは、ヒートシール層だけの単層であっても構わないし、2層以上の積層構成であってもよい。フィルムを積層構成とする場合は、ヒートシール層がフィルム面の少なくともどちらか一方の表層になければならない。フィルムの積層は、マルチマニホールドTダイやインフレーション法による共押出しや、ウェットまたはドライラミネート、ホットメルトによる接着等、公知の方法を用いることができる。ヒートシール層は無延伸、一軸延伸、二軸延伸のいずれであっても構わないが、強度の観点からは少なくとも一方向に延伸されていること(一軸延伸)が好ましく、ニ軸延伸であることがより好ましい。ニ軸延伸の場合の好適な製造方法は後述する。
ヒートシール層以外の層に用いる原料種は、ヒートシール層と同じポリエステルを用いることが可能である。例えば、前述のヒートシール層に好適な構成成分からなるポリエステルを使用し、ヒートシール層とは異なる組成のポリエステル層を設けることができる。ヒートシール層以外の層に用いるポリエステル原料は、非晶成分量が25モル%以下であることが好ましい。ヒートシール層以外の層の非晶成分量が25モル%より多い場合、フィルムの機械強度や耐熱性が低くなってしまう。
また、ヒートシール層以外の層は無延伸、一軸延伸、二軸延伸のいずれであっても構わないが、強度の観点からは少なくとも一方向に延伸されていること(一軸延伸)が好ましく、ニ軸延伸であることがより好ましい。ニ軸延伸の場合の好適な製造方法は後述する。
さらに、本発明のポリエステル系フィルムは、ヒートシール層、それ以外の層に関わらず、フィルム表面の接着性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理などを施した層を設けることも可能であり、本発明の要件を逸しない範囲で任意に設けることができる。
【0015】
3.ポリエステル系フィルムの特性
次に、本発明のポリエステル系フィルムをシーラントとして使用するために必要な特性を説明する。
3.1.ヒートシール強度
まず、本発明のポリエステル系フィルムは、ヒートシール層同士を温度160℃、シールバー圧力0.2MPa、シール時間2秒でヒートシールした際のヒートシール強度が4N/15mm以上25N/15mm以下であることが好ましい。
ヒートシール強度が4N/15mm未満であると、シール部分が容易に剥離されるため、包装袋として用いることができない。ヒートシール強度は5N/15mm以上が好ましく、6N/15mm以上がより好ましい。ヒートシール強度は大きいことが好ましいが、現状得られる上限は25N/15mm程度である。
3.2.可逆熱容量差
本発明のポリエステル系フィルムのヒートシール層は、温度変調DSCによるヒートオンリーモードで測定したガラス転移温度(Tg)前後の可動非晶量の指標となる可逆熱容量差ΔCpが0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下であることが好ましい。
以下、可動非晶の概念とヒートシール強度との関係について説明する。
ヒートシールはヒートシール層を加熱することにより軟化または融解させる、すなわち構成成分である高分子の配列を変えることで成り立つ技法である。熱によって軟化または融解を起こしやすいのは、分子鎖の拘束が弱い非晶成分との認識が一般的である。従来、フィルムを構成する高分子の高次構造は結晶相と非晶相に分かれていると考えられており、単に非晶成分量を増加させれば非晶相が増加してヒートシール強度が高くなると考えられてきた。しかしながら本発明者らが検討したところ、一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルムでは、非晶成分量を単に増やすのみでは増量分に見合ったヒートシール強度の増大が見られず、特に二軸延伸フィルムにおいてはその傾向が顕著であることが判明した。これらのことから、下記の可動非晶の量がヒートシール強度に寄与しているのではないかと考えた。
非晶相はさらにその柔軟性によって剛直非晶と可動非晶に分けられることがわかっている(例えば、非特許文献1)。可動非晶は、これら3相の中で最も柔らかい成分であり、昇温過程でTgを境にして固相から液相へ変化するため熱容量が増大する。一方、剛直非晶や結晶は、融点まで固相から相変化することはないので、Tg前後の熱容量差が可動非晶量に相当する。可動非晶量が多ければ、熱よって分子鎖が動きやすくなる、すなわち軟化しやすくなるため、ヒートシール層同士の食い込みや融着が大きくなり、結果としてヒートシール強度が高くなると考えられる。ヒートシール層の可動非晶量を所定の範囲内に制御することにより、好適なヒートシール強度を確保できることを本発明者らは見出した。
