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特開2022-104951核酸およびRNAに基づく抗菌剤の効率的な送達のための方法および組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104951
(43)【公開日】2022-07-12
(54)【発明の名称】核酸およびRNAに基づく抗菌剤の効率的な送達のための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20220705BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220705BHJP
   C12N 1/06 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220705BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220705BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20220705BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20220705BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N7/01
C12N1/06
A61K35/76
A61P31/04
C12N1/21 ZNA
C12N15/54
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022054902
(22)【出願日】2022-03-30
(62)【分割の表示】P 2017559861の分割
【原出願日】2016-06-15
(31)【優先権主張番号】62/175,749
(32)【優先日】2015-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517366013
【氏名又は名称】ノース カロライナ ステート ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】NORTH CAROLINA STATE UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【弁理士】
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】ベイゼル チェイス ローレンス
(72)【発明者】
【氏名】ゴマー アフメド アブデルシャフィ マムード
(72)【発明者】
【氏名】ロウ ミシェル
(57)【要約】      (修正有)
【課題】バクテリオファージDNA及びファージミドDNAのメチル化パターンを改変するための方法、改変されたCRISPR-Casシステムの構成要素を含む溶原性バクテリオファージを用いた細菌の選択的な死滅化のための方法の提供。
【解決手段】(1)生産宿主細菌の内因性制限修飾系(R-M系)の少なくとも1つの酵素の活性を破壊するステップ、及び/又は(2)生産宿主細菌に、少なくとも1つの異種メチルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを導入するステップを含む、生産宿主細菌のメチル化活性を変更するステップ、変更されたメチル化活性を有する改変された生産宿主細菌に、バクテリオファージDNA又はファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を感染させるステップ;及び改変されたメチル化パターンを有するバクテリオファージDNA又はファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を生産するステップを含む方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAのメチル化パターンを改変する方法であって:
(1)生産宿主細菌の内因性制限修飾系(R-M系)の少なくとも1つの酵素の活性を破壊するステップ(それにより、前記の内因性R-M系の少なくとも1つの酵素の活性が破壊された、改変された生産宿主細菌を生産する)、および/または
(2)生産宿主細菌に、少なくとも1つの異種メチルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを導入するステップ(それにより、前記異種メチルトランスフェラーゼを発現する改変された生産宿主細菌を生産する);
を含む、生産宿主細菌のメチル化活性を変更するステップ、
変更されたメチル化活性を有する前記の改変された生産宿主細菌に、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を感染させるステップ(それにより、前記のバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAをメチル化する);および
改変されたメチル化パターンを有するバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を生産するステップ、
を含む、
方法。
【請求項2】
バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAのメチル化パターンを改変する方法であって:
生産宿主細菌に、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を感染させるステップ(ここで、前記生産宿主細菌は、内因性R-M系の少なくとも1つの酵素の破壊および/または少なくとも1つの異種メチルトランスフェラーゼの発現を介して変更されたメチル化活性を有し、それにより、前記のバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAをメチル化する);および
改変されたメチル化パターンを有するバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を生産するステップ、
を含む、
方法。
【請求項3】
請求項1から2のいずれか一項の方法であって、
前記生産宿主細菌の前記内因性R-M系の2以上の酵素が破壊される、
方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項の方法であって、
前記生産宿主細菌の前記内因性R-M系の前記の少なくとも1つの酵素または前記の2以上の酵素は、点突然変異、挿入、欠失、トランケーション、および/または、ポリペプチド阻害剤を介して破壊される、
方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項の方法であって、
前記生産宿主細菌は、グラム陽性またはグラム陰性細菌である、
方法。
【請求項6】
請求項5の方法であって、
前記生産宿主細菌は、Escherichia coli、Bacillus subtilis、Lactobacillus rhamnosus、Salmonella enterica、Streptococcus thermophilus、または、Staphylococcus aureusである、
方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項の方法であって、
前記バクテリオファージは、P1ファージ、M13ファージ、λファージ、T4ファージ、PhiC2ファージ、PhiCD27ファージ、PhiNM1ファージ、Bc431v3ファージ、Phi10ファージ、Phi25ファージ、Phi151ファージ、A511様ファージ、B054ファージ、01761様ファージ、または、カンピロバクターファージ、場合により、NCTC12676、または、NCTC12677である、
方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項の方法であって、
前記ファージミドは、P1ファージミド、M13ファージミド、λファージミド、T4ファージミド、PhiC2ファージミド、PhiCD27ファージミド、PhiNM1ファージミド、Bc431v3ファージミド、Phi10ファージミド、Phi25ファージミド、Phi151ファージミド、A511様ファージミド、B054ファージミド、01761様ファージミド、カンピロバクターファージミド、場合により、NCTC12676、または、NCTC12677である、
方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項の方法であって、
少なくとも1つの目的の異種核酸は、前記生産宿主細菌の感染の前に、前記バクテリオファージDNAまたは前記ファージミドDNAに導入される、
方法。
【請求項10】
目的の異種核酸を、標的宿主細菌に、バクテリオファージを介して導入する効率を高める方法であって:
生産宿主細菌に、少なくとも1つの目的の異種核酸を含むバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を感染させるステップ(ここで、前記生産宿主細菌は、内因性制限修飾系(R-M系)の少なくとも1つの酵素の破壊および/または少なくとも1つの異種メチルトランスフェラーゼの発現を介して変更されたメチル化活性を有し、それにより、前記のバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAをメチル化する)
改変されたメチル化パターンを有する、および、前記の少なくとも1つの目的の異種核酸を含む/コードする、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含む、バクテリオファージ粒子を生産するステップ;および
標的宿主細菌に、前記バクテリオファージ粒子を感染させるステップ(ここで、前記標的宿主細菌は、前記生産宿主細菌のものに実質的に類似するメチル化パターン(またはR-M系(単数または複数))を有し、それにより、前記の目的の異種核酸を、前記標的宿主バクテリオファージに導入する効率を高くする)、
を含む、
方法。
【請求項11】
請求項10の方法であって、
前記内因性R-M系の前記の少なくとも1つの酵素の前記破壊は、点突然変異、挿入、欠失、トランケーション、および/または、前記のバクテリオファージDNAまたはファージミドDNA内にコードまたは前記バクテリオファージ粒子内にパッケージされたポリペプチド阻害剤を介する、
方法。
【請求項12】
請求項9または10の方法であって、
前記の少なくとも1つの目的の異種核酸は、レポーター遺伝子、抗生物質耐性マーカー、代謝経路における1つまたは複数のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、遺伝子(転写および/または翻訳)レギュレーター、および/または、CRISPRアレイを含む、
方法。
【請求項13】
請求項12の方法であって、
前記CRISPRアレイは、II型CRISPRアレイである、
方法。
【請求項14】
請求項12の方法であって、
前記CRISPRアレイは、I型CRISPRアレイである、
方法。
【請求項15】
請求項14の方法であって、
前記CRISPRアレイは、約15個ヌクレオチド~約150個のヌクレオチドの長さを有するスペーサーを含む、
方法。
【請求項16】
請求項13の方法であって、
前記の少なくとも1つの目的の異種核酸は、
(a)tracr核酸およびCas9をコードするヌクレオチド配列をさらに含む、
方法。
【請求項17】
請求項12または15の方法であって、
前記の少なくとも1つの目的の異種核酸は、Cas3、またはCas3’およびCas3’’ポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、および、I型Cascadeポリペプチドをコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドをさらに含む、
方法。
【請求項18】
請求項9から17のいずれか一項の方法であって、
前記の少なくとも1つの目的の異種核酸は、組込みの不必要な部位または組込みの相補部位において、前記バクテリオファージDNAに組み込まれる、
方法。
【請求項19】
請求項18の方法であって、
前記の不必要な部位は、(a)ファージによってコードされる制限修飾系(例えば、P1ファージ内のres/mod)、(b)重複感染をブロックする遺伝子(例えば、simABC)、(c)制限修飾系の阻害剤(例えば、P1ファージ内のdarA)、(d)挿入配列エレメント(例えば、P1ファージ内のIS1)、(e)アディクションシステム(例えば、P1ファージ内のphd/doc)、または、(f)それらの任意の組み合わせである、
方法。
【請求項20】
請求項18の方法であって、
前記の相補部位は、(a)溶菌サイクルのアクチベーター(例えば、P1ファージ内のcoi)、(b)溶菌遺伝子(例えば、P1ファージ内のkilA)、(c)tRNA(例えば、P1ファージ内のtRNA1、2)、(d)粒子成分(例えば、P1ファージ内のcixL、cixR尾部繊維遺伝子)、または(e)それらの任意の組み合わせである、
方法。
【請求項21】
請求項20の方法であって、
前記生産宿主細菌は、プラスミド上またはそのゲノム内に、前記バクテリオファージ内の前記相補部位に対する相補体(complement)をコードするポリヌクレオチドを含む、
方法。
【請求項22】
請求項1から24のいずれか一項の方法によって生産される、
バクテリオファージ粒子。
【請求項23】
標的宿主細菌の制限修飾系に実質的に類似する改変されたDNAメチル化パターンを含む、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含む、
バクテリオファージ粒子。
【請求項24】
請求項23のバクテリオファージ粒子であって、
前記のバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAは、
(a)Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチド;および
(c)tracr核酸
を含む、組み換えII型CRISPR-Casシステムを含み、
場合により、CRISPRアレイをコードする前記ポリヌクレオチドおよび前記tracr核酸は、互いに融合される、
バクテリオファージ粒子。
【請求項25】
請求項23のバクテリオファージ粒子であって、
前記のバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAは、
(a)CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチド;および
(b)1つまたは複数のI型CRISPRポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド
を含む組み換えI型CRISPR-Casシステムを含む、
バクテリオファージ粒子。
【請求項26】
II型CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチドを含むバクテリオファージDNAを含む、
バクテリオファージ粒子。
【請求項27】
I型CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチドを含むバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含む、
バクテリオファージ粒子
【請求項28】
請求項27のバクテリオファージ粒子であって、
前記I型CRISPRアレイは、約15個ヌクレオチド~約150個のヌクレオチドの長さを有するスペーサーを含む、
バクテリオファージ粒子。
【請求項29】
請求項26のバクテリオファージ粒子であって、
前記バクテリオファージDNAは、
(a)Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;および
(b)tracr核酸
をさらに含み、
場合により、CRISPRアレイをコードする前記ポリヌクレオチドおよび前記tracr核酸は、互いに融合される、
バクテリオファージ粒子。
【請求項30】
請求項27または28のバクテリオファージ粒子であって、
前記バクテリオファージDNAまたは前記ファージミドDNAは、1つまたは複数のI型CRISPRポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドをさらに含む、
バクテリオファージ粒子。
【請求項31】
請求項24から30のいずれか一項のバクテリオファージ粒子であって、
CRISPRアレイをコードする前記ポリヌクレオチドは、リピート-スペーサー-リピート配列、または少なくとも2以上のリピート-スペーサー配列を含み、ここで、前記の少なくとも2以上のリピートスペーサー配列は、少なくとも第一のリピートスペーサー配列および最終のリピートスペーサー配列を含み、前記の第一のリピートスペーサー配列のスペーサーの3’末端は、次のリピートスペーサー配列のリピートの5’末端に連結されて、前記の最終のリピートスペーサー配列は、リピートに3’末端において連結される、
バクテリオファージ粒子。
【請求項32】
請求項24から31のいずれか一項のバクテリオファージ粒子であって、
プロモーターは、CRISPRアレイをコードする前記ポリヌクレオチドに動作可能に連結される、
バクテリオファージ粒子。
【請求項33】
請求項24または29のバクテリオファージ粒子であって、
プロモーターは、Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、Cas3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、Cas3’ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および/または、Cas3’’ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに、動作可能に連結される、
バクテリオファージ粒子。
【請求項34】
請求項25または31から32の一項のバクテリオファージ粒子であって、
1つまたは複数のI型CRISPRポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドは、プロモーターに動作可能に連結される、
バクテリオファージ粒子。
【請求項35】
請求項25、31から32または34のいずれか一項のバクテリオファージ粒子であって、
1つまたは複数のI型CRISPRポリペプチドをコードする前記の少なくとも1つのポリヌクレオチドの少なくとも2つは、融合されて単一のポリヌクレオチドを形成して、それは場合により、プロモーターに動作可能に連結される、
バクテリオファージ粒子。
【請求項36】
請求項24から35のいずれか一項のバクテリオファージ粒子であって、
前記I型CRISPRアレイ、前記II型CRISPRアレイ、前記I型CRISPR-Casシステムまたは前記II型CRISPR-Casシステム、Cas9ポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチド、前記tracr核酸、および/または、1つまたは複数のI型CRISPRポリペプチドをコードする前記の少なくとも1つのポリヌクレオチドが、不必要な部位または相補部位において、前記バクテリオファージDNAに組み込まれた、
バクテリオファージ粒子。
【請求項37】
請求項36のバクテリオファージ粒子であって、
前記の不必要な部位は、(a)ファージによってコードされる制限修飾系(例えば、P1ファージ内のres/mod)、(b)重複感染をブロックする遺伝子(例えば、simABC)、(c)制限修飾系の阻害剤(例えば、P1ファージ内のdarA)、(d)挿入配列エレメント(例えば、P1ファージ内のIS1)、(e)アディクションシステム(例えば、P1ファージ内のphd/doc)、または、(f)それらの任意の組み合わせである、
バクテリオファージ粒子。
【請求項38】
請求項36のバクテリオファージ粒子であって、
前記相補部位は、(a)溶菌サイクルのアクチベーター(例えば、P1ファージ内のcoi)、(b)溶菌遺伝子(例えば、P1ファージ内のkilA)、(c)tRNA(例えば、P1ファージ内のtRNA1、2)、(d)粒子成分(例えば、P1ファージ内のcixL、cixR尾部繊維遺伝子)、または、(e)それらの任意の組み合わせである、
バクテリオファージ粒子。
【請求項39】
少なくとも1つの標的細菌種または株を選択的に死滅させる方法であって、
前記の少なくとも1つの標的細菌種または株を、請求項22から39のいずれか一項のバクテリオファージ粒子と接触させるステップを含み、
ここで、前記のバクテリオファージDNAまたはファージミドDNA内に含まれる前記CRISPRアレイは、前記の少なくとも1つの標的細菌種または株内の標的DNAと実質的な相補性を有する少なくとも1つのスペーサーを含む、
方法。
【請求項40】
請求項39の方法であって、
前記CRISPRアレイは、I型CRISPRアレイであり、前記の少なくとも1つのスペーサーは、約15個のヌクレオチド~約150個のヌクレオチドの長さを含む、
方法。
【請求項41】
請求項39または40の方法であって、
前記バクテリオファージ粒子は、前記の標的細菌種または株とは異なる細菌種または株において生産される、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[優先権の陳述]
本出願は、2015年6月15日に出願された米国仮出願番号62/175,749の合衆国法典第35巻第119条(e)の下での利益を主張し、その内容全体は、参照により本明細書中に援用される。
【0002】
[連邦支援の研究に関する陳述]
本発明は、全米科学財団により授けられた助成金番号MCB-1452902の下での政府支援でなされた。政府は本発明における特定の権限を有する。
【0003】
[本発明の分野]
本発明は、バクテリオファージDNAおよびファージミドDNAのメチル化パターンを改変するための方法および組成物に関する。本発明は、さらに、改変されたCRISPR-Casシステムの構成要素を含むバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージを用いた、細菌の選択的な死滅のための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0004】
Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats(CRISPR)は、CRISPR関連遺伝子(cas)と組み合わせて、CRISPR-Casシステムを構成し、多くの細菌および古細菌の大部分において適応免疫を与える。CRISPRが仲介する免疫付与は、同一配列を含む侵入者による将来の感染を妨害するために用いることのできる、プラスミドおよびファージなどの侵襲性遺伝因子由来のDNAの組込みを介して生じる。
【0005】
CRISPR-Casシステムは、超可変配列の「スペーサー」配列によって隔てられた短いDNA「リピート」のCRISPRアレイおよび隣接するcas遺伝子のセットからなる。システムは、外来核酸の干渉および配列特異的ターゲッティングを通してファージおよびプラスミドなどの侵襲性遺伝因子に対する適応免疫を提供することによって作用する(Barrangou et al.2007.Science.315:1709-1712;Brouns et al.2008.Science 321:960-4;Horvath and Barrangou.2010.Science.327:167-70;Marraffini and Sontheimer.2008.Science.322:1843-1845;Bhaya et al.2011.Annu.Rev.Genet.45:273-297;Terns and Terns.2011.Curr.Opin.Microbiol.14:321-327;Westra et al.2012.Annu.Rev.Genet.46:311-339;Barrangou R.2013.RNA.4:267-278)。典型的に、侵襲性DNA配列は、新規の「スペーサー」として獲得され(Barrangou et al.2007.Science.315:1709-1712)、それぞれがCRISPRリピートと対になり、CRISPR遺伝子座において新規のリピート-スペーサーユニットとして挿入される。「スペーサー」は、全てのCRISPR-Casシステムに普遍的なCas1およびCas2タンパク質によって獲得され(Makarova et al.2011.Nature Rev.Microbiol.9:467-477;Yosef et al.2012.Nucleic Acids Res.40:5569-5576)、一部のシステムでは、Cas4タンパク質が関与している(Plagens et al.2012.J.Bact.194:2491-2500;Zhang et al.2012.PLoS One 7:e47232)。生じるリピート-スペーサーアレイは、長いpre-CRISPR RNA(pre-crRNA)として転写され(Brouns et al.2008.Science 321:960-4)、DNAまたはRNAの配列特異的な認識を駆動するCRISPR RNA(crRNA)に処理される。具体的には、crRNAは、Casエンドヌクレアーゼにより仲介される配列特異的核酸切断のために、ヌクレアーゼを相補標的に向かってガイドする(Garneau et al.2010.Nature.468:67-71;Haurwitz et al.2010.Science.329:1355-1358;Sapranauskas et al.2011.Nucleic Acid Res.39:9275-9282;Jinek et al.2012.Science.337:816-821;Gasiunas et al.2012.Proc.Natl.Acad.Sci.109:E2579-E2586;Magadan et al.2012.PLoS One.7:e40913;Karvelis et al.2013.RNA Biol.10:841-851)。
【0006】
これらの普及したシステムは、細菌の半分近く(約46%)および大部分の古細菌(約90%)で生じる。それらは、cas遺伝子の内容、crRNA生物発生を駆動する生化学的プロセスにおける多様性および組織化、ならびに、標的認識および切断を仲介するCasタンパク質複合体に基づいて、6つの主なタイプに分類される(Makarova et al. 2011.Nature Rev.Microbiol.9:467-477;Makarova et al.2013.Nucleic Acid Res.41:4360-4377;Makarova et al.2015.Nature Rev.Microbiol.13:722-736;Shmakov et al.2015.Mol.Cell.60:385-397))。I型およびIII型では、特殊化されたCasエンドヌクレアーゼがpre-crRNAを処理して、それから、crRNAに相補な核酸を認識および切断することが可能な大きなマルチ-Casタンパク質複合体に集合する。異なるプロセスは、II型CRISPR-Casシステムに関与する。ここで、pre-crRNAは、トランス活性化crRNA(tracrRNA)がcrRNAのリピート領域にハイブリダイズするメカニズムにより処理される。ハイブリダイズしたcrRNA-tracrRNAは、RNase IIIにより切断され、各スペーサーの5’末端を除去する第2のイベントが続き、tracrRNAとCas9の両方と結合したままの成熟crRNAが生産される。成熟複合体は、それから、複合体内のスペーサー配列と相補の標的dsDNA配列(「プロトスペーサー」配列)を探して両鎖を切断する。II型システムでの複合体による標的の認識および切断は、crRNA-tracrRNA複合体上のスペーサー配列と標的「プロトスペーサー」配列(本明細書において、スペーサー配列と相補の鎖として定義される)との間で相補の配列を必要とするだけでなく、プロトスペーサー配列の5’末端に位置するプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列も必要とする。必要とされる正確なPAM配列は、異なるII型システム間で変化し得る。
【0007】
I型システムは、細菌および古細菌において最も普及していて(Makarova et al.2011.Nature Rev.Microbiol.9:467-477)、DNAを標的化する(Brouns et al.2008.Science 321:960-4)。抗ウイルス防御に関するCRISPR関連複合体(Cascade)と呼ばれる3~8個のCasタンパク質の複合体は、pre-crRNAを処理して(Brouns et al.2008.Science 321:960-4)、crRNAが、crRNAのスペーサー部分に相補である「プロトスペーサー」と呼ばれるDNA配列を認識するように維持する。crRNAスペーサーとプロトスペーサーとの間の相補性とは別に、標的化は、プロトスペーサーの3’末端に位置するプロトスペーサー-隣接モチーフ(PAM)を必要とする(Mojica et al.2009.Microbiology 155:733-740;Sorek et al.2013.Ann.Rev.Biochem.82:237-266)。I型システムについては、PAMは、Cascadeによって直接認識される(Sashital et al.2012. Mol.Cell 46:606-615;Westra et al.2012.Mol.Cell 46:595-605)。必要とされる正確なPAM配列は、異なるI型システム間で変化し得て、確立された生物情報学および実験手順を通して同定することができる(Esvelt et al.2013.Nat.Methods 10:1116-11121;Jiang et al.2013.Nat.Biotechnol.31:233-239;Mojica et al.2009.Microbiology 155:733-740)。プロトスペーサーが認識された時点で、Cascadeは一般に、エンドヌクレアーゼCas3を動員して、それは、標的DNAを切断および分解する(Sinkunas et al.2011.EMBO J.30:1335-1342;Sinkunas et al.2013.EMBO J.32:385-394)。
【0008】
バクテリオファージ(またはファージ)は、複製するために宿主の細胞機構に頼る細菌性ウイルスである。一般に、ファージは、一般に、3つのカテゴリーに分類される:溶菌性、溶原性、およびテンペレート。溶菌性バクテリオファージは、宿主細胞に感染して、非常に多くの回数の複製を受けて、そして、細胞溶解を引き起こして、新たに作られたバクテリオファージ粒子を放出する。溶原性バクテリオファージは、細菌性ゲノム内または染色体外プラスミドとしてのいずれかで、宿主細胞内に永久に存在する。テンペレートバクテリオファージは、溶菌性または溶原性であることが可能であり、細胞の増殖状態および生理学的状態に応じて、他方に対して一方を選択する。
【0009】
ファージは、1950年代にさかのぼって、合成DNAをパッケージおよび送達するために用いられている(Lennox,E.s.,Virology 1(2):190-206(1950))。今では、3つの一般的なアプローチが採用されている。第一のアプローチの下では、合成DNAは、バクテリオファージゲノム中にランダムに組み換えられて、それは通常、選択可能なマーカーを含む。このアプローチは、現代の分子生物学技術の到来前に、ファージ研究の初期にしばしば用いられた。第二のアプローチの下では、ファージ内の制限部位を用いて、合成DNAをインビトロで導入する。E.coli λファージは、組み込まれた制限部位を有するλバクテリオファージのいくつかの商業的供給源が利用可能である主要な例である(Chauthaiwale et al.Microbiol.Rev.56,577-591(1992))。第三のアプローチの下では、ファージパッケージ部位および溶菌性の複製起点を一般にコードするプラスミドは、バクテリオファージ粒子の集合の部分としてパッケージされる(Westwater et al.Microbiol.Read.Engl.148,943-950(2002);Sternberg,N.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87,103-107(1990))。生じるプラスミドは、「ファージミド」を作っている(have been coined)。ファージミドは、個々の遺伝子または構築物を送達するため、例えば、内因性パスウェイを再プログラムするため、または、細胞死を誘導するために、主に用いられている(Sternberg,N.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87,103-107(1990);Lu&Collins.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.104,11197-11202(2007);Citorik et al.Nat.Biotechnol.(2014)32(11):1141-1145;Bikard et al.Nat.Biotechnol.(2014)32(11):1146-1150;Kittleson et al.ACS Synth.Biol.1,583-589(2012))。
【0010】
大部分のファージは、進化的な理由で所定の細菌株に制限される。不適合株へのそれらの遺伝物質の注入は逆効果であり、したがって、ファージは、株の制限された代表例(cross-section)に特異的に感染するように進化されている。しかしながら、一部のファージは、それらの遺伝物質を広範囲の細菌に注入することができることが発見されている。古典的な例は、P1ファージであり、DNAを様々なグラム陰性細菌に注入することが示されていて、一部は、その天然のE.coli宿主を十分に超える(Westwater et al.Microbiol.Read.Engl.148,943-950(2002);Kaiser&Dworkin.Science 187,653-654(1975);O’Connor et al.J.Bacteriol.155,317-329(1983)。
【0011】
P1などのファージは、合成DNAを送達するための一般化されたプラットフォームを提供することができるが、それらはユビキタスなバリア:制限修飾(R-M)系に直面する。これらの細菌防御システムは、DNAを特定の配列でメチル化するメチラーゼ(メチルトランスフェラーゼ)および/または非メチル化(I、II、III型)またはメチル化(IV型)のDNAを切断する制限酵素からなる。これらのシステムが、外来のメチル化パターンを有するDNAと直面すると、制限酵素は、多くの位置でDNAを切断し、修復の潜在性を制限する。メチル化を受けない任意の外来DNAは、制限酵素を逃れることができるが、これが生じる可能性は低い。ほとんどの細菌は、別個のメチル化パターンを産生する多数のR-M系をコードするので、合成DNAをランダムの細菌に導入することは、大きなチャレンジを提起し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、バクテリオファージおよびファージミドDNAのメチル化を改変するための方法、および、ゲノム標的化CRISPR-Casシステムの送達におけるバクテリオファージ粒子の使用のための方法および組成物を提供することにより、当該分野の以前の欠点を克服する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様では、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAのメチル化パターンを改変する方法は、(1)生産宿主細菌の内因性制限修飾系(R-M系)の少なくとも1つの酵素の活性を破壊するステップ(それにより、破壊された内因性R-M系の少なくとも1つの酵素の活性を有する改変された生産宿主細菌を生産する)、および/または、(2)生産宿主細菌に、少なくとも1つの異種メチルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを導入するステップ(それにより、異種メチルトランスフェラーゼを発現する改変された生産宿主細菌を生産する)を含む、生産宿主細菌のメチル化活性を変更するステップ;変更されたメチル化活性を有する改変された生産宿主細菌に、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を感染させるステップ(それにより、前記バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAをメチル化する);および、改変されたメチル化パターンを有するバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を生産するステップを含む。一部の態様では、感染させるステップは、生産宿主細菌のメチル化活性を変更するステップの前に行なうことができる。
【0014】
別の態様では、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAのメチル化パターンを改変する方法は:生産宿主細菌に、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を感染させるステップ(ここで、生産宿主細菌は、内因性R-M系の少なくとも1つの酵素の破壊および/または少なくとも1つの異種メチルトランスフェラーゼの発現を介して変更されたメチル化活性を有し、それにより、前記バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAをメチル化する);および、改変されたメチル化パターンを有するバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を生産するステップを含む。
【0015】
さらなる態様では、本発明は、目的の異種核酸を、標的宿主細菌中に、バクテリオファージを介して導入する効率を高める方法を提供し、生産宿主細菌に、少なくとも1つの目的の異種核酸を含むバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を感染させるステップ(ここで、生産宿主細菌は、内因性制限修飾系(R-M系)の少なくとも1つの酵素の破壊および/または少なくとも1つの異種メチルトランスフェラーゼの発現を介して変更されたメチル化活性を有し、それにより、前記バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAをメチル化する);改変されたメチル化パターンを有するおよび前記の少なくとも1つの目的の異種核酸を含む/コードするバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を生産するステップ;および、標的宿主細菌に、前記バクテリオファージ粒子を感染させるステップを含み、ここで、標的宿主細菌は、生産宿主細菌のものと実質的に類似する(すなわち適合する)メチル化パターン(またはR-M系(単数または複数))を有し、それにより、前記標的宿主バクテリオファージ中に前記の目的の異種核酸を導入する効率を高める。
【0016】
一部の態様では、本発明の方法によって生産されるバクテリオファージ粒子が提供される。本発明のさらなる態様は、標的宿主細菌の制限修飾系(単数または複数)と実質的に類似する改変されたDNAメチル化パターンを含むバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を提供する。一部の態様では、少なくとも1つの目的の異種核酸は、バクテリオファージによる生産宿主細菌の感染の前に、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAに導入されて、それにより、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAと一緒に、前記の少なくとも1つの目的の異種核酸をメチル化する。さらなる態様では、前記の少なくとも1つの目的の異種核酸は、CRISPRアレイ(例えば、I型またはII型CRISPRアレイ)をコードする。さらなる態様では、前記の少なくとも1つの目的の異種核酸は、組み換えI型CRISPR-Casシステムまたは組み換えII型CRISPR-Casシステムをコードする。
【0017】
本発明のさらなる態様は、II型CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチドを含むバクテリオファージDNAを含むバクテリオファージ粒子を提供する。さらなる態様では、I型CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチドを含むバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子が提供される。
【0018】
本発明の別の態様は、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を提供し、ここで、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAは、:(a)Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;(b)CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチド;およびc)tracr核酸を含む組み換えII型CRISPR-Casシステムを含み、場合により、tracr核酸およびCRISPRアレイをコードするポリヌクレオチドは、互いに融合されて、単一ガイド核酸を形成する。
【0019】
本発明のさらなる態様は、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を提供し、ここで、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAは、(a)CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチド;および(b)1つまたは複数のI型CRISPRポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む組み換えI型CRISPR-Casシステムを含む。一部の態様では、I型CRISPRポリペプチドは、I型Cascadeポリペプチド、および、Cas3ポリペプチド、またはCas3’ポリペプチドおよびCas3’’ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0020】
さらなる態様では、I型CRISPRアレイ、II型CRISPRアレイ、I型CRISPR-CasシステムまたはII型CRISPR-Casシステム、Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、tracr核酸、および/または、1つまたは複数のI型CRISPRポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドは、不必要な部位または相補部位において、バクテリオファージDNAに組み込まれる。
【0021】
本発明のさらなる態様は、少なくとも1つの標的細菌種または株を選択的に死滅させる方法を提供し、前記の少なくとも1つの標的細菌種または株を、本発明のバクテリオファージ粒子と接触させるステップを含み、ここで、前記バクテリオファージDNAまたはファージミドDNA内に含まれるCRISPRアレイは、前記の少なくとも1つの標的細菌種または株内の標的DNAと実質的な相補性を有する少なくとも1つのスペーサーを含む。本発明の一部の態様では、バクテリオファージ粒子は、標的細菌種または株とは異なる細菌種または株において生産される。
【0022】
本明細書においてさらに提供されるのは、バクテリオファージ粒子、発現カセット、および、本発明の組み換え核酸分子、CRISPRアレイ、および/または異種ポリヌクレオチドを含む細胞である。
【0023】
本発明のこれらおよび他の態様は、以下の本発明の説明において詳細に示される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】CRISPR抗菌剤の送達のためのプラットフォームとしての、バクテリオファージ粒子を生産する一般的なプロセスの概略を提供する。
図2A-2B】メチルトランスフェラーゼを有さない細菌株由来のプラスミドDNAは、メチル化DNAを標的化する制限酵素によって分解されないことを示す。E.coli MG1655株由来のDNAは、左の2レーンであり、E.coli MG1655 Δdam Δdcm ΔhsdRMS株(メチルトランスフェラーゼ遺伝子を欠く)由来のDNAは、右の2レーンである(図2A)。DNAを、Dpn1とともに(+)またはともなわずに(-)インキュベートした。図2Bは、E.coliのメチルトランスフェラーゼ陽性株において生産した場合の、P1バクテリオファージ粒子から抽出されたdsDNAを示す。レーン1:VWR 2-log DNAラダー。レーン2、4、6:dam+dcm+E.coliにおいて生産されたファージ由来のDNA。レーン3、5、7:dcm-dam-E.coliにおいて生産されたファージ由来のDNA。レーン2-3:AleI、NheI、およびXhoIによって消化されたDNA。レーン4-5:AleI、NheI、XhoI、およびDpnIIによって消化されたDNA。レーン6-7:AleI、NheI、XhoI、およびStyD41によって消化されたDNA。DNAサイズマーカーを左に示す。
図3A-3B】合成配列を導入するためのファージゲノムにおける異なる部位の使用を示す。図3Aは、P1バクテリオファージゲノムへの合成DNA配列の導入を示す概要を提供する。IS1、およびsimABCは、バクテリオファージP1ゲノム内の不必要な遺伝子であり、coi/imcBは、溶菌サイクルを引き起こすためだけに必要な相補可能(complementable)遺伝子である。coi/imcB機能は、プラスミドベクター由来のcoi遺伝子の誘導性の発現によって補われ得る。図3Bは、P1ゲノムの効率的な送達を示し、kan耐性遺伝子は、ファージゲノム内の異なる部位(ランディング部位)に組み込まれる。
図4A-4B】simABの破壊は、第二のバクテリオファージの再感染および維持を可能にすることを示す。図4Aは、重複感染を試験するための実験手順を提供する。P1-ΔimcB/coi::kan(LB001)またはP1-ΔsimABC::kan(LB002)のいずれかを保有する細胞に、ファージP1-ΔimcB/coi::cmを感染させて、kan、cm、およびkan+cmプレート上にプレーティングした。図4Bは、P1-ΔimcB/coi::kanまたはP1-ΔsimABC::kanのいずれかを保有する細胞におけるP1-ΔimcB/coi::cmの送達効率を示す。コロニーが検出されなかったことを意味する。
図5A-5B】P1ファージミドのパッケージおよび送達に対する、P1ゲノムをパッケージおよび送達するP1粒子の対照比較を示す。図5Aは、P1ゲノムまたは改変されたファージミドのパッケージおよび送達を示す概要を提供する。図5Bは、P1粒子が、P1ファージミドに関してするよりも、P1ゲノムを、E.coli MG1655およびBL21中に効率的にパッケージおよび送達することを示す。
図6】P1ゲノム(P1 coi-icmB::kanR)は、異なる環境条件下で送達され得ることを示す。略称:LB(Luria Broth);最小培地(M9グルコース)、血清(ウシ胎児血清)。
図7A-7C】バクテリオファージを介したDNA送達を示す。図7Aは、+/-DNAメチル化を有するP1バクテリオファージ(すなわち、DNAメチル化(+)またはDNAメチル化(-)のいずれかである細菌において生産されたP1)を用いたE.coliへのDNA送達を示す。カナマイシン選択下で増殖したCFUによって測定される感染されたE.coli細胞の数を、株および感染の間で比較した。図7Bは、バクテリオファージLB002+/-メチル化による、E.coliおよびKlebsiella pneumoniaeへのDNA送達における違いを示す。それから、カナマイシン選択下で増殖したE.coliまたはK.pneumoniaeのCFUによって測定されるLB002感染単位を、感染間で比較した。図7Cは、+/-DNAメチル化であるM13変異バクテリオファージを用いたE.coliへのDNA送達を示す。それから、感染されたE.coli細胞の数を、株ごとに比較した。TOP10F’:damおよびdcmをコードするが制限酵素を欠く;EMG2:制限-メチル化システムは無傷である(非メチル化二本鎖DNAを分解する);JM110:damおよびdcmをコードせず、制限酵素を欠く。
図8A】I-E型CascadeおよびCas3が、ゲノム-標的化CRISPR RNAを備えたP1の送達後の増殖に負の影響を及ぼすことを示す。細菌増殖は、600nmでの吸光度(OD600)によって測定した。図8Bは、I-E型CascadeおよびCas3が、ゲノム-標的化CRISPR RNAを備えたP1の送達後の生存に負の影響を及ぼすことを示す。それから、それぞれの細菌株に関する異なる多重感染度(MOI)での生存細菌細胞の数を比較した。図8C-8Dは、ゲノム-標的化CRISPR RNAを異なる位置にコードするP1ゲノムの送達が、I-E型CascadeおよびCas3の存在下でE.coliを死滅させることを示す。図8Cは、CRISPR/ファージ処理が、増殖を排除することを示し、図8Dは、培養中のCRISPR/ファージ処理が、生存能力の縮小をもたらすことを示す。
図9】2株のShigella flexneriへのバクテリオファージP1 imcB-coi::kanRの効率的な送達を示す。
図10A-10C】図10Aにおいて、CRISPRファージ(ftsAを標的化)は、抗生物質耐性細菌を死滅させることが示される。Cip=シプロフロキサシン。図10Bは、CRISPRファージが、効果的な抗生物質と組み合わせた場合に、相加的な抗菌効果を発揮することを示す。IM=イミペネム。図10Cは、CRISPRファージが、抗生物質イミペネムの存在または不存在下で、120分以内にE.coliを死滅させることを示す。
図11A-11B】E.coliを標的化するCRISPRファージが、大腿筋感染のマウスモデルにおいて、生菌数を低減させること(図11A)、および、E.coliを標的化するCRISPRファージが、マウスモデルにおいて動物生存時間を増大させること(図11B)を示す。
図12】I-E型システムにおける延長されたCRISPR RNAスペーサーが、細胞の死滅を誘発することができることを示す。32nts(+0)および44nts(+12)の長さを有するスペーサーを有するリピート-スペーサー-リピート(アレイ)を試験した(天然(野生型)I-E型システムは、32-ntの長さを有するスペーサーに依拠する)。使用したスペーサー(p1、as1、p2およびs1)は、図12の上にlacZ遺伝子の概要で示すように、lacZを標的化した。DNA干渉プロセスの概要を、図12の中央に提供し、ゲノムDNAに結合するスペーサーおよびCascade複合体およびその後のCas3の動員を示す。図12の下は、非標的化プラスミドに関して試験された4つのスペーサーのそれぞれをコードするプラスミドに関して、I-E型タンパク質(Cas3、Cascade)を発現しているE.coli MG1655細胞中への形質転換効率を示すグラフを提供する。形質転換効率は、非標的化スペーサーをコードするプラスミドに関して報告される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ここで、本発明は、以降に、付随する図面および実施例に関して説明されて、そこに本発明の実施態様が示される。この説明は、本発明が実施され得る全ての異なる手段または本発明に加えられ得る全ての特徴の、詳細な一覧であることを意図しない。例えば、一実施態様に関して説明される特徴は、他の実施態様に取り込まれ得て、特定の実施態様に関して説明される特徴は、その実施態様から取り除かれ得る。したがって、本発明は、本発明の一部の実施態様では、本明細書において示される任意の特徴または特徴の組み合わせを除外または省略することができることを検討する。加えて、本明細書において示唆される様々な実施態様に対する非常に多くの変更および追加は、本開示に照らして当業者に明らかであり、本発明から逸脱しない。それ故に、以下の説明は、本発明の一部の特定の実施態様を説明することを意図し、それらの全ての並べ替え、組み合わせ、および変更を徹底的に特定することを意図しない。
【0026】
別段の定義がされない限り、本明細書で用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する当業者の一人により一般に理解されるのと同一の意味を有する。本発明において、本発明の説明に用いられる専門用語は、特定の実施態様を説明する目的のためのみであり、本発明の限定を意図しない。
【0027】
本明細書において引用される全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、参照が提供される文章および/または段落に関連のある教示に関して、それらの全体で参照により援用される。
【0028】
文脈が別段の指示をしない限り、本明細書に説明される本発明の様々な特徴は、任意の組み合わせで用いることができることが明確に意図される。さらにまた、本発明は、本発明の一部の実施態様では、本明細書において示される任意の特徴または特徴の組み合わせは、除外または省略することができることも検討する。説明すると、明細書が、組成物は構成要素A、BおよびCを含む、と述べる場合、A、BまたはCのいずれか、またはそれらの組み合わせが、単独でまたは任意の組み合わせで、省略および放棄され得ることが明確に意図される。
【0029】
本発明の説明および添付の特許請求の範囲において用いられる、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、複数形を同様に含むことが意図される。また、本明細書において用いられる「および/または」は、関係がある列挙された項目の1つまたは複数の任意および全てのあり得る組み合わせ、ならびに、選択肢で(「または」)解釈された場合は組み合わせの欠失を指し、および包含する。
【0030】
本明細書において用いられる用語「約」は、例えば用量または期間のような測定可能な値を言及する場合、規定の量の±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%、または実に±0.1%の変動を指す。
【0031】
本明細書において用いられる、「XおよびYの間」および「約XおよびYの間」のような語句は、XおよびYを含むと解釈されるべきである。本明細書において用いられる「約XおよびYの間」のような語句は、「約Xおよび約Yの間」を意味し、「約XからYまで」のような語句は、「約Xから約Yまで」を意味する。
【0032】
本明細書において用いられる用語「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、および、「含む(comprising)」は、述べられた特徴、整数、ステップ、改変、エレメント、および/または、構成要素の存在を特定するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、改変、エレメント、構成要素、および/または、それらの群の存在または追加を排除しない。
【0033】
本明細書において用いられる、移行句「から本質的になる」は、クレームの範囲が、クレーム内に挙げられた規定の材料またはステップおよびクレームされた発明の基本的および新規の特徴(単数または複数)に実質的に影響を及ぼさないものを包含すると解釈すべきであることを意味する。したがって、用語「から本質的になる」は、本発明のクレームにおいて用いられる場合、「含む(comprising)」と同等であると解釈されることを意図しない。
【0034】
本明細書において用いられる「キメラ」は、少なくとも2つの構成要素が、異なる供給源(例えば、異なる生物、異なるコード領域)に由来する、核酸分子またはポリペプチドを指す。
【0035】
本明細書において用いられる「相補」は、コンパレータ―ヌクレオチド配列との100%相補性または同一性を意味することができ、または、100%未満の相補性(例えば、約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%などの相補性)を意味することができる。相補または相補可能(complementable)は、突然変異と「相補である(complement)」または「相補である(complementing)」という観点から用いてもよい。したがって、例えば、ファージゲノム内の「相補可能」部位は、ファージ機能の一面(例えば溶菌サイクル)に必須である遺伝子を含む部位であるが、この機能は、ゲノム内またはプラスミド上の異なる位置から遺伝子を発現することによって回復することができる。
【0036】
本明細書において用いられる用語「相補」または「相補性」は、塩基対合による、許容的な塩および温度条件下での、ポリヌクレオチドの自然な結合を指す。例えば、配列「A-G-T」は、相補配列「T-C-A」と結合する。2つの一本鎖分子間の相補性は、ヌクレオチドの一部のみが結合する「部分的」であってよく、または、一本鎖分子間に全体的な相補性が存在する場合は完全であってよい。核酸鎖間の相補性の程度は、核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率および強度に重大な効果を有する。
【0037】
本明細書において用いられる「接触する(contact)」、「接触する(contacting)」、「接触される(contacted)」、および、それらの文法的変形は、所望の反応(例えば、組込み、形質転換、スクリーニング、選択、死滅、同定、増幅など)を行なうのに適切な条件下に、所望の反応の構成要素を一緒に置くことを指す。そのような反応を行なうための方法および条件は、当技術分野でよく知られている(例えば、Gasiunas et al.(2012)Proc.Natl.Acad.Sci.109:E2579-E2586;M.R.Green and J.Sambrook(2012)Molecular Cloning:A Laboratory Manual.4th Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NYを参照)。
【0038】
ヌクレオチド配列の「フラグメント」または「部分」は、参照核酸またはヌクレオチド配列に対して縮小された長さのヌクレオチド配列を意味すると理解され(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個、またはそれよりも多くのヌクレオチドが縮小される)、参照核酸またはヌクレオチド配列と同一またはほとんど同一(例えば、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一)の連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む、から本質的になる、および/またはからなる。本発明によるそのような核酸フラグメントまたは部分は、適切な場合、それがその構成成分であるより大きなポリヌクレオチド内に含まれてよい。一部の実施態様では、ポリヌクレオチドのフラグメントは、その機能を保持するポリペプチドをコードする機能性フラグメント(例えば、野生型ポリペプチドと比較して長さが縮小されているが、I型Cascadeポリペプチドの少なくとも1つの機能を保持する(例えば、CRISPR RNAを処理する、DNAを結合する、および/または、複合体を形成する)I型Cascadeポリペプチドのフラグメント)であってよい。Cascadeポリペプチドの機能性フラグメントは、前記Cascadeポリペプチドのフラグメントによってコードされ得る。代表的な実施態様では、本発明は、Cas9ヌクレアーゼの機能性フラグメントを含んでよい。Cas9機能性フラグメントは、制限されないが、HNHヌクレアーゼ活性、RuvCヌクレアーゼ活性、DNA、RNAおよび/またはPAM認識および結合活性を含む、ネイティブのCas9ヌクレアーゼの1つまたは複数の活性を保持する。Cas9ヌクレアーゼの機能性フラグメントは、Cas9ポリヌクレオチドのフラグメントによってコードされ得る。
【0039】
本明細書において用いられる用語「遺伝子」は、mRNA、tRNA、rRNA、miRNA、抗-マイクロRNA、制御RNAなどを生産するために用いることが可能な核酸分子を指す。遺伝子は、機能性タンパク質または遺伝子産物を生産するために用いることが可能であってよく、または可能でなくてよい。遺伝子は、コードおよび非コード領域の両方(例えば、イントロン、調節エレメント、プロモーター、エンハンサー、終結配列および/または5’および3’非翻訳領域)を含むことができる。遺伝子は、「単離」されてよく、それによって、その天然の状態で核酸と関連して通常見られる構成要素から実質的または本質的にフリーである核酸が意味される。そのような構成要素は、他の細胞物質、組み換え生産による培養培地、および/または、核酸の化学合成で用いられる様々な化学物質を含む。
【0040】
本明細書において用いられる用語「ゲノム」は、生物の染色体/核ゲノムならびに任意のミトコンドリアおよび/またはプラスミドゲノムを含む。
【0041】