可逆熱容量差ΔCpが0.18J/g・K未満であると、ヒートシール層として必要な可動非晶量を満たすことができず、ヒートシール強度が4N/15mmを下回ってしまう。一方、ヒートシール層の可逆熱容量差ΔCpは高いほどヒートシール強度が向上して好ましい。
ただし、ヒートシール層のΔCpが高くなりすぎると、耐熱性が低くなり、ヒートシール時にシール部の周囲がブロッキングしてしまう(加熱用部材からの熱伝導によってい、意図した範囲よりも広い範囲でシールされてしまう現象)ため、適切なヒートシールが困難となる。好ましい可逆熱容量差ΔCpの上限は0.4J/g・Kである。
【0016】
3.3.収縮率
本発明のポリエステル系フィルムは、80℃の温湯中に10秒間に亘って処理した場合における幅方向、長手方向の温湯熱収縮率がいずれも0%以上15%以下でなくてはならない。
収縮率が15%を超えると、フィルムをヒートシールしたときに収縮が大きくなり、シール後の平面性が悪化してしまう。温湯熱収縮率の上限は14%以下であるとより好ましく、13%以下であるとさらに好ましい。一方、温湯熱収縮率がゼロを下回る場合、フィルムが伸びることを意味しており、収縮率が高い場合と同様にフィルムが元の形状を維持できにくくなるため好ましくない。
3.4.フィルム厚み
本発明のポリエステル系フィルムの厚みは特に限定されないが、3μm以上200μm以下が好ましい。フィルムの厚みが3μmより薄いとヒートシール強度の不足や印刷等の加工が困難になるおそれがありあまり好ましくない。またフィルム厚みが200μmより厚くても構わないが、フィルムの使用重量が増えてケミカルコストが高くなるので好ましくない。フィルムの厚みは5μm以上160μm以下であるとより好ましく、7μm以上120μm以下であるとさらに好ましい。
【0017】
3.5.長手方向の厚みムラ
本発明のポリエステル系フィルムは、長手方向で測定長を10mとした場合の厚みムラが18%以下であることが好ましい。長手方向の厚みムラが18%を超える値であると、フィルムを印刷するときに印刷不良が発生しやすくなるので好ましくない。なお、長手方向の厚みムラは、16%以下であるとより好ましく、14%以下であると特に好ましい。また、長手方向の厚みムラは小さいほど好ましいが、この下限は製膜装置の性能から1%程度が限界であると考えている。
3.6.幅方向の厚みムラ
また、幅方向においては、測定長を1mとした場合の厚みムラが18%以下であることが好ましい。幅方向の厚み斑が18%を超える値であると、フィルムを印刷するときに印刷不良が発生しやすくなるので好ましくない。なお、幅方向の厚み斑は、16%以下であるとより好ましく、14%以下であると特に好ましい。なお、幅方向の厚みムラは0%に近いほど好ましいが、下限は製膜装置の性能と生産のしやすさから1%が妥当と考えている。
【0018】
3.7.引張破壊強度
本発明のポリエステル系フィルムは、フィルムの長手方向、幅方向少なくともいずれか一方の引張破壊強度が80MPa以上300MPa以下であることが好ましい。引張破壊強度が80MPaを下回ると、ヒートシールや印刷等の加工を行うときに変形や破断が生じやすくなるので好ましくない。引張破壊強度は、90MPa以上がより好ましく、100MPa以上がさらに好ましい。引張破壊強度は高いほどフィルムが強靭となるため好ましいが、本発明のポリエステル系フィルムでは300MPaを超えることは難しいため、上限を300MPaとしている。
【0019】
4.ポリエステル系フィルムの製造方法
4.1.共押出しによる製膜
4.1.1.溶融押し出し
本発明のポリエステル系フィルムは、上記1.「ヒートシール層を構成するポリエステル原料の種類」で記載したポリエステルを原料として用いる。本発明では、ポリエステル原料を溶融押し出しして得た未延伸フィルムをシーラント層として用いることが可能である。ただしこの場合、フィルムの強度を高めるため、上記3.「ポリエステルフィルムの層構成」に挙げた方法で、少なくとも一方向に延伸されているポリエステルフィルムと積層させることが好ましい。また、本発明では、ポリエステル原料を溶融押し出しして得た未延伸フィルムを、以下に示す所定の方法により一軸延伸または二軸延伸することによって得ることもできる。溶融押出しの時点でシーラント層以外にも層を設ける場合、各層で別々の押出機により溶融押出しを行い、未延伸の積層フィルムを得る。なお、ポリエステルは前記したように、非晶質成分となり得るモノマーを適量含有するよう、ジカルボン酸成分とジオール成分の種類と量を選定して重縮合させることで得ることができる。また、チップ状のポリエステルを2種以上混合してフィルムの原料として使用することもできる。