本明細書において用いられる「ヘアピン配列」は、ヘアピンを含むヌクレオチド配列(例えば、1つまたは複数のヘアピン構造を形成するもの)である。ヘアピン(例えば、ステムループ、フォールドバック)は、二本鎖領域によっていずれか側にさらに隣接される一本鎖を形成するヌクレオチドの領域を含む二次構造を有する核酸分子を指す。そのような構造は、当技術分野でよく知られている。当技術分野で知られているように、二本鎖領域は、塩基対合内にいくつかのミスマッチを含むことができ、または、完全に相補であることができる。一部の実施態様では、リピートヌクレオチド配列は、前記リピートヌクレオチド配列内に配置されたヘアピン配列を含む、から本質的になる、からなる(すなわち、少なくとも1つのヌクレオチド(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個、またはそれよりも多く)のリピートヌクレオチド配列が、前記リピートヌクレオチド配列内であるヘアピンのいずれか側に存在する)。一部の実施態様では、核酸構築物のヘアピン配列は、tracr核酸の3’末端に位置することができる。
【0042】
「異種」または「組み換え」ヌクレオチド配列は、それが導入される宿主細胞と天然に関連しないヌクレオチド配列であり、非天然起源の多コピーの天然起源ヌクレオチド配列を含む。
【0043】
本明細書において用いられる「異種メチルトランスフェラーゼ」は、それが導入される細菌宿主細胞(例えば、生産宿主細菌)内に天然に見られないメチルトランスフェラーゼである。したがって、生産宿主細菌に導入される「異種メチルトランスフェラーゼ」は、生産宿主細菌において見られるメチルトランスフェラーゼ(単数または複数)とは異なる、古細菌種由来または細菌株または種由来のメチルトランスフェラーゼであってよい。
【0044】
異種メチルトランスフェラーゼを用いて、生産宿主細菌に、標的株のものと類似するメチル化パターン(patters)を与えることができる。本発明で有用なDNA MTaseの非限定の例は、lactococciにおいてII型R-M系に対して保護するために導入することのできるファージΦ50由来のLlaPIを含む(Hill et al.J Bacteriol.173(14):4363-70(1991))。生産宿主細菌において発現され得るさらなるDNA改変酵素は、アデニン残基をアセトイミデートする(acetimidate)ポリペプチドをコードするものを含む。一部のR-M系は、アデニンメチル化に感受性である。バクテリオファージDNAにおいてアデニン残基をアセトイミデートするポリペプチドは、そのようなシステムに対してDNAを保護する。生産宿主細胞においてアデニン残基をアセトイミデートすることのできるポリペプチドの非限定の例は、ファージMu由来のmom遺伝子およびMu様プロファージ配列を含み(Haemophilus influenzae Rd(FluMu)、Neisseria meningitidis A型Z2491株(Pnme1)およびH.influenzaeバイオタイプaegyptius ATCC11116を参照)、それは、アデニン残基をN(6)-メチルアデニンに変換して、それによって、アデニン感受性制限酵素に対して保護する。個々のメチルトランスフェラーゼによって与えられるメチル化パターンは、Pacbio SMRTシーケンシングのような確立されたDNAシーケンシング技術を用いて評価することができる(O’Loughlin et al.PLoS One.2015:e0118533)。生産された時点で、生産株は、標的株へのDNA送達のためのバクテリオファージ粒子を生産するために用いることができる。
【0045】
細菌の「制限修飾系」(R-M系)は、(1)特定の配列においてDNAをメチル化するメチルトランスフェラーゼ、および/または、(2)非メチル化(I、II、およびIII型)またはメチル化(IV型)であるDNAを切断する制限酵素を含む。R-M系は、細菌の防御システムを構成し、ここで、外来メチル化パターンを有するDNAは、多数の位置でR-M系の制限酵素によって切断される。ほとんどの細菌は、1つよりも多いR-M系を含む。Roberts,R.J.et al.Nucleic Acids Res.31,1805-1812(2003)。I型メチルトランスフェラーゼは、機能性のために、適合する特異性タンパク質の存在を必要とする。II型およびIII型メチルトランスフェラーゼは、機能するために、いかなるさらなるタンパク質も必要としない。したがって、本発明で有用なメチルトランスフェラーゼおよび制限酵素は(修飾または阻害のための標的として、または、生産宿主細菌において発現される異種ポリペプチドとして、それにより、生産宿主細菌のR-M系を修飾する)、細菌の制限修飾系(例えば、I、II、III、またはIV型)に含まれる任意のメチルトランスフェラーゼまたは制限酵素を含むことができる。
【0046】
相同性を有する異なる核酸またはタンパク質は、本明細書において「相同体」と呼ぶ。相同体という用語は、同一および他の種由来の相同配列、および、同一および他の種由来のオルソロガス配列を含む。「相同性」は、位置同一性(すなわち配列類似性または同一性)のパーセントの観点からの、2以上の核酸および/またはアミノ酸配列の間の類似性のレベルを指す。また、相同性は、異なる核酸またはタンパク質間の類似の機能特性の概念を指す。したがって、本発明の組成物および方法は、本発明のヌクレオチド配列およびポリペプチド配列に対する相同体をさらに含む。本明細書において用いられる「オルソロガス」は、種分化の間に共通の祖先遺伝子から生じる異なる種における相同ヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列を指す。本発明のヌクレオチド配列の相同体は、本発明の前記ヌクレオチド配列と実質的な(例えば、少なくとも約70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、および/または100%)配列同一性を有する。したがって、例えば、本発明で有用な、リピート、tracr核酸、Cas9ポリペプチド、Cas3ポリペプチド、Cas3’ポリペプチド、Cas3’’ポリペプチド、および/または、Cascadeポリペプチドの相同体は、任意の公知のリピート、tracr核酸、Cas9ポリペプチド、Cas3ポリペプチド、Cas3’ポリペプチド、Cas3’’ポリペプチド、および/または、Cascadeポリペプチドと、約70%相同またはそれよりも高くてよい。
【0047】
本明細書において用いられる、ハイブリダイゼーション(hybridization)、ハイブリダイズする(hybridize)、ハイブリダイズする(hybridizing)、およびそれらの文法的変形は、2つの相補のヌクレオチド配列またはいくつかのミスマッチの塩基対が存在する実質的に相補の配列の結合を指す。ハイブリダイゼーションの条件は当該分野でよく知られていて、ヌクレオチド配列の長さおよびヌクレオチド配列間の相補性の程度に基づき変化する。一部の実施態様では、ハイブリダイゼーションの条件は、高ストリンジェンシーであってよく、または、それらは、ハイブリダイズされる配列の長さおよび相補性の量に応じて、中ストリンジェンシーまたは低ストリンジェンシーであってよい。ヌクレオチド配列間のハイブリダイゼーションの目的に関して低、中および高ストリンジェンシーを構成する条件は、当該分野でよく知られている(例えば、Gasiunas et al.(2012)Proc.Natl.Acad.Sci.109:E2579-E2586;M.R.Green and J.Sambrook(2012)Molecular Cloning:A Laboratory Manual.4th Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NYを参照)。
【0048】
本明細書において用いられる用語「増大する(increase)」、「増大する(increasing)」、「増大した(increased)」「増強する(enhance)」「増強した(enhanced)」「増強する(enhancing)」および「増強(enhancement)」(およびそれらの文法的変形)は、コントロールと比べて、少なくとも約25%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、400%、500%またはそれよりも高い上昇を表す。したがって、例えば、標的DNAの増大した転写は、コントロールと比べて、少なくとも約25%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、400%、500%またはそれよりも高い標的遺伝子の転写の増大を意味することができる。
【0049】
「ネイティブ」または「野生型」の核酸、ヌクレオチド配列、ポリペプチドまたはアミノ酸配列は、天然起源または内因性の核酸、ヌクレオチド配列、ポリペプチドまたはアミノ酸配列を指す。したがって、例えば、「野生型mRNA」は、生物において天然起源または内因性であるmRNAである。「相同」核酸は、それが導入される宿主細胞と天然に関連するヌクレオチド配列である。したがって、例えば、本明細書において用いられる用語「内因性制限酵素」は、生産宿主細菌において自然発生の(ネイティブの)制限酵素を意味する。
【0050】
また、本明細書において用いられる用語「核酸」、「核酸分子」、「核酸構築物」、「ヌクレオチド配列」および「ポリヌクレオチド」は、直鎖または分岐の一本鎖または二本鎖であるRNAまたはDNA、またはそれらのハイブリッドを指す。また、用語は、RNA/DNAハイブリッドも包含する。dsRNAが合成的に生産される場合は、一般的でない塩基、例えば、イノシン、5-メチルシトシン、6-メチルアデニン、ヒポキサンチンおよびその他もまた、アンチセンス、dsRNA、およびリボザイム対合に用いることができる。例えば、シチジンおよびウリジンのC-5プロピンアナログを含むポリヌクレオチドは、高アフィニティでRNAと結合し、遺伝子発現の強力なアンチセンス阻害剤となることが示されている。他の修飾、例えば、ホスホジエステル主鎖、またはRNAのリボース糖基内の2’-ヒドロキシに対する修飾もすることができる。本開示の核酸構築物は、DNAまたはRNAであってよいが、好ましくはDNAである。したがって、本発明の核酸構築物は、DNAの形態で記載され用いられ得るが、使用目的に応じて、RNAの形態で記載され用いられてもよい。
【0051】
本明細書において用いられる「合成の」核酸またはポリヌクレオチドは、天然に見られないが人の手によって構築される核酸またはポリヌクレオチドを指し、結果として、天然の産物でない。
【0052】
明細書において用いられる用語「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチドのヘテロポリマーまたは核酸分子の5’から3’末端のこれらのヌクレオチドの配列を指し、DNAまたはRNA分子を含み、cDNA、DNAフラグメントまたは部分、ゲノムDNA、合成(例えば化学合成)DNA、プラスミドDNA、mRNA、およびアンチセンスRNAを含み、そのいずれかは一本鎖または二本鎖であってよい。用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」、「核酸分子」、および、「オリゴヌクレオチド」は、本明細書において交換可能に用いられて、ヌクレオチドのヘテロポリマーも指す。別段の指示がされる場合を除き、本明細書において提供される核酸分子および/またはポリヌクレオチドは、本明細書において、5’から3’の方向で左から右に示され、米国の配列規則(連邦規則法典第37巻セクション1.821~1.825)および世界知的所有権機関(WIPO)標準ST.25に示されるヌクレオチドの特徴を表すための標準的なコードを用いて表される。
【0053】
本明細書において用いられる用語「パーセント配列同一性」または「パーセント同一性」は、2つの配列が最適に並べられた場合の、試験(「対象」)ポリヌクレオチド分子(またはその相補鎖)と比較した、参照(「クエリー」)ポリヌクレオチド分子(またはその相補鎖)の直鎖ポリヌクレオチド内の同一のヌクレオチドのパーセンテージを指す。一部の実施態様では、「パーセント同一性」は、アミノ酸配列内の同一のアミノ酸のパーセンテージを指し得る。
【0054】
「プロトスペーサー配列」は、標的二本鎖DNAを指し、具体的には、CRISPRリピート-スペーサー配列、CRISPRリピート-スペーサー-リピート配列および/またはCRISPRアレイの、スペーサー配列と完全または実質的に相補である(およびハイブリダイズする)標的DNA(例えば、または、ゲノム内の標的領域)の部分を指す。
【0055】
本明細書において用いられる用語「縮小する(reduce)」、「縮小された(reduced)」、「縮小する(reducing)」、「縮小(reduction)」、「減少する(diminish)」、「抑制する(suppress)」、および、「低減する(decrease)」(およびそれらの文法的変形)は、例えば、コントロールと比較して、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、35%、50%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、または100%の低減を説明する。特定の実施態様では、縮小は、検出可能な活性または量をもたらさず、または本質的にもたらさない(すなわち、ほんのわずかな量、例えば、約10%未満または実に約5%未満)。したがって、例えば、Cas3ヌクレアーゼまたはCas9ヌクレアーゼにおける突然変異は、Cas3ヌクレアーゼまたはCas9ヌクレアーゼのヌクレアーゼ活性を、コントロール(例えば、野生型Cas3)と比較して、少なくとも約90%、95%、97%、98%、99%、または100%縮小することができる。
【0056】
本明細書において用いられる「リピート配列」は、例えば、野生型CRISPR遺伝子座の任意のリピート配列、または、「スペーサー配列」によって分離される合成のCRISPRアレイのリピート配列(例えば、リピート-スペーサー-リピート配列)を指す。本発明で有用なリピート配列は、CRISPR遺伝子座の任意の公知または後に同定されるリピート配列であってよく、または、CRISPRI型システムまたはCRISPRII型システムにおいて機能するように設計された合成のリピートであってよい。したがって、一部の実施態様では、リピート配列は、野生型CRISPR I型遺伝子座または野生型CRISPR II型遺伝子座由来のリピート配列と同一または実質的に同一であってよい。一部の実施態様では、リピート配列は、野生型リピート配列(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15個またはそれより多くの連続したヌクレオチドの野生型リピート配列)の一部を含んでよい。
【0057】
一部の実施態様では、リピート配列は、少なくとも1つのヌクレオチド(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100個、またはそれより多くのヌクレオチド、またはその中の任意の範囲)を含む、から本質的になる、またはからなる。他の実施態様では、リピート配列は、少なくとも約1~約150個のヌクレオチドを含む、から本質的になる、またはからなる。さらに他の実施態様では、リピート配列は、少なくとも約1個のヌクレオチド~約100個のヌクレオチド、またはその中の任意の範囲または値を含む、から本質的になる、またはからなる。さらなる実施態様では、リピート配列は、約3個のヌクレオチド~約100個のヌクレオチド、約10個のヌクレオチド~約100個のヌクレオチド、約15個のヌクレオチド~約100個のヌクレオチド、約20~約50個のヌクレオチド、約20~約40個のヌクレオチド、約20~約30個のヌクレオチド、約30~約40個のヌクレオチド、約25~約40個のヌクレオチド、約25~約45個のヌクレオチド、および/または、約25~約50個のヌクレオチド、または、その中の任意の範囲または値を含むことができ、から本質的になることができ、または、からなることができる。代表的な実施態様では、リピート配列は、約25個のヌクレオチド~約38個のヌクレオチド、またはその中の任意の範囲または値を含むことができ、から本質的になることができ、または、からなることができる。さらに、さらなる実施態様では、リピート配列は、約29個のヌクレオチドを含むことができ、から本質的になることができ、または、からなることができる。また、さらなる実施態様では、リピート配列は、少なくとも約20~30個のヌクレオチドの長さのみを有するヘアピンを含むことができ、から本質的になることができ、または、からなることができる。さらに他の実施態様では、リピート配列は、少なくとも約3個のヌクレオチドを含む、から本質的になる、またはからなる。1つよりも多いスペーサーヌクレオチド配列がCRISPRアレイ内に存在する場合は、それぞれのスペーサーヌクレオチド配列は、「リピートヌクレオチド配列」によって互いから分離される。したがって、一部の代表的な実施態様では、スペーサー配列の5’末端に連結されたリピート配列は、約3個のヌクレオチドの長さであってよく(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10個のヌクレオチドまたはそれよりも多い)、野生型リピートヌクレオチド配列の同一領域(例えば、5’末端)と、少なくとも90%の(例えば、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれよりも高い)同一性を有する。他の実施態様では、スペーサー配列の3’末端に連結されたリピート配列の一部は、野生型リピートヌクレオチド配列と少なくとも約50%またはそれよりも高い同一性を有する、10個またはそれよりも多いヌクレオチドを有してよい。また、さらなる実施態様では、リピート配列は、少なくとも約20~30個のヌクレオチドの長さのみを有するヘアピンを含むことができ、から本質的になることができ、または、からなることができる。
【0058】
本明細書において用いられる「CRISPRアレイ」は、少なくとも2つのリピート配列、または前記リピート配列のそれぞれの部分、および、少なくとも1つのスペーサー配列を含む核酸分子を意味し、ここで、2つのリピート配列の一方、またはその一部は、スペーサー配列の5’末端に連結されて、2つのリピート配列の他方、またはその一部は、スペーサー配列の3’末端に連結される。組み換えCRISPRアレイでは、リピート配列およびスペーサー配列の組み合わせは、合成であり、人により作られ、天然に見られない。一部の実施態様では、「CRISPRアレイ」は、5’から3’に、少なくとも1つのリピート-スペーサー配列(例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25個またはそれよりも多くのリピート-スペーサー配列、および、その中の任意の範囲または値)を含む核酸構築物を指し、ここで、アレイの3’mostリピート-スペーサー配列の3’末端は、リピート配列に連結されて、それにより、前記アレイ内の全てのスペーサーは、5’末端および3’末端の両方にリピート配列が隣接する。
【0059】
本発明のCRISPRアレイは、任意の長さであってよく、上述のリピート配列と交互する任意の数のスペーサー配列を含んでよい。一部の実施態様では、CRISPRアレイは、1~約100個のスペーサー配列を含むことができ、から本質的になることができ、または、からなることができ、それぞれ、その5’末端およびその3’末端で、リピート配列に連結される(例えば、それぞれのCRISPRアレイがリピートで始まってリピートで終わるように、リピート-スペーサー-リピート-スペーサー-リピート-スペーサー-リピート-スペーサー-リピートなど)。したがって、一部の実施態様では、本発明の組み換えCRISPRアレイは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100個、またはそれよりも多くの、スペーサー配列を含むことができ、から本質的になることができ、または、からなることができ、それぞれ、その5’末端およびその3’末端で、リピート配列に連結される。
【0060】
本明細書において用いられる「CRISPRファージ」は、CRISPR-Casシステムの少なくとも1つの構成要素をコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含むバクテリオファージDNAを含むファージ粒子を意味する(例えば、CRISPRアレイ、crRNA;例えばftsAを標的化するcrRNAの挿入を含むP1バクテリオファージ)。
【0061】
本明細書において用いられる「配列同一性」は、2つの最適に並べられたポリヌクレオチドまたはペプチド配列が、構成要素(例えば、ヌクレオチドまたはアミノ酸)のアライメントのウインドウ全体で不変である程度を指す。「同一性」は、制限されないが:Computational Molecular Biology(Lesk, A.M.,ed.)Oxford University Press,New York(1988);Biocomputing:Informatics and Genome Projects(Smith,D.W.,ed.)Academic Press,New York(1993);Computer Analysis of Sequence Data,Part I(Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,eds.)Humana Press,New Jersey(1994);Sequence Analysis in Molecular Biology(von Heinje,G.,ed.)Academic Press(1987);and Sequence Analysis Primer (Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.)Stockton Press,New York(1991)に記載のものを含む公知の方法により、容易に計算することができる。
【0062】
本明細書において用いられる「スペーサー配列」は、標的DNA(すなわち、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列に隣接する、ゲノム内の標的領域または「プロトスペーサー配列」)に相補のヌクレオチド配列である。スペーサー配列は、標的DNAと完全に相補または実質的に相補(例えば、少なくとも約70%相補(例えば、約70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれよりも高い))であることができる。したがって、一部の実施態様では、スペーサー配列は、標的DNAと比較して、1、2、3、4、または5個のミスマッチを有してよく、そのミスマッチは、連続または不連続であってよい。一部の実施態様では、スペーサー配列は、標的DNAに対して70%の相補性を有してよい。他の実施態様では、スペーサーヌクレオチド配列は、標的DNAに対して80%の相補性を有してよい。さらに他の実施態様では、スペーサーヌクレオチド配列は、標的遺伝子の標的ヌクレオチド配列に対して、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%などの相補性を有してよい。代表的な実施態様では、スペーサー配列は、標的DNAに対して100%相補性を有する。特定の実施態様では、スペーサー配列は、少なくとも約8個のヌクレオチド~約150個のヌクレオチドの長さである標的ヌクレオチド配列の領域にわたって、完全な相補性または実質的な相補性を有する。代表的な実施態様では、スペーサー配列は、少なくとも約20個のヌクレオチド~約100個のヌクレオチドの長さである標的ヌクレオチド配列の領域にわたって、完全な相補性または実質的な相補性を有する。一部の実施態様では、スペーサー配列の5’領域は、標的DNAに対して100%相補であってよく、一方で、前記スペーサーの3’領域は、前記標的DNAに対して実質的に相補であってよく、したがって、標的DNAに対するスペーサー配列の全体的な相補性は、100%未満である。したがって、例えば、20個のヌクレオチドスペーサー配列の3’領域内の最初の7、8、9、10、11、12、13、14、15、16個などのヌクレオチド(シード領域)は、標的DNAと100%相補であってよく、一方で、スペーサー配列の5’領域内の残りのヌクレオチドは、標的DNAと実質的に相補(例えば、少なくとも約70%相補)である。一部の実施態様では、スペーサー配列の3’末端の最初の7~12個のヌクレオチドは、標的DNAと100%相補であってよいが、スペーサー配列の5’領域内の残りのヌクレオチドは、標的DNAと、実質的に相補である(例えば、少なくとも約50%相補(例えば、50%、55%、60%、65%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれよりも高い))。一部の実施態様では、スペーサー配列の3’末端における最初の7~10個のヌクレオチドは、標的DNAと75%~99%相補であってよいが、スペーサー配列の5’領域内の残りのヌクレオチドは、標的DNAと、少なくとも約50%~約99%相補である。他の実施態様では、スペーサー配列の3’末端における最初の7~10個のヌクレオチドは、標的DNAと100%相補であってよいが、スペーサー配列の5’領域内の残りのヌクレオチドは、標的DNAと実質的に相補(例えば、少なくとも約70%相補)である。代表的な実施態様では、スペーサー配列の最初の10個のヌクレオチド(シード領域内)は、標的DNAと100%相補であってよいが、スペーサー配列の5’領域内の残りのヌクレオチドは、標的DNAと実質的に相補(例えば、少なくとも約70%相補)である。例示的な実施態様では、スペーサー配列の5’領域(例えば、5’末端の最初の8ヌクレオチド、5’末端の最初の10個のヌクレオチド、5’末端の最初の15個のヌクレオチド、5’末端の最初の20個のヌクレオチド)は、標的DNAと約75%またはそれよりも高いの相補性(75%~約100%の相補性)を有してよいが、スペーサー配列の残部は、標的DNAに対して約50%またはそれよりも高い相補性を有してよい。したがって、例えば、スペーサー配列の5’末端における最初の8ヌクレオチドは、標的ヌクレオチド配列に対して100%の相補性を有してよく、または、1つまたは2つの突然変異を有してよく、したがって、それぞれ、標的DNAと約88%相補または約75%相補であってよいが、スペーサーヌクレオチド配列の残部は、標的DNAに対して少なくとも約50%またはそれよりも高い相補であってよい。
【0063】
一部の実施態様では、本発明のスペーサー配列は、約15個のヌクレオチド~約150個のヌクレオチドの長さであってよい。他の実施態様では、本発明のスペーサーヌクレオチド配列は、約15個のヌクレオチド~約100個のヌクレオチドの長さであってよい(例えば、約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100個のヌクレオチドまたはそれよりも多い)。一部の特定の実施態様では、スペーサーヌクレオチド配列は、約8~約150個のヌクレオチド、約8~約100個のヌクレオチド、約8~約50個のヌクレオチド、約8~約40個のヌクレオチド、約8~約30個のヌクレオチド、約8~約25個のヌクレオチド、約8~約20個のヌクレオチド、約10~約150個のヌクレオチド、約10~約100個のヌクレオチド、約10~約80個のヌクレオチド、約10~約50個のヌクレオチド、約10~約40、約10~約30、約10~約25、約10~約20、約15~約150、約15~約100、約15~約50、約15~約40、約15~約30、約20~約150個のヌクレオチド、約20~約100個のヌクレオチド、約20~約80個のヌクレオチド、約20~約50個のヌクレオチド、約20~約40個、約20~約30個、約20~約25個、少なくとも約8個、少なくとも約10個、少なくとも約15個、少なくとも約20個、少なくとも約25個、少なくとも約30個、少なくとも約32個、少なくとも約35個、少なくとも約40個、少なくとも約44個、少なくとも約50個、少なくとも約60個、少なくとも約70個、少なくとも約80個、少なくとも約90個、少なくとも約100個、少なくとも約110個、少なくとも約120個、少なくとも約130個、少なくとも約140個、少なくとも約150ヌクレオチド個の長さ、またはそれよりも多く、および、その中の任意の値または範囲の長さであってよい。
【0064】
一部の実施態様では、スペーサーは、E.coliにおける野生型スペーサーI-E型CRISPRCasシステムの典型的な長さ(例えば、約32個のヌクレオチド長さ)に対して、改変することができる(すなわち、より長く(延長)またはより短くされる)。一部の実施態様では、スペーサーは、標的DNAに相補のさらなるヌクレオチドを含むようにスペーサーの3’末端を延長することによって、より長くされる。したがって、上述のように、一部の態様では、スペーサー配列は、少なくとも約15個のヌクレオチド~約150個のヌクレオチドの長さ、約15個のヌクレオチド~約100個のヌクレオチドの長さ、約20個のヌクレオチド~約150個のヌクレオチドの長さ、約20個のヌクレオチド~約100個のヌクレオチドの長さなど(例えば、約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150個のヌクレオチド、またはその中の任意の範囲または値)である標的ヌクレオチド配列の領域にわたって、完全な相補性または実質的な相補性を有する。一部の態様では、その3’末端におけるスペーサーは、標的DNAの連続するヌクレオチドの一部に対して、完全な相補または実質的に相補であってよい(例えば、少なくとも約20、30、40、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99%またはそれよりも高い)。
【0065】
代表的な実施態様では、本発明のII型CRISPRリピート-スペーサー核酸のスペーサー配列は、少なくとも約16個のヌクレオチドを含み、前記スペーサーの3’末端において、前記の少なくとも約16個のヌクレオチドの少なくとも約10個の連続するヌクレオチドは、標的核酸の10個の連続するヌクレオチドと少なくとも約90%の相補性を有し、ここで、標的核酸は、目的の生物のゲノム内のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列に隣接する。
【0066】
代表的な実施態様では、本発明のI型CRISPRリピート-スペーサー核酸のスペーサー配列は、少なくとも約15個のヌクレオチドを含み、前記スペーサーの5’末端において、前記の少なくとも約15個のヌクレオチドの少なくとも約7個の連続するヌクレオチドは、標的核酸の7個の連続するヌクレオチドと少なくとも約90%相補性を有し、ここで、標的核酸は、目的の生物のゲノム内のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列に隣接する。
【0067】
本明細書において用いられる、2つの核酸分子、ヌクレオチド配列またはタンパク質配列の関連における語句「実質的に同一」または「実質的な同一性」は、以下の配列比較アルゴリズムの1つを用いた測定または目視検査により、最大一致に関して比較およびアライメントした場合、少なくとも約70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、および/または100%のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の同一性を有する2以上の配列またはサブシーケンスを指す。特定の実施態様では、実質的な同一性は、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95、96、96、97、98、または99%同一性を有する2以上の配列またはサブシーケンスを指し得る。
【0068】
本明細書において用いられる、2つの核酸分子またはヌクレオチド配列の関連における語句「実質的に相補」、または、「実質的な相補性」は、以下の配列比較アルゴリズムの1つを用いた測定または目視検査により、最大一致に関して比較およびアライメントした場合、少なくとも約70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、および/または100%のヌクレオチド相補性を有する2以上の配列またはサブシーケンスを指す。特定の実施態様では、実質的な相補性は、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95、96、96、97、98、または99%の相補性を有する2以上の配列またはサブシーケンスを指し得る。
【0069】
配列比較のために、典型的に、1つの配列は、試験配列が比較される参照配列としての役割がある。配列比較アルゴリズムを用いる場合、試験および比較配列がコンピューターに入力され、必要な場合はサブシーケンス座標が指定されて、配列アルゴリズムプログラムパラメーターが指定される。それから、配列比較アルゴリズムは、指定されたプログラムパラメーターに基づき、参照配列に対する試験配列(単数または複数)のパーセント配列同一性を計算する。
【0070】
比較ウインドウを並べるための最適な配列アライメントは当業者に広く知られ、Smith and Watermanのローカル相同性アルゴリズム、Needleman and Wunschの相同性アライメントアルゴリズム、Pearson and Lipmanの類似性検索方法などのツールにより、および場合により、GCG(登録商標)Wisconsin Package(登録商標)(Accelrys Inc.,San Diego,CA)の一部として利用可能なGAP、BESTFIT、FASTA、および、TFASTAなどのアルゴリズムのコンピューター実施により、行ない得る。試験配列および参照配列のアライメントされた区分の「同一性分数」は、2つの並べられた配列が共有する同一の構成要素の数を、参照配列セグメント(すなわち、参照配列全体または参照配列のより小さな規定部分)内の構成要素の全数で割った数である。パーセント配列同一性は、同一性分数に100をかけて表される。1つまたは複数のポリヌクレオチド配列の比較は、全長ポリヌクレオチド配列またはその一部に対して、または、より長いポリヌクレオチド配列に対して、され得る。本発明の目的に関し、「パーセント同一性」は、翻訳ヌクレオチド配列のためのBLASTX version 2.0およびポリヌクレオチド配列のためのBLASTN version 2.0を用いて決定されてもよい。
【0071】
BLAST解析を行なうためのソフトウェアは、国立生物工学情報センターを通じて一般に利用可能である。このアルゴリズムは、データベース配列内の同じ長さのワードと並べた場合に、一部の正の値の閾値スコアTと一致する、または満たす、クエリー配列内の長さWのショートワードを特定することにより、高スコア配列ペア(HSP)を最初に特定するステップを含む。Tは、隣接ワードスコア閾値と呼ばれる(Altschul et al.,1990)。これらの最初の隣接ワードヒットは、それらを含むより長いHSPを見つけるためのサーチを始める種として作用する。それから、ワードヒットは、累積アライメントスコアが増加し得る限り、各配列に沿って両方向に伸びる。累積スコアは、ヌクレオチド配列について、パラメーターM(一致する残基のペアに関する恩恵スコア;常に>0)およびN(ミスマッチ残基に関するペナルティスコア;常に<0)を用いて計算される。アミノ酸配列については、スコアマトリックスを用いて累積スコアを計算する。各方向でのワードヒットの伸長は、累積アライメントスコアがその最大達成値から量X低下した場合、1つまたは複数の負のスコアの残基アライメントの蓄積に起因して累積スコアが0以下になった場合、または、いずれかの配列が終わりに到達した場合に、停止する。BLASTアルゴリズムパラメーターW、T、およびXは、アライメントの感度および速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列)は、デフォルトとして、ワード長(W)11、期待値(E)10、カットオフ100、M=5、N=-4、および両方の鎖の比較を使用する。アミノ酸配列に関しては、BLASTPプログラムは、デフォルトとして、ワード長(W)3、期待値(E)10、およびBLOSUM62スコアマトリックスを使用する(Henikoff&Henikoff,Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:10915(1989)を参照)。
【0072】
パーセント配列同一性の計算に加え、BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性の統計分析も行う(例えば、Karlin&Altschul,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA90:5873 5787 (1993)を参照)。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性の1つの評価基準は最小和確率(P(N))であり、2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間で一致が偶然に生じる確率の示度を提供する。例えば、参照ヌクレオチド配列に対する試験ヌクレオチド配列の比較における最小和確率が約0.1未満~約0.001未満である場合に、試験核酸配列は参照配列と類似すると考えられる。したがって、本発明の一部の実施態様では、参照ヌクレオチド配列に対する試験ヌクレオチド配列の比較における最小和確率は、約0.001未満である。
【0073】
本明細書において用いられる「標的DNA」、「標的ヌクレオチド配列」、「標的領域」、または、「ゲノム内の標的領域」は、CRISPRアレイ内のスペーサー配列と完全に相補または実質的に相補である(例えば、少なくとも70%相補(例えば、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれよりも高い))生物のゲノムの領域を指す。一部の実施態様では、標的領域は、生物のゲノムにおいて、PAM配列(標的領域のすぐ3’に配置されたPAM配列)にすぐ隣接して配置された、約10~約40個の連続するヌクレオチドの長さであってよい。
【0074】
一部の態様では、標的ヌクレオチド配列は、PAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)に近接または隣接して位置する。PAMは、特定のCRISPR-Casシステムに特異的であることが多いが、PAM配列は、確立された実験的および計算的なアプローチを通して当業者により決定され得る。したがって、例えば、実験的なアプローチは、標的DNAのインビトロ切断(Patanayak et al.2013.Nat.Biotechnol.31:839-843)または標的プラスミドDNAの形質転換(Esvelt et al.2013.Nat.Methods 10:1116-1121;Jiang et al.2013.Nat.Biotechnol.31:233-239)などを介して、全てのあり得るヌクレオチド配列が隣接する配列を標的化するステップ、および、標的化を受けない配列メンバーを同定するステップを含む。一部の態様では、計算的なアプローチは、天然のスペーサーのBLASTサーチを行なってバクテリオファージまたはプラスミド内のオリジナルの標的DNA配列を同定するステップ、および、これらの配列を並べて標的配列に近接する保存配列を決定するステップを含み得る(Briner and Barrangou.2014.Appl.Environ.Microbiol.80:994-1001;Mojica et al.2009.Microbiology 155:733-740)。
【0075】
本明細書において用いられる「トランス活性化CRISPR(tracr)核酸」または「tracr核酸」は、任意のtracrRNA(またはそのコードするDNA)を指す。tracr核酸は、5’から3’に、バルジ、ネクサスヘアピン、および末端ヘアピン、および場合により、5’末端に、上側ステムを含む(Briner et al.(2014)Molecular Cell.56(2):333-339を参照)。tracr核酸は、成熟または未熟crRNAのリピート部分へのハイブリダイズにおいて機能し、Cas9タンパク質を標的部位へ動員し、そして、構造的再配列を誘導することによってCas9の触媒活性を促進し得る。tracrRNAに関する配列は、CRISPR-Casシステムに特異的であり、可変であってよい。公知または後に同定される任意のtracr核酸を、本発明で使用することができる。一部の実施態様では、tracr核酸をCRISPRアレイと融合して単一ガイド核酸を形成することができ、したがって、tracr核酸およびCRISPRアレイは、単一ガイドとして導入することができる。
【0076】
本発明の任意のポリヌクレオチド、ヌクレオチド配列および/または組み換え核酸分子(例えば、CRISPRアレイを含むポリヌクレオチド、本発明の異種メチルトランスフェラーゼ、Cascadeポリペプチド、Cas9ポリペプチド、Cas3ポリペプチド、Cas3’ポリペプチド、Cas3’’ポリペプチド、組み換えI型およびII型CRISPR-Casシステムなどをコードするポリヌクレオチド)は、任意の目的の種における発現のためにコドン最適化され得る。コドン最適化は当技術分野で広く知られていて、種特異的なコドン使用頻度を用いたコドン使用バイアスに関するヌクレオチド配列の改変を含む。コドン使用頻度は、目的の種に関して最も高く発現される遺伝子の配列解析に基づいて作られる。ヌクレオチド配列が核内で発現される場合、コドン使用頻度は、目的の種に関して高発現の核遺伝子の配列解析に基づいて作られる。ヌクレオチド配列の改変は、種特有のコドン使用頻度を、天然のポリヌクレオチド配列に存在するコドンと比較することにより決定される。当該分野において理解されるように、ヌクレオチド配列のコドン最適化は、ネイティブのヌクレオチド配列と100%未満の同一性(例えば、50%、60%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%など)を有するが、依然としてオリジナルのヌクレオチド配列によりコードされるものと同一の機能を有するポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列を生じさせる。したがって、本発明の代表的な実施態様では、本発明のヌクレオチド配列および/または組み換え核酸分子は、特定の目的の生物/種での発現のためにコドン最適化され得る。
【0077】
一部の実施態様では、本発明の組み換え核酸分子、ヌクレオチド配列およびポリペプチドは、「単離される」。「単離された」核酸分子、「単離された」ヌクレオチド配列または「単離された」ポリペプチドは、人の手によりその天然環境から離れて存在し、したがって天然の産物ではない、核酸分子、ヌクレオチド配列またはポリペプチドである。単離された核酸分子、ヌクレオチド配列またはポリペプチドは、天然起源の生物またはウイルスの他の構成要素の少なくとも一部、例えば、細胞またはウイルスの構造上の構成要素、または、ポリヌクレオチドと関連して一般に見いだされる他のポリペプチドまたは核酸から、少なくとも部分的に切り離された、精製された形態で存在し得る。代表的な実施態様では、単離された核酸分子、単離されたヌクレオチド配列および/または単離されたポリペプチドは、少なくとも約1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、またはそれよりも高い純度である。
【0078】
他の実施態様では、単離された核酸分子、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、非天然の環境(例えば組み換え宿主細胞)内に存在し得る。したがって、例えばヌクレオチド配列に関しては、用語「単離された」は、それが天然に生じる染色体および/または細胞から切り離されることを意味する。また、ポリヌクレオチドは、それが天然に生じる染色体および/または細胞から切り離され、それから、それが天然に生じない遺伝的状況、染色体および/または細胞(例えば、異なる宿主細胞、異なる制御配列、および/または天然に見られるのと異なるゲノム内の位置)に挿入される場合もまた、単離される。したがって、ポリヌクレオチドおよびそれらのコードされるポリペプチドは、人の手により、それらの天然環境から離れて存在し、したがって、天然の産物ではない点で「単離される」が、一部の実施態様では、組み換え宿主細胞内に導入され存在することができる。
【0079】
本発明のさらなる実施態様では、tracr核酸および/またはCRISPRアレイを含むポリヌクレオチド、または、および、異種メチルトランスフェラーゼ、Cas9ポリペプチド、Cas3ポリペプチド、Cas3’ポリペプチド、Cas3’’ポリペプチド、Cascadeポリペプチドおよび/またはI型およびII型CRISPR-Casシステムをコードするポリヌクレオチドは、様々なプロモーター、ターミネーター、および、様々な生物または細胞における発現に関する他の調節エレメントと作動可能に関連することができる。したがって、代表的な実施態様では、少なくとも1つのプロモーターおよび/またはターミネーターは、本発明のポリヌクレオチドに動作可能に連結することができる。本発明で有用な任意のプロモーターを用いることができ、例えば、制限されないが、本明細書に記載の構成的、誘導性、発生学的に調節されたものなどを含む、目的の生物と機能性のプロモーターを含む。本明細書において用いられる調節エレメントは、内因性または異種であってよい。一部の実施態様では、対象生物由来の内因性調節エレメントを、天然には生じない遺伝的コンテキストに挿入することができ(例えば、天然に見られるのとは異なるゲノム内の位置)、それにより、組み換えまたは非ネイティブの核酸を生産する。
【0080】
本明細書において用いられる「動作可能に連結」または「動作可能に関連」は、示された因子が互いに機能的に関連し、また一般に、物理的にも関連することを意味する。したがって、本明細書において用いられる用語「動作可能に連結」または「動作可能に関連」は、機能的に関係がある単一核酸分子上のヌクレオチド配列を指す。したがって、第二のヌクレオチド配列に動作可能に連結された第一のヌクレオチド配列は、第一のヌクレオチド配列が、第二のヌクレオチド配列と機能的関係で配置される状況を意味する。例えば、プロモーターがヌクレオチド配列の転写または発現を果たす場合に、プロモーターは前記ヌクレオチド配列と動作可能に関連する。当業者は、制御配列(例えばプロモーター)は、制御配列がその発現を方向付けるように機能する限り、それが動作可能に関連するヌクレオチド配列と隣接している必要はないことを理解するだろう。したがって、例えば、介在する非翻訳でなお転写される配列が、プロモーターとヌクレオチド配列との間に存在してよく、プロモーターは依然としてヌクレオチド配列に「動作可能に連結」していると考えることができる。
【0081】
「プロモーター」は、プロモーターと動作可能に関連するヌクレオチド配列の転写を制御または調節するヌクレオチド配列(すなわち、コード配列)である。コード配列は、ポリペプチドおよび/または機能性RNAをコードし得る。典型的に、「プロモーター」は、RNAポリメラーゼに関する結合部位を含むヌクレオチド配列を指し、転写の開始を管理する。一般に、プロモーターは、5’または対応するコード配列のコード領域のスタートに対して上流に見られる。プロモーター領域は、遺伝子発現のレギュレーターとして作用する他のエレメントを含んでよい。これらは、限定されないが、-35エレメントコンセンサス配列および-10コンセンサス配列を含む(Simpson.1979.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.76:3233-3237)。
【0082】
プロモーターは、本発明のポリヌクレオチドおよび組み換え核酸構築物を含む、組み換え核酸構築物ポリヌクレオチド、発現カセットおよびベクターの調製での使用のための、例えば、構成的、誘導性、時間的に調節された、発生学的に調節された、化学的に調節された、プロモーターを含んでよい。これらの様々なタイプのプロモーターは、当技術分野で知られている。
【0083】
したがって、一部の実施態様では、本発明の構築物の発現は、目的の生物で機能性の適切なプロモーターに作動可能に結合している本発明の組み換え核酸構築物を用いて、構成的な、誘導性の、時間的に調節された、発生学的に調節された、化学的に調節された、プロモーターによりなされ得る。代表的な実施態様では、抑制は、例えば目的の生物で機能性の誘導性プロモーターに作動可能に結合している本発明の組み換え核酸構築物を用いて、可逆的になされ得る。
【0084】
プロモーターの選択は、発現のための定量的、時間的および空間的要求に応じて変化し、および、形質転換される宿主細胞にも応じて変化する。多くの異なる生物のためのプロモーターは、当該分野でよく知られている。当該分野に存在する広範囲の知識に基づき、適切なプロモーターを、特定の目的宿主生物のために選択することができる。したがって、例えば、モデル生物において、高度に構成的に発現される遺伝子の上流のプロモーターについて多くが知られ、そのような知識は、必要に応じて、他のシステムで容易に利用および実施することができる。
【0085】
本発明で有用な例示的なプロモーターは、細菌において機能性のプロモーターを含む。細菌で有用なプロモーターは、制限されないが、L-アラビノース誘導性(araBAD、PBAD)プロモーター、任意のlacプロモーター、L-ラムノース誘導性(rhaPBAD)プロモーター、T7RNAポリメラーゼプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、λファージプロモーター(p、p-9G-50)、アンヒドロテトラサイクリン-誘導性(tetA)プロモーター、trp、lpp、phoA、recA、proU、cst-1、cadA、nar、lpp-lac、cspA、T7-lacオペレーター、T3-lacオペレーター、T4遺伝子32、T5-lacオペレーター、nprM-lacオペレーター、Vhb、プロテインA、コリネ細菌-E.coli様のプロモーター、thr、hom、ジフテリア毒素プロモーター、sigA、sigB、nusG、SoxS、katb、α-アミラーゼ(Pamy)、Ptms、P43(2つのオーバーラップするRNAポリメラーゼσ因子認識部位、σA、σBからなる)、Ptms、P43、rplK-rplA、フェレドキシンプロモーター、および/またはキシロースプロモーターを含み得る(K.Terpe Appl.Microbiol,Biotechnol.72:211-222(2006);Hannig et al.Trends in Biotechnology 16:54-60(1998);および、Srivastava Protein Expr Purif 40:221-229(2005)を参照)。
【0086】
本発明の一部の実施態様では、誘導性プロモーターを用いることができる。したがって、例えば、化学的に調節されるプロモーターを用いて、外因性の化学的レギュレーターの適用を介して生物での遺伝子発現を調節することができる。化学的に調節されるプロモーターを介した、本発明のヌクレオチド配列の発現の調節は、本発明のRNAおよび/またはポリペプチドが、例えば、生物が誘導性化学物質で処理された場合にのみ合成されるのを可能にする。目的に応じて、プロモーターは、化学物質の適用が遺伝子の発現を誘導する場合は化学物質-誘導性プロモーターであってよく、または、化学物質の適用が遺伝子発現を抑制する場合は、化学物質-抑制性プロモーターであってよい。一部の態様では、プロモーターは、光の特定の波長の適用が遺伝子発現を誘導する場合は、光-誘導性プロモーターを含んでもよい(Levskaya et al.2005.Nature 438:441-442)。
【0087】
一部の実施態様では、本発明の核酸構築物は、「発現カセット」であってよく、または、発現カセット内に含まれてよい。本明細書において用いられる「発現カセット」は、本発明の1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む組み換え核酸構築物を意味し、ここで、前記組み換え核酸構築物は、少なくとも1つの制御配列(例えば、プロモーター)と動作可能に関連する。したがって、本発明の一部の態様は、本発明のポリヌクレオチドを発現するように設計された発現カセットを提供する。
【0088】
目的のヌクレオチド配列を含む発現カセットは、キメラであってよく、それの構成要素の少なくとも1つが、それの他の構成要素の少なくとも1つに対して異種であることを意味する。また、発現カセットは、天然起源であるが異種発現に有用である組み換え型で得られたものであってもよい。
【0089】
また、発現カセットは、場合により、選択された宿主細胞内で機能性の転写および/または翻訳終結領域(すなわち終結領域)を含んでもよい。様々な転写終結因子が発現カセットでの使用に利用可能であり、目的の異種ヌクレオチド配列を超えた(beyond)転写の終結および正しい(correct)mRNAのポリアデニル化に関与する。終結領域は、転写開始領域に対してネイティブであり得て、動作可能に連結された目的のヌクレオチド配列に対してネイティブであり得て、宿主細胞に対してネイティブであり得て、または、別の起源(すなわち、プロモーターに対して、目的のヌクレオチド配列に対して、宿主、またはそれらの任意の組み合わせに対して、外因または異種)に由来し得る。本発明の一部の実施態様では、ターミネーターは、本発明の組み換え核酸分子およびCRISPRアレイに動作可能に連結することができる。
【0090】
また、発現カセットは、形質転換された宿主細胞を選択するために用いることのできる選択可能なマーカーをコードするヌクレオチド配列を含むこともできる。本明細書において用いられる「選択可能なマーカー」は、発現した場合に、マーカーを発現している宿主細胞に、区別できる表現型を与え、したがって、そのマーカーを有さないものからそのような形質転換された細胞が区別されるのを可能にする、ヌクレオチド配列を意味する。そのようなヌクレオチド配列は、マーカーが、化学的手段により、例えば選択剤(例えば抗生物質など)を用いることにより、選択することのできる形質を与えるかどうか、または、マーカーが単に、例えばスクリーニング(例えば蛍光)による、観察または試験を介して同定することのできる形質であるかどうかに応じて、選択可能なマーカーまたはスクリーニング可能なマーカーのいずれかをコードし得る。もちろん、適切な選択可能なマーカーの多くの例が当該分野で知られていて、本明細書に記載の発現カセットにおいて用いることができる。
【0091】
発現カセットに加えて、本明細書に記載の組み換えポリヌクレオチド(例えば、tracr核酸および/またはCRISPRアレイを含むポリヌクレオチド、および、本発明の異種メチルトランスフェラーゼ、Cascadeポリペプチド、Cas9ポリペプチド、Cas3ポリペプチド、Cas3’ポリペプチド、Cas3’’ポリペプチド、組み換えI型およびII型CRISPR-Casシステムをコードするポリヌクレオチドなど)は、ベクターと連結して使用することができる。用語「ベクター」は、核酸(単数または複数)を細胞に移行、送達または導入するための組成物を指す。ベクターは、移行、送達または導入されるヌクレオチド配列(単数または複数)を含む核酸分子を含む。宿主生物の形質転換での使用のためのベクターは、当該分野でよく知られている。ベクターの全般的なクラスの非限定的な例は、限定されないが、二本鎖または一本鎖の直鎖または環状型の、ウイルスベクター、プラスミドベクター、ファージベクター、ファージミドベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、バクテリオファージ、人工染色体、またはアグロバクテリウムバイナリーベクターを含み、自己で伝達または動員が可能であってよく、または不可能であってよい。本明細書に定義されるベクターは、細胞ゲノムへの組込みにより原核生物宿主を形質転換することができ、または、染色体外に存在することができる(例えば、複製起点を有する自己複製プラスミド)。さらにシャトルベクターが含まれ、それは、天然または設計によって、2つの異なる宿主生物における複製が可能なDNAビヒクル、例えば、広範囲の宿主プラスミド、または、多数の複製起点を有するシャトルベクターを指す。一部の代表的な実施態様では、ベクター内の核酸は、宿主細胞での転写のための適切なプロモーターまたは他の調節エレメントの制御下であり、作動可能に連結されている。ベクターは、複数の宿主内で機能する二機能性発現ベクターであり得る。ゲノムDNAの場合は、これは、それ自身のプロモーターまたは他の調節エレメントを含み得て、cDNAの場合は、これは、宿主細胞での発現のための適切なプロモーターまたは他の調節エレメントの制御下であり得る。したがって、本発明の組み換えポリヌクレオチドおよび/または本発明の組み換えポリヌクレオチドを含む発現カセットは、本明細書に記載されて当技術分野で知られているように、ベクター内に含まれ得る。
【0092】
本明細書において用いられる用語「接触させる(contacting)」、「導入する(introducing)」、「送達する(delivering)」および「投与する(administering)」は、例えば、宿主細胞のメチル化活性を変更するため、または、導入された(異種/外因的な)CRISPRアレイの少なくとも1つのスペーサーと実質的な相補性を有する標的DNAを含む細胞を死滅させるために、本発明の組み換えポリヌクレオチドが細胞に送達されるプロセスを指し得る。したがって、目的のポリヌクレオチドの関連において、目的のポリヌクレオチドの関連における用語「接触させる」、「導入する」、「送達する」および「投与する」(およびそれらの文法的変形)は、ポリヌクレオチドが細胞内部へのアクセスを獲得して、「形質転換」、「トランスフェクション」、および/または、「形質導入」のような用語を含むような様式で、目的のポリヌクレオチドを、宿主生物または前記生物の細胞(例えば、細菌細胞のような宿主細胞)に提示することを意味する。1つよりも多いポリヌクレオチドが導入される場合は、これらのポリヌクレオチドは、単一のポリヌクレオチドまたは核酸構築物の一部として、または、別個のポリヌクレオチドまたは核酸構築物として集めることができ、同一または異なる発現構築物または形質転換ベクター上に配置することができる。したがって、これらのポリヌクレオチドは、単一の形質転換イベントおよび/または別個の形質転換イベントで細胞中に導入することができる。したがって、本発明の一部の態様では、本発明の1つまたは複数のポリヌクレオチドは、宿主細菌の細胞中に導入することができる。
【0093】
本明細書において用いられる用語「形質転換」、「トランスフェクション」、および「形質導入」は、細胞への異種ポリヌクレオチドの導入を指す。細胞へのそのような導入は、安定または一過的であり得る。したがって、一部の実施態様では、宿主細胞または宿主生物は、本発明の核酸分子により安定的に形質転換される。他の実施態様では、宿主細胞または宿主生物は、本発明の組み換え核酸分子により一過的に形質転換される。
【0094】
ポリヌクレオチドの関連における「一過的な形質転換」は、ポリヌクレオチドが細胞に導入されて、細胞のゲノム内に組み込まれないことを意味する。
【0095】
細胞内に導入されるポリヌクレオチドの関連における「安定に導入される(stably introducing)」または「安定に導入された(stably introduced)」は、導入されたポリヌクレオチドが細胞のゲノム内に安定的に取り込まれ、したがって、細胞がポリヌクレオチドで安定的に形質転換されることを意図する。
【0096】
本明細書において用いられる「安定した形質転換」または「安定的に形質転換される」は、核酸分子が細胞内に導入されて、細胞のゲノム内に組み込まれることを意味する。したがって、組み込まれた核酸分子は、その子孫により、より具体的には、複数の後に続く世代の子孫により、受け継がれることが可能である。また、本明細書において用いられる「ゲノム」は、核およびプラスチドゲノムも含み、したがって、例えばプラスミドゲノムへの核酸構築物の組込みを含む。また、本明細書において用いられる安定した形質転換は、染色体外に例えばミニ染色体またはプラスミドとして維持される導入遺伝子も指し得る。
【0097】
一過的な形質転換は、例えば、生物内に導入された1つまたは複数の導入遺伝子によりコードされるペプチドまたはポリペプチドの存在を検出することのできる酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)またはウエスタンブロットにより、検出され得る。細胞の安定した形質転換は、例えば、生物(細菌など)に導入された導入遺伝子のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズする核酸配列を用いた、細胞のゲノムDNAのサザンブロットハイブリダイゼーションアッセイにより、検出することができる。細胞の安定した形質転換は、例えば、前記細胞に導入された導入遺伝子のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズする核酸配列を用いた、細胞のRNAのノーザンブロットハイブリダイゼーションアッセイにより、検出することができる。また、細胞の安定した形質転換は、例えば、導入遺伝子の標的配列(単数または複数)とハイブリダイズする特異的なプライマー配列を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または当技術分野でよく知られている他の増幅反応により検出することもでき、導入遺伝子配列の増幅をもたらし、標準的な方法に従って検出することができる。また、形質転換は、当技術分野でよく知られているダイレクトシーケンスおよび/またはハイブリダイゼーションのプロトコルにより検出することもできる。