原料樹脂を溶融押し出しするとき、ポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのように各層のポリエステル原料を乾燥させた後、押出機を利用して200~300℃の温度で溶融して未延伸フィルムとして押し出す。押し出しはTダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
その後、押し出しで溶融された樹脂を急冷することにより、未延伸フィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金から回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。フィルムは、縦(長手)方向、横(幅)方向のいずれか、少なくとも一方向に延伸されていること、すなわち一軸延伸又は二軸延伸が好ましい。以下では、最初に縦延伸、次に横延伸を実施する縦延伸-横延伸による逐次二軸延伸法について説明するが、順番を逆にする横延伸-縦延伸であっても、主配向方向が変わるだけなので構わない。また同時二軸延伸法でも構わない。
【0020】
4.1.2.縦延伸
縦方向の延伸は、未延伸フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へと導入するとよい。縦延伸にあたっては、予熱ロールでフィルム温度が65℃~90℃になるまで予備加熱することが好ましい。フィルム温度が65℃より低いと、縦方向に延伸する際に延伸しにくくなり、破断が生じやすくなるため好ましくない。また90℃より高いとロールにフィルムが粘着しやすくなり、ロールへのフィルムの巻き付きや連続生産によるロールの汚れやすくなるため好ましくない。
フィルム温度が65℃~90℃になったら縦延伸を行う。縦延伸倍率は、1倍以上5倍以下とすると良い。1倍は縦延伸をしていないということなので、横一軸延伸フィルムを得るには縦の延伸倍率を1倍に、二軸延伸フィルムを得るには1.1倍以上の縦延伸となる。また縦延伸倍率の上限は何倍でも構わないが、あまりに高い縦延伸倍率だと横延伸しにくくなって破断が生じやすくなるので5倍以下であることが好ましい。
また、縦延伸後にフィルムを長手方向へ弛緩すること(長手方向へのリラックス)により、縦延伸で生じたフィルム長手方向の収縮率を低減することができる。さらに、長手方向へのリラックスにより、テンター内で起こるボーイング現象(歪み)を低減することができる。本発明のポリエステル系フィルムは非晶原料を使用しているため、縦延伸によって生じた長手方向への収縮性がボーイング歪みに対して支配的であると考えられる。後工程の横延伸や最終熱処理ではフィルム幅方向の両端が把持された状態で加熱されるため、フィルムの中央部だけが長手方向へ収縮するためである。長手方向へのリラックス率は0%以上70%以下(リラックス率0%はリラックスを行わないことを指す)であることが好ましい。長手方向へのリラックス率の上限は、使用する原料や縦延伸条件よって決まるため、これを超えてリラックスを実施することはできない。本発明のポリエステル系フィルムのおいては、長手方向へのリラックス率は70%が上限である。長手方向へのリラックスは、縦延伸後のフィルムを65℃~100℃以下の温度で加熱し、ロールの速度差を調整することで実施できる。加熱手段はロール、近赤外線、遠赤外線、熱風ヒータ等のいずれも用いる事ができる。また、長手方向へのリラックスは縦延伸直後でなくとも、例えば横延伸(予熱ゾーン含む)や最終熱処理でも長手方向のクリップ間隔を狭めることで実施することができ(この場合はフィルム幅方向の両端も長手方向へリラックスされるため、ボーイング歪みは減少する)、任意のタイミングで実施できる。
長手方向へのリラックス(リラックスを行わない場合は縦延伸)の後は、一旦フィルムを冷却することが好ましく、表面温度が20~40℃の冷却ロールで冷却することが好ましい。
【0021】
4.1.3.横延伸