【0098】
したがって、一部の実施態様では、本発明のポリヌクレオチド配列、核酸構築物、発現カセット、および/または、ベクターは、一時的に発現され得て、および/または、それらは宿主生物のゲノム中に安定的に組み込まれ得る。
【0099】
本発明のポリヌクレオチドは、当業者に公知の任意の方法によって細胞中に導入することができる。例示的な形質転換の方法は、コンピテント細胞のエレクトロポレーションを介する形質転換、コンピテント細胞による受動的取り込み、コンピテント細胞の化学的形質転換、ならびに、細胞中への核酸の導入をもたらす任意の他の電気的、化学的、物理的(機械的)および/または生物学的なメカニズムを含み、それらの任意の組み合わせを含む。
【0100】
本発明の一部の実施態様では、細胞の形質転換は、核の形質転換を含む。本発明の一部の実施態様では、細胞の形質転換は、プラスミドの形質転換およびコンジュゲーションを含む。
【0101】
原核生物を形質転換する手順は広く知られていて当該分野においてルーチンであり、文献全体を通して記載される(例えば、Jiang et al.2013.Nat.Biotechnol.31:233-239;Ranetal.Nature Protocols 8:2281-2308(2013)を参照)。
【0102】
したがって、ヌクレオチド配列は、当該分野でよく知られている任意の数の方法で、宿主生物またはその細胞に導入することができる。本発明の方法は、1つまたは複数のヌクレオチド配列が生物内に導入されるためには、それらが細胞の内部に接近しさえすれば、特定の方法に依存しない。1個よりも多いヌクレオチド配列が導入される場合は、それらは、単一の核酸構築物の一部として、または別個の核酸構築物として、集まることができ、同一または異なる核酸構築物上に位置することができる。したがって、ヌクレオチド配列は、単一の形質転換イベントで、または別個の形質転換イベントで、目的の細胞内に導入することができる。
【0103】
本発明者らは、異種DNAをバクテリオファージゲノム中に組み込むための、simABC、imcB/coi、res-mod、darA、phd-doc、kilA、tRNA1、2、cixL、cixRおよびIs1を含む、新規の組込み部位を同定している。さらに、本発明者らは、驚くべきことに、導入された異種ポリヌクレオチド(単数または複数)を含むものを含むファージDNAは、標的宿主細菌と実質的に類似するメチル化パターン(R-M系)を有する生産宿主細菌内でファージを増殖させることによって、標的宿主細菌に実質的に類似するようにメチル化され得ることを見いだしている。ファージの効率的なメチル化は、(例えば、P1について)パッケージの前の、または、一本鎖DNA(例えばM13)のパッケージングに関する、ファージDNAの迅速な複製に起因して予期されず、あるいは、DNAパッケージングの前のメチル化を防ぐことが予期される。
【0104】
したがって、一部の態様では、本発明は、バクテリオファージDNAおよびファージミドDNAのメチル化パターンを改変するための方法および組成物に関する。
【0105】
したがって、一部の実施態様では、本発明は、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAのメチル化パターンを改変するインビボの方法を提供し、(1)生産宿主細菌の内因性制限修飾系(R-M系)の少なくとも1つの酵素の活性を破壊するステップ(それにより、破壊された内因性R-M系の少なくとも1つの酵素の活性を有する改変された生産宿主細菌を生産する)、および/または(2)生産宿主細菌に、少なくとも1つの異種メチルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを導入するステップ(それにより、異種メチルトランスフェラーゼを発現する改変された生産宿主細菌を生産する);変更されたメチル化活性を有する改変された生産宿主細菌に、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を感染させるステップ(それにより、前記のバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAをメチル化する);および、コントロール生産宿主細菌において増殖されたバクテリオファージと比較して、改変されたメチル化パターンを有するバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を生産するステップ(ここで、コントロール生産宿主細菌は、本明細書に記載の変更されたそのメチル化活性を有していない)を含む、生産宿主細菌のメチル化活性を改変するステップを含む。
【0106】
一部の態様では、感染させるステップは、生産宿主細菌のメチル化活性を変更するステップの前に行なってよい。したがって、一部の態様では、本発明は、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAのメチル化パターンを改変するインビボの方法を提供し:変更されたメチル化活性を有する改変された生産宿主細菌に、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を感染させるステップ(それにより、前記のバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAをメチル化する);以下を含む生産宿主細菌のメチル化活性を変更するステップ、(1)生産宿主細菌の内因性制限修飾系(R-M系)の少なくとも1つの酵素の活性を破壊するステップ(それにより、破壊された内因性R-M系の少なくとも1つの酵素の活性を有する改変された生産宿主細菌を生産する)、および/または(2)生産宿主細菌に、少なくとも1つの異種メチルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを導入するステップを含む(それにより、異種メチルトランスフェラーゼを発現する改変された生産宿主細菌を生産する);および、コントロール生産宿主細菌において増殖されたバクテリオファージと比較して、改変されたメチル化パターンを有するバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を生産するステップ、を含む(ここで、コントロール生産宿主細菌は、本明細書に記載の変更されたそのメチル化活性を有していない)。
【0107】
バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAのメチル化パターンを改変するインビボの方法がさらに提供されて:生産宿主細菌に、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を感染させるステップ(ここで、生産宿主細菌は、内因性R-M系の少なくとも1つの酵素の破壊および/または少なくとも1つの異種メチルトランスフェラーゼの発現を介して変更されたメチル化活性を有し、それにより、前記のバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAをメチル化する);および、コントロール生産宿主細菌において増殖されたバクテリオファージと比較して、改変されたメチル化パターンを有するバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を生産するステップを含む(ここで、コントロール生産宿主細菌は、本明細書に記載の変更されたそのメチル化活性を有していない)。
【0108】
一部の実施態様では、生産宿主細菌の2以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15個など)の内因性制限修飾系の酵素が、破壊されてよく、または、活性が変更されてよい。
【0109】
生産宿主細菌は、任意のグラム陽性またはグラム陰性細菌であってよい。したがって、一部の実施態様では、生産宿主細菌は、制限されないが、Escherichia coli、Bacillus subtilis、Lactobacillus rhamnosus、Salmonella enteria、Streptococcus thermophilus、Listeria、CampylobacterまたはStaphylococcus aureusを含む。代表的な実施態様では、生産宿主細菌は、E.coliであってよい。さらなる実施態様では、生産宿主細菌は、E.coliの株MG1655、BW25113、BL21、TOP10、またはMG1655 Δdam Δdcm ΔhsdRMSであってよい。
【0110】
本発明の一部の実施態様では、生産宿主細菌のメチル化活性は改変されない。したがって、一部の実施態様では、そのメチル化活性を変更するように改変されていない生産宿主細菌に、組み換えバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を感染させることができる。
【0111】
任意の公知または後に同定されるバクテリオファージDNAを本発明で用いることができる。一部の実施態様では、バクテリオファージDNAは、溶原性またはテンペレートバクテリオファージ由来であってよい。一部の実施態様では、バクテリオファージDNAは、ファージミドと組み合わせる場合、溶菌性バクテリオファージ由来であってよい。
【0112】
一部の実施態様では、バクテリオファージDNAは、テンペレートバクテリオファージ由来であってよい。しかしながら、UV曝露、飢餓、温度変更、誘導性化学物質の存在、および/または、溶菌性転写因子の誘導性発現のようなイベントは、新たなファージの増殖を引き起こす溶菌サイクルを誘導し得る。本発明の一部の実施態様では、バクテリオファージDNAは、制限されないが、P1ファージ、M13ファージ、λファージ、T4ファージ、PhiC2ファージ、PhiCD27ファージ、PhiNM1ファージ、Bc431v3ファージ、ファージ、Phi10ファージ、Phi25ファージ、Phi151ファージ、A511様ファージ、B054、01761様ファージ、またはカンピロバクターファージ(例えば、NCTC12676およびNCTC12677)のDNAを含んでよい。一部の実施態様では、生産宿主細菌は、グラム陰性細菌であってよく、バクテリオファージDNAは、例えば、P1ファージ、M13ファージ、λファージ、Phi10、Phi25、Phi151、カンピロバクターファージ(例えば、NCTC12676およびNCTC12677)、またはT4ファージであってよい。他の実施態様では、生産宿主細菌は、グラム陽性細菌であってよく、バクテリオファージDNAは、例えば、PhiC2ファージ、PhiCD27ファージ、PhiNM1ファージ、B054、01761様ファージ、またはBc431v3ファージであってよい。
【0113】
任意の公知または後に同定されるファージミドDNAを本発明で用いてよい。一部の実施態様では、本発明で有用なファージミドDNAは、制限されないが、P1ファージミド、M13ファージミド、λファージミド、T4ファージミド、PhiC2ファージミド、PhiCD27ファージミド、PhiNM1ファージミド、Bc431v3ファージミド、Phi10ファージミド、Phi25ファージミド、Phi151ファージミド、A511様ファージミド、B054、01761様ファージミド、カンピロバクターファージミド(例えば、NCTC12676およびNCTC12677)のDNAを含んでよい。
【0114】
内因性R-M系の酵素の活性は、ポリペプチドの機能および活性の破壊に関して当技術分野でよく知られているまたは後に開発される方法を用いて破壊され得る。そのような方法は、限定されないが、点突然変異(例えば、ミスセンス、またはナンセンス、または、フレームシフトをもたらす単一塩基対の挿入または欠失)、挿入、欠失、および/またはトランケーションの生成を含んでよい。一部の実施態様では、ポリペプチド阻害剤を用いて、細菌の制限修飾系(R-M系)の酵素の活性を破壊または抑制してよい。そのようなポリペプチド阻害剤は、当技術分野で知られている。ポリペプチド阻害剤は、例えば、バクテリオファージDNA、ファージミドDNA内にコードされてよく、および/または、バクテリオファージ粒子内にタンパク質としてパッケージされてよい。例えば、P1ファージは、E.coliで見られるI型制限酵素を阻害する2つのポリペプチド阻害剤をコードする(Lobocka et al.J.Bacteriol.186、7032-7068(2004))。一部の実施態様では、内因性R-M系は、ポリペプチド阻害剤、宿主メチル化酵素の活性を刺激して送達されたDNAのメチル化および保護を加速するポリペプチドの、導入によって阻害または破壊され得る。
【0115】
R-M系酵素の阻害剤は、限定されないが、REase(制限エンドヌクレアーゼ)を分解するタンパク質を含み、それにより、宿主R-M酵素システムがファージDNAを切断するのを防止する。内因性の細菌のR-M系酵素の活性を破壊または改変するために本発明で使用され得るR-M酵素阻害剤の非限定的な例は、(a)I型R-M系の全ての主なクラスを阻害するタンパク質ArdAを生産するEnterococcus faecalis由来のorf18;および、(b)I型R-M酵素EcoKIを隔離するタンパク質Ocrを生産するバクテリオファージT7由来のgp0.3を含む。R-M系の酵素の活性をブロックするために用いられ得るタンパク質のさらなる非限定の例は、マスキングタンパク質を含む。マスキングタンパク質は、ファージ頭部にパッケージされて、そして、DNA注入の際にファージDNAに結合し、それにより、R-M認識部位をマスキングする。本発明で有用なマスキングタンパク質の非限定的な例は、DarAおよびDarBタンパク質を含む(Iida et al.Virology.157(1):156-66(1987))。これらのタンパク質は、溶菌サイクル中にP1バクテリオファージによって発現されて、頭部にパッケージされる。宿主細菌へのDNA注入の際に、それらは結合して、I型R-M認識部位をマスクする。
【0116】
追加的または選択的に、生産宿主細菌の内因性R-M系は、少なくとも1つの異種メチルトランスフェラーゼの発現を通して変更/改変され得る。生産宿主細菌のメチル化パターンが標的細菌のメチル化パターンと実質的に類似するように生産宿主細菌の内因性メチル化パターンを変更する任意のメチルトランスフェラーゼを、本発明で使用することができる。異種メチルトランスフェラーゼは、標的細菌株として生産宿主細菌と実質的に類似するメチル化パターンを与える限り、同一または異なる生物由来であってよい。本発明で有用なDNA MTaseの非限定的な例は、lactococciにおいてII型R-M系に対して保護するために導入され得る、ファージΦ50由来のLlaPIを含む(McGrath et al.Applied Environmental Microbiology.65:1891-1899(1999))。個々のメチルトランスフェラーゼによって与えられるメチル化パターンは、それから、Pacbio SMRTシーケンシングのような確立されたDNAシーケンシング技術を用いて評価される(O’Loughlin et al.PLoS One.2015:e0118533.)。生産された時点で、生産株は、標的株へのDNA送達のためのバクテリオファージ粒子を生産するために用いられる。
【0117】
さらなる異種DNA改変酵素は、標的細菌のR-M系と実質的に類似する生産宿主細菌のR-M系が作られるように、生産宿主細菌において発現され得る。この目的に有用な、そのようなDNA改変酵素の例は、DNA内のアデニン残基をアセトアミドアデニンに変換するポリペプチドをコードするものを含む。バクテリオファージDNA内のアデニン残基をアセトアミドアデニンに変換するポリペプチドは、アデニンメチル化に感受性の制限酵素に対してDNAを保護する。生産宿主細菌において、DNA内のアデニン残基をアセトアミドアデニンに変換することのできるポリペプチドの非限定的な例は、ファージMuおよびMu様プロファージ配列由来のmom遺伝子を含み(Haemophilusin fluenzae Rd(FluMu)、Neisseria meningitidis A型Z2491株(Pnme1)およびH.influenzaeバイオタイプaegyptius ATCC11116;(Drozdz et al.Nucleic Acids Res.40(5):2119-30(2012)を参照)、それは、アデニン残基をN(6)-メチルアデニンに変換して、それにより、アデニン感受性制限酵素に対して保護する。
【0118】
一部の実施態様では、本明細書に記載のポリペプチド阻害剤および他のDNA改変酵素をコードするポリヌクレオチドは、送達されたDNAを標的宿主細菌のR-M系から保護する使用のために、ファージゲノムに直接的に導入され得る。
【0119】
細菌にバクテリオファージ粒子を感染させるプロセスはよく知られていて、例えば、細菌宿主細胞を、バクテリオファージ粒子と、規定の条件下でインキュベートするステップを含んでよい。細菌宿主細胞における複製に続いて、溶菌サイクルが、制限されないが、UV曝露、飢餓、温度変更、または、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を得るための溶菌性転写因子の誘導性発現を含む異なる確立された方法を通して引き起こされ得る。
【0120】
本発明は、さらに、バクテリオファージおよびファージミドを介して異種DNAを導入する効率を増大させるための、本発明のバクテリオファージ粒子の使用のための方法および組成物に関する。したがって、一部の実施態様では、少なくとも1つの目的の異種核酸は、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNA中に導入され得る。異種ポリヌクレオチドをバクテリオファージDNAまたはファージミドDNA中に導入するための方法は、当技術分野でよく知られている。一部の実施態様では、少なくとも1つの目的の異種核酸は、バクテリオファージDNA中に、例えば、相同組み換えを介して導入され得て、一方で、バクテリオファージDNAは、宿主細菌(例えば、生産宿主細菌)内、または、標準的なクローニング技術を介してファージミドDNA中にある。
【0121】
一部の実施態様では、前記の少なくとも1つの目的の異種核酸は、レポーター遺伝子(例えば、gfp、lacZ)、抗生物質耐性マーカー(例えば、cat、bla)、代謝経路(例えばカロテノイド生合成)における1つまたは複数のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、遺伝子レギュレーター(例えば、dCas9、tetR)、および/または、任意の内因性遺伝子のさらなるコピー(例えば、過剰発現のため)であってよい。
【0122】
したがって、一部の実施態様では、本発明は、目的の異種核酸を、標的宿主細菌中に、バクテリオファージを介して導入する効率を増大させる方法を提供し、少なくとも1つの目的の異種核酸を、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNA中に、生産宿主細菌の感染の前に導入するステップ(ここで、生産宿主細菌は、内因性R-M系の少なくとも1つの酵素を破壊するように、および/または、少なくとも1つの異種メチルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを含むように、改変されていて、それにより、前記のバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAをメチル化する)、および、(前記の変更されたメチル化活性を有さない生産宿主細菌において生産されるバクテリオファージまたはファージミドDNAと比較して)改変されたメチル化パターンを有する前記の少なくとも1つの目的の異種核酸を含む組み換えバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを生産するステップ;前記の少なくとも1つの目的の異種核酸を含む前記の組み換えバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を生産するステップ;および、標的宿主細菌に、前記バクテリオファージ粒子を感染させるステップ、を含む(ここで、標的宿主細菌は、生産宿主細菌のものと実質的に類似するメチル化パターン(またはR-M系(単数または複数)を有し、それにより、コントロール生産宿主細菌において増殖したバクテリオファージを用いて前記の目的の異種核酸を導入するのと比較して、前記標的宿主細菌中に前記の目的の異種核酸を導入する効率を増大させる)(ここで、コントロール生産宿主細菌は、標的宿主細菌のものと実質的に類似するように変更されたそのメチル化活性を有していない)。一部の態様では、生産宿主細菌は、バクテリオファージによる感染後に、そのR-M系を変更する(例えば、内因性R-M系の少なくとも1つの酵素を破壊する、および/または、少なくとも1つの異種メチルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを含む)ように、改変され得る。
【0123】
一部の実施態様では、目的の異種核酸を、標的宿主細菌中に、バクテリオファージを介して導入する効率を増大させる方法が提供され、生産宿主細菌に、少なくとも1つの目的の異種核酸を含むバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を感染させるステップ(ここで、生産宿主細菌は、内因性R-M系の少なくとも1つの酵素の破壊および/または少なくとも1つの異種メチルトランスフェラーゼの発現を介して変更されたメチル化活性を有し、それにより、前記のバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAをメチル化する);改変されたメチル化パターンを有し、前記の少なくとも1つの目的の異種核酸を含む/コードする、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を生産するステップ;および、標的宿主細菌に、前記バクテリオファージ粒子を感染させるステップ、を含む(ここで、標的宿主細菌は、生産宿主細菌のものと実質的に類似するメチル化パターン(またはR-M系(単数または複数))を有し、それにより、コントロール生産宿主細菌において増殖されたバクテリオファージを用いて前記の目的の異種核酸を導入するのと比較して、前記標的宿主細菌中へ前記の目的の異種核酸を導入する効率を増大させる)(ここで、コントロール生産宿主細菌は、本明細書に記載の標的宿主細菌のものと実質的に類似するように変更されたそのメチル化活性を有していない)。一部の態様では、生産宿主細菌は、バクテリオファージによる感染後に、そのR-M系を変更する(例えば、内因性R-M系の少なくとも1つの酵素を破壊する、および/または、少なくとも1つの異種メチルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを含む)ように改変され得る。
【0124】
本発明は、さらに、ゲノム標的化CRISPR-Casシステムの送達のための、本発明のバクテリオファージ粒子の使用のための方法および組成物に関する。特定の実施態様では、方法および組成物は、本明細書に記載の改変されたCRISPR-Casシステムを含むバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むテンペレートバクテリオファージを用いた細菌の選択的な死滅のために提供される。
【0125】
したがって、一部の実施態様では、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAは、少なくとも1つの目的の異種核酸によって形質転換され得て、ここで、前記の少なくとも1つの目的の異種核酸は、CRISPRアレイを含む。さらなる実施態様では、CRISPRアレイは、II型CRISPRアレイまたはI型CRISPRアレイであってよい。一部の実施態様では、II型CRISPRアレイは、バクテリオファージDNA中に導入され、ファージミドDNA中には導入されない。一部の実施態様では、I型CRISPRアレイは、バクテリオファージDNA中に導入され、ファージミドDNA中には導入されない。したがって、一部の実施態様では、本発明は、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を提供し、ここで、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAは、CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチドを含み、CRISPRアレイは、リピート-スペーサー-リピート配列、または少なくとも2以上のリピート-スペーサー配列を含み、前記の少なくとも2以上のリピート-スペーサー配列は、少なくとも第一のリピート-スペーサー配列および最後のリピート-スペーサー配列を含み、前記の第一のリピート-スペーサー配列のスペーサーの3’末端は、次のリピート-スペーサー配列のリピートの5’末端に連結され、最後のリピート-スペーサー配列は、3’末端においてリピートに連結される。
【0126】
一部の実施態様では、CRISPRアレイがII型CRISPRアレイである場合、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAは、(a)tracr核酸およびCas9をコードするポリヌクレオチドを含むようにさらに形質転換され得る。したがって、一部の実施態様では、バクテリオファージDNAは、組み換えII型CRISPR-Casシステム(例えば、CRISPRアレイ、tracr核酸、および、Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド)を含むように改変され得る。他の実施態様では、ファージミドDNAは、組み換えII型CRISPR-Casシステムを含むように改変され得る。
【0127】
したがって、一部の実施態様では、本発明は、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を提供し、ここで、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAは、(a)Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;(b)CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチド;およびc)tracr核酸を含む組み換えII型CRISPR-Casシステムを含み、場合により、CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチドおよびtracr核酸は、互いに融合されて、(単一ガイド核酸を形成する(sgRNA、sgDNA)。一部の実施態様では、本発明は、II型CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチドを含むバクテリオファージDNAを含むバクテリオファージ粒子を提供する。さらなる実施態様では、本発明は、II型CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチドおよび/または単一ガイド核酸を含むファージミドDNA(融合されたCRISPRアレイおよびtracr核酸)を含むバクテリオファージ粒子を提供する。
【0128】
一部の実施態様では、II型CRISPR-Casシステムまたはその構成要素は、同一の、または、CRISPRアレイを含むバクテリオファージとは異なる、または互いに異なる、バクテリオファージ内に導入され得る。したがって、例えば、組み換えファージは、標的細菌内に導入され得て、ここで、組み換えファージは、そのDNA内にアレイのみを含む。この場合、標的細菌は、導入されるCRISPRアレイと適合するII型CRISPR-Casシステムを含んでよく、または、II型CRISPR-Casシステムまたはその構成要素は、1つまたは複数のさらなる組み換えバクテリオファージ内に導入され得る。したがって、バクテリオファージは、II型CRISPRアレイ;単一ガイド;Cas9;tracr;II型CRISPRアレイおよびCas9;II型CRISPRアレイおよびtracr;II型CRISPRアレイ、Cas9およびtracr;II型CRISPRアレイおよび単一ガイド;などだけを含むように、および、導入するように、改変され得る。
【0129】
一部の実施態様では、CRISPRアレイがI型CRISPRアレイである場合、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAは、Cas3ポリペプチド、またはCas3’およびCas3’’ポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、および/または、I型Cascadeポリペプチドをコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドを、含むようにさらに形質転換されてよい。したがって、一部の実施態様では、バクテリオファージDNAは、I型CRISPR-Casシステム(例えば、CRISPRアレイ、およびI型ポリペプチド(例えば、Cas3ポリペプチド、またはCas3’およびCas3’’ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および、I型Cascadeポリペプチドをコードする1つまたは複数のポリヌクレオチド)を含むように改変されてよい。他の実施態様では、ファージミドDNAは、I型CRISPR-Casシステムを含むように改変されてよい。したがって、一部の実施態様では、本発明は、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を提供し、ここで、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAは、(a)CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチド;および(b)1つまたは複数のI型CRISPRポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む、組み換えI型CRISPR-Casシステムを含む。一部の実施態様では、本発明は、I型CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチドを含むバクテリオファージDNAを含むバクテリオファージ粒子を提供する。さらなる実施態様では、本発明は、I型CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチドを含むファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を提供する。