縦延伸の後、テンター内でフィルムの幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、65℃~110℃で3.5~5倍程度の延伸倍率で横延伸を行うことが好ましい。横方向の延伸を行う前には、予備加熱を行っておくことが好ましく、予備加熱はフィルム表面温度が75℃~120℃になるまで行うとよい。
横延伸の後は、フィルムを積極的な加熱操作を実行しない中間ゾーンを通過させることが好ましい。テンターの横延伸ゾーンに対し、その次の最終熱処理ゾーンでは温度が高いため、中間ゾーンを設けないと最終熱処理ゾーンの熱(熱風そのものや輻射熱)が横延伸工程に流れ込んでしまう。この場合、横延伸ゾーンの温度が安定しないため、フィルムの厚み精度が悪化するだけでなく、ヒートシール強度や収縮率などの物性にもバラツキが生じてしまう。そこで、横延伸後のフィルムは中間ゾーンを通過させて所定の時間を経過させた後、最終熱処理を実施するのが好ましい。この中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、フィルムの走行に伴う随伴流、横延伸ゾーンや最終熱処理ゾーンからの熱風を遮断することが重要である。中間ゾーンの通過時間は、1秒~5秒程度で充分である。1秒より短いと、中間ゾーンの長さが不充分となって、熱の遮断効果が不足する。一方、中間ゾーンは長い方が好ましいが、あまりに長いと設備が大きくなってしまうので、5秒程度で充分である。
【0022】
4.1.4.最終熱処理
中間ゾーンの通過後は最終熱処理ゾーンにて、横延伸温度以上 180℃以下で熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度は横延伸温度以上でなければ熱処理としての効果を発揮しない。この場合、フィルムの80℃温湯収縮率が15%よりも高くなってしまうため好ましくない。熱処理温度が高くなるほどフィルムの収縮率は低下するが、180℃よりも高くなるとフィルムのヘイズが15%よりも高くなって透明性を保てなくなってしまうため好ましくない。
最終熱処理の際、テンターのクリップ間距離を任意の倍率で縮めること(幅方向へのリラックス)によって幅方向の収縮率を低減させることができる。そのため、最終熱処理では、0%以上10%以下の範囲で幅方向へのリラックスを行うことが好ましい(リラックス率0%はリラックスを行わないことを指す)。幅方向へのリラックス率が高いほど幅方向の収縮率は下がるものの、リラックス率(横延伸直後のフィルムの幅方向への収縮率)の上限は使用する原料や幅方向への延伸条件、熱処理温度によって決まるため、これを超えてリラックスを実施することはできない。本発明のポリエステル系フィルムにおいては、幅方向へのリラックス率は10%が上限である。
また、最終熱処理ゾーンの通過時間は2秒以上20秒以下が好ましい。通過時間が2秒以下であると、フィルムの表面温度が設定温度に到達しないまま熱処理ゾーンを通過してしまうため、熱処理の意味をなさなくなる。通過時間は長ければ長いほど熱処理の効果が上がるため、2秒以上であることが好ましく、5秒以上であることがさらに好ましい。ただし、通過時間を長くしようとすると、設備が巨大化してしまうため、実用上は20秒以下であれば充分である。
後は、フィルム両端部を裁断除去しながら巻き取れば、ポリエステル系フィルムロールが得られる。
【0023】
4.2.フィルム同士の接着
本発明のポリエステルフィルムを作製する際、上記4.1「共押出しによる製膜」で挙げたポリエステル系フィルムは、他のポリエステル系フィルムと接着させることもできる。未延伸フィルムをヒートシール層として用いるときは、少なくとも一方向に延伸しているポリエステル系フィルムと接着することが好ましい。接着方法は、上記3.「ポリエステルフィルムの層構成」に挙げた方法等が挙げられる。ドライラミネートの場合は市販のドライラミネーション用接着剤を用いることができる。代表例としては、DIC社製ディックドライ(登録商標)LX-703VL、DIC社製KR-90、三井化学社製タケネート(登録商標)A-4、三井化学社製タケラック(登録商標)A-905などである。
【実施例0024】
次に実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
フィルムの評価方法は以下の通りである。なお、フィルムの面積が小さいなどの理由で長手方向と幅方向が直ちに特定できない場合は、仮に長手方向と幅方向を定めて測定すればよく、仮に定めた長手方向と幅方向が真の方向に対して90度違っているからといって、とくに問題を生ずることはない。
【0025】
<ヒートシール層の評価方法>