【0130】
一部の実施態様では、I型CRISPR-Casシステムまたはその構成要素は、同一の、または、CRISPRアレイを含むバクテリオファージとは異なる、または互いに異なる、バクテリオファージ内に導入され得る。したがって、例えば、組み換えファージは、標的細菌中に導入され得て、ここで、組み換えファージは、そのDNA内に、CRISPRアレイのみを含む。この場合、標的細菌は、導入されるCRISPRアレイと適合するI型CRISPR-Casシステムを含んでよく、または、I型CRISPR-Casシステムまたはその構成要素は、1つまたは複数のさらなる組み換えバクテリオファージ内に導入され得る。したがって、バクテリオファージは、I型CRISPRアレイ;Cas3;1つまたは複数のCascadeポリヌクレオチド;CRISPRアレイおよびCas3、CRISPRアレイおよび1つまたは複数のCascadeポリペプチド;Cas3および1つまたは複数のCascadeポリペプチド;CRISPRアレイ、Cas3、および1つまたは複数のCascadeポリペプチド;などだけを含むように、および、導入するように、改変され得る。
【0131】
一部の実施態様では、組み換えII型CRISPR-Casシステムまたは組み換えI型CRISPR-Casシステムを含むバクテリオファージDNAおよびファージミドDNAは、本明細書に記載のように、そのように改変されないバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAと比較して改変されたDNAメチル化パターンを含むように改変することができ、場合により、改変されたDNAメチル化パターンは、標的宿主細菌の制限修飾系(単数または複数)と実質的に類似する改変されたDNAメチル化パターンを含むバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAをもたらす。したがって、一部の実施態様では、前記の少なくとも1つの目的の異種核酸は、改変されたメチル化活性を有する生産宿主細菌中への前記のバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAの感染の前に、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNA中に導入してよい。そのような様式で、目的の核酸によって形質転換されたバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAは、生産宿主細菌内で複製しながら、宿主細菌メチル化機構によってメチル化される。宿主細胞の再パッケージおよび溶解は、その結果、生産宿主細菌内に存在するものに対応するメチル化パターンを有する前記の少なくとも1つの目的の異種核酸を含むバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を生産する。それから、生産宿主細菌によって生産されたバクテリオファージ粒子を用いて標的宿主細菌を感染することができ、それにより、目的の核酸を標的宿主細菌中に導入する。典型的に、標的宿主細菌は、生産宿主細菌の制限修飾系(単数または複数)(R-M系)と実質的に類似するDNAメチル化パターンを有することに基づいて選択される。あるいは、生産宿主細菌のメチル化活性は、標的宿主細菌のR-M系に実質的に類似するように改変されて、それにより、標的宿主細菌のR-M系(単数または複数)と実質的に類似するメチル化パターンを有するバクテリオファージDNAおよび/またはファージミドDNAを生産するために用いることのできる生産宿主細菌を提供する。したがって、一部の実施態様では、生産宿主細菌のDNAメチル化活性は、本明細書に記載のバクテリオファージ粒子による感染の前に変更されて、それにより、コントロール生産宿主細菌において増殖されたバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAと比較して改変されたメチル化パターンを有する形質転換されたバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を生産する(例えば、コントロール生産宿主細菌は、本明細書に記載の変更されたそのメチル化活性を有していない)。一部の実施態様では、形質転換されたバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAの変更されたメチル化パターンは、標的宿主細菌のメチル化活性(R-M系)に対応してよく、それにより、標的宿主細菌のものに対応しないメチル化パターンを有するバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAと比較して、標的宿主細菌への形質転換されたDNAの送達を増大させる。
【0132】
一部の実施態様では、生産宿主細菌は、標的細菌のものと実質的に類似するメチル化パターンを天然に含んでよい。したがって、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAが生産宿主細菌において生産される場合、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAは、生産宿主細菌ならびに標的宿主細菌の両方のメチル化パターンを有し、それにより、標的宿主細菌のものと実質的に同一でないメチル化パターンを有するバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAと比較して、標的宿主細菌への形質転換されたDNAの送達を増大させる。
【0133】
メチル化パターンは、細菌内に存在するメチル化のタイプ(例えばm4C)、ならびに、メチル化される特定の配列(例えばGmATC)によって判定される。したがって、メチル化パターン間の類似性のレベルは、(天然またはメチル化パターン間の改変の結果であろうと、)標的部位が適切なタイプのメチル化を有する頻度を指す。したがって、実質的に類似するメチル化パターンは、本明細書に記載の適切なタイプのメチル化を有する標的部位の間で、少なくとも約20%またはより高い類似性(例えば、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれよりも高い、またはその中の任意の範囲または値)を有することを意味する。したがって、一部の実施態様では、メチル化パターンは、宿主および標的細菌の間で、約20%~99%またはそれよりも類似してよく、約30%~99%またはそれよりも類似してよく、約40%~99%またはそれよりも類似してよく、約50%~99%またはそれよりも類似してよく、約60%~99%またはそれよりも類似してよく、約70%~99%またはそれよりも類似してよく、約80%~99%またはそれよりも類似してよく、約85%~99%またはそれよりも類似してよく、約90%~99%またはそれよりも類似してよく、または、約95%~99%またはそれよりも類似してよい。標的宿主細菌および導入されたDNA(改変されたバクテリオファージDNA)のメチル化パターンの間の実質的な類似性は、導入されたDNAが、標的宿主細菌と実質的に類似するメチル化パターンを共有しない導入されたDNAのものよりも少なく分解されていることを意味する。一部の実施態様では、宿主細菌および標的細菌のメチル化パターンは、同一であってよい。
【0134】
一部の実施態様では、本発明は、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を提供し、ここで、前記のバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAは、バクテリオファージDNA(ゲノム)中に組み込まれた少なくとも1つの目的の異種核酸、および、標的宿主細菌のR-M系(単数または複数)に実質的に類似する改変されたDNAメチル化パターンを含む。したがって、例えば、(標的宿主細菌のR-M系(単数または複数)と実質的に類似する)改変されたメチル化パターンを有するバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAは、(1)CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチド、または、(a)Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;(b)CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチド;および/またはc)tracr核酸を含む(2)II型CRISPR-Casシステムを含んでよい。一部の実施態様では、CRISPRアレイ(a)およびtracr核酸(c)をコードするポリヌクレオチドは、互いに融合することができる。さらなる実施態様では、(標的宿主細菌のR-M系(単数または複数)に実質的に類似する)改変されたメチル化パターンを有するバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAは、(1)CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチド、または、(a)CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチド;および/または(b)1つまたは複数のI型CRISPRポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む(2)組み換えI型CRISPR-Casシステムを含んでよい。一部の実施態様では、前記の少なくとも1つの目的の異種核酸は、組込みの不必要な部位または組込みの相補部位において、バクテリオファージDNA(例えば、ゲノム)中に組み込むことができる。
【0135】
本明細書において用いられる「不必要な部位」は、バクテリオファージゲノムの維持、ファージ粒子の生産、および、パッケージされたDNAの送達に必要でないバクテリオファージDNAまたはゲノム内の部位を意味する。したがって、そのような機能を行なうのに必要でないバクテリオファージゲノム内の任意の部位は、目的の核酸をバクテリオファージゲノム中に組み込むための「ランディング」部位として用いることができる。バクテリオファージゲノム内の一部の例示的な不必要な部位は、限定されないが、(a)ファージによってコードされる制限修飾系(例えば、P1ファージ内のres/mod)、(b)重複感染をブロックする遺伝子(例えば、simABC)、(c)制限修飾系の阻害剤(例えば、P1ファージ内のdarA)、(d)挿入配列エレメント(例えば、P1ファージ内のIS1)、(e)アディクションシステム(例えば、P1ファージ内のphd/doc)または(f)それらの任意の組み合わせを含んでよい。
【0136】
本明細書において用いられる「相補部位」または「相補可能部位」は、バクテリオファージゲノムの維持、ファージ粒子の生産、および、パッケージされたDNAの送達に必要であるが、目的の核酸の組込み(組込みの相補部位)によって破壊された核酸をコードする相補するポリヌクレオチドによって相補され得る、バクテリオファージDNAまたはゲノム内の必要不可欠な部位を意味する。相補するポリヌクレオチドは、生産宿主細菌のゲノム中に組み込まれてよく、または、生産宿主細菌内のプラスミド上に含まれてよい。したがって、目的の核酸がバクテリオファージDNAの相補部位に組み込まれる場合、宿主細菌は、プラスミド上またはそのゲノム内に、バクテリオファージ内の相補部位に対する相補体(complement)をコードするポリヌクレオチドを含んでよい。例示的な相補部位は、限定されないが、(a)溶菌サイクルのアクチベーター(例えば、P1ファージ内のcoi)、(b)溶菌遺伝子(例えば、P1ファージ内のkilA)、(c)tRNA(例えば、P1ファージ内のtRNA1、2)、(d)粒子成分(例えば、P1ファージ内のcixL、cixR尾部繊維遺伝子)、または(e)それらの任意の組み合わせを含んでよい。
【0137】
したがって、一部の実施態様では、組み換えI型CRISPR-Casシステム、組み換えII型CRISPR-Casシステム、CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチド(I型またはII型)および/またはtracr核酸、1つまたは複数のI型CRISPRポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、および/または、Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、バクテリオファージDNA内の不必要な部位に組み込むことができる。一部の実施態様では、組み換えI型CRISPR-Casシステム、組み換えII型CRISPR-Casシステム、CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチド(I型またはI型)および/またはtracr核酸、1つまたは複数のI型CRISPRポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、および/または、Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、バクテリオファージDNA内の相補部位に組み込むことができ、ここで、バクテリオファージに対する宿主細菌は、プラスミド上またはそのゲノム内に、バクテリオファージ内の相補部位をコードするポリヌクレオチドを含む(例えば、CRISPRポリヌクレオチドが組み込まれているファージゲノム内の部位に相補の遺伝子)。
【0138】
本明細書において用いられる「I型ポリペプチド」は、任意のCas3ポリペプチド、Cas3’ポリペプチド、Cas3’’ポリペプチド、および、抗ウイルス防御のためのI型Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats(CRISPR)関連複合体(「Cascade」)ポリペプチドの任意の1つまたは複数を指す。したがって、用語「I型ポリペプチド」は、I-A型CRISPR-Casシステム、I-B型CRISPR-Casシステム、I-C型CRISPR-Casシステム、I-D型CRISPR-Casシステム、I-E型CRISPR-Casシステム、および/または、I-F型CRISPR-Casシステムを構成するポリペプチドを指す。それぞれのI型CRISPR-Casシステムは、少なくとも1つのCas3ポリペプチドを含む。Cas3ポリペプチドは、一般に、ヘリカーゼドメインおよびHDドメインの両方を含む。しかしながら、一部のI型CRISPR-Casシステムでは、ヘリカーゼおよびHDドメインは、別個のポリペプチド、Cas3’およびCas3’’に見られる。具体的には、Cas3’はヘリカーゼドメインをコードし、一方で、Cas3’’はHDドメインをコードする。その結果として、両方のドメインがCas3機能に必要であるので、I型サブタイプは、Cas3(I-C、I-D、I-E、I-F)またはCas3’およびCas3’’(I-A、I-B)のいずれかをコードする。
【0139】
本明細書において用いられる「I型Cascadeポリペプチド」は、I型CRISPR-Casシステムにおける、pre-crRNAのプロセッシングおよびその後の標的DNAに対する結合に関与するポリペプチドの複合体を指す。これらのポリペプチドは、限定されないが、I型サブタイプI-A、I-B、I-C、I-D、I-EおよびI-FのCascadeポリペプチドを含む。I-A型ポリペプチドの非限定的な例は、Cas7(Csa2)、Cas8a1(Csx13)、Cas8a2(Csx9)、Cas5、Csa5、Cas6a、Cas3’および/またはCas3’’を含む。I-B型ポリペプチドの非限定的な例は、Cas6b、Cas8b(Csh1)、Cas7(Csh2)および/またはCas5を含む。IC型ポリペプチドの非限定的な例は、Cas5d、Cas8c(Csd1)、および/またはCas7(Csd2)を含む。ID型ポリペプチドの非限定的な例は、Cas10d(Csc3)、Csc2、Csc1、および/またはCas6dを含む。I-E型ポリペプチドの非限定的な例は、Cse1(CasA)、Cse2(CasB)、Cas7(CasC)、Cas5(CasD)および/またはCas6e(CasE)を含む。I-F型ポリペプチドの非限定的な例は、Cys1、Cys2、Cas7(Cys3)および/またはCas6f(Csy4)を含む。したがって、本発明の一部の実施態様では、本発明で有用なI型Cascadeポリペプチドは、CRISPRアレイを処理して、処理されたRNAを生産して、それからそれは、複合体を、処理されたRNA内のスペーサーに相補なDNAと結合するために用いられる。一部の実施態様では、獲得に関与するI型Cascadeポリペプチドは、本発明の核酸分子内に含まれない(例えば、Cas1、Cas2、Cas4)。当技術分野で知られているI型CRISPR-Casシステム由来のCascadeポリペプチドの任意のそのようなサブセット、または、のちに発見されるものは、本発明の核酸構築物内に含まれ得る。そのようなポリペプチドは、例えば、BLAST検索を介して同定され得る。
【0140】
したがって、一部の実施態様では、バクテリオファージ粒子は、I型CRISPRアレイおよび/または(i)Cas7(Csa2)ポリペプチド、Cas8a1(Csx13)ポリペプチドまたはCas8a2(Csx9)ポリペプチド、Cas5ポリペプチド、Csa5ポリペプチド、Cas6ポリペプチド、Cas3’ポリペプチド、およびCas3’’ポリペプチド(I-A型);(ii)Cas6bポリペプチド、Cas8b(Csh1)ポリペプチド、Cas7(Csh2)ポリペプチド、Cas5ポリペプチド、Cas3’ポリペプチド、およびCas3’’ポリペプチド(I-B型);(iii)Cas5dポリペプチド、Cas8c(Csd1)ポリペプチド、Cas7(Csd2)ポリペプチド、およびCas3ポリペプチド(I-C型);(iv)Cas10d(Csc3)ポリペプチド、Csc2ポリペプチド、Csc1ポリペプチド、およびCas6dポリペプチド、およびCas3ポリペプチド(I-D型);(v)Cse1(CasA)ポリペプチド、Cse2(CasB)ポリペプチド、Cas7(CasC)ポリペプチド、Cas5(CasD)ポリペプチド、Cas6e(CasE)ポリペプチド、およびCas3ポリペプチド(I-E型);または(iv)Cys1ポリペプチド、Cys2ポリペプチド、Cas7(Cys3)ポリペプチド、Cas6fポリペプチドおよび/またはCas3ポリペプチド(I-F型)を含むバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含んでよい。代表的な実施態様では、バクテリオファージ粒子は、I型CRISPRアレイおよび1つまたは複数のI-E型Cascadeポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド(すなわち、Cse1(CasA)ポリペプチド、Cse2(CasB)ポリペプチド、Cas7(CasC)ポリペプチド、Cas5(CasD)ポリペプチド、Cas6e(CasE)ポリペプチド、Cas3ポリペプチド)を含むバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含んでよい。
【0141】
「Cas9ヌクレアーゼ」は、CRISPR-Cas II型システムにおいて二本鎖DNA切断を触媒する大きなグループのエンドヌクレアーゼを指す。これらのポリペプチドは、当技術分野でよく知られていて、それらの構造(配列)の多くが特徴付けられている(例えば、WO2013/176772;WO/2013/188638を参照)。二本鎖DNAの切断を触媒するためのドメインは、RuvCドメインおよびHNHドメインである。RuvCドメインは、(-)鎖にニックを入れるのを担い、HNHドメインは、(+)鎖にニックを入れるのを担う(例えば、Gasiunas et al.PNAS 109(36):E2579-E2586(2012年9月4日)を参照)。
【0142】
一部の実施態様では、CRISPRアレイ、tracr核酸、Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、Cas3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、Cas3’ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、Cas3’’ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および/または、1つまたは複数のI型CRISPRポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドは、プロモーターに動作可能に連結されてよい。一部の実施態様では、前記の少なくとも1つのポリヌクレオチドが、1つまたは複数のI型CRISPRポリペプチドをコードする少なくとも2つのポリヌクレオチドを含む場合、前記の少なくとも2つのポリヌクレオチドは、単一のプロモーターまたは別個のプロモーターに動作可能に連結されてよい。
【0143】
一部の実施態様では、CRISPRアレイおよびtracr核酸は、単一のプロモーターまたは異なるプロモーターに動作可能に連結されてよい。一部の実施態様では、CRISPRアレイおよびtracr核酸が互いに融合される場合、CRISPRアレイおよびtracr核酸をコードする融合ポリヌクレオチドは、単一のプロモーターに動作可能に連結されてよい。一部の実施態様では、1つまたは複数のI型CRISPRポリペプチドをコードする前記の少なくとも1つのポリヌクレオチドの少なくとも2つは、融合されて単一のポリヌクレオチドを形成してよく、それは場合により、プロモーターに動作可能に連結されてよい。一部の実施態様では、1型Cascadeポリペプチドは、単一オペロン内に含まれてよく、場合により、プロモーターに動作可能に連結される。さらなる実施態様では、Cas3ポリペプチド、Cas3’ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および/または、Cas3’’ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、I型Cascadeポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに融合されてよく、前記融合ポリヌクレオチドは、プロモーターに動作可能に連結されてよく、それは発現の際に、融合ポリペプチドを生産する。代表的な実施態様では、Cas3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、Cse1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに融合されてよい。
【0144】
加えて、本発明は、本発明の任意の方法によって生産されるバクテリオファージ粒子を提供する。一部の実施態様では、バクテリオファージ粒子は、バクテリオファージDNAを含む。他の実施態様では、バクテリオファージ粒子は、ファージミドDNAを含む。さらなる実施態様では、バクテリオファージ粒子は、ファージミドDNAを含まない。一部の実施態様では、本発明は、バクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むバクテリオファージ粒子を提供し、それは、標的宿主細菌の制限修飾系(単数または複数)と実質的に類似する改変されたDNAメチル化パターンを含む。
【0145】
さらに本明細書において提供されるのは、CRISPR-Casシステムの少なくともCRISPRアレイを含むバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含むように改変された本発明のバクテリオファージ粒子を用いて、細菌(すなわち、標的細菌)を選択的に死滅させる方法である。一部の実施態様では、バクテリオファージDNAおよび/またはファージミドDNAがCRISPRアレイのみを含む場合、標的細菌宿主は、活性のCRISPR-Casシステム(例えば、少なくともtracr核酸およびCas9ポリペプチド(II型CRISPR-Casシステム)、または少なくともCas3ポリペプチド、Cas3’ポリペプチドおよび/またはaCas3’’ポリペプチドおよび少なくともCascadeポリペプチドのサブセット(I型CRISPR-Casシステム))を含んでよい。他の実施態様では、バクテリオファージ粒子のバクテリオファージDNAおよび/またはファージミドDNAは、CRISPRアレイ、tracr核酸および/またはCas9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または、CRISPRアレイ、少なくともCas3ポリペプチド、Cas3’ポリペプチドおよび/またはCas3’’ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および、少なくともCascadeポリペプチドのサブセットをコードするポリペプチドを含む。
【0146】
一部の実施態様では、細菌を選択的に死滅させるために用いられるバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAは、天然または本明細書に記載のように改変されたかのいずれかで、標的細菌のものに実質的に類似するメチル化パターンを含む。
【0147】
したがって、本発明は、少なくとも1つの標的細菌種または株を選択的に死滅させる方法を提供し、前記の少なくとも1つの標的細菌種または株を、CRISPRアレイを含む組み換えCRISPR-CasシステムまたはCRISPRアレイをコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含むバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含む本発明のバクテリオファージ粒子と、接触させるステップを含み、ここで、CRISPRアレイは、前記の少なくとも1つの標的細菌種または株内の標的DNAと実質的な相補性(例えば、少なくとも約70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%相補性、またはその中の任意の範囲または値)を有する少なくとも1つのスペーサーを含む。一部の実施態様では、前記のバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAは、前記の少なくとも1つの標的細菌種または株内の標的DNAと100%相補性を有する少なくとも1つのスペーサーを含む。
【0148】
一部の実施態様では、バクテリオファージ粒子は、I型CRISPRアレイまたはII型CRISPRアレイのみを含むバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含み、標的細菌宿主は、活性の内因性CRISPR-Cas I型またはII型システムを有する任意の細菌種または株であってよい。活性のCRISPR-Cas I型またはII型システムを有する例示的な細菌種または株は、Francisella tularensis(II-A型)、Mycobacterium tuberculosis(I、III型)、Novicida meningitidis(II-C型)、Pseudomonas aeruginosa(I-F型)、Staphylococcus aureus(II-A型)、Streptococcus pyogenes(II-A型)、Pectobacterium atrosepticum(I-F型)、および/または、Streptococcus thermophilus(II-A型)を含む。他の実施態様では、バクテリオファージ粒子は、組み換えI型CRISPR-Casシステムまたは組み換えII型CRISPR-Casシステムを含むバクテリオファージDNAまたはファージミドDNAを含み、宿主細菌は、内因性CRISPR-Cas I型またはII型システムを有してよく、または有さなくてよく、したがって、宿主細菌は、標的DNAを含む任意の細菌宿主であってよい。
【0149】
例示的な実施態様では、標的DNAは、標的株、種、または属に特有であってよく;異なる株、種、または属間で共有されてよく;ほとんどの細菌内に存在してよく;および/または、抗生物質耐性遺伝子、病原性遺伝子、および/または、病原性アイランド内であってよい。一部の実施態様では、バクテリオファージ粒子は、標的細菌種または株とは異なる細菌種または株において生産または生成され得る。
【0150】
一部の実施態様では、細菌は、例えば、ヒト、動物、植物において/に対して、および、農業、医業および/または産業の状況(例えば、発酵)において、標的化され得る。一部の実施態様では、本発明のバクテリオファージ粒子は、細菌株を完全に除去するための、または、その存在を滴定するための方法で使用され得る。
【0151】
ここで、本発明を、以下の実施例に関して説明する。これらの実施例は、本発明に対する特許請求の範囲の制限を意図しないが、むしろ、特定の実施態様の例示であることを意図することが理解されるべきである。当業者が想到する例示された方法における任意の変型は、本発明の範囲内であることが意図される。
【実施例0152】
実施例1.宿主細菌のメチル化活性およびファージDNAのメチル化パターンの改変
Escherichia coli MG1655またはBacillus subtilis 168などの宿主生産株のメチル化パターンを、その内因性制限修飾系を欠失させて異種メチルトランスフェラーゼ遺伝子を導入することによって変更する。制限修飾遺伝子は、当技術分野で知られている手段、例えば、オンラインREBASEデータベース(Roberts et al.Nucleic Acids Res43:D298-D299.http://dx.doi.org/10.1093/nar/gku1046)を通して同定される。これらの制限修飾系は、当技術分野で知られている標準的な組み換え技術戦略を用いて欠失することができる。欠失した時点で、構成的または誘導性プロモーターの制御下で、外来メチルトランスフェラーゼ遺伝子を複製プラスミドに挿入し、または、宿主ゲノムに組み換える。これらの遺伝子は、天然配列または生産宿主のためにコドン最適化された配列を用いて標的株から直接得られる。あるいは、異種メチルトランスフェラーゼ遺伝子を用いて、標的株と類似するメチル化パターンを与えることができる。個々のメチルトランスフェラーゼによって与えられたメチル化パターンを、それから、PacBio SMRTシーケンシング(O’Loughlin et al.PLoS One.2015:e0118533.)のような確立されたDNAシーケンシング技術を用いて評価する。生産された時点で、生産株を用いて、標的株へのDNA送達のためのバクテリオファージ粒子を生産する。