[可動非晶量]
温度変調示差走査熱量計(DSC)「Q100」(TA Instruments 社製)を用いて、ヒートシール層のサンプルをハーメチックアルミニウムパン内に10.0±0.2mgで秤量し、MDSC(登録商標)ヒートオンリーモードで、平均昇温速度2.0℃/min、変調周期60秒で測定し、可逆熱容量曲線を得た。
積層フィルムからシーラント層を得る際、共押出しフィルムの場合はヒートシール層側の表層をフェザー刃で削りとった。削ったフィルムサンプルは、電子走査顕微鏡(SEM)により断面を観察し、ヒートシール層以外の層が削られていないかを確認した。ラミネートフィルムの場合、フィルムにノッチを入れて手で引き裂き、引き裂いた部分の層間剥がれ(切欠)をピンセットで剥がした。剥がしたヒートシール層は、切欠から1cm以上離れた部分をサンプリングした。
測定で得られた熱容量曲線において、付属の解析ソフト(TA Instruments社製 TA Analysis)を用いて変曲点を求め、変曲点(ガラス転移点)前後の熱容量差を下記式1にしたがって可逆熱容量差ΔCpを求めた。
可逆熱容量差ΔCp=(高温側の熱容量Cp1)―(低温側の熱容量Cp2) 式1
ここで、熱容量曲線においてTgより高温側での熱容量曲線のベースラインの延長線を引き、変曲点(Tg)における接線との交点を求め、この交点におけるY軸(可逆熱容量)の値を読み取り、高温側の熱容量Cp1とした。また、Tgより低温側での熱容量曲線のベースラインの延長線を引き、変曲点(Tg)における接線との交点を求め、この交点におけるY軸(可逆熱容量)の値を読み取り、低温側の熱容量Cp2とした。
【0026】
<フィルムの評価方法>
[ヒートシール強度]
JIS Z1707に準拠してヒートシール強度を測定した。具体的な手順を簡単に示す。ヒートシーラーにて、サンプルのコート処理やコロナ処理等を実施していないヒートシール層同士を接着した。シール条件は、上バー温度160℃、下バー温度100℃、圧力0.2MPa、時間2秒とした。接着サンプルは、シール幅が15mmとなるように切り出した。剥離強度は、万能引張試験機「DSS-100」(島津製作所製)を用いて引張速度200mm/分で測定した。剥離強度は、15mmあたりの強度(N/15mm)で示す。
【0027】
[温湯熱収縮率]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、80±0.5℃の温水中に無荷重状態で10秒間浸漬して収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から出した。その後、フィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下式2にしたがって各方向の収縮率を求めた。なお、測定は2回行い、その平均値を求めた。

収縮率={(収縮前の長さ-収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%) 式2
【0028】
[高温環境下に放置した後の外観]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断した後、同じく10cm×10cmの正方形に裁断した他の二軸延伸ポリエステル系フィルムE5100-12μm(東洋紡株式会社製)とドライラミネーション用接着剤(三井化学社製タケラック(登録商標)A-950)を用いて積層させた。この積層体を、温湿度を80℃/65%RHに設定した恒温恒湿器(ヤマト科学社製IG400)中に入れ、24時間放置した。24時間後、積層体を取り出し、上式2より求められた収縮率を算出した。なお、フィルムの方向によって収縮率が異なる場合は、より収縮した方向の収縮率を採用した。この収縮率を、高温環境下に放置した後の外観として、以下のように評価した。

判定○ 元の形状から収縮した割合が2%より少ない
判定△ 元の形状から収縮した割合が2%以上5%以下
判定× 元の形状から収縮した割合が5%より多い
【0029】
[長手方向の厚みムラ]
フィルムを長手方向11m×幅方向40mmのロール状にサンプリングし、ミクロン測定器株式会社製の連続接触式厚み計を用いて測定速度5m/min.でフィルムの長手方向に沿って連続的に厚みを測定した(測定長さは10m)。測定時の最大厚みをTmax.、最小厚みをTmin.、平均厚みをTave.とし、下式3からフィルムの長手方向の厚みムラを算出した。