【0153】
M13ファージおよびP1ファージを用いて、ファージミド(M13)およびファージゲノム(P1)の送達に対するメチル化の影響を示す。M13ファージは、ファージディスプレイに関するその広範囲の用途に基づく確立されたファージミドシステムを有する(Pande et al.Biotechnol.Adv.28、849-858(2010))。システムは、f1起点を含む(container)プラスミドを効率的にパッケージするヘルパープラスミドの使用に基づく。それから、細胞は、ファージ粒子を構成的に生産し、集めて標的株に投与することができる。粒子は、F1線毛を認識し、それは、株がFプラスミドを保有することを必要とする。P1ファージは、M13よりもさらにいっそう複雑な、良く特徴付けられたファージである(Lobocka et al.J.Bacteriol.186、7032-7068(2004))。P1ファージに関する溶菌サイクルを動かすために、我々は、別個のプラスミドからcoi遺伝子を発現させた。
【0154】
M13ファージミドに関する改善された送達を示す:そのR-M系を無傷で全て有する(MG1655)、一部を有する(TOP10)、または有さない(MG1655 Δdam Δdcm ΔhsdRMS)E.coliにおいて調製されたM13ファージの力価を試験する。ファージを、MG1655 Δdam Δdcm ΔhsdRMSにおいて試験して、力価における潜在的可変性を評価し、それから、MG1655においてDNAメチル化の影響を評価する。ファージミド内の抗生物質耐性マーカーは、抗生物質耐性コロニーの数に基づき送達の読み出しとして役立つ。送達効率は、MG1655 Δdam Δdcm ΔhsdRMSに入る(going into)場合と同様であると予測されるが、MG1655に入る場合、MG1655に関して非常に上昇すると予測される。
【0155】
腸管出血性E.coliへのM13ファージミドの送達:M13ファージミドを、EHECの株(腸管出血性E.coli)に送達する。EHECは、MG1655よりも多くのR-M系を保有し、M13ファージミドの取り込みが低いことが示されている。EHEC由来のII型メチルトランスフェラーゼを、MG1655 Δdam Δdcm ΔhsdRMS株内で発現して、ファージミドを含むM13粒子を生産する。それから、粒子を、MG1655 Δdam Δdcm ΔhsdRMSおよびFプラスミドを保有するEHEC株に投与し、抗生物質耐性であるコロニーの数をカウントする。導入されたメチルトランスフェラーゼは、MG1655 Δdam Δdcm ΔhsdRMSコロニーの数に影響を及ぼさないと予測されるが(同様の粒子力価を示す)、EHECコロニーの数を非常に増大させると予測される(メチルトランスフェラーゼに起因する改善された効率を示す)。
【0156】
P1ファージに関する改善された送達を示す:上述のものと類似するアプローチを、P1CMファージを用いて続ける。主な違いは、P1ゲノム内のdmtメチラーゼ遺伝子がさらに破壊されることである。我々は、EC135においてP1溶原菌を生成することを既に試していて、それは、液体培養において細胞溶解をもたらした。いくらかの量のメチル化が必要であると予測され;しかしながら、所定の位置のこのメチル化により、さらなるタイプのメチル化を導入して、P1ゲノムの送達効率を改善することができる。
【0157】
実施例2.細菌を選択的に死滅させるための、CRISPR-Casシステムを含むバクテリオファージおよびファージミドDNA
P1ファージおよびM13ファージミドを用いて、細菌の選択的な死滅のためのCRISPR-Casシステムの担体としてのバクテリオファージおよびファージミドDNAの使用を試験する。P1ファージは、ファージ生物学の古典的モデルである(Lobocka et al.J.Bacteriol.186,7032-7068(2004))。そして一般に、ゲノムDNAの一部を形質導入するために用いられる(Ikeda&Tomizawa.J.Mol.Biol.14,85-109(1965))。ファージミドは、P1に関して開発されていて(Westwater,Microbiol.Read.Engl.148,943-950(2002)、様々なグラム陰性細菌にDNAを送達するために、および、大きなDNAライブラリーを形質導入するための手段として、用いられている(Kittleson et al.ACS Synth.Biol.1,583-589(2012);Kaiser&workin,Science 187,653-654(1975)。我々は、現在のところ、coi遺伝子を誘導的に発現する別個のプラスミドおよび野生型P1ファージを有する株を持っている。P1ファージは、正常な増殖条件下で溶原性である。coi遺伝子の発現は、ファージを溶菌サイクルに駆り立て、ファージ粒子を作る。
【0158】
M13ファージミドは、F1複製起点およびファージ機構の残りをコードするヘルパープラスミドを含むファージミドに依拠する。M13による感染はF-線毛を必要とし、それは通常、一部のE.coli株に見られるFプラスミドから発現される。M13は、ファージディスプレイに関する標準的なプラットフォームとなっている(Pande et al.Biotechnol.Adv.28,849-858(2010))。
【0159】
I型CRISPR-Casシステムを用いた標的化した死滅:E.coli由来のI-E型CRISPR-Casシステム全体またはBacillus halodurans由来のI-C型CRISPR-Casシステムは、M13ファージミド中にコードされて、E.coliの標的化した死滅を示すために用いられる。標的株内に存在する抗生物質耐性遺伝子を用いて、このシステムを用いた選択的な死滅を示す。効率的な感染を確実にするために、標的株は、Fプラスミドもコードする。ファージ粒子を、標的細胞に投与して、細胞をプレーティングして、生存可能コロニーをカウントする。システムの送達は、ファージ無しまたは非標的化ファージと比較して、コロニーの数の大幅な減少をもたらすことが予測される。
【0160】
P1ゲノム内の組込み部位の同定:相同組み換えを用いて、抗生物質耐性マーカーを、P1ゲノム内の異なる位置に組み込む。位置は、不必要および/または相補部位、例えば(a)ファージによってコードされる制限修飾系(例えば、P1ファージ内のres/mod)、(b)重複感染をブロックする遺伝子(例えば、simABC)、(c)制限修飾系の阻害剤(例えば、P1ファージ内のdarA)、(d)挿入配列エレメント(例えば、P1ファージ内のIS1)、(e)アディクションシステム(例えば、P1ファージ内のphd/doc)、(f)溶菌サイクルのアクチベーター(例えば、P1ファージ内のcoi)、(g)溶菌遺伝子(例えば、P1ファージ内のkilA)、(h)tRNA(例えば、P1ファージ内のtRNA1、2)、(i)粒子成分(例えば、P1ファージ内のcixL、cixR尾部繊維遺伝子)、または(j)それらの任意の組み合わせを含む。
【0161】
相補部位に関しては、欠失遺伝子(単数または複数)を、pBAD18誘導性発現システムにクローニングする。それぞれの場合において、細胞溶解を、導入後に評価して(溶菌サイクルがまだ活性であるというサイン)、それから、形質導入粒子の数を、形質導入後の抗生物質耐性コロニーに基づいて測定する。この研究の全ては、E.coliにおいて行なわれる。
【0162】
P1ファージに、CRISPR-Casシステムの構成要素を持たせる:これらのアプローチをとるべきである:
1.P1に、I型またはII型CRISPR-Casシステムを発現している株への送達のためのリピート-スペーサー-リピートを持たせる。
2.P1に、CRISPR-Cas9(例えば、Sth1 Cas9およびsgRNA(tracr核酸に融合されたCRISPRアレイ))を持たせる。
3.P1に、E.coli I-E型システムまたはB.halodurans I-C型システムを持たせる。
【0163】
それぞれのアプローチのために、構築物は、抗生物質耐性マーカーを有する相同組み換えを用いて組み込まれる。CRISPRアレイは、生産株には存在しないが標的株内に存在する別個の抗生物質耐性マーカーを標的化するように設計される。それから、ファージ粒子を標的株に投与して、生存可能コロニーの数をカウントする。設計されたファージは、ファージ無しまたは非標的化ファージと比較して生存可能コロニーの数が非常に減ることが予測される。
【0164】
効率的な異株間および異種間の送達および死滅:設計されたファージの1つ(例えばP1)を、改変されたメチル化パターンを有するE.coliの生産株(例えばMG1655 Δdam Δdcm ΔhsdRMS)において生産する。これは、標的株(例えばKlebsiella pneumoniae、Psuedomonas aeruginosa、E.coli O157:H7)由来の異種メチルトランスフェラーゼ遺伝子または同様のメチル化パターンを産生することが知られる他の株由来のメチルトランスフェラーゼ(例えば、オンラインREBASEデータベースに挙げられるメチルトランスフェラーゼ)を導入することによって達成される。バクテリオファージは、内因性CRISPR-Casシステム(例えば、Pseudomonas aeruginosaにおけるI-F型システム)と適合するCRISPRアレイをコードするように、および、ゲノム内の少なくとも1つのPAM隣接部位を標的化するように、設計される。あるいは、バクテリオファージは、完全なCRISPR-Casシステム(例えば、I-E型Cascade遺伝子およびcas3およびI-E型CRISPRアレイ)をコードするように設計される。それから、ファージ粒子は、(例えば、P1に関するcoiを誘導的に発現することによって、または、M13に関する繊維状ファージの構成的生産を通して)生産されて、宿主とは違う異なる標的株を感染するために用いられる。例えば、ファージを用いて、DNAをKlebsiella pneumoniaeまたはShigella flexneriに送達する。送達は、選択マーカーを導入することによって、および、ファージに関する異なる多重感染度で行なわれる。死滅の程度は、液体培養の濁度の増大の停止またはコロニー形成単位の数の低減に基づいて測定される。標的株は、ファージを用いて選択的に死滅されて、一方で、非標的株は死滅を免れる。さらに、死滅効率は、標的株と実質的に類似するように改変されたそのメチル化パターンを有する生産株において生産されるバクテリオファージに関して高い(そのR-M系または任意の加えられたメチルトランスフェラーゼに対していかなる改変も有さない生産株に対して)。
【0165】
P1ファージに関する方法
A.ファージミドによる送達
1.P1ファージミドは、P1バクテリオファージゲノム由来の以下の構成要素をコードするプラスミドである(coi、cin、repL、pacA遺伝子)。
2.ファージミドは、Gibsonクローニングを通して、CRISPR-Casシステム構成要素を導入するように改変される(CRISPRアレイ単独、または、cas遺伝子とともに)
3.P1ファージミド-CRISPR-Casが構築された時点で、プロトコルファージミド-CRISPR-Casパッケージングを用いて、P1バクテリオファージにパッケージされる。
4.標的化プロトコルを用いて細菌株を標的化および除去するために、ファージミド-CRISPR-Casが用いられる。
【0166】
B.改変されたP1バクテリオファージによる送達
1.P1バクテリオファージは、そのゲノム中に、バクテリオファージ機能を破壊しないように選択された規定の位置内にCRISPR-Casシステム構成要素をクローニングすることによって改変され、これらの位置は、例えば、:
a.coi遺伝子の所定の位置(溶菌サイクルを引き起こすのを担う)。
b.coi遺伝子およびimcB遺伝子の両方の所定の位置(coi-icmB;両方とも、溶菌サイクルを引き起こすのを助ける)。
c.包含部位を有する。
2.coi遺伝子は、P1バクテリオファージゲノムから増幅されて、pBad18プラスミド中にクローニングされる。
3.P1-CRISPR-CasファージおよびpBad18-coiが株内に共存する場合は、coiの発現が誘導されて、プロトコルP1-CRISPR-Casパッケージングに従って、ファージ粒子が生産される
4.生産された溶解物は、100%P1-CRISPR-Casファージを含むことが予測されて、プロトコル標的化に従って標的株を死滅させるために用いられる。
【0167】
C.CRISPR-Cas構成要素クローニング
1.一般に、CRISPR-Cas構成要素は、P1バクテリオファージゲノムまたはファージミドのいずれかにクローニングされる必要がある。クローニングされる構成要素は、標的株に依拠する。
2.標的株が活性のCRISPR-Casシステムを含む場合は、クローニングする構成要素は、ゲノム標的化CRISPR RNA(例えば、CRISPRアレイ、リピートスペーサー-リピート)を発現しているDNAのみである。図1の概要を参照。
3.標的株が活性のCRISPR-Casシステムを含まない場合は、クローニングする構成要素は、ゲノム標的化CRISPR RNA(例えば、CRISPRアレイ、tracr核酸)およびcas遺伝子(例えば、Cas9、Cas3、Cas3’、Cas3’’、および/またはCascadeポリペプチド)に関するDNAの両方を含む。図1の概要を参照。
4.ファージミド中へのクローニングは、Gibsonクローニングスキームを用いて行なわれる。P1バクテリオファージへのクローニングは、相同組み換えを用いて行なわれる。
【0168】
一般的なプロトコル
A.ファージミド-CRISPR-Casパッケージング:
1.ファージミド-CRISPR-Casを、テンペレートP1バクテリオファージを保有するKl739株(E.coli株)に形質転換する。
2.それから株を、37℃で一晩振とうして液体培養中で増殖させる。
3.翌日に、培養を1:100に戻し希釈して、37℃で1~2時間振とうする。
4.アラビノースを培養に加えて、ファージミド上のcoi遺伝子の発現を誘導して、バクテリオファージP1における(is)溶菌サイクルを誘導する。培養を視覚的に検査することによって溶解が確認されるまで、さらに5時間、振とうを続ける。
5.溶解された培養にクロロホルムを添加して、上下にひっくり返すことによって混合する。これは、任意の溶解しなかった細胞の死滅を確実にする。
6.細胞デブリを、10分間遠心分離することによって集めて、それから、上清を溶解物として集める。溶解物は、オリジナルのP1バクテリオファージDNAおよびファージミド-CRISPR-Casの混合物を含むファージ粒子を含む。
【0169】
B.P1-CRISPR-Casパッケージング:
1.coi遺伝子をコードするpBad18プラスミドを、改変されたテンペレートP1-CRISPRバクテリオファージを保有するKl739株(E.coli株)に形質転換する。
2.それから株を、37℃で一晩振とうして液体培養中で増殖させる。
3.翌日に、培養を1:100に戻し希釈して、37℃で1~2時間振とうする
4.アラビノースを培養に加えて、ファージミド上のcoi遺伝子の発現を誘導して、バクテリオファージP1における(is)溶菌サイクルを誘導する。培養を視覚的に検査することによって溶解が確認されるまで、さらに5時間、振とうを続ける。
5.溶解された培養にクロロホルムを添加して、上下にひっくり返すことによって混合する。これは、任意の溶解しなかった細胞の死滅を確実にする。
6.細胞デブリを、10分間遠心分離することによって集めて、それから、上清を溶解物として集める。溶解物は、CRISPR-Cas構成要素を送達することが可能なP1-CRISPRバクテリオファージのみを含む。
【0170】
C.標的化
1.標的化すべき株を、37℃で一晩振とうすることによって、液体培養中で増殖させる。
2.翌日に、遠心分離によって培養から細胞を回収して、CaCl2およびMgSO4で補充されたLB培地に再懸濁する。
3.培養物を、OD=2に調節し、それから、少なくとも1つのファージ粒子によって全ての細胞が感染される可能性を最大にする、事前に計算された多重感染(すなわち、感染標的に対する薬剤(例えばファージ、ウイルスなど)の比;MOI)で溶解物を感染させる。
4.チューブをひっくり返すことによって培養物を溶解物と混合させることによって、感染を行なう。
5.感染された細胞を、37℃で30分間、溶解物とともにインキュベートして、それから、37℃で1時間振とうする。
6.それから、細胞を異なる希釈でプレーティングして、37℃で一晩インキュベートする。
7.コロニー形成単位を翌日にカウントする。
【0171】
実施例3.複数種のDNA送達およびCRISPR抗菌剤のための、広範な宿主バクテリオファージの改変
CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)およびそれらのCas(CRISPR関連)タンパク質は、抗菌剤のための強力な薬剤および広範に使用される抗生物質の潜在的な代替であることが分かっている(Gomaa,A.A.et al.MBio 5,e00928-913(2014);Bikard,D.et al.Nature Biotechnology 32,1146-1150(2014);Citorik et al.Nat.Biotechnol.32,1141-1145(2014))。これらのシステムは、本来、相補遺伝物質を認識して切断するための細菌および古細菌におけるRNAガイド免疫系として機能する(Brouns et al.Science 321,960-964(2008);Marraffini et al.Science(New York,N.Y.)322,1843-1845(2008);Garneau.et al.Nature 468,67-71(2010);Edgar et al.J.Bacteriol.192,6291-6294(2010);Manica et al.Mol.Microbiol.80,481-491(2011))。細菌ゲノムを標的化するためのガイドRNAの設計は、標的部位において不可逆のDNA損傷を引き起こし得て、配列特異的な細胞死滅をもたらす(Gomaa,A.A.et al.MBio 5,e00928-913(2014);Bikard,D.et al.Nature Biotechnology 32,1146-1150(2014);Citorik et al.Nat.Biotechnol.32,1141-1145(2014))。さらに、多剤耐性を保有するプラスミドを標的化するためのガイドRNAの設計は、細菌を抗生物質に感受性にさせ得る(Bikard,D.et al.Nature Biotechnology 32,1146-1150(2014))。
【0172】
それらの抗菌活性を発揮するために、CRISPR-Casシステムは、細菌細胞質へ送達されなければならない。現在までの送達戦略は、バクテリオファージゲノム内、またはバクテリオファージ粒子のためのパッケージングシグナルを含むファージミドと呼ばれるプラスミド内の、テンペレートまたは繊維状バクテリオファージによってパッケージされたDNA内のシステムのコード化に圧倒的に依拠している(Bikard et al.Nature Biotechnology 32,1146-1150(2014);Citorik et al.Nat.Biotechnol.32,1141-1145(2014);Yosef et al.Proceedings of the National Academy of Sciences 112,7267-7272(2015))。これらの実施例では、CRISPR-Casシステムの送達は、強力な死滅またはプラスミド除去をもたらし、または、感染された細胞を抗生物質耐性の移行に対して免疫化した。これらは有望な証明になっているが、バクテリオファージは全て、個々の種または株に制限された狭い宿主範囲と関連する。結果として、それぞれの送達プラットフォームは、CRISPRが標的化し得る細菌の範囲を制限する。CRISPR抗菌剤の潜在性を完全に実現するために、よりいっそう広範な宿主範囲に到達することのできる一般化された送達ビヒクルが必要である。
【0173】
ここで、広範な宿主、テンペレートバクテリオファージP1は、DNA送達およびCRISPR抗菌剤のために改変される。P1は、テンペレートバクテリオファージとして機能し、約90kbのゲノムが染色体外として存在し、シングルコピープラスミドはその溶原性状態で存在する(Lobocka et al.J.Bacteriol.186、7032-7068(2004))。重要なことに、P1は、そのゲノムを、プロテオバクテリア門内の様々な細菌にわたる著しく広範なグラム陰性細菌に注入することが示されている(Westwater et al.Microbiology 148,943-950(2002))。さらに、P1は、ゲノムDNAまたはファージミドのレアパッケージングを通したDNA送達のための標準的なプラットフォームであった(Westwater et al.Microbiol.148,943-950(2002);Ikeda et al.J.Mol.Biol.14,85-109(1965);Thomason et al.Curr Protoc Mol Biol Ch.1,Unit 1.17(2007);Kittleson et al.ACS synthetic biology 1,583-589(2012);Ikeda et al.J.Mol.Biol.14,85-109(1965);Thomason et al.Curr Protoc Mol Biol Ch.1,Unit 1.17(2007);Kittleson et al.ACS synthetic biology 1,583-589(2012))。我々は、P1ゲノムは、P1ファージミドよりも効率的に送達されて、そのゲノム内の少なくとも3つの別個のランディング部位内に合成DNAを収容し得ることを見いだした。改変されたゲノムは、Escherichia coliおよびShigella flexneriに効率的に送達されて、それにより、設計されたCRISPR-Casシステムの送達の際に配列特異的な死滅を誘発することが示される。したがって、P1ゲノムの改変は、CRISPR抗菌剤を様々な細菌に送達するための有望なストラテジーを表わす。
【0174】
株、プラスミド、およびバクテリオファージの構築。本研究で用いた全ての株、プラスミド、およびバクテリオファージを、表1および表2に報告する。
【0175】
【表1】
【0176】

【表2】
【0177】
pKD13ΔSalIプラスミドは、pKD13プラスミド(Datsenko et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.97,6640-6645(2000))を、SalI制限酵素を用いて消化して、Pfuポリメラーゼを用いて平滑末端にして、そして、T4 DNAリガーゼ(NEB)を用いてライゲーションすることによって、生産した。
【0178】
pKD13ΔSalI-1Eプラスミドを生産するために、pKD13ΔSalI主鎖を、プライマーpKD13_1Earray.fwd/pKD13_1Earray.revを用いたPCRによって増幅した。強力な構成的プロモーター(J23100)をコードする化学的に合成された線状の二本鎖DNA(例えばgBlocks(登録商標))、KpnI制限部位およびXhoI制限部位によって改変された単一のI-E型CRISPRリピート、および、二重ターミネーターを、IDTから注文して、1Earray_pKD13.fwd/1Earray_pKD13.revを用いたPCRによって増幅した。それから、Gibson集合(Gibson,D.G.Meth.Enzymol 498,349-361(2011))を用いて、増幅されたgBlocks(登録商標)を、pKD13ΔSalI主鎖に、カナマイシン耐性カセットの上流にライゲーションした。KpnI/XhoI制限部位は、gBlocks(登録商標)内に含まれて、改変されたリピート-スペーサーpairs 1の連続的な挿入を可能にした。このアプローチに従って、pKD13ΔSalI-1E-ftsAプラスミドを生産するために、E.coli内の必須ftsA遺伝子を標的化する改変されたスペーサーをpKD13ΔSalI-1Eに挿入した。
【0179】
pcoiプラスミドを生産するために、pBAD18プラスミド(Guzman et al.J.Bacteriol.177,4121-4130(1995))を、NheI/SacIによって線状化した。それから、coi遺伝子を、Zymo Plasmid DNA精製キットを用いて単離されたP1溶原菌から、プライマーcoi.fwd/coi.revを用いてPCR増幅した。これらのプライマーは、増幅されたcoi遺伝子の両末端に、NheIおよびSacI部位を導入した。それから、PCR産物をNheI/SacIによって消化して、pBADプロモーター下流で、線状化されたpBAD18プラスミドにライゲーションした。
【0180】
P1バクテリオファージゲノムにカナマイシン耐性カセットを組み込むために、カナマイシン耐性カセットを、5’末端にP1ゲノム特異的な相同領域を有するプライマーを用いて、pKD13からPCR増幅した。生じた線状PCR産物を、pKD46プラスミド19を保有するE.coli KL739株内に存在するP1バクテリオファージ溶原菌中に、λ-redが仲介する組み換えを通して組み込んだ。E.coli KL739株は、標的細菌(例えば、Bw25113、BL21、MG1655、またはShigella)のものと実質的に類似するR-M系を有するので選択した。
【0181】
同じアプローチを、クロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)またはI-E型CRISPRアレイ/ftsAスペーサーをP1バクテリオファージゲノムに組み込むために従った。これらの場合では、クロラムフェニコール(cm)耐性カセットは、pKD3プラスミド(Datsenko et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.97,6640-6645(2000))から増幅して、I-E型CRISPRアレイftsAスペーサーは、pKD13ΔSalI-1E-ftsAプラスミドから、カナマイシン耐性カセットとともに増幅された。全てのプラスミドは、コロニーPCRによってスクリーニングされて、シーケンシングによって確認されている。
【0182】
増殖条件。全ての株を、LB培地(10g/Lトリプトン、5g/L酵母抽出物、10g/L塩化ナトリウム)を含む15mL Falcon(商標)丸底チューブ内で、適切な抗生物質とともに、37℃または30℃および250rpmで培養した。同一株を、適切な抗生物質で補充されたLB寒天(1.5%寒天を含むLuria Broth培地)上にプレーティングして、37℃でインキュベートした。抗生物質を、以下の最終濃度:50μg/mlカナマイシン、50μg/mlアンピシリン、および34μg/mlクロラムフェニコールで投与した。pcoiの発現を誘導するために、L-アラビノースを0.2%で投与した。
【0183】
形質導入の分析。E.coliおよびShigella株の冷凍ストックを、LB寒天上にストリークして、個々のコロニーを単離した。個々のコロニーを3mlのLB培地中に接種して、37℃および250rpmで一晩振とうした。それから、培養物をペレット化して、1mLの感染培地に再懸濁して、ABS600をNanodrop 2000c分光光度計(Thermo Scientific)で測定した。ABS600値、および、ABS600=1は8×10細胞/mLと同等であるという仮説に基づき、数コロニー形成単位/mL(CFU/mL)を決定した。それから、培養物を、実験に基づいて特定のMOIで、ピペッティングによって、バクテリオファージ溶解物と混合した。一部の場合では、培養物は、感染培地中に、標的化されたMOIに適切なCFU/mLに希釈する必要があった。それから、培養物/バクテリオファージの混合物を、37℃および250rpmで60~90分振とうした。最後に、培養物/バクテリオファージ混合物の200~300μlの適切な希釈を、適切な抗生物質で補充されたLB寒天上にプレーティングして、37℃で一晩インキュベートした。加えられたバクテリオファージ溶解物のmLあたりのプレート上で増殖したコロニーの数は、送達効率の示度と考えられた。
【0184】
重複感染の実験のために、P1-ΔimcB/coi::kan、またはP1-ΔsimABC::kanのいずれかを保有するE.coliの冷凍ストックを、適切な抗生物質で補充されたLB寒天上に分離のためにストリークした。個々のコロニーを、適切な抗生物質で補充された3mLのLB培地に接種して、37℃および250rpmで一晩振とうした。
【0185】
上述したのと同一の形質導入プロトコルに従って、培養物にP1-ΔimcB/coi::cmを感染させて、カナマイシン、クロラムフェニコール、または両方で補充されたLBプレート上にプレーティングした。
【0186】
ファージ粒子の生産。P1溶原菌およびpcoiプラスミドまたはP1ファージミドのいずれかを保有する株の冷凍ストックを、LB寒天上に単離のためにストリークした。個々のコロニーを3mlのLB培地中に接種して、37℃および250rpmで一晩振とうした。一晩培養物を、5mLのP1溶解培地(PLM;100mM MgCl2および5mM CaCl2を含むLB培地)中に、1:100に戻し希釈して((Westwater et al.Microbiology 148,943-950(2002))、37℃および250rpmで振とうすることによって、ABS600=約0.6~0.8まで増殖させた。それから、L-アラビノースを加えて、coi遺伝子の発現を誘導して、P1バクテリオファージ溶菌サイクルを引き起こした。培養物を、37℃および250rpmで振とうすることによって、4~6時間、溶解したままにした。それから、溶解した培養物を、15mLのEppendorfコニカルチューブに移して、クロロホルムを2.5wt%の終濃度まで加えて、チューブを数回ひっくり返すことによって混合した。それから、溶解した細胞デブリを、10分間4℃で遠心分離によってペレット化して、上清を新鮮な15mLのEppendorfチューブ中に置いた。全ての溶解物を、4℃で保管した。
【0187】
A.バクテリオファージにパッケージされたDNAのメチル化の程度は、メチルトランスフェラーゼ遺伝子を有する株において生産した場合は、メチルトランスフェラーゼ遺伝子を有さない場合とは異なる。
【0188】
pCas3に関するプラスミドDNAを、メチルトランスフェラーゼ遺伝子を欠くMG1655およびMG1655から抽出した。それから、DNAを、メチル化配列GAmTCのみを切断する制限酵素であるDpnIとともに(+)または伴わずに(-)インキュベートした。それからサンプルを、DNAサイズマーカーと一緒にアガロースゲル電気泳動によって分析した。データは、MG1655から抽出されたプラスミドDNAはDpnIによる切断を受け(図2A、左の2レーン)、一方で、メチルトランスフェラーゼ遺伝子を欠くMG1655由来のDNAは切断を受けないことを示す(図2A、右の2レーン)。