厚みムラ={(Tmax.-Tmin.)/Tave.}×100 (%) ・・式3

[幅方向の厚みムラ]
フィルムを長さ40mm×幅1.2mの幅広な帯状にサンプリングし、ミクロン測定器株式会社製の連続接触式厚み計を用いて、測定速度5m/min.でフィルム試料の幅方向に沿って連続的に厚みを測定した(測定長さは1m)。測定時の最大厚みをTmax.、最小厚みをTmin.、平均厚みをTave.とし、上式3からフィルムの長手方向の厚みムラを算出した。
【0030】
[引張破壊強度]
JIS K7113に準拠し、測定方向が140mm、測定方向と直交する方向が20mmの短冊状のフィルムサンプルを作製した。万能引張試験機「DSS-100」(島津製作所製)を用いて、試験片の両端をチャックで片側20mmずつ把持(チャック間距離100mm)して、雰囲気温度23℃、引張速度200mm/minの条件にて引張試験を行い、引張破壊時の応力を引張破壊強度(MPa)とした。測定方向は、長手方向と幅方向でそれぞれ試験を行った。
【0031】
[保香性]
2枚のフィルムを10cm×10cmの正方形に裁断したあとに重ね合わせ、3辺を160℃でヒートシールして1辺のみが開いている袋を作成した。その中にリモネン(ナカライテスク株式会社製)、メントール(ナカライテスク株式会社製)をそれぞれ20g入れた後、開いている1辺もヒートシールして密封の袋を作成した。その袋を1000mlの容量のガラス容器を入れて蓋をした。1週間後に人(年齢20代4人、30代4人、40代4人、50代4人の計16人。なお男女の比率は各年代で半々となるようにした)がガラス容器の蓋を中の空気の匂いを嗅げるように開け、ガラス容器中の空気の匂いを嗅ぎ、以下のようにして判定した。

判定○ 匂いを感じた人の人数0~1人
判定△ 匂いを感じた人の人数2~3人
判定× 匂いを感じた人の人数4~16人
【0032】
[吸着性]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、フィルムの重さを測定した。次に、リモネン(ナカライテスク株式会社製)、メントール(ナカライテスク株式会社製)をそれぞれ濃度30%となるようにエタノールを加えて調製した溶液500mlを入れた容器中にフィルムを浸透させ、1週間後に取り出した。
取り出したフィルムはベンコットで押さえて溶液をとり、温度23℃・湿度60%RHの部屋で1日乾燥させた。乾燥後、フィルムの重さを測定し、下式3より求められたフィルム重さの差を吸着量とした。

吸着量= 浸透後のフィルム重さ- 浸透前のフィルム重さ・・・式3

この吸着量は以下のように判定した。

判定○ 0mg以上5mg以下
判定△ 5mgより高く、10mg以下
判定× 10mgより高い
【0033】
<ポリエステル原料の調製>
[合成例1]
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、多価アルコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%(酸成分に対して)を添加し、280℃で26.7Paの減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステル(A)を得た。このポリエステル(A)は、ポリエチレンテレフタレートである。
[合成例2]
合成例1と同様の手順でモノマーを変更したポリエステル(B)~(F)を得た。各ポリエステルの組成を表1に示す。表1において、TPAはテレフタル酸、IPAはイソフタル酸、BDは1,4-ブタンジオール、NPGはネオペンチルグリコール、CHDMは1,4-シクロヘキサンジメタノール、DEGはジエチレングリコールである。なお、ポリエステル(E)の製造の際には、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して7,000ppmの割合で添加した。各ポリエステルは、適宜チップ状にした。各ポリエステルの固有粘度は、それぞれ、B:0.78dl/g,C:0.73dl/g,D:0.73dl/g,E:0.80dl/g、F:0.75dl/gであった。
【0034】
【表1】
【0035】
以下に各フィルムの製膜方法について記載する。
(ポリエステルフィルム1の製膜)
ヒートシール層(A層)の原料として、ポリエステルAとポリエステルCとポリエステルEとポリエステルFを質量比5:66:24:5で混合した。