【0189】
図2Bは、E.coliのメチルトランスフェラーゼ-陽性およびメチルトランスフェラーゼ-陰性株において生産された場合の、P1バクテリオファージ粒子から抽出されたdsDNAを示す。P1誘導体LB002は、damおよびdcmメチルトランスフェラーゼ遺伝子の両方を有する、または有さない、E.coli K-12株において生産した。ファージDNAを、Norgen Biotek Inc.からのファージDNA単離キットを用いて抽出した。続いて、ファージDNAを、反応あたり120ngのDNAを用いた制限酵素分析によって分析した:レーン1:VWR 2-log DNAラダー;レーン2、4、6:dam+dcm+E.coliにおいて生産されたファージ由来のDNA;レーン3、5、7:dcm-dam-E.colにおいて生産されたファージ由来のDNA;レーン2-3:AleI、NheI、およびXhoIによって消化されたDNA;レーン4~5:AleI、NheI、XhoI、およびDpnIIによって消化されたDNA;レーン6-7:AleI、NheI、XhoI、およびStyD41によって消化されたDNA。DpnIIは、Damによってメチル化されたDNAによってブロックされる。StyD41は、Dcmによるオーバーラップするメチル化によってブロックされる。これらのデータは、メチラーゼを有さない細菌内で生産されたファージ由来のDNAは、メチラーゼを有する細菌内で生産されたファージ由来のDNAよりもメチル化されていないこと、および、メチラーゼを有する細菌内で生産されたファージ由来のDNAは、全ての可能な部位においてメチル化されるのではないことを示す。
【0190】
B.合成DNA構築物の、ファージゲノムへの組込みに利用可能な多数の部位
P1ファージゲノムにおける外来DNAに関する同定されたランディング部位を示す概要を図3Aに提供する。IS1、およびsimは、バクテリオファージP1ゲノム内の不必要な遺伝子であり、coi-imcBは相補可能である。挿入配列1(IS1)エレメントは、P1機能において公知の役割を有しておらず、simABCオペロンは、重複感染のブロックに関与する。いくつかのP1バクテリオファージ変異体を構築して、それは、これらの3つの部位のうちの1つを、これらの部位に挿入されているカナマイシン耐性をコードする遺伝子またはE.coliにおいてftsA遺伝子を標的化するI-E型CRISPR RNAが隣接するこの同一の耐性遺伝子に関するDNA配列を挿入することによって破壊した。具体的には、P1粒子を、pcoiおよびP1-ΔimcB/coi::kan、P1-ΔIS1::kan、またはP1-ΔsimABC::kanのいずれかを保有するE.coli K-12 KL739において生産した。細胞は、coi誘導の際に溶解し、粒子を用いてE.coli K-12 BW25113を感染させた。感染された細胞を、カナマイシンを含むLB寒天上にプレーティングした。図3Bに示されるように、生じた粒子は、BW25113細胞へのP1ゲノムの効率的な送達を可能にした。したがって、多数のランディング部位(組込み部位)は、P1複製、パッケージング、および送達を破壊しない合成構築物に利用可能である。
【0191】
C.重複感染に対する、simABCオペロンの欠失の効果
simABCオペロンは、ペリプラズムから細胞質へのファージDNAの移行をブロックすることにより、重複感染の防止に関与している(Kliem et al.Virology 171,350-355(1989))。CRISPR抗菌剤の関連において、重複感染は、細胞が非機能性ファージを受け入れる場合は、重要であり得る。重複感染におけるsimABCの影響を試験するために、我々は、カナマイシン耐性マーカーで置き換えられたimcB/coiまたはsimABC(P1-ΔimcB/coi::kan(LB001)またはP1-ΔsimABC::kan(LB002))を有するP1ゲノムによって感染されたMG1655細胞を生産した。それから、P1-ΔimcB/coi::kan(LB001)またはP1-ΔsimABC::kan(LB002)のいずれかを保有する細胞に、ファージP1-ΔimcB/coi::cmを感染させて、kan、cm、およびkan+cmプレート上にプレーティングした(図4Aを参照)。それから、細胞に、imcB/coi遺伝子座がクロラムフェニコール耐性マーカーで置き換えられたP1を、MOI=10で感染させた。抗生物質のどちらかまたは両方にプレーティングされた生きているコロニーの数を測定した。
【0192】
驚くべきことに、細胞が最初にimcB/coiまたはsimABCを欠くP1を保有していたかどうかにかかわらず、導入されたP1ゲノムを維持した同様の数の細胞が観察された(図4B)。しかしながら、両方の抗生物質に対して耐性の細胞を評価した場合、simABCを欠くP1を最初に感染させた細胞のみが回収された。これらの結果は、simABCは重複感染をブロックしないが、その代わりに、溶原性サイクル中の複製またはコピー数制御の役割を果たすことを示唆する。したがって、合成DNAをsimABに挿入することは、第二のP1バクテリオファージゲノムによる再感染を可能にした。
【0193】
D.P1ゲノムは、P1ファージミドよりも効率的にパッケージおよび送達される
合成構築物をパッケージおよび送達する最も効率的な手段を、P1バクテリオファージ粒子において調べた。ファージミドは、合成構築物をコードする標準的な手段となっていて、P1ファージミドは、溶菌性複製起点、および、P1溶菌サイクルを駆動するcoi遺伝子の誘導性発現とともに、pacAパッケージング部位を含む(Westwater et al.Microbiology 148、943-950(2002);Kittleson et al.ACS synthetic biology 1,583-589(2012)))。P1ファージミドは、様々なグラム陰性細菌へのDNA送達およびDNAライブラリーの移行のために用いられているが(同文献)、ファージミドは、パッケージングに関してP1ゲノムと争わなければならない。結果として、細胞は、P1ゲノムまたはファージミドのいずれかを受け取り得て、DNA送達およびプログラム可能な死滅を潜在的に複雑化する。
【0194】
ファージミドおよびP1ゲノムの送達を直接評価するために、我々は、P1内のimcB/coiオペロンのゲノムコピーを、カナマイシン耐性マーカーで置き換えた。具体的には、P1粒子を、P1-ΔimcB/coi::kan(カナマイシン耐性)およびP1ファージミド(クロラムフェニコール耐性)またはpcoi(アンピシリン耐性)のいずれかを保有するE.coli K-12 KL739細胞において生産した。それから我々は、このゲノムを、E.coli K-12亜株KL739内のcoiの誘導性発現を有するプラスミドまたはP1ファージミドと組み合わせて、バクテリオファージ粒子を生産した。それから、粒子を用いて、E.coli K-12 MG1655またはE.coli B BL21を感染させて、その後に、感染された細胞を、指示された抗生物質を含むLB寒天上にプレーティングした。この実験はトリプリケートで行なった。
【0195】
結果は図5に示され、P1ゲノムは、E.coliの2つの異なる株に関して、P1ファージミドよりも効率的にパッケージおよび送達されることを示す。図5は、P1ゲノムは、ファージミドよりも約100倍高い頻度で送達されて、ファージミドを受け取った細胞の約4%は、大過剰の細胞(多重感染度(MOI)=0.003)にもかかわらず、P1ゲノムも受け取ったことを示す。粒子が、pcoiプラスミドを用いて生産された場合、P1ゲノムは、約300倍高い送達を示し、ファージミドが、P1溶菌サイクルまたは粒子生成を妨げ得ることを示唆した。また、pcoiプラスミドは、P1ゲノムよりも約33,000倍低い頻度で送達された。同様の傾向は、E.coli B亜株BL21を感染させた場合に観察されたが、この株は、MG1655よりも低い頻度で感染された。したがって、少なくともP1システムに関しては、ファージ自体を改変することは、より一層高い力価の改変された産物を有する溶解物を生じさせる。したがって、P1ゲノムは、P1ファージミドよりも効率的な送達ビヒクルを提供する。
【0196】
E.P1送達効率は、環境条件によって変化する
バクテリオファージによるDNA送達は、一般に、P1形質導入およびファージミド送達のために、PLM培地(100mM MgCl2および5mM CaCl2を含むLB培地)のような特定の培地条件下で行なわれる(Kittleson et al.ACS synthetic biology 1,583-589(2012))。しかしながら、実際的適用は、送達効率に影響を及ぼし得る様々な環境を伴う。そのような条件によってP1によるDNA送達がどのように影響を受けるのかを調べるために、LB培地中で増殖されたE.coli K-12 BW25113細胞を、異なる培地に移して、pcoiプラスミドによって生産された粒子を用いたP1ゲノムの送達を測定した。感染力(DNA送達)は、PLMからMgCl2を除去した後も同様に残存したが、CaCl2では残存せず(図6)、それは、細胞接着に関するCaCl2の重要性と一致する(Watanabe et al.J.Gen.Virol.17,19-30(1972))。しかしながら、PLMと同様のCaCl2レベルを有する最小培地が、非常に低減した送達を示したので、CaCl2はDNA送達に十分でなかった。興味深いことに、ウシ胎児血清およびPLM培地((100mM MgCl2および5mM CaCl2を含むLB培地)中の細胞は、同様の送達効率を生じ、P1は、よりインビボの状況において、DNAを効率的に送達できることを示唆した。
【0197】
概して、これらのデータは、P1ゲノムが、異なる培地条件下で送達され得ることを示し、条件は、送達効率に大きな影響を有する。
【0198】
F.DNAメチル化および送達
+/-DNAメチル化を有するP1バクテリオファージ(すなわち、DNAメチル化(+)またはDNAメチル化(-)のいずれかである細菌において生産されたP1)を用いたE.coliへのDNA送達を、図7Aに示す。カナマイシン耐性カセットを保有するバクテリオファージP1を、E.coli MG1655またはMG1655 ΔdamΔdcmΔhdsRMS(メチラーゼおよび非メチル化DNAを標的化する制限酵素を欠く)において生産した。MG1655を、MG1655またはMG1655 ΔdamΔdcmΔhdsRMSにおいて生産されたファージP1によって感染させた。同様に、MG1655 ΔdamΔdcmΔhdsRMSを、MG1655またはMG1655 ΔdamΔdcmΔhdsRMSにおいて生産されたファージP1によって感染させた。カナマイシン選択下で増殖されたCFUにより測定した感染されたE.coli細胞の数を、それから、株間および感染間で比較した。図7Bは、バクテリオファージLB002+/-メチル化による、E.coliおよびKlebsiella pneumoniaeへのDNA送達の違いを示す。カナマイシン耐性カセットを保有するバクテリオファージP1を、E.coli MG1655またはMG1655 ΔdamΔdcmΔhdsRMS(メチラーゼおよび非メチル化DNAを標的化する制限酵素を欠く)において生産した。E.coli R4を、MG1655またはMG1655 ΔdamΔdcmΔhdsRMSにおいて生産されたLB002によって感染させた。同様に、K.pneumoniae(K.pn)R196およびK.pn R615を、MG1655またはMG1655 ΔdamΔdcmΔhdsRMSにおいて生産されたLB002によって感染させた。カナマイシン選択下で増殖されたE.coliまたはK.pnのCFUによって測定したLB002感染単位を、それから、感染間で比較した。図7Cは、+/-DNAメチル化であるM13KO7(M13の変異株)バクテリオファージを用いたE.coliへのDNA送達を示す。M13KO7は、メチラーゼ陽性(+)E.coli(TOP10F’)またはメチル化陰性(-)E.coli(JM110)において生産された。TOP10F’、EMG2、およびJM110細菌株を、続いて、メチラーゼ(+)E.coliまたはメチラーゼ(-)E.coliにおいて生産されたM13KO7によって感染させた。それから、感染されたE.coli細胞の数を、株ごとに比較した。TOP10F’:damおよびdcmをコードするが、制限酵素を欠く;EMG2:制限-メチル化システムは無傷である(非メチル化二本鎖DNAを分解する);JM110:damおよびdcmをコードせず、制限酵素を欠く。これらのデータは、メチラーゼを有する細菌内で生産されたファージは、メチラーゼを有さない細菌内で生産されたファージよりも高い生産的感染力(DNA送達)を示すことを示す。
【0199】
G.E.coliにおける、DNA送達およびCRISPRが仲介する死滅
E.coliにネイティブのI-E型CRISPR-Casシステムを使用して、P1ゲノムがCRISPR-Casシステムの1つまたは複数の構成要素を収容して、その後に、CRISPRが仲介する死滅を引き起こすことができるかどうかという疑問を対処した。この目的のために、pcas3プラスミドを保有するE.coli K-12 BW25113Δcas3およびE.coli K-12 BW25113の冷凍ストックを、LB寒天上に単離のためにストリークして、CASCADEおよびCas3を発現している(I-E型CRISPR-Casシステムの構成要素、「+cas」)、またはしていない(「-cas」)E.coliを培養した。
【0200】
具体的には、個々のコロニーを3mlのLB培地に接種して、37℃および250rpmで一晩振とうした。それから、培養物をペレット化して、1mLのPLM(100mM MgCl2および5mM CaCl2を含むLB培地)中に再懸濁して、ABS600をNanodrop 2000c分光光度計(Thermo Scientific)で測定した。それから培養物を、ABS600=0.001までPLM中に希釈して、それぞれの株に、指示された多重感染度(MOI)で、ftsAを標的化するcrRNAを発現するように改変されたバクテリオファージP1(CRISPRファージ)を感染させて;適切な量のバクテリオファージ溶解物を添加して、0を含む異なるMOIを達成した。培養物/ファージ混合物をピペッティングにより混合して、37℃および250rpmで振とうした。それから、細菌の増殖を、600nmでの吸光度(OD600)によって測定して、7時間まで30分ごとに測定値をとって、条件間で比較した。それから、それぞれの細菌株に関する異なるMOIでの生き残った細菌細胞の数を比較した。
【0201】
図8Aは、CascadeおよびCas3を発現している(I-E型CRISPR-Casシステムの構成要素、「+cas」)、または発現していない(「-cas」))E.coliが、I-E型CascadeおよびCas3は、ゲノム-標的化CRISPR RNAを持っているP1の送達に続いて、増殖を負に影響することを示すことを示す。予測されるように、CRISPR-ファージは、両方の細胞型において明らかな増殖遅延を示し、「+cas」グループにおいて、改善された増殖抑制を示す。このことは、ファージ単独に対する、CRISPR-Casシステムの改善された抗菌効果を示す。
【0202】
CRISPR-ファージは、両方の細胞型において、MOI>1で細胞を死滅させることが観察されていて、予測されるように「+cas」グループにおいて死滅が増大する。図8Bに示されるように、I-E型CascadeおよびCas3は、ゲノム標的化CRISPR RNAを持っているP1の送達後の生存に負の影響を及ぼす。CASCADEおよびCas3を発現している(I-E型CRISPR-Casシステムの構成要素、「+cas」)、または発現していない(「-cas」)E.coliに、指示されたMOIで、ftsAを標的化するcrRNAを発現するように改変されたバクテリオファージP1(CRISPRファージ)を感染させた。これらのデータは、CRISPRが、ファージ単独と比較して、有意に死滅を高めることを明らかに示す。
【0203】
さらに、ゲノム標的化CRISPR RNAを異なる位置にコードするP1ゲノムの送達は、I-E型CascadeおよびCas3の存在下でE.coliを死滅させる。II型/Cas9 CRIPSR-Casシステムとは異なり、I-E型CRISPR-Casシステムは、全ての潜在的部位において強力な細胞死を引き起こすことができる(Gomaa,A.A.et al.MBio 5,e00928-913(2014);Cui et al.Nucleic Acids Res.(2016).doi:10.1093/nar/gkw223)。E.coli内の必須ftsA遺伝子を標的化するスペーサー(Gomaa,A.A.et al.MBio 5,e00928-913(2014))を、P1ゲノムのcoi/imcB、IS1、またはsimABCランディング部位に挿入した。それから、P1 coi-imcB遺伝子、IS1遺伝子、またはsim遺伝子へのftsAを標的化するcrRNAの挿入を含む、生じたP1バクテリオファージを用いて、全てのI-E型Casタンパク質(Cas3、Cse1、Cse2、Cas5e、Cas6e、Cas7)の発現を有するまたは有さないE.coli BW25113細胞を感染させた。それから細胞を、異なるMOIでバクテリオファージと混合して、細菌細胞密度(培養の濁度)の変化を、増殖の7時間後に測定した。我々は、Casタンパク質を欠く細胞を用いた全ての培養は、細胞密度の実質的な増大を示すが、より高いMOIでは最終濁度はより低いことを見いだした(図8C)。対照的に、I-E型Casタンパク質の全て(Cas3、Cse1、Cse2、Cas5e、Cas6e、Cas7))を発現している細胞の培養は、検出可能な増殖をほとんど示さず()、それにより、CRISPR/ファージ処理は、増殖を除去することを示した(図8C)。これらの結果は、CRISPR-Casシステムの構成要素を持っているP1ゲノムを用いて、CRISPRが仲介する死滅を引き起こすことができることを示す。
【0204】
培養中のCRISPR/ファージ処理が生存能力の低減をもたらすさらなる証拠を図8Dに提供する。I-E型CRISPR Cas3を発現しているE.coliに、(1)coi遺伝子の所定の位置のftsAを標的化するcrRNAのゲノム挿入を含むバクテリオファージP1を感染させ、または、(2)バクテリオファージを感染させず、そして、生き残った細菌細胞の数を比較した。ファージに曝露されたE.coliは、生存能力の4-log(~10000x)の喪失を示した。したがって、CRISPRを持ったファージの不存在下では、Casタンパク質を有する、および有さない細胞の両方とも、7時間後に実質的な増殖を示す。しかしながら、最初の培養にファージが含まれた場合は、Casタンパク質の完全なセットを発現している細胞に関して、検出可能な増殖は観察されなかった。
【0205】
H.Shigella flexneriへの効率的なDNA送達
P1ゲノムを用いてEscherichia以外の属を感染させ得るかどうか調べるために、2株のShigella flexneriを試験した。この種は、世界中の下痢症の細菌性赤痢と関連する。Shigellaは、米国において毎年約500,000症例の下痢を引き起こし、27,000の薬剤耐性感染を含む。カナマイシン耐性マーカーで置き換えられたimcB/coiオペロンを有するP1ゲノムの送達を測定した。生じたP1粒子は、E.coli MG1655およびE.coli BL21に関して観察されたものの間の数コロニー形成単位により、S.flexneriの両方の株にゲノムを効率的に送達することが判定された(図9)。これらの結果は、P1ゲノムが送達され得て、多数の属において安定的に維持され得ることを確認し、CRISPR抗菌剤に関する複数種送達ビヒクルとしてのP1の利用の潜在性を開く。
【0206】
I.抗生物質耐性細菌の標的化
我々は、P1 CRISPRファージ(ftsAを標的化)およびシプロフロキサシンの組み合わせを、E.coli R182、シプロフロキサシン-耐性株を死滅させるためのP1 CRISPRファージ単独の使用と比較した(図10A)。シプロフロキサシン(Cip)投与量は、R182株が耐性であることが知られる最も高い治療的に関連のある濃度(4マイクログラム/ミリリットル)であった。E.coliに、E.coli ftsA遺伝子を標的化するCRISPRファージを、様々な多重感染度(MOI)で感染させた。予測されたとおり、シプロフロキサシン単独は、細菌生存能力を低減させなかった(図10A)。対照的に、CRISPRファージMOIの増大は、生存可能な細菌細胞の低減において、抗生物質非依存性の増大をもたらした(図10A)。
【0207】
加えて、P1 CRISPRファージ(ftsAを標的化)およびE.coli感染における標準的なケア抗生物質(care antibiotic)であるイミペネムの組み合わせを、シプロフロキサシン耐性株であるE.coli R182の死滅に関して、P1 CRISPRファージ単独と比較した(図10B)。イミペネムは、一定の投与量(E.coli R182に関するLD50)で維持して、ベースライン0.3-logCFUの低減をもたらした。E.coli細胞に、CRISPRファージを様々なMOIで感染させた。MOI=2では、ファージまたは抗生物質単独に対して、組み合わせ治療の有意な効果(P<0.05)が観察された。より高いMOIでは、CRISPRファージは、優勢な死滅効果を発揮して、ファージ+抗生物質の組み合わせは、相加的効果を有し得ることが示唆された。
【0208】
最後に、我々は、イミペネム(imipinem)、ftsAを標的化するP1 CRISPRファージ、または両方の組み合わせに対する曝露後の、生存可能E.coli R182細胞の喪失を比較した(図10C)。関連のある条件について(それぞれの条件に関してn=3)、イミペネムは、一定の投与量(E.coli R182に関してLD50)で維持されて、CRISPRファージは、MOI=2に維持された。細菌の死滅は、イミペネムを有する、または有さないCRISPRファージ感染後120分に観察された。
【0209】
J.マウスにおけるE.coli感染の標的化
E.coliを標的化するCRISPRファージは、大腿筋感染のマウスモデルにおいて、生菌数を低減させる(図11A)。マウスに、1.6×10CFUのE.coliの大腿筋注入を投与して、その後に、ftsAを標的化する1.9×1011pfuのCRISPRファージまたは50uL TBS(未処理コントロール)の大腿筋注入のファージ処理を続けた。大腿組織由来の生菌数を、ファージ処理の30、60、120、180、および240分後に測定した。ファージ処理は、一貫して約0.3-logの低減をもたらすことが観察されて、および細菌数の低減は、2つの時点で統計的に有意だった(P<0.05)および(P<0.001)。
【0210】
図11Bは、E.coliを標的化するCRISPRファージは、マウスモデルにおいて動物生存時間を増大させることを示す。マウスに、E.coli株R260を、IP(腹腔内)注入によって、5%hogムチン中1.5×10CFUの投与量で感染させて、それから、処理しないままにして、または、E.coli遺伝子ftsAを標的化するCRISPRファージの単回投与でIP注入によって処理した(投与量=1.9x10^11pfu、MOI=約100)。単回投与ファージ処理は、マウス生存を有意に延長することが判定された(Wilcoxon試験、P<0.05)。
【0211】
K.ファージによって送達されたCRISPR RNAが、E.coliまたはK.pneumoniaの様々な株を死滅させる能力
ftsAを標的化するcrRNAを発現しているI型CRISPRファージ粒子を用いて、E.coliからなる株のライブラリーを感染させた。表3の報告および表5の概要は、CRISPRファージ感染後の、それぞれの株に関する、未処理の増殖コントロールと比較した細菌集団における低減である。これらのデータは、ファージが、E.coli株にわたってCRISPR構築物を送達することができることを示す。
【0212】
【表3】

【0213】
さらに、ftsAを標的化するcrRNAを発現しているI型CRISPRファージを用いて、Klebsiella pneumoniaeからなる株のライブラリーを感染させた。表4の報告および表5の概要は、CRISPRファージ感染後のそれぞれの株に関する未処理の増殖コントロールと比較した細菌集団における低減である。これらのデータは、ファージが、CRISPR構築物を、Klebsiella株にわたって送達することができることを示す。
【0214】
【表4】

【0215】
【表5】
【0216】
L.延長されたスペーサー長は、死滅を誘発する
野生型の長さでないCRISPR RNAスペーサーを用いたI-E型システムは、細胞死滅を誘発することができる。32ntスペーサー(野生型の長さ)(+0)または44ntスペーサー(+12)を有するCRISPR RNAを、E.coli MG1655ゲノム内のlacZ遺伝子周辺の4つの位置(p1、as1、p2およびs1)を標的化するように設計した(図12)。延長は、44ntスペーサーの3’末端に、標的配列と実質的の同一であるようになされた。それぞれのCRISPR RNAをリピート-スペーサー-リピートとして発現しているプラスミドを、I-E型Cas3およびCascadeタンパク質を発現しているE.coli MG1655中に形質転換した。形質転換効率の低下は、ゲノム攻撃および細胞死を反映し、ほんの数個の細胞のみが、標的配列、スペーサー、またはCasタンパク質に対する突然変異を通して死滅を逃れることが可能である。データに示されるように、全ての設計されたCRISPR RNAは、スペーサー無しのコントロールと比較して、形質転換効率の10~10の低減をもたらし、より長いスペーサーを有するCRISPR RNAは、標的化された死滅を誘発することができることを示した。より大きな複合体でさえCas3を動員および活性化することが可能であることは驚きであった。結晶構造は、複合体全体にわたって生じる大きな立体構造変化が、Cas3を活性化するために必要であることを示唆し(Mulepati et al.Science 345(6203):1479-84(2014);Jackson et al.Science 345(6203):1473-9(2014);Rutkauskas et al.Cell Rep pii:S2211-1247(15)00135-7(2015);Gong et al.Proc Natl Acad Sci USA.111(46):16359-64(2014))、さらなるタンパク質サブユニットを加えることは、これらの立体構造変化を破壊することが予測された。データは、これが生じないことを示唆し、延長されたスペーサーは、形質転換効率における同様の低減に基づき、普通の長さのスペーサーと同様のレベルの死滅を誘発することを示す。
【0217】
M.E.coli由来のI-E型CRISPR-CasシステムまたはBacillus halodurans由来のI-C型CRISPR-Casシステムをコードするバクテリオファージ粒子
E.coli由来のI-E型CRISPR-CasシステムまたはBacillus halodurans由来のI-C型CRISPR-Casシステムの全体を、P1バクテリオファージゲノム中にコードし、E.coliの標的化された死滅を示すために用いる。それぞれの場合において、CRISPRアレイ、ならびに、I-C型CRISPR-CasシステムまたはI-E型CRISPR-Casシステム(例えば、I-E型CascadeまたはI-C型CascadeポリペプチドおよびCas3ポリペプチド)をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドを、ファージゲノム内の選択部位(例えば、組込みの不必要な部位または組込みの相補部位)においてP1ゲノムに導入する。I-C型CRISPR-CasシステムまたはI-E型CRISPR-Casシステムをコードする前記の1つまたは複数のポリヌクレオチドは、PCRを用いて供給株から合成または増幅されて、ドナープラスミドベクター(例:pKD3、pKD13、またはその他)にクローニングされる。ドナーベクターは、特定の抗生物質耐性およびP1内の選択されたランディング部位にマッチする相同性領域を有して設計される。相同組み換えを用いて、I-C型CRISPR-CasシステムまたはI-E型CRISPR-Casシステムをコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドを、生産株内に存在するP1溶原菌にクローニングする。陽性クローンは、抗生物質耐性によって選択される。抗生物質耐性マーカーが、リコンビナーゼ部位(例えばFRT部位)によって隣接される場合は、耐性マーカーは、当技術分野で知られているようにリコンビナーゼを発現することによって切除され得る。
【0218】
同一のアプローチに従って、ゲノム標的化crRNAをコードするCRISPRアレイは、cas遺伝子に関するものとは異なるランディング部位組込み部位においてP1ゲノムにコードされる。CRISPRアレイは、生産株には存在しないが標的株内に存在する特定の配列を標的化するように設計される。
【0219】
それから、ファージ粒子が生産されて、標的細菌株に投与されて、生存可能コロニーの数がカウントされる。一部の態様では、ファージ粒子は、標的宿主細菌のものと実質的に類似するメチル化パターンを有する生産宿主細菌株を用いて生産される。設計されたファージは、ファージ無しまたは非標的化ファージと比較して、生存可能コロニーの数を大きく低減させるであろう。
【0220】
考察
広範な宿主P1バクテリオファージは、DNAを多数の細菌種に効率的に送達して、それにより、CRISPR抗菌剤の送達に関するプラットフォームとして使用され得ることが示された。広範な宿主バクテリオファージの一つの利点は、単一のプラットフォームが、単一の、産業的生産株から生産され得て、様々な細菌に対して適用されることである。例えば、P1粒子は、共生E.coliの産業株において作られて、それから、腸管出血性E.coli、Shigella、またはKlebsiellaのような腸溶性病原体による感染と戦うために用いられ得る。生産株を感染株から分離する能力は、同一の病原菌に対するバクテリオファージ粒子を生成するために、細菌病原菌の大きなバッチを培養するバイオ製造の挑戦を対処する。それは、単にCRISPRアレイを変更することによって、抗菌剤を、異なる種を標的するように容易に改変する可能性も生み出す。
【0221】
前述は本発明の例示であり、その制限と解釈されるべきでない。本発明は、以下の特許請求の範囲によって定義され、特許請求の範囲の同等物はそこに含まれる。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図12
【手続補正書】
【提出日】2022-04-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載の発明。
【外国語明細書】