A層の混合原料を二軸スクリュー押出機に投入後、270℃で溶融させてTダイより吐出し、表面温度30℃に設定したチルロール上で冷却することによってA層のみの未延伸フィルムを得た。
冷却固化して得た未延伸フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が80℃になるまで予備加熱した後に4.1倍に延伸した。縦延伸直後のフィルムを熱風ヒータで90℃に設定された加熱炉へ通し、加熱炉の入口と出口のロール間の速度差を利用して、長手方向に20%リラックス処理を行った。その後、縦延伸したフィルムを、表面温度25℃に設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。
リラックス処理後のフィルムを横延伸機(テンター)に導いて表面温度が95℃になるまで5秒間の予備加熱を行った後、幅方向(横方向)に4.0倍延伸した。横延伸後のフィルムはそのまま中間ゾーンに導き、1.0秒で通過させた。なお、テンターの中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、最終熱処理ゾーンからの熱風と横延伸ゾーンからの熱風を遮断した。
その後、中間ゾーンを通過したフィルムを最終熱処理ゾーンに導き、125℃で5秒間熱処理した。このとき、熱処理を行うと同時にフィルム幅方向のクリップ間隔を狭めることにより、幅方向に3%リラックス処理を行った。最終熱処理ゾーンを通過後はフィルムを冷却し、両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ30μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。製造条件を表2に示す。
【0036】
(ポリエステルフィルム2の製膜)
A層の原料としてポリエステルAとポリエステルCとポリエステルEとポリエステルFを質量比5:78:12:5で混合し、それ以外の層(B層)の原料としてポリエステルAとポリエステルCとポリエステルEとポリエステルFを質量比5:54:36:5で混合した。
A層及びB層の混合原料はそれぞれ別々の二軸スクリュー押出機に投入し、いずれも270℃で溶融させた。それぞれの溶融樹脂は、流路の途中でフィードブロックによって接合させてTダイより吐出し、表面温度30℃に設定したチルロール上で冷却することによって未延伸の積層フィルムを得た。積層フィルムの両表層はA層、中心層はB層(A層/A層/A層の2種3層構成)となるように溶融樹脂の流路を設定し、A層とB層の厚み比率が50:50となるように吐出量を調整した。
その後、最終熱処理温度を140℃、幅方向へのリラックスを15%とした以外はポリエステルフィルム1と同様の条件でフィルムを製膜し、幅500mm、厚さ30μmの二軸延伸フィルムが得られた。製造条件を表2に示す。
【0037】
(ポリエステルフィルム3の製膜)
A層、B層ともにポリエステルフィルム2と同じ混合比率の原料を用い、実施例2と同様に溶融押し出しして未延伸の積層フィルムを得た。
その後、最終熱処理温度を100℃、幅方向へのリラックス率を0%とした以外は、全てポリエステルフィルム1と同様の条件でフィルムを製膜し、幅500mm、厚さ30μmの二軸延伸フィルムが得られた。製造条件を表2に示す。
【0038】
(ポリエステルフィルム4の製膜)
A層の原料としてポリエステルAとポリエステルCとポリエステルEとポリエステルFを質量比10:75:10:5で混合し、それ以外の層(B層)の原料としてポリエステルAとポリエステルCとポリエステルEとポリエステルFを質量比55:30:10:5で混合した。これらの原料をそれぞれ、ポリエステルフィルム2と同様に溶融押し出しして未延伸の積層フィルムを得た。
その後、縦延伸温度を90℃、横延伸温度を100℃、最終熱処理温度を115℃とした以外は、全て実施例1と同様の条件でフィルムを製膜し、幅500mm、厚さ30μmの二軸延伸フィルムが得られた。製造条件を表2に示す。
(ポリエステルフィルム5の製膜)
A層の原料としてポリエステルAとポリエステルCとポリエステルEとポリエステルFを質量比32:53:10:5で混合し、ポリエステルフィルム1と同様の方法で溶融押出ししてA層のみの未延伸フィルムを得た。
その後、ポリエステルフィルム4と同様の条件でフィルムを製膜し、幅500mm、厚さ30μmの二軸延伸フィルムが得られた。製造条件を表2に示す。
【0039】
(ポリエステルフィルム6の製膜)
A層の原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルDとポリエステルEとポリエステルFを質量比5:86:2:2:5で混合し、ポリエステルフィルム1と同様の方法で溶融押出ししてA層のみの未延伸フィルムを得た。両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ20μmの未延伸フィルムが得られた。製造条件を表2に示す。
(ポリエステルフィルム7の製膜)
A層の原料としてポリエステルCとポリエステルFを質量比95:5で混合し、後の工程はポリエステルフィルム6と同様の条件で製膜してA層のみの未延伸フィルムを得た。製造条件を表2に示す。
(ポリエステルフィルム8の製膜)
B層の原料としてポリエステルAとポリエステルFを質量比95:5で混合し、ポリエステルフィルム1と同様の方法で溶融押し出しした。その後、ポリエステルフィルム4と同じ方法で縦延伸を行い、長手方向へのリラックス処理は行わずにフィルムをテンターへ導いた。その後、横延伸温度を110℃、最終熱処理温度を220℃とした以外はポリエステル1と同様の条件で製膜して、B層のみの二軸延伸フィルムを得た。製造条件を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
〔評価フィルム〕
(実施例1)
実施例1は、ポリエステルフィルム1をヒートシール層とし、ポリエステルフィルム8をそれ以外の層として積層させて評価フィルムを作製した。2つのフィルムは、ドライラミネーション用接着剤(三井化学社製タケラック(登録商標)A-950)を用いて接着させた。得られた積層フィルムの評価結果を表3に示す。
以下、実施例3は全て参考例1と読み替える。
(実施例2~4)
実施例2~4も実施例5と同様の方法でヒートシール層とそれ以外の層を積層させた。
実施例2、3、4のヒートシール層としてポリエステルフィルム3、6、7をそれぞれ用い、それ以外の層はいずれもポリエステルフィルム8を用いた。得られた積層フィルムの評価結果を表3に示す。
(実施例5~8)
実施例5、6、7、8は、ポリエステルフィルム1、2、4、5をそれぞれ単体で用いた。各フィルムの評価結果を表3に示す。
【0042】
(比較例1~3)
比較例1、2、3は、ポリエステルフィルム3、6、8をそれぞれ単体で用いた。各フィルムの評価結果を表3に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
[フィルムの評価結果]
表3より、実施例1から4までのフィルムはいずれもヒートシール層の可逆熱容量差ΔCpが所定の範囲となり、ヒートシール強度、収縮率、厚みムラ、引張破壊強度、高温環境下に放置した後の外観、保香性、吸着性に優れており、良好な評価結果が得られた。なお、図1中のチャートに乱れがなく、Tg付近でベースラインがシフトしているので、DSCの測定が正常に行えたことが確認できた。
また、実施例5から8までのフィルムは、高温環境下に放置した後の外観が実施例1~4に対して多少劣るものの、ヒートシール強度の測定が可能であり、使用には問題のないフィルムであった。これらはいずれもヒートシール層の可逆熱容量差ΔCpが所定の範囲となり、ヒートシール強度、収縮率、厚みムラ、引張破壊強度、保香性、吸着性に優れていた。
一方、比較例1のフィルムは、ヒートシール層のΔCpを満たしており、厚みムラ、引張破壊強度、保香性、吸着性には優れるものの、収縮率が高いためヒートシール後の平面性が悪く、ヒートシール強度を測定できなかった。さらに、高温環境下に放置した後の外観も低い評価となった。
また、比較例2のフィルムもヒートシール層のΔCpを満たしており、ヒートシール強度、収縮率、厚みムラ、保香性、吸着性には優れるが、引張破壊強度が低いため、本発明の要件を満足しなかった。
比較例3のフィルムはヒートシール層のΔCpが低いため、ヒートシールしてもフィルムがすぐに剥離してしまい、ヒートシール強度はゼロとなってしまった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、ヒートシール強度に優れたポリエステル系フィルムに関するものであり、ヒートシール強度に優れているだけでなく、種々の有機化合物を吸着しにくく、加熱時に収縮が少なく、強度が高いので、シーラント用途として好適に使用できる。また、本発明のポリエステル系フィルムを少なくとも1層として他のフィルムと積層することもでき、そのような積層体から包装袋を提供することもできる。
図1